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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/12 20060101AFI20240116BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20240116BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20240116BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240116BHJP
   B23K 1/008 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
B23B29/12 Z
B23K1/00 330B
B23K35/30 310B
B23K35/30 310C
C22C5/08
C22C9/00
C22C38/00 302N
C22C38/52
C21D6/00 M
B23K1/008 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023536989
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2021085834
(87)【国際公開番号】W WO2022129133
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20214970.4
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウリツカ, ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ティルマン, ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ダール, レイフ
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046MM00
(57)【要約】
本発明は、超硬合金部分(2)とマルエージング鋼部分(1)とを備え、この2つの部分がろう付けによって接合されている工具に関する。本発明はまた、このような工具の作製に関する。本工具によって、均一な硬度を有する強力なろう付け接合部と鋼部分が得られる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金部分であって、前記超硬合金が、金属結合剤相マトリックスに埋め込まれた硬質相を含んでおり、前記硬質相の少なくとも50重量%がWCである、超硬合金部分と、
0~20HV1の間の標準偏差で350~600HV1の間の硬度を有するマルエージング鋼部分と、
前記超硬合金部分および前記鋼部分を接合させるろう付け接合部と
を備える工具であって、
前記ろう付け接合部がTiを含んでおり、前記ろう付け接合部が、0.03~5μmの間の厚さを有し前記超硬合金部分に隣接しているTiC層を含んでいる、工具。
【請求項2】
前記マルエージング鋼部分が、0~14HV1の間の標準偏差で400~460HV1の間の硬度を有する、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
前記ろう付け接合部が、20~200μmの間の厚さを有する、請求項1または2に記載の工具。
【請求項4】
前記ろう付け接合部の剪断強度が、少なくとも130MPaである、請求項1から3のいずれか一項に記載の工具。
【請求項5】
前記ろう付け接合部が、Cu、Ag、およびSnを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の工具。
【請求項6】
前記ろう付け接合部が、30~80重量%の量のAg、15~65重量%の量のCu、0.3~15重量%の量のTi、および0~10重量%の量のSnを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の工具。
【請求項7】
前記マルエージング鋼が、13~25重量%のNiと、Co、Mo、Ti、Al、およびCrから選択される10~27重量%の量の1つまたは複数の合金元素と、0.3重量%未満のCと、残部としてFeとを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の工具。
【請求項8】
前記マルエージング鋼が、13~25重量%のNi、7~15重量%のCo、3~10重量%のMo、0.1~1.6重量%のTi、0.05~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.3重量%未満のC、ならびに残部としてFeおよび不可避不純物を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の工具。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の工具を作製する方法であって、
