(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240116BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20240116BHJP
B23K 9/32 20060101ALI20240116BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240116BHJP
C21D 9/50 20060101ALI20240116BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240116BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20240116BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20240116BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20240116BHJP
B23K 35/30 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C23C2/06
B23K9/23 K
B23K9/32 Z
B23K31/00 H
C21D9/50 101B
C22C38/00 301F
C22C38/44
C22C18/04
C22C18/00
B23K35/30 320A
B23K35/30 330A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023538046
(86)(22)【出願日】2021-12-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2021019411
(87)【国際公開番号】W WO2022139370
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179508
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨン-フン
【テーマコード(参考)】
4E001
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB01
4E001BB09
4E001DB03
4E001DD02
4E001DD04
4E001DD07
4E001DG04
4E001EA01
4E001EA03
4E001EA04
4E001EA05
4E001EA08
4K027AA22
4K027AA23
4K027AB05
4K027AB13
4K027AB32
4K027AB44
4K042AA24
4K042BA11
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DB03
4K042DB08
4K042DD02
4K042DD04
4K042DE05
(57)【要約】
【課題】耐食性及び耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 第1鋼板、第2鋼板、及び、前記第1鋼板と第2鋼板とを結合する溶接継手部、を含み、前記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つがZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板であり、前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含み、 前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn単相を60%以上さらに含み、
前記溶接継手部のビードトウ部からめっき層の間の距離が3~10mmであり、前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の硬度は、溶接前のめっき層の硬度に対して69.5%以上であり、前記Zn-Mg系金属間化合物の平均直径は1~30μmの範囲であることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼板、
第2鋼板、及び、
前記第1鋼板と第2鋼板とを結合する溶接継手部、
を含み、
前記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つがZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板であり、
前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含むことを特徴とする溶接構造部材。
【請求項2】
前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn単相を60%以上さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接構造部材。
【請求項3】
前記溶接継手部のビードトウ部からめっき層の間の距離が3~10mmであることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造部材。
【請求項4】
前記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、前記溶接継手部に最隣接した部分の硬度は、溶接前のめっき層の硬度に対して69.5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造部材。
【請求項5】
前記Zn-Mg系金属間化合物の平均直径は1~30μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造部材。
【請求項6】
第1鋼板及び第2鋼板を準備する段階、
ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ及び被覆アーク溶接棒の中から選択されたいずれか一つの溶接材料を用いて、前記第1鋼板及び第2鋼板をアーク溶接することにより溶接継手部を形成する段階、及び、
前記溶接継手部の表面温度を基準に、25~110℃/sの平均冷却速度となるように水冷する段階、を含み、
