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特表2024-502567ワイヤ駆動段階及びアライナ段階を含む歯科矯正治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ワイヤ駆動段階及びアライナ段階を含む歯科矯正治療
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20240115BHJP
   A61C 7/14 20060101ALI20240115BHJP
   A61C 7/22 20060101ALI20240115BHJP
   A61C 7/28 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61C7/08
A61C7/14
A61C7/22
A61C7/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539235
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 IB2021061860
(87)【国際公開番号】W WO2022144672
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】63/132,854
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ペール,ラルフ エム.
(72)【発明者】
【氏名】シナダー,デイヴィッド ケー.ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ブレース,ディートマール
(72)【発明者】
【氏名】シュリンペル,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ミンーライ
(72)【発明者】
【氏名】レイビー,リチャード イー.
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ02
4C052JJ03
4C052JJ07
4C052JJ10
(57)【要約】
方法が、複数の取付具が歯に接合されるワイヤ駆動段階を含み、取付具は、ワイヤ保持領域及び係合領域を含む。係合領域は、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部を有する。アーチワイヤが、ワイヤ保持領域に挿入されて、第1の不正咬合歯を第1の位置から第2の位置に移動させる。ワイヤ駆動段階には、アーチワイヤが取り外され、かつ患者の歯の上にアライナトレイが適用されるアライナ段階が続く。アライナトレイは、第1の不正咬合歯を受容するように、かつ第2の位置から第3の位置に第1の不正咬合歯を弾性的に配置するように成形されたキャビティを含み、取付具の係合領域の少なくとも一部分に解放可能に係合するように構成された窪みを更に含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の第1の不正咬合歯を再配置するための方法であって、前記方法は、
ワイヤ駆動段階であって、前記ワイヤ駆動段階が、
複数の取付具を供給することであって、各取付具が、ワイヤ保持領域及び係合領域を備え、前記係合領域が、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部を備える、供給することと、
前記複数の取付具のうちの各取付具を前記患者の歯に接合することと、
前記取付具の前記ワイヤ保持領域にアーチワイヤを挿入して、前記第1の不正咬合歯を第1の位置から前記第1の位置とは異なる第2の位置に移動させることと、を含むワイヤ駆動段階と、
前記ワイヤ駆動段階に続くアライナ段階であって、前記アライナ段階が、
前記複数の取付具の前記ワイヤ保持領域から前記アーチワイヤを取り外すことと、
前記患者の前記歯の上にアライナトレイを適用することであって、前記アライナトレイが、前記第1の不正咬合歯を受容するように、かつ前記第2の位置から前記第2の位置とは異なる第3の位置に前記第1の不正咬合歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを備え、前記アライナトレイが、前記取付具の前記係合領域の少なくとも一部分に解放可能に係合するように構成された窪みの配列を更に備える、適用することと、を含むアライナ段階と、
を含む方法。
【請求項2】
前記アライナ段階に続く第2のワイヤ駆動段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取付具が本体を備え、前記本体が、
歯の表面を接合するために構成された接合部分と、
前記接合部分から離れるように延びるスペーサと、
内面を有する受け具であって、前記内面がワイヤ前記保持溝を備える、受け具と、
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ワイヤ保持溝の前記内面が、前記取付具の前記本体に対して、又は
前記デバイスの前記本体と前記歯の前記表面との間に、アーチワイヤを保持するように構成された形状を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記受け具が、前記ワイヤ保持溝の少なくとも一部分に被さる保持領域を更に備える、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記スペーサが、第1の表面及び第2の表面を有し、前記接合部分が、前記スペーサの前記第1の表面と前記第2の表面との間の領域に存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記スペーサが、第1の表面及び第2の表面を有し、前記接合部分が、前記スペーサの前記第1の表面又は前記第2の表面のいずれかを越えて延びる領域を占める、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記肩部が、円弧状の形状を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記肩部が、複数の傾斜セグメントを備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記肩部が、円弧状の肩部分及びアンダーカット領域を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アライナトレイの前記窪みが、突起、気泡、包絡面、スロット、開口、環、楔、プリズム、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アライナトレイの前記窪みの少なくともいくつかが、前記取付具の少なくとも1つを解放可能に受容するための挿入経路を提供するように構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記窪みが、取付具を有する前記少なくとも1つの歯の咬合側部分と前記取付具を有する前記少なくとも1つの歯の歯肉線との間の全体距離未満に延びる短縮された壁を備え、前記取付具を有する前記歯が前記キャビティ内に受容されるとき、前記短縮されたシェル壁が、前記少なくとも1つの取付具を部分的に覆って延びる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
歯科矯正治療システムであって、前記歯科矯正治療システムは、
複数の取付具であって、各取付具が、患者の歯の表面に接合されるように構成された接合部分を備える第1の端部と、前記第1の端部とは反対側の第2の端部と、を備えた本体を備え、前記第2の端部が、アーチワイヤを保持するように構成された受け具を備え、前記受け具の外面が、肩部を備えた係合領域を備える、複数の取付具と、
前記取付具のワイヤ保持フックに挿入可能な複数のアーチワイヤと、
少なくとも1つのアライナトレイであって、各アライナトレイが、前記患者の少なくとも1つの歯を受容するように、かつ前記少なくとも1つの歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを備え、前記アライナトレイが、前記複数の取付具のうちの少なくとも1つの取付具の前記係合領域の前記肩部と解放可能に係合するように構成された少なくとも1つの窪みを更に備える、アライナトレイと、
を備える歯科矯正治療システム。
【請求項15】
前記取付具が、3次元印刷、熱成形、成形、及びこれらの組み合わせのうちのいずれかによって形成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
歯科矯正治療のための取付デバイスであって、
本体を備え、前記本体が、
歯の表面に接合されるように構成された接合部分を備える第1の端部と、
