IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アラ-コーティングズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲーの特許一覧 ▶ バイオ ゲート アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特表2024-502830コーティングおよび基材のコーティング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】コーティングおよび基材のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20240116BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 15/46 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C03C17/36
C03C23/00 D
A61L15/46 100
A61L27/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540701
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2021087496
(87)【国際公開番号】W WO2022144299
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】102020135064.3
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523247289
【氏名又は名称】アラ-コーティングズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Ara-Coatings GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Enschedestrasse 14, 48529 Nordhorn, Germany
(71)【出願人】
【識別番号】520222966
【氏名又は名称】バイオ ゲート アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Bio-Gate AG
【住所又は居所原語表記】Neumeyerstrasse 28-34, 90411 Nuernberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ ドムニック
(72)【発明者】
【氏名】ペーター シュタインリュッケ
【テーマコード(参考)】
4C081
4G059
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA12
4C081AB31
4C081BA14
4C081CE01
4C081CF132
4C081DA02
4C081DC03
4C081DC04
4G059AA01
4G059AB05
4G059AC18
4G059AC22
4G059DA01
4G059DA04
4G059DB02
4G059EA05
4G059EA13
4G059EB09
4G059GA01
4G059GA02
4G059GA05
4G059GA14
(57)【要約】
医療技術および衛生分野のコーティングは、少なくとも2つの異なる部分領域(4,5,11)を含み、部分領域(4,5,11)の少なくとも1つは、主成分としてケイ素を含む、液体装填可能な多孔質層(3,6)として形成されており、さらなる部分領域(2)は、多層状に、すなわち、殺生剤層と、殺生剤層を覆う輸送制御層とから構成されており、多孔質層(3,6)が有するケイ素割合(重量%単位)は、輸送制御層のケイ素割合の少なくとも1.4倍でかつ最大で5倍である。ここで、殺生剤層と輸送制御層とから構成された部分領域(2)上に、幾何学的に定められた面状の構造化が施された少なくとも1つの多孔質層(3,6)が存在する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療技術および衛生分野のコーティングであって、前記コーティングは、少なくとも2つの異なる部分領域(4,5,11)を含み、前記部分領域(4,5,11)の少なくとも1つは、主成分としてケイ素を含む、液体装填可能な多孔質層(3,6)として形成されており、さらなる部分領域(2)は、多層状に、すなわち、殺生剤層と、前記殺生剤層を覆う輸送制御層とから構成されている、コーティングにおいて、前記多孔質層(3,6)が有するケイ素割合(重量%単位)は、前記輸送制御層のケイ素割合の少なくとも1.4倍でかつ最大で5倍であり、前記殺生剤層と前記輸送制御層とから構成された前記部分領域(2)上に、幾何学的に定められた面状の構造化が施された少なくとも1つの多孔質層(3,6)が存在することを特徴とする、コーティング。