前記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つはZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板であることを特徴とする溶接構造部材の製造方法。
【請求項7】
前記溶接材料はソリッドワイヤであり、
前記溶接継手部は重量%で、C:0.09~0.15%、Si:0.35~0.39%、Mn:0.87~0.90%、P:0.004~0.022%、S:0.002~0.014%、Cr:0.01~0.11%、Ni:0.01~0.08%、Cu:0.01~0.06%、Mo:0.01%以下(0%を含む)、Al:0.01~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項8】
前記溶接材料はフラックスコアードワイヤであり、
前記溶接継手部は重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.47~0.53%、Mn:1.10~1.16%、P:0.009~0.025%、S:0.007~0.018%、Cr:0.03~0.13%、Ni:0.02~0.11%、Cu:0.02~0.08%、Mo:0.02~0.07%、Al:0.005~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項9】
前記溶接材料は被覆アーク溶接棒であり、
前記溶接継手部は重量%で、C:0.06~0.14%、Si:0.42~0.49%、Mn:0.83~0.91%、P:0.015~0.035%、S:0.010~0.022%、Cr:0.07~0.20%、Ni:0.06~0.15%、Cu:0.05~0.12%、Mo:0.05~0.10%、Al:0.01~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項10】
前記水冷する段階は溶接トーチを通過した後、3~10秒以内に冷却を開始することを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項11】
前記水冷する段階は15~60mm
3/hrの流量で行われることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項12】
前記水冷する段階は、溶接継手部で水冷が開始された時点から5~15秒間水冷が持続するように行われることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【請求項13】
前記溶接継手部を形成する段階は3~8kJ/cmの入熱量で行われることを特徴とする請求項6に記載の溶接構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法に係り、より詳しくは、
割れが発生しやすいアーク溶接時においても、耐割れ性に優れるとともに、耐食性及び結合性にも優れた溶接構造部材を効果的に提供できるだけでなく、めっき層の元素制限や追加なしにも、比較的経済的に上述の特性に優れた溶接構造部材を提供することができる耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、耐食性に優れ、自動車用部材、家電機器の内外板用部材、建築用部材など、様々な用途に使用されている。中でも、Zn-Al-Mg系めっき鋼板は長い間優れた耐食性の確保が可能であり、従来の亜鉛系めっき鋼板及びステンレス鋼の代替用としてその需要が増加している。
【0003】
このようなZn-Al-Mg系めっき鋼板のめっき層の耐食性が従来の亜鉛系めっき鋼板に比べて向上する要因としては、めっき層の表面においてMgの作用による緻密かつ安定的な腐食生成物が均一に形成されるためと推定される。
【0004】
一方、従来技術の一つとして、溶接構造部材を製造する際に高周波抵抗溶接法が用いられることもあった。しかし、このような溶接法の場合、母材を溶融及び圧接することにより2以上の母材を結合させるため、更なる設備の必要性によりコストが増加するという問題があるだけでなく、パイプ形状及びH型鋼にのみ適用可能であるという問題があった。
【0005】
そのため、アーク溶接使用の必要性が生じ、特にZn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて溶接構造部材を製造する際には、大型の設備投資なしで溶接機及び溶接材料だけでも様々な形状及び構造物にも適用可能な技術に対する需要があったため、アーク溶接法を利用していた。しかし、このようなZn-Al-Mg系めっき鋼板にアーク溶接を施すと、Mgの含有によりめっき層の液相線温度が低下し、残存するめっき層に割れが発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3149129号公報
【特許文献2】特許第3179401号公報
【特許文献3】特許第4475787号公報
【特許文献4】特許第3715220号公報
【特許文献5】特開2005-230912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐食性及び耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の課題は、上述の内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から本発明の更なる課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
第1鋼板、
第2鋼板、及び
上記第1鋼板と第2鋼板とを結合する溶接継手部、
を含み、
上記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つがZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板であり、
上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含む、溶接構造部材を提供する。
【0010】
また、本発明は、
第1鋼板及び第2鋼板を準備する段階、
ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ及び被覆アーク溶接棒の中から選択されたいずれか一つの溶接材料を用いて、上記第1鋼板及び第2鋼板をアーク溶接することにより溶接継手部を形成する段階、及び、
