(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240116BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20240116BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240116BHJP
C23C 22/00 20060101ALI20240116BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 B
C22C38/60
C23C22/00 B
H01F1/147 183
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537972
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 KR2021019111
(87)【国際公開番号】W WO2022139312
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180971
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン, ミンソク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ウォンチョル
(72)【発明者】
【氏名】シム, ホキョン
(72)【発明者】
【氏名】パク, チャンス
(72)【発明者】
【氏名】ミン, ソンフン
【テーマコード(参考)】
4K026
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K026AA03
4K026AA22
4K026BA03
4K026BB05
4K026CA16
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4K033AA02
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4K033SA03
4K033TA02
4K033TA04
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BC08
5E041BD10
5E041CA02
5E041HB14
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN06
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】絶縁コーティング層形成過程で鋼板に与えられる張力を制御し、各層に与えられる応力を調節し、サブ結晶粒(Subgrain boundary)形成を抑制し、磁性を向上させた方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる電磁鋼板基材、電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に位置する微細粒界面層、微細粒界面層上に位置するベースコーティング層、およびベースコーティング層上に位置する絶縁コーティング層を含み、下記式1を満たす。
〔式1〕
([P]×[PS]+[F]×[FS]+[C]×[CS])/-([S]/2)≧13.0MPa
(式1中、[P]は絶縁コーティング層の厚さ(μm)、[PS]は絶縁コーティング層の残留応力(MPa)、[F]はベースコーティング層の厚さ(μm)、[FS]はベースコーティング層の残留応力(MPa)、[C]は微細粒界面層の厚さ(μm)、[CS]は微細粒界面層の残留応力(MPa)、および[S]は電磁鋼板基材の厚さ(μm)を示す。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる電磁鋼板基材、
前記電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に位置する微細粒界面層、
前記微細粒界面層上に位置するベースコーティング層、および
前記ベースコーティング層上に位置する絶縁コーティング層を含み、
下記式1を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板。
〔式1〕
([P]×[PS]+[F]×[FS]+[C]×[CS])/-([S]/2)≧13.0MPa
(式1中、[P]は絶縁コーティング層の厚さ(μm)、[PS]は絶縁コーティング層の残留応力(MPa)、[F]はベースコーティング層の厚さ(μm)、[FS]はベースコーティング層の残留応力(MPa)、[C]は微細粒界面層の厚さ(μm)、[CS]は微細粒界面層の残留応力(MPa)、および[S]は電磁鋼板基材の厚さ(μm)を示す。)
【請求項2】
前記微細粒界面層は、平均結晶粒径が0.1~5μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記ベースコーティング層のRD方向の残留応力が、-50~-1500MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記絶縁コーティング層のRD方向の残留応力が、-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記電磁鋼板基材は、RD方向の残留応力が1~50MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記微細粒界面層は、RD方向の残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記絶縁コーティング層は、粒径10nm以上の気孔を含み、
前記電磁鋼板基材は、前記気孔中心からRD方向に1500μm以内の領域(A)および前記電磁鋼板基材の表面から前記電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)にサブ結晶粒が存在し、
サブ結晶粒は、結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度をなし、
ND断面でのサブ結晶粒の面積分率が5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項11】
前記サブ結晶粒は、ND方向の結晶粒の長さ(z)に対するTD方向の結晶粒の長さ(y)の比率(y/z)が1.5以下であることを特徴とする請求項10に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項12】
前記電磁鋼板基材の表面から前記電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満のゴス結晶粒を含み、
ND面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(L
G)に対するサブ結晶粒の平均粒径(L
S)の比率(L
S/L
