(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(54)【発明の名称】前立腺癌を処置するためのJMJD6標的剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240116BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240116BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240116BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240116BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240116BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240116BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240116BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALN20240116BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20240116BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240116BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K45/06
A61P13/08
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61K48/00
A61K39/395 T
A61K31/44
C12N15/113 Z
C12N15/13
C12Q1/6874 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6851 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561926
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 GB2021053349
(87)【国際公開番号】W WO2022129935
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598176569
【氏名又は名称】キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】523231509
【氏名又は名称】ザ・チャンスラー・マスターズ・アンド・スカラーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・オックスフォード
(71)【出願人】
【識別番号】504132021
【氏名又は名称】ジ・インスティチュート・オブ・キャンサー・リサーチ:ロイヤル・キャンサー・ホスピタル
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(71)【出願人】
【識別番号】523223766
【氏名又は名称】ザ・ユナイテッド・ステイツ・ガバメント・リプレゼンテッド・バイ・ザ・デパートメント・オブ・ベテランズ・アフェアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エムディ・サイフル・イスラム
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・トゥンバー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・スコフィールド
(72)【発明者】
【氏名】アレック・パスカリス
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ウェルティ
(72)【発明者】
【氏名】アダム・シャープ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・デ・ボーノ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・プライメート
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085AA38
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、アンドロゲン受容体のスプライスバリアントの生成を標的とすることによって前立腺癌を処置するための方法に関する。一態様では、これは、JMJD6を標的として、アンドロゲン受容体スプライスバリアントの産生を減少させることによって達成され得る。本発明は、従来のアンドロゲン療法に抵抗性の前立腺癌の処置に特定の用途を見出す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌の処置又は予防における使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項2】
JMJD6タンパク質の触媒活性及び/又は生物学的機能のモジュレーターである、請求項1に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項3】
低分子阻害剤、又は抗体若しくはその断片である、請求項1又は2に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項4】
基質又は2OG(2-オキソグルタル酸)若しくは二酸素補基質競合阻害剤、非競合阻害剤、或いは不競合阻害剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項5】
JMJD6の活性部位を標的とする化合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項6】
2OG(2-オキソグルタル酸)JMJD6補基質の模倣物、変種又は競合物質である化合物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項7】
ピリジンカルボン酸誘導体、又はN-オキサリルアミノ酸誘導体、又はコハク酸誘導体、又は2OG若しくは2-オキソ酸誘導体を含む、請求項6に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項8】
ピリジン-2,4-ジカルボン酸を含む、請求項6又は7に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項9】
JMJD6遺伝子の発現を阻害することが可能であり、任意選択で、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はsiRNA、shRNA等のRNAiのメディエーター、又は他のヌクレオチド分子から選択される、請求項1に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項10】
アンドロゲン受容体のスプライスバリアントの産生を減少させ、好ましくはAR-V7スプライスバリアントの産生を減少させる、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項11】
前立腺癌が、腺房腺癌腫、導管腺癌腫、移行上皮癌腫(尿路上皮癌腫)、前立腺扁平上皮癌、前立腺小細胞癌、前立腺大細胞癌、粘液腺癌腫、前立腺印環細胞癌、前立腺基底細胞癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、内分泌抵抗性前立腺癌、又は去勢抵抗性前立腺癌から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項12】
更なる抗癌療法と組み合わせて使用される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項13】
更なる抗癌療法が、放射線療法、化学療法、外科的処置、免疫療法、チェックポイント阻害薬、ホルモン療法又は遺伝子療法から選択される、請求項12に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項14】
更なる抗癌療法が、ラジウム-223、ドセタキセル、シプロイセル-T、カバジタキセル、ミトキサントロン、ビカルタミド、ケトコナゾール、及び/又はコルチコステロイド、又はアビラテロン/アビラテロン酢酸エステル、エンザルタミド若しくはアパルタミド等の抗アンドロゲン療法から選択される、請求項12又は13に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項15】
更なる抗癌療法が、JMJD6標的化合物と同時に、逐次に又は別個に投与される、請求項12から14のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のJMJD6標的剤を含み、任意選択で、1つ又は複数の追加の活性剤、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントを更に含む、医薬組成物。
【請求項17】
JMJD6標的化合物又は医薬組成物が、静脈内、皮下、筋肉内、又は皮内投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のためのJMJD6標的剤又は請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか一項に記載のJMJD6標的剤又は請求項16に記載の医薬組成物と、使用のための説明書とを含むキット。
【請求項19】
前立腺癌を診断又は予後判定する方法であって、
a. 生体試料を取得する工程、
b. 試料中のJMJD6のレベル、例えば遺伝子発現のレベルを決定する工程であり、参照試料と比較して増加したJMJD6のレベルが予後不良を示す、工程
を含む、方法。
【請求項20】
JMJD6の発現レベルが、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、定量リアルタイムPCR(qPCR)、マイクロアレイ、RNA配列決定(RNA-Seq)、次世代RNA配列決定(ディープシーケンシング)、超並列シグネチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析、又はトランスクリプトミクスから選択される技法を使用して検出される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
腺房腺癌腫、導管腺癌腫、移行上皮癌腫(尿路上皮癌腫)、前立腺扁平上皮癌、前立腺小細胞癌、前立腺大細胞癌、粘液腺癌腫、前立腺印環細胞癌、前立腺基底細胞癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、内分泌抵抗性前立腺癌、又は去勢抵抗性前立腺癌の診断又は予後判定のためのものである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
細胞をJMJD6標的剤と接触させる工程を含む、アンドロゲン受容体スプライシングを阻害する方法。
【請求項23】
療法の投与前のJMJD6のレベルを決定する工程、及び療法の投与後のJMJD6のレベルを決定する工程を含む、前立腺癌処置の治療有効性をモニタリングする方法。
【請求項24】
アンドロゲン療法及びJMJD6標的剤を含む医薬組成物。
【請求項25】
細胞を化合物と接触させる工程、及びアンドロゲン受容体スプライシングのレベルを決定する工程を含む、JMJD6標的剤を同定する方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法によって取得されるか又は取得可能である化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する記載
本発明は、国防総省によって授与された認可番号W81XWH-17-1-0323の下、米国政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、アンドロゲン受容体のスプライスバリアントの生成を標的とすることによって前立腺癌を処置するための方法に関する。本発明はまた、関連する組成物、使用及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
はじめに
前立腺癌(PC)は、世界的に、男性の癌による死亡の主な原因である。PCの転移性去勢抵抗性PC(mCRPC)への進行は、一般的に、持続的なアンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達によって駆動される[1、2]。ARシグナル伝達軸を標的とするアビラテロン及びエンザルタミドは、標準治療であり、mCRPC及び去勢感受性PC(CSPC)[5]について、無憎悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の両方を改善する[3、4]。しかしながら、一部のmCRPCはこれらの療法に対して最小限の応答を有するが、部分的には、切断されて、現在のAR指向療法によって標的とされている制御性ARリガンド結合ドメインを欠いている恒常活性型選択的スプライシングARバリアント(AR-SV)のために[7~9]、全てのmCRPCは、最終的に抵抗性を獲得し、死亡を必ず引き起こす[6]。報告されているAR-SVのうち、ARスプライスバリアント7(AR-V7)は、特に広く認められ、AR標的療法に対する抵抗性及びより悪いOSと関連する[8、10]。AR-SVを直接標的とする試みは、AR N末端ドメインの天然変性性のために困難であることが証明されている[9]。
【0004】
AR-V7媒介抵抗性を抑制する戦略の1つは、AR-V7生成及び/又は安定化を制御するプロセスを標的とすることである。ブロモドメイン及び末端外(BET)モチーフタンパク質ファミリーのメンバーは、ARシグナル伝達を調節することが報告されているため[11]、目的のものであり、BET阻害は、AR-V7タンパク質発現を下方制御し、エンザルタミド抵抗性患者由来PCモデル成長を抑制する[11]。しかしながら、BETタンパク質は多面的な役割を有し、多くのシグナル伝達経路を制御しており、おそらくこのことは、広範囲に及ぶ取り組みにもかかわらず、BET阻害剤が臨床使用について未だに承認されていない理由を説明する[12]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Visakorpi, T.ら、In vivo amplification of the androgen receptor gene and progression of human prostate cancer. Nat Genet、1995. 9(4):401~6頁
【非特許文献2】Robinson, D.ら、Integrative clinical genomics of advanced prostate cancer. Cell、2015. 161(5):1215~1228頁
【非特許文献3】de Bono, J.S.ら、Abiraterone and increased survival in metastatic prostate cancer. N Engl J Med、2011. 364(21):1995~2005頁
【非特許文献4】Scher, H.I.ら、Increased survival with enzalutamide in prostate cancer after chemotherapy. N Engl J Med、2012. 367(13):1187~97頁
【非特許文献5】Fizazi, K.ら、Abiraterone plus Prednisone in Metastatic, Castration-Sensitive Prostate Cancer. N Engl J Med、2017. 377(4):352~360頁
