(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】銅の湿式精錬抽出を可能にするための水相還元剤による黄銅鉱の還元
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20240115BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240115BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240115BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240115BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C22B15/00 107
C22B3/04
C22B3/44 101Z
C22B3/44
C22B3/06
C25C1/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540480
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 US2021065450
(87)【国際公開番号】W WO2022147078
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508344512
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バードナー,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト,アラン
(72)【発明者】
【氏名】バンタ,スコット
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001DB01
4K001DB17
4K001DB22
4K058AA21
4K058BA21
4K058BB04
4K058CA04
4K058CA05
4K058CA13
4K058FA23
4K058FC02
4K058FC12
(57)【要約】
銅精鉱、例えば黄銅鉱を、酸を含む水溶液と接触させ、還元剤、例えばバナジウム(II)イオン、クロム(II)イオン、又はタングスト亜鉛酸(H
6ZnW
12O
40)と接触させる。水溶液は銅精鉱中の銅を還元し、次いで、それから回収するために溶液中に溶解するか、又は固相生成物として回収するために銅化合物もしくは銅元素として溶液から析出することができる。次いで、固相生成物を単離し、溶解し、さらに電解採取して、銅精鉱から銅生成物を回収することができる。酸化された還元剤は、第一鉄反応物を有する電気化学デバイスにおいて回収することができる。銅精鉱を銅に変換するための湿式精錬経路は現在の高温精錬処理よりも潜在的に安価であり、汚染が少なく、銅生成の増加のための環境的及び経済的圧力に対する有利な応答である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅精鉱から銅生成物を生成する方法であって、
銅精鉱を含む組成物を提供する工程と、
前記組成物を、1つ以上の化学還元剤を含む水溶液と接触させる工程と、
前記銅精鉱の少なくとも一部を、前記化学還元剤と反応させて、前記銅精鉱内の銅を還元する工程と、
銅生成物を含む固相反応生成物を単離する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記銅精鉱は、黄銅鉱を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固相反応生成物を、1つ以上の酸を含む酸性流と接触させて、溶解した銅生成物を生成する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性流は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記溶解した銅生成物を電解採取して、前記銅生成物及び再生された酸を単離する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記固相反応生成物を単離する工程は、
酸化された化学還元剤を含む液相反応生成物を単離する工程と、
前記液相反応生成物を、電気化学デバイスに供給する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電気化学デバイスで、前記酸化された化学還元剤を、再生された化学還元剤に還元する工程と、
前記再生された化学還元剤を前記組成物と接触させる工程と
をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記液相反応生成物から第2の銅生成物を単離することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(tungstozincic acid)(H
6ZnW
12O
40)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記化学還元剤は、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記固相反応生成物を単離する工程は、
硫化水素を含む気体反応生成物を単離する工程と、
前記気体反応生成物を、第二鉄流と接触させて、第一鉄流出流及び元素状硫黄流出流を形成する工程と、
前記第一鉄流出流を、前記電気化学デバイスに再生させる工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
銅精鉱から銅生成物を生成するシステムであって、
銅精鉱の供給源と、
前記銅精鉱の供給源と連通する還元反応器であって、
1つ以上の化学的還元剤を含む酸性水溶液と、
少なくとも第1の生成物出口と
を含む前記還元反応器と、
前記第1の生成物出口と連通する固相生成物出口流と、
1つ以上の酸入口流及び前記固相生成物出口流と連通し、溶解した銅生成物流を生成する溶解反応器と、
前記溶解した銅生成物流と流体連通する銅単離電解採取反応器であって、前記溶解反応器と流体連通し、銅生成物及び再生された酸流を生成する前記銅単離電解採取反応器と
を含む、システム。
【請求項13】
前記銅精鉱は、黄銅鉱を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(H
6ZnW
12O
40)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記化学還元剤は、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、又はそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記酸入口流は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
前記還元反応器は、第2の生成物出口をさらに含み、前記システムは、
前記第2の生成物出口と流体連通し、酸化された化学還元剤を含む液相生成物出口流と、
前記液相出口流と流体連通する電気化学デバイスと、
前記電気化学デバイスによって生成され、前記還元反応器と流体連通する、再生された化学還元剤流と
をさらに含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記還元反応器は、第3の生成物出口をさらに含み、前記システムは、
前記第3の生成物出口と流体連通し、硫化水素を含む気相生成物出口流と、
前記気相生成物出口流と流体連通する気体処理反応器と、
前記電気化学デバイスから前記気体処理反応器に供給される第二鉄供給流と、
前記気体処理反応器から前記電気化学デバイスに供給される第一鉄供給流と、
元素状硫黄流出流と
をさらに含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
黄銅鉱を間接的に還元する方法であって、
ある濃度の黄銅鉱を含む組成物を提供する工程と、
前記組成物を、1つ以上の酸及び1つ以上の化学還元剤を含む酸性水溶液と接触させる工程であって、前記1つ以上の酸は、硫酸、塩酸、又はそれらの組み合わせを含み、前記1つ以上の化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(H
6ZnW
12O
40)、又はそれらの組み合わせを含む、工程と、
前記黄銅鉱を前記化学還元剤と反応させて、その中に含まれる銅の少なくとも一部を還元する工程と、
固体反応生成物流、液体反応生成物流、及び気体反応生成物流を分離する工程であって、
前記固体反応生成物流は、銅、銅化合物、又はそれらの組み合わせを含み、
前記液体反応生成物流は、酸化された化学還元剤を含み、
前記気体生成物流は、H
2Sを含む、工程と、
前記酸化された化学還元剤を電気化学デバイスに提供する工程と、
前記電気化学デバイスで、前記酸化された化学還元剤を、再生された化学還元剤へ還元する工程と、
前記再生された化学還元剤を、前記組成物と接触させる工程と、
