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特表2024-502880ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を含む生体適合性ヒドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を含む生体適合性ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20240116BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20240116BHJP
   A61K 6/898 20200101ALI20240116BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240116BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 5/07 20100101ALN20240116BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L31/04 120
A61K6/891
A61K6/898
A61K47/36
A61L31/14 300
A61K9/70 401
A61L26/00
C12N5/07
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543176
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 KR2022000933
(87)【国際公開番号】W WO2022154645
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0006872
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517354917
【氏名又は名称】キョンブク ナショナル ユニバーシティ インダストリー-アカデミック コーオペレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ジョン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ワン ウク
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ファン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C076
4C081
4C089
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA60
4C076AA09
4C076AA16
4C076AA71
4C076AA95
4C076BB31
4C076EE37A
4C076FF68
4C076GG01
4C081AA03
4C081AA07
4C081AA08
4C081AA12
4C081AB36
4C081AC00
4C081BA12
4C081CA181
4C081CA271
4C081CC06
4C081CD081
4C081DA02
4C081DA12
4C081DA14
4C081DA16
4C081EA14
4C089AA06
4C089BE08
4C089BE11
4C089BE14
4C089CA04
(57)【要約】
本発明は、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を含む生体適合性ヒドロゲルに関する。より詳細には、反応基、化学架橋剤等の添加なしに、放射線照射のみでヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋を誘導して製造された生体適合性ヒドロゲル、その製造方法、及びその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸(HA)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲル。
【請求項2】
前記分子間及び分子内架橋が、放射線照射により形成されることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記放射線が、ガンマ線、紫外線、X線、及び電子線からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
前記ヒドロゲルは、以下の工程を含む方法によって製造されたことを特徴とする請求項1に記載のヒドロゲル:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋を誘導する工程。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールが、分子量が15~50kDaであり、0.1~3%(w/v)の濃度で水に添加されることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸が、分子量が50~3000kDaであり、0.05~3%(w/v)の濃度で水に添加されることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
前記シリコーン含有成分が、ポリジメチルシロキサン、カプリリルメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ジメチコン、シクロシロキサンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
前記シリコーン含有成分が、分子量が100~10000Daであり、0.1~3%(w/v)の濃度で水に添加されることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項9】
前記放射線の照射量が、0.5~300kGyであることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項10】
前記放射線のエネルギー強度が、0.5~20MeVであることを特徴とする、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項11】
以下の工程を含む、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子内及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲルの製造方法:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋を誘導する工程。
【請求項12】
前記(a)工程において、ヒアルロン酸とポリエチレングリコールの濃度比を調節することによってヒドロゲルの粘度を調節することを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルを含む、細胞伝達体、薬物送達体、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、皮膚充填剤、又は創傷被覆材。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルを含む、シート型、クリーム型、ゲル型、又はスプレー型の創傷被覆材。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルを有効成分として含む創傷部位の皮膚塗布用組成物。
