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特表2024-502632CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子およびその応用
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  • 特表-CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子およびその応用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子およびその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240115BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240115BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20240115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240115BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240115BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/90 100Z
C12N15/63 Z
C12N5/0783
C12N15/867 Z
C12N15/87 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61K31/7088
A61K35/76
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542493
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 CN2021133817
(87)【国際公開番号】W WO2022151851
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】202110036169.2
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523263407
【氏名又は名称】上海雅科生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI YAKE BIOTECHNOLOGY LTD.
【住所又は居所原語表記】ROOM 204, BUILDING A8, 1600 NORTH GUOQUAN RD., BAY VALLEY, YANGPU DISTRICT, SHANGHAI,200438, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 鴻 声
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子およびその応用に関するものである。本発明は、ヒト由来のCD7の天然リガンドにより抗体配列を置換して、CD7特異的CAR-T細胞またはCAR-NK細胞の抗原認識ドメインとする。CD7特異的CARにおいて抗原認識ドメインとしてヒト由来のCD7を使用する利点は、宿主によって引き起こされる細胞反応および体液性反応を防ぐことができ、それによってCAR-T細胞の長期耐久性とより優れた治療効果を達成できることである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド配列を含む改変免疫細胞であって、前記キメラ抗原受容体が、CD7を標的とする抗原認識ドメインを含むことを特徴とする、改変免疫細胞。
【請求項2】
前記キメラ抗原受容体は、ヒンジ膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメインおよび細胞内主要刺激ドメインをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項3】
前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインが、T細胞受容体由来のα鎖、β鎖、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ鎖、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD9、CD16、CD22、CD28、CD32、CD33、CD34、CD35、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD137、ICOS、CD154、FAS、FGFR2B、OX40またはVEGFR22のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載の改変免疫細胞。
【請求項4】
前記キメラ抗原受容体における細胞内共刺激ドメインが、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD27、CD28、CD30、CD40、4-1BB (CD137)、ICOS、OX40、LIGHT(CD258)またはNKG2Cからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項2に記載の改変免疫細胞。
【請求項5】
前記キメラ抗原受容体における細胞内主要刺激ドメインが、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ、FcRβ、FcRγ、CD5、CD66d、CD22、CD79aまたはCD79bからなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項2に記載の人工免疫細胞。
【請求項6】
前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りであることを特徴とする、請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項7】
前記改変免疫細胞内にCD7ブロッキング分子をさらに含み、前記CD7ブロッキング分子は、細胞表面でのCD7タンパク質の輸送および発現を遮断することができることを特徴とする、請求項6に記載の改変免疫細胞。
【請求項8】
前記CD7ブロッキング分子は、CD7結合ドメインを介して細胞内アンカリングドメインに連結され、CD7タンパク質の細胞表面への輸送を遮断することを特徴とする、請求項7に記載の改変免疫細胞。
【請求項9】
前記細胞内アンカリングドメインが、小胞体保持ドメイン、ゴルジ体保持ドメイン又はプロテアソーム局在化ドメインのアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項8に記載の改変免疫細胞。
【請求項10】
前記CD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質であり、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りであることを特徴とする、請求項8に記載の改変免疫細胞。
【請求項11】
前記CD7結合ドメインが、抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであることを特徴とする、請求項8に記載の改変免疫細胞。
【請求項12】
前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインが、抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvのアミノ酸配列がSEQ ID NO.8に示す通りであることを特徴とする、請求項1記載の改変免疫細胞。
【請求項13】
前記改変免疫細胞内にCD7ブロッキング分子をさらに含み、前記CD7ブロッキング分子は、細胞表面でのCD7タンパク質の輸送および発現を遮断することができることを特徴とする、請求項12に記載の改変免疫細胞。
【請求項14】
前記CD7ブロッキング分子は、CD7結合ドメインを介して細胞内アンカリングドメインに連結され、CD7タンパク質の細胞表面への輸送を遮断することを特徴とする、請求項12に記載の改変免疫細胞。
【請求項15】
前記細胞内アンカリングドメインが、小胞体保持ドメイン、ゴルジ体保持ドメイン又はプロテアソーム局在化ドメインのアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項14に記載の改変免疫細胞。
【請求項16】
前記CD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りであることを特徴とする、請求項14に記載の改変免疫細胞。
【請求項17】
前記改変免疫細胞は、遺伝子ノックアウト技術によってCD7の遺伝子発現を除去することを特徴とする、請求項6または12に記載の改変免疫細胞。
【請求項18】
