(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池またはアルカリイオン二次電池用の無金属高電圧カソード
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240115BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240115BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566734
(86)(22)【出願日】2022-01-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 US2022011865
(87)【国際公開番号】W WO2022155101
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523265940
【氏名又は名称】ナグテック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アイヤー,スブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】パラニサミー,ラメシュ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM07
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB08
5H050CB12
(57)【要約】
カソード活物質として無水アルカリ塩を含むアルカリイオン電池であって、アルカリ塩は、カソード活物質として、例えば、硫酸リチウム塩、硫酸ナトリウム塩または硫酸カリウム塩であり得る、アルカリイオン電池が提供される。いくつかのそのような電池において、硫酸塩から過硫酸塩への相互変換は、それぞれ電池の充電中および放電中に起こる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード活物質として無水アルカリ塩を含むアルカリイオン電池であって、前記無水アルカリ塩は有機電解質に不溶である、アルカリイオン電池。
【請求項2】
前記アルカリ塩はリチウム塩を含み、リチウムイオンが抽出されてアノードにリチウム化される、請求項1に記載のアルカリイオン電池。
【請求項3】
前記リチウム塩は硫酸リチウムを含む、請求項2に記載のアルカリイオン電池。
【請求項4】
前記アノードはグラファイトを含む、請求項2に記載のアルカリイオン電池。
【請求項5】
硫酸リチウムから過硫酸リチウムへの相互変換、およびその逆は、それぞれ前記電池の充電中および放電中に起こる、請求項3に記載のアルカリイオン電池。
【請求項6】
5.25V以上の大きな電気化学窓を有する電解質をさらに含む、請求項1に記載のアルカリイオン電池。
【請求項7】
前記電解質はスルホランを含む、請求項6に記載のアルカリイオン電池。
【請求項8】
前記アルカリ塩は、カソード活物質として硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムのいずれかを含み、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンは、アノードへの挿入のためにそれらの硫酸塩から抽出される、請求項1に記載のアルカリイオン電池。
【請求項9】
前記硫酸塩から過硫酸塩への相互変換、およびその逆は、それぞれ前記電池の充電中および放電中に起こる、請求項8に記載のアルカリイオン電池。
【請求項10】
多孔質集電体上に埋め込まれた無水硫酸アルカリ層を含む高電圧カソード。
【請求項11】
前記硫酸アルカリ層は、硫酸リチウム層を含む、請求項10に記載のカソード。
【請求項12】
前記多孔質集電体は、多孔質炭素布または多孔質炭素紙のいずれかを含む、請求項10に記載のカソード。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2021年1月13日に出願された米国非仮出願第17/148446号の優先権の利益を主張し、米国特許法第119条(e)に基づく出願日の利益を受ける権利を有する継続出願であり、この特許の内容全体は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