【非特許文献6】Scher, H.I.及びC.L. Sawyers、Biology of Progressive, Castration-Resistant Prostate Cancer: Directed Therapies Targeting the Androgen-Receptor Signaling Axis. Journal of Clinical Oncology、2005. 23(32):8253~8261頁
【非特許文献7】Dehm, S.M.ら、Splicing of a novel androgen receptor exon generates a constitutively active androgen receptor that mediates prostate cancer therapy resistance. Cancer Res、2008. 68(13):5469~77頁
【非特許文献8】Antonarakis, E.S.ら、Androgen receptor variant-driven prostate cancer: clinical implications and therapeutic targeting. Prostate Cancer Prostatic Dis、2016. 19(3):231~41頁
【非特許文献9】Paschalis, A.ら、Alternative splicing in prostate cancer. Nat Rev Clin Oncol、2018
【非特許文献10】Antonarakis, E.S.ら、Clinical Significance of Androgen Receptor Splice Variant-7 mRNA Detection in Circulating Tumor Cells of Men With Metastatic Castration-Resistant Prostate Cancer Treated With First- and Second-Line Abiraterone and Enzalutamide. J Clin Oncol、2017. 35(19):2149~2156頁
【非特許文献11】Welti, J.ら、Targeting bromodomain and extra-terminal (BET) family proteins in castration resistant prostate cancer (CRPC). Clin Cancer Res、2018
【非特許文献12】Pervaiz, M.、P. Mishra、及びS. Gunther、Bromodomain Drug Discovery - the Past, the Present, and the Future. Chem Rec、2018. 18(12):1808~1817頁
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【非特許文献15】Tym, J.E.ら、canSAR: an updated cancer research and drug discovery knowledgebase. Nucleic Acids Res、2016. 44(D1):D938~43頁
【非特許文献16】Green及びSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2012)
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【非特許文献18】Detre, S.、G. Saclani Jotti、及びM. Dowsett、A "quickscore" method for immunohistochemical semiquantitation: validation for oestrogen receptor in breast carcinomas. J Clin Pathol、1995. 48(9):876~8頁
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【非特許文献53】Kwok, J.ら、Jmjd6, a JmjC Dioxygenase with Many Interaction Partners and Pleiotropic Functions. Front Genet, 2017. 8
【非特許文献54】Chen, R.及びN. Forsyth、Editorial: The Development of New Classes of Hypoxia Mimetic Agents for Clinical Use. Frontiers in Cell and Developmental Biology、2019. 7:120頁
【非特許文献55】Mahon, P.C.、K. Hirota、及びG.L. Semenza、FIH-1: a novel protein that interacts with HIF-1alpha and VHL to mediate repression of HIF-1 transcriptional activity. Genes Dev、2001. 15(20):2675~86頁
【非特許文献56】Reyes-Gutierrez, P.、J.W. Carrasquillo-Rodriguez、及びA.N. Imbalzano、Promotion of adipogenesis by JMJD6 requires the AT hook-like domain and is independent of its catalytic function. PLoS One、2019. 14(8):e0216015頁
【非特許文献57】Tschank, G.ら、Pyridinedicarboxylates, the first mechanism-derived inhibitors for prolyl 4-hydroxylase, selectively suppress cellular hydroxyprolyl biosynthesis. Decrease in interstitial collagen and Clq secretion in cell culture. Biochem J、1987. 248(3):625~33頁
【非特許文献58】Kristensen, L.H.ら、Studies of H3K4me3 demethylation by KDM5B/Jarid1B/PLU1 reveals strong substrate recognition in vitro and identifies 2,4-pyridine-dicarboxylic acid as an in vitro and in cell inhibitor. Febs j、2012. 279(11):1905~14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
AR-SVを克服し、致死的PCの転帰を改善する新規治療戦略に対する満たされていない必要性が依然として存在する。本発明は、この必要性に対処することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
進行性前立腺癌(APC)における内分泌抵抗性(EnR)は致死的である。EnRは、アンドロゲン受容体スプライスバリアント(AR-SV)によって媒介される可能性があり、AR-V7は特に重要な臨床バリアントである。本発明者らは、AR-V7を生成するのに重要であるタンパク質を決定した。JMJD6がAR-V7の重要な制御因子として同定され、これは、in vitroでのEnRを伴うJMJD6の上方制御、ブロモドメイン阻害によるAR-V7と一緒になったJMJD6の下方制御、及びスプライソソーム関連遺伝子の標的siRNAスクリーニングにおけるJMJD6の同定によって証明された。JMJD6タンパク質レベルは、去勢抵抗性と共に増加し(p<0.001)、より高いAR-V7レベル及びより短い生存期間と関連した(p=0.048)。JMJD6ノックダウンはPC細胞成長、AR-V7レベル、及びU2AF65のAR mRNA前駆体への動員を抑制した。本発明者らはまた、JMJD6遺伝子のノックダウン及びJMJD6タンパク質の阻害がAR-V7レベルの低下をもたらし、したがってJMJD6の標的化が前立腺癌細胞成長を抑制するのに重要となり得ることも示した。
【0008】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、前立腺癌の処置又は予防における使用のためのJMJD6標的剤に関する。
【0009】
ある態様では、本発明は、前立腺癌の処置における使用のためのJMJD6標的剤を含む医薬組成物に関する。
【0010】
ある態様では、本発明は、JMJD6標的剤又はJMJD6標的剤を含む医薬組成物と、使用のための説明書とを含むキットに関する。
【0011】
ある態様では、本発明は、前立腺癌を診断又は予後判定する方法であって、
a. 生体試料を取得する工程、
b. 試料中のJMJD6のレベルを決定する工程であり、参照試料と比較して増加したJMJD6のレベルが予後不良を示す、工程
を含む、方法に関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、細胞をJMJD6標的剤と接触させる工程を含む、アンドロゲン受容体スプライシングを阻害する方法に関する。したがって、本発明はまた、AR-V7等のアンドロゲン受容体スプライスバリアントの生成を減少させることに関する。
【0013】
別の態様では、本発明は、アンドロゲン療法及び本明細書において定義されるJMJD6標的剤を含む医薬組成物に関する。これは、前立腺癌、特に従来のアンドロゲン療法に抵抗性の前立腺癌の処置において使用することができる。
【0014】
ある態様では、本発明は、療法の投与前のJMJD6のレベルを決定する工程、及び療法の投与後のJMJD6のレベルを決定する工程を含む、前立腺癌療法の治療有効性をモニタリングする方法に関する。
【0015】
ある態様では、本発明は、細胞を化合物と接触させる工程、及びアンドロゲン受容体スプライシングのレベルを決定する工程を含む、JMJD6標的剤を同定する方法に関する。
【0016】
本発明を以下の非限定的な図面において更に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】直交解析は2OG依存性ジオキシゲナーゼであるJMJD6をAR-V7の潜在的な制御因子として同定する。(A)ホルモン感受性LNCaP(AR-V7タンパク質なし)前立腺癌(PC)細胞株とアンドロゲン除去抵抗性LNCaP95(検出可能なAR-V7タンパク質)前立腺癌(PC)細胞株との間、及びBET阻害剤(I-BET151)又はビヒクル(DMSO 0.1%)のいずれかを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞間における、RNA-seqによって決定された、スプライソソームに関連する315の遺伝子(スプライソソーム関連遺伝子セット)のmRNA発現変動を示すボルケーノプロットである。青色の点は、両方の実験のベースライン時における315の遺伝子全ての発現レベル中央値よりも大きいベースライン発現(FPKM)を有する遺伝子を表す。各実験において最も発現変動(上方又は下方制御)した(FPKM)上位15の遺伝子を赤色の点によって示す。標的siRNAスクリーニングにおいて同定された上位10のヒットを添付の表に示す。スプライソソーム関連遺伝子セットにおける315の遺伝子全ては、22Rv1及びLNCaP95 PC細胞株においてsiRNAによって個々に阻害された。AR-FLに対するAR-V7タンパク質レベルの変化をウェスタンブロット(WB)濃度測定によって定量した。AR-V7下方制御を両方の細胞株間で平均し、遺伝子を、AR-FLに対するAR-V7下方制御の程度の順にランク付けした。(B)RNA-seq解析をsiRNAスクリーニング結果と合わせたベン図である。目的の遺伝子を、LNCaP95細胞においてLNCaP細胞に対して上方制御し、BET阻害後に下方制御し、かつsiRNAノックダウン後の、AR-FLに対するAR-V7タンパク質発現の50%超の抑制(WB)と関連するものとして予め定義した。JMJD6が3つの基準全てを満たす唯一の遺伝子であった。(C)JMJD6 mRNA発現と、アンドロゲン応答(ホールマーク;H)との間の相関を示す、159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)におけるトランスクリプトーム解析の散布図である。JMJD6 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。(D)JMJD6 mRNA発現と、ARシグネチャー(43のAR制御転写物に由来)との間の相関を示す、159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)におけるトランスクリプトーム解析の散布図である。JMJD6 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。(E)JMJD6 mRNA発現と、AR-V7シグネチャー(mCRPCにおけるAR-V7発現と関連する59の遺伝子に由来)との間の相関を示す、159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)におけるトランスクリプトーム解析の散布図である。JMJD6 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。
【
図2】JMJD6はAR-V7発現及びmCRPCにおけるより悪い予後と関連する。(A)プールJMJD6 siRNAを用いた処理後の下方制御を非標的対照siRNAと比較した、WBによるLNCaP95全細胞溶解物の単一バンドの検出によって確認された抗体特異性を示す図である。(B)JMJD6に対する褐色の陽性核染色を実証する、非標的対照siRNAを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞の顕微鏡写真である。(C)プールJMJD6 siRNAを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞の顕微鏡写真である。JMJD6に対する主に青色の陰性染色により、JMJD6タンパク質の著しい減少を実証する。(D)3名の異なる患者(RMH/ICR患者コホート)由来の、適合する、同じ患者の診断用去勢感受性(CSPC)(上)及びmCRPC(下)組織試料における、AR-V7(左)及びJMJD6(右)タンパク質レベルに対するIHC解析の顕微鏡写真である。スケールバーは100μmに設定した。提示された組織試料におけるJMJD6タンパク質レベルは、mCRPCにおけるAR-V7レベルと同等である。(E)mCRPC生検におけるJMJD6タンパク質レベル(IHC Hスコア)の有意な増加(p<0.001)を実証する箱ひげ図である(Hスコア中央値[IQR];CSPC(n=64)12.5[0.0~67.5] vs CRPC(n=74)80[20.0~130.0];ウィルコクソン順位和解析)。(F)高い(JMJD6 Hスコア≧中央値)mCRPC JMJD6タンパク質レベルを有する患者由来のmCRPC組織試料における有意に高い(p=0.036)AR-V7タンパク質のレベルを示すグラフである(低50[0.0~105.0;n=33]対高100[22.5~147.5;n=41];マン・ホイットニー検定)。(G)mCRPC組織試料中最も高いレベルのJMJD6(Hスコア>75パーセンタイル)を有する患者において有意に悪い、CRPC組織生検時からのOS中央値を示すグラフである(n=74、p=0.048;ログランク検定)。
【