前記第1の端部とは反対側の第2の端部であって、ワイヤ保持溝と、係合領域を備える外面とを備え、前記係合領域が、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部を備える、第2の端部と、
を備える、取付デバイス。
【請求項17】
前記ワイヤ保持溝の前記内面が、前記デバイスの前記本体に対してワイヤを保持するように構成された形状を有する、請求項16に記載の取付デバイス。
【請求項18】
前記ワイヤ保持溝の前記内面が、前記デバイスの前記本体と前記歯の前記表面との間でワイヤを内部に保持するように構成された形状を有する、請求項16に記載の取付デバイス。
【請求項19】
前記ワイヤ保持溝の少なくとも一部分に被さる保持領域を更に備える、請求項16に記載の取付けデバイス。
【請求項20】
前記ワイヤ保持溝が、前記ワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に平行な方向の歯移動力に変換するように構成されたU字形断面と、前記ワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に垂直な方向の歯移動力に変換するように構成されたJ字形断面とのうちの1つを有する、請求項16に記載の取付デバイス。
【請求項21】
前記本体が、
前記接合パッドから離れるように延びるスペーサと、
前記スペーサから前記スペーサの平面に対して第1の方向に延びる受け具であって、ワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に垂直な方向の歯移動力に変換するように構成されたC字形断面を有する前記ワイヤ保持溝を備える、受け具と、
を備える、請求項16に記載の取付デバイス。
【請求項22】
前記本体が、
前記接合パッドから離れるように延びるスペーサと、
前記スペーサから前記スペーサの平面に垂直な第1の方向に延びる受け具であって、前記第1の方向に垂直であり、かつ前記スペーサの前記平面に平行である第2の方向に沿って前記スペーサの長さの一部分に沿って延び、前記ワイヤ保持溝の断面が、前記ワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に平行な歯移動力に変換するように構成される、受け具と、
を備える、請求項16に記載の取付デバイス。
【請求項23】
前記本体が、
前記接合パッドから離れるように延びるスペーサを備え、前記スペーサが、第1の表面及び第2の表面と、第1の端部及び第2の端部とを有し、前記スペーサの前記第1の端部が、
前記スペーサの平面に垂直な第1の方向に延びる第1の受け具を備え、前記第1の受け具が、前記第1の方向に垂直であり、かつ前記スペーサの前記平面に平行である第2の方向に沿って前記スペーサの長さの一部分に沿って延び、前記受け具の第1のワイヤ保持溝が、前記第1のワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に垂直な方向の歯移動力に変換するように構成された第1の断面形状を有し、
前記スペーサの前記第2の端部が、前記第1の方向に垂直であり、かつ前記スペーサの前記平面に平行である第2の方向に沿って前記スペーサの長さの一部分に沿って延びる第2の受け具を備え、前記第2の受け具が、第2のワイヤ保持溝を備え、前記第2のワイヤ保持溝が、前記第2のワイヤ保持溝に加えられた力を前記接合パッドの平面に実質的に平行な歯移動力に変換するように構成された第2の断面形状を有する、
請求項16に記載の取付デバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
従来の固定式の歯科矯正装具は、患者の歯に固定されたブラケットを利用し、ブラケットのスロットによって係合されたワイヤが、歯に力を加えて、少なくとも1つの歯を第1の不正咬合位置から所望の仕上げ位置に移動させる。歯の相当な移動が必要とされ得る治療の初期段階では、歯に加えられる力の大きさ及び方向は、歯の唇側面又は舌側面にブラケットを配置し、ブラケットのスロットに超弾性ワイヤを挿入して、比較的連続的な移動力を伝達することによって設定することができる。
【0002】
ブラケット及びワイヤは、歯の多種多様な移動をもたらすのに非常に有効であるが、審美的な理由から、患者は、歯の上に配置できるアライナトレイを好むことが多い。アライナトレイは、治療中に見えにくい透明な材料で作製することができ、必要に応じて口腔に挿入したり口腔から取り出したりすることができる。アライナトレイは、ポリマー材料の弾性特性と、歯を再配置するための精密に成形された歯保持キャビティとを利用し、一連のアライナトレイのうちの各アライナトレイを使用して、ブラケット及びワイヤを用いる場合に可能になる移動と比較して、比較的短い距離で歯を徐々に移動させることができる。アライナトレイはまた、歯の特定の移動に機械的に限定され、したがって、特に、歯のより広い範囲の移動が必要とされ得る治療の初期ステージでは、ブラケット及びワイヤの汎用性を有していない。歯科矯正治療の第1の段階では、最も酷い不正咬合を解消するために、より多くのアライナステージが必要とされる場合がある。ステージ毎の歯のより小さな移動及びより精密に定義された歯の再配置により、アライナトレイが、歯科矯正治療の最終段階を仕上げるのに特によく適したものになる。
【発明の概要】
【0003】
概して、本開示は、歯に取付具が固定される初期ワイヤ駆動治療段階を利用する、歯科矯正治療システム及び方法に関する。取付具は、歯の唇側面又は舌側面に接合される接合部分と、歯が初期位置から第2の位置に移動される初期治療段階を効率的に完了するために必要とされ得る、より大きく、かつより複雑な歯の移動をもたらすために、弾性ワイヤなどのアーチワイヤを保持するように構成されたワイヤ保持領域とを含む。初期治療段階には、アーチワイヤが取付具から取り外され、かつ一連のアライナトレイが歯の上に適用されて、少なくとも1つの歯を第2の位置から第3の位置に移動させる、後続又は最終のアライナ治療段階が続く。アライナトレイは、歯を受容するように、かつ歯を弾性的に配置するように精密に成形された複数のキャビティを含み、取付具の露出面の係合領域に解放可能に係合するように構成された窪み又は切欠きの配列を更に組み込む。場合によっては、歯のより小さな移動及びより精密に定義された歯の再配置により、アライナトレイが、歯科矯正治療の最終段階を仕上げるのに特によく適したものになる。いくつかの実施形態では、取付具は、任意選択で、アライナ段階に続く追加のワイヤ駆動段階のために再使用されてもよく、又は1つ以上の歯の整列を微調整又は維持するためにアライナトレイの第2のセットを用いることができるように、歯から取り外されてもよい。
【0004】
本開示のシステム及び方法は、異なる能力及び強度を有する2つの異なる歯整列ツールを利用し、これにより、より迅速かつより審美的な歯科矯正治療を潜在的に提供することができる。歯に接合された同一の取付具が、治療のワイヤ駆動段階及びアライナ段階の両方に使用される。ワイヤ駆動段階では、取付具は、弾性ワイヤを受容し、アライナ段階では、取付具は、アライナトレイと係合して、アライナトレイ単独を用いる場合に可能になる範囲よりも広い範囲での歯の移動を容易にする。
【0005】
一態様では、本開示は、患者の第1の不正咬合歯を再配置するための方法に関する。方法は、ワイヤ駆動段階を含み、ワイヤ駆動段階は、複数の取付具を供給することであって、各取付具が、ワイヤ保持領域及び係合領域を有し、係合領域が、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部を有する、供給することと、複数の取付具のうちの各取付具を患者の歯に接合することと、取付具のワイヤ保持領域にアーチワイヤを挿入して、第1の不正咬合歯を第1の位置から第1の位置とは異なる第2の位置に移動させることと、を含む。ワイヤ駆動段階には、アライナ段階が続き、アライナ段階は、複数の取付具のワイヤ保持領域からアーチワイヤを取り外すことと、患者の歯の上にアライナトレイを適用することであって、アライナトレイが、第1の不正咬合歯を受容するように、かつ第2の位置から第2の位置とは異なる第3の位置に第1の不正咬合歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを含む、適用することと、を含む。アライナトレイは、取付具の係合領域の少なくとも一部分に解放可能に係合するように構成された窪みの配列を更に含む。
【0006】
別の態様では、本開示は、歯科矯正治療システムであって、歯科矯正治療システムは、複数の取付具であって、各取付具が、患者の歯の表面に接合されるように構成された接合部分を有する第1の端部と、第1の端部とは反対側の第2の端部と、を備えた本体を含み、第2の端部が、アーチワイヤを保持するように構成された受け具を含み、受け具の外面が、肩部を備えた係合領域を有する、複数の取付具と、取付具のワイヤ保持フックに挿入可能な複数のアーチワイヤと、少なくとも1つのアライナトレイであって、各アライナトレイが、患者の少なくとも1つの歯を受容するように、かつ患者の少なくとも1つの歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを含み、アライナトレイが、複数の取付具のうちの少なくとも1つの取付具の係合領域の肩部と解放可能に係合するように構成された少なくとも1つの窪みを更に含む、アライナトレイと、を含む歯科矯正治療システムに関する。
