(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】T細胞の抗腫瘍免疫を再プログラミングするための小分子
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240117BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240117BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/10 ZNA
C12N15/09 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541829
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 US2022012029
(87)【国際公開番号】W WO2022155151
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ペン
(72)【発明者】
【氏名】シー,ユジエ
(72)【発明者】
【氏名】ホウ,インチン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QR80
4B063QS28
4B063QS38
4B063QX02
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB14
4B065BB15
4B065BB16
4B065CA44
(57)【要約】
本明細書では、活性化T細胞を拡大させて、養子移入後に、分化状態がより低い、in vivo持続性が増強されたT細胞を産生するための方法を提供する。本方法に適した活性化T細胞には、例えば、前駆疲弊(Tim3-TCF-1+)T細胞、幹メモリーT細胞及びセントラルメモリーT細胞が含まれる。本発明はまた、抗原に特異的な前駆疲弊T細胞を同定するための方法を提供する。更に、本発明は、前駆疲弊T細胞、医薬組成物及びキット、並びにそれらを使用する癌又は感染症の治療のための方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養子移入後にin vivo持続性が増強されたT細胞を産生するために活性化T細胞を拡大させる方法であって、活性化T細胞を含む細胞集団を、T細胞拡大を分化から切り離す有効量の化合物と接触させ、それにより、前記活性化T細胞を拡大させて、養子移入後にin vivo持続性が増強されたT細胞を産生することを含む、方法。
【請求項2】
前記活性化T細胞が、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)、又は末期疲弊T細胞(Ttex)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記産生されたT細胞が、前記化合物で処理されていない前記活性化T細胞と比較してより分化していない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、糖又は糖誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記糖が、トレハロース、スクロース、ラクトース、フルクトース又はノイラミン酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記糖誘導体が、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)又はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、ゼステホモログ2のエンハンサー(EZH2)の阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害剤が、タゼメトスタットである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が、KRAS(G12C)変異体の小分子阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害剤がKRAS(G12C)阻害剤12である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物がプリン及びピリミジンの生合成中間体又は最終生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、グアノシン、デオキシグアノシン、アデノシン、デオキシアデノシン、イノシン、キサントシン、オロチジン、ウリジン、シチジン、デオキシシチジン、チミジン、デオキシチミジン、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)、オロト酸、又はジヒドロオロト酸である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記T細胞が、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)又は遺伝子操作されたT細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記TILが、CD8
+T細胞又はCD4
+T細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記遺伝子操作されたT細胞が、TCR改変T細胞又はCAR-T細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
TCF-1陰性T細胞を部分的TCF-1陽性に変換するための方法であって、TCF-1陰性T細胞の集団を、分化からT細胞拡大を切り離す有効量の化合物と接触させ、それにより、前記TCF-1陰性T細胞を部分的にTCF-1陽性に変換することを含む、方法。
【請求項17】
前記化合物が、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)又はN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
養子細胞療法のための活性化T細胞のin vitro拡大のためのキットであって、(1)T細胞拡大を分化から切り離す有効量の化合物と、(2)前記化合物を前記活性化T細胞を含む細胞の集団と共培養する指示書とを含む、キット。
【請求項19】
前記活性化T細胞が、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)、又は末期疲弊T細胞(Ttex)である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記細胞の集団が、腫瘍浸潤T細胞又は遺伝子操作されたT細胞を含む、請求項18に記載のキット。
【請求項21】
前記腫瘍浸潤T細胞が、前駆様CD8
+T細胞及び末期疲弊CD8
+T細胞を含む、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記操作されたT細胞が、TCR改変T細胞又はCAR-T細胞である、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
前記化合物が、糖又は糖誘導体である、請求項18に記載のキット。
【請求項24】
前記糖が、トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース又はノイラミン酸である、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記糖誘導体が、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)又はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)である、請求項23に記載のキット。
【請求項26】
前記化合物が、ゼステホモログ2のエンハンサー(EZH2)の阻害剤である、請求項18に記載のキット。
【請求項27】
前記阻害剤が、タゼメトスタットである、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記化合物が、KRAS(G12C)変異体の小分子阻害剤である、請求項18に記載のキット。
【請求項29】
前記阻害剤がKRAS(G12C)阻害剤12である、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
活性化T細胞の増殖を促進し、及び/又は拡大したT細胞をより低い分化状態に維持する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)対象からのT細胞含有組織からT細胞を提供することと、
(b)前記T細胞含有組織からの活性化T細胞を化合物の存在下で培養することと、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって前記培養を維持することであって、前記T細胞含有組織からのT細胞が活性化剤による刺激を受けており、刺激が培養前又は培養と同時に行われる、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって前記培養を維持することと、
(c)(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することであって、前記化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)及び(ii)の両方の増加が、前記化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進し、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持すると同定し、前記化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)ではなく(ii)の増加が、前記化合物が、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持することを促進すると同定する、(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することと、を含む、活性化T細胞の増殖を促進し、及び/又は拡大したT細胞をより低い分化状態に維持する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項31】
(c)の後に前記培養物中の前記T細胞を再刺激すること及び拡大すること、並びにT細胞の拡大を可能にするのに十分な時間にわたって前記培養を維持することを更に含み、T細胞が、(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することによって評価され、前記化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)及び(ii)の両方の増加が、前記化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進し、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持すると同定し、前記化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)ではなく(ii)の増加が、前記化合物が、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持することを促進すると同定する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前駆疲弊T細胞の拡大を促進する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)標識化されたTcf7遺伝子をコードするポリヌクレオチド及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成しているペプチド抗原に特異的なT細胞受容体をコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック対象からの脾細胞を提供することと、
(b)前記脾細胞からの活性化CD8+T細胞を、化合物の存在下で培養することと、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって前記培養を維持することであって、前記脾細胞からのT細胞が、活性化剤による刺激を受けており、刺激を培養前又は培養と同時に行う、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって前記培養を維持することと、
(c)
(i)標識化されたTcf
+7 T細胞の量、及び/又は
(ii)TCF-1発現の量、を測定することであって、
前記化合物で処理されていない脾細胞と比較した(i)及び(ii)の増加が、前記化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進すると同定する、(i)標識されたTcf
+7 T細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量、を測定することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、米国仮特許出願第63/136,585号(2021年1月12日出願)に対する優先権の利益を主張する。優先権出願の全開示は、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の利益の陳述
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって授与された助成金番号GM139643及びAI143884の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、概して、T細胞培養物及び養子T細胞移植に関する。
【背景技術】
【0004】
癌及び感染症の治療のため、新規治療法が絶えず開発されている。そのようなアプローチの1つには、養子細胞療法(ACT)が含まれる。ACTは、ex vivoで成長させた細胞、最も一般的には免疫細胞の宿主への受動的移入を含み、移植の免疫学的機能及び特徴を移入することを目的とする。しかしながら、そのような療法は制限がない。そのような治療の有効性は、これらの拡大した細胞がin vivoで持続する能力が不十分であることによって妨げられ、持続的な臨床応答がない結果となる。いくつかの臨床試験において、持続性T細胞は、ex vivo拡大腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を受けている患者の大部分には存在しない。この観察は、注入された細胞が、単一の反応性細胞から広範囲に拡大され、ex vivoで最終分化に駆動され、その結果、移入後に非常に限られた複製能を有し得ることを示唆している。
【0005】
したがって、当技術分野では、より効果的な細胞及び養子細胞療法が依然として必要とされている。特に、腫瘍抗原反応性T細胞のin vivo持続性及び複製能をどのように増加させるかは、当分野における主要な課題である。本発明は、当技術分野におけるこの必要性及び他の満たされていない必要性に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、養子移入後のin vivo持続性が増強されたT細胞を産生するために活性化T細胞を拡大するための方法を提供する。この方法は、活性化T細胞を含有する細胞集団を、適切な培養条件下で、T細胞拡大を分化から切り離す有効量の化合物と接触させることを伴う。様々な実施形態では、本方法において拡大される活性化T細胞は、例えば、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)、又は末期疲弊T細胞(Ttex)であり得る。いくつかの好ましい実施形態では、産生されたT細胞は、化合物で処理されていない活性化T細胞と比較して分化が少ない。いくつかの方法では、使用される化合物は、糖又は糖誘導体である。いくつかの実施形態では、使用される糖は、トレハロース、スクロース、ラクトース、フルクトース又はノイラミン酸である。いくつかの実施形態では、使用される糖誘導体は、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)又はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)である。いくつかの他の方法では、使用される化合物は、ゼステホモログ2のエンハンサー(Enhancer of zeste homolog)(EZH2)の阻害剤である。これらの実施形態の一部では、活性化T細胞を拡大させるために使用されるEZH2阻害剤はタゼメトスタットである。更にいくつかの他の方法では、使用される化合物は、KRAS(G12C)変異体の小分子阻害剤である。これらの実施形態のいくつかでは、使用される阻害剤化合物は、KRAS(G12C)阻害剤12である。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態では、拡大される活性化T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)又は遺伝子操作されたT細胞である。これらの方法のいくつかでは、拡大されるTILは、CD8+T細胞又はCD4+T細胞である。いくつかの他の方法では、拡大される遺伝子操作されたT細胞は、TCR改変T細胞又はCAR-T細胞である。
【0008】
関連する態様では、本発明は、TCF-1陰性T細胞をTCF-1陽性T細胞又は部分陽性T細胞に変換するための方法を提供する。これらの方法は、適切な成長条件下でTCF-1陰性T細胞の集団を、T細胞拡大を分化から切り離す有効量の化合物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、使用される化合物は、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)又はN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)である。
【0009】