図3】JMJD6は、PC細胞成長に重要であり、AR-V7発現を制御する。(A)JMJD6 siRNAノックダウン(25nM;赤色の棒/右手側の棒)は、非標的対照siRNA(25nM;青色の棒/左手側の棒)と比較して、LNCaP、LNCaP95及び22Rv1 PC細胞の成長を有意に抑制するが(細胞数;スルホローダミンB(SRB)アッセイ)、PNT2細胞(不死化された正常前立腺上皮細胞)は比較的影響を受けなかったことを示すグラフである。細胞成長の平均(同じ濃度の対照siRNAに対して正規化)を平均の標準誤差と共に示す。n≧4のデータ点(2回の技術的反復を伴う少なくとも2回の生物学的反復)。(B)JMJD6 siRNAノックダウンがLNCaP95 PC細胞株及び22Rv1 PC細胞株においてAR-V7 mRNA(qPCR)及びタンパク質(WB)レベルを下方制御することを示すグラフである。3回の実験の平均の標準誤差と共にRNA発現の平均(ハウスキーピング遺伝子(B2M及びGAPDH)並びに等しい濃度の対照siRNAに対して正規化;1.0として定義)を示す。対照siRNAを左手側の棒に示し、JMJD6 siRNAを右手側の棒に示す。(C)JMJD6 siRNAノックダウンがLNCaP95 PC細胞株及び22Rv1 PC細胞株においてAR-V7 mRNA(qPCR)及びタンパク質(WB)レベルを下方制御することを示すグラフである。3回の実験の平均の標準誤差と共にRNA発現の平均(ハウスキーピング遺伝子(B2M及びGAPDH)並びに等しい濃度の対照siRNAに対して正規化;1.0として定義)を示す。対照siRNAを左手側の棒に示し、JMJD6 siRNAを右手側の棒に示す。(D)CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイを使用して決定した、5日後に対照と比較した、JMJD6 siRNAノックダウン(25nM)+/-エンザルタミド(10M)の、ホルモン感受性、AR増幅、かつAR-V7産生VCaP PC細胞の生存率に対する影響を示す折れ線グラフである。JMJD6 siRNAノックダウン(赤色の線)は、対照siRNA(青色の線)と比較してVCaP PC細胞生存率を有意に低下させた。エンザルタミドとの併用処理(紫色の線)は、JMJD6 siRNA単独(赤色)又はエンザルタミド単独(緑色)のいずれかよりも有意に大きなVCaP細胞生存率の低下をもたらした。n=3;細胞生存率の平均(同じ濃度の対照siRNA+DMSO 0.1%に対して正規化)を平均の標準誤差と共に示す。(E)JMJD6ノックダウンが、VCaP細胞においてベースラインAR-V7 mRNA(qPCR)レベルを下方制御したことを示すグラフである。JMJD6ノックダウンはまた、非標的対照siRNA(緑色の棒/左から右に2番目の棒)と比較して、AR遮断薬に応答するAR-V7 mRNA発現の有意に低い増加をもたらした(エンザルタミド10M;紫色の棒/左から右に4番目の棒)。3回の実験の平均の標準誤差と共にRNA発現の平均(ハウスキーピング遺伝子(B2M、GAPDH及びCDC73)並びに等しい濃度の対照siRNA+DMSO 0.1%に対して正規化;1.0として定義、左から1番目の青色の棒)を示す。(F)3回の別個の実験からの単一の代表的なWBを示す図である。JMJD6 siRNAノックダウンは、VCaP PC細胞におけるAR-V7タンパク質レベルを低下させる。更に、AR-V7タンパク質レベルは、AR遮断薬(エンザルタミド10M)を用いる場合、有意に増加するが、エンザルタミド(10M)を用いる処理時にsiRNA(25nM)によってJMJD6をノックダウンする場合は、有意には変化しない。p値(*、p≦0.05;**、p≦0.01;***、p≦0.001)は、対応のないスチューデントのt検定において技術的反復の平均値を使用して、各条件について対照(等しい濃度)と比較して算出した。
【
図4】JMJD6は、CRPCのin vitroモデルにおいてAR-V7転写を、部分的にはスプライシング因子U2AF65のAR-V7特異的スプライス部位への動員を介して制御する。(A)159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)における、JMJD6 mRNA発現と、アンドロゲン応答(ホールマーク;H)との間の相関を示す散布図である。U2AF65 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。(B)159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)における、JMJD6 mRNA発現と、ARシグネチャー(43のAR制御転写物に由来)との間の相関を示す散布図である。U2AF65 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。(C)159のmCRPC生検(SU2C/PCFコホート)における、JMJD6 mRNA発現と、AR-V7シグネチャー(mCRPCにおけるAR-V7発現と関連する59の遺伝子に由来)との間の相関を示す散布図である。U2AF65 mRNA発現をlog FPKMとして示す。r値及びp値を示し、これらはスピアマンの相関を使用して算出した。(D)22Rv1 PC細胞における、JMJD6 siRNAとU2AF65 siRNAの両方を用いたAR-V7タンパク質レベルの低下を実証する3回の技術的反復における単一のWBを示す図である。JMJD6 siRNAはU2AF65タンパク質レベルに対して最小限の影響を与えた。(E)添付の要約としての棒グラフを伴う、RNA免疫沈降(RIP)アッセイにおいて標的とされた領域を示す、ヒトAR遺伝子の概略図である。JMJD6 siRNA(赤色の棒/右手側の棒に示す)を用いて処理された22Rv1 PC細胞における、AR-V7特異的スプライス部位P1(ARとAR-V7の両方のための5'スプライス部位を含有)及びP2(AR-V7のための3'スプライス部位を含有)での検出可能なU2AF65の減少を、非標的対照siRNA(青色の棒/左手側の棒に示す)と比較して示す。JMJD6がスプライシング因子U2AF65のAR-V7スプライス部位への動員を制御することを示す。RIPデータは、3連で行った2つの独立した実験に由来した。p値(*、p≦0.05;**、p≦0.01;***、p≦0.001)は、対応のないスチューデントのt検定において技術的反復の平均値を使用して、各条件について対照(等しい濃度)と比較して算出した。(F)LNCaP95 PC細胞における、非標的対照siRNA(青色の点線;0.0として定義)とJMJD6 siRNAとの間の選択的スプライシングの差の平均の対応するヒストグラムと並べた、選択的スプライシング事象の概略図である。左へのシフトはスプライシング事象の減少を表す。遺伝子の総数(y)において生じた選択的スプライシング事象の総数(x)をオレンジ色で示す(x/y)。JMJD6ノックダウンは、753の選択的スプライシング事象において実質的な変化を引き起こしたが、これらの大部分はより低い頻度で生じた。
【
図5】JMJD6媒介AR-V7生成がJMJD6触媒作用に依存し、JMJD6触媒作用がAR-V7タンパク質レベルを下方制御するように化学的に阻害することができるという証拠。(A)漸増濃度のJMJD6野生型(JMJD6
WT)プラスミドの22Rv1 PC細胞へのトランスフェクション(全て、差を補うために追加された空ベクター対照を含めて合計で1gのプラスミドを受け取る)が、AR-V7タンパク質(WB)及びmRNA(qPCR)レベルの増加を引き起こしたことを示す図である。mRNAレベルの平均を、ハウスキーピング遺伝子(B2M及びGAPDH)、並びに等しい濃度の空ベクター対照プラスミドを用いる研究に対して正規化し、空ベクター対照データを1.0として定義し、3回の実験の平均の標準誤差を示した。p値(*、p≦0.05;**、p≦0.01;***、p≦0.001)は、対応のないスチューデントのt検定において技術的反復の平均値を使用して、各条件について対照(等しい濃度)と比較して算出した。(B)反対に、JMJD6
MUT1(D189A及びH187A)並びにJMJD6
MUT2(N287A及びT285A)による、JMJD6触媒ドメインにおける活性部位残基の不活性化変異のトランスフェクションが、AR-V7タンパク質レベルを減少したことを示す図である(空ベクター対照、JMJD6
MUT1及びJMJD6
MUT2=1gの総プラスミド)。(C)AR-V7発現が、VCaP PC細胞において、JMJD6
WTによっては誘導されたが、JMJD6
MUT1によっては誘導されなかったことを示す図であり、JMJD6媒介AR-V7発現には活性JMJD6が必要であることを示唆した。代替的な細胞株モデルにおける、(B)に提示された所見を検証するシングルトンWB。(D)JMJD6三次構造のグラフィック表示である[58]。JMJD6
MUT1(D189A及びH187A;緑色の球)並びにJMJD6
MUT2(N287A及びT285A;マゼンタ色の球)による、JMJD6触媒ドメインにおける活性部位残基の不活性化置換は、canSAR知識ベースによって同定された[33、34]、予測されるドラッガブルポケット(druggable pocket)(オレンジ色で示す)内に存在する。(E)JMJD6三次構造のグラフィック表示である[58]。JMJD6
MUT1(D189A及びH187A;緑色の球)並びにJMJD6
MUT2(N287A及びT285A;マゼンタ色の球)による、JMJD6触媒ドメインにおける活性部位残基の不活性化置換は、canSAR知識ベースによって同定された[33、34]、予測されるドラッガブルポケット(druggable pocket)(オレンジ色で示す)内に存在する。(F)2OG模倣物であるピリジン-2,4-ジカルボン酸(2,4-PDCA)が、その公知の標的であるLUC7Lの単離JMJD6媒介リジン5位水酸化の用量依存的減少をもたらしたことを実証する液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)による解析を示すグラフである。これは、2,4-PDCAがJMJD6リジン水酸化酵素触媒活性の阻害剤であることを示した。(G)2,4-PDCAが22Rv1 PC細胞においてAR-V7タンパク質レベルの用量依存的低下を引き起こしたことを示すWBを示す図である。2回の別個の実験からの単一の代表的なWBを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を更に記載する。以下の節では、異なる実施形態が記載される。そのように定義される各態様を、反対の指示が明確にない限り、任意の他の単数又は複数の態様と組み合わせることができる。
【0019】
特に、好ましい又は有利であると示されるいかなる特徴も、好ましい又は有利であると示される任意の他の単数又は複数の特徴と組み合わせることができる。本発明の実施は、別段の指示がない限り、当技術分野の技術の範囲内である、免疫学、分子生物学、医化学、2-オキソグルタル酸依存性オキシゲナーゼ及びその阻害に関するものを含む酵素学、生化学並びに組換えDNA技術の従来の技法を用いることができる。分子生物学技法は、文献中に十分に説明されており、例えば、Green及びSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2012)を参照されたい。
【0020】
アンドロゲン受容体シグナル伝達は、前立腺癌の発症及び進行に重要である。AR-V7等の恒常活性型ARスプライスバリアントは、去勢感受性前立腺癌(CSPC)及び去勢抵抗性前立腺癌CRPCを有する患者におけるAR軸を標的とするアビラテロン酢酸エステル(AA)、エンザルタミド(E)、及びアパルタミド等の抗アンドロゲン療法に対する抵抗性を誘導する。したがって、ARスプライスバリアントの産生を減少させることができる療法に対する必要性が存在する。
【0021】
本発明は、JMJD6がアンドロゲン受容体スプライシングにおける、例えばAR-V7の生成における重要なタンパク質であるという所見に基づいている。したがって、本発明者らは、JMJD6を標的とすることによって、AR-V7等のアンドロゲン受容体スプライスバリアントの産生が減少又は予防され得ることを見出した。
【0022】
したがって、本発明は、前立腺癌の処置における使用のためのJMJD6標的剤に関する。これは、JMJD6を標的とすることにより、1つ又は複数のアンドロゲン受容体スプライスバリアント、例えばAR-V7の産生を予防することによって達成される。
【0023】
「JMJD6」又は「JMJD6配列」という用語は、本明細書で使用する場合、Jumonjiドメイン含有タンパク質6をコードする遺伝子若しくは核酸を指し得るか、又は例えば翻訳後修飾によって生じるようなJMJD6の任意のバリアント/アイソフォームを含む、Jumonjiドメイン含有タンパク質6それ自体(UniprotアクセッションQ6NYC1)を指し得る。JMJD6のアイソフォーム1のNCBI IDはNP_001074930.1であり、JMJD6のアイソフォーム2はNP_055982.2である。したがって、本明細書で使用する場合、本発明の様々な実施形態において、JMJD6核酸配列は、配列番号1(アイソフォーム1)又は配列番号3(アイソフォーム2)又はその一部を含み得る。JMJD6ポリペプチド配列は、配列番号3(アイソフォーム1)又は配列番号4(アイソフォーム2)又はその一部を含み得る。一部の実施形態では、JMJD6核酸又はポリペプチド配列は、本明細書において提供される核酸又はポリペプチド配列のバリアント又は切断型(例えばN又はC末端で、例えば5、10、15又は20の残基が切断されている)であり、これは、例えば配列番号1、2、3又は4において定義されるようなJMJD6の関連する核酸又はポリペプチド配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より一層好ましくは少なくとも98%の配列相同性又は同一性を有する配列を例えば有する。
【0024】
配列番号1
【0025】
【0026】
配列番号2
【0027】
【0028】
配列番号3
【0029】
【0030】
配列番号4
【0031】
【0032】
JMJD6タンパク質は、JmjCドメイン(Jumonji Cドメイン)を有する核局在タンパク質である(が、細胞中の他の場所にも存在し得る)。JMJD6は、アルギニンデメチラーゼとしてもリジン水酸化酵素としても報告されているジオキシゲナーゼである。JMJD6の触媒活性は、補因子としてFe(II)、並びに補基質として2-オキソグルタル酸(2OG)及び二酸素を必要とする。二酸化炭素及びコハク酸が副生成物として生成する。
【0033】
本明細書で使用する場合、「JMJD6標的剤」という用語は、JMJD6遺伝子(JMJD6タンパク質をコードするDNAとRNAの両方を含む)又はJMJD6タンパク質のいずれかを標的とすることが可能である任意の薬剤である。したがって、一実施形態では、「JMJD6標的剤」は、JMJD6遺伝子を標的とすることが可能である任意の薬剤である。別の実施形態では、「JMJD6標的剤」は、JMJD6タンパク質を標的とすることが可能である任意の薬剤である。標的剤は、JMJD6タンパク質の触媒活性及び/若しくは生物学的機能/活性、又はJMJD6遺伝子の発現を阻害又は抑制する薬剤であり得る。標的剤は、JMJD6タンパク質の触媒活性及び/若しくは生物学的機能/活性、又はJMJD6遺伝子の発現を調節する薬剤であり得る。触媒活性の調節は、触媒活性の低下、触媒回転率の変動及び/又は基質認識の変更を含み得る。
【0034】
ある実施形態では、標的剤は、低分子阻害剤、又は抗体若しくはその断片等の生体高分子であり得る。JMJD6のレベル、例えばJMJD6遺伝子発現のレベルは、核酸、例えば短鎖干渉RNA又はCRISPR法の使用によっても変更され得る。低分子阻害剤又は抗体は、JMJD6タンパク質の触媒活性を阻止するように結合することができる。低分子阻害剤又は抗体は、JMJD6タンパク質の触媒活性を低下するか又は実質的に消失させるように結合することができる。活性の低下とは、本明細書で使用する場合、50%、60%、70%、80%、又は90%以上の低下であり得る。
【0035】
JMJD6標的剤は、特にAR V7等のアンドロゲンスプライスバリアントのレベルの制御におけるJMJD6の役割に関する、JMJD6タンパク質の活性の阻害剤であり得る。JMJD6標的剤は、基質又は補基質のタンパク質への結合を妨げるように結合し得る、例えば標的剤は、基質又は補基質がもはや結合することができなくなるように、又は標的剤がJMJD6タンパク質の結合若しくは活性部位をブロックするように、JMJD6タンパク質の立体構造を変更し得る。
【0036】