【請求項16】
創傷部位の皮膚塗布用製剤を製造するための、請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルの使用。
【請求項17】
請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルを有効成分として含む組成物の有効量を、それを必要とする個体の皮膚に適用して創傷部位を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年1月18日に出願された韓国特許出願第2021-0006872号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書全体は、参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を含む生体適合性ヒドロゲルに関する。より詳細には、反応基、化学架橋剤等の添加なしに、放射線照射のみでヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋を誘導して製造された生体適合性ヒドロゲル、その製造方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、ヒドロゲルは医療分野で多くの関心を集めており、医療用充填剤、生理活性物質の放出システム、三次元構造を利用した器官、組織再生など、幅広い利用が期待される。
【0004】
このようなヒドロゲルは、一般に、高分子材料に架橋剤及び/又は硬化剤などの化学物質を添加して架橋する方法で製造されてきた。しかしながら、架橋反応に用いられる架橋剤及び/又は硬化剤自体が生体に有害であるため、このような架橋剤及び/又は硬化剤を用いて製造されたヒドロゲルが生体に使用される場合には、有害な作用を引き起こす問題がある。特に、そのようなヒドロゲルは、医療用及び医薬用材料、例えば創傷被覆材、薬物送達キャリア、コンタクトレンズ、軟骨、腸の癒着防止剤などとして使用するのに適していない。また、架橋剤及び/又は硬化剤が使用される場合には、ヒドロゲル製造後にヒドロゲル内の残留架橋剤及び/又は硬化剤を除去しなければならないため、製造工程が複雑であるだけでなく、製造コストが高くなる問題がある。
【0005】
そこで、架橋剤及び/又は硬化剤を使用せずに高分子由来ヒドロゲルを製造するための努力が続けられており、このような努力の成果として、合成高分子に放射線を照射することによりヒドロゲルを製造した成果が報告されたことがある。
【0006】
しかし、合成高分子由来のヒドロゲルは、生体適合性及び生分解性の面で医薬的な用途に活用されるには適さないため、架橋剤、硬化剤、有機溶媒などを使用せず、生体適合性分子の分子内又は分子間の架橋結合のみによって形成されるヒドロゲルの開発が求められている。
【0007】
一方、ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸からなる反復単位が直線的に連結された多糖類の一種である生体高分子物質であり、動物の眼球を満たしている液体から初めて分離されて以来、動物の胎盤、関節液、胸水、皮膚、雄鶏の鶏冠などに多く存在することが知られており、ストレプトコッカス属の微生物であるストレプトコッカス・エクイ、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスなどでも生産される。
【0008】
ヒアルロン酸は、生体適合性に優れ、溶液状態で高い粘弾性の特性を有し、化粧品添加剤などの化粧品用途だけでなく、眼科用手術補助剤、関節機能改善剤、薬物伝達物質、及び点眼剤などの様々な医薬用途にも幅広く使用されている。しかし、ヒアルロン酸だけでは、生体内、又は酸、アルカリなどの条件で容易に分解され、使用が非常に制限的であるため、ヒアルロン酸系のヒドロゲル製造には、化学架橋剤が添加されるのが一般的である(特許文献1)。
【0009】
特に、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルスターチなどの生体適合性ポリマーは、放射線を照射してゲルを形成できることが当業界でよく知られている一方で(非特許文献1~3)、ヒアルロン酸の場合には、放射線照射により分子量が小さくなり、粘度が低下するなど分解反応が容易に起こるため(特許文献2)、放射線照射により製造されたヒアルロン酸系のヒドロゲル、即ち化学架橋剤、有機化学物質などが添加されず、放射線照射のみで製造されたヒアルロン酸系のヒドロゲルは、まだ報告されていない。
【0010】
特許文献3には、10~20w/v%ヒアルロン酸水溶液に電子ビームを30秒~5分間、0.5~5kGy線量となるように照射してヒアルロン酸を架橋することでバルクヒドロゲルを製造する工程を含む、フィラー施術用メルクゲルの製造方法が提示されているが、自重の数倍に達する水分を吸収できるヒアルロン酸の特性上、10~20w/v%ヒアルロン酸水溶液を通常の製造施設で製造するのは事実上非常に困難であり、様々な物性を有するヒドロゲル製造が不可能であるという限界がある。
【0011】
一方、シリコーンは、熱に安定で酸素透過性に非常に優れているだけでなく、透明で毒性のない生体適合性高分子材料である。これらの特徴のため、シリコーン含有化合物は、カテーテル、ドレーン、ペースメーカー、膜酸素供給器、耳や鼻の補形物などの生体材料として使用されており、また創傷治癒や傷跡改善目的で医療用品分野においてドレッシング用途にも使用され、コンタクトレンズから補形物のような医療機器、弾性重合体に至るまで、様々な用途で使用されている。特に、化粧品において、シリコーン含有成分は、化粧品の延びを良くするために多く使用されるだけでなく、皮膚潤滑剤の役割を果たし、べたつかずにツヤを加える役割をすることもある。また、皮膚に塗った後で薄い層を形成して水分の蒸発を防ぐ役割を果たすこともある。
【0012】
このように、高い生体適合性と様々な利点を示すヒアルロン酸とシリコーン含有成分の両方を含むヒドロゲルを、化学架橋剤や有機溶媒の使用なしに製造できるのであれば、医薬品、医療機器、医薬部外品、化粧品、肌の美容製品などの開発に活用できると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2013/055832号
【特許文献2】韓国公開特許第2008-0086016号公報
【特許文献3】韓国登録特許第2070878号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 208 (2003) 320-324
【非特許文献2】Carbohydrate Polymers 112 (2014) 412-415
【非特許文献3】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 211 (2003) 533-544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これにより、本発明者らは、化学架橋剤、有機化学物質などを使用せずに、放射線照射のみで製造されたヒアルロン酸及びシリコーン系の生体適合性ヒドロゲルを提供するための研究を重ねた結果、別の生体適合性高分子であるポリエチレングリコールを併用することで、特定の製造条件において、様々な物性を示すヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分のヒドロゲルを製造できることを発見し、本発明を完成した。
【0016】