別の態様では、本発明は、養子細胞療法のための活性化T細胞のin vitro拡大に使用されるキット又は治療的組合せを提供する。キット又は治療的組合せは、(1)T細胞拡大を分化から切り離す有効量の化合物、及び(2)化合物を活性化T細胞を含む細胞集団と共培養する指示書を含む。様々な実施形態では、本発明のキット又は治療的組合せは、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)、及び末期疲弊T細胞(Ttex)を拡大するために使用することができる。いくつかの他の実施形態では、本発明のキット又は治療的組合せは、腫瘍浸潤T細胞又は遺伝子操作されたT細胞を拡大させることを意図する。これらのキット又は治療的組合せのいくつかは、前駆様CD8+T細胞又は末期疲弊CD8+T細胞を拡大させるために使用され得る。操作されたT細胞を拡大するために使用されるいくつかの他のキット又は治療的組合せは、TCR改変T細胞又はCAR-T細胞である。様々な実施形態では、T細胞拡大を分化から切り離すキット又は治療的組合せ中の化合物は、糖又は糖誘導体であり得る。例えば、化合物は、トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース又はノイラミン酸等の糖であり得る。いくつかの具体的な実施形態において、化合物は、糖誘導体N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)又はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)である。いくつかの他の実施形態では、T細胞拡大を分化から切り離すキット又は治療的組合せ中の化合物は、ゼステホモログ2のエンハンサー(EZH2)の阻害剤、例えばタゼメトスタットであり得る。なおもいくつかの他の実施形態では、T細胞拡大を分化から切り離すキット又は治療的組合せにおける化合物は、KRAS(G12C)変異体の小分子阻害剤、例えば、KRAS(G12C)阻害剤12であり得る。
【0010】
更に別の態様では、本発明は、活性化T細胞の増殖を促進する及び/又は拡大したT細胞をより低い分化状態に維持する化合物をスクリーニングする方法を提供する。これらの方法は、(a)対象からのT細胞含有組織からT細胞を提供することと、(b)T細胞含有組織からの活性化T細胞を化合物の存在下で培養することと、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することであって、T細胞含有組織由来のT細胞が活性化剤による刺激を受けており、刺激が培養前又は培養と同時に行われる、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することと、を伴う。
【0011】
(c)(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することであって、化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)及び(ii)の両方の増加が、化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進し、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持すると同定し、化合物で処理されていない増殖後のT細胞と比較した(i)ではなく(ii)の増加が、化合物が、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持することを促進すると同定する、(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することと、を含む。本発明のいくつかのスクリーニング方法は、(c)の後に培養物中のT細胞を再刺激及び拡大すること、並びにT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することを更に含み得る。これらの方法では、T細胞が、(i)TCF-1を発現するT細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量を測定することによって評価される。化合物で処理しなかった拡大後のT細胞と比較した(i)及び(ii)の両方の増加が、化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進し、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持することを同定する。化合物で処理されていない増殖後のT細胞と比較した(i)ではなく(ii)の増加が、化合物が、拡大したT細胞をより低い分化状態に維持することを促進すると同定する。
【0012】
別の関連する態様では、本発明は、前駆疲弊T細胞の増殖を促進する化合物をスクリーニングする方法を提供する。これの方法は、(a)標識化Tcf7遺伝子をコードするポリヌクレオチド及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成しているペプチド抗原に特異的なT細胞受容体をコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック対象からの脾細胞を提供することと(b)脾細胞からの活性化CD8+T細胞を、化合物の存在下で培養することと、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することであって、脾細胞からのT細胞が、活性化剤による刺激を受けており、刺激を培養前又は培養と同時に行う、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することと、(c)(i)標識化Tcf+7 T細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量、を測定することと、を含む。化合物で処理していない脾細胞と比較した(i)及び(ii)の増加は、前駆疲弊T細胞の増殖を促進する化合物であると同定される。
【0013】
本発明の他の態様及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から容易に明らかになるであろう。
【0014】
本開示を説明する目的で、本開示の特定の実施形態の図面が示されている。しかしながら、本開示は、図面に示された実施形態の正確な配置及び手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、抗原特異的P14 CD8+T細胞のin vitro活性化及び拡大中にTCF-1+細胞を増加させることができる小分子モジュレーターについてのスクリーニングを示す。パネルAは、前駆疲弊T細胞(Tim3-TCF-1+T細胞)の増殖増強のための化合物スクリーニングアッセイを示す。パネルBは、培養6日目に異なる濃度で様々な化合物(対照、K+、スクロース、ラクトース、トレハロース、ガラクトース、フルクトース及びT5224)に曝露した拡大CD8+T細胞(Tim3-TCF-1+のパーセンテージ)のフローサイトメトリー分析を示す。パネルCは、培養9日目に異なる濃度で様々な化合物(対照、K+、スクロース、ラクトース、トレハロース、ガラクトース、フルクトース及びT5224)に曝露した拡大CD8+T細胞(Tim3-TCF-1+のパーセンテージ)のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図2】
図2は、糖処理されたウイルス特異的CD8+T細胞が、未処理T細胞よりもin vivoで良好に拡大したことを示す。パネルAは、LCMV-Cl13感染後のP14 CD8+T細胞のin vivo拡大を評価するための概略図を示す。パネルBは、種々の化合物(対照及び糖)によって拡大されたT細胞の分析、及び6日目に細胞を移入した後の様々な時点における特定の領域(血液、脾臓、肝臓)からの拡大されたT細胞のフローサイトメトリー分析を示す。パネルCは、種々の化合物(対照及び糖)によって拡大されたT細胞の分析、及び9日目に細胞を移入した後の様々な時点における特定の領域(血液、脾臓、肝臓)からの拡大されたT細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図3】
図3は、糖処理された抗原特異的OT-1 CD8+T細胞が、未処理T細胞よりもin vivoで腫瘍成長を抑制する有意に良好な能力を呈することを示す。パネルAは、フローサイトメトリー分析のためのOT-1拡大脾細胞のin vitro活性化及びB16-OVA腫瘍の治療のためのin vivo移入の概略図を示す。パネルBは、7日目の様々な条件下(スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース)での拡大細胞の細胞成長曲線を示す。パネルCは、7日目の様々な条件下(スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース)での拡大細胞のフローサイトメトリー分析を示す。パネルDは、糖を用いて及び糖を用いずに拡大された細胞の治療後の経時的な腫瘍体積を示す。パネルEは、糖の存在下及び非存在下で5日間、OVAペプチドによって刺激され、IL-2を含まないナイーブOT脾細胞のアポトーシス分析を示す。
【
図4】
図4は、Neu5Ac及びGlcNAcサプリメントが、TCF1+CD8+Tpex細胞の機能的特徴の増強を可能にすることを示す。パネルAは、様々な条件下(対照、GlcNAc及びNeu5Ac)で5日間、OVAペプチドによって刺激された、IL-2を含まないナイーブOT-1脾細胞、及びフローサイトメトリーによるアポトーシス分析のためのアネキシンVの分析の概略図を示す。パネルBは、様々な条件下でのアポトーシス細胞のパーセンテージを示す。パネルCは、培養培地中の細胞によって放出されるIL2の自己産生を示す。パネルDは、様々な条件下(対照、GlcNAc及びNeu5Ac)で7日間又は8日間OVAペプチド及びIL-2によって刺激されたナイーブOT-1脾細胞及び様々な測定値(ROS MFI、NADPH/NADP+、GSH/GSSG)の分析の概略図を示す。パネルEは、様々な条件下での細胞のROS MFIの測定を示す。パネルFは、様々な条件下での細胞のNADPH/NADP+比の測定を示す。パネルGは、様々な条件下での細胞のGHS/GSSGの測定を示す。
【
図5】
図5は、Neu5Ac及びGlcNAcサプリメントがin vivoでTCF1+CD8+Tpex細胞の拡大を可能にし、in vivoで腫瘍抑制を呈することを示す。パネルAは、抗PD1を補充したB16-OVA腫瘍治療の処理のための様々な条件下でのOT-1脾細胞のin vitro活性化及び拡大、並びにin vivo移入の概略図を示す。パネルBは、様々な条件下(対照、糖なし、糖なしかつ抗PD1あり、Neu5Acあり、Neu5Acありかつ抗PD1あり)での治療後日数による腫瘍体積の測定を示す。パネルCは、様々な条件下(対照、糖なし、糖なしかつ抗PD1あり、Neu5Acあり、Neu5Acありかつ抗PD1あり)での治療後日数によるパーセント生存の測定を示す。パネルDは、in vitroで様々な条件下(対照、GlcNAc及びNeu5Ac)で活性化及び拡大された細胞からのB16-OVA腫瘍マウスにおけるin vivo腫瘍浸潤OT-1細胞を分析するための概略図を示す。パネルEは、単離された腫瘍由来の全CD8+T細胞のOT-1T細胞のパーセンテージを示す。パネルFは、腫瘍組織1グラム当たりのOT-1T細胞の数を示す。
【
図6】
図6は、CD8+TSA反応性CD8+TILのin vitro拡大中に糖がTCF-1+細胞を増加させることを示す。パネルAは、TSA反応性TIL単離のためのFucoID標識化の概略図を示す。パネルBは、様々な条件下(糖なし、スクロースあり、GlcNAcあり、及びNeu5Acあり)でのT細胞からのTim3-TCF-1+集団のパーセンテージを示す。パネルC及びDは、フローサイトメトリーによって異なる条件下(糖なし、スクロースあり、GlcNAcあり、及びNeu5Acあり)で拡大させたMC38 TSA反応性TILの表現型比較を示す。パネルEは、腫瘍を治療するための養子移入T細胞療法のためにスクリーニングされた細胞及び様々な拡大化合物を使用する方法を示す。パネルFは、スクロースを用いて又はスクロースを用いずに拡大されたB16-OVA腫瘍由来のOVA特異的TILの腫瘍制御有効性を示す。養子移入後16日目に腫瘍サイズを測定した。パネルGは、スクロースあり又はスクロースなしで拡大させたOVA特異的TILのLM-OVAチャレンジ後のin vivo拡大を示す。
【
図7】
図7は、糖がGD2-CarT細胞の増殖を増加させ、疲弊表現型を減少させることを示す。ヒトPBMCを、T細胞培地中において、1:1の比のヒトT-T-Expander CD3/cd38 Dynabeadsのビーズで24時間活性化し、次いで、ジシアロガングリオシド(GD2)特異的14g2a scFv、CD3ζ及びCD28シグナル伝達ドメイン(HA-28z)をコードするレトロウイルスベクターで形質導入した。トランスフェクション後5日目に、CD8
+CAR T細胞又はCD4
+CAR T細胞を、糖の存在下又は非存在下で150IU/mL IL-2によるin vitro拡大について選別した(A)。CD8
+CAR T細胞(B)及びCD4
+CAR T細胞(C)の細胞数を7日目及び14日目に記録した。CD8
+CAR T細胞(D)及びCD4
+CAR T細胞(E)の表現型を拡大後14日目に分析した。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;一元配置ANOVA、引き続いてテューキーの多重比較検定によって分析した。
【
図8】
図8は、K-Ras(G12C)阻害剤12が、in vitro急速拡大中に前駆様(T
pex、Tim-3
-、TCF-1
+)抗原特異的CD8
+TILの産生を促進することを示す。拡大前と比較した拡大後の細胞成長及び表現型。(A)拡大後8日目の未処理細胞は1.18×10
6 TILまで拡大し、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)処理細胞は0.397×10
6 TILまで拡大する(拡大前細胞数は0.1×10
6 TILである)。(B)M8四量体
+CD8
+TILを、阻害性受容体Tim-3及びPD-1の発現について分析し、(C)蛍光色素標識抗体染色及びフローサイトメトリーを介してTim-3及びTCF-1の発現について分析した。全てのグラフ及び図について、拡大前n=1;未処理対照n=1;K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)n=1。
【
図9】
図9は、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)が、健康なヒトドナーのPBMC由来のCD8
+T細胞において前駆様及び低分化(T
SCM)表現型を上方制御することを示す。(A)ドナーhPBMCを、最初に0日目に、次いで同様に6日目に、放射線照射(50 Gy)フィーダー細胞混合物で2回活性化した。(B)両方のドナー由来のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)で処理したhPBMCは、統計学的に有意な細胞成長の低下を経験しない。(C~E)両方のドナー由来のhPBMCを蛍光色素標識抗体で染色し、フローサイトメトリーを利用して免疫表現型分類した。(C)ゲーティングされたCD8
+hPBMCを、阻害性受容体Tim-3及びPD-1の発現(いずれのドナーにおいても統計学的に有意ではない末期疲弊表現型ダ下方制御)、(D)Tim-3及びTCF-1の発現、並びに(E)CCR7及びCD45RAの発現について分析した。全ての棒グラフは平均±SDを表す;未処理対照n=3、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)n=3;nsP>0.05、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001;二元配置ANOVAとそれに続くSidak多重比較検定(B,E)又は対応のないt検定(C,D)のいずれか。
【
図10】
図10は、タゼメトスタットによるEZH2の一過性阻害がOT-I細胞の前駆体表現型を維持することを示す。OT-I/TCF-7-GFP脾細胞の表現型分析を、60IU/mL IL-2を含むOVA
257-264(500nM)によって3日間活性化し、Taz(400nM)の存在下又は非存在下で4日間(3~7日目)拡大させた(A~B)。OT-I細胞の細胞増殖は、Tazあり/なし(400nM、3日目~7日目)で拡大した(C)。60IU/mLのIL-2を含むOVA
257-264(500nM)によって3日間活性化され、Taz(400nM)の存在下又は非存在下で12、24、48時間拡大されたOT-I細胞からのヒストンタンパク質のウエスタンブロット(D)。ヒストン3(H3)を参照タンパク質として使用した。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;スチューデントT検定によって分析した。
【
図11】
図11は、in vitro拡大中のOT-I細胞におけるタゼメトスタットによるEZH2阻害が、LM-OVA感染に対するOT-I細胞のin vivo恒常性及び応答を改善することを示す。OT-I脾細胞(CD45.2+/+)を500nM OVA
257-264で3日間活性化し、Tazの非存在下(400nM)で4日間(3~7日目)拡大させた。10
4個のOT-I細胞(CD8
+)をC57BL/6マウス(CD45.1+/+又はCD45.1+/-)に静脈内移入した30日後、マウスを10
4CFU LM-OVA(A)に感染させた。CD8
+T細胞中のOT-I細胞の比又は血液中のOT-I細胞の正確な数を7日目(B)及び14日目(C)に分析し、脾臓中のOT-I細胞を30日目(D)に分析した。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;スチューデントT検定によって分析した。
【
図12】
図12は、in vitro拡大中のOT-I細胞におけるタゼメトスタットによるEZH2阻害が、B16-OVA腫瘍に対するOT-I細胞のin vivo有効性及び免疫チェックポイント応答を改善することを示す。C57BL/6マウスにB16-ova腫瘍細胞(6×10
5個)を皮下接種した。6日後(0日目)、Taz(400nM)あり及びTazなしでin vitroで4日間(3日目~7日目)拡大されたCD8
+OT-I T細胞(2×10
