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特表2024-502967補強充填材料を有する伝播障壁及びその製造方法
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  • 特表-補強充填材料を有する伝播障壁及びその製造方法 図1
  • 特表-補強充填材料を有する伝播障壁及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】補強充填材料を有する伝播障壁及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/202 20210101AFI20240117BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20240117BHJP
   H01M 50/242 20210101ALI20240117BHJP
   H01M 50/229 20210101ALI20240117BHJP
   H01M 50/222 20210101ALI20240117BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20240117BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20240117BHJP
【FI】
H01M50/202 401H
H01M50/293
H01M50/242
H01M50/229
H01M50/222
H01M50/227
H01M50/224
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540559
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2022083528
(87)【国際公開番号】W WO2023094666
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021131311.2
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506064072
【氏名又は名称】ツェントゥルム フューア ゾンネンエネルギー-ウント ヴァッサーシュトッフ-フォルシュング バーデン-ヴァルテムベルク ゲマインニュッツィヒ シュティフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】バウシュ ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ベヒャー ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ベーゼ オラフ
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H040AT06
5H040AY05
5H040LL01
5H040LL04
5H040LL06
(57)【要約】
本発明は、マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するための障壁(いわゆる「伝播障壁」)であって、ヒドロゲル及び補強充填材料に基づく吸熱保護層を含む障壁に関する。さらには、本発明は、この障壁を含む電池モジュール、及び電池モジュール内の体積変動を補償するための当該障壁の使用に関する。加えて、当該伝搬障壁の製造方法も規定されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するための障壁であって、
70.0~97.5重量%のヒドロゲルと2.5~30.0重量%の補強充填材料とを含む吸熱保護層
を含み、
前記ヒドロゲルはマトリクス材料及び水を含み、前記補強充填材料は前記ヒドロゲル中に分散している、障壁。
【請求項2】
前記保護層は、水蒸気に対して不透過性の箔内に封入され、前記水蒸気に対して不透過性の箔は、好ましくは、ポリマー箔、金属箔又はこれらの箔の積層体であり、前記ポリマー箔は、より好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは前記金属箔はアルミニウム箔である請求項1に記載の障壁。
【請求項3】
前記マトリクス材料は、少なくとも85%の天然ポリマーからなり、前記天然ポリマーは、好ましくは、アルギン酸、寒天、デンプン、デンプン誘導体、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、ペクチン、ジェラン、スクレログルカン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項4】
前記マトリクス材料は、少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%のアルギン酸カルシウムからなる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項5】
前記マトリクス材料は、15重量%までの増粘剤をさらに含み、前記増粘剤は、好ましくはセルロース誘導体、特にヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/若しくはカルボキシセルロース、グアーガム、キサンタンガム、又はこれらの混合物からなる群から選択される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項6】