超硬合金部分を得る工程と、
マルエージング鋼部分を得る工程と、
ろう付け材料であってその0.3~15重量%の量でTiを含むろう付け材料を、前記超硬合金部分と前記マルエージング鋼部分との間にそれらと接触させて配する工程と、
700~1200℃の間の温度の炉内で5~60分の間の期間、前記超硬合金部分および前記マルエージング鋼部分を、前記ろう付け材料を挟んだ状態でろう付け工程にかける工程であって、ろう付けが真空下で行われる、工程と、
少なくとも前記マルエージング鋼部分を、300~700℃の間の温度で5分~12時間にわたり時効処理工程にかける工程と
を含む、工具を作製する方法。
【請求項10】
前記ろう付け工程が、700~950℃の間の温度で、5~15分の間の期間にわたり実施される、請求項9に記載の工具を作製する方法。
【請求項11】
前記時効処理工程が、550~600℃の間の温度で、3~6時間にわたり実施される、請求項9から10のいずれか一項に記載の工具を作製する方法。
【請求項12】
前記ろう付け材料が、488~1123℃の間の固相線温度、および612~1180℃の間の液相線温度を有しており、前記ろう付け材料が、Tiに加えて、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、およびCrから選択される1つまたは複数の元素をさらに含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の工具を作製する方法。
【請求項13】
ろう付け前の前記ろう付け材料の厚さが25~200μmの間である、請求項9から12のいずれか一項に記載の工具を作製する方法。
【請求項14】
0.5~10MPaの間の型締力が、前記ろう付け工程中に加えられる、請求項9から13のいずれか一項に記載の工具を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金部分とマルエージング鋼部分とを備え、これらの部分がろう付けによって接合されている工具に関する。本発明はまた、このような工具の作製に関する。
【背景技術】
【0002】
ろう付けまたは溶接によって鋼を超硬合金と接合させることは、工具を作製する技術分野で長い間知られている。鋼を超硬合金と接合させる際にいくつかの難題、例えば、CTE(熱膨張率)の差、ろう付け接合部の強度、鋼の望ましくない硬度プロファイルなどが存在する。
【0003】
これらの課題のそれぞれを個々に改善できる解決策がいくつか存在するが、その解決策は他の分野で課題をもたらすことが多いため、すべての課題が解決可能というわけではない。
【0004】
ろう付けの原理は、加熱に際して2つの片を接合させるろう付け材料を使用することである。ろう付け接合部を加熱する方法がいくつか存在し、最も一般的な方法の1つは誘導コイルを用いた誘導加熱である。コイルを使用する利点の1つは、ろう付け接合部の周囲の局所領域のみが加熱され、工具の残りの部分は影響を受けず残るという点である。しかし、この局所的な加熱は、鋼部分に望ましくない硬度プロファイルを生じさせるおそれがあるため、回転工具や他の切削工具などを締結するために鋼部分にねじ切りを設けられる場合に課題が生じる可能性がある。
【0005】
コイルを用いた加熱のさらなる欠点は、各工具の取扱いを個々に行う必要があるという点であるため、より自動的な工業プロセスが好ましい。
【0006】
鋼部分および超硬合金部分全体を加熱すると、硬度プロファイルはより均一になるが、その後の温度上昇が鋼部分全体に影響を及ぼすため、全体的な硬度が低下してしまう。
【0007】
切削工具を固定するために鋼部分にねじ切りを設ける場合に起こり得る別の課題は、摩耗である。この工具、例えばシャンクは好ましくは長時間使用されるため、切削工具に多くの変化が起こり、ねじ切りの摩耗が切削工具の締結に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
本発明の1つの目的は、均一な硬度プロファイルおよび高い硬度を有し、その結果として耐摩耗性が改善された強力なろう付け接合部と鋼部分の両方を有する工具を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、使用が容易であって、かつ高強度を有する予測可能な接合部および予測可能な硬度を有する鋼部分が得られる、鋼と超硬合金とを接合させるプロセスを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明9の超硬合金部分とろう付け材料との間の接触面のSEM画像を倍率10,000倍で示す図である。
