(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】非白金触媒及びグラフェン積層構造を含む燃料電池用電極及びこれを含む膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20240117BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240117BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240117BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M4/88 C
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540712
(86)(22)【出願日】2022-08-05
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 KR2022011709
(87)【国際公開番号】W WO2023018126
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】10-2021-0107386
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0097439
(32)【優先日】2022-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンス
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンヨン
(72)【発明者】
【氏名】コン ナコン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュスン
(72)【発明者】
【氏名】パク チャンミ
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD05
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
本発明は、非白金触媒及びグラフェン積層構造を含む燃料電池用電極及びこれを含む膜電極接合体に関し、より具体的は、炭素支持体、窒素及び非白金遷移金属を含む非白金触媒複合体と伝導性高分子を共に含む触媒層をグラフェン層と交互に積層して白金を使用せずに、比較的安価な遷移金属により優れた電極効率を実現した燃料電池用膜電極接合体及びこれを含む燃料電池に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非白金触媒複合体及び導電性高分子を含む触媒層;及び
グラフェン及び酸化グラフェンのうち1種以上からなるグラフェン層;を含み、
前記触媒層と前記グラフェン層が交互に積層され、
前記非白金触媒複合体は、炭素支持体及び前記炭素支持体上に形成された非白金遷移金属と窒素を含むことを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項2】
前記非白金触媒複合体は、非白金遷移金属と窒素の配位結合により形成される活性サイトが存在することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記非白金触媒複合体の表面に前記導電性高分子がコートされたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
積層された前記触媒層と前記グラフェン層の間に空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
前記空間の少なくとも一部がイオノマーにより充填されていることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
前記非白金触媒複合体は、前記炭素支持体と非白金遷移金属(M)及び窒素(N)を含むM-N前駆体を1:1ないし1:5の質量比で混合して製造されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
前記非白金触媒複合体と前記導電性高分子は、1:20ないし5:1の質量比で触媒層に含まれることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項8】
前記非白金触媒複合体は、ポルフィリン(Porphyrin)、フタロシアニン(Phthalocyanine)、コロール(Corrole)、サイクラム(Cyclam)、テトラアザアヌレン(Tetraazaannulene)及びこれらの誘導体のうち1種以上を含む前駆体から形成されたことを特徴とする 請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項9】
前記非白金遷移金属は、Fe、Co及びMnのうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項10】
