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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】眼表面疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240115BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61P27/04
A61P31/00
A61K48/00
A61K31/7105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540883
(86)(22)【出願日】2021-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 CN2021111575
(87)【国際公開番号】W WO2022148016
(87)【国際公開日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】63/134,599
(32)【優先日】2021-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523251862
【氏名又は名称】ドリームホーク ヴィジョン バイオテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュオ,スー-ハン
(72)【発明者】
【氏名】リャン,チャン-リン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、ドライアイ疾患、化学又は物理的損傷、感染、神経感覚異常及び不特定の病因等の眼疾患又は眼損傷による被験者の眼表面損傷を治療する方法を提供し、前記被験者に治療有効量のmicroRNA-328拮抗薬を含む医薬組成物を投与するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼疾患又は眼損傷による被験者の眼表面損傷を治療する医薬を製造するための医薬組成物の用途であって、前記医薬組成物は治療有効量のmicroRNA-328拮抗薬を含む
前記用途。
【請求項2】
前記眼疾患又は眼損傷はドライアイ疾患、化学又は物理的損傷、感染、神経感覚異常及び不特定の病因のうちのいずれかである
請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記microRNA-328拮抗薬は、miR-328又はその前駆体の配列に相補的なオリゴヌクレオチド配列を含む抗miR-328オリゴヌクレオチドである
請求項1に記載の用途。
【請求項4】
該抗miR-328オリゴヌクレオチド配列は配列番号3からなる
請求項2に記載の用途。
【請求項5】
該抗miR-328オリゴヌクレオチドの濃度は1~500μM又は10~160μMである
請求項2に記載の用途。
【請求項6】
眼表面損傷はドライアイ疾患により引き起こされる
請求項1に記載の用途。
【請求項7】
眼表面損傷は神経栄養性角膜炎によって引き起こされる
請求項1に記載の用途。
【請求項8】
眼表面損傷は物理的損傷による角膜擦過傷である
請求項1に記載の用途。
【請求項9】
眼表面損傷は化学的損傷により引き起こされる
請求項1に記載の用途。
【請求項10】
眼表面損傷はマイボーム腺機能不全により引き起こされる
請求項1に記載の用途。
【請求項11】
該医薬組成物は眼に局所的に投与される
請求項1に記載の用途。
【請求項12】
該医薬組成物は点眼薬の形態で投与される
請求項1に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイ疾患、化学又は物理的損傷、感染、神経感覚異常及び不特定の病因等の眼疾患又は眼損傷による被験者の眼表面損傷を治療する方法に関し、被験者にmiRNA-328拮抗薬を投与するステップを含む。
【背景技術】
【0002】
眼の表面は角膜と結膜からなり、眼表面の損傷は、痛み、発赤、視力低下を引き起こし、最終的に永久的な角膜又は結膜損傷を来すことがある。
【0003】