G)が0.20以下であることを特徴とする請求項10に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項13】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板基材を製造する段階、
前記方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階、および
前記方向性電磁鋼板基材を熱処理して方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層を形成する段階を含み、
前記絶縁コーティング層を形成する段階において鋼板に与えられる張力が0.2~0.70kgf/mm
2であり、
鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
〔式2〕
[MI]≧0.5×[MA]
【請求項14】
絶縁コーティング層を形成する段階は、550~1100℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項13に記載の方向性電磁鋼板 製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、絶縁コーティング層形成過程で鋼板に与えられる張力を制御し、各層に与えられる応力を調節し、サブ結晶粒(Subgrain boundary)形成を抑制し、磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電磁鋼板とは、鋼板にSi成分を含有したもので、結晶粒の方位が{110}<001>方向に整列した集合組織を有し、圧延方向に極めて優れた磁気的特性を有する電磁鋼板をいう。このような{110}<001>集合組織を得ることは、様々な製造工程の組み合わせによって可能であり、特に鋼スラブの成分をはじめ、これを加熱、熱間圧延、熱延板焼鈍、1次再結晶焼鈍、および2次再結晶焼鈍する一連の過程が非常に厳密に制御されなければならない。具体的に、方向性電磁鋼板は、1次再結晶粒の成長を抑制し、成長が抑制された結晶粒の中で{110}<001>方位の結晶粒を選択的に成長させて得られた2次再結晶組織によって、優れた磁気特性を示すようにするものであるため、1次再結晶粒の成長抑制剤がより重要である。そして、最終焼鈍工程では、成長が抑制された結晶粒の中で、安定的に{110}<001>方位の集合組織を有する結晶粒が優先的に成長できるようにすることが、方向性電磁鋼板製造技術において重要な事項の一つである。上述した条件が満たされ、現在工業的に幅広く利用されている1次結晶粒の成長抑制剤としては、MnS、AlN、およびMnSeなどがある。
【0003】
具体的に、鋼スラブに含まれているMnS、AlN、およびMnSeなどを高温で長時間再加熱して、固溶させた後に熱間圧延し、以降の冷却過程で、適正な大きさと分布を有する前記成分が析出物として作られて、前記成長抑制剤として利用されるのである。しかし、これは必ず鋼スラブを高温で加熱しなければならない問題点がある。
これに関連して、近年鋼スラブを低温で加熱する方法で、方向性電磁鋼板の磁気的特性を改善するための努力があった。これのために、方向性電磁鋼板にアンチモン(Sb)元素を添加する方法が提示されたが、最終高温焼鈍後の結晶粒の大きさが不均一かつ粗大で、トランスの騒音品質が劣位する問題点が指摘された。
【0004】
一方、方向性電磁鋼板の電力損失を最少化するために、その表面に絶縁被膜(または張力コーティング層)を形成するのが一般的であり、この時、絶縁被膜は、基本的に電気絶縁性が高く素材との接着性に優れ、外形に欠陥がない均一な色を持たなければならない。これと共に、近年、トランスの騒音に対する国際規格強化および関連業界の競争深化によって、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の騒音を低減するために、磁気変形(磁歪)現像に関する研究が必要な実情である。具体的に、トランス鉄芯として使用される電磁鋼板に磁場が印加されると、収縮と膨張を繰り返して震え現像が誘発され、このような震えによりトランスで振動と騒音が引き起こされる。一般に知られた方向性電磁鋼板の場合、鋼板およびフォルステライト(Forsterite)系ベースの被膜上に絶縁被膜を形成し、このような絶縁被膜の熱膨張係数差を利用して鋼板に引張応力を与えることによって、鉄損を改善し、磁気変形に起因する騒音減少効果を図っているが、近年要求されている高級方向性電磁鋼板での騒音レベルを満たすには限界がある。
【0005】
一方、方向性電磁鋼板の90°磁区を減少させる方法として、湿式コーティング方式が知られている。ここで90°磁区とは、磁界印加方向に対して直角に向かっている磁化を有する領域を称し、このような90°磁区の量が少ないほど磁気変形が小さくなる。しかし、一般的な湿式コーティング方式では引張応力付与による騒音改善効果が不足し、コーティングの厚さが厚い厚膜でコーティングしなければならない短所があって、トランスの占積率と効率が悪くなる問題がある。
その他、方向性電磁鋼板の表面に高張力特性を与える方法として、物理的蒸気蒸着法(Physical Vapor Deposition,PVD)および化学的蒸気蒸着法(Chemical Vapor Depositionition,CVD)等の真空蒸着によるコーティング方式が知られている。しかし、このようなコーティング方式は、商業的生産が難しく、この方法によって製造された方向性電磁鋼板は絶縁特性が劣る問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が目的とするところはは、方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。具体的に絶縁コーティング層形成過程で鋼板に与えられる張力を制御し、各層に与えられる応力を調節し、サブ結晶粒(Subgrain boundary)形成を抑制し、磁性を向上させた方向性電磁鋼板の製造方法を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の方向性電磁鋼板は、Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他の不可避的不純物からなる電磁鋼板基材、電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に位置する微細粒界面層、微細粒界面層上に位置するベースコーティング層、およびベースコーティング層上に位置する絶縁コーティング層を含む。
本発明の方向性電磁鋼板は下記式1を満たす。
〔式1〕
([P]×[PS]+[F]×[FS]+[C]×[CS])/-([S]/2)≧13.0MPa
(式1中、[P]は絶縁コーティング層の厚さ(μm)、[PS]は絶縁コーティング層の残留応力(MPa)、[F]はベースコーティング層の厚さ(μm)、[FS]はベースコーティング層の残留応力(MPa)、[C]は微細粒界面層の厚さ(μm)、[CS]は微細粒界面層の残留応力(MPa)、および[S]は電磁鋼板基材の厚さ(μm)を示す。)
【0008】
微細粒界面層は、平均結晶粒径が0.1~5μmでありうる。
ベースコーティング層のRD方向の残留応力が、-50~-1500MPaでありうる。