前記炭素支持体はカーボンブラック(Carbon black)、グラフェン、酸化グラフェン、炭素ナノ繊維及び炭素ナノチューブのうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項11】
前記導電性高分子は、ポリアセチレン(Polyacethylene)、ポリピロール (Polypyrrole)、ポリアニリン(Polyaniline)、ポリチオフェン(Polythiophene)及びパーフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid)のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項12】
前記触媒層の厚さは1ないし200nmであることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項13】
前記触媒層と前記グラフェン層は3ないし200層の多層構造であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項14】
a)非白金触媒複合体と導電性高分子とを含む分散液を乾燥させ、熱処理して導電性高分子がコートされた非白金触媒複合体を得る段階;
b)グラフェン及び酸化グラフェンのうち1種以上を含む分散液を塗布してグラフェン層を形成する段階;
c)前記a)段階の前記導電性高分子がコートされた非白金触媒複合体を含む分散液を塗布して触媒層を形成する段階;及び
d)前記b)段階及びc)段階をそれぞれ2回以上繰り返して、前記グラフェン層と触媒層が交互に積層された多層構造を形成する段階;を含む燃料電池用電極の製造方法。
【請求項15】
前記a)段階は60ないし150℃で乾燥させ、300ないし900℃の温度で熱処理することを特徴とする請求項14に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項16】
前記d)段階の積層時、前記グラフェン層と前記触媒層との間に空間が形成されることを特徴とする請求項14に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項17】
前記b)またはc)段階で前記塗布は超音波スプレーにより行われることを特徴とする請求項14に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項による燃料電池用電極;及び
高分子電解質膜;を含むことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
【請求項19】
前記燃料電池用電極はカソード電極であることを特徴とする請求項18に記載の燃料電池用膜電極接合体。
【請求項20】
請求項18の燃料電池用膜電極接合体を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高価な白金を使用せずに、性能及び耐久性が向上した燃料電池用電極及びこれを含む膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスなどの炭化水素系の燃料物質内に含まれている水素と酸素の酸化/還元反応のような化学反応エネルギーを直接電気エネルギーに変換させる発電システムを備えた電池であり、エネルギー効率性が高く汚染物排出が少ない環境にやさしい特徴から化石エネルギーに代わる次世代クリーンエネルギー源として脚光を浴びている。
【0003】
このような燃料電池は単位電池の積層によるスタック構成で多様な範囲の出力を出すことができる長所を有し、小型リチウム電池に比べて4ないし10倍のエネルギー密度を示すため、小型及び移動用携帯電源として注目されている。
【0004】
燃料電池から電気を実質的に発生させるスタックは、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と分離板(separator)(または、バイポーラプレート(Bipolar Plate)ともいう)で構成された単位セルが数個ないし数十個積層された構造を有し、膜電極接合体は、一般的に電解質膜を挟んで両側に酸化極(アノードまたは燃料極)と還元極(カソードまたは空気極)がそれぞれ形成された構造を有する。
【0005】
燃料電池は、電解質の状態及び種類に応じてアルカリ電解質燃料電池、高分子電解質燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel cell:PEMFC)などに区分され、そのうち高分子電解質燃料電池は100℃未満の低い作動温度、速い始動と応答特性及び優れた耐久性などの長所により携帯用、車両用及び家庭用電源装置として脚光を浴びている。
【0006】
高分子電解質燃料電池の代表的な例としては、水素ガスを燃料として使用するプロトン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel cell:PEMFC)、液状のメタノールを燃料として使用する直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)などが挙げられる。