5個)をそれぞれ移入し、続いて14日目及び21日目にIL-2投与及び抗PD-1処理を行った(A)。対照群では、マウスにPBS緩衝液のみを投与した。腫瘍サイズ(B、抗PD-1注射を黒い矢印で示した。)及び生存率(C)を2/3日ごとに記録した。5匹のマウスを各群に含めた(n=5)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;一元配置ANOVA、引き続いてテューキーの多重比較検定。
【
図13】
図13は、タゼメトスタットがヒトPBMCにおいて所望の特性を増強することを示す。ヒトPBMCを、0日目及び6日目に別の5人の異なるドナーからの照射(50Gy)混合物hPBMCで活性化し、Taz(1uM、3日目~14日目)(A)の存在下又は非存在下で300IU/mL IL-2で拡大させた。2人のドナーについての14日目のCD8
+T細胞の表現型(ドナーAのB-C、ドナーBのE-F)及び増殖(ドナーAについてはD、ドナーBについてはG)分析。SCM:CD45RA
+CCR7
+、CM:CD45RA
-CCR7
+、EMRA:CD45RA
+CCR7
-、EM:CD45RA
-CCR7
-。hPBMCのサイトカイン産生をTazあり又はTazなし(1μM、3日目~14日目)で培養し、被覆抗CD3抗体(1ug/mL)及び懸濁した抗CD28抗体(1ug/mL)で5時間活性化した(E~H)。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;スチューデントT検定によって分析した。
【
図14】
図14は、タゼメトスタットがGD2-CarT細胞の疲弊表現型を減少させることを示す。ヒトPBMCをha-28zでトランスフェクトし、CD8
+GD2
+T細胞をTaz(1μM)の存在下又は非存在下で150IU/mL IL-2によるin vitro拡大のため選別し(A)、増殖後14日目の表現型分析を行った(B~F)。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;スチューデントT検定によって分析した。
【
図15】
図15は、糖が前駆疲弊特徴を維持し、末期疲弊T細胞をB16-OVA腫瘍由来のTILの前駆段階に逆転させることを示す。接種後10日目にB16-OVA腫瘍由来のTILを単離し、四量体陽性集団中のTim-3
-TCF/GFP
+及びTim-3
+TCF/GFP
-を生細胞選別によって収集した(A)。Tim-3
-TCF/GFP
+(B)及びTim-3
+TCF/GFP
-(C)の表現型特徴を、糖の存在下又は非存在下でフィーダー細胞(TIL/フィーダー細胞:1/200)を用いた急速拡大後7日目に分析した。各群について3回反復(n=3)、
nsP>0.05;*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;一元配置ANOVA、引き続いてテューキーの多重比較検定によって分析した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概要
T細胞ベースの免疫療法は、悪性腫瘍又は感染症を経験している患者を治療するために使用され得る。悪性腫瘍の治療のために、腫瘍特異的抗原(TSA)反応性T細胞を患者の腫瘍から単離し、次いでin vitroで培養して、養子移入のための多数の細胞を生成することができる。あるいは、患者の末梢血単核細胞(PBMC)からのT細胞は、TSA反応性T細胞受容体(TCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作され、養子移入のための多数の細胞を生成するためにin vitroで拡大され得る。更に、逆免疫学及び予測分析を使用して抗原候補を同定する現在の方法は、T細胞反応性を正確に予測することができない利用可能な計算ツールによって制限される。これらのT細胞ベースの免疫療法の有効性は、一部には、細胞が移入後にin vivoで持続する能力によって制限され得、持続的な臨床応答の欠如が観察される。これらの細胞の分化は、拡大と関連している(例えば、つながっている)。したがって、T細胞の複製能及び養子移入後のin vivo持続性は、最終分化と負に相関する。
【0017】
ナイーブT細胞は、抗原に遭遇すると、活性化及び分化を受ける。細胞分化は、「幹細胞性」(細胞が多分化能及び自己再生能を有する能力)の喪失を伴う。T細胞分化(ナイーブT細胞→幹細胞メモリーT細胞(Tscm)→セントラルメモリー(Tcm)→エフェクターメモリーT細胞(Tem)→エフェクターT細胞(Teff)の経路に沿って、転写因子TCF-1の発現の漸減がある。これらのTCF-1+T細胞の固有の特徴は、それらの自己再生能である。養子移入実験は、それらのTCF-1-対応物ではなく、TCF-1+T細胞のみが自己複製する能力を有し、エフェクター電位及び高レベルのチェックポイント受容体発現を付与されたTCF-1-細胞の子孫を生じさせる能力を有さないことを実証した。更に、幹細胞メモリー(Tscm)及びセントラルメモリー(Tcm)等の低分化T細胞サブセットは、より低いレベルの活性酸素種(ROS)を有するが、最終分化エフェクターメモリー及びエフェクターT細胞(Tem及びTeff)は、細胞傷害性等のそれらのエフェクター機能に必要とされるより高いROSレベルを有する。ROS蓄積の結果としての酸化ストレス及びDNA損傷の増加は、T細胞増殖の喪失、T細胞エフェクター機能及び損なわれた自己再生の特徴を有する最終分化に向けてCD8+T細胞を直接駆動し得る(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28412583/)。
【0018】
研究により、完全に分化したTeff表現型を有するTCR-T細胞及びCAR-T細胞の養子移入は、低分化Tscmサブセット又はTcmサブセットを利用するよりも腫瘍成長の制御において効果が低いことが明らかになった。同様に、前駆疲弊T細胞(Tpex)、すなわち、マウス持続性リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)クローン13(Cl13)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びHIVに感染した患者、癌モデル及び癌患者において最近同定された、転写因子TCF-1を発現する機能不全CD8+T細胞の亜集団が、腫瘍微小環境における慢性感染症に対する抗ウイルスT細胞応答及び抗腫瘍応答を持続させるために必要であることが判明した。これらのTpex細胞(Tim3-TCF-1+)は、抗PD-1/PD-L1療法後に、より分化した末期疲弊T細胞(Ttex、Tim3+TCF-1-)を形成することによって増殖性バースト及びエフェクター機能を提供する。更に、原発性黒色腫コホートにおける患者の生存との相関についての癌ゲノムアトラス(TCGA)データベースのメタ分析は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるTcf7(TCF-1をコードする)/pdcd1(PD-1をコードする)シグネチャが患者の生存の改善と相関することを明らかにした。
【0019】
ヒトにおける抗PD-1療法に対する陽性応答が、患者には有限数のPD-1応答性CD8+T細胞しか存在しないという事実と相まって、腫瘍におけるTpexの蓄積と相関することを考えると、単離されたTSA反応性TILのin vitro拡大中にTtex表現型ではなくTpex表現型を産生することは、慢性感染症及び癌の両方における免疫療法の有効性を改善するために重要であると仮定される。同様に、低分化Tscm又はTcm表現型及びin vitro拡大中の高いTCF-1発現を有するTCR-T細胞及びCAR-T細胞を産生することは、免疫療法治療の有効性を改善する可能性が高い。
【0020】
本発明は、活性化T細胞(例えば、前駆疲弊T細胞(Tpex))の拡大又は増殖をそれらの分化から切り離すことができる小分子及び他の化合物を同定するために本発明者らによって行われた研究から部分的に導き出される。本明細書に詳述するように、試験から同定されたいくつかの化合物は、活性化T細胞を拡大させて、分化状態がより低く、高いTCF-1発現を有するT細胞を産生することができる。分化状態がより低いこれらのT細胞は、養子移入後のin vivo持続性を高める能力を有する。いくつかの研究において、本発明者らは、生理学的レベル以外の様々な糖をT細胞と接触させると、幹細胞性を維持しながら拡大を改善することを発見した。更に、当該糖で拡大された細胞は、未処理対照T細胞と比較して、in vivoでの増殖及び増殖の増強(in vivo持続性の増強とも呼ばれる)並びに腫瘍抑制能力の増強を呈する。
【0021】
具体的には、以下に詳述するように、これらの研究の結果から、糖又は糖誘導体化合物によるウイルス特異的TCR改変CD8+T細胞(P14)の処理は、未処理T細胞よりもin vivoで良好に拡大することが明らかになった。in vitro拡大中に糖化合物で処理した抗原特異的TCR改変CD8+T細胞(OT-1)は、未処理T細胞よりもin vivoで腫瘍成長を抑制する有意に良好な能力を呈することも観察された。特に、TCF1+CD8+Tpex細胞を2つの糖誘導体化合物、Neu5Ac及びGlcNAcで処理すると、T細胞の機能的特徴が増強されることが示された。これらの糖誘導体は、in vivoでTCF1+CD8+Tpex細胞の増殖を促進し、in vivoで腫瘍抑制活性を呈し、CD8+TSA反応性CD8+TILのin vitro拡大中にTCF-1+細胞を増加させる。更に、これらの同定された糖化合物は、ヒトPBMC由来CAT-T細胞の増殖を増加させ、疲弊表現型を減少させることができることが更に見出された。関連する研究において、糖誘導体化合物は、前駆疲弊特徴を維持し、腫瘍から単離された前駆疲弊TILを前駆疲弊T細胞に戻すことができることが見出された。
【0022】
糖又は糖誘導体に加えて、本発明者らの研究はまた、T細胞拡大を分化から切り離すことができる他の化合物を同定した。例えば、彼らは、K-Ras(G12C)変異体の周知の阻害剤化合物である阻害剤12が、in vitro 拡大中の細胞成長を損なうことなく前駆様CD8+T細胞の生成を促進することを発見した。この化合物は、健康なヒトドナーのPBMC由来のCD8+T細胞において前駆様及び低分化(TSCM)表現型を上方制御することも観察された。同様に、別の化合物、EZH2阻害剤タゼメトスタットは、TCR改変T細胞(OT-1)の前駆体表現型を維持することができることが分かった。in vitro拡大中のT細胞におけるタゼメトスタットによるEZH 2阻害は、養子移入されたT細胞のin vivoメオスタシス、in vivo有効性、及び免疫チェックポイント応答を改善することも示された。タゼメトスタットは、ヒトPBMCにおいて所望の特性を増強し、ヒトPBMC由来CAR-T細胞の疲弊表現型を減少させることが更に見出された。更なる研究により、プリン及びピリミジン生合成中間体及び最終生成物、並びにグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDi-1)の阻害剤化合物もまた、前駆疲弊T細胞の低分化表現型を維持することができることが明らかになった。
【0023】
これらの研究によれば、本発明は、活性化T細胞を拡大させて、分化状態がより低いT細胞を産生するための方法を提供する。関連する実施形態では、本発明は、活性化T細胞の低分化状態を維持又は維持するための方法、例えば、前駆疲弊T細胞の表現型を維持する方法を提供する。一般に、本発明の方法は、T細胞拡大を分化から切り離す能力を実証した本明細書に記載の小分子化合物を利用する。そのような化合物には、例えば、特定の糖又は糖誘導体、KRAS(G12C)阻害剤、EZH 2阻害剤、及びプリン又はピリミジン生合成関連化合物が含まれる。したがって、これらの処理されたT細胞は、in vivo持続性が向上しているため、養子T細胞移入療法により適している。
【0024】
或る態様では、本開示は、養子細胞移入療法中の移入後のin vivoでのT細胞の持続性を高めるために、T細胞のin vitro拡大中に分化から拡大を切り離す化合物をスクリーニングするための方法を提供する。関連する態様では、本開示は、抗PD-1応答性CD8+T細胞の数を増加させることによってTIL及びTCR/CAR操作T細胞の質を改善するためにin vitro拡大殖中に使用することができるモジュレーター(例えば、小分子)を同定するのに部分的に有用なスクリーニング方法を提供し、当該細胞はより分化していない表現型を呈する。別の関連する態様では、本開示は、T細胞の増殖を促進するモジュレーター(例えば、化合物)をスクリーニングするための方法であって、化合物によって促進されたT細胞の増殖が、T細胞拡大を分化から切り離す方法を提供する。更に、本開示は、抗原に特異的な非最終分化T細胞を同定、単離及び拡大するための方法を提供する。本開示は、T細胞、医薬組成物、キット及びそれらを使用する治療方法を更に提供する。
【0025】
定義
本発明の理解を容易にするために、本明細書で使用される多くの用語及び略語は、以下のように定義される。
【0026】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の態様を含む。例えば、「ベクター」への言及は、単一のベクター、並びに2つ以上のベクターを含む。「細胞」への言及は、1つの細胞並びに2つ以上の細胞を含む、等である。
【0027】
「及び/又は」という用語は、2つ以上の項目のリストで使用される場合、列挙された項目のいずれか1つを単独で、又は列挙された項目のいずれか1つ以上と組み合わせて使用できることを意味する。例えば、「A及び/又はB」という表現は、AとBのいずれか又は両方、すなわちA単独、B単独、又はAとBの組合せを意味することを意図している。「A、B及び/又はC」という表現は、A単独、B単独、C単独、AとBの組合せ、AとCの組合せ、BとCの組合せ、又はA、B、及びCの組合せを意味することを意図している。
【0028】
本明細書を通して、文脈上別段の要求がない限り、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む/含んでいる(comprising)」 等の変形は、記載された要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群を含むが、任意の他の要素若しくは整数、又は要素若しくは整数の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0029】
「からなる(consisting of)」とは、「からなる」という語句に続くものを含み、それに限定されることを意味する。したがって、「からなる」という語句は、列挙された要素が必要又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。「から本質的になる」とは、句の後に列挙された任意の要素を含むことを意味し、列挙された要素について本開示で指定された活性又は作用に干渉又は寄与しない他の要素に限定される。したがって、「から本質的になる」という語句は、列挙された要素が必要又は必須であるが、他の要素は任意であり、列挙された要素の活性又は作用に影響を及ぼすか否かに応じて存在してもしなくてもよいことを示す。
【0030】
「例えば」という用語への言及は、「例えば、限定されないが、」を意味することを意図しており、したがって、以下のものはいずれも特定の実施形態の単なる例であり、決して限定的な例であると解釈されるべきではないことを理解されたい。別段の指示がない限り、「例えば」の使用は、他の実施形態が企図されており、本発明に包含されることを明示的に示すことを意図している。
【0031】
本明細書を通して、「実施形態」又は「一実施形態」又は「或る実施形態」又は「いくつかの実施形態」又は「特定の実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所における「一実施形態では」又は「或る実施形態では」又は「特定の実施形態では」又は「いくつかの実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すとは限らない。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0032】
「増加した/上昇した」又は「増強された」量は、典型的には「統計的に有意な」量であり、本明細書に記載の量又はレベルの1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、又は50倍以上(例えば、100、500、1000倍)(例えば、2.1、2.2、2.3、2.4等、1と1より上の間の全ての整数及び小数点を含む)の増加/上昇を含み得る。同様に、「減少した/低下した」又は「減少した」又は「より少ない」量は、典型的には「統計的に有意な」量であり、本明細書に記載の量又はレベルの約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、又は50倍以上(例えば、100、500、1000倍)(例えば、1.5、1.6、1.7、1.8等、1と1より上の間の全ての整数及び小数点を含む)の減少/低下を含み得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「任意の(optional)」また「~されてもよい/場合により(optionally)」は、続いて記載される事象又は状況が発生してもしなくてもよいこと、及びその説明が、当該事象又は状況が発生する場合と発生しない場合とを含むことを意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「実質的に」又は「本質的に」は、十分又はかなりの量、量、サイズを意味する。ほぼ完全に又は完全に、例えば、ある所与の量の95%以上である。
