(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】湾曲積層グレージングの獲得方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240115BHJP
C03C 17/04 20060101ALI20240115BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240115BHJP
B32B 37/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C03C27/12 R
C03C17/04 A
B32B17/10
B32B37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542475
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 FR2022050054
(87)【国際公開番号】W WO2022153001
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】フラマリ-メプリ,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ジャマール,ジュリエット
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AA21C
4F100AA25B
4F100AA27C
4F100AA28B
4F100AB24B
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4F100AK23D
4F100AK23G
4F100BA05
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4F100CB05G
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4F100EJ28
4F100EJ42
4F100GB32
4F100JD10
4F100JL11
4G059AA01
4G059AB05
4G059AC08
4G059CA01
4G059CB09
4G061AA02
4G061AA11
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA02
4G061DA09
4G061DA23
(57)【要約】
本発明は、湾曲積層グレージングの獲得方法に関しており、該方法において、(a)面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタック(12)でコーティングされた、第一のガラスシート(10)が提供され、ついで(b)薄層のスタック(12)の表面の一部にわたって、少なくとも20μmの直径を有する耐熱性粒子を少なくとも0.5%の体積比率で含有するが、80μmを超える直径を有する粒子は含有しない、エナメル組成物のスクリーン印刷によって、エナメル層(14)が被着される。エナメル層(14)の下に位置する薄層のスタック(12)は次に、少なくとも曲げ加工工程(c)の最後に前記エナメル層(14)によって完全に溶解させられる。追加のガラスシート(20)とともに積層(d)されたあと、エナメル層(14)は積層体の中間層(30)に向き合っている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングの獲得方法であって、以下の連続工程、
a.面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタック(12)でコーティングされた、第一のガラスシート(10)を提供すること、
b.薄層のスタック(12)の表面の一部にわたって、エナメル層(14)を被着する工程であって、被着は、少なくとも20μmの直径を有する耐熱性粒子を少なくとも0.5%の体積比率で含有するが、80μmを超える直径を有する粒子は含有しない、エナメル組成物のスクリーン印刷によって行われる、
c.第一のガラスシート(10)を曲げ加工する工程であって、エナメル層(14)の下に位置する薄層のスタック(12)は少なくともこの工程の最後に前記エナメル層(14)によって完全に溶解させられる、ついで
d.積層体の中間層(30)を用いて前記第一のガラスシート(10)を追加のガラスシート(20)とともに積層する工程であって、エナメル層(14)は前記中間層(30)に向き合っている、
を含む方法。
【請求項2】
薄層のスタック(12)が、機能性層、とりわけ導電性機能性層を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
導電性機能性層が、とりわけ銀またはニオブの、金属層と、とりわけ酸化インジウムスズ、ドープされたスズ酸化物、ドープされた亜鉛酸化物の中から選択される、透明導電性酸化物の層との中から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程dの後、エナメル層(14)が、不透明で、黒い色合いであり、また第一のガラスシート(10)の周縁でストリップを形成している、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
耐熱性粒子が、金属酸化物または金属をベースにしている、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
金属酸化物が、酸化アルミニウム、酸化チタンあるいはまた酸化ジルコニウムのような単一酸化物、または、高融点を有するガラスフリットや無機顔料のような複合酸化物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
耐熱性粒子が、ジルコニアをベースにしている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
