(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】量子コンピューティング・デバイス、その使用、および方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20240116BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20240116BHJP
G06E 3/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G06N10/20
G06F7/38 510
G06E3/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536141
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2021084363
(87)【国際公開番号】W WO2022128565
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507054917
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート シュトゥットガルト
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100213654
【氏名又は名称】成瀬 晃樹
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン、マイネルト
(72)【発明者】
【氏名】ティルマン、プファウ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン、ヘルツル
(57)【要約】
本発明は、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有する少なくとも1つの原子であって、第3の電子状態が、リュードベリ電子状態である、少なくとも1つの原子と、電磁放射線を放射して、少なくとも1つの原子のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスとを備え、光学捕捉デバイスが、捕捉波長において電磁放射線を放射するように構成され、第1の電子状態、第2の電子状態、およびリュードベリ電子状態が、捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する、量子コンピューティング・デバイスに関する。本発明はまた、量子コンピューティング・デバイスの使用および量子コンピューティングのための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有する少なくとも1つの原子(18)であって、前記第3の電子状態が、リュードベリ電子状態である、少なくとも1つの原子(18)と、
電磁放射線を放射して、前記少なくとも1つの原子(18)のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスとを備え、
前記光学捕捉デバイスが、捕捉波長において前記電磁放射線を放射するように構成され、前記第1の電子状態、前記第2の電子状態、および前記リュードベリ電子状態が、前記捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する、
量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項2】
前記第1の電子状態が、第1の微細構造電子状態であり、
前記第2の電子状態が、第2の微細構造電子状態であり、また、任意選択で、
前記第1の電子状態および前記第2の電子状態が、同じ電子軌道の電子状態である、請求項1に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項3】
少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されたリュードベリ励起ユニット(21)であって、2つ以上の捕捉された原子(18)に前記少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射して、前記原子間の相互作用のオンとオフとを切り替えるように構成されたリュードベリ励起ユニット(21)をさらに備える、請求項1または2に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項4】
少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されたラマン結合ユニット(22)であって、前記少なくとも1つの捕捉された原子(18)に前記少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されたラマン結合ユニット(22)をさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項5】
前記光学捕捉デバイスが、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを放射するように構成された少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットをさらに備え、前記少なくとも1つの集束レーザ・ビームが、前記少なくとも1つの原子(18)を捕捉するように構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットが、
少なくとも1つの電磁放射線ビームを放射するように構成されたレーザ光源(10)と、
少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器(11)を備えた音響光学変調器アレイであって、前記少なくとも1つの電磁放射線ビームを少なくとも部分的に受け取って回折して、少なくとも1つの中間ビームを形成するように構成された音響光学変調器アレイと、
前記少なくとも1つの中間ビームの方向を、優先的には動的に、調節するように構成された光学組合せユニット(12)と、
前記少なくとも1つの中間ビームを集束させて、前記少なくとも1つの集束レーザ・ビームを形成するように構成された集束光学系(13)と
を備える、請求項5に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの集束レーザ・ビームの偏光状態を調節するように構成された偏光ユニット(14)をさらに備える、請求項5または6に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項8】
前記光学捕捉デバイスが、2次元または3次元アレイ(15)の位置において前記少なくとも1つの原子(18)を捕捉するように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項9】
前記1つまたは複数の捕捉された原子(18)の空間位置を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートを形成するように構成され、および/または、
前記1つまたは複数の捕捉された原子(18)の空間位置を調節して、前記少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または前記少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または前記少なくとも1つの多量子ビット・ゲートの間で切り替えるように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項10】
前記1つまたは複数の捕捉された原子(18)のデータを決定するように構成された読み出しユニットであって、
少なくとも1つの読み出しビームを放射して、前記1つまたは複数の捕捉された原子(18)に蛍光を引き起こすように構成された少なくとも1つの読み出しレーザと、
前記引き起こされた蛍光を観察して、前記1つまたは複数の捕捉された原子(18)のデータを読み出すように構成された検出ユニット(20)と
を備える読み出しユニットをさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項11】
前記少なくとも1つの原子(18)が、少なくとも1つのストロンチウム原子および/または少なくとも1つのイッテルビウム原子を含んでもよく、および/または