前記気体反応生成物流を、ある濃度の第二鉄で処理して、硫黄生成物及びある濃度の第一鉄を生成する工程と、
前記第一鉄を、前記電気化学デバイスへ再生する工程と、
前記固体反応生成物流を、前記1つ以上の酸と接触させて、溶解した銅生成物流を生成する工程と、
前記溶解した銅生成物流を電解採取して、銅生成物及び再生された酸を単離する工程と
を含む、方法。
【請求項20】
前記酸性水溶液は、約0.01M~約10Mの還元剤の濃度を有する、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2020年12月30日出願の米国仮出願第63/131,838号及び2021年12月28日出願の第63/294,098号の優先権を主張する2021年12月29日出願のPCT/US2021/065450号の国際段階出願であり、全内容が開示されているものとして参照することにより援用される。
【0002】
連邦政府の支援による研究開発についての声明
本発明は、米国国立科学財団により与えられた1644869に基づく米国政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
再生可能エネルギー源は、環境影響及び化石燃料のコストの増加のために、21世紀においてより望ましいものになってきている。しかしながら、再生可能エネルギー源は、従来の電源の5倍の銅を必要とする場合がある。銅は、その高い電気伝導性が電力の効率的な伝送に変換されるため再生可能性に富み、その比較的低いコストが、他の金属に対して、経済的に有利とさせている。風力及び太陽光発電所では、エネルギー貯蔵システム及びグリッドを含む、遠い距離で分離されたコンポーネントを接続するために、膨大な量の銅が必要とされる。太陽光発電システムは、MW当たり約5.5トンのCuを含有し、単一の風力発電所は、4~1500万ポンドの銅を含有し得る。ハイブリッド車は、配線、モータ、ラジエータ、及びブレーキに約45kgの銅を含んでいる。
【0004】
銅に対する高い需要は、銅埋蔵量の急激な減少と一致しており、その結果、今後数十年で銅不足が生じると予想される。再生可能エネルギー技術への移行を促進するためには、数十年間、新たな銅の利用可能性を拡大することが不可欠である。
【0005】
銅生成のコストは、今後数十年で上昇すると予想される。研究者らは、2050年までに銅産業の世界的なピークを予測しているが、これは銅生成コストが高いことも一因である。銅含有鉱石の新しい加工技術の開発は、銅生成のコストを低減し、数十年間の新しい銅の利用可能性を拡大するために重要である。
【0006】
黄銅鉱(CuFeS2)は、天然に見出される最も豊富な銅含有鉱物であり、世界の銅埋蔵量の約70%を占める。しかしながら、銅に対する高い需要は、世界的な銅生成のピークと一致しており、これは、銅埋蔵量の減少及び現在の銅生成技術に関連する高いコストに起因する。環境的かつ経済的に持続可能な銅生成のために、CuFeS2の高温精錬から湿式精錬への移行に関心が寄せられている。
【0007】
CuFeS2鉱物は、典型的に、採掘され、精鉱され、次いで、製錬されて、銅が生成される。高温精錬プロセスは、高い投資コスト、高い運転コスト、及び二酸化硫黄やヒ素等の環境に有害な副生成物の潜在的な放出を特徴とする。表1は、高温精錬プロセスのキー操作工程及び関連するコストの概要を示す。鉱石の採掘及び破砕は、鉱石をミリメートルスケールまで破砕することが必要とされる。ボールミリングは、粒子サイズをミクロンスケールまでさらに縮小するために使用される。浮選は、ケイ酸塩相から硫化物鉱物相を分離するために使用される。精錬のための輸送は、精鉱鉱石を海外の精錬所に運ぶために必要である。CuFeS2をCuに変換するためには製錬が必要であるが、副生成物として二酸化硫黄(SO2)及びヒ素(As)が放出する場合がある。最後に、電気化学的精製を行って、販売のために高品質のCuが生成される。
【0008】
【0009】
表1に示される投資コストは、当該コストを含む、年間12%の設備投資回収を仮定することによって、間接的な運転コストに変換することができる。運転資本は、Cuの年間トン当たり10%と仮定され、従って、総投資コストはCuの年間トン当たり33,000ドルと推定される。銅生成の直接($2/Cu kg)及び間接($4/Cu kg)コスト足すと$6/Cu kgとなり、これは販売価格に近い。
【0010】
このように、将来の銅生成のコスト及び環境影響を低減するために、CuFeS2の湿式精錬加工を求めることにかなりの関心がある。CuFeS2の湿式浸出は、一般に、酸化剤としてFe3+を用いて行われるが、O2及びH2O2等の反応も研究されている。酸化剤の拡散は、一般に、鉱物の表面上の不動態化層の形成によって阻害される。不動態化層の化学的構造及びその形成のメカニズムに関しては、不一致が残っている。各種媒体において、元素状硫黄、二硫化物、及びポリスルフィドは、黄銅鉱表面上で同定されており、これらは全て不動態化に寄与する可能性が高い。CuFeS2の電気溶解は、印加電位の範囲が、不動態化層の化学相に影響することを示した。電気溶解CuFeS2のXPS分析から、硫化第一銅(Cu-S)と硫化鉄(Fe-S)結合を含む金属欠乏硫化物膜が0.90VSHE以上の電位に対してCuFeS2面を不動態化する最も確からしい相であることが分かった。他の硫化銅の酸化反応速度を増大させる常在菌は、CuFeS2酸化反応速度を著しく改善しない。銀イオンは、CuFeS2の反応経路を変化させる可能性があり、これは硫黄不動態化の厳しさを軽減する。銀イオンによるCuFeS2の電解溶解により、不動態化層中のAg2S生成が示された。Ag2Sの形成には、硫黄空孔と一対の正孔の形成が必要であり、これは膜の不動態性を軽減し、CuFeS2溶解速度を向上させる。銀イオンは効果的な触媒であるが、コストが高いため、実際には使用されていない。
【0011】
CuFeS2を化学酸化により適した鉱物相に変換することにより、CuFeS2不動態化に伴う課題を回避することができる。CuFeS2は、還元剤として固体銅、二酸化硫黄ガス、鉄及びアルミニウムを用いて輝銅鉱(Cu2S)に変換できることが研究により示された。しかしながら、化学還元剤は、典型的には、比較的低い転化率をもたらし、微細なCuFeS2粒径又は高温を必要とする。
【0012】
酸性水溶液中でCuFeS
2をCu
2Sに電気化学的に還元するための代替手法が開発されている。酸濃度、CuFeS
2パルプ濃度、温度等の作動パラメータの影響を分析するための研究が行われている。アルミニウムカソードは、銅、炭素、又は白金カソード材料よりも効率的にCuFeS
2をCu
2Sに変換すると考えられており、鉱物相とカソードとの間の直接的な接触が、反応を進行させるために必要であることが示されている。反応1及び2は、CuFeS
2を電気化学的に還元してCu
2Sにし、続いてCu
2Oにすることができることを示す。これらの反応は、電解質、セパレーター、電極材料、及び反応器のデザインを変更することによって、多くの最適化を受けている。
【数1】
【数2】
【0013】
反応1及び2は、水素発生反応と直接競合し、従って、典型的には、40%未満のファラデー効率で作動する。これらのスラリー反応はまた、反応器の目詰まり及び電極汚損のような、電位工学的課題も提示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のいくつかの態様は、銅精鉱(concentrate)から銅生成物を生成する方法に関する。いくつかの実施形態において、本方法は、銅精鉱を含む組成物を提供することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、組成物を、1つ以上の化学還元剤を含む水溶液と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、銅精鉱の少なくとも一部を化学還元剤と反応させて、銅精鉱内の銅を還元することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、固相反応生成物を単離することを含み、固相反応生成物は銅生成物を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、固相反応生成物を酸性流(acidic stream)と接触させて、溶解した銅生成物を生成することを含み、酸性流は1つ以上の酸を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、溶解した銅生成物を電解採取して、銅生成物及び再生された酸を単離することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、固相反応生成物を単離する工程は、酸化化学還元剤を含む液相反応生成物を単離し、液相反応生成物を電気化学デバイスに供給することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、電気化学デバイスで、酸化された化学還元剤を再生された化学還元剤に還元し、再生された化学還元剤を組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、液相反応生成物から第2の銅生成物を単離することを含む。いくつかの実施形態において、固相反応生成物を単離する工程は、硫化水素を含む気体反応生成物を単離し、気体反応生成物を第二鉄流と接触させて、第一鉄流出流(effluent stream)及び元素状硫黄流出流を形成し、第一鉄流出流を電気化学デバイスに再生することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、銅精鉱は、黄銅鉱を含む。いくつかの実施形態において、酸性流は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(H6ZnW12O40)、又はそれらの組合せを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、又はそれらの組み合わせを含む。