耐熱性粒子が、黒色である、請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
耐熱性粒子の平均球形度が、0.60超、とりわけ0.70超である、請求項1から8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
エナメル層(14)の被着が、少なくとも40μmのメッシュの穴を有するスクリーン印刷用スクリーンを使ってスクリーン印刷によって行われる、請求項1から9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
以下のような、請求項1から10のいずれか一つに記載の方法、
-本方法は、工程b)と工程c)との間に、エナメル層(14)を予備焼成する工程b1)を含み、その間、エナメル層(14)の下に位置する薄層のスタック(12)が前記エナメル層(14)によって少なくとも部分的に溶解させられる、また
-工程c)において、第一のガラスシート(10)と追加のガラスシート(20)とは一緒に湾曲され、エナメル層(14)は、前記追加のガラスシート(20)に向き合っている。
【請求項12】
追加のガラスシート(20)が、0.5~1.2mmの厚さを有し、とりわけ、化学的に強化されたアルミノケイ酸ナトリウムガラス製である、請求項1から11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
追加のガラスシート(20)が、積層体の中間層(30)に向き合っている面と反対側の面の上に、追加の薄層のスタック(22)、とりわけ、透明導電性酸化物を含有している低放射率のスタックを有する、請求項1から12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一つに記載の方法によって得ることができる、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングであって、面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタック(12)でコーティングされた第一のガラスシート(10)を含み、前記第一のガラスシート(10)が、その表面の一部にわたってエナメル層(14)でコーティングされ、該エナメル層が、少なくとも20μmの直径を有する耐熱性粒子を少なくとも0.5%の体積比率で含有し、前記第一のガラスシート(10)が、積層体の中間層(30)を用いて追加のガラスシート(20)とともに積層され、前記エナメル層(14)が前記積層体の中間層(30)に向き合っているグレージング。
【請求項15】
請求項8に記載の方法を実施するためのエナメル組成物であって、ホウケイ酸亜鉛ビスマスをベースにしたガラスフリット、少なくとも1つの顔料、および少なくとも0.5体積%の、少なくとも20μmの直径を有する黒色の耐熱性粒子を含有するが、80μmを超える直径を有する粒子は含有しないエナメル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層のスタックおよびエナメル層でコーティングされたガラスシートを含む、自動車用例えばルーフまたはフロントガラス用の湾曲積層グレージングの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
積層グレージングは、2枚のガラスシートが積層体の中間層を用いて粘着して接合しているグレージングである。中間層は、特に、破損の場合のガラスの破片を引き留めることを可能にするが、しかしまた、特に侵入に対する耐久性や音響特性改善という観点からの、他の機能性ももたらす。
【0003】
これらのグレージングは多くの場合、さまざまな特性を付与することを目的とした、様々なタイプのコーティングを含む。
【0004】
概して黒色かつ不透明であるエナメル層が、通常は、車体の開口部へのグレージングの固定および位置決めに役立つポリマーシールを隠しかつ紫外線放射から保護することを目的とした周縁ストリップの形態で、多くの場合グレージングの一部の上に被着される。エナメル被覆領域は、内部のバックミラーの固定領域およびさまざまなコネクタおよびセンサもまた隠す。
【0005】
積層グレージングにおいて、これらのエナメル層は概して面2に配置され、面は従来、車両の外に位置決めされることを目的とした面から番号がつけられている。面2はしたがって、積層体の中間層と接触している面である。車両の外から見えるエナメル層の美的外観は、自動車製造業者にとって特別な重要性を帯びるものである。エナメルは概して、ガラスフリットおよび顔料を含有する組成物の500℃超での焼成によって得られる。ガラスフリットは、低融点を有するガラスの微粒子でできており、焼成熱処理の影響を受けて軟化しガラスシートに粘着する。顔料の粒子を保持しながらガラスに完璧に粘着する、高い化学的耐性および機械的強度を有する、概して不透明な、無機層がこのように形成される。焼成工程は概して、ガラスシートの曲げ加工と同時に行われる。
【0006】
積層グレージングの製造の状況において、グレージングの2枚のガラスシートは多くの場合、一緒に湾曲され、車両の内部に位置決めされることを目的としたガラスシートは概して、エナメルを有する、もう一方のガラスシートの上に配置される。別の場合においては、各ガラスシートは別々に湾曲される。あらゆる場合において、曲げ加工中の2枚のガラスシートまたはガラスシートと曲げ加工の工具との間のあらゆる接着を防ぐために、エナメルが非粘着特性を有することが必要である。そうするために通常は、ビスマスを含有するエナメル、すなわち酸化ビスマスを含有するガラスフリットから得られるエナメルが使用されている。
【0007】