前記ノックアウト技術が用いるゲノム編集ツールはTALENsまたはCRISPR/cas9であることを特徴とする、請求項17に記載の改変免疫細胞。
【請求項19】
前記細胞が、T細胞、γδT細胞、NKまたはNKT細胞、および人工多能性幹細胞(iPSC)から分化されたT細胞、γδT細胞、NKまたはNKT細胞であることを特徴とする、請求項1~16、18のいずれか1項に記載の改変免疫細胞。
【請求項20】
キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインであって、前記抗原認識ドメインの配列がヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部を含み、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列はSEQ ID NO.5に示す通りであることを特徴とする抗原認識ドメイン。
【請求項21】
CD7陽性血液悪性腫瘍に対する免疫毒素の調製における、請求項20に記載のCD7を標的とする抗原認識ドメインの応用。
【請求項22】
請求項20に記載のキメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインをコードする核酸分子。
【請求項23】
前記核酸分子のコード配列はCD7BB-002であり、前記CD7BB-002の核酸分子の配列がSEQ ID NO.9に示す通りであることを特徴とする、請求項22に記載のCD7を標的とした抗原認識ドメインをコードする核酸分子。
【請求項24】
請求項22に記載のキメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインをコードする核酸分子を含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項25】
ベクターがレトロウイルス、レンチウイルスまたはトランスポゾンから選択されることを特徴とする、請求項24に記載の組換えベクター。
【請求項26】
改変免疫細胞の調製における請求項24に記載の組換えベクターの応用。
【請求項27】
請求項1~16のいずれか1項に記載の改変免疫細胞の調製に用いられるCD7ブロッキング分子であって、前記CD7ブロッキング分子のCD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部を含み、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含むことを特徴とする、CD7ブロッキング分子。
【請求項28】
請求項27に記載のCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列。
【請求項29】
前記核酸配列がCD7-L-ER2.1であり、前記CD7-L-ER2.1の核酸分子配列がSEQ ID NO.10に示す通りであることを特徴とする、請求項28に記載のCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列。
【請求項30】
請求項1~16のいずれか1項に記載の改変免疫細胞の調製に用いられるCD7ブロッキング分子であって、前記CD7ブロッキング分子のCD7結合ドメインが、抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有することを特徴とする、CD7ブロッキング分子。
【請求項31】
請求項30に記載のCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列であって、前記CD7ブロッキング分子の核酸分子のコード配列がTH69-ER2.1であり、前記TH69-ER2.1の核酸分子配列がSEQ ID NO.11に示す通りであることを特徴とする、核酸配列。
【請求項32】
請求項29または31に記載の核酸配列を含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項33】
前記ベクターがレトロウイルス、レンチウイルスまたはトランスポゾンから選択されることを特徴とする、請求項32に記載の組換えベクター。
【請求項34】
改変免疫細胞の調製における請求項32に記載の組換えベクターの応用。
【請求項35】
(1)請求項20に記載の抗原認識ドメイン配列を含んでコードする核酸配列、および
(2)請求項27または請求項30に記載のCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列
を含むことを特徴とする、核酸分子。
【請求項36】
請求項35に記載の核酸分子を含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項37】
前記ベクターがレトロウイルス、レンチウイルスまたはトランスポゾンから選択されることを特徴とする、請求項36に記載の組換えベクター。
【請求項38】
前記ベクターにおけるキメラ抗原受容体をコードする前記核酸分子とCD7ブロッキング分子をコードする核酸分子が、内部リボソームエントリー部位またはリボソームコドンスキッピング部位によって連結されることを特徴とする、請求項36に記載の組換えベクター。
【請求項39】
前記ベクターの内部リボソームエントリー部位が、脳心筋炎ウイルスまたはエンテロウイルスに由来することを特徴とする、請求項36に記載の組換えベクター。
【請求項40】
前記ベクターのリボソームコドンスキッピング部位が、口蹄疫ウイルスF2Aペプチド、ウマ鼻炎AウイルスE2Aペプチド、豚破傷風ウイルスP2AペプチドまたはT2Aペプチドから選択できる2A自己切断ペプチドを含むことを特徴とする、請求項36に記載する組換えベクター。
【請求項41】
改変免疫細胞の調製における請求項36に記載の組換えベクターの応用。
【請求項42】
(1)請求項24に記載の組換えベクター、および(2)請求項32に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする、試薬の組み合せ。
【請求項43】
CD7陽性血液悪性腫瘍を治療するためのCAR-T細胞またはCAR-NK細胞の調製における、請求項42に記載の試薬の組合せの応用。
【請求項44】
(1)請求項24に記載の組換えベクター、および(2)細胞内のCD7遺伝子をノックアウトすることができるゲノム編集ツールを含むことを特徴とする、試薬の組合せ。
【請求項45】
前記ゲノム編集ツールはTALENsまたはCRISPR/cas9であることを特徴とする、請求項44に記載の試薬の組合せ。
【請求項46】
キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインの配列であって、前記配列は抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvのアミノ酸配列がSEQ ID NO.8に示す通りであることを特徴とする抗原認識ドメインの配列。
【請求項47】
請求項46に記載のキメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインの配列をコードする核酸分子。
【請求項48】
前記核酸分子のコード配列がTH69BB-002であり、前記TH69BB-002の核酸分子の配列がSEQ ID NO.18に示す通りであることを特徴とする、請求項47に記載の核酸分子。
【請求項49】
請求項47に記載の核酸分子の配列を含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項50】
ベクターがレトロウイルス、レンチウイルス、トランスポゾンから選択されることを特徴とする、請求項49に記載の組換えベクター。
【請求項51】
(1)請求項49に記載の組換えベクター、および
(2)請求項29に記載の核酸配列を含む組換えベクター、または細胞内のCD7遺伝子をノックアウトすることができる遺伝子編集ツールからなる群から選択されるいずれか1つを含むことを特徴とする、試薬の組合せ。
【請求項52】
CD7陽性血液悪性腫瘍を治療するためのCAR-T細胞またはCAR-NK細胞の調製における、請求項51に記載の試薬の組合せの応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞免疫療法の技術分野に関し、具体的には、CD7を標的とする免疫療法、特に、CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
