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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】導電膜上のミネラルスケールの防止
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/12 20060101AFI20240116BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20240116BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20240116BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D65/08
B01D69/00
B01D69/10
B01D71/02
B01D71/06
C01B32/158
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535000
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 US2021061426
(87)【国際公開番号】W WO2022125356
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/123,133
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャスビー, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ラオ, ウンナティ
(72)【発明者】
【氏名】フーク, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ジュン, ボンヨン
【テーマコード(参考)】
4D006
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA41
4D006JA14A
4D006JA18A
4D006JA25A
4D006JA42Z
4D006JA68Z
4D006KA22
4D006KA49
4D006KE17R
4D006KE19R
4D006KE30R
4D006MA03
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB20
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC05X
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC55X
4D006MC60
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006NA41
4D006NA48
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB05
4D006PB12
4D006PB70
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AD22
4G146CB02
4G146CB10
(57)【要約】
膜脱塩システムは、ハウジング、ハウジング内に配設された導電膜を含み、導電膜は、多孔質支持体、および多孔質支持体上に配設された導電層を含み、導電層は、ナノ構造体、および導電膜に接続された交流電源を含む。別の態様では、ミネラルスケーリングに対する耐性を表面に付与する方法は、表面上に導電層を設けるステップであって、導電層がナノ構造体を含む、ステップ、および導電膜に電位を印加するステップを含む。一部の実施形態では、電位を印加するステップは、交流電流を印加するステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング
前記ハウジング内に配設された導電膜であって、
多孔質支持体;および
前記多孔質支持体上に配設された導電性ナノ構造体の層
を備える、導電膜;ならびに
前記導電膜に接続された交流電源
を備える、膜脱塩システム。
【請求項2】
前記ナノ構造体が、パーコレーティングネットワークを形成している、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項3】
前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤまたはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項4】
前記ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項5】
前記導電層がポリマーをさらに含む、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項6】
前記ポリマーが前記ナノ構造体と架橋されている、請求項6に記載の膜脱塩システム。
【請求項7】
前記多孔質支持体がろ過膜である、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項8】
前記層の厚さが、約100nmまたはこれより大きい、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項9】
前記層の厚さが、約10nm~約10μmである、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項10】
前記層の導電率が、約500S/mまたはこれより高い、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項11】
前記層の導電率が、約100S/m~約1,000,000S/mである、請求項1に記載の膜脱塩システム。
【請求項12】
ミネラルスケーリングに対する耐性を膜表面に付与する方法であって、
前記膜の表面上に導電層を設けるステップであって、前記導電層がナノ構造体を含む、ステップ、および
前記導電膜に交流電源を適用するステップ
を含む、方法。
【請求項13】
前記ナノ構造体がパーコレーティングネットワークを形成している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤまたはそれらの組合せを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記導電層がポリマーをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーが前記ナノ構造体と架橋されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記膜がろ過膜である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記交流電源のピーク電圧が、少なくとも約0.1Vである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記交流電源のピーク電圧が、約0.1V~約100Vである、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記交流電源の周波数が、少なくとも約0.1Hzである、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記交流電源の周波数が、約0.1Hz~約10,000Hzである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、あらゆる目的のため、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、2020年12月9日出願の米国仮特許出願第63/123,133号への優先権の利益を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、エネルギー省により助成を受けた、認可番号DE-AC36-08GO28308の下、政府支援によりなされたものである。政府は、本発明の一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
膜に基づく脱塩技術は、塩水から真水を生成する最もエネルギー効率の高い方法であることが実証されている。しかし、膜に基づく脱塩技術(および、実際には、熱交換器などの多数の他の工業的に重要な表面)は、多数の形態の表面汚損を受け得る。脱塩膜では、膜を横切る水の通過は、膜表面に沿って、流れのない濃度分極(CP)層の形成をもたらし得る。この層では、イオン濃度は、ある特定のやや難溶性の塩の溶解限度を超えることが可能であり、この塩が、ミネラルスケールと称される、膜表面への堆積層を形成する恐れがある。ミネラルスケーリングは、膜の細孔を閉塞し、これによって、水(液体または蒸気のいずれであれ)の通過が制限されて、膜の脆い構造を物理的に損傷する恐れがある。ミネラルスケールの形成を制御する条件は幅広く変化し、フィード水の化学的性質(例えば、pHおよび溶解している化学種)、フィードの物理的条件(例えば、温度および混合)、および膜表面特性(例えば、粗さ、荷電および親水性)に依存する。脱塩における水回収率の程度、すなわち生成水になるフィード水の体積の割合は、付着物によって大きく支配され、地下水は、難溶性ミネラル(例えば、CaSO、CaCOおよび(SiO(4-2x)- 4-x)を形成する傾向がある多数の多価イオンを含有するので、ミネラルスケーリングは、地下水の脱塩において、高い回収率の実現の主要な制約になる。脱塩中の水回収率の増大は、廃棄されなければならない廃棄塩水の体積を低下させるので、これを行う強力な環境面および経済面での動機となる。実際に、ミネラルスケーリングは、他の工業プロセス、とりわけ熱交換器に影響を及ぼし、交換器表面に導電性に乏しい層が蓄積されるため、熱交換器の効率を低下させる。溶液からのミネラルの沈殿は、均一な(遅い)または不均一な(速い)沈殿過程を介して起こり得る。膜脱塩システム内部の状態は、固体/液体界面(すなわち、膜/フィードストリーム)が存在するため、不均一な沈殿に有利であり、これによって、迅速な膜のスケーリングがもたらされる恐れがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