概して薄層のスタックの形態をしているコーティングもまた、積層グレージングのガラスシートのうちの1つの上に存在することができる。それはとりわけ導電性層であることができ、それらは2つのタイプの機能性をもたらすことができる。導電性層は一方では、電流の供給が準備されているとき、ジュール効果によって熱を散らすことができる。そのときそれは、例えば霜取りや曇り取りのために有用な、加熱層である。これらの層は他方では、これらの層が赤外線放射を反射するがゆえに、日射調整特性または低放射率特性を有する。層はその場合、熱的快適性の向上のために、または暖房や空調を目的とした消費を減少させることによって層がもたらすエネルギーの節約のために、高く評価されている。これらの層のスタックは概して、積層グレージングの面3に配置され、したがってまた積層体の中間層に接触している。
【0008】
しかしながら、あとで詳細に説明されることになる特定の場合において、エナメル層および薄層のスタックを同じガラスシートの上に、ひいては問題になっているガラスシートの同じ面の上に配置して、これらのコーティングが積層グレージングの内側で保護されるようにすることは、関心に値することであり得る。
【0009】
しかしながら、薄層のスタックでコーティングされたガラスシートがエナメル層を備えていなければならないとき、好ましくない相互作用が曲げ加工の際にスタックとエナメルとの間に起こり得、とりわけエナメルの美的外観の低下に至ることが観察された。とりわけ、スタックが少なくとも1つの窒化物層を含みかつエナメルがビスマスを含有するとき特に、気泡がエナメルの内部で、エナメルとスタックとの間の境界面の近くに作り出されて、エナメルの粘着力の有意な低下を誘発し、その光学的外観(特にガラス側すなわちエナメルと反対側の色)を変え、そしてその化学的耐性特に耐酸性を低下させることが観察された。
【0010】
複数の解決案が、この問題に対して提案された。
【0011】
エナメルがガラスシートと直接接触して被着されるため、およびエナメル層と薄層のスタックとの間のあらゆる粘着の問題を避けるために、例えば研磨材を使って、エナメル層が被着されなければならない場所から薄層のスタックをあらかじめ取り去ることが可能である。機械を用いた研磨はしかしながら、エナメル層のところを含めて、目に見える擦り傷を生じさせる。
【0012】
国際公開第2014/133929号およびそれより前の国際公開第00/29346号は、焼成または予備焼成の際に、ガラスに直接固定されるために薄層のスタックを溶解することのできる、特殊なガラスフリットをエナメルのために使用するという着想を提案した。そのようなエナメルはしかしながら、優れた非粘着特性を有しておらず、曲げ加工中に2枚のガラスシートの互いの間の接着をもたらす。
【0013】
国際公開第2019/106264号に関しては、スタックと、ビスマスを含有するエナメルとの間に酸化物層を添加することによって、薄層のスタックを修正することを提案している。しかしながら、そのような修正を行うことはいつも可能というわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2014/133929号
【特許文献2】国際公開第00/29346号
【特許文献3】国際公開第2019/106264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、これらの課題を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
その目的のために、本発明は、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングの獲得方法を対象としており、該方法は、以下の連続工程:
a.面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタックでコーティングされた、第一のガラスシートを提供すること、
b.薄層のスタックの表面の一部にわたって、エナメル層を被着する工程であって、被着は、少なくとも20μmの直径を有する耐熱性粒子を少なくとも0.5%の体積比率で含有するが、80μmを超える直径を有する粒子は含有しない、エナメル組成物のスクリーン印刷によって行われる、
c.第一のガラスシートを曲げ加工する工程であって、エナメル層の下に位置する薄層のスタックは少なくともこの工程の最後に前記エナメル層によって完全に溶解させられる、ついで
d.積層体の中間層を用いて前記第一のガラスシートを追加のガラスシートとともに積層する工程であって、エナメル層は前記中間層に向き合っている、
を含む。
【0017】
本発明はまた、この方法によって得られたまたは得ることができる、とりわけ自動車のフロントガラスまたはルーフ用の、湾曲積層グレージングも対象としている。このグレージングは、面のうちの1つの少なくとも一部にわたって薄層のスタックでコーティングされた第一のガラスシートを含み、該薄層のスタックは、その表面の一部にわたってエナメル層でコーティングされ、該エナメル層は、少なくとも20μmの直径を有する耐熱性粒子を少なくとも0.5%の体積比率で含有し、前記第一のガラスシートは、積層体の中間層を用いて追加のガラスシートとともに積層され、前記エナメル層は前記積層体の中間層に向き合っている。
【0018】
本発明はまた、ホウケイ酸亜鉛ビスマスをベースにしたガラスフリット、少なくとも1つの顔料、および少なくとも0.5体積%の、少なくとも20μmの直径を有する黒色の耐熱性粒子を含有する、エナメル組成物も対象としている。
【0019】
エナメルによる薄層のスタックの溶解は、上述の相互作用を避けることを可能にする。スタックの構成要素は、エナメル層の中に溶解している状態になり、エナメル層は、少なくとも曲げ加工工程(工程d)のあとで、ガラスシートに直接接触している状態になる。耐熱性粒子の使用に関しては、曲げ加工の際の2枚のガラスシート間のあらゆる接着を避けることを可能にする。本明細書の続きにおいて示されるように、粒子のサイズの選択は、粒子の均一の被着ひいては接着の不在を保証することを可能にする。
【0020】
本明細書内で、薄層のスタックおよびエナメル層は、まとめて「コーティング」と規定される。
【0021】
[工程a]