前記補強充填材料は、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、これらの物質の水和物、及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項7】
前記ヒドロゲルは、5~30重量%のマトリクス材料及び70~95重量%の水を含有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項8】
前記保護層は、0.25~10.0mmの厚さ、好ましくは1.5~3.0mmの厚さを有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項9】
前記吸熱保護層は通路開口部を有し、前記保護層における前記通路開口部の体積割合は、好ましくは1%~90%、より好ましくは8%~80%、特に好ましくは10%~75%であり、特に20%~60%である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項10】
前記吸熱保護層は通路開口部を有し、各通路開口部は、好ましくは0.025mm~50.0mm、より好ましくは0.5mm~8.0mm、特に2.0mm~5.0mmの断面積を有する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の障壁。
【請求項11】
電池モジュール内の体積変動を補償するための請求項9又は請求項10に記載の障壁の使用。
【請求項12】
複数の電池セルと、少なくとも1つの請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の障壁とを含み、前記障壁は2つの隣接する電池セル間に配置される、電池モジュール。
【請求項13】
前記電池セルはリチウムイオンセルである請求項12に記載の電池モジュール。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の障壁の製造方法であって、吸熱保護層が製造される、方法。
【請求項15】
前記吸熱保護層は、
i)アルギン酸ナトリウム粉末、補強充填材料及び水を混合して高粘性の塊を形成する工程と、
ii)前記塊を、平坦な表面上又は平面状底部を有する型内に注ぐ工程と、
iii)注型された前記塊を、カルシウムイオンを含有する溶液で湿潤させるか、又はカルシウムイオンを含有する溶液に浸漬する工程と
によって製造される請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するための障壁(いわゆる「伝播障壁」)であって、ヒドロゲル及び補強充填材料に基づく吸熱保護層を含む障壁に関する。さらには、本発明は、この障壁を含む電池モジュール、及び電池モジュール内の体積変動を補償するための当該障壁の使用に関する。加えて、当該伝搬障壁の製造方法も規定されている。
【背景技術】
【0002】
原則として、熱事象は、すべての電池タイプで起こり得る。最も懸念される熱事象の1つは、電池の熱暴走である。これは、電池が熱を発生する速度が、熱を放散することができる速度を超える場合に起こる可能性がある。臨界温度を超えると、電池内部で起こる発熱プロセスはそれ自体を強化し、電池は非常に短時間で数100℃まで加熱する。同時に、セル(単電池)内の圧力が極端に上昇し、分解ガスの爆発的漏出及び火災をもたらす可能性がある。
【0003】
マルチセル電池モジュールでは、そのような熱事象から生じる危険は数倍高まる。個々のセル間の間隔は、熱暴走伝播に対する充分な保護を提供しない。熱暴走によって影響を受けるセル内で生じる高温により、隣接するセルも臨界温度を超えて加熱される。従って、単独のセルの熱暴走は、電池モジュール全体の破壊につながりやすい。
【0004】
リチウムイオン電池は、特に熱暴走の影響を受けやすい。これらの電池は、他の電池タイプよりも著しく高いエネルギー密度を有し、もしあれば、高い割合で酸素を含む分解ガスを放出する可能性があり、この高い割合の酸素は、故障の場合にさらに高い温度をもたらす可能性がある。電池モジュールの空間要件が重要である応用分野では、多くの電池製造業者は、リチウムイオンセルの充填密度を最大まで増加させ始めている。その結果、熱事象の伝播を防止するための障壁に利用可能な空間はごくわずかであり、多くの場合、セル間の断熱が不充分となる。
【0005】
この背景から、従来技術では、電池用の異なる障壁材料が提案されている。
【0006】
国際公開第2010/017169A1号パンフレットも、マルチセル電池パック、とりわけリチウムイオン電池パックにおける熱暴走の問題に対処し、熱事象が1つの電池セルから隣接する電池セルに伝達されるのを防止するための戦略を提案する。この目的のために、熱吸収材料としてヒドロゲルを用いた伝播障壁が特定される。ヒドロゲルは、可撓性バッグ又は寸法安定性容器内に保持され、電池モジュール内に配置される。可撓性パウチ包装は、電池セルからヒドロゲルへの熱伝達を確実にするように、電池セルの形状に適合する。容器は、セル表面とも接触するように状況に合わせて作製することができる。しかしながら、両方とも改善の必要がある。この要素は、限られた程度にしか障壁として機能することができない。ヒドロゲルがパウチ包装で提供される実施形態では、隣接するセルの熱暴走に耐えるであろう、セル間のスペーサはない。水が蒸発し、ヒドロゲルのマトリクス材料が分解すると、隣接するセルは互いに直接接触することができる。