一態様では、膜脱塩システムは、ハウジング、ハウジング内に配設された導電膜、および導電膜に接続した電源を含む。一部の実施形態では、電源は交流電源である。他の実施形態では、導電膜は、多孔質支持体、および多孔質支持体上に配設された導電層を含み、導電層はナノ構造体を含む。
【0005】
一部の実施形態では、ナノ構造体は導電性である。一部の実施形態では、ナノ構造体は、パーコレーティングネットワークを形成している。一部の実施形態では、ナノ構造体は、ナノチューブ、ナノワイヤまたは両方を含む。一部の実施形態では、ナノ構造体は、カーボンナノチューブを含む。一部の実施形態では、導電層は、ポリマーをさらに含む。一部の実施形態では、ポリマーは、ナノ構造体と架橋されている。一部の実施形態では、導電層は多孔質である。一部の実施形態では、導電層は、多孔質支持体の細孔サイズとほぼ同じであるか、またはそれより大きな細孔サイズを有する。
【0006】
一部の実施形態では、多孔質支持体はろ過膜である。
【0007】
一部の実施形態では、膜脱塩システムは、導電膜に隣接して配設された対電極をさらに含み、電源は、対電極および導電膜に接続されている。
【0008】
別の態様では、ミネラルスケーリングに対する耐性を表面に付与する方法は、表面上に導電層を設けるステップであって、導電層がナノ構造体を含む、ステップ、および導電膜に電位を印加するステップを含む。一部の実施形態では、電位を印加するステップは、交流電流を印加するステップを含む。
【0009】
一部の実施形態では、ナノ構造体は導電性である。一部の実施形態では、ナノ構造体は、パーコレーティングネットワークを形成している。一部の実施形態では、ナノ構造体は、ナノチューブ、ナノワイヤまたは両方を含む。一部の実施形態では、ナノ構造体は、カーボンナノチューブを含む。一部の実施形態では、導電層は、ポリマーをさらに含む。一部の実施形態では、ポリマーは、ナノ構造体と架橋されている。一部の実施形態では、導電層は多孔質である。一部の実施形態では、表面はろ過膜の表面である。一部の実施形態では、表面は、熱交換表面である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、一部の実施形態による、導電膜を含む膜脱塩システムの概略図である。
【0011】
図1B図1Bは、一部の実施形態による、熱交換器の概略図である。
【0012】
図2図2は、実施例による、フィードとして(a)CaSO溶液および(b)シリケート溶液を用いる、様々な印加電気条件下での流束低下、ならびに(c)CaSO溶液および(d)シリケート溶液に関する様々な条件下での流束低下速度のグラフである。
【0013】
図3図3は、実施形態による、(a)CaSO、0V;(b)シリケート、0V;(c)CaSO、約2VDC;(d)シリケート、約2VDC;(e)CaSO、約2VAC、10Hz;(f)シリケート、約2VAC、10Hz;(g)CaSO、約2VAC、1Hz;および(h)シリケート、約2VAC、1Hzに関する様々な印加電気条件下での、スケーリング実験後の膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDAX)顕微鏡写真を示す。
【0014】
図4図4は、実施例2による、ECNF膜の特徴付け:(a)ECNF膜の結節構造の上面FESEM画像;(b)PSf支持体の上部に2つの厚いCNT層を有するECNF膜の断面SEM画像;(c)PSf支持体(左)、CNT堆積PSf支持体(中央)およびECNF(右)の接触角測定;ならびに(d)PSf支持体(左)、CNT堆積PSf支持体(中央)およびECNF(右)のAFM画像(2μm×2μmのスキャン領域)を例示する。
【0015】
図5図5は、実施例2による、合成BGWを処理するECNFの性能:(a)電位なし、4Vpp、およびスケーリングなし(電位なしで)の条件下での、水回収率に対するECNF膜の正規化後の流束;ならびに(b)電位なし、4Vpp、およびスケーリングなし(電位なしで)の条件下での、水回収率に対するECNFの正規化後の観察された塩除去率を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(黒正方形)、4Vpp(赤丸)およびスケーリングなし(青三角)を共有する。
【0016】
図6図6は、実施例2による、合成BGWを処理したスケーリングした膜の表面特徴付け:(a)電位なしの条件下で2回実施した実験の後のスケーリングした膜の画像;(b)電位なしの条件下でのスケーリングした膜のSEM画像;(c)電位なしの条件下でのスケーリングした膜のEDAX結果;(d)4Vpp条件下で2回実施した実験後のスケーリングした膜の画像;(e)4Vpp条件下でスケーリングした膜のSEM画像;および(f)4Vpp条件下でスケーリングした膜のEDAX結果を例示する。
【0017】
図7図7は、実施例2による、天然BGWを処理するECNFの性能:(a)電位なし、および4Vpp下での、水回収率に対するECNF膜の正規化後の流束;(b)電位なし、および4Vpp条件下での、水回収率に対するECNFの正規化後の観察された塩除去率を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(黒正方形)および4Vpp(赤丸)を共有する。
【0018】
図8図8は、実施例2による、電位なし、および4Vpp,1Hz条件下での水回収率に対する、天然BGWを処理するECNTの正規化後の陽イオン除去:(a)正規化後のMg2+除去;(b)正規化後のCa2+除去;(c)正規化後のNa除去を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(黒正方形)および4Vpp(赤丸)を共有する。
【0019】
図9図9は、実施例2による、電位なし、および4Vpp,1Hz条件下での水回収率に対する、天然BGWを処理するECNTの正規化後の陰イオン除去:(a)正規化後のCl除去;(b)正規化後のSO 2-除去;および(c)正規化後のSi除去を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(黒正方形)および4Vpp(赤丸)を共有する。
【0020】
図10図10は、実施例2による、天然BW溶液を処理したスケーリングした膜の表面特徴付け:(a)電位なしの条件下での2回実施した実験の後のスケーリングした膜の画像;(b)電位なしの条件下でのスケーリングした膜のSEM画像;(c)電位なしの条件下でのスケーリングした膜のEDAX結果;(d)4Vpp条件下で2回実施した実験後のスケーリングした膜の画像;(e)4Vpp条件下でスケーリングした膜のSEM画像;(f)4Vpp条件下でスケーリングした膜のEDAX結果を例示する。
【0021】
図11図11は、極性切り替えに対応するイオンの移動の例示である。
【0022】
図12図12は、実施例2による、(a)均一な石膏核生成に関する電解セルの模式図;(b)電位なし(黒正方形)および4Vpp(赤丸)条件下での濁りの発生;ならびに(c)電位なし、および4Vpp条件下での経時的なバルク溶液の導電率の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
様々な実施形態が、本明細書のこれ以降に記載されている。特定の実施形態は、網羅的な記載として、または本明細書において議論されている一層幅広い態様に対する限定として意図されていないことに留意すべきである。特定の実施形態と関連して記載されている一態様は、必ずしも、その実施形態に限定されず、任意の他の実施形態と共に実行されてもよい。
【0024】
数値範囲に関して本明細書において利用されている場合、用語「ほぼ」、「約」、「実質的に」および類似の用語は、当業者によって理解され、使用される文脈に応じて、ある程度、様々となるであろう。当業者に不明瞭な用語の使用がある場合、使用されている文脈を考慮すると、この用語は、開示されている値のプラスまたはマイナス10%となろう。「およそ」、「ほぼ」、「実質的に」および類似の用語が、構造的特徴(例えば、その形状、サイズ、配向性、向きなどを説明するため)に適用される場合、これらの用語は、例えば、製造方法または組立方法に起因し得る構造の小さな変動を包含することが意図されており、本開示の主題が関係する分野の当業者による一般的および許容される使用方法と一致する幅広い意味を有することが意図される。したがって、これらの用語は、記載および特許請求されている主題のわずかなまたは重要ではない修正または改変が、添付の特許請求の範囲に列挙されている開示の範囲内にあると見なされることを示すと解釈されるべきである。
【0025】
要素を記載する文脈において(とりわけ、以下の特許請求の範囲の文脈において)、「1つの(a)」および「1つの(an)」および「その(the)」という用語、ならびに類似の指示対象の使用は、本明細書中において特に指摘がない限り、または明確に文脈と矛盾しない限り、単数および複数の両方に及ぶと解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、本明細書において特に指摘がない限り、その範囲内に収まる個々の値のそれぞれを個別に言及する省略法として働くことが単に意図されているに過ぎず、個々の値はそれぞれ、あたかも本明細書において個々に引用されているかのごとく、本明細書に組み込まれている。本明細書において記載されている方法はすべて、本明細書に特に指摘がない限り、または文脈と明確に矛盾しない限り、任意の好適な順序で行うことができる。本明細書において提示されているあらゆる例、または例示的な言い回し(例えば、「など」)の使用は、特に明記しない限り、単に実施形態をより良く明らかにすることが意図されているに過ぎず、特許請求の範囲に限定を設けるものではない。本明細書における言い回しは、必須なものとして特許請求されていないいずれの要素をも示すものとして解釈されるべきではない。
【0026】