したがって、本発明の目的は、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲルを提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、以下の工程を含む、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されるヒドロゲルの製造方法を提供することである:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋を誘導する工程。
【0018】
本発明の他の目的は、前記ヒドロゲルを含む細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材、又は皮膚充填剤を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、前記ヒドロゲルを有効成分として含む創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供することにある。
【0020】
また、前記ヒドロゲルからなる創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供するものである。
【0021】
また、前記ヒドロゲルから本質的になる創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供するものである。
【0022】
本発明の他の目的は、創傷部位の皮膚塗布用製剤を製造するための前記ヒドロゲルの使用を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、ヒドロゲルを有効成分として含む組成物の有効量を、それを必要とする個体の皮膚に塗布して創傷部位を治療する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の本発明の目的を達成するために、本発明は、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲルを提供する。
【0025】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、以下の工程を含む、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋結合、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲルの製造方法を提供する:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して前記材料の架橋を誘導する工程。
【0026】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒドロゲルを含む細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材、又は皮膚充填剤を提供する。
【0027】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ヒドロゲルを有効成分として含む創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供する。
【0028】
また、本発明は、前記ヒドロゲルからなる創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供する。
【0029】
また、本発明は、前記ヒドロゲルから本質的になる創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供する。
【0030】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、創傷部位の皮膚塗布用製剤を製造するための前記ヒドロゲルの使用を提供する。
【0031】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、ヒドロゲルを有効成分として含む組成物の有効量を、それを必要とする個体の皮膚に塗布して創傷部位を治療する方法を提供する。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0033】
本発明は、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol、PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋(inter-molecular cross-linking)、分子内架橋(intra-molecular cross-linking)、又は分子間及び分子架橋のみで形成されたヒドロゲルを提供する。
【0034】
高分子を使用してヒドロゲルを製造する方法には、高分子の架橋結合を誘導するために架橋剤が利用されることが一般的である。架橋剤を用いて高分子の架橋結合を誘導する方法の場合、架橋剤が高分子間又は高分子内の結合を媒介するため、架橋剤がヒドロゲル内部に組み込まれている可能性があり、架橋剤の濃度が高い場合、活性状態で反応物に残存したり、又は反応後に残っている未反応物が残存したりする場合があり、ヒドロゲル製造工程中に精製過程を必須的に経なければならないという問題点が生じることがある。さらに、ヒドロゲル内に残存する架橋剤は、体内に投与された後にいくつかの副作用を引き起こす可能性がある。しかし、本発明者らは、特定の条件でヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の混合水溶液に電子ビームを照射することにより、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及び/又はシリコーン含有成分の分子間又は分子内架橋が誘導されてヒドロゲルが形成することを確認した。分子内部の架橋剤や物理的架橋のために追加的に入れた金属カチオンのような外部物質が含まれておらず、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及び/又はシリコーン含有成分自体の結合によってのみ形成されるヒドロゲルは、従来報告されていないもので、本発明者らが本発明を通じて最初に公開するものである。
【0035】
一方、高分子材料だけでなく、すべての医療用材料は生体適合性を必須とし、この生体適合性は、2つの方法で定義できる。広い意味での生体適合性は、所望の機能と生体に対する安全性とを兼ね備えており、狭い意味での生体適合性は、生体に対する生物学的安全性、すなわち毒性がなく滅菌の機能があることを意味する。
【0036】
ところで、本発明の上記生体適合性ヒドロゲルは、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及び/又はシリコーン含有成分の分子間又は分子内架橋によってのみ形成されるため、従来の方法に従って製造されたヒアルロン酸系のヒドロゲルが有する上述の問題点がなく、生体適合性に非常に優れているという利点がある。さらに、本発明のヒドロゲルを製造する過程では有機溶媒を使用せず、水溶液状態で放射線を照射することにより製造が可能であるため、製造過程で発生し得る汚染や複雑な工程が必要とされず、産業的に非常に活用度が高い。
【0037】
つまり、本発明で提供されるヒドロゲルは、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分に追加で導入されたいかなる官能基も結合しておらず、ヒアルロン酸とポリエチレングリコールの以外にいかなる架橋剤も架橋に直接関与や媒介しないことを特徴とする。
【0038】