【0007】
別の態様では、本開示は、歯科矯正治療システムであって、命令を備えたコンピュータを含み、命令が、実行されると、コンピュータに、治療計画における患者の少なくとも1つの歯の初期位置を受信させ、治療計画における少なくとも1つの歯の最終位置を受信させ、初期位置と最終位置との間での少なくとも1つの歯の移動を含む移動幾何学形状を決定させ、治療計画が、ワイヤ駆動段階であって、ワイヤ駆動段階が、患者の歯群の少なくとも第1の部分に複数の取付具を接合することであって、複数の取付具のうちの各取付具が、本体を含み、本体が、歯の表面に接合されるように構成された接合部分を有する第1の端部と、第1の端部とは反対側の第2の端部とを備え、第2の端部が、ワイヤ保持領域と、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部及びアンダーカット領域を備えた係合領域とを含む、接合することと、取付具のワイヤ保持領域にアーチワイヤを挿入して、歯群の第1の部分の少なくとも1つの歯を初期位置から初期位置とは異なる第2の位置に移動させることと、を含むワイヤ駆動段階と、ワイヤ駆動段階に続くアライナ段階であって、アライナ段階が、複数の取付具のワイヤ保持領域からアーチワイヤを取り外すことと、患者の歯群の少なくとも一部分の上にアライナトレイを適用することであって、アライナトレイが、治療計画に従って患者の歯群の第1の部分の少なくとも1つの歯を受容するように、かつ第2の位置から第2の位置とは異なる第3の位置に少なくとも1つの歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを含み、アライナトレイが、取付具の係合領域の肩部及びアンダーカット領域の少なくとも一部分に解放可能に係合するように構成された窪みの配列を更に含む、アライナ段階と、を含む歯科矯正治療システムに関する。
【0008】
別の態様では、本開示は、歯科矯正治療のための取付デバイスであって、本体を含み、本体が、歯の表面に接合されるように構成された接合部分を含む第1の端部と、第1の端部とは反対側の第2の端部であって、ワイヤ保持溝と、係合領域を含む外面とを有し、係合領域が、アライナトレイの対応する窪みに解放可能に係合するように構成された肩部を有する、第2の端部と、を有する取付デバイスに関する。
【0009】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明に示す。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本開示による、歯の表面に接合された取付具の実施形態の概略斜視図である。
図1B】歯の表面に接合された取付具の別の実施形態の俯瞰図の概略斜視図である。
図2A】歯の表面に接合された取付具と、歯を覆い、取付具に解放可能に取り付けられたアライナトレイとを含む、歯科矯正システムの実施形態の概略断面図である。
図2B】歯の表面に接合された取付具と、歯を覆い、取付具に解放可能に取り付けられたアライナトレイとを含む、歯科矯正システムの別の実施形態の概略断面図である。
図3】本開示による歯科矯正治療のための方法のフローチャートである。
図4A】歯の垂直移動のために構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの概略斜視図である。
図4B】歯の垂直移動のために構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの概略斜視図である。
図5A】歯の水平移動のために構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの概略斜視図である。
図5B】様々な方向で歯に力を加えるように構成されたワイヤ保持領域を備えた取付具の概略斜視図である。
図5C】歯科矯正治療のワイヤ駆動段階に適した取付具を選択するためのプロセスの実施形態のフローチャートである。
図6図5Bの取付具とアライナトレイの一部分の窪みとの係合を示す概略斜視図である。
図7】歯の角度形成のために構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの実施形態の概略斜視図である。
図8A図8Aは、歯を回転させるように構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの概略俯瞰図であり、図8Bは、その概略斜視図である。
図8B図8Aは、歯を回転させるように構成された、取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの概略俯瞰図であり、図8Bは、その概略斜視図である。
図9A】基本取付具及びアーチワイヤを含む歯科矯正システムの実施形態の概略斜視図である。
図9B図9Aの歯科矯正システムの取付具の側面図である。
図9C図9Aの歯科矯正システムの取付具の側面図である。
図10A】歯の舌側面に接合された、本開示の取付具の概略斜視図である。
図10B図10Aの取付具によって歯に加えられる力の方向を示す、図10Aの取付具の概略斜視図である。
【0011】
図中の同様の符号は、同様の要素を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで図1Aを参照すると、取付物品10の概略図(正確な縮尺ではない)が、接合部分14を有する第1の端部13を備えた本体12を含む。接合部分14は、歯20の露出した唇側面又は舌側面16に合致して接合するように成形される。様々な実施形態では、接合部分14は、特定の表面16又はその一部分に取り付けるために成形された、輪郭付けられた、又は他の方法で構成された接合領域を含んでもよい。
【0013】
本体12は、アーチワイヤ(図1Aには示していない)を保持するように構成された内面24を有する溝26を備えた第2の端部21を更に含む。溝26は、選択されたアーチワイヤを保持するように構成された断面形状を有し、典型的な断面形状としては、円形、正方形、長方形、円弧状(例えば、C字形又はU字形)などが挙げられるが、これらに限定されず、線形要素と弓形要素との組み合わせ(例えば、J字形、D字形、又はV字形)も挙げられる。
【0014】
いくつかの実施形態では、本体12は、溝26内にアーチワイヤを確実に保持するために使用できる受け具22を含み、いくつかの実施形態では、受け具22は、アーチワイヤの溝26への挿入又は溝26からの取り外しを可能にするように反らされてもよい。受け具22は、本体12の第1の端部13に向かって延び、かつ溝26に少なくとも部分的に被さって溝26内でのアーチワイヤの保持を更に強化する任意選択的なフラップ状保持領域28を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、取付物品10の本体12は、接合部分14から離れるように延び、かつ歯表面16から所定の距離で溝26を延ばすように成形された任意選択的なスペーサ部分30を更に含む。いくつかの実施形態では、スペーサ部分30の形状及び寸法は、ワイヤの挿入を可能にするように、かつアーチワイヤが溝26に挿入された後にアーチワイヤの保持を維持するように構成される。しかし、場合によっては、以下でより詳細に示すように、本体12は、アーチワイヤが歯20の表面16のより近くに、又はそれに接して存在することができるように、最小限のスペーサ部分30を備えて、更にはスペーサ部分30を備えずに設計することができる。加えて、いくつかの例では、本体12は、受け具22及び溝26の下にある支持領域32を含むことができ、支持領域32は、アライナトレイ(図1Aには示していない)に寄りかかるように又は係合するように構成された外面を有する。いくつかの実施形態では、支持領域32の傾斜は、アライナトレイの取り外しをより容易にするように構成されてもよい。
【0016】
取付物品10の受け具22は、歯表面16の遠心側に露出した外部係合面40と、アライナトレイ(図1Aには示していない)の適切に成形された窪みに解放可能に係合するように構成された接合部分14とを含む。アライナトレイの対応する窪みの形状は、多種多様であってもよく、様々な例示的な実施形態では、スロット、開口、突起、気泡、包絡面、環、楔、プリズム、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。係合面40の形状は、アライナトレイの窪み又は窪みの配列に適合するように多種多様であってもよいが、図1Aの実施形態では、丸みを帯びた肩部42と、接合部分14に略平行な平面部分44と、アンダーカット領域46とを含む。いくつかの例では、上述したように、支持領域32はまた、アライメントトレイを更に保持するための係合面33を有してもよい。
