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特表2024-502743ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼及びその製造方法
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  • 特表-ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240116BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240116BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20240116BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240116BHJP
   C21C 5/30 20060101ALI20240116BHJP
   C21C 5/46 20060101ALI20240116BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20240116BHJP
   C21C 7/04 20060101ALI20240116BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20240116BHJP
   B22D 11/128 20060101ALI20240116BHJP
   B22D 11/115 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D1/00 118A
C21D8/06 A
C21D1/00 112D
C21D9/00 101A
C22C38/60
C21C5/30 Z
C21C5/46 103E
C21C7/06
C21C7/04 F
C21C7/10 Z
C21C7/04 R
B22D11/128 350A
B22D11/115 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537250
(86)(22)【出願日】2021-09-05
(85)【翻訳文提出日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 CN2021116576
(87)【国際公開番号】W WO2022160720
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110117968.2
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517018813
【氏名又は名称】江陰興澄特種鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGYIN XING CHENG SPECIAL STEEL WORKS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】297,Binjiang Road Jiangyin,Jiangsu 214429 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼敏
(72)【発明者】
【氏名】白云
(72)【発明者】
【氏名】▲羅▼元▲東▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼小林
(72)【発明者】
【氏名】尹青
(72)【発明者】
【氏名】李文彬
(72)【発明者】
【氏名】▲華▼▲劉▼▲開▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲イェ▼
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
4K032
4K034
4K070
【Fターム(参考)】
4E004MC30
4E004MD05
4K013BA09
4K013CB09
4K013CE00
4K013CE03
4K013EA28
4K013EA30
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD03
4K034AA01
4K034BA02
4K034BA08
4K034CA01
4K034CA02
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034EA04
4K034FA01
4K034FB15
4K070AA02