本発明において、生体適合性ヒドロゲルの原料となるヒアルロン酸は、その化学構造内に存在する多機能性官能基により、薬物などの担体(carrier)として活用価値が非常に高いだけでなく、生体適合性(biocompatibility)や生分解性(biodegradability)などの物理化学的特性により、医薬分野における合成高分子より活用可能性が優れている。
【0039】
本発明におけるヒアルロン酸は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、又はヒアルロン酸とヒアルロン酸塩の混合物を全て含む意味である。ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸カルシウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸亜鉛、ヒアルロン酸コバルト、及びヒアルロン酸テトラブチルアンモニウムからなる群から選択される1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明において、ポリエチレングリコールは、薬物送達分野及び組織工学において多くの利点を有し、代表的には有機溶媒に高い溶解度を有し、非毒性で免疫作用に拒絶反応がなく、優れた生体適合性を示し、薬物送達体として薬物を容易に包接、放出することができ、人体内の使用において米国食品医薬品局によって使用が承認された材料として製薬製剤産業で使用されている。また、ポリエチレングリコールは、血液接触に使用される高分子の生体適合性を向上させ、タンパク質吸着抑制の効果が最も大きいため、生体材料として親水性高分子の中でも多くの応用がなされている。
【0041】
本発明において、シリコーン含有成分は、モノマー、マクロマー、又はプレポリマーのうち、少なくとも1つの[-Si-O-]単位を含有する成分である。好ましくは、全Si及び結合したOは、シリコーン含有成分の総分子量の20重量%を超える量、好ましくは30重量%を超える量でシリコーン含有成分中に存在する。シリコーン含有成分は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニル、N-ビニルラクタム、N-ビニルアミド、及びスチリル官能基などの重合性作用基を含んでもよいが、本発明の目的上、上記官能基を除いたシリコーン含有成分であることが好ましい。
【0042】
本発明に有用なシリコーン含有成分の例は、米国特許第3,808,178号、第4,120,570号、第4,136,250号、第4,153,641号、第4,740,533号、第5,034,461号、及び第5,070,215号、並びに欧州特許出願公開第080539号で確認することができ、これらの参考文献には、シリコーン含有成分の多くの例が記載されている。
【0043】
本発明における上記シリコーン含有成分の非限定的な例示として、ポリジメチルシロキサン、カプリリルメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ジメチコン、及びシクロシロキサンが含まれてもよく、好ましくはポリジメチルシロキサン、最も好ましくは、下記式1の構造を有するトリメチルシリル末端ポリ(ジメチルシロキサン)であってもよい。
【化1】
【0044】
本発明が提供するヒドロゲルは、特に以下の工程を含む方法によって製造されたことが特徴であってもよい:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分を添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋を誘導する工程。
【0045】
本発明者らは、様々な実施例を通じて、放射線照射によってヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋のみからなるヒドロゲル製造条件を確立した。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、ヒアルロン酸とシリコーン含有成分を含む水溶液に電子ビームを照射しても、ヒドロゲルが形成されないことが確認された。ところで、ヒアルロン酸とシリコーン含有成分にポリエチレングリコールを加えて一定の条件下で電子ビームを照射すると、様々な物性を示すヒドロゲルが形成されることが確認された。
【0047】
本発明の他の実施形態によれば、ポリエチレングリコールとシリコーン含有成分のみを含む水溶液に電子ビームを照射すると、十分な架橋が誘導されず、不完全なヒドロゲルが形成されることが確認された。
【0048】
本発明の様々な実施形態によれば、放射線照射を用いてヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋を誘導してヒドロゲルを生成するためには、様々な条件の組み合わせが非常に重要であることが確認された。具体的には、ヒアルロン酸の分子量/濃度、ポリエチレングリコールの分子量/濃度、シリコーン含有化合物の分子量/濃度、及びエネルギー照射量が特定の条件を満たさない場合、ヒドロゲルが形成されないことが確認された。また、これらの条件の適切な制御によって、様々な物性を示すヒドロゲルの製造も可能であることが確認された。
【0049】
本発明の上記(a)工程では、分子量15~50kDaのポリエチレングリコールを使用することができ、好ましくは15~40kDaのポリエチレングリコールを使用することができ、最も好ましくは20~35kDaのポリエチレングリコールを使用することができる。
【0050】
分子量が15kDa未満のポリエチレングリコールを使用すると、電子ビーム照射でヒドロゲルが形成されないという問題が発生する可能性があり、40kDaを超えるポリエチレングリコールを使用する場合、低放射線量でヒドロゲルが形成されたときに、完全な形状ではなくヒドロゲル内部に気泡が過剰に形成されたり、割れたりする問題が発生する可能性がある。また、分子量が40kDa以上で大きすぎると、PEGが体内に注入されたとき、生分解性が低下し、体外に排出されにくくなり、体内に非常に長い期間滞留して問題を引き起こす可能性もある。
【0051】
また、本発明の上記(a)工程では、ポリエチレングリコールは0.1~3%(w/v)の濃度で水に加えることができ、好ましくは、0.1~2%(w/v)の濃度で水に添加することができ、より好ましくは、0.5~1.5%(w/v)の濃度で水に添加することができる。最も好ましくは、0.5~1.0%(w/v)の濃度で水に添加することができる。
【0052】
ポリエチレングリコールの濃度が低い場合、架橋反応がよく誘導されないことによりヒドロゲルが形成されず、高すぎると、ポリエチレングリコール鎖間の架橋反応のみが優勢となり、ヒドロゲルと残留溶液が共存する、すなわち、三つの成分が均一に架橋されたゲルが形成されず、一部成分間のみの架橋反応が進行する限界がある。
【0053】
本発明の上記(a)工程において、ヒアルロン酸は、分子量50~3000kDaのヒアルロン酸を使用することができる。好ましくは70~2700kDaのヒアルロン酸を使用することができ、最も好ましくは、100~2500kDaのヒアルロン酸を使用することができる。
【0054】
ヒアルロン酸の分子量が範囲外で分子量が小さすぎると、均一なゲルが作られず、過度に分子量が大きいと、ゲルが作れないという問題が発生することがある。
【0055】
また、本発明の上記(a)段階では、ヒアルロン酸は0.05~3%(w/v)の濃度で水に加えることができ、好ましくは、0.1~2%(w/v)の濃度で水に添加することができ、より好ましくは、0.5~1.5%(w/v)の濃度で水に添加することができる。最も好ましくは、0.5~1.0%(w/v)の濃度で水に添加することができる。
