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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240117BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20240117BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 39/002 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 39/02 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 9/52 20060101ALI20240117BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240117BHJP
   C07K 4/12 20060101ALN20240117BHJP
   C07K 4/06 20060101ALN20240117BHJP
   C07K 14/025 20060101ALN20240117BHJP
   C07K 14/28 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C12N1/21
A61K35/742
A61K39/12
A61K39/00 H
A61K39/002
A61K39/02
A61P37/04
A61K9/52
C07K19/00 ZNA
C07K4/12
C07K4/06
C07K14/025
C07K14/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023536479
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 GB2021053264
(87)【国際公開番号】W WO2022129881
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】2019767.9
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518314040
【氏名又は名称】チェイン バイオテクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドリー, ベンジャミン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シソン
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ, リチャード マーク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA23X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA45
4C076AA60
4C076AA94
4C076BB01
4C076CC06
4C085AA03
4C085BA02
4C085BA07
4C085BA09
4C085BA51
4C085EE01
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC68
4C087BC69
4C087MA37
4C087MA52
4C087NA14
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA10
4H045CA11
4H045CA20
4H045CA40
4H045CA41
4H045DA50
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
少なくとも1つの抗原をコードする異種核酸分子を含むクロストリジウム綱の細菌であって、嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において抗原を発現することができ、少なくとも1つの抗原は感染病原体抗原または腫瘍抗原である、細菌。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原をコードする異種核酸分子を備えるクロストリジウム綱の細菌であって、前記細菌は嫌気性細胞増殖中に前記細菌の細胞内区画において前記抗原を発現することができ、前記少なくとも1つの抗原が感染病原体抗原または腫瘍抗原である、細菌。
【請求項2】
前記少なくとも1つの抗原が、1個以上のT細胞抗原セグメントおよび/または1個以上のB細胞抗原セグメントを備える、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
前記1つ以上のT細胞抗原セグメントが、CD4T細胞抗原セグメントおよび/またはCD8T細胞抗原セグメントである、請求項2に記載の細菌。
【請求項4】
前記少なくとも1つの抗原が、2個以上の抗原セグメント、例えば3個以上、5個以上、または10個以上の抗原セグメントを備える多抗原融合ポリペプチドであり;任意選択で、前記多抗原融合ポリペプチドは、少なくとも1つのCD4T細胞抗原セグメントおよび少なくとも1つのCD8T細胞抗原セグメントを備える、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項5】
適宜、前記抗原セグメントが部分的に重複しており、前記抗原セグメントが由来する抗原のアミノ酸配列を組み合わせて≧40%、≧50%、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、より好ましくは100%包含する、請求項4に記載の細菌。
【請求項6】
嫌気性細胞増殖中のクロストリジウムの細胞の細胞重量あたり発現される抗原の量が、10ng/mg、20ng/mgまたは40ng/mgより重く、最大50、100、150、200、250、300、350、400、500、600、700、800、900ng/mg、1μg/mg、1.5、2.0、2.5、5.0、10または20μg/mg乾燥細胞重量、例えば10~400ng/mg乾燥細胞重量;20~200ng/mg乾燥細胞重量;40~100ng/mg乾燥細胞重量;100ng~5μg/mg乾燥細胞重量;200ng~2.5μg/mg乾燥細胞重量;400~1500ng/mg乾燥細胞重量;または約800ng/mg乾燥細胞重量である、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項7】
前記異種核酸分子が、単一コピーとしてゲノムに組み込まれているか、あるいは低コピープラスミドまたは高コピープラスミドに組み込まれている、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項8】
前記細菌が前記抗原と共発現可能な免疫賦活剤またはアジュバントをコードするさらなる異種核酸分子を備える;および/または前記細菌が酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生することができる、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項9】
前記感染病原体抗原が、ウイルス抗原、クラミジア抗原もしくはマイコプラズマ抗原などの細菌抗原、寄生虫抗原、プリオン抗原、蠕虫抗原、線虫抗原、原虫抗原、真菌抗原、またはそれらの任意の組み合わせである、先行する請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項10】
前記感染病原体抗原が、
a.HPV抗原であって、任意選択で、配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4のアミノ酸1~140を備え、例えば、前記HPV抗原は、配列番号3の核酸配列のヌクレオチド19~477によってコードされる、HPV抗原であるか;あるいは、
b.コレラ菌抗原であって、任意選択で、CtxBであり、任意選択で、前記コレラ菌抗原は、配列番号21のアミノ酸配列、もしくは配列番号21のアミノ酸1~104を備え、または配列番号20のヌクレオチド270~581によってコードされる、コレラ菌抗原である、
前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項11】
前記細菌がクロストリジウムのクラスターI、IVおよび/またはXIVaに由来する、例えば前記細菌がクロストリジウム属に由来する、例えば前記細菌がクロストリジウム・ブチリカムである、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項12】
前記細菌が、前記細菌の細胞質において可溶性ポリペプチドまたは封入体として前記抗原を発現することができる、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項13】
胞子または栄養細胞の形態である、前記請求項のいずれかに記載の細菌。
【請求項14】
前記請求項のいずれかに記載の細菌を備える医薬組成物であって、前記医薬組成物は、任意選択で、食品に添加される、医薬組成物。
【請求項15】
前記細菌の胞子または栄養細胞を備えるカプセルを備え、前記カプセルは、経口投与後に下部消化管の嫌気性部分において前記胞子または栄養細胞の放出を可能にする遅延放出層またはコーティングを備える、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬に使用するための、請求項1~請求項13のいずれかに記載の細菌、または請求項14もしくは請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
対象における抗原特異的免疫応答の生成における使用のためのクロストリジウム綱の細菌であって、前記細菌は抗原をコードする異種核酸分子を備え、前記細菌は嫌気性細胞増殖中に前記細菌の細胞内区画において前記抗原を発現することができる、使用のための細菌。
【請求項18】
前記抗原特異的免疫応答が、CD4T細胞応答およびCD8T細胞応答などの細胞性免疫応答である;ならびに/あるいは、B細胞応答である、請求項17に記載の使用のための細菌。
【請求項19】
対象における疾患の治療的処置または予防的処置における使用のためのクロストリジウム綱の細菌であって、前記細菌は抗原をコードする異種核酸分子を備え、前記細菌は嫌気性細胞増殖中に前記細菌の細胞内区画において前記抗原を発現することができ、前記抗原は感染病原体抗原であって前記疾患は感染性疾患であるか、または前記抗原は腫瘍抗原であって前記疾患はがんである、使用のための細菌。
【請求項20】
前記細菌が請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の細菌である、請求項17~請求項19のいずれか一項に記載の使用のための細菌。
【請求項21】
前記細菌が経口投与用である、請求項17~請求項20のいずれか一項に記載の使用のための細菌。
【請求項22】
前記細菌が、胞子の形態であるかまたは請求項15に記載の医薬組成物の形態である、請求項21に記載の使用のための細菌。
【請求項23】
前記対象がヒトである、請求項17~請求項22のいずれか一項に記載の使用のための細菌。
【請求項24】
前記異種核酸分子を前記細菌に導入するステップを備える、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の細菌を調製する方法。
【請求項25】
1つ以上の薬学的に許容される希釈剤または賦形剤とともに前記細菌を製剤化するステップを備える、請求項14または請求項15に記載の医薬組成物を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌ワクチン、特には経口投与および細胞性免疫の刺激に適した生細菌ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは、疾病予防、特に感染性疾患の予防において主導的役割を果たすとともに、既存の感染症や慢性疾患の治療にも期待されている。経口ワクチンは、従来の注射ベースの製剤の欠点の一部に対処し、安全性および服薬遵守を向上させ、投与を容易にする。経口ワクチンは、全身および粘膜部位の両方で液性応答および細胞性応答を刺激し得るが、Vela Ramirez,J.E.,Sharpe,L.A.,& Peppas,N.A.(2017).Current state and challenges in developing oral vaccines.Advanced drug delivery reviews,114,116-131.https://doi.org/10.1016/j.addr.2017.04.008で概説されているように、その開発には胃腸(GI)管によってもたらされる大きな課題がある。例えば、脆弱な抗原がタンパク質分解酵素や胃の酸性環境によって分解されないようにする戦略が必要である。経口ワクチンが腸に到達すると、粘液層の存在、胃腸液の組成、および上皮バリアの作用により、リンパ系への分子の透過性が制限される。抗原は、小腸の腸管関連リンパ組織(GALT)のパイエル板にある特殊な上皮細胞「M細胞」によって取り込まれ、経細胞輸送されて樹状細胞(DC)に送達され、そこで処理されてその表面に抗原断片が提示されることによってナイーブT細胞が活性化されると考えられている。
【0003】
開発中の経口ワクチンの典型的な戦略は、免疫応答を引き起こすために高用量の抗原と強力なアジュバントに依存してきた(Ramirez et al、上記参照)。一部の戦略では、アジュバント効果を誘発し得るグラム陰性菌のリポ多糖、サルモネラ菌リピドA誘導体、またはコレラ毒素を利用しているが、毒性の点においてトレードオフがある。
【0004】
細菌ワクチンが有望であり、コレラ菌または腸チフス菌の弱毒生ワクチンが認可されている。ラクトコッカスなどのグラム陽性菌は、LPSを回避し、より耐性がある可能性があり、ワクチンプラットフォームとしての可能性が示唆されている(Bahey-El-Din,M and Gahan,CGM(2010)Lactococcus lactis based vaccines:‘Current status and future perspectives’,Human Vaccines,7:1,106-109,DOI:10.4161/hv.7.1.13631)。経口組換え乳酸桿菌ワクチンが、WO2001/021200A1に開示されている。細菌ワクチンはこれまで、粘膜免疫系が十分に研究されている小腸を標的とするために使用されてきた。胞子形成中に封入体において高レベルの抗原を発現するように遺伝子改変された弱毒化ウェルシュ菌が、Chen Y et al(2004)Use of a Clostridium perfringens vector to express high levels of SIV p27 protein for the development of an oral SIV vaccine,Virology 329:226-233,ISSN 0042-6822,https://doi.org/10.1016/j.virol.2004.08.018において提案されている。そのメカニズムは、胞子形成後の母細胞の溶解によって、小腸の回腸終末部にあるパイエル板へ直接高濃度の抗原を送り込むことにあると思われる。
【0005】
現在までに認可されている経口ワクチンは、通常、治療用ワクチンとしてではなく、感染予防を目的としている。現在のワクチンではB細胞によって産生される抗体が防御と主に相関しているが、細胞内感染に対する防御においては細胞性免疫機能が重要であり、ほとんど全ての疾患において、CD4細胞はB細胞の分化成熟を助けるのに必要である(Stanley A.Plotkin(2008)Correlates of Vaccine-Induced Immunity,Clinical Infectious Diseases,Pages 47:401-409,https://doi.org/10.1086/589862)。確立された感染症および腫瘍免疫の制御には、CD8細胞傷害性T細胞を含む細胞性免疫がより重要であると一般に認識されている。
【0006】
多くのタンパク質ベースのワクチンでは、抗原提示細胞(APC)によってタンパク質が貪食またはエンドサイトーシスされてエンドソームおよびリソソームに取り込まれることで、リソソームがタンパク質をより小さなペプチドに分解し、その一部(CD4エピトープ)がリソソーム膜上のMHCクラスII分子と結合でき、細胞表面に提示されることにより、CD4T細胞を刺激し、CD4T細胞はその後のB細胞による抗体の産生に必要となる(T細胞が助ける)。それ故に、身体を刺激して抗体を産生させるためにタンパク質抗原が主に使用されてきた。
【0007】
MHCクラスI分子上の抗原ペプチドの提示(CD8細胞傷害性T細胞の刺激に必要)の主な経路は、ウイルス感染後などにAPC内で発現される抗原に依存する。しかし、研究によると、APCは、抗原のクロスプレゼンテーションと呼ばれるプロセスによって、抗原を内在化し、MHCクラスI分子上に提示して、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することもできるが、これは一般的に非効率的なプロセスであることが分かっている。外来性のペプチドまたはタンパク質のMHCクラスI経路への送達は、フロイントアジュバントなどの化学アジュバント、およびスクアレンと界面活性剤との混合物の使用によって部分的に成功している(Hilgers et al.(1999)VACCINE 17:219-228)。EP3235831(Oxford Vacmedix UK Ltd)は、組換えオーバーラップペプチド(ROP)として知られる人工のマルチエピトープ融合タンパク質がCD4およびCD8T細胞応答を同時に刺激できることを示している。ROPは、カテプシン切断部位の標的配列によって結合されたオーバーラップペプチドで構成されており、ペプチドの由来となるタンパク質全体よりも防御免疫のプライミングにおいて効率的である。ROPによる皮下免疫は、ウイルスモデルおよび腫瘍モデルにおいて防御効果を有することが示されている(Zhang H et al(2009)J.Biol.Chem.284:9184-9191;およびCai L et al(2017)Oncotarget 8:76516-76524)。
【0008】
経口投与および細胞性免疫の刺激に適した、効果的な細菌ワクチンが依然として必要とされている。
【0009】
WO2018/055388(CHAIN Biotechnology Limited)は、例えば模擬結腸環境において、抗炎症因子としての(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R-3-HB)を発現するように遺伝子改変されたクロストリジウムを開示している。WO2019/180441(CHAIN Biotechnology Limited)は、R-3-HB遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムのインビボおよび薬物動態プロファイリングを開示している。遺伝子改変株は、細菌胞子を経口投与されたマウスの結腸サンプルから単離できた。
【0010】
本発明者らは、プラットフォームワクチン技術を開発するために、大腸などの胃腸管の下部嫌気性領域を標的とする嫌気性条件下で増殖するクロストリジウムの能力を利用しようと試みた。R-3-HB遺伝子改変クロストリジウムの抗炎症効果とは対照的に、本発明は、嫌気性細胞増殖中に抗原を細胞内で発現するように遺伝子改変されたクロストリジウムが、抗原特異的免疫応答を刺激し得るという驚くべき発見に基づいている。
【0011】
本明細書における以前に公開された文書のリストまたは議論は、その文書が最新技術の一部であるか、または共通の一般知識であるという認識として解釈されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の態様は、少なくとも1つの抗原をコードする異種核酸分子を含むクロストリジウム綱の細菌であって、その細菌は嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において少なくとも1つの抗原を発現することができ、ここで、少なくとも1つの抗原は、感染病原体抗原または腫瘍抗原である。
【0013】
感染病原体抗原または腫瘍抗原は細菌に対して異種である。抗原を「発現することができる」とは、異種核酸分子が細菌内で転写され、さらに典型的には翻訳されて抗原の発現をもたらすことを意味する。
【0014】
細菌による抗原の発現は、嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画で起こる。クロストリジウム綱の細菌は偏性嫌気性菌であり、その大部分は胞子を形成する能力を有する(すなわち、胞子形成細菌である)。そのような細菌は胞子の形態または栄養型の形態であってよく;後者の形態では、細菌は代謝的に活性であり、典型的には増殖している。代謝的に活性な形態のクロストリジウムに抗原の発現を標的化することにより、腸の嫌気性部分に抗原を標的化する媒体としてクロストリジウムを使用することができる。細菌を胞子として経口投与することで、細菌は胃腸管を通過する間、休眠状態で生存し、嫌気性部分に到達すると発芽して増殖する。