4K070AC22
4K070EA01
(57)【要約】
本発明は、ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼及びその生産方法に関し、特殊鋼精錬技術分野に属する。鋼の化学成分wt%は、C:0.10~0.25%、Si:0.20~0.40%、Mn:0.40~0.65%、Cr:0.40~0.70%、B:0.0003~0.0025%、Ti:0.010~0.035%、Mo:0.30~0.45%、N:0.0050~0.0100%、S≦0.015%、P≦0.025%、Ni≦0.25%、Cu≦0.30%、Al:0.015~0.035%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%であり、残部はFe及び不可避的不純物である。鋼のミクロ構造はベイナイトであり、オーステナイト結晶粒度≧6番である。生産プロセスは、溶鋼一次精錬→溶鋼精錬→溶鋼真空脱気→連続鋳造→熱間圧延→仕上げである。本願は、化学成分を最適化し、合金コストを引き下げている。また、20CrMnTiに近い焼入れ性を達成しており、この化学成分と生産方法を結合して製造する鋼材は、強度、靱性がいずれも20CrMnTiよりさらに優れており、総合的な性能はゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の要求を満たしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼において、前記鋼の化学成分wt%は、C:0.10~0.25%、Si:0.20~0.40%、Mn:0.40~0.65%、Cr:0.40~0.70%、B:0.0003~0.0025%、Ti:0.010~0.035%、Mo:0.30~0.45%、N:0.0050~0.0100%、S≦0.015%、P≦0.025%、Ni≦0.25%、Cu≦0.30%、Al:0.015~0.035%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%であり、残部はFe及び不可避的不純物であることを特徴とする、ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼。
【請求項2】
前記鋼のミクロ構造はベイナイトであり、オーステナイト結晶粒度≧6番であることを特徴とする、請求項1に記載のゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼。
【請求項3】
前記鋼は、降伏強度≧850MPa、引張強度≧1080MPa、延伸率≧10%、常温でのシャルピー衝撃強さAK≧55Jであることを特徴とする、請求項1に記載のゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼。
【請求項4】
鋼材末端の焼入れ性はGB/T 225の方法によって評価され、J5で35~42HRC、J9で25~35HRC、J13で20~30HRCを満たしており、
鋼材の帯状組織はGB/T 13299に基づいて格付けされ、帯状組織はレベル2.0を超えず、
非金属介在物はGB/T 10561中のA法に基づいて格付けされ、A系微細≦1.5、A系粗大≦1.0、B系微細≦1.5、B系粗大≦0.5、C系微細=0、C系粗大=0、D系微細≦1.0、D系粗大≦0.5、Ds類≦1.5を満たし、
ASTM E381を用いて行う鋼材マクロ組織の格付けで、C≦レベル2.0、R≦レベル2.0、S≦レベル2.0を満たすことを特徴とする、
請求項1に記載のゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼。
【請求項5】
ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の生産方法において、溶鋼の一次精錬→溶鋼精錬→溶鋼真空脱気→連続鋳造→熱間圧延→仕上げというプロセスで、主な製造工程要求が、
溶鋼精錬過程では脱酸を強化し、一次精錬の出湯終了点の炭素を0.05~0.15%に制御し、出湯過程でAl鉄を加えて溶鋼に対する予備脱酸を行って後続の脱酸のために良好な条件を作り、出湯後にスラグ掻き取りを行って有害なスラグを掻き取り、精錬時に溶鋼中に合成スラグを新たに加えると同時に、精錬過程の脱酸を強化し、炭化ケイ素及びアルミニウムを用いて脱酸を行い、精錬の初期にできるだけ速く白色スラグを形成し、かつ白色スラグを25分以上保持し、精錬過程全体の溶鋼中のアルミニウム含有量を0.025%~0.045%の間に制御することで脱酸効果を保証し、溶鋼中の有害ガスH≦2ppmになるまで真空脱気を強化し、真空脱気後にシリコンカルシウムワイヤを与えて介在物変性処理を行い、真空脱気後は溶鋼に対してアルゴンのソフトブローを行い、溶鋼を撹拌して介在物を十分に浮上させ、アルゴンのソフトブロー時間は≧25分とし、