【請求項2】
複数の前記部分領域(4,5,11)が、主成分としてケイ素を含む、液体装填可能な多孔質層(3,6)として形成されている、請求項1記載のコーティング。
【請求項3】
複数の前記多孔質層(3,6)が、少なくとも部分的に重なり合うように配置されている、請求項2記載のコーティング。
【請求項4】
前記多孔質層(3,6)が、交差状パターンで配置されている、請求項2または3記載のコーティング。
【請求項5】
前記多孔質層(3,6)として形成された部分領域(4,5,11)が、線形パターンを描く、請求項1から4までのいずれか1項記載のコーティング。
【請求項6】
前記線形パターンを描く部分領域(4,5,11)の線の全長が、前記コーティングされたエリアの総面積(cm単位)の平方根の少なくとも8倍であり、前記線形パターンの形態でコーティングされているのは、前記総面積の半分未満である、請求項5記載のコーティング。
【請求項7】
前記多孔質層(3,6)が、レーザ転写層として形成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載のコーティング。
【請求項8】
前記異なる部分領域(2,4,5,11)が、前記多孔質層の平均孔径、多孔度、親水性、pH値、電荷、極性、層厚、および微生物特性のパラメータの少なくとも1つに関して互いに異なる、請求項1から7までのいずれか1項記載のコーティング。
【請求項9】
前記部分領域(2,4,5,11)の少なくとも1つは、その表面に沿って少なくとも1つの前記パラメータの勾配(PG)を有する、請求項8記載のコーティング。
【請求項10】
それぞれがパラメータに関して勾配(PG)を有する複数の類似の面状の部分領域(2,4,5,11)が、互いに直に接するように配置されており、その際、当該パラメータに関して最大限互いに異なる部分領域の縁部が、互いに隣接している、請求項9記載のコーティング。
【請求項11】
1つの同一の部分領域(2,4,5,11)内で複数のパラメータに関するバリエーションが与えられており、その際、前記バリエーションによって、互いに異なるパターンが形成されている、請求項8から10までのいずれか1項記載のコーティング。
【請求項12】
前記パターンのそれぞれによって、前記部分領域(2,4,5,11)の表面に沿った当該パラメータの周期的、連続的または不連続的な変化が、異なる周期長さで与えられている、請求項11記載のコーティング。
【請求項13】
医療技術または衛生分野の表面構造であって、表面の幾何学的に定められた交互に互いに接する多数の部分領域(2,4,5,11)が菌類に対して異なる環境条件を示すことにより、菌類の拡散を妨げる表面の構造化が与えられており、その際、前記部分領域(2,4,5,11)間の多数の境界により、相応する数の前記環境条件の急激な変化が与えられている、表面構造。
【請求項14】
医療技術用インプラントにおける、請求項1記載のコーティングの使用。
【請求項15】
創傷の被覆のための、請求項1記載のコーティングの使用であって、前記コーティングは、繊維材料上に存在する、使用。
【請求項16】
基材のコーティング方法であって、前記基材上に組成の異なる部分領域(2,4,5,11)を製造し、すなわち、第1のステップで、殺生剤層と、前記殺生剤層を覆う輸送制御層とから構成される多層部分領域(2)を製造し、さらなるステップで、少なくとも大部分がケイ素でコーティングされた支持体を前記基材の前に配置し、次いで、幾何学的に定められたとおりにレーザを照射することにより、レーザ転写層(3,6)を堆積させる、方法。
【請求項17】
支持体として、内側がコーティングされた収縮チューブ(19)を使用し、前記収縮チューブ(19)を、コーティングすべき前記基材(7)の上に設け、レーザ照射前に熱の作用により前記基材(7)と面状に接触させる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