図2】本発明9の超硬合金部分とろう付け材料との間の接触面のSEM画像を倍率40,000倍で示す図である。
図3】本発明の一実施形態の超硬合金部分とろう付け材料との間の接触面における元素TiのEDSマッピング示す図である。
図4】本発明の一実施形態の超硬合金部分とろう付け材料との間の接触面のSEM画像を倍率10,000倍で示す図である。
図5】誘導加熱が使用された工具の硬度プロファイルを示す図である。Aは鋼部分、Bはろう付け接合部、Cは超硬合金である。
図6】剪断試験デバイスの概略図を示す図であり、1は鋼部分、2は超硬合金部分である。
図7】実施例7のろう付け接合部の様々な部分を示す図であり、Aは超硬合金部分、Bはマルエージング鋼部分である。
図8】実施例7のろう付け接合部の様々な部分を示す図であり、Aは超硬合金部分、Bはマルエージング鋼部分である。
図9】実施例7のろう付け接合部の様々な部分を示す図であり、Aは超硬合金部分、Bはマルエージング鋼部分である。
図10】特許請求された方法の工程を示す図であり、Aは超硬合金部分を得る工程、Bはマルエージング鋼部分を得る工程、Cは超硬合金部分とマルエージング鋼部分との間にろう付け材料を配する工程である。Dはろう付け工程であり、Eは時効処理工程である。
図11】ろう付けされたシャンクの一例を示す図であり、Aは超硬合金部分、Bは鋼部分である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、超硬合金部分と、0~20HV1の間の標準偏差で350~600HV1の間の硬度を有するマルエージング鋼部分とを備える工具に関する。本工具は、上記超硬合金部分と上記鋼部分とを接合させるろう付け接合部をさらに備えており、上記ろう付け接合部はTiを含み、上記ろう付け接合部は、0.03~5μmの間の厚さを有し超硬合金部分に隣接しているTiC層を含む。
【0012】
超硬合金部分は、当該技術分野で一般的なあらゆる超硬合金で作製できる。超硬合金は、金属結合剤相マトリックスに埋め込まれた硬質相を含む。
【0013】
超硬合金とは、本明細書中で硬質相の少なくとも50重量%がWCであることを意味する。
【0014】
好適には、金属結合剤相の量は、超硬合金の3~20重量%の間、好ましくは4~15重量%の間である。好ましくは、金属結合剤相の主な成分は、Co、Ni、およびFeのうち1つまたは複数から選択され、より好ましくは金属結合剤相の主な成分はCoである。
【0015】
主な成分とは、本明細書中で、結合相を形成するために他の元素が添加されないことを意味するが、例えばCrのような他の成分が添加される場合、これは焼結中、必然的に結合剤に溶解されることになる。
【0016】
本発明の一実施形態では、超硬合金はまた、元素として、または炭化物、窒化物、もしくは炭窒化物として存在するCr、Ta、Ti、Nb、およびVから選択される超硬合金元素に共通する他の成分も含むことができる。
【0017】
鋼部分はマルエージング鋼で作製される。マルエージング鋼は、金属間化合物の析出によって硬化する鋼の一種である。マルエージング鋼は、好適には13~25重量%のNiと、1つまたは複数の合金元素であって、合金元素の10~27重量%、好ましくは11~23重量%の総量でCo、Mo、Ti、Al、およびCrから選択される合金元素と含有している。マルエージング鋼は、典型的に従来の鋼よりも炭素が少なく、好適には0.03重量%以下の炭素を含有している。残部はFeと不可避不純物である。
【0018】
本発明によるマルエージング鋼は、好ましくは13~25重量%のNi、好ましくは17~25重量%のNiを含有している。合金元素は、好適には、7~15重量%の量のCo、好ましくは8.5~12.5重量%のCo、3~10重量%の量のMo、好ましくは3~6重量%のMo、0.1~1.6重量%の量のTi、好ましくは0.5~1.2重量%のTi、0.05~0.15重量%のCr、0~0.2重量%の量のAl、および0.03重量%未満のCである。残部は、Feと不可避不純物である。
【0019】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼は、17~19重量%のNi、8.5~12.5重量%のCo、4~6重量%のMo、0.5~1.2重量%のTi、0.05~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.03重量%未満のC、ならびに残部としてFeおよび不可避不純物という組成を有している。
【0020】
マルエージング鋼部分の平均硬度は、好適には350~600HV1の間、好ましくは400~460HV1の間、およびより好ましくは410~450HV1の間である。硬度は、1kgf(キログラム力)の荷重および15秒の荷重時間を加えて、ビッカース硬度計によって測定される。マルエージング鋼部分の全材料(表面ではない)には3×6の刻み目(indents)のパターンが適用された。平均値は、これら測定点の平均値である。硬度値の標準偏差は、好適には0~20HV1の間、好ましくは0~14HV1の間である。