リチウムは、充電式電池用の有望なアノード材料として長年大いに注目されている。このアルカリ金属への関心は、(1)最も電気的に陰性の金属(SHEに対して-3.0V)である、(2)最も軽い金属(0.534g/cm3)であるという、その2つの特有の特性の組み合わせに起因している。アルカリ金属は、前者により、特定のカソードと組み合わされたときに高いセル電圧に変換する陰電位が得られ、後者により、高い比容量(3.86Ah/g)のアノードになる。市販のリチウムイオン電池は、グラファイトアノードにインターカレートされたリチウムイオンを使用するが、カソードは、様々な組成のリチウム化酸化コバルト(LiCoO2)もしくはLiNiMnCo(NMC)などの層状酸化物、またはLiMnNiOなどのスピネル、あるいはリチウム化金属リン酸塩から構成される。充電中、リチウム化金属酸化物からのリチウムイオンは、グラファイトアノードへ流入し、リチウム化グラファイト(C6Li)の層間化合物をもたらす。両方の電極におけるリチウムはイオン形態で存在し、したがって、Liイオン電池と呼ばれる。グラファイトアノードの容量は約372mAh/gmであり、カソード材料(LiCoO2)の容量は約170mAh/gmであり、2つの電極間の深刻な不整合をもたらす。スピネルおよびリン酸塩は、110mAh/gm未満のさらに低い容量を有する。過去数十年にわたって、酸化ニッケル、酸化マンガン、多硫化物およびリン酸鉄ならびにそれらの組み合わせに及ぶいくつかの他のカソード材料が研究されてきたが、カソード容量は段階的に改善されているにすぎない。
【0003】
リチウム金属は、安全性の問題のために、電池内のアノード材料として単独で使用されない。デンドライト形成によるアノードとしてのリチウムの不具合が、セルサイクル中のアノードの劇的な形態変化を回避する方法を探索することにつながった。その結果、「ホスト-ゲスト」化学が開発された。この可逆的化学の概念は、インターカレーション型電極または挿入型電極としても知られており、Whittinghamの草分け的研究およびGoodenoughら、および他による大幅な改善によって代表されるように、リチウム電池用のカソード材料に以前から適用されている。ホスト材料のほとんどは、安定な結晶格子を有する遷移金属酸化物またはカルコゲニドであり、それらの層構造またはトンネル構造は、リチウムイオンなどのゲストイオンが拡散する経路を形成する。電子を注入または抽出することによって、レドックス反応がホスト格子上で起こる一方で、可動ゲストイオンがホストマトリックスにインターカレートし、またはホストマトリックスからデインターカレートして、局所的な電気的中性を補償する。インターカレーションおよびデインターカレーションサイクルの間ずっと、「ゲストイオン」におけるファラデーの変化はない。
【0004】
同様のインターカレーションホストは、市販のリチウムイオン電池用のアノード材料として使用されるグラファイトであり、このようなインターカレーションカソードおよびアノードを用いて、リチウム金属の存在なしにリチウムイオンが電極間を往復することを可能にする。これらの炭素質アノードの充電状態では、リチウムは金属状態ではなくイオン状態で存在し、したがってデンドライトリチウムの可能性が排除される。この新しいホストの利点は、炭素の低コストおよび層間化合物における高いリチウムイオン活性によって浮き彫りになり、後者は、アノード電位をリチウム金属の電位に近づけ、エネルギーペナルティを最小限に抑え、3.70Ah/gの高い比エネルギー容量を有する。
【0005】
新しい材料および新奇な工学設計の採用は、リチウムイオン二次電池におけるより有力な4.0Vカソード材料(LixMO2,M=Mn,Ni,またはCo)の適用により、リチウムイオン電池技術のサイクル寿命、エネルギー、および電力密度を、2000サイクル、160Wh/kg、および5000W/kg超にそれぞれ向上させた。リチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度および長い寿命のために、有力な充電式エネルギー貯蔵装置となっている。層状LiCoO2およびLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)などの最も研究されているカソード材料は、主にコバルトレドックスプロセスに基づいている。しかしながら、コバルトの限られた利用可能性、不均等な分布および毒性から、新世代のカソードを探索することが望ましい。この点に関して、鉄ベースのポリアニオン化合物は、天然に豊富に存在する鉄をレドックス中心として使用することが、限られた資源の制限を効果的に緩和し、エネルギーコストを減少させることを考慮すると、大規模エネルギー貯蔵用途のための魅力的なカソード材料である。より重要なことには、酸素原子は、強い共有結合を介してポリアニオン(例えば、(PO4)3-)中で安定化され、このことは、酸素発生のリスクを大幅に低減し、サイクル安定性を向上させ得る。リチウムイオン電池用のカソードとしてのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の利用の成功は、その低コスト、高い安全性および長いサイクル寿命により、カソード材料のための様々なポリアニオン化合物の研究を広範囲に刺激してきた。
