(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】受動的熱除去システムの監視方法および装置
(51)【国際特許分類】
G21C 15/00 20060101AFI20240116BHJP
F22B 37/02 20060101ALI20240116BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20240116BHJP
G21C 17/017 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G21C15/00 P
F22B37/02 D
F22B37/38 B
G21C17/017
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539120
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 RU2021000619
(87)【国際公開番号】W WO2022146189
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516233088
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー アトムエネルゴプロエクト
【氏名又は名称原語表記】JOINT STOCK COMPANY ATOMENERGOPROEKT
【住所又は居所原語表記】ul. Bakuninskaya,7,str.1 Moscow,105005 Russia
(71)【出願人】
【識別番号】520514768
【氏名又は名称】サイエンス アンド イノヴェーションズ - ニュークリア インダストリー サイエンティフィック デベロップメント,プライベート エンタープライズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベズレキン, ウラジミール・ヴィクトロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】クレクトゥノフ, オレグ・ペトロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】コレシュニク, イリヤ・ミハイロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァノヴァ, マリーナ・ウラジミロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】イグナティエフ, アレクセイ・アレクセイヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】セルギエフ, アレクサンドル・ユリエヴィチ
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA28
2G075DA14
2G075FA13
2G075GA14
(57)【要約】
【課題】原子力発電所の運転の安全性を高める。
【解決手段】加圧水型発電炉の格納容器の内部空間から受動的に熱を除去するシステムを監視するために、目視検査ツールを使用したパイプラインの個々の区間の内部領域を検査し、ループ管路の強制循環モードを検査することにより、パイプラインのアクセス不能領域内の追加の流れ抵抗を測定する。さらに、熱交換器内のチューブの総数に対する閉塞したチューブの割合を評価し、得られたデータを処理することで、受動的熱除去システムの状態を特定する。このための装置は、少なくとも1つの冷却水循環ループ管路を含み、さらに、部分的に水で満たされ、電熱器を備えた加熱タンク、排水を受け入れるタンクを含む排水ライン、そして測定手段を含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納容器の内部空間の受動的熱除去システムを管理する方法であって、
システムの外部損傷の有無についての目視検査を実施し、
受動的熱除去システムのループ管路が、目視制御による検査に関して、アクセス可能な区間とアクセス不能な区間との2つの区間に分割され、
移動式遠隔制御ビデオカメラを使用して、パイプラインの個々の区間の内部領域の検査を実施し、
ループ管路における強制循環モードの検査を行うことによって、パイプラインのアクセス不能な区間の流れ抵抗を決定し、
熱交換器内のチューブの総数に対する閉塞したチューブの割合を特定し、