【0035】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではない。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等の任意の材料及び方法を使用して、本発明を実施することができる。本発明の実施は、当業者の技能の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用し得る。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook et al,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(MJ.Gait,ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-1998)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and CC.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel et al,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis et al,eds.,1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(CA.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.,Harwood Academic Publishers,1995);及びCancer:Principles and Practice of Oncology(V.T.DeVita et al,eds.,J.B.Lippincott Company,1993)等の文献に十分に説明されている。
【0036】
「in vitro」、「ex vivo」、及び「in vivo」という用語は、本明細書ではそれらの通常の科学的意味を有することを意図している。したがって、例えば、「in vitro」は、単離された細胞成分で起こる実験又は反応、例えば、適切な基質、酵素、ドナー、及び場合により緩衝液/補因子を使用して試験管内で行われる酵素反応を指すことを意味する。「ex vivo」は、生物から除去された、又は生物とは独立して増えた機能的器官又は細胞を使用して行われる実験又は反応を指すことを意味する。「in vivo」は、その正常な無傷の状態で生体内で起こる実験又は反応を指すことを意味する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「哺乳動物」は、ヒト及び実験動物及び家庭用ペット等の家畜(例えば、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、霊長類、げっ歯類及びウサギ)、並びに野生生物等の非家畜を含む。
【0038】
本明細書で使用される場合、「対象」は、本発明の薬剤で治療することができる疾患若しくは症状を呈するか、又は疾患若しくは症状を呈するリスクがある任意の動物を含む。適切な対象としては、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ又はモルモット)、家畜及び家畜又はペット(ネコ又はイヌ等)が挙げられる。非ヒト霊長類、好ましくはヒト患者が含まれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「増殖」は、細胞又は細胞集団が分裂し成長する能力を指す。本明細書で使用される場合、「拡大」は、細胞又は細胞集団が分裂し成長する能力を指す。本明細書で使用される場合、「分化する」又は「分化した」又は「分化」は、未成熟(非特殊化)細胞が成熟(特殊化)細胞になる特性を獲得し、それによって特定の形態及び機能を獲得するプロセス及び条件を指すために使用される。幹細胞(特殊化されていない)は、当該幹細胞の特定の系統拘束又は分化を誘導するために、様々な条件(例えば、成長因子及び形態形成因子)に曝されることが多い。例えば、エフェクターメモリー細胞に移行するナイーブT細胞を分化させる。
【0040】
細胞分化は、「幹細胞性」(細胞が多分化能及び自己再生能を有する能力)の喪失を伴う。T細胞分化(ナイーブT細胞から幹細胞メモリーT細胞(TSCM)、次いでセントラルメモリー(TCM)、次いでエフェクターメモリーT細胞(TEM)、次いでエフェクターT細胞(TEFF)への経路に沿って、転写因子TCF-1の発現の漸減が存在する。同様に、慢性ウイルス感染症及び腫瘍では、CD8+前駆疲弊T細胞(Tex前駆体)細胞が分化して前駆疲弊T細胞(Tpex)を生成し、次いで分化して末期疲弊T細胞(Ttex)(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31606264/)を形成すると、TCF-1発現が減少する。
【0041】
幹細胞メモリー(TSCM)及びセントラルメモリー(TCM)等の低分化T細胞サブセットは、ROSレベルが低下しているが、最終分化エフェクターメモリー及びエフェクターT細胞(TEM及びTEFF)は、細胞傷害性等のそれらのエフェクター機能に必要なROSレベルの上昇を示す。ROS蓄積の結果としての酸化ストレス及びDNA損傷の増加は、T細胞増殖の喪失、T細胞エフェクター機能及び損なわれた自己再生の特徴を有する最終分化に向けてCD8+T細胞を直接駆動し得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、「T細胞拡大を分化から切り離す」は、分化を欠く細胞が増殖が起こるにつれて分化の状態に向かって進行することが多く、増殖と分化が組み合わされることから、分化を受けずに増殖する細胞の現象を指すために使用される。したがって、分化から切り離された(例えば分離される)拡大を経験するT細胞は、幹細胞性を維持しながら数が増え続ける。本明細書で使用される場合、「幹細胞性」とは、分化することができる娘細胞を自己複製及び生成する細胞能力を指す。幹細胞性を維持しながら様々な未分化細胞をin vitroで拡大させるために使用されるいくつかの例示的な技術は、例えば、Shuai et al.(2016)Theranostics.6(11):1899-1917;Zhang et al.(2015)Biomaterials.41:15-25;及びZhang&Wang.(2013)PLoS ONE.8(4):e61424に記載されている。
【0043】
本明細書で使用される場合、「CD8+」及び「CD4+」という用語は、CD8又はCD4表面マーカーのいずれかを発現する細胞を指すために使用され、「+」は存在を示し、「-」は非存在を示す。したがって、あるいは、「Tim3-TCF-1+」は、Tim3の発現を欠くか、又はほとんど若しくは全く有さず、TCF-1の発現を有する細胞を指すために使用される。更に、「PD-1+」は、PD-1を発現する細胞を指すために使用される。
【0044】
本明細書で使用される場合、活性化T細胞は、抗原提示細胞によって提示される抗原に遭遇した、又は抗CD3及びCD-28抗体によって刺激された任意のT細胞を指す。活性化T細胞の非限定的な例としては、例えば、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)及び末期疲弊T細胞(Ttex)が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「T細胞拡大を分化から切り離す」という語句は、分化を受けずに、又は分化の程度が低い状態で増殖する細胞の現象を指す。通常、未分化細胞又はより分化していない細胞は、増殖過程を経ながら、異なる分化状態に向かって進行する、すなわち、細胞の拡大と分化が連動する。本明細書に記載の特定の条件下では、T細胞は、分化から切り離されている(例えば切断される)間に拡大を経験し得る。そのような細胞は、幹細胞性を維持しながら数が増え続ける。本明細書で使用される場合、「幹細胞性」とは、分化することができる娘細胞を自己複製及び生成する細胞能力を指す。幹細胞性を維持しながら様々な未分化細胞をin vitroで拡大させるために使用されるいくつかの例示的な技術が当技術分野に記載されている。例えば、Gurusamy et al.,(2020),Cancer Cell,37,818-833;Shuai et al.(2016)Theranostics.6(11):1899-1917;Zhang et al.(2015)Biomaterials.41:15-25;及びZhang&Wang.(2013)PLoS ONE.8(4):e61424を参照されたい。
【0046】
本明細書で使用される場合、養子移入されたT細胞の「in vivo持続性」という語句は、レシピエントにおけるドナーT細胞の長期生存及び増殖能力を指す。「in vivo持続性」は、レシピエントの末梢血、腫瘍部位、リンパ節、脾臓、肝臓、又はそれらが存在する任意の他の器官における所与の時点(すなわち、養子移入後7、14、30日以上)でのドナーT細胞数を分析することによって、異なるドナーT細胞間で定量的に比較することができる。優れた「in vivo持続性」を有するドナーT細胞は、上記の部位でより高い数を有すると予想される。未処理対照T細胞と比較して、化合物処理T細胞は、養子移入後にin vivoで150%、200%、250%、300%、400%、500%又はそれを超えて持続する。
【0047】
ポリコーム抑制複合体2(PRC2)の機能的酵素成分であるゼステホモログ2(EZH2)のエンハンサーは、Ezh2遺伝子によってコードされるヒストン-リジンN-メチルトランスフェラーゼ酵素である。これは、Lys27(H3K27me3)におけるヒストンH3のトリメチル化を触媒することによって遺伝子抑制を媒介する。タゼメトスタット(Taz)は、完全切除に適格でない転移性又は局所進行性の類上皮肉腫を有する16歳以上の成人及び青年の処理について2020年にFDAによって承認されたEZH2のS-アデノシルメチオニン(SAM)競合的阻害剤である。例えば、Qi et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 2012;109:21360-5;Knutson et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 2013;110:7922-7;Knutson et al.,Mol.Cancer Ther.2014;13(4):842-54;及びMondello and Ansell,Expert Opin.Pharmacother.2021;1-7.doi:10.1080/14656566.2021.2014815を参照されたい。
【0048】
RASファミリーのメンバーであるカーステンラット肉腫(KRAS)癌遺伝子は、活性GTP結合立体配座と不活性GDP結合立体配座とを切り替えるシグナル伝達GTPアーゼをコードする。これは、一般に、広範囲の癌において変異している。KRAS-G12C変異は、非小細胞肺癌(NSCLC)に関連する最も一般的な遺伝子異常であり、膵管腺癌(PDAC)及び結腸直腸腺癌等のいくつかの他の癌型(頻度は低いが)にも見られる。このバイオマーカーの検出は、疾患の予後並びに治療に対するその応答に対する洞察を提供することができる。KRAS(G12C)阻害剤12を含む、KRAS(G12C)のいくつかの小分子阻害剤化合物が知られている。例えば、Ostrem et al.,Nature 503:548-51,2013;Wang et al.,Oncotarget 2016;7(9):10064-72;及びLiu et al.,Cancer Gene Ther(2021)https://doi.org/10.1038/s41417-021-00383-9を参照されたい。これらの化合物は、システイン12と共有結合を選択的に形成することによって、KRASを不活性状態にロックして細胞増殖を停止させることができる。
【0049】
脾細胞は、脾臓組織に由来する白血球である。脾細胞は、様々な細胞集団(例えば、T及びBリンパ球、樹状細胞及びマクロファージ)を含む。ナイーブ細胞は、未成熟であると考えられる細胞であり、ナイーブT細胞は、活性化T細胞又はメモリーT細胞とは異なり、末梢内で同族抗原に遭遇したことがない。ナイーブT細胞は、MHC分子を使用して抗原を提示する抗原提示細胞(APC)と相互作用することができる。特定の抗原を認識すると、T細胞は増殖し、特定の種類のエフェクターT細胞に分化する。免疫機能を実行するために、エフェクターT細胞は宿主細胞と相互作用する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「活性化」又は「活性化された」は、ナイーブT細胞が特定の分子と接触し、T細胞のシグナル伝達分子の再編成をもたらし、その結果、抗原特異的T細胞の選択的増殖をもたらす、ナイーブ又はプライミングされていないT細胞からの変化を指す。活性化のプロセスは、一般に、MHCに結合したペプチドとして抗原を提示する抗原提示細胞による抗原プロセシング及び提示;CD4及びCD8共受容体の結合と同時に抗原へのT細胞受容体の特異的結合;樹状細胞上のB7(CD80/CD86)とT細胞上のCD28との間の相互作用による抗原提示細胞によるT細胞の共刺激;及び活性化時のサイトカインシグナル伝達経路を介した分化を含む。本明細書で使用される場合、「活性化剤は、T細胞の活性化を刺激することができる任意の化合物又は分子を説明するために使用される。活性化剤には、ペプチド抗原、抗原提示細胞、抗CD3、抗CD28、ホルボール12ミリステート13アセテート(PMA)及びイオノマイシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
適応免疫系は、T細胞又はTリンパ球を含む特異的免疫細胞を含む。これらの細胞は、抗原認識、免疫応答調節、サイトカインの産生、他の免疫細胞の活性化、及び標的細胞の中和において機能する。T細胞には、制御性T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞又はメモリーT細胞が含まれる。T細胞は、骨髄で生成された造血幹細胞に由来し、次いで成熟のために胸腺に移動する。成熟後、T細胞は末梢組織に移動し、リンパ系又は血液系を循環する。末梢血由来のナイーブT細胞は、抗原に遭遇すると活性化を受け、幹細胞メモリー(Tscm)、セントラルメモリー(Tcm)、エフェクターメモリー(Tem)、及びエフェクターT(Teff)細胞に分化する。より大きな分化を呈するT細胞は、より大きな老化、疲弊、及びエフェクター機能を有するが、治療効果、自己再生、及び生存は限られている。逆に、より少ない分化を呈するT細胞は、より大きな治療有効性、自己再生及び生存を有するが、老化、疲弊及びエフェクター機能は限られている。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の拡大からのナイーブT細胞分化の最近の研究は、疲弊様メモリー(exhausted-like memory)T細胞(Tpex)及び疲弊CD8(Ttex)T細胞を明らかにしており、Tpex細胞は、治療有効性、自己再生、生存、老化、疲弊及びエフェクター機能の間のバランスを可能にする限られた分化を呈する。T細胞は主にリンパ系組織(例えば、骨髄、脾臓、扁桃及びリンパ節)内に見られ、粘膜部位(例えば、肺及び腸)、皮膚及び末梢血にも多数存在する。ナイーブT細胞は、血液、リンパ及び二次リンパ器官内に見られる。本明細書で使用される場合、「T細胞含有組織」は、T細胞を含む対象由来の任意の組織を指す。いくつかの実施形態では、T細胞含有組織は、脾細胞、リンパ節組織、又は末梢血単核細胞(PBMC)を含む。いくつかの実施形態では、T細胞含有組織はナイーブT細胞を含む。いくつかの実施形態では、T細胞含有組織は、腫瘍組織又は腫瘍組織の腫瘍排出リンパ節(tumor draining lymph nodes)を含む。いくつかの実施形態では、T細胞含有組織は、慢性感染症又は悪性腫瘍を有するか、有すると考えられる対象からの腫瘍組織又はT細胞を含む。
【0052】
本明細書で使用される場合、「より低い分化状態」は、比較的高いレベルのTCF-1発現を有するT細胞の状態、又は分化軌跡の初期段階におけるT細胞の状態を指す。例えば、T細胞AがT細胞Bよりも10%高いTCF-1を発現する場合、T細胞AはT細胞Bよりも分化していないと考えられる。同様に、前駆疲弊T細胞(Tpex)は、末期疲弊T細胞(Ttex)よりも分化していない。幹細胞メモリーT細胞(Tscm)及びセントラルメモリーT細胞(Tcm)は、エフェクターT細胞(Teff)よりも分化していない。メモリーT細胞は、CD3+及びCD4+又はCD8+を呈する。Tcm細胞は、抗原への一次曝露後に長期間生体系に留まる抗原特異的T細胞であり、抗原への再曝露時にエフェクターT細胞に変換され得る。ヒトでは、Tcm細胞は、CCR7+、CD45RA-、CD45RO+、CD62L+及びCD27+を含む特徴的なマーカーを有し得る。マウスでは、Tcm細胞は、CC44+及びCD62L+を含む特徴的なマーカーを提示し得る。Tscm細胞は、多能性であり、自己複製することができ、メモリーT細胞のより分化したサブセットを提供するように機能することができる前駆細胞である。ヒトでは、Tscm細胞は、CD45RA+、CD45RO-、CCR7+、CD62L+、CD27+、CD28+、CD95+、及びIL-7Rα+を含む特徴的なマーカーを提示し得る。マウスでは、Tscm細胞は、CD44-及びCD62L+を含む特徴的なマーカーを提示し得る。いくつかの実施形態では、T細胞の「より低い分化状態」は、比較的高いレベルのTCF-1発現を有するT細胞の状態又は分化軌跡の初期段階におけるT細胞の状態を指すことができる。例えば、T細胞AがT細胞Bよりも10%高いTCF-1を発現する場合、T細胞AはT細胞Bよりも分化していないと考えられる。同様に、Tscm及びTcm細胞はTeff細胞よりも分化していない。前駆疲弊T細胞(Tpex)は、末期疲弊T細胞(Ttex)よりも分化していない。本明細書に記載されるように、いくつかの化合物は、活性化T細胞をより低い分化状態に維持することができる。未処理対照T細胞と比較して、化合物処理T細胞は、75%、60%、50%、40%、30%、20%、又は10%未満の分化であり得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「疲弊(した)」又は「疲弊」という用語は、特に明記しない限り、一般に、サイトカインを分泌する能力が低下したエフェクターT細胞(例えばIL-2)、増殖能力が低下したエフェクターT細胞、及び阻害性受容体(例えば、PD-1、Tim-3、Lag-3)の発現が増加したエフェクターT細胞を指す。疲弊は、T細胞エフェクター機能の進行性喪失を特徴とし、特定の条件下(すなわち、抗原への持続的曝露)では、T細胞は、エフェクター及びメモリーT細胞集団の産生を含むエフェクター関連活性を精緻化することができなくなる。疲弊したT細胞応答は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)感染、ポリオーマウイルス感染、アデノウイルス感染、フレンド白血病ウイルス感染、マウス肝炎ウイルス感染、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、B型肝炎ウイルス(HBV)感染、C型肝炎ウイルス(HCV)感染を含むがこれらに限定されない様々な状況下で観察されており、悪性腫瘍を有する対象においても報告されている。
