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特表2024-502729加工後耐食性に優れた複合めっき鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】加工後耐食性に優れた複合めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/26 20060101AFI20240116BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20240116BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20240116BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/098 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20240116BHJP
   C21D 7/06 20060101ALN20240116BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240116BHJP
   C22C 38/38 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C23C2/26
C23C2/06
C23C2/40
C23C28/00 A
C22C18/04
C22C18/00
B32B15/08 A
B32B15/092
B32B15/095
B32B15/098
B32B15/09
C21D7/06 A
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C22C38/38
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536478
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 KR2021018725
(87)【国際公開番号】W WO2022131692
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179007
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リョン
【テーマコード(参考)】
4F100
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA21C
4F100AB02D
4F100AB03A
4F100AB09B
4F100AB10B
4F100AB10D
4F100AB11B
4F100AB18B
4F100AB31B
4F100AH03C
4F100AK01C
4F100AK04C
4F100AK36C
4F100AK41C
4F100AK51C
4F100AK53C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA02C
4F100CA13C
4F100CA15C
4F100CA23C
4F100EH71B
4F100JK12C
4F100YY00B
4F100YY00C
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB44
4K027AC82
4K027AE02
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB11
4K044BC07
4K044CA11
(57)【要約】
本発明は、複合めっき鋼板においてめっき層に亀裂が発生しても、その亀裂が樹脂層内で伝播することを防止し、優れた加工後耐食性を有する複合めっき鋼板を提供することを目的とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、
前記素地鋼板上の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、
前記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面に設けられた樹脂層と、を含み、
前記樹脂層は、ベース樹脂及び樹脂粉末を含み、
前記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びエチレン系樹脂からなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項3】
前記樹脂粉末は、ポリウレタン系樹脂粉末を含む、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項4】
前記樹脂粉末は、樹脂層の体積に対して5~30体積%で含まれている、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項5】
前記樹脂粉末の平均表面積は30~700μmである、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項6】
前記樹脂層は、架橋剤及び顔料のうち少なくとも一つをさらに含み、
前記架橋剤は、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群から選択された1種以上であり、
前記顔料は、酸化チタン及び防錆顔料からなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項7】
前記樹脂層は、樹脂層の総重量に対して、ベース樹脂30~65重量%、樹脂粉末4~25重量%、架橋剤3~8重量%及び顔料5~25重量%を含む、請求項6に記載の複合めっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき層は、重量%で、Mg:1.0~6.0%、Al:1.5~13%、Si:0.3%以下(0%は除く)、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、且つ
