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特表2024-502637直接溶解法によって移送混合物を生成するための方法及び薄膜蒸発機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】直接溶解法によって移送混合物を生成するための方法及び薄膜蒸発機
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240115BHJP
   B01D 1/22 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B01D1/22 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542508
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 EP2022050477
(87)【国際公開番号】W WO2022152713
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】102021100484.5
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317018192
【氏名又は名称】リスト テクノロジー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110003476
【氏名又は名称】弁理士法人瑛彩知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュタイナー, マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】クンケル, ローランド
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター, ユーディット アンドレア ミシェル
【テーマコード(参考)】
4D076
4G052
【Fターム(参考)】
4D076BA17
4D076CD03
4D076CD12
4D076EA08Z
4D076EA12Z
4D076FA04
4D076FA24
4D076HA20
4D076JA04
4G052DA02
4G052DA03
4G052DA04
4G052DA08
4G052DB05
4G052DC01
(57)【要約】
本発明は供給部、ハウジング、および送出部を有する薄膜蒸発器(D)内で直接溶解法によって移送混合物を製造する方法に関し、供給部は実質的にセルロース、水、および機能性液体からなる生成物をハウジングに導入し、ハウジング(4)内に位置する蒸発器シャフト(5)が回転して前記生成物をハウジング(4)の加熱された内部にわたって掻き取り、生成物が加熱され、水の一部が蒸発して、移送混合物を形成し、(a)移送混合物は製品が実質的に過熱する前に送出され、および(b)生成物と接触する薄膜蒸発器の全ての加熱面は生成物の温度より少なくとも20K高い加熱温度に、さらされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給部、ハウジング、および送出部を有する薄膜蒸発機(D)内で直接溶解法により移送混合物を製造する方法であって、前記供給部が、実質的にセルロース、水、および機能性液体からなる生成物を前記ハウジング内に導入し、前記ハウジング(4)内に位置する蒸発機シャフト(5)が回転して前記生成物を前記ハウジング(4)の加熱された内部にわたって掻き取り、前記生成物が加熱され、前記水の一部が蒸発して、前記移送混合物を形成する、方法において、
(a)前記移送混合物は、前記生成物が実質的に過熱する前に、送出されること、及び、
(b)前記生成物と接触する前記薄膜蒸発機の全ての加熱面が、前記生成物の温度より少なくとも20K高い加熱温度に、さらされること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
供給部、ハウジングおよび送出部を有する薄膜蒸発機(D)内で直接溶解法により移送混合物を製造する方法であって、前記供給部が、実質的にセルロース、水およびN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)からなる生成物を前記ハウジング内に導入し、前記ハウジング(4)内に位置する蒸発機シャフト(5)が回転して前記生成物を前記ハウジング(4)の加熱された内部にわたって掻き取り、前記生成物が加熱され、前記水の一部が蒸発して、前記移送混合物を形成する方法において、
前記移送混合物の組成は、
最大xH2O=-0.235xCell+0.235 および
最小xH2O=-0.59xCell+0.2047
であること、
を特徴とする方法。
【請求項3】
前記移送混合物が、
最大xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2288
最小xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2188
の好ましい組成、を有すること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記移送混合物が、少なくとも1つの後続の移送器を通過すること、を特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記移送混合物が、後続の処理器に移送されること、を特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記後続の処理器が、前記移送混合物を、成形溶液を形成するように更に処理すること、を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
機械制御部が、前記供給部から前記送出部まで、前記移送溶液の組成物中の水、セルロースおよび機能性液体の割合を、監視すること、を特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記機械制御システムは、センサを介して前記移送混合物までの全ての状態における前記製品の組成を監視すること、を特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記後続の処理器が混合混練機であることを特徴とする、請求項5から8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合混練機は、前記移送混合物を、直接溶解法に従って、水蒸発及び撹拌によって、成形溶液へとさらに処理し、混練機シャフト構造は、加熱空洞なしで、設計されていること、を特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