【発明の概要】
【0006】
本発明のいくつかの実施形態では、カソード活物質として無水アルカリ塩を含むアルカリイオン電池であって、無水アルカリ塩が有機電解質に不溶であるアルカリイオン電池が提供される。アルカリイオン電池のいくつかの実施形態では、アルカリ塩はリチウム塩を含み、リチウムイオンが抽出されてアノードにリチウム化される。いくつかの実施形態では、アノードはグラファイトを含む。いくつかの実施形態では、リチウム塩は硫酸リチウムを含む。いくつかの実施形態において、硫酸リチウムから過硫酸リチウムへの相互変換、およびその逆は、それぞれ電池の充電中および放電中に起こる。いくつかの実施形態において、アルカリイオン電池は、高電圧電解質をさらに含む。いくつかの実施形態において、電解質はスルホランを含む。
【0007】
アルカリイオン電池のいくつかの実施形態において、アルカリ塩は、カソード活物質として硫酸ナトリウムまたは硫酸カリウムのいずれかを含み、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンは、アノードへの挿入のためにそれらの硫酸塩から抽出される。いくつかの実施形態では、硫酸塩から過硫酸塩への相互変換は、それぞれ電池の充電中および放電中に起こる。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態では、多孔質集電体上に埋め込まれた無水硫酸アルカリ層を含む高電圧カソードが提供される。いくつかの実施形態では、硫酸アルカリ層は、硫酸リチウム層を含む。いくつかの実施形態において、多孔質集電体は、多孔質炭素布または多孔質炭素紙のいずれかを含む。
【0009】
本発明の前述の目的および利点、ならびにその追加の目的および利点は、以下の図面と併せて考察すると、好ましい実施形態の詳細な説明の結果として以下でより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】硫酸リチウムの理論容量を反映する表である。
【
図2】硫酸塩/過硫酸塩化学を使用する提案リチウムイオン電池の望ましくないトランプ反応を示し、その一部は不可逆的である反応を示す図である。
【
図3】リチウムイオン充電式電池システムを作製するための種々の実験結果を示す図である。
【
図4】試験された、本発明のリチウムイオン電池構造の一実施形態を示す図である。
【
図5】硫酸リチウムから過硫酸リチウムへの電気化学変換を示す図である。
【
図6】サイクリックボルタンメトリー技術を用いて試験された、硫酸塩から過硫酸塩への可逆的な相互変換を示す図である。
【
図7】複数サイクルにわたって試験された、組み立てられた硫酸リチウム電池システムの放電プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態では、高電圧化学特性および再充電特性を示すカソード活物質としてアルカリ塩が使用されるアルカリイオン電池が提供される。カソード活物質は、一実施形態において、リチウム塩のアニオン成分を含むが、以下に説明するように、他の塩を含んでもよい。一実施形態では、カソード活物質は、リチウムの硫酸塩を含み、これはリチウムイオン抽出中に電気化学的にペルオキソ二硫酸リチウム(過硫酸リチウムとしても知られる)に変換され、これはグラファイトまたはリチウム/合金アノードに充填される。リチウムイオンの貯蔵およびその後の充電/放電は、例えば、グラファイト/リチウム合金基材上のカソード活物質としての固体硫酸塩/過硫酸塩マトリックスの相互変換によって達成される。硫酸リチウム/ペルオキシ二硫酸リチウム(過硫酸リチウムとしても知られる)可逆的電気化学の使用により、高電圧リチウムイオン電池を作製することができる。詳細な電気化学的充放電反応は、
【化1】
であり、得られたセル電圧は4.85Vであった。完全な電気化学反応は以下の通りである。
【0012】
充電モード:
アノード:2Li2SO4→Li2S2O8+2Li++2e- 2.01V
カソード:2Li++2C6+2e-→2C6Li 2.84V
セル:2Li2SO4+2C6→Li2S2O8+2C6Li 4.85V
放電モード:
アノード:2C6Li→2C6+2Li++2e- 標準電位=2.84V
カソード:Li2S2O8+2Li++2e-→2Li2SO4 標準電位=2.01V
電池:Li2S2O8+2C6Li→2Li2SO4+2C6 セル電圧:4.85V
【0013】
過硫酸リチウムおよび硫酸リチウムは、非プロトン性有機溶媒に難溶性である。したがって、硫酸リチウム粉末は、適切なバインダーおよび溶媒(n-メチルピロリジン、NMP、または三酢酸セルロースもしくはカルボキシメチルセルロースバインダーに溶解されたポリフッ化ビニリデン、PVDFなど)と共に多孔質炭素紙上に含浸され得る。充電モードの間、リチウムイオンは硫酸リチウム電極から抽出され、グラファイト対向電極にインターカレートされると同時に、硫酸塩を過硫酸塩に変換する。放電中、リチウムイオンは、グラファイト電極からデインターカレートされ、過硫酸リチウム電極の結晶マトリックスに再挿入され、それを変換して硫酸リチウムに戻す。