本明細書において開示されている通り、ポリアミドポリマーを用いてカーボンナノチューブのパーコレーティングネットワークを架橋することによって作製される導電性ナノろ過(ECNF)膜が、合成水および天然地下水の処理の間、ミネラルスケーリングの形成を防止するために使用することができる方法が実証される。膜の表面への交流電流の印加により、不可逆的な膜のスケーリングを予防/最小化し、著しいエネルギー損失なしに、膜による水回収率の増大を可能にすることが本明細書中に示される。さらに、過飽和溶液に浸漬した金属電極の表面に交流電位を印加すると、バルク結晶化の形成が顕著に遅延することが実証され、本方法が、スケーリングが問題となる、熱交換器などの他のシステムに適用可能となり得ることをさらに例示している。同様に、合成および天然汽水地下水(BGW)の両方を処理するための、カーボンナノチューブ(CNT)ベースの導電性ナノろ過(ECNF)膜の製造および特徴付け、ならびにそれらの使用が開示される。膜表面への交流電流(AC)条件の適用により、無機結晶の形成および膜への付着物を首尾よく制御することが以下に示される。さらに、本技法は、過飽和CaSO溶液に2枚のチタン板を浸漬し、これらの板にAC条件を適用し、均一な核生成の減速をもたらすことによって、他の導電性表面に適用され得る。
【0027】
図1Aは、一部の実施形態による、導電膜を含む膜脱塩システムの概略図である。示されている通り、膜脱塩システム100は、ハウジング105であって、入口110、濃縮物出口111、透過液出口115、およびハウジング100内で入口と透過液出口との間に配設されている導電膜120を含む、ハウジング105を含む。一部の実施形態では、導電膜は、ナノ構造体(例えば、カーボンナノチューブ(CNT))のパーコレーティングネットワークによりコーティングされている多孔質支持体であって、ポリマーにより架橋されて、多孔質支持体上にロバストな多孔質かつ導電性のコーティングまたは層を形成している、多孔質支持体を含む。多孔質支持体は、ポリマー(ポリ(スルホン)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(アクリロニトリル)、別のポリマー、またはそれらの2種もしくはそれより多くのものの組合せから形成されている、またはこれらを含むものなど)、または無機物(アルミナ、ジルコニア、ステンレス鋼、ニッケル、別のセラミック、別の金属、別の金属合金、またはそれらの2種もしくはそれより多くのものの組合せから形成されている、またはそれらを含むものなど)であってもよい。例えば、多孔質支持体は、逆浸透膜などのろ過膜であってもよい。
【0028】
一部の実施形態の導電膜では、ナノ構造体は導電性をもたらす一方、架橋ポリマーは、ナノ構造体を連結し、ナノ構造体を多孔質支持体に貼り付けるマトリックスであって、ナノ構造体間の細孔サイズを制御するために使用される、マトリックスをもたらす。ナノ構造体は、炭素、金属、金属合金、金属酸化物またはそれらの任意の2種もしくはそれより多くの組合せなどの導電性材料から形成されてもよく、またはこれらを含むことができる。一部の実施形態では、ナノ構造体の少なくともサブセットは、ナノチューブ、ナノワイヤまたはナノチューブとナノワイヤとの組合せなどの、高アスペクト比ナノ構造体に相当する。高アスペクト比ナノ構造体は、隣接ナノ構造体間の接合形成の発生を増大することができ、効率的な電荷輸送ネットワークを形成することができる。例えば、ナノ構造体は、単層CNT、多層CNT、またはそれらの組合せなどのCNTであってもよい。ナノ粒子は、高アスペクト比ナノ構造体と組み合わせて、またはこの代わりに使用されてもよいことがやはり企図される。一部の実施形態では、ナノ構造体は、ポリマーとの架橋が可能となる、例えば、カルボキシル基(-COOH)、ヒドロキシル基(-OH)、アミン基(例えば、-NH)、または他の官能基により官能基化されている。同様に、ポリマーは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミン基または他の官能基などの架橋を可能にする官能基を含むことができる。ポリマーの例は、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アニリン)およびポリシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS))を含む。ナノ構造体とポリマーとの架橋時に、多孔質支持体上に得られた導電層は、多孔質支持体の細孔サイズとほぼ同じであるか、またはこれより大きな細孔サイズを有することができる。導電層の厚さは、約100nmもしくはこれより大きくてもよく、約200nmもしくはこれより大きくてもよく、約300nmもしくはこれより大きくてもよく、約400nmもしくはこれより大きくてもよく、または約500nmもしくはこれより大きくてもよく、および最大で約1μmもしくはこれより大きくてもよく、最大で約5μmもしくはこれより大きくてもよく、または最大で約10μmもしくはこれより大きくてもよい。層の導電率は、約500S/mもしくはこれより高くてもよく、約800S/mもしくはこれより高くてもよく、または約1000S/mもしくはこれより高くてもよく、および最大で約1500S/mもしくはこれより高くてもよく、最大で約2000S/mもしくはこれより高くてもよく、または最大で約2500S/mもしくはこれより高くてもよい。
【0029】
水の脱塩のためのシステムの操作の間、膜の導電性により、膜の表面への電位の印加が可能となり、これによって、膜にミネラルスケーリングに対する耐性が付与される。図1Aを参照すると、膜は、電源125に接続されてもよい。一部の実施形態では、電源は交流電源である。電源により供給されるピーク電圧は、少なくとも約0.1Vであってもよい。例えば、供給されるピーク電圧は、少なくとも約0.5Vであってもよい。一部の実施形態では、供給されるピーク電圧は、少なくとも約0.1Hz、または少なくとも約0.5Hz、および最大で約10Hzもしくはこれより高いまたは最大で約50Hzもしくはこれより高い、または最大で約100Hzもしくはこれより高い周波数において、最大で約50Vもしくはこれより高いこと、または最大で約100Vもしくはこれより高いことを含めた、最大で約10Vまたはこれより高くてもよい。一部の実施形態では、供給されるピーク電圧は、約0.1Hz~約10,000Hzの周波数において、約0.1V~約100Vであってもよい。一部の実施形態では、電源は直流電源である。電気回路を完成するため、膜に隣接して対電極が設けられてもよく、同じ電源に接続されてもよい。
【0030】
ミネラルスケーリングに対する耐性を付与する機構は、熱交換器を含めた、他の工業システムおよびプロセスに適用されてもよい。図1Bは、一部の実施形態による、熱交換器の概略図である。示されている通り、熱交換器150は、ハウジング151であって、一次流体入口155、一次流体出口156、二次流体入口160、二次流体出口161、およびハウジング151内部に配設されており、一次流体の流れと二次流体の流れとを分離する熱交換壁190を含む、ハウジング151を含む。熱交換壁190は、支持体として働く熱伝導性障壁であって、反対側の熱交換表面の一方または両方にナノ構造体のパーコレーティングネットワークによってコーティングされて、かつポリマーにより架橋されて、ロバストな多孔質かつ導電性のコーティングまたは層を形成する、熱伝導性障壁を含んでもよい。導電性コーティング、ナノ構造体およびポリマーの態様は、図1Aと関連付けて上で説明したものと同様に実装されてもよい。熱交換器の操作の間、コーティングの導電性により、熱交換壁への電位の印加が可能となり、これによって、壁にミネラルスケーリングに対する耐性が付与される。図1Bを参照すると、壁は、交流電源であってもよい電源に接続されてもよい。電気回路を完成するため、壁に隣接して対電極が設けられており、同じ電源に接続される。
【0031】
一般にこのように記載されている本発明は、以下の実施例を参照することによって一層容易に理解され、実施例は例示のために提示されたものであり、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例
【0032】
実施例は、本開示の一部の実施形態を理解および実施するのに有用な特定の方法を単に提示しているに過ぎないので、実施例は、本開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【0033】
一般。
【0034】
フィード溶液。石膏スケーリング溶液、スケーリングなしの溶液および天然地下水のモデルのイオン組成を表1に列挙する。
【表1-1】
【表1-2】
【0035】
塩化カルシウム(CaCl・HO)、硫酸マグネシウム(MgSO・6HO)、塩化ナトリウム(NaCl)は、Fisher scientificから購入し、入手したまま使用した。合成溶液はすべて、DIWを用いて調製した。天然地下水試料は、Santa Monica Water Treatment Plant(Santa Monica、CA)によって提供を受け、懸濁固体を除去するため、フィルターカートリッジを用いて予め処理した。
【0036】
溶液がスケーリングする傾向の程度は、以下:
【数1】
として定義される、SIに関して定量化した(式中、αは、スケール形成物質(scalant)の活量であり、Cは、スケール形成物質のモル濃度であり、KSPは、溶解度積である)。モデルの石膏スケール溶液は、石膏に関して0.96のSIを有する一方、天然地下水は、CaCOに関して1.98のSIであり、石膏に関して0.05のSIを有する。SIは、OLIソフトウェアを使用して計算した。
【0037】
ECNF製造。ECNF膜を作製する手順は、ポリアミドをキャスト成形するために、m-フェニレンジアミンの代わりにピペラジン(PIP、Alfa Aesar)を使用した以外、以前に報告された方法に従った60。手短に述べると、カルボキシル官能基化カーボンナノチューブ(CNT、Cheaptubes Inc.)懸濁溶液は、CNTおよび界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dedocylbenzensulfonate)、Sigma Aldrich)の混合物を音波処理することによって調製した。この後、懸濁溶液のある特定の分量をPSf膜支持体(PS35、Solatec)に加圧堆積した。次に、作製したCNT膜を、1時間、2%のPIP水溶液に浸漬した。プラスチック製ローラーを使用して、膜表面の過剰量のPIPを除去し、次いで、この膜を2分間、ヘキサン(Fisher Scientific)中の0.15%の1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロリド(TMC、Sigma-Aldrich)に浸漬した。最後に、膜を80℃で5分間、硬化させた。
【0038】