直接溶解法により出発材料を移送混合物へと処理するための薄膜蒸発機(D)であって、供給部、ハウジング、および送出部を有し、前記供給部が、実質的にセルロース、水、および機能性液体からなる生成物を前記ハウジング(4)内に導入し、前記ハウジング(4)内に位置する蒸発機シャフト(5)が回転して前記生成物を前記ハウジング(4)の加熱された内部にわたって掻き取り、前記生成物が加熱され、前記水の一部が蒸発して、前記移送混合物を形成する方法において、
前記生成物と接触する前記薄膜蒸発機の全ての加熱面が、前記生成物の温度より少なくとも20K高い加熱温度に、さらされること、
を特徴とする薄膜蒸発機(D)。
【請求項12】
直接溶解法により出発材料を移送混合物へと処理するための薄膜蒸発機(D)であって、供給部、ハウジングおよび送出部を有し、前記供給部が、実質的にセルロース、水、およびN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)からなる生成物を前記ハウジング(4)に導入し、前記ハウジング(4)内に位置する蒸発機シャフト(5)が回転して前記生成物を前記ハウジング(4)の加熱された内部にわたって掻き取り、前記生成物が加熱され、前記水の一部が蒸発して、前記移送混合物を形成する薄膜蒸発機(D)において、
前記移送混合物の組成が
最大xH2O=-0.235xCell+0.235 および
最小xH2O=-0.59xCell+0.2047
に達すると、前記移送混合物は前記送出部を通って移送可能であること、
を特徴とする薄膜蒸発機(D)。
【請求項13】
前記移送混合物が、
最大xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2288
最小xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2188
の好ましい組成、を有すること、を特徴とする請求項12に記載の薄膜蒸発機(D)。
【請求項14】
前記移送混合物が、少なくとも1つの後続の移送器に動作可能に接続されていること、を特徴とする、請求項11~13のいずれか一項に記載の薄膜蒸発機(D)。
【請求項15】
前記移送混合物が、後続の処理器に動作可能に接続されること、を特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の薄膜蒸発機(D)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1、2、11及び12の前提部分に記載の、直接溶解法に従い、移送混合物を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
セルロース-水-機能性液体混合物(以下、生成物およびセルロース、生成物成分としての機能性液体および水、とも称される)から水を蒸発させることによる工業規模での直接溶解法による、セルロースからの成形溶液の製造方法は、例えば、特許文献1に記載されており、N-メチルモルホリン-N-オキシド(以下、NMMOまたはアミンオキシド(英:amine oxide)とも称される)が、機能性液体として使用される(一般に、リヨセル成形溶液法(英:Lyocell molding solution method)又はアミンオキシド法(英:amine oxide method)として知られている)。セルロース-水-機能性液体混合物または生成物は、全ての含水量、又は、懸濁液が存在する大きな含水量から、成形溶液が存在し、従って移動混合物を含むような、小さな含水量までの、物質混合状態、を意味している。
【0003】
特許文献1は、セルロース-NMMO-水混合物からの水の蒸発のための薄膜蒸発機の使用について記載しており、これは現在リヨセル成形溶液法のために広く使用されている。また、これは、様々な形態および設計において現在公知であり、一般的に使用されており、それらは全て、薄膜蒸発機のハウジング内の蒸発機シャフトが加熱面としての役割を果たす内側ハウジング表面上で生成物を分配し、その結果、薄膜が形成されることによって、特徴付けられる。この薄膜は、回転速度の増加および粘度の減少に伴って、追加的に依然として乱れがあってもよく、その結果、生成物が急速に加熱され、水の一部が蒸発する。加熱表面とは、上記でも以下でも、任意の加熱された表面を意味しており、それは、加熱表面と生成物との間の温度差を介して、生成物に熱的にエネルギーを導入することが意図されている。しかしながら、この方法は、成形溶液の製造を開示しており、ここで、以下、この溶液は、特許文献2で定義されているような、成形溶液と称される。
【0004】
薄膜蒸発機は通常、例えば特許文献1に記載されているように、蒸発機シャフトを垂直方向に向けて設計されているが、例えば特許文献3に記載されているように、蒸発機シャフトを水平方向に向けて設計されていてもよい。
【0005】
当業者は、さらに、NMMOの代わりにイオン液体(以下、ILと称する)を機能性液体として使用する直接溶解法によるセルロースからの成形溶液の製造方法に精通しているが、そうでなければ、成形溶液は、セルロース-IL-水混合物から水を蒸発させる薄膜蒸発機を用いることによる直接溶解法によっても、製造される。
【0006】
ここで、ILまたはイオン性液体は、有機化合物のグループを指し、それらは、それらのイオン構造にもかかわらず、低融点(<100℃)を有し、したがって溶融塩(英:molten salt)とも称される。したがって、機能性液体としてのILの使用は、常に、直接溶解法に適したイオン性液体のグループ内での実施形態を、意味している。
【0007】
一部のILは高温で熱分解する傾向があり、その結果、加熱されたILを含むプロセスはILの温度をその分解温度未満に保たなければならないことが、当業者には知られている。一例として、約100℃の温度を超えるIL[DBNH][OAc]の分解を挙げることができる。また、当業者には、高温でNMMO-水混合物の含水量を減少させると、NMMOの分解が始まること、が知られている。一般的には140℃を超える温度では、例えば爆発性自己触媒分解による、含水量の減少に伴う爆発の危険性が増大し、それからさらに温度が上昇し、したがって爆発の緊急な危険性が続く。混合物の組成に応じて、分解温度は例えば、還元剤(セルロースなど)および重金属イオン(鉄イオンなど)の存在によって低下され得るので、分解は、125℃を超える温度からでも観察され得る。上述した直接溶解法の場合、安定剤の通常の添加にもかかわらず、プロセスにおけるセルロースの存在および機械構成のための鉄材の使用により、分解温度の低下が予想され得る。
【0008】