一実施形態では、阻害剤は、JMJD6に結合することによってJMJD6の触媒活性を低下させる。JMJD6標的剤は、JMJD6タンパク質の基質又は補基質競合阻害剤として作用することができ、したがって標的剤は、JMJD6の活性部位を標的とするように結合することができる。標的剤は、JMJD6の基質及び/又は補基質である2OG若しくは二酸素に対する競合阻害剤として作用することができる。特に、JMJD6標的剤が競合阻害剤である場合、これはJMJD6の活性部位内に結合してもよい。JMJD6標的剤はJMJD6の触媒ドメインに結合してもよい。
【0037】
競合阻害剤は、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素等のヒトオキシゲナーゼの公知の阻害剤、又はその変種から選択され得、臨床的に使用されるヒトオキシゲナーゼの阻害剤は、活性部位Fe結合2OG競合物質、特にFe(II)結合2OG競合物質を含む。
【0038】
「活性部位」という用語は、化学反応を起こす基質の領域が結合する、JMJD6等の酵素の領域を指す。基質が活性部位に結合すると、触媒作用が生じ、基質は生成物に変換される。活性部位内の触媒残基は、基質の生成物への変換に必要とされる活性化エネルギーを低下するように作用する。JMJD6タンパク質の構造は、X線結晶構造解析研究により同定されており、以下の残基がドラッガブルポケット内にある重要な触媒残基として同定されており、これらの残基としては、D189、H187、N287及びT285が挙げられる。したがって、JMJD6標的剤は、JMD6基質、補基質、又は金属イオンと、D189、H187、N287及び/又はT285を含むがこれらに限定されない活性部位残基との相互作用を遮断し得る。ある実施形態では。JMJD6標的剤は、Fe(II)補因子と活性部位残基D189、H187、N287及び/又はT285との相互作用を遮断し得る。
【0039】
JMJD6標的剤は、非基質又は非補基質競合JMJD6阻害剤であってもよく、したがって、標的剤は、JMJD6の活性部位から離れた部位に結合してもよい。標的剤は、例えばポリセリン領域、ATフック領域、及び/又は核局在化領域等のJMJD6タンパク質の領域に結合してもよく、そのような結合はJMJD6の活性を調節する。
【0040】
JMJD6標的剤は、JMJD6の不競合阻害剤であってもよく、したがって、標的剤は、酵素-基質複合体に結合し、生成物形成を防止してもよい。JMJD6標的剤は、JMJD6のアロステリック阻害剤であってもよく、したがって、標的剤は、JMJD6の活性部位から離れた部位に結合してもよく、アロステリック阻害剤の結合は、基質が結合できないような、JMJD6の変更されたタンパク質立体構造をもたらしてもよい。
【0041】
阻害剤は、JMJD6の基質、補基質又は補因子と競合することができ、そのプロセスは全て、ヒト2OGオキシゲナーゼの阻害について十分に確立されている。特に、阻害剤は、JMJD6の金属補因子であるFe(II)と競合することができる。
【0042】
JMJD6標的剤は、2OG(2-オキソグルタル酸、α-ケトグルタル酸としても公知)の類似体若しくは模倣物である化合物、又は2OGと競合する化合物を含み得る。2OGの模倣物は、以下の構造:
【0043】
【0044】
を有する2OGと構造的又は立体的類似性を有し得る。
【0045】
2OGの模倣物の例としては、ピリジンカルボン酸誘導体若しくはその誘導体、N-オキサリルアミノ酸若しくはその誘導体、コハク酸若しくはその誘導体、又は2OG若しくは2-オキソ酸誘導体が挙げられる。特に、模倣物はピリジン-2,4-ジカルボン酸であり得、したがって、JMJD6標的剤は、ルチジン酸としても公知のピリジン-2,4-ジカルボン酸を含み得るか又はそれからなり得る。2OG競合物質は、2OGオキシゲナーゼ阻害剤として十分に確立されており、医薬(例えば低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害剤)及び農業において既に使用されていることが認識されている。そのような阻害剤は、「主要」酵素基質と競合してもしなくてもよい。そのような既に使用されている化合物、又はその修飾体若しくは変種は、本明細書に記載される前立腺癌の処置のためのJMJD6阻害剤としての使用に好適であり得る。
【0046】
公知のオキシゲナーゼ阻害剤としては、FG4592(ロキサデュスタット)、GSK1278863(ダプロデュスタット)、Bay85-3934(モリデュスタット)、及びAKB-6548(バダデュスタット)が挙げられる。これらの化合物は、結合に関して補基質2OGと競合することによって作用する(Yehら、Molecular and Cellular Mechanisms of HIF Prolyl Hydroxylase Inhibitors in Clinical Trials、Chem Sci、2017、8、7651)。したがって、FG4592(ロキサデュスタット)、GSK1278863(ダプロデュスタット)、Bay85-3934(モリデュスタット)、及びAKB-6548(バダデュスタット)、又はそれらの変種は、結合に関して2OGと競合することによってJMJD6活性を阻害し、それによってアンドロゲン受容体スプライスバリアントの産生を減少させるために使用され得る。
【0047】
2OGの模倣物では、2OG分子のいずれかの末端の酸基が、種々の官能基、例えばテトラゾール、トリアゾール、アルコール基、ケトン、アルデヒド、アシルハロゲン化物、カルボキシレート、又はエステルで置き換えられ得る。2OG模倣物の最適化は、標準的な創薬技法及びプラットフォームを使用して実施されて、結合及び阻害剤特性を最適化し得る。
【0048】
JMJD6標的剤は、JMJD6リジン水酸化酵素触媒活性の低下をもたらすことができる。JMJD6への結合は、その触媒活性を変更させずに生物学的機能を変更し得ることもまた認識されている。例えば、標的LUC7様(LUC7L)のJMJD6媒介リジン5位水酸化が抑制され得る。
【0049】
JMJD6標的剤は、結合に関してFe(II)補因子と競合する化合物を含み得る。したがって、化合物は、Fe(II)が結合できないように、Fe(II)補因子結合部位中又はその近傍に結合し得る。
【0050】
JMJD6標的化合物は、天然物又は公知の化合物又はこれらの変種若しくはプロドラッグを含み得る。
【0051】
一実施形態では、前立腺癌細胞におけるアンドロゲン受容体のスプライスバリアントの量を低下させることによって機能する阻害剤又は標的剤。アンドロゲン受容体スプライスバリアントはV7バリアントであり得る。阻害剤又は標的剤は、アンドロゲン受容体スプライスバリアントの量を低下させることによって前立腺癌を処置又は予防するように作用し得る。したがって、阻害剤は、スプライスバリアントが生じる他の増殖性疾患に効果的であり得る。
【0052】
一実施形態では、標的化合物は、JMJD6遺伝子を標的とする化合物であり、JMJD6遺伝子の発現を予防又は抑制することができる。例えば、標的剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はsiRNA(低分子干渉RNA)、shRNA(ショートヘアピンRNA)等のRNA干渉(RNAi)のメディエーターであり得る。
【0053】
RNAiは、遺伝子発現の制御又は阻害のために使用され得る生物学的経路である。アンチセンスオリゴヌクレオチドもまた、遺伝子発現の制御又は阻害を誘導することができる。これらの手法はいずれも、ワトソン及びクリック塩基対形成を介して標的RNAに結合するオリゴヌクレオチド配列の使用によって遺伝子発現に影響を及ぼす。
【0054】
ショートヘアピンRNAとは、遺伝子発現の制御又は阻害のために使用することができるRNA干渉(RNAi)の種類の1つである。shRNA分子は、一般に、約19~22ヌクレオチドの第1の配列とそれに続く約19~22ヌクレオチドの第2の配列とを含み、ここで、第1及び第2の配列は相補的であり、二本鎖を形成することができる。第1の配列又は第2の配列は、標的領域又は遺伝子における配列に相補的であり得る。第1及び第2の配列は、第1及び第2の配列が二本鎖を形成する場合、ループ構造を形成するヌクレオチドの更なる配列によって連結される。
【0055】
siRNAは、遺伝子発現の一過性の抑制又は阻害をもたらすために使用され得る。
【0056】
JMJD6標的剤は、JMJD6遺伝子の発現を阻害することが可能であり得る。JMJD6標的剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はsiRNA、shRNA等のRNAiメディエーターから選択され得る。RNAiメディエーター又はアンチセンスオリゴヌクレオチドは、JMJD6遺伝子の配列に相補的な配列を含み得る。
【0057】
ある実施形態では、JMJD6標的剤は、例えば前立腺癌細胞内における1つ又は複数のアンドロゲン受容体スプライスバリアントの産生を減少させる。アンドロゲン受容体スプライスバリアントは、C末端で切断されている、及び/又は典型的なリガンド結合ドメインを欠いているアンドロゲン受容体のバリアントとして同定され得る。アンドロゲン受容体の複数の異なるスプライスバリアントが存在する。JMJD6標的剤は、AR-V1、AR-V2、AR-V3、AR-V4、AR-V5、AR-V6、AR-V7、AR-V8、AR-V9、AR-V10、AR-V11、AR-V12、AR-V13、AR-V14、AR-V15、AR-V16 AR-V18、AR-V23、AR8、ARQ640X、ARv5es、ARv56es、ARv7es、AR-45、AR-V567esのうちの1つ又は複数から選択されるアンドロゲンスプライスバリアントの産生を減少させ得る。好ましい実施形態では、JMJD6標的剤は、アンドロゲン受容体スプライスバリアントAR-V7の産生を減少させる。
【0058】
ある実施形態では、JMJD6標的剤は、細胞におけるJMJD6の分解、又は細胞におけるJMJD6の発現の抑制をもたらす。
【0059】
ある態様では、本発明は、例えば前立腺癌の処置における使用のためのJMJD6標的剤を含む医薬組成物に関する。
【0060】
別の態様では、本発明は、アンドロゲン療法及びJMJD6標的剤を含む医薬組成物に関する。
【0061】
医薬組成物は、1つ又は複数の追加の活性剤、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントを更に含んでもよい。組成物は、抗アンドロゲン療法等の別の薬剤を含んでもよい。
【0062】
薬学的に許容される担体又はビヒクルは微粒子であり得るため、組成物は、例えば錠剤又は粉末形態である。「担体」という用語は、本発明の薬物抗体コンジュゲートと共に投与される希釈剤、アジュバント又は賦形剤を指す。そのような薬学的担体は、液体、例えば水及び油、例えば、石油、動物、野菜又は合成起源の油、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等であり得る。担体は、食塩水、アカシアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイダルシリカ、尿素等であってもよい。加えて、補助剤、安定化剤、増粘剤、滑沢剤及び着色剤が使用されてもよい。一実施形態では、動物に投与される場合、本発明の単一ドメイン抗体又は組成物及び薬学的に許容される担体は滅菌されている。本発明の薬物抗体コンジュゲートが静脈内投与される場合、水は好ましい担体である。食塩水溶液並びにデキストロース及びグリセロール水溶液もまた液体担体として、特に注射用溶液に用いられ得る。好適な薬学的担体としては、賦形剤、例えばデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、イネ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等も挙げられる。本組成物は、所望される場合、少量の湿潤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤も含有することができる。
【0063】
薬物送達システム(DDS)は、JMJD6標的剤又は医薬組成物を送達するために使用され得る。DDSは、合成生分解性ポリマー、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体[PLGA]等のα-ヒドロキシ酸等の疎水性物質、及びポリ無水物を含み得る。DDSは、天然に存在するポリマー、例えば複合糖質、例えばヒアルロナン、キトサン[CHI]、及びヒドロキシアパタイト等の無機物を含んでもよい。DDSは、金ナノ粒子等の金属ナノ粒子を含んでもよい。DDSはまた、プロドラッグ形態、例えば前立腺/前立腺癌細胞に対する阻害剤を標的とするプロドラッグ形態を含んでもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物は、液体の形態、例えば、溶液、エマルション又は懸濁液であり得る。本発明の液体組成物はまた、溶液、懸濁液又は他の類似の形態にかかわらず、以下:水、食塩水溶液、好ましくは生理食塩水、リンガー液、等張塩化ナトリウム、合成モノ若しくはジグリセリド等の固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、又は他の溶媒等の滅菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤;及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の張性の調整のための薬剤のうちの1つ又は複数も含むことができる。組成物は、ガラス、プラスチック又は他の材料から作製されたアンプル、使い捨てシリンジ又はマルチドーズバイアルに封入され得る。
【0065】
本発明のJMJD6標的剤又は医薬組成物の静注製剤は、注射用水性又は非水性(例えば油性)滅菌溶液又は懸濁液の形態であってもよい。注射用滅菌調製物はまた、非経口的に許容される非毒性希釈剤又は溶媒中の注射用滅菌溶液又は懸濁液、例えば、1,3-ブタンジオール中溶液であり得る。用いられ得る許容されるビヒクル及び溶媒には、水、リン酸緩衝溶液、リンガー液及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌固定油も溶媒又は懸濁培地として用いることができる。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含む任意の無刺激固定油が用いられ得る。加えて、オレイン酸等の脂肪酸も本発明の静注製剤の調製に使用することができる。
【0066】
医薬組成物は、医薬分野において周知の方法を使用して調製され得る。例えば、注射によって投与されることが意図される組成物は、本発明のベクターを水と組み合わせて溶液を形成することによって調製され得る。均質な溶液又は懸濁液の形成を容易にするために、界面活性剤が添加されてもよい。
【0067】
JMJD6標的剤又は医薬組成物は、任意の好適な経路によって投与され得る。例えば、送達は、経口、局所、非経口、舌下、直腸、経膣、眼、鼻腔内、肺、皮内、硝子体内、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、脳内、経皮、経粘膜、吸入によるもの、或いは局所、特に耳、鼻、眼、若しくは皮膚への、又は吸入によるものであり得る。
【0068】
非経口投与としては、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、直腸、膀胱内、皮内、局所又は皮下投与が挙げられる。
【0069】
当業者であれば、これらの投与経路に好適な製剤を調製する方法について認識しているだろう。
【0070】
医薬組成物は、液体の形態、例えば、液剤、シロップ剤、液剤、乳剤又は懸濁剤であり得る。液体は、経口投与、又は注射、注入(例えば、IV注入)若しくは皮下による送達に有用であり得る。
【0071】
経口投与が意図される場合、組成物は固体又は液体形態であり得、半固体、半液体、懸濁液及びゲル形態は、本明細書において固体又は液体のいずれかとして考えられる形態に含まれる。
【0072】