T細胞悪性腫瘍は、非常に異質的なクローン増殖およびT細胞機能不全の疾患であり、主にT細胞リンパ腫(T-cell lymphomas,TCLs)およびT細胞白血病に分類され、成熟および前駆サブタイプがある。これらの疾患は、小児から成人まで高い再発率と死亡率を示す悪性度が極めて高い血液システムがんであり、現在、有効な治療法や標的治療法はまだない。現在の技術では複数の化学療法レジメンが利用可能であるにもかかわらず、T細胞急性リンパ芽球性白血病(T-cell acute lymphoblastic leukemia,T-ALL)の患者において、5年以上生存するのは成人の50%以下、小児の75%以下に止まる。初回治療後に再発した患者において、サルベージ化学療法レジメンで寛解が得られるのは20~40%に過ぎない。再発または化学療法抵抗性のT細胞悪性腫瘍の患者において、治療の予後が悪く、有効で忍容性のある治療法は限られている。サルベージ化学療法後に完全寛解(CR)を達成した10~50%の患者には、同種幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation,ASCT)が唯一の治療選択肢として残されている。しかし、ASCTの完治率は30%以下にとどまり、CRの患者全員が移植に適するわけでもない。皮膚T細胞リンパ腫や末梢性T細胞リンパ腫(それぞれCTCL、PTCL)を含む他のT細胞悪性腫瘍は、化学療法に対する初期反応率がさらに低く、反応した患者でも無増悪生存率は40~50%にとどまる。このように、T細胞悪性腫瘍の治療は進歩しているものの、特に再発・難治性の患者の予後を改善するためには、新しい標的治療のレジメンが必要である。T-ALLやT-NHLなどのT細胞悪性腫瘍に加えて、20~30%の急性骨髄性白血病(AML)やほとんどのNKおよびNKTリンパ腫など、いまだに有効な治療法や標的治療のレジメンがないCD7+血液悪性腫瘍があることを認識すべきである。
【0003】
キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞は、腫瘍に対する最も有望な免疫療法の一つであり、Bリンパ球性悪性腫瘍の患者に対して有意な応答率を得られる。それにより、B細胞性白血病やリンパ腫に広く発現された抗原であるCD19を標的とするCAR-T細胞は、初めて認可されたがんT細胞療法である。CD19 CAR-T細胞が再発・難治性のB細胞性悪性腫瘍の治療における成功により、他の腫瘍への応用が広がっている。Bリンパ球とTリンパ球悪性腫瘍の類似性を考えると、CAR-T細胞療法をこれらの疾患に展開することは容易であるように思われる。しかし、T細胞悪性腫瘍に対するCAR-T細胞療法は、その開発・実施が困難であることが判明されている。これは主に、改変されたT細胞に標的抗原を同時に発現させると、調製中にCAR-T細胞が互いに殺し合うことになること、また、CAR-T細胞の再注入後、正常な末梢血T細胞がクリアランスされると、重度の免疫不全につながることが原因である。
【0004】
CD7は膜貫通型糖タンパク質であり、通常、ほとんどの末梢血T細胞とNK細胞(NK細胞、即ちナチュラルキラー細胞は、骨髄リンパ系幹細胞に由来し、その分化と発育は骨髄と胸腺の微環境に依存し、主に骨髄、末梢血、肝臓、脾臓、肺、リンパ節にあり;T細胞やB細胞と異なり、NK細胞は腫瘍細胞やウイルス感染細胞に対し事前に感作することなく非特異的に殺傷することができるリンパ球である)とその前駆細胞で発現され、T細胞の活性化を補助し、他の免疫サブセットと相互作用する共刺激タンパク質として機能する。95%以上のリンパ芽球性白血病やリンパ腫、および一部の末梢性T細胞リンパ腫がCD7を発現する。マウス動物モデルにおいて、CD7を欠如したT細胞は、干渉されない発育、恒常性、保護機能が大いに現れる。CD7は末梢血T細胞の機能に大きな影響を及ぼさないため、CAR-T細胞療の有望な標的とされている。CD7は、モノクローナル抗体(mAb)標的として、免疫毒素療法で治療するT細胞悪性腫瘍患者で評価された。このモノクローナル抗体のコンジュゲートでは、CD7に関連する重篤な有毒な副作用は生じなかったが、抗腫瘍反応は有意ではなく、おそらく患者治療におけるマウス由来抗体の活性が限られていたためであろう。
【0005】
先行技術において、CD7を標的とした治療法に関する研究の進展は以下の通りである:
i)CD7-CAR-T細胞療法;キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞は、有望な腫瘍免疫療法である。この標的療法は、B細胞白血病やリンパ腫の患者の寛解、さらには長期無再発生存を達成する上で大きな可能性を示している。最近、いくつかの研究グループが、T細胞性悪性腫瘍の前臨床モデルにおけるCD7特異的CAR-T細胞療法の研究の進展を報告していた。これらの研究のすべてにおいて、T細胞上のCD7-CAR発現は重篤の自殺をもたらし、その結果、CAR-T細胞がインビトロで増殖できなくなる。
【0006】
標的特異的CARの、形質導入されたT細胞上の発現は、存続的なリガンド結合によるCAR受容体活性化を引き起こす可能性があり、これにより形質導入されたT細胞の自殺が引き起こされ、細胞の最終分化が促進され、インビボで長期間生存できなくなる可能性がある。CD7は汎T細胞抗原であるため、ほとんどのT細胞で発現する。したがって、CD7抗原特異的CAR-T細胞が調製中に重篤な自殺を起こし、その結果、CAR-T細胞が効果的に増幅できなくなる可能性がある。この自殺を減らすために2つの戦略がある:1)ゲノム編集ツールを用いてCD7標的抗原の遺伝子をノックアウトし;2)CD7結合ドメインを小胞体に固定することにより、細胞内発現中にCD7タンパク質が細胞表面への輸送を防ぐ。2つの方法も、細胞表面でのCD7の発現を効果的に減少させ、標的とするCD7-CAR-T細胞における自殺を最小限に抑えることができる。重要なのは、CD7の欠如はCAR-T細胞の増殖や短期間のエフェクター機能には影響せず、高い抗腫瘍活性を有する機能的なCAR-T細胞の増幅を可能にすることである。
【0007】
細胞表面からCD7を除去した後、CD7-CAR-T細胞は、インビトロおよびインビボで原発性CD7陽性T-ALLおよびリンパ腫に対して強力な抗腫瘍活性を示す。また、CD7-CAR-T細胞は、末梢血CD7陽性T細胞やNK細胞に対しても殺傷性があり、これが、これらの細胞サブセットもCD7-CAR-T細胞の標的となることが示唆される。
【0008】
養子細胞療法に自家細胞を使用するリスクとして、末梢血の悪性腫瘍細胞を誤って遺伝子改変してしまうことがあげられる。CAR遺伝子で修飾された悪性T細胞に対して、標的分子の発現を低下させるために遺伝子編集を許可することは、場合によっては真実に存在するリスクとなりうるため、これらの治療法を使用する際のインフォームドコンセントフォームに記載する必要がある。しかし、製造プロセス中の悪性細胞の生存率と増幅性が低いことを考慮すると、これら不必要な悪性細胞の遺伝子修飾はより低い頻度で発生するはずである。さらに、標的抗原の発現を抑えるための遺伝子編集がない場合、標的抗原を発現する悪性腫瘍細胞は、形質導入後と患者への注入前にCAR-T細胞が互いに殺し合うことで除去される可能性がある。一方、健康なドナーから作製した同種異系CD7-CAR-T細胞は、患者の造血幹細胞移植への橋渡しのため、または造血幹細胞移植後の再発性T細胞悪性腫瘍の治療のために、再発性および難治性T細胞悪性腫瘍の治療に使用され得る。同種異系CD7-CAR-T細胞療法は、移植片対宿主の副作用を適切にコントロールできれば、健康なドナーからT細胞を提供できるほか、移植片対白血病の効果をもたらすという利点がある。悪性細胞を遺伝子改変するリスクは、既存の同種異系T細胞やNK細胞を送達手段として用いることで完全に回避することができる。これらの細胞製品は健康なドナーから産生されるため、患者由来のT細胞の使用を避けることができ、これらT細胞は抑制的な腫瘍微小環境に長期間晒され、または事前に強化治療を受けたことで機能的に低下していることが多い。
【0009】
ii)CD7を標的とする免疫毒素:CD7はT細胞に高密度(約60000mol/cell)で発現し、一価の抗体断片に結合しても速やかに内在化する。そのため、T細胞腫瘍の免疫毒素媒介療法の理想的な標的抗原である。現在、抗CD7免疫毒素は、主に抗CD7モノクローナル抗体を毒素にカップリングさせることで作られている。リシンAに結合したマウス抗ヒトCD7モノクローナル抗体(WTI)を用いた抗CD7免疫毒素は、T細胞悪性腫瘍患者の自家骨髄移植のための腫瘍細胞のインビトロ除去に使用されていた。マウスIgG2b抗CD7(3AlE)モノクローナル抗体と脱グリコシル化リシンA鎖を化学的に結合させることにより構築された免疫毒素DA7は、SCIDの動物モデルでヒトT-ALLの治療に使用され、予後不良のT細胞白血病に対する治療の可能性を示唆している。DA7を用いた第1相臨床試験では、不安定性や血管毒性などの制約があるものの、最大耐用量で客観的な臨床反応が達成された。また、抗ヒトCD7モノクローナル抗体TH69は、組み換え免疫毒素の構築にも使用され、当該抗体は遺伝子組み換えによって一本鎖抗体断片(scFv)とトランケートされたシュード緑膿菌外毒素A断片を連結する。
【0010】
iii)遺伝子ノックアウト:養子免疫療法におけるT細胞の標的遺伝子編集の臨床的実現可能性は、十分に証明されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いてCD4陽性T細胞におけるHIV共受容体CCR5に対して遺伝子ノックアウトをすることにより、これらの細胞にHIV感染に対する抵抗性を持たせ、CCR5陰性T細胞をHIV感染患者に移植して存続させることを可能にした。TALENを使用してCD19 CAR-T細胞におけるT細胞受容体(TCR)遺伝子をノックアウトし、サードパーティ製T細胞がB細胞白血病患者の治療に成功したことは、移植片対宿主病のリスクを大幅に低減し、「汎用」既存T細胞製品の励ましとなるマイルストーンである。この研究では、CD52遺伝子も再注入されたCAR-T細胞でノックアウトされ、アレムツズマブに対する耐性を持たせた。さらに最近では、CRISPR/Cas9システムは、CD7のノックアウト、またはCD7とともにT細胞受容体α鎖のノックアウトに用いられ、T細胞における標的遺伝子を迅速かつ効果的にノックアウトできる新しい遺伝子編集システムとなっている。