先行する段階で得られたデータを処理し、格納容器の内部空間の受動的熱除去システムの状態を特定する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
腐食した成分の寄与を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
3Dモデリングを使用して、データ処理を実施する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの冷却水ループ管路を有し、格納容器の内部空間の受動的熱除去システムの監視方法を実施する装置であって、
格納容器の内部に配設され、熱交換チューブに接続された上部および下部マニホールド、および熱交換器に接続された上昇パイプラインおよび下降パイプラインを含む熱交換器と、
格納容器の外側において熱交換器の上方に配設され、下降パイプラインに接続された冷却水貯蔵タンクと、
上昇パイプラインに接続され、冷却水貯蔵タンク内に配設され、水圧的に後者に接続された蒸気排出バルブと、を備え、
更に、
電熱手段を有し、部分的に水で満たされた加熱タンクと、
システムから排出された水の受け入れタンクを含む排出ラインと、
ループ管路における水流速を計測する装置と、
圧力差計測装置と、を備える
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子力エネルギーの分野、特に、加圧水型原子炉の格納容器内からの受動的熱除去システム(SPOT ZO: Sistema Passivnogo Otvoda Tepla ZO)に関し、加圧水型原子炉の格納容器内からの受動的熱除去システムの動作可能性を判定し、原子力発電所の事故を防止するように設計されている。
【背景技術】
【0002】
従来、当該技術分野では、自然熱循環を利用して原子炉の格納容器から熱を除去するシステムが数多く設計されている。
【0003】
特許文献1に記載された格納容器の熱除去システムは、熱交換器および電源ユニットを備え、これらの一方が水圧装置と蒸気タービンを備える。熱交換器は、格納容器の下方に取り付けられ、入口と出口が格納容器を貫通し、低沸点冷却材の循環閉回路に接続される。この低沸点冷却材の循環回路は格納容器の下方に配置された発電機を有する。また、電源ユニットは、蒸気発生器を備え、電源ユニットの安全性を確保するための設備を有する。熱交換器は、格納容器のドームの下に設置され、環状配管の形で配置される。この環状配管は2段になっており、C字型のフィン付き配管を使用して互いに接続され、端部を格納容器の壁面へ向けており、水圧装置を覆って電源ユニットの安全性を確保する。
【0004】
特許文献2に記載されたシステムは、格納容器内に配置された熱交換器を少なくとも1つ含む冷却材の循環回路と、格納容器外で熱交換器の上方に配置された冷却材貯蔵タンクと、を備え、これらは互いに入口および出口のパイプラインによって接続される。このシステムには、さらに、蒸気溜めが冷却材貯蔵タンクに配置されており、後者に水圧的に連結され、出口パイプラインに接続される。
【0005】
本開示に最も近い先行技術は、特許文献3に記載されたシステムである。このシステムには、保護シェルの下に取り付けられた熱交換器が含まれている。熱交換器の入口と出口は、格納容器を貫通して、低沸点冷却剤の循環閉回路に接続されている。低沸点冷却材の循環回路には、発電機を備えたタービン、蒸気発生器を備えた電源ユニット、および電源ユニットの安全性を確保するための設備が含まれている。設備の1つは水圧装置と蒸気水タービンを備えている。蒸気発生器を備えた電源ユニットと、電源ユニットの安全性を確保する設備とは格納容器の下に配置されている。熱交換器は格納容器ドームの下に設置される。熱交換器は、2段の環状配管の形に配設されており、C字型のフィン付き配管で互いに接続されている。配管の端部は格納容器の壁面に向かって配向されており、電源ユニットの安全性を確保する水圧装置を覆っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ロシア国特許第2302674号明細書
【特許文献2】ロシア国実用新案特許第85029号明細書