第一のガラスシートは、平らのときまたは湾曲しているときがある。第一のガラスシートは概して、薄層のスタックの被着ついでエナメル層の被着の時は平らであり、そしてそれから工程dの際に湾曲される。第一のガラスシートはしたがって、本発明による湾曲積層グレージングにおいては湾曲している。
【0022】
第一のガラスシートのガラスは典型的には、ソーダ石灰シリカガラスであるが、他のガラス、例えばホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラスもまた使用することができる。第一のガラスシートは、好ましくは、フロート法によって、すなわち溶融ガラスを溶融スズ浴の上に流すことで構成される方法によって得られる。
【0023】
第一のガラスシートは、クリアガラス製であってもよいし、または着色されているガラス製、好ましくは、例えば緑色や灰色、青色に着色されているガラス製であってもよい。そうするために、第一のガラスシートの化学組成は有利には、0.5~2%の重量含有率の酸化鉄を含む。第一のガラスシートの化学組成は、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化エルビウムあるいはまたセレンのような、他の着色剤もまた含有することができる。
【0024】
第一のガラスシートは好ましくは、0.7~19mm、とりわけ1~10mm、特に2~6mm、さらには2~4mmに及ぶ範囲の厚さを有する。
【0025】
第一のガラスシート(および追加のガラスシート)の横方向の寸法は、ガラスシートが組み込まれることを目的とした積層グレージングの寸法に応じて適合すべきである。第一のガラスシート(および/または追加のガラスシート)は好ましくは、少なくとも1m2の面積を有する。
【0026】
第一のガラスシートは好ましくは、ガラスシートの面の面積の少なくとも70%にわたって、とりわけ少なくとも90%にわたって、さらには全体にわたって、薄層のスタックでコーティングされている。実際には特定領域が、波動を通す連絡用窓をとりわけ設けるためにコーティングされてなくてもよい。
【0027】
スタックは好ましくは、その面積の2~25%、とりわけ3~20%、さらには5~15%にわたってエナメル層でコーティングされている。エナメル層は好ましくは、周縁ストリップ、すなわち、第一のガラスシートの周縁の各点から、典型的には1~20cmである、概して変化可能な特定の幅で第一のガラスシートの内側の方へ広がる、自己完結型のストリップを含む。
【0028】
薄層のスタックは好ましくは、ガラスシートに接触している。エナメル層は、その被着の際には好ましくは、薄層のスタックに接触している。
【0029】
「接触」とは、本明細書においては物理的な接触を意味する。「をベースにした」という表現は好ましくは、問題になっている層が、検討される材料を少なくとも50重量%、とりわけ60重量%、さらには70重量%またさらには80重量%または90重量%含むということを意味する。層はさらには、この材料で本質的に構成されるかまたはこの材料から成ることができる。「本質的に構成される」とは、層がその特性に影響を及ぼさない不純物を含有し得ることを理解しなければならない。用語「酸化物」または「窒化物」は、酸化物または窒化物が化学量論的であることを必ずしも意味しない。それらは実際に、準化学量論的、超化学量論的または化学量論的であってよい。
【0030】
スタックは好ましくは、窒化物をベースにした層を少なくとも1つ含む。窒化物はとりわけ、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタンの中から選択される少なくとも1つの元素の窒化物である。窒化物は、これらの元素のうちの少なくとも2つまたは3つの窒化物、例えばケイ素およびジルコニウムの窒化物、またはケイ素およびアルミニウムの窒化物を含むことができる。好ましくは、窒化物をベースにした層は、ケイ素の窒化物をベースにした層、より具体的にはケイ素の窒化物で本質的に構成される層である。ケイ素の窒化物の層が陰極スパッタリングによって被着されるとき、該層は概してアルミニウムを含有しており、というのも、被着速度を速めるためにアルミニウムによってシリコンターゲットをドープするのが習慣だからである。
【0031】
窒化物をベースにした層は好ましくは、2~100nm、とりわけ5~80nmに及ぶ範囲の物理的厚さを有する。
【0032】
窒化物をベースにした層は、多くの薄層のスタックにおいて一般に使用されており、なぜなら、これらの層は、それらがスタックにおいて存在する他の層とりわけ以下に記述されることになる機能性層の酸化を阻止するという意味で、有利なブロッキング特性を有するからである。
【0033】
スタックは好ましくは、機能性層、とりわけ導電性機能性層を少なくとも1つ含む。機能性層は好ましくは、2つの誘電体薄層間に含まれ、誘電体薄層のうちの少なくとも1つは、窒化物をベースにした層である。他のありうる誘電体層は例えば、酸化物層または酸窒化物層である。
【0034】
少なくとも1つの導電性機能性層は有利には、以下の中から選択される:
-とりわけ銀またはニオブさらには金製の、金属層、および
-とりわけ酸化インジウムスズ、(例えばフッ素またはアンチモンで)ドープされたスズ酸化物、(例えばアルミニウムまたはガリウムで)ドープされた亜鉛酸化物の中から選択される、透明導電性酸化物の層。
【0035】
これらの層は特に、卓越した断熱特性をグレージングに付与する、層の低放射率のために高く評価されている。陸上車両とりわけ自動車、鉄道車両、あるいはまた航空機や船舶に装備されるグレージングにおいて、低放射率グレージングは、暑い時に太陽放射の一部を外の方へ反射することを可能にし、ひいては前記車両の車室の温度上昇を制限することを可能にし、また適切な場合には、空調費を減らすことを可能にする。逆に、寒い時は、これらのグレージングは車室の内部の熱を保つことを可能にし、またしたがって暖房のエネルギーを生む力を減らすことを可能にする。建物に装備されているグレージングの場合においても同様である。
【0036】