【0017】
本開示のいくつかの態様は、ある濃度の黄銅鉱を含む組成物を提供する工程と、組成物を、1つ以上の酸及び1つ以上の化学還元剤を含む酸性水溶液と接触させる工程であって、1つ以上の酸は、硫酸、塩酸、又はそれらの組み合わせを含み、1つ以上の化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(H6ZnW12O40)、又はそれらの組み合わせを含む、工程と、黄銅鉱を化学還元剤と反応させて、そこに含まれる銅の少なくとも一部を還元する工程と、固体反応生成物流、液体反応生成物流、及び気体反応生成物流を分離する工程と、酸化された化学還元剤を電気化学デバイスに提供する工程と、電気化学デバイスで、酸化された化学還元剤を、再生された化学還元剤に還元する工程と、再生された化学還元剤を組成物と接触させる工程と、気体反応生成物流をある濃度の第二鉄で処理して、硫黄生成物及びある濃度の第一鉄を生成する工程と、第二鉄を電気化学デバイスに再生する工程と、固体反応生成物流を、1つ以上の酸と接触させて、溶解した銅生成物流を生成する工程と、溶解した銅生成物流を電解採取して、銅生成物及び再生された酸を単離する工程とを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、固体反応生成物流は、銅、銅化合物、又はそれらの組合せを含み、液体反応生成物流は、酸化化学還元剤を含み、気体反応生成物流は、H2Sを含む。いくつかの実施形態において、酸性水溶液は、約0.01M~約10Mの濃度の還元剤を有する。
【0019】
本開示のいくつかの態様は、銅精鉱から銅生成物を生成するシステムに関する。いくつかの実施形態において、システムは、銅精鉱源と、銅精鉱源と連通する還元反応器と、第1の生成物出口と連通する固体相生成物出口流(outlet stream)と、1つ以上の酸入口流(inlet stream)及び固体相生成物出口流と連通し、溶解した銅生成物流を生成する溶解反応器と、溶解した銅生成物流と流体連通する銅単離電解採取反応器とを含み、銅単離電解採取反応器は、溶解反応器と流体連通する銅生成物及び再生された酸性流を生成する。
【0020】
いくつかの実施形態において、還元反応器は、1つ以上の化学還元剤及び少なくとも第1の生成物出口を含む酸性水溶液を含む。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、黄銅鉱を含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、タングスト亜鉛酸(H6ZnW12O40)、又はそれらの組合せを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、酸入口流は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、還元反応器は、第2の生成物出口を含む。いくつかの実施形態において、システムは、第2の生成物出口と流体連通する液相生成物出口流と、酸化された化学還元剤を含む液相生成物流と、液相出口流と流体連通する電気化学デバイスと、電気化学デバイスによって生成され、還元反応器と流体連通する再生された化学還元剤流とを含む。いくつかの実施形態において、還元反応器は、第3の生成物出口を含む。いくつかの実施形態において、システムは、第3の生成物出口と流体連通する気相生成物出口流と、硫化水素を含む気相生成物出口流と、気相生成物出口流と流体連通する気相処理反応器と、電気化学デバイスから気相処理反応器に提供される第二鉄供給流と、気相処理反応器から電気化学デバイスに提供される第一鉄供給流と、元素状硫黄流出流とを含む。
【0022】
図面は、本発明を例示する目的で、開示された対象の実施形態を示す。しかしながら、本出願は、図面に示される正確な配置及び手段に限定されないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による、銅精鉱から銅生成物を生成する方法のチャートである。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、銅精鉱から銅生成物を生成するシステムの概略図である。
【
図3】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び39g/Lの精鉱間の反応中、及び1MH
2SO
4の直接還元中、黄銅鉱(CuFeS
2)から放出されたFe
2+のパーセントのグラフを示す。
【
図4】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の60分の反応後の鉱物生成物についてのx線回析(XRD)結果のグラフを示す。
【
図5】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の60分の反応後の鉱物生成物についてのXRD結果のグラフを示す。
【
図6A】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の60分の反応後の鉱物生成物の写真を示す。
【
図6B】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の60分間の反応後の鉱物生成物の走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDS)結果を示す。
【
図6C-6D】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の60分間の反応後の鉱物生成物のX線回折スペクトルを示す。
【
図7】1M VSO
4、39g/L CuFeS
2精鉱、及び様々な初期濃度のH
2SO
4間の60分の反応後の鉱物生成物についてのXRD結果のグラフを示す。
【
図8A】1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の反応の進行中の、Fe
2+イオンの溶液への放出のグラフを示す。
【
図8B】1M H
2SO
4及び0.5M Fe
2(SO
4)
3を含む溶液による、1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の反応後の、鉱物生成物からのCu
2+の抽出のグラフを示す。
【
図9A】1MのVSO
4、39g/LのCuFeS
2精鉱、及び様々な初期濃度のH
2SO
4間の反応の進行中の、Fe
2+イオンの溶液への放出のグラフを示す。
【
図9B】1M H
2SO
4及び0.5M Fe
2(SO
4)
3を含む溶液による、1M VSO
4、39g/L CuFeS
2精鉱、及び様々な初期濃度のH
2SO
4間の反応後の、鉱物生成物からのCu
2+の抽出のグラフを示す。
【
図10】a)0秒、b)2秒、c)3秒、d)5秒、及びe)1分における、1M CrCl
2、4M HCl及び78g/LのCuFeS
2精鉱間の反応の写真を示す。
【
図11A】1M CrCl
2、4M HCl、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱間の反応の進行中の、Fe
2+イオンの溶液への放出のグラフを示す。
【
図11B】1MのCrCl
2、39g/LのCuFeS
2精鉱、及び様々な初期濃度のHCl間の反応の進行中の、Fe
2+イオンの溶液への放出のグラフを示す。
【
図12】様々な黄銅鉱精鉱、1M CrCl
2、及び4M HCl間の60分間の反応後の鉱物生成物の光学顕微鏡画像を示す。
【
図13】様々な黄銅鉱精鉱、1M CrCl
2、及び4M HCl間の60分間の反応後の鉱物生成物についてのXRD結果のグラフを示す。
【
図14】39g/Lの黄銅鉱精鉱、1M CrCl
2、及び様々な初期濃度のHCl間の60分間の反応後の鉱物生成物のXRD結果のグラフを示す。
【
図15】1M CrCl
2及び4M HClとの60分間の反応後の鉱物生成物のSEM画像を示す。
【
図16】1M CrCl
2及び4M HClとの60分間の反応後の鉱物生成物についてのEDS結果のグラフを示す。
【
図17A】1M CrCl
2及び4M HClとの60分の反応後の鉱物生成物についてのXPS結果のグラフを示す。
【
図17B】1M CrCl
2及び4M HClとの60分間の反応後の鉱物生成物についてのXPS結果のグラフを示す。
【
図18】0.5M Fe