絶縁コーティング層のRD方向の残留応力が、-10~-1000MPaでありうる。
電磁鋼板基材は、RD方向の残留応力が1~50MPaでありうる。
微細粒界面層は、RD方向の残留応力が-10~-1000MPaでありうる。
微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmでありうる。
ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmでありうる。
絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmでありうる。
絶縁コーティング層は、粒径10nm以上の気孔を含み、電磁鋼板基材は、前記気孔の中心からRD方向に1500μm以内の領域(A)、および電磁鋼板基材の表面から前記電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)にサブ結晶粒が存在し、サブ結晶粒は、結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度をなし、ND断面でのサブ結晶粒の面積分率が5%以下である。
サブ結晶粒は、ND方向の結晶粒の長さ(z)に対するTD方向の結晶粒の長さ(y)の比率(y/z)が、1.5以下であってもよい。
電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満のゴス結晶粒を含み、ND面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(LG)に対するサブ結晶粒の平均粒径(LS)の比率(LS/LG)が、0.20以下であってもよい。
粒径10nm以上の気孔は、RD方向に1mm当たり1~300個存在することができる。
【0009】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板基材を製造する段階、方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階、および方向性電磁鋼板基材を熱処理して、方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層を形成する段階を含み、絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板に与えられる張力が、0.2~0.7kgf/mm2であり、鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満たす。
〔式2〕
[MI]≧0.5×[MA]
絶縁コーティング層を形成する段階は、550~1100℃の温度で熱処理することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、方向性電磁鋼板は、磁性に悪影響を及ぼすサブ結晶粒を抑制して、磁性を向上させることができる。
また、ベースコーティング層、絶縁コーティング層および微細粒界面層の残留応力が増加して、磁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例1で製造した鋼板の電子後方散乱回折(EBSD)写真である。
【
図3】曲率半径を利用した被膜張力計算法を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1、第2および第3等の用語は、様々な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用され、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにだけ使用される。従って、以下で記述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で、第2部分、成分、領域、層またはセクションとして言及することができる。
ここで使用される専門用語は、単に特定実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。ここで使用される単数形は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を排除させるものではない。
ある部分が他の部分の「の上に」または「上に」あると言及する場合、これは他の部分の上にあることや、その間に他の部分が介在する場合も含む。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0013】
異なるように定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に合致する意味を有するものと追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施例において、追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0014】
以下、本発明の実施例について、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現することができ、ここで説明する実施例に限られない。
【0015】
図1は、本発明の方向性電磁鋼板のTD断面を模式的に示す。
図1に示したように、本発明の方向性電磁鋼板100は、電磁鋼板基材10、および電磁鋼板基材10上に位置する微細粒界面層12、微細粒界面層12上に位置するベースコーティング層20、およびベースコーティング層20上に位置する絶縁コーティング層30を含む。
【0016】
以下、本発明の各構成について詳しく説明する。
電磁鋼板基材10は、ベースコーティング層20および絶縁コーティング層30を除いた方向性電磁鋼板100の一部分を意味する。
本発明において、電磁鋼板基材10の合金成分とは関係なく、絶縁コーティング層30内の気孔31および電磁鋼板基材10内のサブ結晶粒11によって発現するものである。補充的に、電磁鋼板基材10の合金成分について説明する。
電磁鋼板基材10は、Si:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.07重量%、Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.01重量%以下、N:0.005重量%以下。およびS:0.005重量%以下を含み、残部はFeおよびその他不可避的不純物からなる。
【0017】
Si:2.0~7.0重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割をするが、Siの含有量が少なすぎる場合には、鋼の比抵抗が小さくなって鉄損特性が劣化し、2次再結晶焼鈍時に相変態区間が存在して、2次再結晶が不安定となる問題が発生し得る。Siの含有量が多過ぎる場合には、脆性が大きくなって、冷間圧延が難しくなる問題が発生し得る。従って、前述の範囲でSiの含有量を調節することができる。より具体的に、Siは、2.5~5.0重量%含まれる。
【0018】
Sn:0.01~0.10重量%