【0056】
ヒアルロン酸の濃度が高すぎると、電子ビーム照射によりヒドロゲルが形成されにくくなり、ヒドロゲルが形成されないことがある。また、濃度が高くなるほど、ヒアルロン酸の溶解性が低下して試料の調整が困難になり、製造工程上の問題が発生する可能性がある。ヒアルロン酸の濃度が低すぎると、その後のヒドロゲルの使用においてヒドロゲルとしての特性がよく発揮されないという限界がある。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、ヒドロゲル製造に使用される水溶液中のヒアルロン酸の濃度がポリエチレングリコールの濃度より高い場合、得られるヒドロゲルの粘度は低くなり、接着力は向上することが確認された。逆に、ヒドロゲル製造に使用される水溶液中のヒアルロン酸の濃度がポリエチレングリコールの濃度より低い場合、得られるヒドロゲルの粘度は高くなり、接着力は低くなることが確認された。
【0058】
したがって、上記(a)工程で水溶液中のヒアルロン酸とポリエチレングリコールの濃度を調整することによって、所望の粘度及び接着力を示すヒドロゲルを製造することが可能である。
【0059】
本発明の上記(a)工程において、シリコーン含有成分は、分子量100~10000Daのシリコーン含有成分を用いることができる。好ましくは、200~10000Daのシリコーン含有成分を使用することができる。最も好ましくは、200~9000Daのシリコーン含有成分を使用することができる。
【0060】
上記のシリコーン含有成分の分子量が100Da未満の場合、電子ビーム照射によりヒドロゲルが形成されない問題が発生することがあり、分子量が10000Daを超えると、生成したヒドロゲルの透明度が低下するという問題が発生する可能性がある。
【0061】
電子ビームの照射前に水溶液を作る際にシリコーンの分子量が上記範囲を超えると、ヒアルロン酸及びポリエチレングリコールとよく混合せず、電子ビームを照射した後も一体としてヒドロゲルが形成されず、別々に分離する問題が発生することがある。
【0062】
また、本発明の上記(a)工程では、シリコーン含有成分は0.1~3%(w/v)の濃度で水に加えることができ、好ましくは、0.1~2%(w/v)の濃度で水に添加することができ、より好ましくは、0.5~1.5%(w/v)の濃度で水に添加することができる。最も好ましくは、0.5~1.0%(w/v)の濃度で水に添加することができる。
【0063】
電子ビームの照射前に水溶液を作る際にシリコーンの濃度が上記範囲を超えると、ヒアルロン酸及びポリエチレングリコールとよく混合せず、電子ビームを照射した後も一体としてヒドロゲルが形成されず、別々に分離する問題が発生することがある。
【0064】
本発明の上記(a)工程で使用されるヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子量/濃度条件は、ヒドロゲルが使用される目的に応じて望ましい物性を示すように、当業者によって制御され得る。
【0065】
例えば、ヒドロゲルを創傷被覆材として使用しようとする場合、上記ヒドロゲルは透明であり、粘弾性が高く、優れた接着力を示す物性であることが好ましいが、このために、上記(a)工程では、0.01~0.5%(w/v)濃度の2000~3000kDaのヒアルロン酸、0.5~1%(w/v)濃度の25~40kDaのポリエチレングリコール、及び0.1~0.5%(w/v)濃度の100~1000Daのシリコーン含有成分を含む水溶液を使用することが望ましい場合がある。
【0066】
一方、本発明の上記(b)工程は、上記(a)工程で生成された溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋結合を誘導する工程である。
【0067】
上記の放射線照射により形成されるヒドロゲルは、化学的方法により製造されるヒドロゲルに存在する残留毒性の問題がなく、架橋と同時に滅菌効果を得ることができるという利点がある。このとき使用される放射線は、ガンマ線、紫外線、X線、及び電子線からなる群から選択される1種以上であってもよい。好ましくは電子線であってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、上記(b)工程でヒドロゲルを形成するために照射される放射線の照射線量及び/又はエネルギー強度は、上記(a)工程で用いたヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子量/濃度によって変わり得ることが確認された。また、ヒドロゲルが形成される条件であっても、照射される放射線の照射線量及び/又はエネルギー強度によってヒドロゲルの物性が変わり得る。
【0069】
本発明の上記(b)工程で照射される放射線の照射量は、その範囲が特に制限されるものではないが、好ましくは0.5~300kGyであってもよく、より好ましくは2~300kGyであってもよく、最も好ましくは5~150kGyであってもよい。放射線照射量が0.5kGy未満の場合、十分な架橋が現れず、ヒドロゲル形成が不完全になることがあり、300kGyを超えるとヒドロゲル内部に気泡が形成される問題が発生することがある。
【0070】
また、上記(b)工程で照射される放射線のエネルギー強度は、0.5~20MeVであってもよい。好ましくは1~10MeVであってもよく、より好ましくは1~5MeVであってもよい。最も好ましくは1~2.5MeVであってもよい。
【0071】
放射線のエネルギー強度が低い場合、ヒドロゲルが形成されない可能性があり、逆に放射線のエネルギー強度が高すぎると、形成されたヒドロゲルの形状が損なわれ、ヒドロゲルの内部に気泡が形成されたり、割れたりする可能性がある。
【0072】
本発明で提供されるヒドロゲルを製造するための具体的な製造条件の実際的な例示は、本願発明の実施例に具体的に提示されている。
本発明はまた、以下の工程を含む、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、及びシリコーン含有成分の分子間架橋、分子内架橋、又は分子間及び分子内架橋のみで形成されたヒドロゲルの製造方法を提供する:
(a)水にヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーンを添加して溶液を調製する工程;
(b)前記(a)工程で生成した溶液に放射線を照射して、前記材料の架橋を誘導する工程。
【0073】
上記製造方法の各工程の具体的な説明は、前述したように同様に適用することができる。
【0074】
本発明はまた、前記ヒドロゲルを含む細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材(シート型、ゲル型、スプレー型、クリーム型など)、又は皮膚充填剤を提供する。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、本発明によるヒドロゲルで製造された創傷被覆材は、商用創傷被覆材と比較して創傷部位への接着性が非常に優れるだけでなく、創傷回復過程で瘢痕の生成を著しく減少させることが確認された。これはヒドロゲルに含まれるヒアルロン酸の優れた含水性により創傷から分泌される様々な内因性創傷修復因子が吸収/維持され、自己治癒の効果が発揮されただけでなく、シリコーン含有成分の優れた酸素透過性により、創傷治癒過程で必要な酸素の供給が円滑であったことを意味する。
【0076】
本発明における上記「創傷」とは、外部の圧力によって組織の連続性が破壊される状態を意味する。創傷には、擦り傷、打撲傷、熱傷、刃による切創などが含まれる。