【0007】
通常、高分子電解質膜燃料電池(PEMFC)膜電極接合体(MEA)は、アノード電極、カソード電極及びアノードとカソード電極の間に配置された高分子電解質膜(PEM)で構成される。水素または燃料が供給されるアノード電極において燃料の酸化反応が起き、アノード電極において生成された水素イオンが電解質膜を介してカソード電極に伝導され、酸素が供給されるカソード電極において酸素の還元反応が起きることにより2つの電極間の電圧差が発生して電気が生成される。
【0008】
燃料電池のアノード電極は燃料を酸化させて水素イオンを生成する反応を促進させるための触媒を含み、カソード電極は酸素の還元を促進させるための触媒を含む。燃料電池触媒は、主に触媒金属粒子とこれを均一に分散するための電気伝導性の高い担体とから構成されている。一般的に白金(Pt)を活性成分とする触媒がアノード及びカソード電極の構成要素として利用されている。
【0009】
しかしながら、白金系触媒は埋蔵量が少なく高価であるため、全体燃料電池生産費用の多くを占めることになり、燃料電池の大量生産及び商業化を制限する障害となっている。特に、白金ベース触媒のPEMFCは主に陽極と陰極の両方に白金を使用するが、これらの触媒はPEMFCスタック総費用中の40ないし50%程度を占める。従って、白金に代わる非貴金属系触媒の開発が急がれる実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、白金系触媒を使用せずに優れた効率を有する燃料電池用電極を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、前述の燃料電池用電極の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、前記燃料電池用電極を含めて白金が使用されずに優れた効率を有する膜電極接合体を提供することである。
【0013】
本発明のまた他の目的は、前記膜電極接合体が含まれて白金が含まれていない燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の一側面による燃料電池用電極は、非白金触媒複合体及び伝導性高分子を含む触媒層;及びグラフェン及び酸化グラフェンのうち1種以上からなるグラフェン層を含み、前記触媒層と前記グラフェン層が交互に積層されたことを特徴とする。ここで、前記非白金触媒複合体は炭素支持体及び前記炭素支持体上に形成された非白金遷移金属と窒素を含み、具体的に、非白金触媒複合体に非白金遷移金属と窒素の配位結合により形成される活性サイトが存在する。
【0015】
前記触媒層は、前記非白金触媒複合体の表面に伝導性高分子がコートされた形態であってもよい。
【0016】
前記非白金触媒複合体は、炭素支持体と非白金遷移金属(M)及び窒素(N)を含むM-N前駆体を1:1ないし1:5の質量比で混合して製造されてもよい。
【0017】
前記非白金触媒複合体と前記導電性高分子は、1:20ないし5:1の質量比で前記触媒層に含まれてもよい。
【0018】
前記非白金触媒複合体はM-N前駆体から形成され、前記M-N前駆体は金属-窒素配位を含む窒素含有大環状有機化合物(Macrocyclic compound)を含み、前記金属-窒素配位を含む窒素含有大環状有機化合物は、例えば、ポルフィリン(Porphyrin)、フタロシアニン(Phthalocyanine)、コロール(Corrole)、サイクラム(Cyclam)、テトラアザアヌレン(Tetraaza annulene)及びこれらの誘導体のうちの1種以上を含んでもよい。また、前記M-N前駆体は非白金遷移金属を含み、Fe、Co及びMnのうち1種以上を含んでもよい。
【0019】
前記炭素支持体は、カーボンブラック(Carbon black)、グラフェン、酸化グラフェン、炭素ナノ繊維、炭素ナノチューブからなる群から1種以上を含んでもよい。
【0020】
前記導電性高分子は、ポリアセチレン(Polyacethylene)、ポリピロール (Polypyrrole)、ポリアニリン(Polyaniline)、ポリチオフェン(Polythiophene)及び パーフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid)のうち1種以上を含んでもよい。
【0021】
前記触媒層の厚さは1ないし200nmであってもよい。
【0022】
前記触媒層と前記グラフェン層は3ないし200層の多層構造であってもよい。
【0023】
本発明の他の一側面による燃料電池用膜電極接合体は、前記燃料電池用電極及び高分子電解質膜を含む。
【0024】
ここで、前記本発明の一側面による燃料電池用電極はカソード電極に適用されてもよい。
【0025】
本発明の他の一側面による燃料電池は、前記燃料電池用膜電極接合体を含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明の燃料電池用電極は触媒層とグラフェン層が積層された構造であり、前記触媒層は触媒として白金を使用せずに比較的に低価の遷移金属により優秀な電極効率を実現することができる。