抗原
【0015】
「抗原」とは、抗体またはT細胞受容体(TCR)に特異的に結合する分子を意味する。抗体に結合する抗原はB細胞抗原と呼ばれる。適切な分子の種類としては、ペプチド、ポリペプチド、糖タンパク質、多糖、ガングリオシド、脂質、リン脂質、DNA、RNA、それらの断片、それらの一部、およびそれらの組み合わせが挙げられる。糖タンパク質を含む、ペプチドおよびポリペプチド抗原が好ましい。TCRは、MHC分子と複合体を形成したペプチド断片にのみ結合する。認識される抗原の部位は「エピトープ」と呼ばれる。B細胞エピトープがペプチドまたはポリペプチドである場合、それは典型的には3個以上のアミノ酸、一般的には少なくとも5個、より一般的には少なくとも8~10個のアミノ酸を含有する。アミノ酸は、ポリペプチドの一次構造において隣接するアミノ酸残基であってもよいし、あるいは折りたたまれたタンパク質において空間的に並置されていてもよい。T細胞エピトープは通常、抗原に由来する短い一次配列である。それらは、MHCクラスIまたはMHCクラスII分子に結合し得る。典型的には、MHCクラスI結合T細胞エピトープは8~11のアミノ酸長である。クラスII分子は、10~30残基以上の長さでありうるペプチドと結合してよく、ここで、ペプチドの最適な長さは12~16残基である。特定の対立遺伝子型のMHC分子に結合するペプチドは、ペプチドと対立遺伝子型MHC分子との間の相補的な相互作用を可能にするアミノ酸残基を含む。推定T細胞エピトープがMHC分子に結合する能力は、実験的に予測および確認することができる(Peters et al.(2020)T Cell Epitope Predictions,Annual Reviews of Immunology,Vol.38:123-145)。
【0016】
第一の態様によると、クロストリジウム綱の細菌によって発現される抗原は、感染病原体抗原または腫瘍抗原である。「感染病原体抗原」とは、その抗原が、ヒトなどの感受性宿主に感染することができ、典型的には症状を引き起こすことができる感染性病原体に由来する抗原を意味する。「に由来する」とは、感染性病原体抗原が感染病原体のゲノムにコードされているか、またはそのようなコードされた抗原の変異体であることを含む。「腫瘍抗原」とは、その抗原が、主に、例えば腫瘍細胞によって、ほぼ排他的または排他的に発現される抗原に由来するか、あるいは腫瘍細胞を正常細胞と区別するために当技術分野で使用されるマーカーとして機能する抗原に由来することを意味する。「に由来する」とは、腫瘍抗原ががん細胞のゲノムにコードされているか、またはそのようなコードされた抗原の変異体であることを含む。いくつかの実施形態において、抗原は、がんのリスクに関連する感染病原体抗原であってよい。抗原は、完全なタンパク質の断片または一部であってよく、その断片はエピトープを含む。「抗原セグメント」は抗原の一部であり、その抗原はエピトープを含む。
【0017】
「変異体」とは、1つ以上の位置に保存的または非保存的アミノ酸の挿入、欠失、または置換が存在するタンパク質またはペプチドを指す。「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trpなどの組み合わせを意味する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。抗原またはその一部の典型的な変異体は、対応するネイティブ抗原またはその一部と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%同一であるアミノ酸配列を有するであろう。
【0018】
2つのポリペプチド間のパーセント配列同一性は、好適なコンピュータープログラム、例えば、ウィスコンシン大学Genetic Computing GroupのGAPプログラムを使用して決定することができ、パーセント同一性は、配列が最適に整列されているポリペプチドに関連して計算されることが理解されるであろう。
【0019】
あるいは、アラインメントは、Clustal Wプログラムを使用して実行され得る(Thompson et al.,(1994)Nucleic Acids Res.,22(22),4673-80)。使用されるパラメータは、次のとおりであってもよい。
・高速ペアワイズアラインメントパラメータ:K-tuple(ワード)サイズ;1、ウィンドウサイズ;5、ギャップペナルティ;3、上の対角線の数;5。スコアリング方法:xパーセント。
・マルチプルアラインメントパラメータ:ギャップオープンペナルティ;10、ギャップエクステンションペナルティ;0.05。
・スコアリングマトリックス:BLOSUM。
【0020】
「変異体」はまた、変異抗原をコードする核酸分子を指してもよい。
【0021】
適切な感染病原体抗原としては、ウイルス抗原、細菌抗原(クラミジア抗原またはマイコプラズマ抗原を含む)、寄生虫抗原、原虫抗原、蠕虫抗原、線虫抗原、真菌抗原、プリオン、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられうる。感染病原体抗原と腫瘍抗原との組み合わせも用いられうる。場合によっては、選択された抗原は交差免疫(交差防御とも呼ばれる)を提供し、これにより、単一の抗原または組み合わせた複数の抗原は、関連する感染病原体に対する免疫または防御を与えうる。交差免疫は、抗原が感染病原体の複数の株や種に保存されている(すなわち、共通または相同である)場合に起こりうる。したがって、このような交差免疫をもたらす抗原(単一の抗原または複数の組み合わせた抗原のいずれか)を使用することが望ましい場合がある。
【0022】
ウイルス抗原の例として、ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原;例えばSARS-CoV-2コロナウイルス抗原、例えばSARS-CoV-2スパイクタンパク質などのコロナウイルス抗原(例えば、コロナウイルス抗原は、それぞれがSARS-CoV2に関連する、229E、NL63、OC43、およびHKU1コロナウイルス株に交差免疫を与える1つの抗原または複数の組み合わせた抗原であってよい);gag、pol、およびenv遺伝子の産物、Nefタンパク質、逆転写酵素、ならびにその他のHIV成分などの、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原;肝炎、例えば、A型、B型、およびC型肝炎、肝炎のS、M、およびLタンパク質などの肝炎ウイルス抗原、B型肝炎ウイルスのpre-S抗原;インフルエンザウイルス抗原であるヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼ、ならびにその他のインフルエンザウイルス抗原;SAG-1またはp30などの麻疹ウイルス抗原;E1およびE2タンパク質ならびに他の風疹ウイルス成分などの風疹ウイルス抗原;VP7sc成分および他のロタウイルス成分などのロタウイルス抗原(例えば、腸管内のプロテアーゼによってVP8およびVP5に開裂される、ウイルスの表面カプシドに見られるVP4);エンベロープ糖タンパク質Bおよび他のサイトメガロウイルスタンパク質などのサイトメガロウイルス抗原;RSV融合タンパク質、M2タンパク質などのRSウイルス抗原;gpI、gpIIおよびテロメラーゼなどの水痘・帯状疱疹ウイルス抗原;黄熱病に関連するフラビウイルスの抗原;西ナイルウイルス抗原;デングウイルス抗原;ジカウイルス抗原;日本脳炎ウイルス抗原;アフリカ豚コレラウイルス抗原;ブタ生殖呼吸器症候群(PRRS)ウイルス抗原;および、口蹄疫ウイルス(例えば、コクサッキーウイルスA16)抗原が挙げられる。慢性持続感染を引き起こすウイルスの抗原が好ましい場合もある。例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV);C型肝炎;B型肝炎;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);ヘルペスウイルスには、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、および水痘・帯状疱疹ウイルスが含まれる。
【0023】
いくつかの実施形態では、ウイルス抗原はHPV抗原である。持続的なHPV感染は、疣贅または前がん病変の発生を引き起こす可能性があり、後者では、感染部位に応じて、子宮頸部、外陰部、膣、陰茎、肛門、口、または喉のがんのリスクが高まる。HPV遺伝子型16、18、31、52、53、および58は高リスクHPV遺伝子型であり、がんのリスクに関連する株であることを意味する。したがって、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗原は、高リスク遺伝子型に由来するHPV抗原、例えば、E1、E2、E4、E5、E6及び/又はE7タンパク質、好ましくは、1つ以上の高リスクHPV遺伝子型にわたって保存されているE1、E2、E4、E5、E6及び/又はE7タンパク質に対応する少なくとも1つの抗原である。適切な抗原がWO2019/034887に記載されており、1つ以上のHPV遺伝子型(すなわち、株)にわたって保存されている複数のペプチド配列から構成されるポリペプチドをコードする核酸が記載されている。他の適切な抗原としては、Finnen et al.(2003)Interactions between Papillomavirus L1 and L2 Capsid Proteins,Journal of Virology,4818~4826ページに記載のように、L1および/またはL2カプシドタンパク質由来の抗原が挙げられる。一実施形態では、HPV抗原は、配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号4のアミノ酸1~140を含み、例えば、ここで、HPV抗原は、配列番号3の核酸配列のヌクレオチド19~477によってコードされる。
【0024】
いくつかの実施形態では、ウイルス抗原はコロナウイルス抗原である。コロナウイルス感染は、重症急性呼吸器症候群(SARS)およびコロナウイルス感染症2019(COVID-19)などの症状の出現を引き起こし得る。いくつかの実施形態では、エピトープの選択は、MHC対立遺伝子にわたる可能性の高い提示に基づいて、相同SARSタンパク質と、Fast et al.(2020)Potential T-cell and B-cell Epitopes of 2019-nCoV,bioRxiv preprint,doi:https://doi.org/10.1101/2020.02.19.955484によって特定された上位に予測されるBおよびT細胞エピトープとの比較に基づいている。さらなる適切なエピトープが、Li et al.(2020)Epitope-based peptide vaccines predicted against novel coronavirus disease caused by SARS-CoV-2,Virus Research,https://doi.org/10.1016/j.virusres.2020.198082に記載されている。
【0025】
細菌抗原の例には、クロストリジウム属細菌抗原、例えば、クロストリジウム・ディフィシル(クロストリディオイデス・デフィシルに改名)トキシンAおよびB;百日咳菌抗原、例えば百日咳毒素;ジフテリア菌抗原、例えばジフテリア毒素もしくはジフテリアトキソイドエリテマトーシス(erythematosis)、および他のジフテリア菌抗原成分;破傷風菌抗原、例えば破傷風毒素もしくは破傷風トキソイドおよび他の細菌抗原成分;連鎖球菌抗原、例えばMタンパク質および他の連鎖球菌抗原成分;グラム陰性桿菌抗原、結核菌抗原、例えば、熱ショックタンパク質65(HSP65)、30kDa主要分泌タンパク質、抗原85Aおよび他のマイコバクテリア抗原成分;コレラ菌抗原、例えば、コレラ毒素Bサブユニット(CtxB);ヘリコバクター・ピロリ菌抗原成分;肺炎球菌抗原、例えば、ニューモリシン、肺炎球菌抗原成分;インフルエンザ菌抗原、例えばインフルエンザ菌抗原成分;炭疽菌抗原、例えば、炭疽菌防御抗原および他の炭疽菌抗原成分;リケッチア属細菌抗原、例えば、rompAおよび他のリケッチア属細菌抗原成分;またはウシ型結核菌抗原;またはブルセラ菌抗原が含まれる。また、本明細書に記載の細菌抗原には、いずれの他の細菌、マイコバクテリア、マイコプラズマ、リッケチア、またはクラミジア抗原も含まれる。慢性持続感染症を引き起こす細菌の抗原、例えば、結核菌、ボレリア・ブルグドルフェリなどのボレリア種、コリネバクテリウム・ジフテリエ、クラミジア、コレラ菌、チフス菌;マイコプラズマの抗原が好ましい場合がある。
【0026】
いくつかの実施形態では、細菌抗原はコレラ菌抗原である。コレラ菌は下痢原性腸内病原菌であり、コレラの病原体である。適切なコレラ菌抗原には、コレラ菌に付随するかまたはコレラ菌によって分泌される、ペプチドまたはタンパク質が含まれる。コレラ菌の感染中、この細菌はコレラ毒素、すなわち、Aサブユニット(CtxA)の1つのコピーとBサブユニット(CtxB)の5つのコピーからなるヘテロポリマーのホロ毒素を分泌する。CtxAサブユニットは、GTP結合調節タンパク質であるGsαのADPリボシル化を触媒し、アデニル酸シクラーゼを活性化する。これはcAMPの過剰産生を引き起こし、最終的には塩化物および炭酸水素塩、続いて水の過剰分泌を引き起こし、特徴的なコレラ便を引き起こす。CtxBサブユニットは五量体環を形成しており、Bサブユニットの五量体環は、腸上皮細胞の表面に存在するGM1ガングリオシドに結合することによって、Aサブユニットをその標的に導く。それにより、5つのGM1ガングリオシドを結合できる。それ自体には有毒な活性はない。したがって、一実施形態では、コレラ菌抗原はCtxBである。いくつかの実施形態では、コレラ菌抗原は、配列番号21または配列番号21のアミノ酸1~104に、配列番号24、および/または配列番号25よってコードされるアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列;または、配列番号20のヌクレオチド270~581によってコードされるアミノ酸配列を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、感染性病原体は粘膜部位を介して宿主に感染する(すなわち、粘膜感染性病原体である)。粘膜感染症には下記の病原体が関与し得る:コレラ菌、SARS-CoV-2、A型およびB型インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ネズミチフス菌、アデノウイルス、RSウイルス、肺炎球菌、結核菌、ヘリコバクター・ピロリ、毒素原性大腸菌(ETEC)、赤痢菌、クロストリジウム(ディフィシル/パーフリンジェンス)、梅毒、狂犬病ウイルス、カンピロバクター・ジェジュニ、淋病、単純ヘルペスウイルス2型、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B/C型肝炎、HIV、ウシパラインフルエンザ3型ウイルス、ウシRSウイルス、気管支敗血症菌、イヌパラインフルエンザウイルス、およびニューカッスル病ウイルス。感染病原体に関連する感染性疾患は、部位に基づいて分類されうる。例えば、感染性病原体は、気道に関連するSARS-CoV-2、季節性インフルエンザ、RSV-ALRI、肺炎球菌、結核菌;胃腸管に関連するロタウイルス、ヘリコバクター・ピロリ、毒素原性大腸菌(ETEC)、サルモネラ菌、赤癬菌、またはクロストリジウム(ディフィシルまたはパーフリンジェンス);または、尿生殖路に関連する梅毒、淋病、単純ヘルペスウイルス2型、HPV、B型肝炎、C型肝炎、またはHIVでありうる。
【0028】
用いることができる真菌抗原としては、限定はされないが、カンジダ真菌抗原成分;ヒストプラズマ真菌抗原、球状体抗原(spherule antigen)などのコクシジオイデス真菌抗原および他のコクシジオデス抗原;クリプトコッカス真菌抗原、および他の真菌抗原が挙げられる。
【0029】
原虫抗原および他の寄生虫抗原の例としては、熱帯熱マラリア原虫などのマラリアを引き起こすマラリア原虫種由来の抗原;トキソプラズマ抗原;住血吸虫抗原;森林熱帯型リーシュマニアおよび他のリーシュマニア抗原;およびトリパノソーマ抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
がん抗原または腫瘍抗原を用いてもよく、これらは、腫瘍関連抗原(例えば、過剰発現タンパク質、分化抗原またはがん/精巣抗原)として、または腫瘍特異的抗原(例えば、オンコウイルス抗原、共通ネオアンチゲンまたはプライベートネオアンチゲン)として分類されうる。例えば、がん/精巣抗原(がん/生殖系列抗原とも呼ばれる)は、通常、免疫特権を持つ生殖系列細胞(例えば、MAGE-A1、MAGE-A3、およびNY-ESO-1)でのみ発現し;分化抗原とは、成人組織では通常発現されない細胞系列分化抗原(例えば、チロシナーゼ、gp100、MART-1、前立腺特異抗原(PSA))を指し;ならびに過剰発現抗原とは、単に、健常なレベルまたは正常なレベルを超えてがん細胞で発現される抗原を指す(例えば、hTERT,HER2、メソテリン、およびMUC-1)(Hollingsworth & Jansen(2019),npj Vaccines,4(7))。
【0031】
したがって、がん抗原または腫瘍抗原として、限定はされないが、K-Ras、サバイビン、ジストログリカン、KS[1/4]凡がん抗原(pan-carcinoma antigen)、卵巣がん抗原(CA125)、前立腺性酸性フォスファターゼ、PSA、メラノーマ関連抗原p97、メラノーマ抗原gp75、高分子量メラノーマ抗原(HMW-MAA)、前立腺特異的膜抗原、癌胎児性抗原(CEA)、多形上皮ムチン抗原、ヒト乳脂肪球抗原(human milk fat globule antigen)、結腸直腸腫瘍関連抗原、例えば:CEA、TAG-72、CO17-1A;GICA19-9、CTA-1およびLEA、バーキットリンパ腫抗原-38.13、CD19、ヒトB細胞リンパ腫抗原-CD20、CD33、メラノーマ特異的抗原、例えば、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGD3、ガングリオシドGM2、およびガングリオシドGM3、腫瘍特異的移植型細胞表面抗原(tumour-specific transplantation type of cell-surface antigen)(TSTA)、例えばDNA型腫瘍ウイルスのT抗原(T-antigen DNA tumour viruses)およびRNA型腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原を含むウイルス誘導腫瘍抗原、がん胎児性抗原-αフェトプロテイン、例えば結腸のCEA、膀胱腫瘍がん胎児性抗原、分化抗原、例えば、ヒト肺がん抗原L6、L20、線維肉腫の抗原、ヒト白血病T細胞抗原-Gp37、ネオ糖タンパク質、スフィンゴ脂質、EGFRなどの乳がん抗原、EGFRvIII、FABP7、ダブルコルチン、ブレビカン、HER2抗原、多形上皮ムチン(PEM)、悪性ヒトリンパ球抗原-APO-1、胎児赤血球中に認められるI抗原などの分化抗原、初期内胚葉、成人赤血球中に認められるI抗原、着床前胚、胃線がんに認められるI(Ma)、M18、乳房上皮に認められるM39、骨髄系細胞に認められるSSEA-1、VEP8、VEP9、Myl、VIM-D5、結腸直腸がんに認められるD156-22、TRA-1-85(血液型H)、結腸線がんに認められるC14、肺線がんに認められるF3、胃がんに認められるAH6、Yハプテン、胚性癌腫細胞に認められるLey、TL5(血液型A)、A431細胞に認められるEGF受容体、膵がんに認められるE1シリーズ(血液型B)、胚性癌腫細胞に認められるFC10.2、胃線がん抗原、線がんに認められるCO-514、線がんに認められるNS-10、CO-43、A431細胞のEGF受容体に認められるG49、結腸線がんに認められるMH2、結腸がんに認められる19.9、胃がんムチン、骨髄系細胞に認められるT5A7、メラノーマに認められるR24、胚性癌腫細胞に認められる4.2、GD3、D1.1、OFA-1、GM2、OFA-2、GD2、およびM1:22:25:8、4~8細胞段階の胚に認められるSSEA-3およびSSEA-4、皮膚T細胞リンパ腫由来のT細胞受容体由来ペプチド、癌に認められる線維芽細胞活性化タンパク質α(FAP)、ならびにそれらの変異体が挙げられうる。
【0032】
いくつかの実施形態では、がん抗原または腫瘍抗原は、K-Ras、PSAまたはサバイビンの、多抗原融合ポリペプチドまたは組換えオーバーラップペプチド(ROP)である。
【0033】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗原は1つ以上のT細胞抗原セグメントおよび/または1つ以上のB細胞抗原セグメントを含む。抗原セグメントは抗原の一部であり、抗原はエピトープを含む。典型的には、抗原セグメントはエピトープを含む。T細胞抗原セグメントは、CD4T細胞抗原セグメントまたはCD8T細胞抗原セグメントであってよい。CD4T細胞抗原セグメントは、MHCIIに関連してCD4T細胞に提示され得るエピトープを含む抗原またはその一部である。CD8T細胞抗原セグメントは、MHCIに関連してCD8T細胞に提示され得るエピトープを含む抗原またはその一部である。異なる抗原セグメントは、異なる抗原または同じ抗原に提供され得る。複数の抗原またはその一部/断片を使用してもよい。適切には、抗原セグメントは、B細胞エピトープまたはT細胞エピトープを含む、またはそれらから構成される断片などの抗原の断片の形態である。これは、天然抗原が特に大きい場合に都合が良い。ポリペプチドエピトープは、より大きな分子に関連して提供される場合、抗原提示細胞(APC)におけるより大きな分子からのエピトープの切断を促進するために、切断部位に隣接して提供されてよい。これは、CD8T細胞エピトープとの関連において、APCのエンドリソソーム区画からのエピトープの退出と、MHCIへのロードのためのサイトゾルへの侵入を促進するために特に有用である。あるいは、CD8T細胞エピトープは、約70未満のアミノ酸、例えば60未満、50未満、40未満のアミノ酸の抗原断片として提供されてもよい。
【0034】
適切には、抗原は、2個以上の抗原セグメント、例えば、3個以上、5個以上、または10個以上の抗原セグメントを含む多抗原融合ポリペプチドであり、任意に、≦200個、好ましくは≦100個、より好ましくは≦50個の抗原セグメントを上限とする。「多抗原融合ポリペプチド」とは、エピトープなどの抗原セグメントを含むポリペプチドであって、抗原セグメントが直接連結されて人工ポリペプチドを形成するか、または適切な連結配列によって分離されて連結されて人工ポリペプチドを形成する、ポリペプチドを意味し;これは、ポリエピトープ、人工ポリエピトープ、またはモザイクポリエピトープと呼ばれる場合がある。これにより、抗原内の抗原セグメント間に生じる介在配列は、多抗原融合ポリペプチドにおいて回避されうる。各抗原セグメントは、同一または異なる抗原からのものであってよい。EP3235831に記載のとおり、抗原セグメントまたはエピトープ、とりわけ、CD8T細胞抗原セグメントまたはエピトープの、多抗原融合ポリペプチドからの切断を促進するために、適切な連結配列を含んでよい。多抗原融合ポリペプチドは、少なくとも1つのCD4T細胞抗原セグメントおよび少なくとも1つのCD8T細胞抗原セグメントを含む。
【0035】
多抗原融合ポリペプチド中の抗原セグメントは、それらが由来する抗原において部分的に重複するポリペプチド配列に適切に由来し得る。2個の抗原セグメントが部分的に重複する場合、第一の抗原セグメントは第二の抗原セグメントと共有されないN末端配列を有し、第二の抗原セグメントは第一の抗原セグメントと共有されないC末端配列を有し、2つの抗原セグメントは共通の配列を共有するであろう。例えば、1個の抗原は、当該抗原の全配列を完全に含むオーバーラップペプチドに分割されうる。複数の抗原が存在する場合、それぞれがオーバーラップペプチドとして存在してもよい。
【0036】
用語「オーバーラップペプチド」は、EP3235831に記載されているような組換えオーバーラップペプチド(ROP)を包含する。「オーバーラップペプチド」および「ROP」とは、抗原が、部分的に重複する2個以上の抗原セグメント配列、すなわちペプチド配列を含む、上記で定義される多抗原融合ポリペプチド(本明細書では多抗原融合タンパク質とも称する)であることを意味する。適切には、多抗原融合タンパク質中の抗原セグメントは、部分的に重複しており、組み合わせにより、それらが由来する抗原のアミノ酸配列の≧40%、≧50%、≧60%、≧70%、≧80%、≧90%、より好ましくは100%を包含している。すなわち、第一のポリペプチドは第二のポリペプチドと部分的に重なり、第二のポリペプチドは第三のポリペプチドと部分的に重なるなどであってもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、オーバーラップペプチドを含む多抗原融合タンパク質は、≧3個、好ましくは≧5個、より好ましくは≧10個の抗原セグメントを含んでいてもよく;任意で、≦200個、好ましくは≦100個、より好ましくは≦50個の抗原セグメントを上限とする。例えば、ROPは10個の抗原セグメントを含んでいてもよく、全てのセグメントを合わせると、抗原全体のアミノ酸配列の100%を構成する。多抗原融合タンパク質中の全ての抗原セグメントは、必ずエピトープを含むことが理解されるであろう。
【0038】
いくつかの実施形態では、各抗原セグメントは、少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ)のCD8エピトープ;少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ)のCD4エピトープ;および/または少なくとも1つ(少なくとも2つなど)のB細胞エピトープを含む。いくつかの実施形態では、各抗原セグメントは、CD8エピトープおよびCD4エピトープとして同時に機能する少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ)のアミノ酸配列を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、各抗原セグメントは、8~50アミノ酸長、好ましくは10~40アミノ酸長、より好ましくは15~35アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、各抗原セグメントは、抗原セグメント間に位置する切断部位の配列を含んでもよい。例えば、切断部位の配列は、カテプシンの切断部位を含んでもよい。いくつかの実施形態では、切断部位は、カテプシンSの切断部位(LuetznerおよびKalbacher,2008,J.Biol.Chem.,283(52):36185-36194でさらに説明されている)(例えば、Leu-Arg-Met-Lys(配列番号26)または同様の切断部位)、カテプシンBの切断部位(例えば、Met-Lys-Arg-Leu(配列番号27)または同様の切断部位)、カテプシンKの切断部位(例えば、His-Pro-Gly-Gly(配列番号28)または同様の制限部位)、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、カテプシンSの切断部位は、X-Val/Met-X↓Val/Leu-X-疎水性アミノ酸、Arg-Cys-Gly↓、-Leu、Thr-Val-Gly↓、-Leu、Thr-Val-Gln↓、-Leu、X-Asn-Leu-Arg↓(配列番号29)、X-Pro-Leu-Arg↓(配列番号30)、X-Ile-Val-Gln↓(配列番号31)およびX-Arg-Met-Lys↓(配列番号32)からなる群から選択され;ここで、各Xは独立して、任意の天然アミノ酸であり、↓は切断位置を意味する。いくつかの実施形態では、各抗原セグメントは、上記の切断部位の配列を介して人工多抗原融合タンパク質中で直接接続される。いくつかの実施形態では、各抗原セグメントを接続するために使用される切断部位の配列は、同一であるかまたは異なっている。いくつかの実施形態では、切断部位の配列は各抗原セグメントに含まれないか;あるいは、切断部位の配列は抗原セグメントに含まれているが、抗原セグメントが消化された後に形成される少なくとも1つの切断生成物(または切断生成物の一部または全部)は、依然としてCD8エピトープまたはCD4エピトープである。
【0040】
いくつかの実施形態では、多抗原融合タンパク質(適宜、オーバーラップペプチドを含む)は、さらに:
(a)標識配列(例えば、検出のためのFLAG);
(b)膜透過性配列(例えば、細胞膜透過性ペプチド(CPP))
(c)カテプシン切断部位(例えば、LRMK(配列番号33));および/または
(d)細胞壊死誘導因子配列
からなる群から選択される1つ以上の任意の要素の配列を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、人工多抗原融合タンパク質は、100~2000アミノ酸長、好ましくは150~1500アミノ酸長、より好ましくは200~1000アミノ酸長または300~800アミノ酸長である。
【0042】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、式I:
Y-(A-C)n-Z (I)
の構造で示される。
式中、
Aは抗原セグメントであり;
Cはカテプシンの切断部位の配列であり;
nは≧3の正の整数であり;
Yは存在しないか、あるいは、“Y0-B”(ここで、Y0はアジュバント要素配列、細胞壊死誘導要素配列、またはそれらの組み合わせであり、Bは存在しないか、または切断部位の配列である)で示される配列であり;
Zは存在しないか、あるいはアジュバント要素配列、細胞壊死誘導要素配列、またはそれらの組み合わせであり;
ただし、Zが存在しない場合、最後の“A-C”中のCは存在しない可能性がある。
【0043】
いくつかの実施形態では、切断部位配列は、Cと異なる(すなわち、B≠C)。いくつかの実施形態では、切断部位配列は、Cと同一である(すなわち、B=C)。いくつかの実施形態では、nは、5~100の任意の整数であり、好ましくは6~50、より好ましくは7~30である。