ヒドロゲルが容器内に提供される実施形態では、セルは互いに直接接触しないが、固体材料から作製された容器壁は熱ブリッジを形成し、この熱ブリッジを通して、ヒドロゲル内に含有される水が蒸発した後、熱事象が展開し続ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/017169A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この先行技術に基づいて、本発明の目的は、マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するという観点から、従来の電池と少なくとも同じ程度に効果的である寸法安定性の熱吸収材料を有する障壁を提供することであった。特に、電池セルの膨張効果を効果的に補償することもできる障壁が開発されるべきであった。加えて、対応する電池モジュールが特定されるべきであった。さらには、本発明は、そのような障壁を製造する方法を規定することを目標としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の障壁、請求項11に記載のその障壁の使用、請求項12に記載の電池モジュール、及び請求項14に記載の方法によって達成される。
【0010】
本発明によれば、マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するための障壁(バリア)であって、70.0~97.5重量%のヒドロゲルと2.5~30.0重量%の補強充填材料とを含有する吸熱保護層を含み、このヒドロゲルはマトリクス材料及び水を含み、補強充填材料はヒドロゲル中に分散している障壁が提供される。
【0011】
高い割合のヒドロゲルに起因して、吸熱保護層は、特に効果的に熱を吸収し、電池モジュール内の隣接するセルを互いから熱的に遮蔽することができる。ヒドロゲルの割合が高いほど、含有され、熱の発生と共に蒸発する水の量が多くなり、熱放散が良好になる。
【0012】
本発明の文脈における補強充填材料は、好ましくは注入可能及び/又は自由流動形態で、特に粉末又は顆粒として存在する粒子状材料を意味すると理解される。従って、予め形成された構造、例えば格子構造及び/又はハニカム構造の形態の担体マトリクスは、用語「補強充填材料」に該当しない。
【0013】
少なくとも2.5重量%の補強充填材料の存在は、吸熱保護層の寸法安定性を保証する。この寸法安定性は、特に、吸熱保護層が自立性であるという事実によって表される。同時に、30重量%の充填材料の最大割合は、保護層が特定の可撓性を保持することを保証する。
【0014】
加えて、上記補強充填材料は、電池モジュール内の隣接するセル間の熱ブリッジの形成を防止することができる。分散により、充填材料は、吸熱保護層内に統計的に分布し、水が蒸発し、マトリクス材料が分解した後でさえも、熱事象の場合に、隣接するセル間の絶縁体として依然として作用することができる。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明に係る障壁における吸熱保護層は、70.0~95.0重量%のヒドロゲル及び5.0~30.0重量%の補強充填材料を含有する。
【0016】
5~30重量%の補強充填材料の添加は、障壁の熱サイクル(凍結/解凍)中のヒドロゲルからの水漏出を最小限に抑える。これにより、障壁は、屋外で使用され冬期条件にさらされる電池及び電池モジュールにおける使用に適したものとなる。
【0017】
より具体的には、本発明の障壁において、吸熱保護層は、80.0~92.5重量%のヒドロゲル及び7.5~20.0重量%の補強充填材料を含有する。
【0018】
この補強充填材料は、好ましくは、0.5~10の範囲のアスペクト比を有する粒子からなり、アスペクト比は、ISO規格9276-6に従って測定される。特に好ましくは、補強充填材料は球状粒子からなる。
【0019】
1つの実施形態では、上記粒子は無機粒子である。この粒子は、好ましくは、1nm~5mm、好ましくは100nm~5mm、特に1000nm~2mmの平均粒子サイズ(粒径)d50を有し、平均粒子サイズd50は、ISO規格13320-1に従って測定される。
【0020】
吸熱保護層は、水蒸気に対して不透過性の箔に包まれるか、又は封入する、例えば溶着することができる。従来の伝播障壁とは対照的に、箔での包装は、ヒドロゲルが意図せずに広がるのを防ぐために必要なのではない。箔は、長期の水分損失から吸熱保護層を保護すること、すなわち、水の拡散損失に対抗することのみを意図している。
【0021】
水蒸気に対して不透過性の箔は、好ましくはポリマー箔、金属箔又はこれらの箔の積層体であり、特に好ましくは0.3mm未満、特に0.2mm未満の箔厚さを有する。ポリマー箔は、特にポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。金属箔はアルミニウム箔であることが好ましい。
【0022】
有利な実施形態では、上記マトリクス材料は、少なくとも85重量%の天然ポリマーからなる。天然ポリマーは、好ましくは生物起源の原材料に基づく。本発明の意味における用語「生物起源の原材料」は、農業及び林業で製造された有機原材料、又は細菌、酵母、真菌、水産養殖又は海洋培養物から単離された有機原材料、並びに動物起源の有機原材料、すなわち、動物の食肉解体の副産物として何らかの方法で生じ、リサイクルを必要とする有機原材料を含む。さらには、本発明の意味の範囲内の「生物起源の原材料」は、DIN EN 13432による生分解性である。生物起源の原材料は、化石原材料及び石油化学ベースのエネルギー源(化学合成プロセスを通して得られかつ/又は生分解性でない物質を含む)とは対照的である。