スズ(Sn)は、結晶粒系偏析元素であって、結晶粒系の移動を妨害する元素であるため、結晶粒成長抑制剤として、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進して2次再結晶が良好に発達するようにするため、結晶粒成長抑制力の補強に重要な元素である。
Sn含有量が少なすぎると、その効果が低下し、Sn含有量が多すぎると、結晶粒系偏析が激しくなり、鋼板の脆性が大きくなって圧延時の板破断が発生するようになる。従って、前述の範囲でSnの含有量を調節することができる。より具体的に、Snは0.02~0.08重量%含まれる。
【0019】
Sb:0.01~0.05重量%
アンチモン(Sb)は、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進する元素であて、Sb含有量が少なすぎる場合には、ゴス結晶粒生成促進剤として十分な効果を期待することができず、Sb含有量が多すぎると、表面に偏析されて酸化層形成を抑制して、表面不良が発生するようになる。従って、前述の範囲でSbの含有量を調節することができる。より具体的に、Sbは0.02~0.04重量%含まれる。
【0020】
Al:0.020~0.040重量%
アルミニウム(Al)は、最終的にAlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)Nの形態の窒化物となり、抑制剤として作用する元素である。Al含有量が少なすぎる場合には、抑制剤として十分な効果が期待できない。一方、Al含有量が多過ぎる場合には、Al系統の窒化物が非常に粗大に析出および成長するため、抑制剤としての効果が不足する。従って、前述の範囲でAlの含有量を調節することができる。より具体的に、Alは、0.020~0.030重量%含まれる。
【0021】
Mn:0.01~0.20重量%
マンガン(Mn)は、Si同様に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siと共に窒化処理により導入される窒素と反応して、(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することによって、1次再結晶粒の成長を抑制し、2次再結晶を引き起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含有量が多すぎる場合、熱延途中にオーステナイト相変態を促進するため、1次再結晶粒の大きさを減少させて2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含有量が少なすぎる場合、オーステナイト形成元素として、熱延再加熱時にオーステナイト分率を高めて析出物の固溶量を多くして、再析出時に析出物微細化とMnS形成による1次再結晶粒が過大にならないようにする効果が不充分な場合がある。従って、前述の範囲でMnの含有量を調節することができる。
【0022】
C:0.010重量%以下
炭素(C)は、本発明による実施例において、方向性電磁鋼板の磁気的特性向上にさほど役に立たない成分であるため、できるたけ除去するのが好ましい。しかし、一定レベル以上に含まれている場合、圧延過程では、鋼のオーステナイト変態を促進し、熱間圧延時に熱間圧延組織を微細化させて、均一な微細組織が形成されるのに有用な効果がある。スラブ内のC含有量は、0.04重量%以上で含まれるのが好ましい。しかし、Cの含有量が多すぎると、粗大な炭化物が生成されて脱炭時に除去が困難になるため、0.07重量%以下とすることができる。1次再結晶焼鈍過程で脱炭が行われ、脱炭後、最終製造される方向性電磁鋼板基材内には0.005重量%以下で含まれる。
【0023】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これらの元素が適切に分布する場合には、前述のように冷間圧延後に組織を適切に微細にして、適切な1次再結晶粒度を確保することに有用である。しかし、その含有量が過度な場合、1次再結晶粒が過度に微細化され、その結果、微細な結晶粒によって、2次再結晶時に結晶粒成長を招く駆動力が大きくなって、好ましくない方位の結晶粒まで成長することがある。また、N含有量が多すぎると、最終焼鈍過程で除去するにも多くの時間がかかるので好ましくない。従って、窒素含有量の上限は、0.005重量%にすることができる。1次再結晶工程過程で浸窒によって窒素量が増加することができ、この場合、2次再結晶焼鈍過程で再び除去されるため、スラブおよび最終方向性電磁鋼板基材10内の窒素量が同じになり得る。
【0024】
S:0.005重量%以下
硫黄(S)の含有量が、0.005重量%を超える場合には、熱間圧延スラブ加熱時に再固溶されて微細に析出するため、1次再結晶粒の大きさを減少させ、2次再結晶開始温度を低くして磁性を劣化させる。また、最終焼鈍工程の2次亀裂区間で固溶状態のSを除去するために多くの時間がかかるので、方向性電磁鋼板の生産性を低下させる。一方、Sの含有量が0.005%以下と低い場合には、冷間圧延前の初期結晶粒の大きさが粗大になる効果があるので、1次再結晶工程で変形バンドが核生成される{110}<001>方位を有する結晶粒の数が増加する。従って、2次再結晶粒の大きさを減少させて最終製品の磁性を向上させるために、Sの含有量は0.005重量%以下であるのが好ましい。
【0025】
残りは、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物とは、製鋼および方向性電磁鋼板製造工程でやむをえず添加される元素であり、これは広く知られているので、説明は省略する。本発明において、前述の合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含まれる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0026】
電磁鋼板基材10は、RD方向の残留応力が1~50MPaであり得る。このような範囲の残留応力が存在する理由は、電磁鋼板基材10の上部に存在するベースコーティング層20と絶縁コーティング層30のためである。前述の範囲の残留応力が存在することによって、素鉄に被膜張力を付与して磁性が向上する。具体的に、電磁鋼板基材10は、RD方向の残留応力が16.0~30.0MPaであり得る。電磁鋼板基材10の残留応力は、後述する微細粒界面層12、ベースコーティング層20、および絶縁コーティング層30との残留応力の合計を0とする値で求めることができる。
t
i:各層の厚さ
σ
i:各層の残留応力
i:ベースコーティング層/微細粒界面層/基地鋼板
【0027】
図1に示したように、電磁鋼板基材10の表面から電磁鋼板基材の内部方向に微細粒界面層12が存在することができる。この微細粒界面層12は、平均結晶粒径が0.1~5μmであり得る。微細粒界面層12は、表面エネルギーの不均一による影響が原因で形成される。
【0028】
微細粒界面層12の厚さは、0.1~5μmであり得る。微細粒結晶層12が厚すぎると、磁性を劣化させるため、その厚さを薄くするのが有利である。より具体的に、微細粒界面層12の厚さは、0.5~3μmであり得る。