【0021】
ろう付けの技術は、いわゆる活性ろう付けである。これは、ろう付け材料を溶融させて金属結合を形成することによって接合部が形成されるだけでなく、接合部には接合対象である材料の一方または両方との化学反応も必要であることを意味する。ろう付け材料中の反応性元素は、通常Tiであるが、Hf、V、Zr、およびCrなどの元素も活性元素と見なされる。本発明によれば、Tiが活性元素である。
【0022】
ろう付け接合部とは、本明細書中で、超硬合金部分とマルエージング鋼部分との間にあり、ろう付け材料で充填されるとともにろう付けプロセス中に形成される領域または質量を意味しており、下記を参照されたい。
【0023】
ろう付け接合部の厚さは、好適には20~200μmの間、好ましくは30~100μmの間である。
【0024】
ろう付け接合部は、均質相ではない。代わりに、ろう付けの後、ろう付け材料中の元素は、異なる相を形成する。
【0025】
ろう付け接合部は、好適にはTiを含有する。ろう付けの間、Tiは、超硬合金部分中の炭素と反応して、ろう付け接合部と超硬合金部分との間の接触面にTiC層を形成する。
【0026】
どの種類の機器が使用されるかに応じて、TiC層の存在を検出する方法がいくつか存在する。
【0027】
十分な高分解能を有する走査型電子顕微鏡(SEM)が使用される場合、TiC層は超硬合金部分に隣接して明確に視認できる。例えば、図1および図2を参照されたい。
【0028】
使用されるSEMにTiC層を示すほどの分解能がない場合、ろう付け材料と超硬合金との間の接触面におけるTiおよび/またはCの蓄積は、例えばWDSを有するSEM-EDSまたはSEM-EPMAを用いて確認できる。Tiの蓄積は、本明細書中では以降Ti蓄積層と呼ばれ、SEM画像中で視認により検出されなくとも、TiC層が形成されていることを示す優れた指標である。Ti蓄積層は実際のTiC層よりもかなり厚く、これはすべてのTiがTiCを形成するわけではないことを意味し得る。Ti蓄積層の厚さは、分析方法による影響も部分的に受ける。
【0029】
本発明の一実施形態では、TiC層の厚さは、0.03~5μmの間、より好ましくは0.05~0.5μmの間、および最も好ましくは0.05~0.25μmの間である。
【0030】
好ましくは、ろう付け接合部は、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、Crから選択される1つまたは複数の元素をさらに含む。より好ましくは、Ag、Cu、およびSnから選択される。
【0031】
ろう付け後のろう付け接合部の組成は、元素が均一に分配されていないことから判定が困難である。ペーストまたは箔は均質な混成物であるので、利用可能な場合、最も容易な方法は、使用されたろう付け材料を確認することである。また、ろう付け接合部は、接合対象である材料からの少量の元素、例えば、超硬合金からのCoやW、およびマルエージング鋼からのFeやNiなどを含む場合がある。
【0032】
ろう付け接合部のTiおよび他の元素の量は、エネルギー分散型X線分光分析(EDS:Energy-dispersive X-ray spectroscopy analysis)を使用して測定することもできる。しかし、ろう付け接合部中の元素の分配が不均一であるため、多くの測定点を使用する必要があり、標準偏差が大きくなる。好ましくは、ろう付け接合部は、平均で、30~80重量%、好ましくは40~75重量%の量のAg、15~65重量%、好ましくは20~40重量%の量のCu、0.3~15重量%、好ましくは0.5~5重量%の量のTi、および0~10重量%、好ましくは0~2重量%の量のSnを含む。
【0033】
ろう付け接合部は、好適には少なくとも130MPa、好ましくは少なくとも140MPa、より好ましくは140~300MPaの間の剪断強度を有する。剪断強度は、剪断試験によって測定される。
【0034】
ろう付け接合部とマルエージング鋼部分との間の接触面では、Tiもろう付け接合部に蓄積され、マルエージング鋼中の鉄との金属結合を形成する。マルエージング鋼表面にあるTiの蓄積層の厚さは、好ましくは1~10μmの間、好ましくは2~5μmの間であり、例えばEDSによって測定することができる。
【0035】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼部分は、少なくともろう付け接合部側の表面上に、2~10μmの間、好ましくは4~6μmの間の平均厚さを有するNi層を設けられる。
【0036】
Ni層は、箔として設けるか、または、例えば物理蒸着のようなあらゆる好適な堆積方法により堆積させることができる。