前記少なくとも1つの原子(18)が、少なくとも1つの中性原子を含んでもよい、請求項1から10のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項12】
前記少なくとも1つの原子(18)を複数備えた原子リザーバ(17)をさらに備え、
前記原子リザーバ(17)が、前記光学捕捉デバイスに前記少なくとも1つの原子(18)を提供するように構成されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項13】
第1の微細構造電子状態
3P
0、第2の微細構造電子状態
3P
2、およびリュードベリ電子状態n
3S
1を有する少なくとも1つのストロンチウム原子であって、nが78の値を有する、少なくとも1つのストロンチウム原子と、
596nmの捕捉波長を有する少なくとも1つの集束レーザ・ビームを放射して、前記少なくとも1つのストロンチウム原子のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスとを備え、
nが78の値を有する、前記第1の微細構造電子状態
3P
0、前記第2の微細構造電子状態
3P
2、および前記リュードベリ電子状態n
3S
1が、596nmの前記捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)。
【請求項14】
量子コンピューティングを実行するための、請求項1から13のいずれか一項に記載の量子コンピューティング・デバイス(1)の使用。
【請求項15】
第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有する少なくとも1つの原子(18)を提供するステップであって、前記第3の電子状態が、リュードベリ電子状態である、ステップと、
電磁放射線を放射して、前記少なくとも1つの原子(18)のうちの1つまたは複数を捕捉するステップであって、前記1つまたは複数の原子(18)が捕捉波長における電磁放射線を使用して捕捉される、ステップとを含み、
前記第1の電子状態、前記第2の電子状態、および前記リュードベリ電子状態が、前記捕捉波長に対して、実質的に等しいAC分極率を有する、
量子コンピューティングのための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピューティング・デバイス、量子コンピューティング・デバイスの使用、および量子コンピューティングのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、量子コンピューティングの分野、特に、中性原子を使用した量子コンピューティングの分野に位置する。具体的には、従来の量子コンピューティング・システムは、近年、50を超える量子ビットのもつれ、および99.5%の2量子ビット演算に対する忠実度(SPAM訂正された)が示された、イオン量子ビットまたは超伝導量子ビットの使用に基づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、改善された動作特性を有する量子コンピューティング・デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
少なくとも上記目的は、それぞれ、独立請求項の特徴を有する、量子コンピューティング・デバイス、量子コンピューティング・デバイスの使用、および量子コンピューティングのための方法によって解決される。好適な実施形態は、従属請求項の主題を形成する。
【0005】
一態様は、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有する少なくとも1つの原子であって、第3の電子状態が、リュードベリ電子状態である、少なくとも1つの原子と、電磁放射線を放射して、少なくとも1つの原子のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスとを備え、光学捕捉デバイスが、捕捉波長において電磁放射線を放射するように構成され、第1の電子状態、第2の電子状態、およびリュードベリ電子状態が、捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する、量子コンピューティング・デバイスに関する。そのような捕捉波長はまた、魔法捕捉波長とも呼ばれることがある。
【0006】
少なくとも1つの原子は、任意の数の原子を含んでもよい。少なくとも1つの原子は、1種の原子または複数種の原子を含んでもよい。言い換えれば、少なくとも1つの原子は、単一の元素および/または同位体の原子のみを含んでもよいし、複数の元素および/または同位体の原子を含んでもよい。少なくとも1つの原子は、たとえば、少なくとも1つのアルカリ土類金属原子および/または少なくとも1つのランタノイド原子を含んでもよい。少なくとも1つの原子は、少なくとも1つのストロンチウム原子および/または少なくとも1つのイッテルビウム原子を含んでもよい。具体的には、たとえば、ストロンチウムおよびイッテルビウムなどの一部の原子は、狭線幅レーザ冷却遷移をもたらし、これにより、熱誘起位相不整合の強力な抑制が可能となる。しかしながら、本開示は、そのような原子の選択肢に制限されていない。具体的には、第1の電子状態、第2の電子状態、およびリュードベリ電子状態が実質的に等しいAC分極率を有する、適切な捕捉波長を計算できれば、どのような原子種および/または原子の同位体が使用されてもよい。
【0007】
少なくとも1つの原子は、少なくとも1つの中性原子を含んでもよい。具体的には、中性原子、特に、同じ元素の中性原子は、そのような中性原子に基づく量子ビットの対応する量子ビット周波数が、そのような量子ビットのそれぞれに対して実質的に同じとなるように同一である。これにより、さもなくば、異種の量子ビットに対処することが必要となり得る、制御系の複雑性の還元を達成することができる。少なくとも1つの原子は、冷却、好ましくはレーザ冷却されてもよい。具体的には、少なくとも1つの原子は、マイクロケルビンの範囲内の温度まで、優先的には、たとえば、1mK~0.01mKの範囲内の温度まで冷却されてもよい。また、熱誘起位相不整合を低減および/または防止するために、少なくとも1つの原子は、光学捕捉デバイスによって捕捉された後、さらに冷却されて、少なくとも1つの捕捉された原子を、光学捕捉デバイスによって放射された電磁放射線によって生成された対応する光トラップの最低の量子力学的振動状態にしてもよい。具体的には、量子コンピューティング・デバイスは、少なくとも1つの原子の前記さらなる冷却を実行するように構成されたさらなる冷却ユニットをさらに備えてもよく、このさらなる冷却ユニットは、たとえば、サイドバンド冷却によって少なくとも1つの原子をさらに冷却するように構成されてもよい。そのようなサイドバンド冷却は、具体的には、上述の狭線幅レーザ冷却遷移を使用してもよい。
【0008】
量子コンピューティング・デバイスは、原子リザーバをさらに備えてもよく、この原子リザーバは、少なくとも1つの原子を複数備えてもよい。原子リザーバは、これら複数の少なくとも1つの原子を冷却するために、レーザ冷却ユニットなどの少なくとも1つの冷却ユニットをさらに備えてもよい。原子リザーバは、光学捕捉デバイスに少なくとも1つの原子を提供するように構成されてもよい。具体的には、原子リザーバは、光学捕捉デバイスに向けられた少なくとも1つの原子の冷却原子ビームを生成するように構成されてもよい。量子コンピューティング・デバイスは、中間トラップ・デバイスをさらに備えてもよく、この中間トラップ・デバイスは、冷却原子ビームの少なくとも1つの原子を捕獲するように構成された1つまたは複数の磁気光学トラップ(MOT:magneto-optical trap)を備える。また、中間トラップ・デバイスは、光学捕捉デバイスに少なくとも1つの捕獲された原子を提供するようにさらに構成されてもよい。具体的には、光学捕捉デバイスは、中間トラップ・デバイスに捕獲された少なくとも1つの原子から少なくとも1つの原子を捕捉するように構成されてもよい。したがって、光学捕捉デバイスへの捕捉される原子の効率的な供給を実現することが可能となる。具体的には、原子リザーバは、交換可能および/または再充填可能なカートリッジとして構成されてもよい。
【0009】