2(SO
4)
3による、1M CrCl
2、4M HCl、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱、さらには1M CrCl
2、39g/L CuFeS
2精鉱、及び様々な初期濃度のHCl間の反応後の鉱物生成物からのCu
2+の抽出を示すグラフを示す。
【
図19】様々な精錬プロセスのためのエネルギー要件をまとめたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ここで
図1を参照すると、本開示のいくつかの実施形態は、銅精鉱から銅生成物を生成する方法100を対象とする。本明細書で使用するとき、用語「銅精鉱」は、抽出が望まれるある濃度の銅を含む組成物を指す。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、銅含有鉱物又は銅含有鉱物の組み合わせである。いくつかの実施形態において、銅精鉱は天然に存在する。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、ある濃度の黄銅鉱を含む。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、人工である。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、例えば、工業プロセスからの廃棄物である。例として、特定のマイニングプロセスは、銅を含む廃棄物を生成するが、銅成分を単離する目的で従来のプロセスによって処理するには高すぎるヒ素含有量又は低すぎる実際の銅含有量を有し得る。しかしながら、本開示の方法のシステムは、これらの従来未利用の銅源からでさえ、銅成分を抽出することができる。
【0025】
さらに
図1を参照すると、本開示のいくつかの実施形態は、例えば、黄銅鉱からの、精鉱の間接的還元による、銅精鉱からの銅生成物の生成を含む。本開示と一致する還元処理プロセスは、文献においてより一般的に追求されている酸化処理とは対照的である。102において、銅精鉱を含む組成物が提供される。いくつかの実施形態において、組成物は、本開示の様々な実施形態に関して、以下に記載される化学反応を含有することができる任意の好適な反応容器に提供される。104において、組成物を、1つ以上の化学還元剤を含む水溶液と接触させる。いくつかの実施形態において、還元剤は、銅精鉱内の銅を還元するように構成される。いくつかの実施形態において、還元剤はまた、1つ以上の電気化学プロセスを介した酸化後に再生されるように構成される。いくつかの実施形態において、化学還元剤が還元イオン、還元イオンを含む化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、タングスト亜鉛酸(H
6ZnW
12O
40)、又はそれらの組合せを含む。いくつかの実施形態において、水溶液は、約0.01M~約10Mの濃度の還元剤を有する。
【0026】
いくつかの実施形態において、水溶液は、酸性である。いくつかの実施形態において、水溶液は、1つ以上の酸を含む。いくつかの実施形態において、酸は、硫酸、塩酸、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、反応容器はまた、FeS2、ケイ酸塩、他の材料、又はそれらの組合せ等の1つ以上の不活性種も含む。
【0027】
106において、銅精鉱の少なくとも一部を化学還元剤と反応させて、銅精鉱内の銅を還元する。理論に拘束されることを望むものではないが、水溶液と還元剤との反応と銅濃度を以下に示す。これらの例示的な実施形態において、黄銅鉱が還元剤によって化学的に還元される。反応3及び4は、CuFeS
2、VSO
4、及びH
2SO
4の間の反応を示す。生成物Cu
2S及びCu
0は、低pH及び還元条件下で熱力学的に安定である。これらの反応は上記の反応1及び2に類似しているが、電気化学的性能を改善するために、電子伝達体としてV
2+イオンを使用する。
【数3】
【数4】
【0028】
CuFeS
2精鉱を酸性V
2+溶液に添加すると、激しい反応が観察された。気体種の急速な放出は、反応3及び4に示されるH
2Sの生成と一致する。液相試料をGC-MSで測定し、溶解H
2Sの存在を確認した。
反応5は、CrCl
2と塩酸との反応を示す。
【数5】
【0029】
この場合も、CuFeS2精鉱をCrCl2及び塩酸の水溶液に添加すると激しい反応が観察され、反応5で予測された気体種の発生と一致する。これらの還元剤のコストは銅に対して高いが、還元剤、例えばバナジウムレドックスフローバッテリー、又は同様の電気化学セルを効率的に再生して、高電流密度でV2+を再生するために、処理を活用することができる。いくつかの実施形態において、還元反応は、均一に、例えば、反応容器全体内で、又は銅精鉱全体にわたって起こる。上記の反応3~5によって証明されるように、反応工程106は、ユーザによって望まれるいかなる下流プロセスにおいても、単離され、使用され得るか、又は使用のためにさらに処理され得る銅生成物を生成する。いくつかの実施形態において、銅生成物は、元素状銅である。いくつかの実施形態において、銅生成物は、銅含有化合物として存在し、その後、それから元素状銅を単離するために処理することができる。これについては、後述する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部は、反応工程106の間又は後に溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部は、反応容器中の溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部は、元素状銅として溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部は、銅化合物として溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部は溶液中に残る。
【0030】
108において、固相反応生成物が単離される。いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、工程106の間に、又はそれに応答して溶液から析出した1つ以上の種、例えば、銅生成物を含む。上述のように、いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、固体元素状銅、固体銅含有化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、銅生成物の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、銅生成物の全てを含む。いくつかの実施形態において、110において、固相反応生成物の少なくとも一部を、酸性流と接触させる。酸性流は、固相反応生成物中の銅生成物を可溶化し、溶解した銅生成物を生成するのに有効である。いくつかの実施形態において、酸性流は、1つ以上の酸を含む。いくつかの実施形態において、酸性流は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、無機不活性物を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、不活性物は、大部分が黄鉄鉱及びケイ酸塩を含むが、微量のレニウム及びヒ素を含む化合物が存在し得る。レニウムを含む不活性物質をレニウム生成のために回収することは経済的に有利であり得、ヒ素を含む不活性物質を良性形態に変換するために回収することは環境的に有利であり得る。
【0031】
112において、溶解した銅生成物は、電解採取され、例えば、電解採取反応器に提供されて、銅生成物を単離し、再生された酸を生成する。いくつかの実施形態において、再生された酸は、接触工程110中の使用のために再生される。
【0032】
さらに
図1を参照すると、114において、液相反応生成物が単離される。いくつかの実施形態において、液相反応生成物は、上述のように、固相反応生成物が工程108で単離された結果として単離される114。いくつかの実施形態において、液相反応生成物は、酸化化学還元剤、例えば、V
3+及び/又はCr
3+を含む。いくつかの実施形態において、液相は、硫酸中のFe
2+イオンも含む。いくつかの実施形態において、酸化還元剤の高溶解度は、Fe
2+からのその分離のために活用され得る。いくつかの実施形態において、生物学的反応器を使用して、V
3+及びFe
2+を酸化し、従って、それらの分離を容易にする。いくつかの実施形態において、116において、第2の銅生成物が任意の適切な手段によって液相反応生成物から単離される。
【0033】
118において、液相反応生成物は、電気化学デバイスに供給される。120において、酸化された化学還元剤は、電気化学デバイスにおいて還元される。いくつかの実施形態において、電気化学デバイスは、酸化された化学還元剤を還元するのを助けるのに有効なある濃度の第一鉄又は他の反応物質を含む。いくつかの実施形態において、酸化化学還元剤は、再生された化学還元剤に還元される。理論に拘束されることを望むものではないが、例示的な実施形態において、電気化学デバイスのカソード反応は反応6によって与えられ、一方、アノード反応は反応7によって与えられる。
