(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】胃腸管シミュレーションシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/34 20060101AFI20240116BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12Q1/34
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561920
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2021087117
(87)【国際公開番号】W WO2022136449
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523236180
【氏名又は名称】プロダイジェスト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】モエンス,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンデバイバー,ヒース
(72)【発明者】
【氏名】マルゾラーティ,マッシモ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
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4B063QR72
(57)【要約】
本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関し、少なくとも2つの連続する区画を含み、そのうちの第1の区画が胃をシミュレートし、第2の区画が十二指腸をシミュレートする動的胃腸管シミュレーションシステムを提供することを含み、当該第2の区画は、外側容器と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含み、当該内側容器は、格子構造と、当該格子構造の周りに取り付けられた半透過性又は透析膜と、を含む壁を有する。当該胃腸管シミュレーションシステムは、当該少なくとも2つの連続する区画に流体を出入りさせるための流体移送システムを更に含む。方法は、第1の区画に存在する胃腸管の生理学的流体を模擬する流体に物質を導入し溶解する工程と、第1の区画から当該内側容器に当該流体を移送する工程と、半透膜又は透析膜を透過することによって当該内側容器から溶解した物質の流れを確保する工程と、当該外側容器から流体を除去する工程と、を更に含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法であって、
a)第1の区画が胃の少なくとも一部をシミュレートし、第2の区画が小腸の少なくとも一部をシミュレートする少なくとも2つの連続した区画を含む動的胃腸管シミュレーションシステムを提供する工程であって、前記第2の区画は、外側容器と、前記外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含み、前記内側容器は、格子構造と、前記格子構造の周りに取り付けられた半透膜と、を含む壁を有する、工程と、
b)前記物質を前記第1の区画に導入する工程と、
c)前記胃腸管シミュレーションシステムを動作させる工程であって、前記少なくとも2つの連続する区画に流体を出し入れするための流体移送システムを更に含んで、前記第1の区画から前記内側容器に前記物質を移送し、溶解状態の前記物質が前記膜を通って透過することを可能にする、工程と、
d)前記物質の溶解を評価するために前記第1の区画及び前記第2の区画の内側容器の前記流体をサンプリングし、並びに/あるいは前記膜を通る前記物質の透過を評価するために前記第2の区画の前記外側容器から流体をサンプリングする工程と、
を含む、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法。
【請求項2】
前記胃腸管シミュレーションシステムが完全に動的に動作される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)が、
a1)少なくとも2つの連続する空の区画を含む空の胃腸管シミュレーションシステムを提供する工程と、
a2)前記空の区画を、前記胃腸管の生理学的流体をシミュレートする流体で満たす工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記胃腸管シミュレーションシステムが、前記内側容器及び/又は前記外側容器の内容物を撹拌するための少なくとも1つの撹拌システムを更に含み、
前記胃腸管シミュレーションシステムが、それぞれの容器の内容物を撹拌することによって前記内側容器の内容物及び/又は前記外側容器の内容物を混合するように更に動作される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記物質が医薬物質を含み、
前記医薬物質が、クラスI、クラスII、クラスIII又はクラスIVに属するとして生物薬剤学分類システム(Biopharmaceutics Classification System)に従って分類された薬物からなる群から選択される、
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬物質が、高い透過性を有する医薬化合物のクラス、すなわちクラスI又はクラスIIに属するとして生物薬剤学分類システム(Biopharmaceutics Classification System)に従って分類された薬物の群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記胃腸管シミュレーションシステムが、所定の速度で、
第1のリザーバから前記第1の区画に胃分泌液;
前記第1の区画から第2の区画の内側容器に模擬胃液;
第2のリザーバから前記第2の区画の前記内側容器に十二指腸分泌液;及び
前記第2の区画の前記内側容器から第3のリザーバに模擬十二指腸液
を移送するように動作される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記胃腸管シミュレーションシステムが、所定の速度で、
新鮮なシンクリザーバから前記第2の区画の前記外側容器に0~50体積%/分の新鮮なシンク溶液、及び
前記第2の区画の前記外側容器から廃棄物シンクリザーバに0~50体積%/分の廃棄物シンク
を移送するように更に動作される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記区画の各々において、それぞれが所定の値、範囲又は軌跡に従って、以下のパラメータ:液体流、温度、pH、イオン強度、ヘッドスペース、撹拌、圧力、液体体積、溶存酸素、酸化還元電位のうちの1つ又は複数あるいは全てを制御するように、前記胃腸管シミュレーションシステムを動作させることを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
複数の前記胃腸管シミュレーションシステムが同時にかつ同一に動作し、前記胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数が物質を含み、前記胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数が試験試料を含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各区画が、周縁部によって囲まれた開口上部を有する容器と、前記周縁部に配置され、蓋システムと前記容器との間に密封を形成するように構成された蓋システムとを含み、前記蓋システムが、本体を通って延在し、前記容器の内部へのアクセスを提供する複数の通路を有する本体を含み、前記複数の通路が、流体移送管を受け入れるように構成された第1の通路と、少なくとも1つのセンサ構成要素を取り付けるように構成された第2の通路とを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記流体移送システムが、流体移送管を介して前記少なくとも2つの連続する区画の中へ及び前記少なくとも2つの連続する区画から流体を圧送するための複数の蠕動ポンプを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記胃腸管シミュレーションシステムが、少なくとも3つの連続する区画を含み、そのうちの第3の区画が空腸をシミュレートし、
前記胃腸管シミュレーションシステムが、少なくとも4つの連続する区画を含み、そのうちの第4の区画が回腸をシミュレートし、並びに/あるいは
前記胃腸管シミュレーションシステムが、組み合わされた連続区画の平均条件をシミュレートする区画を更に含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートするための、胃腸管シミュレーションシステムであって、少なくとも2つの連続する区画を含み、そのうちの第1の区画が胃をシミュレートし、第2の区画が十二指腸をシミュレートし、前記第2の区画が外側容器と、前記外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含み、前記内側容器が、格子構造と、前記格子構造の周りに取り付けられた半透膜と、を含む壁を有する、胃腸管シミュレーションシステム。
【請求項15】
物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートするための、請求項14に記載のシステムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質及び/又は化合物、特に医薬物質及び/又は化合物の胃腸管放出、溶解及び/又は消化とその後の腸吸収との間の動的相互作用をシミュレートする方法に関する。本発明は更に、胃腸管シミュレーションシステム、そのようなシステム用の区画、及びそのようなシステムを動作させる方法に関する。胃腸管シミュレーションシステムは、任意の単胃動物(ヒトを含む)のシミュレータであり得る。
【背景技術】
【0002】
従来のSHIMEは、胃、小腸並びに上行結腸、横行結腸及び下行結腸をそれぞれシミュレートする区画を含むヒト腸の動的モデルである。胃及び小腸区画は、pH及び滞留時間並びに適切な栄養培地、酵素及び胆汁酸塩の投与を制御することによって酵素的及び物理化学的環境を模倣する。
【0003】
pH、酸化還元電位及び滞留時間を制御することにより、異なる結腸区画はそれぞれ、代謝活性及び微生物群の組成に関してインビボ状況の微生物群に対応する微生物群を有する。したがって、このシステムは、経口摂取された物質と結腸内微生物叢の活性及び組成との間の双方向の相互作用に関する前臨床研究を行うための検証されたインビトロツールである。しかしながら、このモデルは、胃腸管崩壊、溶解及び/又は消化並びにその後の物質及びより特定の医薬物質及び/又は化合物の吸収に関するインビボ予測前臨床データを生成するように設計及び最適化されなかった。
【0004】