支持体として、外側がコーティングされた膨張性チューブを使用し、前記チューブを透明な管に挿入して膨らませ、次いで、前記管の内壁に接する前記チューブのコーティング材を、外側からのレーザ照射によって前記管の前記内壁に転写させる、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療技術または衛生分野での使用に適したコーティングに関する。さらに、本発明は、基材のコーティング方法に関する。
【0002】
独国特許第102010054046号明細書には、インプラントに提供される、銅-チタン-窒化物の層を含む抗菌コーティングが開示されている。コーティングにおける銅の含有は、コーティングの機械的特性、特に硬度に関して大きな欠点を甘受する必要なく、銅の抗菌効果を利用することを目的としている。任意に、コーティングはさらにジルコンを含み、これは特に高い硬度を達成することを目的としている。銅を含む層に加えて、銅を含まないリターデーション層が設けられることがある。これは、銅イオンの環境中への放出速度の制御を可能にすることを目的としている。既知のコーティングは、銅に加えて、Ti、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Si、Alのうちの少なくとも1つの成分を含み得る。
【0003】
欧州特許出願公開第2281590号明細書には、活性コーティングを有する生体腐食性インプラントが記載されている。このインプラントは、生体腐食性の金属製インプラント材料から構成される基体を有し、活性コーティングおよび/または空洞充填体は、少なくとも1つの抗酸化物質を含む。抗酸化物質は、例えば、スクアレンまたはガレートである。
【0004】
欧州特許第1790224号明細書に記載の抗菌性でかつ非細胞毒性の層状材料は、銀、銅および/または亜鉛を含む殺生剤層と、この殺生剤層を覆う輸送制御層とを含み、輸送制御層の厚さおよび多孔度は、殺生作用物質が輸送制御層を通じて抗菌性でかつ非細胞毒性の量で放出されるように調整されている。輸送制御層の基材は、例えば、プラズマポリマー、ゾルゲルまたはワニスであり得る。いずれにしても、輸送制御層は、ケイ素部分と炭素部分とを有する。層材料の製造のために、欧州特許第1790224号明細書では特に真空支援型の薄膜プロセスが提案されている。
【0005】
独国特許出願公開第102008001014号明細書から、酸素に対するガス透過率が50~100(cm bar)/(day/m)未満である輸送制御層を含む抗菌性でかつ非細胞毒性の層状材料が知られている。また、この場合にも無機殺生剤が層材料の構成要素となっている。
【0006】
国際公開第2007/051519号には、インプラント用の連続気泡型の生体適合性表面層が開示されている。この場合には、表面層の細孔が連結して、コヒーレントな細孔ネットワークが形成されている。インプラントの生表面と表面層との間に、チタンおよび/またはケイ素を含む中間層が設けられることがある。
【0007】
欧州特許第1924300号明細書には、マイクロメートルまたはナノメートル範囲の構造を持つ医療用インプラントの多孔質コーティングの製造方法が記載されている。この方法では、一時的な粒子を表面に堆積させ、これを後のプロセスステップで再び除去することで、コーティングの所望の多孔度が得られる。得られた細孔に、薬剤や生物学的に活性なセラミック材料を少なくとも部分的に充填することができる。
【0008】
国際公開第2007/051806号に記載されたコーティングプロセス用の混合物は、架橋性液体と、機能性成分とを含み、この機能性成分は特に、抗菌性作用物質、腐食防止剤および着色顔料を含み得る。国際公開第2007/051806号に記載の混合物を使用して製造されたコーティングは、例えば、液体、ガスおよび/または蒸気に対する拡散バリアコーティングとして使用可能である。
【0009】
国際公開第2019/121667号には、粒子状の殺生作用物質を含む層と、その上に配置された輸送制御層とを含む抗菌コーティング材が開示されている。輸送制御層を堆積させるために、アフターグローPE CVDプロセスが提案されている。国際公開第2019/121667号によるこの層材料については、特に、人間の医学用途および/または獣医学用途の医療用デバイスをコーティングすることが想定されている。酸素および炭素に加えて、輸送制御層は、例えばケイ素またはチタンを含み得る。殺生作用物質としては、銀、銅、亜鉛または有機殺生剤が考慮される。
【0010】