細菌とその調製方法
【0044】
本発明の第1の態様の細菌はクロストリジウム綱の細菌である。クロストリジウムには、クロストリジウム目、ハラナエロビウム目(Halanaerobiales)、およびサーモアナエロバクター目(Thermoanaerobacteriales)が含まれる。クロストリジウム目には、クロストリジウム属を含むクロストリジウム科が含まれる。クロストリジウム属は、細菌の属の中で最大のものの1つである。この属は、偏性嫌気性菌であり、胞子を生成することができる、桿状のグラム陽性菌により定義される。
【0045】
好ましくはクロストリジウム目またはクロストリジウム属の種は、胞子を形成することができる。
【0046】
ある特定のクロストリジウム属の種は、毒素を産生するのでヒト疾患の原因となることが知られている(https://doi.org/10.1533/9781845696337.2.820)。これらには、クロストリディオイデス・デフィシル、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・ノービイ(C.novyi)およびクロストリジウム・パーフリンジェンスが含まれる。
【0047】
好ましくは、種は、病原性のクロストリジウム属の種ではない。それは、そのような病原性の種からの弱毒株であっても、そうでなくてもよい。
【0048】
いくつかのクロストリジウム属の種はヒト下部消化管に存在する。下部消化管で検出される主なクロストリジウムには、クロストリジウムのクラスターXIVa(クロストリジウム・コッコイデス群としても知られる)およびクロストリジウムのクラスターIV(クロストリジウム・レプタム群としても知られる)が含まれる(Lopetuso et al.Gut Pathogens 2013,5:23)。クロストリジウムのクラスターXIVaには、クロストリジウム、ユーバクテリウム、ルミノコッカス、コプロコッカス、ドレア(Dorea)、ラクノスピラ、ロゼブリア(Roseburia)およびブチリビブリオ属に属する種が含まれる。クロストリジウムのクラスターIVは、クロストリジウム、ユーバクテリウム、ルミノコッカス、およびアナエロフィルム(Anaerofilum)属で構成される。
【0049】
クロストリジウムのクラスターIには腸内微生物叢(https://doi.org/10.1016/j.nmni.2017.11.003)に存在する種が含まれる一方で、他の種は主に土壌および他のそのような環境的ニッチにおいて認められ、溶媒および酸の生産に有用な産業的シャーシ(chassis)の典型である(DOI:10.1016/j.anaerobe.2016.05.011)。クラスターIには:クロストリジウム・アセチカム(C.aceticum)、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・アエロトレランス、クロストリジウム・オートエタノゲナム(C.autoethanogenum)、クロストリジウム・バラチ(C.baratii)、クロストリジウム・ベイジェリンキー、クロストリジウム・ビファーメンタンス(C.bifermentans)、クロストリジウム・ボツリナム、クロストリジウム・ブチリカム、クロストリジウム・カダベリス(C.cadaveris)、クロストリジウム・セルロリティカム、クロストリジウム・セルロボランス、クロストリジウム・シャボイ(C.chauvoei)、クロストリジウム・クロストリジオフォルメ(C.clostridioforme)、クロストリジウム・コリカニス(C.colicanis)、クロストリジウム・ディフィシル(現在はクロストリディオイデス・デフィシルに改名)、クロストリジウム・ドラケイ(C.drakei)、クロストリジウム・エステルセティカム(C.estertheticum)、クロストリジウム・ファラックス(C.fallax)、クロストリジウム・フェセリ(C.feseri)、クロストリジウム・フォルミカセチカム(C.formicaceticum)、クロストリジウム・グリコリカム(C.glycolicum)、クロストリジウム・ヒストリチクム、クロストリジウム・イノキューム(C.innocuum)、クロストリジウム・クルイベリ(C.kluyveri)、クロストリジウム・リュングダーリー(C.ljungdahlii)、クロストリジウム・ラバレンス(C.lavalense)、クロストリジウム・マヨンベイ(C.mayombei)、クロストリジウム・メソオキシベンゾボランス(C.methoxybenzovorans)、クロストリジウム・ノービイ(C.novyi)、クロストリジウム・オエデマチエンス(C.oedematiens)、クロストリジウム・パラピュトリフィカム(C.paraputrificum)、クロストリジウム・パストゥリアヌム(C.pasteurianum)、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・フィトフェルメンタンス(C.phytofermentans)、クロストリジウム・ピリフォルメ(C.piliforme)、クロストリジウム・ラグスダレイ(C.ragsdalei)、クロストリジウム・ラモーサム(C.ramosum)、クロストリジウム・ロゼウム(C.roseum)、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(C.saccharoperbutylacetonicum)、クロストリジウム・スカトロゲネス(C.scatologenes)、クロストリジウム・セプティカム、クロストリジウム・ソルデリ、クロストリジウム・スポロゲネス(C.sporogenes)、クロストリジウム・スティックランディ、クロストリジウム・テルチウム、クロストリジウム・テタニ、クロストリジウム・サーモセラム、クロストリジウム・サーモサッカロリティクム(C.thermosaccharolyticum)、クロストリジウム・チロブチリカム、クロストリジウム・パプロソルベンス(C.paprosolvens)、クロストリジウム・サッカロブチリカム(C.saccharobutylicum)、クロストリジウム・カルボキシドボランス(C.carboxidovorans)、クロストリジウム・シンデンス(C.scindens)、およびクロストリジウム・オートエタノゲナム(C.autoethanogenum)が含まれる。ヒトの腸内で見られるクロストリジウムのクラスターIの種のうち、疾患に関連するものは少数だが、一般に大部分は健康と満足のいく生活状態に寄与すると考えられている。好ましくは、クラスターIから選択される細菌は、健康上の利益に関連する種である。これらの種には、クロストリジウム・スポロゲネス、クロストリジウム・シンデンス、およびクロストリジウム・ブチリカムが含まれる。
【0050】
好ましくは、細菌はクロストリジウム属のクラスターI、IVおよび/またはXIVaに由来する。
【0051】
好ましくは、細菌は、下部消化管、例えばヒトの下部消化管、で検出可能であるが、下部消化管、例えばヒトの下部消化管、における常在微生物叢の一部を永続的に生着または形成すると考えられていないか、あるいはそのような常在種からの弱毒株である。
【0052】
酪酸産生は、クロストリジウム亜門、および特にクロストリジウムのクラスターXIVaおよびIVに属する嫌気性細菌で広く認められる。酪酸産生種は、ヒトの結腸の常在菌であるクロストリジウム属の2つの優勢な科、ルミノコッカス科とラクノスピラ科の中に見出される。https://doi.org/10.1111/1462-2920.13589。ラクノスピラ科には、ユーバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)、ローズブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)、ローズブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)、ユーバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)、アナエロスティペス・ハドルス(Anaerostipes hadrus)、ルミノコッカス・トルキース(Ruminococcus torques)、コプロコッカス・オイタクツス(Coprococcus eutactus)、ブラウティア・オベウム(Blautia obeum)、ドレア・フォルミシゲネランス(Dorea formicigenerans)、コプロコッカス・カツス(Coprococcus catus)が含まれる。ルミノコッカス科には、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ、サブドリグラヌルム・バリアビレ(Subdoligranulum variabile)、ルミノコッカス・ブローミイ(Ruminococcus bromii)、ユーバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)が含まれる。
【0053】
好ましくは、細菌種は酪酸を産生する。ヒト下部消化管に永続的に生着すると考えられいない酪酸産生種にはクロストリジウム・ブチリカムが含まれる。
【0054】
好ましくは、種は、エレクトロポレーションまたは結合による形質転換などの遺伝子工学技術に適しており、典型的には非病原性株である。既知の形質転換可能な株としては、クロストリジウム・アセトブチリカム、クロストリジウム・ベイジェリンキー(C.beijerinckii)、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムおよびクロストリジウム・サッカロリティカム(C.saccharolyticum)を含む工業用溶媒株、ならびにクロストリジウム・ディフィシルを含む病原性種が挙げられる。
【0055】
好ましくは、種はクロストリジウム・ブチリカムである。適切な株には、(DSM10702/ATCC19398/NCTC7423)としても言及される「Rowett」株が含まれる。
【0056】
いくつかの実施形態では、クロストリジウム菌は、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生することができる。SCFAには乳酸、酢酸、酪酸が含まれており、T細胞の応答を強化すると考えられている。酪酸は、CD8T細胞を刺激し、そのエフェクター機能を高めることができ(Luu et al,2018,Scientific Reports,8:14430,and Trompette et al,2018,Immunity,48(5):992-1005)、また、高濃度の糞便中の酪酸は、固形がん腫瘍の患者におけるニボルマブまたはペムブロリズマブによる治療後の無増悪生存期間の延長と関連している(Nomura et al,2020,Oncology,3(4):e202895)。さらに、酪酸は活性化されたCD8T細胞の記憶能力を高め、抗原再遭遇時の最適なリコール応答には短鎖脂肪酸(SCFA)が必要であった(Bachem et al,2019,Immunity,51(2):285-297)。それ故に、クロストリジウムを含む微生物叢には、CD8T細胞の記憶細胞としての長期生存を促進する役割がある。SCFAの産生は、典型的には栄養細胞増殖中の、グルコースなどの炭水化物基質から酪酸などのSCFAへの代謝によって、すなわち嫌気性代謝によって、決定され得る。
【0057】
第1の態様による細菌は、本明細書に記載のとおり、抗原をコードする異種核酸分子を含む。すなわち、それは遺伝子改変細菌である。「異種核酸分子」とは、核酸分子が抗原をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)などの1つ以上の非ネイティブ配列を含むことを意味するが、代わりに、嫌気性細胞増殖中にネイティブ抗原の遺伝子発現レベルの増加を促進するように、非ネイティブ制御配列の制御下でネイティブ抗原コード配列を提供できることも考えられる。異種核酸分子は、遺伝子、すなわち遺伝子の転写を開始させるプロモーターに操作可能に連結されたORFを含む。当技術分野で公知のように、他の制御配列も存在してよい(Minton et al.(2016)A roadmap for gene system development in Clostridium,Anaerobe,41:104-112)。異種核酸分子は、非ネイティブ遺伝子を含みうる。用語「非ネイティブ遺伝子」は、その自然環境にはない遺伝子を指し、微生物のある種からの遺伝子であって、同じ属の別の種に導入された遺伝子を含む。本明細書で用いる場合、用語「カセット」には、本明細書に記載のいずれの異種核酸分子が含まれ、適宜、異種核酸分子は、抗原をコードするORF;プロモーターに操作可能に連結されたORF;他の制御配列;非ネイティブ遺伝子;またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つ以上の非ネイティブ配列を含む。異種核酸分子は、クロストリジウムに対してコドン最適化されていてもよい。
【0058】
プロモーターは、無酸素条件下での胞子発芽後のような嫌気性細胞増殖中、および/または嫌気性栄養細胞代謝中の、抗原の発現を可能にするように選択される。「嫌気性細胞増殖」とは、クロストリジウム菌が胞子ではなく細胞の形態であり、栄養増殖、すなわち細胞分裂ができることを意味する。クロストリジウム菌は嫌気性条件下でのみ増殖することができる。増殖は、コロニー形成単位の増加によって認識されうる。嫌気性栄養細胞代謝は、利用可能な炭水化物源からの酪酸、酢酸、乳酸、またはそれらの組み合わせなどのSCFAの産生によって評価することができる。例えば、グルコースのような炭水化物基質などの発酵性基質を細菌に供給することができ、酪酸、酢酸、乳酸、またはそれらの組み合わせなどのSCFAの産生を測定して代謝を示すことができる。「嫌気性細胞増殖」および「嫌気性栄養細胞代謝」という表現は、互換的に使用されてよい。よって、プロモーターは、代謝的に活性な細胞または増殖中の細胞において活性となるように選択される。
【0059】
適切なプロモーターは細胞増殖中に活性であり、構成的プロモーターであってもよい。一次代謝に必須の遺伝子のプロモーターは、適切な構成的プロモーターでありうる。抗原の発現レベルは、強力なプロモーターなどの選択された強度を有するプロモーターを用いて遺伝子発現を制御することによって最適化され得る。適切には、ネイティブなクロストリジウムのプロモーターが用いられる。適切なプロモーターとしては、クロストリジウム・パーフリンジェンスのfdx遺伝子プロモーター(Takamizawa et al(2004)Protein Expression Purification 36:70-75);クロストリジウム・アセトブチリカムのptbおよびthlプロモーター(Tummala et al(1999)App.Environ.Microbiol.65:3793-3799)およびクロストリジウム・パーフリンジェンスのcpe プロモーター(Melville, Labbe and Sonenshein (1994) Infection and Immunity 62: 5550-5558)およびクロストリジウム・アセトブチリカム由来のチオラーゼプロモーター(Winzer et al(2000)J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2:531-541)が挙げられる。他の適切なプロモーターは、クロストリジウム・アセトブチリカムのhbd、crt、etfA、etfBおよびbcdプロモーター(Alsaker and Papoutsakis(2005)J Bacteriol 187:7103-7118)、およびp0957プロモーター;ならびに、pMTL80000モジュラーシャッフルプラスミド(Heap et al.(2009)A modular system for Clostridium shuttle plasmids,Journal of Microbiological Methods,78:79-85)から得ることができる、クロストリジウム・スポロゲネス由来のfdx プロモーター(NCIMB10696)であってよい。好ましくは、選択可能なマーカー遺伝子のプロモーターは、クロストリジウム・アセトブチリカムのthl遺伝子のプロモーター、クロストリジウム・パーフリンジェンスのfdx遺伝子プロモーター、またはクロストリジウム・スポロゲネスのfdx遺伝子プロモーターである。
【0060】
異種核酸分子は、当技術分野で公知の方法を使用してクロストリジウムに導入され得る。典型的には、異種核酸分子は単一コピーとしてゲノムに組み込まれるか、低コピーのプラスミド上に存在する。あるいは、異種核酸分子は高コピープラスミド上に存在してよい。高コピープラスミドは、例えば、SY,Mermelstein LD,Papoutsakis ET.Determination of plasmid copy number and stability in Clostridium acetobutylicum ATCC 824.FEMS Microbiol Lett.1993 Apr 15;108(3):319-23に記載の通り、約8~14、またはそれ以上のコピー数にて存在し得る。
【0061】
適切なプラスミドとしては、クロストリジウムによって安定に維持されるプラスミドが挙げられる。適切なプラスミドは、クロストリジウム内での複製を可能にするために、適切な複製起点および任意の必要な複製遺伝子を含む。プラスミドの形質転換は典型的には、クロストリジウムにおいて、結合または転換によって行われる。クロストリジウムにおける転換および結合の方法は、Davis,I,Carter,G,Young,M and Minton,NP(2005)“Gene Cloning in Clostridia”,In:Handbook on Clostridia(Durre P,ed)pages 37-52,CRC Press,Boca Raton,USAに記載されている。
【0062】
異種核酸分子は、WO 2010/084349およびMinton et al(2016)Anaerobe 41:104-112に記載されているアレル連結交換(Allele Coupled Exchange)(ACE);または、CRISPR遺伝子編集(Atmadjaja et al.(2019)CRISPR-Cas,a highly effective tool for genome editing in Clostridium saccharoperbutylacetonicum N1-4(HMT),FEMS Microbiol.Lett.366(6))によってなどの遺伝子組み込み技術を用いて、ゲノム、典型的にはクロストリジウムの染色体に組み込まれうる。アレル結合交換はいずれのクロストリジウム種の遺伝子改変に用いることができ、ウラシルに対して栄養要求性であってフルオロオロチン酸(FOA)に対して耐性のあるpyrE欠失変異体の最初の作製に依ると考えられている。これにより、FOAの存在下で、カウンター/ネガティブ選択マーカーとして異種pyrE対立遺伝子を用いた対立遺伝子交換によるDNA断片の挿入が可能となる。挿入部位の変更後、作製した株を、ACEを用いて迅速にウラシル原栄養性に戻してよく、それにより、pyrE堪能なバックグラウンドで変異体の表現型を特徴づけることができる。重要なことは、pyrE対立遺伝子の補正と同時にACEを用いて、不活性化された遺伝子の野生型コピーがゲノムに導入されうることである。pyrE欠失の最初の作製は、前述のMintonらに記載されているように特別な形態のACEによって、またはWO 2007/148091に記載されているように可動性グループIIイントロンを再標的化する手段によって行われる。CRISPR遺伝子編集はまた、大きなDNA断片の組み込みのためにクロストリジウムで広く応用されており、クロストリジウム・アセトブチリカム(Li et al.(2016)CRISPR‐based genome editing and expression control systems in Clostridium acetobutylicum and Clostridium beijerinckii.Biotechnol J.11:961-72)、クロストリジウム・ベイジェリンキー(Li et al.(2016)and Wang et al.(2015)Markerless chromosomal gene deletion in Clostridium beijerinckii using CRISPR/Cas9 system.J Biotechnol.200:1-5)、クロストリジウム・パストゥリアヌム(Pyne et al.(2016)Harnessing heterologous and endogenous CRISPR-Cas machineries for efficient markerless genome editing in Clostridium.Sci Rep.6:25666)、およびクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Wang et al.(2017)Genome editing in Clostridium saccharoperbutylacetonicum N1-4 using CRISPR-Cas9 system.Appl Environ Microbiol.83:e00233-17)を含む、多くのクロストリジウムの株で適用に成功している。
【0063】
異種核酸分子が、単一コピーとしてゲノムに組み込まれているか、あるいは低コピープラスミドに存在している場合、発現される抗原の量は、異種核酸分子が高コピー数プラスミド上に存在している場合よりも、典型的には少ないであろう。本発明者らは、異種核酸分子が単一コピーとしてゲノムに組み込まれている場合であっても、抗原特異的免疫応答が効果的に刺激され得ることを見出した。嫌気性細胞増殖中のクロストリジウムの細胞の細胞重量当たり発現される抗原の量は、典型的には、最大、50、100、150、200、250、300、350、400、500、600、700、800、900ng/mg、1μg/mg、1.5、2.0、2.5、3.0、4.0、5.0、10または20μg/mg乾燥細胞重量までの範囲であってよい(ただし、0ng/mg乾燥細胞重量を超え、典型的には10ng/mg、20ng/mgまたは40ng/mgを超える)。これらのうちのいずれか2つ値の間の任意の範囲が想定される。例えば、嫌気性細胞増殖中のクロストリジウムの細胞の細胞重量当たり発現される抗原の量は、10~400ng/mg乾燥細胞重量;20~200ng/mg乾燥細胞重量;40~100ng/mg乾燥細胞重量;100ng~5μg/mg乾燥細胞重量;200ng~2.5μg/mg乾燥細胞重量;400~1500ng/mg乾燥細胞重量;または約800ng/mg乾燥細胞重量であってよいか;あるいは、1~5μg/mg乾燥細胞重量、2~4μg/mg乾燥細胞重量、例えば、約3μg/mg乾燥細胞重量;またはいずれの他の組み合わせであってよい。その量は、クロストリジウムの細胞を培養し、FLAGなどの検出タグを典型的に含む抗原を抽出し、ELISAもしくはウェスタンブロッティングなどの検出手段で定量することにより、決定され得る。Sigmaから入手可能なFLAG-タグ標準物質などのタンパク質標準物質をそのようなアッセイで用いて、検量線を作成してよい。実施例1では、FLAG-ROPはかろうじて検出可能であった(OD1.0まで培養した細胞の比体積で<25ngに相当する)。OD1.0の細胞密度を0.3g/Lとして、その培養量の菌の乾燥重量を推定すると、<80ng/mg乾燥細胞重量に相当する。産生される抗原の量は、プロモーターの強度、細胞あたりの異種核酸分子のコピー数などに応じて変化し得る。
【0064】
実施形態のいずれかにおいて、細菌細胞は、抗原と同時発現することができる免疫賦活剤またはアジュバントをコードするさらなる異種核酸分子を含みうる。典型的な免疫賦活剤は、ポリペプチド、例えば、IL-12、IL-18もしくはGM-CSF、IFN-γ、IL-2、IL-15などのサイトカインであってよい。例えば、HPV16およびHPV18 E6/E7抗原は臨床試験でIL-12と併用されている(Hasan et al.(2020)A Phase 1 Trial Assessing the Safety and Tolerability of a Therapeutic DNA Vaccination Against HPV16 and HPV18 E6/E7 Oncogenes After Chemoradiation for Cervical Cancer,Int J Radiat Oncol Biol Phys.107(3):487-498)。よって、任意のHPV抗原と併用するのに適した免疫賦活剤はIL-12である。
【0065】
本発明の対応する態様は、少なくとも1つの異種核酸分子を細菌に導入することを含む、第1の態様に記載の細菌を調製する方法を提供する。