【0017】
様々な実施形態では、取付物品10は、金属、セラミック、ポリマー材料などから作製される。いくつかの例では、物品10の全体又は一部が、ポリマー材料、ポリマー-金属複合材料、若しくはポリマー-セラミック複合材料からSLM、SLA、若しくはDLP vat印刷法、若しくは精密結合剤噴射法を使用して、直接3次元(3D)印刷されてもよく、又はこれらの材料のいずれかから3軸若しくは5軸フライス加工されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマー材料、金属、セラミック、又はこれらの複合材料は、受け具22が、アーチワイヤの導入を容易にするために曲がり、また撓むことができ、アーチワイヤが溝26内に着座すると定位置に戻ることができるように、比較的弾性の特性を有する。しかし、取付物品10を形成するために使用する材料は、弾性を必要とせず、アーチワイヤ自体の可撓性が、挿入及び保持又は自己結紮を可能にするのに十分であってもよい。
【0018】
取付物品10の接合部分14は、取付物品10の意図された用途に応じて、任意の好適な形状及びサイズを有してもよく、歯20の表面16への確実な取り付けを容易にするために、必要に応じて、より大きく又はより小さく作製されてもよい。取付物品10は、任意の好適な歯科矯正用接着剤を使用して歯20の表面16に接合されてもよく、例としては、エポキシ、(メタ)アクリレート系接着剤などが挙げられるが、これらに限定されず、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを含む。いくつかの例では、取付物品の本体12は、大量生産される標準化された基本的な設計のうちの限定された選択肢を含んでもよく、接合部分14は、例えば、フライス加工、レーザー加工、3D印刷などのプロセスによって、特定の歯を標準化された本体12に直接適合させるように個別に構成されてもよい。
【0019】
ここで図1Bを参照すると、別の実施形態では、取付物品100が、歯120の表面116に接合された接合部分114を有する第1の端部113を備えた本体112を含む。本体112は、歯表面116から離れるように延びるスペーサ部分130を含む。本体112は、受け具122を備えた第2の端部121を更に含む。受け具122は、アーチワイヤ(図1Bには示していない)を保持するように構成された溝126を形成する内面124を有する。溝126は、対応する断面形状を有するアーチワイヤを保持するように構成された断面形状を有し、図1Bの実施形態では、アーチワイヤの導入又は取り外しを容易にするように構成された陥凹領域127を含む。受け具122は、本体112の第1の端部113に向かって延び、かつ溝126に部分的に被さる張り出し保持領域128を含む。
【0020】
受け具122は、歯表面116及び接合部分114の遠心側に露出した外部係合面140を有する。係合面140は、係合面140の少なくとも一部分がポリマー製アライナトレイ(図1Bには示していない)の適切に成形された窪みに解放可能に係合するように構成される。図1Aの実施形態では、係合面140は、丸みを帯びた肩部142と、接合部分114及び歯表面116に略平行な平面部分144と、アンダーカット領域146とを含む。
【0021】
ここで図2Aの構造体200を参照すると、取付物品210が、歯220の表面216に接合された接合部分214を有する第1の端部213を備えた本体212を含む。本体212は、受け具222を備えた第2の端部221を更に含む。受け具222は、適切に成形されたアーチワイヤ(図2Aには示していない)に係合してこれを保持するように構成された略J字形の溝226を形成する内面224を有する。受け具222は、本体212の第1の端部213に向かって延び、かつ溝226に少なくとも部分的に被さって溝226内でのアーチワイヤの保持を更に強化する保持領域228を含む。本体212は、最小限のスペーサ部分230と、受け具222の下にある支持領域232とを含む。
【0022】
アライナトレイ250は、歯220の歯冠256の上に適合するように、かつ歯220の相反する表面216、217に係合するように成形されたキャビティ254を含む。アライナトレイは、歯220の表面216から離れるように延びるように、かつ取付物品210の露出した外部係合面240の少なくとも一部分に解放可能に係合するように成形された窪み(すなわち、受け部)252を含む壁251を更に含む。
【0023】
様々な実施形態では、アライナトレイ250は、金属、セラミック、ポリマー、並びにこれらの混合及び組み合わせを含む、多種多様な材料から作製されてもよい。アライナトレイ250は、成形、3D印刷、熱成形、レーザーパターニング、高精細(microreplication)などを含むが、これらに限定されない多種多様な技術を使用して形成されてもよい。アライナトレイを作製するための好適な材料及び方法が、例えば、2020年10月13日に出願された共有される米国出願第63/091113号において検討されている。
【0024】
一実施形態では、歯(又は歯群)保持キャビティの好適な構成が、単層ポリマーフィルム又は多層のポリマー材料を含む多層ポリマーフィルムの実質的に平坦なシートに形成される。いくつかの実施形態では、ポリマーフィルムは、分散体に形成され、フィルムにキャストされてもよく、又は歯受容キャビティを有するモールド上に適用されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマーフィルムは、適切なダイを通してポリマー層材料を押出してフィルムを形成することによって調製され得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリマー反応生成物が押出機に充填されて、押出成形手順中に1つ以上の層を形成する反応性押出プロセスが使用され得る。更に他の実施形態では、ポリマーフィルムは、2019年9月26日に出願され、「Parylene Dental Articles」と題された米国仮出願第62/736,774号に記載されるように、化学蒸着によってモールド上に堆積されてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、ポリマーフィルムは、後で、歯保持キャビティを有する歯科装具に熱成形されてもよく、歯保持キャビティを含むモールドに射出されてもよく、又は三次元(3D)印刷プロセスを使用して製造されてもよい。歯保持キャビティは、熱成形、レーザー加工、化学的又は物理的エッチング、及びこれらの組み合わせを含む任意の好適な技術によって形成され得るが、熱成形は良好な結果及び優れた効率を提供することが見出された。いくつかの実施形態では、ポリマーフィルムは、歯保持キャビティを形成する前に加熱され、又はその表面は、任意選択で、キャビティを形成する前若しくは後に、例えばエッチングなどによって化学的に処理されてよく、又は表面をツールと接触させることによって機械的にエンボス加工されてもよい。
【0026】
ポリマーフィルム、形成された歯科装具、又はこれらの両方は、任意選択で、電子ビーム、γ線、UV、並びにこれらの混合及び組み合わせから選択される放射線で架橋されてもよい。
【0027】
取付物品210の係合面240の少なくとも一部分が、窪み252に解放可能に係合するように構成されており、丸みを帯びた肩部242と、接合部分214に略平行である平面部分244と、アンダーカット領域246とを含む。図2Aの実施形態では、ポリマー製アライナトレイ250の壁251は、係合面240の周りに延びるように、かつ取付物品210の下の領域で歯220の表面216に接して適合するように成形されたアンダーカット領域260を更に含む。
【0028】
図2Bに示す別の実施形態では、構造体300が、接合部分314を介して歯320の表面316に取り付けられた本体312を備えた取付物品310を含む。本体312は、アーチワイヤ(図2Bには示していない)を保持するように構成された略J字形の溝326を形成する内面324を有する受け具322を更に含む。受け具322は、溝326に部分的に被さる保持領域328を含む。本体312は、スペーサ部分330と、受け具322の下にある支持領域332とを更に含む。
【0029】
ポリマー製アライナトレイ350が、歯320の歯冠356の上に適合するように、かつ歯320の相反する表面316、317に係合するように成形されたキャビティ354を含む。ポリマー製アライナトレイは、取付物品310の露出した外部係合面340に解放可能に係合するように成形された突出した窪み352を含む壁351を更に含む。
【0030】