独国特許出願公開第102012100288号明細書から、多孔質層を有するプラスチック基材が知られており、多孔質層は、少なくとも部分的にプラスチック基材の材料から形成されている。細孔の体積割合は、多孔質層の第1の領域において、多孔質層の第2の領域よりも大きい。多孔質層は、プラズマプロセスによって製造される。
【0011】
多孔質コーティングの焼結方法は、例えば、国際公開第03/025783号に記載されている。ここでは、基材上での多孔質コーティングの構築が提供され、この基材は、特に細孔の形態の開口部を有している。コーティングはペーストから得られるが、このペーストの粘度を適切に調整することにより、基材中に存在する細孔がコーティングプロセス中に塞がれることが回避される。
【0012】
国際公開第2008/040666号には、透明基材用の透明な多孔質SiOコーティングが開示されている。使用可能な基材として、ポリカーボネートが挙げられている。コーティングの製造には、ゾル-ゲルプロセスが提案されている。
【0013】
本発明は、前述の先行技術に比べてさらに発展し、特に医療技術および衛生分野に適しており、用途に応じて様々に適合させることができる特性を特徴とするケイ素含有コーティングを提供するという課題に基づいている。
【0014】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を有するコーティングによって解決される。同様に、この課題は、請求項16に記載の基材のコーティング方法によって解決される。コーティング方法に関連して以下に説明する本発明の実施形態および利点は、デバイス、すなわち任意の基材上に存在するコーティングにも準用され、逆もまた同様である。
【0015】
コーティングは、少なくとも2つの異なる部分領域を含み、これらの部分領域の少なくとも1つは、主成分としてケイ素を含む、液体装填可能な多孔質層として形成されており、さらなる部分領域は、多層状に、すなわち、殺生剤層と、この殺生剤層を覆う輸送制御層とから構成されており、多孔質層が有するケイ素割合(重量%単位)は、輸送制御層のケイ素割合の少なくとも1.4倍でかつ最大で5倍である。
【0016】
コーティングの異なる部分領域における各ケイ素割合は、部分領域固有の各特性に大きく寄与する。
【0017】
特に、輸送制御層により、材料が殺生剤層からゆっくりとしか放出されず、一方で、第1の部分領域として定義される多孔質層中に存在する物質、特に液状の物質の放出は、比較的高い放出速度で起こる。多孔質層は、特に超親水層である。層の超親水性とは、層に施与された水滴が直ちに広がること、すなわち接触角が0°であることを意味する。
【0018】
総じて、コーティングされる基材上には、組成の異なる部分領域が形成される。ここで、第1のステップで、殺生剤層と、この殺生剤層を覆う輸送制御層とから構成される多層部分領域を製造する。さらなるステップで、少なくとも大部分がケイ素でコーティングされた支持体を基材の前に配置し、次いで、幾何学的に定められたとおりにレーザを照射することにより、レーザ転写層を堆積させる。殺生剤層と輸送制御層とから構成された部分領域上に、幾何学的に定められた面状の構造化が施された液体装填可能な多孔質層を製造する。任意に、コーティングの複数の部分領域は、主成分としてケイ素を含む、液体装填可能な多孔質層として形成されている。第1のタイプの部分領域として定義されるこれらの部分領域は、互いに隣接するように配置されていてもよいし、少なくとも部分的に重なり合うように配置されていてもよい。
【0019】
後者の場合、例えば、交差状パターンでの第1のタイプの層の配置が可能である。同様に、液体の収容に適した多孔質層は、線形パターンを描くことができる。この場合、可能な一実施形態では、線形パターンを描く部分領域の全長は、コーティングされたエリアの総面積(cm単位)の平方根の少なくとも8倍であり、例えば、線形パターンの形態でコーティングされているのは、基材の総面積の半分未満である。
【0020】
好ましい実施形態では、多孔質層は、レーザ転写層である。技術的背景については、例として、独国特許出願公開第102018109337号明細書および国際公開第2016/055166号が参照される。レーザ転写層は、被転写材料でコーティングされた、この場合はケイ素でコーティングされた透明フィルムを基材に載置し、次いでパルスレーザ光に曝すことによって製造される。
【0021】