【0023】
マトリクス材料は、好ましくは、アルギン酸、寒天、デンプン、デンプン誘導体、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、ペクチン、ジェラン、スクレログルカン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される85%の天然ポリマーからなる。
【0024】
上記の多糖の起源及び組成は当業者に公知であるが、個々の多糖を以下でより詳細に論じる。
【0025】
アルギン酸は、褐色の大型藻類の細胞壁の主な構造成分である。それは、ウロン酸β-D-マンヌロネート(M)及びそのC-5エピマーα-L-グルロネート(G)の線状コポリマーであり、1,4-結合した連続M単位(ポリM)若しくはG単位(ポリG)のホモポリマーブロック又は交互M及びG単位(ポリMG)のブロックを含有する。アルギン酸は、その塩、例えばアルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩の形態で、又はエステル化形態で、例えばアルキルエステル、例えばメチルエステルの形態で使用することができる。
【0026】
寒天は、藍藻類又は紅藻類等の藻類の細胞壁からも得られる。これは、多糖アガロースとアガロペクチンとの混合物に本質的に相当し、アガロースは好ましくは混合物の60~80重量%を構成する。アガロースは、グリコシド結合したD-ガラクトース及び3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースから作られる多糖である。アガロペクチンは、β-1,4-グリコシド結合及びα-1-3-グリコシド結合したD-ガラクトース及び3,6-アンヒドロ-L-ガラクトースの多糖である。ガラクトース残基は、約10残基ごとにO-6で硫酸によりエステル化され、さらなる硫酸エステル部分を含有する。寒天は、本発明の意味の範囲内で非常に特に好ましい天然に存在するゲル化剤である。これは、寒天ベースのヒドロゲルが約85℃未満の温度で寸法的に安定であり、この温度を超えるときのみ水を放出するという事実による。
【0027】
κ-カラギーナンは、D-ガラクトース-4-スルフェート及び3,6-アンヒドロ-D-ガラクトースの反復モノマーからなる。ι-カラギーナンは、3,6-アンヒドロ-D-ガラクトース単位がC-2位に追加の硫酸基を有する点でのみκ-カラギーナンとは異なる。両方のカラギーナンは、多数の紅藻類の細胞壁の基本物質として天然に存在する。
【0028】
ジェランは、ラムノース、グルクロン酸、並びに酢酸及びグリセリン酸でエステル化された2つのグルコース反復単位からなる反復単位を含む多糖である。これは、例えば、細菌株シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)による炭水化物の発酵によって産生されることができる。
【0029】
スクレログルカンは、平均して3糖ごとに側鎖としてグルコース部分を有するβ-1,3-グルカンである。スクレログルカンは、好ましくは真菌培養物から得られる。
【0030】
ヒドロゲルのマトリクス材料は、少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%のアルギン酸カルシウムからなることができる。
【0031】
上記マトリクス材料は、15重量%まで、好ましくは5重量%まで、特に1重量%までの増粘剤も含むことができる。増粘剤を添加することにより、吸熱保護層の機械特性をさらに広い範囲で調整することができる。特に、柔軟性又は圧縮性は、それぞれの用途の要件を考慮して、自由に調整することができる。これは、例えば、充放電プロセス中に及び経年劣化の結果として生じ得る電池セルの膨張効果を補償するのに有利である。
【0032】
増粘剤は、好ましくはセルロース誘導体、特にヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/若しくはカルボキシセルロース、グアーガム、キサンタンガム、又はこれらの混合物からなる群から選択される。これらの材料も、「生物起源の原材料」であり、電池製造に対する持続可能なアプローチの一部である。特に、それらは、障壁生成プロセスと関連するCOフットプリントを低減するのに役立つ。
【0033】
補強充填材料は、好ましくは、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、これらの物質の水和物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。上述の材料は低い熱伝導率を有し、適切な粒子サイズで入手可能である。充填材料として水和物を用いた場合には、結晶水も吸熱して蒸発することができるので、保護層の吸熱性がさらに向上する。
【0034】
ヒドロゲルは、5~30重量%のマトリクス材料及び70~95重量%の水を含有するか、又はそれらからなってもよい。特に好ましくは、ヒドロゲルは、5~20重量%のマトリクス材料及び80~95重量%の水を含有するか、又はそれらからなる。
【0035】
吸熱保護層は、0.25~10.0mmの厚さ、好ましくは1.5~3.0mmの厚さ、特に1.5~2.5mmの厚さを有する。その結果、障壁は、電池モジュール内にできるだけ少ない空間しか占めず、依然として、その機能、すなわち、電池モジュール内への設置後に電池セルを互いから熱的に遮蔽する機能を果たす。