第1の電子状態は、第1の微細構造電子状態であってもよい。第2の電子状態は、第2の微細構造電子状態であってもよい。第1の電子状態および第2の電子状態は、同じ電子軌道の電子状態であってもよい。第1の微細構造電子状態および第2の微細構造電子状態は、対応する原子の、たとえば、3P軌道などの同じ電子軌道の微細構造電子状態であってもよい。そのような場合、第1の電子状態は3P0の電子状態であってもよく、第2の電子状態は3P2の電子状態であってもよく、3P0の電子状態および3P2の電子状態は、持続性の電子状態の対を形成する。しかしながら、本開示は、そのような例に限定されると解釈されるべきではなく、たとえば、他の持続性の電子状態の対が使用されてもよい。
【0010】
第3の電子状態は、リュードベリ電子状態であってもよい。具体的には、第3の電子状態は、対応する原子のイオン化エネルギーを伴うイオン状態に収束するため、リュードベリの公式に従うエネルギーを伴う電子励起状態であってもよい。具体的には、第3の電子状態は、高主量子数を有する電子励起状態であってもよい。具体的には、主量子数は、少なくとも20、優先的には少なくとも40であってもよく、また、最大でも150、優先的には最大でも100であってもよい。
【0011】
具体的には、リュードベリ電子状態は、電場に対して、また、リュードベリ電子状態を有する隣接する原子に対して感受性があってもよい。したがって、2つのリュードベリ原子間の相互作用は、強力で、n11を有するスケールとなり得、nは、主量子数である。そのような場合、相互作用は、約10マイクロメートルの間隔で、最大約100MHzの値を達成し得る。さらに、リュードベリ電子状態の寿命は、主量子数に伴って延び得、最大100マイクロ秒超の値に達し得る。しかしながら、本明細書に記載の光学捕捉デバイスを使用すると、対応する量子ビットのコヒーレンス時間は、10ミリ秒超までさらに増加され得、量子コンピューティングに対する新たなアルゴリズム手法が可能となる。さらに、本明細書に記載される光学捕捉デバイスを使用すると、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態(リュードベリ電子状態)が捕捉されるように、少なくとも1つの原子を捕捉することが可能となり得る。これは、たとえば、少なくとも第3の電子状態もまた捕捉されないことがあり、その結果、リュードベリ電子状態にある間に原子が失われる可能性がある、外殻に1つの電子を有する少なくとも一部のアルカリ原子と対照的である。
【0012】
具体的には、捕捉された1つまたは複数の原子のそれぞれは、単一量子ビットに対応し得る。各量子ビットは、|0>および|1>という2つの状態を含んでもよく、|0>および|1>は、第1および第2の電子状態を示す。
【0013】
具体的には、そのような第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を使用すると、対応する量子ビットのコヒーレンス時間が、たとえば、最大10ミリ秒超など、大幅に増加され得る。さらに、そのような大幅に増加されたコヒーレンス時間は、量子コンピューティング・デバイスによるアルゴリズムおよび/または量子ビット・ゲート動作の実行中および/または合間でさえ、1つまたは複数の量子ビットの空間的再配置および/または幾何学形状の変更を可能にする。具体的には、1つまたは複数の量子ビットの再配置および/または幾何学形状の変更を可能にすることにより、N量子ビット・ゲートと呼ばれる3つ以上の量子ビットを有するゲートを実現することが可能となり得る。さらに、1つまたは複数の量子ビットの再配置および/または幾何学形状の変更を可能にすることにより、量子ビット間の接続性を大幅に増大させることも可能となり得る。したがって、動的に調節可能な量子コンピューティング・アーキテクチャを提供することによる、新たな量子アルゴリズムの可能性が存在し得る。
【0014】
光学捕捉デバイスは、捕捉波長において電磁放射線を放射するように構成されている。具体的には、捕捉波長は、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態が、前記放射された電磁放射線に曝露されたときに、実質的に同じAC分極率を有する、特定の波長である。言い換えれば、放射された電磁放射線は、トラップ電位を生成し、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態は、それぞれ、放射された電磁放射線に曝露されたときに、実質的に同じトラップ電位を受ける。実質的に同じトラップ電位とは、この場合、放射された電磁放射線に曝露されたときに、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態のそれぞれによって受けられたトラップ電位が、最大でも約h×100Hz(hはプランク定数)、優先的には最大でも約h×75HZ、さらに優先的には最大でも約h×50Hzだけ異なるようなものであると理解され得る。具体的には、典型的なトラップ電位の場合(たとえば、約1mK温度相当)、前記放射された電磁放射線に曝露されたときの、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態のAC分極率は、最大でも約10-4、優先的には最大でも約10-5、さらに優先的には最大でも約10-6だけ異なり得る。
【0015】
具体的には、対応する電磁放射線に曝露されたときに電子状態によって受けられるトラップ電位が、計算されてもよい。したがって、対応する計算を実行することによって、所与の原子種および/または原子の同位体に対する捕捉波長および対応する電子状態を決定することが可能となり得る。具体的には、前記計算は、原子物理学の標準的な計算に基づいてもよく、たとえば、状態エネルギーおよび/または状態幅などの複数の入力パラメータを必要とし得、これらのうちのいくつかまたはすべてが、測定または電子構造計算によって得られ得る。さらに、捕捉波長を決定するための計算は、量子ビット自体に対する魔法捕捉波長の可同調性を必要とし得、対応する電磁放射線、たとえば、レーザ光の波長と、分極率、たとえば、レーザ分極率とが、前記可同調性の対応する制御変数となり得る。言い換えれば、対応する量子ビットおよび/または原子の捕捉波長を決定するための計算は、前記捕捉波長が、分極依存性であるという決定を含み得る。
【0016】
量子コンピューティング・デバイスは、少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されたリュードベリ励起ユニットをさらに備えてもよい。具体的には、リュードベリ励起ユニットは、2つ以上の捕捉された原子に少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射して、これらの原子間の相互作用のオンとオフとを切り替えるように構成されてもよい。そのような切り替えは、ナノ秒以内に達成され得る。したがって、特に、非常に短い時間フレーム内に1つまたは複数の捕捉された原子を、複数もつれさせ、および/またはそれらのもつれを除去することが可能となり得る。具体的には、少なくとも1つの原子が、少なくとも1つのストロンチウム原子を含む場合、リュードベリ励起ユニットは、317nmおよび/または323nmの波長を有する少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されてもよい。リュードベリ励起ユニットは、少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されたリュードベリ・レーザを備えてもよい。リュードベリ励起ユニットは、2つ以上の捕捉された原子に少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを直接放射するように構成されてもよいし、光ガイドおよび/またはミラーなどの1つまたは複数の光学素子を使用して2つ以上の捕捉された原子に少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されてもよい。リュードベリ励起ユニットは、第1の電子状態および第2の電子状態の第3の電子状態への直接的な1光子結合を引き起こすように構成されてもよい。この結合を通して、従来の2光子結合と比較して発熱率が強力に抑制された、急速リュードベリ・ゲートを実装することが可能となり得る。
【0017】