パルスレーザ光を、透明フィルムに特にラスタリングパターンで作用させるが、その際、フィルムの代わりに固体物体、特に板ガラスを使用することもできる。いずれにしても、ラスタリングされたレーザ光によって、多孔質超親水層を製造することができ、この層は、レーザ光のラスタリングに対応するパターンで、粗さおよび厚さがわずかである互いに離隔したほぼ点状の区域を有する。レーザスポットとも呼ばれるこれらの区域の間には、同様に前述の多孔質層に分類することができ、かつ同様に基材上に堆積したケイ素を主成分として形成された、比較的大きな粗さおよび厚さを有する概ね網目状の中間領域が存在する。特に、網目状の中間領域の層厚は、レーザスポットの層厚の少なくとも3倍である。
【0022】
コーティングの異なる部分領域は、多孔質層の平均孔径、多孔度、親水性、pH値、電荷、極性、層厚、および微生物特性のパラメータの少なくとも1つに関して互いに異なっていてよく、その際、特に、レーザ転写時にレーザ設定を変えることによって各特性を達成することができる。ここで、部分領域の少なくとも1つは、その表面に沿って前述の少なくとも1つのパラメータの勾配を有することができる。例えば、それぞれがパラメータに関して勾配を有する複数の類似の面状の部分領域が、互いに直に接するように配置されていてよく、その際、当該パラメータに関して最大限互いに異なる部分領域の縁部が、互いに隣接している。
【0023】
可能な一発展形態によれば、1つの同一の部分領域内で複数のパラメータに関するバリエーションが与えられており、その際、これらのバリエーションによって、互いに異なるパターンが形成されている。特に、この場合、各パターンによって、部分領域の表面に沿った当該パラメータの周期的、連続的または不連続的な変化が与えられており、各パターンの周期長さは、互いに異なる。
【0024】
表面上で複数回変化するコーティング特性、特に規則的なパターンまたは複数の重ね合わせたパターンで変化するコーティング特性は、特に、一般的に特定の環境に適応する菌類の拡大を抑制するという目的を有する。これは特に、特別な衛生条件下、極端な場合にはクリーンルーム条件下で使用される物体の表面処理において重要である。
【0025】
コーティングは、例えば、医療技術用インプラントに使用することができる。また、コーティングは、創傷の被覆にも適しており、この場合、コーティングは、繊維材料上に存在することができる。総じて、コーティングは、獣医学用途だけでなく人間の医学用途にも適している。
【0026】
コーティングの特別な利点は、外部からアクセス可能である限り、実際には何度でも液体の再装填が可能であることである。最も単純なケースでは、浸した布で、液体物質、例えば消毒液を充填する対象物を拭くだけで、その多孔質構造に液体が収容される。一方で、液体の放出は、比較的長い期間、典型的には数日間にわたって行われ、その際、液体が環境中に放出される放出速度は、コーティングのパラメータを調整することによって広範囲にわたって制御でき、コーティングされた製品の表面全体にわたって必ずしも均一であるとは限らない。
【0027】
以下に、本発明の複数の実施例を、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】各コーティングのバリエーションの概略断面図である。
図2】各コーティングのバリエーションの概略断面図である。
図3】各コーティングのバリエーションの概略断面図である。
図4】各コーティングのバリエーションの概略断面図である。
図5】各コーティングパターンの平面図である。
図6】各コーティングパターンの平面図である。
図7】各コーティングパターンの平面図である。
図8】不均一に構成された部分領域を有するコーティングの第1の例を示す図である。
図9】不均一な孔径を有する多孔質コーティング面、およびコーティングの負荷密度を説明するための関連図である。
図10】不均一な孔径を有する多孔質コーティング面、およびコーティングの装填密度を説明するための関連図である。
図11】不均一に構成された装填可能なコーティング面のさらなる一例を図9および図10と同様に示す図である。
図12】不均一に構成された装填可能なコーティング面のさらなる一例を図9および図10と同様に示す図である。
図13】コーティングされた各医療用デバイスを示す図である。
図14】コーティングされた各医療用デバイスを示す図である。
図15】コーティングされた各医療用デバイスを示す図である。
図16】コーティング面であって、該コーティング面内でコーティングの長手方向に各パラメータが異なる様式で変化するものを示す図である。
図17】複数回コーティングされた、異なる様式で構造化されたエリアを示す図である。