上記溶接継手部の表面温度を基準に、25~110℃/sの平均冷却速度となるように水冷する段階、を含み、
上記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つはZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板である、溶接構造部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐食性及び耐割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法を提供することができる。
【0012】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】アーク溶接中、トーチ及び母材の断面を模式的に示したものである。
【
図2】フィレット溶接継手部の断面構造を模式的に示したものである。
【
図3】
図2に示すビードトウ部の付近に該当する断面構造を拡大して模式的に示したものである。
【
図4】従来のZn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて製造される溶接構造部材に対するビードトウ部の付近に該当する断面構造を拡大して模式的に示したものである。
【
図5】
図3の状態で溶接継手部の表面温度を基準に、特定の冷却速度を有するように水冷を適用し、本発明のZn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて製造される溶接構造部材の断面図を模式的に示したものである。
【
図6】試験片における溶接方法を模式的に示したものである。
【
図7】本願の比較例10に対する溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織を光学顕微鏡(OM)500倍の倍率で撮影した写真を示したものである。
【
図8】本願の発明例2に対する溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織を光学顕微鏡(OM)500倍の倍率で撮影した写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用される用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0015】
本明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0016】
他に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものとして解釈される。
【0017】
従来、Zn-Al-Mg系めっき層を備えるめっき鋼板を用いて溶接構造部材を製造する際には、アーク溶接法を通常使用していた。ところが、このようなアーク溶接法を使用する際には、Zn-Al-Mg系めっき層が形成されためっき鋼板中にMgの含有によりめっき層の液相線温度が低下し、割れが発生しやすいという問題があった。
【0018】
すなわち、めっき鋼板のアーク溶接時には、めっき層を通過するアーク熱により表面上でめっき層が溶融する。ところが、Znの融点が約420℃であるのに比べて、Zn-Al-Mg系めっき層は液相線の温度が低いため、比較的長時間の溶融状態を保持する。
【0019】
これにより、Zn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板の場合、亜鉛めっき鋼板と比較して、アーク溶接時に溶融しためっき層の金属が液相を保持したまま素地鋼板の表面上に滞留する時間が長くなる。
【0020】
したがって、アーク溶接直後の冷却時に、引張応力状態となっている素地鋼板の表面が溶融しためっき層に長時間曝されると、その溶融しためっき層は、素地鋼板の結晶粒界に侵入して割れを起こす原因となる。このような溶融しためっき層の侵入による割れが発生すると、構造物の強度、耐疲労特性、耐食性等が低下するという問題が発生する。
【0021】
そこで、本発明者らは、Zn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板を用いて溶接構造部材を製造する際、アーク溶接法として、特にソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ、被覆アーク溶接棒を用いて溶接するときに割れが容易に発生するという問題を解決するために鋭意検討を行った。
【0022】
その結果、Zn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて溶接を行った後、冷却条件と、溶接継手部の組成を精密に制御することにより、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織として、面積分率で、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含むように制御することができ、これにより、溶融めっき層の侵入による割れを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
まず、溶接構造部材の製造方法について説明する。具体的に、本発明の一側面による溶接構造部材の製造方法は、第1鋼板及び第2鋼板を準備する段階を含み、上記第1鋼板及び第2鋼板のうち少なくとも一つはZn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板(あるいは、Zn-Al-Mg系めっき鋼板)である。ここで、上記Zn-Al-Mg系めっき層を備えためっき鋼板とは、素地鋼板、及び上記素地鋼板の少なくとも一面にZn-Al-Mg系めっき層が形成されたことを意味することができる。このとき、本発明の目的を損なわない範囲内で追加の層をさらに含むこともできる。
【0024】
一方、上記素地鋼板としては、本発明の用途に合わせて様々な鋼種を採用することができ、一例として、高張力鋼板を使用することもでき、素地鋼板の全平均厚さが1~6mmの範囲であるものを使用することもできる(このとき、上記厚さを測定する厚さ方向は、圧延方向と垂直な方向を意味する)。特に限定するものではないが、代表的な例として、上記素地鋼板としては、94.5Zn-6.4Al-3.1Mgの組成を有するものを使用することができる。