医薬組成物および調製方法
【0066】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の細菌を含有する医薬組成物である。
【0067】
本発明の対応する態様は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤または賦形剤とともに細菌を製剤化するステップを含む、第2の態様に記載の医薬組成物を調製する方法を提供する。
【0068】
細菌は単独で投与することも可能であるが、医薬組成物中に存在させることが好ましい。本発明は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、賦形剤、または治療および/または予防成分(アジュバントなど)のようなさらなる成分を含有する医薬組成物を含む。本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物の製剤化に有用であることが当業者に公知の任意の公知の化合物または既知の化合物の組み合わせをいう。担体は1つ以上の賦形剤または希釈剤を含むことができる。
【0069】
クロストリジウムは、細菌の増殖に適した条件下で行われる発酵によって調製することができる。発酵後、細菌は遠心分離を使用して精製され、活性を保持するように調製され得る。組成物中の細菌は、生存可能な有機体として提供される。組成物は細菌胞子および/または栄養細胞を含有することができる。細菌を乾燥させることで、細菌の活動性を保持することができる。適切な乾燥方法には、凍結乾燥、噴霧乾燥、加熱乾燥、およびそれらの組み合わせが含まれる。その後、得られた粉末を、本明細書に記載されているように、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と混合することができる。
【0070】
胞子および/または栄養型の細菌を、本明細書に記載されるように、経口投与用の有用な賦形剤および成分とともに製剤化してよい。特に、医薬品および栄養補助食品業界で慣用されている脂肪成分および/または水性成分、湿潤剤、増粘剤、保存剤、テクスチャー剤、風味増強剤および/またはコーティング剤、酸化防止剤、保存剤、ならびに/あるいは染料。適切な薬学的に許容される担体としては、結晶セルロース、セロビオース、マンニトール、グルコース、スクロース、ラクトース、ポリビニルピロリドン、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびデンプン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。次いで、細菌は、本明細書に記載されるように、適切な経口摂取可能な形態に製剤化され得る。適切な経口摂取可能な形態の生菌は、医薬品業界で周知の方法によって調製され得る。適切な医薬担体、賦形剤および製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy 22nd Edition,The Pharmaceutical Press,London,Philadelphia,2013に記載されている。
【0071】
本発明の医薬組成物は、単位容量の形態などの剤形に入れることができる。医薬組成物には、経口または直腸内投与に適したものが含まれる。本発明の組成物は、1回投与してもよく、または治療計画の一部として連続的に投与してもよい。好ましくは、投与は、都合のよい投与計画を用いた経口投与である。
【0072】
適切な経口剤形としては、錠剤、カプセル、粉末(例えば、小袋入り粉末)および液体が挙げられる。細菌が経口投与用である場合、それは適切には、胞子の形態で;または遅延放出医薬組成物中の栄養細胞の形態で提供される。
【0073】
本発明の医薬組成物は、坐剤および注腸製剤を含む直腸内投与用に製剤化することもできる。坐剤の場合、脂肪酸グリセリドまたはココアバターの混合物などの低融点ワックスが最初に溶解され、活性成分が、例えば撹拌することによって均一に分散される。次いで、溶解した均質な混合物を好都合な大きさの型に注ぎ、冷却して固化させる。注腸製剤は、当業者に公知である、ゲルもしくは軟膏を含む半固体、または懸濁液、水溶液もしくは泡を含む液体形態であり得る。
【0074】
本発明の医薬組成物は、有効量の細菌が腸の嫌気性部分に送達されるように投与される。「有効量の細菌」とは、細菌が、抗原に対する適切な免疫応答を誘導するか;または病気を予防、寛解、もしくは治療するのに有効な量の抗原の送達をもたらすという意味を含む。例えば、CTL応答が適切である可能性があるウイルス感染の場合、抗原は、その抗原に対するCD8CTL応答を誘導するのに有効な量であろう。
【0075】
適切には、細菌は、医薬組成物中において、乾燥組成物の1×10~1×1011コロニー形成単位/g(CFU/g)に相当する量で存在することができる。適切には、細菌は、単位剤形あたり1×10~1×1010CFU、好ましくは単位剤形あたり約1×10~1×10CFU、例えば単位剤形あたり約1×10CFUの量で存在してもよい。
【0076】
医薬組成物には、アジュバントまたは免疫賦活分子、特に遅延放出用に製剤化された医薬組成物が含まれうる。しかしながら、アジュバントが必要とされない場合があるか、または抗原が従来のポリペプチド抗原ワクチン製剤で提供された場合に必要とされうる量よりも少ない量でのみ必要とされる場合があるか、あるいは、毒性の低いアジュバントのみが必要とされる場合があると想定される。したがって、アジュバントを含まない医薬組成物が、ミョウバンなどのヒトでの使用に適したアジュバントのみを含む医薬組成物と同様に、想定される。
【0077】
アジュバントは、医薬組成物への混合により、抗原に対する免疫応答を増加させるか、さもなければ変更するいずれの物質である。アジュバントとして、AlK(SO、AlNa(SO、AlNH(SO、シリカ、ミョウバン、AI(OH)、Ca3(PO、カオリン、炭素、水酸化アルミニウム、ムラミルジペプチド、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(thr-DMP)、N-アセチル-ノルムラミル(nornuramyl)-L-アラニル-D-イソグルタミン(CGP11687、nor-MDPとも称される)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’2’-ジパルミトイル-s-n-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ(hydroxphosphoryloxy))-エチルアミン(CGP19835A、MTP-PEとも称される)、2%スクアレン/Tween-80(R)エマルション中のRIBI(MPL+TDM+CWS)、リポ多糖およびその様々な誘導体(リピドAを含む)、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント、Merck社のアジュバント65、ポリヌクレオチド(例えば、ポリICおよびポリAU酸)、結核菌由来のwax D、コリネバクテリウム・パルバム、百日咳菌、およびブルセラ属の細菌で見出された物質、リポソームまたは他の脂肪乳剤、Titermax、ISCOMS、Quil A、ALUN(米国特許第58,767および5,554,372を参照)、リピドA誘導体、コレラ毒素誘導体、HSP誘導体、LPS誘導体、合成ペプチドマトリックスまたはGMDP、インターロイキン1、インターロイキン2、Montanide ISA-51、ならびにQS-21が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0078】
免疫応答を変更または刺激するために用いられうる追加のアジュバントまたは化合物としては、Toll様受容体(TLR)のリガンドが挙げられる。哺乳類において、TLRはDC上で発現する受容体のファミリーであり、微生物病原体に関連する分子パターンを認識して応答する。いくつかのTLRリガンドがワクチンアジュバントとして集中的に研究されている。細菌のリポ多糖(LPS)はTLR4リガンドであり、その解毒変異体モノホスホリルリピドA(MPL)はヒトでの使用が承認されているアジュバントである。TLR5は単球およびDC上で発現され、フラジェリンに応答し、一方でTLR9はCpGモチーフを含む細菌DNAを認識する。CpGモチーフを含むオリゴヌクレオチド(OLG)は、TLR9の強力なリガンドおよびアゴニストであり、そのアジュバント特性について集中的に研究されている。
【0079】
リンパ球制御特性の結果として有用であるサイトカインなど、免疫応答を刺激する他の剤(免疫賦活剤)を挙げることができる。適切なサイトカインとしては、インターロイキン-12(IL-12)、GM-CSF、またはIL-18が挙げられうる。
【0080】
本発明の医薬組成物は、栄養細胞または胞子などの生細胞を含有するカプセルとして製剤化することができ、ここで、カプセルは、経口投与後に下部消化管の嫌気性部分において、生細胞、典型的には栄養細胞を放出できるようにする遅延放出層またはコーティングを含む。「遅延放出」とは、細菌の放出が、投与後または服用後に一定期間遅れることを意味する(遅延はラグタイムとしても知られている)。この変更は、特別な製剤設計および/または製造方法によって達成される。その後の放出は、速放性剤形の放出と同様であり得る。
【0081】
遅延放出のための賦形剤および製剤は当技術分野で周知であり、特定の技術が市販されている。
【0082】
経口投与される薬剤の標的を結腸とするための戦略として、pH感応性ポリマーによるコーティング;時限放出システムの製剤;結腸の細菌によって特異的に分解される担体の利用;生体接着システム;および浸透圧制御ドラッグデリバリーシステムを含む、様々な方法が提案されている。微生物分解性ポリマー、特にアゾ架橋ポリマーが、結腸を標的とした薬剤のコーティングとして使用するために研究されてきた。
【0083】
アミロース、イヌリン、ペクチン、グアーガムなどの特定の植物多糖類は、胃腸管の酵素の存在下で影響を受けないため、結腸を標的としたドラッグデリバリーシステムの製剤化のために、薬剤のコーティングとして研究されている。さらに、植物多糖類と甲殻類抽出物(キトサンまたはその誘導体を含む)の組み合わせは、結腸送達システムの開発において興味深いものであることが証明されている。
【0084】
遅延放出製剤の賦形剤の例としては、水中で急速に膨潤し、その膨潤した構造内に大量の水を保持することができるヒドロゲルが挙げられる。ヒドロゲルの種類によって薬物放出パターンが異なるため、結腸送達を促進するためのヒドロゲルの利用が研究されている。例えば、高粘度のアクリル樹脂ゲルであるEudispert hvを用いてヒドロゲルが調製されており、これは直腸下部での長期間の滞留性に優れている。Eudragit(登録商標)ポリマー(エボニックインダストリーズ)は、胃耐性、pH制御による薬物放出、結腸送達、活性物質の保護、および活性物質からの保護を含む、様々な形態のコーティングを提供する。
【0085】
医薬組成物は、細菌および1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤および/または希釈剤を、当技術分野の技術を使用して遅延放出層またはコーティングでコーティングすることによって調製され得る。例えば、公知のプレスコーター(press coater)のいずれかを使用して圧縮することによってコーティングを形成してよい。別法として、医薬組成物を、造粒および凝集技術によって調製してよいか、あるいは噴霧乾燥法を使用して構築し、続いて乾燥させてもよい。
【0086】
コーティングの厚さは、前述の技法のいずれかを使用することによって正確に制御できる。当業者は、所望のラグタイム、および/またはラグタイム後に細菌が放出される所望の速度を得るための手段として、コーティング厚さを選択することができる。
【0087】
pH依存性システムは、ヒト消化管のpHが、胃(pHは約1~2であり得、消化中はpH4まで上昇する)から消化部位の小腸(pHは約6~7であり得る)を経て徐々に上昇し、回腸遠位部でさらに上昇するという一般に認められた見解を利用している。錠剤、カプセルまたはペレットをpH感応性ポリマーでコーティングすることにより、遅延放出がもたらされ、胃液から活性薬剤を保護する。
【0088】
本発明の医薬組成物は、第1の態様に記載の細菌を特定のpHでGI管に送達するように製剤化され得る。市販の賦形剤としては、胃腸管の特定の部位に細菌を送達するために使用できるEudragit(登録商標)ポリマーが挙げられる。例えば、十二指腸内のpHは約5.5を超える可能性がある。Eudragit(登録商標)L 100-55(粉末)、Eudragit(登録商標)L 30 D-55(水性分散液)、および/またはAcryl-EZE(登録商標)(Powder)を、例えば、Eudragit(登録商標)L 100-55に基づいた使用準備済みの腸溶コーティングとして、用いることができる。空腸内のpHは約6~約7である可能性があり、Eudragit(登録商標)L 100(粉末)および/またはEudragit(登録商標)L 12,5(有機溶液(Organic solution))を用いることができる。結腸への送達は約7.0を超えるpHにて達成され得るので、Eudragit(登録商標)S 100(粉末)、Eudragit(登録商標)S 12,5(有機溶液)、および/またはEudragit(登録商標)FS 30 D(水性分散液)を用いることができる。Eudragit(登録商標)FS 30 D製剤用に特別に設計されたPlasACRYL(商標)T20 流動化剤(glidant)と可塑剤のプレミックスを用いることもできる。
【0089】
適切には、本発明の医薬組成物は、第1の態様に記載の細菌を、好ましくは経口投与によって胃腸管に送達するように製剤化される。
【0090】
人間の胃腸管は、食道、胃、腸など、口から肛門まで伸びる消化に関わる構造で構成されている。胃腸管には、肝臓、胆道、膵臓などの副腺器官(accessory glandular organ)は含まれない。腸には小腸と大腸が含まれる。小腸には、十二指腸、空腸、回腸が含まれる。大腸には、盲腸、結腸、直腸、肛門が含まれる。上部消化管には、頬側口腔、咽頭、食道、胃、十二指腸が含まれる。下部消化管には、小腸(十二指腸より下)と大腸が含まれる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、第1の態様に記載の細菌を、胃腸管の内腔または粘膜表面、より好ましくは大腸の内腔または粘膜表面、より好ましくは結腸の内腔または粘膜表面に送達する。好ましくは、本発明の医薬組成物は、第1の態様に記載の細菌を、下部消化管の嫌気性部分、好ましくは結腸および/または末端小腸(末端回腸、「回腸終末部」とも呼ばれる)に送達する。
【0091】
Zheng,Kelly and Colgan,American Journal of Physiology-Cell Physiology 2015 309:6,C350-C360に概説されているように、ヒトの腸管内には急な酸素勾配が存在する。海抜ゼロでの呼吸可能な空気のPoは145mmHg付近(21%O付近)である。健康な肺胞の測定では、Poは100~110mmHgであることが明らかになっている。全く対照的に、健康な結腸の最も内腔側のPoは10mmHg(1.4%O)以下である。このような違いは、酸素源、局所代謝、および血流の解剖学的構形態の組み合わせを反映している。Poは腸粘膜下層から数兆個の嫌気性微生物が生息する内腔に向かって放射軸に沿って急激に低下する。
【0092】
細菌が胞子として経口的に送達される場合、細菌は胃腸管を通過して嫌気性部分に到達し、そこで発芽して増殖する。下部消化管の嫌気性部分には、回腸終末部および結腸が含まれる。上記のZhengの見解によれば、結腸は回腸終末部よりもPoが低い場合があるため、細菌の増殖は結腸内でより効率的である場合がある。胞子の発芽および嫌気性代謝または増殖を引き起こすのに必要なPoは、0~2%の範囲でありうる。
【0093】
ヒト結腸の体積(上行結腸、下行結腸、横行結腸の合計)は約600mlであり(Pritchard,S.E.et al.(2-14)Neurogastroenterol.Motil.26,124-130)、一方でマウスの腸全体の体積は約1mlである(McConnell,E.L.,Basit,A.W.& Murdan,S.(2008)J.Pharm.Pharmacol.60,63-70)。おおよその合計胃腸通過時間は、マウスでは約5~6時間であり(Padmanabhan,P.,et al.(2013)EJNMMI Res.3,60 and Kashyap,P.C.et al.(2013)Gastroenterology 144,967-977)、結腸通過時間はヒトでは23~40時間と推定されている(Degen,L.P.& Phillips,S.F.(1996)Gut 39,299-305およびWagener,S.,et al(2004)J.Pediatr.Surg.39,166-169-169)。ヒト腸内の通過時間はマウスよりも5倍長いため、結腸の体積が同じであれば、同じ濃度の抗原を得るために必要な胞子の数は少なくなる(例えば5分の1)。
【0094】
さらに、細菌はマウスの結腸よりも約5倍長くヒトの結腸に存在するため、細胞分裂の時間が長くなり(5倍)、結果として細胞数が増え、抗原の産生量が増加する。菌株CHN1の実験室での発酵に基づく倍加時間は、大腸菌と同様であり、大腸菌の腸内倍加時間は約3時間である(Myhrvold,C.,et al(2015)Nat.Commun.6,10039)。CHN1は腸内を通過する間に細胞が10回倍加する可能性があり、これは細胞数の3桁の増加に相当する。マウスでは、細胞数の10倍未満の増加に相当する細胞の約2回の倍加に足る時間しかない。マウスの腸と比較して、ヒトの腸に送達された各胞子からは約100倍の細胞が増殖する。腸の体積の違い、結腸通過時間、および腸内での細胞分裂を考慮すると、マウスとヒトにほぼ同じ用量が送達された場合、腸内腔内の抗原量はほぼ同じになる。
【0095】
上記では、ヒトの腸とネズミの腸との違いについて詳細に説明しているが、これは、当技術分野で公知のものに基づいて、他の宿主に容易に適応させることができる(例えば、細菌の送達を、意図する宿主、例えば、他の哺乳類または鳥類に適応させることができる)。
【0096】
空腹時に服用した医薬組成物は、服用後約5時間で上行結腸に到達すると考えられるが、実際の到達は胃の排出速度に大きく依存する。結腸内の薬物送達は、この領域を通過する速度に大きく影響される。健康な男性の場合、カプセルは平均して20~30時間で結腸を通過する。溶液および粒子は通常、近位結腸内に広範囲に広がり、多くの場合、大腸全体に分散する。
【0097】
本発明の医薬組成物は、胃腸管への時間制御された送達のために、すなわち、第1の態様に記載の細菌を送達することにより、投与後一定時間(ラグタイム)後に抗原をもたらすように、製剤化され得る。
【0098】
時間制御送達用の市販の賦形剤としては、Eudragit(登録商標)RL 30 D(水性分散液)およびEudragit(登録商標)RL 12,5(有機溶液)が挙げられる。これらの賦形剤は、不溶性、高透過性、pH非依存性の膨潤賦形剤であり、Eudragit(登録商標)RSと異なる比率で組み合わせることでカスタマイズされた放出プロファイルを提供できる。Eudragit(登録商標)RS 30 D(水性分散液)およびEudragit(登録商標)RS 12,5(有機溶液)は、不溶性、低透過性、pH依存性の膨潤賦形剤であり、Eudragit(登録商標)RLと異なる比率で組み合わせることでカスタマイズされた放出プロファイルを提供できる。Eudragit(登録商標)NE 30 D(水性分散液)、Eudragit(登録商標)NE 40 D(水性分散液)、およびEudragit(登録商標)NM 30 D(水性分散液)は、不溶性、低透過性、pH依存性の膨潤賦形剤であり、マトリックス形成剤であり得る。
【0099】
好ましくは、医薬組成物は、第1の態様に記載の細菌を、投与後(すなわち、経口投与後)約4時間で胃腸管に送達するように製剤化され得る。好ましくは、医薬組成物は、第1の態様による細菌を、投与後約4~48時間、好ましくは投与後約5~40時間、例えば投与後約5、10、15、20または24時間;好ましくは、投与後約5時間~10時間、5時間~15時間、5時間~20時間、あるいは約10時間~24時間、15時間~24時間、または20時間~24時間後で送達するように製剤化され得る。
【0100】
適切には、医薬組成物は食間または食事と一緒に投与するためのものである。
【0101】
腸の嫌気性部分に到達した際の本発明の第1の態様に記載の細菌の増殖は、便培養などの培養によって確認することができる。実験モデルでは、実験動物から得た胃腸管の一部から、細菌を培養することができる。腸の嫌気性部分に到達した際の本発明の第1の態様に記載の細菌の増殖は、例えば、細菌を認識する抗体を使用するなど、当業者に公知の免疫組織学的アプローチによっても確認することができる。
【0102】
抗原を産生する遺伝子改変嫌気性菌を、食品の一部として、すなわちヨーグルト、牛乳または豆乳の中に、あるいは栄養補助食品として、組み込むこともできる。このような食品および栄養補助食品は、食品および栄養補助食品業界で周知の方法によって調製され得る。
【0103】
組成物を、飼料添加物として動物用飼料製品に組み込むことができる。
【0104】
腸内における遺伝子改変細菌の増殖とコロニー形成の程度は、種と株の選択によって、および/または、細菌が増殖する特定の基質をプレバイオティクスとして、プロバイオティクスを含む同じ用量内もしくは別々に摂取される組成物として提供することによって、制御され得る。
【0105】
したがって、組成物はまた、投与されたプロバイオティクスの増殖を増強するために、プレバイオティクスをさらに含有するか、またはプレバイオティクスとともに投与するためのものであってもよい。プレバイオティクスは、本明細書に記載の細菌と連続的に、同時に、または別々に投与されうる。プレバイオティクスおよび細菌は、同時投与のために同じ組成物に一緒に製剤化され得る。あるいは、細菌およびプレバイオティクスを同時または連続投与用に別々に製剤化することもできる。
【0106】
プレバイオティクスは、腸内でのプロバイオティクスの増殖を促進する物質である。これらは腸内で細菌によって発酵される食品物質である。プレバイオティクスの添加は、腸内のプロバイオティクス株の増殖を促進できる培地を提供する。1つ以上の単糖、オリゴ糖、多糖、または細菌の増殖を促進する他のプレバイオティクスを使用してもよい。
【0107】
好ましくは、プレバイオティクスは、フルクトース、ガラクトース、マンノースを任意で含むオリゴ糖;食物繊維、特に可溶性繊維、大豆繊維;イヌリン;またはそれらの組み合わせからなる群から選択されてよい。好ましいプレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、イソマルトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆のオリゴ糖、グリコシルスクロース(GS)、ラクトスクロース(LS)、ラクツロース(LA)、パラチノースオリゴ糖(PAO)、マルトオリゴ糖、ペクチン、それらの加水分解物、またはそれらの組み合わせである。