図18】複数回コーティングされた、異なる様式で構造化されたエリアを示す図である。
図19】複数回コーティングされた、異なる様式で構造化されたエリアを示す図である。
図20】複数回コーティングされた、異なる様式で構造化されたエリアを示す図である。
図21】収縮チューブを用いた被加工物のコーティングを示す図である。
図22】収縮チューブを用いた被加工物のコーティングを示す図である。
図23】記号で示された電荷を有する構造化されたコーティングエリアを示す図である。
図24】記号で示された電荷を有する構造化されたコーティングエリアを示す図である。
図25】交互パターンでコーティングされたエリアに沿った物質の拡散を示す図である。
【0029】
特に断りのない限り、以下の説明はすべての実施例について言及したものである。原則的に同等の構成要素または幾何学的構造には、すべての図において同一の参照符号を付している。
【0030】
総じて参照符号1が付されたコーティングは、殺生剤を含む層2と、少なくとも1つの多孔質超親水層3とを含む。コーティング1は、総じて7が付された被加工物上に存在し、この被加工物面上では、異なる部分エリア4,5,11が互いに区別できる。
【0031】
ケイ素系の少なくとも1つの多孔質超親水層3は、ほとんどの場合、殺生剤含有層2を少なくとも部分的に覆っている。図3の場合、逆の層順序が示されている。層3は、基本的には欧州特許第1790224号明細書から知られているが詳細には示されていない様式で、殺生剤に加えて輸送制御層を含む。層2を堆積させるために、例えばPVDプロセスが使用される。実施例では、層2に含まれる殺生剤は、無機作用物質、特に銀または銀含有物質である。殺生作用物質は、層2中に粒状で存在しており、その際、一次粒子の平均粒径は、好ましくは5nm~100nmの範囲である。
【0032】
層2とは異なり、層3は、レーザ転写によって被加工物7に施与されている。多孔質超親水層3は、層2上で、図1および図4による構成では単層であり、図2による構成では多層である。後者の場合、追加の多孔質超親水層に6が付されている。
【0033】
被加工物7の表面上に少なくとも1つの多孔質超親水層3,6を分布させる各方法が、図5図7に示されている。図5によれば、層3によって基材表面上に同心円のパターン8が形成されており、その際、図5においてラスター化で示されるように、層3内のコーティングパラメータが、円盤状の被加工物7の中心から外側に向かって複数回連続して変化しており、その結果、点源から発せられる音波の像が得られる。音波を思わせるこのパターン8の各最大値は、層3の所定の生成物特性の最大値を意味する。図5による配置で見ることができる、同心の、鮮明には区切られていない2つの環の各ラスター化は、コーティング1の別のパラメータが、これら2つの環円盤状領域の各々において最大値を有することを意味する。幾何学的に定められた様式で被加工物7上の表面特性を変化させることは、さらなる実施例でさらに説明するように、特に表面上で起こる物質の拡散に関して重要である。
【0034】
図6および図7による実施例では、多孔質超親水層3が、螺旋状パターン9あるいは鋸歯状パターン10の形態で被加工物7に施与されている。いずれの場合も、中間領域には層3が存在しないため、各コーティング領域間に多数の移行部が存在する。
【0035】
図8による実施形態では、異なる部分エリア4,5,11が、列をなして互いに直に接するように配置されている。各部分エリア4,5,11内にはパラメータ勾配PGが与えられており、これは、この場合、電荷勾配、すなわち「帯電」と「非帯電」との間の連続的な移行を意味する。電荷は、異なる部分エリア4,5,11内では徐々にしか変化しないが、部分エリア4,5,11間の境界線GLでは、それぞれ急激な変化が生じる。この境界線GLでの急激な変化こそが、微生物の望ましくない拡散を抑制する上で特に効果的である。電荷勾配の代わりに、パラメータ勾配PGは、極性勾配、すなわちカチオン性からアニオン性への移行であることも可能である。
【0036】
図10による多孔質超親水層3は、理想化された状態で示された多数の個々の細孔12を有し、孔径は、図10による配置では左から右に向かって減少している。層3全体に、液体、例えば消毒溶液を装填することができる。図9には、対応する装填密度Bを示し、その際、x方向は、図10による被加工物7の長手方向と一致する。より大きな細孔12の領域により多くの液体を収容できることが、明らかに見て取れる。この関係は、基本的には図11および図12による実施例においても成り立つが、この場合には、図10とは異なる孔径分布パターンが存在する。