係合面340の少なくとも一部分が、窪み352に解放可能に係合するように構成されており、丸みを帯びた肩部342と、接合部分314に略平行な平面部分344と、アンダーカット領域346とを含む。図2Bの実施形態では、ポリマー製アライナトレイ350の壁351は、図2Aの実施形態と比較して低減されたアンダーカット領域を有し、アンダーカット領域は、係合面340の周りに適合するように、かつ取付物品310の下の領域で歯320の表面316に係合するように成形され、歯の咬合部分と歯肉線(図2Bには示していない)との間の距離の一部にのみ延びる。代わりに、ポリマー製アライナトレイ350は、歯表面316に接触しない、窪み352から下方に延びるタブ370を含む。一部の歯科矯正治療では、タブ370を含む窪み352は、取付デバイス310の係合面340の周りにあまりぴったりと適合せずに、ポリマー製アライナトレイ350の取り付け及び取り外しを患者にとってより容易かつ快適にする経路を提供してもよい。別の例示的な実施形態では、潜在的な舌の痛みを回避するために、タブ370は、歯表面316に向かって角度をつけるように又は傾斜するように構成されてもよい。更に別の実施形態では、タブ370は、単純に省略され、アンダーカット領域内に少なくともいくらか水平に突出するトレイ材料のわずかな突起を残してもよい。
【0031】
図1A図1B及び図2A図2Bに示す取付デバイス及びポリマー製アライナトレイは、複数のタイプの歯科矯正装具を使用して患者の少なくとも1つの歯を再配置するための歯科矯正方法に使用するのに特によく適している。方法は、取付具が歯の舌側面及び唇側面の少なくとも1つに接合されるワイヤ駆動段階を含む。弾性アーチワイヤが、取付具のワイヤ保持溝に挿入され、歯群の第1の部分の少なくとも1つの歯を第1の位置から第1の位置とは異なる第2の位置に移動させる。
【0032】
方法は、様々な実施形態でワイヤ駆動段階の前又は後に実施されてもよい、アライナ段階を更に含む。アライナ段階では、アーチワイヤは、取付具のワイヤ保持領域に存在せず、アライナトレイが、患者の歯を更に再配置するために利用される。アライナトレイは、患者の歯群の第1の部分の少なくとも1つの歯を受容するように、かつ第2の位置から第2の位置とは異なる第3の位置に少なくとも1つの歯を弾性的に配置するように成形された複数のキャビティを含む。アライナトレイは、取付具の係合領域の少なくとも一部分に解放可能に係合するように構成された窪みの配列を更に含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、方法は、アライナ段階に続く第2のワイヤ駆動段階を更に含む。第2のワイヤ駆動段階は、歯に接合された取付具を利用し、歯を第3の位置から第4の位置に効率的に移動させるために同じ又は異なるアーチワイヤを利用してもよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、アライナ段階に続いて取付具が取り外されてもよく、歯を第3の位置から第4の位置に移動させて歯に対するより細かな仕上げ調整をもたらすために取付具なしでアライナトレイが使用されてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、方法は、初期のアライナ段階と、それに続くワイヤ駆動段階とを含む。後続のワイヤ駆動段階に、1つ以上のアライナ段階又はワイヤ駆動段階を続けることができる。
【0036】
歯科矯正治療の過程を少なくとも2つの別個の段階に分割することは、いくつかの利点を有することがある。特に、詰まっている場合、歯の移動を妨げ得る歯間の隣接歯間干渉に悩まされる。アライナトレイが効果的であるように、歯の現実的なモデルを作成するために正確な3Dスキャンデータを使用するべきである。正確なモデル化が最も困難な歯の領域が、隣接歯間であり、干渉が最も起こりやすい領域でもある。口腔内スキャナには、これらの領域を撮像することが困難であることがあり、物理的な印象材が、歯間の最も狭い領域に浸透できないことがある。三角形メッシングソフトウェアは、隣の歯の点が対象歯の点と混同されることにより、隣接歯間の表面を適切に識別できないことがある。隣接歯間のメッシュデータは、除去され、後続の処理ステップでパラメトリックモデルによって再生成されてもよい。段階的な歯の移動中に歯同士が交差するであろう場所を予測するために使用する隣接歯間データが、わずかに誤っている場合があり、したがって、過度の摩擦又は妨害をもたらす歯の衝突により、不可能ではないにしても、規定された移動が機械的に妨げられる場合がある。ポリマー製アライナトレイが歯の移動を非常に明確に規定し、定義されない自由度が残されないので、歯同士が衝突する場合、歯の方向を変化させ、かつ規定された経路から逸脱させたであろう反力が、歯を完全に取り囲むアライナ材料によって拘束される。
【0037】
対照的に、取付具及びアーチワイヤは、摺動作用の結果としての近遠心運動、並びにワイヤとブラケットとの間の「スロップ(slop)」、及び特に可撓性に富むワイヤを使用する場合のワイヤの反りという、定義されないままである少なくとも1つの自由度を提供する。アーチワイヤは、取付具のチャネル、すなわち、取付スロットに沿って摺動できるので、歯は、有意な近遠心ベクトル成分を含む任意の他の方向に力が加えられた場合、近遠心方向に自由に移動することができる。例えば、歯に対して45°斜め方向の力ベクトルは、略等しい大きさをそれぞれ有する、唇側ベクトル成分と遠心側ベクトル成分とに分解することができる。歯が近心側の隣の歯の舌側へといくらか配置される場合、歯は、干渉する歯によって近心側のエッジで唇側への移動を妨げられる場合があるが、遠心側の隣の歯と接触しない場合、その近心側の隣の歯との干渉が解消されるまで、アーチワイヤに沿って遠心方向に自由に摺動することができる。これが起こると、歯は、力ベクトルの唇側ベクトル成分による唇側方向の移動を自由に発現することができる。従来のアライナトレイでは、トレイが全ての側で歯を取り囲むため、そのような自由は不可能である。
【0038】
治療の初期段階で取付具及びアーチワイヤを用いて治療することにより、摺動作用を利用して、歯間領域における歯同士の衝突を、それらの移動を正確に規定する必要なく自動的に解消することができる。これは、アーチワイヤから加えられる力が比較的連続的であり、より多くの自由度を可能にすることによって移動がほとんど妨げられないので、アライナトレイ単独による治療よりも迅速に行うことができる。
【0039】
ワイヤ駆動段階で使用する固定式の矯正装具の1つの利点は、治療中に患者が装具を取り出すことができないので、患者の非遵守のリスクが低減されることである。ワイヤ駆動段階での初期の歯の移動を達成するために必要とされる制御量は、スロットワイヤシステムの調整によって設定することができる。例えば、歯群の全体又は一部分に配置された取付具が、アーチワイヤの弾性特性によって影響を受けることがある。例えば、いくつかの実施形態では、長方形の断面形状を有するアーチワイヤと、歯群の取付具の対応する長方形ワイヤ保持領域とが、最大の制御度合をもたらす。場合によっては、特にニッケルチタンワイヤ及び銅ニッケルチタンワイヤを使用する場合、アーチワイヤは、比較的連続的な力を伝達することができ、このことは、大きな移動が必要とされることが多い治療の初期ステージで歯を移動させるのに非常に役立つ。対照的に、アライナトレイによって加えられる力は、歯が移動し始めると、より急速に減少する場合がある。したがって、ワイヤは、アライナトレイと比較してより長い範囲の発現を有する傾向がある。
【0040】
ワイヤ駆動段階による利益を得る典型的な不正咬合は、詰まっている前歯であり、アライナによって解消するには長い時間を要することがあるが、上で概説した理由のため、取付具及びアーチワイヤを用いて治療する場合には急速な進展を有する。アライナトレイは、顎骨に埋め込まれた歯の歯冠を押しているので、歯の歯冠を直立に保つのではなく、歯の歯冠を空間内に傾ける傾向があり、いくつかの例では、取付具及びワイヤシステムが、この望ましくない副作用を伴わずに歯冠をより良好に移動させることができる。
【0041】
ワイヤが、ブラケットが沿って摺動できるトラックを提供し、駆動力が典型的には、ブラケット同士を接続し、かつそれらを一緒に引っ張るエラスチックチェーンであるので、ブラケットスロットとアーチワイヤとの間の係合により、歯の歯冠が空間内に傾く機会が制限される。別の例では、小臼歯を押し出すことによるスピーの湾曲を解消することは、アライナトレイのキャビティを用いて歯を把持する困難性により、取付具及びワイヤシステムを用いる場合により効率的である場合がある。小臼歯及び犬歯のような丸い歯を回転させることも、アライナを用いる場合には厄介であることがあり、取付具及びワイヤのアプローチから利益を得る場合がある。
【0042】