【0054】
前駆疲弊T細胞又は疲弊様記憶(Tpex)細胞は、Tim3-TCF-1+である細胞を含む。それらは、免疫調節タンパク質Tim-3の発現を伴わないか又は基底レベルのTim-3発現を伴う転写因子TCF-1を発現するウイルス感染動物モデル及び患者及び腫瘍において同定された機能不全CD8+T細胞の亜集団を表す。これらのT細胞は幹細胞様特性を示し、それらは最終分化細胞を産生し、腫瘍微小環境内の細胞分裂(自己再生)中に自身を再生することができる。前駆疲弊T細胞は、抗PD-1/PD-L1療法後に増殖性バースト及びエフェクター機能を提供するが、TCF-1の発現なしに高レベルのTim-3を発現する終末疲弊T細胞(TCF-1-Tim-3+)は、PD-1遮断に応答せず、短命である。Tim-3-TCF-1+であるCD8+T細胞は、最初にTim3-TCF-1-である一過性状態に分化し、次いでTim-3+TCF-1-T細胞に分化する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、天然の環境から除去された分子又は細胞を指すために使用される。本明細書で使用される場合、「天然に存在しない」という用語は、天然に見られる対応物とは著しく異なる構造を有する単離された分子又は細胞を指すために使用される。
【0056】
本明細書で使用される場合、特定の細胞を含む「細胞集団」又は「精製細胞集団」又は「精製細胞組成物」を含有する組成物は、組成物中の細胞の少なくとも30%、50%、60%、典型的には少なくとも70%、より好ましくは80%、90%、95%、98%、99%、又はそれ以上が同定されたタイプであることを意味する。
【0057】
本明細書において、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比の範囲、又は整数範囲は、別段の指示がない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、及び適切な場合にはその分数(整数の10分の1及び100分の1等)を含むと理解されるべきである。「約」という用語は、数字又は数字の直前にある場合、数字又は数字の範囲がプラス又はマイナス1%、プラス又はマイナス5%、プラス又はマイナス10%であることを意味し得る。
【0058】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」という用語は、本明細書では互換的に使用され、mRNA、RNA、cRNA、cDNA又はDNAであり得るヌクレオチドのポリマーを指す。この用語は、典型的には、リボヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチド、又はいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾形態の、少なくとも10塩基長のヌクレオチドのポリマー形態を指す。この用語は、DNAの一本鎖及び二本鎖形態を含む。
【0059】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、又は「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用され、隣接する残基のアルファ-アミノ基とカルボキシル基との間のペプチド結合によって互いに連結された直線状の一連のアミノ酸残基を指す。アミノ酸残基は、通常、天然の「L」異性体の形態である。しかしながら、「D」異性体形態の残基は、所望の機能特性がポリペプチドによって保持される限り、任意のL-アミノ酸残基に置換することができる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、標的抗原に特異的に結合するか、又は標的抗原と特異的に相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子又は分子複合体を意味すると理解される。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に連結された2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖とを含む完全長免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(これらは、HCVR、VH又はVHと略記され得る)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、典型的には3つのドメイン-CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(これらは、LCVR、VL、VK、VK又はVLと略記され得る)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、典型的には1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)とも呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分することができる。
【0061】
「宿主」、「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞には、「形質転換体」又は「形質転換細胞」又は「操作された細胞」が含まれ、これらには、継代数に関係なく初代形質転換細胞及びそれに由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と核酸含有量が完全に同一でない場合があり、突然変異を含有する場合がある。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫が本明細書に含まれる。宿主細胞は、本発明の抗原結合分子を生成するために使用することができる任意の種類の細胞系である。宿主細胞には、培養細胞、例えば、限定されないが、T細胞等の哺乳動物培養細胞が含まれる。
【0062】
本明細書で使用される場合、互換的に使用される「ベクター」及び「コンストラクト」という用語は、核酸分子、好ましくは、例えば、核酸配列が挿入又はクローニングされ得るプラスミド、バクテリオファージ、又はウイルスに由来するDNA分子であり得る。ベクターは、1つ以上のユニークな制限部位を含有し得、標的細胞若しくは組織又はその前駆細胞若しくは組織を含む定義された宿主細胞における自律複製が可能であり得るか、又はクローン化された配列が再現可能であるように定義された宿主のゲノムと統合可能であり得る。したがって、ベクターは、自律複製ベクター、すなわち染色体外実体として存在し、その複製が染色体複製とは独立しているベクター、例えば直鎖又は閉環状プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体又は人工染色体であり得る。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含み得る。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されると、ゲノムに組み込まれ、組み込まれた(1又は複数の)染色体と共に複製されるものであり得る。ベクター系は、単一のベクター又はプラスミド、宿主細胞のゲノムに導入される全DNAを一緒に含む2つ以上のベクター又はプラスミド、又はトランスポゾンを含み得る。ベクターの選択は、典型的には、ベクターが導入される宿主細胞とのベクターの適合性に依存する。ベクターはまた、適切な形質転換体の選択に使用することができる抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを含み得る。そのような耐性遺伝子の例は、当業者に周知である。いくつかの実施形態では、ベクターを使用して、本発明の操作されたNK細胞又は操作されたマクロファージ細胞を生成する。
【0063】
本明細書で使用される場合、ウイルスベクターに関して特に記載されない限り、「ベクター」は、それが連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を意味する。例示的なベクターには、プラスミド、ミニサークル、トランスポゾン、酵母人工染色体、自己複製RNA、及びウイルスゲノムが含まれる。特定のベクターは宿主細胞内で自律的に複製することができるが、他のベクターは宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。更に、特定のベクターは、本明細書では(又は単に「発現ベクター」)と呼ばれ、発現制御配列に作動可能に連結され、したがってそれらの配列の発現を指示することができる核酸配列を含む。特定の実施形態では、発現コンストラクトは、プラスミドベクターに由来する。例示的なコンストラクトには、アンピシリン耐性遺伝子、ポリアデニル化シグナル及びT7プロモーター部位をコードする核酸配列を有する改変pNASSベクター(Clontech、カリフォルニア州パロアルト);CHEF1プロモーターを有するpDEF38及びpNEF38(CMC ICOS Biologies,Inc.);CMVプロモーターを有するpD18(Lonza)が含まれる。他の適切な哺乳動物発現ベクターは周知である(例えば、前出のAusubel et al,1995;Sambrook et al.を参照;例えば、Invitrogen(カリフォルニア州サンディエゴ)、Novagen(ウィスコンシン州マディソン);Pharmacia(ニュージャージー州ピスカタウェイ)からのカタログも参照)。
【0064】
本明細書で使用される場合、「発現コンストラクト」は、治療用タンパク質のコード配列、プロモーターを含み、そのための他の調節配列を含み得る核酸分子を指し、そのカセットは、遺伝子要素に操作され得る、及び/又はウイルスベクター(例えば、ウイルス粒子)のキャプシドにパッケージングされ得る。典型的には、ウイルスベクターを作製するためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナル及び本明細書に記載されるもの等の他の発現制御配列に隣接する本明細書に記載されるコンストラクト配列を含む。発現制御配列のいずれも、例えばコドン最適化を含む当技術分野で公知の技術を使用して、特定の種に対して最適化することができる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「制御エレメント」、「制御配列」、「調節配列」等は、特定の宿主細胞における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な核酸配列(例えば、DNA)を意味する。原核細胞に適した制御配列には、例えば、プロモーター、並びに必要に応じてオペレーター配列及びリボソーム結合部位等のシス作用配列が含まれる。真核細胞に適した制御配列には、転写制御配列、例えばプロモーター、ポリアデニル化シグナル、転写エンハンサー、翻訳制御配列、例えば翻訳エンハンサー及び内部リボソーム結合部位(IRES)、mRNA安定性を調節する核酸配列、並びに転写されたポリヌクレオチドによってコードされる産物を細胞内の細胞内区画又は細胞外環境に標的化する標的化配列が含まれる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「目的の遺伝子」又は「遺伝子」又は「目的の核酸」は、標的トランスフェクト細胞で発現される導入遺伝子を指す。「遺伝子」という用語が使用され得るが、これは、これがゲノムDNAに見られる遺伝子であり、「核酸」という用語と互換的に使用されることを意味するものではない。一般に、目的の核酸は、治療剤をコードするのに適した核酸を提供し、cDNA又はDNAを含んでもよく、イントロンを含んでも含まなくてもよいが、一般にイントロンを含まない。他の箇所で述べられるように、目的の核酸は、標的細胞において目的のタンパク質を効果的に発現するために発現制御配列に作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のベクターは、1つ以上の目的の遺伝子を含み得、2、3、4、又は5つ以上の目的の遺伝子を含み得る。
【0067】
したがって、本開示は、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター(クローニングベクター及び発現ベクターを含む)、及び本開示によるポリヌクレオチド又はベクターで形質転換又はトランスフェクトした細胞(例えば、宿主細胞)を遺伝子改変するための本開示の治療剤(例えば、目的のタンパク質)をコードするポリヌクレオチド(単離された又は精製された又は純粋なポリヌクレオチド)を提供する。特定の実施形態では、本開示の目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(DNA又はRNA)が企図される。目的のタンパク質をコードする発現カセットも本明細書で企図される。
【0068】
本開示はまた、本開示のポリヌクレオチドを含むベクターに関し、特に、組換え発現コンストラクトに関する。一実施形態では、本開示は、本開示のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、そのようなタンパク質コード配列の転写、翻訳、及びプロセシングを引き起こす又は促進する他のポリヌクレオチド配列と共に含むベクターを企図する。原核生物宿主及び真核生物宿主とともに使用するための適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,NY,(1989)に記載されている。例示的なクローニング/発現ベクターには、プラスミド、ファージミド、ファスミド、コスミド、ウイルス、人工染色体、又はその中に含まれるポリヌクレオチドの増幅、移入及び/又は発現に適した当技術分野で公知の任意の核酸ビヒクルに基づくことができるクローニングベクター、シャトルベクター、及び発現コンストラクトが含まれる。
【0069】
一般に、組換え発現ベクターは、上記のように、複製起点及び宿主細胞の形質転換を可能にする選択マーカー、並びに下流の構造配列の転写を指示するための高発現遺伝子に由来するプロモーターを含む。本開示によるポリヌクレオチドと作動可能に連結したベクターは、クローニング又は発現コンストラクトを生じる。例示的なクローニング/発現コンストラクトは、本開示のポリヌクレオチドに作動可能に連結された少なくとも1つの発現制御エレメント、例えばプロモーターを含有する。エンハンサー、因子特異的結合部位、ターミネーター及びリボソーム結合部位等の更なる発現制御エレメントもまた、本開示によるベクター及びクローニング/発現コンストラクトにおいて企図される。本開示によるポリヌクレオチドの異種構造配列は、翻訳開始及び終結配列を有する適切な段階で組み立てられる。したがって、例えば、本明細書で提供されるようなコード核酸は、宿主細胞においてそのようなタンパク質を発現するための組換え発現コンストラクトとして、様々な発現ベクターコンストラクト(例えば、ミニサークル)のいずれか1つに含まれ得る。
【0070】
適切な(1又は複数の)DNA配列は、例えば、様々な手順によってベクターに挿入され得る。一般に、DNA配列は、当技術分野で公知の手順によって適切な(1又は複数の)制限エンドヌクレアーゼ切断部位に挿入される。クローニング、DNA単離、増幅及び精製のための標準的な技術、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼ等を含む酵素反応のための標準的な技術、及び様々な分離技術が企図される。いくつかの標準的な技術は、例えば、Ausubel et al.(Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publ.Assoc.Inc.&John Wiley&Sons,Inc.,Boston,MA,1993);Sambrook et al.(Molecular Cloning,Second Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Plainview,NY,1989);Maniatis et al.(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,Plainview,NY,1982);Glover(Ed.)(DNA Cloning Vol.I and II,IRL Press,Oxford,UK,1985);Hames and Higgins(Eds.)(Nucleic Acid Hybridization,IRL Press,Oxford,UK,1985)及び他の場所に記載されている。
【0071】
発現ベクター中のDNA配列は、mRNA合成を指示するために、少なくとも1つの適切な発現制御配列(例えば、構成的プロモーター又は調節プロモーター)に作動可能に連結される。そのような発現制御配列の代表的な例としては、上記のような真核細胞又はそれらのウイルスのプロモーターが挙げられる。プロモーター領域は、CAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)ベクター、カナマイシンベクター、又は選択マーカーを有する他のベクターを使用して任意の所望の遺伝子から選択することができる。真核生物プロモーターには、CMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルス由来のLTR、EEK、EF1α、及びマウスメタロチオネイン-1が含まれる。適切なベクター及びプロモーターの選択は十分に当業者のレベル内であり、本開示によるタンパク質又はポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結された少なくとも1つのプロモーター又は調節プロモーターを含む特定の特に好ましい組換え発現コンストラクトの調製が本明細書に記載される。
【0072】
本開示のポリヌクレオチドのバリアントも企図される。バリアントポリヌクレオチドは、本明細書に記載の定義された配列のポリヌクレオチドの1つと少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは95%、96%、97%、98%、99%、又は99.9%同一であるか、又は0.015M塩化ナトリウム、約65~68℃で0.0015Mクエン酸ナトリウム、約42℃で0.015M塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム、及び50%ホルムアミドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で定義された配列のポリヌクレオチドの1つとハイブリダイズする。ポリヌクレオチドバリアントは、本明細書に記載の機能を有する結合ドメイン又はその融合タンパク質をコードする能力を保持する。