好ましい一実施形態によると、薄層のスタックは、銀の層を少なくとも1つ、とりわけ1つ、2つまたは3つ、さらには4つの銀の層を含む。銀の層の物理的厚さまたは適切な場合には、銀の層の厚さの合計は、好ましくは2~50nm、とりわけ3~40nmである。
【0037】
好ましい別の一実施形態によると、薄層のスタックは、酸化インジウムスズの層を少なくとも1つ含む。その物理的厚さは、好ましくは30~200nm、とりわけ40~150nmである。
【0038】
曲げ加工工程の間中、(金属製であれ透明導電性酸化物をベースにしたものであれ)その導電性薄層または各導電性薄層を保護するために、これらの層のそれぞれは好ましくは少なくとも2つの誘電体層で囲まれている。誘電体層は好ましくは、ケイ素、アルミニウム、チタン、亜鉛、ジルコニウム、スズの中から選択される少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物および/または酸窒化物をベースにしている。
【0039】
薄層のスタックの少なくとも一部は、様々な既知の技術、例えば化学気相成長(CVD)によって、または、とりわけ磁界アシストの、陰極スパッタリング(マグネトロン法)によって、被着されることができる。
【0040】
薄層のスタックは好ましくは、とりわけ磁界アシストの、陰極スパッタリングによって被着される。この方法において、プラズマが、被着すべき化学元素を含有するターゲットの近くに高真空下で作り出される。プラズマの活性種は、ターゲットに衝突することにより、前記元素を引き離し、引き離された元素は、ガラスシートの上に被着されて所望の薄層を形成する。この方法は、層がターゲットから引き離された元素とプラズマ中に含まれるガスとの間の化学反応の結果として生ずる材料から成る場合、「反応性」方法と呼ばれる。この方法の大きな利点は、一般的にはただ1つの同一の装置において、ガラスシートをさまざまなターゲットのもとで次々に通過させることによって、同じライン上で、非常に複雑な層のスタックを被着することができるという点にある。
【0041】
上述のスタックは、加熱機能(霜取り、曇り取り)および/または断熱機能を与えるのに有用な導電特性および赤外線の反射特性を有する。
【0042】
薄層のスタックが加熱機能を与えることを目的としているとき、電流の供給が準備されなければならない。それはとりわけ、ガラスシートの向かい合った2つの縁のところに、薄層のスタック上へのスクリーン印刷によって被着される、銀のペースト製のストリップであり得る。
【0043】
[工程b]
本明細書において、「エナメル組成物」は、工程bの際に湿潤エナメル層を被着するために使用される液体組成物と規定される。用語「エナメル層」とは、湿潤層(予備焼成前、必要ならば乾燥前)のときもあれば最終的な層(焼成後)のときもある、本方法の各工程での層を規定するために使用される。
【0044】
工程bの際、エナメル層は好ましくは、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つのガラスフリットならびに耐熱性粒子を含有するエナメル組成物から被着される。エナメル層としてのエナメル組成物は好ましくは、酸化鉛を含有しない。
【0045】
エナメル組成物は概してさらに有機媒質を含有し、有機媒質は、基材上への組成物の塗布を容易にすること、ならびに、エナメルの予備焼成または焼成の際には除去される、基材へのその一時的な粘着を容易にすることを目的としている。媒質は典型的には、溶剤、希釈剤、油および/または樹脂を含む。
【0046】
ガラスフリットは、下にある層のスタックを溶解させることができる。ガラスフリットは好ましくは、ホウケイ酸亜鉛ビスマスをベースにしている。ガラスフリットを層のスタックに対してより「攻撃的」にするために、ビスマス含有量および/またはホウ素含有量は好ましくは、通常使用されるガラスフリットの含有量よりも多い。
【0047】
顔料は好ましくは、クロム、銅、鉄、マンガン、コバルト、ニッケルの酸化物の中から選択される単数または複数の酸化物を含有する。それは例として、クロム酸銅および/またはクロム酸鉄であり得る。
【0048】
「耐熱性粒子」とは、曲げ加工の際に形態に重大な影響を及ぼさない粒子を意味する。これらの粒子は、曲げ加工中に受ける温度よりもはるかに高い溶融温度または軟化温度を有しなければならず、またフリットによって溶解させられてはいけない。耐熱性粒子はとりわけ、金属酸化物または金属をベースにしている。金属酸化物はとりわけ、例えば酸化アルミニウム、酸化チタンあるいはまた酸化ジルコニウムのような単一酸化物、または、高融点を有するガラスフリットや無機顔料(無機顔料はとりわけ「複合酸化物顔料」すなわちCICPと呼ばれる)、とりわけ黒色無機顔料のような、複合酸化物である。
【0049】
エナメル組成物が、曲げ加工中のガラスシートの互いの間の接着、またはガラスシートの曲げ加工工具との接着を防ぐために、「大きい」耐熱性粒子(つまりサイズ、直径とも呼ばれる、が少なくとも20μmである)の十分な比率を含まなければならないことが観察された。そのサイズによって、大きい耐熱性粒子は曲げ加工の際に、粒子がスパイクを形成する形態を作り出し、溶融または軟化したガラスフリットは谷部の中に集まる。この20μm以上のサイズは、従来使用されているガラスフリットおよび顔料のサイズよりもはるかに大きい。
【0050】
20μm以上のサイズ(または直径)を有する耐熱性粒子の体積比率は好ましくは、レーザ回折式粒径分布測定によって決定される。この体積比率は少なくとも0.5%また好ましくは少なくとも1%、とりわけ少なくとも2%またさらには少なくとも3%である。
【0051】
好ましくは、エナメル組成物は、直径が少なくとも30μm、とりわけ少なくとも40μm、またさらには少なくとも50μmの耐熱性粒子を、上述の体積比率において含有する。
【0052】
エナメル組成物を特徴づけ、大きい粒子の存在を容易に検出する別の方法は、ヘグマンゲージ(すなわちグラインドゲージの細かさ)を使って粒子の細かさを測定することにある。この方法によると、ヘグマンゲージを使って測定される、エナメル組成物の細かさは、20~80μm、とりわけ40~60μmである。