【0014】
過硫酸リチウム(またはペルオキソ二硫酸)塩は、非吸湿性、不燃性であり、塩または濃縮溶液として長期間(約10年)貯蔵可能である。過硫酸塩(過酸化状態)中の酸素は、酸化を助けるために容易に放出され得る。過硫酸塩のより高い標準電位(SHEに対して2.010V)およびその強い酸化力(過酸化水素とオゾンとの間の中間、それらの固有の安定性の問題および短い半減期を伴わない)は、水系および/または非水系において最も高い動作電圧の1つを提供する。
【0015】
層状金属酸化物カソード(リチウム化酸化コバルトのような)を、好適な触媒集電体(多孔性白金炭素紙のような)または非触媒炭素布上の硫酸リチウムで置き換えることにより、リチウム化金属酸化物カソードのカソード容量制限を解決することができ、高エネルギー密度をもたらす。潜在的なセル電圧は、現在のリチウムイオン電池(3.25~3.5V)よりもはるかに高く、集積セルの高出力密度をもたらす。
図1に反映されるように、硫酸リチウムの理論容量は、リチウム化金属酸化物カソード(約170mAh/gm)よりも大幅に高い240mAh/gmであり、リン酸鉄リチウム系よりもはるかに良好である。
【0016】
硫酸リチウムおよび過硫酸リチウムは、楔状単斜晶の結晶構造を有する。硫酸リチウム結晶は、a=8.23Å b=4.95Å c=8.47Å β=107.98°のエッジ長、硫黄原子における四面体の配位構造を有し、頂点にリチウム原子を有し、充電動作中に硫酸塩構造から過硫酸塩構造に電気化学的に変換されたときにリチウムイオンの容易な抽出を可能にする。同様に、放電動作中に硫酸塩構造へのリチウムイオンの挿入も容易に促進され、過硫酸塩構造を硫酸塩構造に変換する。硫黄原子と酸素原子との間の強い結合により、リチウムイオンが結晶マトリックス内で緩く結合され得る。より弱いリチウム結合は、リチウムイオンがサイトからサイトへ容易に移動することを可能にし、そのために強い結合を破壊する必要がない。頂点にリチウム原子を有する硫酸リチウムおよび過硫酸リチウムの単斜晶構造は、リチウムイオンがサイトからサイトへ移動するのに必要なエネルギーをさらに低下させる。これら2つの要因は、リチウムイオンが結晶構造を通って迅速かつ容易に拡散することを可能にする。
【0017】
提案されるリチウムイオン電池では、トランプ反応が防止されることが望ましい。いくつかのトランプ反応は、プロトン性溶媒中で、または微量の水分、もしくは水素結合構造を有するバインダーの存在下でさえ起こり得る。
図2を参照すると、硫酸塩/過硫酸塩化学を使用する提案リチウムイオン電池について、望ましくないトランプ反応が示されており、その一部は不可逆的である。
【0018】
同様に、カソード構造中の微量金属不純物も、過硫酸塩の強い酸化作用のために、非常に厳密に制御される必要がある。このことは、一般的なカソード構造およびステンレス鋼または銅メッシュを使用する集電体の使用を妨げる。炭素系およびグラファイト系の集電体および粉末は、硫酸塩から過硫酸塩への変換中に十分な効率および不活性特性を有すると同時に、形成される過硫酸塩の安定性を高めることが分かっている。
【0019】
提案されるLi-SO4リチウムイオン電池の4.85Vを超える高い充電電圧は、充電動作および放電動作中の劣化を防止するために、好ましくは5.25Vを超える高い電気化学窓(例えば、-3.0V~+2.25V)を有する電解質/溶媒混合物を必要とする。そのような大きな電気化学窓を有する1つの溶媒はスルホランである。同様に、アセトニトリルも-3.45V~+2.35Vの電気化学窓を有するが、試験時に、充電中に生成される過硫酸塩による分解を受けることが分かった。他の可能な溶媒としては、スルホラン(-4.0V~+2.3V)の有無にかかわらず、炭酸エチレン、炭酸プロピレンおよび炭酸ジメチル、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0020】
提案される高電圧電池に適したリチウム電解質は、上記の非プロトン性溶媒に可溶である様々なリチウム塩を含み、好ましくは、電池内の電気化学的伝導性を高めるために溶液中で1~2Mのモル濃度を有する過塩素酸リチウムを含む。
図2は、調査された様々な電解質/塩混合物を示しており、それに基づいて、最適な性能および長いサイクル寿命のために、スルホランと炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンとの混合物中に溶解された過塩素酸リチウムの最終電解質が選択された。硫酸リチウムおよび過硫酸リチウムの活物質は、これらの電解質溶媒に不溶性であることが分かり、硫酸リチウム/過硫酸リチウムを、使用される電解質への溶解による損失なしにカソード構造に組み込むことが可能になった。