いくつかの実施形態では、カスタム曲げされた(又はそうでなければカスタム製作された)アーチワイヤを治療の第1のワイヤ駆動段階で使用する場合、ワイヤ駆動段階の移動を達成するために好都合であろう位置のみならず、トレイ係合機構及びアライナトレイを使用する他の治療段階で規定される移動を考慮して、接合される装具(取付具)をより戦略的に配置する機会がある。例えば、取付具及びワイヤ段階のための最も便利な歯上の装具接合部位は、顔軸線ポイント(FAポイント)である場合があるが、アライナ段階での歯に対する透明アライナの係合を改善するために、規定された歯の移動、天然の歯の解剖学的構造における特徴の欠如、及び歯上の結合ポイントを考慮すると、装具は、FAポイントの1~2mm歯肉側により良好に配置される場合がある。そのような場合、装具の位置の修正が有害な影響を与えなければ、妥協された位置をワイヤ駆動段階で使用してもよく、この他の位置で装具に係合するように設計されたカスタムアーチワイヤを製作することができる。次いで、装具は、アーチワイヤが取り外され、かつ透明アライナが歯に設置されるアライナ段階のために、より良好に配置されるであろう。
【0043】
いくつかの例では、取付具を歯の舌側面に配置することもでき、これにより、ワイヤ駆動段階を患者にとってより審美的なものにすることができる。しかし、他の例では、取付具は、歯の唇側面にあり、したがって目で見える。この理由から、患者は、審美性及びより容易な歯科衛生の理由からアライナトレイを好む傾向があり、衝突によって妨げられる可能性がある困難な歯の移動が達成されるとすぐにアライナに切り替えるように動機付けられる。アライナはほとんど見えず、患者が口の中にアライナを入れるときと、入れないときとを自分で決めることができるので、アライナは辛くなく、よりライフスタイル型の装具であると考えられる。アライナトレイは、ステージ毎に歯のわずかな移動のみをもたらすことができ、特定の歯の移動に機械的に限定されることがある。ステージ毎の歯の移動がより小さく、歯の位置及び向きが精密に定義されることは、優れた仕上げ能力のための良好な前提条件である。いくつかの実施形態では、アライナトレイは、ワイヤ駆動段階による歯のより大きな移動が完了した後に、歯のより小さな仕上げ移動のために使用することができる。
【0044】
本開示の歯科矯正治療方法は、異なる能力及び強度を有する2つの異なるツールとして2つの装具タイプを提供し、より迅速かつより審美的な患者治療の可能性をもたらす。取付具及びワイヤを使用して第1の治療段階で歯を移動させるために使用したのと同じ装具を、アライナトレイと歯との改善された係合をもたらすことによって、第2の治療段階で歯の移動を補助するためにも使用できることが望ましい。
【0045】
図3は、連続的なワイヤ駆動治療段階及びアライナ段階を提供するための、コンピュータ実装方法などの方法360のステップを示すフローチャートである。ステップ362では、方法は、歯の第1及び第2の位置を決定することを含み、これらは、上述したように、3次元スキャン、CTスキャンなどの適切な撮像技術によって決定されてもよい。その後、ステップ364では、第1の位置から第2の位置への移動経路を提供するために、各歯に関する取付具のタイプ及び各歯に関する取付位置が手動で又はデジタル的にのいずれかで決定される。ステップ366では、1つ又は一連のアーチワイヤが選択され、取付具に挿入されて、歯を第1の位置から第2の位置に移動させる。
【0046】
ステップ368では、ステップ366で歯のより大きな移動が実質的に完了した後又は完了した後に、取付具が接合された歯の第2の位置から第3の位置へのより小さな移動又は仕上げ移動に適応する体積又は形状で構成された1つ以上のキャビティを含む一連のアライナトレイがデジタル的に設計及び製作される。ステップ370では、アーチワイヤが取付具から取り外され、一連のアライナトレイがそれぞれ、患者の歯の上に適用されて、歯を第2の位置から第3の位置に徐々に移動させる。
【0047】
ステップ372では、ステップ368~370で説明したアライナ段階に続いて、任意選択的な追加段階で、第1のアーチワイヤと同じであっても異なっていてもよい第2のアーチワイヤが、歯の更なる移動のために取付具に挿入される。いくつかの例では、第2のアーチワイヤを含むワイヤ駆動段階の後に、歯を第2の位置から第3の位置に移動させるように構成されたキャビティを備えた任意選択的なアライメントトレイ又は更なる一連のアライナトレイが続いてもよい。
【0048】
ステップ374では、ステップ368~370のアライナ段階に続く別の任意選択的な段階で、取付具は、歯から取り外され、第2の一連のアライナトレイが、歯を第2の位置から第3の位置に移動させるように、又は第3の位置での歯の整列を維持するように構成されたキャビティを備えて設計される。
【0049】
いくつかの例では、本開示による歯科治療システムは、歯の異なるタイプの移動(更なる詳細を以下で提示する)をもたらすように構成された異なる形状を有する一連の取付具と、アーチワイヤと、歯科矯正アライナトレイと、患者使用のための指示書とを含むキットの形態で歯科医に提供される。限定することを意図しないキットに好適な追加アイテムとしては、キャリーケース、患者が歯からアライナを取り外すのに役立つ取り外しツール、アライナを歯に押し付けるのを助ける固定ツール、歯ブラシ、アライナトレイクリーニングタブレット、粉末/結晶、又はジェル/泡/液体、研磨紙又は歯科装具の鋭いエッジ若しくはコーナーからの不快感に対処するためのオブジェクト、ホワイトニングジェル又はペン、デンタルフロス、デンタルピック、ワックスなどのうちの1つ以上が挙げられる。
【0050】
上記の方法において歯の特定の移動を達成するために、多種多様な異なる取付具設計を使用してもよく、限定することを意図しないいくつかの例について、以下に示し、検討する。
【0051】
ここで図4Aを参照すると、患者の口腔内での歯の(咬合軸線Oに沿った)垂直方向の移動をもたらすために使用できる取付物品410A、410B、及び410Cの構成400が示されている。構成400では、取付物品410Aは、第1の歯420Aの表面416Aに接合され、取付物品410Cは、第3の歯420Cの表面416Cに接合される。取付物品410Bは、歯420Aと歯420Cの間の第2の歯420Bの表面416Bに接合される。第2の歯420Bは、歯420A、420Cを含む平面の上方に延びる。
【0052】
取付物品410A、410Cは、それぞれの歯表面416A、416Cに取り付けられた接合部分414A、414Cをそれぞれ有する本体412A、412Cを含む。本体412A、412Cは、歯表面416A、416Cから離れるように延びるスペーサ部分430A、430Cを更に含む。スペーサ部分430A、430Cは、歯表面416A、416Cに実質的に垂直である実質的に平面状の部分431A、431Cを含む。平面部分431A、431Cは、下向き受け具422A、422Cまで延びる。受け具422A、422Cはそれぞれ、アーチワイヤ480を保持するように構成された略J字形の溝426A、426Cを形成する内面424A、424Cを有する。
【0053】
受け具422A、422Cの外面が、アライナトレイ(図4Aには示していない)の適切に成形された窪みに解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面440A、440Cを有する。係合面440A、440Cは、丸みを帯びた肩部442A、442Cと、アンダーカット領域446A、446Cとを含み、これらはそれぞれ、アライナトレイの窪みに解放可能に係合できる屋根状の形状を形成する。
【0054】
取付物品410Bは、歯表面416Bに取り付けられた接合部分414Bを備えた本体412Bを含む。本体412Bは、歯表面416Bから外向きに延びるスペーサ部分430Bを更に含む。スペーサ部分430Bは、歯表面416Bに実質的に垂直な実質的に平面状の部分431Bを含む。壁435Bが、平面部分431Bに略垂直に、かつ歯表面416Bに実質的に平行に延びる。壁435Bは、上向き受け具422Bを形成する。受け具422Bは、アーチワイヤ480を保持するように構成された略J字形の溝426Bを形成する。
【0055】
受け具422Bの外面が、アライナトレイ(図4Aには示していない)の適切に成形された窪みに解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面440Bを有する。係合面440Bは、丸みを帯びた肩部442B及びアンダーカット領域446Bを含み、これらは、アライナトレイの窪みに解放可能に係合できる屋根状の形状を形成する。
【0056】
図4Bに概略的に示すように、上向き受け具422A、422Cは、アーチワイヤ480を保持し、アーチワイヤは、下向き受け具422Bの溝426Bに対して、歯表面416Bに略平行な方向(咬合方向)に力を加える。弾性アーチワイヤ480によって溝426Bに対して加えられる一定の下向きの力は、歯420Bを垂直下向きに徐々に移動させて、隣接する歯420A、420Cと整列させる。歯420Bが下方に移動するときに、受け具422A、422Cの溝426A、426Cは、歯416A~Cの表面に対してアーチワイヤ480を適切な関係で保持し、位置異常の歯は、アーチワイヤ480を保持するために使用される。