連続鋳造工程で得た連続鋳造ビレットはピットで徐冷し、徐冷時間は24時間を下回らず、
圧延前に連続鋳造ビレットを炉に入れて加熱し、予熱帯の温度を600~850℃に、加熱帯の温度を950~1100℃に、均熱帯の温度を1150~1200℃に設定し、総加熱時間は240分以上とし、均熱帯の時間は180分以上とし、出炉後は圧延を準備し、圧延開始温度を950℃~1050℃、仕上げ圧延温度を800℃~900℃に設定し、圧延過程全体はオーステナイト単相領域で遂行し、仕上げ圧延の終了から冷却ベッドまでの領域での冷却速度を10~15℃/sに制御するとともに、鋼材のこの領域の通過時間を制御し、この冷却過程は、マクロ構造をオーステナイトからベイナイトへ変態させ、鋼材がベイナイト組織変態を十分に行うことができるように制御するためのものであり、最終鋼材の冷却ベッドでの温度は600~650℃であり、冷却ベッド上で引き続き冷却を行い、最後に冷却ベッドから下ろし、矯正、仕上げを経てターゲット製品を得る、というものであることを特徴とする、
製造方法。
【請求項6】
一次精錬で良質な溶鉄、廃鋼及び原料補助材料を採用し、溶鋼中の有害元素含有量を低下させることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
真空脱気では、溶鋼が133Pa以下の高真空条件下で15分以上保持されることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
連続鋳造過程では結晶装置、末端電磁撹拌及び軽圧下操作を採用し、連続鋳造時の溶鋼過熱度を10~30℃に制御することを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
鋼材の冷却ベッド上での冷却速度が15~20℃/分であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊鋼精錬技術分野に属し、具体的にはゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乗用車で常用されている等速ユニバーサルジョイントはゼッパ型ユニバーサルジョイントであり、ゼッパ型ユニバーサルジョイントの役割は、エンジンの動力を変速機から2つの前輪に伝達し、乗用車の高速走行を駆動することである。それらは主に、ボールハウジング、星形カバー、リテーナ(ボールケージ)、鋼球などの主要部品により構成されている。等速ユニバーサルジョイントは重い駆動トルクを伝達するため、受ける負荷が重くなるにつれて、伝動精度が高く、需要が大きくなり、それと同時に、自動車の安全部品であるため、製品の品質に対する要求も高くなる。
【0003】
現代の自動車工業の競争は日増しに激しくなっており、自動車の動力性、操作性、快適性及び安全性に対する要求はさらに高くなり、それに加えてエネルギーや環境に対する方法の要求もあるため、自動車の重要な機能性部品を設計する場合、その安全性、機能性、経済性及び排出性などの重要な指標を総合的に考慮する必要があり、そのため、材料に対してより高い要求が出され、性能を確保することを前提に、材料をより軽量化することが求められている。自動車のユニバーサルジョイント用材料については、部品は伝動及び支持の役割を果たし、また繰返し荷重応力の長期的な作用を受けるため、材料は十分な耐摩耗性、耐疲労性及び優れた靱性を備えていなければならない。
【0004】
ゼッパ型ユニバーサルジョイントが動作する際、特に負荷が複雑で、かつ高速回転する際には、リテーナが大きな遠心力、衝撃及び振動を受けることになり、リテーナと転動体の間にかなり大きな滑り摩擦が存在し、かつ大量の熱量を発生させる。力と熱がともに作用した結果、リテーナの故障を招くことがあり、ひどい場合には、リテーナに焼損や断裂が生じることもある。そのため、リテーナ材料には、優れた熱伝導性と、優れた耐摩耗性と、小さい摩擦係数と、比較的小さい密度と、一定の強度及び靱性の組み合わせと、比較的良好な弾性及び剛性と、転動体に近い膨張係数と、優れた加工プロセス性能が要求される。また、リテーナは、潤滑剤や潤滑剤添加物、有機溶剤、冷却剤などの化学媒体の作用を受けるため、一定の耐食性も要求される。
【0005】