医学的用途
【0108】
本発明の第3の態様は、医薬に使用するための第1の態様の細菌または第2の態様の医薬組成物を提供する。
【0109】
本発明の第4の態様は、対象において抗原特異的応答を生じさせるのに使用するためのクロストリジウム綱の細菌を提供し、ここで細菌は、抗原をコードする異種核酸分子を含み、かつ、嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において抗原を発現することができる。
【0110】
対応する態様は、クロストリジウム綱の細菌を投与することを含む、対象において抗原特異的免疫応答を生成する方法を提供し、ここで細菌は、抗原をコードする異種核酸分子を含み、かつ嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において抗原を発現することができる。
【0111】
本発明の第5の態様は、対象における疾患の治療的処置または予防的処置における使用のためのクロストリジウム綱の細菌であって、細菌は抗原をコードする異種核酸分子を含み、細菌は嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において前記抗原を発現することができ、抗原は感染病原体抗原であって疾患は感染病原体によって引き起こされる疾患であるか、または抗原は腫瘍抗原であって疾患はがんである、細菌を提供する。
【0112】
対応する態様は、クロストリジウム綱の細菌を投与するステップを含む、対象において疾患を予防するか、寛解させるか、または治療する方法であって、細菌は抗原をコードする異種核酸分子を含み、細菌は嫌気性細胞増殖中に細菌の細胞内区画において前記抗原を発現することができ、抗原は感染病原体抗原であって疾患は感染病原体によって引き起こされる疾患であるか、または抗原は腫瘍抗原であって疾患はがんである、方法を提供する。
【0113】
典型的には、本発明のこれらの態様のいずれにおいても、対象は哺乳類または鳥類であり、典型的には哺乳類、好ましくはヒトである。動物のワクチン接種に適した哺乳動物としては、ウシ、ヒツジ、もしくはヤギを含む有蹄動物などの農業用動物;またはウマ;またはネコもしくはイヌなどの飼育動物が挙げられる。適切な鳥類には、ニワトリまたは七面鳥が含まれる。典型的には、抗原が感染性病原体抗原である場合、対象は、感染病原体によって引き起こされる疾患に感受性のある種である。典型的には、抗原が腫瘍抗原である場合、対象は、その腫瘍抗原が腫瘍の特徴である種のものである。
【0114】
これらの用途にはワクチン接種が含まれる。ワクチン接種の適切な用量と投与スケジュール(例:初回用量および1回以上の追加接種用量)は、Vaccines:From concept to clinic,Paoletti and McInnes,eds,CRC Press,1999に記載されている。例えば、ワクチン接種は、1回の投与後に有効でありうるか、あるいは約3週間~6か月の間隔で1~3回の接種を行ってもよい。いくつかの実施形態では、本発明のワクチンがプライムワクチンまたはブースターワクチンのいずれかであって、それらの他方が異なるワクチンであるプライムブーストレジメンなど、異なるワクチンによるワクチン接種レジメンにおいて、ワクチン接種が提供されてもよい。2回以上の追加接種でありうる。典型的には、そのようなレジメンは同じ感染病原体または同じがんを対象とするものである。

抗原特異的免疫応答の生成における医学的用途
【0115】
第4の態様において、抗原は、腫瘍抗原または感染病原体抗原に限らず、本明細書で定義されるいずれの抗原であってよい。例えば、抗原は、人工配列(すなわち、自然界には存在しない人工的に設計された配列)を含んでいてもよい。
【0116】
「抗原特異的免疫応答」には、抗原特異的であるいずれの細胞性免疫応答または体液性免疫応答、すなわち、CD4T細胞応答、CD8T細胞応答、もしくはB細胞(抗体)応答などのT細胞応答が含まれる。
【0117】
典型的な免疫応答では、抗原が抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)に送達され、抗原特異的細胞傷害性CD8(CTL)および/またはヘルパーCD4Tリンパ球を刺激して誘発する。プロフェッショナルAPCとしても知られるDCが、微小環境中の抗原を採取し、細胞内で処理する(例えば、抗原が貪食された後)。DCが活性化されると(例えば、炎症シグナルに起因して)、DCはリンパ節に移動し、それによって適応免疫応答を活性化することができる。理論に縛られるわけではないが、クロストリジウム綱の細菌は、APC、特に腸のDC(粘膜DCなど)によって内部移行されうる。例えば、クロストリジウム綱の細菌を内部移行したことによって抗原を取り込んだ(例えば、貪食した)DCが、活性化され、リンパ節に移動し、前記抗原に対する特異性を有するT細胞を活性化し、及びその後B細胞を活性化し得る。APCは、クロストリジウム綱の細菌に加えて、アジュバント、リポ多糖(LPS)、炎症性サイトカインによってもたらされるような、さらに活性化シグナルにさらされる場合がある。
【0118】
T細胞は、ヒトではヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示される抗原ペプチドを認識するT細胞受容体を発現する。ヘルパーCD4T細胞は、細胞傷害性CD8T細胞を効果的に刺激して増幅し、B細胞が抗体を産生するのを助ける。CD4応答は、誘導/活性化されるCD4T細胞の種類によって分類され得る。例えば、CD4応答は、Tヘルパー(Th)1、Th2、および/またはTh17の応答でありうる。Th1、Th2およびTh17細胞は、当業者に公知である、マーカー(例えば、細胞表面マーカー)、サイトカイン分泌および/またはファンクショナルアッセイによって分類され得る。達成されるCD4応答(またはその組み合わせ)のタイプは、使用される抗原および/またはアジュバントもしくは他の免疫調節分子に依存してよく、これらは所望の結果に応じて選択されうる。例えば、蠕虫感染に対する防御には、Th2応答の方がTh1応答よりも適している。IFN-γ産生に関連することが多いTh1応答は、細胞内の寄生虫に対する防御に対してTh2応答よりも適している。Th1細胞はCD8キラーT細胞を刺激し、Th2細胞はB細胞を刺激し;Thl7細胞は炎症を促進する。
【0119】
CD8T細胞は、標的抗原を含む標的細胞を特異的に認識し、アポトーシスを誘導することができる。特異的CD8T細胞の活性化は、MHCクラスI分子(ヒトではHLA-I抗原)に効率的に提示される抗原に依存する。CD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、腫瘍細胞およびウイルスなどの細胞内感染病原体に感染した細胞を直接認識して破壊できるため、予防および治療用の細胞性免疫ワクチンによって標的とされる主な細胞タイプである。それ故に、腫瘍細胞抗原およびウイルスなどの細胞内感染病原体の抗原を標的とする目的では、これらの細胞は、細胞表面のMHCクラスI分子上に提示されるこれらの抗原を直接認識できるので、ウイルスなどの感染因子に対してCD8応答を開始するために有利であり得る。CTLは抗腫瘍応答にも関連している。
【0120】
CD4細胞のサブセットが局所微小環境にサイトカインを放出することによってCD8細胞の活性をサポートおよび/または増強する可能性があるため、CD4応答とCD8応答との組み合わせは有益である可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、T細胞応答の組み合わせが抗原によって誘導される。
【0121】
単一ペプチド抗原が免疫応答を刺激する効率は、MHC(またはヒトの場合はHLA)についてのその発現プロファイルに基づいて、対象および集団間で異なる場合がある。MHC/HLAハプロタイプは対象間で異なり、MHC/HLAの各ハプロタイプは結合することができ、それによって特定の種類のペプチド断片を提示する。例えば、同じ抗原について、第1の対象のMHC/HLAによって提示されるペプチド断片は、第2の対象のMHC/HLAによって提示されるものとは配列が異なる場合がある。これらのMHC/HLAサブタイプは、免疫応答を誘導する能力が異なる場合があり、その結果、特定の抗原に対する応答性について集団内で差異が生じる。すべての対象が必要な免疫応答を誘導するためにペプチドを適切に処理して提示できるわけではないため、これは単一ペプチドベースのワクチンの主要な欠点である。単一ペプチドワクチンのこの制限は、本明細書およびEP3235831A1に記載のROPを含む、上述のオーバーラップペプチドを含有するポリエピトープおよび/またはポリペプチドなどの多抗原融合タンパク質を使用することによって克服することができる。ROPは、CD4およびCD8T細胞応答を同時に誘導できることが示されており、複数のペプチドセグメントから構成されているため、特定の対象に適するセグメントが存在する可能性が非常に高くなる。これにより、集団のMHC/HLA制限が克服される。
【0122】
B細胞応答は、特異抗原を標的とする抗体(すなわち、「免疫グロブリン」または「Ig」)によって特徴付けられる。B細胞は、ポリペプチドなどの成分を内部移行し、MHCクラスIまたはII分子と複合体を形成して細胞表面にポリペプチド分子の断片を提示することもできる。B細胞は、その細胞表面に抗原特異的B細胞受容体(BCR)を発現する場合もある。MHCによって提示される抗原に依存するT細胞およびTCRとは異なり、BCRは、MHCによって提示されずに抗原エピトープを認識できる(すなわち、BCRは可溶性抗原を認識することもできる)。抗原は、適切な表面免疫グロブリンを有するB細胞を直接活性化してIgMを産生する。場合によっては、B細胞は、MHCクラスIIにロードされた抗原を提示することによる活性化をT細胞に依存する。処理された抗原に応答したCD4T細胞には、免疫グロブリンのIgMからIgGへのクラススイッチを誘導し得る。しかしながら、一部の抗原は、T細胞とは独立してB細胞を活性化できる。それ故に、いくつかの実施形態では、B細胞応答の誘導は、T細胞応答(CD4および/またはCD8)の誘導と連動し得る。
【0123】
適切な抗体応答には、IgAおよび/またはIgGアイソタイプなどの様々なアイソタイプが含まれうる。達成される抗体応答のタイプは、使用される抗原および/またはアジュバントもしくは他の免疫調節分子に依存する場合があり、所望の結果に応じて選択されてよい。
【0124】
IgAは、分泌型ではslgAとも呼ばれ、粘膜の免疫機能において重要な役割を果たす抗体である。粘膜に関連して産生されるIgAの量は、他の全ての種類の抗体を合わせた量よりも多い。絶対量では、毎日3~5グラムが腸内腔に分泌される。これは、体全体で産生される総免疫グロブリンの最大15%に相当する。IgAには2つのサブクラス(IgA1およびIgA2)があり、単量体としても二量体としても産生され得る。IgAの二量体型は最も一般的で、分泌型IgA(slgA)とも呼ばれる。slgAは、涙、唾液、汗、初乳、ならびに尿生殖路、胃腸管、前立腺、および呼吸上皮からの分泌物を含む粘膜分泌物に見られる主要な免疫グロブリンである。血液中でも少量認められる。slgAの分泌成分は、タンパク質分解酵素による分解から免疫グロブリンを保護し;それにより、slgAは過酷な胃腸管環境でも生存でき、身体の分泌物中で増殖する微生物から保護する。slgAは、他の免疫グロブリンの炎症作用を阻害することもできる。IgAは補体系の活性化に乏しく、オプソニン作用も弱い。
【0125】
IgGにはいくつかのサブタイプがある。ヒトでは、IgG1およびIgG3は、Tヘルパー1型応答、補体結合、高親和性FcRによる食作用に関連しており、防御免疫を示すが、IgG2およびIgG4応答は効果が低い傾向がある。
【0126】
いくつかの実施形態では、抗原によって誘導される抗原特異的免疫応答は、B細胞応答である。いくつかの実施形態では、抗原特異的免疫応答には、抗原特異的抗体の生成が含まれる、すなわち、抗原は、前記抗原に特異的な(すなわち、前記抗原に結合する)抗原特異的抗体の産生を誘導する。いくつかの実施形態では、抗原特異的抗体は、IgA、IgM、IgG、またはそれらの任意の組み合わせを含む群か、あるいはそれらからなる群から選択される抗体セロタイプに属する。いくつかの実施形態では、抗原特異的抗体は分泌型抗体、例えば分泌型IgA(slgA)、分泌型IgM、または分泌型IgGである。したがって、いくつかの実施形態では、抗原は、抗原特異的IgA、抗原特異的IgM、抗原特異的IgG、またはそれらの任意の組み合わせの産生を誘導する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のコレラ菌抗原は、コレラ菌抗原特異的免疫応答、例えば、コレラ菌抗原特異的B細胞免疫応答、またはコレラ菌抗原特異的抗体の産生を誘導する。コレラ菌抗原特異的抗体は、IgA、IgM、またはIgGであってよい。いくつかの実施形態では、コレラ菌抗原特異的抗体はIgA、場合により分泌型IgA(slgA)である。いくつかの実施形態では、コレラ菌抗原はCtxBである。いくつかの実施形態では、CtxBは、CtxB特異的応答、例えば、CtxB特異的B細胞応答またはCtxB特異的抗体の産生を誘導する。CtxB特異的抗体は、IgA、IgM、またはIgGであってよい。いくつかの実施形態では、CtxB特異的抗体はIgA、場合により分泌型IgA(slgA)である。
【0127】
本明細書に記載の抗原を含有する細菌は、マウスモデルにおける経口免疫後など、抗原特異的免疫応答を誘導する能力について試験され得る。目的の抗原(例えば、HPV、OVA、またはCtxBなどのコレラ菌抗原)または抗原に対応するROP(例えば、ROP-HPVまたはROP-OVA)を含有する細菌の胞子(例えば、クロストリジウム・ブチリカム)を、マウスのグループに強制経口投与によって投与することができる。同じ細菌に由来するが、抗原(またはROP抗原)を含まない胞子の陰性対照を、別のマウスのグループに投与してもよい。抗原を含む細菌をそのような陰性対照と比較し、差異があれば抗原特異的であると考えられる。この実験に適した陽性対照には、抗原(例えば、ROP-HPVもしくはROP-OVA、またはCtxBなどのコレラ菌抗原)(DCによって取り込まれ、前記抗原に対する免疫応答の活性化をもたらす)の皮下注射による非経口投与が含まれる。それ故に、この陽性対照との比較によって、抗原を含有する細菌によって誘導される免疫応答が抗原自体の投与と同等であるかどうかの指標が得られるであろう。
【0128】
したがって、このタイプのシステムは、抗原特異的応答を同定するために使用でき、特定のタイプの抗原に限定されない。実際、陰性対照はそのまま(抗原を含有しない細菌)とし、陽性対照は目的の抗原(例えば、本明細書に記載の感染病原体抗原または腫瘍抗原のいずれか)の皮下注射による非経口投与に変更し、試験条件は、目的の抗原(または前記抗原のROP)を含有する細菌を調製することのみを必要とする。
【0129】
さらに、細菌は目的の抗原の送達媒体として作用するため、例示したクロストリジウム・ブチリカムに限定されない。例示されているクロストリジウム・ブチリカムは、抗原が免疫応答を媒介できる胃腸管の嫌気性部分に抗原を送達するように作用する。それ故に、胃腸管の嫌気性部分に到達できることが同様に知られているクロストリジウム綱の他の細菌も、同様に適切な送達媒体である。この場合、陰性対照は目的のクロストリジウム綱の細菌(本明細書に記載のものなど)に変更され、陽性対照は目的の抗原の皮下注射による非経口投与のままであり、試験条件は単に、選択した細菌が目的の抗原を発現するように、クロストリジウム・ブチリカムについて本明細書に記載のものと同様の方法で、遺伝子改変されることを必要とする。
【0130】
抗原を含有する細菌の投与、陰性対照および陽性対照を、免疫レジメンで行ってよい。例えば、マウスは2週間間隔で3回免疫され得る。免疫レジメンの後、例えばレジメンの42日後にマウスを屠殺する。このレジメンは、抗原を含む遺伝子改変細菌の胞子が免疫応答を誘導する方法で抗原を送達できるかどうかを評価するために実施された。
【0131】
免疫応答は、当業者に公知の多くの方法で検出され得る。例えば、標準的な方法を使用して、均質化された脾臓からの脾細胞および血液サンプルからの末梢血単核球(PBMC)を収集し、単核細胞単離物を得ることができる。次に、これらの単核細胞単離物は、例えば、磁気関連細胞選別(MACS)やフィコール・ハイパック勾配(密度)分離を用いて、リンパ球を得るなど、目的の細胞集団を単離するための様々な選別プロトコルで処理され得る。例えば、T細胞(CD4およびCD8)は、T細胞特異的マーカー(例えば、CD8T細胞についてはCD8a)に基づいて単核球単離物から濃縮されうる。あるいは、またはさらに、B細胞などの他の細胞集団を単離してもよい。
【0132】
目的の細胞種の濃縮集団が得られたら、その細胞種を、免疫応答の活性化に関連するサイトカイン(例えば、IFN-γおよび/またはTNFα)の分泌について、あるいは活性化した細胞表現型を示すマーカー(例えば、細胞表面マーカー及および/または細胞内マーカー)の発現について試験することができる。IFN-γおよび/またはTNFαなどのサイトカインは、それぞれ抗IFN-γ抗体または抗TNFα抗体の存在下でT細胞をプレート内で培養し、野生型抗原タンパク質(例えばHPVタンパク質またはCtxBなどのコレラ菌抗原)、抗原のROP(例えばROP-HPVまたはROP-OVA)または抗原を含む栄養型の細菌細胞で細胞を再刺激することにより、ELISPOTで試験することができる。目的の抗原に対して特異性を有するT細胞(例えばHPV特異的T細胞)が存在する場合、次いでその抗原で再刺激すると、T細胞はIFN-γおよび/またはTNFαを分泌するように誘導される。抗原を含有しない栄養型の細菌細胞の使用を陰性対照とし、それを試験条件と比較して、IFN-γおよび/またはTNFαの分泌がどの程度抗原特異的であるかを特定することができる。IFN-γおよび/またはTNFα標準物質(すなわち、様々な濃度のこれらのサイトカインのアリコート)は、陽性対照として、および用量反応曲線を確立するために使用され得る。ELISPOTについては、スポット形成単位(SPU)が評価され得、ここで、対照群の平均よりも少なくとも2標準偏差高い試験条件(例えば、ワクチン接種群)のSPUは、試験条件について陽性結果を示す。
【0133】
あるいは、またはさらに、免疫応答は、Zhang et al.,2009に記載されているような細胞内サイトカイン染色によって試験され得る。簡単に述べると、上記の免疫レジメンを受けたマウスから得られた脾細胞は、抗原(例えば、ROP抗原)、ならびにELISPOTと同じ陰性対照および陽性対照とともに培養され得る。次いで、細胞を抗体(例えば、フィコエリトリン結合モノクローナルラット抗マウスCD8またはCD4抗体)または免疫グロブリンアイソタイプ対照で標識することができる。次いで、脾細胞を、fix/permプロトコル(例えば、BD PharmingenによるCytofix/Cytopermキット)を使用して固定および透過処理し、細胞内抗原の検出抗体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート結合抗IFN-γ抗体)とともにインキュベートすることができる。次に、サンプルをフローサイトメトリーによって評価することができ、ここで、アイソタイプ対照の蛍光を上回る蛍光によって細胞の抗原特異的活性化が示される。CD8またはCD4とIFN-γとの共染色は、IFN-γの抗原特異的発現をCD8またはCD4T細胞のいずれかに帰属させることになる。
【0134】
あるいは、またはさらに、免疫応答は、典型的にはAPCによるT細胞の再刺激後に、T細胞表面受容体または受容体リガンドの発現を検出することによって試験され得る。例えば、細胞表面のCD40リガンド発現は、Hegazy et al(2017)Gastroenterology 153:1320-1337に記載されているように、CD4T細胞上で評価され得る。定義された抗原刺激後にCD40L(CD154)を発現するCD4T細胞のパーセンテージを決定し、実験群と対照群との間でノンパラメトリック解析を実施して、母集団平均の抗原特異的T細胞パーセンテージの差異を特定できる。試験条件についての陽性結果は、陰性対照群と比較して抗原特異的CD4T細胞のパーセンテージが高いこと(すなわち、CD40Lの上方制御)、例えば、少なくとも1%高い、少なくとも2%高い、少なくとも5%高い、および/または最大10%以上高いことによって示される。
【0135】
CTL応答の細胞毒性を、クロム51(51Cr)リリースアッセイを使用して評価することができる(B.Paige Lawrence,2004,Current Protocols in Toxicology,22(1):18.6.1-18.6.27を参照)。例えば、CTLに対する目的の抗原を発現する標的細胞(例えば、腫瘍抗原を発現するがん細胞)を、細胞溶解時に標的細胞から放出される51Crで標識してよい。したがって、ワクチン接種された対象(抗原特異的応答を開始することができると予想される)に由来するCTLの細胞毒性を、対照であるナイーブ対象(抗原特異的CTLを有することが予想されない)に由来するCTLと比較してよい。ワクチン接種群に由来するCTLの51Cr検出の増加は、抗原特異的応答の誘導に関する陽性結果を示す。典型的には、試験群の陽性結果は、試験群の平均値が対照群の平均値より少なくとも2標準偏差以上高い場合に示される。
【0136】
細胞毒性を評価するための別の適切なアッセイは、CyQUANT LDH細胞毒性アッセイである。乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)(LDH)は、細胞膜が損傷すると放出される細胞基質酵素である。したがって、51Crリリースアッセイについて記載したものと同じ条件を使用して、CTLと標的細胞の共培養でLDHレベルを試験し、ワクチン接種群が対照群と比較して細胞毒性の増加を示すより高いLDHを有するかどうかを確認することができる。典型的には、試験群の陽性結果は、試験群の平均値が対照群の平均値より少なくとも2標準偏差以上高い場合に示される。
【0137】
あるいは、またはさらに、Hチミジンを用いてT細胞の増殖を試験できる。Hは有糸分裂の細胞分裂中に染色体DNAの新しい鎖に組み込まれるため、細胞分裂に伴って細胞内に蓄積する。ワクチン接種された対象から単離されたT細胞(またはT細胞のサブセット)は、対照であるナイーブ対象から単離されたT細胞(またはT細胞のサブセット)と比較されうる。単離されたT細胞を、混合リンパ球反応(MLR)においてPBMCまたは抗原をロードされた活性化DCと共培養し、その増殖を経時的に評価できる。ワクチン接種レジメンにより抗原特異的T細胞が得られる場合、これらは、抗原を発現する抗原提示細胞と共培養すると、より高い速度で増殖するであろう。したがって、より多量のHチミジン取り込みに基づくT細胞増殖の増加は、ワクチン接種された対象についての肯定的所見を示す。典型的には、試験群の陽性結果は、試験群の平均値が対照群の平均値より少なくとも2標準偏差以上高い場合に示される。
【0138】
細胞増殖を評価するための別の適切なアッセイは、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)アッセイである。CFSEは、細胞内の遊離アミンと反応して共有結合性色素-タンパク質複合体を生成する、蛍光細胞染色色素である。これにより、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡によりCFSE蛍光に基づいて検出できる生細胞が得られる。CFSEを有する細胞が分裂すると、CFSE蛍光のレベルが細胞間で分裂し、細胞分裂の世代に対応するピークの視覚化が可能になる。したがって、上記のHチミジンと同じ条件をCFSEアッセイで評価することができる。このアッセイでは、T細胞増殖の増加はフルオレセインの付加発光ピークの検出に基づいており、これはワクチン接種対象についての肯定的所見として細胞分裂を示すこととなる。典型的には、試験群の陽性結果は、試験群の平均値が対照群の平均値より少なくとも2標準偏差以上高い場合に示される。
【0139】
B細胞応答は、免疫レジメン中または終了後に収集された血清または他の適切なサンプル中の抗体のレベルを定量化することによって評価され得る。抗体価は、生物が特定のエピトープを認識する抗体をどれだけ産生したかの測定値であり、陽性結果が得られる最大希釈(連続希釈における)の逆数として表される。抗体価はELISAを使用して試験され得る。それ故に、上記の免疫レジメンを受けたマウスから得られた血清を、抗体価について評価し、同じ対照と比較することができる。陰性対照と比較して少なくとも2標準偏差以上高いなど、より高い抗体価は、抗原特異的な様式でB細胞が活性化されていることを示すであろう。IgA抗体価は粘膜免疫を示しているため、抗原特異的IgAのレベルを特異的に試験して粘膜免疫の誘導を評価してよい。IgAの試験に適したサンプルとしては、血清、糞便、結腸もしくは腸の内容物、または回腸壁抽出物が挙げられる。さらに、またはあるいは、全身性免疫および/または抗原特異的IgMを示す抗原特異的IgG力価を試験してもよい。典型的には、血清サンプルが検査されるであろう。
【0140】
抗原特異的IgAと総IgAの比を測定し、B細胞応答を示してよい。例えば、総IgA及び抗原特異的IgAは、ELISAにより決定してよい。実験群と対照群との間でノンパラメトリック解析を行い、母集団平均の抗原特異的IgA/IgA比の差を探索してもよい。陽性結果は、実験群と対照群の間の母集団平均の抗原特異的IgA/IgA比において統計的に有意な差が確認されることである。
【0141】
一般に受け入れられている動物モデル(Ireson et al.(2019)British J Cancer 121:101-108に記載されるものなど)を、腫瘍またはがん抗原を使用したがんに対する免疫化の試験に使用できる。例えば、がん細胞(ヒトまたはマウス)をマウスに導入して腫瘍を生じさせることができ、本明細書に記載の腫瘍抗原を含有する細菌を、前記抗原に関連する腫瘍を有する対象に送達してもよい。がん細胞は、皮下注射によって導入されて、目的の抗原に関連した異種移植片または同系腫瘍を形成することができる。がん細胞に対する効果(すなわち、キャリパーを用いて測定できる、腫瘍サイズの縮小、または腫瘍進行(すなわち、腫瘍が成長し続ける速度)の減少)を、免疫の有効性の尺度として評価することができる。より複雑なモデルとしては、患者由来の異種移植片(PDX)モデルの使用が挙げられ、このモデルでは、前記患者の癌に関連する抗原が、本明細書に記載の免疫レジメンを受けたマウス(例えば、ヒト化マウス)に投与される。あるいは、またはさらに、抗腫瘍CTLのレベルおよび活性は、例えば、腫瘍生検を採取し、腫瘍微小環境におけるCTL(腫瘍抗原特異的CTLを含む)のレベルを試験することにより試験されてよい。抗原特異的CTLを、MHCをロードした腫瘍抗原に特異的なMHC四量体を用いて同定してよく、次に、腫瘍微小環境中のCTLを、例えばフローサイトメトリーによって定量化することができる。生検では、炎症反応およびT細胞の活性化に関連するサイトカイン(例えば、IL-2、IFN-γ、GM-CSF)を測定することにより、サイトカインを試験してよい。この試験はヒトでも行うことができ、抗原を持つ細胞に対する循環細胞傷害性Tリンパ球のレベルの上昇がみられるか試験すること、抗原に対する循環抗体のレベルについて試験すること、ならびに抗原を発現している細胞が存在するかを試験すること、などがエンドポイントとなる。
【0142】
適切な試験はCai et al.,2017に記載されており、ROP-サバイビンまたはROP-HPV-E7による免疫化が特異的な細胞性免疫応答を生成し、サバイビンまたはHPV-E7タンパク質を発現するメラノーマB16細胞の接種からマウスを保護することを実証した。この実験では、C57BL/10マウスをROP抗原(ROP-survivinまたはROP-HPV-E7)によって皮下的に抗原刺激し、陽性対照としての野生型抗原と比較した。両条件とも抗原はモノホスホリルリピッドA(MPL)で乳化されていた。MPLで乳化した同一ワクチンを、3週間間隔で2回、皮下的にブーストした。最後のブーストから3週間で、マウスにB16-E7またはB16-サバイビンにチャレンジ感染させ、その後ELISPOT分析で評価した。ELISPOT分析は、抗IFN-γ-AbプレコートプレートでROP-HPVまたはROP-サバイビンを用いて再刺激を行い、上述のようにPBMCおよび脾臓細胞で実施された。
【0143】
Cai et al.,2017中のデータは、ROP抗原と野生型抗原を使用してマウスを抗腫瘍免疫応答のために免疫できるマウスシステムを示している。それ故に、Cai et al.,2017の免疫戦略は、ROP抗原または腫瘍抗原に対応する野生型抗原を用いて、陽性対照として展開できる。次いで、クロストリジウム綱の細菌を遺伝子改変して前記腫瘍抗原を発現させ、並行免疫レジメンにおいて用いることができる。陰性対照は、同じ細菌を用いた免疫であるが、抗原を含まないものである。それ故に、このシステムを、Cai et al.,2017に記載されているように、腫瘍抗原でPBMCまたは脾細胞を再刺激して、IFN-γ分泌を陽性対照および陰性対照と比較することにより、腫瘍特異抗原を含有する細菌が抗腫瘍応答を誘導できるかどうかを判定するために使用できる。試験条件(例えば、ワクチン接種グループ)のSFU(スポット形成単位)数が対照群の平均より少なくとも2標準偏差高い場合、その試験条件についての陽性結果を示す。
【0144】
したがって、当業者は、感染病原体抗原および/または腫瘍抗原などの抗原を含有するクロストリジウム綱の細菌が前記抗原に対する免疫応答を誘導するかどうかを容易に評価することができる。これらのシステムは、抗原や細菌の種類に限定されない。