【特許文献3】ロシア国特許第2595639号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、加圧水型原子炉の格納容器に用いる受動的熱除去システムの動作可能性を正確に決定するための方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る技術的解決策の好ましい実施形態の1つでは、格納容器内の受動的熱除去システムを監視する方法が提案されており、以下の特徴を有する:システムの外部損傷の有無に関する視覚的検査を実施する;受動的熱除去システムの通水路は、視覚的管理手段を用いた検査のためにアクセス可能なセクションとアクセス不能なセクションとの、2つのセクションに分割されている;専用の視覚的管理手段を使用して、パイプラインの個々のセクションの内部検査を実施する;強制循環モードで通水路を検査することにより、パイプライン内のアクセス不能なセクションにおけるの水圧抵抗の増加を特定する;熱交換器内におけるチューブの総数に対する閉塞したチューブの割合を決定する;前の段階で取得したデータの処理を実行し、格納容器内からの受動的熱除去システムの状態を決定する。
【0009】
さらに、腐食成分の影響も評価してもよい。
【0010】
前の段階で取得したデータの処理と、格納容器内からの受動的熱除去システムの状態の決定には、3Dモデリングを用いて実行してもよい。
【0011】
少なくとも1つの冷却水循環回路を含み、格納容器内からの熱を受動的に除去するシステムの監視方法を実施するための装置は、格納容器の内部に配置され、熱交換管で接続された上部ヘッダーと下部ヘッダーを有する熱交換器と、熱交換器に接続された上昇パイプラインおよび下降パイプラインと、格納容器の外側の熱交換器の上方に配置され、下降パイプラインに接続された冷却水貯蔵タンクと、上昇パイプラインに接続され、冷却水貯蔵タンク内に配置され、冷却水貯蔵タンクに水力学的に接続された蒸気排出弁と、を備え、さらに、電熱体を有し部分的に水で満たされた加熱タンクと、システムから排出された水を受け入れるタンクを有する排水ラインと、測定機器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この技術的な解決策を適用することによって得ることができる技術的な成果は、加圧水型原子炉の格納容器に用いる受動的熱除去システムの動作可能性を正確に判定し、原子力発電所で何らかの緊急事態が発生するのを迅速かつ確実に防止できることである。したがって、原子力発電所の運転中の安全性を向上させるだけでなく、アナログ機能を拡張することもできる。
【0013】
この技術的な成果は、システムの監視データを処理するとともに、加圧水型原子炉の格納容器に用いる受動的熱除去システムの設計変更を導入することによって、格納容器内から受動的熱除去システムを監視できるようにしたことで達成された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】追加の流れ抵抗のさまざまな値における、ループ管路内の水流速に対するアクセス不能区間の圧力降下の依存性を表す図である。
【
図2】ループ管路の追加の流れ抵抗と「無効化」された熱交換面の割合とを座標軸として限界曲線を表した図である。
【
図4】熱交換(TO)チューブの垂直部分における計算領域の断面図である。
【
図5】計算領域の下部における熱交換(TO)チューブの番号を示す図である。
【
図6】設定が異なる2つの温度分布を示す図である。
【
図7】設定が異なる2つの温度分布を示す図である。
【
図8】設定が異なる2つの速度分布を示す図である。
【
図9】システム内の総流量に対する熱交換(TO)チューブ内の温度差の依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これから技術的解決策の説明に使う幾つかの用語を以下に記載する。
【0016】
原子力発電所(NPP: Nuclear Power Plant)は、原子炉を使用して、電気(場合によっては熱)エネルギーを生成するために必要な施設と機器の組み合わせを含む原子力施設である。
【0017】
SPOT ZO(Sistema Passivnogo Otvoda Tepla ZO)は、原子力発電所(NPP)の加圧水型原子炉の格納容器の内部から受動的に熱を除去するシステムである。
【0018】
BAOT(Bak Avariynogo Otvoda Tepla)は、緊急除熱タンクである。
【0019】
TO(Teploobmennik)は、熱交換器である。
【0020】
3次元モデル(3Dモデル)は、物体の3次元デジタル画像である。3Dモデルの作成は、3Dモデリング用の特別なソフトウェアで行われる。
【0021】