経口投与のための固体組成物として、組成物は、散剤、顆粒剤、圧縮錠剤、丸剤、カプセル剤、チューインガム剤、カシェ剤又は類似の形態に製剤化され得る。そのような固体組成物は、典型的には、1つ又は複数の不活性希釈剤を含有する。加えて、以下:カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、又はゼラチン等の結合剤;デンプン、ラクトース又はデキストリン等の賦形剤、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トウモロコシデンプン等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素等の流動促進剤;スクロース又はサッカリン等の甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香料等の香味剤;及び着色剤のうちの1つ又は複数が存在してもよい。組成物がカプセル剤(例えばゼラチンカプセル剤)の形態である場合、組成物は、上記の種類の物質に加えて、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン又は脂肪油等の液体担体を含有することができる。
【0073】
経口投与が意図される場合、組成物は、甘味剤、保存剤、色素/着色料、及び風味増強剤のうちの1つ又は複数を含み得る。注射による投与のための組成物では、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定剤、及び等張剤のうちの1つ又は複数もまた含まれ得る。
【0074】
組成物は、1つ又は複数の投与単位の形態を取ることができる。
【0075】
具体的な実施形態では、組成物を、処置を必要とする領域に局所的に、又は静脈内注射若しくは注入によって投与することが望ましい場合がある。
【0076】
本明細書に記載される薬物、すなわちJMJD6標的剤の、前立腺癌の処置に効果的/活性となる量は、疾患又は状態の性質によって決まり得、標準的な臨床技法によって決定され得る。加えて、in vitro又はin vivoアッセイは、至適投与範囲を同定するのに役立てるために任意選択で用いられ得る。組成物に用いられる正確な用量は、投与経路、及び疾患又は疾患の重篤度によっても決まり得、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄率、宿主の状態、薬物の組合せ、反応感度、及び疾患の重症度等の因子は考慮されるものとする。
【0077】
典型的には、薬物の量は、組成物の質量を基準として少なくとも約0.01%である。経口投与が意図される場合、この量は、組成物の質量を基準として約0.1%~約80%の範囲で変動し得る。好ましい経口組成物は、薬物を、組成物の質量を基準として約4%~約50%含み得る。
【0078】
組成物は、非経口投与単位が約0.01質量%~約2質量%の本発明の単一ドメイン抗体を含有するように調製され得る。
【0079】
注射による投与の場合、組成物は、典型的には、動物の体重1kg当たり約0.1mg~約250mg、好ましくは、動物の体重1kg当たり約0.1mg~約20mgの間、より好ましくは、動物の体重1kg当たり約1mg~約10mgを含み得る。一実施形態では、組成物は、約1~30mg/kg、例えば、約5~25mg/kg、約10~20mg/kg、約1~5mg/kg、又は約3mg/kgの用量で投与される。投与スケジュールは、例えば、1週間に1回から2、3、又は4週間ごとに1回まで変動し得る。
【0080】
一態様では、本発明は、治療有効量のJMJD6標的剤又はJMJD6標的剤を含む医薬組成物を投与する工程を含む、前立腺癌を処置する方法に関する。JMJD6標的剤は本明細書に記載される通りのものである。
【0081】
一態様では、本発明は、治療有効量のJMJD6標的剤又はJMJD6標的剤を含む医薬組成物を投与する工程を含む、前立腺癌、例えば進行性前立腺癌における内分泌抵抗性を処置又は予防する方法に関する。
【0082】
一態様では、本発明は、前立腺癌の処置のための医薬の製造のためのJMJD6標的剤に関する。
【0083】
本明細書で使用する場合、「処置する」、「処置すること」又は「処置」とは、疾患又は疾患を阻害又は軽減することを意味する。例えば、処置は、疾患と関連する症状若しくは疾患の発症の遅延、及び/又は前記疾患と共に発症し得るか若しくは発症すると予期されるような症状の重症度の低下を含み得る。これらの用語には、既存の症状を改善すること、更なる症状を予防すること、及びそのような症状の根底にある原因を改善又は予防することが含まれる。したがって、これらの用語は、処置される哺乳動物、例えば、ヒト患者の少なくとも一部に有益な結果が付与されることを表す。多くの医学的処置は、処置を受ける患者の全てではないが、一部に効果的である。
【0084】
「対象」又は「患者」という用語は、処置、観察、又は実験の対象である動物を指す。単に例として、対象としては、これらに限定されないが、ヒト又は非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、マウス、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、若しくはネコを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられる。
【0085】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、単独で又は追加の治療剤と組み合わせて細胞、組織、又は対象に投与される場合、投与の条件下において所望の治療又は予防効果を達成するのに効果的である標的剤の量を意味する。
【0086】
本明細書に記載される化合物は、前立腺癌又は前立腺障害を処置するのに有用である。前立腺障害とは、雄の生殖器系における前立腺に罹患する任意の疾患を指す。前立腺は、精巣のホルモン分泌に依存している。JMJD6の発現は、他の癌、より具体的にはこれらの癌と関連する血管新生において検出されている。従来の(明細胞)腎細胞癌腫、膀胱の移行上皮癌腫、精巣胎児性癌腫、神経内分泌癌腫、結腸癌腫、及び乳癌腫を含む多様な癌腫、並びに種々の種類の悪性腫瘍は、その血管新生においてJMJD6を一貫して強力に発現することが見出された。ある実施形態では、前立腺癌は、腺房腺癌腫、導管腺癌腫、移行上皮癌腫(尿路上皮癌腫)、前立腺扁平上皮癌、前立腺小細胞癌、前立腺大細胞癌、粘液腺癌腫、前立腺印環細胞癌、前立腺基底細胞癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫から選択される。
【0087】
ある実施形態では、前立腺癌は、内分泌抵抗性前立腺癌又は去勢抵抗性前立腺癌であり得る。したがって、本発明は、内分泌抵抗性前立腺癌又は去勢抵抗性前立腺癌を処置するのに特に有用である。
【0088】
AR-V7の上方制御は、進行性前立腺癌における内分泌抵抗性に関連し、したがって、ある実施形態では、本発明は、前立腺癌における内分泌抵抗性の処置又は予防又は診断における使用のためのJMJD6標的剤に関する。
【0089】
JMJD6標的剤は、既存の療法又は治療剤であり得る抗癌療法と組み合わせて使用されてもよい。JMJD6標的剤は、更なる抗癌療法と組み合わせて使用されてもよい。更なる抗癌療法は、放射線療法、化学療法、外科的処置、免疫療法、チェックポイント阻害薬、ホルモン療法から選択され得る。特に、更なる抗癌療法は、前立腺癌の処置において一般的に使用される療法、例えば、エンザルタミド、アビラテロン/アビラテロン酢酸エステル、アパルタミド、ラジウム-223、ドセタキセル、シプロイセル-T、カバジタキセル、ミトキサントロン、ビカルタミド、ケトコナゾール、及び/又はコルチコステロイドから選択され得る。更なる抗癌療法は、JMJD6標的化合物と同時に、逐次に又は別個に投与され得る。一実施形態では、療法は抗アンドロゲン療法である。
【0090】
本発明の具体的な実施形態では、組成物は、化学療法剤又は放射療法と同時に投与される。別の具体的な実施形態では、化学療法剤又は放射療法は、本発明の組成物の投与の前又は後、好ましくは本発明の組成物の投与の少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1か月、より好ましくは数か月(例えば最大3か月)前又は後に投与される。
【0091】
ある実施形態では、本発明はまた、本発明のJMJD6標的化合物又は組成物と抗癌療法との投与を含む、JMJD6標的剤が例えば既存の抗癌療法の有効性を増強する併用療法に関する。一実施形態では、療法は、アビラテロン/アビラテロン酢酸エステル、エンザルタミド又はアパルタミド等の抗アンドロゲン療法である。
【0092】
一実施形態では、効果は相乗的である。抗癌療法は、治療剤又は放射療法を含んでもよく、遺伝子療法、ウイルス療法、RNA療法、骨髄移植、ナノ療法、標的抗癌療法又は腫瘍溶解薬を含む。他の治療剤の例としては、チェックポイント阻害薬、抗新生物剤、免疫原性剤、弱毒化された癌性細胞、腫瘍抗原、腫瘍由来抗原又は核酸をパルスした樹状細胞等の抗原提示細胞、免疫刺激性サイトカイン(例えば、IL-2、IFNa2、GM-CSF)、標的低分子及び生体分子(例えばシグナル伝達経路の成分、例えばチロシンキナーゼのモジュレーター及び受容体型チロシンキナーゼの阻害剤、及びEGFRアンタゴニストを含む腫瘍特異的抗原に結合する薬剤)、抗炎症剤、細胞毒性剤、放射毒性剤、又は免疫抑制剤及び免疫刺激性サイトカイン(例えば、GM-CSF)をコードする遺伝子をトランスフェクトした細胞、化学療法、シスプラチン、ゲフィチニブ、パクリタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、カペシタビン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5フルオロウラシルが挙げられる。一実施形態では、療法は、エンザルタミド、アビラテロン、ラジウム-223、ドセタキセル、シプロイセル-T、カバジタキセル、ミトキサントロン、ビカルタミド、ケトコナゾール、及び/又はコルチコステロイドから選択される。一実施形態では、JMJD6標的剤又は組成物は外科的処置と組み合わせて使用される。本発明のJMJD6標的剤又は組成物は、他の療法と同じ時間又は異なる時間に、例えば、同時に、別個に又は逐次に投与され得る。
【0093】
具体的な実施形態では、本発明のJMJD6標的剤又は組成物を、腫瘍の部位等の処置を必要とする領域に局所投与することが望ましい場合がある。別の実施形態では、JMJD6標的剤又は組成物を静脈内注射又は注入によって投与することが望ましい場合がある。本発明のJMJD6標的剤の、特定の障害又は状態の処置に効果的/活性となる量は、障害又は状態の性質によって決まり得、標準的な臨床技法によって決定され得る。加えて、in vitro又はin vivoアッセイは、至適投与範囲を同定するのに役立てるために任意選択で用いられ得る。組成物に用いられる正確な用量は、投与経路、並びに疾患又は障害の重篤度によっても決まり得、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。
【0094】
組成物は、好適な投与量が得られるように、有効量の本発明のJMJD6標的剤を含む。化合物の正確な投与量は、特定の製剤、投与様式、並びに処置されるその特定の部位、宿主及び疾患に応じて変動し得る。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄率、宿主の状態、薬物の組合せ、反応感度、及び疾患の重症度等の他の因子は考慮されるものとする。投与は連続的又は定期的に行われ得る。
【0095】
ある態様では、本発明は、JMJD6標的剤又はJMJD6標的剤を含む医薬組成物と、使用のための説明書とを含むキットに関する。
【0096】
キットは、本明細書に記載される更なる抗癌療法、1つ若しくは複数の追加の活性剤、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバント等の追加の成分を含んでもよい。
【0097】
ある態様では、本発明は、前立腺癌を診断又は予後判定する方法であって、
a. 生体試料を取得する工程、
b. 試料中のJMJD6のレベル、例えば遺伝子発現レベルを決定する工程であり、参照試料と比較して増加したJMJD6のレベルが予後不良を示す、工程
を含む、方法に関する。
【0098】
JMJD6の発現レベルは、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、定量リアルタイムPCR(qPCR)、マイクロアレイ、RNA配列決定(RNA-Seq)、次世代RNA配列決定(ディープシーケンシング)、超並列シグネチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析、又はトランスクリプトミクス、抗体ベースの方法、又はプロテオミクスから選択される技法を使用して検出/決定され得る。検出されるJMJD6の発現レベルは、核発現レベルであり得る。方法は、核酸を、配列番号1又は2に記載のヌクレオチド配列に選択的にハイブリダイズすることが可能であるポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドプローブ又はプライマーと接触させる工程を更に含んでもよい。
【0099】
ある実施形態では、方法は、腺房腺癌腫、導管腺癌腫、移行上皮癌腫(尿路上皮癌腫)、前立腺扁平上皮癌、前立腺小細胞癌、前立腺大細胞癌、粘液腺癌腫、前立腺印環細胞癌、前立腺基底細胞癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫を診断又は予後判定する方法に関する。
【0100】
参照試料は、前立腺癌を有しない健康な個体から取得され得る。
【0101】
ある態様では、本発明は、細胞をJMJD6標的剤と接触させる工程を含む、アンドロゲン受容体スプライシング/アンドロゲン受容体スプライスバリアントの形成を阻害する方法に関する。
【0102】
細胞は、JMJD6標的剤とin vitro、in vivo又はex vivoで接触され得る。
【0103】
別の態様では、本発明は、療法の投与前のJMJD6のレベル、例えば発現レベルを決定する工程、及び療法の投与後のJMJD6のレベルを決定する工程を含む、前立腺癌療法の治療有効性をモニタリングする方法に関する。
【0104】
JMJD6のレベルは、AR-V7のレベルと共に決定され得る。JMJD6のレベルは、療法の投与後の複数の時点で決定され得る。決定されるJMJD6のレベルは、タンパク質発現レベル又は遺伝子発現レベルであり得る。JMJD6のレベルは、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、定量リアルタイムPCR(qPCR)、マイクロアレイ、RNA配列決定(RNA-Seq)、次世代RNA配列決定(ディープシーケンシング)、超並列シグネチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析、又はトランスクリプトミクスから選択される技法を使用して検出され得る。検出されるJMJD6の発現レベルは、核発現レベルであり得る。
【0105】
更なる態様では、本発明者らは対象に有効量の本明細書に記載されるJMJD6標的剤又は医薬組成物を投与する工程を含む、対象の特に前立腺における腫瘍細胞の成長を阻害する/前立腺癌を有する対象を処置する方法を提供する。
【0106】
更なる態様では、本発明者らは対象に治療有効量の本明細書に記載されるJMJD6標的剤又は医薬組成物を投与する工程を含む、前立腺癌における内分泌抵抗性の処置又は予防のための方法を提供する。
【0107】
ある態様では、細胞を試験化合物と接触させる工程、及びアンドロゲン受容体スプライシングのレベルを決定する工程を含む、JMJD6標的剤を同定する方法を提供する。方法は、アンドロゲン受容体スプライスバリアントのレベルを野生型アンドロゲン受容体と比較する工程を更に含み得る。方法はまた、試験試料におけるアンドロゲン受容体スプライスバリアントのレベルを、参照試料におけるアンドロゲン受容体スプライスバリアントのレベルと比較する工程を含み得る。参照試料は、試験化合物に曝露されても、又は接触してもいない試料を含み得る。
【0108】
本発明者らはまた、細胞を試験化合物と接触させる工程、及びアンドロゲン受容体スプライシングのレベルを決定する工程を含む方法によって取得されるか又は取得可能である化合物も提供する。
【0109】
細胞は、試験化合物とin vitro、in vivo又はex vivoで接触され得る。試験化合物は、阻害剤スクリーニング又はin silicoモデリング等の方法を介して同定される潜在的なJMJD6標的剤であり得る。