多くの眼疾患又は眼損傷は眼表面損傷を引き起こし得る。最も一般的な眼表面疾患であるドライアイ疾患は、涙及び眼表面等の複数の要因による疾患であり、不快感、視覚障害及び涙膜不安定の症状を引き起こす。
【0004】
涙膜及び眼表面協会(TFOS)により結成された世界ドライアイワークショップ(DEWS)は、「TFOS DEWS II定義と分類」(Ocul Surf. 2017 Jul; 15(3): 276-283)を報告し、本発明で言及したドライアイ疾患の定義を提供していた。汚染物質、紫外線(UV)放射及びオゾンへの曝露を含む環境要因、及び緑内障治療用の点眼薬等、防腐剤含有の点眼薬の長期間使用も、ドライアイ疾患に関与する場合が多い。これらの要因により、酸化ストレス及び眼表面炎症が増加し、さらにドライアイ疾患の進行が引き起こされる。
【0005】
最近、マイボーム腺機能不全はドライアイ疾患のもう1つの主要な危険要因と認められた。ドライアイ疾患の典型的な症状は、乾燥、灼熱感及び砂のような眼刺激であり、日が経つにつれて悪化する。通常、両眼とも影響を受ける。ドライアイがしばらく続くと、眼表面の微小な擦過傷、角膜びらん及び点状角膜症が起こる。病勢が末期に進むと、上皮は病理学的変化、即ち扁平上皮化生及び杯細胞の減少が発生する。
【0006】
眼に対するアルカリ損傷と酸損傷を含む化学的損傷は、眼表面に広範囲の損傷をもたらす。このような損傷は、角膜の修復が不完全な場合に、永久的な視力障害を引き起こす可能性がある。異物、外傷から金属片に至るまでの範囲の物理的損傷は、眼表面に様々な程度の損傷をもたらす可能性がある。眼感染は角膜びらんを引き起こし得る。角膜上皮が再成長しない場合、角膜びらんが角膜潰瘍に発展する可能性がある。角膜潰瘍を治療しないと、重度の視力喪失が発生する。
【0007】
神経障害性角膜症(neurotrophic keratopathy:NKと略称)とも呼ばれる神経栄養性角膜炎は、角膜神経支配が損なわれるため角膜知覚が低下又は消失することを特徴とするものである。角膜の感覚が失われると、上皮性角膜症、上皮欠損、間質性潰瘍、最終的に角膜穿孔を引き起こす可能性がある。これは希少疾患であり、推定有病率が5/10,000人未満である。
【0008】
NKの病因は、ヘルペス角膜炎(帯状疱疹及び単純疱疹)、塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride:BACと略称)を含有する局所薬の長期間使用、化学及び物理的火傷、コンタクトレンズの乱用、レーザー角膜切削形成術(laser in situ keratomileusis:LASIKと略称)等の角膜手術等を含むが、それらに限定されない。ヒト神経成長因子(NGF)は、NK患者を効果的に治療できると証明されている。組換えヒト神経成長因子(rhNGF)含有のCenegermin(OxervateTM)は、2018年8月22日に米国で神経栄養性角膜炎の治療用に承認された初めてのNK局所薬である。
【0009】
杯細胞は結膜上皮に制限されている。杯細胞の主な機能は、ムチンを生成及び分泌して、眼の表面に水分を与えて潤滑にすることである。ムチンは高度にグリコシル化された糖タンパク質である。ムチンは、膜貫通型ムチンと分泌型ムチンの2つの異なるタイプに分類される。MUC5ACは最も研究されているムチンの1つであり、結膜に見られる大きなゲルを形成する時に分泌されるムチンである。ドライアイ疾患の患者において、結膜内の杯細胞の数の減少が実証されている。また、コンタクトレンズの使用により、杯細胞の密度が変化する。
【0010】
マイクロリボ核酸(microRNA:miRNAと略称)は、長さが約21~23ヌクレオチドの非コード一本鎖RNA分子である。動物体内で、成熟したmiRNAは、1種又は複数種のメッセージリボ核酸(message RNA:mRNAと略称)の3’末端の非翻訳領域(untranslated region:UTRと略称)に相補的なものである。miRNAとその標的mRNAとのアニーリング(annealing)により、タンパク質翻訳及び/又はmRNA切断が阻害される。