微細粒界面層12は、RD方向の残留応力が-10~-1000MPaであり得る。この時、負の符号は、微細粒界面層12が電磁鋼板基材10に付与した応力を意味する。より具体的に、微細粒界面層12は、RD方向の残留応力が-100~-500MPaであり得る。さらに具体的に、微細粒界面層12は、RD方向の残留応力が-400~-500MPaであり得る。
【0029】
図1に示したように、本発明の方向性電磁鋼板100は、電磁鋼板基材10および絶縁コーティング層30の間に位置するベースコーティング層20を含むことができる。
【0030】
ベースコーティング層20は、1次再結晶過程で形成された酸化層が焼鈍分離剤内の成分と反応して、コーティング層を形成する。ベースコーティング層20は、絶縁コーティング層30と電磁鋼板基材10との間の密着性を向上させ、また、絶縁コーティング層30と共に方向性電磁鋼板100に絶縁性を与える。
ベースコーティング層20の成分に対して特に限定されていないが、焼鈍分離剤成分にMgOが含まれている場合、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むことができる。
【0031】
ベースコーティング層20の厚さは、0.1~15μmであり得る。ベースコーティング層20の厚さが薄すぎると、前述した絶縁の役割および絶縁コーティング層30との密着性向上の役割を十分に行うことができない。ベースコーティング層20が厚すぎると、占積率が低くなり、また絶縁コーティング層30との密着性が低下することがある。さらに具体的に、ベースコーティング層20の厚さは、0.5~3μmであり得る。
ベースコーティング層20のRD方向の残留応力は、-50~-1500MPaであり得る。より具体的に、-500~-1000MPaであり得る。さらに具体的に、-760~-1000MPaであり得る。
【0032】
図1に示したように、絶縁コーティング層30は、ベースコーティング層20上に位置する。絶縁コーティング層30は、方向性電磁鋼板100に絶縁性を付与すると共に、電磁鋼板基材10に張力を付与して鉄損を向上させる役割をする。
絶縁コーティング層30は、電磁鋼板100の表面に絶縁性を付与することができる物質を使用することができる。具体的に、リン酸塩(H
3PO
4)を含むことがある。
絶縁コーティング層30は、溶媒を含む絶縁コーティング層形成組成物を鋼板上に塗布した後、熱処理する方式で形成する。この時、溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30の内には不可避に気孔31が一部形成される。気孔31は、当該の部分に何も存在しない状態、即ち空の空間を意味する。
【0033】
粒径10nm以上の気孔は、RD方向に1mm当たり1~300個存在することができる。さらに具体的に、1mm当たり1~30個存在することがある。この時、気孔の粒径は、ND面、またはTD面を基準に測定することができる。気孔の個数は、TD面を基準に測定することができる。
粒径10nm以上の気孔1個当り1~30個のサブ結晶粒が存在する。前述したように、気孔31の下部の領域(A、B)にサブ結晶粒11が存在しない場合もあり、2個以上のサブ結晶粒11が存在することも可能である。しかし、気孔31の下部の領域(A、B)以外にサブ結晶粒11は存在しない場合がある。
【0034】
絶縁コーティング層30の厚さは、0.1~15μmであり得る。絶縁コーティング層30の厚さが薄すぎると、前述した絶縁の役割を十分に行うことができない。絶縁コーティング層30が厚すぎると、占積率が低くなり、また鋼板基材10との密着性が低下することがある。さらに具体的に、絶縁コーティング層30の厚さは、1.0~5.0μmであり得る。
絶縁コーティング層30のRD方向の残留応力が-10~-1000MPaであり得る。さらに具体的に、-70~-500MPaであり得る。
【0035】
本発明の方向性電磁鋼板は、下記式1を満たす。
〔式1〕
([P]×[PS]+[F]×[FS]+[C]×[CS])/-([S]/2)≧13.0MPa
(式1中[P]は絶縁コーティング層の厚さ(μm)、[PS]は絶縁コーティング層の残留応力(MPa)、[F]はベースコーティング層の厚さ(μm)、[FS]はベースコーティング層の残留応力(MPa)、[C]は微細粒界面層の厚さ(μm)、[CS]は微細粒界面層の残留応力(MPa)、および[S]は電磁鋼板基材の厚さ(μm)を示す。)
式1は、方向性電磁鋼板の圧延方向に対する引張応力を意味する。例えば、式1の左辺が小さすぎると、磁性が劣位した問題が発生し得る。さらに具体的に、式1の左辺が14.0~21.0であり得る。
【0036】
絶縁コーティング層30は、溶媒を含む絶縁コーティング層形成組成物を鋼板上に塗布した後、熱処理する方式で形成する。この時、溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30内には不可避に気孔31が一部形成される。
気孔31が10nm以上に大きくなると、鋼板に与えられる応力が気孔31の下部に集中してサブ結晶粒11が形成される。これは、方向性電磁鋼板の主結晶粒であるゴス結晶粒に比べて、磁性に不利な影響を与え、できるだけ抑制するのが好ましい。
本発明においては、気孔31およびサブ結晶粒11間の位置の相関およびサブ結晶粒11の形成原因を分析して、サブ結晶粒11の形成をできるだけ抑制する。
【0037】
図1では、気孔31およびサブ結晶粒11に対して模式的に表現している。
図1に示したように、気孔31の下部にサブ結晶粒11が存在する。鋼板基材10内のすべてのサブ結晶粒11は、気孔31の下部の特定領域に存在する。但し、すべての気孔31の下部にサブ結晶粒11が存在するのではなく、下部にサブ結晶粒11が存在しない気孔31もあり得る。
図1に示したように、電磁鋼板基材10内にサブ結晶粒11が存在する。サブ結晶粒11は結晶方位が、{110}<001>から1°~15°角度をなす点で、サブ結晶粒を除いた残りのゴス結晶粒と区分される。具体的に、ゴス結晶粒は、結晶方位が、{110}<001>から1°未満である。結晶方位は、ミラー指数(Miller index)によって表される。
【0038】
本発明において、サブ結晶粒11は気孔31の下部に位置する。具体的に、気孔中心からRD方向に1500μm以内の領域(A)および前記電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)にサブ結晶粒11が存在する。
図1にA領域およびB領域で定義される位置を点線四角形で表した。具体的に、サブ結晶粒11のすべての領域が、A領域およびB領域で定義される位置に含まれる。本発明において、前述の領域にだけ、サブ結晶粒11が存在し、他の部分にはサブ結晶粒11が存在しない。
本発明において、このようなサブ結晶粒11を抑制することによって、磁性を向上させることができる。具体的に、ND断面でのサブ結晶粒の面積分率が5%以下であり得る。サブ結晶粒11の面積分率が大きすぎると、これによって磁性が劣化するようになる。より具体的に、ND断面でのサブ結晶粒の面積分率が0.1~5%であり得る。さらに具体的に、1~3%であり得る。ND断面とは、ND方向と垂直な面を意味する。
【0039】