【0011】
iv)細胞内タンパク質発現遮断技術;多くの生化学系や免疫系において、通常、特定の分子の役割を決定することが困難であるが、遺伝子発現を遮断してその機能的効果を調べることができる方法がある。相同組換えや、Zince Fingerヌクレアーゼ、TALEN、CRISPR/Cas9など近年開発された遺伝子編集技術により、遺伝子ノックアウトを実施する。これらの技術は非常に強力であるが、実際には多くの欠点や技術的な困難がある。そのため、簡単で効果的かつ制御された方法で分子を除去する技術を開発する必要性が非常に高まっている。
【0012】
細胞内抗体を用いることで、細胞内の重要な分子を標的として不活性化できることは、多くの研究により広く知られている。抗体を構築する重鎖と軽鎖により哺乳類細胞をトランスフェクトし、そのリード配列に簡単な変更を加えることにより、抗体配列を小胞体(ER)/ゴルジ体、細胞質、核の3つの主要な細胞内領域に固定することができる。細胞内抗体の初期の研究では、IgG全体が使用されていたが、最近の研究では、Fab'と一本鎖抗体(scFv)が注目されている。単鎖抗体は低分子(約30kDa)で、短いペプチド配列で重鎖と軽鎖の可変領域を連結することにより構築される。これらの構築物は、細胞内抗体として多くの利点があり、特に抗原結合部位を形成するために2つの別々の抗体鎖を結合させる必要がないことである。
【0013】
従来の研究によると、細胞内抗体は、小胞体におけるHIV gp160からgp130へのプロセッシングの阻止;IL-2受容体α鎖の発現遮断;酵母、アフリカツメガエル卵母細胞、ヒト由来のT細胞株における細胞質酵素の阻害;トランスジェニック植物におけるウイルスの活性阻害に使用できることが分かる。Marascoらの研究によると、一本鎖抗体がER内で機能できることが分かる。Greenmanらの研究により、Tリンパ球表面抗原CD2に結合できる高親和性モノクローナル抗体およびER保持シグナル(KDEL)を用いて、細胞内一本鎖抗体が細胞膜タンパク質の発現を防止するために使用できることが明らかになった。
【0014】
抗原認識ドメインは、CAR構造の重要な構成部分であり、腫瘍細胞表面抗原との結合を担っている。現在、CD7特異的CAR-T細胞療法の抗原認識ドメインの多くは、マウスやアルパカ由来の抗体の可変領域で構成される。これら異種抗原認識ドメインを担持するCAR-T細胞は、患者に再注入されると、非常に強い宿主細胞および体液性反応を誘導し、再注入されたCAR-T細胞は宿主免疫によって急速に除去され、CAR-T細胞の体内存続性に重篤な影響を与え、最終的に疾患の難治性および再発性につながる。本発明では、CARの抗原認識ドメインとして天然のヒト由来のCD7リガンドを用いることで、このように構築された標的CD7-CAR-Tは宿主免疫反応を誘導せず、生体内で長期間生存できるため、より優れた治療効果を得られるという利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
本発明は、先行技術の欠点に鑑み、CD7を標的とする改変免疫細胞、キメラ抗原受容体、CD7ブロッキング分子及びその応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は下記の技術手段によって実現される。
本発明の第1の態様は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド配列を含む改変免疫細胞であって、前記キメラ抗原受容体が、CD7を標的とする抗原認識ドメインを含む改変免疫細胞を提供する。
【0017】
別の好ましい実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、ヒンジ膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメインおよび細胞内主要刺激ドメインをさらに含む。
【0018】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインが、T細胞受容体由来のα鎖、β鎖、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ鎖、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD9、CD16、CD22、CD28、CD32、CD33、CD34、CD35、CD37、CD45、CD64、CD80、CD86、CD137、ICOS、CD154、FAS、FGFR2B、OX40またはVEGFR22のアミノ酸配列からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む。
【0019】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインは、CD8αに由来する。
【0020】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインCD8αのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.1に示す通りである。
【0021】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内共刺激ドメインは、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD27、CD28、CD30、CD40、4-1BB(CD137)、ICOS,OX40、LIGHT(CD258)またはNKG2Cからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0022】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内共刺激ドメインは、4-1BBに由来する。
【0023】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内共刺激ドメイン4-1BBのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.2に示す通りである。
【0024】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインおよび細胞内共刺激性ドメインは、CD28に由来する。
【0025】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるヒンジ膜貫通ドメインおよび細胞内共刺激性ドメインCD28のアミノ酸配列は、SEQ ID NO.3に示す通りである。
【0026】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内主要刺激性ドメインは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ、FcRβ、FcRγ、CD5、CD66、CD22、CD79aまたはCD79bからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0027】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内主要刺激ドメインは、CD3ζに由来する。
【0028】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体における細胞内主要刺激ドメインCD3ζのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.4に示す通りである。
【0029】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りである。
【0030】
別の好ましい実施形態では、前記改変免疫細胞は、CD7結合ドメインと細胞内アンカードメインとを含むCD7ブロッキング分子をさらに含み、前記CD7ブロッキング分子は、細胞表面におけるCD7タンパク質の輸送および発現を遮断することができる。
【0031】
別の好ましい実施形態において、具体的には、前記CD7ブロッキング分子は、CD7結合ドメインを介して細胞内アンカリングドメインに連結され、CD7タンパク質の細胞表面への輸送を遮断する。
【0032】
別の好ましい実施形態において、前記細胞内アンカリングドメインが、小胞体保持ドメイン、ゴルジ体保持ドメイン又はプロテアソーム局在化ドメインのアミノ酸配列である。
【0033】
別の好ましい実施形態において、前記細胞内アンカードメインは、小胞体保持ドメインである。
【0034】
別の好ましい実施形態において、前記小胞体保持ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.6またはSEQ ID NO.7に示す通りである。