対象における感染性疾患もしくは癌の治療的もしくは予防的処置
【0145】
この第5の態様において、抗原は感染病原体抗原であって疾患は感染病原体によって引き起こされる疾患であるか、または抗原は腫瘍抗原であって疾患はがんである。
【0146】
疾患、特にがんを「寛解すること」または「治療すること」とは、疾患またはその臨床症状の少なくとも1つの進行を遅らせる、阻止する、または軽減すること;患者には認識できない可能性のあるものを含む少なくとも1つの身体的パラメータを緩和または回復すること;身体的(例えば、認識可能な症状の安定化)、生理的(例えば、身体的パラメータの安定化)、またはその両方で疾患を調節すること;あるいは、疾患もしくは障害またはそれらの臨床症状の、発症もしくは発達もしくは進行を予防もしくは遅延させることを意味する。感染性疾患の場合、「寛解すること」または「治療すること」とは、それに応じて解釈されてよく、対象における生存感染病原体の負荷を軽減すること、または、休眠状態の感染病原体が活発に増殖する形態になることの再発を予防または軽減することも含んでよい。「治療的処置」はそれに応じて解釈されるべきである。「予防すること」とは、本明細書に記載の剤が予防的であることを含む。防御的もしくは予防的な使用もしくは処置には、例えばワクチン接種によって、対象が疾患に罹患するリスクを低減または除去する使用または処置が含まれる。「予防的処置」はそれに応じて解釈されるべきである。
【0147】
生物学的、医学的、または生活の質において、そのような処置治療から利益を得られうる場合、被験者は治療を必要としている。処置は、典型的には、医師または獣医師によって実施され、治療上有効な量の細菌または組成物が投与されうる。第1の態様に記載の細菌または第2の態様に記載の組成物の治療上有効な量とは、本明細書に記載の処置、例えば疾患またはその症状を遅らせる、阻止する、軽減する、または予防するために有効であろう量を指す。治療上有効な量は、抗原(例えば、それに対する特定のタイプ又は強さの免疫応答を引きおこす抗原の能力)、クロストリジウム細胞による抗原の産生効率、処置される対象、苦痛の重症度及びタイプ、等に依存し得る。典型的には、治療的処置が必要な対象は、疾患の症状を呈している。あるいは、対象は、疾患にかかりやすいか、または検査では疾患に対して陽性であったが、まだ症状を示していない場合がある。典型的には、予防的処置を必要とする対象は、疾患に罹患していないが、疾患を発症する危険性を有している可能性がある。予防的処置は、特に感染性疾患に適している。
【0148】
処置すべき感染性疾患は、適切には、感染病原体に向けられた抗原特異的な免疫応答に応答し得るものである。感染性疾患、障害または状態は、本明細書に列挙した感染病原体抗原に関連するものから選択され得る。処置すべきがんは、本明細書に列挙された腫瘍抗原などの腫瘍抗原に関連するいずれのがん、特に腫瘍抗原を利用する免疫療法に応答することが示されているがんであり得る。
【0149】
治療的処置は、がんまたは慢性の感染性疾患に関して特に有益である。慢性の感染性疾患には、感染病原体によって数か月または数年にわたって持続するものか、あるいは感染病原体の活発な増殖期および/または症状期、および休止期を示すものが含まれる。慢性持続感染は、ヒトパピローマウイルス(HPV);C型肝炎;B型肝炎;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、および水痘帯状疱疹ウイルスなどのヘルペスウイルス;黄熱に関連するフラビウイルス;西ナイルウイルス;デングウイルス;ジカウイルス;日本脳炎ウイルス;アフリカ豚コレラウイルス;豚生殖器呼吸器症候群(PRRS)ウイルスならびに口蹄疫ウイルス(例えば、コクサッキーウイルスA16)を含むウイルスによって引き起こされうる。慢性持続感染は、結核菌、マイコバクテリウム・ボビス、ブルセラ菌、ボレリア・ブルグドルフェリなどのボレリア種、コリネバクテリウム・ジフテリエ、クラミジア、コレラ菌、チフス菌;マイコプラズマ;カンジダ・アルビカンスを含む真菌;ならびに、蠕虫および原虫を含む様々な寄生虫を含む細菌によっても引き起こされうる。処置すべき適切ながんとしては、免疫原性が最も高い固形腫瘍の2つと考えられていて、ワクチン開発において広範に研究されているメラノーマおよび腎細胞がん、あるいは、結腸、肺、子宮頸部、膵臓、胃、肝臓、腸、膀胱、卵巣、前立腺、骨、脳または頭頸部のがんが挙げられる。
【0150】
予防的処置には、典型的には、免疫記憶の確立が必要であり、免疫記憶の確立により、免疫された対象が、典型的には感染病原体抗原によるその後の攻撃から保護または部分的に保護される。免疫記憶は、適応免疫の重要な結果であり、以前に遭遇した病原体に対してより迅速な免疫応答を開始して、疾患への罹患を防ぐことができる。免疫記憶は治療的処置においても重要である可能性がある。
【0151】
T細胞の免疫記憶は、特定の抗原に対する記憶T細胞が存在するかどうかを識別するMHC四量体を用いて試験され得る。MHC四量体は、MHCをロードした抗原に対して特異性を有するため、目的の抗原に特異的なMHC四量体を用いることができる(例えば、HPV特異的MHC四量体)。これらを、対象から単離されたサンプル(例えば、血液サンプルまたは脾細胞)において使用して、抗原特異的T細胞の頻度を測定することができる。MHC四量体はMHCクラスIおよびIIに使用でき、このことはMHC四量体を用いて、CD4およびCD8細胞の両方を測定することができることを意味する。さらに、MHC四量体を他のT細胞マーカーの蛍光抗体と併用することで、抗原特異的T細胞サブセット(例えば、抗原特異的Th1、Th2および/またはTh17細胞)の割合を評価することができる。抗原特異的T細胞の割合は、免疫した対象と免疫していない対象を比較して、フローサイトメトリーにより評価され得る。例えば、本明細書に記載の免疫レジメンを受けたマウスから得られたサンプルには、MHC四量体結合について評価された血液サンプルおよび/または脾臓細胞、およびT細胞サブセットの蛍光マーカーパネルが含まれうる。非免疫化マウスと比較して、免疫化マウスはMHC四量体との結合の割合が高いはずであり、これをT細胞サブセットによってさらに評価して、誘導されたT細胞応答のタイプを特定することができる。HPV感染の場合、より高い割合の抗原特異的CD8T細胞は、HPV抗原を含有するクロストリジウム綱の細菌で免疫することによって防御的T細胞免疫が確立されたことを示すと考えられる。
【0152】
B細胞の免疫記憶は、免疫化マウスおよび非免疫化マウス(例えば、記載されている免疫レジメンに従って)からB細胞を単離し、同じ抗原に特異的なヘルパーT細胞の存在下でB細胞を再刺激することによって、インビトロで試験され得る。免疫化マウスからのB細胞は、定量的にも定性的にも良好な応答を示し、前者は、再刺激後のB細胞の頻度(すなわち、細胞懸濁液中の細胞数を数える)を比較することによって評価され得る。B細胞の親和性成熟により、産生されたメモリーB細胞抗体はまた、非免疫化マウスのナイーブB細胞と比較して高い親和性を有するであろう。このことは、(免疫化マウスおよび非免疫化マウスから)産生された抗体を精製して、抗原(またはそのエピトープ)に対するそれらの親和性を比較することにより試験され得る。免疫化マウスから産生された抗体がより高い親和性を持つ場合、防御免疫を示し得るB細胞記憶応答が確立されている。対応するインビボ研究では、そのようなマウスを使用し、抗原が由来する病原体(例えば、抗原がHPV抗原である場合はHPVによる感染;例えば、Longet et al,2011,Journal of Virology,85:13253-13259に記載の通り)でチャレンジ感染させ、その病原体で初めてチャレンジ感染されたマウスと比較して感染負荷を評価する。
【0153】
上記の細胞系を、マウスを抗原に関連する病原体でチャレンジ感染させるインビボマウス系で補完してよい。T細胞免疫および/またはB細胞免疫の存在により、免疫化マウスは、ナイーブマウスと比較して、感染からの部分的または完全な保護率の増加など、感染負担が軽減されるはずである。したがって、適切なインビボ系では、感染負担を評価するために、免疫レジメンの後にチャレンジレジメンを行うことになる。適切な動物モデルは、Bakaletz(2004)Developing animal models for polymicrobial diseases,Nature Reviews Microbiology,2:552-568に記載されている。免疫記憶はまた、本発明の第4の態様に関連して記載されたCai et al.,2017(上記参照)およびIreson et al.,2019(上記参照)に記載されているような、腫瘍のチャレンジ感染モデルを含むインビボ腫瘍モデルにおいて試験されてもよい。
【0154】
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈により明らかにそうではないと指示されない限り、複数の参照を含む。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0155】
値の範囲が提供される場合、文脈が別途明確に指示しない限り、その範囲の上限と下限との間の下限の単位の10分の1までの各介在値、および記載された範囲内の任意の他の記載された値または介在値は、本発明内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、範囲内に含まれてもよく、また、記載された範囲内の任意の特定の除外された制限に従うことを条件として、本発明内に包含される。記載された範囲が限定の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限定のいずれか又は両方を除外する範囲も、同様に本発明に含まれる。
【0156】
本発明の所定の態様、特徴またはパラメータに対する選好および選択肢は、文脈が別段の指示をしない限り、本発明の他の全ての態様、特徴およびパラメータに対するあらゆる選好および選択肢と組み合わせて開示されたものとみなされるべきである。
【0157】
本明細書で言及される全ての刊行物は、本願に記載の発明に関連して使用される可能性のある、刊行物に記載されている構成要素を説明かつ開示する目的で、可能な限り最大限の範囲で参照により本明細書に組み込まれる。
【0158】
本発明は、以下の非限定的な実施例および図面においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0159】
図1図1:ROPタンパク質の設計および抗原提示細胞(APC)上での切断されたROPの提示。既知のT細胞エピトープは、カテプシンSの最小切断シグナル(LRMK(配列番号33))によって一本鎖タンパク質に連結されたオーバーラップペプチド断片に分割される。ROPはAPC内のエンドソームで切断され、個々のペプチドエピトープはMHC分子を介して提示され、T細胞上の受容体によって認識され得る。
図2図2:ROPタンパク質を細胞内で発現するように遺伝子改変されたクロストリジウム・ブチリカムにおけるROP-HPVおよびROP-OVAに結合したFLAGタグのウェスタンブロット検出。CHN-0野生型を対照として使用した。(A)において、矢印はCADD-HPV-ROPにおけるROP-HPVバンドを示すが、CHN-0野生型細胞にはない。(A)画像全体にわたってコントラストを強調-赤色の矢印はCADD-HPV-ROPにおけるROP-HPVバンドを示すが、CHN-0野生型にはない。(B)35μlのタンパク質をロードし(約175mg)、5%ミルクでブロッキングし、抗FLAG(A9469)をTBS-T中に1:5000希釈で2時間反応させ、SIGMAFAST BCIP/NBTを使用して7分間発色させた。
図3図3:クロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変用のCADD-ROP-OVA1コンストラクト。
図4図4:クロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変用のCADD-ROP-HPVコンストラクト。
図5図5:比率1000:1(CHN-0:DC2.4細胞)でCHN-0栄養細胞に暴露されたDC2.4細胞培養物内で観察されたpHRodo蛍光。スケールバーは500μm。
図6図6:CHN-0野生型(オレンジ色のバー)の胞子、遺伝子改変CADD-HPV(灰色のバー)の胞子で強制経口投与により免疫したか、あるいはアジュバントとともに精製ROP-HPVタンパク質(黄色のバー)で皮下注射により免疫したマウスの脾臓から単離したCD8+およびCD4+T細胞のIFN-γELISPOT評価。陰性対照として、PBSの経口投与および皮下投与の両方を行った(水色および濃青色のバー)。単離したT細胞を2.5×10/ウェルの密度で播種し、精製ROP-HPVまたは野生型HPVタンパク質(ともに5μg/ウェル)またはCHN-0野生型の栄養細胞(0.5×10/ウェル)で再刺激した。
図7図7:CHN-0野生型(オレンジ色のバー)の胞子、遺伝子改変CADD-OVA(灰色のバー)の胞子で強制経口投与により免疫したか、あるいはアジュバントとともに精製ROP-OVAタンパク質(黄色のバー)で皮下注射により免疫したマウスの脾臓から単離したCD8+およびCD4+T細胞のIFN-γELISPOT評価。陰性対照として、PBSの経口投与および皮下投与の両方を行った(水色および濃青色のバー)。単離したT細胞を2.5×10/ウェルの密度で播種し、精製ROP-OVA(5μg/ウェル)またはCHN-0野生型の栄養細胞(0.5×10/ウェル)のいずれかで再刺激した。
図8図8:実施例3の免疫戦略を表す図。
図9図9:(A)コレラ毒素CtxBのFLAGタグ付き抗原の核酸配列および翻訳されたタンパク質配列。核酸配列中の下線を引いた配列は、順に、NotI部位、NdeI部位、およびNheI部位である。プロモーター領域はNotIとNdeIとの間にあり翻訳されないが、翻訳される抗原領域はNdeIとNheI部位との間である。(B)ネイティブのCtxBタンパク質配列(P01556)とCtxBのFLAGタグ付き抗原配列(CHAIN_CtxB)との間の配列アラインメント。
図10図10:CtxBを細胞内で発現するようにpMTL82151プラスミド(CtxB-full plasmid)から遺伝子改変されたクロストリジウム・ブチリカムにおけるCtxBに結合したFLAGタグのウェスタンブロット検出。CHN-0野生型を対照として使用した。赤色の矢印は、CtxBを発現するCHN-0株では予想されるMW(約13kDa)で有意なバンドが見られるが、CHN-0野生型では見られないことを示す。(B)20μlのタンパク質をロードし、5%ミルクでブロッキングし、抗FLAG(A9469)をTBS-T中に1:5000希釈で2時間反応させ、SIGMAFAST BCIP/NBTを使用して<3分間発色させた。
【0160】
実施例1:遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムの構築および調製
土壌および動物(ヒトを含む)の糞便中に存在し得る胞子形成嫌気性細菌クロストリジウム・ブチリカムのDSM10702株を、細菌の細胞質で抗原を発現するように遺伝子改変した。選択された抗原を、WO2007/125371A2に記載されているように、組換えオーバーラップペプチド(ROP)技術に基づいて遺伝子改変した。
【0161】
ROPタンパク質配列は、カテプシン切断部位標的配列(LRMK(配列番号33))によって連結されたオーバーラップペプチドで構成されている(図1参照)。カテプシンは樹状細胞(DC)のエンドソームに存在し、エンドサイトーシスの後、ROPタンパク質はその構成ペプチドに切断される。このアプローチにより、広範囲のT細胞エピトープの送達が可能になり、様々なHLA対立遺伝子にわたる細胞性免疫の誘導が促進され、母集団カバー率が最大化される。ナイーブCD8およびCD4T細胞をプライミングするには、DCによる効果的な抗原提示が必要である。CD8細胞傷害性T細胞は、細胞内病原体に対する免疫防御および腫瘍サーベイランスに関与している。CD4ヘルパーT細胞(例えば、Th1、Th2、およびTh17)は、広範な免疫機能を形成および制御しており、特に適応免疫の制御において重要な役割を担っている。ROPの使用は、防御的な細胞性免疫の生成において、野生型抗原の使用よりも優れていることが以前に示されている。古典的MHCクラスII提示経路を通じてCD4T細胞を刺激することに加え、ROPは、外来抗原がMHCクラスIによってAPC上に提示されてCD8T細胞を活性化するプロセスである交差提示を通じて、強固なCD8T細胞応答を導くことができる(Cai et al,Oncotarget 2017,8(44)pp76516-76524)。
【0162】
これまでは、ACE技術による遺伝子改変に用いるため、pyrE遺伝子が破壊されたクロストリジウム・ブチリカムの株を作製していた。今回、この株の染色体におけるpyrE遺伝子座に、構成的プロモーターの制御下でROPタンパク質コード配列を安定的に組み込むことに成功した。
【0163】
ヒトパピローマウイルス(HPV)16型E7エンベロープタンパク質とオボアルブミン(OVA)に基づいて、2つの異なるROPタンパク質コード配列を開発した。これらの配列を用いて、必要な酵素切断部位、およびFLAGタグをROPタンパク質につなぐN末端部位に追加のカテプシン切断シグナルを導入することにより、遺伝子改変用のpMTL80000ベクターシリーズに導入するためのカセットを設計した。遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムのpyrE欠損株は、HPVまたはオボアルブミン由来のROPを、細胞内で発現する(図2参照)。
【0164】
ROPタンパク質の発現と産生を確認した後、以前に開発した胞子発酵(spore fermentation)プロトコルを用いて、遺伝子改変株の胞子と栄養細胞ペレットを作製した。その後、これらの材料を、DCにおけるインビトロでのベースライン試験のため、およびマウスにおけるインビボでの免疫実験に使用するために評価した。