システム設計および操作。膜試験片(0.004mの有効面積)を、特注した十字流膜セル内に配置し、安定な透過液流束が得られるまで、DIWを用いて一晩、コンディショニングした。膜の純水の透過液流束は、コンディショニングの終了時に測定した。次に、フィード溶液をフィード槽に供給し、本システム内の圧力を、石膏スケール溶液およびスケーリングなしの溶液の場合には40LMHの初期透過液流束、ならびに天然地下水の場合には50LMHを実現するよう調節した。次に、一定圧力を実験の経過にわたり適用した。天然地下水の場合には、一層高い初期流束を適用して、膜表面のスケールの核生成を増大させる、濃度分極を促した。このろ過システムは、4.66cm/s(レイノルズ数158に相当する)の十字流速度で操作して、水回収率が所望の点に到達するまで、塩水ストリームをリサイクルしながら透過液ストリームが常に処理される濃縮モードで作動させた。石膏スケール溶液を試験する場合、フィード槽中の石膏のバルク結晶化を避けるよう、フィルターカートリッジ(0.45μm)を塩水ストリーム中に置いた。天然地下水を試験する場合、1μmのフィルターカートリッジを使用して、カートリッジの保持体積を最小化し、所与のフィード体積(3L)を用いて高い回収率(すなわち、85%)を実現した。フィードおよび透過液からの試料を定期的に採集して、Robs=(1-γ/γ)(式中、γおよびγは、それぞれ、透過液およびフィードの導電率である)として定義される、観察した塩除去率をモニタリングした。
【0039】
水回収率が、一旦、目標回収率(合成溶液の場合には55%、および天然水の場合には85%)に到達したら、合成溶液の場合には脱イオン水(DIW)、および天然地下水の場合には塩酸(HCl、Fisher Scientific)を使用して膜の洗浄作業を行い、膜性能(すなわち、水流束および塩除去率)の可逆性を試験した。合成溶液でスケーリングした膜をDIWによって30分間すすぎ、天然地下水でスケーリングした膜は、1時間、HCl溶液(pH2)中に浸漬した。次に、新しい溶液をフィードとして供給し、膜性能の可逆性を試験した。
【0040】
水の品質分析。実験の経過の間、フィードおよび透過液試料の水の品質(pH、導電率、陰イオン濃度および陽イオン濃度)をモニタリングして、ECNF膜の性能を比較した。試料のpHおよび導電率は、携帯型pH(Thermo Scientific、Orion 720A)測定器および導電率測定器(Orion A321)を使用して、試料の採取後、直ちに測定した。濁度は、濁度計(Hach、2100P)を使用して測定した。陰イオン(ClおよびSO 2-)濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC、Thermo Fisher、Dionex Integrion HPIC)によって測定した。陽イオン(Na、Ca2+およびMg2+)およびケイ素濃度は、誘導結合プラズマ(ICP-OES、Shimadzu、ICPE9000)によって測定した。無機炭素濃度は、無機炭素含有率を測定することによって、全有機炭素(TOC)分析器(Shimadzu、TOC-L)を使用して測定した。
【0041】
膜表面の特徴付け。むき出しの膜およびスケーリングした膜の表面は、エネルギー分散型X線分光法を装備した電界放射型走査型電子顕微鏡法(FESEM、Zeiss、Supra 40VP)を使用して特徴付けた。EDAXは、測定した表面の原子組成に関する情報を提供する。接触角測定は、接触角ゴニオメータ(Rame-hart、モデル250)を使用して行い、様々な作製ステップにおける、膜表面の疎水性/親水性の程度を比較した。接触角測定にはDIWを使用して、各膜片の少なくとも10の異なる領域を測定した。4点プローブ(Mitsubishi、MCP-T610)を使用して、作製したECNF膜のシート抵抗率を測定した。膜表面の少なくとも5つの異なる点を測定した。
【0042】
(実施例1)
膜による脱塩中のミネラルスケール形成の動力学。これらの検討により、スケール形成の速度は、過飽和度に依存することが判明した。過飽和の発生とミネラルスケーリングの形成との間の期間は、「誘導期」と特定される。不均一な沈殿過程の間に、ほんの数種の原子を含める無機「核生成前クラスター」が、最高濃度を有する領域(例えば、膜/水界面)において迅速に(数秒以内)形成することができる。これらのクラスターは凝集して表面に付着し得、結晶成長の誘発部位として働き、この部位で、周囲溶液に由来する溶解したイオンは、成長中の結晶と一緒になる。したがって、ミネラルスケールの形成を予防するため、理想的なシステムは、これらの核生成前クラスターの形成を最小化し、これらのクラスターのいずれもが、膜表面に到達することを防止し、ロバストな表面結晶構造の後続の成長を抑制する。
【0043】
膜の表面の表面電荷は、ミネラルスケールの形成に影響を及ぼすことがあり、負に荷電した表面(例えば、-COOH基に富むもの)は、正に荷電した表面(例えば、四級アミン基に富む)よりも大きなスケーリング耐性がある。しかし、DCの外部アノード電位(例えば、1.5Vのセル電位)が、導電性逆浸透(RO)膜の表面に印加されている場合、CaSOスケーリングは、顕著に遅くなった。抗スケーリング現象は、印加電位に応答して発生する、厚い電気二重層(EDL)の形成によると説明された。EDLでは、共イオンの濃度は、対イオンの濃度に比べて不足することで、飽和指数(SI)が局部的に低下することによって結晶核の形成が低減し、ミネラルスケーリングが遅くなる。これらの結果は、表面に沿ったイオン濃度の外部制御が、核生成の速度に実質的に影響を及ぼし得、ミネラルスケーリングをおそらく防止することができることを示している。
【0044】
この実施例では、効率的な抗スケーリング法は、導電膜の表面に印加されるACを使用してもよいことが報告される。この方法は、石膏(CaSO)とシリケートのスケーリングの両方を防止するために適用され、これらのどちらも、脱塩中に遭遇する共通のスケーリング化学種である。
【0045】
イオンが濃度分極(CP)層に蓄積すると、スケーリングが起こり、最高濃度が膜表面に存在し、表面からバルクへと悪化が進む。過飽和状態は、最初にCP層に発生する可能性が高く、膜表面において不均一な結晶核生成および成長をもたらして、流束低下に至る。実験における膜表面に沿ったSI値は、CaSOおよびシリケートに対して、それぞれ、約2.28および約3.18と求まった。これらの値は、過飽和状態は、実際に、膜表面に沿って発生し、ミネラルスケーリングは、十分な時間が与えられると起こる可能性があることを示している。重要なことに、約2.3というSIは、スケール防止剤の化学的性質が、CaSOスケーリングを最小化することができる最高のSIと考えられ、本明細書において使用される作動条件の困難な性質を強調する。
【0046】
導電膜は、有機物、コロイド状物および生物付着物を含めた、複数の形態の付着物の予防に非常に有効であることが実証される。これらの膜は、カーボンナノチューブ(CNT)のパーコレーティングネットワークを膜の活性層に組み入れることによって作製される。架橋ポリマー(ポリ(ビニルアルコール)またはPVA)を使用して、CNTを所定の位置に固定し、得られた複合材料に特定の分離のための表面特性および輸送特性を付与する。
【0047】
CaSOおよびシリケートのスケーリングを起こしやすい溶液を処理している間の、正規化後(時間0に対して)の流束をそれぞれ、図2aおよび2bに見ることができる。平均流束低下速度(リットル/m/時またはLMH時-1)は、データ点を通る線形関数にあてはめることによって求められ、相関R値と共に、図2cおよび2dによって示されている。2種のフィード溶液に関して計算したSIに基づいて、スケーリングに関する時間尺度は、著しく異なるはずである。観察される通り、より高いSIを有するシリケート溶液は、かなり短い時間間隔で、膜をスケーリングした。シリケート溶液が高いSIであることに加え、カルシウムおよびマグネシウムなどのある特定の陽イオンが存在すると、脱塩膜に付着している間に、シリケート核生成および重合が促進される恐れがある。
【0048】
スケーリング実験の間、実行の一部は、2つの異なる流束事象:流束低下なしの初期期間(すなわち、誘導期)および流束低下が起こる期間(図2)を示した。しかし、これらの2つの事象は、すべての実験において認められたわけではなかった。例えば、非コーティング膜を用いた実験の間、急速な流束低下が、直ちに観察された(図2aおよび図2b)。試験した各実験条件に関して、線形関数を、流束低下が発生した領域にわたりあてはめる(図2aおよび図2b)。CaSOおよびシリケートのスケーリングの誘導期は、流束低下の伴わない期間として現れることができ、次いで、急速な流束低下およびスケーリングの期間が続くことができる。同様の観察が、NaClのスケーリングの間になされる。大部分の成功を収めた実験の実行では、長い誘導時間が存在し、その実験の間、ゆっくりとした流束低下がその後に観察された(例えば、2VAC,1Hzを印加した場合、図2aおよび図2b)。
【0049】
印加された表面電位の関数としての流束低下の傾向が類似していたので、CaSOおよびシリケートのスケーリングの結果を一緒に議論する。両方の場合において、非コーティングポリ(プロピレン)(PP)支持体は、急速な流束低下を示し、流束低下速度は、それぞれ、約10LMH時-1および約25LMH時-1であった(図2cおよび2d)。これらの速度は、シリケート溶液のSIがより高いことと一致し、これによって、CaSOに比べて一層迅速な沈殿がもたらされ、シリケート溶液の場合の流束低下がほとんど瞬時に始まる一方、CaSOによるスケーリングは、非ゼロ誘導期を有する観察とやはり一致する。カーボンナノチューブ(CNT)/ポリビニルアルコール(PVA)膜上のスケーリング結果を鑑みると、いくつかの驚くべき観察が現れる。CNT/PVA複合材料によりPP支持体をコーティングすると、CaSOの誘導期を約40分間から約60分間に増大させ、CaSOおよびシリケートのスケーリングのどちらの速度も低下し、流束低下の速度は、CaSOの場合には約10LMH時-1から約3.75LMH時-1まで低下(約62.5%の低下)し、シリケートの場合には約25LMH時-1から約18LMH時-1まで低下(約28%の低下)した(図2cおよび2d)。これは、疎水性膜上への親水性層(この場合、CNT/PVA)の付与によって、スケーリングの程度が低下することを示す観察と一致する。一般に、親水性表面は、膜/水界面において強く結合した水層が存在するために、スケーリングに対してより耐性があり、これによって、ミネラルスケールを含む付着物の付着が最小化される。