本技術的解決策によれば、加圧水型原子炉の格納容器の内部体積のための受動的熱除去システムの設計を変更することによって、格納容器の内部体積のための受動的熱除去システムを監視できるようにするとともに、システムの監視データを処理することによって、加圧水型原子炉の格納容器の内部体積のための受動的熱除去システムの運用性の正しい判定を確実かつ迅速化し、原子力発電所における如何なる緊急事態の発生も阻止し、これによって、原子力発電所の運転時の安全性を向上させるとともに、アナログ機能性を拡張する、という技術的成果が達成される。本技術的解決策によれば、格納容器の内部空間のための受動的熱除去システムの監視方法は、次の操作を特徴とする。
【0022】
システムの外部損傷がないか目視検査を実施する。
【0023】
格納容器のSPOT ZOの運用性 (すなわち、その機能を実行する能力) は、まず一連の実験と数値計算の結果に基づいて確認される。システム要素の輸送およびと設置の結果、システム特性が設計値から逸脱する可能性がある。例えば、熱交換(TO)パイプラインやチューブの損傷(破損、変形)や内部の閉塞(詰まり、溶接の欠陥)が挙げられる。さらに、要素の材料の腐食が、時間の経過とともに、システムの性能に影響を与える恐れがある。以上すべての場合において、システムの運用性が損なわれる可能性がある。このため、システムの設置やシステム要素の交換に関連する修理作業を実施した後で、格納容器のSPOT ZOの運用性を確認する必要がある。
【0024】
純粋に機械的な理由の他にも、システム特性が設計値から逸脱すると、システムの運用中に発生する熱交換チューブの内面に腐食堆積物が発生する恐れがある。
【0025】
システムが設計通りに運用された場合に、熱交換チューブ内の水から格納容器内の蒸気およびガス媒体への熱の流れに対する熱抵抗として、腐食箇所がどの程度、寄与するかの評価:システム要素の体積内および表面上の腐食生成物は主としてヘマタイト(Fe2O3)に代表されるものであり、設計運用期間(60年間)の間にシステム要素の表面に堆積したヘマタイト層の厚みδHは次の通りである。
【0026】
【数1】
異方性はヘマタイトの熱伝導特性に固有のものである。結晶の光軸方向に平行に測定した成分が熱伝導率の最小成分λHである。その値は次の通りである。
【0027】
【数2】
熱交換チューブの管壁材料の熱伝導率λWは
【0028】
【数3】
であり、熱交換チューブの管壁の厚みδWは
【0029】
【数4】
である。
腐食によるチューブ壁の厚みの損耗は控え目に無視してもよい。設計通りの動作モードにおける水からチューブ壁への熱伝達係数α1と、蒸気およびガス媒体からチューブ壁への熱伝達係数α2とを控え目に見積もると
【0030】
【0031】
【0032】
蒸気およびガス媒体から水への熱伝達に対する総熱抵抗RΣは、次のように表すことができる。
【0033】
【0034】
【0035】
システムの設計動作モードにおける熱流に対する熱抵抗に対する腐食成分の寄与は、次のような熱抵抗の比εから推定することができる。
【0036】
【数9】
パラメーターに数値を代入すれば、熱抵抗の比εの控えめな推定値を得ることができる。
【0037】
【数10】
したがって、設計寿命の間、腐食がシステムの性能に与える影響は無視することができる。
【0038】
受動的熱除去システムのループ管路は、目視制御による検査のためにアクセス可能なセクションと不可能なセクションとの2つのセクションに分かれている。
【0039】
格納容器のSPOT ZOループ管路は、目視制御による検査のためにアクセス可能なセクションとアクセス不能なセクションとの2つのセクションに分かれている。パイプラインの個々の区間の内部領域は、特別な用途の目視制御手段を用いて検査を実施する。
【0040】
外部損傷の有無は目視検査によって確認することができる。パイプラインの各セクションの内部領域もまた特別な用途の目視制御手段(携帯遠隔制御ビデオカメラ)を用いて検査することができる。これは、タンク内のパイプの締め切りバルブから、カメラが通過するのを妨げる何らかの障害物 (バルブ、急な屈曲) までのパイプラインの区間を指す。目視による検査ができないパイプラインの他の区間や熱交換(TO)チューブについては、内部領域に障害物がないことを確認するために他の手段を講じる必要がある。
【0041】
ループ管路の強制循環モード検査を行えば、パイプラインのアクセス不能な区間における追加の流れ抵抗を測定することができる。
【0042】
ループ管路の比較的に高い流量の強制循環モードでは、パイプラインのアクセス不能な区間における(設計値との関係で)追加の流れ抵抗を決定する検査が行われる。上昇パイプラインの垂直部分に空気を供給すれば、循環流を発生させることができる。
【0043】