材料及び方法
細菌株の培養
【0165】
大腸菌株BL21、DH5αおよびCA434を、15%(w/V)寒天および/または抗生物質を添加した溶原性ブロス(Lysogeny broth)(LB;植物性トリプトン10g/L、酵母抽出物5g/L、塩化ナトリウム10g/L)中で、必要に応じて、プラスミドの増殖に伴う代謝負荷に依存して30℃または37℃にて、好気的に増殖させた。液体培養物を、インキュベーション中、200rpmで撹拌した。
【0166】
クロストリジウム・ブチリカム株DSM10702は、DSMZ寄託所(ライプニッツ研究所、DSMZ-ドイツ微生物および細胞培養コレクション、InhoffenstraSSe 7B,38124 Braunschweig、ドイツ)に寄託されている。クロストリジウム・ブチリカム株を、嫌気性ワークステーション(Don Whitley製、10%水素、10%二酸化炭素、80%窒素、37℃)において、必要に応じて10g/L炭酸カルシウム、2%(w/V)グルコース、15%(w/V)寒天および/または抗生物質を添加した強化クロストリジウム増殖培地(RCM;酵母抽出物13g/L、植物性ペプトン10g/L、可溶性デンプン1g/L、塩化ナトリウム5g/L、酢酸ナトリウム3g/L、システイン塩酸塩0.5g/L)中で、ルーチン的に増殖させた。
遺伝子改変株の維持および選択のため、クロストリジウム・ブチリカムを、嫌気性ワークステーションにおいて、それぞれ必要に応じて10g/L炭酸カルシウム、2%(w/V)グルコース、15%(w/V)寒天、ウラシルおよび/または抗生物質を添加したクロストリジウム基本培地(CBM、硫酸鉄七水和物12.5mg/L、硫酸マグネシウム七水和物250mg/L、硫酸マンガン四水和物12.5mg/L、カザミノ酸2g/L、4-アミノ安息香酸1.25mg/L、チアミン塩酸塩1.25mg/L、ビオチン2.5μg/L)中で増殖させた。マウス糞便におけるコロニー形成単位の検出のため、ホモジナイズした糞便サンプルを、改変したクロストリジウム・ブチリカム基本分離培地(塩化ナトリウム0.9g/L、塩化カルシウム0.02g/L、塩化マグネシウム六水和物0.02g/L、塩化マンガン四水和物0.01g/L、塩化コバルト六水和物0.001g/L、リン酸二水素カリウム7g/L、リン酸ニカリウム7g/L、硫酸鉄0.01%(w/V)、ビオチン0.00005%(w/V)、システイン塩酸塩0.5g/L、グルコース2%(w/V)、寒天15%(w/V)、D-サイクロセリン250mg/L)に撒いた。
【0167】
クロストリジウム・ブチリカムの胞子を、FerMac 320微生物培養バッチ式バイオリアクター(Microbial culture batch bioreactor systems)(ElectroLab Biotechnology Ltd)の2Lベッセルで、2%(w/V)グルコースを添加したRCM中で調製した。ベッセルを、流量0.2vvmの窒素ガスでスパージし(sparge)、pH6.5、温度37℃で維持し、100rpmで攪拌した。細胞および胞子塊を採取し、氷冷した滅菌水で繰り返し洗浄することによって胞子を細胞物質から分離した。胞子はさらに使用するまで4℃で保管しました。胞子の計数を、胞子ストックの段階希釈物を予め還元したRCM寒天プレート上に3連でプレーティングすることによって行った。コロニー形成単位(CFU)を決定する前に、プレートを嫌気性ワークステーションで24時間インキュベートした。

遺伝子コンストラクトおよびプラスミド
【0168】
オボアルブミンコンストラクトについて、野生型オボアルブミンのアミノ酸(aa)配列のaa241~aa340の範囲(SMLVLLPDEVSGLEQLESIINFEKLTEWTSSNVMEERKIKVYLPRMKMEEKYNLTSVLMAMGITDVFSSSANLSGISSAESLKISQAVHAAHAEINEAGR;配列番号5)を4つのオーバーラップ配列に分割し、最小のカテプシン切断部位(LRMK(配列番号33))によって連結して、ROP-OVAで表される142aa組換えオーバーラップペプチド(SMLVLLPDEVSGLEQLESIINFEKLTEWTSSNVMELRMKTEWTSSNVMEERKIKVYLPRMKMEEKYNLTSVLMALRMKKYNLTSVLMAMGITDVFSSSANLSGISSAESLKISLRMKISSAESLKISQAVHAAHAEINEAGR;配列番号6)を作製した。
【0169】
ROP-OVAをクロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変用にさらに改変して、ROP-OVAの2位にあるaaメチオニン(M、ATG)に対するヌクレオチドシグナルを組み込んだNdeI切断部位(CATATG)、N末端部位のさらなるカテプシン切断部位とそれに続くFLAG-タグ(DYKDDDDK(配列番号18))に対するシグナル、および停止コドンTAAによってFLAG-タグから分離されたNheI切断部位(GCTAGC)についてのヌクレオチド配列を含めた(図3)。
【0170】
ヒトパピローマウイルス16型コンストラクトについて、野生型E7タンパク質のaa配列のaa1~aa98の範囲(MHGDTPTLHEYMLDLQPETTDLYCYEQLNDSSEEEDEIDGPAGQAEPDRAHYNIVTFCCKCDSTLRLCVQSTHVDIRTLEDLLMGTLGIVCPICSQKP;配列番号7)を4つのオーバーラップ配列に分割し、最小のカテプシン切断部位(LRMK(配列番号33))によって連結し、ROP-HPVで表される140aa組換えオーバーラップペプチド(MHGDTPTLHEYMLDLQPETTDLYCYEQLNDSSEEELRMKEQLNDSSEEEDEIDGPAGQAEPDRAHYNIVTFCCKLRMKHYNIVTFCCKCDSTLRLCVQSTHVDIRTLEDLLMGLRMKIRTLEDLLMGTLGIVCPICSQKP;配列番号8)を作成した。
【0171】
ROP-HPVをクロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変用にさらに改変して、ROP-HPVの1位にあるaaメチオニン(M、ATG)に対するヌクレオチドシグナルを組み込んだNdeI切断部位(CATATG)、N末端部位のさらなるカテプシン切断部位とそれに続くFLAG-タグ(DYKDDDDK(配列番号18))に対するシグナル、および停止コドンTAAによってFLAG-タグから分離されたNheI切断部位(GCTAGC)についてのヌクレオチド配列を含めた(図4)。
【0172】
ROP-OVAおよびROP-HPVコンストラクトを、合成遺伝子としてGeneArt Thermo Fisher ScientificからpMKベクターで入手した。
【0173】
CADD-ROP-OVA1およびCADD-ROP-HPVコンストラクトを、さらなるコドン使用最適化なしに合成遺伝子としてLife Technologies Ltdから、プラスミドpMK-RQで入手した。合成遺伝子コンストラクトを含むpMK-RQプラスミドを大腸菌DH5αに形質転換し、50μg/mLカナマイシン添加LBで一晩増殖させ、15%(V/V)グリセロールのストックとして-80℃で保管した。

大腸菌におけるROPタンパク質標準物質の発現
【0174】
合成ROP-OVAおよびROP-HPVコンストラクトを保管プラスミドから切り出し、ライゲーション非依存クローニングを用いてBsaI制限酵素直線化プラスミドpNIC28-Bsa4(Structural Genomic Consortium,Oxford)にクローニングした。製造者の指示に従って、ベクターアンプリコンを大腸菌BL21(Thermo Fischer Scientific)に形質転換した。
【0175】
ROP-HPV発現のために、pNIC28-Bsa4-ROP-HPVを有するBL21を、50μg/mLカナマイシンを添加したLBブロス中で培養した。0.2mM IPTGを用いてタンパク質の産生を誘導した。遠心分離により細胞ペレットを採取し、溶解バッファー(PB、0.5%トリトンX-100、1mM DTT、pH8.0)に再懸濁した。再懸濁した細胞に600Wで5秒間、7秒間隔で20サイクルの超音波処理を行った。組換えタンパク質を含む封入体を、20,000×gで45分間遠心分離することによって収集した。封入体ペレットを変性緩衝液(8M尿素)に再懸濁し、激しく振盪しながら2時間インキュベートした。溶液を遠心分離してタンパク質をデブリから分離した。
【0176】
タンパク質画分を含む上清をニッケルアフィニティーカラム(GE Healthcare)にロードし、溶出緩衝液(50mM PB、200mM NaCl、8M尿素、300mMイミダゾール、pH7.4)を用いて溶出した。精製タンパク質のリフォールディングは、PBS(pH7.4)を用いた漸進的な透析によって達成された。
【0177】
ROP-OVA発現のために、pNIC28-Bsa4-ROP-OVAを有するBL21を、カナマイシン50μg/mLを添加したLB培養液中で培養した。18℃にて0.1mM IPTGを用いてタンパク質の産生を誘導した。遠心分離により細胞ペレットを採取し、溶解バッファー(50mM HEPES、500mM NaCl、10%グリセロール、1:30,000 Benzonase、0.5mg/mLリゾチーム、0.1%DDM、0.1%プロテアーゼ阻害剤カクテル、pH8.0)に再懸濁した。再懸濁した細胞に、35%振幅で5秒間、15秒間隔で、10分間超音波処理を行った。組換えタンパク質を含む封入体を、20,000×gで45分間遠心分離することによって収集した。封入体ペレットを、6M塩酸グアニジンを含む50mM HEPES緩衝液に可溶化し、氷上で1時間インキュベートした後、0.2μmフィルターで濾過した。
【0178】
タンパク質画分を含む濾液をNi-NTAアフィニティカラムにロードし、溶出バッファー(50mM HEPES、6M塩酸グアニジン、500mMイミダゾール)を用いて溶出した。低温希釈緩衝液(50mM HEPES、500mM NaCl、10%グリセロール、0.5%サルコシル)で希釈した後、10kDaの分子量カットオフのビバスピンカラムを用いてタンパク質を濃縮し、脱塩緩衝液(50mM HEPES、500mM NaCl、10%グリセロール)を用いてPD-10カラムを通して脱塩することにより、塩酸グアニジンを除去した。
【0179】
エンドトキシンを、Pierceエンドトキシン除去キット(Thermo Fisher Scientific)を用いて製造者の指示に従って除去した。サンプルを0.2μMフィルターで濾過し、さらに使用するまで4℃で保管した。

クロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変
【0180】
クロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変用プラスミドを調製するために、CADD-ROP-OVA1およびCADD-ROP-HPVコンストラクトをまず、大腸菌DH5αにおいてpMK-RQで増殖させた。Wizard Plus SV Miniprep DNA Purification kit(Promega)を使用して製造者の指示に従ってプラスミドを抽出し、製造者の指示に従ってCutSmart(登録商標)緩衝液中で制限酵素NdeIおよびNheI(全て、New England Biolabs Inc)を使用して、プラスミドからコンストラクトを切り出した。単離したカセットを、pyrE修復カセットと構成的プロモーターPfdxをMCSの前に追加で含むpMTL83151(pCB102グラム陽性(Gram+)レプリコン、catP抗生物質マーカー(antibiotic marker)、ColE1グラム陰性(Gram-)レプリコン、traJ接合伝達機能、およびマルチクローニングサイト(MCS))に導入した。増殖のためにプラスミドを大腸菌DH5αに形質転換した。プラスミドを前述と同様に単離し、カセットが正しく挿入されていることを確認するためにGeneWizシークエンシングサービスを用いて配列決定した。
【0181】
配列が確認されたプラスミドpMTL83151_pyrE修復_Pfdx_CADD-ROP-OVA1およびpMTL83151_pyrE修復_Pfdx_CADD-ROP-HPVを、大腸菌CA434接合伝達ドナー(conjugation donor)に形質転換した。上記の通り配列を確認した後、大腸菌CA434を、50μg/mLカナマイシンおよび12.5μg/mLクロラムフェニコールを添加したLB中で一晩増殖させ、15%グリセロールストックとして-80℃で保管した。
【0182】
それぞれのプラスミドを有する復活した大腸菌CA434の新鮮なコロニーを用いて、50μg/mLカナマイシンおよび12.5μg/mLクロラムフェニコールを添加したLBブロスに播種した。一晩インキュベートした後、培養物を用いて新鮮な補充培地に1:10で播種し、OD600が0.5~0.7に達するまでインキュベートした。1mLの体積の培養物を取り出し、5,000×gで3分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを500μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液に再懸濁した。培養物を上記のように遠心分離し、上清を捨てた。
【0183】
復活したクロストリジウム・ブチリカムCHN-0.1(野生型CHN-0のΔpyrE誘導体)の新鮮なコロニーを用いて、段階希釈シリーズを2%グルコースおよび1%CaCOを添加した新鮮な予め還元したRCMブロスに播種した。嫌気性条件で一晩インキュベートした後、増殖を示す最大希釈培養物を用いて、新鮮な補充培地に1:10で接種し、OD600が0.5~0.7に達するまでインキュベートした。1mLの体積の培養物を取り出し、50℃で10分間熱処理した。
【0184】
そのように処理した大腸菌CA434およびクロストリジウム・ブチリカムの両方を嫌気性ワークステーションに移し、5:1(OD600:OD600)の比率で混合した。接合混合物を予め還元した非選択的RCM寒天プレート上にスポットし、直立状態で一晩培養した。インキュベーション後、混合物を500μLの新鮮な予め還元したRCMブロス中に採取し、250μg/mLのD-サイクロセリンおよび15μg/mLのチアンフェニコールを添加した新鮮な予め還元したRCM寒天プレートに100μLの体積で撒いた。ウラシル原栄養性が回復した変異体を選択するために、チアンフェニコール耐性コロニーをCBM寒天プレートに繰り返しパッチプレートし(patch plate)、チアンフェニコール含有選択的RCM寒天プレートでプラスミド喪失をクロスチェックした。プラスミドを失った原生生物コロニーのゲノムDNAを、GenElute(商標)バクテリア用ゲノムDNAキット(SIGMA-Aldrich)を用いて製造業者の指示に従って単離し、シークエンシングに用いて、統合領域、プロモーター、それぞれのROP配列にまたがるプライマーを用いて、クロストリジウム・ブチリカムの染色体におけるCADD-ROPカセットの存在を確認した(表3)。

表3:CADD-ROPカセットの配列確認に用いたプライマー
【0185】
ROPカセットを染色体に組み込むと、構成的プロモーターの制御下で単一コピーが導入される。これにより細胞内のタンパク質の発現と産生が低下するが、これは、より強力なプロモーターの使用および/または遺伝子の複数コピーの挿入によって調整できる。

クロストリジウム・ブチリカムにおけるROPの発現の確認
【0186】
復活したクロストリジウム・ブチリカムCHN-2(CADD-ROP-HPV)およびCHN-3(CADD-ROP-OVA1)の新鮮なコロニーを用いて新鮮な予め還元した補充RCMブロスに段階希釈で播種し、一晩増殖させた。増殖を示す最大希釈培養物を用いて新鮮な予め還元した補充RCMブロスに、0.05の開始OD600で播種した。OD600が1、2、および4となるまで増殖したとき、および24時間インキュベートした後、1/mLのOD600と同等量を13,000×gで2分間遠心分離した。ペレットを45μLの5×SDSローディング色素(20%(V/V)0.5トリス-塩酸塩pH6.8、23%(V/V)グリセロール、40%(V/V)の10%(w/V)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液、10%(V/V)2-メルカプトエタノール、10mL dHO、ブロモフェノールブルー)中に再懸濁し、98℃で15分間熱処理した。
【0187】
最大40μL/ウェルの再懸濁ペレットをNovex(商標)WedgeWell(商標)12%トリスグリシンミニゲル(Thermo Fischer Scientific)にロードし、室温で200Vを用いて1×SDS緩衝液(25mMトリス、192mMグリシン、0.1%SDS)中で泳動した。PageRuler(商標)染色済みタンパク質ラダー(Thermo Fischer Scientific)をマーカーとして5μL/ウェルにてロードし、E.coli Positive Control Whole cell lysate ab5395(abcam)をFLAGタグ陽性対照として、1:5希釈で用いた。
【0188】
分離したタンパク質を、Tran-Blot(登録商標)Turbo(商標)ブロッティングシステム(BioRad)をTrans-Blot(登録商標)Turbo(商標)パックとともに、製造者の指示に従って使用することにより、PVDFメンブレンにブロットした。FLAGタグ付きタンパク質を検出するために、PVDFメンブレンをまず、TBS-Tブロッキング緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、0.1%Tween20、pH7.4、5%(w/V)粉乳)中で1時間、室温にて振盪プラットフォーム上でインキュベートした。次いで、ブロッキング緩衝液をAnti-FLAG tag(登録商標)抗体アルカリホスファターゼ複合体(1:5,000;Sigma)を含むTBS-T緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、0.1%Tween20、pH7.4)で置き換え、室温で2時間、振盪プラットフォーム上でインキュベートした。メンブレンを、TBS-T緩衝液中において室温で5分間、2回洗浄し、TBS緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、pH7.4)中において室温で5分間、1回洗浄した。SIGMAFAST BCIP(登録商標)/NBT基質(SIGMA Aldrich)を製造者の指示に従って使用することにより、アルカリホスファターゼの検出を行った。

実施例2:樹状細胞株によるクロストリジウム・ブチリカムの貪食およびサイトカイン応答の誘導
【0189】
マウスDC2.4細胞培養におけるベースライン研究では、これらの細胞が栄養細胞およびクロストリジウム・ブチリカムの胞子を貪食できることが示され、これはこれらの細菌細胞内で発現されるROPタンパク質の送達を成功させるための必要条件である。
【0190】
DC2.4細胞の細胞培養物を、野生型株CHN-0の栄養細胞および胞子に曝露した。CHN-0は、栄養型または胞子型のいずれかで、貪食によってDC2.4細胞に取り込まれた(図5参照)。
【0191】
その後、これらの暴露されたDC2.4細胞培養物のサイトカインプロファイルを、R&D systemsのProteome Profiler(登録商標)マウスサイトカインアレイパネル(表1および2)を用いて評価した。CHN-0と培地対照に対する応答には差が認められた。
表1:Proteome Profiler(登録商標)マウスサイトカインパネルにおけるスポット密度
表2:選択したサイトカインおよびそれらの機能
【0192】
これらの予備実験から、培養DC2.4細胞が栄養細胞または胞子のいずれかに曝露された場合、CHN-0野生型株は培養DC2.4細胞からのサイトカインの放出を引き起こすことができると結論付けられた。これらのサイトカインは、白血球の動員(NK細胞)、自然免疫および適応免疫の活性化に関連していると考えられる。
材料及び方法
細胞株
【0193】
DC2.4細胞(ATCC(登録商標)番号:CRL-11904(商標))を、10%(V/V)のウシ胎仔血清、1×MEM非必須アミノ酸および1×1M HEPES緩衝液(全てSigma Aldrich)を添加したRPMI1640培地で37℃、5%CO2下で維持した。