前記めっき層の厚さ方向に1/2の地点における平均Feの含量は0.07%以下(0%を含む)であり、
AlとMgの比率(Al/Mg)は0.7~3.0である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項9】
前記めっき層のうち、MgZn相及びMgZn合金相は、相分率で10~80%である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項10】
前記複合めっき鋼板は、素地鋼板及びめっき層の間に設けられたFe-Al系抑制層をさらに含む、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項11】
素地鋼板と、
前記素地鋼板の少なくとも一面にZn-Mg-Al系めっき層を形成する段階と、
前記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面にベース樹脂及び樹脂粉末を含む樹脂層を形成する段階と、
を含み、
前記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記ベース樹脂は、ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びエチレン系樹脂からなる群から選択された1種以上である、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂粉末は、ポリウレタン系樹脂粉末を含む、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂粉末は、樹脂層の体積に対して5~30体積%で含まれている、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂粉末の平均表面積は30~700μmである、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂層は、架橋剤及び顔料のうち少なくとも一つをさらに含み、
前記架橋剤は、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群から選択される1種以上であり、
前記顔料は、酸化チタン及び防錆顔料からなる群から選択された1種以上である、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記樹脂層は、樹脂層の総重量に対して、ベース樹脂30~65重量%、樹脂粉末4~25重量%、架橋剤3~8重量%及び顔料5~25重量%を含む、請求項16に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工後耐食性に優れためっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、腐食環境に曝されたとき、鉄より酸化還元電位の低い亜鉛が先に腐食され、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食の特性を有する。また、めっき層の亜鉛が酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成し、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで鋼材の耐食性を向上させる。このような有利な特性のおかげで、最近、亜鉛系めっき鋼板は建資材、家電製品及び自動車用鋼板にその適用範囲が拡大している。
【0003】
しかし、産業高度化に伴う大気汚染の増加により腐食環境が徐々に悪化しており、資源及び省エネに対する厳しい規制により、従来の亜鉛系めっき鋼板よりも優れた耐食性を有する鋼材開発に対する必要性が高まっている。
【0004】
このような問題を改善するために、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛系めっき鋼板の製造技術に関する研究が様々に進められている。代表的な例としては、Zn-Alめっき組成系にMgをさらに添加したZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板がある。
【0005】
このようなZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板は、めっき層内にMgZn相、Zn-MgZn(二元相)のような脆性の強い相を含んでおり、加工時にめっき層に亀裂が発生しやすい。めっき層で発生した亀裂は、めっき層上に設けられた塗装層(樹脂層)に伝達されて塗装亀裂を誘発するため、鋼板耐食性の低下を招く。
【0006】
そこで、本発明の発明者らは、めっき層の亀裂を抑制するとともに、塗装層に亀裂が発生しても、その亀裂が塗装層内で伝播することを最小化できる複合めっき鋼板に関する研究を進めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2014-0083814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、複合めっき鋼板においてめっき層に亀裂が発生しても、その亀裂が樹脂層内で伝播することを防止し、優れた加工後耐食性を有する複合めっき鋼板を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、優れた加工後耐食性を有する複合めっき鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、
素地鋼板と、
上記素地鋼板上の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、
上記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面に設けられた樹脂層と、を含み、
上記樹脂層は、ベース樹脂及び樹脂粉末を含み、
上記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板を提供する。