【0036】
圧縮性をさらに調整するために、通路開口部を吸熱保護層に設けることができる。伝播障壁に外力が作用していない状態では、通路開口部は保護層における間隙又は穴、すなわち材料で満たされていない空洞である。力が加えられると、保護層を構成する材料混合物は、通路開口部の空洞内に変位することができる。これは、中実材料と比較して保護層の高い圧縮性をもたらす。電池モジュールに含まれる電池セルの体積の可逆的及び不可逆的な変化は、補償されることが可能である。
【0037】
保護層における通路開口部の体積割合は、好ましくは1%~90%、より好ましくは8%~80%、特に好ましくは10%~75%、特に20%~60%である。
【0038】
各通路開口部は、好ましくは0.025mm~50.0mm、より好ましくは0.5mm~8.0mm、特に2.0mm~5.0mmの断面積を有する。
【0039】
断面積は、すべての通路開口部について同一であることができるが、同一である必要はない。ここでは、すべての通路開口部の断面積が同じであると、製造プロセスが簡素化される可能性があることを考慮する必要がある。
【0040】
通路開口部は、円形、楕円形、超楕円形、星形、スリット形、三日月形、ダイヤモンド形、多角形、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される断面形状を有してもよい。非円形断面の使用は、伝播障壁の特定の力-変位曲線又は力-圧縮曲線をもたらす。例えば、星形の通路開口部を使用することによって、非常に小さな力の作用で特定のレベルの圧縮が達成されるが、障壁をさらに圧縮するためにかなり大きい力が必要とされるという力-変位曲線を実現することができる。
【0041】
好ましい実施形態では、通路開口部は、特に、その縁部よりも伝搬障壁の中心に近い第1の領域において、通路開口部の表面密度ρが存在し、伝搬箔の中心よりも伝搬箔の縁部に近い第2の領域において、通路開口部の表面密度ρが存在し、ρ≠ρであるように、不均等に分布している。概して、保護層における通路開口部の分布は、電池モジュールの構造及び幾何形状に適合されるべきである。これは、隣接する電池セルが動作中により大きい可逆的かつ不可逆的な膨張を有する場合に、より大きい面積密度の通路開口部が存在することを意味する。本発明の文脈において、面積密度は、伝播障壁の表面要素に対する通路開口部の断面積の割合を意味するものとして理解されるべきである。
【0042】
さらには、通路開口部の断面は、保護層の厚さにわたって一定であることができ、あるいは、狭くても広くてもよい。
【0043】
上記の記述から、本発明のさらなる態様は、電池モジュール内の体積変動を補償するための当該障壁の使用であることが明らかである。体積変動は、充放電プロセス中の可逆的な膨張効果、又は電池セルの経年劣化による不可逆的な膨張効果に起因してもよい。
【0044】
本発明は、複数の電池セルと、上述の障壁のうちの少なくとも1つとを含む電池モジュールも提供する。この障壁は、好ましくは、電池モジュール内に2つの隣接する電池セルの間に配置される。
【0045】
リチウムイオン電池は特に熱暴走の影響を受けやすいので、電池モジュール内の電池セルがリチウムイオンセルである場合も有利である。
【0046】
最後に、本発明は、本発明に係る障壁の製造方法も規定する。このプロセスでは、まず、吸熱保護層が製造される。
【0047】
吸熱保護層の製造は、好ましくは、以下の工程i)~iii)を含む。
i)アルギン酸ナトリウム粉末、補強充填材料及び水を混合して高粘性の塊を形成し、
ii)この塊を、平坦な表面上又は平面状底部を有する型内に注ぎ、
iii)注型された塊を、カルシウムイオンを含有する溶液で湿潤させるか、又はカルシウムイオンを含有する溶液に浸漬する。
【0048】
次いで、硬化後に、塊を水蒸気に対して不透過性の箔に塗り付け(ダビングし)、包み、かつ/又は密封することができる。この製造プロセスは単純であり、いかなる高価なツールも必要としない。加えて、このプロセスは、低いCOフットプリントを有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、2つの電池セル及びを含む電池(-試験)モジュールにおける本発明に係る障壁の配置を示す。
図2図2は、一方のセルの釘貫通後の2つのセルの温度プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明を図面及び以下の実施例に限定することを望むことなく、図面及び以下の実施例を参照して、本発明の好ましい実施形態をより詳細に説明する。特に、以下の実施例は、本発明に係る障壁の1つの製造経路のみを記載する。当該障壁は、押出成形によって工業的に製造することもできると想定することができる。
【0051】
図1は、2つの電池セル1及び2を含む電池(-試験)モジュールにおける本発明に係る障壁3の配置を示す。5a及び5bは断熱材であり、これらは、熱事象の積極的な誘発の後、放出された熱エネルギーの一部が、ある熱容量を有するクランププレート6a及び6bによって吸収されることを防止する。これにより、測定誤差が回避される。クランププレートは、モジュールの機械的結束を確実にする。温度を測定する測定点は、各セルの前部及び後部である。
【0052】
図2は、セル1の釘貫通後のセル1及び2の温度プロファイルを示す。この温度プロファイルから、本発明に係る障壁3は、セル2を熱的にうまく遮蔽することが推測できる。これにより、セル2が臨界温度に達することが防止される。