【0037】
本発明の一実施形態では、Ni層はマルエージング鋼部分に設けられない。
【0038】
本発明の一実施形態では、マルエージング鋼は、17~19重量%のNi、8.5~12.5重量%のCo、4~6重量%のMo、0.5~1.2重量%のTi、0.05~0.15重量%のCr、0~0.2重量%のAl、0.03重量%未満のC、ならびに残部としてFeおよび不可避不純物という組成を有しており、好ましくはグレード1.2709のマルエージング鋼が使用される。超硬合金は、4~15重量%のCo、0.1~1重量%のCr、および残りとしてWCという組成を有する。ろう付け接合部は、55~75重量%のAg、20~36重量%のCu、1~3重量%のTi、および2~8重量%のSnという平均組成を有する。
【0039】
本工具は、超硬合金部分がろう付けにより鋼部分に接合されている、当該技術分野で一般的なあらゆる工具、または工具の一部とすることができる。例として、ドリル、エンドミル、シャンクのようなツールホルダなどがある。
【0040】
本発明の一実施形態では、本工具は、インサートやドリルヘッドなどの切削工具用のツールホルダとして使用されるシャンクである。このシャンクは、超硬合金部分および鋼部分によって形成されており、超硬合金部分は安定性をもたらすために使用され、鋼部分は切削工具を締結するためのねじ切りを作り出すのに必要とされる。
【0041】
本発明はまた、上記による工具を作製する方法であって、
超硬合金部分およびマルエージング鋼部分を得る工程と、
ろう付け材料であってその0.3~15重量%の量でTiを含むろう付け材料を、超硬合金部分とマルエージング鋼部分との間にそれらと接触させて配する工程と、
700~1200℃の間の温度の炉内で5~60分の間の期間、超硬合金部分およびマルエージング鋼部分を、ろう付け材料を挟んだ状態でろう付け工程にかける工程であって、ろう付けが真空下で行われる、工程と、
少なくともマルエージング鋼部分を、300~700℃の間の温度で5分~12時間にわたり時効処理工程にかける工程と
を含む方法に関する。
【0042】
超硬合金部分およびマルエージング鋼部分は、上述のような組成を有する。ろう付け前のマルエージング部分の硬度は、マルエージング鋼のグレード、および鋼が時効処理されているか否かによって、上述のものとは異なる可能性がある。
【0043】
超硬合金部分およびマルエージング鋼部分の形状とサイズは、作製対象である工具の種類に左右される。
【0044】
本発明によるろう付け材料(フィラーメタルまたははんだとも呼ばれる)は、ろう付け材料の0.3~15重量%、好ましくは1~5重量%の総量でTiを含有する。本発明のろう付け材料は、好適には488~1123℃の間、好ましくは650~780℃の間の固相線温度を有する。さらに、本発明のろう付け材料は、612~1180℃の間、好ましくは750~850℃の間の液相線温度を有する。ろう付け材料は、Tiに加えて、Ag、Cu、Sn、In、Zr、Hf、およびCrから選択される1つまたは複数の元素をさらに含む。
【0045】
本発明の一実施形態では、ろう付け材料は、30~80重量%、好ましくは40~75重量%の量のAg、15~65重量%、好ましくは20~40重量%の量のCu、0.3~15重量%、好ましくは0.5~5重量%の量のTi、および0~10重量%、好ましくは0~2重量%の量のSnを含む。
【0046】
好適には、ろう付け材料は、箔またはペーストとして設けられる。
【0047】
ろう付け材料は、超硬合金部分および鋼部分の接合面に設けられる。
【0048】
ろう付けプロセス前のろう付け材料の厚さは、好適には25~200μmの間、好ましくは50~100μmの間である。
【0049】
次いで、これらの部分は、不活性環境、すなわち酸素が最小量である炉内に入れられる。好ましくは、炉内のろう付け温度は、750~1200℃の間、好ましくは800~950℃の間、より好ましくは800~830℃の間である。これらの部分が高温にさらされる時間は、5~60分の間、好ましくは5~15分の間である。高温での時間が短い場合、ろう付け接合部が形成されTiが反応することで所望のろう付け接合部の強度を達成するのに十分な時間がない。高温での時間が長い場合、Tiを含有する脆い反応区域は制御されることなく成長するため、接合特性、例えば剪断強度に悪影響を及ぼすことになる。
【0050】
ろう付けは、好適には真空下、または低分圧のアルゴンの存在下で行われる。真空とは、本明細書中では炉内の圧力が5×10-4mbar未満、好ましくは5×10-5mbar未満であることを意味する。アルゴンが存在する場合、アルゴンの圧力は1×10-2mbar未満である。
【0051】