【0011】
本発明の他の側面は、
素地鋼板を準備する段階と、
上記素地鋼板の少なくとも一面にZn-Mg-Al系めっき層を形成する段階と、
上記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面にベース樹脂及び樹脂粉末を含む樹脂層を形成する段階と、を含み、
上記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複合めっき鋼板の樹脂層に高い硬度を有する樹脂粉末を混入することにより、めっき層から発生した亀裂が樹脂層内で伝播することを防止し、優れた加工後耐食性を有する複合めっき鋼板を提供できる。
【0013】
また、本発明によれば、優れた加工後耐食性を有する複合めっき鋼板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一側面による実施例5の複合めっき鋼板の試験片に対して曲げ加工を施した後、曲げ線を観察した図である。
図2】比較例5の複合めっき鋼板の試験片に対して曲げ加工を施した後、曲げ線を観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の一側面によれば、複合めっき鋼板は、素地鋼板と、上記素地鋼板の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、上記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面に設けられた樹脂層と、を含む。
【0017】
本発明において素地鋼板の種類は特に限定されない。例えば、上記素地鋼板は、通常の亜鉛系めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板又は冷延鋼板であってもよいが、これに限定されない。あるいは、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として使用される炭素鋼、極低炭素鋼又は高マンガン鋼であってもよい。
【0018】
但し、非限定的な一例として、上記素地鋼板は、重量%で、C:0.17%以下(0は含まない)、Si:1.5%以下(0は含まない)、Mn:0.01~2.7%、P:0.07%以下(0は含まない)、S:0.015%以下(0は含まない)、Al:0.5%以下(0は含まない)、Nb:0.06%以下(0は含まない)、Cr:1.1%以下(0を含む)、Ti:0.06%以下(0は含まない)、B:0.03%以下(0は含まない)、並びに残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0019】
本発明の一側面によれば、上記素地鋼板の少なくとも一面には、Zn-Mg-Al系合金からなるZn-Mg-Al系めっき層を設けることができる。上記めっき層は、素地鋼板の一面にのみ形成されていてもよく、あるいは、素地鋼板の両面に形成されていてもよい。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層とは、Mg及びAlを含み、Znを50%以上含むめっき層をいう。
【0020】
また、本発明の一側面によれば、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間にはFe-Al系抑制層を備えてもよい。上記Fe-Al系抑制層は、FeとAlの金属間化合物を含む層であって、FeとAlの金属間化合物としては、FeAl、FeAl、FeAl等が挙げられる。他にも、Zn、Mgなどのように、めっき層に由来する成分が、一部(例えば、40%以下で)さらに含まれてもよい。上記抑制層は、めっき初期の素地鋼板から拡散したFe及びめっき浴成分による合金化により形成された層である。上記抑制層は、素地鋼板とめっき層との密着性を向上させる役割を果たすとともに、素地鋼板からめっき層へのFeの拡散を防止する役割を果たすことができる。
【0021】
本発明の一側面によれば、上記めっき層は、素地鋼板から拡散した鉄(Fe)を除いた成分を基準に、重量%で、Mg:4~10%、Al:5.1~25%、Si:0.3%以下(0%は除く)、残部Zn及び不可避不純物を含むことができる。
【0022】
(Mg:1.0~6.0%)
Mgは、亜鉛合金めっき鋼板の耐食性を向上させる役割を果たす元素であって、腐食環境下でめっき層の表面に緻密な亜鉛水酸化物系腐食生成物を形成することにより、亜鉛系めっき鋼板の腐食を効果的に防止することができる。上記効果を発現させるために、本発明では、めっき層内のMg含量を1.0%以上に制御する。但し、めっき層内のMg含量が過剰な場合、Mgの添加による耐食性向上効果はもはや向上しないのに対し、めっき浴内のMgの酸化によるめっき浴の浮遊ドロスの発生が増加し、ドロスを頻繁に除去しなければならないという問題がある。したがって、本発明ではMg含量を6.0%以下に制御する。
【0023】
(Al:1.5~13%)
Alは、上述したドロスの発生を抑制する役割を果たす元素であって、めっき層内のAl含量は1.5%以上であることが好ましい。但し、ドロスの発生を抑制するためにAlを過剰に添加すると、めっき浴の融点が高くなり、それに伴う操業温度が高くなりすぎるため、めっき浴構造物の侵食及び鋼材の変性が生じるなど、高温作業による問題が発生する可能性がある。さらに、めっき浴内のAl含量が過剰であると、Alが素地鉄のFeと反応してFe-Al抑制層の形成に寄与せず、アウトバースト(Outburst)相の形成に寄与する反応が急激に起こり、塊状のアウトバースト相が過剰に形成されるため、耐食性が悪化することがある。したがって、めっき層内のAl含量の上限は13%に制御することが好ましい。
【0024】
(Si:0.3%以下(0%は除く))
Siは、亜鉛合金めっき鋼板の抑制層(Inhibition layer)の形成時にFe-Al化合物に固溶して延性を付与する役割を果たす。上記SiがMgSiとして析出せず抑制層に濃化するとき、めっき層の密着性及び破壊靭性の向上に有利である。しかし、めっき層内のSi含量が多くなると、鋼板表面の粗さや形状が不均一な場合、めっき層と素地鋼板の界面に脆性のあるMgSi析出物が粗大に形成され、むしろ外部応力に対してクラックの発生を招く。したがって、Siの含量は0.3%を超えないことが好ましい。