大量の新しい化学的実体は、非常に低い水溶性に悩まされ、それにより、摂取時に薬物の非常に低い全身曝露をもたらす。薬物の溶解画分のみを吸収することができるので、製薬会社は、とりわけ、pH調整賦形剤、非晶質固体分散体、界面活性剤、及びシクロデキストリン等のいくつかのタイプの製剤戦略、並びに/あるいは小腸での溶解薬物の量を増加させ、それによって小腸吸収に利用可能な投与用量の割合を潜在的に増加させるという最終目標を有する、絶食又は摂食状態条件下での化合物の投与(食物効果)を使用することによって、このバイオアベイラビリティの制限要因を克服しようと試みる。薬物開発を加速するために、製薬会社は、医薬化合物の溶解を研究するために使用されるインビトロシステムによって得られる前臨床データにますます依存している。静的溶解システム(時間の関数における試験化合物の濃度の動態なし、胃における動的pH条件の非存在、小腸における可溶化物質の動的濃度の非存在)を使用して、医薬化合物の溶解度に影響を及ぼす因子に関する予備的な前臨床データを得ることができる。胃を空にするパターン(摂食状態対絶食状態)、時間の関数としての摂食状態の胃のpH条件、及び時間の関数としての小腸における酵素、胆汁酸塩、リン脂質の相互結合された動的濃度に関して胃腸管の高度に動的な性質を考慮すると、これらの全ての環境パラメータの動的相互作用を組み込むシミュレーションシステムの使用は、胃腸管に沿った医薬化合物の溶解に対するより深い洞察をもたらすことができ、それによって静的システムを使用して対処することができない研究上の疑問を潜在的に解決することができる。しかしながら、特定の製剤戦略を介して、又は摂食状態条件下でのミセル可溶性に起因して、物質の溶質管腔内小腸濃度を増加させることは、必ずしも物質の吸収の増加をもたらすとは限らず、この現象は、可溶性-透過性相互作用として知られている。摂食状態条件下で、又はシクロデキストリン若しくは界面活性剤を使用することによって医薬化合物の溶解度を増加させることは、主に胆汁酸塩ミセル、界面活性剤ミセル及びシクロデキストリン複合体中の薬物の捕捉及び可溶化に依存し、それによって薬物の見かけの溶解度(溶液中の検出可能な化合物の総量)を増加させる。しかし、吸収に利用可能になるためには、薬物がこれらの可溶化薬物構造から出て分子的に溶解する必要がある。使用される製剤戦略及び薬物化合物に応じて、可溶化(ミセル及び複合体)状態と分子的に溶解した(遊離化合物)状態との間の平衡は、可溶化状態の方向に有利になり得るので、溶質濃度の増加は吸収の増加に変換されない。薬物の両方の溶質状態の間の区別は、薬物複合体/ミセル(可溶化状態)と自由に分子溶解した薬物とを区別することができる透過障壁を使用して行うことができる。オフライン透過装置と組み合わせた静的溶解システムの使用は、薬物の溶解及び透過を研究するための前臨床ツールとして使用することができる。しかしながら、胃腸管内での化合物の溶解の固有の動的性質のために、化合物の相互に関連する溶解及び透過プロセスの速度論を調べることが重要である。連続的に変化する化合物の管腔濃度及び小腸の管腔区画が吸収区画に直接結合している状態。これらの動的相互接続溶解及び透過プロセスは、オフライン透過ツール又は静的結合溶解/透過インビトロモデルを使用する場合にはシミュレートされない。これに加えて、これらのインビトロツールにはいくつかの欠点がある。これらのシステムでは、アクセプター溶液(血流をシミュレートする)と接触している装置のドナー側(腸管腔をシミュレートする)に化合物を添加することによって、医薬化合物の透過が試験される。両方の区画の間には、化合物の分子溶解画分のみをドナー区画からアクセプター区画に透過させる透過障壁が存在する。システムに応じて、複数の要因が、装置における(十分な)透過の欠如及びバイアスされたデータの生成をもたらし得る。要因には、以下が含まれる。
【0005】
・ドナー区画中の非バイオリレバント水性緩衝系を使用する場合のドナー区画中の薬物の沈殿。
【0006】
・実験設定における薬物の不十分な濃度、並びに装置の静的な性質及びドナー区画内にバイオリレバント(biorelevant)溶解体積が存在しないため、ドナー側における薬物の不正確な濃度。
【0007】
・システム内の流体力学が不十分であるために、化合物の透過の減少をもたらす、透過障壁のドナー及びアクセプター側に実質的に撹拌されていない水層(UWL)の存在。
【0008】
・pH依存性溶解度、したがって透過性を有する化合物を研究するときに重要な透過装置のドナー区画におけるpH制御の欠如。
【0009】
・装置の静的な性質のために、ドナー区画内に時間の関数としての化合物のバイオリレバント濃度の非存在。
【0010】
・化合物の遅い透過速度をもたらす透過障壁の使用。
【0011】
・遅い透過速度をもたらし、したがって、生理学的に関連する期間中に透過される実質的な(測定可能な)量の化合物の非存在をもたらす、装置における低い透過面積対ドナー体積比(典型的には、既存のシステムでは<0.5cm-1)。
【0012】
・適切な透過を可能にするためにアクセプター区画内に実質的なシンク条件が存在しないか、又は維持できないこと。
【0013】
・システムにおける実際の生物剤形を研究することを不可能にするドナー区画における非バイオリレバントドナー体積。
【0014】
・システムを破壊することなく、時間の関数としてドナー区画及びアクセプター区画の両方をサンプリングすることができないこと。
【0015】
・実験システムへの薬物の吸着。
【0016】
・動的溶解インビトロツールに組み込むことを可能にする装置の特定の幾何学的形状の非存在。
【0017】
したがって、胃及び小腸における生理学的条件(pH及びバイオリレバント媒体)、及び胃腸管の動態(胃分泌、胃内容排出、動的胃pH、十二指腸分泌、小腸吸収、及び小腸内容排出)を正確にシミュレートすることができ、オンライン透過装置を有するインビトロモデルは、薬物の動的胃腸管溶解及びその関連する相互接続された腸吸収(透過)を正確にシミュレートするために必要とされる。より具体的には、インビトロシステムのオンライン透過区画は、既存の透過システム(上記参照)に関連する欠点を克服するために最適化されるべきであり、したがって、以下のように設計されるべきである。
【0018】
・これは動的溶解システムに組み込まれ得る。
【0019】
・透過装置のドナー側は、実際の動的小腸溶解区画である。
【0020】
・胃内容排出及び十二指腸分泌がドナー区画に入ることを可能にし、ドナー区画から小腸内容排出を可能にする。
【0021】
・ドナー区画は、バイオリレバント小腸体積を含有すべきである。
【0022】
・ドナー区画の含有量の能動的pH制御を行う。
【0023】
・ドナー及びアクセプター区画の内容物の能動撹拌を行う。
【0024】
・バイオリレバントレベルに対するドナー区画比(1.5~2cm-1)の体積に対する透過面積を増加させる幾何学的形状を有する。
【0025】
・ドナーとアクセプターの流体比の比を適合及び最適化することができる。
【0026】
・シンク条件は、アクセプター区画内の能動的シンク交換によって維持され得る。
【0027】
このように、化合物のバイオリレバント溶解は、生理学的に関連する期間(剤形のバイオリレバント通過)中の医薬化合物の十分な(検出可能な)透過を生成することができるように設計された透過バリアに直接結合される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的は、物質、好ましくは医薬物質の(動的に相互接続された)胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする改善された方法を提供することである。本文を通して、特に明記しない限り、「物質」及び「化合物」という用語は、「吸収」及び「透過」という用語の場合のように、好ましくは交換可能に使用される。本発明の別の目的は、胃腸管シミュレーションシステムを使用して物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレーションする改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この目的は、独立請求項1に記載の(医薬)物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法によって達成される。
【0030】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る第1の態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関する。例えば、物質は、医薬化合物、食品成分、化学合成化合物、生物学的化合物、多糖類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、又は脂質であり得る。方法は、第1の区画が胃(の少なくとも一部)をシミュレートし、第2の区画が小腸、好ましくは十二指腸(の少なくとも一部)をシミュレートする少なくとも2つの連続する区画を含む動的胃腸管シミュレーションシステムを提供することを含む。胃(の少なくとも一部)をシミュレートするために、第1の区画は、少なくとも部分的に、例えば主に、模擬胃液、すなわち胃液の組成及びpHをシミュレートする溶液で満たされ、腸(の少なくとも一部)をシミュレートするために、第2の区画は、少なくとも部分的に、例えば主に、人工腸液又は合成腸液としても知られる模擬腸液、すなわち腸液の成分及びpHをシミュレートする溶液で満たされる。
【0031】
第2の区画、好ましくは各区画では、模擬流体のpHは、酸及び塩基の添加を用いたpHモニタリング及びpH設定値調整による能動的制御によって経時的に変化させることができる。有利には、上記の方法は、第2の区画の独立したpH制御を可能にする。
【0032】
胃腸管シミュレーションシステムは、当該少なくとも2つの区画に流体を出入りさせるための流体移送システムを更に含む。特に、流体移送システムは、第1の区画から第2の区画に流体を一方向に移送するように構成され、少なくとも2つの区画のいずれか1つから後続の区画に必要に応じて変更が行われて移送される。
【0033】
第2の区画は、外側容器と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含み、当該内側容器は、好ましくは円筒形の格子構造と、当該格子構造の周りに取り付けられた、半透膜、好ましくは透析膜、すなわち様々なサイズの孔を含む半透膜と、を含む壁を有する。薬物含有溶出液が圧力下で膜フィルタの限外濾過膜の表面を横切って流れる限外濾過とは対照的に、内側容器に移送される流体の平均流量は、圧力が上昇しないように内側容器から移送される流体の平均流量にほぼ等しい。
【0034】
本明細書で使用される「半透膜」という用語は、物理的構造の孔径に応じて、特定の分子サイズカットオフ未満の分子サイズを有する特定の溶解した化合物又は物質がそれを通過することができるが、特定の分子サイズカットオフを超える分子サイズを有する他のもの、例えばミセル及び他のコロイド状薬物構造及び固体薬物はそれを通過することができないような特徴の比較的薄い物理的構造を指すことを意図している。半透膜という用語のこの意味のために、任意の半透膜は、膜の分子サイズカットオフ未満のサイズを有する物質の受動拡散を可能にし、一方、より大きなサイズを有する物質は物理的構造によって保持され、それによってそれらの受動拡散を防止するバリアの形態として定義又は考慮され得ると考えられる。
【0035】
「多孔質」という語は、主にそのような物質のサイズのために物質を保持することができる任意のサイズ又はサイズ範囲の細孔を示す。
【0036】