microRNA-328(miR-328)は近視の危険要因であること(Chen et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 53:2732-2739, 2012)、及び抗miR-328オリゴヌクレオチドが近視の治療に用いられること(Juo et al., US10179913B2, 2019)が以前に報告されている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、ドライアイ疾患、化学又は物理的損傷、感染、神経感覚異常及び不特定の病因等の眼疾患又は眼損傷による被験者の眼表面損傷を治療する方法に関し、被験者に治療有効量のmiRNA-328拮抗薬を含む医薬組成物を投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ウサギ角膜細胞株SIRCにおいて、miR-328発現レベルが、異なる濃度のBAC処理で用量依存的に増加することを示す。平均値±SEMのデータは3つの独立した実験からのものである。
図2】BACに10分間曝露した後、ウサギ角膜細胞株SIRCにおいて抗miR-328がNGFを用量依存的に増加させることを示す。平均値±SEMのデータは3つの独立した実験からのものである。
図3】リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は抗miR-328で治療された後のウサギ角膜蛍光染色の代表図を示す。本研究ではPBSを陰性対照として用いる。0日目から21日目までBACによってドライアイ疾患を誘発した。8日目から21日目までPBS(上パネル)又は抗miR-328(下パネル)点眼薬による治療を開始した。緑色の蛍光は、ドライアイ疾患による角膜損傷を示す角膜染色である。21日目に、抗miR-328で治療されたウサギには角膜染色がなかったが、PBS群には依然として角膜染色が存在していた。
図4】ウサギ角膜切片のH&E染色の代表図を示す。ドライアイ疾患ウサギはPBS又は抗miR-328で治療し、正常なウサギは点眼薬で治療しなかった。(A)は、正常群、PBS群及び抗miR-328群における角膜の代表的なH&E染色である。PBSで治療された眼の角膜上皮はより薄く、破壊度がより高かったが、抗miR-328で治療された眼の上皮層はより厚く、より無傷であった。正常な眼と、PBSで治療された眼と、抗miR-328で治療された眼とは、間質に統計的有意差がなかった。スケールバー=50μmである。(B)は3つの群間での上皮及び間質厚さの差を示す散布図である。
図5】TUNELアッセイによって検出されたウサギ角膜細胞アポトーシスの代表図を示す。ドライアイ疾患ウサギはPBS又は抗miR-328で治療し、正常なウサギは点眼薬で治療しなかった。(A)はTUNELアッセイでの茶色のアポトーシス細胞である。抗miR-328で治療された眼はPBSで治療された眼に比べ、角膜上皮及び間質層のアポトーシス細胞が少なかったが、正常な眼はアポトーシス細胞が殆どなかった。スケールバー=100μmである。(B)は3つの群間でのアポトーシス細胞の差を示す散布図である。
図6】ウサギのマイボーム腺の開口部の代表図を示す。PBSで治療されたウサギの眼には、マイボーム腺の開口部における過角化(矢印)が示されたが、抗miR-328で治療されたウサギの眼には示されなかった。スケールバー=100μmである。
図7】ドライアイ疾患マウスに対する抗miR-328の用量依存的効果の代表図を示す。BACでマウスの眼にドライアイ疾患を誘発すると同時に、抗miR-328で1日2回(10分間隔)、14日間治療した。14日目に代表的な写真を撮影した。そのデータによると、160μMの用量で治療効果が最良である。
図8】抗miR-328がマウスの眼の角膜剥離を修復することを示す。アルジャーブラシ(Algerbrush)によって両眼に角膜擦過傷を与えた。その後、左眼をPBSで処理し、右眼を抗miR-328(160μM)で処理した。角膜隔離の同日から、1日2回点眼薬を点眼した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、干眼疾患、化学又は物理的損傷、感染、神経感覚異常及び不特定の病因等の眼疾患又は眼損傷による被験者の眼表面損傷を治療する方法に関し、前記被験者に治療有効量のmicroRNA-238拮抗薬を含む医薬組成物を投与するステップを含む。