【0025】
(残部Zn及びその他の不可避不純物)
上述しためっき層の組成の他に、残部はZn及びその他の不可避不純物であってもよい。不可避不純物は、通常の亜鉛合金めっき鋼板の製造工程において意図せずに混入し得るものであれば、全て含まれることができ、当該技術分野における技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。
【0026】
一方、上記めっき層には、素地鋼板から少量の鉄(Fe)成分が拡散してめっき層に少量含まれてもよく、めっき層に含まれる鉄成分の含量は極めて少量であり、不純物レベルに該当するため、別途定義しなくてもよい。
【0027】
本発明の一側面によれば、めっき層の厚さ方向に1/2の地点における平均Feの含量は0.07%以下(0%を含む)であってもよい。ここで、めっき層の厚さ方向とは、めっき鋼板の圧延方向と垂直な方向を意味する。
【0028】
本発明の一側面において、めっき浴中に含まれ得るFeは、その含量に対する管理が必要であり、具体的に、Zn-Mg-Al系めっき浴には素地鉄から流入する少量の鉄(Fe)が含まれてよい。めっき浴中にFe含量が増加すると、Alと反応して微細なFeAl結晶を形成し、めっき層に混入すると、めっき欠陥を誘発することがある。したがって、管理指標として、Zn-Mg-Al系めっき層に対する厚さ方向への中間地点においてFe含量が0.007%以内となるように生産管理を行う必要がある。めっき層の厚さ方向に1/2の地点で平均Feの含量が0.07%を超えると、応力によるめっき層の亀裂が増加するおそれがある。
【0029】
本発明の一側面によれば、めっき層におけるAlとMgの比率(Al/Mg)は0.7~3.0であってもよい。Al/Mgが0.7未満であると、めっき浴の表面に過度なドロスが発生して表面欠陥が増加することがある。これに対し、Al/Mgが3.0を超えると、めっき層の組織にAl相が増加して、めっき層の耐食性が低下することがある。
【0030】
一方、めっき層の亀裂は、脆性の強いMgZn相と組織の大きいZn-MgZn相で主に発生するため、これら相の比率を適切に調節することにより亀裂の発生や伝播を抑制することができる。
【0031】
本発明の一側面によれば、上記めっき層の表面、又はめっき層の表面を1μm以上研磨した後の表面は、MgZn相を含む領域を相分率で10%以上80%未満、好ましくは10~60%含むことができる。ここで、MgZn相を含む領域とは、MgZn相が単独で存在するか、又はAl-MgZn、Zn-Al-MgZn、Zn-MgZnのような合金相として存在する領域を意味する。めっき層には、Zn単相、Al相、MgZn相など、様々な相が存在できるが、これらの相のうち、幅が3μm以上の相を単相と判断し、幅が3μm以下であって隣接した相がMgZnである場合には合金相と判断する。
【0032】
MgZn相を含む領域の相分率が10%未満であると、耐食性が低下する可能性があるのに対し、80%を超えると、めっき層の脆性が高くなり、加工時にクラックが発生する可能性がある。
【0033】
めっき層の表面に存在するこのような相は、顕微鏡を用いて観察することができ、研磨後の表面に存在する相は顕微鏡又はイメージアナライザを用いて測定することができる。
【0034】
一方、別途の方法として、上記MgZn相の相分率は、X線回折分析法(XRD、X-Ray Diffraction)から測定される各相(Phase)の回折ピーク積分強度を計算して得られた相対重量比を換算して測定することができる。本発明の試験片測定に使用した器具は、Rigaku D/Max 2200である。また、精密な相分率の測定方法であるリットベルト(Rietveld)測定法及び状態図計算プログラムを用いて相対重量比を検証することもできる。
【0035】
上記めっき層が相分率で10~60%のMgZn相を含むことは、めっき浴中のAl及びMgの含量に起因するものであり、例えば、Mg含量が1.0%より低い場合、10%未満のMgZn相が生成される。MgZn相は、他の合金相からなる組織に比べて硬度が相対的に高いため、MgZn相の相分率を制御することにより、めっき層の硬度を調節することができる。MgZn相の相分率が10%未満であると、めっき層の硬度が220Hv未満となり、30回以上の繰り返し摩擦係数が大幅に増加するという問題が生じることがある。
【0036】
一方、MgZn相の相分率が60%を超えると、めっき層内の硬度が大きいMgZn相が不均一かつ粗大に凝集する。よって、均一な加工性を確保するZn単相及びZn-Al-MgZnの三元共晶組織が均一に分布されず、加工時にクラックが発生することがあり、このようなクラックを介して腐食が伝播しやすく、耐食性が急激に低下することがある。
【0037】
本発明の一側面によれば、上記Fe-Al系抑制層は、その厚さが0.02μm以上2.5μm以下であってもよい。上記抑制層は、合金化を防止し、耐食性を確保する役割を果たすが、脆いため加工性に悪影響を及ぼすおそれがあることから、その厚さを2.5μm以下に制御することができる。但し、抑制層としての役割を果たすためには、その厚さを0.02μm以上に制御することが好ましい。このとき、上記抑制層の厚さは、SEM、TEM装置を用いて界面に対して垂直な方向への最小厚さを意味することができる。
【0038】
本発明の一側面によれば、上記めっき層上には塗装層が形成されてよい。上記塗装層は樹脂層を含むことができ、樹脂層の他にもクロム塗装層、下塗り塗装層などを含むことができる。本発明において、樹脂層は上塗り塗装層ともいい、上述したように、めっき層の亀裂が塗装層に伝播することを防止するために、互いに硬度が異なる樹脂を含むことができる。
【0039】
本発明の一側面によれば、樹脂層はベース樹脂及び樹脂粉末を含むことができる。上記ベース樹脂は軟質の物質であって、めっき鋼板の加工時に加工により変形が発生した場合、このような加工変形を吸収する役割を果たす。ベース樹脂としては、ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びエチレン系樹脂からなる群から選択された1種以上を使用することが好ましいが、これに限定されない。