【0021】
硫酸リチウム/過硫酸リチウムが試験される電解質溶媒中に溶解できないことはまた、提案される高電圧電池の自己放電を大幅に低減する。Liイオン電池は、最初の24時間で約5パーセント自己放電し、次いで、1ヶ月当たり1~2パーセントを損失し、保護回路は、1ヶ月当たりさらに3パーセントを追加する。欠陥セパレータは、電流経路を生じさせて熱を発生させ、極端な場合には熱破壊を開始させる可能性がある自己放電の上昇をもたらす可能性がある。提案されるリチウムイオン電池の自己放電は、二次DC電源を使用して、マイクロアンペア単位の電流レベル(好ましくは、2~5μA)で、カソード防食と同様に、充電電圧のピークと最高放電電圧との間のDC電圧レベル(好ましくは、4.85~4.95VDC)で、充電後にグラファイトアノードに負電圧バイアスを印加することによって大幅に低減され得る。
【0022】
硫酸塩物質および過硫酸塩物質の固体状イオン構造はまた、メソ多孔性炭素マトリックスに適切に組み込まれた場合、カソード構造のイオン伝導性を高め、高速充放電速度を向上させる。過硫酸塩結晶構造内での電荷の非局在化および分布はまた、電荷貯蔵および相互変換反応速度を向上させる。試験したように、充電中の硫酸塩から過硫酸塩への変換に対する活性化障壁は低く、したがって触媒を必要としない。
【0023】
提案される硫酸リチウム電池化学のための好ましいアノード材料として、グラファイトアノード、またはシリコン、スズ、および金属アノードのための他の材料を、好ましくは非晶質材料またはナノ結晶材料として使用する材料が挙げられる。
【0024】
同様のアルカリイオン電池は、高電圧カソード材料としての硫酸ナトリウム/過硫酸塩ナトリウムまたは硫酸カリウム/過硫酸カリウムと、好適なアノード材料とから構成され得る。セル全体に対する対応する電気化学的充電/放電反応は、以下の通りである。
【化2】
または
【化3】
【0025】
本発明のナトリウムイオン電池の実施形態と共に使用するのに適したアノード材料は、六方晶または単斜晶構造を有する、Na2Ti3O7またはNa4Ti5O12を含むナトリウムチタン酸化物(NaxTiyOz)を含む。他の好適なアノード材料としては、ルビジウム、ストロンチウム、ガリウム、カルシウムまたは銀が挙げられ、これらの材料は、これらの元素がナトリウムとの最小の合金相を形成し、ナトリウムが挿入または抽出されるときに結晶学的応力および破壊を最小限にすることを考慮すると、好適なアノードマトリックス中で微結晶またはナノ結晶粉末として使用される。本発明のカリウムイオン電池の実施形態と共に使用するのに適したアノード材料は、ナトリウム金属およびルビジウム金属を含む。
【0026】
提案される硫酸リチウム電池の実施形態はまた、非プロトン性溶媒中のリチウム塩への曝露および飽和後に、好適な高分子カチオン性膜を使用することによって、固体電池に作製することもできる。リチウムイオンは、カチオン性膜を通してアノードとカソードとの間で伝導され、従来の液体電解質含有リチウムイオン電池においてよく見られる自己放電を防止する。1つの典型的な高分子カチオン性膜は、イオン伝導性のために好適なリチウム塩と共にポリエチレンオキシド(PEO)を含み、非晶質性を高めるためにナノシリカ粒子を有するか、または有さない。同様に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)も、リチウム塩を添加した高分子カチオン膜に使用され得る。そのような膜の使用も、電池の自己放電を低減する。
【0027】
他の好適なリチウム伝導性膜としては、LiSICONのようなガラス膜、リチウム超伝導イオン膜、または窒化リチウム膜が挙げられる。そのような膜は、特にそれらの非晶質特性のために、リチウムに対して非常に高いイオン伝導率を有し、また、提案される電池システムにおける硫酸塩/過硫酸塩曝露に対して不活性である。同様のカチオン性膜は、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン硫酸/過硫酸塩電池システムにも使用され得る。そのような膜の使用は、保管中のリチウムイオン電池システムの自己放電を大幅に低減する。
【0028】
図3では、カソード活物質として硫酸リチウムを使用してリチウムイオン充電式電池システムを作製するために、種々の実験が行われたことが示されている。いくつかの溶媒、バインダーおよび膜を試した後、最終的なセル構造を完成させ、試験した。試験は、室温で、1~3mAhコインセル電池システムに対して1~2.5mAの充電および放電で行われた。コインセルを、25ppm未満の湿度レベルを有するグローブボックス内の窒素ブランケット内で組み立てた。
【0029】