また当業者には、本発明の文脈において、実質的な過熱と称される状態が、問題として知られており、機能性液体の分解を回避するために、生成物の温度(以下、生成物温度とも称される)を制御することに大きな注意を払わなければならない。したがって、当業者は、生成物の所望の温度ならびにその平衡温度が分解温度未満であるプロセスを、選択する。
【0009】
多成分混合物では、セルロース機能性液体-水混合物の場合のように、混合物のそれぞれの組成には、混合物が沸騰し始める支配的なプロセス条件(圧力)で平衡温度が割り当てられる。エネルギーがシステムに加えられる場合、揮発性成分の一部(この場合、水)が蒸発する。同時に、混合物の組成が変化し、その結果、平衡温度も変化する。したがって、混合物はエネルギーが供給されると加熱され、一方、その組成は、揮発性成分の蒸発により、その平衡曲線に沿って変化する。含水量が減少することにつれて、セルロース濃度の増加および機能性液体または機能性液体-水混合物の溶解力の増加により、粘度が増加する。粘度が増加に伴い、生成物中の蒸発水は、輸送制限の危険性をますます高め、その結果、蒸発冷却はもはや十分な程度までは行われ得ず、結果として、水-機能性液体混合物の温度および生成物の温度は、平衡温度を上回る値まで増加する。混合物の平衡温度は、その組成およびプロセス圧力と共に変化する。したがって、輸送を制限する効果なしでも、混合物の温度は、プロセスの過程にわたって上昇し、その結果、プロセスパラメータが適切に選択される場合には、平衡温度でさえ分解が起こり得る。したがって、当業者は、発生する平衡温度が常に分解温度未満であるプロセスパラメータを、選択する。機能性液体としてのNMMOに対しては、例えば、通常、50℃~110℃の範囲の平衡温度が、例えばプロセスの過程にわたって、生じる。
【0010】
機能性液体としてのNMMOの場合、発熱分解処理は、さらに、局所的な材料過熱(ホットスポット)をもたらし、輸送が制限される場合、そこから反応熱を十分な程度まで放散させることができない。これは、その後、さらなる発熱分解処理を誘発する。
【0011】
著しい過熱は、機能性液体、セルロースまたはセルロース機能性液体-水混合物を、それらの分解が起こるような高温に、加熱させる。生成物または生成物成分の温度が生成物または生成物構成成分に特有の分解温度を超える結果をその都度もたらす過熱は、以下では、実質的な過熱を有する、と称される。それに関して、過熱が、移送制限による蒸発冷却の不足からの結果であるか、または、平衡状態での生成物の過乾燥によってもたらされるのか、は重要ではない。
【0012】
機能性液体の分解は上述されている。一方で、それは、失われた、通常非常に高価な、機能性液体を交換する必要性を引き起こし、他方で、機能性液体としてNMMOを使用して、爆発の危険性を急激に増加させる。
【0013】
しかしながら、実質的な過熱は、場合によっては、高い粘度において通常支配的である、増加したせん断と関連する、過度に高い温度でのセルロースの重合度(DPとして当業者に知られている)の低下を導きながらの、セルロースまたはセルロース機能性液体-水混合物の(または、定義により、生成物の)分解も、含み得る。したがって、生成物の実質的な過熱は、生成物または生成物自体の一部の分解によっても、生成物を損傷するような、または、安全性を脅かすような、影響を及ぼす可能性がある。
【0014】
自明であるが、分解温度未満の温度でのプロセスコントロールは、非熱的に誘起される分解プロセス(例えば、ラジカル反応)によって、生成物を損傷するように又は安全性を脅かすように、作用し得る。しかしながら、実際には、一般的な安定剤によって、これに対抗する。
【0015】
さらに、分解温度を上回る平衡温度を目的とする温度制御も、生成物の損傷や安全上の危険をもたらす。実際には、当業者がそのような動作モードを目的としない。
【0016】
それにもかかわらず、直接溶解法のために薄膜蒸発機を使用する場合、装置固有の特性に基づき、温度制御に、特別に注意する必要である。一方で、装置内に少量の生成物が存在する特徴的に高い熱入力は、揮発性成分の効率的な蒸発をもたらす。他方で、発生するプロセス変動(例えば、供給される混合物流量、エネルギー入力または生成物粘度)は、装置内の少量の生成物に基づき、限定的にしか補償され得ない。したがって、供給される混合物流量のわずかな減少は、すでに、生成物温度の著しい上昇をもたらす可能性がある。これは、分解温度を超える範囲の温度上昇のリスクを伴う。
【0017】
特許文献4にも、リヨセル成形溶液を製造するための薄膜蒸発機が開示されており、薄膜蒸発機の蒸発機シャフトにおける搬送要素は、急速な垂直方向生成物輸送のために、急勾配にされている。これは、高い製造能力およびプロセス効率のために必要とされるような高い加熱温度および真空でさえも、実質的な過熱による分解のリスクを低減することを可能にするが、これは、より高い加熱温度によって補償され、当該より高い加熱温度は、より短い滞留時間を補償するために必要とされるより高い熱流束密度のために、必要とされる。
【0018】
最後に、薄膜蒸発機は、端部に位置するスクリューに合流し、このスクリューはポンプを供給し、当該ポンプは、配管を通して、例えば紡糸口金などの成形装置に、成形溶液を圧送する。これは、一方で、成形溶液をポンプの上流に蓄積することができるという利点を有し、これは薄膜蒸発機が真空下で動作することを可能にするために、多くの圧力構築的な排出装置の動作にとって必要である。
【0019】
溶解プロセスは瞬間的に起こるのではなく、ある期間内にある溶解速度で行われるので、溶解プロセスに必要な溶解時間を保証するために、製品の蓄積も必須であることは当業者には明らかである。当業者には、溶解速度は温度などの様々な要因によって影響を受けるが知られている。記載された直接溶解法の場合、当業者には、温度に加えて、機能性液体の濃度および混合物への機械的な負荷もまた、溶解速度に影響を及ぼすことも知られている。したがって、同じ組成および同じ温度に対して、同じ処理時間に対する材料の異なる機械的な扱いの結果として、異なる溶解状態が生じ得る。
【0020】
送出前(排出前)に薄膜蒸発機内に生成物を収容する別の理由は、したがって、成形溶液の製造のための水蒸発に追加して必要な生成物に対する機械的作用であり、当該機械的作用は、薄膜蒸発機の蒸発機シャフトの特別に選択された幾何学的形状によって達成され、かつ、生成物の収容によって保証される一定の期間にわたって行われなければならない。
【0021】