【0057】
いくつかの実施形態では、中央取付具410Bは、任意選択で、受け具422Bの溝426B内でのアーチワイヤ480のより良好な係合を確実にするために、かつ歯420Bが意図された位置にあるときでもアーチワイヤの保持を維持するために、過剰矯正として表面416Bにより高く配置することができる。いくつかの例では、取付具410Bは、歯420Bに加えられる力が歯を更に移動させるのに必要な閾値を下回るように、かつ取付具410Bがアーチワイヤを保持するように配置することができる。
【0058】
ここで図5Aを参照すると、別の実施形態では、患者の口腔内で(舌側軸線Lに沿って)水平方向に沿って歯を移動させるのに適した形状及び溝構造を有することができる取付物品510A、510B、及び510Cの構成500が示されている。構成500では、取付物品510Aは、第1の歯520Aの表面516Aに接合され、取付物品510Cは、第3の歯520Cの表面516Cに接合される。取付物品510Bは、歯520Aと歯520Cの間の第2の歯520Bの表面516Bに接合される。第2の歯520Bは概して、歯520A、520Cを含む平面の背後に延びる。
【0059】
取付物品510A、510Cは、それぞれの歯表面516A、516Cに取り付けられた接合部分514A、514Cをそれぞれ有する本体512A、512Cを含む。本体512A、512Cは、歯表面516A、516Cから外向きに延びるスペーサ部分530A、530Cを更に含む。スペーサ部分530A、530Cは、歯表面516A、516Cに実質的に垂直である実質的に平面状の部分531A、531Cを含む。平面部分531A、531Cは、下向き受け具522A、522Cまで延びる。本体512A、512Cは、略上向き受け具523A、523Cを更に含む。
【0060】
上向き受け具522A、522C及び下向き受け具523A、523Cは、アーチワイヤ580を保持するように構成された略C字形の溝526A、526Cを形成する内面524A、524Cを形成する。
【0061】
受け具522A、522C、523A、523Cの外面が、アライナトレイ(図4Aには示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面540A、540Cを有する。係合面540A、540Cは、丸みを帯びた肩部542A、542Cと、アンダーカット領域546A、546Cとを含む。
【0062】
取付物品510Bは、歯520Bの歯表面516Bに取り付けられた接合部分514Bを備えた本体512Bを含む。本体512Bは、歯表面516Bから外向きに延びるスペーサ部分530Bを更に含む。スペーサ部分530Bは、歯表面516Bに実質的に垂直な実質的に平面状の部分531Bを含む。壁535Bが、平面部分531Bに略垂直に、かつ歯表面516Bに実質的に平行に延びる。壁535Bは、上向き受け具522Bまで延びる表面524Bを形成する。受け具522Bは、アーチワイヤ580を保持するように、かつ舌側方向に沿って歯520Bに力を加えるように構成された略J字形の溝526Bを形成する。
【0063】
受け具522Bの外面が、アライナトレイ(図5Aには示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面540Bを有する。係合面540Bは、丸みを帯びた肩部542B及びアンダーカット領域546Bを含む。
【0064】
受け具522Bの溝J字形526Bは、手がバケツのハンドルをつかむようにワイヤ580をつかむ。中央取付具510Bに対して遠心側及び近心側の取付具510A、510Cの溝526A、526Cは、舌側に向いており、ワイヤ580は、溝開口とは反対方向でアーチワイヤ580に加えられた力によって溝526A~C内に保持される。
【0065】
図5Bは、様々な異なる取付具設計及びそれらが歯に加え得る主力ベクトルのいくつかの例を示す。例えば、取付具設計550が、咬合方向Aに沿って歯を押し出す/延ばすように構成される。取付具552が、取付具550に対して反転され、したがって、咬合方向Aとは反対の咬合方向Bに沿って歯を押し付ける。取付具設計554が、舌側方向Cに沿って(又は、歯の唇側に接合される場合、Cとは反対方向に)歯を移動させ得る明白な受け具を含む。取付具556は、ワイヤが力を加えて歯を唇側方向Dに移動させ得るスロットを含む。例えば、アーチワイヤによって移動される歯(又は歯群)の遠心側の歯にワイヤを保持するために、管状の受け具設計558を使用することができる。不正咬合及び取付具間距離に応じて、いくつかの実施形態では、例えば、0.014丸形NiTiなどの超弾性丸形アーチワイヤを保持するために、複数の連続した取付具558を使用することができる。
【0066】
様々な実施形態では、取付具550~558は、特定の歯を不正咬合の第1の位置から不正咬合がより少ない第2の位置にどのように移動させる必要があるかを評価した後に、手動で、又はソフトウェアを用いて選択することができる。歯科矯正治療を計画するために使用するデジタルセットアップソフトウェアでは、不正咬合からセットアップへの変換行列が、全ての歯について知られている。この行列から、結果として得られる移動ベクトルを定義することができる。これらのデータに基づいて、ソフトウェアは、移動ベクトルを最もよく表す取付具を上記から選択することができる。例えば、主に舌側の歯の移動が望まれる場合、ソフトウェアは、図5Bの取付具554を最初に選択することができる。いくつかの例では、ワイヤの反りをシミュレートし、その結果を取付具の選択に組み込むために、ソフトウェアを使用することもできる。
【0067】
各歯の精密な移動を決定するためにソフトウェアを利用する場合、いくつかの実施形態では、図5Bの取付具は、ワイヤ軸線を中心に特定の制限を伴ってそれらを回転させることによって微調整することもできる。
【0068】
ここで図5Cを参照すると、プロセス600が、患者の1つ以上の不正咬合を少なくとも部分的に解消する歯科矯正治療計画のワイヤ駆動段階で使用するために、取付具(図5Bに示す取付具550~558を含むが、これらに限定されない)及びアーチワイヤの選択肢を選択する治療計画ステップ602を含む。治療計画ステップ602は、変換行列を形成するステップ604を含む。歯科矯正治療される各歯について個々の並進及び回転ベクトルを得る、変換行列の第1の部分が、装具設計段階606で作成された後、ステップ606による個々の並進及び回転ベクトルに応じて各歯について適切な取付具をステップ608で選択する第2の部分が続く。
【0069】
セットアップ段階610では、ステップ606及び608で決定された歯取付位置及び選択された取付具に基づいて、1つ以上のカスタムアーチワイヤが装具設計段階612で構成される。ステップ614では、ステップ616で有限要素解析(FEA)を使用して設計が検査されて、ワイヤ力によって患者治療の全過程の間にアーチワイヤが全ての取付具に保持されるかどうかが決定される。
【0070】
ワイヤ力によってアーチワイヤが選択された取付具に保持されるとFEAが決定した場合、設計はステップ618で完了する。アーチワイヤの1つ以上が治療中に取付具から外れる可能性がある場合、ステップ620で、取付具は、任意選択で、アーチワイヤをより確実に保持するように構成された受け具及び溝を備えた自己結紮取付具設計(例えば、図1図2を参照)と交換されてもよい。
【0071】
取付具及びアーチワイヤが構成され、取付具の位置が各歯について決定されると、歯科矯正治療のワイヤ駆動段階が始まる。
【0072】
図5Cのプロセスは、限定することを意図しておらず、多種多様な歯科矯正治療を完了するために、図5Bに示すような比較的単純で低コストの取付具を選択されたアーチワイヤと組み合わせ得る方法の例として提示されているにすぎない。
【0073】
図6に概略的に示すように、図5Bにより再現される全ての取付具650~658は、異なるワイヤ保持溝構成を有し、歯に対して異なる方向に力を加えるように構成されるが、取付具は、アライナトレイ660の窪み662と解放可能に係合するための実質的に類似の又は均一な取付面659をもたらす、1つの共通する基本的な外部屋根状の幾何学形状を有する。共通の取付面659により、取付具650~658を、それらの個々の幾何学形状及び溝形状にかかわらずに、上記の歯科矯正治療方法のアライナ段階に使用することが可能になる。アライナトレイ660の窪み662の形状は、全て同じにすることができるが、患者の口腔内で異なる方向に沿って歯を移動させるために、複数の異なる取付具を使用することができる。
【0074】
ここで図7を参照すると、歯の角度形成を解消するように構成された取付具700の構成が、歯720Aの表面716Aに取り付けられた接合部分714Aを備えた本体712Aを含む取付物品710Aを含む。本体712Aは、歯720Aの表面716Aに隣接してアーチワイヤ780を保持するように構成されたワイヤ保持溝726Aを形成する下(すなわち、歯肉側)向き受け具722Aを含む。受け具722Aの外面が、アライナトレイ(図7には示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面740Aを有する。係合面740Aは、丸みを帯びた肩部742A及びアンダーカット領域746Aを含む。