量子コンピューティング・デバイスは、ラマン結合ユニットをさらに備えてもよく、このラマン結合ユニットは、少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されている。ラマン結合ユニットは、少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを重畳して1つの合成されたラマン・レーザ・ビームとするように構成されてもよい。ラマン結合ユニットは、少なくとも1つのラマン・レーザを備えてもよい。ラマン結合ユニットは、少なくとも1つの捕捉された原子に少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。具体的には、少なくとも1つの原子が、少なくとも1つのストロンチウム原子を含む場合、ラマン結合ユニットは、679nmおよび707nmの波長を有する少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。ラマン結合ユニットは、1つまたは複数の捕捉された原子に少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを直接放射するように構成されてもよいし、光ガイドおよび/またはミラーなどの1つまたは複数の光学素子を使用して、1つまたは複数の捕捉された原子に少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。
【0018】
ラマン結合ユニットは、少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射して、10ナノ秒以内に、遠く離調されたラマン結合を使用して少なくとも1つの単一原子ゲートを実行するように構成されてもよい。ラマン結合ユニットは、少なくとも1つの捕捉された原子のそれぞれに少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよく、ラマン結合ユニットは、少なくとも1つの捕捉された原子に、逐次的および/または並列に(たとえば、少なくとも2つのラマン・ビームを扇状に広げて複数のラマン・ビームとすることによって)少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。
【0019】
具体的には、少なくとも1つのラマン・レーザおよび/または少なくとも1つのリュードベリ・レーザは、15Hzよりも小さい、優先的には10Hzよりも小さい位相安定性を有してもよい。
【0020】
光学捕捉デバイスは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを放射するように構成された少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットをさらに備えてもよく、少なくとも1つの集束レーザ・ビームは、少なくとも1つの原子を捕捉するように構成されている。具体的には、少なくとも1つの集束レーザ・ビームは、少なくとも1つの光ピンセットとして機能し得る。具体的には、少なくとも1つの集束レーザ・ビームは、捕捉波長を有してもよい。各集束レーザ・ビームは、少なくとも1mW、好ましくは少なくとも5mW、さらに好ましくは少なくとも10mWの電力を有してもよい。
【0021】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを放射するように構成されたレーザ光源を備えてもよく、このレーザ光源は、少なくとも1つのレーザを備えてもよい。少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、具体的には、捕捉波長においてなど、1つまたは複数の波長および/または周波数において電磁放射線を放射するように構成されてもよい。レーザ光源は、少なくとも0.01W、好ましくは少なくとも1W、さらに好ましくは少なくとも10Wの、少なくとも1つの電磁放射線ビームを放射してもよい。レーザ光源は、約10Hz~10kHzの線幅を有してもよい。レーザ光源は、周波数倍増されてもよい。
【0022】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、音響光学変調器アレイをさらに備えてもよく、この音響光学変調器アレイは、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器を備えてもよい。音響光学変調器アレイは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを少なくとも部分的に受け取って回折して、少なくとも1つの中間ビームを形成するように構成されてもよい。各音響光学変調器および/または音響光学偏向器は、対応する少なくとも1つの中間ビームを、実質的に等しく離隔された、および/または実質的に並列のビームの列として形成するように構成されてもよい。追加または代替として、各音響光学変調器および/または音響光学偏向器は、対応する少なくとも1つの中間ビームを、可変離隔されたビームの列として形成するように構成されてもよく、これらの可変離隔されたビームは、可変離隔されたビームのそれぞれの列の他のビームと比較してより近くに離隔されたビームのビーム・サブグループを形成してもよく、各音響光学変調器および/または音響光学偏向器は、可変離隔されたビームの列のビーム間隔を制御するように構成されてもよい。2つ以上の音響光学変調器および/または2つ以上の音響光学偏向器は、それらの各々の生成されたビームの列が、それぞれ、好ましくは直角に、交差するように配置されてもよい。音響光学変調器アレイは、少なくとも2つの、優先的には少なくとも5つの、さらに好適には少なくとも10個の、さらに好適には少なくとも20個の音響光学変調器および/または音響光学偏向器を備えてもよい。具体的には、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器は、別々に、または組み合わせて制御されるように構成されてもよい。具体的には、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器は、たとえば、約80MHzの中心周波数を有するマルチトーンRF信号によって制御されて、少なくとも1つの中間ビームを形成してもよい。具体的には、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器は、1つの中間ビームが、マルチトーンRF信号の各RF成分に対して形成されるように、マルチトーンRF信号によって制御可能であってもよい。具体的には、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器は、少なくとも1つの形成された中間ビームの方向が、マルチトーンRF信号の対応するRF成分によって決定および/または変更され得るように、マルチトーンRF信号によって制御可能であってもよい。
【0023】
しかしながら、本開示は、音響光学変調器および/または音響光学偏向器に限定されるものと解釈されるべきではない。具体的には、前記音響光学変調器の代わりに、および/またはそれと並行して、たとえば、電気光学変調器、ピエゾ・ミラー、微小電気機械デバイス、および/または空間光変調器などの他の光学素子が使用されてもよい。
【0024】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、追加の走査光学系ユニットをさらに備えてもよく、この追加の走査光学系ユニットは、少なくとも1つの中間ビームの方向を、優先的には動的に、調節するように構成されてもよい。具体的には、追加の走査光学系ユニットは、たとえば、複数のミラーを備えてもよく、複数のミラーの位置および傾きは、少なくとも1つの中間ビームの方向を調節するために変更可能であってもよい。
【0025】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、集束光学系をさらに備えてもよく、この集束光学系は、少なくとも1つの中間ビームを集束させて、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを形成するように構成されてもよい。具体的には、集束光学系は、顕微鏡を含んでもよい。しかしながら、追加または代替として、少なくとも1つの中間ビームを集束させて、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを形成する他の手段が使用されてもよい。
【0026】