現在、ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナに通常選択されている材料は20CrMnTiであり、浸炭後の鋼材結晶粒が細かく、均一で、比較的良好な表面引張強度及び曲げ疲労強度を有している。コア部には十分な強度及び靱性があるので、耐摩耗性が向上している。しかし、製造コストがかなり高く、しかも強度及び靱性の余裕量があまりない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の鋼材は、20CrMnTiをベースに新たに設計されたもので、合金元素Mn、Crの含有量を最適化すると同時に、B及びMo元素を添加し、かつ生産工程を完全なものにすることで、コストを最適化するという前提の下で20CrMnTiに近い焼入れ性を達成し、また、製品の強度、靱性はいずれも20CrMnTiよりさらに優れ、最終的に浸炭鋼材に属するゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の要求を満たしている。
【0007】
具体的には、本願で研究開発した鋼材のミクロ構造はベイナイトであり、オーステナイト結晶粒度≧6番、降伏強度≧850MPa、引張強度≧1080MPa、延伸率≧10%、常温下のシャルピー衝撃強さAK≧55Jである。鋼材末端の焼入れ性はGB/T 225の方法によって評価され、J5で35~42HRC、J9で25~35HRC、J13で20~30HRCを満たしている。鋼材の帯状組織はGB/T 13299に基づいて格付けされ、帯状組織はレベル2.0を超えない。非金属介在物はGB/T 10561中のA法に基づいて格付けされ、A系微細≦1.5、A系粗大≦1.0、B系微細≦1.5、B系粗大≦0.5、C系微細=0、C系粗大=0、D系微細≦1.0、D系粗大≦0.5、Ds類≦1.5を満たし、ASTM E381を用いて行った鋼材マクロ組織の格付けでは、C≦レベル2.0、R≦レベル2.0、S≦レベル2.0を満たしている。
【0008】
上記の性能を満たす本願鋼材は、最終的にゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼材の使用要求を満たしている。
【0009】
本発明で上記の問題を解決するために採用する技術手法は以下の通りである。ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼であって、上記鋼の化学成分wt%は、C:0.10~0.25%、Si:0.20~0.40%、Mn:0.40~0.65%、Cr:0.40~0.70%、B:0.0003~0.0025%、Ti:0.010~0.035%、Mo:0.30~0.45%、N:0.0050~0.0100%、S≦0.015%、P≦0.025%、Ni≦0.25%、Cu≦0.30%、Al:0.015~0.035%、O≦0.0010%、As≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%であり、残部はFe及び不可避的不純物である。
【0010】
本願の化学成分の設定根拠は以下の通りである。
【0011】
1)C含有量の決定
Cは鋼材の耐摩耗性を確保するために必須の元素であり、鋼中の炭素含有量を上げると、そのマルテンサイト変態能力が高まるので、その硬度及び強度を向上させ、それにより耐摩耗性を向上させることになる。しかし、C含有量が多すぎると、鋼の靱性に不利となる。また、C含有量が多すぎると、深刻な中心C偏析を招き、鋼材のコア部の靱性に影響を与える。本発明では、その含有量を0.10~0.25%に制御している。
【0012】
2)Si含有量の決定
Siは本発明においてキーとなる元素である。Siはフェライト相中に固溶しており、かなり強い固溶強化作用を有し、フェライト強度を著しく向上させることができるが、同時にフェライトの塑性や靱性を低下させる。本発明のSi含有量の設定範囲は0.20~0.40%である。
【0013】
3)Mn含有量の決定
Mnは製鋼過程の脱酸元素であり、鋼の強化にとって有効な元素で、固溶強化作用を果たす。また、Mnは鋼の焼入れ性を高め、鋼の熱加工性能を改善することができる。MnはS(硫黄)の影響を除去することができる。Mnは、鉄鋼の精錬においてSとともに高融点のMnSを形成することができ、さらにSの悪影響を弱め、取り除くことができる。しかし、Mn含有量が多いと、鋼の靭性が低下する。本発明では、Mn含有量を0.40~0.65%に制御している。
【0014】
4)Cr含有量の決定
Crは炭化物形成元素であり、鋼の焼入れ性、耐摩耗性及び耐食性を向上させることができる。しかし、Cr含有量が多すぎると、鋼材の硬度が大きくなりすぎて、顧客の加工使用において不利になるので、総合的に分析して、本発明ではCr含有量の範囲を0.40~0.70%と決定している。
【0015】
5)Al含有量の決定