サブ結晶粒11の粒径は、1~500nmであり、粒径をでも残りのゴス結晶粒と区分することができる。具体的に、サブ結晶粒を除いたゴス結晶粒の平均粒径は、5~100mmであり得る。この時、結晶粒ND断面での粒径である。さらに具体的に、サブ結晶粒11の粒径は、10~250nmであり、サブ結晶粒を除いたゴス結晶粒の平均粒径は、10~50mmであり得る。
ND断面でのゴス結晶粒の平均粒径(LG)に対するサブ結晶粒の平均粒径(LS)の比率(LS/LG)が0.20以下であり得る。さらに具体的に、0.10以下であり得る。
本発明において、粒径は、当該粒径の面積と同じ面積を有する仮想円の直径を意味する。
【0040】
本発明による方向性電磁鋼板の製造方法は、方向性電磁鋼板基材を製造する段階、方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階、および方向性電磁鋼板基材を熱処理して方向性電磁鋼板上に絶縁コーティング層形成組成物を形成する段階を含む。
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、方向性電磁鋼板基材を製造する。この時、方向性電磁鋼板基材10上にはベースコーティング層20が形成された方向性電磁鋼板基材10を使用することができる。
本発明においては、絶縁コーティング層を形成する段階で鋼板に与えられる張力を調節することに技術的特徴があり、方向性電磁鋼板の製造方法は、既知の様々な方法を使用することができる。
【0041】
以下、絶縁コーティング層を形成する前の方向性電磁鋼板基材の製造方法の一例を説明する。
方向性電磁鋼板基材の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階、および1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する段階をさらに含むことができる。
スラブは、Si:2.0~7.0重量%、Sn:0.01~0.10重量%、Sb:0.01~0.07重量%、Al:0.020~0.040重量%、Mn:0.01~0.20重量%、C:0.04~0.07重量%、N:10~50重量ppm、S:0.001~0.005重量%を含み、残りはFeおよびその他不可避的不純物からなる。
【0042】
まず、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。
以下、スラブ合金成分に関しては、Cの含有量を除いて電磁鋼板基材10の合金成分と同じあるため、重複する説明は省略する。
熱延板を製造する段階の前に、スラブを1230℃以下に加熱する段階をさらに含むことができる。この段階により、析出物を部分溶体化することができる。また、スラブの柱状晶組織が粗大に成長するこのが防止され、後続熱間圧延工程で板の幅方向にクラックが発生することを防ぐことができて、実収率が向上する。スラブ加熱温度が高すぎると、スラブの表面部溶融で加熱炉を補修して加熱炉の寿命が短縮することがある。さらに具体的に、1130~1200℃でスラブを加熱することができる。スラブを加熱せずに、連続鋳造されるスラブをそのまま熱間圧延することも可能である。
【0043】
熱延板を製造する段階において、熱間圧延によって厚さ1.8~2.3mmの熱延板を製造することができる。
【0044】
熱延板を製造した後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。熱延板焼鈍する段階は、950~1,100℃の温度まで加熱した後、850~1,000℃温度で亀裂した後冷却する過程によって行うことができる。
【0045】
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。
冷間圧延は、1回鋼冷間圧延を通じて行われ、複数のパスを介して行うことができる。圧延中1回以上200~300℃の温度で温間圧延を通じてパスエイジング効果を与え、最終厚さ0.14~0.25mmで製造することができる。冷間圧延された冷延板は、1次再結晶焼鈍過程で脱炭と変形された組織の再結晶および浸窒ガスを介した浸窒処理を行う。
【0046】
次に、令延板を1次再結晶焼鈍する。
1次再結晶焼鈍過程で脱炭または浸窒することができる。
1次再結晶焼鈍段階は、800~900℃の温度で行うことができる。温度が低すぎると、1次再結晶が行われず、浸窒がスムーズに行われないことがある。温度が高すぎると、1次再結晶が非常に大きく成長して、磁性を劣位させる原因となる。
脱炭のために酸化能(PH2O/PH2)が0.5~0.7である雰囲気で行うことができる。脱炭によって鋼板は、炭素を0.005重量%以下、さらに具体的には、0.003重量%以下で含まれることができる。
【0047】
次に、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布し、2次再結晶焼鈍する。焼鈍分離剤としては、様々な分離剤を使用することができる。例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布することができる。この時、2次再結晶焼鈍後、フォルステライトを含むベースコーティング層20が形成される。
【0048】
2次再結晶焼鈍の目的は、大きく見ると、2次再結晶による{110}<001>集合組織形成、磁気特性を害する不純物の除去にある。2次再結晶焼鈍の方法としては、2次再結晶が起こる前の昇温区間では窒素と水素の混合ガスで維持して、粒子成長抑制剤の窒化物を保護することによって、2次再結晶が良好に発達するようにし、2次再結晶完了後には、100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去するようにすることができる。
【0049】
2次再結晶焼鈍段階、平坦化焼鈍工程を含むことができる。
再び本発明による方向性電磁鋼板の製造工程の説明に戻ると、方向性電磁鋼板基材およびベースコーティング層上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する。本発明において、絶縁コーティング層形成組成物は、多様に用いることができ、特に制限されない。例えばリン酸塩を含む絶縁コーティング層形成組成物を使用することができる。
【0050】
次に、方向性電磁鋼板基材を熱処理して、方向性電磁鋼板基材およびベースコーティング層20上に絶縁コーティング層を形成する。
この時、熱処理過程で溶媒が高温で揮発しながら絶縁コーティング層30内には不可避に気孔31が一部形成される。この時、鋼板に与えられる応力が気孔31の下部に集中して、サブ結晶粒11が形成される。本発明においては、絶縁コーティング層を形成する過程で、鋼板に与えられる張力を調節することによって、サブ結晶粒11の形成をできるだけ抑制する。
具体的に、絶縁コーティング層を形成する段階において、鋼板に与えられる張力が0.20~0.70kgf/mm2である。
この時、鋼板に与えられる張力が小さすぎると、表面にスクラッチが発生して、耐食性が劣位して問題が発生し得る。鋼板に与えられる張力が大きすぎると、サブ結晶粒11が多量形成されて、磁性に不利な影響を与えることがある。さらに具体的に、0.20~0.50kgf/mm2であり得る。さらに具体的に、0.3~0.47kgf/mm2であり得る。この時、張力は熱処理工程出側で測定した鋼板長さ方向への平均張力である。