光学捕捉デバイスは、2次元または3次元アレイの位置において少なくとも1つの原子を捕捉するようにさらに構成されてもよい。原子は、2次元または3次元アレイにおける隣接する原子間の間隔が、約10マイクロメートルとなるように、捕捉されてもよい。具体的には、原子は、2次元または3次元アレイにおける隣接する原子間の間隔が、少なくとも約1マイクロメートル、優先的には少なくとも約2マイクロメートル、また、最大でも約15マイクロメートル、優先的には最大でも約10マイクロメートルとなるように捕捉されてもよい。具体的には、前記隣接する原子間の最大間隔は、対応するリュードベリ相互作用の強さの低減、したがって間隔の増加に伴う遅いゲート時間に応じて決定されてもよく、および/または集束光学系の視界に応じて決定されてもよい。前記隣接する原子間の最小間隔は、少なくとも1つの音響光学変調器および/もしくは少なくとも1つの音響光学偏向器の帯域幅に応じて決定されてもよく、および/または集束光学系の分解能に応じて決定されてもよい。さらに、光学捕捉デバイスは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームのそれぞれ1つを用いて1つの原子を捕捉するように構成されてもよい。代替として、光学捕捉デバイスは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを用いて少なくとも最小数の原子を捕捉するように構成されてもよい。光学捕捉デバイスは、たとえば、上述のように、マルチトーンRF信号の1つまたは複数のRF成分を調節することによって少なくとも1つの中間ビームの方向を調節することなどにより、1つまたは複数の捕捉された原子の位置を調節するように構成されてもよい。したがって、具体的には、約100マイクロ秒未満の時間スケール内で1つまたは複数の捕捉された原子の位置を調節することが可能となり得る。したがって、具体的には、改善された効率的な捕捉プロセスを提供することが可能となり得る。優先的には、少なくとも10個、さらに優先的には少なくとも50個、さらに優先的には少なくとも100個、さらに優先的には少なくとも500個の原子が、2次元または3次元アレイの位置において、好ましくは実質的に同時に捕捉されてもよい。
【0027】
光学捕捉デバイスは、たとえば、10マイクロ秒当たり最大でも約1マイクロメートルの最大シフト速度において、1つまたは複数の捕捉された原子の位置を調節するように構成されてもよい。具体的には、最大シフト速度についての時間スケールは、光学捕捉デバイスによって捕捉された原子の調和振動周波数によって決定されてもよく、そのような調和振動周波数は、たとえば、およそ100kHzであってもよい。具体的には、最大シフト速度についての長さスケールは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームのサイズまたは断面直径によって決定されてもよく、そのような断面直径は、およそ1マイクロメートルであってもよい。具体的には、そのような最大シフト速度を実装することにより、その位置の調節中に捕捉された原子が失われないことを確実にすることが可能となり得る。
【0028】
量子コンピューティング・デバイスは、1つまたは複数の捕捉された原子の空間位置を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートを形成するようにさらに構成されてもよい。具体的には、光学捕捉デバイスは、1つまたは複数の捕捉された原子の空間位置を調節するように構成されてもよく、ラマン結合ユニットおよび/またはリュードベリ励起ユニットは、1つまたは複数の捕捉された原子間のもつれの状態を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートを形成するように構成されてもよい。さらに、各2量子ビット・ゲートおよび/または多量子ビット・ゲートは、少なくとも1つの量子ビットおよび少なくとも1つの制御量子ビットを含んでもよい。たとえば、(2+1)量子ビット・ゲートは、2つの量子ビットおよび1つの制御量子ビットを含んでもよい。さらに、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートの組合せによって、複雑な計算および/またはCNOTゲートなどの論理ゲートが実装されてもよい。
【0029】
具体的には、量子コンピューティング・デバイスは、1つまたは複数の捕捉された原子の空間位置を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートの間で切り替えるように構成されてもよい。したがって、量子コンピューティング・デバイスは、量子コンピューティング・デバイスの動作中に2次元および/または3次元アレイにおける量子ビット・ゲートの組成を動的に調節できてもよい。
【0030】
さらに、捕捉波長において光学捕捉デバイスを作動させることによって、1つまたは複数の捕捉された原子のコヒーレンス時間が大幅に改善される。特に、光学捕捉デバイスを作動させて、捕捉波長において電磁放射線を放射することによって、3つの電子状態すべての関連する位相の位相不整合が最小限に抑えられ得、それにより、前記コヒーレンス時間が改善され得る。具体的には、それをもって、最大10ミリ秒を超える任意のコヒーレンス時間を達成することが可能となり得る。したがって、そのような改善されたコヒーレンス時間に基づいて、ゲート動作の合間など、量子コンピューティング動作が2次元または3次元アレイ上で実行されている間に、特定の捕捉された原子の位置および/またはもつれ状態を動的に変更することが可能となり得る。さらに、そのような改善されたコヒーレンス時間に基づいて、量子ビット間の接続性が、大幅に改善され得る。
【0031】
量子コンピューティング・デバイスは、偏光ユニットをさらに備えてもよく、この偏光ユニットは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームの経路に沿って、少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットと2次元および/または3次元アレイの位置との間に少なくとも部分的に配置されてもよい。具体的には、偏光ユニットは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームの偏光状態を調節するように構成されてもよい。偏光ユニットは、たとえば、直線偏光子および/または円偏光子を備えてもよい。
【0032】
量子コンピューティング・デバイスは、たとえば、対応する捕捉された原子の量子ビット状態など、1つまたは複数の捕捉された原子のデータを決定するように構成された読み出しユニットをさらに備えてもよい。読み出しユニットは、少なくとも1つの読み出しビームを放射して、1つまたは複数の捕捉された原子に蛍光を引き起こすように構成された少なくとも1つの読み出しレーザを備えてもよい。具体的には、読み出しユニットは、量子ビットのデータの状態依存的な読み出しを実行するように構成されてもよい。具体的には、少なくとも1つの原子が、少なくとも1つのストロンチウム原子を含む場合、ストロンチウムの既存の強い遷移1S0-1P1(461nm)が、蛍光を引き起こすために使用されてもよい。さらに、遷移1S0-3P1(689nm)および遷移3Pj-3S1(679nm、688nm、707nm)が、量子ビットのデータの状態依存的な読み出しを実行するために使用されてもよい。さらに、遷移1S0-3P1(689nm)が、量子ビットのデータの読み出し中に原子を冷却するために使用されてもよく、そのような冷却は、データの読み出しの効率性を向上させ得る。具体的には、少なくとも1つの読み出しレーザは、少なくとも1つのラマンベースのレーザおよび/または少なくとも1つのラマン・レーザを備えてもよい。さらに、読み出しユニットは、引き起こされた蛍光を観察して、1つまたは複数の捕捉された原子のデータを読み出すように構成された検出ユニットを備えてもよい。検出ユニットは、引き起こされた蛍光を検出可能な任意のタイプのセンサを備えてもよい。具体的には、検出ユニットは、たとえば、EMCCDカメラなどのCCDを備えてもよい。したがって、特に、高忠実度で、優先的には少なくとも0.9999の忠実度で、優先的には少なくとも0.99999の忠実度で、1つまたは複数の捕捉された原子のデータを決定することが可能となり得る。
【0033】