方法は、第1の区画内に存在する模擬胃液中の物質を導入する工程を更に含み、好ましい実施形態では、方法は、その内容物のサンプリングを通じて第1の区画内の全物質及び溶解物質の濃度を試験する工程と、第1の区画から当該内側容器に当該胃液を移送する工程と、その内容物のサンプリングを通じて当該内側容器内の全物質及び溶解物質の濃度を試験する工程と、その内容物のサンプリングを通じて半透膜を通って当該外側容器に透過することによって当該内側容器から溶解物質の流れを試験する工程と、を更に含む。
【0037】
有利には、上記方法は、結合及び相互接続された透過設定を有する動的溶解モデルにおいて、特に経口剤形における物質の胃腸管溶解及び腸透過を研究することを可能にする。上記の方法は、物質(及び場合によりその特定の製剤)の溶解挙動、胃及び小腸における物質の総濃度及び溶質濃度、腸壁にわたる分子溶解物質の吸収、及び結果として生じる血流中の物質の濃度をシミュレートすることを可能にする。
【0038】
オフライン評価、すなわち定常状態条件下でのみ使用することができる透過シミュレーションシステムとは対照的に、オンライン透過を組み合わせた動的胃腸管シミュレーションシステムを使用すると、内側容器、すなわち小腸溶解容器から溶質物質を除去することができ、それによってインビボで生じるように小腸内の溶質物質濃度を減少させる。
【0039】
圧力駆動プロセスとは対照的に、濃度駆動プロセスを使用すると、インビボで発生する小腸内の透過プロセスをより正確にシミュレートすることが可能になる。
【0040】
透過システム自体とは対照的に、少なくとも2つの連続する区画を含み、当該第2の区画が当該円筒形の格子構造の周りに取り付けられた半透膜を有するシステムを使用することにより、動的インビトロ胃腸管シミュレーションシステムにおいて当該円筒形の格子構造の周りに取り付けられた半透膜を埋め込むことによって、胃腸管、すなわち少なくとも胃及び小腸をより正確にシミュレートすることが可能になる。
【0041】
実施形態によれば、本発明は、上記の方法に関し、胃腸管シミュレーションシステムは完全に動的であり、すなわち、使用中に連続的に動的であるシステムであり、液体がシステム内にほぼ連続的に圧送され、システムから排出され、それにより、経口剤形の摂取時の連続的な胃分泌、胃内容排出、十二指腸分泌、及び/又は小腸内容排出をインビボで生じるものとしてシミュレーションすることを意味する。胃腸管シミュレーションシステムは、第1の区画からの流体を当該内側容器に所定の速度で連続的に移送し、当該内側容器からの流体を連続的に移送するように動作することができる。当業者は、完全に動的なシステムが、胃腸管溶解及び腸透過に影響を及ぼさない比較的短い中断を含み得ることを理解するであろう。
【0042】
本発明による実施形態では、動的胃腸管シミュレーションシステムを提供する工程は、少なくとも2つの連続する空の区画を含む空の胃腸管シミュレーションシステムを提供するサブ工程と、胃腸管の生理学的流体をシミュレートする流体を当該空の区画に充填するサブ工程と、を含む。特に、第1の空の区画を提供し、当該空の区画に模擬胃液を充填し、第2の空の区画を提供し、第2の空の区画は、外側容器に取り付けられた内側容器を含み、当該空の内側容器に模擬小腸液を充填し、当該外側容器にシンク溶液を充填する。当該模擬胃液は水溶液を含む。より具体的な実施形態では、特定のpH範囲で緩衝された水溶液を含む。より具体的な実施形態では、特定の範囲のタンパク質分解酵素としてペプシンを含む。より具体的な実施形態では、特定の濃度範囲の胃リパーゼを含む。より具体的な実施形態では、模擬胃液は、特定の濃度範囲の食品由来化合物を含有する。当該模擬小腸液は水溶液を含む。より具体的な実施形態では、特定のpH範囲で緩衝された水溶液を含む。より具体的な実施形態では、特定の濃度範囲の胆汁酸塩及び/又はリン脂質を含む。より具体的な実施形態では、特定の範囲のトリプシン及び/又はキモトリプシンのようなタンパク質分解酵素を含む。より具体的な実施形態では、特定の濃度範囲の膵臓リパーゼを含む。より具体的な実施形態では、特定の濃度範囲の膵臓アミラーゼを含む。より具体的な実施形態では、模擬小腸液は、特定の濃度範囲の食品由来化合物を含有する。当該シンク溶液は、透過装置のアクセプター溶液として機能する水溶液を含み、すなわち、溶液は、半透膜を通って当該内側容器から当該外側容器に透過する物質を受け入れる。より具体的な実施形態では、特定のpH範囲で緩衝された水溶液を含む。より具体的な実施形態では、特定の組成を有する溶液は、かなり大量の試験物質を溶解することができ、それによってシンク溶液が実験実行中に試験物質で飽和することがないことを保証する。より具体的な実施形態では、界面活性剤(とりわけ他のTPGS、Tween80、又はSDSの等)を含む溶液は、それらの臨界ミセル濃度を超え、それによって当該外側容器内の透過した薬物を可溶化し、当該外側容器内の薬物の界面活性剤ミセルへのミセル捕捉に起因して物質が当該内側容器内に拡散し戻るのを防止する。
【0043】
一実施形態では、模擬胃液のpHは、酸及び塩基の添加を用いたpHモニタリング及びpH設定値調整による第1の容器内のpHの能動的制御によって経時的に変化させることができる。イオン種、酵素及び食品化合物の濃度を含む模擬胃液の組成は、第1の容器への胃分泌と第1の容器からの胃内容排出との間の動的相互作用によって経時的に変化し得る。これの次に、模擬小腸液のpHを、pHの能動的制御によって経時的に変化させることができる。イオン種、食品化合物、胆汁酸塩、及び/又は酵素の濃度を含む組成物は、第1の区画から第2の区画の内側容器への胃内容排出、第2の区画の内側容器への十二指腸分泌、及び第2の区画の内側容器からの小腸内容排出間の動的相互作用によって経時的に変化し得る。
【0044】
他の実施形態によれば、本発明は、胃腸管シミュレーションシステムが、第1の区画の内容物を撹拌するための少なくとも1つの撹拌システムと、内側容器及び/又は外側容器の内容物を撹拌するための少なくとも1つの撹拌システムと、を更に含む、上記の方法に関する。第1の区画について、撹拌システムは、好ましくは、それぞれの容器の下に取り付けられ、回転磁場を生成するために設けられた磁気駆動装置と、それぞれの容器の底部に配置され、当該回転磁場と共に回転し、当該回転磁場を増幅するために設けられた永久磁石とを含む。内側容器及び外側容器の両方を含む区画(小腸区画)の場合、撹拌システムは、好ましくは、それぞれの外側容器の下に取り付けられ、回転磁場を発生させるために設けられた磁気駆動装置と、外側容器の底部に配置され、当該回転磁場と共に回転し、当該回転磁場を増幅するために設けられた永久磁石と、内側容器の底部に配置され、外側容器の底部に配置された永久磁石によって発生した磁場と共に回転し、磁場を増幅するために設けられた永久磁石とを含む。胃腸管シミュレーションシステムは、それぞれの容器の内容物を撹拌することによって、内側容器の内容物及び/又は外側容器の内容物を混合するように更に動作される。
【0045】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る第2の態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関し、当該物質は、クラスI、クラスII、クラスIII、又はクラスIVに属するとして生物薬剤学分類システムに(Biopharmaceutics Classification System)従って分類された薬物からなる群から選択される。
【0046】
好ましくは、本発明は、当該物質が受動的細胞間拡散によって主に吸収される、上記の方法に関する。より具体的には、当該物質は、クラスI及びクラスIIに属する医薬化合物の群から選択される。
【0047】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る第3の態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関し、胃腸管シミュレーションシステムは、所定の速度で、
第1のリザーバから第1の区画に胃分泌液(模擬胃液);第1の区画から第2の区画の内側容器に模擬胃液;
第2のリザーバから第2の区画の内側容器に十二指腸分泌液(十二指腸の模擬小腸液);及び第2の区画の内側容器から第3のリザーバに模擬十二指腸液(十二指腸の模擬小腸液)
を移送するように更に動作される。
【0048】
更なる実施形態によれば、本発明は、胃腸管シミュレーションシステムが、所定の速度で、0%~50%の新鮮なシンク溶液/分の新鮮なシンク溶液を新鮮なシンクリザーバから第2の区画の外側容器に移送し、0%~50%の廃棄物シンク溶液/分の廃棄物シンク溶液を第2の区画の外側容器から廃棄物シンクリザーバに移送するように更に動作される、上記の方法に関する。本明細書で使用される「新鮮なシンク溶液」という用語は、いずれの浸透した薬物を含まずに新たに調製されたシンク溶液を指す。本明細書で使用される「廃棄物溶液」という用語は、外側容器内に存在し、内側容器から外側容器内に浸透した試験物質を含有するシンク溶液を指す。
【0049】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る第4の態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関し、胃腸管シミュレーションシステムは、少なくとも3つの連続する区画を含み、そのうちの第3の区画は好ましくは空腸をシミュレートする。
【0050】
更なる実施形態によれば、本発明は、胃腸管シミュレーションシステムが、所定の速度で、
第1のリザーバから第1の区画に胃分泌液(模擬胃液);第1の区画から第2の区画の内側容器に模擬胃液;
第2のリザーバから第2の区画の内側容器に十二指腸分泌液(十二指腸の模擬小腸液);第2の区画の内側容器から第3の区画に模擬十二指腸液(十二指腸の模擬小腸液);
第3のリザーバから第3の区画に空腸分泌液(空腸の模擬小腸液);第3の区画から第4のリザーバに模擬空腸液(空腸の模擬腸液)
を移送するように更に動作される、上記の方法に関する。第3の区画は、外側容器と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含んでもよく、当該内側容器は、円筒形の格子構造と、当該円筒形の格子構造の周りに取り付けられた半透膜、好ましくは透析膜と、を含む壁を有する。
【0051】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る第5の態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法に関し、胃腸管シミュレーションシステムは、少なくとも4つの連続する区画を含み、そのうちの第4の区画は好ましくは回腸をシミュレートする。
【0052】
更なる実施形態によれば、本発明は、胃腸管シミュレーションシステムが、所定の速度で、
第1のリザーバから第1の区画に胃分泌液(模擬胃液);第1の区画から第2の区画の内側容器に模擬胃液;
第2のリザーバから第2の区画の内側容器に十二指腸分泌液(十二指腸の模擬小腸液);第2の区画の内側容器から第3の区画に模擬十二指腸液(十二指腸の模擬小腸液);
第3のリザーバから第3の区画に空腸分泌液(空腸の模擬小腸液);第3の区画の内側容器から第4の区画に模擬空腸液(空腸の模擬小腸液);
第4のリザーバから第4の区画に回腸分泌液(回腸の模擬小腸液);第4の区画から第5のリザーバに模擬回腸液(回腸の模擬小腸液)