【0051】
絶縁コーティング層を形成する段階において、鋼板の長さ方向(RD方向)により、与えられる張力が異なり得る。本発明においては、鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)の差を最小化して、各層に適用される残留応力が適切に調節され、サブ結晶粒11の形成を抑制することができる。
具体的に、鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満たす。
〔式2〕
[MI]≧0.5×[MA]
式2を満たさず、鋼板の長さ方向(RD方向)により、張力の偏差が大きく存在する場合、局部的に不均一性が増加して、残留応力が適切に調節できず、サブ結晶粒11が多量形成される。
【0052】
従来の場合、平坦化焼鈍工程でラインスピード(Line Speed)の変化幅が大きいため、鋼板の長さ方向(RD方向)により、張力の偏差が大きく存在し、局部的に不均一性が増加する問題がある。詳しくは、平坦化焼鈍入側で先行コイルTail部と、後行コイルTop部を接合するためにラインスピードを最少化して、レーザ溶接を実施する。溶接が完了すると、最終製品の生産性向上のためにラインスピードを上げて高速で作業するため、張力偏差が大きく存在する。より詳しくは、ラインスピード変化によって、ブライドルロール(Bridle Roll)とハースロール(Hearth Roll)の速度変化幅が大きくなって、平坦化焼鈍時に必然的に伴う高温で鋼板の長さ方向(RD方向)により、張力偏差が大きく存在し、局部的な不均一性が増加して残留応力が適切に調節できない問題があるため、張力の最小値(MI)が0.5×[MA]未満になるしかなかった。
【0053】
張力の最大値(MA)と最小値(MI)の差を減らす方法はいくつかあるが、本発明においては、例えば、ブライドルロール(Bridle Roll)制御と、ハースロール(Hearth Roll)の速度を制御する方法を使用することができる。詳しくは、ブライドルロール制御は、張力計(Tension Meter)値を追従してフィードバック張力を(Feedback Tension)制御する方法である。より詳しくは、張力の最大値と最小値の差を減らすために、ブライドルロールの速度を制御する方法である。また詳しくは、ハースロール制御は、ブライドルロールの速度追従フィードフォワード(Feedforward Tension)制御する方法である。より詳しくは、張力の最大値と最小値の差を減らすために、ハースロールの速度が高くなりながら張力を低く制御する方法で調節することができる。本発明において、平坦化焼鈍工程でラインスピードが変動しても張力を特定範囲で調節しながら、同時に最大値(MA)と最小値(MI)の差を減らすことができる。
【0054】
絶縁コーティング層を形成する段階において、熱処理温度は550~1100℃であり得る。前述の温度で気孔31が少なく発生し、絶縁コーティング層30の残留応力が適切に与えられる。
【0055】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は、本発明の好ましい一実施例であって、本発明が下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例
Si:3.4重量%、Sn:0.05重量%、Sb:0.02重量%、Al:0.02重量%、Mn:0.10重量%、C:0.05重量%、N:0.002重量%、およびS:0.001重量%を含み、残り成分は、残部Feと、その他不可避的に含まれている不純物からなる鋼材を真空溶解した後、インゴットを作り、1150℃温度で210分加熱した後、熱間圧延して2.0mm厚さの熱延板を製造した。酸洗後、0.220mm厚さに冷間圧延した。
【0057】
冷間圧延された板は、約800~900℃の温度で50v%の水素および50v%の窒素の湿潤雰囲気とアンモニア混合ガス雰囲気中維持して、炭素含有量が30ppm以下、総窒素含有量が130ppm以上増加するように脱炭、窒化焼鈍熱処理した。
【0058】
この鋼板に、焼鈍分離剤のMgOを塗布してコイル状に最終焼鈍した。最終焼鈍は、1200℃までは25v%の窒素および75v%の水素の混合雰囲気にし、1200℃到達後には、100%水素雰囲気で10時間以上維持後、炉冷した。
【0059】
この鋼板に、リン酸塩およびシリカを含む絶縁コーティング層形成組成物を塗布し、約820℃温度で2時間熱処理して、絶縁コーティング層を形成した。
【0060】
絶縁コーティング層形成時に出側平均張力を下記表1のように調節した。
製造された方向性電磁鋼板の気孔、サブ結晶粒、その他結晶粒特性を表1にまとめ、界面層、ベースコーティング層および絶縁コーティング層の特性および鉄損を表2にまとめた。
【0061】
サブ結晶粒の位置は、全て気孔下部の特定領域にだけ存在することを確認した。
気孔の個数は、粒径10nm以上の気孔だけ測定した。
サブ結晶粒分率は、単位面積当たり体積に対して電子後方散乱回折(EBSD)方式で測定した。
【0062】
鉄損および磁束密度は、絶縁コーティング層形成直後および応力除去焼鈍を仮定した820℃温度で2時間熱処理した後、鉄損(W17/50)および磁束密度(B8)を測定した。Single sheet測定法を利用して、1.7Tesla、50Hzの条件で鉄損を測定した。また、800A/mの磁場で誘導される磁束密度を測定した。
絶縁コーティング層の残留応力は、3D曲率測定装備(ATOS core 45)を利用して測定した。一側面の絶縁コーティング層だけを除去して、鋼板の曲がる量を測定する方式で測定した。
【0063】
絶縁性は、ASTM A717国際規格に基づいて、Franklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。
耐食性は、JIS Z2371国際規格に基づいて、35℃、5%NaCL、8時間の条件で表面に生成された錆発生面積を示す。下記の式は曲率半径を利用した被膜張力計算法である(参考文献 M .Bielawski et all.,Surf.& Coat.Techno.,200(2006)2987)。3Dスキャナー専用ソフトウェアを利用して測定されたイメージから被膜張力を計算することができる。リン酸塩コーティング層除去前(R2)と除去後(R1)試片に対するR値を測定することができる。
【0064】
1. σ
f:皮膜張力
2. E
s: 基地層ヤング率(電気鋼板:176900Mpa)
3. U
s: 基地層ポアソン比 (電気鋼板:0.3)
4. t
f: 皮膜厚さ(mm)
5. t
s: 基地試片厚さ(mm)
6. R
2: 皮膜コーティング後基地層曲率半径(mm)
7. R
1: 皮膜コーティング前基地層曲率半径(mm)
【0065】