【0027】
また、触媒層に一緒に使用された伝導性高分子は、前記遷移金属粒子のサイズを制限することにより、非白金触媒の効率を向上させることができる。
【0028】
そして、グラフェン層は前記触媒層と交差して積層され、これにより形成された多層構造により活性点を反応表面に最大に露出させることができ、電極の伝導性向上だけでなく、触媒粒子の間に空いた空間を形成して燃料電池駆動時に円滑な物質伝達通路を提供することにより、燃料電池の性能及び耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施例による電極の積層構造を簡略に示した模式図である。
【0030】
【
図2】本発明の実施例、参考例及び比較例による膜電極接合体を含む燃料電池の性能を比較したグラフである。
【0031】
【
図3】前記燃料電池の全体的な構成を示した模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように図面を参照して本発明の実施例について詳しく説明する。しかしながら、本発明は様々な形態で実現でき、ここで説明する実施例に限定されない。
【0033】
本発明の一側面による燃料電池用電極は、燃料電池の電極において一般的に使用される高価な白金(Pt)を含まない触媒層とグラフェンを含むグラフェン層とが交互に積層された構造を有することが特徴である。
【0034】
図1は、本発明の一実施例による電極10の積層構造を簡略に示した模式図である。
図1に示すように、前記触媒層2とグラフェン層1は1つの電極10内において複数存在し、触媒層2とグラフェン層1が互いに交互に積層されている積層構造でありうる。
【0035】
前記触媒層は、高価な白金の代わりに、非白金触媒複合体、及び導電性高分子を共に含む。前記非白金触媒複合体は、炭素支持体及び炭素支持体上に形成された非白金遷移金属と窒素を含む。ここで、金属触媒は非白金遷移金属であって、白金を除いた遷移金属を意味し、好ましくは、非貴金属系遷移金属であってもよい。そして、前記炭素支持体は、例えば、カーボンブラック(Carbon black)、グラフェン、酸化グラフェン、炭素ナノ繊維及び炭素ナノチューブのうち1種以上を含んでもよい。また、窒素は窒素含有大環状有機化合物に含まれる形態であってもよい。
【0036】
具体的に前記非白金触媒複合体は、非白金遷移金属と窒素の配位結合により形成される活性サイトを形成し、これはM(非白金遷移金属)-Nx配位で構成される活性サイトが存在すると表現できる。高い酸素還元反応水準を有するM-N-C系電極触媒の製造のために高温で熱処理を行う場合、性能低下を誘発する大きな金属触媒粒子が形成される可能性がある。これを防止するために非白金触媒複合体の他にも伝導性高分子を共に含めて、非白金遷移金属のサイズを制限すると同時に電極の伝導性をさらに向上させることができる。
【0037】
非白金触媒複合体は伝導性高分子によってコートされることができ、具体的に、伝導性高分子が非白金触媒複合体を包んだ後、熱処理により伝導性高分子が非白金触媒複合体の表面にコートされた形態であってもよい。
【0038】
非白金触媒複合体は、前記炭素支持体と非白金遷移金属(M)及び窒素(N)を含むM-N前駆体を1:1ないし1:5の質量比で混合して製造されることが好ましく、前記範囲に比べて炭素支持体の割合が少ない場合、非白金触媒複合体の形成のために高温で熱処理を行うと、性能低下を誘発する大きな金属触媒粒子が形成される可能性があり、前記範囲に比べて炭素支持体の比率が高い場合、触媒効率が低下する問題が発生する可能性がある。
【0039】
触媒層において非白金触媒複合体と伝導性高分子は1:20ないし5:1の質量比で含まれることが好ましい。ここで、電極内の複数の触媒層に対して前記質量比はそれぞれ独立的であってもよい。前記質量比に比べて非白金触媒複合体の質量比が低い場合、電極内において触媒反応が円滑に起きない可能性があり、前記質量比に比べて伝導性高分子の質量比が低い場合、伝導性高分子が熱処理過程で消失し、これにより露出された遷移金属の粒子凝集による触媒活性及び耐久性低下が発生する可能性がある。
【0040】
前記非白金触媒複合体は、非白金遷移金属(M)と窒素(N)を含むM-N前駆体から形成され、ここで、M-N前駆体は金属-窒素配位を含む窒素含有大環状有機化合物を含み、前記金属-窒素配位を含む窒素含有大環状有機化合物は遷移金属と配位結合できれば特に限定されない。前記金属-窒素配位を含む窒素含有大環状有機化合物は、例えば、ポルフィリン(Porphyrin)、フタロシアニン(Phthalocyanine)、コロール(Corrole)、サイクラム(Cyclam)、テトラアザアヌレン(Tetraaza annulene)及びこれらの誘導体のうち1種以上を含んでもよい。ここで、前記テトラアザアヌレン(Tetraaza annulene)は具体的にテトラアザ[14]アヌレン(Tetraaza[14]annulene)でありうる。
【0041】