このモードの計算は、追加の流れ抵抗のさまざまな値について実行される。この計算結果に基づいて、追加の流れ抵抗ζのさまざまな値におけるループ管路Gにおける水流速に対するアクセス不能区間における圧力降下△Pの依存を表すグラフ(すなわち、共通の座標軸における曲線の集合)がゼロから限界曲線(
図2を参照)ごとに決定される最大許容値(
図1を参照)までプロットされる。
【0044】
水圧テストでは、ループ管路における水流速とアクセス不能区間での圧力降下とのパラメーターが測定される。これらの依存関係のグラフを使用すると、これらのパラメーターの測定値に対応するΔPとGとの平面上の点を使用して、ループ管路における追加の流れ抵抗の実際の値を決定できる。
【0045】
熱交換器内のチューブの総数に対する閉塞したチューブの割合を決定する。
【0046】
この目的のために、格納容器内の蒸気および空気の媒体と熱交換器(TO)を流れる水の間の熱交換が検査される。熱試験には、この目的のために特別に設計された装置が使用される。BAOTからパイプラインを通った水は、発熱体を備えた加熱タンクに流入する。このタンクでは、システムの動作中に水が飽和温度まで加熱される。この加熱タンクの蒸気室はBAOTの空気室に接続される。したがって、BAOTの水室と加熱タンクの間のパイプライン上の開いたバルブにより、後者は容器を連通させる。一定の圧力で沸騰させることで、熱交換器に入る熱水の温度を安定に保つという思想である。水は加熱タンクからパイプラインを通ってSPOT ZOの上昇パイプラインに供給される。格納容器のSPOT ZOバルブが両方とも閉じているため、ループ管路の熱交換器(TO)を含む区間に水が供給される。水は、熱交換器(TO)で冷却された後、SPOT ZOの下降パイプラインに接続されている排水パイプラインに供給される。水は、排水ラインから、システムバルブ室内に配設された特別な貯蔵タンクに供給される。
【0047】
このため、熱交換器を通じた水の流れと、格納容器内の媒体による熱交換(TO)との両方が、通常の熱交換動作モードと比較して、反対方向に進行する。つまり、水は 熱交換器(TO)を通って上から下へ流れ、格納容器内の媒体よりも高い温度になる。
【0048】
このモードの計算は、熱交換(TO)チューブの数がさまざまな値、つまり熱交換面積の「作業」領域の割合の異なる値に対して実行される。計算結果に基づいて、「無効化」された熱交換面積の割合のさまざまな相対値に対する温度差△Tの依存性を表した一連のグラフが、ゼロから限界曲線ごとに決定される最大許容値までプロットされる(
図2を参照)。
【0049】
計算機プログラムを活用して、最も深刻な事故に関する計算を行った。これらの計算では、次のような破壊的要因(つまり、システム動作パラメーターの低下)が存在する状況下での格納容器SPOT ZOの動作がモデル化された:1)システムのパイプラインの閉塞、2)熱交換チューブの一部の閉塞。上述の要因の1つ目は、ループ管路における追加の局所的な流れ抵抗によってモデル化され、2つ目は、熱交換チューブの一部を「無効化」することでモデル化される。
【0050】
これらの計算に基づいて、ループ管路ζにおける追加の流れ抵抗と、「無効化」された熱交換(TO)面積△Sの割合との座標系において、限界曲線がプロットされる。限界曲線は、深刻な事故の過程で格納容器内の圧力が最大許容値に達した場合に、ζと△Sの値の範囲を表す。深刻な事故の影響に関連して、限界曲線は、ξと△Sの値全体の領域を許容値(曲線より下)と許容不能値(曲線より上)のサブ領域に分割する(
図2を参照)。上述のシリーズの別のグラフはパラメーターの別の値に対応し、これらのパラメーターのデータは測定の結果として取得される。これらのパラメーターには、熱交換器の入口の水温、格納容器内の温度、格納容器の壁の内張りの温度と放射率、熱交換(TO)チューブの外面の温度と放射率、タンク内の水位が含まれる。格納容器内の空気の相対湿度に対する計算結果の依存性を評価したところ、このパラメーターの影響は無視できることが分かった。測定結果を処理する際に、一連のグラフから、パラメーターの値が測定値にできるだけ近いグラフが選択される。このグラフの曲線を使用すると、「無効化」された熱交換面積の相対値が決定され、その結果、閉塞した熱交換チューブの数が、これらのパラメーターの測定値に対応する△TおよびG平面上の点に対応して決定される。
【0051】
前段階で取得されたデータが処理され、格納容器の内部空間からの受動的除熱システムの状態が確認される。
【0052】
ループ抵抗ξと「無効化」された熱交換面積ΔSの相対値とに関してテスト中に得られたデータは、限界曲線と比較される(