【0073】
いくつかの実施形態では、細胞は、活性化の前にトランスフェクト又は他の方法(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)で操作される。いくつかの実施形態では、細胞は、活性化中にトランスフェクト又は他の方法(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)で操作される。いくつかの実施形態では、細胞は、活性化後にトランスフェクト又は他の方法で(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)操作される。いくつかの実施形態では、細胞は、分化の前にトランスフェクト又は他の方法で(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)操作される。いくつかの実施形態では、細胞は、分化中にトランスフェクト又は他の方法で(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)操作される。いくつかの実施形態では、細胞は、分化後にトランスフェクト又は他の方法で(例えば、導入遺伝子の標的化された組み込みを介して)操作される。
【0074】
いくつかの実施形態では、非ウイルスベクターを使用して、DNA又はRNAをT細胞に送達する。例えば、ウイルス組み込み系を必要とせずにT細胞のトランスフェクションを促進し得る系としては、トランスポゾン、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)(Cas9又はCasXを含むがこれらに限定されない)、メガヌクレアーゼ、ミニサークル、レプリコン、人工染色体(例えば、細菌人工染色体、哺乳動物人工染色体、及び酵母人工染色体)、プラスミド、コスミド、及びバクテリオファージが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
いくつかの実施形態では、非ウイルス依存性ベクター系はまた、当該分野で公知であるか又は下記に記載されるウイルスベクターを介して送達され得る。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)を利用して、1つ以上の非ウイルスベクター(例えば、上述のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)、メガヌクレアーゼ、又は標的化されたインテグレーションを促進することができる任意の他の酵素/相補的ベクター、ポリヌクレオチド、及び/又はポリペプチドのうちの1つ以上等)を送達する。したがって、いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、標的化インテグレーション方法によって外因性配列を発現するように操作され得る。そのような方法は当技術分野で公知であり、1つ以上のヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas、メガヌクレアーゼ)を使用して細胞内の内因性遺伝子座を切断すること、及び導入遺伝子が内因性遺伝子座に組み込まれて細胞内で発現されるように導入遺伝子を細胞に投与することを含み得る。導入遺伝子は、ヌクレアーゼによる切断の時点又はその付近で宿主細胞のDNAに組み込まれるドナー配列に含まれ得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞ゲノムの遺伝子編集によって、又はポリヌクレオチド配列のT細胞のゲノムへの標的化された組み込みによって調製された。
【0076】
いくつかの実施形態では、標的化インテグレーションは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ媒介性遺伝子インテグレーション、CRISPR媒介性遺伝子インテグレーション若しくは遺伝子編集、TALEヌクレアーゼ媒介性遺伝子インテグレーション、又はメガヌクレアーゼ媒介性遺伝子インテグレーションを含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドの標的化された組み込みは、相同組換えを介して起こった。いくつかの実施形態では、標的化インテグレーションは、標的部位においてDNA切断を誘導することができるヌクレアーゼのウイルスベクター媒介送達を含む。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、Casヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、又はメガヌクレアーゼである。
【0077】
外因性配列の組み込みは、組換えによって起こり得る。当業者には明らかなように、「組換え」とは、非相同末端結合(NHEJ)によるドナー捕捉及び相同組換えを含むがこれらに限定されない、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換プロセスを指す。組換えは相同組換えであり得る。本開示の目的では、「相同組換え(HR)」は、例えば、相同組換え修復機構による細胞の二本鎖切断の修復中に起こるそのような交換の特殊な形態を指す。このプロセスは、ヌクレオチド配列相同性を利用し、それによって、「ドナー」分子(例えば、ドナーポリヌクレオチド配列又はそのような配列を含むドナーベクター)は、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を経験したもの)を修復するためのテンプレートとして細胞のDNA修復機構によって利用され、これらの手段によって、ドナーから標的への遺伝情報の伝達を引き起こす。HR指向性インテグレーションのいくつかの実施形態では、ドナー分子は、ゲノムと相同な少なくとも2つの領域(「相同アーム」)を含み得る。いくつかの実施形態では、相同アームは、例えば、少なくとも50~100塩基対の長さであり得る。相同アームは、標的化された組み込みが起こる切断部位に隣接するゲノムDNAの領域と実質的なDNA相同性を有し得る。ドナー分子の相同アームは、標的ゲノム又は標的DNA遺伝子座に組み込まれるDNAに隣接し得る。プラスミドDNAの相同領域を鋳型として使用した染色体の切断とそれに続く修復は、相同アームに隣接する介在導入遺伝子のゲノムへの移入をもたらし得る。例えば、Roller et al.(1989)Proc.Natl.Acad Sci.USA.86(22):8927-8931;Thomas et al.(1986)Cell 44(3):419-428を参照されたい。このタイプの相同指向性標的化インテグレーションの頻度は、標的領域の近傍での二本鎖切断の意図的な作製によって最大105倍増加させることができる(Hockemeyer et al.(2009)Nature Biotech.27(9):851-857;Lombardo et al.(2007)Nature Biotech.25(11):1298-1306;Moehle et al.(2007)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 104(9):3055-3060:Rouet et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91(13):6064~6068.)。
【0078】
トランス遺伝子が標的細胞(例えば、HR等の組換えによって)のゲノムに組み込まれ得るようにゲノム遺伝子座の標的化切断を媒介することができる任意のヌクレアーゼを、本開示による細胞(例えば、T細胞)の操作に利用することができる。
【0079】
二本鎖切断(DSB)又はニックは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALエフェクタードメインヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ等の部位特異的ヌクレアーゼによって、又は特異的切断をガイドするために操作されたcrRNA/tract RNA(単一ガイドRNA)を有するCRISPR媒介性システムを使用して作り出すことができる。例えば、Burgess(2013)Nature Reviews Genetics 14:80-81,μMov et al.(2010)Nature 435(7042):646-51;米国特許出願公開第2003/0232410号;同第2005/0208489号;同第2005/0026157号、同第2005/0064474号;同第2006/0188987号、同第2009/0263900号;同第2009/0117617号;同第2010/0047805号;同第2011/0207221号;同第2011/0301073及びPCT出願公開第WO2007/014275号を参照されたい(これらの開示は、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる)。
【0080】
いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、ドナーコンストラクトのジンクフィンガーヌクレアーゼ媒介標的化インテグレーションを介して操作される。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、1つ以上のジンクフィンガーを介して配列特異的にDNAに結合する「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(ZFP)(又は結合ドメイン)とヌクレアーゼ酵素とのカップリングにより、標的ヌクレオチド配列を特異的に認識及び切断することができる酵素である。ZFNは、標的DNA配列(例えば、Kim et al.(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93(3):1156-1160を参照されたい)の部位特異的切断を促進することができる操作されたZFNを形成するために、ZFP DNA結合ドメインに作動可能に連結された任意の適切な切断ドメイン(例えば、ヌクレアーゼ酵素)を含み得る。例えば、ZFNは、FORI酵素又はFOK1酵素の一部に連結された標的特異的ZFPを含み得る。いくつかの実施形態では、ZFN媒介標的化インテグレーションアプローチで使用されるZFNは、それぞれがZFPに結合したFOK1酵素のサブユニットを含む2つの別個の分子を利用し、各ZFPは、標的切断部位に隣接するDNA配列に対して特異性を有し、2つのZFPがそれぞれの標的DNA部位に結合すると、FOK1酵素サブユニットは互いに近接し、それらは一緒に結合して、標的切断部位を切断するヌクレアーゼ活性を活性化する。ZFNは、様々な生物(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20030232410号;同第20050208489号;同第20050026157号;同第20050064474号;同第20060188987号;同第20060063231号;及び国際公開第WO07/014,275号)におけるゲノム改変のために使用されている。カスタムZFP及びZFNは、例えばSigma Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から市販されており、DNAの任意の位置は、そのようなカスタムZFNを使用して日常的に標的化及び切断され得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、ドナーコンストラクトのCRISPR媒介性(例えば、CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ媒介性インテグレーションによって操作される。CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats))/Cas(CRISPR関連)ヌクレアーゼシステムは、ゲノム操作に使用され得る細菌系に基づく操作されたヌクレアーゼシステムである。これは、多くの細菌及び古細菌の適応免疫応答の一部に基づいている。ウイルス又はプラスミドが細菌に侵入すると、侵入者のDNAのセグメントは、「免疫」応答によってCRISPR RNA(crRNA)に変換される。次いで、このcrRNAは、部分相補性の領域を介して、tracrRNAと呼ばれる別の種類のRNAと会合して、Cas(例えばCas9)ヌクレアーゼを「プロトスペーサー」と呼ばれる標的DNA中のcrRNAに相同な領域に誘導する。Casは、DNAを切断して、crRNA転写物内に含まれる20ヌクレオチドのガイド配列によって特定される部位でDSBに平滑末端を生成する。Casは、部位特異的DNA認識及び切断のためにcrRNA及びtracrRNAの両方を必要とする。このシステムは、crRNAとtracrRNAを1つの分子(「単一ガイドRNA」)に組み合わせることができ、単一ガイドRNAのcrRNA等価部分を操作して、Casヌクレアーゼを任意の所望の配列を標的とするようにガイドすることができるように操作されている(Jinek et al(2012)Science 337,p.816-821,Jinek et al,(2013),eLife 2:e00471,and David Segal,(2013)eLife 2:e00563を参照)。したがって、CRISPR/Cas系は、ゲノム中の所望の標的にDSBを作製するように操作することができ、DSBの修復は、修復阻害剤の使用によって影響を受け、エラーを起こしやすい修復の増加を引き起こすことができる。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casヌクレアーゼ媒介性インテグレーションはII型CRISPRを利用する。II型CRISPRは、最もよく特徴付けられたシステムの1つであり、4つの連続工程で標的DNA二本鎖切断を行う。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイ及びtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAはプレcrRNAの反復領域にハイブリダイズし、個々のスペーサー配列を含む成熟crRNAへのプレcrRNAのプロセシングを媒介する。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーと、標的認識のための更なる要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNA上のプロトスペーサーとの間のワトソン・クリック塩基対形成を介して、Casを標的DNAに向かわせる。第4に、Casは、標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内に二本鎖切断を生じさせる。
【0082】
Cas関連CRISPR/Casシステムは、2つのRNA非コード成分:tracrRNA及び同一の直接反復(DR)によって間隔を空けて配置されたヌクレアーゼガイド配列(スペーサー)を含むpre-crRNAアレイを含む。CRISPR/Casシステムを使用してゲノム工学を達成するためには、これらのRNAの両方の機能が存在しなければならない(Cong et al,(2013)Sciencexpress 1/10.1126/science 1231143を参照されたい。)。いくつかの実施形態では、tracrRNA及びpre-crRNAは、別々の発現コンストラクトを介して、又は別々のRNAとして供給される。他の実施形態では、操作された成熟crRNA(標的特異性を付与する)をtracrRNAに融合して(Casとの相互作用を供給して)キメラcr-RNA-tracrRNAハイブリッド(単一ガイドRNAとも呼ばれる)を作製するキメラRNAを構築する(同書Jinek及び同書Congを参照)。
【0083】
いくつかの実施形態では、crRNAとtracrRNAの両方を含有する単一のガイドRNAを操作して、Casヌクレアーゼをガイドして任意の所望の配列を標的化し得る(例えば、Jinek et al(2012)Science 337,p.816-821,Jinek et al,(2013),eLife 2:e00471,David Segal,(2013)eLife 2:e00563)。したがって、CRISPR/Cas系は、ゲノム中の所望の標的にDSBを作製するように操作され得る。
【0084】
カスタムCRISPR/Casシステムは、例えばDharmacon(ラファイエット、コロラド州)から市販されており、そのようなカスタム単一ガイドRNA配列を使用してDNAの任意の位置を日常的に標的化及び切断することができる。組換えのための一本鎖DNA鋳型は、(例えば、当技術分野で公知であり、市販されているオリゴヌクレオチド合成法を介して、)合成され得るか、又はベクター、例えばウイルスベクター、例えばAAVで提供され得る。いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、ドナーコンストラクトのTALEヌクレアーゼ(TALEN)媒介性の標的化インテグレーションによって操作される。「TALE DNA結合ドメイン」又は「TALE」は、1つ以上のTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。反復ドメインは、TALEのその同族標的DNA配列への結合に関与する。単一の「反復単位」(「反復」とも呼ばれる)は、典型的には33~35アミノ酸長であり、天然に存在するTALEタンパク質内の他のTALE反復配列と少なくともいくらかの配列相同性を呈する。TALエフェクターは、核局在化配列、酸性転写活性化ドメイン及びタンデムリピートの集中ドメインを含み得、各リピートは、これらのタンパク質のDNA結合特異性に重要な約34個のアミノ酸を含む(例えば、Schornack S,et al(2006)J Plant Physiol 163(3):256-272)。TALエフェクターは、約102 bpを含むタンデムリピートに見られる配列に依存し、リピートは典型的には互いに91~100%相同である(例えば、Bonas et al(1989)Mol Gen Genet 218:127-136)。これらのDNA結合リピートは、新しい配列と相互作用し、非内因性レポーター遺伝子の発現を活性化することができる人工転写因子を作製するために、新しい組合せ及びリピート数を有するタンパク質に操作され得る(Bonas et al(1989)Mol Gen Genet 218:127-136)。操作されたTALタンパク質をFokl切断ハーフドメインに連結して、標的特異的DNA配列を切断するためのTALエフェクタードメインヌクレアーゼ融合(TALEN)を得ることができる(例えば、Christian et al(2010)Genetics epub 10.1534/genetics.l l0.120717)。