前記M-N前駆体の非白金遷移金属は、前記大環状有機化合物と配位結合して製造過程でM-Nxサイトを形成し、これは、本発明で提供する非白金触媒複合体の高い活性を実現する重要な構成になる。遷移金属の種類に特に限定されず、好ましくは、Fe、Co及びMnのいずれか1種以上の遷移金属を含んでもよい。
【0042】
前記導電性高分子の場合、燃料電池に一般的に使用される導電性高分子をすべて使用でき、好ましくは、ポリアセチレン(Polyacethylene)、ポリピロール (Polypyrrole)、ポリアニリン(Polyaniline)、ポリチオフェン(Polythiphene)及びパーフルオロスルホン酸(Perfluorosulfonic acid)のうち1種以上を含んでもよい。
【0043】
前記非白金触媒複合体及び伝導性高分子を含む触媒層の厚さは1ないし200nmであることが好ましい。前記範囲に比べて触媒層の厚さが厚すぎるか、あるいは薄い場合、電極内の燃料供給または水排出能力が低下するため、燃料電池の効率が低下する問題が発生する可能性がある。そして、電極内の複数の触媒層は、それぞれ独立的に前記厚さ範囲内の厚さでありうる。
【0044】
前記グラフェン層は電極内の複数のグラフェン層がそれぞれ独立的にグラフェン及び酸化グラフェンのうち1種以上を含んでもよい。本発明の燃料電池用電極がカソード電極に使用される場合、燃料電池駆動により発生する水の排出と、電解質膜側の湿潤度を維持するために、カソード電極において高分子電解質膜層のグラフェン層は電解質膜の湿潤度を維持するために親水性の酸化グラフェンからなり、反対側には水の円滑な排出のために撥水性のグラフェンからなってもよい。
【0045】
前記燃料電池用電極は、複数の触媒層と複数のグラフェン層が積層された構造であり、好ましくは、触媒層とグラフェン層が互いに交互に積層された構造であってもよい。
【0046】
ここで、電極内において触媒層とグラフェン層の総層数は3層以上である場合、特に限定されないが、触媒層とグラフェン層が過度に積層された電極の厚さが過度に厚くなる可能性があるため、200層以内の多層構造で形成されることが好ましい。すなわち、前記触媒層とグラフェン層の総層数は3ないし200層、例えば、10ないし200層、50ないし150層などであってもよい。一実施例によれば、触媒層とグラフェン層の総層数が3層である場合、触媒層-グラフェン層-触媒層の順に積層された構造であってもよいが、前記例示に限定されるものではない。また、他の例としては、前記積層構造は、触媒層-グラフェン層-触媒層-酸化グラフェン層の順などに2回以上繰り返されて形成されてもよい。ここで、前記グラフェン層は単一層のグラフェンで形成された層であるか、2層以上のグラフェンで形成された層であってもよい。
【0047】
本発明によれば、前記触媒層とグラフェン層の多層構造により触媒活性点が反応表面に最大に露出することができ、これにより触媒効率が向上して電極性能が優秀になる。
【0048】
また、本発明によれば、積層された前記触媒層とグラフェン層の間には空間が形成される。前記空間を介して触媒層での反応物である酸素と生成物である水のような物質が円滑に伝達及び移動できる。本発明の一実施例によれば、前記空間は気孔構造を有するものであってもよい。ここで、前記空間の体積、具体的に気孔度は約0.1ないし約95体積%の範囲であってもよい。また、本発明の一実現例によれば、前記空間は後述するイオノマーにより一部または全部が充填されるか充填されないことがある。
【0049】
前記触媒層はイオノマーを含んでもよい。一実施例によれば、前記イオノマーは前記触媒層と前記グラフェン層との間の空間の少なくとも一部を充填することができる。
【0050】
前記イオノマーは、フッ素系イオノマー及び炭化水素系イオノマーからなる群から選択される1種以上のイオノマーを含んでもよい。前記炭化水素系イオノマーは、公知の炭化水素系高分子をすべて使用することができ、例えば、sulfonated derivatives of poly(aryleneether)s(SPAEs)、poly(arylene sulfide)s(SPASs)、polyimides(SPIs)、polybenzimidazoles(PBIs)、polyphenylenes(PPs)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であり得る。また、前記フッ素系イオノマーは公知のフッ素系高分子を全て使用することができ、例えば、ナフィオン、アシプレックス、フレミオンなどのパーフルオロスルホン酸ベースの高分子と、ポリビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンまたはこれらの共重合体のいずれか1つでありうる。
【0051】
本発明の他の一側面による燃料電池用電極の製造方法は、a)非白金触媒複合体と導電性高分子とを含む分散液を乾燥させ、熱処理して導電性高分子がコートされた非白金触媒複合体を得る段階;b)グラフェン及び酸化グラフェンのうち1種以上を含む分散液を塗布してグラフェン層を形成する段階;c)前記a)段階の導電性高分子がコートされた非白金触媒複合体を含む分散液を塗布して触媒層を形成する段階;及びd)前記b)段階及びc)段階をそれぞれ2回以上繰り返して、前記グラフェン層と触媒層が交互に積層された多層構造を形成する段階;を含む。