【0025】
また、上記第1鋼板及び第2鋼板のうち、Zn-Al-Mg系めっき鋼板と接合する相対鋼板(すなわち、残りの鋼板)はZn-Al-Mg系めっき鋼板であってもよく、Zn-Al-Mg系めっき鋼板以外のすべての鋼板にも適用可能である。すなわち、上記相対鋼板も用途に応じて様々な鋼種を採用することができる。
【0026】
本発明による溶接構造部材の製造方法は、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ及び被覆アーク溶接棒の中から選択されたいずれか一つの溶接材料を用いて、上記第1鋼板及び第2鋼板をアーク溶接することにより溶接継手部を形成する段階を含む。
【0027】
上記アーク溶接を用いる場合には、母材に該当する第1鋼板及び第2鋼板以外に、追加の溶接材料を用いて溶接継手部を形成する。したがって、微細な溶接継手部の組成変化に応じて溶接継手部の物性が変化するため、上述したように、耐食性及び耐割れ性に優れた溶接構造部材を得るためには、アーク溶接法の利用時に溶接継手部の組成に対しても精密な制御が必要である。
【0028】
そこで、上記アーク溶接時、溶接材料としてソリッドワイヤを使用する場合には、上記溶接継手部が重量%で、C:0.09~0.15%、Si:0.35~0.39%、Mn:0.87~0.90%、P:0.004~0.022%、S:0.002~0.014%、Cr:0.01~0.11%、Ni:0.01~0.08%、Cu:0.01~0.06%、Mo:0.01%以下、Al:0.01~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることができる。
【0029】
また、上記アーク溶接時、溶接材料としてフラックスコアードワイヤを使用する場合には、上記溶接継手部が重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.47~0.53%、Mn:1.10~1.16%、P:0.009~0.025%、S:0.007~0.018%、Cr:0.03~0.13%、Ni:0.02~0.11%、Cu:0.02~0.08%、Mo:0.02~0.07%、Al:0.005%~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることができる。
【0030】
また、上記アーク溶接時、溶接材料として被覆アーク溶接棒を使用する場合には、上記溶接継手部が重量%で、C:0.06~0.14%、Si:0.42~0.49%、Mn:0.83~0.91%、P:0.015~0.035%、S:0.010~0.022%、Cr:0.07~0.20%、Ni:0.06~0.15%、Cu:0.05~0.12%、Mo:0.05~0.10%、Al:0.01~0.02%を含み、残部がFe及びその他の不可避不純物からなることができる。
【0031】
このように、上記アーク溶接時、各溶接材料を使用することによる溶接継手部の組成が上述の条件を満たすように制御することで、溶融金属脆化割れ性を効果的に抑制することができ、溶接継手部の耐食性に優れるとともに、耐割れ性及び結合性に優れた溶接構造部材を提供することができる。
【0032】
このとき、上記アーク溶接、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ、被覆アーク溶接棒については、上述の説明を除き、当該技術分野において通常知られている事項を本発明にも同様に適用することができる。
【0033】
また、本発明によれば、上記溶接継手部を形成する段階は、5~8kJ/cmの入熱量で行うことができる。上記入熱量が5kJ/cm未満であると、溶接ビードの不均一な形成、あるいは溶込み不良の問題が生じることがあり、上記入熱量が8kJ/cmを超えると、オーバーラップ又は溶落が生じるという問題があり得る。
【0034】
本発明で使用されるアーク溶接中のトーチ及び溶接される鋼板の断面を
図1に模式的に示した。具体的に、溶接トーチは、溶接鋼板1の表面上の溶接部位3にアーク4を形成しながら矢印方向に進行している。溶接トーチの中央部に位置する電極と溶接ワイヤの周囲であるガスノズルからシールドガス2が噴出し、これによりアーク4及び高温に曝される溶接鋼板1の表面を大気から保護する。アーク4からの入熱により溶接部位3の一部は、溶接トーチが通過した後、急速に凝固して溶接金属で構成される溶接ビード(溶接継手部)を形成する。
【0035】
図2には、溶接構造部材の製造過程で形成される溶接継手部の断面構造を模式的に示したものであって、建設、自動車構造物等には、アーク溶接による各種の溶接継手が使用される。
【0036】
すなわち、
図2において、溶接される2つの鋼板(すなわち、第1鋼板及び第2鋼板;10、10’)が重なって配置され、上記2つの鋼板のうちいずれか一方の鋼板10の表面と、他方の鋼板10’の端面に溶接ビード11が形成され、両鋼板が互いに接合する。このとき、上記2つの鋼板10、10’の表面と溶接ビード11の表面とが接して形成するエッジ交点をビードトウ(toe)部12と呼ぶ。
【0037】
一方、通常アーク溶接を用いて、Zn-Al-Mg系めっき鋼板を用いた溶接構造部材を製造する際には、上述したビードトウ部12の付近でほとんど割れの問題が発生する。
【0038】
よって、
図3~
図5には、
図2に示すビードトウ部12の近傍に該当する部分を拡大した模式的な断面図を示した。具体的に、
図3は、Zn-Al-Mg系めっき鋼板を用いた溶接構造部材を製造するとき、アーク溶接時にアーク熱が通過した直後の高温溶接部近傍の断面状態を模式的に示したものである。溶接前の鋼板10の表面は均一なめっき層で覆われているが、アークの通過によりビードトウ部12の付近ではめっき層の金属が蒸発して消失した状態となり、これにより、めっき層蒸発区間15を形成する。これに比べて、上記ビードトウ部12からある程度距離のある部分では、元のZn-Al-Mg系めっき層が溶融し、Zn-Al-Mg系溶融めっき層13として存在する。また、上記ビードトウ部12から距離の離れた部分では、元のZn-Al-Mg系めっき層が溶融していない状態14として存在する。
【0039】
図4は、従来、Zn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて製造される溶接構造部材の断面図を模式的に示したものである。