【0085】
カスタムTALENは、例えば、Thermo Fisher Scientific(マサチューセッツ州ウォルサム)から市販されており、DNAの任意の位置が日常的に標的化及び切断され得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、細胞(例えば、T細胞)は、ドナーコンストラクトのメガヌクレアーゼ媒介標的化インテグレーションを介して操作される。メガヌクレアーゼ(又は「ホーミングエンドヌクレアーゼ」)は、12塩基対を超える認識配列で二本鎖DNAに結合して切断するエンドヌクレアーゼである。天然に存在するメガヌクレアーゼは、単量体(例えば、I-Scel)又は二量体(例えば、I-Crel)であり得る。天然に存在するメガヌクレアーゼは、15~40塩基対の切断部位を認識し、一般に4つのファミリー:LAGLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-Cystボックスファミリー及びHNHファミリーに分類される。例示的なホーミングエンドヌクレアーゼとしては、I-Scel、I-Ceul、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-Csml、I-Panl、I-Scell、I-Ppol、I-SceIII、I-Crel、I-Tevl、I-TevII及びI-TevIIIが挙げられる。それらの認識配列は公知である。米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379-3388;Dujon et al.(1989)Gene 82:115-118;Perler et al.(1994)Nucleic Acids Res.22,1125-1127;Jasin(1996)Trends Genet.12:224-228;Gimble et al.(1996)J.Mol.Biol.263:163-180;Argast et al.(1998)J.Mol.Biol.280:345-353 and the New England Biolabs catalogueも参照されたい。「メガヌクレアーゼ」という用語は、単量体メガヌクレアーゼ、二量体メガヌクレアーゼ、及び会合して二量体メガヌクレアーゼを形成するモノマーを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、操作された(天然に存在しない)ホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)を含むヌクレアーゼを利用する。I-Scel、I-Ceul、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-Csml、I-Panl、I-SceII、I-Ppol、I-SceIII、I-Crel、I-Tevl、I-TevII及びI-TevIII等のホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼの認識配列は公知である。米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379-3388;Dujon et al.(1989)Gene 82:115-118;Perler et al.(1994)Nucleic Acids Res.22,1125-1127;Jasin(1996)Trends Genet.12:224-228;Gimble et al.(1996)J.Mol.Biol.263:163-180;Argast et al.(1998)J.Mol.Biol.280:345-353 and the New England Biolabs catalogueも参照されたい。更に、ホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼのDNA結合特異性は、非天然標的部位に結合するように操作することができる。例えば、Chevalier et al.(2002)Molec.Cell 10:895-905;Epinat et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:2952-2962;Ashworth et al.(2006)Nature 441:656-659;Paques et al.(2007)Current Gene Therapy 7:49-66;米国特許出願公開第20070117128号を参照されたい。ホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、全体としてヌクレアーゼに関連して変化してもよく(すなわち、ヌクレアーゼが同族の切断ドメインを含むように)、又は異種切断ドメインに融合されてもよい。特注のメガヌクレアーゼは、例えばNew England Biolabs(マサチューセッツ州イプスウィッチ)から市販されており、DNAの任意の位置が日常的に標的化及び切断され得る。
【0088】
T細胞の操作は、コードされたヌクレアーゼを含むベクターがT細胞によって取り込まれるように、例えばヌクレアーゼをコードする1つ以上のベクターを介して、1つ以上のヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas、メガヌクレアーゼ)をT細胞に投与することを含み得る。ベクターは、ウイルスベクターであり得る。
【0089】
いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼは、細胞内の特定の内因性遺伝子座(例えば、目的のセーフハーバー遺伝子又は遺伝子座)を切断し(例えば、T細胞)、1つ以上の外因性(ドナー)配列(例えば、導入遺伝子)が投与される(例えば、これらの外因性配列を含む1つ以上のベクター)。ヌクレアーゼは、標的DNAにおいて二本鎖(DSB)又は一本鎖切断(ニック)を誘導し得る。いくつかの実施形態では、ドナー導入遺伝子の標的挿入は、相同組換え修復(HDR)、非相同組換え修復機構(例えば、NHEJ媒介エンドキャプチャ)、又は細胞のゲノムへの導入遺伝子の組み込み部位でのヌクレオチドの挿入及び/若しくは欠失(例えば内因性配列)を介して行われ得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、T細胞を、T細胞の少なくとも一部をトランスフェクトするのに十分な条件下で、プロモーターに作動可能に連結された目的の核酸を含むベクターと接触させる。いくつかの実施形態では、T細胞を、T細胞の少なくとも5%をトランスフェクトするのに十分な条件下で、プロモーターに作動可能に連結された目的の核酸を含むベクターと接触させる。いくつかの実施形態では、T細胞の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は更には100%をトランスフェクトするのに十分な条件下で、T細胞をベクターと接触させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のin vitroで培養したT細胞をトランスフェクトし、その場合、培養したT細胞を、T細胞の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は更には100%をトランスフェクトするのに十分な条件下で、本明細書に記載のベクターと接触させる。
【0091】
ウイルスベクターを使用してT細胞を形質導入することができる。ウイルスベクターの例としては、限定されないが、アデノウイルスベースのベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのベクター、レトロウイルスベクター、レトロウイルス-アデノウイルスベクター、並びにアンプリコンベクター、複製欠損HSV及び弱毒化HSVを含む単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のベクターが挙げられる(例えば、Krisky,Gene Ther.5:1517-30,1998;Pfeifer,Annu.Rev.Genomics Hum.Genet.2:177-211,2001を参照されたい。これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)。いくつかの実施形態では、細胞は、in vitro培養の1、2、3、4、5、6、7、8、又は9日目にウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)で形質導入される。いくつかの実施形態では、細胞は、in vitro培養の5日目にウイルスベクターで形質導入される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターはレンチウイルスである。いくつかの実施形態では、細胞は、in vitro培養の1日目に麻疹ウイルス偽型レンチウイルスで形質導入される。
【0092】
いくつかの実施形態では、T細胞は、当技術分野における様々な公知の技術のいずれかを使用してレトロウイルスベクターで形質導入される(例えば、Science 12 April 1996 272:263-267;Blood 2007,99:2342-2350;Blood 2009,1 13:1422-1431;Blood 2009 Oct 8;1 14(15):3173-80;Blood.2003;101(6):2167-2174;Current Protocols in Molecular Biology or Current Protocols in Immunology,John Wiley&Sons,New York,N.Y.(2009)を参照)。
【0093】
いくつかの実施形態は、レトロウイルスベクター、又はレトロウイルスに由来するベクターの使用に関する。「レトロウイルス」は、動物細胞に感染することができ、感染の初期段階で酵素逆転写酵素を利用してそれらのRNAゲノムからDNAコピーを生成し、それが典型的には宿主ゲノムに組み込まれるエンベロープRNAウイルスである。レトロウイルスベクターの例は、モロニーマウス白血病ウイルス(MLV)由来ベクター、造血前駆細胞及びそれらの分化した子孫等の標的細胞において長期安定発現を提供するマウス幹細胞ウイルスに基づくレトロウイルスベクター(例えば、Hawley et al.,PNAS USA 93:10297-10302,1996;Keller et al.,Blood 92:877-887,1998を参照)、ハイブリッドベクター(例えば、Choi,et al,Stem Cells 19:236-246,2001を参照)、及び複雑なレトロウイルス由来ベクター、例えばレンチウイルスベクターである。
【0094】
いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞の少なくとも一部を形質導入するのに十分な条件下で、プロモーターに作動可能に連結された目的の核酸を含むレトロウイルスベクターと接触させられる。一実施形態では、T細胞を、T細胞の少なくとも2%を形質導入するのに十分な条件下で、プロモーターに作動可能に連結された目的の核酸を含むレトロウイルスベクターと接触させる。いくつかの実施形態では、静止期T細胞の少なくとも2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は更には100%を形質導入するのに十分な条件下で、T細胞をベクターと接触させる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のin vitroで培養された分化及び活性化T細胞を形質導入し、その場合、培養された分化/活性化T細胞を、分化及び活性化T細胞の少なくとも2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は更には100%を形質導入するのに十分な条件下で、本明細書に記載のベクターと接触させる。
【0095】
上記のように、いくつかの実施形態はレンチウイルスベクターを使用する。「レンチウイルス」という用語は、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染することができる複合レトロウイルスの属を指す。レンチウイルスの例としては、HIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV1型及びHIV2型を含む)、ビスナマエディ、ヤギ関節炎・脳炎ウイルス、ウマ伝染性貧血ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。レンチウイルスベクターは、これらのレンチウイルスのいずれか1つ以上に由来し得る(例えば、Evans et al,Hum Gene Ther.10:1479-1489,1999;Case et al,PNAS USA 96:2988-2993,1999;Uchida et al,PNAS USA 95:1 1939-1 1944,1998;Miyoshi et al,Science 283:682-686,1999;Sutton et al,J Virol 72:5781-5788,1998;and Frecha et al,Blood.1 12:4843-52,2008を参照。これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)。
【0096】
静止期T細胞及び静止期B細胞は、ほとんどのHIVアクセサリータンパク質(vif、vpr、vpu、及びnef)を担持するVSVGコーティングLVによって形質導入され得ることが実証されている(例えば、Frecha et al,2010 Mol.Therapy 18:1748を参照)。特定の実施形態では、レトロウイルスベクターは、HIVゲノム又はSIVゲノム等のレンチウイルスゲノムからの特定の最小配列を含む。レンチウイルスのゲノムは、典型的には、5’長末端反復(LTR)領域、gag遺伝子、pol遺伝子、env遺伝子、アクセサリー遺伝子(例えば、nef、vif、vpr、vpu、tat、rev)及び3’LTR領域に編成される。ウイルスLTRは、U3、R(リピート)及びU5と称される3つの領域に分けられる。U3領域はエンハンサーエレメント及びプロモーターエレメントを含有し、U5領域はポリアデニル化シグナルを含有し、R領域はU3領域とU5領域とを分離する。R領域の転写配列は、ウイルスRNAの5’及び3’末端の両方に現れる(例えば、“RNA Viruses:A Practical Approach”(Alan J.Cann,Ed.,Oxford University Press,2000);O Narayan,J.Gen.Virology.70:1617-1639,1989;Fields et al,Fundamental Virology Raven Press.,1990;Miyoshi et al,J Virol.72:8150-7,1998;及び米国特許第6,013,516号を参照。これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)。レンチウイルスベクターは、所望に応じてベクターの活性を調節するために、レンチウイルスゲノムのこれらのエレメントのいずれか1つ以上を含んでもよく、又は、それらは、例えばレンチウイルス複製の病理学的効果を低減するために、又はレンチウイルスベクターを感染の1ラウンドに限定するために、これらのエレメントの1つ以上に欠失、挿入、置換、又は突然変異を含んでもよい。
【0097】
典型的には、最小のレトロウイルスベクターは、特定の5’LTR及び3’LTR配列、(標的細胞で発現される)目的の1つ以上の遺伝子、1つ以上のプロモーター、及びRNAをパッケージングするためのシス作用性配列を含む。本明細書に記載され、当技術分野で公知の他の調節配列を含めることができる。ウイルスベクターは、典型的には、真核細胞(例えば293-HEK)等のパッケージング細胞株にトランスフェクトされ得るプラスミドにクローニングされ、典型的には細菌におけるプラスミドの複製に有用な配列も含む。
【0098】
特定の実施形態では、ウイルスベクターは、レンチウイルス等のレトロウイルスの5’及び/又は3’LTRからの配列を含む。LTR配列は、任意の種由来の任意のレンチウイルス由来のLTR配列であり得る。例えば、それらは、HIV、SIV、FIV又はBIV由来のLTR配列であり得る。好ましくは、LTR配列はHIV LTR配列である。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、レンチウイルスの5’LTRに由来するR及びU5配列と、レンチウイルスに由来する不活化又は「自己不活化」3’LTRとを含む。「自己不活性化3’LTR」は、LTR配列が下流遺伝子の発現を駆動するのを妨げる突然変異、置換又は欠失を含む3’長末端反復配列(LTR)である。3’LTRからのU3領域のコピーは、組み込まれたプロウイルスにおける両方のLTRの生成のための鋳型として作用する。したがって、不活性化欠失又は変異を有する3’LTRがプロウイルスの5’LTRとして組み込まれる場合、5’LTRからの転写は不可能である。これにより、ウイルスのエンハンサー/プロモーターと任意の内部エンハンサー/プロモーターとの間の競合が排除される。自己不活性化3’LTRは、例えば、Zufferey et al,J Virol.72:9873-9880,1998;Miyoshi et al,J Virol.72:8150-8157,1998;及びIwakuma et al.,J Virol.261:120-132,1999に記載されており、その各々は参照によりその全体が組み込まれる。自己不活性化3’LTRは、当技術分野で公知の任意の方法によって生成され得る。特定の実施形態では、3’LTRのU3エレメントは、そのエンハンサー配列、好ましくはTATAボックス、Spl及び/又はNF-カッパB部位の欠失を含有する。自己不活性化3’LTRの結果として、宿主細胞ゲノムに組み込まれるプロウイルスは、不活性化5’LTRを含むであろう。
【0099】