レーザ光源および/または少なくとも1つの読み出しレーザおよび/またはレーザ冷却ユニットおよび/またはラマン・レーザおよび/またはリュードベリ・レーザのうちの1つまたは複数が、固体レーザおよび/またはファイバ・レーザとして実装されてもよい。しかしながら、代わりにまたは追加として、他のタイプのレーザが実装されてもよい。さらに、レーザ光源および/または少なくとも1つの読み出しレーザおよび/またはレーザ冷却ユニットおよび/またはラマン・レーザおよび/またはリュードベリ・レーザは、コヒーレントな電磁放射線を放射するように構成されてもよい。レーザ光源および/または少なくとも1つの読み出しレーザおよび/またはレーザ冷却ユニットおよび/またはラマン・レーザおよび/またはリュードベリ・レーザのうちの1つまたは複数は、周波数倍増されてもよい。
【0034】
量子コンピューティング・デバイスは、真空セルをさらに備えてもよく、この真空セルは、1つまたは複数の捕捉された原子の少なくとも2次元または3次元アレイを実質的に完全に取り囲むように構成されてもよい。真空セルは、約10-11mbar未満、優先的には約10-12mbar未満の真空を保持するように構成されてもよい。したがって、具体的には、少なくとも約10秒の光学捕捉デバイスによって捕捉される原子の真空制限された保持時間が可能となり得る。
【0035】
優先的な実施形態では、量子コンピューティング・デバイスは、第1の微細構造電子状態3P0、第2の微細構造電子状態3P2、およびリュードベリ電子状態n3S1を有する少なくとも1つのストロンチウム原子であって、nが78の例示的な値を有する、少なくとも1つのストロンチウム原子と、596nmの捕捉波長を有する少なくとも1つの集束レーザ・ビームを放射して、少なくとも1つのストロンチウム原子のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスとを備え、nが78の例示的な値を有する、第1の微細構造電子状態3P0、第2の微細構造電子状態3P2、およびリュードベリ電子状態n3S1は、596nmの捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する。
【0036】
一態様は、量子コンピューティング・デバイスの使用に関する。具体的には、量子コンピューティング・デバイスは、本明細書で論じられ、および/または図面に示される特徴の任意の組合せを含んでもよい。
【0037】
さらなる一態様は、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有する少なくとも1つの原子を提供するステップであって、第3の電子状態が、リュードベリ電子状態である、ステップを含む量子コンピューティングのための方法に関する。量子コンピューティングのための方法は、電磁放射線を放射して、少なくとも1つの原子のうちの1つまたは複数を捕捉するステップであって、1つまたは複数の原子が、捕捉波長における電磁放射線を使用して捕捉され、第1の電子状態、第2の電子状態、およびリュードベリ電子状態が、捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する、ステップをさらに含む。
【0038】
具体的には、本方法は、上記で量子コンピューティング・デバイスおよび/または量子コンピューティング・デバイスの使用に関して論じられたように、1つまたは複数の特徴を含んでもよい。
【0039】
本発明は、図面に示される例示的な説明のための実施形態を使用してさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】量子コンピューティング・デバイスの概略図である。
【
図2】
図1に示される例示的な実施形態で使用される、ストロンチウム原子の異なる状態についての概略図である。
【
図3A】光学捕捉デバイスを使用して捕捉された原子のトラップ電位についての概略図である。
【
図3B】光学捕捉デバイスを使用して捕捉された原子のトラップ電位についての概略図である。
【
図3C】光学捕捉デバイスを使用して捕捉された原子のトラップ電位についての概略図である。
【
図4A】量子コンピューティング・デバイスによって達成可能な複数の例示的な量子ビット配置を示す図である。
【
図4B】量子コンピューティング・デバイスによって達成可能な複数の例示的な量子ビット配置を示す図である。
【
図4C】量子コンピューティング・デバイスによって達成可能な複数の例示的な量子ビット配置を示す図である。
【
図5A】(3+1)量子ビット配置を生成するための量子コンピューティング・デバイスの例示的な動作を示す図である。
【
図5B】(3+1)量子ビット配置を生成するための量子コンピューティング・デバイスの例示的な動作を示す図である。
【
図6】ストロンチウムの捕捉波長を計算するグラフィカル表現である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、例示的な量子コンピューティング・デバイス1の概略図を示す。
【0042】
量子コンピューティング・デバイス1は、
図1において冷却原子ビームとして示されている、少なくとも1つの原子18を備える。少なくとも1つの原子18は、第1の電子状態、第2の電子状態、および第3の電子状態を有し、第3の電子状態は、リュードベリ電子状態である。
【0043】
図示される実施形態において、少なくとも1つの原子18は、1種のストロンチウム原子を含み、これらのストロンチウム原子は、帯電していない。具体的には、ストロンチウムは、狭線幅レーザ冷却遷移をもたらし、これにより、熱誘起位相不整合の強力な抑制が可能となる。
【0044】
量子コンピューティング・デバイス1は、原子リザーバ17をさらに備え、この原子リザーバ17は、少なくとも1つの原子18を複数備える。原子リザーバ17は、少なくとも1つの原子18を冷却して磁気光学トラップ内で捕獲するために、レーザ冷却ユニットなど、少なくとも1つの冷却ユニット(図示されず)をさらに備えてもよい。原子リザーバ17は、捕捉される少なくとも1つの原子18を、光学捕捉デバイスに提供するように構成されている。具体的には、図示される例において、原子リザーバ17は、光学捕捉デバイスに向けられた少なくとも1つの原子18の冷却原子ビームを生成するように構成されている。
【0045】
図示される例では、第1の電子状態は、3P0の電子状態であり、第2の電子状態は、3P2の電子状態であり、3P0の電子状態および3P2の電子状態は、持続性の電子状態の対を形成する。第3の電子状態は、n3S1のリュードベリ電子状態であり、この特定の例では、nは78の値を有する。
【0046】
量子コンピューティング・デバイス1は、電磁放射線を放射して、少なくとも1つの原子18のうちの1つまたは複数を捕捉するように構成された光学捕捉デバイスをさらに備え、光学捕捉デバイスは、捕捉波長において電磁放射線を放射するように構成されており、第1の電子状態、第2の電子状態、およびリュードベリ電子状態は、捕捉波長に対して実質的に等しいAC分極率を有する。図示される例では、捕捉波長は、596nmである。
【0047】
光学捕捉デバイスは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを放射するように構成された少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットをさらに備え、この少なくとも1つの集束レーザ・ビームは、少なくとも1つの原子を捕捉するように構成されている。少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを放射するように構成されたレーザ光源10を備える。少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、具体的には捕捉波長においてなど、1つまたは複数の波長および/または周波数において電磁放射線を放射するように構成されてもよいが、図示される例では、集束レーザ・ビーム・ユニットは、捕捉波長のみにおいて電磁放射線を放射するように構成されている。
【0048】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、音響光学変調器アレイをさらに備え、この音響光学変調器アレイは、少なくとも1つの音響光学変調器および/または少なくとも1つの音響光学偏向器11を備えてもよい。例示的な音響光学変調器アレイは、4つの音響光学偏向器11を備えているが、それよりも多いまたは少ない音響光学偏向器11が実装されてもよい。音響光学変調器アレイは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを少なくとも部分的に受け取って回折して、少なくとも1つの中間ビームを形成するように構成されてもよい。例示的な音響光学偏向器11のそれぞれは、対応する少なくとも1つの中間ビームを、可変離隔されたビームの列として形成するように構成されている。さらに、図示される例示的な実施形態では、各音響光学偏向器11は、別々に制御されるように構成されている。