【0110】
アンドロゲン受容体スプライシングのレベルは、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法、定量リアルタイムPCR(qPCR)、マイクロアレイ、1工程逆転写定量PCR、RNA配列決定(RNA-Seq)、次世代RNA配列決定(ディープシーケンシング)、超並列シグネチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析、又はトランスクリプトミクスから選択される技法を使用して同定され得る。
【0111】
本明細書に別段の定義がない限り、本開示と共に使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。前述の開示は、本発明をなす及び使用する方法を含む、本発明の範囲内に包含される主題並びにその最良の形態の全体的な説明を提供しているが、当業者が本発明を実施するのを更に容易にするため、及び本発明の完全な記載を提供するために、以下の実施例を提供する。しかしながら、当業者は、これらの実施例の詳細が本発明に対する限定として解釈されるべきではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲及び本開示に付加されるその均等物から把握されるべきであることを理解するだろう。本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を考慮して当業者に明らかとなるだろう。
【0112】
本明細書において言及されている全ての文書はそれらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本発明は非限定的な例で更に記載される。
【実施例】
【0113】
材料及び方法
患者及び組織試料
全ての患者は、Royal Marsden Hospital(RMH)においてmCRPCを処置され、書面によるインフォームドコンセントを提出し、RMH倫理審査委員会によって承認されたプロトコル(参照番号04/Q0801/60)に登録された。患者臨床データを、RMH電子患者記録システムから後ろ向きに収集した。
【0114】
ICR/RMHコホート。74の過去に採取した生検を、評価に十分なホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)mCRPC組織を有すると同定した(骨、n=41;リンパ節、n=21;肝臓、n=4;その他、n=8)。これらのうち、64の生検は、適合する、同じ患者の診断用CSPC生検も利用可能であった。全ての生検ブロックを新たに切片化し、十分な材料が存在する(50以上の腫瘍細胞)場合のみ、免疫組織化学解析のために考慮した。全てのCSPC生検は腺癌腫を実証した。
【0115】
International Stand Up To Cancer/Prostate Cancer Foundation(SU2C/PCF)コホート。去勢感受性PCの診断時の低レベルのAR-V7発現のために[13]、この研究において提示された患者配列決定データのバイオインフォマティクス解析を、mCRPC患者のみから取得された公的に利用可能なデータを使用して意図的に実施した。SU2C/PCF Prostate Cancer Dream Teamによって作成された、mCRPC患者由来の全エクソーム(n=231)及びトランスクリプトーム(n=159)配列決定データをダウンロードし、再解析した[2]。
【0116】
抗体検証
非標的対照siRNA又はON-TARGETplusプールJMJD6 siRNA(Dharmacon;GE healthcate社)のいずれかと共に培養したLNCaP95全細胞溶解物におけるJMJD6タンパク質レベルの検出を比較するウェスタンブロット(WB)解析によって、抗体特異性を決定した。AR-V7抗体検証を、以前に記載されたように実施した[13]。
【0117】
免疫組織化学(IHC)
JMJD6 IHCを、マウス抗JMJD6抗体(Santa Cruz Biotechnology社;sc-28348;200ug/mlストック)を使用して実施した。スライドをpH6抗原賦活化緩衝液(HDS05-100;TCS Biosciences社)中で18分間、800Wでマイクロウェーブ処理した後に、抗JMJD6抗体(1:50の希釈率)と共に室温で1時間インキュベートすることによって、抗原賦活化を達成した。反応を、EnVisionシステム(K4061;DAKO社)を使用して可視化した。抗体特異性を、ON-TARGETplusプールJMJD6 siRNAを用いて処理された後のLNCaP95細胞ペレットから、非標的対照siRNAと比較して確認した。AR-V7 IHCは、以前に記載されたように実施した[13]。JMJD6及びAR-V7定量を、修正Hスコア(HS)法[14];[(弱い染色の%)×1]+[(中等度の染色の%)×2]+[(強い染色の%)×3]を使用して、臨床データに対して盲検化された病理医によって決定して、染色腫瘍試料全体のJMJD6陽性の百分率を決定した(範囲:0~300)。
【0118】
細胞株及び培養
全ての細胞株を、別段の指定がない限り、LGC Standards社/ATCCから購入し、推奨培地において5%CO2中37℃で培養した。Eurofins Medigenomix社による細胞認証サービスを使用してショートタンデムリピートプロファイリングを実施して、使用した細胞株の品質及び完全性を保証した。細胞株を、融解後、次いで培養中6~8週間ごとに定期的に、Venor(登録商標)GeM Advance Mycoplasma Detection Kit(Minerva Biolabs社)を使用して、マイコプラズマについて試験した。初期継代を3か月ごと(およそ15~20回の継代後)に融解した。
【0119】
低分子干渉RNA(siRNA):全てのsiRNAはONTARGETplusプール(Dharmacon;GE healthcare社)であり、0.4%RNAiMaxトランスフェクション試薬(ThermoFisher Scientific社)と組み合わせて、製造業者の説明書に従って使用した。siRNA実験は、別段の指定がない限り、50nMで72時間実施した。
【0120】
JMJD6プラスミド過剰発現:野生型pcDNA3-JMJD6-WT(JMJD6WT)並びに触媒不活性変異体pcDNA3-JMJD6-ASM2(MUT1)及びpcDNA3-JMJD6-BM1(MUT2)JMJD6発現構築物は、A. Boettger博士から好意により寄贈され[15、16]、Lipofectamine 3000(Invitrogen社、Carlsbad、CA)を使用して22Rv1及びVCaP細胞株にトランスフェクトされた。全ての処理を、1gの総プラスミドを使用して実施した。より低い濃度を必要とする実験では、空ベクター対照プラスミド(pcDNA3)をJMJD6WT、MUT1又はMUT2それぞれに添加して、相違を構成した(例えば、0.5gのJMJD6WT+0.5gの空ベクター対照プラスミド=1gの総プラスミド投入量)。全てのプラスミド過剰発現実験を、2mlの総容量において実施した。
【0121】
薬物:エンザルタミドはSelleckchem社からのものであった(S1250)。ジメチルスルホキシド(DMSO)はFisher Scientific社からのものであった(BP231-1)。2,4-ピリジンジカルボン酸(2,4-PDCA)を、Sigma-Aldrich社から購入した(04473)。
【0122】
成長アッセイ
細胞を48ウェル組織培養プレートに播種し、その翌日に、示されるように処理し、次いで6日間又は80~90%の集密まで成長させた。LNCaP、LNCaP95、22Rv1及びPNT2細胞株の成長を定量するために、細胞を、10%(w/v)水性トリクロロ酢酸を用いて固定し、4℃で30分間インキュベートした後、洗浄及び風乾した。その後、細胞を、スルホローダミンB(SRB)を用いて30分間染色した後、1%(v/v)水性酢酸を用いて過剰な色素を除去し、更に風乾した。この後、タンパク質結合色素を10mM Tris塩基溶液に溶解し、96ウェルプレートに移し、Synergy HTマイクロプレートリーダー(BioTek社)を使用して510nmで光学密度を決定した。CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存アッセイ(Promega社)を製造業者の説明書に従って使用してVCaP細胞成長アッセイを解析し、Synergy HTマイクロプレートリーダー(BioTek社)を使用して発光を定量した。
【0123】
ウェスタンブロット(WB)
cOmplete(商標)EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)を補充したRIPA緩衝液(Pierce社)を用いた細胞溶解後、タンパク質抽出物(20μg)を、4~12%NuPAGE(登録商標)Bis-Trisゲルプレート(Invitrogen社)上での電気泳動によって分離した後、0.45μm孔径のImmobilon-P(商標)PVDF膜(Millipore社)に移した。次いで、膜を一次抗体、次いで二次抗体と共に、5%ミルク及びtris緩衝食塩水(TBS)及びTween(登録商標)20(Sigma Aldrich社)中で逐次インキュベートした。次いで、化学発光を、Chemidoc Touchイメージングシステム(BioRad社)を使用して検出した。
【0124】
定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
RNeasy Plus Miniキット(Qiagen社)を使用して、製造業者の説明書に従って細胞のRNAを抽出した。First Strand cDNA合成キット(Roche社)を用いたcDNA合成後、ViiA(商標)7システムリアルタイムPCRシステム(Life Technologies社)及びTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社)及びプローブ(ThermoFisher Scientific社)を使用して、qRT-PCRを実施した[11]。mRNA発現レベルの倍率変化を、比較Ct法によって、式2-(-(ΔΔCt)を使用して算出した[17]。
【0125】
RNA免疫沈降(RIP)アッセイ
細胞に25nM非標的対照siRNA(Dharmacon)又は25nM JMJD6 siRNA(Dharmacon)のいずれかを、Lipofectamin RNAiMax(Invitrogen社)及びOPTI-MEM培地(Gibco社)を使用して、製造業者の説明書に従ってトランスフェクトした。72時間後、細胞を0.3%(v/v)水性ホルムアルデヒド(Thermo Scientific社)と架橋した。RIPアッセイを、EZ-Magna RIP(架橋結合)核RNA結合タンパク質免疫沈降キット(Millipore社;17-10521)を製造業者のプロトコルに従って使用して実施し、4μgのU2AF65抗体(Sigma Aldrich社)を用いて免疫沈降した。RNA精製及びDNAse I処理を、RNeasy Plus Universal Miniキット(Qiagen社)を使用して実施した。得られたRNAをcDNA合成及びRT-qPCR分析に供した。RIPデータは2つの独立した実験に由来した。
【0126】
選択的スプライシング事象のRNA-seq及び解析
(1)LNCaP及びLNCaP95 PC細胞、並びに(2)I-BET151又はビヒクル(DMSO 0.1%)のいずれかを用いて処理されたLNCaP95 PCを比較するRNA-seq解析を、以前に記載されたように実施した[11]。解析は、8及び48時間での500nM及び2Mの濃度の、AR-V7を下方制御するI-BET151[11]、及び等量のビヒクル(DMSO 0.1%、8及び48時間)の影響を比較した。マッピングリード100万ごとの1キロベースの転写物当たりの断片(Fragments Per Kilobase of transcript per Million mapped reads、FPKM)によって測定した、両方の実験のベースライン時における315のスプライソソーム関連遺伝子全ての発現レベル中央値よりも大きいベースライン発現を有する遺伝子のみを解析に含め、各実験において最も発現変動(上方又は下方制御)した(FPKM)上位15の遺伝子を目的の遺伝子とみなした。非標的対照siRNAと比較した、JMJD6 siRNAを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞のRNA-seq解析については、RNeasy Plus Miniキット(Qiagen社)を使用して、製造業者の説明書に従って細胞のRNAを抽出した。RNA品質を、Agilent RNA Screentapeアッセイを使用して解析し、各試料由来の100ngの総RNAをAgilent SureSelectライブラリー調製キットに使用した。ライブラリー品質を、Agilent Bioanalyzer High Sensitivity DNA screentapeアッセイを使用して確認した。ライブラリーを、Qiagen Generead Quantificationキット(Roche社)を使用してqPCRによって定量及び正規化した。ライブラリーのクラスタリングを、Illumina HiSeq PEクラスターキットv3を用いてcBotにおいて実施した。ライブラリーを、ペアエンド101塩基対リードとして、Illumina HiSeq SBSキットv3を用いてIllumina HiSeq 2500膜において配列決定した。ベースコール及び品質のスコア化を、Real-Time Analysis(バージョン1.18.64)、並びにBCL2FASTQを使用するFASTQファイル作成及びデマルチプレックスを使用して実施した。FASTQフォーマットのペアエンド生リードを、RNA-seqスプライシングリードマッピングツール(spliced read mapper)TopHat(v2.0.7)を初期設定で使用して[18]、参照ヒトゲノム(hg19)に対してアラインメントした。ライブラリー及びマッピング品質を、Picardツール(http://broadinstitute.github.io/picard)を使用して推定した。
【0127】
Ensembl v61アノテーションに基づく選択的スプライシング事象(スキッピングされたエクソン、選択的5'スプライス部位、選択的3'スプライス部位、相互排他的エクソン、及び保持されたイントロン)を、MATS v3.0.8を使用して入手した[19]。
【0128】
スプライソソーム関連遺伝子セット
この研究を行うために利用されるスプライソソームに関連する遺伝子のリストを、2つの公的にアクセス可能なデータベース:1)The Gene Ontology(GO)Resource[20~22];検索用語「spliceosome」、フィルター「Homo sapiens」及び「UniProtKB」、並びに2)Molecular Signatures Database[23、24];検索用語「SPLICING/SPLICEOSOME/SPLICEOSOMAL」からの検索結果を得て、それらを合わせることにより決定した。
【0129】
AR活性、AR-V7活性、及び遺伝子発現評価
ペアエンドトランスクリプトーム配列決定リードを、Tophat2(v2.0.7)を使用して、ヒト参照ゲノム(GRCh37/hg19)に対してアラインメントした。FPKMによって測定した遺伝子発現レベルを、Cufflinksを使用して算出した[26]。ARシグナル伝達活性を、(1)以前に記載された[11]、PC細胞株及び転移性前立腺癌RNA-seqデータセットにおけるARによって制御されている43の遺伝子(ARシグネチャー)、又は(2)MSidDBのHALLMARK_ANDROGEN_RESPONSE遺伝子セット(M5908[25];アンドロゲン応答(H))のいずれかの発現レベルを決定することによって確立した。AR-V7シグナル伝達活性を、過去に公開されたAR-V7関連シグネチャーを使用して、mCRPCにおけるAR-V7発現と関連する59の遺伝子(AR-V7シグネチャー;[13])の発現レベルに基づいて決定した。
【0130】