Alは鋼中の脱酸元素として投入され、溶鋼中の溶存酸素を低減するだけでなく、AlとNによって分散した細かい窒化アルミニウム介在物を形成して結晶粒を微細化することができる。しかし、Al含有量が多すぎると、溶鋼の精錬過程で大きな粒子のAlなどの脆性介在物を形成しやすく、溶鋼の純度を低下させ、完成品の耐用年数に影響を及ぼす。本発明では、Al含有量の範囲を0.015~0.035%と決定している。
【0016】
6)B含有量の決定
Bは鋼の焼入れ性を向上させることができ、また鋼の高温強度を高めることもでき、しかも鋼の中で粒界を強化する作用を果たすことができる。本発明では、B含有量の範囲を0.0003~0.0025%と決定している。
【0017】
7)Mo含有量の決定
モリブデンは鋼の結晶粒を微細化し、焼入れ性や高温性能を高めることができ、高温時に十分な強度及び耐クリープ能力を保持する。鋼にモリブデンを加えることで、機械性能を高めることができ、また合金鋼の焼戻しによる脆性も抑制することができる。しかし、モリブデンはフェライト形成元素であり、モリブデン含有量が多いと、フェライトδ相や他の脆性相が現れて靭性を低下させやすいので、本発明では、Mo含有量の範囲を0.30~0.45%と決定している。
【0018】
8)Ti含有量の決定
チタンは鋼中の強脱酸素剤である。チタンは鋼の内部組織を緻密にし、結晶粒を微細化することができる。しかし、Tiは鋼中で炭窒化チタン介在物を形成することがあり、この介在物は硬く、角張った形状を呈しており、材料の疲労寿命に深刻な影響を与えるので、本発明では、Ti含有量の範囲を0.01~0.035%と決定している。
【0019】
9)N含有量の決定
窒素は鋼の強度、低温靱性及び溶接性を高め、時効感度を高めることができる。鋼に適量のアルミニウムを加えると、安定したAlNが生成され、FeNの生成と析出を抑制することができるので、鋼の時効性を改善するだけでなく、オーステナイト結晶粒の成長を阻止し、結晶粒を微細化する役割を果たすこともできる。しかし、窒素は鋼中の合金元素とともに窒化物非金属介在物を生成することがあり、さらに重要なことに、合金元素の作用を低下させる。鋼中の窒素含有量が多いと、鋼の強度は上がるが、衝撃靭性は低下する。本発明では、N含有量を0.0050~0.0100%と決定している。
【0020】
10)O含有量の決定
酸素含有量は酸化物介在物総量の多さを表しており、酸化物脆性介在物は完成品の耐用年数を制限し、影響を与える。数多くの試験から、酸素含有量の低下は、鋼材の純度の向上、特に鋼中酸化物の脆性介在物含有量の低下に著しく有利であることがわかっている。本発明では、酸素含有量の範囲を≦0.0010%と決定している。
【0021】
11)P、S含有量の決定
Pは鋼中で深刻な凝固時の偏析を引き起こし、Pがフェライトに溶けると結晶粒を歪め、粗大化させ、かつ冷間脆性を増加させる。本発明では、P含有量の範囲を≦0.025%と決定している。Sは鋼に熱間脆性を生じさせ、鋼の延性及び靱性を低下させるが、Sは鋼材の切削性能を向上させることができるので、本発明では、S含有量の範囲を≦0.015%と決定している。
【0022】
12)As、Sn、Sb、Pb含有量の決定
As、Sn、Sb、Pbなどの微量元素は、いずれも低融点非鉄金属に属し、鋼材中に存在して部品表面の軟点の発生や硬度のむらを引き起こす。そのため、これらを鋼中の有害元素と見なし、本発明では、これらの元素の含有量の範囲をAs≦0.04%、Sn≦0.03%、Sb≦0.005%、Pb≦0.002%と決定している。
【0023】
上記のゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の製造プロセスは、電気炉または転炉(一次精錬)→LF炉外精錬→VDまたはRH真空脱気→連続鋳造→圧延→仕上げ→包装入庫というものである。
【0024】
主な製造工程の特徴は以下の通りである。
【0025】
(一)溶鋼精錬部分:
一次精錬では、良質な溶鉄、廃鋼及び原料補助材料を採用して、溶鋼中の有害元素含有量を低下させる。精錬過程では、脱酸を強化し、電気炉または転炉の出湯終了点の炭素を制御し、出湯終了点の炭素を0.05~0.15%に制御し、出湯過程でAl鉄を加えて予備脱酸を行い、後続の脱酸のために良好な条件を作り、出湯後にはスラグ掻き取り技術を採用して、有害なスラグを掻き取る。
【0026】
精錬時には、LF精錬炉に新しい合成スラグを新たに加えると同時に、精錬過程の脱酸を強化しており、精錬過程では炭化ケイ素とアルミニウムを用いて脱酸を行い、精錬の初期にできるだけ速く白色スラグを形成し、かつ白色スラグを25分以上保持し、精錬過程全体のアルミニウム含有量を0.025%~0.045%の間に制御することで、脱酸効果を保証している。
【0027】