炉内でのろう付け中、ろう付けをさらに強化するために型締力が加えられてもよい。型締力とは、本明細書中では、好ましくは外部分銅を炭化物部分に置くことによって力が加えられるように、鋼部分と超硬合金部分とが互いに押し付けられることを意味する。超硬合金部分またはマルエージング鋼部分の重量によってろう付け接合部に作用する力は、どちらの部分が他方の部分の上にあるかに応じて、これらの値に含まれない。
【0052】
一実施形態では、0.5~10MPaの間、好ましくは2~8MPaの間の型締力が加えられる。
【0053】
本発明の一実施形態では、型締力は加えられない。
【0054】
ろう付け後、これらの部分は、300~700℃の間、好ましくは500~600℃、および最も好ましくは550~600℃の間の高い時効処理温度に5分~12時間、好ましくは3~6時間にわたりさらされることにより、時効処理工程にかけられる。
【0055】
好適には、時効処理温度までの加熱速度は、1~50℃/分の間、好ましくは5~10℃/分の間である。好適には、時効処理温度から、少なくともろう付け材料の固相線温度未満の温度への冷却速度は、1~50℃/分の間、好ましくは5~10℃/分の間である。
【0056】
本発明に従い使用されるろう付け炉は、上述したように、真空、加熱、および冷却速度などに関して制御が良好な条件を提供できる、いずれかの炉とすることができる。ろう付けおよび時効処理の工程は、同じ炉内、または2つ別々の炉内のいずれかで行うことができる。
【0057】
鋼部分は、例えばねじ切りなどの機械操作にかけられることが一般的である。鋼部分の機械加工を可能とするには、硬度は高すぎない方がよく、選択されるマルエージング鋼グレードの種類に応じて、時効処理工程は、工具完成品において所望の硬度および耐摩耗性を達成するために、鋼部分の機械加工の前または後のいずれかで行うことができる。
【0058】
本発明の一実施形態では、時効処理はろう付け工程の直後に行われ、例えばねじ切りのような鋼に対するあらゆる機械加工は、既に時効処理されたマルエージング鋼に対して、すなわち時効処理工程の後に実施される。
【0059】
本発明の別の実施形態では、時効処理は、例えばねじ切りなどの鋼に対するあらゆる機械加工後に行われる。
【実施例1】
【0060】
(本発明)
マルエージング鋼1.2709で作製した鋼部分を、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分とともに得た。
【0061】
ろう付け材料を厚さ100μmの箔の形で得た。ろう付け材料は、65.0重量%のAg、28.0重量%のCu、2.0重量%のTi、および5.0重量%のSnという組成を有していた。固相線温度は約700℃、液相線温度は約750℃である。
【0062】
マルエージング鋼部分と超硬合金部分との間に箔を配し、両片が箔に接触するようにした。次いで、組み立てられた接合片をSchmetzの真空炉(型:EU80/1H 30×45×30 6bar System 2RV)に入れ、先ず温度を20℃/分の速度で815℃に上昇させた。815℃のろう付け温度を時間tbrazingにわたり維持し、その後に片を5℃/分の速度で300℃に降温した。300℃に達した後、片をフリークーリング(free cooling)した。
【0063】
試料の一部については、ろう付け材料に面するマルエージング鋼部分の表面を、0.2μmの標準偏差で4.7μmの平均厚さを有するNi層でコーティングした。Ni層はアーク物理蒸着(Arc Physical Vapor Deposition)により塗布された。
【0064】
ろう付け工程の後、ろう付けされた片を時効処理プロセスにかけることで、マルエージング鋼の硬度を保持した。片を炉内に入れ、先ず温度を5℃/分の速度で580℃に上昇させた。580℃の温度を3時間維持し、その後に片を5℃/分の速度で300℃に降温した。300℃に達した後、片をフリークーリングした。
【実施例2】
【0065】
(本発明)
マルエージング鋼1.2709で作製した鋼部分を、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分に接合させることにより、工具シャンクを製造した。
【0066】
ろう付け材料を厚さ100μmの箔の形で得た。ろう付け金属は、65.0重量%のAg、28.0重量%のCu、2.0重量%のTi、および5.0重量%のSnという組成を有していた。固相線温度は約700℃、液相線温度は約750℃である。
【0067】
箔をマルエージング鋼部分と超硬合金部分との間に配し、組み立てられた接合片をSchmetzの真空炉(型:EU80/1H 30×45×30 6bar System 2RV)に入れ、先ず温度を20℃/分の速度で815℃に上昇させた。815℃のろう付け温度を時間tbrazing=15分間にわたり維持し、その後に片を5℃/分の速度で300℃に降温した。300℃に達した後、片をフリークーリングした。
【0068】
本実施例により作製された工具を、以降、本発明9と呼ぶ。
【実施例3】