【0053】
エナメル組成物は、スクリーン印刷による被着を可能にするために、80μmを超える直径の粒子(耐熱性粒子または非耐熱性粒子)を含有してはならない。そのような粒子の存在は、レーザ回折式粒径分布測定によってまたはヘグマンゲージを使って決定されることができる。
【0054】
耐熱性粒子は好ましくは、ジルコニアをベースにしている。ジルコニアをベースにした粒子とは、ジルコニウムの酸化物(ZrO2)を、少なくとも80重量%、とりわけ少なくとも85重量%含有する粒子を意味する。ジルコニアは好ましくは、とりわけイットリウムを使って、安定化させられる。それはさらに、Al2O3、TiO2、ZnO、SiO2およびそれらの混合物の中からとりわけ選択される、焼結助剤を含有することができる。
【0055】
ジルコニアをベースにした粒子は好ましくは、以下の重量含有率の範囲内の以下の成分を含有する化学組成、とりわけそれらで構成される化学組成を有する:
-ZrO2:83~97%
-Y2O3:2~8%
-Al2O3:0~3%
-黒色顔料:0~6%、とりわけ1~6%。
【0056】
ジルコニアをベースにした粒子は好ましくは、とりわけ1100~1500℃の温度で、か焼される。
【0057】
ジルコニアをベースにした粒子は好ましくは、D10が少なくとも20μm、とりわけ30~45μm、D50が40~52μm、またD90が最大65μm、とりわけ55~65μmのような、レーザ回折式粒径分布測定によって決定される、体積粒度分布を有する。
【0058】
とりわけジルコニアをベースにした、耐熱性粒子は、好ましくは黒色である。とりわけ、反射における明度L*は好ましくは3未満、またさらに好ましくは1未満である。比色分析の座標a*とb*は好ましくは、それぞれが好ましくは0.5未満、とりわけ0.1未満である。比色分析のパラメータは、ISO 7724規格(D65-10°)に準じて決定される。そうするために、とりわけジルコニアをベースにした、粒子は、典型的には1~6重量%の含有率の、黒色顔料を含有することができる。
【0059】
耐熱性粒子、とりわけ黒色の耐熱性粒子の平均球形度は、好ましくは0.60超、とりわけ0.70超、さらには0.80超またさらには0.85超である。粒子の球形度は、最小フェレ径と最大フェレ径の比に相当する。耐熱性粒子の平均円磨度は、好ましくは0.6超、とりわけ0.7超またさらには0.8超または0.9超である。平均球形度(または平均円磨度)は、50~200の粒子の球形度(または円磨度)の相加平均に相当する。円磨度は、4.A/Π.Lf2に相当し、Lfは最大フェレ径であり、またAは粒子の投影面積である。これらのさまざまなパラメータ、とりわけフェレ径は、例えば堀場製作所によって商品化されているCamsizer XT粒子解析装置を使って、動的画像解析によってとりわけ測定される。
【0060】
黒色の粒子および/または過度の粗さのない、球形の粒子の使用が、焼成後のエナメルの美観を改善することを可能にし、とりわけ、強い照明下で面1から反射において見えるヘイズを減少させることを観察することができた。
【0061】
エナメル層の被着は、スクリーン印刷によって行われる。そうするために、ガラスシート上に、一部が塞がれたメッシュを含むスクリーン印刷用スクリーンが配置され、ついでスクリーン上にエナメル組成物が置かれ、ついでスキージを用いて、スクリーンのメッシュが塞がれていない領域においてエナメル組成物がスクリーンを貫通するようにさせて、湿潤エナメル層を形成する。大きい耐熱性粒子の均一の被着を保証するために、スクリーンのメッシュの穴は、好ましくは少なくとも40μm、とりわけ少なくとも60μm、さらには少なくとも70μmである。過度に小さいメッシュの穴は、粒子をトラップして粒子の均一の被着を妨げることになり、一方過度に大きい穴は、ガラスを機械的に弱くするおそれがある、過度に厚いエナメルの厚さに至らせる。メッシュの穴は、好ましくは最大100μm、とりわけ最大80μmである。
【0062】
湿潤エナメル層の厚さは、好ましくは15~40μm、とりわけ20~30μmである。
【0063】
工程bの直後に続いて好ましくは乾燥工程があり、その乾燥工程は、エナメル組成物の中に含有される溶剤の少なくとも一部を除去することを目的とする。このような乾燥は典型的には、120~180℃の温度で行われる。
【0064】
[工程c]
曲げ加工はとりわけ、典型的には550~650℃の温度で、重力によって(ガラスはそれ自体の重量下で変形する)またはプレス加工によって行われることができる。
【0065】
第一の実施形態によると、2枚のガラスシート(第一のガラスシートおよび追加のガラスシート)は別々に湾曲される。この場合には、第一のガラスシートと曲げ加工工具との間のあらゆる接着を避けることが重要である。
【0066】
第二の実施形態によると、第一のガラスシートと追加のガラスシートとは一緒に湾曲され、エナメル層は、前記追加のガラスシートに向き合っている。この場合には、2枚のガラスシート間のあらゆる接着を避けることが重要である。ガラスシートは、典型的には20~50μmである、数十マイクロメートルの空間を確保する中間層粉末を互いの間に配置することによって、距離をおいて保持されることができる。中間層粉末は例えば、炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムをベースとする。曲げ加工の際、(車室の内部に位置決めされることを目的とした)内側ガラスシートは通常、外側ガラスシートの上に配置される。このように、曲げ加工工程の際、追加のガラスシートは、第一のガラスシートの上に配置される。
【0067】
好ましくは、工程dの後、エナメル層は、不透明であり、黒い色合いである。ガラス側の反射において測定されるその明度L*は、好ましくは5未満である。先に示されたように、エナメル層は有利には、第一のガラスシートの周縁でストリップを形成している。したがって、エナメル層は、シール、接続用構成要素、あるいはまたセンサを隠しかつ紫外放射線から保護することができる。