を移送するように更に動作される、上記の方法に関する。第4の区画は、外側容器と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含んでもよく、当該内側容器は、円筒形の格子構造と、当該円筒形の格子構造の周りに取り付けられた半透膜、好ましくは透析膜とを含む壁を有する。
【0053】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る実施形態では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸吸収をシミュレートする方法に関し、更に、それぞれが所定の値、範囲又は軌跡に従って、区画のそれぞれにおいて、以下のパラメータ:液体流、温度、pH、イオン強度、ヘッドスペース、撹拌、圧力、液体体積、溶存酸素、酸化還元電位のうちの1つ若しくは複数又は全てを制御するように胃腸管シミュレーションシステムを動作させることを含む。
【0054】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る実施形態では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸吸収をシミュレートする方法に関し、複数の当該胃腸管シミュレーションシステムは同時に同一に動作し、当該胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数は物質を含む試験試料を含み、胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数は試験試料を含まない。
【0055】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る実施形態では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸吸収をシミュレートする方法に関し、各区画は、周縁部によって囲まれた開口上部を有する容器と、周縁部に配置され、蓋システムと容器との間に密封を形成するように構成された蓋システムとを含み、蓋システムは、本体を通って延在し、容器の内部へのアクセスを提供する複数の通路を有する本体を含み、当該複数の通路は、流体移送管を受け入れるように構成された第1の通路と、少なくとも1つのセンサ構成要素を取り付けるように構成された第2の通路とを含む。
【0056】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る実施形態では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸吸収をシミュレートする方法に関し、流体移送システムは、好ましくは、流体移送管を介して各区画に及び各区画から流体を圧送するための複数の蠕動ポンプを含む。
【0057】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る更なる態様では、本発明は、物質の胃腸管溶解及び腸吸収をシミュレートするための胃腸管シミュレーションシステムに関し、少なくとも2つの連続する区画を含み、そのうちの第1の区画は胃(の少なくとも一部)をシミュレートし、第2の区画は小腸、好ましくは十二指腸(の少なくとも一部)をシミュレートし、当該第2の区画は、外側容器と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器とを含み、当該内側容器は、円筒形格子構造と、当該円筒形格子構造の周りに取り付けられた半透膜、好ましくは透析膜と、を含む壁を有する。
【0058】
本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る本発明による実施形態では、当該円筒形格子構造は、少なくとも25ml、好ましくは少なくとも30ml、より好ましくは少なくとも40ml、更により好ましくは少なくとも50mlの内部体積を有する。本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る本発明による実施形態では、内部体積に対する円筒形格子構造の表面積の比は、1~3cm2/mlの範囲、好ましくは1.5~2.5cm2/mlの範囲、より好ましくは約2.0cm2/mlである。本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る本発明による実施形態では、円筒形格子構造は、少なくとも50%、好ましくは60%~80%の開口面積比を有し得る。好ましくは、円筒形格子構造は、撹拌磁石を受け入れるために、開口上部及び部分的に閉じた底部を有する。本明細書に記載される本発明の他の態様及び実施形態と組み合わせて起こり得る本発明による実施形態では、内部体積に対する外側容器の体積の比は、少なくとも3、好ましくは5~15、より好ましくは約10である。
【0059】
本発明を、その例示的な実施形態が示されている図面を参照して以下により詳細に説明する。それらは、例示目的のみを意図しており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明の第1の実施形態による胃腸管シミュレーションシステムの概略図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態による胃腸管シミュレーションシステムの概略図である。
【
図3】本発明の実施形態による物質の胃腸管溶解及び腸透過をシミュレートする方法の概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態による容器及び蓋システムの概略図である。
【
図5A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図5B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図5C】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図5D】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図6A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図6B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図6C】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図6D】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図7A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図7B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でのイトラコナゾールのシクロデキストリン系溶液の管腔内希釈時にインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図8】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9C】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9D】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9E】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9F】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9G】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9H】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図9I】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図10A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図10B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下対摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図11】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図12A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図12B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図12C】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図12D】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図13A】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図13B】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図13C】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【
図13D】
図1の胃腸管シミュレーションシステムが、絶食状態条件下でナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する能力を実証するための研究の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本開示は、特定の実施形態に関して、及び特定の図面を参照して説明されるが、本開示はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。説明される図面は概略的なものに過ぎず、非限定的である。図面では、いくつかの要素のサイズは誇張されており、例示を目的として縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法及び相対寸法は、本開示の実施への実際の縮小に必ずしも対応しない。
【0062】
更に、明細書及び特許請求の範囲における第1、第2、第3等の用語は、同様の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的又は時系列的な順序を説明するためのものではない。これらの用語は、適切な状況下で交換可能であり、本開示の実施形態は、本明細書に記載又は例示されている以外の順序で動作し得る。
【0063】
更に、明細書及び特許請求の範囲における上部、底部、上方、下方等の用語は、説明を目的として使用されており、必ずしも相対的な位置を説明するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示されている以外の配向で動作し得る。
【0064】
更に、様々な実施形態は、「好ましい」と呼ばれるが、本開示の範囲を限定するものとしてではなく、本開示が実施され得る例示的な方法として解釈されるべきである。