【0069】
(比較例)
マルエージング鋼1.6582(34CrNiMo6)で作製した鋼部分を、10重量%のCo、0.4重量%のCr、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分とともに得た。
【0070】
ろう付け材料は、Ag49Zn23Cu16Mn7.5Ni4.5であってワイヤの形にあり、直径1~2mmのリングとして適用された。
【0071】
コイルを用いた誘導加熱により、ろう付け接合部を速やかに700℃に加熱することによって片を接合し、15秒間保持した後、粉末を切り、工具を室温に降温する。図5には鋼部分の硬度値が示されており、測定点は、鋼部分のろう付け接合部から、ろう付け接合部を越えて超硬合金部分までの距離の線に沿って配されている。
【0072】
この試料を本明細書中では比較例1と表す。
【実施例4】
【0073】
(比較例)
炭素硬化熱間加工鋼(carbon-hardening hot-work steel)1.2344で作製した鋼部分を、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分とともに得た。熱間加工鋼成分はプリハードン状態にあった。この鋼を真空炉内でNにより1060℃から急冷し、続いて200℃で10分間の緩和を3回行った。急冷された1.2344部分の平均硬度値は582HV1であり、標準偏差は66HV1であった。
【0074】
ろう付け材料1を厚さ100μmの箔の形で得た。ろう付け材料2をペーストの形で得た。ろう付け材料1は、60.0重量%のAg、24.0重量%のCu、14.0重量%のIn、および2.0重量%のTiという組成を有していた。固相線温度は約620℃、液相線温度は約720℃である。ろう付け材料2は、59.0重量%のAg、27.25重量%のCu、12.5重量%のIn、および1.25重量%のTiという組成を有していた。固相線温度は約605℃、液相線温度は約715℃である。
【0075】
マルエージング鋼部分と超硬合金部分との間にろう付け材料を配し、両片がろう付け材料に接触するようにした。組み立てられた接合片を炉に入れ、先ず温度を20℃/分の速度で500℃に上昇させ、5分間保持した。次いで、500℃のろう付け温度から、50℃/分の速度によりろう付け温度TBrazingまで上昇させたが、685℃(ろう付け材料1)と715℃(ろう付け材料2)とで異なっていた。TBrazingを4分間の滞留時間にわたり維持し、その後、片をフリークーリングにより室温に降温した。
【0076】
硬度を測定し、その結果を表2に示す。
【0077】
685℃(ろう付け材料1)および715℃(ろう付け材料2)の2つの試料を、本明細書中ではそれぞれ比較例2および比較例3と表す。
【0078】
剪断強度値の判定は行わなかった。
【実施例5】
【0079】
(比較例)
炭素硬化熱間加工鋼1.2344で作製した鋼部分を、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分とともに得た。
【0080】
ろう付け材料を厚さ100μmの箔の形で得た。ろう付け金属は、100.0重量%のCuの組成を有していた。溶融温度は1085℃である。
【0081】
マルエージング鋼部分と超硬合金部分との間に箔を配し、組み立てられた接合片を炉に入れ、先ず温度を20℃/分の速度で650℃に上昇させ、5分間保持した。次いで、650℃のろう付け温度から、10K/分の速度によりろう付け温度TBrazingまで上昇させ、1100℃とした。TBrazingを15分の滞留時間にわたり維持し、その後、片を50K/分の冷却速度で850℃に降温した。2バールの過圧および2500分-1のファン周波数(fan frequency)で、標本をNにより850℃から急冷した。
【0082】
続いて、炭素硬化熱間加工鋼1.2344を有する超硬合金-鋼接合部に、630℃で2時間、2回の時効処理を行った。
【0083】
この試料を本明細書中では比較例4と表す。
【実施例6】
【0084】
(比較例)
炭素硬化冷間加工鋼1.2714で作製した鋼部分を、10重量%のCo、1重量%の他の炭化物、および残りとしてWCという組成を有する超硬合金部分とともに得た。
【0085】
ろう付け金属を厚さ100μmの箔の形で得た。ろう付け材料1は、100.0重量%のCuの組成を有していた。溶融温度は1085℃である。
【0086】
マルエージング鋼部分と超硬合金部分との間に箔を配し、組み立てられた接合片を炉に入れ、先ず温度を20℃/分の速度で650℃に上昇させ、5分間保持した。次いで、650℃のろう付け温度から、10K/分の速度によりろう付け温度TBrazingまで上昇させ、1100℃とした。TBrazingを15分の滞留時間にわたり維持した。滞留時間の後、室温になるまでフリークーリングを開始した。
【0087】