2,4-PDCAによるJMJD6阻害に関する液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)アッセイ
LUC7L2 mRNA前駆体スプライシング因子の12マーペプチド基質(NPKRSRSREHRR、C末端アミドを用いて調製)の、JMJD6(1~362、報告されたように調製)による水酸化[26、27]を、Agilent 1290 infinityバイナリポンプを備え、Agilent 6550精密質量四重極飛行時間(Q-TOF)質量分析計に接続されたAgilent 1290 infinity II LCシステムを使用する液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)によってモニタリングした。この構築物は水酸化活性を有するが脱メチル化活性を有しないことに留意されたい[26]。全てのJMJD61~362酵素反応を、50mM Tris.Cl pH7.5(毎日新たに調製)中37℃で実施した。L(+)-アスコルビン酸ナトリウム塩(コード11140)、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(215406)としての硫酸アンモニウム鉄(FAS)、及び2OGは、Sigma Aldrich社(Poole、Dorset)からのものであった。LUC7L2ペプチド基質は、GL-Biochem社(Shanghai、China)によって95%超の純度(LC-MS)まで合成された。L-アスコルビン酸(脱イオン水中50mM)、2OG(脱イオン水中10mM)及び硫酸鉄(II)(10mM HCl中400mM)溶液を毎日新たに調製した。JMJD61~362(10M)を、2,4-PDCAの8点3倍段階希釈(100~0.046M)と共に15分間プレインキュベートし、酵素反応を、LUC7L2基質の添加によって開始した(100M LUC7L2、400M L-アスコルビン酸、100M FAS、500M 2OGの最終濃度)。酵素反応を37℃で2時間進め、次いでギ酸を1.0%(v/v)の最終濃度まで添加することによって停止した。クエンチした酵素反応をProswift RP-4H 1×50mm LCカラム(Thermo社)に注入(6l注入)し、LUC7L2及びLUC7L2水酸化ペプチドを、溶媒A(LCMS水中0.1%(v/v)ギ酸)及び溶媒B(100%LCMSグレードアセトニトリル中0.1%(v/v)ギ酸)の線形勾配を使用して分画した。勾配条件、流量及び最大圧力制限の詳細を要約する。ペプチドイオン化を、280℃の乾燥ガス温度、13L/分の乾燥ガス流量、40PSIのネブライザーガス圧、350℃のシースガス温度、12L/分のシースガス流量、及び1000Vのノズル電圧の陽イオンエレクトロスプレーイオン化(ESI)モードにおいてモニタリングした。非水酸化ペプチドと水酸化ペプチドの両方の+2荷電状態のイオンクロマトグラムデータを、MassHunter定性ソフトウェア(Agilent社)を使用して抽出及び統合した。ペプチド基質の+16水酸化ペプチドへの変換%を、式:変換%=100×水酸化/(水酸化+非水酸化ペプチド)を使用して算出した。2,4-PDCAのIC50を、GraphPad prism 6.0を使用して、非線形回帰曲線フィッティングから決定した。
【0131】
統計解析
全ての統計解析は、Stata v13.1又はGraphPad Prism v7を使用して実施し、全ての図面及び表に示す。スピアマンの相関を使用して、JMJD6 mRNAレベルとU2AF65 mRNAレベルとの間の関連性、並びにアンドロゲン応答(H)、ARシグネチャー及びAR-V7シグネチャー等の他の特徴を決定した。Hスコアは、中央値及び四分位範囲として報告する。CSPC組織試料とmCRPC組織試料との間のJMJD6発現レベルの比較、及び次世代配列決定(NGS)データとの相関を、ウィルコクソンの対応のある符号順位検定を使用して決定した。mCRPC組織試料におけるJMJD6発現レベルとAR-V7発現レベルとの間の比較を、マン・ホイットニー検定を使用して行った。CRPC生検のOSは、CRPC生検から死亡日までの時間として定義した。生存期間解析を、カプラン・マイヤー法を使用して推定した。
【0132】
結果
(実施例1.直交解析は2OG依存性ジオキシゲナーゼであるJMJD6をAR-V7発現の制御因子として同定する。)
AR-V7スプライシングの制御に重要な、BET阻害によって下方制御されるタンパク質を同定するために、直交3段階トライアンギュレーション調査手法を用いた(
図1A)。初めに、ホルモン感受性LNCaP細胞(AR-V7タンパク質を産生しない)及びそれらの誘導体、アンドロゲン除去抵抗性LNCaP95細胞(AR-V7タンパク質を産生する)由来のRNA-seqデータを得て、GOアノテーション及びMolecular Signatures Database(スプライソソーム関連遺伝子セット)によって決定されるスプライソソームに関連する役割を有するどの遺伝子が、LNCaP95細胞において、LNCaP細胞に対して有意に上方制御されるかを同定した。その後、これらの結果を、BET阻害剤(GSK1210151A;I-BET151)又はビヒクル(DMSO 0.1%)のいずれかを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞を比較するRNA-seq解析によりアラインメントして、スプライソソーム関連遺伝子セットのうちのどれがまた、本発明者ら及び他の研究者らがAR-V7発現を下方制御するとこれまでに報告している[11、28]BET阻害によって有意に下方制御されたかを調査した。AR-V7生成を優先的に制御するスプライソソーム関連タンパク質を同定するために、これらのトランスクリプトームデータを、スプライソソーム関連遺伝子セットにおける315の遺伝子全てを去勢抵抗性AR-V7発現PC細胞株LNCaP95及び22Rv1において個々に発現停止した標的siRNAスクリーニングの結果と合わせて、それらのAR-V7タンパク質レベルに与える影響を、全長AR(AR-FL)と比較してWBによって決定した。遺伝子を、両方の細胞株間で平均したAR-FLに対するAR-V7下方制御の程度によって決定された順にランク付けし、AR-V7:AR-FL比の最も大きい低下を引き起こすタンパク質を最上位にランク付けた。(1)LNCaP95細胞において、LNCaP細胞に対して有意に上方制御し、(2)BET阻害後に有意に下方制御し、かつ(3)AR-FLに対するAR-V7タンパク質発現の50%超の抑制と関連した遺伝子のみを更なる目的の遺伝子とみなした。際だったことに、これらの3つの独立した調査方法は、2OG依存性ジオキシゲナーゼであるJMJD6を、3つの基準全てを満たす唯一の遺伝子として同定し、これがAR-V7タンパク質発現の重要な制御因子であり得ることを示した(
図1B)。
【0133】
BET阻害とJMJD6とAR-V7との間の関係性を調査するために、I-BET151を用いて48時間処理したLNCaP95細胞を使用してWB解析を実施した。I-BET151処理は、JMJD6タンパク質発現とAR-V7タンパク質発現の両方の同時的な用量依存的抑制を引き起こし、これらはいずれも、同じ濃度のI-BET151において同程度生じた(
図1C)。
【0134】
JMJD6をin vitroにおけるAR-V7制御に関する目的のタンパク質として同定した後、公的にアクセス可能な患者データリポジトリを得て、潜在的な臨床的関連性を確立した。231のmCRPC患者生検(SU2C/PCF)由来の全エクソーム配列決定データの解析は、評価された試料の47%(n=108/231)におけるJMJD6ゲノム変更を明らかにし、これらは主に増加(37%;n=86/231)又は増幅(8%;n=18/231)であった。重要なことに、これらの231のmCRPC患者生検から利用可能な対応するトランスクリプトームデータ(n=108)の解析は、JMJD6遺伝子増加/増幅がJMJD6 mRNA発現の増加と相関することを、JMJD6コピー数増加/増幅を有しない試料と比較して見出した(p=0.02)。更に、全ての利用可能なトランスクリプトーム配列決定データを評価した場合(n=159;SU2C/PCF)、JMJD6 mRNA発現レベルは、mCRPC生検において、アンドロゲン応答(H)(r=0.28、p<0.001)、ARシグネチャー(r=0.25、p=0.001)、及びこれまでに報告されているAR-V7シグネチャー(r=0.20、p=0.009)と有意に相関した(
図1C~
図1E)。総合すると、これらの結果は、JMJD6遺伝子がmCRPCにおいて発現すること、及びその存在がARシグナル伝達活性とAR-V7シグナル伝達活性の両方と関連することを示し、JMJD6の、mCRPCにおける目的の遺伝子としての更なる評価を支持する。
【0135】
(実施例2.JMJD6はAR-V7タンパク質レベル及びmCRPCにおけるより悪い予後と相関する。)
致死的PCにおけるJMJD6の臨床的有意性を更に調査するために、本発明者らは次に、非標的対照siRNA又はJMJD6特異的siRNAのいずれかを用いて処理されたLNCaP95 PC細胞の全細胞溶解物を使用して、JMJD6に関する免疫組織化学アッセイを検証し(
図2A~
図2C)、次いで74のmCRPC患者組織生検におけるJMJD6及びAR-V7タンパク質レベルを評価した(
図2D)。これらの74名の患者のうち、64名の患者はまた、解析に利用可能な、十分な、適合する、同じ患者の診断用CSPC組織を有した。患者がCSPC(Hスコア中央値12.5、IQR[0.0~67.5])からCRPC(80[20.0~130.0])に進行した場合、核JMJD6タンパク質発現は有意に(p<0.001)増加した(
図2E)。加えて、より高い核JMJD6発現(Hスコア中央値以上)を有する患者は、低い核JMJD6発現を有する患者(Hスコア中央値未満;50[0.0~105.0];n=33)よりも有意に(p=0.036)高い核AR-V7発現を有した(100[22.5~147.5];n=41)(
図2F)。最後に、より高い(75パーセンタイル以上)核JMJD6発現を有する患者は、より低い(25パーセンタイル未満)核JMJD6発現を有する患者よりも有意に短い生存期間を有した(14か月[n=16] vs 8か月[n=19];ハザード比2.15;95%信頼区間1.19~5.92;p=0.017)(
図2G)。
【0136】
総合すると、これらのデータは、JMJD6タンパク質がPC細胞において産生されること、JMJD6のレベルが去勢抵抗性疾患の出現により有意に増加すること、及びJMJD6のこの上方制御がより高いレベルのAR-V7と相関することを示した。本発明者らは、提示された患者コホートの不均一性及び比較的限定的なサイズにより、JMJD6発現の生存期間に対する影響についての決定的な推論が困難になることを理解しているが、AR-V7発現がより短いOSと関連するという知見を踏まえると、本発明者らの結果は、mCRPC細胞におけるより高いJMJD6レベルが同様により悪い予後と相関することを示唆する。全体として、これらのデータは、JMJD6が、更なる評価に値するmCRPCにおける臨床的に関連のあるタンパク質であることを示した。
【0137】
(実施例3.JMJD6は、PC細胞成長に重要であり、AR-V7発現を制御する。)
本発明者らは次に、PC細胞成長及びAR-V7発現に対するJMJD6の影響を評価した。JMJD6 siRNA(25nM)を用いた処理は、去勢抵抗性AR-V7発現PC細胞株LNCaP95及び22Rv1の成長の有意な抑制をもたらし、これは、非標的対照siRNA(25nM)を用いた処理と比較した細胞数の減少によって証明された(
図3A)。アンドロゲン感受性LNCaP細胞の成長もまた、JMJD6 siRNAノックダウンによって有意に阻害された。しかしながら、興味深いことに、検出可能なレベルのAR-V7タンパク質を産生しないLNCaP PC細胞の成長の抑制は、そのアンドロゲン除去抵抗性誘導体LNCaP95又は22Rv1 PC細胞のいずれかで見られたものよりも小さかった。正常前立腺上皮の不死化モデルであるPNT2細胞は比較的影響を受けなかった。注目すべきことに、siRNA(25nM)による72時間のJMJD6ノックダウンは、AR-V7タンパク質レベルとAR-V7 mRNAレベルの両方を下方制御した(
図3B~
図3C)。30~40%のAPCに見られるTMPRSS2/ERG再構成を含有し、ARの高コピー遺伝子増幅を有するホルモン感受性VCaP PC細胞株においてもJMJD6ノックダウンの効果を評価した。更に、VCaP細胞は、in vitroにおいて、アンドロゲン除去に応答してAR-V7の発現を上方制御する[29、30]。VCaP細胞を、AR遮断薬を用いる場合(エンザルタミド10M)と用いない場合(DMSO 0.1%)の両方について、JMJD6 siRNA(25nM)又は非標的対照siRNA(25nM)のいずれかを用いて処理し、5日後に、成長に対する効果を決定した。
図3Dに示すように、JMJD6 siRNAノックダウンは、非標的対照siRNAと比較した場合、VCaP PC細胞生存率を低下させ、エンザルタミド単独での処理も同様であった。しかしながら、重要なことに、JMJD6 siRNAとエンザルタミドとを用いる併用処理は、JMJD6 siRNA単独又はエンザルタミド処理単独のいずれかよりも実質的に大きな効果を有し、VCaP細胞生存をより阻害した。このことを調査するために、AR遮断薬を用いる場合(エンザルタミド10M)と用いない場合(DMSO 0.1%)の両方について、非標的対照siRNA又はJMJD6 siRNA(25nM)のいずれかを用いた処理の72時間後のVCaP細胞を使用して、RNA及びWB解析を実施した(
図3E~
図3F)。JMJD6ノックダウンは、LNCaP95及び22Rv1細胞株において以前に観察されたように(
図3B~
図3C)、AR-V7 RNA及びタンパク質レベルを下方制御し、更に、重要なことに、AR遮断薬に応答して見られるAR-V7の上方制御もまた、JMJD6ノックダウンによって有意に弱められた。総合すると、これらのデータは、JMJD6がPC細胞の生存及び増殖に重要であり、致死的PCのin vitroモデルにおいて、AR-V7の発現のために必要とされることを実証する。
【0138】
(実施例4.JMJD6は、CRPCのin vitroモデルにおいてAR-V7転写を、部分的にはU2AF65のAR-V7特異的スプライス部位への動員を介して制御する。)
本発明者らは次に、CRPCの前臨床モデルにおいてJMJD6がAR-V7産生を制御する機構を調査した。JMJD6は、RNAプロセシングに関与するいくつかのタンパク質と相互作用することが文献においてこれまでに報告されている[15、26、27、31]。おそらく、これについて記載されている最良の例はスプライシング因子U2AF65との相互作用であり、これは、K15、K38及びK276を含むアルギニン-セリンに富む領域の残基において、JMJD6によってリジンの5位が水酸化されることが実証されている[27]。重要なことに、U2AF65は、AR-V7の発現において重要な役割を果たすことが報告されており、アンドロゲン除去療法(ADT)に応答してAR-V7特異的スプライス部位に動員されることが示されている[32]。したがって、JMJD6について観察されたように、U2AF65 mRNA発現レベルは、mCRPC生検において、アンドロゲン応答(H)(r=0.41、p<0.001)、ARシグネチャー(r=0.43、p<0.001)、及びAR-V7シグネチャー(r=0.45、p<0.001)と有意に相関した(
図4A~
図4C)。したがって、本発明者らは、AR-V7発現のJMJD6媒介制御が、U2AF65レベルの制御及び/又はU2AF65のAR-V7特異的スプライス部位への動員のいずれかを介して生じると仮定した。JMJD6と、U2AF65と、AR-V7との間の関係を決定するために、JMJD6及びU2AF65タンパク質除去(個々及び同時の両方)の、AR-V7のレベル並びにJMJD6それ自体及びU2AF65それ自体の両方のレベルに対する影響を22Rv1 PC細胞において研究した。JMJD6 siRNA(25nM)及びU2AF65 siRNA(25nM)はいずれも、AR-V7タンパク質レベルを減少させた(