蒸発機ポンプの予定外の停止においては、とりわけプロセスを含む生産プラント全体の、プロセスに続く多数のプロセス器のうちの1つの技術的な不具合による、中断の結果として、または、プロセスで使用される構成要素の不具合の結果として、ポンプの前に蓄積する成形溶液は、その高い粘度ゆえに、蒸発機シャフトからの機械的エネルギー入力の結果として、急速に過熱され、これは、生成物損傷の深刻なリスク、及び、NMMOの場合には、特に、爆発のリスクを表す。蒸発機シャフトの回転が停止されると、加熱された内部ハウジング表面と密接に接触する薄膜として分配される生成物は、急速に過熱する可能性があり、これもまた、生成物損傷の危険性、及び、特に爆発の危険性、がある。加熱されたハウジング表面は、本発明の文脈において加熱表面と称される。
【0022】
また、当業者は、その最大発熱面が一般的には約50mである大型の工業用薄膜蒸発機の限られた寸法を知っている。
【0023】
当業者は、以下のような欠点、すなわち、生成物または機能性液体の著しい過熱を回避するために、薄膜蒸発機における加熱表面の温度(加熱温度または加熱表面温度とも称する)が、薄膜蒸発機の送出側で大幅に低減されるという欠点、も知っている。そこに存在する生成物のより高い粘度によって、薄膜蒸発機の上部領域と比較して、消散によるより高いエネルギー入力がある。加えて、生成物の移送速度は送出の前の蓄積効果によって低減され、これは生成物の加熱を可能にする時間を増加させ、これは消散によるエネルギー入力だけでなく、熱エネルギー入力も増加させる。
【0024】
生成物の著しい過熱を回避するためには、したがって、上部領域に対する加熱温度を下げる必要がある。加熱面の温度は、通常以下の程度まで下げられる、すなわち、薄膜蒸発機から出る際の成形溶液の温度(以下、成形溶液温度とも称する)にほぼ対応する程度にまで、つまり、機能性液体としてのNMMOの場合、通常100~105℃に、下げられ、これは単に生成物を調温するため行われる。出発材料中の含水量に応じて、加熱温度が低下した送出側のゾーンは、通常、薄膜蒸発機の加熱表面の20%~50%に影響を及ぼす。逆に、加熱温度のこの低下を回避することは、熱エネルギー入力に使用される薄膜蒸発機の領域が25%から100%増加することを意味し、100%とは、つまり、2倍になることを意味する。
【0025】
加熱表面温度を低下させる目的は、生成物または生成物成分の著しい過熱ならびにそれに関連する生成物の損傷および分解のリスクを回避するために、特にはこの機械的エネルギー入力を、補償することである。
【0026】
著しい過熱を回避するための加熱表面の温度の低下は、全ての機能性液体、NMMOまたはILにとって、利用可能な加熱表面の全てが熱エネルギー入力に使用され得るわけではないという点で不利であり、これは、薄膜蒸発機の限られた大きさを与えられ、この加熱温度の低下が生産ラインの最大生産能力を低下させ、これは、とりわけ、規模の経済性において、競合するコストに敏感な産業において、競争的に重要である。
【0027】
別の欠点は、機械的エネルギー入力のための熱エネルギー入力の上述の調整によるエネルギーコストの増加であり、これは、通常、加熱面を介しての安価な熱エネルギー入力の代わりに、一般的に高価な電気機械的エネルギー入力が、薄膜蒸発機の回転蒸発機シャフトのエネルギー消散を介して行われるからである。
【0028】
加熱温度の低下は、薄膜蒸発機の送出側の領域における生成物からの熱の移動にもつながり得て、これは、熱の損失及びエネルギーコストを更に増加を意味する。
【0029】
機能性液体としてのNMMOの場合、爆発の危険が、セルロース-NMMO-水混合物から水を蒸発させることによって、成形溶液を準備するための上記の全ての方法に共通している。
【0030】
特許文献5はここで、アミンオキシドプロセス(すなわち、機能性液体としてNMMOを用いる)による、セルロース系フィルム、繊維および他の成形品の製造のためのプラントを開示している。ここでは好ましくは、2つの複数のパルパーを有する2つの混合装置が使用される。これらの混合装置を用いて、パルプは最初に解繊または粉砕され、ポンプは乾燥パルプの10重量%以下の乾燥パルプ密度を有する水性アミンオキシド溶液中のパルプの第1の懸濁液を、装置(以下、装置1と称する)に圧送し、装置は、懸濁液が濃縮パルプ懸濁液に変換されるまで、存在する水の量を減少させ、装置1から、濃縮パルプ懸濁液はさらなる装置(以下、装置2と称する)に移され、生成された濃縮パルプ懸濁液は、セルロースの成形可能な溶液に、変換される。
【0031】
ここでは、両方の装置を薄膜蒸発機として設計することができる。この2段階蒸発の理由は、装置1の上流のプロセス制御によって引き起こされるパルプ-水-NMMO混合物中の高い含水量である。本発明の目的は、したがって、パルプ懸濁液を予備濃縮して、装置2によって蒸発させる水の量を減少させることである。装置1の後の生成物の状態としては、濃縮されたパルプ懸濁液が開示されており、これは、溶解工程がまだ開始されておらず、その結果、溶解されたセルロース成分が含まれていないこと、を意段する。
【0032】
しかしながら、装置1と装置2との間に吐出ポンプが設けられており、その前には液体蓄積の形態での濃縮パルプ懸濁液の蓄積がこの点で開示されており、それにより材料蓄積の危険性による爆発の危険性が再び増大している。
【0033】
特許文献6も、水を蒸発させるための2つの連続する装置を開示しており、第1の装置は薄膜蒸発機であり、第2の装置は厚膜蒸発機であり、好ましくは特許文献7に記載されているような混練式の反応機であり、以下では、混練式の反応機は、混合混練機(英:mixing kneader)と呼ばれる。そのシャフト(以下、混練シャフトと称する)を介しての良好な高粘度の混合特性および効率的な機械的エネルギー入力のおかげで、その速度を迅速に調整することができ、また、再度迅速に低減することができ、混合混練機は、非常に正確かつ確実に温度を制御することができ、原則として、生成物の冷却または放熱を回避することができる。薄膜蒸発機および混合混練機は、接続部によって互いに直接接続されているが、特許文献6は、接続部の明示的な実施形態については、言及していない。
【0034】
濃縮パルプ懸濁液のNMMO中の含水量は、溶解プロセス中に3つのセクションに分割される。第1のセクションの後、パルプ懸濁液は、薄膜蒸発機から送出され、混合混練機に供給される。第1のセクションは、粘度の増加を示さず、溶解窓の始まりで終わる。当該溶解窓は2.5水和物に対応し、これは、約72.2重量%のNMMO-水濃度(質量分率でのNMMO及び水に関連するNMMO)に対応する。ここでは、特許文献8のように、高い水含有量の存在することから低い爆発の傾向が予想される。第2のセクションは、主な溶解プロセスからなり、その結果、粘度は強く増加し始め、それに関連する必要な水の蒸発が、約1.5水和物が形成されるまで、起こり、これは、約81.3重量%のNMMO水濃度に対応する。第3のセクションでは、均質化が行われ、水は、0.8~1.0水和物(一水和物)が形成されるまで、蒸発し、これはそれぞれ約89.1重量%~86.7重量%のNMMO水濃度に対応する。