【0037】
図13図15は、コーティング1を全体的または部分的に備えた被加工物7としての各医療用インプラント13を例示的に示す。図14の場合、インプラント13の個々の部品には、14,15,16が付されている。この場合、全体として、これは人工股関節である。個々の部品14,15,16に少なくとも部分的に存在するコーティング1は、一方では層2内に殺生剤として存在し、他方では層3の電荷として存在する各物質を、各放出速度で放出する特性を有する。
【0038】
図16による実施形態では、コーティング1の抗菌性だけでなく、抗生および抗炎症性も重要である。抗菌性は主に、殺生剤を含む層2の組成に起因する。抗生および抗炎症性に関しては、多孔質層3内で互いに区別可能な第1のタイプの部分エリア17および第2のタイプの部分エリア18が重要である。ここで、直接隣り合って配置された部分エリア17,18は、ストライプパターンを形成し、交互の極性シーケンスを意味する。さらに、図12を参照して既に説明したように、層3内では細孔12の異なるサイズが与えられる。しかし、孔径の規則的な(図16による断面図では単純な)変化は、さらなるステップで極性の変化として与えられている。したがって、被加工物7の延在に沿って、すなわちx方向において、生成物面には各パラメータ変化が存在し、その各々は、所定の周期長で行われ、その際、各パラメータに各周期長が割り当てられている。
【0039】
表面構造化のさらなる方法が、図17図20に示されている。図17によれば、多孔質層3を備えた異なる部分エリア4,5,11に、医薬品が装填されている。図18図20に例示される各変形例では、層3の複数の層が交差状に配置されており、その際、図20によれば、3つの部分エリア11に沿ってパラメータの連続的な変化が存在する。
【0040】
図21および図22は、収縮チューブ19による被加工物7の表面全体へのコーティング1の施与を示しており、収縮チューブ19の内側にコーティング1が存在している。第1のステップでは、収縮チューブ19を被加工物7の上に設け、ここで、被加工物7は、図14によるデバイスの個々の部品14の場合のように不規則な形状であってもよい。収縮チューブ19は、透明な材料から構成されていなければならず、次いでこの収縮チューブ19を加熱によって被加工物の表面と全面的に接触させる。その後、図示されていないレーザをコーティング1に照射することにより、コーティング1を、被加工物7の表面の所望の位置に部分的にまたは全面的に転写する。この工程でも、既に説明したように、コーティング面内のコーティング特性のバリエーションが様々に達成可能である。
【0041】
図23および図24による実施例は、所定の極性が与えられるという点で、図20による実施例と異なる。図23の場合はアニオン性、図24の場合はカチオン性という層3の各極性によって、層2中に存在する銀イオンの放出を制御することができる。
【0042】
図25の場合、異なる部分エリア4,5が交互に互いに接するように配置されており、その際、部分エリア4は親水性であり、部分エリア5は疎水性である。図25にはさらに、x方向に相当する拡散方向ARに広がる個々の菌類20も記号で示されている。図25に、部分エリア4,5の1つあたりの菌類20の数が減少していることによって示されているように、部分エリア4,5の各特性間の連続的な変化は、菌類20の拡散を効率的に妨げる。部分エリア4,5が明らかに互いに異なるpH値を有することによっても、原理的に同様の効果を得ることができる。より大きなエリア、例えば医療機器の表面や床は、視認可能な形では互いに異なっていない異なる部分エリア4,5から、例えばチェス盤のように構成されていてよい。
【符号の説明】
【0043】
1 コーティング
2 殺生剤を含む層、部分領域
3 多孔質超親水層
4 第1の部分エリア
5 第2の部分エリア
6 さらなる多孔質超親水層
7 被加工物
8 コーティングパターン:同心円
9 螺旋状パターン
10 鋸歯状パターン
11 さらなる部分エリア
12 細孔
13 被加工物
14 個々の部品
15 個々の部品
16 個々の部品
17 第1のタイプの部分エリア
18 第2のタイプの部分エリア
19 チューブ
20 菌類
AR 拡散方向
B 装填強度
GL 境界線
PG パラメータ勾配
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】