低分子量ポリジメチルシロキサンは、従来使用されているPVDFバインダーと比較して、電子伝導性のためにマイクロスケールの炭素粉末と混合される硫酸リチウム微粒子のための有効なバインダーであることが分かった。シロキサンはマイクロシリカに変換され、その後、最初の充電中にケイ酸リチウムに変換されて、硫酸リチウム塩に対する微細な封止剤および結合剤を生成すると推測される。80:10:10v/v比で炭酸プロピレンおよび炭酸エチレンと混合されたスルホランは、イオン伝導性のためのリチウム塩として過塩素酸リチウムを使用した高電圧電池システムのための最良の電解質であることが分かった。過塩素酸リチウムは、試験した他のリチウム塩(トリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム、LiTFSI、および六フッ化リン酸リチウム、LiPF6)とは異なり、耐酸化性である。微多孔性PVDF膜(0.2ミクロン孔径)は、2つの電極間の非常に効率的なセパレータであると同時に、複数回の充電/放電サイクル中に十分な溶媒およびリチウムイオンの移動を維持するものであった。
【0030】
図4を参照すると、一実施形態では、カソードは、多孔質炭素布または多孔質炭素紙基材(カソード集電体としても機能する)上に微細に粉砕された無水硫酸リチウム層を含む。ナノ多孔質フッ化ポリビニリデン(PVDF)膜は、カソードとアノードとの間のセパレータおよび電気絶縁体として機能する。アノードは、銅箔(アノード集電体としても機能する)上に堆積された市販のグラファイト層を含む。スルホランは、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホニルイミドリチウムまたは六フッ化リン酸リチウムのようなリチウム塩が溶解されたイオン溶媒として使用された。充電中、リチウムイオンは硫酸リチウムマトリックスから除去され、グラファイトへのインターカレーションのために電解質によってグラファイトへ移動される。典型的な充電電圧は、4.85Vを超える。代替として、リチウムイオン伝導カチオン性膜を含む固体電解質を、PVDF膜およびスルホラン溶媒の代わりに使用することができる。
【0031】
図5を参照すると、硫酸リチウムの過硫酸リチウムへの電気化学変換は、グラファイトアノードにおけるインターカレーションのためのリチウムイオンの放出をもたらす。充電中、リチウムイオンおよび電子が硫酸リチウムカソードから放出され、それを過硫酸リチウム層に変換する。リチウムイオンは、リチウム含有電解質を横切ってグラファイトアノードに移動し、そこで、リチウムイオンは、グラファイト層間に優先的に挿入される(インターカレーション)。電子は、外部回路内をグラファイト電極まで移動し、イオン/電気回路を完成させる。放電中、逆の現象が起こり、リチウムが充電されたグラファイトからデインターカレートされ、過硫酸リチウム層に戻され、次の電池充電サイクルのためにそれを硫酸リチウムに変換して戻す。
【0032】
図6を参照すると、サイクリックボルタンメトリー技術を用いた、硫酸塩から過硫酸塩への可逆的な相互変換が示されている。試験は2つの異なるモードで行われ、一方は連続掃引として、他方は2.4Vで600秒間保持して、行われた。後者の掃引は、典型的な電子移動ディップを示し、硫酸塩から過硫酸塩への変換を示している。
【0033】
図7を参照すると、複数のサイクルにわたって試験された、組み立てられた硫酸リチウム電池システムの放電プロファイルが示されている。3サイクル全てにわたる放電電圧は、4.5Vを超える電圧で始まり、現在市販されているリチウムイオン電池を十分に超える。さらに、放電曲線は、高電圧リチウム電池電解質としてスルホランを使用する有効性を示している。
【0034】
当業者は、本発明のシステムの機能的利益を享受するために、多数の設計構成が可能であり得ることを理解すべきである。したがって、本発明の実施形態の多種多様な構成および配置を考慮すると、本発明の範囲は、上述の実施形態によって狭められるのではなく、以下の特許請求の範囲の広さによって反映される。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性イオン性硫酸アルカリ化合物を含む固体カソード活物質と、
過硫酸アルカリによる酸化に対して不活性であるように構成された前記硫酸アルカリ化合物の電極マトリックスと
を備えるアルカリイオン電池であって、
前記硫酸アルカリ化合物のアルカリイオンは、前記電池の充電中に抽出されてアノードに挿入され、カソードにおいて硫酸アルカリの過硫酸アルカリへの変換をもたらし、
前記電極マトリックスは、前記電極マトリックス中で生じる過硫酸アルカリを安定化させ、
前記アルカリイオンは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムを含む、アルカリイオン電池。
【国際調査報告】