【0035】
蒸発機この方法の欠点は、依然として、薄膜蒸発機によって蒸発されない、高い含水量である。これは、薄膜蒸発機の未使用のプロセス効率を高めるポテンシャルに相当する。さらに、NMMO水部分がまだ2.5水和物として存在するセルロース-水-NMMO混合物の場合、後続の混合混練機は、特許文献6に記載されているように、入力ゾーンにおいて、依然として、大量の水を蒸発させなければならない。蒸発機
【0036】
混合混練機の経済的なサイズを達成するために、これは、混練作用による機械的なエネルギー入力に加えて、接触熱により無視できない割当の入力されるエネルギーが提供されなければならないという結果を有する。結果的に、少なくとも入力領域において加熱面を最大化しなければならず、このことは、以下に詳述するように、混合バーが取り付けられている混練シャフトに取り付けられているディスクも、それらが加熱され得るように、設計されていなければならないことを意味する。一方では、この加熱が、混合混練機の設計および製造のコストならびに製造時間を、増加させ、他方では、混練シャフトのより重い構造重量をもたらす。一体化された加熱システムは、また、設計の機械的安定性を低下させ、その結果、混合混練機の最大サイズの減少を引き起こす。この設計の必要性は、約72.2重量%のNMMO水濃度で混合混練機に入るときの濃縮パルプ懸濁液の低粘度によって、さらに強化されるが、その理由は、これが、発生する摩擦及びその結果生じるパルプ懸濁液の加熱による十分な水の蒸発をすでに確実にするためには、後続の混合混練機の入力ゾーンにおけるトルクおよび速度が不十分であること、をもたらすからである。したがって、まとめると、高含水量は、一方では混合混練機のための高い蒸発負荷を意味し、他方では低粘性による低い機械的なエネルギー入力を意味する。
【0037】
混合混練機は、当業者に知られている。それらは、好ましくは、ちょうど1つまたはちょうど2つの、混練機シャフトを有しており、それらは高粘性で覆い(クラスト)を形成するプロセスを実行するために利用され、それらは真空、大気圧または過圧下で駆動され得て、熱交換表面を介して加熱または冷却され得る。加えて、混練シャフトおよびそのシャフト構造は、通常の生成物粘度において、回転および摩擦により、生成物を非常に効果的に加熱し得る。
【0038】
ちょうど1つの混練シャフトが設けられている場合、ハウジングの前には単一シャフト混合混練機があり、これは、例えば、特許文献9に記載されている。この場合、混練機シャフトのシャフト構造は、好ましくは動作中に、ハウジングの静的構造、例えば、いわゆるカウンターフック、と噛み合う。ちょうど2つの混練機シャフトがある場合、例えば特許文献10に記載されている、二軸混合混練機が存在する。混練機シャフトのシャフト構造は、好ましくは、動作中に互いに噛み合う。
【0039】
少なくとも1つの混練機シャフトは、ディスクおよびそれに取り付けられたバーの形態の、シャフト構成部を備え、少なくとも1つの混練機シャフトのシャフト構成部は、第2の混練機シャフトのシャフト構成部とまたは混合混練機内に存在する静止カウンター要素と、動作中に噛み合うように、調整されている。このような噛み合い要素を有する混練機は公知であり、上記の噛み合いが噛み合い要素から任意の付着物を除去するので、「セフルクリーニング式」と称される。
【0040】
上述のディスク及びバーを有する混練機シャフトは、従来技術、例えば特許文献10から知られている。本発明では、どのようにバーがディスクに取り付けられるか、これらが混練機シャフトに取り付けられるか、は重要ではない。バーおよびディスク(「支持体」とも呼ばれる)は、例えば、一体的に製造されていてもよく、「固定」という用語は広く解釈されなければならない。前述の特許文献10は二軸混合混練機を示しているが、特許文献9は、ハウジングの内壁にフック状の静的な混練カウンター要素(いわゆる「混練カウンターフック」)を有する単軸混合混練機を示している。ハウジング、混練機シャフト、シャフト構造、及び、静的な混練カウンター要素は、上述の刊行物に記載されているように、設計することができる。
【0041】
混合混練機ハウジングの内側、(1つ又は複数の)混練機シャフト、およびディスクは、ただ熱交換表面としてのみ、設計することはできない。混合混練機ハウジングにおいては、熱交換面は、通常、溶接されたハーフチューブ、または、好ましくは二重壁、として設計されている。混練機シャフトにおいては、熱交換面は、混練機シャフトが中空シャフトとして設計されていること、好ましくは、熱伝達媒体または冷却媒体の流入および還流(戻り流)が、例えば内管を用いて、利用可能であること、を意味する。
【0042】
熱交換面を有するディスクは、電気加熱要素又は熱伝達媒体又は冷却媒体のための、キャビティ又はボアを有し、後者は、混練機シャフト内の流入部から供給を受ける流入部と、混練機シャフト内の戻り流に還流する流出部とを有する。キャビティは、通常、二重壁部またはボアの形態を取り得て、そのために、混練機シャフト上部構造のより大きい壁厚およびより大きい寸法、及び、より壁厚の混練機シャフト、を必要とし、それに関して、キャビティフリー(以下、加熱キャビティフリーとも称される)ディスクであって、通常は熱交換表面の省略によりより小型に形成され得るディスクと比較して、著しく高い製造コストの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】国際公開第1994/006530号
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2012 103 296号明細書
【特許文献3】国際公開第2020/249705号
【特許文献4】国際公開第2008/154668号
【特許文献5】国際公開第96/33302号
【特許文献6】国際公開第2013/156489号
【特許文献7】独国特許出願公開第199 40 521号明細書
【特許文献8】国際公開第06/33302号
【特許文献9】中国特許出願公開第674 472号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第41 18 884号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第4,196,282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
発明の課題
本発明の課題は、従来技術の欠点を克服することである。
【0045】