【0040】
上記ベース樹脂は、樹脂層の総重量に対して30~65重量%含まれてよい。ベース樹脂の含量が40重量%未満であると、樹脂層の弾性が低下し、容易に破損するおそれがある。一方、ベース樹脂の含量が60重量%を超えると、樹脂の粘性が増加するため、加工時に樹脂が金型に吸着するおそれがある。
【0041】
めっき鋼板の加工時に、加工変形を越えてめっき層に亀裂が発生した場合、亀裂はベース樹脂を介して伝播する。この亀裂が最外郭の樹脂を変形させて亀裂臨界点を超えると、最外郭の樹脂層にも亀裂が発生する。しかし、亀裂が硬質の物質である樹脂粉末に到達すると、亀裂が止まったり伝播方向が変わるため、更なる亀裂の伝播を防止することができる。
【0042】
めっき層に発生した亀裂が伝播することを効率的に防止するために、ベース樹脂に対して1.1~2倍大きい硬度を有する上記樹脂粉末を使用することができる。硬度比が1.1倍未満であると、ベース樹脂と樹脂粉末との僅かな硬度差により、亀裂伝播を十分に抑制することが困難である。一方、硬度差が2倍を超えると、過度な硬度差により、樹脂層と樹脂粉末との間に応力が集中して、むしろ亀裂が拡大することがあるため好ましくない。
【0043】
本発明において、樹脂粉末としては、ポリウレタン系樹脂、例えば、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン等を用いることができるが、これらに限定されず、上述したようにベース樹脂と一定の硬度比を有するものであれば、制限なく使用することができる。
【0044】
樹脂層中の樹脂粉末の含量は4~25重量%であってもよい。樹脂粉末の含量が4重量%未満であると、樹脂粉末の含量が少なすぎて亀裂伝播抑制効果が十分に発現されないことがある。一方、樹脂粉末の含量が25重量%を超えると、樹脂層の延性低下により亀裂の発生が増加することがある。
【0045】
上記樹脂粉末は、樹脂層の体積に対して5~30体積%、好ましくは10~20体積%で含まれてよい。樹脂粉末の体積比が5体積%未満であると、亀裂伝播抑制効果が十分に発現されないことがある。一方、樹脂粉末の含量が30体積%を超えると、樹脂層の延性が低下し、亀裂の発生が増加することがある。
【0046】
さらに、上記樹脂粉末は、30~700μmの平均表面積、好ましくは50~500μmの平均表面積を有してよい。平均表面積が30μm未満であると、亀裂抑制効果が低下することがあるのに対し、平均表面積が700μmを超えると、樹脂層が不均一な外観を有するようになり、この不均一により美観が低下するおそれがある。
【0047】
上記樹脂粉末の形態は特に限定されず、円形、角ばった粒子状又は円筒形であってもよい。
【0048】
本発明の一側面によれば、上記樹脂層は、ベース樹脂、樹脂粉末の他にも、架橋剤又は顔料をさらに含むことができる。
【0049】
架橋剤は、ベース樹脂の間で架橋を形成する成分であって、例えば、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群から1種以上を選択して使用することができるが、これに限定されない。
【0050】
架橋剤の含量は、ベース樹脂の含量に応じて適宜調節することができ、好ましくは、樹脂層の総重量に対して3~10重量%であってよい。架橋剤の含量が3重量%未満であると、樹脂層が硬化せず、硬度が低下することがあり、架橋剤の含量が10重量%を超えると、樹脂層の硬度が高くなりすぎて、外部から応力を加えなくても自然に亀裂が発生することがある。
【0051】
顔料は、樹脂層に含まれて色を発現させる成分であって、酸化チタン及び防錆顔料からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されない。顔料の含量は、樹脂層の総重量に対して10~35重量%であってもよく、顔料の含量が10重量%未満であると、樹脂層の防錆性能が低下することがあり、樹脂層の鮮明な色実現が困難になる可能性がある。一方、顔料の含量が35重量%を超えると、樹脂層の弾性が低下し、亀裂が発生することがある。
【0052】
本発明の一側面によれば、樹脂層は単一層で構成されてもよく、2層以上で構成されてもよい。樹脂層の厚さは3μm~30μmであってもよい。樹脂層の厚さが3μm未満であると、樹脂層による表面保護の役割が低下し、めっき層表面の屈曲や欠陥が表面に転写され、表面品質が低下する可能性がある。一方、樹脂層の厚さが30μmを超えると、樹脂層の塗装及び乾燥速度が遅くなり生産性が低下し、製造コストが上昇するため好ましくない。
【0053】
次に、本発明のさらに他の一側面による複合めっき鋼板の製造方法について説明する。但し、本発明の複合めっき鋼板は、必ずしも以下の製造方法により製造されるべきことを意味するものではない。
【0054】
本発明の一側面によれば、素地鋼板を準備する段階を含むことができ、このとき、素地鋼板の種類は特に限定されない。通常の溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板又は冷延鋼板であってもよいが、これに限定されるものではない。また、上記素地鋼板は、例えば、自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼又は高マンガン鋼であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0055】
本発明の一側面によれば、素地鋼板を重量%で、Mg:1.0~6.0%、Al:1.5~13%、Si:0.3%以下(0%は除く)、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛合金をめっきする段階を含むことができる。上述した組成のめっき浴を製造するために、所定のZn、Al、Mgを含有する複合インゴット又は個別成分が含有されたZn-Mg、Zn-Alインゴットを使用することができる。一方、めっき浴の成分については、素地鋼板から流入するFeの含量を除いて、上述しためっき層の成分に関する説明を同様に適用することができる。