【0065】
特許請求の範囲で使用される「含む(comprising)」という用語は、その後に列挙される要素又は工程に限定されると解釈されるべきではなく、他の要素又は工程を排除するものではない。これは、言及された記載された特徴、整数、工程又は構成要素の存在を指定するものとして解釈される必要があるが、1つ又は複数の他の特徴、整数、工程又は構成要素、あるいはそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって、「A及びBを含む装置」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなる装置に限定されるべきではなく、本開示に関して、装置の列挙された構成要素がA及びBのみであり、更に、特許請求の範囲はそれらの構成要素の均等物を含むと解釈されるべきである。
【0066】
本開示の異なる態様は、添付の図面を参照して以下により完全に説明される。しかしながら、本明細書に開示された実施形態は、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書に記載された態様に限定されると解釈されるべきではない。
【0067】
図1及び
図2は、多数の連続して配置された区画、例えば2~10個の連続して配置された区画、典型的には3又は4個の連続して配置された区画100、200、300、400を含む胃腸管シミュレーションシステムを示す。胃腸管シミュレーションシステムは、当該区画の内部体積のpH値を測定及び制御するために、当該区画及びpHセンサに流体を出入りさせるための流体移送システムを更に含む。流体移送システムは、好ましくは、流体移送管を介して当該区画100、200、300、400に出入りするように流体を圧送するための複数のポンプ、好ましくは蠕動ポンプ(図示せず)を含む。
【0068】
胃腸管シミュレーションシステムは、第1の区画100が胃の少なくとも一部をシミュレートし、第2の区画200が十二指腸の少なくとも一部をシミュレートする少なくとも2つの連続した区画を含み、当該第2の区画は、外側容器220と、外側容器の内側に取り付けられた内側容器210とを含み、当該内側容器は、好ましくは円筒形である、格子構造と、当該円筒形格子構造の周りに取り付けられた半透膜、好ましくは透析膜と、を含む壁を有する。第1の区画100は、模擬胃液、特に胃分泌物601a、及び医薬物質600aを、それぞれ第1の体積V絶食及び第2の体積V用量に従って受け入れるように適合されている。
【0069】
このようにして、内側容器を使用して腸内の化合物の吸収を模倣することができ、膜は血液腸関門を模倣する。例えば、
図1に示すように、流量F1で第1の区画100に胃分泌物601を導入し、流量F2で胃内容排出をシミュレートし、流量F3で第2の区画200に十二指腸分泌物602を導入し、流量F4で十二指腸内容排出をシミュレートする。更に、
図2に示すように、医薬物質600を第1の区画に導入することができ、胃腸管は、流量F5で第3の区画300に空腸分泌物603を導入し、流量F6で空腸内容排出をシミュレートし、流量F7で第4の区画400に回腸分泌物604を導入し、流量F8で回腸内容排出をシミュレートすることによって更にシミュレートすることができる。更に、
図1に示すように、シンク800は、第2の区画200とシンクリザーバとの間で移送され、すなわち、新鮮なシンク溶液801は、新鮮なシンクリザーバから第2の区画200の外側容器に移送され、廃棄物シンク溶液802は、第2の区画200の外側容器から廃棄物シンクリザーバに移送される。本明細書で使用される「新鮮なシンク溶液」という用語は、いずれの浸透した薬物を含まずに新たに調製されたシンク溶液を指す。本明細書で使用される「廃棄物溶液」という用語は、外側容器内に存在し、内側容器から外側容器内に浸透した試験物質を含有するシンク溶液を指す。
【0070】
模擬胃液のpHは、pHセンサ540を介したpHモニタリングによる第1の容器内のpHの能動的制御、並びに酸及び塩基の添加605、640を用いたpH設定値の調整によって経時的に変化させることができる。
【0071】
格子構造210は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、PTFE、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカルボナート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ乳酸、又は3D印刷に適した別の材料等の3D印刷部品であってもよい。好ましくは、格子構造210は、例えば固体金属(例えば、鋼、アルミニウム、チタン等)、プラスチック(例えば、PTFE、ポリカルボナート、ポリエーテルエーテルケトン等)又はポリオキシメチレンのCNC機械加工部品である。外側容器220は、好ましくは、区画の内容物の目視検査を可能にするために透明材料で製造される。
【0072】
実施形態では、格子構造は、少なくとも25ml、好ましくは少なくとも30ml、より好ましくは少なくとも40ml、更により好ましくは少なくとも50mlの内部体積を有し得る。例えば、内部体積に対する格子構造の表面積の比は、1~3cm2/mlの範囲、好ましくは1.5~2.5cm2/mlの範囲、より好ましくは約2.0cm2/mlである。特に、格子構造は、少なくとも50%、好ましくは60%~80%の開口面積比を有し得る。更に、内部体積に対する外側容器の体積の比は、少なくとも3、好ましくは5~15、より好ましくは約10であり得る。更に、格子構造の幾何学的形状は、格子構造の内部体積のpH値を測定し、能動的に制御することを可能にするpHセンサを挿入することを可能にする。
【0073】
実施形態では、
図1及び
図2に示すように、例えば上述のような少なくとも2つの区画100、200を含む胃腸管シミュレーションシステムが提供され、胃腸管シミュレーションシステムは、少なくとも2つの区画の内容物、すなわち第1の区画100並びに第2の区画200の内側容器210及び外側容器220を撹拌するための少なくとも2つの磁気撹拌システムを更に含む。磁気撹拌システムは、それぞれの容器120の下に取り付けられ、回転磁場を生成するために設けられた磁気駆動装置142、例えば回転電磁場と、容器の底部に配置され、当該回転磁場と共に回転するために設けられた第1の撹拌要素(永久磁石)140と、を含む。磁気撹拌システムは、それぞれの区画200の下に取り付けられた磁気駆動装置242、例えば回転電磁場と、外側容器220の底部に配置され、当該回転磁場と共に回転し、当該回転磁場を増幅するために設けられた第1の撹拌要素(永久磁石)240と、当該増幅された磁場によって回転するために設けられた内側容器210の底部の第2の撹拌要素(永久磁石)230と、を含む。第3の区画300及び第4の区画400の内側容器及び外側容器の撹拌は、第2の区画200の内側容器及び外側容器について説明したように行われる。
【0074】
好ましくは、当該回転磁場の速度は、磁石の安定性を維持しながら可能な限り速い。例えば、これは約300rpm又は約500rpmであり得る。この理由の1つは、いわゆる「非撹拌水層」である。これは、(とりわけ)膜に接する液体の層であり、流体力学のために、固体壁(膜)に「付着」することによって液体の撹拌/移動に抵抗する。これは、層が周囲の流体よりも少ない(又は全く混合されない)ことを意味し、したがって、膜の外側容器側の透過物質の濃度が外側容器内の残りの液体よりも高くなり、内側容器上についても同様である。これは、浸透圧(濃度勾配)が理想的な系よりも低く、理論上のものと比較して膜上の透過流束を低下させることを意味する。液体の移動が速く、乱流が多いほど、この現象は回避される。
【0075】
別の理由は、それらの直径と比較して、外側容器及び特に内側容器の両方において比較的高い円筒形液体柱である。したがって、撹拌磁石は、液体カラムの最上層に到達するためにも、より大きな渦を生成する必要がある。外側容器の場合、これは、大きな磁石の使用を可能にする利用可能な空間に起因してそれほど問題ではないが、内側容器では、空間ははるかに限定されており、これは小さい磁石しか適合しないことを意味し、特に低速では小さい渦しか生成しない。更に、異なる区画の外側容器及び内側容器の撹拌は、当該容器内の特定のパラメータ、例えばpH(下記参照)の能動的な測定及び制御を可能にするために必要である。
【0076】
この磁気的に駆動される撹拌要素を設けることによって、容器又は蓋の壁を通る撹拌要素の機械的結合の必要性を回避することができ、その結果、区画の内部の気密シールをより良好に保証することができる。発生した磁場に沿って回転し、それを増幅する永久磁石を設けることにより、容器内の撹拌要素の良好な動作を確実にすることができる。
【0077】
好ましい実施形態では、永久磁石140、240、340、440、230、330、430は、概して、三角柱形状又は円筒形状であり得る。それらは、それぞれの容器内で自由に移動する要素であってもよく、又は追加の位置決め要素(図示せず)によって定位置に保持されてもよい。
【0078】
各区画は、周縁部分によって囲まれた開口上部を有する容器と、周縁部分上に配置され、蓋システムと容器との間に気密シールを形成するように構成された気密蓋システムと、を含み得る。これは、蓋システムを周縁部に固定する工程に続いて気密シールが得られるように、蓋システムが当該周縁部に嵌合するように構成されることを意味する。これは、例えば当業者にそれ自体知られている1つ又は複数のシールリングを含む多くの方法で達成することができ、したがって本明細書で更に説明する必要はない。
【0079】
蓋システムは、
図3に示すように、本体を貫通して延在し、容器の内部700へのアクセスを提供する複数の通路510、520及び/又は530を有する本体500を含み得、当該複数の通路は、流体移送管を受け入れるように構成された第1の通路510及び/又は520と、少なくとも1つのセンサ構成要素531(チューブを含んでもよい)を取り付けるように構成された第2の通路530と、を含む。これは、第1の通路が、(液体及び/又は気体を移送するための)流体移送管を受け入れるようなサイズ及び形成であり、好ましくは管の周りにしっかりと嵌合し、蓋システムへの入口点と容器の内部に向かう出口点との間でそれらを案内して、好ましくは障害物を避けるために緩やかな角を得るようにし、第2の通路が、センサ又はセンサの少なくとも1つの構成要素を収容するように構成され、センサは容器の内部のパラメータを検知するために設けられることを意味する。
【0080】
図4は、医薬物質のヒト又は動物の胃腸管溶解及び腸吸収の機能をシミュレートする方法を示し、本明細書に記載の胃腸管シミュレーションシステムの空の区画を胃腸管の生理学的流体をシミュレートする流体で充填する工程と、各区画において、それぞれ所定の値、範囲又は軌跡に従って、限定されないが、以下のパラメータ、液体流(例えば、0~25ml/分)、温度(例えば20~50℃)、pH(例えば、1~9の範囲)、イオン強度(例えば、0~10Mの範囲)、撹拌(例えば0~600rpm)、圧力(例えば、0~2バール)、液体体積(例えば0~1000ml)のうちの1つ又は複数あるいは全部を制御するように胃腸管シミュレーションシステムを動作させる工程と、を含む。好ましい範囲は、液体流量0~14ml/分、温度35~40℃、pH1.5~8の範囲、イオン強度0.01~5Mの範囲、撹拌1~500rpm、圧力0.1~1.5バール、液体体積30~1000mlである。