特に、セルロース-水-官能性液体混合物から水を蒸発させることによって移送混合物を製造する方法を記載することが意図されており、当該方法は、第一に、過熱の危険性または爆発の危険なしに、蒸発に適した装置、好ましくは薄膜蒸発機の、熱エネルギー入力によって達成される蒸発能力を著しく高めることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0046】
課題の解決
請求項1、2、11または12に記載の特徴が、課題の解決につながる。
【0047】
有利な実施は、従属請求項に記載されている。
【0048】
本発明の対象は、薄膜蒸発機における直接溶解法に従う少なくとも2段階プロセスの第1プロセス段階としての、移送混合物の生成であり、当該薄膜蒸発機は、課題の文脈において言及された全ての事実を考慮に入れたものである。
【0049】
直接溶解法内で移送混合物を製造するための本発明に従う方法は、供給部、ハウジングおよび送出部(排出部)を有する装置内、好ましくは薄膜蒸発機内、で進行し、供給部は実質的にセルロース、水および機能性液体から構成された出発材料の形態の生成物をハウジング内に導入し、出発材料は加熱され、水の一部は蒸発し、その結果、移送混合物を形成し、移送混合物は供給流と共に送出物へ流れ、その後遅滞なく後続のプロセス器に移送される。
【0050】
この方法では、成形溶液ではなく移送混合物が製造される。移送混合物は、その際、以下のような含水量によって特徴付けられる、すなわち、薄膜蒸発機の加熱面の温度が、特には送出部に向かって、生成物の実質的な過熱なしに、供給部と比較して実質的に低下されないような、含水量によって特徴付けられる。移送混合物は、成形可能な溶液、特には成形可能または紡糸可能な溶液に移送される前の状態の生成物に対応するという点で、成形溶液とは異なる。成形可能または紡糸可能な溶液は、出発材料の全ての必須セルロース構成成分が溶解した場合に、存在する。これに関しては、いわゆるフィルタ寿命が経済的に許容可能な水準に達する程度に少い割合の非溶解成分を、実質的に意味している。フィルタ寿命とは、成形溶液を製造するためのプロセス段階の後で、そして、成形または紡糸のためのプロセス段階の前に、通常使用されるフィルタに関連する。フィルタ寿命は、フィルタを介する圧力降下が高くなりすぎるため、フィルタを交換しなければならないまでの、時間の長さまたは有効寿命に対応し、当該圧力降下は、さらなる処理にとって望ましくない成分の蓄積によって大きくなる。これらの成分は、例えば、未溶解のセルロース系繊維や非セルロース系不純物、であり得る。したがって、フィルタの寿命の具体的な選択は、全体的な経済的コストおよび品質最適化の態様に左右される。
【0051】
移送混合物はさらに、薄膜蒸発機中での熱機械的処理により、移送混合物中に、出発材料中に存在するセルロースの一部が、既に溶けている点で、出発材料とは異なる。
【0052】
移送混合物を製造するための本発明に従う方法は、以下のような利点を有する、すなわち、薄膜蒸発機中の生成物が常に十分に高い含水量を有し、したがって実質的な過熱を有し、機能性液体としてNMMOの場合、それによりもたらされる潜在的な爆発の危険が防止され、したがって、薄膜蒸発機の送出側へ向けて加熱温度を低下させる必要がなく、または実質的に低下させる必要がなく、しかし、実質的な過熱を回避しながら、熱エネルギー入力に必要な温度差、つまり加熱温度と生成物温度との間の少なくとも20K、好ましくは50K、理想的には70Kの差、が常に存在するという、利点を有する。別の利点は、より低い粘度及び送出部の前の薄膜蒸発機の送出側での生成物の蓄積を回避により、薄膜蒸発機の蒸発機シャフトのより低い機械的負荷をもたらし、蒸発機その結果、薄膜蒸発機をより低いコストで実現することができること、である。これは、薄膜蒸発機の加熱面あたりの最大蒸発水量を増加させ、同時に、エネルギーコストが低減され、構造がより有利になる。有利な構造は、例えば、従来の薄膜蒸発機をより大きくすることができ、したがって、以前に可能であったよりも多くの材料を処理することができるとことから、もたらされる。したがって、加熱面当たりのより高い水蒸発量と、より大きな構造、すなわち、生産ライン当たりの生産能力、を増加させる。
【0053】
また、ここでは、高いエネルギー効率およびプロセス信頼性も有利であり、これは、薄膜蒸発機中で濃縮パルプ懸濁液を製造する処理ステップのためだけでなく、好ましくは出発材料の成形溶液への全変化のための薄膜蒸発機のような、適切な先行する処理器との関連でも、有利である。
【0054】
本発明によれば、ILまたはNMMOは、出発物質のための機能性液体として添加される。機能性液体は、適切な条件下でセルロースを溶解するのに役立つ。
【0055】
この方法では、例えば、移送混合物を後続の処理器に送ることができる。後続の処理器は、混合混練機またはさらなる薄膜蒸発機などの、既に記載された処理器官であってもよい。後続の処理器は、その場合、移送混合物を成形溶液へとさらに処理することが企図される。移送混合物の好ましい実施形態は、その際、以下のように、選択され、かつ実施される、すなわち、移送混合物の粘度が薄膜蒸発機における実質的な過熱を回避するのに十分に低いようにだけでなく、混合混練器における摩擦により生じる機械的エネルギー入力が以下のような大きさであるように、選択され、かつ実施され、当該機械的エネルギー入力は、混合混練器への、機械的エネルギー入力を補う、熱的エネルギー入力の必要性が、混練機シャフトの上部構造が熱熱交換に用いられる必要がなく、加熱空洞なしに設計することができるほどの少なさであるような大きさである。これは、混合混練機の、著しく単純で、より良好で、より迅速な設計を可能にする。
【0056】
移送混合物はしたがって、以下の条件の少なくとも1つが満たされているような、または、本発明による以下の実施形態の少なくとも1つが与えられるような、水濃度を有するように、選択される。
【0057】
(1)移送混合物を生成するための蒸発によって水濃度を低下させるための薄膜蒸発機の場合、送出部に向かって、加熱面の温度は、供給部と比較して実質的に低下されず、移送混合物は実質的な過熱を受けない。
【0058】
(2)機能性液体としてのNMMOの場合、移送混合物の含水量は、一般に以下の
最大xH2O=-0.235xCell+0.235
最小xH2O=-0.59xCell+0.2047
という条件に対応する。
さらにより好ましくは、移送混合物は、
最大xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2288
最小xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2188
という好ましい組成で適用される。
【0059】
好ましくは、移送混合物が、上記の(1)および(2)に加えて、同様に適用される以下のような水濃度を有するように、選択される。