【0068】
エナメル層が以下に記述される予備焼成のあとで薄層のスタックをまだ完全に溶解していない場合、この完全溶解は、エナメルの焼成を完遂する、曲げ加工の際に達成される。
【0069】
薄層のスタックの完全溶解はとりわけ、電子顕微鏡によって観察することができる。とりわけスクエア抵抗の、電気計測もまた、スタックの溶解を確認することを可能にする。
【0070】
[任意の予備焼成工程(b1)]
本方法は好ましくは、工程b)と工程c)との間に、エナメル層を予備焼成する工程b1)を含み、その間、エナメル層の下に位置する薄層のスタックが前記エナメル層によって少なくとも部分的に溶解させられる。
【0071】
この工程は、ガラスシートが一緒に湾曲される、先に記述された第二の実施形態においてとりわけ有用である。
【0072】
予備焼成工程は好ましくは、150~800℃、とりわけ500~700℃の温度で実行される。
【0073】
そのような予備焼成は、有機媒質、または一般に、エナメル層の中に場合によっては存在するあらゆる有機成分を除去することを可能にする。
【0074】
予備焼成の際、薄層のスタックは、エナメル層によって少なくとも部分的に溶解させられる。使用される温度とエナメルまたはスタックのタイプとに応じて、スタックは、予備焼成の際にエナメル層によって完全に溶解させられることさえできる。代わりに、スタックは予備焼成の際には部分的にしか溶解させられることができず、その場合、スタックは曲げ加工(工程c)の際に完全に溶解させられる。
【0075】
[工程d]
積層工程は、例えば110~160℃の温度かつ10~15バールの圧力下での、オートクレーブ処理によって行われることができる。オートクレーブ処理に先立って、ガラスシートと積層体中間層との間に閉じ込められた空気は、カレンダー加工によってまたは負圧によって除去されることができる。
【0076】
先に述べられたように、追加のシートは好ましくは、車両の車室の内部に位置決めされることを目的とした、積層グレージングの内側シート、すなわち、グレージングの凹面側に位置するシートである。したがって、コーティングは、積層グレージングの面2に配置されている。
【0077】
追加のガラスシートは、ソーダ石灰シリカガラス製であってもよいし、あるいはまたホウケイ酸ガラスやアルミノケイ酸ガラス製であってもよい。追加のガラスシートは、クリアガラス製であってもよいしまたは着色されているガラス製でもよい。その厚さは好ましくは、0.5~4mm、とりわけ1~3mmである。
【0078】
好ましい一実施形態によると、追加のガラスシートは、0.5~1.2mmの厚さを有する。追加のガラスシートはとりわけ、好ましくは化学的に強化された、アルミノケイ酸ナトリウムガラス製である。追加のガラスシートは好ましくは、積層グレージングの内側シートである。本発明は特に、このタイプの構成のために有用であり、これについては薄層のスタックを面3に配置するのは困難である。化学強化(「イオン交換」とも呼ばれる)は、溶解したカリウム塩(例えば硝酸カリウム)とガラスの表面を接触させて、ガラスのイオン(ここではナトリウムイオン)を、より大きいイオン半径のイオン(ここではカリウムイオン)と交換することによって、ガラスの表面を強化することにある。このイオン交換は、ガラスの表面においてまたある程度の厚さにわたって圧縮応力を形成することを可能にする。好ましくは、表面応力は、少なくとも300MPa、とりわけ400MPaまたさらには500MPaかつ最大700MPaであり、また圧縮領域の厚さは、少なくとも20μm、典型的には20~50μmである。応力プロファイルを、バビネ補償板の備わった偏光顕微鏡を使って既知の方法で決定することができる。化学強化工程は好ましくは、380~550℃の温度で、30分~3時間の継続時間にわたって実施される。化学強化は好ましくは、曲げ加工の後ではあるが積層工程の前に行われる。得られるグレージングは好ましくは、自動車のフロントガラス、特に加熱フロントガラスである。
【0079】
別の好ましい一実施形態によると、追加のガラスシートは、積層体の中間層に向き合っている面と反対側の面(好ましくは面4であり、追加のシートは内側シートである)の上に、追加の薄層のスタック、とりわけ、透明導電性酸化物とりわけ酸化インジウムスズ(ITO)を含有している低放射率のスタックを有する。本発明は、このタイプの構成のためにもまた特に有用であり、これについては、薄層のスタックを同じガラスシートの2つの面(面3および4)の上に配置することは難しい。この実施形態において、積層体の中間層および/または追加のガラスシートは、好ましくは着色されており、コーティングを有するガラスシートは、クリアガラス製であってよい。得られるグレージングは好ましくは、自動車のルーフである。
【0080】
直前の好ましい実施形態の例として、車両の外から、銀層を少なくとも1つ含む薄層のスタックで面2においてコーティングされたクリアガラスシート、ついでエナメル層、着色されたPVB製の積層体の中間層、そしてとりわけITOをベースにした、低放射率の薄層のスタックを面4に有する、着色されたガラス製の追加のガラスシートを含む湾曲積層ルーフを挙げることができる。
【0081】
積層体の中間層は好ましくは、少なくとも1枚のポリビニルアセタールのシート、とりわけポリビニルブチラール(PVB)のシートを含む。
【0082】
積層体の中間層は、必要であればグレージングの光学的特性または熱的特性を調節するために、着色されてもよいしまたは着色されなくてもよい。
【0083】
積層体の中間層は有利には、空気由来のまたは固体由来の音を吸収するための、吸音特性を有することができる。その目的のために積層体の中間層はとりわけ3枚の高分子シートから成ることができ、そのうちのいわゆる「外側」の2枚のPVBシートは、外側シートの硬度より低い硬度の、場合によってはPVB製である、内側高分子シートを囲んでいる。
【0084】