【0035】
別の好ましい実施形態において、前記CD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りである。
【0036】
別の好ましい実施形態において、前記CD7結合ドメインが、抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvである。
【0037】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインは抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvのアミノ酸配列がSEQ ID NO.8に示す通りである。
【0038】
別の好ましい実施形態において、前記改変免疫細胞内にCD7ブロッキング分子をさらに含み、前記CD7ブロッキング分子は、細胞表面でのCD7タンパク質の輸送および発現を遮断することができる。
【0039】
別の好ましい実施形態において、前記CD7ブロッキング分子は、CD7結合ドメインを介して細胞内アンカリングドメインに連結され、CD7タンパク質の細胞表面への輸送を遮断する。
【0040】
別の好ましい実施形態において、前記細胞内アンカリングドメインが、小胞体保持ドメイン、ゴルジ体保持ドメイン又はプロテアソーム局在化ドメインのアミノ酸配列である。
【0041】
別の好ましい実施形態において、前記CD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部であり、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列がSEQ ID NO.5に示す通りである。
【0042】
別の好ましい実施形態において、前記改変免疫細胞は、遺伝子ノックアウト技術によってCD7の遺伝子発現を除去する。
【0043】
別の好ましい実施形態において、前記ノックアウト技術が用いるゲノム編集ツールはTALENsまたはCRISPR/cas9である。
【0044】
別の好ましい実施形態において、前記細胞が、T細胞、γδT細胞、NKまたはNKT細胞および人工多能性幹細胞(iPSC)から分化されたT細胞、γδT細胞、NKまたはNKT細胞である。
【0045】
本発明の第2の態様は、キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインであって、前記抗原認識ドメインの配列がヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部を含み、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインのアミノ酸配列はSEQ ID NO.5に示す通りである抗原認識ドメインを提供する。
【0046】
本発明の第3の態様は、CD7陽性血液悪性腫瘍に対する免疫毒素の調製における前記CD7を標的とする抗原認識ドメインの応用を提供する。
【0047】
本発明の第4の態様は、前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインをコードする核酸分子を提供する。
【0048】
別の好ましい実施形態において、前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインをコードする核酸分子はCD7BB-002であり;前記CD7BB-002のヌクレオチド配列はSEQ ID NO.9に示す通りである。
【0049】
本発明の第5の態様は、前記キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインをコードする核酸分子を含む組換えベクターを提供する。
【0050】
別の好ましい実施形態において、ベクターは、レトロウイルス、レンチウイルスまたはトランスポゾンから選択される。
【0051】
本発明の第6の態様は、改変免疫細胞の調製における前記組換えベクターの応用を提供する。
【0052】
本発明の第7の態様は、前記改変免疫細胞の調製に用いられるCD7ブロッキング分子であって、前記CD7ブロッキング分子のCD7結合ドメインが、ヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインの配列の一部もしくは全部を含み、またはヒト由来のCD7-L細胞外構造ドメインと少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含むCD7ブロッキング分子を提供する。
【0053】
本発明の第8の態様は、前記CD7ブロッキング分子をコードする核酸配列を提供する。
別の好ましい実施形態において、前記CD7ブロッキング分子の核酸配列はCD7-L-ER2.1であり;前記CD7-L-ER2.1のヌクレオチド配列はSEQ ID NO.10に示す通りである。
【0054】
本発明の第9の態様は、前記第1態様に記載の改変免疫細胞の調製に用いられるCD7ブロッキング分子であって、前記CD7ブロッキング分子のCD7結合ドメインが、抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有するたんぱく質である、CD7ブロッキング分子を提供する。
【0055】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載のCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列を提供する。前記CD7ブロッキング分子をコードする核酸分子の配列はTH69-ER2.1であり;前記TH69-ER2.1のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO.11に示す通りである。
【0056】
本発明の第11の態様は、第8または第10の態様に提供されるCD7ブロッキング分子をコードする核酸配列を含む組換えベクターを提供する。
【0057】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターは、レトロウイルス、レンチウイルスまたはトランスポゾンから選択される。
【0058】
本発明の第12の態様は、改変免疫細胞の調製における前記第11の態様に提供される組換えベクターの応用を提供する。
【0059】
本発明の第13の態様は、第2の態様に記載のキメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインとCD7ブロッキング分子(第7の態様または第9の態様に提供されるCD7ブロッキング分子)の両方をコードする核酸分子を提供する。
【0060】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の核酸分子を含む組換えベクターを提供する。
【0061】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、トランスポゾンから選択される。
【0062】
別の好ましい実施形態において、前記組換えベクターは、CD7BB-BL4-002またはCD7BB-BL6-002の配列を含み、前記組換えベクターCD7BB-BL4-002またはCD7BB-BL6-002のベクター配列イメージは、図5のAおよびBにそれぞれ示す通りである。
【0063】
別の好ましい実施形態において、前記組換えベクターCD7BB-BL4-002は、CD7BB-002とTH69-ER2.1がT2Aで連結され、前記組換えベクターの配列構造イメージは、図5のA(1)及び(2)に示す通りであり、前記T2Aのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.16に示す通りである。
【0064】
別の好ましい実施形態において、前記組換えベクターCD7BB-BL6-002は、TH69BB-002とCD7-L-ER2.1がT2Aで連結され、前記組換えベクターの配列構造イメージは、図5のB(3)及び(4)に示す通りであり、前記T2Aのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.16に示す通りである。
【0065】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのシグナルペプチドは、CD8αに由来する。
【0066】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのCD8αシグナルペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID No.12に示す通りである。
【0067】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのシグナルペプチドは、GM-CSF-Rに由来する。
【0068】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのGM-CSF-Rシグナルペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID No.13に示す通りである。