【0050】
電位の印加により、誘導期の長さと流束低下の速度の両方に顕著な影響を及ぼした。CaSOスケーリングの場合、ほぼ2VDCのセル電位の印加により、誘導時間は増大しなかったが、流束低下の速度(0Vとの比較)の約3.75LMH時-1から約1.35LMH時-1への低下(約64%の低下)をもたらした。シリケートシステムの場合、ほぼ2VDCのセル電位により、誘導時間が約40分間まで増大し、流束低下の速度が約18LMH時-1から約12.5LMH時-1まで低下(約30%の低下)した(図2a~d)。AC電位を膜に印加すると、結果は、DC条件とは著しく異なった。CaSOスケーリングの間、ほぼ2VAC,10Hzの電位を印加すると、流束低下は、約2VDCの場合よりも悪く(約1.35LMH時-1に対して、約2.82LMH時-1の速度)、誘導期は明確ではなかった(図2aおよび2b)。しかし、シリケート溶液をほぼ2VAC,10Hzの電位を印加している間に処理すると、流束低下速度は、約2VDC下では、約12.5LMH時-1から約8LMH時-1に低下した。シリケート溶液が、これらの条件(2VAC,10Hz)下では優れた性能を示した一方、CaSOの性能は悪かった理由は不明である。
【0051】
どちらのスケーリング溶液の場合も、最良の性能は、約2VAC,1Hzセル電位を膜表面に印加した場合に観察された。CaSOの場合、誘導期は、約200分間まで劇的に増大し、流束低下速度は、約0.7LMH時-1(0V時よりも約81%小さい)まで低下した。シリケートの場合、誘導時間は、約100分間まで増大し、流束低下速度の速度は、約3.8LMH時-1(0Vに対して、約79%の低下)に低下した。しかし、シリケートに富むフィード溶液のpHが、約6まで低下すると、流束低下の速度は、約4.2LMH時-1まで増大(約2VAC,1Hzを印加した場合)し、誘導期は、約20分間まで低下した(図2b)。シリケート化学種の酸性度は、その分子の複雑さに依存し、一層複雑な化学種は、一層低いpKaを示す。フィード溶液中のシリケートの正確な化学種形成を予測することは困難である(そしていくつかの化学種の混合物である可能性が高い)ので、フィード溶液のpHを低下させると、シリケートの一部(またはすべて)が、印加電位に応答しない、それらの非荷電形態に転化する可能性が高い。したがって、シリケートのスケーリングは、電位の印加により効果的に防止されないので、一層短い時間の後に、膜流束が低下し始めることと一致する。
【0052】
電位なしに、CaSOがスケーリングしたCNT/PVAコーティング膜の走査型電子顕微鏡(SEM)により、針状晶および板状晶の混合物であることが明らかになった(図3a)。結晶の幾何形状は、SIおよび結晶化動力学に依存する。針状結晶化は、バルク結晶化を伴う一方、板様形成は、通常、表面結晶化の結果である。EDAX分析により、膜は、カルシウムおよび硫黄の厚い層によって主に被覆されていることが示された(図3a)。シリケートがスケーリングした膜上では、一様なコロイド状層が表面を被覆しているのが観察された(図3b)。これは、二価陽イオンの存在下で、シリケートモノマーの重合が、コロイド状のゲル様スケーリング層をもたらすという観察と一致する。一部の構造は、このシリケートのスケーリング層の上部に堆積したものが観察された。堆積物のEDAX分析により、表面は、ケイ素およびマグネシウム含有ミネラルによって被覆されたことが示された(図3b)。クリソタイル(Mg(Si)(OH))は、ケイ素とマグネシウムの両方を含有するミネラルであり、フィード溶液中で高いSIを有する。したがって、一部のクリソタイル結晶が、コロイド状シリケート層上に沈殿した可能性がある。CaSO飽和溶液を処理しながら約2VDCのセル電位を印加した後のCNT/PVA膜表面のSEM顕微鏡写真は、バルク結晶化に特徴的な、針状晶が大多数であることを示し、約2VDCの条件下では、バルク結晶化が、スケーリングより優勢であることを示している(図3c)。約2VDCの印加後のシリケートがスケーリングした膜のSEMおよびEDAX分析は、より多数のマグネシウムを有する結晶が点在した類似のコロイド状層であることを示した(図3d)。約2VAC,10Hzの印加後の膜表面のSEM顕微鏡写真により、CaSOおよびシリケートがスケーリングした膜の両方の場合で、膜表面全体に一様に結晶が堆積していることが示された(図3eおよび3f)。約2VAC,1Hzを膜表面に印加した後のCaSOがスケーリングした膜のSEM顕微鏡写真により、バルク液体中の石膏の結晶化によって形成されるものに類似した、鋭い針状晶の非常に薄い被膜であることが明らかになった。拡大した顕微鏡写真により、表面により小さな結晶(約150nm)が存在していることが明らかになった(図3g)。図3hでは、シリケートがスケーリングした膜は、ケイ素によって完全に被覆されてはいなかった。CaSOおよびシリケートがスケーリングした膜のどちらの場合も、CNTネットワークは、SEM顕微鏡写真で目視可能であり、約2VAC,1Hzが印加されると、表面の被覆が不良となることを示している。これらの観察は、約2VAC,1Hzの条件下で、膜が、流束低下の劇的な減少を受けるという流束低下の観察と一致する。
【0053】
(実施例2)
ECNF膜の特徴付け。ECNF膜は、多孔質ポリスルホン(PSf)支持体上にCNT懸濁液を加圧堆積し、次いで、ピペラジンベースのポリアミドを使用してCNTを架橋することによって作製した(この方法は、材料および方法の項目に詳述している)。ECNFの表面の電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM)画像化により、結節表面幾何形状であることが示され、これは、NF膜において使用されるピペラジンベースのポリアミド材料の典型である。ECNF材料の断面分析によって、PSf支持体に堆積したCNTの厚さは、ほぼ2μmの厚さであることが示される(図(4a)および4(b))。46~48PSf支持体の接触角は、74°±4°であった一方、CNTコーティングを付与すると、接触角は125°±4°に増大した。ポリアミド層をCNTの架橋に使用した場合、最終複合材料の生じた接触角は、19°±4°と非常に親水性であった(図4(c))。AFM測定により、PSf支持体は、4.59nmの表面二乗平均平方根(RMS)粗さを有する一方、CNT堆積PSf支持体およびECNFは、それぞれ、30.8nmおよび14.4nmの表面粗さを有することが示される。ECNF膜のシート抵抗率は、135.57±11.52Ω/sqであり、これは、3707±284S/mの導電率に置き換えられる。ECNF膜が、NaClおよびMgSOの溶液を除去するその能力を評価し、塩除去率の値は、それぞれ、58.51±4.65%および93.75±1.00%であった。
【0054】
合成溶液を処理するECNFの性能。図5は、合成BGW溶液(CaSOに関して過飽和)、およびCaを等モル量のMgで置き換えた(MgSOは可溶性が高く、試験条件下では、沈殿しない)スケーリングなしの溶液を用いた実験の経過中の、ECNF膜の正規化後の流束および塩除去率を示している。この実験では、初期流束は、27.27±2.12L/m時であった。システムが経時的に受ける流束低下を考慮する場合、スケーリングなしの溶液を使用して、膜のスケーリングから浸透圧の影響を区別した。実験条件下では、透過液流束は、浸透圧の増大のために、水回収率が増加すると低下した。55%の水回収率では、スケーリングなしの溶液の流束は、その初期流束の64.45±4.82%に到達(すなわち、35.55%の低下)した一方、印加電位なしでの合成BGWの流束は、同じ回収率では、初期流束の50.59±6.87%(すなわち、49.41%の低下)であった(図5(a))。流束低下が一層高いことは、CaSO結晶が、膜上に実際に形成したことを示唆しており、これによって、水の流れが閉塞された。49,504Vpp,1Hz条件を膜表面に適用した場合、ECNFは、55%の回収率では、57.76±6.02%(42.24%の低下)という正規化後の流束を示した(図5(a))。4Vpp,1Hz条件下で55%の回収率で測定した水流束がより高いことは、膜表面へのCaSO結晶形成がそれほどなく、流束低下の低下をもたらしたことを示唆した。
【0055】
CaSO結晶(長い針状)の特徴的な幾何形状は、膜表面への損傷をもたらす恐れがある。51,52この損傷は、塩除去において観察される低下に現れる。スケーリングなしの溶液を使用した場合、観察された塩除去率は、水回収率と共に増大する(塩除去率は、55%の水回収率では、103±0.12%まで増大した)(図5b)。回収率の増大に伴う塩除去率の増大は、フィード溶液がこの実験全体を通して濃縮されるのにつれたフィード溶液のイオン組成の変化に起因し得る。ECNF膜は、二価イオンの除去率(約93%)に比べて、一価イオンの除去率(約58%)は低く、膜の透過液をフィードに戻さなかったので、フィード溶液中の一価イオン対二価イオンのモル比は、水回収率の増大と共に低下した。フィード中の一価イオン対二価イオンのモル比は、3%の回収率では、1.00であった一方、この比は、55%の回収率では、0.74であった。この比が低下すると、膜は、一層高い除去率を有するように思われる。同様の観察が、これまでに報告された。53電位を印加しない場合、観察された塩除去率は、約10%の回収率まで増大したが、この後、低下した。55%の回収率では、除去率は、その初期値の76.46±1.12%に到達し、膜が損傷したことを意味した。しかし、AC条件を適用すると、塩除去率は、20%の回収率まで増大し、最終除去率は、55%において、96.12±7.02%に到達した。スケーリングなしの溶液の場合とは統計学的に差はなかった。これは、スケール形成が、印加電気条件の存在下で抑制されたことをさらに示唆する。
【0056】