図4の場合、溶接時にアーク熱が通過した直後の高温溶接部の近傍ではZn-Al-Mg系めっき層が消失し、これにより、
図3と同様にめっき層蒸発区間15を形成する。その後、上記めっき層蒸発区間15にZn-Al-Mg系溶融めっき層13が濡れ広がりが起こり、これによって鋼板10の表面はビードトウ部12まで全体がZn-Al-Mg系溶融めっき層13で覆われる。
【0040】
したがって、従来のZn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて製造される溶接構造部材の場合、
図4のように、ビードトウ部12の付近まで全てZn-Al-Mg系溶融めっき層の凝固領域15になってしまう。この場合には、上述したように、Zn-Al-Mg系溶融めっき層の金属液相線の温度が低いため、冷却後の凝固領域となる鋼板10の表面部分は溶接後の冷却過程により、Zn-Al-Mg系溶融めっき層と接触する時間が比較的長くなる。したがって、鋼板10の上記ビードトウ部12に近い付近では、溶接後の冷却により引張応力が発生しているため、鋼板10の結晶粒界中にZn-Al-Mg系溶融めっき層中の成分が侵入しやすい。これにより、結晶粒界に侵入した上記成分は、溶接継手部に割れを起こす要因となる。
【0041】
そこで、本発明者らは、上記溶接後、冷却条件を精密に制御しながら水冷を行うことにより、耐食性に優れるとともに、割れの発生を抑制可能な溶接構造部材を製造できることを見出した。例えば、上記溶接後、溶接継手部の表面温度を基準に、25~110℃/sの平均冷却速度となるように水冷を行うことができる。このとき、上記平均冷却速度が25℃/s未満のときには、めっき溶融層の短時間の凝固効果がなく、LMEが発生するという問題が生じる可能性がある。一方、溶接継手部の表面温度を基準に、上記平均冷却速度が110℃/sを超えると、素材金属のマルテンサイト変態により靭性低下の問題が生じる可能性がある。
【0042】
一方、
図5には、
図3の状態で、本発明の組成を有する溶接継手部を有するように溶接を行った後、冷却時に溶接継手部の表面温度を精密に制御するとともに、特定の冷却速度を有するように水冷を適用することにより、本発明のZn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて製造される溶接構造部材の断面図を模式的に示したものである。
【0043】
これにより、溶接直後にZn-Al-Mg系めっき層が蒸発して消失することで、めっき層蒸発区間15の鋼板表面まで到達しない状態でZn-Al-Mg系溶融めっき層が凝固することによって、応力が集中するビードトウ部12までのZn-Al-Mg系溶融めっき層による濡れ広がりが抑制される。その結果、冷却後にもめっき層蒸発区間15が保持される。すなわち、上記ビードトウ部12付近の鋼板表面は、Zn-Al-Mg系溶融めっき層と接触しない状態で冷却が終了し、これにより上記ビードトウ部12からZn-Al-Mg系溶融めっき層の凝固領域17の間に一定区間のめっき層蒸発区間15が確保される。
【0044】
したがって、上記ビードトウ部12の付近では、鋼板への溶融金属成分の侵入が防止され、これにより鋼板の鋼種に依存せず、優れた耐割れ性を確保した溶接構造部材を得ることができる。また、Zn-Al-Mg系溶融めっき金属層において、このような溶融めっき層の高さ位置が変化する如何なる溶接姿勢においても、上述した効果により濡れ広がりが抑制されることができる。例えば、下向き姿勢をはじめ、横向き溶接、立向き溶接、上向き溶接などにも同様に適用することができる。
【0045】
すなわち、Zn-Al-Mg系めっき鋼板を用いて溶接構造部材を製造する際に、アーク溶接時に形成された溶接ビードの近傍ではZn-Al-Mg系めっき層が蒸発して消失するが、従来は、溶接によるアーク熱が通過した後には、上記溶接ビードから数mm離れた位置でZn-Al-Mg系めっき層が溶融して形成された溶融めっき層において直ちに溶接ビード付近に濡れ広がりが発生した。
【0046】
しかし、本発明では、上述した蒸発により消失した状態を保持したまま冷却が完了するとともに、溶接継手部の組成を精密に制御するか、及び/又は溶接継手部に最隣接しためっき層の微細組織を制御することにより、溶接ビード 近傍への溶融金属層の侵入を抑制することで、割れを効果的に防止できるようになる。
【0047】
具体的に、本発明では、溶接トーチを通過した後に臨界時間以内に最適化された水冷の方法を適用することにより、Zn-Al-Mg系めっき鋼板部材の濡れ広がりが防止されることを見出した。
【0048】
すなわち、本発明は、少なくとも一つがZn-Al-Mg系めっき鋼板である2つの鋼板を溶接して得られる溶接構造部材の製造方法において、溶接直後(すなわち、溶接トーチを通過した後)数秒以内に水冷を適用することにより、耐割れ性に優れた溶接構造部材を効果的に提供することができる。
【0049】
したがって、本発明によれば、割れが発生しやすいアーク溶接時においても、耐割れ性に優れるとともに、耐食性及び結合性にも優れた溶接構造部材を効果的に提供できるだけでなく、めっき層の元素制限や追加なしにも、比較的経済的に上述の特性に優れた溶接構造部材を提供することができる。
【0050】
さらに、本発明によれば、Zn-Al-Mg系めっき鋼板の素地鋼板に対して特別な鋼種の制約なしに効率的に耐割れ性に優れた溶接構造部材を提供することができ、高張力鋼板にも適用可能であり、部品の形状や大きさにおいても制約なく適用することができる。
【0051】
具体的に、本発明によれば、上記水冷は、溶接トーチを通過した後、3~10秒以内に開始することができ、より好ましくは3~9秒以内に開始することができる。このような水冷の開始時間を、溶接トーチを通過した後3秒以上とすることで、進行するトーチに影響を与えない臨界時間となるため、溶接性能を確保することができる。また、上記水冷の開始時間を、溶接トーチを通過した後10秒以下とすることにより、溶接トーチを通過した後に生成される溶融めっき層が溶接ビードの付近まで進行することを防止し、耐割れ性を確保することができる。
【0052】
また、本発明によれば、上記水冷の流量は15~60mm3/hrであってもよい。上記水冷の流量を15mm3/hr以上とすることで、溶接トーチを通過した後に生成される溶融めっき層の冷却効果を十分に確保することができる。また、上記水冷の流量を60mm3/hr以下とすることで、不要な流量供給による作業環境の汚染を防止することができるだけでなく、過度な冷却により発生する問題を抑制することができる。