【0014】
本明細書で使用される用語「被験者」とは、動物、特に哺乳動物を指す。好ましい実施例において、用語「被験者」は、一般に人間を指し、且つ特定の1人又は数人に限定されない。
【0015】
用語「治療的に有効な(治療有効)」は、疾患重症度の低下という目標を達成するとともに、代替療法に通常伴う副作用等の有害な副作用を回避するように、各薬剤の用量を限定することを意図する。
【0016】
本発明の一態様において、前記医薬組成物は、薬学的に許容される塩、担体、佐剤又は賦形剤をさらに含む。
【0017】
本発明の別の態様において、前記microRNA-328拮抗薬は、miR-328又はその前駆体に相補的なヌクレオチド配列を含む抗miR-328オリゴヌクレオチドである。
【0018】
1つの実施例において、成熟ヒトmiR-328(mature human miR-328)の配列(配列番号1、CUGGCCCUCUGCCCUCCGU)に基づいてアンチセンスmiR-328オリゴヌクレオチド(長さ15~22ヌクレオチド)を設計する。長さ15~22ヌクレオチドの抗miR-328オリゴヌクレオチド配列を表1に示す。本発明で言及した抗miR-328オリゴヌクレオチドは、先行特許US10179913B2に開示されており、該特許の全ての内容は参照によって本発明の明細書に組み込まれる。
【0019】
【表1】
【0020】
1つの実施例において、抗miR-328オリゴヌクレオチドの長さは15~22ヌクレオチドの範囲である。別の実施例において、抗miR-328オリゴヌクレオチドの長さは16又は17ヌクレオチドである。好ましい実施例において、抗miR-328オリゴヌクレオチドは配列番号3又は配列番号4からなる。より好ましい実施例において、抗miR-328オリゴヌクレオチドは配列番号3からなる。
【0021】
本発明は、miRNA-328アンチセンスオリゴヌクレオチドと薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。その眼疾患を治療するための形態は、局所用溶液又は軟膏である。1つの実施例において、前記医薬組成物は眼に局所的に投与される。別の実施例において、該医薬組成物は点眼薬の形態で投与される。
【0022】
実施例
以下の実施例は非限定的なものであり、単に本発明の各態様及び特徴を代表するものに過ぎない。
【0023】
実施例1 インビトロでの抗miR-328オリゴヌクレオチドの研究
ウサギ角膜(SIRC)細胞株を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び100U/mLのペニシリンで補足したDMEMの培地で、37℃、5%COにて培養した。細胞を塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride:BACと略称)に10分間曝露させ、その後、元の培地を新鮮な培地に交換した。miR-328レベルを測定するために、細胞をさらに24時間インキュベートしてから、RNA抽出用に収集した。NGFのパフォーマンスを測定するために、細胞を、BACに10分間曝露させた後、抗miR-328で12時間処理した。
【0024】
実施例2 抗miR-328オリゴヌクレオチドでドライアイ疾患を治療する効果を評価するためのマウスモデルでのインビボ研究
【0025】
ドライアイ疾患マウスモデル
塩化ベンザルコニウム(BAC)は一般的に使用される点眼薬防腐剤である。しかし、BACは眼に対して、結膜の炎症及び線維化、涙膜の不安定性、角膜の細胞毒性及び前房の炎症を含む毒性作用がある。高濃度のBACは、その毒性作用により、動物モデルにおいてドライアイ疾患を誘発するために広く使用されている。
【0026】
まず、C57BL6マウスを抗miR-328群とPBS生理食塩水群にランダムに分けた。なお、PBSは抗miR-328点眼薬を製造するための溶媒である。ドライアイ疾患を誘発するために、C57BL6マウスの両眼に濃度0.2%のBACを1日5μL、7日間点眼した。8日目に、各眼への1日5μLのPBS生理食塩水又は抗miR-328(10μM)点眼薬の2週間投与を開始し、この2週間の間に依然として両眼へのBAC点眼を持続していた。
【0027】