測定した塩除去率(フィードと透過液との間の導電率の差異を測定することによって決定した)に加え、すべての実験条件下でのECNFによる特定の陽イオンおよび陰イオンの除去率をモニタリングした。スケーリングなしの溶液を処理した場合、陽イオン(すなわち、Mg2+)と陰イオン(すなわち、ClおよびSO 2-)のどちらの除去率も、水回収率の増大と共に増大したが、Naの除去率は変動した。電位を印加しないで、合成BGWを処理した場合、陽イオン(すなわち、Ca2+、Mg2+およびNa)および陰イオン(すなわち、SO 2-およびCl)除去率の顕著な低下が観察された一方、除去率の低下は、電位を印加した場合、それほど顕著ではなかった。具体的には、印加電位の非存在下では、Ca2+、Mg2+、Na、SO 2-およびClの除去率は、55%の水回収率では、それぞれ、それらの初期除去率の82.52±8.93%、72.32±4.37%、78.64±17.64%、82.51±1.20%および72.00±0.76%まで低下した。対照的に、AC条件を適用すると、Ca2+、Mg2+、Na、SO 2-およびClの除去率は、55%の水回収率では、それぞれ、それらの初期除去率の97.30±0.18%、95.40±4.60%、95.41±6.03%、96.82±4.70%および96.94±11.02%であった。
【0057】
水回収率が、一旦、55%に到達したら、この実験を停止し、モジュールから膜を外さないで、膜表面を15分間、脱イオン水(DIW)によりすすいだ。DIWでのすすぎ後、新しい溶液を導入して、実験を繰り返した(図5)。CaSOスケールは、pHに影響を受けないことが知られているので、DIWによるすすぎは、緩く付着した粒子を除去し、CP層を除去するが、不均一な核生成および結晶成長の結果として成長したスケールのいずれも顕著には溶解しないことが予想された。54,55すすぎの後、適用したAC条件(スケーリング溶液を使用)下で試験したECNFは、その水流束を完全に回復した(すなわち、102.28±8.20LMH)一方、印加電位の非存在下で試験したECNFの流束は、その初期値よりも24%高かった(図5a)。この流束の増大は、塩除去率の顕著な低下に相当し、膜は、堆積したCaSOスケールのために損傷したことを示している。対照的に、AC条件を適用した場合、わずか中度の低下しか観察されなかった。すすいだECNFは、その初期除去率の86.80±9.01%を維持し、その除去率は、新しいフィード溶液を使用した場合、40%の回収率では、92.50±9.35%に到達した。印加電位の非存在下では、陽イオンおよび陰イオンの除去率の顕著な低下が観察された。印加電位の非存在下では、Ca2+、Mg2+、Na、SO 2-およびClの除去率は、この実験の最初の実施では、それぞれ、それらの初期除去率の47.37±1.28%、33.35±3.37%、70.80±0.90%、41.73±3.82%および30.14±6.24%まで低下した。しかし、AC条件を適用すると、Ca2+、Mg2+、Na、SO 2-およびClの除去率は、この実験の最初の実施では、それぞれ、それらの初期除去率の88.30±0.65%、87.10±9.80%、96.89±5.18%、90.98±10.71%および79.30±12.46%であった。洗浄後の塩除去率の程度の低下の差異は、膜性能の可逆性を呈し、これはまた、電位なしの膜が、一層深刻な石膏スケール形成を受けたという本発明者らの推測を支持し得る。
【0058】
処理後のECNF膜の表面を、デジタルカメラ、FESEMおよびエネルギー分散型X線分光法(EDAX)を使用して画像化した。膜の画像は、AC条件を適用した場合、電位なしの条件に比べると、膜上のスケールの形成はより少ないことをはっきりと示している。(図6aおよびb)。CaSOスケールのFESEM画像は、不均一な石膏結晶に通常、伴う、独特なロゼット構造を示さなかった(図6cおよびd)。56,57低水回収率では、バルクフィード中の推定される石膏飽和指数(SI)は0.96であり、こうして、バルク沈殿は起こらないことが予想される(SI>1の場合に沈殿が起こる)。しかし、高水回収率(すなわち、55%)では、バルクフィード中の石膏のSIは、2.00まで増大した。したがって、高水回収率では、不均一な核生成が石膏結晶の形成に寄与するだけではなく、バルク沈殿(すなわち、均一な核生成)もまた、ある役割を果たしており、独特なロゼット構造が消失する。EDAX分析を使用してCaSOスケール形成が確認され、これによって、スケーリングした膜表面における主要な原子種は、Ca、SおよびOであることが示された(図6eおよびf)。
【0059】
天然地下水を処理するECNFの性能。同じ実験手法をSanta Monica、CAにおける帯水層から抽出した天然BGWの処理に適用し、%回収率を85%まで拡大させて、塩水の体積を最小化する望ましい処理結果を模倣した。このBGWのイオン組成は、表1に見ることができる。天然BGWの初期塩除去率は、電位なしの場合、および電位のある場合、それぞれ、69.89±1.96%および63.42±0.90%であった。電位を印加すると塩除去率が低下する理由は、不明である。
【0060】
印加電気条件の場合、およびそれがない場合の、水流束および塩除去率の変化は、図7aおよびbに見ることができる。合成BGWを用いて生成した結果と同様に、水流束は、すべての実験条件下で、水回収率の増大に伴って低下した。電位なしでのECNFの流束は、85%の回収率では、初期流束の31.30±11.35%(68.7%の低下)まで低下した一方、印加電位を伴うECNFの流束は、同じ回収率では、45.89±5.06%(54.1%の低下)までしか低下しなかった(図5a)。塩除去率に関すると、AC条件を適用した場合、ECNFは、実験の経過の間、塩除去率の増大を示し、塩除去率は、85%の回収率では、初期除去率の値の118±8.84%まで増大した。しかし、AC条件の非存在下では、ECNFは、塩除去率をわずか最大で70%の回収率までの増大しか示さず(初期除去率の110±4.10%)、この時点で、除去率は(85%では、107±2.64%まで)低下した(図2b)。統計的に有意ではないが、この傾向は、結晶成長の結果として、膜が損傷した可能性があることを示唆する。さらに、AC条件の非存在下で観察された、流束低下がより大きいことは、AC条件が、ECNF膜の表面に適用されると、天然BGWを使用した場合でさえも、スケールの形成を最小限にする事例をさらに裏付ける。
【0061】
この実験全体を通して、ECNFによる陽イオン(Ca2+、Mg2+およびNa)および陰イオン(SO 2-、ClおよびSi)の除去率をモニタリングした(図8および9)。印加電位の非存在下では、回収率が約70%の回収率に到達した場合、NaおよびMg2+除去率の注目に値する低下が観察された(図8aおよびc)。対照的に、適用したAC条件下では、除去率の低下はこの実験全体を通して観察されなかった。すべての実験条件の下で、Ca2+除去率は、水回収率が増大するにつれて低下した(図8b)。陰イオンの場合、印加電位の非存在下では、高回収率では、ClおよびSO 2-除去率の低下が観察され、Siの除去率の変化は観察されなかった(図9a~c)。AC条件を適用した場合、ClおよびSO 2-除去率は、水回収率の増大と共に増大した。しかし、Si除去率は、低水回収率では低下し、50%回収率では増大し始めた。理由は不明であるが、Siは、地下水のpH範囲(8~8.5)では、非荷電状態(すなわち、Si(OH))であることが予想され、これによって、印加電位の影響が最小化されるはずである。
【0062】
85%の回収率が一旦達成されたら、膜を1時間、HCl溶液(pH2)中に浸漬して、洗浄した膜の性能を新しいフィードを用いて試験した。洗浄後、AC条件を適用しないECNF膜は、その初期流束の57.12±14.32%まで回復した一方、AC条件を適用したECNF膜は、その初期流束の78.56±0.08%まで回復した(図7a)。合成BGWの場合とは異なり、洗浄(すなわち、酸浸漬)は、流束の回復にそれほど効果がなく、これは、スケールの組成が異なるためである可能性が高い。天然BGWは、石膏スケール形成の可能性を有するばかりでなく、炭酸カルシウムおよびシリケートのスケールの可能性をも有する。この複雑なスケールの場合、洗浄ステップの組合せ(例えば、酸洗浄、次いで、塩基洗浄)は、地下水処理プラントでは、慣用的に使用されている。58,59興味深いことに、AC条件を適用しないECNF膜は、洗浄後に塩除去率の顕著な低下を受けた(初期除去率の値の85.19±6.20%)。対照的に、AC条件を適用したECNF膜は、その塩除去率を完全に回復した(その初期値の104±5.20%)。総合的な塩除去率に一致して、洗浄後の陰イオンおよび陽イオンの除去率の顕著な低下が、AC条件の非存在下で観察された(図8および9)。
【0063】
20%の水回収率が一旦、達成されたら(2回目の実施)、ECNF膜の表面をFESEMおよびEDAXを使用して分析した。一般に、AC条件を適用すると、ECNF膜の表面にはスケールはそれほど観察されなかった(図10)。具体的には、電位を印加しなかった場合、膜表面全体にスケールが形成された(図10a)一方、AC条件下では、膜は、入口領域ではスケールがなく(図10dにおける膜の左側)、いくらかのスケールが、出口領域で見えた。FESEM画像により、恐らくその複合的な性質(すなわち、CaSO、CaCO、シリケートなど)のために、非特異的な結晶構造であることが示された(図10bおよびe)。EDAX結果により、スケール中の主要原子は、CaおよびOであることが示された(図10cおよびf)。
【0064】
膜表面におけるより少ない/遅延した石膏核生成は、恐らく、印加したAC電位によって誘導される電気泳動混合が理由である(図5)。ECNFがカソードとして働いている(すなわち、膜上で-2V)間、陽イオン(すなわち、Ca2+、Mg2+およびNa)は、膜に向かって移動する一方、陰イオン(すなわち、ClおよびSO 2-)は、対電極に向かって、反対方向に移動する。0.5秒後、極性を切り替えると(ECNFをアノードとする)、陽イオンおよび陰イオンは、極性の変化に対応して移動方向を変え、核生成にとって不十分な時間をもたらす。36核生成する時間が十分である場合でさえも、外部電圧源により供給されるかなり増強された表面電荷は、一層厚い電気二重層形成をもたらし、核生成区域を膜表面から離れるように移動させる。次に、膜表面から離れて形成した核は、水の十字流によって容易に運び去られ得る。60
【0065】