【0053】
さらに、本発明によれば、上記水冷を5~15秒間保持することができる。上記水冷の保持時間を5秒以上とすることで、水冷による溶融めっき層の冷却効果を十分に確保し、耐割れ性が向上する効果を確保することができる。上記水冷の保持時間を15秒以下とすることで、不要な流量供給による作業環境の汚染を防止することができるだけでなく、過度な冷却により発生する問題を抑制することができる。
【0054】
すなわち、本発明によれば、上記水冷は、溶接トーチを通過した後3~10秒以内に、15~60mm3/hrの水冷流量を5~15秒間トーチ通過部位に供給することが最も好ましい。
【0055】
あるいは、上述したように、溶接継手部の冷却速度を制御するためには、上述した各種の冷却条件の制御と同時に、溶接トーチを通過した後、3~10秒以内に5~38℃の範囲の温度に制御される水を溶接継手部の表面に噴射することができる。このとき、上記溶接継手部に噴射される水の液滴サイズは20~100μmの範囲に制御することができる。
【0056】
本発明の溶接構造部材は、第1鋼板;第2鋼板;及び上記第1鋼板と第2鋼板とを結合する溶接継手部を含む。ここで、上記第1鋼板、第2鋼板、溶接継手部については、上述した溶接構造部材の製造方法についての説明を同様に適用することができる。
【0057】
また、上記溶接構造において、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含む。
【0058】
本発明において、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち上記溶接継手部に最隣接した部分とは、めっき層蒸発区間15に該当する「溶接継手部のビードトウ部からめっき層が存在しない領域」までを除いて、Zn-Al-Mg系めっき層中において溶接継手部に最隣接した領域から鋼板の圧延方向に10mmとなる地点までの領域を意味することができる。
【0059】
したがって、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は、上述したZn-Al-Mg系めっき層中において溶接継手部に最隣接した領域から鋼板の圧延方向に10mmとなる地点までの領域に対して厚さ方向(すなわち、鋼板の圧延方向と垂直な方向)への切断面を光学顕微鏡(OM)500倍の倍率で観察して測定することができる。
【0060】
本発明によれば、上記Zn-Mg系金属間化合物とは、本発明において、アーク溶接直後に形成されたZn-Al-Mg系溶融めっき層が、後続する水冷工程によって急速冷却され、基地組織に該当するZn単相以外に形成される二次相であるZn及びMgを含む金属間化合物を意味する。このとき、上記Zn-Mg系金属間化合物とは、Zn及びMgの他にAl等の成分を追加でさらに含むことができ、例えば、Zn/MgZn2の二元相及びZn/MgZn2/Alの三元相などが挙げられる。
【0061】
また、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、上述したZn-Mg系金属間化合物を20~40%(より好ましくは24~38%)含む。本発明において、上記Zn-Mg系金属間化合物の面積分率が20%未満であると、LME防止の効果を期待し難く、40%を超えると、耐食性及び耐割れ性の両方に優れた本発明で目的とする溶接構造部材を製造できなくなる。
【0062】
また、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は面積分率で、Zn単相を基地組織として含むことができ、例えば、上記Zn単相を60%以上含むことができる。
【0063】
本発明によれば、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織が、最初から溶融していないZn-Al-Mg系めっき層(すなわち、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分以外の部分)の微細組織とは異なるように形成される。
【0064】
すなわち、上述したアーク溶接直後に形成されたZn-Al-Mg系溶融めっき層は、上述したように冷却条件を精密に制御した水冷工程により急速冷却され、最初から溶融しなかったZn-Al-Mg系めっき層とは異なる微細組織を形成する。このとき、上記溶接継手部に最隣接した部分において、Zn-Mg系金属間化合物の平均直径は、厚さ方向(鋼板の圧延方向と垂直な方向を意味する)への切断面を基準に、1~30μmの範囲であり得る。このような冷却の影響で形成されたZn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織が上述の特徴を満たすことにより、溶融金属脆化割れ性を効果的に抑制でき、これにより耐食性に優れるとともに、耐割れ性及び結合性に優れた溶接構造部材を得ることができる。
【0065】
本発明によれば、上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の硬度は、溶接前のめっき層の硬度に対して69.5%以上(100%以下)であり得る。ここで、上記溶接継手部に最隣接しためっき層の硬度とは、ビードトウ部12から最も近い地点におけるめっき層に対する硬度を測定した値を示す。
【0066】
また、本発明によれば、上記溶接継手部のビードトウ部12からめっき層の間の距離(めっき層蒸発区間15に該当)は3~10mmとすることができ、このようなめっき層蒸発区間15の長さは、溶接直後の特定範囲の平均冷却速度を満たすように水冷の方式を適用することによって制御することができる。
【0067】
具体的に、本発明によれば、上記めっき層の蒸発区間15の長さを3mm以上とすることにより、ビードトウ部12の付近における溶融めっき金属層による割れの発生を防止して耐割れ性を確保することができる。上記めっき層の蒸発区間15の長さを10mm以下とすることで、めっき層の形成による耐食性確保の効果を得ることができる。
【0068】
一方、本発明によれば、上記Zn-Al-Mg系めっき層は重量%で、Al:1~20.9%、Mg:0.04~10%、Ti:0.1%以下(0%を含む)、B:0.05%以下(0%を含む)、Si:2%以下(0%を含む)、Fe:2.5%以下(0%を含む)、残部Zn及びその他の不可避不純物で構成されることができる。また、本発明において、めっき層の組成を上述のようにすることで、溶接時における耐割れ性の確保という本発明の目的をより効果的に達成することができる。