【数6】
【数7】
【0034】
バナジウム種の膜クロスオーバーは、高い電流密度の適用によって緩和され得、高い反応速度を達成するためにも望ましい。鉄種のクロスオーバーは、電気化学セルの効率を低下させる可能性があるが、鉄の下流分離による長期損傷をもたらさない可能性がある。122において、再生された化学還元剤は、例えば、反応容器において、組成物と接触する。
【0035】
さらに
図1を参照すると、124において、気体反応生成物が単離される。いくつかの実施形態において、固相反応生成物は、工程108で単離され、液相生成物は、工程114で単離され、又はそれらの組み合わせの結果として、気相反応生成物は単離124される。いくつかの実施形態において、気体反応生成物は、硫化水素を含む。いくつかの実施形態において、126において、気体反応生成物を、第二鉄流と接触させる。理論に拘束されることを望むものではないが、例示的な実施形態において、気体反応生成物は、以下の反応8によるプロトンの回収のために第二鉄イオンで処理される。
【数8】
【0036】
いくつかの実施形態において、この反応によって生成されたプロトンは、電気化学デバイスのセパレータを越えて輸送され、このようにして回収される。いくつかの実施形態において、第二鉄流は、電気化学デバイスから提供される。いくつかの実施形態において、接触工程126は、第一鉄流出流及び元素状硫黄流出流を形成する。いくつかの実施形態において、第一鉄流出流は、電気化学デバイスに再生される。いくつかの実施形態において、元素状硫黄流出流中の硫黄生成物は、1つ以上の下流プロセスでの使用のために再生される。いくつかの実施形態において、元素状硫黄流出流中の硫黄生成物は廃棄される。
【0037】
ここで
図2を参照すると、本開示のいくつかの実施形態は、銅精鉱から銅生成物を生成するためのシステム200を対象とする。いくつかの実施形態において、システム200は、銅精鉱の供給源202を含む。上述のように、いくつかの実施形態において、供給源からの銅精鉱は、天然、人工、又はそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、銅精鉱は、ある濃度の黄銅鉱、例えば、工業プロセスからの廃棄物、又はそれらの組み合わせを含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、システム200は、還元反応器204、例えば、方法100に関して上述した反応容器を含む。いくつかの実施形態において、還元反応器は、1つ以上の入力204A及び1つ以上の出力204Bを有する。いくつかの実施形態において、システム200は、銅精鉱を供給源202から還元反応器204に提供するように構成される。いくつかの実施形態において、還元反応器204は、例えば、入力204A’を介して、銅精鉱の供給源202と連通している。いくつかの実施形態において、還元反応器204は、水溶液206を含む。上述のように、いくつかの実施形態において、水溶液206は、1つ以上の化学還元剤を含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、還元イオン、還元イオンを含む化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、バナジウム(II)イオン、バナジウム(II)イオンを含む化合物、クロム(II)イオン、クロム(II)イオンを含む化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、硫酸バナジウム(II)、塩化クロム(II)、タングスト亜鉛酸(H6ZnW12O40)、又はそれらの組合せを含む。いくつかの実施形態において、水溶液206は、約0.01M~約10Mの還元剤の濃度を有する。いくつかの実施形態において、水溶液206は酸性である。いくつかの実施形態において、水溶液は1つ以上の酸を含む。いくつかの実施形態において、酸は、硫酸、塩酸、又はそれらの組み合わせを含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、システム200は、還元反応器204に化学還元剤を提供するように構成される。いくつかの実施形態において、化学還元剤は、化学還元剤の供給源208から、例えば、入力204Aで提供される。いくつかの実施形態において、水溶液206中の化学還元剤の少なくとも一部が、1つ以上の他の成分を介してシステム200自体によって生成される再生流の形態である。これについては、以下に詳述する。いくつかの実施形態において、システム200は、1つ以上の酸を還元反応器204に提供するように構成される。いくつかの実施形態において、酸は、酸の供給源210から、例えば、入力204Aで提供される。いくつかの実施形態において、水溶液206中の酸の少なくとも一部は、1つ以上の他の成分を介してシステム200自体によって提供される再生流の形態である。
【0040】
上述のように、還元反応器204は、銅精鉱の少なくとも一部を化学還元剤と反応させて、銅精鉱内の銅を還元し、銅精鉱から銅生成物を分離するように構成される。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部が還元反応器204内の溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部が元素状銅として溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部が銅化合物として溶液から析出する。いくつかの実施形態において、銅生成物の少なくとも一部が溶液中に残る。
【0041】
さらに
図2を参照すると、システム200は、固相生成物出口流212を含む。いくつかの実施形態において、固相生成物出口流212は、出口、例えば、第1の生成物出口204B’によって、還元反応器204と連通し、そこから除去される。上述のように、いくつかの実施形態において、固相生成物出口流212は、固体元素状銅、固体銅含有化合物、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、固相生成物出口流212は、銅生成物の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態において、固相生成物出口流212は、銅生成物の全てを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、固相反応生成物流212は、溶解反応器214に提供される。いくつかの実施形態において、システム200は、1つ以上の酸を溶解反応器214に提供するように構成される。いくつかの実施形態において、溶解反応器214は、1つ以上の酸入口流216と連通している。上述のように、固相生成物出口流212の少なくとも一部は、例えば、酸入口流216からの酸と接触する。酸は、固相生成物出口流212中の銅生成物を可溶化し、溶解した銅生成物流218を生成するのに有効である。いくつかの実施形態において、酸入口流216は、ある濃度の硫酸鉄(III)、硫酸、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、溶解した銅生成物流218は、電解採取反応器220に送られ、これは銅生成物221及び再生された酸流222を生成物及び/又は分離する。いくつかの実施形態において、再生された酸流(acid stream)222の少なくとも一部を、その反応器内の固相生成物出口流212の溶解に使用するために、溶解反応器214にフィードバックする。
【0043】
さらに
図2を参照すると、システム200は、液相生成物出口流224を含む。いくつかの実施形態において、液相生成物出口流224は、出口、例えば、第2の生成物出口204B"によって、還元反応器204と連通し、そこから除去される。上述のように、いくつかの実施形態において、液相生成物出口流224は、酸化化学還元剤、例えば、V
3+及び/又はCr
3+を含む。いくつかの実施形態において、液相は、硫酸中のFe
2+イオンも含む。いくつかの実施形態において、鉄(II)イオン種、第2の銅生成物、例えば、溶解した銅生成物、又はそれらの組み合わせが、1つ以上の流225を介して液相生成物出口流から除去される。いくつかの実施形態において、酸化還元剤の高溶解度は、Fe
2+からのその分離のために活用され得る。いくつかの実施形態において、液相生成物出口流224は、ある濃度の溶解した銅生成物を含み、これは、例えば、電解採取プロセスを介して単離及び回収することができる。
【0044】
いくつかの実施形態において、液相生成物出口流224の少なくとも一部は、電気化学デバイス226に供給される。上述のように、電気化学デバイス226は、酸化された化学還元剤を還元するのを助けるのに有効なある濃度の鉄又は他の反応物を含む。いくつかの実施形態において、酸化された化学還元剤は、再生された化学還元剤に還元され、再生された化学還元剤流228として電気化学デバイス226から除去される。いくつかの実施形態において、再生された化学還元剤流228は、例えば、入力204A"で還元反応器204に戻される。いくつかの実施形態において、第一鉄の少なくとも一部は酸化され、第二鉄供給流230として除去される。これについては、後述する。