図2を参照)。測定データを処理した結果、得られたこれらのパラメーターの値に対応する点が限界曲線を下回っている場合、システムがその機能を実行する能力について結論を引き出すことができる。
【0053】
システムの動作性の観点からテスト結果に満足できない場合には、赤外線カメラを使用して熱交換チューブの追加検査を行ってもよい。これを行うために、熱試験モード(熱交換器チューブに熱水を流す)では、赤外線カメラを使用して熱交換器チューブの検査を実行し、発熱が比較的低い区間を特定する。熱交換(TO)チューブにそのような区間が存在すれば、そのチューブを通る流体の自由な流れに対する障害物が存在することが分かる。
前段階で取得したデータの処理と、格納容器の内部空間からの受動的な熱除去システムの状態の評価は、3Dモデリングを使用して実行できる。例えば、格納容器のSPOT ZO熱交換器の区間における自由対流と混合対流による共役熱伝達のモデル化について説明する。
【0054】
熱交換(TO)チューブが対称配置されている場合には、計算領域はタイプ1のチューブ全体と、空気に囲まれたタイプ2の熱交換チューブの2分の1と、からなる区間となる。水は、所定の速度と温度で熱交換チューブの入口境界に供給される。熱交換(TO)チューブに水を供給するコレクターは考慮されていない。計算領域の幾何学的形状を
図3に示す。また、
図4は、計算領域の断面図である。
【0055】
表1は、計算領域の主要な幾何学的特徴を示している。
【0056】
【表1】
計算領域のZ軸方向における外側の境界は、計算領域の下部では3口径分、上部では8口径分、離れている。
【0057】
加熱された水は、所定の速度と温度で熱交換(TO)チューブに供給される。水は、強制的な流れと重力場における浮力との作用によって、熱交換チューブに通ってZ軸の反対方向(計算領域の上部から下部へ)に流れる。チューブの出口境界ではゲージ圧がゼロに設定される。出口境界で逆流が発生した場合、チューブの出口区間に平均温度の水が供給される。
【0058】
空気と鋼管、鋼管と水などの相境界には、第4種の境界条件が設定される。これは、相境界における温度と熱流束が等しいことを意味する。
【0059】
水で加熱された鋼製の熱交換(TO)チューブが空気を加熱すると、空気は重力場の浮力の作用によりZ軸方向に上昇する。加熱された熱交換(TO)チューブは、自由対流によって熱を除去される。計算領域の入口と出口の境界では、空気のゲージ圧はゼロ、気温はTrnd.av.=30℃に設定される。
【0060】
熱交換(TO)チューブ内の水の流れ方には2つのパターンが考えられる:計算領域の3つのチューブすべてに水を供給するパターンと、加熱された水が計算領域のチューブの1つに供給されないパターンと、である。
【0061】
2つ目のパターンでは、閉塞、熱交換・凝縮器の不適切な取り付け、そしてその他の起こり得る故障の場合に熱交換(TO)チューブが動作不能になる可能性をシミュレートする。2つ目のパターンのパラメーターは、熱交換(TO)チューブの故障の最大可能率が1つの格納容器SPOT ZOの熱交換(TO)チューブの総数の25%であるという条件の下で取得される。格納容器SPOT ZOの1つの熱交換・凝縮器に132本のチューブ(100%)があるとすると、熱交換器の最小可能なチューブ数は99本(75%)になる。
図5は、便宜上採用された計算領域内のチューブの番号付けを示している。第3号のチューブは、シミュレーション上で無効化されたチューブである。
【0062】
シミュレーションで変動した主なパラメーターは、システム内の総水流速である。すなわち 熱交換器(TO)全体(チューブ数132本)の流速と熱交換(TO)チューブの入口の水温である。同時に、無効化されたチューブを使用したパターンでは、システム内の総水流速が一定のままであるという事実を考慮して、速度を計算した。シミュレーションでは、熱交換器(TO)チューブの入口での温度Tent=100℃という温度設定が考慮される。
【0063】
チューブ入口速度は、システム内の総流量とチューブの数から求められる。チューブの入口での速度は次の式から得られる:
【0064】
【数11】
ここで、Gはシステム内の総流速[kg/秒]、Nは 熱交換(TO)チューブの数、Pinは水の密度[kg/m3]、Sin は入口区間の面積[m2]である。
【0065】
輻射による熱交換は、空気媒体と鋼製の熱交換チューブでのみ考慮される。チューブ内の計算領域では、輻射は考慮されない。熱交換(TO)チューブの外面と計算領域の外側境界の輻射係数は、ε=0.8に等しいとみなした。
【0066】