【0069】
また、上記Zn-Al-Mg系めっき層の片面当たりめっき付着量は50~250g/m2であってもよい。上記めっき層の片面当たりめっき付着量を50g/m2以上とすることで、めっき鋼板の耐食性を確保することができ、250g/m2以下とすることで、溶接時にブローホールが発生することを防止し、溶接部の強度を確保することができる。
【0070】
すなわち、めっき層の片面当たりめっき付着量を適正量以上に制御することにより、めっき層の耐食性効果を十分に確保することができ、めっき層の犠牲作用による方式の効果を十分に得ることができる。
【0071】
したがって、本発明のように、溶接トーチを通過した後に発生した溶接ビードの近傍にめっき層蒸発区間が生じる場合には、上記めっき層の片面当たりめっき付着量を50~250g/m2に制御することが好ましく、50~200g/m2に制御することがより好ましい。
【0072】
一方、上述しためっき層の組成は、溶融めっき用組成をほとんど反映したものであって、溶融めっきの方法を特に限定するものではないが、一般に知られているインライン焼鈍型の溶融めっき設備を使用することが経済的な観点から好ましい。
【0073】
以下では、めっき層の成分系について優先的に説明する。このとき、下記の各成分の含量単位は重量%である。
【0074】
Al:1~20.9%
Alはめっき鋼板の耐食性を向上させ、且つ、めっき浴におけるMg酸化物系ドロスの発生を抑制する。このような効果を得るためには1%以上のAl含量を確保する必要がある。1%以上とすることで、耐食性の確保及びドロスの防止効果を確保することができ、20.9%以下とすることで、めっき層の下地において脆いFe-Al合金層の過成長を防止してめっき密着性を確保することができる。
【0075】
Mg:0.04~10%
Mgは、めっき層表面に均一な腐食生成物を生成させ、めっき鋼板の耐食性を著しく高める作用を示す。一方、上記Mgの含量を0.04%以上とすることで、耐食性向上の効果を確保することができ、10%以下とすることで、Mg酸化物系ドロスの発生を抑制し、めっき層の品質を確保することができる。また、上記Mg含量は1%~5%とすることがさらに好ましい。
【0076】
Ti:0~0.1%
溶融めっき浴中にTiを含有させると、溶融めっき時において他の成分の合金範囲を増大させ、製造条件の自由度が拡大するという利点がある。一方、Tiを0.1%以下含有することにより、他の成分の合金範囲を増大させる効果を発揮することができる。また、上記Ti含量は0.0005~0.005%とすることがより効果的であり、上記Ti含量を0.005%以上とすることで、他の成分の合金範囲を増大させる効果がある。一方、上記Ti含量を0.005%以下とすることで、析出物の生成によるめっき層表面の外観不良を抑制することができる。
【0077】
B:0~0.05%
溶融めっき浴中にBを添加することも、溶融めっき時において他の成分の合金範囲を増大させ、製造条件の自由度が拡大するという利点がある。一方、Bを0.1%以下含有することにより、他の成分の合金範囲を増大させる効果を発揮することができる。また、上記B含量は0.0001~0.005%とすることがより効果的であり、上記B含量を0.0001%以上とすることで、他の成分の合金範囲を増大させる効果がある。一方、上記B含量を0.05%以下とすることで、析出物の生成によるめっき層表面の外観不良を抑制することができる。
【0078】
Si:0~2%
溶融めっき浴中にSiを含有させると、めっき原板の表面とめっき層の界面に生成するFe-Al合金層の過度な成長が抑制され、溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板の加工性を向上させる上で有利である。したがって、上記Si含量を2%以下とすることで、上述しためっき鋼板の加工性を向上させる効果を発揮することができる。一方、上記Si含量は0.005~2%とすることがより効果的であり、上記Si含量を0.005%以上とすることで、Fe-Al合金層の過度な成長を抑制する効果が発揮され、上記Si含量を2%以下とすることで、溶融めっき浴中のドロス量の増大を抑制することができる。
【0079】
Fe:0~2.5%
溶融めっき浴中には、鋼板を浸漬通過させる特性上、Feが混入しやすい。したがって、めっき層中にはFeが2.5%以下含まれることができ、Fe含量を2.5%以下とすることにより、めっき鋼板の耐食性及び品質を確保することができる。一方、より好ましくは、上記Fe含量は0.0001~2.5%とすることができ、上記Fe含量を0.0001%以上とすることによって更なる清浄コストが発生せず、経済的である。
【0080】
以下、本発明のめっき鋼板について詳細に説明する。本発明において各元素の含量を示すときは、特に断らない限り、重量%を意味する。
【0081】
(実施例)
以下、実施例を通じて本発明についてより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0082】
(実験例1)
表1の組成を有する板厚1.5mm、板幅1000mmの冷延鋼帯を表3の組成を示す溶融めっきラインに通板し、様々なめっき層の組成を有する溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板を製造した。
【0083】
次いで、下記表2に示す溶接条件でアーク溶接を行い、耐溶融金属脆化割れ性を調べた。なお、めっき層の組成、めっき付着量、水冷条件、硬度値を表3及び4に示した。
【0084】
【0085】
【0086】
上述の実験に対する割れ発生の有無及び硬度値変化率の結果を下記表4に示した。本発明で規定する条件を満たすとき、めっき層蒸発区間15の長さが3~10mm確保され、液化金属脆化割れが防止されることが確認できる。
【0087】
[耐溶融金属脆化割れ性の試験方法]
図6に示すように、200mm×200mmの試験片(溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板部材)の中央部に対して、表2に示す溶接条件でアーク溶接を行い、試験片間溶接を行った。具体的には、溶接開始点Sから時計回り方向に溶接開始点Sを通過した後にもビードを重ねて溶接を進行させ、溶接ビードの重なり部分を生成した後の溶接終了点Eまで溶接を行った。溶接中、試験片22は平板上に拘束された状態で行った。この試験は、拘束条件を付与して、溶融金属脆化割れの発生が容易な状況で行った。