【0045】
さらに
図2を参照すると、システム200は、気相生成物出口流232を含む。いくつかの実施形態において、気相生成物出口流232は、出口、例えば、第3の生成物出口204B"によって、還元反応器204と連通し、そこから除去される。上述のように、いくつかの実施形態において、気相生成物出口流232は、硫化水素ガスを含む。いくつかの実施形態において、第二鉄供給流230及び気体生成物出口流232は、気体処理反応器234中で組み合わされる。流230と流232との間の反応は、第一鉄流出流236と元素状硫黄流出流238とを形成する。いくつかの実施形態において、第一鉄流出流236は、酸化された化学還元剤を還元する際に使用するために、電気化学デバイス226に再生される。いくつかの実施形態において、元素状硫黄流出流238中の硫黄生成物は、1つ以上の下流プロセスでの使用のために再生される。いくつかの実施形態において、元素状硫黄流出流238中の硫黄生成物は廃棄される。
【0046】
本開示の実施形態と一致するシステムは、当業者には明らかであるように、黄銅鉱の還元及び銅生成物の単離を容易にするために、任意の追加の雑多な構成要素、例えば、導管、電源、コントローラ、生成物収集貯留部等を含む。
【0047】
実施例
例示的な実施形態において、黄銅鉱鉱物精鉱の試料が提供された。試料をエネルギー分散X線回折で分析し、以下の表2による組成物を有することが分かった。
【表2】
【0048】
表2に示される精鉱に加えて、3つの他のバージョンの精鉱には、様々な量の銅及び他の不活性物が提供された。本開示のプロセスは、広範囲の純度の精鉱と適合性があると決定された。CuFeS2精鉱をふるいにかけて(-140+270メッシュ)、粒子サイズを53~106μmに制限した。その後、精鉱を脱イオン水及び1M H2SO4ですすいで、輸送及び貯蔵中に生じる天然精鉱酸化の間に生成された可溶性鉄イオン及び銅イオンを除去した。
【0049】
第1の例示的な実施形態において、39、78、117、又は234g/LのCuFeS2精鉱パルプ密度を、1M VSO4及び4M H2SO4を含む25mLの溶液を含む250mL三角フラスコに添加した。他の実験のために、39g/LのCuFeS2精鉱パルプ密度を、1MのVSO4及び様々なH2SO4を含む溶液に添加した。H2Sガスの急速な放出により、フード内で反応を行った。液相100μLの試料を、0、5、10、20、40、及び60分の時点で採取し、その後、Fe2+及びCu+含有量の計測のために希釈した。還元後、鉱物粒子を溶液から濾過し、特性決定の前に空気乾燥させた。
【0050】
iCE3300AASを用いて、還元中のCuFeS2からの溶液中への鉄イオンと銅イオンの放出を測定した。鉄及び銅測定の特性波長は、それぞれ248.3nm及び324.8nmであった。0~4ppmの範囲の規格を、直線(R2>0.995)検量線を構築するために、試料の直前に測定した。
【0051】
PANalytical XPert3粉末XRDを使用して、反応生成物のバルク鉱物相を測定した。XRDは、ろ過Empyrean Cu Ka放射線(k=0.15418nm)、45kVの管電圧、及び40mAの電流で操作した。鉱物生成物を、シリコン結晶ゼロ回折板(MTI Corporation)上に置き、アピエゾングリスで所定の位置に接着させた。2.0秒の回転時間で、スピニングプレート上で0.0065°の刻みサイズで10~100°の範囲で試料を連続的に走査した。PIXcel1D検出器を使用して、鉱物組成のその後の分析のためのピーク強度を記録した。
【0052】
Zeiss Sigma VP SEMを使用して、反応後の鉱物生成物の画像を捕捉した。SEM-EDS分析は、加速電位6kV、基底圧約1×10-5トルで行った。試料をカーボンテープ上に支持し、Cressington 108 Auto Sputter Coaterを用いて金でコーティングした。スパッタリングを、0.1mbarの圧力で20秒間アルゴンガス流下で行い、AuPdの1nmコーティングを得た。Bruker XFlash DetectorをEDS分析に用いて元素組成を分析した。
【0053】
鉱物生成物の試料を、銅抽出のために王水中で消化し、鉱物生成物の同等の試料を、1M H2SO4中の0.5M Fe2(SO4)3を含む溶液中で浸出した。放出された銅のパーセントは、2つの浸出液によって抽出された銅の比率によって決定された。
【0054】
H2Sガスを速やかに放出し、Sensorcon検出器で定性的に測定した。ガスの放出は、精鉱の添加直後に起こり、反応時間の数分以内に終了した。液相試料を、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)で測定し、溶解H2Sの存在を確認した。他のガスは検出されなかった。H2Sガスは、工業的プロセスにおいて無害なS0に酸化され得る。
【0055】
図3は、その直接的な電気化学的還元(反応1~2)及びVSO
4によるその還元(反応3~4)の間に、CuFeS
2精鉱から放出されたFe
2+のパーセントを示す。精鉱中のFeS
2は不活性であり、従って、Fe
2+の測定は、CuFeS
2転化率の好適な代用物であることが実験的に確認された。図によれば、電子伝達体の使用は、CuFeS
2精鉱の直接的な電気化学的還元に速度論的に有益であることを示している。VSO
4は、39g/Lの比較的高濃度充填量にもかかわらず、60分内にCuFeS
2精鉱からのFe
2+の100%放出を可能にする。直接的な電気化学的還元は、スラリー電極のために起こる水素発生反応の傾向に起因して、精鉱の完全な変換を達成するために、長期間を必要とする。
図3に示される直接電気化学的還元の結果は、10mA/cm2の印加電流密度で文献に示される同じ実験手順を利用した。
【0056】
図4は、VSO
4による還元浸出直後の鉱物生成物のX線回折特性を示す。未反応のCuFeS
2精鉱試料の主なピークは、CuFeS
2、FeS
2、及びSiO
2に対応し、これは、表2に示される鉱物学と一致する。CuFeS
2に対応するピークは、反応した鉱物生成物のスペクトルで減少し、鉱物生成物に対応するピークが出現した。銅含有固体のCuFeS
2からCu
2S及びCu
0への進行を示し、これは反応3及び4と一致する。XRDスペクトルから、FeS
2とケイ酸塩はVSO
4による還元浸出中に不活性であることが裏付けられた。
【0057】
図5は、空気乾燥工程中の鉱物生成物のCu
0からCuSO
4・5H
2へのシフトを示す。CuSO
4・5H
2Oを生成するために反応9で示されるように、試料上に依然としてコートされた硫酸が空気と反応した。理論に拘束されることを望むものではないが、鉄含有系で研究されたCu
0とFeS
2との間のガルバニック相互作用は、バナジウム含有系でも起こり得、二次的効果を有すると仮定される。
【数9】
【0058】
図6A~6Dは、1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量のCuFeS
2精鉱(上記の反応3及び4)間の60分間の反応後、ならびに空気乾燥(反応9)後の鉱物生成物の特徴を示す。
図6Aは、Keyence VHX-5000顕微鏡で得られた鉱物生成物の光学顕微鏡画像を示す。鉱物生成物の外観は、未反応のCuFeS
2精鉱と有意に異なっていた。鉱物生成物は、CuSO
4・5H
2Oを示し得る青色の外観であった。
図6Bは、1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量の精鉱間の60分間の反応後の鉱物生成物のSEM-EDSを示す。未反応の黄銅鉱精鉱試料はC、O、Fe、Cu、Al、Si、及びSの特徴的なエネルギーに対応するピークを示し、これは表2に示される鉱物学と一致する。Cピークの存在は、分析前に試料をカーボンテープ上に置くことのアーチファクトである。反応した試料は、Fe
2+イオンの溶液への放出及び気体としてのH
2Sの放出により、FeとSのピークの減少を示した。反応した試料はまた、試料内の質量分率が減少するため、Al及びSiピークの減少も示す。反応した試料の主なピークは、Cu、S、Oであり、CuSO
4・5H
2Oの形成と一致する。スペクトル内のOピークの伸びは、この生成物と一致する。理論に拘束されることを望むものではないが、Vピークが中に存在しないことは、Vが反応の進行中に固相に析出しないことを示す。
【0059】
図6Cは、1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び様々な充填量の精鉱間の60分の反応後の鉱物生成物のXRDスペクトルを示す。未反応のCuFeS
2精鉱試料の主なピークは、CuFeS
2、FeS
2、及びSiO
2に対応し、これは、表2に示される鉱物学と一致する。CuFeS
2に対応するピークは、反応鉱物生成物のスペクトルで減少し、鉱物生成物に対応するピークが出現した。
図6Dは、鉱物生成物を同定するために使用されるXRDスペクトルの領域を示す。鉱物生成物のXRDスペクトルは、CuSO