電解セルにおける均一な石膏核生成に及ぼすAC電位の効果。均一なCaSO核生成に及ぼすAC条件の影響を検討するため、高度に飽和したCaSO溶液(すなわち、40mMのCa2+およびSO 2-)中に浸漬した2つのチタン電極からなる電解セルを構築した(図4a)。CaSO溶液(2.27のSI)を、不均一な核生成過程を促進し得る固体不純物を除去することが知られている、0.22μmのフィルターによって事前ろ過した。61電位を印加しない場合、濁度は14.48±0.73NTUまで迅速に増大し、バルク溶液の導電率は、100分後に13.29±0.06mS/cmから12.60±0.04mS/cmまで低下し、CaSO結晶が迅速に形成したことを示している(図9bおよびc)。AC条件を適用した場合(4Vpp,1Hz)、濁度は、バルク溶液中では、大きく低下(4.17±2.02NTU)し、導電率は、12.73±0.01mS/cmまで低下した。溶液濁度および導電率の差異は、AC条件の存在下では、CaSO核生成および結晶成長の発生がより少なかったことを意味する。濁度の大きな差異と比べ、電位のある場合の最終的な導電率は、電位なしでの最終導電率よりもわずかしか高くなかった。光散乱法理論によれば、球体の単分散溶液では、散乱光の全強度は、レイリー散乱領域(すなわち、粒子半径<<光の波長の場合)における粒子半径の6乗に比例するか、またはミー散乱領域(すなわち、粒子半径が、およそ光の波長である)における粒子半径の4乗に比例する。62~64したがって、溶液の導電率の小さな変化がある場合でさえも、光散乱法の顕著な変化を引き起こし、劇的な濁度変化をもたらし得る。
【0066】
要約および結論。この検討では、スケール形成に及ぼすAC電位(4Vpp,1Hz、矩形)の効果を検討した。合成石膏スケール溶液および天然地下水を処理するECNF膜ろ過システムを使用して、膜のスケーリングを検討した一方、均一な核生成に電解セルを使用した。AC電位の印加は、ECNF膜の表面(均一な核生成と不均一な核生成とが同時)と電解セル中のバルク溶液中(均一な核生成が優勢)の両方で、スケール形成を効果的に軽減させたことを示した。
【0067】
AC電位を印加した場合、合成BGWを処理するECNF膜は、それほど深刻な流束低下を受けず、処理の経過全体にわたり、塩除去率はほとんど低下しなかった。対照的に、印加電位の非存在下では、顕著な流束低下および大きな塩除去率低下が観察された。さらに、洗浄ステップ(すなわちDIWによる洗い流し)後、膜性能(すなわち、流束および塩除去率)は、電位なしの条件下では不可逆的なスケール形成のために悪化した一方、性能は、AC電位によりほぼ完全に回復したことが観察された。同様に、ECNF膜を天然BGWに使用した場合、AC電位の印加により、洗浄ステップ後、それほど深刻な流束低下をもたらさず、塩除去率の低下はなく、膜性能(流束および塩除去率)の優れた可逆性をもたらした。しかし、印加電位の非存在下では、膜は、洗浄後、顕著な流束低下、塩除去率の低下および膜性能の深刻な不可逆性を受けた。これらの知見は、AC電位の印加を伴うECNF膜の使用は、汽水(brachish)地下水の脱塩の間の水回収率の増大によって、塩水生成が最小限になり、かつ飲料水の利用可能性を増大する、化学品を使用しない環境的に無害な方法となり得ることを意味する。
【0068】
電解セルでは、均一な核生成に及ぼすAC電位の影響を、バルク溶液の濁度および導電率をモニタリングすることによって検討した。AC電位を印加した場合、濁りの発生は、電位なしの条件に比べて、顕著に遅延され、導電率の低下は比較的小さいものであった。この知見は、AC電位の印加は、熱交換器などのスケーリングしやすい他の表面を含め、複数の形態のスケーリングの軽減に有効であることを意味する。
参考文献:
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【0069】
本明細書において使用する場合、用語「接続する」、「接続した」および「接続」とは、連結操作または連係操作を指す。接続された物体は、互いに直接連結されてもよく、または1つもしくは複数の他の物体を介してなど、互いに間接的に連結されてもよい。
【0070】
一部の実施形態の記載において、別の構成要素の「上(on)」または「上(over)」に設けられたまたは配設された構成要素は、後者の構成要素が前者の構成要素上に直接(例えば、物理的接触または直接接触して)存在する場合、および1つまたは複数の介在する構成要素が、後者の構成要素と前者の構成要素との間に位置する場合を包含することができる。
【0071】
本明細書において使用する場合、用語「ナノメートル範囲」または「nm範囲」とは、約1nm~約1μmの寸法の範囲を指す。nm範囲は、約1nm~約10nmの寸法の範囲を指す「低い方のnm範囲」、約10nm~約100nmの寸法の範囲を指す「中間のnm範囲」、および約100nm~約1μmの寸法の範囲を指す「高い方のnm範囲」を含む。
【0072】
本明細書において使用する場合、用語「マイクロメートル範囲」または「μm範囲」とは、約1μm~約1mmの寸法の範囲を指す。μm範囲は、約1μm~約10μmの寸法の範囲を指す「低い方のμm範囲」、約10μm~約100μmの寸法の範囲を指す「中間のμm範囲」、および約100μm~約1mmの寸法の範囲を指す「高い方のμm範囲」を含む。
【0073】
本明細書において使用する場合、用語「ナノ構造体」とは、nm範囲の少なくとも1つの寸法を有する物体を指す。ナノ構造体は、幅広い様々な形状のいずれかを有することができ、幅広い様々な材料から形成されてもよい。ナノ構造体の例には、ナノワイヤ、ナノチューブおよびナノ粒子が含まれる。
【0074】
本明細書において使用する場合、用語「ナノワイヤ」とは、実質的に中実の細長いナノ構造体を指す。通常、ナノワイヤは、nm範囲の横方向の寸法(例えば、幅、直径、または直交方向に横切る平均値を表す幅もしくは直径の形態の断面寸法)、μm範囲の長手軸方向の寸法(例えば、長さ)、および約5またはそれより大きなアスペクト比を有する。
【0075】
本明細書において使用する場合、用語「ナノチューブ」とは、細長い中空のナノ構造体を指す。通常、ナノチューブは、nm範囲の横方向の寸法(例えば、幅、外径、または直交方向に横切る平均値を表す幅もしくは外径の形態の断面寸法)、μm範囲の長手軸方向の寸法(例えば、長さ)、および約5またはそれより大きなアスペクト比を有する。
【0076】
本明細書において使用する場合、用語「ナノ粒子」とは、楕円形のナノ構造体を指す。通常、ナノ粒子の各寸法(例えば、幅、直径、または直交方向に横切る平均値を表す幅もしくは直径の形態の断面寸法)は、nm範囲にあり、ナノ粒子は、約1などの約5未満のアスペクト比を有する。
【0077】
さらに、量、比および他の数値は、範囲形式で本明細書に時として提示されている。このような範囲形式は、便宜上および簡潔にするために使用されていると理解されるべきであり、範囲の境界値として明示的に指定される数値を含むだけでなく、その範囲内に包含されるすべての個々の数値または部分範囲も、あたかも各数値および部分範囲が明示的に指定されているかのごとく、柔軟に含むことが理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲にある比は、約1および約200の明示的に記載されている境界値を含むだけでなく、約2、約3および約4などの個々の比、ならびに約10~約50、約20~約100などの部分範囲も含むことなどが理解されるべきである。
【0078】
本開示は、その特定の実施形態を参照しながら記載されているが、添付の特許請求の範囲によって規定されている、本開示の真の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされてもよいこと、および等価なもので置き換えられてもよいことが当業者によって理解されるべきである。さらに、多数の修正が行われて、特定の状況、材料、物質の組成、方法、操作(単数または複数)を、本開示の目的、趣旨および範囲に適合させてもよい。このようなすべての修正が、本明細書に添付されている特許請求の範囲内にあることが意図されている。特に、ある特定の方法は、特定の順序で行われる特定の操作を参照して記載されていることがあるが、これらの操作は、組み合わされて、部分分割されて、または再度順序付けが行われて、本開示の教示から逸脱することなく、等価な方法を形成してもよいことが理解されよう。したがって、特に具体的に本明細書において示さない限り、操作の順序およびグループ分けは、本開示の限定ではない。
【0079】
本明細書中において参照されているすべての公報、特許出願、発行特許、および他の文献は、あたかも個々の公報、特許出願、発行特許または他の文献の各々が、それらの全体が参照により組み込まれていることが具体的および個々に示されているかのごとく、参照により本明細書に組み込まれている。参照により組み込まれている文書中に含まれる定義は、本開示における定義と矛盾する範囲内で除外される。
【0080】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲で説明される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
図5図5は、実施例2による、合成BGWを処理するECNFの性能:(a)電位なし、4Vpp、およびスケーリングなし(電位なしで)の条件下での、水回収率に対するECNF膜の正規化後の流束;ならびに(b)電位なし、4Vpp、およびスケーリングなし(電位なしで)の条件下での、水回収率に対するECNFの正規化後の観察された塩除去率を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(正方形)、4Vpp (丸)およびスケーリングなし(青三角)を共有する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
図7図7は、実施例2による、天然BGWを処理するECNFの性能:(a)電位なし、および4Vpp下での、水回収率に対するECNF膜の正規化後の流束;(b)電位なし、および4Vpp条件下での、水回収率に対するECNFの正規化後の観察された塩除去率を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(正方形)および4Vpp (丸)を共有する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
図8図8は、実施例2による、電位なし、および4Vpp,1Hz条件下での水回収率に対する、天然BGWを処理するECNTの正規化後の陽イオン除去:(a)正規化後のMg2+除去;(b)正規化後のCa2+除去;(c)正規化後のNa除去を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(正方形)および4Vpp (丸)を共有する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