貪食アッセイ
【0194】
DC2.4を、96ウェル細胞培養プレートに2×10細胞/ウェルの密度で播種した。CHN-0栄養細胞を、製造者の指示に従ってpHrodo Red(Life Technologies)で染色し、2×10細胞/ウェルの濃度で加えた。DC2.4細胞をCHN-0細胞と一緒に3時間インキュベートした後、Celigo Image Cytometerを用いて画像化した。

DC2.4細胞ベースライン研究
【0195】
サイトカインプロファイルは、Proteome Profiler Mouse Cytokine Array Kit(R&D systems)を用いて、製造者の指示に従い評価した。DC2.4細胞を、12ウェル細胞培養プレートに5×10細胞/ウェルの密度で播種した。DC2.4細胞を1×10CHN-0細胞/ウェルとともに一晩インキュベートした。細胞培養上清をその後の分析に使用した。細胞を細胞培養プレートから剥離し、遠心分離した。700μLの体積の上清を、Proteome Profilerキットに付属の検出抗体カクテル(Detection Antibody Cocktail)とともに、室温で1時間インキュベートした。この混合液を、前処理したメンブレンに加え、振盪プラットフォーム上において4℃で一晩、穏やかに振盪させた。次いで、メンブレンを洗浄緩衝液(Wash buffer)でリンスした後、HRP標識ストレプトアビジン(Streptavidin-HRP conjugation)と、Chemi Reagent混合液(Chemi Reagent mixture)による発色を行った。メンブレンをX線フィルムに10分間露光し、ImageJソフトウェアでスポット強度を定量化した。

実施例3:遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムでのマウスの経口免疫
【0196】
インビボ免疫実験を実施することにより、T細胞応答の探索に焦点を当て、ROPタンパク質変異体を発現する遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムの胞子を用いてROP抗原を送達し、免疫応答を誘導できるかどうかを評価した。マウスに、28日間にわたり隔週で、胞子を強制経口投与するか、または精製ROPタンパク質を皮下注射し、42日後にマウスを屠殺した。
【0197】
屠殺後に単離した脾細胞を用いたIFN-γ ELISPOTアッセイにより、強制経口投与により抗原を発現するクロストリジウム・ブチリカム株で免疫したマウスが抗原特異的T細胞応答を生成することが実証された。具体的には、ROP-HPVを発現する株で免疫したマウスは、CD4およびCD8T細胞応答の両方を生成する(図6参照)が、ROP-OVAを発現する株で免疫したマウスは、それぞれの抗原に特異的なCD4T細胞応答を生成する(図7参照)。重要なことに、マウスはクロストリジウム・ブチリカム株そのものを標的としたT細胞免疫応答を生成しない。
【0198】
野生型および遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムの胞子を用いて免疫したマウス由来の糞便サンプルの社内評価により、最初の免疫イベントの7時間後から糞便中で菌株が検出され得ることが実証された。

材料及び方法
インビボ実験
【0199】
動物を、巣材を備えた個別に換気されたケージに収容した。マウスには餌(ペレットとして提供)および水を自由に摂取させた。全ての手順は、1986年制定の動物(科学的処置)法(Animal Scientific Procedures Act 1986)およびオックスフォード大学委員会のガイドラインに従って、内務省ライセンス30/3197に基づくプロトコルに従って行われた。
【0200】
免疫実験のために、6週齢の雌マウスをランダムに5匹ずつのグループに分けた。消化管を通じた免疫化を、100μLのPBS中のCADD-ROP-HPVまたはCADD-ROP-OVAの胞子、すなわち、遺伝子改変CHN株(CHN-ROP-HPVまたはCHN-ROP-OVAと称される)の1×10CFUを強制経口投与することによって実施した。CHN-0野生型胞子およびPBSを対照として、同じ条件で与えた。非経口免疫は、100μLのフロイントアジュバント(初回(prime)免疫、0日目)または不完全フロイントアジュバント(追加免疫、14日目および28日目)中の100μgのROP-HPVまたはROP-OVAタンパク質の皮下注射によって行われた。各グループのマウスを0日目、14日目、28日目に3回免疫し、42日後に屠殺した。各投与イベントの3時間後および7時間後に糞便サンプルを収集した。全血および血清サンプルは、各投与イベントおよび屠殺時に収集された。脾臓を屠殺時に単離した。
表3
単核細胞の単離
【0201】
脾細胞およびPBMCを、製造者の指示に従ってFicoll-Paque 1.084密度勾配(GE healthcare)を使用して、それぞれ、均質化した脾臓および末梢全血サンプルから単離した。細胞懸濁液または全血をFicoll-Paque培地に重層し、室温にて400×gで20~30分間遠心分離した。単核細胞単離物を平衡塩類溶液で洗浄して残留混入物を除去した。
【0202】
T細胞の精製のため、1つの免疫グループから単離した単核細胞をプールし、CD8a(Ly-a)MicroBeads(Miltenyi Biotec)を製造者の指示に従って使用して精製した。90μLの体積のMACS緩衝液(PBS、0.5%ウシ血清アルブミン、2mM EDTA、pH7.2)を用いて、1×10細胞を再懸濁し、その後、MicroBeadsを添加し、4℃で10分間インキュベートした。CD8T細胞を保持するために、細胞懸濁液を磁場中でMACS LSカラムにアプライした。フロースルーを2回収集し、CD4T細胞特異的実験に用いた。続いて、磁場を使用せずに緩衝液をアプライすることによってCD8T細胞を溶出した。CD4およびCD8T細胞は両方とも、ELISPOT実験で使用する前にRPMI培地に再懸濁した。

IFN-γ T細胞ELISPOT
【0203】
IFN-γ遊離の検出のために、マウスIFN-γ T細胞ELISPOTキット(U-CyTech Bioscience)を、製造者の指示に従って用いた。100μL RPMI/ウェル中の合計2.5×10個のT細胞を、抗IFN-γ抗体で予めコーティングしたプレートに添加し、野生型HPVタンパク質、ROP-HPVタンパク質、ROP-OVAタンパク質(それぞれ5μg/ウェル)、または0.5×10CFU/ウェルのCHN-0栄養細胞のいずれかで再刺激した。コンカナバリンA(Sigma Aldrich)を陽性対照として5mg/mLの濃度で添加した。プレートを37℃および5%COで一晩インキュベートした後、ビオチン化検出抗体を添加し、続いてGABA結合体とインキュベートし、アクチベーターI/II溶液とインキュベートしてスポットを形成させた。Celigo Image Cytometerを使用してスポットをスキャンし、ImageJソフトウェアを使用して定量化した。

実施例4:クロストリジウム中の細胞内CtxB抗原を用いたマウスの免疫
【0204】
コレラ腸管毒素サブユニットB(CtxB)は、コレラ菌のコレラ腸管毒素の五量体環を構成する、13kDaのサブユニットタンパク質である。コレラ腸管毒素サブユニットBは、Aサブユニットと一緒にホロ毒素(コレラゲン)を形成する。ホロ毒素はBサブユニットの五量体環で構成されており、その中央孔はAサブユニットによって占められている。Aサブユニットには、ジスルフィド架橋によって結合された2つの鎖、A1およびA2が含まれている。Bサブユニットの五量体環は、腸上皮細胞の表面に存在するGM1ガングリオシドに結合することによって、Aサブユニットをその標的に導く。5つのGM1ガングリオシドに結合できる。それ自体には有毒な活性はない。

遺伝子コンストラクトおよびプラスミド
【0205】
CADD-CtxB経口ワクチン開発のために、CtxBをコードするタンパク質配列(配列番号24)を、UniProtKB提出番号(submission)P01556から、シグナル配列(MIKLKFGVFFTVLLSSAYAHG(配列番号19))を除去し、C-末端FLAGタグ(DYKDDDDK(配列番号18))を加えて、決定した。遺伝子改変用に含まれるさらなる変更として、aaメチオニン(M、ATG)に対するヌクレオチドシグナルを組み込んだNdeI切断部位(CATATG)および停止コドンTAAによってFLAGタグから分離されたNheI切断部位のヌクレオチド配列(GCTAGC)を含む(図9)。CtxB_FLAGコンストラクトは、GeneWizによってクロストリジウム・ブチリカムへの遺伝子改変用にコドン最適化されてp0957プロモーターの後ろに合成され、サブクローニングのためにGeneWizに提出するpMTL83151-pyrE修復ベクターにクローニングした。

クロストリジウム・ブチリカムの遺伝子改変
【0206】
pMTL83151-pyrE修復_p0957_CtxB-FLAGプラスミドを、大腸菌DH5αに形質転換し、12.5μg/mLクロラムフェニコールを添加したLB中で一晩増殖させ、15%(V/V)グリセロールストックとして-80℃で保管した。
【0207】
クロストリジウム・ブチリカムにおけるプラスミドベースの細胞内発現のための正確なプラスミドにクローニングするために、pMTL83151-pyrE修復_p0957_CtxB-FLAGプラスミドを、Wizard Plus SV Miniprep DNA Purification kit(Promega)を製造者の指示に従って用いて、DH5αから抽出し、p0957-CtxB-FLAGコンストラクトを、製造者の指示に従って制限酵素NotIおよびNheIをCutSmart(登録商標)緩衝液(全て、New England Biolabs Inc)中で用いて、プラスミドから切り出した。単離したカセット(p0957プロモーターを含む)をpMTL82151(pBP1グラム陽性レプリコン、catP抗生物質マーカー、ColE1グラム陰性レプリコン、traJ接合伝達機能、およびマルチクローニングサイト(MCS))に導入した。増殖のためにプラスミドを大腸菌DH5αに形質転換した。プラスミドを前述と同様に単離し、カセットが正しく挿入されていることを確認するためにGeneWizシークエンシングサービスを用いて配列決定した。
【0208】
配列が確認されたプラスミドpMTL82151_p0957-CtxB-FLAGを、大腸菌CA434接合伝達ドナーに形質転換した。上記の通り配列を確認した後、大腸菌CA434を、50μg/mLカナマイシンおよび12.5μg/mLクロラムフェニコールを添加したLB中で一晩増殖させ、15%グリセロールストックとして-80℃で保管した。
【0209】
CtxB-FLAGプラスミドを有する復活した大腸菌CA434の新鮮なコロニーを用いて、50μg/mLカナマイシンおよび12.5μg/mLクロラムフェニコールを添加したLBブロスに播種した。一晩インキュベートした後、培養物を用いて新鮮な補充培地に1:10で播種し、OD600が0.5~0.7に達するまでインキュベートした。1mLの体積の培養物を取り出し、5,000×gで3分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを500μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液に再懸濁した。培養物を上記のように遠心分離し、上清を捨てた。
【0210】
復活したクロストリジウム・ブチリカムCHN-0の新鮮なコロニーを用いて、段階希釈シリーズを2%グルコースおよび1%CaCO3を添加した新鮮な予め還元したRCMブロスに播種した。嫌気性条件で一晩インキュベートした後、増殖を示す最大希釈培養物を用いて、新鮮な補充培地に1:10で接種し、OD600が0.5~0.7に達するまでインキュベートした。1mLの体積の培養物を取り出し、50℃で10分間熱処理した。
【0211】
そのように処理した大腸菌CA434およびクロストリジウム・ブチリカムCHN-0の両方を嫌気性ワークステーションに移し、5:1(OD600:OD600)、通常は1mLの大腸菌に0.2mLのクロストリジウム・ブチリカムの比率で混合した。接合混合物を予め還元した非選択的RCM寒天プレート上にスポットし、直立状態で一晩培養した。インキュベーション後、混合物を500μLの新鮮な予め還元したRCMブロス中に採取し、250μg/mLのD-サイクロセリンおよび15μg/mLのチアンフェニコールを添加した新鮮な予め還元したRCM寒天プレートに100μLの体積で撒いた。プラスミドを有するクロストリジウム・ブチリカムCHN-0を選択するために、チアンフェニコール耐性コロニーをRCM+15μg/mLチアンフェニコール寒天プレートに繰り返しパッチプレートした。チアンフェニコール耐性コロニーのゲノムDNAを、GenElute(商標)バクテリア用ゲノムDNAキット(SIGMA-Aldrich)を用いて製造者の説明書に従って単離してシークエンシングに用い、MCSにまたがるプライマーを用いることによってpMTL82151_p0957-CtxB-FLAGプラスミドの存在を確認した(表4)。

表4:pMTL82151_p0957-CtxB-FLAGプラスミドを含むクロストリジウム・ブチリカムCHN-0コロニーの配列確認に用いたプライマー
【0212】
pMTL82151-p0957-CtxB-FLAGプラスミドをクロストリジウム・ブチリカムCHN-0に導入すると、クロストリジウム・ブチリカム細胞質内でのマルチコピープラスミドからのCtxB完全タンパク質の高発現がもたらされる。

クロストリジウム・ブチリカムにおけるCtxBの発現の確認
【0213】
復活したクロストリジウム・ブチリカムCHN-0およびpMTL82151-p0957-CtxB-FLAGの新鮮なコロニーを用いて、15μg/mLチアンフェニコールを添加した新鮮な予め還元した補充RCMブロスに段階希釈で播種し、一晩増殖させた。増殖を示す最大希釈培養物を用いて15μg/mLチアンフェニコールを添加した新鮮な予め還元した補充RCMブロスに、0.05の開始OD600で播種した。OD600が1、2、および4となるまで増殖した時に、2/mLのOD600と同等量を13,000×gで2分間遠心分離した。ペレットを40μLの5×SDSローディング色素(20%(V/V)0.5トリス-塩酸塩pH6.8、23%(V/V)グリセロール、40%(V/V)の10%(w/V)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液、10%(V/V)2-メルカプトエタノール、10mL dHO、ブロモフェノールブルー)中に再懸濁し、98℃で15分間熱処理した。
【0214】
最大20μL/ウェルの再懸濁ペレットをNovex(商標)16%トリシンミニゲル(ThermoFischer Scientific)にロードし、室温で140Vを用いて1×Novex(商標)トリシンSDS泳動用緩衝液(ThermoFisher Scientific)中で泳動した。Spectra(商標)マルチカラーローレンジタンパク質ラダー(Multicolor Low Range Protein Ladder)(Thermo Fischer Scientific)をマーカーとして10μL/ウェルにてロードし、E.coli Positive Control Whole cell lysate ab5395(abcam)をFLAGタグ陽性対照として、1:5希釈で用いた。
【0215】
分離したタンパク質を、Tran-Blot(登録商標)Turbo(商標)ブロッティングシステム(BioRad)をTrans-Blot(登録商標)Turbo(商標)パックとともに、製造者の指示に従って使用することにより、PVDFメンブレンにブロットした。FLAGタグ付きタンパク質を検出するために、PVDFメンブレンをまず、TBS-Tブロッキング緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、0.1%Tween20、pH7.4、5%(w/V)粉乳)中で1時間、室温にて振盪プラットフォーム上でインキュベートした。次いで、ブロッキング緩衝液をAnti-FLAG tag(登録商標)抗体アルカリホスファターゼ複合体(1:5,000;Sigma)を含むTBS-T緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、0.1%Tween20、pH7.4)で置き換え、室温で2時間、振盪プラットフォーム上でインキュベートした。メンブレンを、TBS-T緩衝液中において室温で5分間、2回洗浄し、TBS緩衝液(50mMトリス-塩酸塩、150mM塩化ナトリウム、pH7.4)中において室温で5分間、1回洗浄した。SIGMAFAST BCIP(登録商標)/NBT基質(SIGMA Aldrich)を製造者の指示に従って使用することにより、アルカリホスファターゼの検出を行った。図10に発現を示す。CtxB-FLAGタンパク質はウェスタンブロットで高レベルに検出され、OD1.0まで培養した細胞の比体積で900ngに相当した。よって、OD1.0の細胞密度を0.3g/Lであると仮定すると、タンパク質は3μg/mg乾燥細胞重量であると推定される。

免疫原性試験
【0216】
インビボ免疫実験を実施することにより、細胞性および体液性応答に焦点を当て、CtxB抗原を発現する遺伝子改変クロストリジウム・ブチリカムの胞子が抗原を送達し、免疫応答を誘導できるかどうかを評価した。クロストリジウム・ブチリカム胞子は上記の通り生成される。C57BL/6マウスに、野生型CADD株(陰性対照)またはpMTL82151-p0957-CtxB-FLAGプラスミドからのCtxBを発現するCADDワクチン株を、1×10CFU/用量を、1週間間隔で3回、経口投与する。第3のグループには、陽性対照として現在市販されている経口コレラワクチンを投与する。全体を通して臨床的観察を行い、試験品の忍容性(体重の変化、および猫背もしく被毛の立毛などの身体的外観)を判定する。
表5
【0217】
屠殺時に脾臓を採取し、単一細胞懸濁液に処理し、CD4細胞とCD8細胞を個別に精製して、ELISPOTアッセイでIFN-γ遊離を介したCD4/CD8特異的T細胞応答を決定する(上述の材料と方法に記載)。CD4T細胞応答は、腸特異的組織(小腸および結腸)でも分析され、ここでは、Di Luccia et al(2020)Cell Host & Microbe 27:899-908に記載の通り、組織を抽出し、粘液溶解酵素(mucolytic enzyme)およびEDTAで処理し、単一細胞懸濁液に消化する。この懸濁液から単離されたCD4T細胞は、抗原提示細胞(APC、市販のCtxB抗原に事前に曝露されている)で再刺激され、細胞表面のCD40リガンド発現の変化が、Hegazy et al(2017)Gastroenterology 153:1320-1337に記載されているようにフローサイトメトリーによって評価される。
【0218】
終了時に腸内容物を抽出し、抗原特異的体液性応答をELISAアッセイで評価し、CtxB特異的分泌型IgA(sIgA)産生を総IgAに対する割合として、Di Luccia et al(2020)Cell Host & Microbe 27:899-908に記載されているように決定する。

予期された結果
【0219】
CADDプラットフォームにより発現される細胞内ROPで示されたように、CD4/CD8T細胞のELISPOTアッセイでは、細胞内CtxB抗原を発現するCADD株で免疫したマウスが、CD4応答がより強調された抗原特異的T細胞応答を生成すると予想される。重要なことに、CHN-0野生型株で免疫したマウスがT細胞応答を生成することは期待できない。
【0220】
腸特異的組織評価では、刺激後にCD4T細胞によってCD40リガンドが急速に上方制御されるため、CD40リガンドが使用される。そのため、APCを介してCD4細胞を再刺激すると、野生型CADDグループと比較してCtxBを発現するCADDを投与したグループでCD40リガンドの発現が増加し、CtxB特異的なCD4T細胞応答が示されると予想される。
【0221】
古典的に、B細胞の刺激と抗体の産生にはCD4T細胞の刺激が必要であるため、コレラワクチンにおいて強いCD4T細胞応答が防御の良い相関関係として一般的に受け入れられている。sIgA抗体応答はコレラ菌に対する防御免疫において重要であることも知られているため、CtxB特異的分泌型IgA(sIgA)の産生を評価することによって粘膜免疫の体液性応答を決定することも目指している。ELISAにより、野生型CADDプラットフォーム単独と比較して、CADD-CtxB経口ワクチンの投与に応答した抗原特異的なsIgAの増加が確認できることが予期される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
【配列表】
2024502939000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
適切なプロモーターは細胞増殖中に活性であり、構成的プロモーターであってもよい。一次代謝に必須の遺伝子のプロモーターは、適切な構成的プロモーターでありうる。抗原の発現レベルは、強力なプロモーターなどの選択された強度を有するプロモーターを用いて遺伝子発現を制御することによって最適化され得る。適切には、ネイティブなクロストリジウムのプロモーターが用いられる。適切なプロモーターとしては、クロストリジウム・パーフリンジェンスのfdx遺伝子プロモーター(Takamizawa et al(2004)Protein Expression Purification 36:70-75);クロストリジウム・アセトブチリカムのptbおよびthlプロモーター(Tummala et al(1999)App.Environ.Microbiol.65:3793-3799)およびクロストリジウム・アセトブチリカム由来のチオラーゼプロモーター(Winzer et al(2000)J.Mol.Microbiol.Biotechnol.2:531-541)が挙げられる。他の適切なプロモーターは、クロストリジウム・アセトブチリカムのhbd、crt、etfA、etfBおよびbcdプロモーター(Alsaker and Papoutsakis(2005)J Bacteriol 187:7103-7118)、およびp0957プロモーター;ならびに、pMTL80000モジュラーシャッフルプラスミド(Heap et al.(2009)A modular system for Clostridium shuttle plasmids,Journal of Microbiological Methods,78:79-85)から得ることができる、クロストリジウム・スポロゲネス由来のfdx プロモーター(NCIMB10696)であってよい。好ましくは、選択可能なマーカー遺伝子のプロモーターは、クロストリジウム・アセトブチリカムのthl遺伝子のプロモーター、クロストリジウム・パーフリンジェンスのfdx遺伝子プロモーター、またはクロストリジウム・スポロゲネスのfdx遺伝子プロモーターである。
【国際調査報告】