4・5H
2Oの形成と一致し、これはSEM-EDSデータセットと一致した。
【0060】
図7は、CuSO
4・5H
2Oと一致するX線回折スペクトルが、1M VSO
4、39g/Lの精鉱、及び0.5Mと1Mの初期H
2SO
4精鉱間で行われた試験について再現可能であったことを示している。反応後の溶液のpHは、これらの実験の全てについて1未満であり、これらの反応がpH制限されていないことを示している。これらの条件のいずれについても、溶液からバナジウム塩が析出することは観察されず、このことは、このプロセスが高いバナジウム回収及び再利用の可能性を有することを示している。これらの溶液のpHは1未満であり、これらの反応がpH制限されていないことを示唆している。バナジウムレドックスフロー電池(VRFB)は、典型的には2~4Mの範囲のH
2SO
4濃度で動作し、従って、下流のバナジウム(II)再生工程は、比較的高酸濃度という利益を得ることができる。
【0061】
図8Aは、1M VSO
4、4M H
2SO
4、及び39、78、117、及び234g/LのCuFeS
2精鉱充填量を含むスラリーについて、放出されたFe
2+のパーセントを、時間の関数として示す。図は、約100%のFe
2+が、還元中にCuFeS
2から放出されたことを示し、これは反応3及び4と一致する。理論に拘束されることを望むものではないが、117g/L及び234g/Lの精鉱充填量で行われた実験のためのFe
2+の不完全な放出は、V
2+の完全な利用を示唆する。
【0062】
図8Bは、1M H
2SO
4中0.5MのFe
2(SO
4)
3を含む溶液中で60分間反応させることによる、鉱物生成物からのCu
2+のその後の抽出の結果を示す。反応10は、CuSO
4・5H
2Oの溶解を示し、これは1M VSO
4、4M H
2SO
4及び39g/Lの黄銅鉱精鉱の間の反応の最終鉱物生成物であることを特徴とした。
【数10】
【0063】
結果は、39g/Lの鉱物生成物から数分で実質的に全てのCu2+を抽出できることを示している。39g/L試料も1M H2SO4に可溶化した。水溶液は、金属銅の生成のための溶媒抽出及び電解採取に進むことができる。理論に拘束されることを望むものではないが、より高いパルプ密度のための不完全銅抽出は、上記のXRD分析によって示されるCuFeS2の不完全転化に部分的に関連する。CuFeS2精鉱からはCu2+はほとんど抽出されず、従って、還元処理は、Cuの抽出に直接的につながることを示している。
【0064】
図9Aは、39g/Lの精鉱充填量及び0.5M、1M、及び4MのH
2SO
4濃度について、約100%のFe
2+がCuFeS
2から放出されたことを示す。
図9Bは、銅の完全な回収のために、1M H
2SO
4中の0.5M Fe
2(SO
4)
3を含む溶液と鉱物生成物が完全に反応することを示す。これらの結果は、還元工程が、反応を促進するのに十分な数のプロトンが利用可能である限り、酸濃度に依存しないであろうことを示している。
【0065】
第2の例示的な実施形態において、39、78、117、又は234g/LのCuFeS
2精鉱パルプ密度を、1M CrCl
2及び4M HClを含む25mLの溶液を含む250mL三角フラスコに添加した。他の実験のために、39g/LのCuFeS
2精鉱パルプ密度を、1MのCrCl
2及び様々な塩酸濃度を含む溶液に添加した。第三に、他の試験のために、39g/LのCuFeS
2精鉱パルプ密度を、1M CrCl
2、4M HCl、及び様々な濃度のFeCl
2を含む溶液に添加した。
図10に示すように、H
2Sガスが急速に放出されるため、フード内で反応を行った。液相100μLの試料を、0、5、10、20、40、及び60分の時点で採取し、その後、Fe
2+及びCu
+含有量の測定のために希釈した。還元後、鉱物粒子を溶液から濾過し、特性決定の前に空気乾燥させた。
【0066】
iCE3300AASを用いて、還元中のCuFeS2から溶液中へのFe2+及びCu+の放出を測定した。鉄及び銅測定の特性波長は、それぞれ248.3nm及び324.8nmであった。0~4ppmの範囲の規格を、直線(R2>0.995)検量線を構築するために、試料の直前に測定した。
【0067】
PANalytical XPert3粉末XRDを使用して、反応生成物のバルク鉱物相を測定した。XRDは、ろ過Empyrean CuKa放射線(k=0.15418nm)、45kVの管電圧、及び40mAの電流で操作した。鉱物生成物を、シリコン結晶ゼロ回折板(MTI Corporation)上に置き、アピエゾングリスで所定の位置に接着させた。2.0秒の回転時間で、スピニングプレート上で0.0065°の刻みサイズで10~100°の範囲で試料を連続的に走査した。PIXcel1D検出器を使用して、鉱物組成のその後の分析のためのピーク強度を記録した。
【0068】
Alx線源を備えたPHI5500XPSを使用して、反応生成物表面の元素組成を測定した。チャンバーの基底圧は、約1×10-8トルであった。試料をカーボンテープ上に支持した。
【0069】
Zeiss Sigma VP SEMを使用して、反応後の鉱物生成物の画像を捕捉した。SEM-EDS分析は、加速電位6kV、基底圧約1×10-5トルで行った。試料をカーボンテープ上に支持し、Cressington 108 Auto Sputter Coaterを用いて、金でコーティングした。スパッタリングを0.1mbarの圧力で20秒間アルゴンガス流下で行い、AuPdの1nmコーティングを得た。Bruker XFlash DetectorをEDS分析に用いて元素組成を分析した。
【0070】
鉱物生成物の試料を、完全な銅抽出のために王水中で消化し、鉱物生成物の同等の試料を、1M H2SO4中0.5M Fe2(SO4)3を含む溶液中で浸出した。放出された銅のパーセントは、2つの浸出液によって抽出された銅の比率によって決定した。
【0071】
図10は、0、2、3、5、及び60秒の反応時間後の、1M CrCl
2、4M HCl、及び78g/L CuFeS
2精鉱の間の反応の写真を示す。画像はH
2S気体の急速な放出を示し、これは、Sensorcon検出器を用いて定性的に測定された。ガスの放出は、精鉱の添加直後に起こり、反応時間の1分以内に終了した。液相試料をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で測定し、同様の実験で溶解H
2Sの存在を確認した。
【0072】
気体H
2Sの発生は、Fe
2+イオンの溶液への放出と一致し、上記の反応5と一致した。
図11Aは、1M CrCl
2、4M HCl、及び39、78、117、及び234g/LのCuFeS
2精鉱充填量を含むスラリーについて、放出されたFe
2+のパーセントを、時間の関数として示す。39、78及び117g/LのCuFeS
2精鉱充填量の場合、約100%のFe
2+が5分内にCuFeS
2から放出されたことを考慮すると、反応速度は急速であった。しかしながら、Fe
2+の放出は、234g/LのCuFeS
2精鉱充填量に対して制限され、Cr
2+の完全な利用を示唆した。理論に拘束されることを望むものではないが、100%を超えるFe
2+放出の測定は、XRD定量化の誤差及び精鉱のふるい分けの両方が、53~106μm内であるために、表2に示される組成物の推定における、わずかな誤差を示し得る。反応器のヘッドスペースをアルゴンでパージしながら実験を行い、同様の結果が観察されたことから、システム中に存在する少量の酸素が、示された実験のためにCr
2+を有意なレベルまで酸化しなかったことが示された。反応の進行中の溶液へのCu
+の放出を測定したが、溶液からのCu
+イオンの析出のために定量的な結果は一致しなかった。還元実験後の溶液のpHはゼロ未満であり、これらの反応がpH制限されていなかったことを示している。
【0073】
図11Bは、1MのCrCl
2、39g/LのCuFeS
2精鉱、及び初期HCl濃度0M、0.5M、1M、及び4Mを含むスラリーについて、放出されたFe
2+のパーセントを、時間の関数として示す。還元工程後の溶液のpHは、初期HCl濃度0M、0.5M、及び1Mのスラリーについて約2.5であり、これらの反応がpH制限されていたことを示している。還元工程後の溶液のpHは、Fe
2+とCr
3+との間の分離を促進するために利用されてもよく、これは電気分解ユニットによるCr
3+のCr
2+への還元の前が望ましい場合がある。これらの結果によれば、陽子は、CuFeS
2より化学量論量が大きいことが示唆され、これは反応5と一致する。初期HCl濃度2M及び3Mで行われた実験によれば、pHが制限されていなかったことが見出された。
【0074】
図12は、KeyenceVHX-5000顕微鏡で得られたCr
2+イオンによる60分の還元後の鉱物生成物の画像を示す。理論に拘束されることを望むものではないが、結果によれば、鉱物生成物がCuFeS
2精鉱の充填量によって影響を受けることが示されている。39g/LのCuFeS
2充填量は、CuCl、同様に他の潜在的ばCu-Cl錯体の外観と一致する緑色生成物を生じた。様々な鉱物生成物の特徴を調べ、異なる量の銅回収をもたらすことが示された。様々なHCl濃度との反応後の鉱物生成物は、外観において同じ傾向をもたらした。