【実施例
【0053】
1)本発明に係る障壁の製造
80重量%の水、15重量%のアルギン酸ナトリウム及び5重量%の充填材料(炭酸カルシウム)を約3分間混合する。得られた混合物を、約2.3mmの厚さで、平らな開放型に塗布する。厚さ2.3mmの混合物を、型と共にCaCl水溶液(5重量%)に30秒間浸漬する。これにより、厚さ2.6mmの柔軟で均質なヒドロゲルを含む吸熱保護層が形成される。混合物が塗布された型の寸法と比較して、吸熱保護層は、長さ及び幅の両方において約5%収縮している。この保護層は、約80重量%の水を含有する。
【0054】
最後に、この保護層は、水蒸気に対して不透過性の箔(箔厚さ0.15mm)に溶着される。
【0055】
2)釘貫通試験
製造した障壁を、2つの完全に充電した40AhのNMC111角型セルの間の間隙に配置した。この配置は、図1の説明図に対応する。次いで、セル1の熱暴走を、それを釘で貫通することによって引き起こした。両セルの前部及び後部における温度の展開を測定し、7000秒間記録した(図2参照)。当該障壁は、セル1からセル2への熱暴走を防止した。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチセル電池モジュール内の熱事象の伝播を防止するための障壁であって、
70.0~97.5重量%のヒドロゲルと2.5~30.0重量%の補強充填材料とを含む吸熱保護層
を含み、
前記ヒドロゲルはマトリクス材料及び水を含み、前記補強充填材料は前記ヒドロゲル中に分散している、障壁。
【請求項2】
前記保護層は、水蒸気に対して不透過性の箔内に封入され、前記水蒸気に対して不透過性の箔は、好ましくは、ポリマー箔、金属箔又はこれらの箔の積層体であり、前記ポリマー箔は、より好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、より好ましくは前記金属箔はアルミニウム箔である請求項1に記載の障壁。
【請求項3】
前記マトリクス材料は、少なくとも85%の天然ポリマーからなり、前記天然ポリマーは、好ましくは、アルギン酸、寒天、デンプン、デンプン誘導体、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、ペクチン、ジェラン、スクレログルカン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項4】
前記マトリクス材料は、少なくとも85重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%のアルギン酸カルシウムからなる請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項5】
前記マトリクス材料は、15重量%までの増粘剤をさらに含み、前記増粘剤は、好ましくはセルロース誘導体、特にヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び/若しくはカルボキシセルロース、グアーガム、キサンタンガム、又はこれらの混合物からなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項6】
前記補強充填材料は、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、これらの物質の水和物、及びそれらの混合物からなる群から選択される請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項7】
前記ヒドロゲルは、5~30重量%のマトリクス材料及び70~95重量%の水を含有する請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項8】
前記保護層は、0.25~10.0mmの厚さ、好ましくは1.5~3.0mmの厚さを有する請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項9】
前記吸熱保護層は通路開口部を有し、前記保護層における前記通路開口部の体積割合は、好ましくは1%~90%、より好ましくは8%~80%、特に好ましくは10%~75%であり、特に20%~60%である請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項10】
前記吸熱保護層は通路開口部を有し、各通路開口部は、好ましくは0.025mm~50.0mm、より好ましくは0.5mm~8.0mm、特に2.0mm~5.0mmの断面積を有する請求項1又は請求項2に記載の障壁。
【請求項11】
電池モジュール内の体積変動を補償するための請求項9に記載の障壁の使用。
【請求項12】
複数の電池セルと、少なくとも1つの請求項1又は請求項2に記載の障壁とを含み、前記障壁は2つの隣接する電池セル間に配置される、電池モジュール。
【請求項13】
前記電池セルはリチウムイオンセルである請求項12に記載の電池モジュール。
【請求項14】
請求項1又は請求項2に記載の障壁の製造方法であって、吸熱保護層が製造される、方法。
【請求項15】
前記吸熱保護層は、
i)アルギン酸ナトリウム粉末、補強充填材料及び水を混合して高粘性の塊を形成する工程と、
ii)前記塊を、平坦な表面上又は平面状底部を有する型内に注ぐ工程と、
iii)注型された前記塊を、カルシウムイオンを含有する溶液で湿潤させるか、又はカルシウムイオンを含有する溶液に浸漬する工程と
によって製造される請求項14に記載の方法。
【国際調査報告】