この2週間の治療順序は、まず眼にPBS又は抗miR-328を点眼し、次に約10分間後にBACを点眼する。この戦略は、患者が抗ドライアイ治療を受ける際にドライアイの原因を排除できないことをシミュレートするものである。
【0028】
結果の評価
2週間のPBS/抗miR-328治療の終了時に抗miR-328の治療効果を評価した。臨床観察を毎日行い、蛍光染色を毎週行った。角膜蛍光染色について、1%フルオレセインナトリウムの液滴をフルオレセイン紙ストリップ(Madhu Instruments Pvt. Ltd., Okhla Industrial Area, India)上で調製し、その後、5μLの溶液を結膜嚢内に滴下した。コバルトブルーフィルを有するスリットランプSL-15(Kowa社、東京、日本)下で眼を検査し、等級付けした。
【0029】
FDAによって承認されたドライアイ疾患治療薬Lifitegrastの第3相臨床試験からの角膜蛍光染色の等級付け基準に基づき、以下のように少し変更した。角膜の表面を9つの領域に等分する。各領域を0~4のスコア範囲(最高36スコア)内に0.5ポイント増分で等級付けし、スコアが低いほど、状況が良好である。スコアについて、「0」は染色無しであり、「1」は少数又は稀な点状病変であり、「2」は離散的で計数可能な病変であり、「3」は多すぎて数え切れない病変であり、「4」は融合病変である。
【0030】
2群の動物が7日目に同程度の角膜染色スコアを有する場合、student-t検定を行って治療効果を評価し、そうでない場合、対応t検定(paired t-test)を行って治療効果を評価した。
【0031】
結果
本回の実験に計19匹の雄マウスを使用した。そのうち、9匹のマウスをプラセボ群に振り分け、10匹のマウスを抗miRNA-328群に振り分けた。そのため、該結果は、プラセボで治療された18つの眼及び抗miR-328で治療された20つの眼に基づくものである。
【0032】
PBS群と抗miR-328群の両方ともドライアイ疾患マウスの角膜蛍光染色を著しく改善したが、抗miR-328の治療はより良好な結果を達成したように見られる(表2)。7日目及び21日目の改良染色スコアについて、PBS群は31.15及び17.94であり(p=0.0003、対応t検定、表2)、抗miRNA-328群は31.70及び8.2である(p=1.67 x 10-9、対応t検定、表2)。抗miR-328投与がPBS投与より治療効果が高い(P=0.005)ことが実証される。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例3 BAC誘発ドライアイ疾患に対する抗miR-328オリゴヌクレオチドの治療効果を評価するためのウサギモデルでのインビボ研究
【0035】
ドライアイ疾患ウサギモデル
【0036】
材料と方法
研究において、眼が着色したレッキスウサギ(Rex rabbit)を使用し、BACによってドライアイ疾患を誘発する前に、ウサギをPBS治療群又は抗miR-328治療群にランダムに振り分けた。20μLの濃度0.15%のBAC(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)を1日2回(9:00と17:00)、1週間点眼することでドライアイ疾患を誘発した。8日目に、ウサギのPBS又は抗miR-328治療を開始し、1日2回、2週間治療したが、この2週間にBACを依然として1日2回点眼した。この2週間の治療順序は、まず眼にPBS又は抗miR-328を点眼し、次に10分間隔でBACを点眼した。
【0037】
結果の評価
上述したように、2週間にわたった抗miR-328/PBS治療後、その治療効果を評価した。また、「眼合計スコア」と呼ばれる第2の等級付けを使用してウサギの眼に対する治療効果を評価した。
【0038】
「眼合計スコア」は角膜及びコンタクトレンズ研究ユニット(CCLRU)の等級付けスケール及び公表されたガイドラインから変更したものであり(Takamura E.ら、日本のアレルギー性結膜疾患ガイドライン2017. Allergol Int. 2017; 66:220-229、及びSu G., Wei Z., Wang L.,ら、ウサギ実験的細菌性角膜炎に対するトルイジンブルー媒介光力学療法の評価. Transl Vis Sci Technol. 2020; 9:13を参照)、且つスケールは輪部充血、眼球結膜充血、瞼板結膜充血及び角膜炎という4つのドメインに基づくものであり、上位3つのドメインは4つの重症度レベル(0~3)があり、角膜炎は5つの重症度レベル(0~4)がある。ウサギの眼を、角膜及びマイボーム腺を含む組織学検査にも用いた。