【0081】
方法は、空の区画にH2O2ガスを導入することによって、及び/又は区画の内部温度を40℃~121℃(15psi)の範囲内の値に30分の範囲内の期間、増加させることによって、胃腸管シミュレーションシステムの内部を滅菌する第1の工程S1を含み得る。
【0082】
方法は、第1の区画に物質を導入する第2の工程S2を更に含み、当該物質は、溶解及び透過が試験される化合物から少なくとも部分的に作製される。
【0083】
方法は、模擬胃液と試験物質との混合物を第1の区画から内側容器に移送することによって「胃内容排出」の第3の工程S3と、半透膜、好ましくは透析膜、例えば再生セルロースを通って外側容器に透過することによって当該内側容器からの溶解物質の流れを確実にする第4の工程S4と、模擬十二指腸液を第2の区画の内側容器から移送することによって「十二指腸内容排出」の第5の工程S5と、を実行するように胃腸管シミュレーションシステムを動作させることを更に含む。方法は、S4及び/又はS5と同様であるが、後続の区画及び/又は容器に関する多数の追加の工程(図示せず)を更に含むことができる。
【0084】
胃腸管シミュレーションシステムは、所定の速度で、第1のリザーバから第1の区画に胃分泌液;第1の区画から第2の区画の内側容器に模擬胃液;第2のリザーバから第2の区画の内側容器に十二指腸分泌液;第2の区画の内側容器から第3の区画(の内側容器)に模擬十二指腸液;第3のリザーバから第3の区画(の内側容器)に空腸分泌液;第3の区画の内側容器から第4の区画(の内側容器)に模擬空腸液;第4のリザーバから第4の区画(の内側容器)に回腸分泌液;第4の区画(の内側容器)から第5のリザーバに模擬回腸液を移送するように更に動作され得る(
図1及び
図2)。
【0085】
実施形態では、複数の当該胃腸管シミュレーションシステムが同時に同一に動作し、当該胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数は物質を含み、胃腸管シミュレーションシステムの1つ又は複数は試験試料を含まない。
【0086】
図5A~
図7Bは、絶食状態条件をシミュレートする実験の結果を示す一連のグラフであり、試験は
図1に示す実験設定で行われる。実験の開始前に、絶食条件下での胃の残りの体積をシミュレートするために、55mLの模擬胃液(V
絶食=55mL)を第1の区画に添加し、30mLの模擬十二指腸液(V
十二指腸=30mL)を第2の区画の内側容器に添加し、300mLのシンク溶液(V
シンク=300mL)を第2の区画の外側容器に添加した。
【0087】
第1の実験実行の開始時に、20mLのSporanox(登録商標)溶液(200mgのイトラコナゾールの用量に対応する)を胃(水なし)に添加し(V用量_1=20mL)、一方、第2の実行の開始時に、20mLのSporanox溶液を240mLの水と共に第1の区画に添加した(水あり)(V用量_2=260mL)。実験実行中、GITの動態は、模擬胃液の胃への胃分泌(流量F1=2、5mL/分)、胃から内側容器の内側への胃内容排出(流量F2;用量の単一指数関数的内容排出と添加された胃液分泌の内容排出との組合わせ)、内側容器の内側の外側リザーバからの十二指腸分泌(流量F3=2.5mL/分)、及び内側容器からの十二指腸内容排出(流量F4=F2+F3)によってシミュレートされた。したがって、胃の体積は時間の関数として指数関数的に減少したが、内側容器及び外側容器の体積は一定のままであった。胃の内容物のpHは、pH1.6の設定点で自動的に制御された。十二指腸(内側容器)のpHは、能動的pH制御及び内側容器内の十二指腸液の分泌を通して6.5の値で一定に保たれた。十二指腸分泌物に対して能動的pH制御を実施し、十二指腸分泌物の緩衝強度を時間の関数で変化させることを可能にした。
【0088】
胃反応器の内容物を300rpmで撹拌することによって均質化した。内側容器及び外側容器の内容物を500rpmで撹拌することによって均質化した。各容器の温度は37℃に制御した。
【0089】
各実験操作を180分間追跡し、7、15、30、45、60、75、90、105、120、135、150、165及び180分後に第1の区画、内側容器及び外側容器から試料を採取した。胃及び十二指腸から採取した試料において、イトラコナゾールの総濃度及び溶質濃度を決定した。シンク(外側容器)から採取した試料において、イトラコナゾールの溶質濃度を決定した。イトラコナゾール濃度を、UV検出に連結したUHPLCクロマトグラフィによって決定した。全ての実験を生物学的に三連で行った。
【0090】
実験では、イトラコナゾール溶液のインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する実験設定の能力を研究する。イトラコナゾールは、非常に低い水溶性を有する弱塩基性薬物(pKa2及び3.7)であり、それにより、薬物の小腸溶質濃度が低くなり、したがって全身バイオアベイラビリティが低くなる。十二指腸におけるその溶解度を増加させるために、イトラコナゾールはシクロデキストリン系製剤として市販されている(Sporanox(登録商標),Janssen,Beerse,Belgium)。この製剤において、イトラコナゾールは40%2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンによって可溶化される。
【0091】
結果は、水を同時投与せずに20mLのSporanox溶液を摂取すると、胃中のイトラコナゾールの総濃度及び溶質濃度が高くなったことを示している。実験を通して、存在する総薬物及び溶質薬物の等しい濃度によって実証されたように、イトラコナゾールは胃中に完全に溶解した。胃におけるイトラコナゾールの完全な溶解は、
図5Aに示されるように、弱塩基性薬物が溶解するために必要な胃の低いpH値と組み合わせたシクロデキストリンの可溶化効果から生じた。20mLのSporanox溶液を240mLの水と一緒に共摂取すると、これらの条件下で存在するイトラコナゾールの総濃度及び溶質濃度がより低いことによって実証されるように、投与量が希釈された。
図5Bに示すように、胃中に存在する総イトラコナゾール及び溶質イトラコナゾールの等しい濃度から明らかなように、水の同時摂取はイトラコナゾールの沈殿をもたらさなかった。
【0092】
両方の条件において、イトラコナゾールの濃度は時間の関数として減少し、これは胃分泌物による希釈及び胃内容排出による胃からの化合物の除去に起因する。
図5Cに示すように、及び
図5Dに示すように、胃中のイトラコナゾール濃度の両方について曲線下面積を計算すると、水の同時摂取は、総濃度及び溶質濃度の両方が同程度に向かってbotの曲線の面積を減少させることが明らかになった。したがって、水の同時投与は、化合物の希釈効果をもたらしただけであり、胃におけるイトラコナゾールの溶解及び/又は可溶化に影響を及ぼさなかったと結論付けることができる。胃区画中で観察されたイトラコナゾールの時間依存的挙動は、イトラコナゾールを用いたインビボ試験中に観察された挙動と完全に一致していた(Berben et al.,2017)。
【0093】
胃の内容物を十二指腸内に胃内容排出すると、十二指腸内腔のイトラコナゾールの総濃度が急激に増加した。この最初の急激な増加の後、十二指腸分泌物による十二指腸の内容物の希釈及び十二指腸内容排出による薬物物質の除去のために、イトラコナゾールの総濃度が減少した。
図6Aに示すように、水を添加しない実験中、イトラコナゾールが十二指腸に入り、イトラコナゾールの総濃度と比較して低い濃度の溶質イトラコナゾールによって実証されたように、投与量の一部が沈殿した。この沈殿は、化合物を胃の酸性環境(pH1.6)から十二指腸のより中性の環境(pH6.5)に移したときに発生したpHシフトによるものであった。十二指腸pHは、イトラコナゾールのpKa値よりも実質的に高く(2及び3.7)、それによって十二指腸沈殿を説明した。共投与された水を用いた実験と用いない実験との間で、イトラコナゾールの十二指腸挙動に顕著な差が観察された。水なしの実験中、高濃度の溶質イトラコナゾールが十二指腸に存在した(
図2A)。
図6Bに示されるように、水とイトラコナゾールとの同時投与は、十二指腸においてかなりより低い濃度の溶質イトラコナゾールをもたらした。
【0094】
このように、両条件間の胃希釈の観察された類似性は、十二指腸における同じ溶解及び/又は可溶化挙動では解釈されないことが明らかであった。水を用いた実験中のより低い濃度の溶質イトラコナゾールは、胃中での化合物の希釈によるものであると予想することができる。
図6Cに示されるように、実際、十二指腸におけるイトラコナゾールの総濃度の曲線下面積の測定により、十二指腸におけるイトラコナゾールの総濃度が、水による希釈のために32、1%低下したことが明らかになった。したがって、両方の条件でイトラコナゾールの同じ溶解及び/又は可溶化が起こった場合、溶質濃度の曲線下面積の同じ減少が観察されるはずである。水の同時投与は、
図6Dに示すように、純粋な希釈効果によって予想されるよりも高い56.1%の溶質濃度の保存下の面積の減少をもたらした。これらの結果は、Sporanox溶液を水で管腔内希釈すると、イトラコナゾールの十二指腸沈殿が更に20.4%生じることを明確に実証した。これは、製剤中のシクロデキストリンの希釈により、十二指腸でのイトラコナゾールの可溶化能力が低下し、したがって化合物の沈殿が増加したためと考えられた。更に、これはまた、水なしの実行中の溶質イトラコナゾールの十二指腸濃度の増加が、シクロデキストリン封入複合体によるイトラコナゾールの可溶化に起因することを実証した。したがって、水の同時投与は、十二指腸における溶質イトラコナゾールの濃度に壊滅的な影響を及ぼし、水なしと比較して2.28倍減少し、化合物の最終バイオアベイラビリティに潜在的に影響を及ぼし得る。本発明によるシステムにおいて十二指腸について生成されたデータは、イトラコナゾールを用いたインビボ試験中に観察されたデータと完全に一致していた(Berben et al.,2017)。
【0095】
本発明によるシステムは、胃腸管を通過する間のイトラコナゾールの動的に相互接続された溶解及び透過を研究することを可能にした。水との同時投与は、透過の推進力である溶質イトラコナゾールの濃度の壊滅的な減少をもたらしたが、実験中に生成された透過データは、
図7Aに示すように、両条件間でイトラコナゾールの透過画分に実質的な効果がないことを明らかにした。十二指腸で観察された高いピーク濃度のために、水を添加しない実験の最初の60分間でより速い透過が起こった。しかし、この効果は、十二指腸における溶質イトラコナゾール濃度の差と比較してわずかであった。両方の条件について、透過したイトラコナゾールの量は、
図7Aに示されるように、同じプラトー濃度に達した。透過化合物の曲線下面積の決定により、
図7Bに示すように、水あり又は水なしで摂取した場合のイトラコナゾールのバイオアベイラビリティに実質的な差がないことが明らかになった。
【0096】