【0056】
また、本発明の一側面によれば、めっき浴の温度を440~520℃に維持して溶解を行う。めっき浴の温度が高いほど、めっき浴内の流動性確保及び均一な組成の形成が可能となり、浮遊ドロスの発生量を減少させることができる。めっき浴の温度が440℃未満であると、インゴットの溶解が非常に遅く、めっき浴の粘性が大きいため、優れためっき層の表面品質が確保しにくい可能性がある。一方、めっき浴の温度が520℃を超えると、Znの蒸発によるAsh性欠陥がめっき表面に誘発されるという問題が生じることがあるだけでなく、さらにFeの拡散が過度に進行し、アウトバースト相が過剰に形成されることがある。上記めっき浴の温度は、めっき浴の融点より20~80℃高い温度に維持することができる。
【0057】
上述のめっき浴に素地鋼板を浸漬した後の入浴時間は1~6秒の範囲であってもよい。
【0058】
また、本発明の一側面によれば、めっき浴の湯面から冷却を開始し、トップロール区間まで3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階を含むことができる。このとき、めっき浴の湯面からトップロール区間までの冷却速度が3℃/s未満であると、MgZn組織が過度に粗大に発達してめっき層表面の屈曲が激しくなることがある。また、Zn-MgZnの二元系、あるいはAl-Zn-MgZnの三元系共晶組織が広く形成され、均一な耐食性及び加工性の確保に不利となることがある。一方、めっき浴の湯面からトップロール区間までの冷却速度が30℃/sを超えると、溶融めっき過程中に液相から固相に凝固し始め、液相が全て固相に変化する間の温度区間で急激な凝固が起こり、これによってMgZn組織のサイズが過度に小さく形成され、局所的に均一でない耐食性の結果を示すことがある。また、Fe-Zn-Al相の均一な成長が不十分であり、めっき層と素地鋼板の界面に集中して加工性が低下する可能性があり、過度な冷却速度のために窒素の使用量が増加して製造コストが増加する可能性がある。
【0059】
本発明の一側面によれば、上記不活性ガスは、N、Ar及びHeのうち1種以上を含むことができ、製造コスト削減の観点からN又はN+Arを使用することが好ましい。
【0060】
本発明の一側面によれば、めっき前の素地鋼板の表面にショットブラスト処理を施すことで表面酸化物を除去することができる。上記ショットブラスト処理により、素地鋼板をRa:0.5~3.0μm、Rz:1~20μm、Rpc:10~100(count/cm)の表面形状を有するようにする段階を含むことができる。
【0061】
本発明の一側面によれば、ショットブラスト処理により、素地鋼板がRa:0.5~3.0μm、Rz:1~20μm、Rpc:10~100(count/cm)の表面形状を有するように制御することにより、素地鋼板の表面での反応性を活性化させて、めっき層の凝固時に凝固核の生成がより均一に形成できる。したがって、表面品質に優れためっき鋼板が得られるだけでなく、表面に均一な組織を形成することにより、加工の際に局所的にクラックの起点が形成されることを防止し、優れた加工性も確保することができる。
【0062】
また、本発明の一側面によれば、上記ショットブラストの処理時には、使用される金属材ボールの直径が0.3~10μmのものを用いるか、又は鋼板の運行速度を50~150mpm(meter per minute)に制御するか、又は300~3,000kg/minの金属材ボールを鋼板表面に衝突させるように制御することができる。
【0063】
すなわち、本発明の一側面によれば、上記ショットブラスト処理は、金属材ボールの直径が0.3~10μmのものを用いて、50~150mpmの運行速度で進行する鋼板に300~3,000kg/minの金属材ボールを 鋼板表面に衝突させることによって行うことができる。
【0064】
本発明の一側面によれば、めっき前の素地鋼板に対して上述の条件を満たすように、素地鋼板をめっきする前にショットブラスト処理を行うことにより、表面めっき前に機械的電位を導入して抑制層が迅速かつ均一に形成されるか、又はめっき層の凝固時に凝固核の生成がより均一に形成されるように、素地鋼板の表面を活性化することができる。
【0065】
すなわち、ショットブラスト処理時に上述の条件を満たすことで、過酷にショットブラスト処理されることによって組織が粗く形成されて加工性が低下したり、不十分にショットブラスト処理されることによってめっき前に素地鋼板の表面の活性化の程度が低く、表面の均一性が低下するという問題を防止することができる。
【0066】
したがって、めっき前の素地鋼板に対してショットブラスト処理し、ショットブラストの処理条件を最適化することにより、上述した特定範囲のめっき層のRa、Rz、断面硬度及び厚さのうち一つ以上の条件を満たすめっき鋼板を容易に製造することができる。
【0067】
本発明の一側面によれば、上記めっき層上に樹脂層を形成するために、まずアルカリ脱脂剤でめっき層を洗浄してめっき層の表面に付着した異物を除去することができる。その後、めっき層上にクロメート皮膜処理を施してクロム塗装層を形成することができる。
【0068】
次に、上記クロム塗装層上に下塗り塗料を塗装して、3~30μm厚さの下塗り塗装層を形成することができる。下塗り塗料としては、めっき鋼板との密着性及び耐食性に優れ、後述する上塗り塗料との密着性に優れた塗料を使用することができる。例えば、ポリエステルなどのベース樹脂40~80重量%、メラミン架橋剤5~10重量%、TiO10~30重量%、芳香族炭化水素系もしくはエステル系溶剤10~40重量%、及びその他の添加剤2~5重量%を含む塗料を、本発明の一側面による下塗り塗料として使用することができる。
【0069】
上記下塗り塗料を150~300℃の温度で乾燥させて形成された下塗り塗装層上に上塗り塗料を塗布した後、50~300℃の温度で乾燥させることで、本発明の一側面による樹脂層を形成することができる。このとき、上塗り塗料は、上述したように、ベース樹脂及び上記ベース樹脂よりも硬度が1.1~2倍大きい樹脂粉末を含むものであってもよく、例えば、上記ベース樹脂30~65重量%、架橋剤3~8重量%、顔料5~25重量%、溶剤5~30重量%及びその他の添加剤2~3重量%を含むものであってもよい。このように形成された樹脂層は、樹脂層の体積に対して5~30体積%で樹脂粉末を含んでよい。