空気媒体の初期条件は次の通りである:ゼロ速度分布と周囲温度Tamb.av.=30℃、ゼロ速度分布の水温Tin、チューブの温度は水媒体の温度Tinとした。
【0067】
空気媒体の流れと熱伝達はグラスホフ数 Grによって特徴付けられ、想定されるすべての気流モードで、共存対流乱流の典型値であるGr≒1011のオーダーをもつ。この点に関して、熱交換(TO)チューブの周囲の自由対流は乱流であり、レイノルズ平均ナビエ・ストークス方程式を閉じるために、拡張壁面近傍関数を備えた半経験的標準k-ε乱流モデルを選択した。ブシネスク近似では浮力が考慮される。
【0068】
輻射伝達を考慮して、Surface-to-Surfaceモデル(S2S、「表面-表面」モデル)を選択した。共役熱伝達の数値シミュレーションでは、自由および混合対流を利用して、630万セルの非構造化計算グリッドを構築した。
【0069】
すべてのシミュレーションは非定常定式化で実行した。主な計算では、時間ステップを等しく0.5秒に取った。ナビエ・ストークス方程式および対流拡散熱伝達方程式は、Segregated Flow法を用いて解いた。計算は空間と時間の2次の離散化精度で行った。チューブの出口と熱交換(TO)チューブの表面の平均温度がある一定の値に達すると、問題は収束したと考える。
【0070】
下記は、熱交換チューブの入口温度が100℃である場合の、さまざまな質量流速における計算結果である。
図6~8は、全数のチューブを使用したパターンと、チューブの動作不能をシミュレートするための、チューブの1つに水が供給されていないパターンと、について速度および温度分布を示す。
【0071】
図9は、システム内の水流速に対する熱交換(TO)チューブ内の温度差の依存性を示す。表2は、熱交換チューブの表面の比熱流束、平均温度および熱交換チューブの外表面の熱伝達係数を示す。
【0072】
【表2】
表2は、システム内の流量が増加すると、チューブの内面と外面の比熱流束も増加することを示している。
図9は、システム内の総流速に対する熱交換(TO)チューブ内の温度差の依存性を示している。システム内の流速が増加するにつれて、入口と出口の間の温度差が減少することが分かる。
【0073】
入口の水温が100℃の場合、計算モデルからチューブを1本無効化すると、残りのチューブの流速が増加する。したがって、チューブの出口における水温が高くなり、チューブが1本無効化した場合の温度差は、すべての熱交換チューブが動作している場合よりも小さくなる。
【0074】
熱交換器への入口の水温が100℃の場合における、2つのパターン間の温度差(熱交換チューブの面積が100%の熱交換器-凝縮器と、部分的に75%だけ動作している場合)は約5℃である。記載された技術的解決策の実施形態の1つにおいて、格納容器の内部空間からの受動的熱除去システムは、さらに次を備える:
A)ループ管路の強制循環モードを検査することにより、パイプライン内のアクセス不能区間における追加の流れ抵抗を決定するための次の測定装置:
●ポータブル超音波流速計Fluxus ADM F601
流速範囲0.01~25m/s。体積流速測定誤差1% RV。流速計の取り付け方には2つのオプションがある:
校正有りオプション。このオプションでは、テスト中の流速計の設置予定場所が、SPOT ZOバルブ室の下降パイプラインの直線部分である。下降パイプラインにおける区間の選択は、上昇区間の水圧試験中に二相流状態が実現されるという事実による。実際の流速測定条件と流速計の設置に関する規制要件(直線部分の長さの不足)との間に差異があるため、システムの各ループに対してこのデバイスを事前に校正する必要がある。校正は、テストに先立って2番目の(参照用)流速計を使用して実施される。2番目の流速計は、最初の流速計と直列に設置されるが、そのような設置場所は設置に必要な要件が満たされている。格納容器どうしの間の空間内にあるシステムの下降パイプラインの区間がそのような場所である。 校正は次のように行う。水圧テストモードでは、両方の装置を同時に使用して使用流速範囲の数点で流速を測定する。これらの測定に基づいて検量線が作成され、後でテスト結果を処理する際に使用される。テスト中の測定の場合、校正済みの機器は、校正の際と同じ場所の同じ位置に設置される。流速計の設置場所は校正中に記録し、マーカーでマークする必要がある。流量計が取り付けられている区間の形状がループ管路ごとに異なるため、システムのループ管路が異なれば、検量線もまた異なる可能性があることに留意する必要がある。
【0075】
校正無しオプション。このオプションでは、テスト中の測定のために、流速計が格納容器間の下降パイプラインの区間、つまり、最初のオプションで参照用の(校正)装置を取り付けたのと同じ場所に取り付けられる。