積層体の中間層はまた、断熱特性、特に赤外放射線の反射特性を有することもできる。その目的のために積層体の中間層は、外側の2枚のPVBシートで囲まれている内側PETシートの上に被着される、低放射率の薄層コーティング、例えば銀の薄層を含むコーティングまたは異なる屈折率の誘電体層を交互に含むコーティングを含むことができる。
【0085】
積層体の中間層の厚さは、概して0.3~1.5mm、とりわけ0.5~1mmに及ぶ範囲内である。積層体の中間層は、HUD(head-up display)と呼ばれるヘッドアップディスプレイシステムを利用する場合の二重像の形成を避けるために、グレージングの中心よりもグレージングの縁の方が薄い厚さを有することができる。
【0086】
[実施例]
続く実施例は、以下の
図1との関連において、非限定的に本発明を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【
図1】本発明による方法の一実施形態を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1は、ガラスシートおよび、それらの周縁の近くのガラスシート上に被着される構成要素の一部の断面図である。様々な構成要素は明らかに、それらを目視で確認することができるように、縮尺どおりに示されていない。
【0089】
薄層のスタック12でコーティングされた第一のガラスシート10が、工程aにおいて提供され、ついでスタック12の一部が、とりわけスクリーン印刷によって、エナメル層14によってコーティングされる(工程b)。
【0090】
全体は次に予備焼成(工程b1)を受け、この工程は、示された事例において、エナメル14によるスタック12の部分的な溶解に至らせる。
【0091】
ここでは追加の薄層のスタック22を備えている、追加のガラスシート20が次に、第一のガラスシート10の上に置かれ、全体は次に湾曲される(工程c)。示されている図は、ガラスシートの端しか示しておらず、湾曲はここでは示されていない。図は、曲げ加工のあとで、エナメル14が、下にある薄層のスタック12を完全に溶解したことを示している。
【0092】
工程dにおいて、薄層のスタック12およびエナメル層14でコーティングされた第一のガラスシート10と追加のスタック22でコーティングされた追加のガラスシート20とは、積層体の中間層30を用いて組み合わされる。図はここでは、分離した構成要素のそれぞれを、分解組立図において示している。
【0093】
実施例によって実施される方法は、
図1の実施形態に相当する。
【0094】
酸化亜鉛層によって保護された3つの銀層、窒化ケイ素層およびブロッキング剤NiCrを含む薄層のスタックで陰極スパッタリングによってあらかじめコーティングされた厚さ2.1mmのガラスシートは、25μmの湿潤厚さのエナメル層でスクリーン印刷によってコーティングされた。
【0095】
エナメル組成物は、20μmを超えるサイズを有する、耐熱性酸化物の大きい粒子を含有していた。
【0096】
2つのタイプの粒子、すなわち白色で不ぞろいの形態の、以下の表中でAと示される粒子、および、ジルコニアをベースにし、黒色で、粒子Aよりも丸みのある形態を呈する、以下の表中でBと示される粒子を使用した。粒子Bは、Saint-Gobain ZirproによってColorYZe G Blackのリファレンスで商品化されている、1300℃の温度でか焼された、黒色のジルコニア顆粒であった。
【0097】
粒子Bは、以下の(重量における)化学組成を有していた:ZrO2:89.6%、Y2O3:5.26%、Al2O3:1.05%、黒色顔料:4.1%。体積粒度分布は以下の通りであった:D10=40μm、D50=49μm、D90=60μm。
【0098】
以下の表1は、実験のそれぞれについて、「体積%」と示される、これらの粒子の体積比率を示している。
【0099】
エナメル層の被着は、実施例に応じて、メッシュの穴が71μm(スクリーン1)または49μm(スクリーン2)であるスクリーンを使って行われた。
【0100】
エナメルは次に乾燥され(150℃、1~2分)、ついでおよそ650℃~680℃で予備焼成された。
【0101】
面4にITO層を含むスタックを備えたソーダ石灰シリカ製の追加のガラスシートとペアリングした後、全体は、600℃以上で350秒から500秒の間湾曲された。
【0102】
焼成の後、美観、より具体的には面1から見える黒色が、反射における明度L*(D65光源、10°の標準観測者)を測定することによって評価された。6.0以下の値、好ましくは5.0未満の値が、許容されると考えられる。(グレージングの面1から)ヘイズと接着については、目視観察によって定性的に評価された。
【0103】
接着に関しては、0~5のスケールが用いられたのであり、ここで、スコア0は欠陥無しに相当し、スコア1は角における限られたエナメルの転写に相当し、スコア2は角および辺におけるエナメルの転写に相当し、スコア3は角における接着に相当し、スコア4は角および辺における接着に相当し、そしてスコア5は全体の接着に相当する。3を超えるスコアは許容されない。
【0104】
【0105】
比較例C0は、大きい耐熱性粒子の不在が全体の接着をもたらすことを示している。比較例C1の場合において、耐熱性粒子が付加されるが、しかし量が少なすぎるので、接着を十分に減らすことができていない。比較例C2の場合においては、80μmを超えるサイズを有する耐熱性粒子が存在するので、スクリーン印刷によってエナメル層を被着することができなかった。
【0106】
特に、大きい粒子の比率とスクリーン印刷用スクリーンのメッシュのサイズが大きいが、わずかなヘイズを発生させるので、耐熱性粒子Aの添加(実施例1および実施例2)はこの接着を減らすことを可能にする。
【0107】
実施例3および実施例4の場合において、黒色でかつ粒子Aよりも球形である粒子Bは、ヘイズを軽減させつつ、接着の不在に達することを可能にした。
【符号の説明】
【0108】
10 第一のガラスシート
12 薄層のスタック
14 エナメル層
20 追加のガラスシート
22 追加の薄層のスタック
30 積層体の中間層
【国際調査報告】