【0075】
図13は、Cr
2+イオンとの反応後の様々な黄銅鉱精鉱充填量についてのXRDスペクトルを示し、
図14は、Cr
2+イオン及び様々な初期HCl濃度での反応後の鉱物試料についてのXRDスペクトルを示す。未反応のCuFeS
2精鉱の主なピークは、表2に示すように、CuFeS
2、FeS
2、及びSiO
2と一致した。反応鉱物生成物のCuFeS
2に関連するピークの相対的強さは減少し、これはAASにより測定されたFe
2+放出と一致した。CuFeS
2転化率の高い鉱物生成物では、反応生成物に伴うピークが出現した。主な鉱物生成物は、スペクトルから塩化銅(CuCl)であると決定された。Cu
2(OH)
3Clのような二次生成物が、スペクトルと一致した。反応11は、形成された一次生成物である溶液からのCuClの析出を示す。反応11は、簡単にするために示されているが、起こっている化学反応はより複雑であり、様々なCu-Cl錯体が析出し得る。4M HClを含む溶液からのCuClの析出は、Cl/Cuのモル比がシステム中で36であることを考慮すると予想外であった。しかしながら、Cl/Crのモル比は6であり、Cl
-とCr
3+との間に形成される錯体は、Cu
+を安定化させるのに利用可能なCl
-イオンの個数を減少させることができる。60分の還元後の溶液中のCu
+濃度は約0.07Mであり、文献36の2M HClで報告されている0.233Mの溶解限界に近い。39g/Lの精鉱充填量及び4M HClの酸濃度を用いて実施した実験では、システム中の40%の銅がCu
+としてバルク溶液中に残存し、60%が溶液から析出したと推定される。
【数11】
【0076】
AASデータと組み合わせたXRDデータは、FeS2とケイ酸塩が還元処理中に不活性であったことを示す。39g/LのCuFeS2精鉱、1M CrCl2、4M HCl、及び0、0.5M、1M、及び2Mの初期塩化第一鉄(FeCl2)の間で実験を行った。理論に拘束されることを望むものではないが、還元方法は、1M以下の初期FeCl2濃度に耐えることができると判断された。Fe2+は、初期FeCl2濃度2Mで行った試験のために、溶液から析出した。
【0077】
図15は、1M CrCl
2及び4M HClと60分間反応させた後の鉱物生成物のSEM結果を示す。鉱物生成物は、CuClの成長に関連し得る、いくつかのコケ状の特徴を発達させる。
図16は、Cr
2+イオンによる還元後の鉱物試料のEDS結果を示す。未反応のCuFeS
2精鉱試料は、Cu、Fe、S、Si、Oに対応するピークを示す。反応した試料は、Fe及びSピークの減少を示し、これは溶液へのFe
2+の放出及びガスとしてのH
2Sの放出と一致する。39g/L試料中に存在する小さなSピークは、鉱物生成物中の未反応FeS
2の存在に関連し得る。反応した試料はまた、Clピークの出現を示し、これはCuClの形成と一致する。Cuピークは、試料内のCuの質量分率の増加に起因して、反応した試料に対して伸長する。スペクトルには、Crに対応するピークは観察されず、これは、試料内のCrの存在がわずかであることを示している。試料を王水中で消化し、試料中のCrの質量分率を1~3%と推定した。理論に拘束されることを望むものではないが、クロムの存在は、鉱物生成物を濾過し乾燥するために使用される手順のアーチファクトであると考えられる。
【0078】
図17A~17Bは、Cr
2+イオンによる還元後の鉱物試料についてのCu(
図17A)及びCl(
図17B)のXPSスペクトルを示す。Cr原子は、鉱物生成物上では観察されず、これはさらに、試料がクロムを含まないことを示している。FeとSは、鉱物生成物の表面では観察されず、これはFe
2+とH
2Sの粒子表面から液相への放出と一致している。硫黄不動態化層が存在しないことは、還元反応の迅速な速度論を説明し得る。様々な銅ピークは、いくつかの銅含有生成物の存在を示している。例えば、944と935eVの結合エネルギーのピークは、それぞれCu
2(OH)
3ClとCuClに帰属する。Cu走査はまた、CuFeS
2精鉱標準からの結合エネルギーの観察可能なシフトも示す。反応した試料のClピークの出現は、Cu-Cl錯体の形成と一致する。
【0079】
図18は、0.5M Fe
2(SO
4)
3による鉱物生成物からのCu
2+の抽出を示す。反応12は、Fe
3+酸化剤によるCuClの浸出反応を示し、これは数分内に完了する。
【数12】
【0080】
結果は、39g/Lの鉱物生成物から数分で実質的に全てのCu
2+を抽出できることを示している。実験において、図示されていないが、39g/Lの試料を1MのH
2SO
4に可溶化した。水溶液は、金属銅の生成のための溶媒抽出及び電解採取に進むことができる。理論に拘束されることを望むものではないが、より高いパルプ密度のための不完全な銅抽出は、少なくとも部分的には、
図11A-11Bに示されるCuFeS
2の不完全転化に関連している。また、形成される可能性のある中間体、例えば、Cu
2(OH)
3Clは、銅浸出に対して耐性があり、望ましくない場合がある。CuFeS
2精鉱からはCu
2+はほとんど抽出されず、還元処理は、Cuの抽出に直接的につながることが示される。
【0081】
本開示の方法及びシステムは、銅生成のコストを低減し、それによって再生可能エネルギー技術への世界的な移行を通して銅の使用を維持するための変革的な湿式精錬プロセスを提供するのに有利である。これらの実施形態は、銅の湿式精錬生成を可能にし、これは、現在の技術水準よりも環境的そして経済的に持続可能である。湿式精錬処理が好ましく、酸化銅等の他の銅鉱物埋蔵物のために使用される。湿式精錬プロセスの焦点は、黄銅鉱の還元処理であり、これは、文献においてより一般的に追求されている酸化処理とは対照的である。理論に拘束されることを望むものではないが、CuFeS2の化学的還元は、少なくとも、それが水素発生反応を回避し、スラリー電極に関連する工学的課題を回避するために有利である。バナジウム及びクロムのコストは銅に対して高いが、VRFB又は鉄クロムフローバッテリー(ICFB)は、高電流密度でV2+又はCr2+を効率的に再生するために活用され得る。1M H2SO4中の1M H2SO4及び1.5M Fe3+を含む溶液により鉱物生成物を浸出し、鉱物生成物が完全な銅抽出を生じることを実証した。
【0082】
プロセスフロー図及び関連する技術経済分析は、水性還元剤による黄銅鉱の還元が、銅生成のための高温精錬規格と競合し得ることを示唆する。表3は、湿式精錬プロセスにおける工程についての投資及び運転コストを示す。銅生成の直接($3.1/Cu kg)と間接($2.4/Cu kg)のコストは、合計で$5.5/Cu kgとなり、これは高温精錬プロセスの推定コストよりも低い。
【表3】
【0083】
還元及び溶解反応器は、ミキサー、ポンプ、及び貯蔵タンクのコストを含む、溶媒抽出プラントと同じ投資及び運転コストを有すると仮定された。この仮定は、反応の速い動力学が比較的小さい反応器体積をもたらすので、合理的であった。電気化学デバイスの投資コストは、VRFBのスケールアップ報告コストから推定した。1日当たり4,000トンのCuFeS2精鉱を処理する典型的な精錬所の銅鉱出力に合わせて、20MWのVRFBが必要であると推定された。これらの計算を行うために、精鉱の質量分率を0.3と仮定し、電気化学セルの公称電圧を1.35Vと仮定した。電気化学デバイスの運転コストは、電気の産業上のコストから、生成される銅の20モル毎に1モルのバナジウムが失われると仮定して、推定された。電気化学デバイスの運転コストは、バナジウム/鉄分離の品質やV2O5の販売価格によって変動することがある。
【0084】
図19は、鉱石が採掘され、精鉱された後のCu生成のための高温精錬、電気精錬、及び湿式精錬経路について推定されたエネルギー必要量を示す。高温精錬的経路は、約13kJ/lbのCuという最も高いエネルギー必要量を有し、これは、かなりの量のCO
2の放出と相関する。電気精錬経路は、電気化学セルの高いエネルギー必要量に一部起因して、同様のエネルギー必要量を有する。電気化学セルは、2.5Vのセル電位及び40%のファラデー効率で動作すると仮定し、そのエネルギー必要量を推定した。Cu生成のための湿式精錬経路は、約8kJ/lbのCuを使用すると推定されており、これは地球規模のCO
2排出量の著しい低減を表す。電気化学セルは、そのエネルギー必要量を推定するために、1.35Vのセル電位及び95%のファラデー効率で動作すると仮定した。また、V/Fe分離工程は、従来の溶媒抽出と同じエネルギー必要量を有すると仮定した。
【0085】
上述のように、グローバルな鉱業産業は、環境的及び経済的圧力のために、黄銅鉱を銅に変換する湿式精錬経路に関心を持っている。本開示の実施形態は、現在の高温精錬処理よりも潜在的に安価であり、汚染が少なく、米国における銅の国内生成の増加も可能にする。
【0086】
本発明は、その例示的な実施形態に関して説明及び図示されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、前述及び様々な他の変更、省略、及び追加がその中及びそこに行われ得ることが、当業者によって理解されるべきである。
【国際調査報告】