【0049】
具体的には、少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、レーザ光源10と音響光学変調器アレイとの間にある少なくとも1つの電磁放射線ビームの光学経路に配置されたビーム分割ユニットをさらに備えてもよい。ビーム分割ユニットは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを分割して複数のサブビームとするように構成されてもよく、各サブビームは、音響光学偏向器11のうちの1つに向けられる。具体的には、ビーム分割ユニットは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを分割して等しい強度を有する複数のサブビームとするように構成されてもよい。具体的には、代替として、ビーム分割ユニットは、少なくとも1つの電磁放射線ビームを分割して異なる強度を有する複数のサブビームとするように構成されてもよく、ビーム分割ユニットは、2つ以上のサブビーム間の強度比を調節するように構成されてもよい。ビーム分割ユニットは、たとえば、ミラー、プレート型ビーム・スプリッタ、および/またはキューブ型ビーム・スプリッタなど、複数のビーム分割素子を備えてもよい。
【0050】
いくつかの実施形態では、ビーム分割ユニットが実装され得るが、すべての実施形態において必要ではない場合もあることに留意されたい。たとえば、レーザ光源10が、音響光学偏向器11のそれぞれに対して少なくとも1つの電磁放射線ビームを放射するように構成されている場合、ビーム分割ユニットは必要ではないこともある。
【0051】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、光学組合せユニット12をさらに備え、この光学組合せユニット12は、少なくとも1つの中間ビームの方向を、優先的には動的に、調節するように構成されている。具体的には、光学組合せユニット12は、少なくとも1つの中間ビームを集束光学系13へと、優先的には動的に、向けるように構成されてもよい。具体的には、例示的な光学組合せユニット12は、複数のミラーを備えてもよく、複数のミラーの位置および傾きは、少なくとも1つの中間ビームの方向を調節するために変更可能である。具体的には、光学組合せユニット12は、マイクロミラーのアレイおよび/または1つもしくは複数の巨視的なミラーを備えてもよい。
【0052】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、集束光学系13をさらに備え、集束光学系13は、少なくとも1つの中間ビームを集束させて、少なくとも1つの集束レーザ・ビームを形成するように構成されている。具体的には、例示的な集束光学系13は、顕微鏡を備える。
【0053】
少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットは、レーザ光源10から、2次元および/または3次元アレイ15の特定の位置までの各光学ビーム経路が、実質的に同じ長さを有するようにさらに構成されてもよい。
【0054】
量子コンピューティング・デバイス1は、偏光ユニット14をさらに備え、この偏光ユニット14は、少なくとも1つの集束レーザ・ビームの経路に沿って、少なくとも1つの集束レーザ・ビーム・ユニットと2次元および/または3次元アレイ15の位置との間に配置される。具体的には、偏光ユニット14は、少なくとも1つの集束レーザ・ビームの偏光状態を、たとえば、前記少なくとも1つの集束レーザ・ビームを直線偏光させることなどによって、調節するように構成されている。
【0055】
光学捕捉デバイスは、2次元または3次元アレイ15の位置において、少なくとも1つの原子18を捕捉するようにさらに構成されている。特に、光学捕捉デバイスは、少なくとも1つの集束レーザ・ビームのそれぞれ1つを用いて1つの原子18を捕捉するように構成されている。
【0056】
量子コンピューティング・デバイス1は、1つまたは複数の捕捉された原子18の空間位置を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートを形成するようにさらに構成されている。具体的には、光学捕捉デバイスは、1つまたは複数の捕捉された原子18の空間位置を調節するように構成されてもよく、ラマン結合ユニット22および/またはリュードベリ励起ユニット21は、1つまたは複数の捕捉された原子18間のもつれの状態を調節して、少なくとも1つの単一量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの2量子ビット・ゲートおよび/または少なくとも1つの多量子ビット・ゲートを形成するように構成されている。
【0057】
量子コンピューティング・デバイス1は、真空セル16をさらに備え、真空セル16は、1つまたは複数の捕捉された原子18の少なくとも2次元または3次元アレイ15を実質的に完全に取り囲むように構成されてもよい。真空セル16は、磁場モジュール(図示されず)をさらに備えてもよく、この磁場モジュールは、磁場を生成するように構成されてもよい。磁場は、1つまたは複数の捕捉された原子18に対する量子化軸を規定するように構成されてもよい。具体的には、磁場は、実質的な時定数方向を有するように構成されてもよく、この実質的な時定数方向は、光学捕捉デバイスによって放射された電磁放射線のレーザ偏光に対して一定の角度を有してもよい。
【0058】
量子コンピューティング・デバイス1は、たとえば、対応する捕捉された原子18の量子ビット状態など、1つまたは複数の捕捉された原子18のデータを決定するように構成された読み出しユニットをさらに備える。読み出しユニットは、少なくとも1つの読み出しビームを放射して、1つまたは複数の捕捉された原子18に蛍光を引き起こすように構成された少なくとも1つの読み出しレーザ(図示されず)を備えてもよい。さらに、読み出しユニットは、引き起こされた蛍光を観察して、1つまたは複数の捕捉された原子18のデータを読み出すように構成された検出ユニット20を備えてもよい。この検出ユニット20は、たとえば、EMCCDカメラなど、CCDを備えてもよい。さらに、量子コンピューティング・デバイス1は、2次元または3次元アレイ15と検出ユニット20との間に配置されたダイクロイック・ミラー素子19をさらに備えてもよい。このダイクロイック・ミラー素子19は、引き起こされた蛍光が通過することを可能にするように構成されてもよい。
【0059】
さらに、読み出しユニットおよび/または検出ユニット20は、音響光学偏向器11を制御するためのフィードバック信号23を生成するようにさらに構成されてもよい。フィードバック信号23は、集束レーザ・ビーム・ユニットおよび/または音響光学変調器アレイおよび/または音響光学偏向器11に提供されてもよい。
【0060】
量子コンピューティング・デバイス1は、少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されたリュードベリ励起ユニット21をさらに備える。具体的には、リュードベリ励起ユニット21は、2つ以上の捕捉された原子18に少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射して、これらの原子間の相互作用のオンとオフとを切り替えるように構成されてもよい。図示される特定の例では、リュードベリ励起ユニット21は、317nmおよび/または323nmの波長を有する少なくとも1つのリュードベリ励起ビームを放射するように構成されている。リュードベリ励起ユニット21は、リュードベリ励起ビームを放射するように構成されたリュードベリ・レーザを備えてもよい。リュードベリ励起ユニット21は、2つ以上の捕捉された原子18にリュードベリ励起ビームを直接放射するように構成されてもよいし、たとえば、ダイクロイック・ミラー素子19など、1つまたは複数の中間に配置された光学素子を使用して、2つ以上の捕捉された原子18にリュードベリ励起ビームを放射するように構成されてもよい。具体的には、1つまたは複数の中間に配置された光学素子は、1つもしくは複数の追加の音響光学変調器および/または1つもしくは複数の音響光学偏向器を備えてもよく、1つもしくは複数の追加の音響光学変調器および/または1つもしくは複数の音響光学偏向器は、2つ以上の捕捉された原子18に対して少なくとも1つのリュードベリ励起ビームの位置を調節するように構成されてもよい。