(3)薄膜蒸発機に直接的または間接的に続く処理器としての混合混練機の場合では、混合混練機は、少なくとも1つの混練機シャフトを備え、その上部構造は加熱可能である必要はなく、移送混合物は、混合混練機の加熱可能な混練機シャフトおよび混合混練機の加熱可能な筐体を介した熱的なエネルギー入力に加えて、機械的なエネルギー入力を用いて、成形溶液の生成のための混合混練機において必要とされる蒸発パフォーマンスを達成するのために、充分な粘性を有する。
【0060】
出発材料は、セルロース、水、および機能性液体の混合物として存在し、その組成は大きく変化し得る。
【0061】
これにより、出発材料は、供給部から送出部へ向かって、移送混合物となる。
【0062】
本発明による移送混合物において、セルロースは部分的に溶解して存在し、機能性液体としてのNMMOの場合、NMMO中の含水量は、数式から得ることができる。
【0063】
移送混合物を記載するための数式は、熱機械的条件下での移送混合物の製造に関連し、当該条件は、薄膜蒸発機の低リスク動作を可能にし、実際にそれ自体で実証されている。しかしながら、セルロースの溶解速度に対する説明された影響に基づいて、数式は、紡糸可能な溶液を予測することが可能であり、一方、実際には、低い含水量にもかかわらず、未溶解のセルロース成分を有する本発明に従う移送混合物は、依然として存在するが、その理由は、特別な熱機械的処理が選択されているためであり、例えば、供給部と送出部との間の生成物の時間が非常に短いためである。しかしながら、そのような熱機械的処理は同時に、それに付随する移送混合物中のより低い含水量に基づき、実質的な過熱および爆発的分解により、プロセスリスクの増加に関連する。
【0064】
さらに、本発明によれば、これはまた、出発物質が、一般的な移送混合物を記載する濃度範囲内の組成でさえ、薄膜蒸発機に供給されること、を意味し得る。通常、薄膜蒸発機内の出発材料のプロセス特有の熱機械的処理(上昇した温度およびせん断作用)のみが、パルプの部分的な溶解を特徴とする移動混合物をもたらす。
【0065】
送出部は後続の処理器に開口し、当該処理器は、好ましくは薄膜蒸発機よりも、移送混合物を成形溶液に確実に変化させるために、蒸発機適している。このような後続の処理器はここでは、上述のように、混合混練機であり得る。混合混練機は、良好な高粘度混合特性および混練機シャフトを介して入力される有効な機械的エネルギーのおかげで、後続の処理器として特によく適しており、当該混練機シャフトの速度は迅速に調整することができ、また、必要であればゼロまで、迅速に再び低減させることもできる。その際、混合混練機が高い精度および確実に温度を調節できること、またそれにより、通常、冷却または熱放散を回避すること、も有利である。
【0066】
別の実施形態では、移送混合物はまず、後続の移送器を通過する。それに続き、移送混合物は後続の処理器へと更に送られる。
【0067】
したがって、増大したエネルギー効率およびプロセス信頼性は、移送混合物を生成する処理ステップだけでなく、出発材料を成形溶液へ変化させるための適切な後続の処理器と組み合わせても、適用される。
【0068】
後続の処理器は、上述の欠点を受け入れる別の薄膜蒸発機であってもよく、これにより、薄膜蒸発機は、その全体的な設計において、移送混合物を達成するように設計され得て、別の薄膜蒸発機は、例えば、全長、そのワイパーブレードの角度等といった、その別の全体的な設計によって、移送混合物の処理に適合され得る。それによって、後続の処理器は、その際、処理をする処理器がさらに移送混合物を成形溶液に更に処理するように、定義されている。その後、成形溶液は、例えば紡糸のために、使用することができる。
【0069】
一般的な移動範囲を説明するために上に列挙した数式に基づく材料特性は、以下の調査から得られる。最大含水量xH2Oは、水およびNMMOを考慮した場合の二水和物に対応する成分、を表す。NMMO分子は、2つの水素結合を形成する能力を有する。水素結合は、一方ではそこに結合した水分子を有する構造の形成をもたらし、他方ではセルロース分子の溶解をもたらす。NMMO分子あたり2未満の水分子という比から、理論的には、セルロース分子に対するNMMOの溶解度が存在する。これは、移送混合物を、上限含水量として、純粋な懸濁液から分離する。例えば、適切な熱機械的処理により、セルロースの一部は、約75%のNMMO水濃度で溶液中に既に存在することも、文献に記載されている。
【0070】
当業者にとって、最小含水量xH2Oは、特許文献11に基づいて、セルロース-水-NMMO混合物中のセルロースの完全な溶解が、目視検査により、初めて観察された構成、を記載する。それは、したがって、完全な成形溶液からの移送混合物の境界を定める。特許文献11において機能性液体としてのNMMOに関してなされた記述は、パイロットプラントスケールで、本発明者らによって実施された工業用途および実験からの結果および観察によって、確認される。したがって、提示される2つの式は、一般的な移送混合物の範囲を包含する。
【0071】
好ましい移送範囲の材料特性の説明については、最小含水量に関して特許文献11を参照されたい。これに基づいて、曲線は一般的な移動範囲の最小含水量の95%信頼区間を表し、したがって、完全な成形溶液の安全状態からそれ自体をさらに区別する。好ましい移送範囲の最大含水量xH2Oを記載するための数式は、直接溶解法の工業的適用からの結果、および、パイロットプラントスケールで本発明者らによって実施された一連の試験からのデータ調査、に基づく。それは、移送範囲の上限を示しており、当該移送範囲内ではプロセスに関連する特定の薄膜蒸発機の最適な利用が保証されている。
【0072】
一般的な組成およびその好ましい組成において、移送混合物はプリ溶液状態(英:pre-solution state)である。したがって、リヨセルの製造方法は、薄膜蒸発機の最適な動作パラメータの下で実行されており、リヨセルの比較的困難な材料状態が、例えば、薄膜蒸発機内でクラスト形成(英:encrustation)が生じたとき、または、過乾燥もしくは分解が生じたときに、回避されることも、達成されている。これらの問題のある材料状態は、後続の処理器において、比較的容易に避けられ得る、なぜなら、後続の処理器は、一般に、例えば、より高いトルクおよびクラスト形成の回避のために設計されるからである。
【0073】
一般的な組成において、移送混合物の送出は、既に有利である、なぜなら、十分な水が蒸発し、その結果、移送混合物が形成され、後続のプロセス器における溶液へのさらなる処理が比較的短いプロセス時間で行われ得るからである。
【0074】
移送混合物の好ましい組成において、一般的な移送混合物の定義と比較して、水の最大量は、既に完全な溶液に近い。一方、最小量の水は、この完全な溶液に対してより大きな隔たりを有する。
【0075】