【0077】
本発明では、所望の用途に応じて上述した範囲内で製造条件を変更することにより粘弾性、接着性など様々な物性を満たすヒドロゲルを提供することができる。また、製造過程中、一切の化学架橋剤及び有機化学物質が使用されないため、生体適合性に非常に優れており、様々な用途に活用することができる。
【0078】
生体適合性ヒドロゲルは、細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材(シート型、ゲル型、スプレー型、クリーム型など)、又は皮膚充填剤などの用途に多様に活用されており、これに対する研究も当業界で活発に進行しているため、本発明で提供するヒドロゲルも上記用途に活用できることは、通常の技術者にとって明白である。
【0079】
本発明で提供する細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材(シート型、ゲル型、スプレー型、クリーム型など)、又は皮膚充填剤は、ヒドロゲルに加えて様々な従来の添加物をさらに含み得る。これらの添加物は、その種類が特に限定されないが、例えば、染料、着色顔料、植物油、増粘剤、pH調整剤、浸透圧調節剤、ビタミン、抗酸化剤、無機塩、防腐剤、溶解剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、麻酔剤、消毒剤、創傷治療剤などを含めることができる。
【0080】
本発明はまた、ヒドロゲルを有効成分として含む創傷部位の皮膚塗布用組成物を提供する。
【0081】
上記の創傷部位の皮膚塗布用組成物には、創傷の治癒を助けることができる公知の薬物、消毒剤などをさらに含むことができ、創傷被覆材として製剤化されたシート型、ゲル型、スプレー型、又はクリーム型の創傷被覆材として活用することができる。
【0082】
本発明は、創傷部位の皮膚塗布用製剤を製造するための上記ヒドロゲルの使用を提供する。
【0083】
本発明は、上記ヒドロゲルを有効成分として含む組成物の有効量を、それを必要とする個体の皮膚に適用して創傷部位を治療する方法を提供する。
【0084】
本発明の前記「有効量」とは、個体に投与したとき、創傷の改善、治療、検出、診断、又は創傷進行の抑制もしくは減少効果を示す量をいい、前記「個体」とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物であってもよく、動物に由来する細胞、組織、器官などであってもよい。個体は効果を必要とする患者であってもよい。
【0085】
本発明の前記「治療」は、創傷部位又は創傷による症状を改善することを包括的に指し、これは、創傷を治癒、実質的に予防する、又は状態を改善することを含み得る。1つの症状又はほとんどの症状を軽減、治癒、又は予防することを含むが、これらに限定されない。
【0086】
本明細書における用語「~を含む」とは、「含有する」又は「特徴とする」と同じ意味で使用され、本発明による組成物又は方法において、具体的に言及されていない追加の構成成分又は方法の工程などを排除しない。また、用語「~からなる」とは、別途記載されていない追加の要素、工程、又は成分などを除外することを意味する。用語「~から本質的になる」とは、組成物又は方法の範囲において、記載された材料又は工程に加えてその基本的な特性に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程などを含み得ることを意味する。
【発明の効果】
【0087】
本発明のヒドロゲルは、電子ビームを使用してヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋結合を誘導することにより製造されるため、有機溶媒又は架橋剤の混入によって人体内で毒性問題が発生する恐れが全くなく、その製造工程の中に別途の精製過程が不要で、短時間の電子ビーム照射だけで大量生産が可能で、生産性の側面でも非常に優れている。また、本発明のヒドロゲルは、生体適合性に非常に優れているため、細胞伝達体、薬物送達体、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材あるいは、皮膚充填剤などの開発に非常に有用に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1図1は、1%の100kDaヒアルロン酸、様々な分子量の1%PEG、及び様々な分子量の1%シリコーン水溶液に電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図2図2は、1%の1200kDaヒアルロン酸、様々な分子量の1%PEG、及び様々な分子量の1%シリコーン水溶液に電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図3図3は、1%の100kDaヒアルロン酸、1%の35kDaPEG、及び様々な分子量の1%シリコーン水溶液に電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図4図4は、1%の2500kDaヒアルロン酸、様々な分子量の1%PEG、及び様々な分子量の1%シリコーン水溶液に電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図5図5は、1%の100kDaヒアルロン酸、1%の35kDaのPEG、及び1%の9000Daシリコーン水溶液に様々な照射線量の電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図6図6は、1%の2500kDaヒアルロン酸、1%又は0.5%の35kDaのPEG、及び1%又は0.5%の237Da又は9000Daのシリコーン水溶液に電子ビームを照射した後、ヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図7図7は、2500kDaの0.5%ヒアルロン酸、1%の35kDaのEG、及び0.5%の237Daシリコーン水溶液に電子ビーム(EB)を照射し、凍結乾燥まで進行する過程を目視で観察した結果である。
図8図8は、創傷動物モデルにおける実験過程を示す図である。
図9図9は、創傷動物モデルの創傷部位について、無処理(コントロール)、陽性対照群(メディフォーム)、及び本発明によるヒドロゲル(HA-PEG-Siゲル)を処理した後、時間の経過に伴って創傷部位を目視で観察した結果である。
図10図10は、1%の2500kDaヒアルロン酸、1%の35kDaのPEG、及び0.5%の237Daのシリコーン水溶液を大容量容器に入れた後、電子ビームを照射してヒドロゲル生成の有無を目視で観察した結果である。
図11図11は、本発明の実施例による凍結乾燥されたヒドロゲル含水率を評価した結果である。
図12図12は、本発明の実施例による凍結乾燥されたヒドロゲルの含水前後比較写真を示す図である。
図13図13は、本発明の実施例によるヒドロゲルのUV-Visスペクトルによる分光構造解析結果を示す図である(EB:電子ビーム照射)。
図14図14は、本発明の実施例によるヒドロゲルのFT-IR分光分析法による構造分析結果を示す図である(Before EB:電子ビーム照射前、After EB:電子ビーム照射後)。
図15図15は、本発明の実施例によるヒドロゲルの電子顕微鏡(SEM)を用いた目視観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下、本発明を以下の実施例により詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0090】
実施例1:電子線照射によるヒアルロン酸(HA)-ポリエチレングリコール(PEG)シリコーンヒドロゲルの製造