【0061】
量子コンピューティング・デバイス1は、ラマン結合ユニット22をさらに備え、このラマン結合ユニット22は、少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されている。ラマン結合ユニット22は、少なくとも1つのラマン・レーザを備えてもよい。ラマン結合ユニット22は、1つまたは複数の捕捉された原子18に少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。図示される特定の例では、ラマン結合ユニット22は、679nmおよび/または707nmの波長を有する少なくも2つのラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。ラマン結合ユニット22は、1つまたは複数の捕捉された原子18にラマン・レーザ・ビームを直接放射するように構成されてもよいし、たとえば、ダイクロイック・ミラー素子19など、1つまたは複数の中間に配置された光学素子を使用して1つまたは複数の捕捉された原子18にラマン・レーザ・ビームを放射するように構成されてもよい。具体的には、1つまたは複数の中間に配置された光学素子は、1つまたは複数の追加の音響光学変調器、および/または1つまたは複数の音響光学偏向器を備えてもよく、1つまたは複数の追加の音響光学変調器、および/または1つまたは複数の音響光学偏向器は、2つ以上の捕捉された原子18に対して少なくとも2つのラマン・レーザ・ビームの位置を調節するように構成されてもよい。
【0062】
図2は、
図1に示される例示的な実施形態で使用される、ストロンチウム原子の異なる状態についての概略図を示す。具体的には、第1の電子状態
3P
0および第2の電子状態
3P
2が示されている。前記状態は、示されるように、共振1光子結合を介してn
3S
1のリュードベリ状態に結合されて、2量子ビット・ゲートおよび多量子ビット・ゲートを可能にしてもよい。さらに、前記状態は、急速ラマン・プロセスを介して
3S
1の状態に結合されて、1量子ビット演算を可能にしてもよい。異なる量子ビット間で組み合わせられたリュードベリ-ラマン方式および標準的なラマン方式により、たとえば、リュードベリ・ドレッシング、リュードベリEIT、および制御されたSTIRAPに基づく複数のプロトコルの使用が可能となる。さらに、図示される例示的な量子ビットの読み出しは、示されるように、遷移
1S
0-
1P
1(461nm)に対して実行されてもよい。さらに、遷移
1S
0-
3P
1(689nm)および遷移
3P
j-
3S
1(679nm、688nm、707nm)が、量子ビットのデータの状態依存的な読み出しを実行するために使用されてもよい。さらに、遷移
1S
0-
3P
1(689nm)が、量子ビットのデータの読み出し中に原子を冷却するために使用されてもよく、そのような冷却は、データの読み出しの効率性を向上させ得る。
【0063】
図3A~
図3Cは、光学捕捉デバイス10によって放射された集束レーザ・ビームに曝露されたときにストロンチウム原子によって受けられるトラップ電位を示す。具体的には、図示される例示的な実施形態において、
図3Aは、
3P
0の電子状態によって受けられるトラップ電位を示し、
図3Bは、
3P
2の電子状態によって受けられるトラップ電位を示し、
図3Cは、n
3S
1(n=78)の電子状態によって受けられるトラップ電位を示す。示されるように、図示される電子状態のそれぞれは、具体的には、捕捉波長において作動される集束レーザ・ビームに曝露されたときに、実質的に同一のトラップ電位を受ける。
【0064】
図4A~
図4Cは、量子コンピューティング・デバイス1によって達成可能な複数の例示的な量子ビット配置を示す。
図4Aは、2つの原子量子ビット2および制御量子ビット3を含む(2+1)量子ビットを示しており、2つの原子量子ビット2および制御量子ビット3は、もつれている(もつれ4によって表される)。
図4Bは、3つの原子量子ビット2および制御量子ビット3を含む(3+1)量子ビットを示しており、3つの原子量子ビット2および制御量子ビット3は、もつれている(もつれ4によって表される)。
図4Cは、4つの原子量子ビット2および制御量子ビット3を含む(4+1)量子ビットを示しており、4つの原子量子ビット2および制御量子ビット3は、もつれている(もつれ4によって表される)。図示される多粒子量子ビットの一部を形成しない非もつれ原子5は、図示される前記多粒子量子ビットから離れて置かれる。具体的には、
図4A~
図4Cにおける図示されるすべての量子ビット配置は、対称的に配置された量子ビットを含む。そのような対称量子ビット配置は、誤りの発生源を低減させ得る。しかしながら、たとえば、配置された量子ビット間に異なる間隔の距離を提供することによって、非対称量子ビット配置も可能となり得る。そのような非対称量子ビット配置は、たとえば、1つの量子ビットに対して引き起こされた位相シフトが、別の量子ビットに対して引き起こされた位相シフトに対して2倍となることが必要となり得るときなどにおいて、より計算的な柔軟性を可能にし得る。
【0065】
図5A~
図5Cは、(3+1)量子ビット配置を生成するための量子コンピューティング・デバイスの動作を示す。第1のステップでは、
図5Aに示されるように、量子コンピューティング・デバイス1は、2次元アレイ15のロケーションにおいて複数の原子18を捕捉する動作を行う。さらなるステップでは、
図5Bに示されるように、量子コンピューティング・デバイス1は、2次元アレイ15内で捕捉された原子18のうちの複数の位置を調節する動作を行う。具体的には、量子コンピューティング・デバイス1は、3つの原子18(または原子量子ビット2)を、制御量子ビットとなるべき第4の原子18(または制御量子ビット3)に接近させる動作を行う。第3のステップでは、
図5Cに示されるように、量子コンピューティング・デバイスは、4つの原子のリュードベリ状態間のもつれを引き起こして、(3+1)量子ビットを生成する動作を行う。たとえば、(2+1)または(4+1)量子ビットなど、複数の異なる量子ビットを生成するために、量子コンピューティング・デバイス1によって同じ動作原理が適用され得るということに留意されたい。図示される多粒子量子ビットの一部を形成しない非もつれ原子5は、図示される前記多粒子量子ビットから離れて置かれる。
【0066】
図6は、ストロンチウムに対する捕捉波長を計算するグラフィカル表現を示す。具体的には、
図7のグラフは、
3P
0および
3P
2の状態の分極率を、波長の関数として示す。さらに、このグラフは、リュードベリ状態の分極率を部分的に決定する、Sr+イオンの
2S
1/2の状態の分極率を示しており、前記状態のリュードベリ同調範囲が、前記関数の下のセクションとして示されている。見て取ることができるように、
3P
0および
3P
2の状態の関数は、
2S
1/2の状態のリュードベリ同調範囲内で交差する。したがって、
3P
0、
3P
2、およびn
3S
1の状態の関数間の三重交差が得られるように、nの適切な値が計算され得、前記値は、n=78である。したがって、約596nmの波長に対して三重交差が得られる。結果として、569nmの波長を持つビームに曝露された原子では、
3P
0、
3P
2、および78
3S
1の状態が、前記ビームによって生成された同一のトラップ電位を受ける。
【0067】
他の原子および対応する状態に対して同様の計算が行われてもよい。
【0068】
本明細書で説明されおよび/または図面に示される実施形態は、説明および例示のためのものに過ぎず、したがって、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。具体的には、量子コンピューティング・デバイスおよび/または量子コンピューティング・デバイスの使用および/または量子コンピューティングのための方法は、本明細書で説明されおよび/または図面に示される特徴の任意の組合せを含み得る。
【符号の説明】
【0069】
1 量子コンピューティング・デバイス
2 原子量子ビット
3 制御量子ビット
4 もつれ
5 非もつれ原子
10 レーザ光源
11 音響光学偏向器
12 光学組合せユニット
13 集束光学系
14 偏光ユニット
15 アレイ
16 真空セル
17 原子リザーバ
18 原子
19 ダイクロイック・ミラー素子
20 検出ユニット
21 リュードベリ励起ユニット
22 ラマン結合ユニット
23 フィードバック信号
【国際調査報告】