このようにして、さらなる加工は、短いプロセス時間で実現することができ、同時に、薄膜蒸発機内での材料の過剰乾燥の危険性は更に低減され得る。しかしながら、どちらの場合でも、移送混合物は、数分間の処理時間で、形成可能なまたは紡糸可能な溶液から取り除かれ、当該処理時間の間に、生成物は混合によって均質化され、必要であれば残りの水が蒸発され、その結果、薄膜蒸発機は上記の好ましい操作特性で運転され得る。
【0076】
生成物、ひいては出発物質は、実質的にセルロース、水および機能性液体、を含む。加えて、生成物は、安定剤などのさらなる化学物質を含有し、それらは当業者に知られており、個々の適用事例ごとに適合させることができるので、それらを詳細に列挙することは、本発明の文脈において省くことができる。
【0077】
さらに、直接溶解法によって出発材料を移送混合物へと処理するための薄膜蒸発機も請求される。その際、薄膜蒸発機は供給部、ハウジング、および送出部を含み、供給部は実質的にセルロース、水、および機能性液体から構成された出発材料または生成物を、ハウジング内に導入し、ハウジング内に位置する蒸発機シャフトは、ハウジングの加熱された内部にわたって生成物を、回転して掻き取り、生成物は加熱され、水の一部は移送混合物を形成するように蒸発し、本発明によれば、生成物と接触する薄膜蒸発機の加熱表面のすべては、生成物の温度より少なくとも20K高い加熱温度にさらされる。
【0078】
供給部、ハウジングおよび送出部を有する直接溶解法による出発物質を移送混合物に加工するための本発明による別の薄膜蒸発機では、供給部は、実質的にセルロース、水およびN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)から構成される生成物を、ハウジング内へ導入し、ハウジング内に配置された蒸発機シャフトは、回転して、生成物を、ハウジングの加熱された内部にわたって、掻き取り、生成物が加熱され、水の一部が蒸発し、その結果、移送混合物を形成し、
最大xH2O=-0.235xCell+0.235
最小xH2O=-0.59xCell+0.2047
の移送混合物の組成に到達すると、移送混合物は送出部を通って、転送することができる。これは、薄膜蒸発機が、以下のように、調整されていることを意味する、すなわち、薄膜蒸発機は輸送混合物のパラメータに達すると、送出部が自動的にまたは誘導的に通過され、さらなる処理または移送が少なくとも1つの後続の輸送器に動作的に接続されているか、または移送混合物が後続の処理器に動作的に接続されているように設定されるように、調整されていることを意味する。
【0079】
移送混合物のさらにより好ましい組成は、移送混合物が
最大xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2288
最小xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2188
を有するときに、与えられる。
【0080】
本発明による方法の他の実施形態は、特に同一の特徴が同一に指定される場合に、薄膜蒸発機にも適用される。
【0081】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、以下の好ましい実施形態の説明および図面から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1図1は、移送混合物の好ましい材料特性を示す線図である。
図2図2は、移送混合物の一般的な材料特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
実施例
実施例1
本実施例の対象は、直接溶解法を用いた、12重量%のセルロース含有量を有する成形溶液の製造である。この例で使用される機能液はNMMOである。全ての以降の割合記載は、セルロース-NMMO-水混合物の総質量を指す。セルロース含有量が約7.2重量%の出発物質を、セルロースおよび水性のNMMO溶液から作成し、その結果、約46.1重量%のNMMO含量を得る。この出発物質は、薄膜蒸発機に導入され、そこで移送混合物に濃縮される。この例では、薄膜蒸発機は、70mbaraのプロセス圧力で運転され、その結果、出発材料の平衡温度は約43℃である。薄膜蒸発機の加熱温度は130℃である。本実施例では、混合物の移送は、好ましい移送範囲内で、約11.5重量%のセルロース含有量および約73.9重量%のNMMO含有量で行われる。本処理条件下では、これは、約100℃の移送混合物の平衡温度に相当する。水とNMMOの比は、この点では、およそ1.3水和物の比である。薄膜蒸発機によって準備される移送混合物は、続いて、混合混練機に移送される。ここで、混合物は最終的に蒸発によって濃縮され、完全な成形溶液を得るために均質化化される。成形溶液は、12.0重量%のセルロース含有量、約77.0重量%のNMMO含有量、および約107℃の温度で、混合混練機を出る。
【0084】
実施例2
本実施例の対象は、直接溶解法を用いた、12重量%のセルロース含有量を有する成形溶液の製造である。この例で使用される機能性液体は、イオン性液体である。全ての以降の割合記載は、混合物の総質量を指す。セルロース含有量が約8.2重量%の出発混合物を、セルロースおよび水性のIL溶液から生成し、その結果、約58.6重量%のIL含有量を得る。この出発混合物は、薄膜蒸発機に導入され、そこで濃縮され移送混合物を形成する。本実施例では、混合物の移送は、約11.5重量%のセルロース含有量および約79.6重量%のIL含有量で、行われる。薄膜蒸発機によって準備される移送混合物は、続いて、混合混練機に移送される。そこで、混合物は最終的に蒸発により濃縮され、及び、均質化され、その結果、完全な成形溶液を得る。成形溶液は、12.0重量%のセルロース含有量および約83.0重量%のIL含有量で、混合混練機を出る。
【0085】
図1は、移送混合物の一般的な材料組成および好ましい材料組成を図示するグラフを示している。それに関して、一般的な組成a、以下の
最大xH2O=-0.235xCell+0.235
最小xH2O=-0.59xCell+0.2047
というパラメータを有するので、以下の
最大xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2288
最小xH2O=0.2864x Cell-0.6786xCell+0.2188
というパラメータを有する、好ましい組成bよりも、より大きなマージンを示す。
【0086】
含水量が減少することにつれて、まず溶液Lの領域に達し、含水量が減少し続けるにつれて、NMMOの結晶化Kが起こる。
【符号の説明】
【0087】
A 移送混合物の一般的な組成
B 移送混合物の好ましい組成
K 結晶化
L 溶液

図1
図2
【国際調査報告】