●送風性能1,000リットル/分(約0.02kg/秒)のエアコンプレッサー。システムに供給される空気中に油蒸気などの不純物が存在しないことが、コンプレッサーを使用するための前提条件である。
●上記のコンプレッサー、風速計および風速を円滑に調整するための空気バルブを備えた送風管。送風管はAA802ゲートバルブのバイパスの水平区間に設けられたノズルに取り付けられる。
●循環ループ管路のアクセス不能区間における圧力差を測定するための差圧計。
【0076】
ループ管路における強制循環モードを検査することによってパイプラインのアクセス不能区間における追加の流れ抵抗を決定するために以下を実行する:
1.システムおよび送風管のバルブを開放する。
2.エアコンプレッサーに電源を投入する。
3.送風管の空気バルブを開放し、ループ管路における水流速が15÷20kg/秒に対応する位置に設置される。
4.ループ管路における水流速を制御して、定常運転モードに達した瞬間を決定する。定常状態に達するまでの時間の設計値は50÷100秒である。
5.定常運転モードに達するまで次のパラメーターを計測する:送風管内の風速、ループ管路内の水流速、SPOT ZOタンク内の水位、アクセス不能区間における圧力差。
6.送風管の空気バルブを閉鎖する。
7.エアコンプレッサーを停止する。
8.システムおよび送風管のバルブを閉鎖する。
B)熱交換器内のチューブの総数に対する閉塞したチューブの割合を特定するために、格納容器のSPOT ZOの設計には以下が含まれる:
1)部分的に水で満たされた加熱タンクには合計出力レベルが0~75[kW]に調整することができる電熱体が設けられている。タンクの蒸気室はパイプラインによってBAOTの空気室に接続されている。加熱タンクの貯水室は格納容器SPOT ZOの上昇パイプラインのバルブのバイパスにパイプラインを用いて接続されている。
2)システムの排水を受け入れるタンクと流速計とを有する排水ライン。このラインはシステムパイプラインの下降区間にあるノズルに接続される。
3)水温計と、排水ラインに設けられ、水流速を円滑に調整する空気バルブ。
4)熱交換(TO)チューブおよび格納容器壁の表面温度を直接計測する手段を備え、これら表面における輻射係数の決定に用いられる高温計。
5)熱交換(TO)チューブおよび格納容器壁の表面於度を直接計測する手段。
6)メインテストの結果が不十分な場合に追加の検査を行うための赤外線カメラ。
【0077】
熱交換器内のチューブの総数に対する、閉塞したチューブの割合を特定するために以下を行う:
1.BAOTと電熱器とを接続するバルブを開放する。
2.加熱タンク内の水位を測定する。水位が公称値に近づいたら、電熱器のスイッチをオンする。電熱器の合計電力は75kWに設定されている。
3.加熱タンク内の水温は定期的に測定される。温度が100℃に達すると、排水ラインのバルブが開放される。排水ラインの空気バルブは排水ラインの水流速0.2kg/秒に対応する位置に配設されている。
4.熱交換器の入口および出口の温度を制御することによって、定常運電モードに達する瞬間を特定する。加熱を開始(電熱器のスイッチをオン)してから定常運転モードに達するまでの時間の目安は、約10,000÷12,000秒である。
5.次のパラメーターは定常運転モードに達した際に計測される。SPOT ZOタンク内の水流速、水位および温度、熱交換器の入口および出口の水温、加熱器の下流側の水温、格納容器内の媒体温度、加熱タンク内の水温と水位。次のパラメーターもまた計測する(2.5章の脚注1)。直接(接触)計測および高温計を用いた(非接触)計測による熱交換(TO)チューブの表面温度。直接(接触)計測および高温計を用いた(非接触)計測による格納容器壁の表面温度。
6.電熱器のスイッチをオフする。
加熱ラインと排水ラインのバルブは閉鎖される。
【0078】
格納容器の内部空間からの受動的熱除去システムとその実装のための装置を説明することを目的として、特定の実施例がここに記載されていることと、技術的解決策の枠組みと本質の範囲内でさまざまな変形例が可能であることは、この分野の専門家にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示は、原子力エネルギーの分野、特に、加圧水型原子炉の格納容器内からの受動的熱除去システムの動作可能性を判定し、原子力発電所の事故を防止する方法および装置として有用である。
【符号の説明】
【0080】
1~3…熱交換チューブ
【国際調査報告】