【0069】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのscFvの軽鎖および重鎖は、(GGGGS)3リンカーペプチドによって連結されており、前記リンカーペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.14に示す通りである。
【0070】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのscFvの軽鎖および重鎖は、Whitlowリンカーペプチドによって連結されており、前記リンカーペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.15に示す通りである。
【0071】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターにおけるキメラ抗原受容体をコードする核酸分子とCD7ブロッキング分子をコードする核酸分子が、内部リボソームエントリー部位(Internal Ribosome Entry Site,IRES)またはリボソームコドンスキッピング部位(a ribosomal codon skipping site)によって連結される。
【0072】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターの内部リボソームエントリー部位(Internal Ribosome Entry Site,IRES)が、脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocarditis virus,EMCV)またはエンテロウイルス(Enterovirus)に由来する。
【0073】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのリボソームコドンスキッピング部位は、2A自己切断ペプチドを含み、2A自己切断ペプチドが、口蹄疫ウイルスF2Aペプチド(foot-and-mouth disease virus 2A peptide)、ウマ鼻炎AウイルスE2Aペプチド(equine rhinitis A virus 2A peptide)、ブタテスコウイルスP2Aペプチド(porcine teschovirus-1 2A peptide)またはT2Aペプチド(thosea asigna virus 2A)から選択できる。
【0074】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターの2A自己切断ペプチドは、T2Aに由来する。
【0075】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのT2A自己切断ペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.16に示す通りである。
【0076】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターの2A自己切断ペプチドは、F2Aに由来する。
【0077】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターのF2A自己切断ペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.17に示す通りである。
【0078】
本発明の第15の態様は、改変免疫細胞の調製における前記第14の態様に記載の組換えベクターの応用を提供する。
【0079】
本発明の第16の態様は、(1)前記第5の態様に記載の組換えベクター、および(2)前記第11の態様に記載のベクターを含む試薬の組み合わせを提供する。
【0080】
本発明の第17の態様は、CD7陽性血液悪性腫瘍を治療するためのCAR-T細胞またはCAR-NK細胞の調製における、第16の態様に記載の試薬の組合せの応用を提供する。
【0081】
本発明の第18の態様は、(1)上記第15の態様に記載の組換えベクター、および(2)細胞内のCD7遺伝子をノックアウトすることができるゲノム編集ツールを含む試薬の組合せを提供する。
【0082】
別の好ましい実施形態において、前記ゲノム編集ツールはTALENsまたはCRISPR/cas9である。
【0083】
本発明の第19の態様は、キメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインの配列であって、前記配列は抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvであり、または抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvと少なくとも90%の配列同一性を有し、前記抗CD7モノクローナル抗体TH69のscFvのアミノ酸配列がSEQ ID NO.8に示す通りである抗原認識ドメインの配列を提供する。
【0084】
本発明の第20の態様は、第19の態様に記載のキメラ抗原受容体におけるCD7を標的とする抗原認識ドメインの配列をコードする核酸分子を提供する。
【0085】
別の好ましい実施形態において、第20の態様に記載の核酸分子のコード配列がTH69BB-002であり、前記TH69BB-002の核酸分子の配列がSEQ ID NO.18に示す通りである。
【0086】
本発明の第21の態様は、第20の態様に記載の核酸分子の配列を含む組換えベクターを提供する。
【0087】
別の好ましい実施形態において、前記ベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、トランスポゾンから選択される。
【0088】
本発明の第22の態様は、
(1)第21の態様に記載の組換えベクター、および
(2)第8の態様に記載の核酸配列を含む組換えベクター、または細胞内のCD7遺伝子をノックアウトすることができる遺伝子編集ツールからなる群から選択されるいずれか1つを含む試薬の組合せを提供する。
【0089】
本発明の第23の態様は、CD7陽性血液悪性腫瘍を治療するためのCAR-T細胞またはCAR-NK細胞の調製における、第22の態様に記載の試薬の組合せの応用を提供する。
【0090】
先行技術と比較して、本発明は以下の優位性を有する:本発明は、CD7特異的CAR-T細胞の抗原認識ドメインとして抗体配列の代わりにヒト由来のCD7-Lを使用し、標的とするCD7 CARにおいてヒト由来のCD7-Lを抗原認識ドメインとするものであり、それが宿主によって発生する細胞反応および体液性反応を防止できるため、再注入後生体内でCAR-T細胞の長期生存とより優れた治療効果が達成される利点がある。
【0091】
CD7は膜貫通型糖タンパク質であり、一般的にはほとんどの末梢性T細胞、NK細胞およびその前駆体に発現している。疾患T細胞とNK細胞自体がCD7を高密度に発現し;CD7を欠如したT細胞は、干渉されない発育、恒常性、保護機能が大いに現れ;CD7は末梢血T細胞の機能に大きな影響を及ぼさないため、CAR-T細胞療の有望な標的とされている。正常なT細胞も疾患T細胞もCD7を発現するため、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor, CAR)T細胞の調製を行う際には、1.T細胞にCD7を標的とするキメラ抗原受容体(CAR-T)を発現させるように正常T細胞を遺伝子改変し、CD7陽性の疾患T細胞を殺傷する;2.相互認識に起因するCAR-T細胞による自殺の発生を回避するために、CAR-T細胞自体のCD7発現を遮断することが必要である、という2つの要素を同時に考えなければならない。したがって、本発明の技術的解決策は、T細胞にCD7特異的CARを発現させるように正常T細胞を遺伝子改変することと、正常T細胞内のCD7発現を遮断することの両方も考慮に入れている。本発明の出願人は、数多くの実験を行い、実験パラメータを絶えずに修正・検証して、最終的に本発明の技術解決策に至り、本発明の技術解決策により、T細胞にCD7特異的CARを発現させるように正常T細胞を遺伝子改変し、同時に正常T細胞のCD7発現を遮断することができ、予想外の技術効果を達成した。
【0092】
図面の簡単な説明
本発明の他の特徴、目的及び利点は、以下の添付図面を参照して非限定的な実施形態の詳細な説明を読むことによってより明らかになる:
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1図1は、CD7を発現するK562およびHeLa細胞株の確立を示す。CD7 cDNAを担持するレンチウイルスベクターを用いてK562およびHeLa細胞株を形質導入し、フローソーティングによりK562-CD7およびHeLa-CD7を得た。図1において、K562およびHeLa細胞株上のCD7発現のフローサイトメトリーを示す。