【0075】
同様に、取付物品710Cが、歯720Cの表面716Cに取り付けられた接合部分714Cを備えた本体712Cを含む。本体712Cは、歯表面716Cに隣接してアーチワイヤ780を保持するように構成されたワイヤ保持溝726Cを形成する上(すなわち、咬合側)向き受け具722Cを含む。受け具722Cの外面が、アライナトレイ(図7には示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面740Cを有する。係合面740Cは、丸みを帯びた肩部742C及びアンダーカット領域746Cを含む。
【0076】
歯720Bが、第1の本体711B及び第2の本体713Bを備えた取付物品710Bを含む。本体711B及び713Bはそれぞれ、それぞれの接合部分714B-1及び714B-2を介して歯表面716Bに取り付けられる。
【0077】
第1の本体711Bは、歯表面716Bから外向きに延びるスペーサ部分730B-1を含み、下向き受け具722B-1が、スペーサ部分730B-1の長さの一部分に沿って延びる。受け具722B-1は、歯表面716Bに隣接してアーチワイヤ780を保持するように構成された略J字形の溝726B-1を形成する。受け具722B-1の外面が、アライナトレイ(図7には示していない)の適切に成形された窪みに解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面740B-1を有する。係合面740B-1は、丸みを帯びた肩部742B-1及びアンダーカット領域746B-1を含む。
【0078】
同様に、第2の本体713Bは、歯表面716Bから外向きに延びるスペーサ部分730B-2を含むが、スペーサ部分730B-2の長さの一部分に沿って延びる上向き受け具722B-2を有する。上向き受け具722B-2は、第1の本体711Bの下向き受け具722B-1と共に作用して、アーチワイヤ780を確実に保持し、歯720Bを角度形成するようにする。受け具722B-2は、歯表面716Bに隣接してアーチワイヤ780を保持するように構成された略J字形の溝726B-2を形成する。図7の実施形態では、溝726B-2と溝726B-1は、非常に類似した断面形状を有することができるが、他の例では、意図された用途に応じて異なる形状を有してもよい。
【0079】
受け具722B-2の外面が、アライナトレイ(図7には示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面740B-2を有する。係合面740B-2は、丸みを帯びた肩部742B-2及びアンダーカット領域746B-2を含む。
【0080】
図8A図8Bを参照すると、歯が回転矯正を必要とする場合、回転に必要なモーメントを作り出すのに適した水平力を加えるために取付具の構成800を使用することができる。回転されるべき歯の近心側及び遠心側の歯はまた、反力に対処するための歯の水平方向の移動のための取付具を特徴とする。図8A図8Bに示すように、歯820A、820B、820Cが、接合部分814A、814B、814Cを介して歯表面816A、816B、816Cに固定された本体812A、812B、812Cを備えたそれぞれの取付物品810A、810B、810Cを含む。
【0081】
取付物品810Aの本体812Aは、下向き受け具822Aを形成するスペーサ830Aを含む。本体812Aは、アーチワイヤ880を保持するように構成された略C字形の断面を有する溝826Aを更に形成する。受け具822Aは、アライナトレイ(図8A図8Bに示していない)の適切に成形された窪みと解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面840Aを有する。係合面840Aは、丸みを帯びた肩部842A及びアンダーカット領域846Aを含む。
【0082】
取付物品810Cの本体812Cは、歯表面816Cに垂直に延びるスペーサ830Cを含む。本体812Cは、アーチワイヤ880を保持するように構成されたJ字形断面を有する溝826Cを備えた上向き受け具822Cを形成する。受け具822Cは、アライナトレイ(図8には示していない)に適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面840Cを有する。係合面840Cは、丸みを帯びた肩部842C及びアンダーカット領域846Cを含む。
【0083】
取付物品810Bの本体812Bは、歯表面816Bに垂直に延びるスペーサ830Bを含む。本体812Bは、アーチワイヤ880を保持するように構成されたJ字形断面を有する溝822B-1を備えた第1の上向き受け具826B-1を形成する。本体812Bは、C字形断面及び溝826B-2を備えた第2の下向き受け具822B-2を更に含む。受け具822B-1と受け具822B-2は、歯表面816Bに略平行に向いている本体812Bの中間部分823Bによって分離される。
【0084】
受け具822B-1及び822B-2はそれぞれ、アライナトレイ(図8には示していない)の適切に成形された窪み構造に解放可能に係合するように構成された露出した外部係合面840B-1及び840B-2を有する。係合面840B-1及び840B-2はそれぞれ、それぞれの丸みを帯びた肩部842B-1及び842B-2と、アンダーカット領域846B-1及び846B-2とを含む。
【0085】
図9A図9Cに示すように、いくつかの実施形態では、取付具のワイヤ保持溝は、アーチワイヤが歯の表面から所定の距離に存在することを可能にするように構成することができる。システム900では、歯920Aが、表面916Aに接合された本体912Aを備えた取付具910Aを含む。本体912Aは、アーチワイヤ980を保持するように構成されたワイヤ保持溝926Aを有する下向き受け具922Aを含む。同様に、歯920Bが、その表面916Bに接合された取付具910Bを含む。取付具910Bは、ワイヤ保持溝926Bを備えた上向き受け具922Bを有する本体912Bを含む。取付具910Cが、歯920Cの表面916Cに接合され、ワイヤ保持溝926Cを備えた下向き受け具922Cを有する本体912Cを特徴とする。
【0086】
図9B図9Cに示すように、取付具910Aの溝926Aは、略V字形の断面を有し、アーチワイヤ980は、取付具910Aの本体912Aに当接する。対照的に、取付具910Cの溝926Cは、略J字形の断面を有し、アーチワイヤ980を歯表面916Cに対して直接当接させて保持する。図910Cに示すように、本開示の取付具のいくつかの実施形態では、歯表面自体が、取付具の1つ以上の表面に取って代わり、したがって、内側のコーナー又はスロットを作り、内部に力が導かれるとき、内側のコーナー又はスロットにアーチワイヤが着座される。アーチワイヤの2つ以上の側面を取り囲むことにより、アーチワイヤによって加えられた合力が、内側のコーナー又はスロットの内部側面の少なくとも2つの平面間のどこかに向けられる平面に沿って導かれ、アーチワイヤがスロット内に導かれることにより、飛び出しが防止される、という結果になる。したがって、力がアーチワイヤから取付具を介して歯に確実に伝達される。
【0087】
いくつかの実施形態では、図9A図9Cに示すような比較的単純な取付具設計が、歯科開業医に、好適な複合材料から取付具をチェアサイドで成形する機会を提供さえすることができる。
【0088】
図10A図10Bは、歯1020の舌側面1016に取り付けられた取付具1010の構成を含む歯科矯正システム1000を概略的に表す。取付具1010はそれぞれ、所定の患者治療計画のワイヤ駆動段階に従って歯を移動させるためにアーチワイヤ(図10A図10Bには示していない)を利用するように選択された受け具1022及びワイヤ保持溝1026を含む。図10Bに示すように、取付具1010の受け具設計1022は、ワイヤ駆動治療段階での歯の所望の移動のために選択された個々の力ベクトル1090を提供する。受け具1022の形状は、歯に加えられる所望の力ベクトルに応じて変化するが、取付具1010はそれぞれ、アライナトレイ(図10A図10Bには示していない)の対応する窪みに解放可能に係合するように構成された実質的に類似した係合面1040を有する。
【0089】
治療計画のワイヤ駆動段階の完了に続いて、アーチワイヤは、取付具1010から取り外され、取付具は、歯の上の定位置に留まる。取付具1010の係合面1040は、ワイヤ駆動治療段階に続く治療のアライナ段階中にアライナトレイに解放可能に接続するために使用することができる。
【0090】
本発明の様々な実施形態を記載してきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
【国際調査報告】