【0039】
組織学的分析
21日目に、ウサギを人道的に安楽死させ、その後、右眼球を摘出しダビッドソン固定液(Davidson’s fixative)(37%ホルマリン20ml、氷酢酸100ml、95%アルコール350ml及び水530ml)に浸漬した。組織を48時間固定し、続いて水道水で洗浄し10%中性溶液緩衝液ホルマリンに移して保存し、その後、トリミング及び処理を行った。
【0040】
また、眼付属器を除去した後、直ちに10%緩衝ホルムアルデヒド溶液で24時間固定した。続いて、収集されたサンプル(角膜、結膜及びマイボーム腺)をエタノールの勾配シリーズで脱水し、パラフィンに包埋した。ミクロトーム切片作成後、包埋された組織ブロックをヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色して組織学検査を行った。自動デジタルスライドスキャナ(Pannoramic mini II,3dhitech Ltd., Budapest, Hunger)下で全ての標本の組織学的画像を観察し、CaseViewerソフトウェア(https://www.3dhistech.com/caseviewer)を使用して可視化及び測定した。
【0041】
角膜上皮及び間質中の細胞アポトーシスを評価するためにTUNELアッセイを実行した。製造業者の説明(Roche, Indianapolis, IN)に従って、原位置細胞死検出キットPOD(番号11684 817910)を使用してTUNELアッセイを実行した。40倍の顕微鏡視野下で、ランダムに選択された3つの視野でアポトーシス細胞を計数した。
【0042】
上眼瞼におけるマイボーム腺開口部の過角化を評価した。1200μmの組織学スライド上で各開口部の過角化による閉塞のパーセンテージを計算した。1枚のスライド内の全ての開口部閉塞の平均値は、この特定の眼に対する治療効果を示す。
【0043】
結膜印象細胞診
0、7、14及び21日目に結膜印象細胞診の標本を採取し、0.5%アルカイン(Alcaine)を点眼し、眼内の過剰な液体を拭き取った後、直径5.5mmの半円形ニトロセルロース濾紙(Toyo Roshi Kaisha, Ltd., 日本)を上眼球結膜上に配置した。濾紙を軽い圧力でその位置に1分間保持してから、眼から剥がし、直ちに10%中性緩衝液ホルマリンで固定した。次いで、製造業者の説明(PAS-2-IFU, ScyTek Laboratories, Inc., Logan, U.S.A.)に従ってPASキットで紙を染色した。PAS試薬を使用して組織を染色し、400倍拡大の顕微鏡下で杯細胞の数を計測した。染色後に杯細胞の密度を定量した。
【0044】
実施例4 物理的損傷による角膜擦過傷及び抗miR-328オリゴヌクレオチドを使用した治療効果の評価
【0045】
角膜擦過傷マウスモデル
【0046】
材料と方法
C57BL/6マウスをまず麻酔下に置き、角膜への物理的損傷時に後続の不快感をさらに軽減するために両眼にアルカインを点眼した。角膜擦過傷を付けるために、清潔にした眼用アルジャーブラシ(Algerbrush)を使用する。指で瞼を別々に持ち、毎回片眼ずつ開く。次いで、Algerbrushを角膜に強固に接触させ、眼表面上で前後左右にAlgerbrushを動かして角膜擦過傷を誘発する。手術後に角膜蛍光染色を実施し、その後、角膜蛍光染色を毎日実施した。左眼をPBSで治療し、右眼を抗miR-328で治療し、1日2回(午前9時と午後5時)とした。
【0047】
上記角膜上の蛍光染色の大きさを結果として評価する。
【0048】
結果
【0049】
miR-328に対するBACの影響
異なる濃度のBACでウサギ角膜細胞株(SIRC)を処理した。miR-328発現量は用量依存的に増加した(図1)。平均値±SEMのデータは3つの独立した実験からのものである。BACに曝露したSIRCに対する抗miR-328の治療は、NGF発現の増加を引き起こした(図2)。