本願の鋼材は亀裂感度の高い鋼種に属しているので、真空脱気を強化し、高真空下(133Pa以下)での処理時間を≧15分として、有害ガスH≦2ppmを確保している。真空脱気後にシリコンカルシウムワイヤを与えて介在物変性処理を行い、真空脱気後にアルゴンのソフトブローを長時間行い、介在物の十分な浮上を保証する。アルゴンのソフトブロー時間は≧25分とする。
【0028】
(二)連続鋳造部分:
連続鋳造の全過程の酸化防止保護(即ち溶鋼を空気から遮断する)により、鋼中の介在物量を減少させる。また、良質な耐材を選択して、外部からの介在物による溶鋼に対する汚染を減少させる制御技術により、生産過程に対する制御を強化する。連続鋳造過程では、電磁撹拌及び軽圧下技術を採用し、軽圧下のローラの圧力配分を調整することによって、溶鋼が凝固する際に、鋼材の中心に十分に溶鋼が充填されるようにし、収縮孔現象(ひけ巣)を回避するとともに、結晶装置及び末端電磁撹拌を強化し、溶鋼の凝固流場を変化させ、連続鋳造溶鋼内部の組織を改善して、偏析を減らす。連続鋳造には低過熱度での鋳込みを採用し、連続鋳造過熱度を10~30℃に制御して、連続鋳造ビレットの成分偏析を有効に改善し、低下させる。鋼材完成品の化学成分と合致する、規格が300mm×300mm以上の連続鋳造ビレットを連続鋳造する。連続鋳造ビレットはピットで徐冷し、連続鋳造ビレットの亀裂を防止しなければならず、徐冷時間は24時間を下回らず、その後、連続鋳造ビレットをステップ式加熱炉内に送って加熱した後、ターゲット材料に圧延する。
【0029】
(三)圧延部分:
圧延前に連続鋳造ビレットを炉に入れて加熱する。予熱帯の温度は600~850℃に制御し、加熱帯の温度は950~1100℃に制御し、均熱帯の温度は1150~1200℃に制御し、ビレットが十分均一に熱を受けることを保証するために、総加熱時間は240分以上とし、均熱帯の時間は180分以上とする。圧延開始温度を950℃~1050℃に制御し、仕上げ圧延温度を800℃~900℃に制御し、圧延過程全体はオーステナイト単相領域で行う。圧延終了後にオーステナイトからベイナイトへの組織変態を実現させるために、仕上げ圧延終了から冷却ベッドまでの過程では徐冷を採用しない方がよく、それにより粗いフェライト結晶粒が出現して鋼材の強度と靱性を低下させることを防止する。但し、マルテンサイト組織が出現して鋼材の靭性を低下させることを防止するためには、冷却は速すぎない方がよい。本発明では、仕上げ圧延の終了から冷却ベッドまでの降温領域での冷却速度を10~15℃/sに設定すると同時に、圧延速度を相対的に低下させ、鋼材のこの領域の通過時間を制御して、鋼材がベイナイト組織変態を十分に行うことができるようにしており、最終的な鋼材の冷却ベッドの温度は600~650℃に制御されている。この時点で、鋼材の金属組織のベイナイト変態はほぼ完了しており、後続の冷却ベッドでは、正常な冷却速度で冷却することができる。冷却速度は15~20℃/分で、その後、鋼材をラインから下ろし、後続の矯正、探傷を経て、ターゲットの棒材製品を得る。
【0030】
従来技術と比較すると、本発明の長所は以下の通りである。
【0031】
1)本発明の鋼材は、20CrMnTiをベースに改めて設計を行い、合金元素Mn、Cr及び有害元素Tiの含有量を低下させている。Mn、Cr元素含有量の低下は必ず鋼材の焼入れ性に影響するため、本発明の鋼材は、同時に微量のB元素を添加し、かつ一定量の合金元素Moを添加することによって、焼入れ性を向上させ、発明鋼の焼入れ性能を20CrMnTに劣らないようにしている。また、硬くて変形しない介在物を形成しやすいTi元素を減らし、かつ同様に結晶粒を微細化できるN元素を添加することにより、鋼材の純度を改善すると同時に、発明鋼の結晶粒度を20CrMnTiに相当させ、また圧延過程における金属組織の変態を制御することにより、完成鋼材がベイナイト組織を形成することを確保し、発明鋼の強度及び靭性が20CrMnTiを下回らないことを保証し、最終的にゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の要求を満たしている。
【0032】
2)上記のように、本発明は、精錬過程において脱酸素、脱水素を強化する同時に、良質な原料を選択して、鋼材の純度の高さを保証しており、連続鋳造には低過熱度での鋳込みを採用するとともに、電磁撹拌と軽圧下での制御を採用して鋼材の偏析を制御しているので、ゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の要求を有効に満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施例の典型的な金属組織図×100である。