図2図2は、CD7-CARおよびCD7ブロッキング分子のベクター構造のイメージである。AおよびBは、2種類の第2世代のCD7特異的CARを示す。そのうち、A、CD7BB-002の抗原認識領域はCD7-Lであり、B、TH69BB-002の抗原認識領域はモノクローナル抗体TH69のSCFvである。二つのCARベクターは同じCD8aヒンジ膜貫通ドメインを有し、4-1BB共刺激ドメインとCD3ζはT細胞刺激ドメインである。モノクローナル抗体TH69のscFvは、CD8αシグナルペプチドを用い、その軽鎖(VL)と重鎖(VH)の可変領域のリンカーペプチドは(GGGGS)3である。CとDは2種類のCD7ブロッキング分子である。そのうち、C、CD7-L-ER2.1のCD7結合ドメインはCD7-Lであり、D、TH69-ER2.1のCD7結合ドメインはTH69のscFvであり、それはCD8αシグナルペプチドを用い、その軽鎖(VL)と重鎖(VH)の可変領域のリンカーペプチドは(GGGGS)3であり、二つのCD7ブロッキング分子には、同じER小胞体保持ドメインを有する。
図3図3は、CD7-CAR-T細胞のフローサイトメトリーとインビトロ殺傷実験の結果を示す図である。AはCD7を標的とするCD7BB-002とTH69BB-002の2種類のCARのT細胞上での発現のフローサイトメトリーであり;BはiCELLigence(商標)リアルタイム細胞解析装置(Agilent Biosciences、Inc.)によるインビトロ殺傷実験であり;「T cell control」は形質導入されてないT細胞コントロールの図であり、「CD7BB-002」はCD7BB-002を発現するCAR-T細胞であり、「TH69BB-002」はTH69BB-002を発現するCAR-T細胞である。結果によると、いずれのCAR-T細胞もCD7を標的とした腫瘍細胞殺傷能力を有することがわかる。CD7-CAR-T細胞のフローサイトメトリーの試薬はCD7-CAR-GREENであり;インビトロ殺傷実験において使用された標的細胞はHeLa-CD7である。
図4図4は、Intrablock(商標)CD7発見遮断技術を用いて、細胞膜上のCD7発現を遮断した結果を示す図である。CD7に結合できるリガンドCD7-LまたはTH69 scFV cDNAを担持し、ER保持ドメインに結合するレンチウイルスベクターCD7-L-ER2.1およびTH69- ER2.1を用いて、K562-CD7細胞株(A)またはT細胞(B)を形質導入し、CD7のフローサイトメトリーを実行した。その結果、いずれのCD7発現ブロッキング分子も、細胞表面でのCD7発現を有効に低下できることが分かる。
図5図5は、Intrablock(商標)CD7発見遮断技術を用いて構築したCD7 CARを標的とするレンチウイルスベクターの構造図である。AおよびBは、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術を用いて構築した2種類のCD7-CARレンチウイルスベクターである。そのうち、A、CD7BB-BL4-002、(1)は、CD7を標的とするキメラ抗原受容体のイメージであり、その抗原認識領域がCD7-Lであり;(2)は、CD7ブロッキング分子のイメージであり、CD7発現遮断役割を果たすCD7結合ドメインがモノクローナル抗体TH69のscFvであり;B、CD7BB-BL6-002、(3)は、CD7を標的とするキメラ抗原受容体のイメージであり、その抗原認識領域はモノクローナル抗体TH69のscFvであり;(4)は、CD7ブロッキング分子のイメージであり、CD7発現ブロッカーとして働くCD7結合ドメインがCD7-Lであり;両CARベクターは、同様なCD8αヒンジ膜貫通領域、4-1BB共刺激ドメイン、CD3ζT細胞刺激ドメインおよびER小胞体保持ドメインを有する。モノクローナル抗体TH69のscFvは、CD8αシグナルペプチドを用い、その軽鎖と重鎖の可変領域のリンカーペプチドはに(GGGGS)3である。
図6図6は、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術を使用することにより、CD7-CAR-T細胞が、自殺の発生を回避し、標的細胞を効果的に殺傷することができる図である。(a)において、A、CD7を標的とする異なる4種類のCARの、T細胞における発現のフローサイトメトリーであり;B、CD7の、上記異なる4種類のCAR-T細胞における発現のフローサイトメトリーであり;使用されるベクターはそれぞれ、CD7BB-002、TH69BB-002およびIntrablock(商標)CD7発現遮断技術を用いて構築したCD7BB-BL4-002およびCD7BB-BL6-002であり;破線は形質導入されていないT細胞コントロールであり、実線はCD7を標的とするCAR形質導入されたT細胞である。(b)において、Cは上記異なる4種類のCAR-T細胞のインビトロ培養における増殖観察であり、DはiCELLigence(商標)リアルタイム細胞解析装置(Agilent Biosciences、Inc.)によるインビトロ殺傷実験である。T cell controlは形質導入されていないT細胞コントロールであり、CD7BB-002、TH69BB-002、CD7BB-BL4-002及びCD7BB-BL6-002はいずれもCD7を標的とするCAR-T細胞であり、そのうち、CD7BB-BL4-002とCD7BB-BL6-002はIntrablock(商標)CD7発現遮断技術によるCD7-CAR-T細胞である。CD7-CAR-T細胞のフローサイトメトリーの試薬はCD7-CAR-GREENであり;インビトロ殺傷実験において使用された標的細胞はHeLa-CD7である。
図7図7は、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術によるCD7-CAR-T細胞のインビボ腫瘍殺傷実験の結果である。雌のNSGマウスを使用し、腫瘍細胞(ルシフェラーゼを担持する腫瘍細胞株、CCRF-CEM-Luc、5x10E5/mouse、i.v.)をD0日目に注射した。A、1はネガティブコントロールグループであり、2と3は再注入T細胞コントロールグループ、CD7を標的とするCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞治療グループである。腫瘍細胞を注射した後D3日目に、T細胞またはCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞(8x10E6/mouse)をそれぞれ静脈注射し、その後、7日ごとにマウスに対して生体のルシフェラーゼイメージングをした。B、再注入T細胞コントロールグループ(control group)およびCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞治療グループ(treatment group)のマウスの生存曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
発明を実施するための形態
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明を詳しく説明する。下記実施例は、当業者が本発明を深く理解するためのものであるが、任意の形態で本発明を限定するものではない。当業者にとって、本発明のアイデアを逸脱することなく、幾つかの変化や改善を行っても良い。これらは本発明の保護範囲にある。
【0095】
本発明は、CD7陽性血液悪性腫瘍に対するCAR-T細胞療法や免疫毒素の開発のために、SECTM1(K12)の細胞外ドメインをCD7の抗原認識ドメインとして用いる。本出願では、SECTM1またはK12の代わりにCD7-Lを使用している。CD7-L遺伝子は、もともとヒト第17染色体上のCD7遺伝子の5′末端に同定された。ヒトCD7-Lタンパク質は、脾臓、前立腺、精巣、小腸、末梢血白血球に主に発現し、CD7-Lの特徴は、免疫グロブリンの様な構造ドメインに似た細胞外構造ドメインを有する膜貫通タンパク質をコードすることである。CD7-Lは2000年にクローニングされ、CD7の結合タンパク質であることがわかった。
【0096】
CD7-Lタンパク質の結合役割を確認するために、従来の研究では、CD7-Lの細胞外ドメイン(アミノ酸1-145)とヒトIgG1のFc部分との融合タンパク質を用いた。フローサイトメトリー実験により、CD7-L-Fc融合タンパク質が、ヒト由来のT細胞やNK細胞に高いレベルで結合できることが明らかになっている。CD7を標的とするいくつかの抗体は、違う程度で、CD7-L-Fc融合タンパク質の細胞への結合を遮断した。逆も同様であるように、CD7-L-Fc融合タンパク質は、これらのCD7モノクローナル抗体のCD7への結合を遮断できることから、CD7-L-Fcは細胞上のCD7受容体に結合できると考えられる。CD7-L-Fc融合タンパク質を放射性標識して結合実験に用い、CD7を発現するJurkat細胞(ヒトT細胞白血病細胞株)またはKG-1細胞(ヒト顆粒球性白血病細胞株)への結合親和性を測定した。CD7-L-FcがヒトCD7への結合親和性(Ka)は約1x108M-1の範囲であった。CD7はT細胞悪性腫瘍の良好なマーカーと考えられ、抗ヒトCD7モノクローナル抗体とリシンやサポニンを結合させて免疫毒素を作成する研究が行われてきた。
【0097】
そこで、本出願では、T細胞悪性腫瘍を治療するためのCD7-CAR-TまたはCAR-NK細胞の開発のために、CD7-Lの細胞外構造ドメインを用いて、CD7を標的とするキメラ抗原受容体およびそのCD7のブロック分子を構築する。また、本出願では、CD7-Lの細胞外ドメインを毒素と結合させ、これらの結合体をT細胞悪性腫瘍に対する免疫毒素として使用し、その免疫原性が抗体ベースの結合体よりも低いため、より長い半減期が有すると考えられる。