ベースコーティング層および微細粒界面層の残留応力は、放射光XRD装置を利用して測定した。X線残留応力測定方法は、結晶粒の格子面間距離をひずみゲ-ジで利用する方法である。試料が応力状態にあると応力方向と結晶面の相対角度により、格子面間距離に変化が発生する。引張方向に平行な格子面、即ち、ψ=0°の格子面間距離は、ポアソン効果で応力がzeroの時より小さく、引張方向に傾いたψ角度を有する格子面間距離は、応力がzeroの時より大きいと言える。X線残留応力は、Tilting角度Ψに応じたpeakshiftを測定する。従って、X線残留応力計算は、sin2Ψ法に従い、下記式のように表すことができる。
d
ψ: 格子面方向がψ方向に置かれた格子面のd-スペーシング
d
z: 格子面方向が試料表面に垂直な方向に置かれた格子面のd-spacing
d
o: ストレス・フリー格子面のd-スペーシング
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
表1~表3に示したように、絶縁コーティング層形成過程で張力を適切に制御した場合、式1値が7.0MPaを超え、サブ結晶粒が抑制され、微細粒界面層、ベースコーティング層および絶縁コーティング層の残留応力が増加し、磁性、絶縁性および耐食性が向上することが確認できる。一方、絶縁コーティング層形成過程で張力を適切に制御できない場合、残留応力が適切に与えられず、サブ結晶粒が多量形成され、磁性、絶縁性または耐食性が劣位したことが確認できる。
【0070】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することができることを理解できるであろう。従って、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【符号の説明】
【0071】
100 方向性電磁鋼板、
10 電磁鋼板基材、
11 サブ結晶粒、
12 微細粒界面層、
20 ベースコーティング層、
30 絶縁コーティング層、
31 気孔
【手続補正書】
【提出日】2023-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる電磁鋼板基材、
前記電磁鋼板基材の表面から電磁鋼板基材の内部方向に位置する微細粒界面層、
前記微細粒界面層上に位置するベースコーティング層、および
前記ベースコーティング層上に位置する絶縁コーティング層を含み、
下記式1を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板。
〔式1〕
([P]×[PS]+[F]×[FS]+[C]×[CS])/-([S]/2)≧13.0MPa
(式1中、[P]は絶縁コーティング層の厚さ(μm)、[PS]は絶縁コーティング層の残留応力(MPa)、[F]はベースコーティング層の厚さ(μm)、[FS]はベースコーティング層の残留応力(MPa)、[C]は微細粒界面層の厚さ(μm)、[CS]は微細粒界面層の残留応力(MPa)、および[S]は電磁鋼板基材の厚さ(μm)を示す。)
【請求項2】
前記微細粒界面層は、平均結晶粒径が0.1~5μmであることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記ベースコーティング層のRD方向の残留応力が、-50~-1500MPaであることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記絶縁コーティング層のRD方向の残留応力が、-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1
~請求項3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記電磁鋼板基材は、RD方向の残留応力が1~50MPaであることを特徴とする請求項1
~請求項4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記微細粒界面層は、RD方向の残留応力が-10~-1000MPaであることを特徴とする請求項1
~請求項5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記微細粒界面層の厚さは、0.1~5μmであることを特徴とする請求項1
~請求項6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記ベースコーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1
~請求項7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記絶縁コーティング層の厚さは、0.1~15μmであることを特徴とする請求項1
~請求項8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記絶縁コーティング層は、粒径10nm以上の気孔を含み、
前記電磁鋼板基材は、前記気孔中心からRD方向に1500μm以内の領域(A)および前記電磁鋼板基材の表面から前記電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)にサブ結晶粒が存在し、
サブ結晶粒は、結晶方位が{110}<001>から1°~15°角度をなし、
ND断面でのサブ結晶粒の面積分率が5%以下であることを特徴とする請求項1
~請求項9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項11】
前記サブ結晶粒は、ND方向の結晶粒の長さ(z)に対するTD方向の結晶粒の長さ(y)の比率(y/z)が1.5以下であることを特徴とする請求項10に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項12】
前記電磁鋼板基材の表面から前記電磁鋼板基材の内部方向に50~100μmの領域(B)に結晶方位が{110}<001>から1°未満のゴス結晶粒を含み、
ND面での前記ゴス結晶粒の平均粒径(L
G)に対するサブ結晶粒の平均粒径(L
S)の比率(L
S/L
G)が0.20以下であることを特徴とする請求項10
または請求項11に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項13】
Si:2.0~7.0重量%、およびSb:0.01~0.07重量%を含み、残部がFeおよびその他不可避的不純物からなる方向性電磁鋼板基材を製造する段階、
前記方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層形成組成物を塗布する段階、および
前記方向性電磁鋼板基材を熱処理して方向性電磁鋼板基材上に絶縁コーティング層を形成する段階を含み、
前記絶縁コーティング層を形成する段階において鋼板に与えられる張力が0.2~0.70kgf/mm
2であり、
鋼板全体長さに対して、張力の最大値(MA)と最小値(MI)が下記式2を満たすことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
〔式2〕
[MI]≧0.5×[MA]
【請求項14】
絶縁コーティング層を形成する段階は、550~1100℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項13に記載の方向性電磁鋼板 製造方法。
【国際調査報告】