【実施例
【0070】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記の実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0071】
下記表1~6において、ベース樹脂、樹脂粉末、架橋剤、顔料の他に、残りの成分は溶剤及びその他の添加剤である。
【0072】
(実験例1:ベース樹脂と樹脂粉末の硬度比による複合めっき鋼板の性能評価)
重量%で、C:0.03%、Si:0.7%、Mn:0.5%、P:0.003%、S:0.002%、Al:0.05%及び残部Feとその他の不可避不純物を含む素地鋼板に対して、重量%で、Mg:5.2%、Al:12.5%、Si:0.005%を含むめっき層を形成した。
【0073】
上記めっき層上に、樹脂層が下記表1に記載の組成を有するように、樹脂溶液を塗布した後、乾燥させて樹脂層を形成した。ベース樹脂材質と樹脂粉末材質の板状試験片を別途作製した後、DタイプのShore硬度計を用いてベース樹脂と樹脂粉末の硬度を測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1の複合めっき鋼板を横7cm×縦15cmに切断して複合めっき鋼板の試験片を製造した後、複合めっき鋼板の性能を評価した。
【0076】
<亀裂伝播抑制性能の評価>
上記切断された複合めっき鋼板の試験片の中心線に対して180°に曲げて両面が当接するように曲げ加工を施した後、曲げ線における塗装層に発生した亀裂を観察した。亀裂の発生度合いを下記の評価基準に従って評価した。
【0077】
◎:曲げ線上の塗装に亀裂が全く発生しない
○:曲げ線上の塗装に亀裂長さ1mm以内の欠陥が5個未満発生する
△:長さ1mm以内の微細な亀裂が5個以上10個未満発生する
X:長さ1mm以内の欠陥が10個以上発生するか、又は長さ1mm以上の欠陥が1個以上発生する
【0078】
<加工後耐食性の評価>
上述のように曲げ加工された複合めっき鋼板の試験片に対して、塩水噴霧試験装置(Salt Spray Tester)を用いてISO14993に準じた試験方法で白錆(white rust)の発生の有無を観察した。加工後耐食性を下記の評価基準に従って評価した。
【0079】
◎:500時間以上経過した後、曲げ線の表面に白錆が発生しない
○:300時間以上、500時間以内に白錆が発生する
△:100時間以上、300時間以内に白錆が発生する
X:100時間以内に白錆が発生する
【0080】
【表2】
【0081】
表2を参照すると、樹脂粉末とベース樹脂の硬度比が本発明の範囲を満たす実施例1~6の場合、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性の両方に優れることが分かる。一方、樹脂粉末とベース樹脂の硬度比が本発明の範囲から外れる比較例1、2の場合、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性が著しく低下した結果を示している。
【0082】
(実験例2:樹脂溶液の組成による複合めっき鋼板の性能評価)
実験例1と同じ素地鋼板に実験例1と同じ組成を有するめっき層を形成した。上記めっき層上に、下記表3に記載の組成を有するように樹脂溶液を塗布した後、乾燥させて樹脂層を形成した。
【0083】
【表3】
【0084】
表3の複合めっき鋼板を横7cm×縦15cmに切断して複合めっき鋼板の試験片を製造した後、複合めっき鋼板の性能を評価して下記表4に記載した。
【0085】
また、実施例5及び比較例5の複合めっき鋼板の試験片に対して曲げ加工を行った後、曲げ線を観察した結果をそれぞれ図1及び図2に示した。
【0086】
【表4】
【0087】
表4を参照すると、樹脂層が本発明による組成を有する実施例1~6は、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性の両方に優れた結果を示した。一方、樹脂層の組成が本発明による範囲から外れる場合、樹脂粉末とベース樹脂の硬度比が本発明の範囲を満たしていても、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性が低下した結果を示した。特に、実施例5の複合めっき鋼板には亀裂が発生していないが(図1)、比較例5の複合めっき鋼板には塗装層に亀裂が多数発生したことを確認した(図2)。
【0088】
(実験例3:樹脂粉末の体積比率による複合めっき鋼板の性能評価)
実験例1と同じ素地鋼板に、実験例1と同じ組成を有するめっき層を形成した。上記めっき層上に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂粉末、メラミン架橋剤、TiO顔料を含む樹脂溶液を塗布した後、乾燥させて樹脂層を形成して複合めっき鋼板を製造した。このとき、ベース樹脂に対する樹脂粉末の硬度比は1.1~1.9であった。
【0089】
樹脂層の各成分の含量(重量%)と樹脂粉末の体積比率(体積%)を下記表5に記載した。
【0090】
樹脂層の断面試験片を製造して鏡面研磨した後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて樹脂層に含まれた樹脂粉末の分布を観察した。また、樹脂粉末部位に色をつけた後、イメージアナライザを用いて樹脂粉末の比率を測定し、この値を樹脂粉末の体積比率と判断した。
【0091】
【表5】
【0092】
表5を参照すると、樹脂粉末の体積比率が本発明による範囲を満たす実施例7~12は、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性に優れているが、樹脂粉末の体積比率が本発明による範囲から外れる比較例7~12は、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性が低下した結果を示している。
【0093】