【0088】
溶接後、放射性非破壊検査を行って「溶融金属脆化割れ」の有無を判断し、下記のような基準でその結果を表4に示した。
【0089】
◎:割れが発生していない
○:表面割れ5μm以下の割れ跡のみがあり、ほとんど発生していない
×:表面割れ5μm超過及び伝播した割れが発生している
【0090】
[めっき層蒸発区間の長さ及び硬度値変化率の測定方法]
溶接ビード及びその近傍の鋼板を含むビード方向に垂直な断面について、鏡面研磨及び硝酸濃度0.2体積%のナイタル溶液でのエッチングを行った後、走査型電子顕微鏡で観察した。ビードトウ部12の近傍を観察することにより、
図5に示すめっき層蒸発区間15の長さを測定し、且つ溶接後のビードトウ部12の近傍のめっき層の硬度及び溶接前のめっき層の硬度を測定し、その変化率 を下記表4に示した。
【0091】
また、Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織を観察するために、厚さ方向への断面試験片に対して光学顕微鏡(OM)500倍の倍率で撮影した後、Zn/MgZn2の二元相及びZn/MgZn2/Alの三元相を含むZn-Mg系金属間化合物と、Zn単相(Znを70%以上含む)の面積分率を測定した。また、溶接継手部に対する引張強度(YS)を測定し、下記表5に示した。一方、下記の表において、空欄は「0」の場合を示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
上記表3~5に示すように、本発明で規定する上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織は、Zn-Mg系金属間化合物を20~40%含み、Zn単相を60%以上含む発明例1~3の場合、これを満たさない比較例1~3に比べて、耐割れ性に優れており、且つ溶接前後の硬度値変化率も69.5%以上であって、耐食性にも優れていることを確認した。
【0096】
(実験例2)
下記表5~8に記載の条件に変更した以外は、上述した実験例1と同様の方法で評価した。また、下記の方法により得られる溶接構造部材において、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ及び被覆アーク溶接棒を用いた各場合に対する溶接継手部の組成範囲を発光分光分析器装置で測定して下記表6に示した。一方、下記表において、空欄は「0」の場合を示す。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
上記表6~8に示す結果のように、本発明で規定する上記Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織及びアーク溶接後の冷却条件を満たす発明例4~59の場合には、溶接後の冷却時に、溶接トーチを通過した後3~10秒以内に30℃の範囲の温度に制御される水を溶接継手部の表面に噴射し、液滴のサイズは50μmの範囲に制御した。このとき、溶接部において割れが観測されず、溶接前後の硬度値変化率も69.5%以上を確保することができた。
【0101】
特に、上記実験例1と同様の方法で発明例4~59から得られるめっき鋼板について、Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織を観察し、発明例4~59の場合、Zn-Al-Mg系めっき層のうち、上記溶接継手部に最隣接した部分の微細組織がZn-Mg系金属間化合物を20~40%及びZn単相を60%以上(すなわち、残部Zn単相)含むことを確認した。
【0102】
これに対し、本発明で規定するめっき層の組成は満たすものの、本発明で規定する冷却条件を満たさないように空冷を行い、また溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織が本発明で規定する条件を満たさない比較例4~21の場合には、いずれも溶接部に割れが発生し、溶接前後の硬度値変化率も69.5%未満であった。
【0103】
また、比較例4~21の場合、いずれも試験片におけるめっき層蒸発区間15の長さが3mm未満であり、最も深い溶融めっき金属層による割れは、ほとんどの試料においてビードトウ部12からの距離が3mm以内の部位に発生した。
【0104】
これに対し、本発明例では溶融金属脆化割れが観測されず、まためっき層蒸発区間15の長さもいずれも3mm以上10mm以下であった。
【0105】
特に、溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織を、上述した明細書の測定方法と同様にして測定し、光学顕微鏡(OM)を用いた写真を
図7及び
図8に示した。
【0106】
図7は、本願の比較例10に対する溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織を示し、徐冷条件下で微細組織の均質化(
図7のAに該当)がなされることを確認した。
【0107】
一方、
図8は、本願の発明例2に対する溶接継手部に最隣接するめっき層の微細組織を示し、本発明による急冷によってZn単相からなる基地組織(
図8のBに該当)及び二次相であるZn-Mg系金属間化合物(二元相及び三元相を含む;
図8のCに該当)からなり、上記Zn-Mg系金属間化合物を20~40%の範囲で含み、上記Zn単相を60%以上含むことを確認した。このとき、上記Zn-Mg系金属間化合物は厚さ方向の切断面を基準に、1~30μmの平均直径を有することを確認した。
【符号の説明】
【0108】
1:溶接鋼板
2:シールドガス
3:溶接部位
4:アーク
5:溶接ワイヤ
6:電極
7:溶接トーチ
10、10’:溶接される2つの鋼板
11:溶接ビード
12:ビードトウ部
13:Zn-Al-Mg系溶融めっき金属層
14:溶融していないZn-Al-Mg系めっき層
15:めっき層蒸発区間
16:Zn-Al-Mg系溶融めっき金属層の凝固領域
17:Zn-Al-Mg系溶融めっき金属層の凝固領域
18:既存のめっき金属層
20:鋼管
21:めっき金属層
22:試験片
23:溶接ビード
24:ビード重なり部
S:溶接開始点
E:溶接終了点
【国際調査報告】