HA、PEG、シリコーンの分子量をそれぞれ異なるようにして、どのような条件でヒドロゲルが作られるか、スクリーニング実験を進めた。
HAは、100kDa、1200kDa、2500kDaの3種類の分子量、
PEGは、1kDa、3kDa、10kDa、20kDa、35kDaの5種類の分子量、
シリコーン(trimethylsiloxy terminated Polydimethylsiloxane)は、237kDa、1250kDa、4000kDa、9000kDaの4種類の分子量を使用した。
【0091】
このとき使用した電子ビーム照射線量は、2.5MeV、10kGyに固定し、前記各材料を1%(w/v)濃度の水溶液で調製して電子ビームを照射した。
【0092】
まず100kDaのHAが使用されている条件の結果をまとめると、PEGの分子量が20kDa未満の場合、シリコーンの分子量に関係なくヒドロゲルが形成されないことを確認した。また、むしろ電子ビーム照射前に比べて粘弾性が低くなることも確認できた(表1)。
【0093】
【表1】
【0094】
PEGの分子量が20kDa以上であれば、シリコーンの分子量にかかわらず、ほとんどのヒドロゲルが形成されることが確認できたが、シリコーンの分子量が増加するほどヒドロゲルが不透明になる傾向も確認した。また、35kDaのPEGを添加したヒドロゲルの場合、容易に壊れずに互いに束ねて弾性のある塊を形成することも確認できた。
【0095】
すべての条件で作られたヒドロゲルは、コニカルチューブ壁に容易に付着するが容易に落ちる特性を示し、これらの特徴は、シリコーン分子量の影響を受けないことを確認した(図1)。
【0096】
次に1200kDaのHAが使用されている条件の結果をまとめると、100kDaのHAを用いて得られた結果と同様に、PEGの分子量が20kDa未満の場合、シリコーンの分子量にかかわらずヒドロゲルは形成されず、その傾向及び特性は同一であることが確認できた(表2)。
【0097】
【表2】
【0098】
しかし、35kDaのPEGと9000Daのシリコーンを添加したヒドロゲルの場合、他の分子量のシリコーンで作られたヒドロゲルとは異なり、流れる性質がより大きかった。また、より液体に近い物性を示す特徴が表れた(図2及び図3)。
【0099】
次に2500kDaのHAが使用されている条件の結果をまとめると、100kDa及び1200kDaのHAを用いて得られた結果と同様に、PEGの分子量が20kDa未満の場合には、シリコーンの分子量に関係なくヒドロゲルが形成されず、ヒドロゲルの形成の有無は同一であることが確認できた(表3及び図4)。
【0100】
【表3】
【0101】
上記の実験結果を通じて、HA、PEG、及びシリコーンそれぞれを1%(w/v)で含む水溶液に電子ビームを照射してヒドロゲルを製造する際には、PEGの分子量範囲がヒドロゲル形成に大きな影響を与えることが確認できた。
【0102】
次に、高分子量を有する三つの成分を用いて、同様に複数の電子ビーム照射線量でヒドロゲル生成の可否を確認した。
-水溶液条件:2500kDaのHA 1%+35kDaのPEG 1%+9000Daのシリコーン 1%
-電子ビーム照射条件:2.5MeV、10kGy、50kGy、100kGy、200kGy
【0103】
その結果、図5に示すように、電子ビーム照射線量10kGyからヒドロゲルが形成されることを確認した。さらに、シリコーン分子量237Daと比較したとき、シリコーンの分子量が増加した9000Daのシリコーンを含むヒドロゲルはさらに不透明になることを確認した。一方、200kGy条件では、生成したヒドロゲル内に気泡が顕著に増えることが確認された。
【0104】
次に、HA、PEG、シリコーンのそれぞれの濃度を変えて実験を行い、濃度によってヒドロゲルの形成及び特性においてどのような違いを示すかを調べるためにHA、PEG、シリコーンそれぞれの水溶液の濃度を0.5%又は1%に変更して実験を進めた。
【0105】
このとき2500kDaのHAと35kDaのPEGを固定して使用し、シリコーンは237Daと9000Daの2つの分子量を使用し、2.5MeV、10kGyの電子ビームを照射して実験を進めた。
【0106】
これに対する結果を図6に示す。
【0107】
図6からわかるように、全ての製造条件でヒドロゲルが形成されることが確認された。具体的には、HA濃度がPEGの濃度より高い場合に形成されたヒドロゲルは、接着力が高い代わりに粘弾性(又は形態保持力)が低く、逆にHA濃度がPEGより低い場合に形成されたヒドロゲルは、粘弾性(又は形態保持力)が強い代わりに低い接着力を示すことが確認された。
【0108】
HAとPEGの濃度が同じ場合は、接着力と粘弾性(又は形態保持力)が両方ともある程度維持されることが確認されたが、ディスク形態を完全に維持できないことが確認された。
【0109】
シリコーンの濃度が高いほど、形成されたヒドロゲルの接着力が増加することが確認でき、シリコーンの分子量が高いほど、形成されたヒドロゲルの色が濁ったことが確認された。
【0110】
実施例2:HA+PEG+シリコーンヒドロゲル創傷被覆材の効能評価
上記実施例1においてディスクの形態をよく維持し、最も硬い物性を示し、透明度が高い2500kDaのHA 0.5%+35kDaのPEG 1%+237Daのシリコーン 0.5%の条件(2.5MeV、10kGy)で製造されたヒドロゲルの創傷被覆の効能を評価するための実験を行った。
【0111】
製造されたヒドロゲルは、創傷被覆材として活用するために凍結乾燥(lyophilization)過程をさらに経て、凍結乾燥後もディスクの形態はそのまま維持され、凍結乾燥後のヒドロゲルは電子ビーム照射反応器から容易に脱落した(図7)。
【0112】
創傷被覆の効能評価のためにBALB/cマウスを利用して動物モデルを作製した。
【0113】
ガス麻酔下でBALB/cマウスの背中部分の毛をきれいに脱毛した後、直径10mmのバイオプシーパンチを用いて左右それぞれに1つずつ傷をつけ、左右両側の傷に凍結乾燥ヒドロゲルを置いた後、医療用紙テープを用いてドレッシングした。
【0114】
マウスがテープを噛む行為を防ぐために、50mLチューブを縦長2cmに切った後、ドレッシングした部分をさらに覆い、3日に1回ずつ凍結乾燥したヒドロゲルを交換して傷の大きさをモニターした(図8)。
【0115】
このとき、市販されている商用創傷被覆材であるメディフォームを、本発明で製造したヒドロゲルと同じ大きさで3日に1回ずつ交換するグループを追加し、また傷に何も処理しなかったコントロールグループも対照群として、合計3つのグループを27日間モニターし、創傷被覆の効能を比較評価した。
【0116】
これに対する結果を図9に示す。
【0117】
図9に示すように、3つのグループで、創傷治癒や皮膚再生速度の面では大きな違いを確認できなかったが、コントロールグループの場合、創傷部位に敷きわらや異物が容易に付着することが確認でき、これは創傷部位を保護することができないだけでなく、感染の危険が発生しやすい可能性がある問題点があった。
【0118】
メディフォームグループの場合、コントロールグループと比較して創傷部位を保護することはできるが、メディフォーム製品の特性上、創傷部位に容易に接着せず、傷部位が触れ合って瘢痕が深く残ることが確認できた。
【0119】
本発明で製造した凍結乾燥ヒドロゲル(HA-PEG-Silicone)グループの場合、創傷部位を保護することができ、創傷部位に容易に接着する特性のおかげで、創傷部位が触れ合って起こるメディフォーム群での副作用も著しく低下させることができ、27日間のモニタリングの結果、残る瘢痕が最も小さいことが確認された。
【0120】