図4D)。JMJD6 siRNAはU2AF65タンパク質レベルに対して最小限の影響を与え、U2AF65ノックダウンはJMJD6発現に影響を与えず、報告されたデータと一致した[31]。JMJD6ノックダウンのU2AF65発現に対する効果が見られなかったため、以前に公開されたプロトコルに従って[32]、RIP解析を実施して、JMJD6 siRNAノックダウン(25nM)後に、AR-V7特異的スプライス部位に結合したU2AF65の量を非標的対照siRNAと比較して定量した。対照IgGではなく、U2AF65に対する抗体は、対照siRNAを用いて処理された22Rv1細胞において、P1(ARとAR-V7の両方のための5'スプライス部位を含有)及びP2(AR-V7のための3'スプライス部位を含有)領域でAR mRNA前駆体を沈降させたが、この効果は、JMJD6 siRNAを用いる場合、有意に低下した(
図4E)。総合すると、これらの結果は、JMJD6がU2AF65のAR-V7特異的スプライス部位への動員を制御することを示す。
【0139】
JMJD6がCRPC細胞における選択的スプライシング事象をより広範囲に制御する方法を探索するために、JMJD6 siRNA又は非標的対照siRNAのいずれかを用いた処理の前及び後のLNCaP95 PC細胞のRNA-seq解析を実施した。全体として、JMJD6ノックダウンは、698の遺伝子を伴う753の選択的スプライシング事象において実質的な変化(2超又は1/2未満の正規化リード数倍率変化かつ0.05未満の偽陽性率によって決定)を引き起こしたが(
図4F)、これらの大部分はより低い頻度で生じた。セリン及びアルギニンに富む(SR)タンパク質の改変における割り当てられた役割並びに関連研究と一致して[26]、これらの結果は、JMJD6ノックダウンが選択的スプライシング事象の全体的な発生率を低下させることを示す。更に、JMJD6ノックダウンがAR-V7発現を下方制御したことを示す本発明者らのこれまでの結果と一致して(
図3B~
図3C及び
図3E~
図3H)、JMJD6ノックダウンは、AR-V7シグネチャースコアの平均を下げることが見出された。
【0140】
(実施例5.JMJD6媒介AR-V7生成はJMJD6触媒活性に依存し、このJMJD6触媒活性を化学的に阻害することで、AR-V7タンパク質発現を下方制御することができる。)
JMJD6がAR-V7特異的スプライス部位へのU2AF65動員を制御することを決定した後、JMJD6がU2AF65を水酸化することがこれまでに実証されていることを踏まえ[27]、本発明者らは次に、機能性JMJD6活性部位のAR-V7レベルに対する重要性を調査した。22Rv1 PC細胞に、JMJD6野生型(WT)プラスミド(JMJD6
WT)を72時間トランスフェクトし、WB及びRNA解析により、JMJD6過剰発現を伴うAR-V7タンパク質とAR-V7 mRNAの両方の発現の増加を実証した(
図5A)。反対に、pcDNA3-JMJD6-ASM2(MUT1;D189A及びH187A)[16]並びにpcDNA3-JMJD6-BM1(MUT2;N287A及びT285A)による、JMJD6触媒ドメインにおける活性部位残基の不活性化変異のトランスフェクションは、AR-V7タンパク質レベルを著しく減少した(
図5B)。これらの所見を検証するために、次に、JMJD6
WTと触媒不活性変異体JMJD6
MUT1の両方を、VCaP PC細胞株にトランスフェクトした。AR-V7発現は、JMJD6
WTによっては誘導されたが、JMJD6
MUT1によっては誘導されなかった(
図5C)。総合すると、これらの結果は、JMJD6媒介によるAR-V7の発現の増加にはJMJD6触媒活性が必要であるという仮説を支持する。興味深いことに、22Rv1 PC細胞株とVCaP PC細胞株の両方におけるAR-V7上方制御の程度は、より高い濃度のJMJD6
WTと比較して、より低い濃度のJMJD6
WTのトランスフェクション後により大きくなる。
【0141】
重要なことに、canSAR創薬プラットフォーム[33、34]を使用して調べられる、プロテインキナーゼ等の公知の薬物標的を用いるJMJD6の物理化学的及び幾何学的特性の研究は、JMJD6がその三次構造内に「ドラッガブル」ポケット(経口投与可能な低分子の結合と矛盾しない生理化学的及び幾何学的特性を有する部位として定義される[34])を含有することを示した(
図5D~
図5E)。類似のポケットは、他の2OGオキシゲナーゼにおいて標的とされており、場合によっては臨床的に承認された薬物をもたらしている[35、36]。更に、JMJD6の結晶構造解析研究と矛盾せず[36、37]、これらの解析は、JMJD6触媒活性に重要なアミノ酸D189、H187A、N287及びT285がこのドラッガブルキャビティ内にあることを実証した。
【0142】
JMJD6の活性部位を破壊しないと考えられるJMJD6の低分子阻害剤を同定するために、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)による解析を実施した。これらにより、2OG模倣物であるピリジン-2,4-ジカルボン酸(2,4-PDCA)をJMJD6阻害剤として同定した。2,4-PDCAは、広域スペクトルの、活性部位結合2OG競合2OG依存性オキシゲナーゼ阻害剤である[35、38、39]。2,4-PDCAは、公知の下流標的であるLUC7様(LUC7L)の単離JMJD6媒介リジン5位水酸化の用量依存的減少を引き起こした[15、26](
図5F)。2,4-PDCAがJMJD6リジン水酸化酵素触媒活性の阻害剤であることを確認した後、22Rv1 PC細胞を、2,4-PDCAを用いて48時間処理した。
図5Gに示すように、2,4-PDCAはAR-V7タンパク質レベルの用量依存的低下をもたらし、本発明者らのこれまでのsiRNA及び変異誘発実験を支持した。総合すると、これらの結果は、機能性JMJD6活性部位はAR-V7タンパク質産生のために必要であるという提唱を支持し、JMJD6活性部位がドラッガブルであることを示す。したがって、JMJD6は、発癌性AR-V7シグナル伝達を抑制するための創薬の取り組みにおける実現可能な治療標的である。
【0143】
実施例の有意性
アビラテロン及びエンザルタミドを含むPC内分泌療法に対する抵抗性は、回避不能で常に致死的であり、少なくとも部分的には、依然としてアンドラッガブルである恒常活性型AR-SVによって駆動される。本発明者らは、複数の腫瘍型においてより悪い予後及び疾患悪性度と関連する2OG依存性ジオキシゲナーゼであるJMJD6が[40~43]、AR-V7産生を含むPC生物学に重要な役割を果たすことを見出した。JMJD6は、PCにおいて発現し、去勢抵抗性と共に有意に増加し、この増加は、mCRPC生検におけるAR-V7タンパク質過剰産生及びより悪い生存期間と関連する。本発明者らの直交的な調査は、JMJD6がPC成長に重要であり、AR-V7発現の重要な制御因子であることを明らかにする。JMJD6ノックダウンは、ホルモン感受性VCaP PC細胞において、AR遮断薬に応答するAR-V7タンパク質の上方制御を阻害する。このことは治療上重要である。その理由は、AR-V7標的化を成功させるためには、EnRが確立された後の発癌作用に対抗するだけでなく、AR-V7生成を阻止することができる新規療法が必要とされるためである[13]。更に、JMJD6 siRNAノックダウン後に見られるAR-V7レベルの低下及びPC細胞成長の抑制は限定的な機能的冗長性を示唆し、これは、他の2つの2OG依存性JmjCドメイン含有オキシゲナーゼ、すなわちJMJD1A/KDM3A[44]及びKDM4B[45]もまた、AR-V7生成を制御することが近年報告されていることを考慮すると、印象的である。しかしながら、他のJmjC KDMと同様に、JMJD1A/KDM3A及びKDM4BはN-メチルリジンデメチラーゼとして割り当てられているが[46、47]、N-メチルアルギニン脱メチル化を含む他の役割も考えられる[48]。したがって、それらのヒストン修飾における役割を考慮すると、KDM4B/JMJD1AがARスプライシングをどの程度直接的に制御するかについては不明確である。したがって、他の2OG依存性JmjCドメイン含有タンパク質が、おそらくは代替的な機構を介するにもかかわらず、スプライソソーム機構及びARスプライシングの全体的な活性において役割を果たす可能性は高いが、本発明者らの結果は、JMJD6の2OG依存性触媒活性の標的化が有望なPC創薬戦略であることを実証する。これらの異なるタンパク質間の相互作用及びスプライソソーム機構に対するより良好な理解が、現在必要とされている。
【0144】
結果は、JMJD6が、少なくとも部分的には、AR-V7の発現に重要であることを本発明者らが以前に示した[32]、スプライシング因子U2AF65のAR-V7特異的mRNA前駆体スプライス部位への動員を調節することによって、AR-V7の発現を制御することを示す。更に、本発明者らの証拠は、AR-V7発現のJMJD6媒介制御が無傷JMJD6触媒部位に依存することを含意しており、これは、JMJD6がU2AF65のリジンの5位を水酸化し[27]、そうすることでU2AF65媒介選択的スプライシング事象を制御する[31]という過去の報告と一致する。しかしながら、興味深いことに、本発明者らの研究におけるAR-V7上方制御の程度は、より高い濃度のJMJD6WTと比較して、より低い濃度のJMJD6WTのトランスフェクション後により大きくなった。この観察は、AR-V7の産生の増加におけるJMJD6誘導触媒作用の役割と矛盾しないが、それを証明するものではなく、また、触媒作用が、JMJD6レベルに伴ってAR-V7レベルを増加させることが予期されるJMJD6のタンパク質足場機能を介して行われることと対照的である。JMJD6がFe(II)及び2OG依存性オキシゲナーゼであることを考慮すると、より高いレベルのJMJD6にもかかわらずAR-V7産生が見かけ上減少したことは、Fe(II)及び/又は2OG/二酸素の不足のために、JMJD6がある特定の点を超えて過剰発現する場合には、細胞が最適なJMJD6活性を維持することができないことを反映している可能性がある。
【0145】
重要なことに、本発明者らの解析は、JMJD6触媒部位がドラッガブルポケット内に存在することを明らかにし、本発明者らは、JMJD6リジン5位水酸化を阻害することが本発明者らにより示されている公知の2OGオキシゲナーゼ阻害剤である2,4-PDCAが、去勢抵抗性PC細胞においてAR-V7タンパク質レベルを下方制御することを実証する。総合すると、これらの所見はJMJD6/U2AF65/AR-V7制御経路を示し、ここにおいて、JMJD6酵素活性は、スプライソソームとの相互作用を介してその後のAR-V7の生成を容易にするAR-V7特異的スプライス部位へのU2AF65動員を、最も可能性が高いことにはU2AF65、及び/又は他のSRタンパク質の水酸化を介して制御する。JMJD6が、U2AF65以外のSRタンパク質を水酸化する/U2AF65以外のSRタンパク質と相互作用する可能性を有し[15、27、49、50]、他の細胞機能を有し得ることを考慮すると、その生物学的役割は、多岐にわたり、かつ文脈依存性である可能性が高い。しかしながら、AR-SV、とりわけCRPCにおけるAR-V7の重要な役割を考慮すると、そのスプライソソーム制御の役割の治療上の調節は、PC処置に特に適している可能性がある。広域スペクトルの2OGオキシゲナーゼ阻害剤(活性部位結合2OG競合物質である)によるJMJD6の阻害がAR-V7レベルを下方制御するという本発明者らの実証は、将来の創薬の取り組みにおける、より強力かつ選択的なJMJD6阻害剤の追求を促進するはずである。
【0146】
これは、JMJD6の見かけ上の多面的な役割を考慮する場合に特に関連する[49、51]。しかしながら、2OGオキシゲナーゼは、活性部位Fe結合2OG競合物質であるHIFプロリン水酸化酵素阻害剤の臨床承認によって示されているように[52]、有効な治療標的である。
【0147】
複数の文脈依存性基質及びパートナーの可能性に加えて[15、26]、JMJD6の活性は、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素を含む、全てではないが一部の2OGオキシゲナーゼの場合のように[53]、(局所的又は大域的な)鉄、二酸素又は2OGの利用可能性によっても限定され得る。2OGはTCA回路に不可欠な中間体であり、グルタミノリシス等のプロセスによって生成される。2OGレベルは、細胞複製速度、低酸素、アンドロゲン除去、及びPCにおいて一般的なゲノム異常(例えばPTEN喪失)[2]に応じて変動し、したがって、2OGレベルの変動はJMJD6活性、したがってAR-V7レベルに影響を与える可能性がある。
【0148】
開発におけるJMJD6の重要性を実証する動物研究[49、50]及び広範囲に及ぶ細胞研究にもかかわらず、JMJD6触媒作用の生理学的に関連する効果を有する有効な下流in vitro「読み出し」の不足は、JMJD6研究における大きな障害である。したがって、JMJD6のAR-V7レベルに対する効果は、JMJD6のスプライシングにおける役割に関する一般的な関心事であり、細胞における阻害剤を含むJMJD6モジュレーターを研究する手段を提供する。しかしながら、本明細書で使用したプラスミド及び方法はこれまでに特徴付けられているが[16、27]、AR-V7以外の本発明者らのモデルにおけるJMJD6触媒作用の確立された定量可能なマーカーがないため、観察されたAR-V7レベルにおける変化がJMJD6による触媒作用のみに依存していると明確に述べることは不可能である。これは、本発明者らの過剰発現及び変異誘発実験を考慮する場合に特に関連し、本発明者らは、発現したJMJD6WTの機能性のレベルも、本発明者らの変異体が、内因性JMJD6が存在する細胞において完全に不活性であることも確認することができず、このことは、JMJD6触媒活性のAR-V7発現に対する重要性に関してなされ得る推論の強さを限定する。したがって、AR-V7のJMJD6媒介制御が、リジン水酸化(又は他のJMJD6触媒反応)に関連し得るか又はし得ない化学量論的なタンパク質足場型の相互作用を伴うことを除外することはできない。実際、化学量論的機構は、JMJD6のATフックドメインに対して、その触媒作用とは無関係な方法での脂質生成における役割に関して提唱されている[54]。しかしながら、そのような化学量論的機構が、活性部位結合阻害剤を含むがこれに限定されない治療分子の結合によるJMJD6の調節に影響され得ることは注意されるべきである。
【0149】
AR-V7レベルを制御することにおけるJMJD6触媒作用の役割を調査するために、本発明者らは、JMJD6リジン5位水酸化を阻害し、AR-V7レベルを下方制御することが本発明者らによって見出され、JMJD6による触媒作用がAR-V7上方制御に関与するという提唱を支持する低分子2,4-PDCAを用いるJMJD6の阻害を利用した。しかしながら、本発明者らは、活性部位結合阻害剤によるJMJD6のPC細胞阻害は可能であり、AR-V7タンパク質レベルに影響を与えるという「原理証明」の証拠を提供するために2,4-PDCAを利用した。本発明者らは、2,4-PDCAが治療上の使用に最適化されていないこと、及びそのような最適化が他の2OGオキシゲナーゼ、例えば低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素の阻害剤については報告されていることを理解している。したがって、少なくとも一部の細胞型では、2,4-PDCAの透過性は低く、in vitroにおいて効果を誘発するために高濃度が必要とされる[55、56]。したがって、2,4-PDCAそれ自体がin vivo研究に有用となる可能性は低い。更に、2,4-PDCAは、広域スペクトルの2OGジオキシゲナーゼ阻害剤であり、JmjCドメイン含有タンパク質を含む他の2OGオキシゲナーゼを阻害し得る。構造活性相関研究により、最適でない阻害化合物の変種と結合する他の2OGオキシゲナーゼに対してJMJD6阻害剤をスクリーニングすることによって、選択性を達成することができる(及び効力を高めることができる)。結論として、直交解析を介して、本発明者らは、JMJD6を、PC細胞成長に重要なものとして、及びCRPCの前臨床モデルにおけるAR-V7タンパク質レベルの重要な制御因子として同定する。更に、JMJD6阻害は、発癌性AR-V7シグナル伝達を克服する可能性を有し、in vivo研究における更なる評価に値する、mCRPCの非常に扱いやすい新たな治療標的となる。
【0150】
【配列表】
【国際調査報告】