図9図9は、実施例2による、電位なし、および4Vpp,1Hz条件下での水回収率に対する、天然BGWを処理するECNTの正規化後の陰イオン除去:(a)正規化後のCl除去;(b)正規化後のSO 2-除去;および(c)正規化後のSi除去を例示しており、各図は、凡例、すなわち電位なし(正方形)および4Vpp (丸)を共有する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
図12図12は、実施例2による、(a)均一な石膏核生成に関する電解セルの模式図;(b)電位なし(正方形)および4Vpp(丸)条件下での濁りの発生;ならびに(c)電位なし、および4Vpp条件下での経時的なバルク溶液の導電率の変化である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
ミネラルスケーリングに対する耐性を付与する機構は、熱交換器を含めた、他の工業システムおよびプロセスに適用されてもよい。図1Bは、一部の実施形態による、熱交換器の概略図である。示されている通り、熱交換器150は、ハウジング151であって、一次流体入口155、一次流体出口156、二次流体入口160、二次流体出口161、およびハウジング151内部に配設されており、一次流体の流れと二次流体の流れとを分離する熱交換壁190を含む、ハウジング151を含む。熱交換壁190は、支持体として働く熱伝導性障壁であって、反対側の熱交換表面の一方または両方にナノ構造体のパーコレーティングネットワークによってコーティングされて、かつポリマーにより架橋されて、ロバストな多孔質かつ導電性のコーティングまたは層を形成する、熱伝導性障壁を含んでもよい。導電性コーティング、ナノ構造体およびポリマーの態様は、図1Aと関連付けて上で説明したものと同様に実装されてもよい。熱交換器の操作の間、コーティングの導電性により、熱交換壁への電位の印加が可能となり、これによって、壁にミネラルスケーリングに対する耐性が付与される。図1Bを参照すると、壁は、交流電源であってもよい電源170に接続されてもよい。電気回路を完成するため、壁に隣接して対電極が設けられており、同じ電源に接続される。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
印加電気条件の場合、およびそれがない場合の、水流束および塩除去率の変化は、図7aおよびbに見ることができる。合成BGWを用いて生成した結果と同様に、水流束は、すべての実験条件下で、水回収率の増大に伴って低下した。電位なしでのECNFの流束は、85%の回収率では、初期流束の31.30±11.35%(68.7%の低下)まで低下した一方、印加電位を伴うECNFの流束は、同じ回収率では、45.89±5.06%(54.1%の低下)までしか低下しなかった(図a)。塩除去率に関すると、AC条件を適用した場合、ECNFは、実験の経過の間、塩除去率の増大を示し、塩除去率は、85%の回収率では、初期除去率の値の118±8.84%まで増大した。しかし、AC条件の非存在下では、ECNFは、塩除去率をわずか最大で70%の回収率までの増大しか示さず(初期除去率の110±4.10%)、この時点で、除去率は(85%では、107±2.64%まで)低下した(図b)。統計的に有意ではないが、この傾向は、結晶成長の結果として、膜が損傷した可能性があることを示唆する。さらに、AC条件の非存在下で観察された、流束低下がより大きいことは、AC条件が、ECNF膜の表面に適用されると、天然BGWを使用した場合でさえも、スケールの形成を最小限にする事例をさらに裏付ける。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
膜表面におけるより少ない/遅延した石膏核生成は、恐らく、印加したAC電位によって誘導される電気泳動混合が理由である(図11)。ECNFがカソードとして働いている(すなわち、膜上で-2V)間、陽イオン(すなわち、Ca2+、Mg2+およびNa)は、膜に向かって移動する一方、陰イオン(すなわち、ClおよびSO 2-)は、対電極に向かって、反対方向に移動する。0.5秒後、極性を切り替えると(ECNFをアノードとする)、陽イオンおよび陰イオンは、極性の変化に対応して移動方向を変え、核生成にとって不十分な時間をもたらす。36核生成する時間が十分である場合でさえも、外部電圧源により供給されるかなり増強された表面電荷は、一層厚い電気二重層形成をもたらし、核生成区域を膜表面から離れるように移動させる。次に、膜表面から離れて形成した核は、水の十字流によって容易に運び去られ得る。60
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
電解セルにおける均一な石膏核生成に及ぼすAC電位の効果。均一なCaSO核生成に及ぼすAC条件の影響を検討するため、高度に飽和したCaSO溶液(すなわち、40mMのCa2+およびSO 2-)中に浸漬した2つのチタン電極からなる電解セルを構築した(図12a)。CaSO溶液(2.27のSI)を、不均一な核生成過程を促進し得る固体不純物を除去することが知られている、0.22μmのフィルターによって事前ろ過した。61電位を印加しない場合、濁度は14.48±0.73NTUまで迅速に増大し、バルク溶液の導電率は、100分後に13.29±0.06mS/cmから12.60±0.04mS/cmまで低下し、CaSO結晶が迅速に形成したことを示している(図12bおよび12c)。AC条件を適用した場合(4Vpp,1Hz)、濁度は、バルク溶液中では、大きく低下(4.17±2.02NTU)し、導電率は、12.73±0.01mS/cmまで低下した。溶液濁度および導電率の差異は、AC条件の存在下では、CaSO核生成および結晶成長の発生がより少なかったことを意味する。濁度の大きな差異と比べ、電位のある場合の最終的な導電率は、電位なしでの最終導電率よりもわずかしか高くなかった。光散乱法理論によれば、球体の単分散溶液では、散乱光の全強度は、レイリー散乱領域(すなわち、粒子半径<<光の波長の場合)における粒子半径の6乗に比例するか、またはミー散乱領域(すなわち、粒子半径が、およそ光の波長である)における粒子半径の4乗に比例する。62~64したがって、溶液の導電率の小さな変化がある場合でさえも、光散乱法の顕著な変化を引き起こし、劇的な濁度変化をもたらし得る。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0080】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲で説明される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
ハウジング
前記ハウジング内に配設された導電膜であって、
多孔質支持体;および
前記多孔質支持体上に配設された導電性ナノ構造体の層
を備える、導電膜;ならびに
前記導電膜に接続された交流電源
を備える、膜脱塩システム。
(項目2)
前記ナノ構造体が、パーコレーティングネットワークを形成している、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目3)
前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤまたはそれらの組合せを含む、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目4)
前記ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目5)
前記導電層がポリマーをさらに含む、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目6)
前記ポリマーが前記ナノ構造体と架橋されている、項目6に記載の膜脱塩システム。
(項目7)
前記多孔質支持体がろ過膜である、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目8)
前記層の厚さが、約100nmまたはこれより大きい、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目9)
前記層の厚さが、約10nm~約10μmである、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目10)
前記層の導電率が、約500S/mまたはこれより高い、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目11)
前記層の導電率が、約100S/m~約1,000,000S/mである、項目1に記載の膜脱塩システム。
(項目12)
ミネラルスケーリングに対する耐性を膜表面に付与する方法であって、
前記膜の表面上に導電層を設けるステップであって、前記導電層がナノ構造体を含む、ステップ、および
前記導電膜に交流電源を適用するステップ
を含む、方法。
(項目13)
前記ナノ構造体がパーコレーティングネットワークを形成している、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤまたはそれらの組合せを含む、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記ナノ構造体がカーボンナノチューブを含む、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記導電層がポリマーをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目17)
前記ポリマーが前記ナノ構造体と架橋されている、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記膜がろ過膜である、項目12に記載の方法。
(項目19)
前記交流電源のピーク電圧が、少なくとも約0.1Vである、項目12に記載の方法。
(項目20)
前記交流電源のピーク電圧が、約0.1V~約100Vである、項目12に記載の方法。
(項目21)
前記交流電源の周波数が、少なくとも約0.1Hzである、項目12に記載の方法。
(項目22)
前記交流電源の周波数が、約0.1Hz~約10,000Hzである、項目12に記載の方法。
【国際調査報告】