実施例3:大量生産のための大容量ヒドロゲルの調製
上記実施例1において少量で製造したヒドロゲルが大容量生産条件でも製造可能であるかどうかを確認するために、電子ビーム照射反応器のサンプルの容量及び面積を増やして追加の実験を行った。
【0121】
従来の電子ビーム照射実験に使用していた電子ビーム照射反応器(2.5MeV、10kGy)にサンプルの容量を倍増して実験を行った場合、サンプルの容量が2倍に増加したにもかかわらず、従来のヒドロゲルと非常に類似した物性のヒドロゲルが作られることが確認された(図10)。
【0122】
さらに、既存の電子ビーム照射反応器として使用していた反応器(直径2.5cm)より面積が広い反応器(直径3.5cm)を用いて実験を行い、電子ビーム照射を行った場合、面積が広くなっても同じ物性を示すヒドロゲルが作られることが確認された。
【0123】
実施例4:HA+PEG+シリコーンヒドロゲルの含水率の評価
上記実施例1と同様に、下記表4に示す各種組成のHA+PEG+シリコーンヒドロゲルを調製した後、その含水率を評価した。
【0124】
【表4】
【0125】
含水率は以下の式によって計算した。
含水率(Swelling Index,%)=(Ws-Wd)/Wd*100
Ws:水を含むヒドロゲル重量、Wd:乾燥ヒドロゲル重量
【0126】
上記表4の組成で製造された各ヒドロゲルの含水率の結果を図11に示し、凍結乾燥ヒドロゲルの含水前後の比較写真を図12に示す。
【0127】
図11に示すように、
-PEG/シリコーンの分子量が同じ条件では、HA分子量による含水率は、HA 100kDaのとき、HA 2500kDa、HA 1200kDaの場合よりも高く、
-HA/シリコーンの分子量が同じ条件では、PEG分子量による含水率は、PEG 20kDaのとき、PEG 35kDaよりも高く、
-PEG 20kDa、PEG 35kDa組成のみで形成されたヒドロゲルの場合、含水率に大きな差はないが、HAと混合した場合、PEG分子量が20kDaのとき、35kDaの場合よりも含水率が格段に高く、
-HA/PEG分子量が同じ条件では、シリコーン分子量による含水率は、シリコーン237Daで最も高い含水率を示し、
-シリコーン1250Da、4000Daで分子量が増加するにつれて含水率が減少する形態を示したが、シリコーン9000Daでは、含水率が再び増加することが確認された。
【0128】
実施例5:HA+PEG+シリコーンヒドロゲルの構造分析
上記実施例1と同様にして、下記表5に示す様々な組成のヒドロゲルを製造した後、その構造をUV-Vis、FT-IR、及びSEMで分析した。
【0129】
【表5】
【0130】
UV-Visスペクトルによる分光構造解析の結果、図13に示すように、PEGのみからなるヒドロゲルを除いて、ヒアルロン酸を含むヒドロゲル#6、7、8、9のサンプルにおいてUV-BからUV-A領域まで吸光度の増加が観察され、400nm以降の可視光線領域での吸収は見られなかった。PEGのみで構成されたヒドロゲルの場合、電子ビーム照射前後の吸光度の差は微小であることが確認された。
【0131】
FT-IR分光分析法による構造分析の結果、図14に示すように、電子ビーム照射によってヒドロゲル形成後の全てのサンプルにおいて560cm-1ピークの増加が観察された。PEG自己架橋によるC-O結合の変角振動(bending)が増加した結果と判断された。
【0132】
一方、電子ビームの照射後、843cm-1付近のピークは大きさが減少した。自己架橋に伴うC-C結合の骨格振動(skeletal vibration)が減少したと判断した。
【0133】
PEGの場合、電子ビーム照射により、ヒドロゲル形成後のヒドロゲル機能向上に伴う3369cm-1のO-H伸縮振動(stretching)ピークが新たに観察された。自己架橋反応により、1345cm-1のC-H変角振動(bending)及び842、947cm-1のC-C骨格振動(skeletal vibration)バンドは減少した。電子ビーム照射前のPEGにおいて、1093cm-1でのC-O伸縮振動伸縮(stretching vibrational stretching)に起因する典型的なトリプレット分裂パターン(triplet splitting pattern)ピークが観察された。
【0134】
電子顕微鏡(SEM)を用いたネットワーク構造形成を確認した結果、図15に示すように、全体としてラメラ層状構造が観測された。シリコーンが入った#6、7サンプルの場合、非常に薄い板状構造が観測され、HAとPEGのみで構成された#8、9サンプルの場合、シリコーンが入ったサンプルより層間間隔が広かった。PEGのみからなる#10サンプルの場合、ラメラ構造よりはハニカム構造に近い多孔質材料が観察された。
【0135】
比較例1:電子ビーム照射によるHA+シリコーンヒドロゲルの製造
2500kDaのヒアルロン酸1%水溶液に、237Daのシリコーン又は9000Daのシリコーンを1%の濃度で添加した後、2.5MeV、10kGyの電子ビームを照射した場合、両方の組成物においてヒドロゲルは合成されなかった。これにより、ヒアルロン酸とシリコーンを用いてヒドロゲルを合成するためには、ポリエチレングリコールが必須であることが確認できた。
【0136】
比較例2:電子ビーム照射によるPEG+シリコーンヒドロゲルの製造
35kDaのポリエチレングリコール1%水溶液に、237Daのシリコーン又は9000Daのシリコーンを1%の濃度で添加した後、2.5MeV、10kGyの電子ビームを照射した場合、両方の組成物で部分的にヒドロゲルが合成された。ヒアルロン酸が添加されたヒドロゲルとは異なり、ヒドロゲルは容器の全面積では作られず、中心部にのみ収縮した形で小さな円形のゲルが作られ、周囲に溶液が残っている形で作られた。これにより、ポリエチレングリコールとシリコーンのみを用いた場合には、100%のヒドロゲルが作られず、これにより均一な組成のヒドロゲルを製造するためには、ヒアルロン酸が必須であることが確認できた。
【0137】
比較例3:電子ビーム照射によるHA+PEG+コラーゲンヒドロゲルの製造
2500kDaのヒアルロン酸 1%+35kDaのPEG 1%の水溶液にコラーゲンを1%の濃度で加えた後、電子ビームを照射してヒドロゲル製造を試みた。ヒアルロン酸水溶液にコラーゲンを添加したところ、白色の沈殿物が生じたことを確認し、電子ビームを照射してもヒドロゲルが合成されず、白色の沈殿物も消えなかった。別のレシピでコラーゲンを添加する前の2500kDaのヒアルロン酸水溶液に35kDaのポリエチレングリコールを最初に添加した場合も、コラーゲンを添加すると白色沈殿物が生じ、同様に電子ビームを照射してもヒドロゲルが製造されていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のヒドロゲルは、電子ビームを利用してヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、及びシリコーン含有成分の分子間及び/又は分子内架橋結合を誘導することにより製造されるため、有機溶媒又は架橋剤の混入による人体内での毒性問題が発生する恐れが全くなく、その製造工程の中に別々の精製プロセスを必要とせず、短時間の電子ビーム照射だけで大量生産が可能で、生産性の面でも非常に優れている。また、本発明のヒドロゲルは、生体適合性に非常に優れているため、細胞伝達体、薬物送達、癒着防止剤、細胞支持体、歯科用充填剤、整形外科用充填剤、創傷被覆材、又は皮膚充填剤などの開発に非常に有用に活用でき、産業上の利用可能性が非常に高い。
図1
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【国際調査報告】