続いて、炭素硬化冷間加工鋼1.2714部分を有する超硬合金-鋼接合部を、トーチによって10分間、850℃の温度に加熱し、次いで油の中で室温に急冷した。その後、引張緩和を真空炉内にて、200℃で2時間行った。
【0088】
続いて、炭素硬化冷間加工鋼1.2714部分を有する超硬合金-鋼接合部に、500℃で2時間、時効処理を行った。
【0089】
この試料を本明細書中では以降、比較例5と呼ぶ。
【実施例7】
【0090】
組み立てられた接合片を、ろう付け接合部の剪断強度、マルエージング鋼部分の硬度、および必要に応じてろう付け接合部のTiC層の硬度を測定することによって評価した。
【0091】
接合強度特性を評価するために、図6に示すような剪断デバイス設定を使用して試料に剪断試験を行い、このとき、1は鋼円筒形状の鋼部分(φ=20mm、h=5mm)、2は超硬合金円筒形状の超硬合金部分(φ=10mm、h=5mm)である。鋼円筒は、剪断強度試験デバイスの間隙に配置されるので、荷重方向にのみ動かすことができる。デバイスの表面に侵食したノッチにより、接合された部分同士が正確な位置に保持され、ろう付け接合部への均等に分配された力の誘導が確保される。加える力を、ろう付け接合部が破損し、超硬合金円筒が剪断されるまで常に増加させた。次いで、測定された最大の力と初期の接合面との商(A=78、5mm)により、極限剪断強度を算出した。ろう付け接合部の剪断強度の判定前に、ろう付け材料は除去されなかった。ロッドに試験を行う場合も同じ方法を適用した。
【0092】
マルエージング1.2709鋼部分の硬度を、ビッカース硬度計により、マルエージング鋼部分の断面上、1kgf(キログラム力)の荷重および15秒の荷重時間を加えることで測定した。断面中のマルエージング鋼1.2709部分の完全なプロファイル(約20×5mm)をカバーする3×6の刻み目のパターンを適用した。
【0093】
本発明1~8のろう付け接合部と超硬合金との接触面を分析するために、SEM-EDS技術を使用した。使用したSEMはJeol JSM-7001Fであり、熱電界放射陰極(Schottky)を備えた高分解能の電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microscopy)であった。本発明1~8のろう付け接合部におけるTiC層の厚さを、SEM画像上、倍率10,000倍で測定した。後方散乱電子モードで、TiC層を外観により特定した。図4には、TiC層が明確に視認可能な本発明2のSEM画像を示す。表2に提供するTiC層の厚さの値は、3回の測定の平均であり、測定はすべてろう付け接合部の中央、すなわち縁部から離れた場所にて行われた。
【0094】
Tiの蓄積は、EDSを用いてTi蓄積層として特定かつ測定することができる。蓄積層とは、本明細書中ではEDS走査から推定される蓄積の厚さを意味する。表2の値は、EDS走査の目視検査による推定値であるため、間隔として提供される。
【0095】
本発明9のろう付け接合部と超硬合金との接触面を分析するために、異なるSEMとして、Schottky型銃を備えた電界放射型SEM(SU7000型、日立)を使用した。画像を入射エネルギー10keVの電子ビームで取得し、フォトダイオード型後方散乱電子検出器によってシグナルを収集した。後方散乱電子モードで、TiC層を外観により特定した。図1には、TiC層が明確に視認可能な本発明9のSEM画像を倍率10,000倍で示す。図2は、本発明9のSEM画像を倍率40,000倍で示す図である。表2の厚さは、5回の測定の平均であり、測定はすべてろう付け接合部の中央、すなわち縁部から離れた場所にて、SEM画像上、倍率10,000倍で行われた。
【0096】
図3には、Tiの蓄積がEDSを用いて示されている。
【0097】
この蓄積が実際にTiC層であることを、EPMAを用いてTiおよびCを分析することにより確認した。
【実施例8】
【0098】
実施例1から本発明2のろう付け接合部を、SEM-EDSおよびSEM画像によって分析し、それとともに、ろう付け接合部の3つの異なる部分として部分1、2、および3に対するEDSマッピングを、それぞれ図7図8に示す。確認できるように、ろう付け接合部は均質ではない。
【0099】
ろう付け接合部の3つの異なる部分における様々な元素を、EDSを用いたマッピングにより領域の化学組成を測定することによって分析し、その結果を表3に示す。確認できるように、鋼からFe、Ni、およびTiの一部、ならびに超硬合金からWおよびCoが幾分含まれている。
【0100】
表3から明らかなように、ろう付け接合部内の元素の分配は、同じろう付け接合部の異なる部分間で変動し、ろう付け接合部の極めて良好な平均組成を得るには、ろう付け接合部の1つより多くの部分を分析する必要がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】