図2図2は、比較例の典型的な金属組織図×100である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、図面と結び付けて本発明についてさらに詳細に記述しているが、述べている実施例は例示的なものであり、本発明の解釈に用いることを目的としているので、本発明に対する限定と理解することはできない。
【0035】
本発明の各実施例の鋼材の化学成分(wt%)は、表1、表2の通りである。また、比較鋼20CrMnTiの化学成分と比較している。
【0036】
【0037】
【0038】
各実施例と比較例鋼材の力学性能対比データは表3を参照のこと。
【0039】
【0040】
各実施例及び比例例鋼材の熱間圧延金属組織、帯状組織、結晶粒度データは表4の通りである。
【0041】
【0042】
本発明実施例の鋼材及び比較例の典型的な組織は図1図2の通りであり、図1に示す組織はベイナイト組織、図2に示す組織はフェライト+パーライト+ベイナイトである。
【0043】
各実施例と比較例鋼材の末端焼入れ性の性能比較は表5の通りであり、単位はHRCである。
【0044】
【0045】
各実施例及び比較例鋼材の介在物の比較は表6の通りである。
【0046】
【0047】
各実施例及び比較例鋼材のマクロデータ比較は表7の通りである。
【0048】
【0049】
上記のテスト結果から、本発明の衝撃及び引張性能は比較例の20CrMnTiより優れているので、本願の最終製品の強度及び靱性は20CrMnTiよりさらに優れており、焼入れ性、結晶粒度、介在物、帯状、マクロなどを含む本発明のその他の性能指標は比較鋼と近く、各性能はいずれもゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の要求を満たすことができることがわかる。
【0050】
以下では、上記の各実施例のゼッパ型ユニバーサルジョイントリテーナ用鋼の生産方法について詳しく紹介する。
【0051】
生産プロセス:電気炉または転炉→LF炉外精錬→VDまたはRH真空脱気→連続鋳造→連続圧延→仕上げ→包装入庫。
【0052】
溶鋼を精錬する際には、良質な溶鉄、廃鋼及び原料補助材料を選択し、良質な脱酸素剤及び耐火材料を選択する。電気炉/転炉の生産過程では、3つの実施例の出湯終了点のCはそれぞれ0.05~0.15%の間に制御され、終了点のPは0.020%以下に制御されており、脱酸を強化し、電気炉または転炉の出湯終了点の炭素を制御して、出湯終了点の炭素を0.05~0.15%に制御しており、出湯過程でAl鉄を加えて予備脱酸を行い、後続の脱酸のために良好な条件を作り、出湯後にはスラグ掻き取り技術を採用し、有害なスラグを掻き取る。
【0053】
精錬時には、LF精錬炉に新しい合成スラグを新たに加えると同時に、精錬過程の脱酸を強化し、精錬過程では炭化ケイ素とアルミニウムを用いて脱酸を行い、精錬の初期にできるだけ速く白色スラグを形成し、かつ白色スラグを25分以上保持し、精錬過程全体のアルミニウム含有量を0.025%~0.045%の間に制御することで、脱酸効果を保証する。
【0054】
実施例の鋼材は亀裂感度の高い鋼種に属しているので、真空脱気を強化し、高真空下(133Pa以下)での処理時間を≧15分として、有害ガスH≦2ppmを確保する。真空脱気後にシリコンカルシウムワイヤを与えて介在物変性処理を行い、真空脱気後に、アルゴンのソフトブローを長時間行って、介在物の十分な浮上を保証する。アルゴンのソフトブロー時間は≧25分とする。
【0055】
連続鋳造過熱度は10~30℃の間に制御され、連続鋳造引張速度は0.45~0.75m/分である。連続鋳造ビレットの規格は300mm×300mmであり、連続鋳造ビレットはピットで徐冷し、徐冷時間は24時間以上とし、その後、徐冷した連続鋳造ビレットを加熱炉に送ってターゲット鋼材に圧延する。具体的な圧延工程は次の通り。予熱帯の温度は600~850℃に制御し、加熱帯の温度は950~1100℃に制御し、均熱帯の温度は1150~1200℃に制御し、ビレットが十分均一に熱を受けることを保証するために、総加熱時間は4時間以上とし、均熱帯の時間は3時間以上とする。圧延開始温度を950℃~1050℃に制御し、仕上げ圧延温度を800℃~900℃に制御し、仕上げ圧延の終了後は、鋼材を10~15℃/分の冷却速度に制御して冷却し、オーステナイト組織をすべてベイナイトに変態させ、鋼材の冷却ベッドでの温度を600~650℃に制御し、さらに後続の矯正、探傷を経てターゲット棒材製品を得る。
【0056】
各実施例の圧延工程のパラメータは表8の通りである。
【0057】
【0058】
上記の実施例以外にも、本発明は他の実施形態をさらに含んでおり、同等の変換や等価の置換といった手段を用いて形成された技術手法は、いずれも本発明の請求の範囲の保護範囲に入るものとする。
図1
図2
【国際調査報告】