したがって、これらのデータは、シクロデキストリンと配合されたイトラコナゾールの可溶化透過性相互作用の存在を示唆している。水を含まない十二指腸における溶質イトラコナゾールの増加した濃度は、化合物の増加した吸収に変換されず、シクロデキストリン封入複合体に対するイトラコナゾールの親和性が高すぎて、透過に利用可能なかなりの濃度の遊離分子溶解イトラコナゾールを生成することができなかったことを示している。水摂取によるイトラコナゾール及びシクロデキストリンの管腔内希釈は、おそらく、化合物が高い親和性を有する高次シクロデキストリン錯体の非存在下で生じ、それによって化合物の可溶化を減少させるが、透過に利用可能な同じ濃度の分子溶解薬物を生成した。これらのデータは、インビボ研究中に生成されたデータと完全に一致していた(Berben et al.,2017)。
【0097】
図9A~
図10Bは、GITの絶食状態及び摂食状態条件をシミュレートする実験の結果を示す一連のグラフであり、絶食状態条件下での試験は
図1に示す実験設定で行われ、摂食状態条件下での実験は
図8に示すように行われる。
【0098】
絶食状態実験の開始前に、55mLの模擬胃液を胃の容器に添加して、絶食条件下での胃の残りの体積を模擬し、30mLの模擬十二指腸液を第2の区画の内側容器に添加し、300mLのシンク溶液を第2の区画の外側容器に添加した。実験の開始時に、硫酸インジナビル696mgを水250mLと共に胃に添加した。実験実行中、GITの動態は、模擬胃液の胃への分泌(流量F1)、胃から内側容器の内側への胃内容排出(流量F2;用量の単一指数関数的排出と添加された胃液分泌の排出との組合わせ)、内側容器の内側の外部リザーバからの十二指腸分泌(流量F3)、及び内側容器からの十二指腸内容排出(流量F4=F2+F3)を通して模擬された。したがって、胃の体積は時間の関数として指数関数的に減少したが、内側容器及び外側容器の体積は一定のままであった。胃の内容物のpHは、pH1.6の設定点で自動的に制御された。十二指腸(内側容器)のpHは、能動的pH制御及び内側容器内の十二指腸液の分泌を通して6.5の値で一定に保たれた。十二指腸分泌物に対して能動的pH制御を実施し、十二指腸分泌物の緩衝強度を時間の関数で変化させることを可能にした。外側容器のpHは6.5の値に設定した。
【0099】
胃反応器の内容物を300rpmで撹拌することによって均質化した。内側容器及び外側容器の内容物を500rpmで撹拌することによって均質化した。それぞれの容器の温度を37℃に制御した(実験設定を参照するための
図1)。
【0100】
各実験操作を240分間追跡し、7、15、30、45、60、75、90、105、120、135、150、165、180、195、210、225、及び240分後に、胃の容器(第1の区画)、十二指腸(内側容器)、及びシンク(外側容器)から試料を採取した。胃及び十二指腸から採取した試料では、インジナビルの総濃度及び溶質濃度を決定した。シンク(外側容器)から採取した試料において、インジナビルの溶質濃度を決定した。
【0101】
2セットの摂食状態実験を行った。各実験の開始前に、絶食状態の実験中と同じ体積及び流体を胃の容器並びに第2の区画の内側及び外側容器に加えた。胃の高pH摂食条件をシミュレートする実験の開始時に、696mgの硫酸インジナビルを400mLの栄養飲料Ensure plus及び250mLの水と共に胃に添加した。胃の低pH摂食実験の開始時に、696mgの硫酸インジナビルを、400mLの炭水化物溶液(Ensure plusと同じカロリー含有量)及び250mLの水と共に胃に添加した。実験開始から15分後、摂食状態条件下での胃内容物排出の遅滞期をシミュレートし、摂食状態上部GITの動態を、模擬胃液の胃への分泌(流量F1)、胃から内側容器内への胃内容物排出(流量F2;追加された胃分泌物を排出することと、240分以内に摂取した胃液を排出するのに必要な流速との組合わせ)、十二指腸分泌(外部リザーバから内側容器内に圧送される、流量F3-1を有する緩衝溶液606及び流量F3-2を有する模擬十二指腸液602の動的に変化する流量の組合わせである一定流量F3)を通してシミュレートした。F3-1及びF3-2の流速の比を選択して、インビボで観察される十二指腸内の動的胆汁酸塩、リン脂質、及び酵素濃度を生成した。最後に、十二指腸を一定流量F6(胃内容排出及び十二指腸分泌物の合計)で空にした。したがって、胃の容積は時間の関数として直線的に空になったが、内側容器及び外側容器の体積は一定のままであった。胃の高pH実験中、胃のpH値をオンラインで制御し、240分かけて初期値4.6から最終値1.6までシグモイド減少を行い、胃のpHに対するタンパク質に富む食事の影響をシミュレートした。胃の低pH摂食条件下での実験中、胃のpHは1.6の値で一定に保たれた。各摂食状態実験の間、十二指腸(内側容器)のpHを、能動的pH制御と緩衝液分泌との組合わせによって5.8で一定に保ち、シンク(外側容器)のpHを5.8の値に設定した(
図8)。
【0102】
胃反応器の内容物を500rpmで撹拌することによって均質化した。第2の区画の内側容器及び外側容器の内容物を、500rpmで撹拌することによって均質化した。各容器の温度は37℃に制御した。
【0103】
各実験操作を240分間追跡し、22、30、45、60、75、90、105、120、135、150、165、180、195、210、225、及び240分後に、胃の容器(第1の区画)、十二指腸(内側容器)、及びシンク(外側容器)から試料を採取した。胃及び十二指腸から採取した試料では、硫酸インジナビルの総濃度及び溶質濃度を決定した。シンク(外側容器)から採取した試料において、硫酸インジナビルの溶質濃度を決定した。
【0104】
全ての実験を生物学的三連で行い、DIAMODの異なる区画における硫酸インジナビルの濃度をUHPLC-UVによって決定した。
【0105】
実験では、絶食及び摂食状態条件下での硫酸インジナビルのインビボで観察された複合的胃腸管挙動を再現する実験設定の能力、及びインビボで観察された負の食物効果に寄与する重要な因子を解明する能力を試験する。
【0106】
インジナビルはHIVプロテアーゼ阻害剤であり、pKaが3.7及び5.9の弱塩基性薬物である。この特徴により、インジナビルはpH依存性溶解度を有し、酸性条件下では非常に可溶性であるが、中性pH環境では非常に難溶性である。Yeh et al.(1998)は、硫酸インジナビルが、絶食状態条件下での薬物の摂取と比較して、高カロリー高脂肪食と共に化合物を摂取した場合、実質的に悪影響を及ぼすことを実証した。著者らは、この負の食物効果の発生は、おそらく胃内でのインジナビルの沈殿をもたらし、それによってその小腸溶質濃度を減少させ、したがってその全身曝露を減少させる、摂食された胃のpHの増加に起因すると考えた。これに加えて、絶食状態条件と比較して、摂食状態条件下でのより遅い胃内容排出が、観察された影響に寄与した可能性がある。Carver et al.(1999)は、絶食状態の個体及び異なるタイプの等カロリー食を摂取した個体に硫酸インジナビルを投与することによってこの仮説を検証した。食事は、高タンパク質、高脂肪、及び高炭水化物食事からなり、これらは全て摂取時の摂食胃pHに対して異なる影響を有した。等カロリーであるため、各食事は絶食状態条件と比較して胃内容排出の同じ遅延をもたらした。タンパク質に富む食事だけが胃のpHの実質的な上昇をもたらしたのに対して、高脂質及び高炭水化物食事の摂取は、絶食状態条件下に存在するものと同等の胃のpH値をもたらした。それにもかかわらず、硫酸インジナビルを高タンパク質、高脂肪又は高炭水化物食事と一緒に投与すると、絶食条件下での投与と比較して、インジナビルのバイオアベイラビリティが68%、34%又は45%低下した。高脂肪及び高炭水化物の食事による胃のpHの影響がないことを考慮すると、これらのデータは、インジナビルに対する食物の悪影響が胃のpHの上昇のみによって媒介されたのではないことを示した。摂食状態条件と絶食状態条件との間の別の重要な違いは、摂食条件下での高濃度の胆汁酸塩、リン脂質、及び消化産物である。これらの食品誘発成分は、ミセル捕捉によって難水溶性化合物を可溶化することができる。溶質薬物の増加にもかかわらず、このミセル捕捉は、インジナビルのより低い生物学的にアクセス可能な濃度をもたらし、薬物の吸収を減少させ得る。
【0107】
結果は、絶食状態条件下で硫酸インジナビルを投与すると、この化合物が胃中で完全に溶解したことを示す。これは、インジナビルのpKa、すなわち5.9をはるかに下回る胃の1.6の低いpH値に起因する可能性がある。インジナビルの総濃度及び溶質濃度は、胃分泌物による胃の胃内希釈、及び胃からの薬物の排出による高速の一指数関数的胃内容排出により、時間の関数で減少した(
図9A)。胃から十二指腸への薬物の移行中に、実質的なpHシフトが起こった。十二指腸のpH値は、その溶解度に大きな影響を及ぼし得るインジナビルのpKaをはるかに上回っていた。実験の初期段階中に、高い溶質十二指腸濃度のインジナビルが検出され、その後、溶質インジナビルの濃度は、総測定濃度よりも実質的に低くなり、十二指腸の中性付近のpH環境でのインジナビルの部分的な沈殿を示した(
図9B)。実験の初期段階中の十二指腸における高濃度の溶質インジナビルの存在は、外側容器におけるインジナビルの迅速な透過をもたらす高い吸収駆動力をもたらした(
図9C)。
【0108】
絶食状態条件と比較して、低い総濃度のインジナビルが、Ensure plusによる摂食状態条件中に胃中に存在した。これは、絶食状態条件下では水のみが摂取されたのに対して、Ensure plusと水との組合わせ摂取による総摂取量のより高い希釈のためであった。インジナビルの総濃度と溶質濃度とを比較すると、胃のpH上昇は、摂食した胃中でのインジナビルの溶解の完全な欠如をもたらさないことが明らかになった。対照的に、高pH胃への硫酸インジナビルの投与は、薬物の実質的な溶解をもたらした。興味深いことに、データは、全濃度と比較してより低い溶質濃度から明らかなように、実験の最初の150分間、インジナビルが胃中に完全に溶解しなかったことを実証した。160分後、インジナビルは胃に完全に溶解したが、これは時間の関数における胃のpHの低下によるものであった。このように、固体インジナビルと溶質インジナビルの両方を最初の150分間胃から十二指腸内に排出したが、完全に溶解したインジナビルを実験実行の160~240分の間に十二指腸に提供した(
図9D)。インジナビルは、十二指腸において複合的挙動を示した。胃からのインジナビルの胃内容排出は、実験の初期段階中に高濃度の溶質薬物の存在をもたらした。総インジナビル及び溶質インジナビルの同程度の濃度は、十二指腸に存在する高濃度の胆汁酸塩によるインジナビルのほぼ完全な可溶化を示した。実際、45分後、胆汁酸塩の濃度は、十二指腸内で時間の関数として減少し、105分後に基礎絶食状態レベルに達した。胆汁酸塩濃度の減少は、これらの時点での総インジナビル濃度と溶質インジナビル濃度との間の差によって明らかにされるように、十二指腸内の胆汁酸塩可溶化インジナビルの濃度の減少をもたらした。インジナビルは最初の160分間に胃中で完全には可溶化されなかったので、高胆汁酸塩濃度の非存在下での十二指腸への固体及び溶質の両方のインジナビルの進入は、インジナビルの実質的な十二指腸沈殿をもたらしたようであった。160分後に初めて、インジナビルの総濃度と溶質濃度との差が十二指腸で小さくなった。これは、160分後の十二指腸におけるインジナビルのより良好な溶解性を示し、これはおそらくインジナビルがこの時点で胃中で完全に可溶化されたためであった(
図9E)。最初の90分間に十二指腸に存在する高濃度のインジナビルにもかかわらず、わずかな透過のみが起こった。十二指腸からの実質的な透過は、胆汁酸塩レベルが基礎絶食状態レベルに低下した後にのみ生じた(