【0052】
前記a)段階で前記乾燥温度と時間は分散液中の分散溶媒の含量などを考慮して当業者が適切に調節できる。好ましくは、前記乾燥は60ないし150℃の温度で行われることができ、乾燥温度を前記範囲にすることにより非白金触媒複合体に対する伝導性高分子のコーティングが円滑に行われ、強い結合を形成することができる。
【0053】
また、前記a)段階で前記熱処理温度と時間は伝導性高分子の種類などを考慮して当業者が適切に調節できる。好ましくは、前記熱処理は300ないし900℃の温度で行われることができ、熱処理温度を前記範囲にすることにより非白金触媒複合体と伝導性高分子間の結合がうまく形成される。
【0054】
前記a)段階で前記非白金触媒複合体は、前述の炭素支持体、非白金遷移金属、及び窒素含有有機化合物を混合して製造することができる。これにより、本発明の一実施例によれば、前記燃料電池用電極の製造方法は、炭素支持体、非白金遷移金属、及び窒素含有有機化合物を混合して非白金触媒複合体を製造する段階をさらに含んでもよい。前記炭素支持体、非白金遷移金属、及び窒素含有有機化合物の種類及び配合質量比は前述の記載を参考にする。前記非白金触媒複合体は粉末形態で得ることができ、これを後続する塗布段階(c)段階)の前に、分散溶媒に分散させて分散液にした後、塗布段階で塗布を行うことができる。
【0055】
前記b)とc)段階で、前記塗布の方式はグラフェンまたは非白金触媒複合体が一層ずつうまく形成できれば特に制限されない。本発明の一実施例によれば、前記塗布は、好ましくは、超音波スプレーにより行われてもよい。前記超音波スプレーを利用することによりグラフェンや非白金触媒複合体のような物質が均一かつ効果的に噴霧及び固定されることができ、コーティング厚さも容易に制御できる。前記超音波スプレーのための条件は特に限定されることなく、ノズルサイズ、スプレー溶液中の固形分濃度、超音波強度などに応じてコーティング厚さと粒滴を調節することができる。例えば、超音波周波数範囲は100ないし300kHzであり、超音波周波数範囲(kHz)が大きくなるほどスプレーされる溶液の粒滴が小さくなる傾向がある。
【0056】
前記d)段階で積層する時、前記グラフェン層と前記触媒層の間に空間が形成されることができる。前記空間については、電極と関連して前述した記載を参考にする。
【0057】
本発明の他の一側面による燃料電池用膜電極接合体は、本発明の一実施例による燃料電池用電極をカソード電極及びアノード電極のうち1つ以上を含み、高分子電解質膜を含むことを特徴とする。しかしながら、白金が含まれていない本発明の一側面による燃料電池用電極は、アノード電極に適用される場合よりカソード極に適用される場合に燃料電池の使用性がさらに向上することができるので、本発明の一実施例による燃料電池用電極はカソード電極に含まれることが好ましい。
本発明の他の側面による燃料電池は、本発明の一実施例による膜電極接合体を含んでもよい。
図3は、前記燃料電池の全体的な構成を示した模式図である。
図3を参照すると、燃料電池200は燃料と水が混合された混合燃料を供給する燃料供給部210と、混合燃料を改質して水素ガスを含む改質ガスを発生させる改質部220と、改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスが酸化剤と電気化学的な反応を起こして電気エネルギーを発生させるスタック230と、酸化剤を改質部220及びスタック230に供給する酸化剤供給部240とを含む。
【0058】
スタック230は、改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスと酸化剤供給部240から供給される酸化剤の酸化/還元反応を誘導して電気エネルギーを発生させる複数の単位セルを備える。
それぞれの単位セルは電気を発生させる単位のセルを意味し、水素ガスを含む改質ガスと酸化剤中の酸素を酸化/還元させる膜電極接合体と、水素ガスを含む改質ガス及び酸化剤を膜電極接合体に供給するための分離板(または、バイポーラプレート(bipolar plate)ともいい、以下、「分離板」という。)と、を含む。分離板は膜電極接合体を中心に置き、その両側に配置される。このとき、スタックの最外側にそれぞれ位置する分離板を特にエンドプレートと称する。
【0059】
分離板のうちエンドプレートは改質部220から供給される水素ガスを含む改質ガスを注入するためのパイプ状の第1供給管231と、酸素ガスを注入するためのパイプ状の第2供給管232とを備え、また他のエンドプレートには、複数の単位セルにおいて最終的に未反応して残った水素ガスを含む改質ガスを外部に排出するための第1排出管233と、前記単位セルにおいて最終的に未反応して残った酸化剤を外部に排出させるための第2排出管234とを備える。
【0060】
前記燃料電池において、本発明の一実施例による膜電極接合体が使用されることを除いては、電気発生部を構成するセパレータ、燃料供給部及び酸化剤供給部は通常の燃料電池において使用されるものであるため、本明細書においてで詳細な説明は省略する。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳しく説明する。しかしながら、本発明は様々な形態で実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