【0050】
角膜染色
計40個の眼をPBSで治療し、42個の眼を抗miR-328で治療した。抗miR-328はウサギ眼の角膜染色を減少させる治療効果を示した(図3)。2週間の治療後に、抗miR-328点眼薬は改良染色スコアを著しく低下させたが(p=0.038、対応t検定、表3)、PBSは角膜染色に影響を与えなかった(p=0.699、対応t検定、表3)。
【0051】
眼合計スコアでデータを分析すると、類似の結果が観察された。該スコアの平均値はPBS群において著しく悪化したが(p=7.4x10-8、対応t検定、表3)、抗miR-328群は改善が僅かであった(p=0.053、対応t検定、表3)。
【0052】
【表3】
【0053】
角膜の厚さ
抗miR-328又はPBS点眼薬で治療されたドライアイ疾患ウサギは、角膜上皮の平均厚さに顕著な差があり(36.4±1.2μm vs 25.6±1.7μm、p=9.4x10-5)、正常なウサギの角膜上皮の平均厚さは45.4±1.2μmである(図4)。PBS治療及び抗miR-328治療による眼の間の間質厚さの差は統計的に有意ではない(p=0.34)(578.8±25.0μm vs 539.5±31.8μm、図4)。
【0054】
正常なウサギ眼の間質厚さは521.2±20.4μmである。TUNELアッセイでは、角膜上皮(53±3個の細胞対39±3個の細胞、P=0.002)及び間質(84±7個の細胞対65±5個の細胞、P=0.029)において、PBS群のアポトーシス細胞が抗miR-328群より多いことが示された(図5)。
【0055】
マイボーム腺組織学
組織学によると、抗miR-328群はPBS群に比べて、差が0.05という有意なレベルに達していないが、より低い平均閉塞パーセンテージを有する(56.4%±7.59% vs 78.5%±8.17%、p=0.059)(図6)。
【0056】
結膜杯細胞
抗miR-328群の結膜杯細胞の密度はPBS群より有意に高い(26 vs 19細胞/mm、p=0.005)。この発見は、ドライアイ疾患における杯細胞の密度が低いという以前の報告と一致する。
【0057】
用量依存的効果
ドライアイ疾患に対する最大の治療効果を達成する用量を見つけるために、本発明では、ドライアイ疾患を有するマウスにおいて、10、30、60、90、120及び160μMの抗miR-328用量を試験した。データによると、角膜染色の減少は用量依存性を有し、用量160μMの抗miR-328の点眼薬で治療された眼は、14日目に蛍光染色は殆ど(図7)なかった。したがって、160μMの抗miR-328はマウスのドライアイ疾患を治療する最適用量である可能性がある。
【0058】
BACによってマウスの眼にドライアイ疾患を誘発するとともに、抗miR-328で1日2回(10分間隔)、14日間治療し、14日目に写真を撮り、データによると、160μMの用量では治療効果が最良であり、よって、160μMの抗miR-328はマウスのドライアイ疾患を治療する最適用量である可能性がある。
【0059】
物理的損傷による角膜擦過傷及び抗miR-328オリゴヌクレオチドの効果評価
角膜修復に対する抗miR-328の影響を実証するために、マウスの角膜にAlgerbrushによって損傷を与えた。角膜剥離後、角膜染色によると、0日目には角膜全体でフルオレセインが観察され、これは角膜が完全に剥離されたことを示す(図8)。しかし、3日目に、抗miR-328で治療された眼はPBSで治療された眼に比べて、より速く、より良好な回復を示す(図8)。
【0060】
本発明及びその製造と使用の方法とプロセスは、当業者であれば誰でも本発明の内容を作成及び使用できるように、完全、明確、簡潔且つ正確な用語で説明した。以上は本発明の好ましい実施例であり、出願の保護範囲から逸脱するこなく、本発明の範囲の解釈及びその修正が可能であることを理解すべきである。発明と見なされる主題を特に指摘し、明確に保護を請求するために、以下の特許請求の範囲によって本明細書を締めくくる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
【国際調査報告】