図9F)。これらのデータは、ミセル捕捉が、摂食状態の十二指腸におけるインジナビルのほぼ完全な可溶化をもたらしたが、薬物の生物学的にアクセス可能な画分の急激な減少が、薬物の低い吸収をもたらすことを示した。
【0109】
硫酸インジナビルを水及び炭水化物溶液と一緒に投与すると、胃中のインジナビルの総濃度及び溶質の等しい濃度によって実証されたように、胃中での薬物の完全な溶解がもたらされた。実際、この条件の間、胃のpHは1.6の低い値であり、炭水化物溶液の摂取時の胃のpHへの影響をシミュレートした。したがって、完全に溶解したインジナビル溶液を胃によって十二指腸に供給した(
図9G)。実験全体を通して、インジナビルを十二指腸に完全に溶解した。インジナビルは、存在する高濃度の胆汁酸塩によって初期十二指腸期中に可溶化されたが、胆汁酸塩が基礎絶食状態濃度に低下すると、インジナビルの沈殿は起こらず、これはおそらく胃内での薬物の完全な可溶化に起因する(
図9H)。十二指腸における高濃度の溶質インジナビルは、実験実行全体を通してこの化合物の透過をもたらした。透過は濃度駆動プロセスであるため、より高い十二指腸濃度のインジナビルは、膜の上の内側容器から外側容器へのより速いインジナビルの流れ、すなわち時間の関数における透過濃度のより速い増加で変換されるはずである。初期十二指腸相中の可溶性薬物の濃度が後期段階と比較して非常に高いにもかかわらず、透過したインジナビルの濃度は時間の関数として線形の傾向に従った。したがって、これらの結果は、胆汁酸塩による薬物の初期ミセル捕捉を実証し、それによって溶質濃度を増加させるが、吸収に利用可能な分子溶解薬物の濃度を低下させた(
図9I)。
【0110】
最後に、異なる投与レジメン下での十二指腸におけるインジナビルの溶質濃度についてのAUCの比較により、絶食状態条件下での投与が時間の関数として十二指腸において高濃度の溶質薬物をもたらしたことが明らかになった。炭水化物溶液と一緒の摂食状態条件下での硫酸インジナビルの投与は、絶食状態条件と比較してAUCを減少させなかった。対照的に、AUCはこの投薬レジメン下で増加した。これは、絶食状態の実験中に十二指腸での沈殿が起こるが、十二指腸でのインジナビルの実質的な沈殿がなかったためであった。炭水化物溶液(摂食状態条件)によるインジナビルの投与と比較して、絶食条件下で十二指腸に送達される総インジナビルの濃度が高く、十二指腸のpHが高いと、沈殿に対する駆動力が高くなった。この場合の摂食胃のpHは絶食状態実験中と同じであったので、より遅い胃内容排出と組み合わせた摂食状態条件下でのより大きな胃体積によるインジナビル用量の希釈の増加は、十二指腸におけるより低い濃度の溶質インジナビルをもたらさなかったと結論付けることができる。対照的に、胃のpHが上昇した摂食状態条件下での投与中、十二指腸内の溶質濃度のAUCは実質的に減少し、摂食条件下での胃のpHの上昇が十二指腸内の溶質インジナビルの低濃度に寄与することを示している(
図10A)。しかしながら、摂食条件下での実行中の十二指腸におけるインジナビルの溶質濃度に対する軽微な影響は、インビボで観察される実質的な負の食物影響を単に説明することができなかった。実際、絶食条件と摂食条件との間でのインジナビルの透過濃度のAUCを比較すると、透過濃度に対する実質的な効果が明らかになった(
図10B)。これらのデータは、インビボで観察される硫酸インジナビルについて観察された劇的な食物悪影響に対する摂食状態条件中のミセル捕捉の実質的な寄与を明確に示した。摂食状態条件下で存在する高濃度の胆汁酸塩、リン脂質及び消化産物は、十二指腸におけるインジナビルの可溶化をもたらし、それにより、摂食状態の間に十二指腸における高濃度の溶質インジナビルをもたらす。対照的に、ミセル捕捉によるインジナビルのこの可溶化は、薬物の遊離分子溶解濃度の実質的な減少をもたらし、それによって吸収に利用可能な濃度、したがって絶食状態条件と比較して摂食状態条件下で透過したインジナビルの総濃度を劇的に減少させた。
【0111】
本発明によるシステムは、硫酸インジナビルの食物悪影響を研究することを可能にし、それにより強いインビトロ-インビボ相関をもたらした。更に、システムは、絶食状態条件と比較して、摂食状態条件下での増加した胃内pH、より遅い胃内容排出、及び硫酸インジナビルのミセル捕捉の両方の役割を強調し、それによってインビボで観察された負の食物影響への機構的洞察をもたらした。
【0112】
図12A~
図13Dは、GITの絶食状態条件をシミュレートする実験の結果を示す一連のグラフであり、
図11に示すように絶食状態条件下での試験が行われる。
【0113】
絶食状態実験の開始前に、55mLの模擬胃液を胃の容器に添加して、絶食条件下での胃の残りの体積を模擬し、30mLの模擬十二指腸液を第2の区画の内側容器に添加し、300mLのシンク溶液を第2の区画の外側容器に添加し、100mLの模擬空腸液を第3の区画の内側容器に添加し、600mLのシンク溶液を第3の区画の外側容器に添加した。実験の開始時に、1カプセルの200mgの微粒子サイズのフェノフィブラート(Lipanthyl(登録商標),Abbott Products N.V.,Brussels,Belgium)又は1錠剤の145mgのナノサイズのフェノフィブラート(Lipanthylnano(登録商標),Abbott products N.V.,Brussels,Belgium)を250mLの水と共に胃に加えた。実験実行中、GITの動態は、胃への模擬胃液の胃分泌(流量F1)、胃から第2の区画の内側容器の内側への胃内容排出(流量F2;用量の単一指数関数的排出と添加された胃液分泌の排出との組合わせ)、第2の区画の内側容器の内側の外側リザーバからの十二指腸分泌(流量F3)、及び第3の区画の内側容器の内側の第2の区画の内側容器からの十二指腸内容排出(流量F4=F2+F3)、及び第3の区画の内側容器からの空腸内容排出(流量F5=F4)によって模擬された。したがって、胃の体積は時間の関数として指数関数的に減少したが、第2及び第3の区画の内側容器及び外側容器の体積は一定のままであった。胃の内容物のpHは、pH1.6の設定点で自動的に制御された。十二指腸(第2の区画の内側容器)のpHは、能動的pH制御及び第2の区画の内側容器における十二指腸液の分泌を通して、6.5の値で一定に保たれた。十二指腸分泌物に対して能動的pH制御を実施し、十二指腸分泌物の緩衝強度を時間の関数で変化させることを可能にした。第2の区画の外側容器のpHを6.5の値に設定した。空腸(第3の区画の内側容器)のpHを、能動的pH制御によって7.0の設定点で一定に保った。第3の区画の外側容器のpHを7.0の値に設定した。
【0114】
胃反応器、第2の区画の内側容器及び外側容器、並びに第3の区画の内側容器及び外側容器の内容物を、450rpmで撹拌することによって均質化した。各容器の温度は37℃に制御した。
【0115】
各実験操作を240分間追跡し、7、15、22、30、45、60、75、90、105、120、135、150、165、180、195、210、225及び240分後に、胃の容器(第1の区画)、十二指腸(第2の区画の内側容器)及びシンク(第2の区画の外側容器)、空腸(第3の区画の内側容器)及びシンク(第3の区画の外側容器)から試料を採取した。胃、十二指腸及び空腸の区画から採取した試料で、フェノフィブラートの総濃度及び溶質濃度を決定した。第2及び第3の区画(外側容器)のシンクから採取した試料において、フェノフィブラートの溶質濃度を決定した。
【0116】
実験では、ナノサイズ及び微粒子サイズのフェノフィブラートのインビボで観察された胃腸管挙動を再現する実験設定の能力を研究する。フェノフィブラートは、中性の親油性BCSクラス2化合物である。フェノフィブラートの非常に低い水溶解度は、経口投与時の低い全身曝露をもたらす。したがって、フェノフィブラートは、微粒子及びナノ粒子、すなわちそれぞれLipanthyl(登録商標)及びLipanthylnano(登録商標)として市販されている。難溶性薬物化合物の微粒子化及びナノ化は、薬物化合物の溶解速度を高めることを可能にする戦略である。この製剤戦略は薬物の溶解度を増加させないが、その溶解速度を増加させるので、これらのタイプの製剤は典型的には十二指腸から直接吸収されないが、それらの吸収は空腸でも起こる。したがって、
図11に示すように、Lipanthyl(登録商標)及びLipanthylnano(登録商標)を、3つの区画、すなわち胃、十二指腸及び空腸の区画からなる実験設定で試験した。
【0117】
結果は、微粒子化(Lipanthyl(登録商標))及びナノ化(Lipanthylnano(登録商標))が、絶食状態条件下で異なる胃腸管溶解及びフェノフィブラートの透過をもたらしたことを示す。Lipanthyl(登録商標)又はLipanthylnano(登録商標)の投与後にフェノフィブラートを胃内容排出すると、十二指腸にフェノフィブラートが存在した。十二指腸では、薬物が溶解し始め、低濃度の溶質フェノフィブラートが存在した。
図12Aに示すように、Lipanthl(登録商標)と比較して、Lipanthylnano(登録商標)を投与した後の十二指腸には、より高い溶質濃度のフェノフィブラートが存在し、これは実験実行全体を通して存在した。これは、微粒子と比較してナノ粒子の溶解速度が改善されたことに起因し得る。全体として、微粒子のより遅い溶解速度は、
図12Bに示すように、ナノ粒子と比較して69.8%の曲線下十二指腸溶質面積の減少をもたらした。十二指腸溶解の差もまた、十二指腸からのフェノフィブラートの最終透過に影響を与えた。
図12Cに示すように、微粒子によって十二指腸内で生成されたフェノフィブラートのより低い溶質濃度は、透過したフェノフィブラートのより低い濃度をもたらした。全体として、微粒子は、ナノ粒子と比較して、十二指腸からの透過画分の曲線下面積を57.5%減少させた。十二指腸から空腸に粒子を移すと、フェノフィブラートの更なる溶解が起こった。十二指腸の場合と同様に、ナノ粒子は、
図13Aに示すように、微粒子と比較してより高い空腸溶質濃度の生成をもたらした。全体として、微粒子のより遅い溶解は、ナノ粒子と比較して55.7%の空腸溶質曲線下面積の減少をもたらした。これにより、
図13Cに示すように、空腸から透過したフェノフィブラートの濃度が低下した。全体として、空腸における微粒子のより低い溶解速度は、ナノ粒子と比較して、45.9%の透過画分の曲線下空腸面積の減少をもたらした。
【0118】
これらのデータは、ヒトにおけるインビボ研究中に生成されたデータと完全に一致しており、このデータは、絶食状態条件下でのナノサイズのフェノフィブラートの摂取が、微粒子サイズのフェノフィブラートと比較して、増加した十二指腸溶質濃度のフェノフィブラートを生成し、これは増加した全身曝露において変換されたことを実証した(Hens et al.,Gastrointestinal behavior of nano-and microsized fenofibrate:In vivo evaluation in man and in vitro simulation by assessment of the permeation potential,European Journal of Pharmaceutical Sciences 77(2015),pp 40-47F1)。
【0119】
当業者には明らかなように、本発明の他の代替形態及び同等の実施形態が本発明の概念の範囲内で考えられる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】