[製造例:膜電極接合体の製造]
(実施例1)
炭素支持体としてCNT、そしてFe-N前駆体(M-N前駆体)としてIron(III)phthalocyanine chlorideを1:2の質量比で混合して非白金触媒複合体を製造する。そして、製造された非白金触媒複合体とアニリン単量体を2:1の質量比で含み、溶媒として蒸留水を使用した分散液を60℃で8時間乾燥して固体の粉末を得た。
前記乾燥により得られた粉末を窒素雰囲気下で800℃の温度で3時間熱処理し、これをパーフルオロスルホン酸イオノマーであるナフィオンと蒸留水とノルマルプロピルアルコールを利用して触媒分散液を製造した。
超音波スプレーにグラフェン分散液を第1ノズルに投入し、前記触媒分散液を第2ノズルに投入した。
FEP(Fluorinated ethylene Propylene)異形素材の上に前記第1ノズルを噴射及び乾燥してグラフェン層を形成した後、形成されたグラフェン層上に第2ノズルを噴射及び乾燥して触媒層を形成し、形成された触媒層上に同じ方法でグラフェン層を形成して、このように触媒層とグラフェン層を一層ずつ交互に形成して電極層を形成し、電極層内の触媒層とグラフェン層の総階数は100層に形成した。
【0062】
前記超音波スプレーにおいて分散液は周波数調節によりミストサイズを制御でき、本実施では180kHzの超音波周波数を印加して約10μmのサイズを有するミストを生成した。シリンジポンプ流量は約1ml/min、ノズル移動速度は10m/s、空気圧は4L/minの条件でコーティングを実施した。
前記形成された電極層をカソード電極部に、Pt/C電極触媒をアノード電極部に適用して高分子電解質膜に熱圧着させて膜電極接合体を製造した。
(実施例2)
前記実施例1においてFe-N前駆体をCo-N前駆体に変更したことを除いて、同じ方法で膜電極接合体を製造した。
【0063】
(実施例3)
前記実施例1においてFe-N前駆体をMn-N前駆体に変更したことを除いて、同じ方法で膜電極接合体を製造した。
[実験例:膜電極接合体の性能比較]
前記製造例で製造した実施例1ないし3の性能を比較するために、従来技術によってカソード電極部にカーボン支持体に担持された白金系触媒を含む電極を含む参考例1と、グラフェン層と触媒層が区別されずに本発明のFe-N前駆体、パーフルオロスルホン酸及びグラフェンが全部混合された分散液で単一層に形成された電極を含む比較例1に対してカソード触媒ローディング及びアノード触媒ローディングを下記の表1のような条件にして膜電極接合体を製造した。
【表1】
【0064】
実施例1ないし3、参考例1及び比較例1に対して、カソード燃料を酸素又は空気条件で供給して膜電極接合体の初期性能を評価して下記の表2に示した。性能評価は温度65℃、気圧100kPa、相対湿度100%、水素/空気流量比1.5/2.0条件下で行われた。
【表2】
【0065】
表1のような構成で製造された実施例1ないし3、参考例1及び比較例1の膜電極接合体を含む燃料電池の耐久結果を比較して
図2に示した。
図2のグラフは、表2と同一の評価条件下で、0.7V定電圧で100時間耐久評価前/後の電流密度減少水準を比較した。
表1と表2を参考にすれば、白金触媒を使用した参考例1に比べて白金を使用していない実施例のカソード触媒ローディング値が高く示されたが、燃料電池に適用された場合、白金触媒を使用した参考例1と白金を使用していない実施例の最大電力密度に大きな差はなかった。これから見ると、本発明の触媒は高価な希少金属である白金を使用しなくても、白金と類似した性能を実現できることが分かる。
具体的に、表2と
図2を参照すれば、本発明に基づいて製造された実施例1ないし3と既存の白金系触媒を利用して製造された参考例1を比較する時、白金系触媒と類似した水準の高い酸素還元反応(ORR)性能と耐久性を示すことが分かる。
そして、実施例1と同一の組成を層区別なしに混合して製造した比較例1を比較する時、比較例1は気孔構造形成がない反面、実施例1は多層構造により触媒活性点を反応表面に最大に露出させると同時に気孔構造を形成して反応物である酸素と生成物である水の物質伝達が円滑で優れた性能及び耐久性を示すことが分かる。
また、実施例1ないし3の比較によりM-N前駆体の選択に応じて耐久性をさらに改善できることが分かる。
【0066】
以上で本発明の好ましい実施例について詳しく説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、次の請求範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0067】
1:グラフェン層
2:触媒層
10:電極
200:燃料電池
210:燃料供給部
220:改質部
230:スタック
231:第1供給管
232: 第2供給管
233:第1排出管
234:第2排出管
240:酸化剤供給部
【国際調査報告】