(実験例4:樹脂粉末の平均表面積による複合めっき鋼板の性能評価)
実験例1と同じ素地鋼板に、実験例1と同じ組成を有するめっき層を形成した。上記めっき層上に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂粉末、メラミン架橋剤、TiO顔料を含む樹脂溶液を塗布した後、乾燥させて表6に記載の組成を有する樹脂層を形成した。このとき、ベース樹脂に対する樹脂粉末の硬度比は1.1~1.5であった。
【0094】
上記樹脂粉末の平均表面積を走査電子顕微鏡(SEM)を用いてx500~x1,000の倍率で写真を撮影し、樹脂粉末に色をつけて区分した後にイメージアナライザを用いて樹脂粉末の平均表面積を測定した。測定値を下記表6に記載した。
【0095】
表6の複合めっき鋼板を横7cm×縦15cmに切断して複合めっき鋼板の試験片を製造した後、複合めっき鋼板の性能を評価した。
【0096】
【表6】
【0097】
表6を参照すると、樹脂粉末の平均表面積が本発明による範囲を満たす実施例13~18は、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性に優れている。一方、樹脂粉末の平均表面積が本発明による範囲から外れる比較例13~18は、亀裂伝播抑制性能及び加工後耐食性が低下した結果を示している。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板と、
前記素地鋼板上の少なくとも一面に設けられたZn-Mg-Al系めっき層と、
前記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面に設けられた樹脂層と、を含み、
前記樹脂層は、ベース樹脂及び樹脂粉末を含み、
前記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びエチレン系樹脂からなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項3】
前記樹脂粉末は、ポリウレタン系樹脂粉末を含む、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項4】
前記樹脂粉末は、樹脂層の体積に対して5~30体積%で含まれている、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項5】
前記樹脂粉末の平均表面積は30~700μmである、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項6】
前記樹脂層は、架橋剤及び顔料のうち少なくとも一つをさらに含み、
前記架橋剤は、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群から選択された1種以上であり、
前記顔料は、酸化チタン及び防錆顔料からなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項7】
前記樹脂層は、樹脂層の総重量に対して、ベース樹脂30~65重量%、樹脂粉末4~25重量%、架橋剤3~8重量%及び顔料5~25重量%を含む、請求項6に記載の複合めっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき層は、重量%で、Mg:1.0~6.0%、Al:1.5~13%、Si:0.3%以下(0%は除く)、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、且つ
前記めっき層の厚さ方向に1/2の地点における平均Feの含量は0.07%以下(0%を含む)であり、
AlとMgの比率(Al/Mg)は0.7~3.0である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項9】
前記めっき層のうち、MgZn相及びMgZn合金相は、相分率で10~80%である、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項10】
前記複合めっき鋼板は、素地鋼板及びめっき層の間に設けられたFe-Al系抑制層をさらに含む、請求項1に記載の複合めっき鋼板。
【請求項11】
素地鋼板を準備する段階と、
前記素地鋼板の少なくとも一面にZn-Mg-Al系めっき層を形成する段階と、
前記Zn-Mg-Al系めっき層上の少なくとも一面にベース樹脂及び樹脂粉末を含む樹脂層を形成する段階と、
を含み、
前記樹脂粉末の硬度は、ベース樹脂の硬度に対して1.1~2倍である、複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記ベース樹脂は、ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂及びエチレン系樹脂からなる群から選択された1種以上である、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂粉末は、ポリウレタン系樹脂粉末を含む、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂粉末は、樹脂層の体積に対して5~30体積%で含まれている、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂粉末の平均表面積は30~700μmである、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂層は、架橋剤及び顔料のうち少なくとも一つをさらに含み、
前記架橋剤は、メラミン樹脂及びイソシアネート樹脂からなる群から選択される1種以上であり、
前記顔料は、酸化チタン及び防錆顔料からなる群から選択された1種以上である、請求項11に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記樹脂層は、樹脂層の総重量に対して、ベース樹脂30~65重量%、樹脂粉末4~25重量%、架橋剤3~8重量%及び顔料5~25重量%を含む、請求項16に記載の複合めっき鋼板の製造方法。
【国際調査報告】