【実施例
【0098】
実施例1、CD7-Lを抗原認識ドメインとして用いるCAR-T細胞は、CD7腫瘍抗原を効果的に認識することができる;
本実施例では、まず、CD7-LまたはCD7特異的モノクローナル抗体TH69のscFvを抗原認識領域として用いた2種類の第2世代CARレンチウイルスベクター、CD7BB-002およびTH69BB-002を構築した(図2A、B)。CARレンチウイルスベクターの形質導入によりCAR-T細胞を得て、CD7とレポーター遺伝子eGFP融合タンパク質から産生されたCD7-CAR-T細胞によるフローサイトメトリー用試薬(CD7-CAR-GREEN)を用いて、フローサイトメトリーを行った(図3A)。その結果、CD7-CAR-GREENは、CD7を標的とするこの2種類のCAR-T細胞の検出に有効に利用でき、CD7-Lおよびモノクローナル抗体TH69のscFvはいずれもCAR-T細胞のCD7特異的抗原認識領域として利用できることが示された。
【0099】
実施例2、CD7を標的とするCAR-T細胞は、CD7陽性を発現する腫瘍細胞を効果的に殺傷できる;
本実施形態では、まず、CD7 cDNAを担持するレンチウイルスベクターを用いてK562細胞株およびHeLa細胞株を形質導入し、CD7を発現するK562-CD7細胞株およびHeLa-CD7細胞株をフローソーティングにより得た(図1)。CD7を標的とする2種類のCAR-T細胞、すなわちCD7BB-002およびTH69BB-002をCARレンチウイルスベクターの形質導入により得、iCELLigence(商標)リアルタイム細胞解析装置(Agilent Biosciences、Inc.)によりインビトロ殺傷実験を行った(図3B)。その結果から、CD7-Lを抗原認識領域とするCD7BB-002と、モノクローナル抗体TH69 scFvを抗原認識領域とするTH69BB-002は、いずれもCD7抗原を有効に認識し、CD7陽性のHeLa-CD7標的細胞の殺傷において同等の効果があることが示された。
【0100】
実施例3、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術は、細胞膜上のCD7発現を効果的に遮断することができる;
本実施例では、まず、CD7-LまたはCD7特異的モノクローナル抗体TH69のscFvをCD7結合ドメインとして構築し、ER保持ドメインにおけるレンチウイルスベクター、CD7-L-ER2.1およびTH69-ER2.1に結合した(図2C、D)。レンチウイルスベクターによりK562-CD7細胞株または初代T細胞の形質導入を行い、フローサイトメトリーを行い、CD7発現遮断技術を評価した。その結果、TH69-ER2.1およびCD7-L-ER2.1は、いずれもK562-CD7細胞株(図4A)またはT細胞(図4B)上のCD7発現を効果的に遮断できたから、TH69-ER2.1およびCD7-L-ER2.1はいずれも細胞内においてCD7と結合して小胞体に保持できることを示している。したがって、このIntrablock(商標)CD7発現遮断技術を用いることで、細胞上のCD7発現を遮断し、標的とするCD7 CAR-T細胞の自殺を防止することができる。
【0101】
実施例4、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術により、CD7-CAR-T細胞の自殺の発生を回避し、CD7陽性標的細胞を効果的に殺傷することができる;
本実施形態では、まず、Intrablock(商標)CD7発現遮断機能を有し、且つCD7を標的とするCARレンチウイルスベクター、すなわちCD7BB-BL4-002およびCD7BB-BL6-002を構築した(図5A、B)。CD7は本来CAR-T細胞の調製に用いられるT細胞に発現するため、CD7を標的とするCAR-T細胞の調製では自殺が発生し、CAR-T細胞の調製が困難である。図6に示すように、CD7を標的とする2種類のCAR-T細胞であるCD7BB-002およびTH69BB-002は、いずれもCD7-CAR-GREENにより効果的に認識され(図6A)、CD7陽性のHeLa-CD7標的細胞を効果的に殺傷することができた(図6D)。しかし、CD7を標的とするこの2種類のCAR-T細胞は、インビトロ培養中に重篤な自殺が発生し、CAR-T細胞のインビトロ増幅および調製が困難である(図6C)。実施例3に記載のIntrablock(商標)CD7発現遮断技術を用い、CD7を標的とするCD7BB-BL4-002およびCD7BB-BL6-002レンチウイルスベクターを構築して、CAR-T細胞の調製に使用される。Intrablock(商標)CD7発現遮断技術を用いて調製したCD7BB-BL4-002およびCD7BB-BL6-002の2種類のCAR-T細胞は、いずれもCD7-CAR-GREENによって効果的に認識され(図6A)、HeLa-CD7標的細胞の殺傷能力を維持する(図6D)同時にCD7発現を遮断でき(図6B)、CAR-T細胞の調製における自殺の発生を回避し(図6C)、CD7を標的とする特異的CAR-T細胞のインビトロ増幅および調製を可能にする。
【0102】
実施例5、動物モデルにおいて、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術を用いたCD7-CAR-T細胞のインビボでの腫瘍殺傷機能を検証する;
本実施形態では、Intrablock(商標)CD7発現遮断技術によるCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞を用いて、インビボの腫瘍殺傷実験を実施した(図7)。6~8週の雌NSGマウスを使用し、ルシフェラーゼを担持する腫瘍細胞株、CCRF-CEM-Luc, 5x10E5/mouse, i.v.を、D0日目に尾静脈注射した。腫瘍細胞を注射した後D3日目に、T細胞(再注入T細胞コントロールグループ)またはCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞(8x10E6/mouse)(CAR-T細胞治療グループ)をそれぞれ静脈注射した。マウス生体のルシフェラーゼイメージングはD0日以降7日ごとに行った。その結果は、Intrablock(商標)Cd7発現遮断技術を用いたCD7BB-BL4-002 CAR-T細胞が、このマウスの腫瘍モデルにおいて効果的に腫瘍を殺傷し、CAR-T細胞治療グループのマウスの生存期間を延長できたことを示した(図7、AおよびBに示す通りる)。
【0103】
先行技術と比較して、本発明は以下の優位性を有する:本発明は、CD7特異的CAR-T細胞の抗原認識ドメインとして抗体配列の代わりにヒト由来のCD7-Lを使用しており、標的とするCD7 CARにおいてヒト由来のCD7-Lを抗原認識ドメインとする利点として、宿主によって発生する細胞反応および体液性反応を防止できるため、再注入後生体内でCAR-T細胞の長期生存とより優れた治療効果が達成されることである。CD7は膜貫通型糖タンパク質であり、一般的にはほとんどの末梢性T細胞、NK細胞およびその前駆体に発現している。疾患T細胞とNK細胞自体がCD7を高密度に発現し;CD7を欠如したT細胞は、干渉されない発育、恒常性、保護機能が大いに現れ;CD7は末梢血T細胞の機能に大きな影響を及ぼさないため、CAR-T細胞療の有望な標的とされている。正常なT細胞も疾患T細胞もCD7を発現するため、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor, CAR)T細胞の調製を行う際には、1.T細胞にCD7を標的とするキメラ抗原受容体(CAR-T)を発現させるように正常T細胞を遺伝子改変し、CD7陽性の疾患T細胞を殺傷し;2.相互認識に起因するCAR-T細胞の自殺の発生を回避するために、CAR-T細胞自体のCD7発現を遮断することが必要である、という2つの要素を同時に考えなければならない。したがって、本発明の技術的解決策は、T細胞にCD7特異的CARを発現させるように正常T細胞を遺伝子改変することと、正常T細胞内のCD7発現を遮断することの両方も考慮に入れている。本発明の出願人は、数多くの実験を行い、実験パラメータを絶えずに修正・検証して、最終的に本発明の技術解決策に至り、本発明の技術解決策により、T細胞にCD7特異的CARを発現させるように正常T細胞を遺伝子改変し、同時に正常T細胞のCD7発現を遮断することができ、予想外の技術効果を達成した。
【0104】
以上、本発明の具体的な実施例について説明した。本発明は、上記実施形態に限定されず、当業者が本発明の実質的な内容に影響を与えない前提で、請求範囲内で様々な変化又は修正を行っても良い。Intrablockは商標マークであり、本発明の技術解決策を制限または限定するものではない。齟齬が生じない前提で、本願の実施例及び実施例の特徴は任意に互いに組み合わせても良い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
【配列表】
2024502632000001.app
【国際調査報告】