本明細書で提供されるベクターは、典型的には、1つ以上の標的細胞で望ましく発現されるタンパク質(又はsiRNA等の他の分子)をコードする遺伝子を含む。ウイルスベクターにおいて、目的の遺伝子は、好ましくは、5’LTR配列と3’LTR配列との間に位置する。更に、目的の遺伝子は、好ましくは、他の遺伝子要素、例えばプロモーター及び/又はエンハンサー等の転写調節配列と機能的関係にあり、遺伝子が標的細胞に組み込まれると特定の様式で目的の遺伝子の発現を調節する。特定の実施形態では、有用な転写調節配列は、時間的及び空間的の両方で、活性に関して高度に調節されるものである。
【0100】
いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の遺伝子が、安全対策として、主に、異種集団(例えば、ヒト対象内)におけるトランスフェクトされた標的細胞の選択的殺滅を可能にするために組み込まれる場合がある。いくつかの実施形態では、選択された遺伝子はチミジンキナーゼ遺伝子(TK)であり、その発現は標的細胞を薬物ガンシクロビルの作用を受けやすくする。いくつかの実施形態では、自殺遺伝子は、二量体化薬物によって活性化されるカスパーゼ9自殺遺伝子である(例えば、Tey et al,Biology of Blood and Marrow Transplantation 13:913-924,2007を参照)。特定の実施形態では、マーカータンパク質をコードする遺伝子は、所望のタンパク質を発現している細胞の同定及び/又は選択を可能にするために、一次遺伝子の前又は後にウイルスベクター又は非ウイルスベクターに配置され得る。特定の実施形態は、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は赤色蛍光タンパク質(RFP)等の蛍光マーカータンパク質を目的の一次遺伝子と共に組み込む。1つ以上の追加のレポーター遺伝子が含まれる場合、IRES配列又は2Aエレメントも含まれ得、目的の一次遺伝子をレポーター遺伝子及び/又は任意の他の目的の遺伝子から分離する。
【0101】
特定の実施形態は、1つ以上の超える選択マーカーをコードする遺伝子を使用し得る。例としては、真核細胞又は原核細胞において有効な選択マーカー、例えば、選択的培養培地中で成長させた形質転換宿主細胞の生存又は成長に必要な因子をコードする薬物耐性のための遺伝子が挙げられる。例示的な選択遺伝子は、抗生物質又は他の毒素、例えばG418、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、ウアバイン、ブラストサイジン、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート若しくはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質をコードし、補体栄養欠乏又は供給は、別個のプラスミド上に存在し、ウイルスベクターによる同時トランスフェクションによって導入され得る。一実施形態では、遺伝子が、メトトレキサート耐性を付与する変異体ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする。特定の他の実施形態は、トランスフェクト細胞(例えば、低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)又は形質導入タグ系として有用な他のそのような受容体)のタグ付け及び検出又は精製に使用することができる細胞表面受容体の1つをコードする遺伝子を使用し得る。例えば、Lauer et al.,Cancer Gene Ther.2000 Mar;7(3):430-7を参照されたい。
【0102】
レトロウイルスベクター等の特定のウイルスベクターは、1つ以上の異種プロモーター、エンハンサー、又はその両方を使用する。いくつかの実施形態では、レトロウイルス又はレンチウイルスの5’LTRからのU3配列は、ウイルスコンストラクト中のプロモーター又はエンハンサー配列で置き換えられ得る。特定の実施形態は、ウイルスベクターの5’LTR配列と3’LTR配列との間に位置し、目的の遺伝子に作動可能に連結された「内部」プロモーター/エンハンサーを使用する。
【0103】
「機能的関係」及び「作動可能に連結された」とは、限定されないが、プロモーター及び/又はエンハンサーが適切な調節分子と接触したときに遺伝子の発現が影響を受けるように、遺伝子がプロモーター及び/又はエンハンサーに対して正しい位置及び配向にあることを意味する。パッケージング細胞株におけるウイルスRNAゲノムの発現を調節(例えば、増加、減少)するか、感染した標的細胞における選択された目的の遺伝子の発現を調節するか、又はその両方である任意のエンハンサー/プロモーターの組合せを使用することができる。
【0104】
プロモーターは、ポリメラーゼの結合及び転写が起こることを可能にするDNA配列によって形成される発現制御エレメントである。プロモーターは、選択された目的の遺伝子の開始コドンの上流(5’)(典型的には約100~1000bp以内)に位置し、それらが作動可能に連結されているコードポリヌクレオチド配列の転写及び翻訳を制御する非翻訳配列である。プロモーターは誘導性又は構成的であり得る。誘導性プロモーターは、温度の変化等の培養条件の何らかの変化に応答して、それらの制御下でDNAからの転写レベルの上昇を開始する。プロモーターは、一方向性又は双方向性であり得る。双方向プロモーターを使用して、2つの遺伝子、例えば目的の遺伝子及び選択マーカーを共発現させることができる。あるいは、それぞれが異なる遺伝子の発現を制御する2つのプロモーターを同じベクター中で反対方向に含む双方向プロモーター構成を利用してもよい。
【0105】
プロモーターをポリヌクレオチドコード配列に作動可能に連結するための方法と同様に、様々なプロモーターが当技術分野で公知である。天然プロモーター配列及び多くの異種プロモーターの両方を使用して、目的の選択された遺伝子の発現を指示することができる。特定の実施形態は、天然プロモーターと比較して、所望のタンパク質のより大きな転写及びより高い収率を一般に可能にするので、異種プロモーターを使用する。
【0106】
特定の実施形態は、異種ウイルスプロモーターを使用し得る。そのようなプロモーターの例としては、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス及びシミアンウイルス40(SV40)等のウイルスのゲノムから得られるものが挙げられる。特定の実施形態は、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、ヒートショックプロモーター、又は目的の遺伝子の天然配列に関連するプロモーター等の異種哺乳動物プロモーターを使用し得る。典型的には、プロモーターは、T細胞等の標的細胞と適合性である。
【0107】
特定の実施形態は、RNAポリメラーゼII及びIIIプロモーターのうちの1つ以上を使用し得る。RNAポリメラーゼIIIプロモーターの適切な選択は、例えば、Paule and White.Nucleic Acids Research.,Vol.28,pp 1283-1298,2000に見出すことができ、その全体が参照により組み込まれる。RNAポリメラーゼII及びIIIプロモーターはまた、RNAポリメラーゼII又はIIIにそれぞれ、その下流のRNAコード配列を転写するように指示することができる任意の合成又は操作されたDNAフラグメントを含む。更に、ウイルスベクターの一部として使用されるRNAポリメラーゼII又はIII(Pol II又はIII)プロモーターは誘導可能であり得る。任意の適切な誘導性Pol II又はIIIプロモーターを、本明細書に記載の方法と共に使用することができる。例示的なPol II又はIIIプロモーターとしては、Ohkawa and Taira,Human Gene Therapy,Vol.11,pp 577-585,2000に提供されているテトラサイクリン応答性プロモーターが挙げられる。及びMeissnerら、Nucleic Acids Research,Vol.29,pp 1672-1682,2001(これらはそれぞれ、その全体が参照により組み込まれる)。
【0108】
使用され得る構成的プロモーターの非限定的な例としては、ユビキチンのためのプロモーター、CMVプロモーター(例えば、Karasuyama et al,J.Exp.Med.169:13,1989を参照)、β-アクチン(例えば、Gunning et al.,PNAS USA 84:4831-4835,1987を参照)、伸長因子-1アルファ(EF-1アルファ)プロモーター、CAGプロモーター及びpgkプロモーター(例えば、Adra et al,Gene 60:65-74,1987を参照);Singer-Sam et al,Gene 32:409-417,1984;及びDobson et al,Nucleic Acids Res.10:2635-2637,1982(これらはそれぞれ参照により組み込まれる)が挙げられる。組織特異的プロモーターの非限定的な例としては、lckプロモーター(例えば、Garvin et al,Mol.Cell Biol.8:3058-3064,1988;及びTakadera et al,Mol.Cell Biol.9:2173-2180,1989)、ミオゲニンプロモーター(Yee et al,Genes and Development 7:1277-1289.1993)及びチルプロモーター(例えば、Gundersen et al.,Gene 1 13:207-214,1992を参照)が挙げられる。
【0109】
プロモーターの更なる例としては、ユビキチン-Cプロモーター、ヒトμ重鎖プロモーター又はIg重鎖プロモーター(例えば、MH)、及びBリンパ球において機能的であるヒトK軽鎖プロモーター又はIg軽鎖プロモーター(例えば、EEK)が挙げられる。MHプロモーターは、マトリックス会合領域に隣接するιΕμエンハンサーが先行するヒトμ重鎖プロモーターを含有し、EEKプロモーターは、イントロンエンハンサー(ιΕκ)、マトリックス関連領域及び3’エンハンサー(3Εκ)が先行するκ軽鎖プロモーターを含有する(例えば、Luo et al,Blood.1 13:1422-1431,2009、及び米国特許出願公開第2010/0203630号を参照)。したがって、特定の実施形態は、これらのプロモーター又はエンハンサーエレメントの1つ以上を使用し得る。
【0110】
いくつかの実施形態では、1つのプロモーターが選択マーカーの発現を駆動し、第2のプロモーターが目的の遺伝子の発現を駆動する。上記のように、特定の実施形態は、内部エンハンサー等のエンハンサーエレメントを使用して、目的の遺伝子の発現を増加させる。エンハンサーは、プロモーターに作用してその転写を増加させる、通常約10~300bp長のDNAのシス作用エレメントである。エンハンサー配列は、エンハンサー、イントロンエンハンサー及び3’エンハンサー等の哺乳動物遺伝子(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、インスリン)に由来し得る。複製起点の後期側のSV40エンハンサー(bp 100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーを含む、真核生物ウイルス由来のエンハンサーも含まれる。エンハンサーは、抗原特異的ポリヌクレオチド配列に対して5’又は3’の位置でベクターにスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5’の部位に位置する。当業者は、所望の発現パターンに基づいて適切なエンハンサーを選択するであろう。
【0111】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、遺伝子の誘導性発現を可能にするように選択される。テトラサイクリン応答系及びlacオペレーター-リプレッサー系を含む、誘導性発現のためのいくつかの系が当技術分野で公知である。また、プロモーターの組合せを使用して、目的の遺伝子の所望の発現を得ることができると考えられる。当業者は、生物及び/又は目的の標的細胞における遺伝子の所望の発現パターンに基づいてプロモーターを選択することができるであろう。
【0112】
特定のウイルスベクターは、ウイルス粒子へのゲノムウイルスRNAの取り込みを促進するためのシス作用性パッケージング配列を含む。例としては、psi-配列が挙げられる。そのようなシス作用配列は当技術分野で公知である。特定の実施形態では、本明細書に記載のウイルスベクターは、2つ以上の遺伝子を発現し得、これは、例えば、第1の遺伝子を超えて各別個の遺伝子に作動可能に連結された内部プロモーターを組み込むことによって、内部リボソーム進入配列(IRES)エレメント若しくは2Aエレメント等の共発現を促進するエレメントを組み込むことによって(参照により組み込まれる、米国特許第4,937,190号)、又はその両方によって達成され得る。単なる例示として、IRES又は2Aエレメントは、単一のベクターが所望の特異性を有する免疫グロブリン分子の各鎖をコードする配列を含む場合に使用され得る。例えば、第1のコード領域(重鎖又は軽鎖のいずれかをコードする)は、プロモーターのすぐ下流に位置し得、第2のコード領域(他方の鎖をコードする)は、第1のコード領域の下流に位置し得、IRES又は2Aエレメントは、第1のコード領域と第2のコード領域との間に、好ましくは第2のコード領域の直前に位置する。いくつかの実施形態では、IRES又は2Aエレメントは、レポーター遺伝子、選択マーカー、又は免疫機能を増強する遺伝子等の無関係な遺伝子を共発現するために使用される。使用され得るIRES配列の例としては、限定されないが、脳脊髄炎ウイルス(EMCV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、タイラーのマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)、ヒトライノウイルス(HRV)、コクサッキーウイルス(CSV)、ポリオウイルス(POLIO)、A型肝炎ウイルス(HAV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びペスチウイルス(例えば、豚コレラウイルス(HOCV)及びウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV))のIRESエレメントが挙げられる(例えば、Le et al,Virus Genes 12:135-147,1996;及びLe et al,Nuc.Acids Res.25:362-369,1997を参照。これらの各々は参照によりその全体が組み込まれる)。2Aエレメントの一例としては、口蹄疫ウイルス由来のF2A配列が挙げられる。
【0113】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されるベクターはまた、所望の結果を達成するための追加の遺伝子要素を含む。例えば、特定のウイルスベクターは、HIV-1フラップシグナル等の、標的細胞におけるウイルスゲノムの核侵入を促進するシグナルを含み得る。更なる例として、特定のウイルスベクターは、tRNAアンバーサプレッサー配列等の、標的細胞におけるプロウイルス組み込み部位の特徴付けを容易にするエレメントを含み得る。特定のウイルスベクターは、目的の遺伝子の発現を増強するように設計された1つ以上の遺伝子要素を含み得る。例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス応答配列(WRE)をコンストラクト中に配置することができる(例えば、Zufferey et al,J.Virol.74:3668-3681,1999;及びDeglon et al,Hum.Gene Ther.11:179-190,2000を参照。これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)。別の例として、ニワトリβ-グロビンインスレーターもコンストラクトに含まれ得る。このエレメントは、メチル化及びヘテロクロマトグラフィー効果のために標的細胞内の組み込まれたDNAをサイレンシングする可能性を減少させることが示されている。更に、インスレーターは、内部エンハンサー、プロモーター及び外因性遺伝子を、染色体上の組み込み部位における周囲のDNAからの正又は負の位置的影響から遮蔽し得る。特定の実施形態は、これらの遺伝子要素の各々を使用する。別の実施形態では、本明細書で提供されるウイルスベクターはまた、発現を増加させるための偏在性クロマチンオープニングエレメント(UCOE)を含有し得る(例えば、Zhang F,et al,Molecular Therapy:The journal of the American Society of Gene Therapy 2010 Sep;18(9):1640-9を参照)。
【0114】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されるウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス)は、主に選択された細胞型を標的とするために、1つ以上の選択されたウイルス糖タンパク質又はエンベロープタンパク質を用いて「偽型分類」される。偽型分類するとは、一般に、細胞表面ウイルス粒子上への1つ以上の異種ウイルス糖タンパク質の組み込みを指し、ウイルス粒子が、その正常な標的細胞とは異なる選択された細胞に感染することを可能にすることが多い。「異種」エレメントは、ウイルスベクターのRNAゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来する。典型的には、ウイルスベクターの糖タンパク質コード領域は、それ自体の糖タンパク質の発現を防ぐために欠失等によって遺伝子改変されている。単なる例示として、HIV由来レンチウイルスベクター由来のエンベロープ糖タンパク質gp41及び/又はgpl20は、典型的には、異種ウイルス糖タンパク質による擬似タイピングの前に欠失される。
【0115】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、Tリンパ球を標的とする異種ウイルス糖タンパク質で偽型分類される。いくつかの実施形態では、ウイルス糖タンパク質は、静止期又は静止期Tリンパ球の選択的感染又は形質導入を可能にする。いくつかの実施形態では、ウイルス糖タンパク質はT細胞の選択的感染を可能にする。一実施形態では、ウイルスベクターはVSV-Gで偽型分類される。いくつかの実施形態では、異種ウイルス糖タンパク質は、エドモントン麻疹ウイルス等の麻疹ウイルスの糖タンパク質に由来する。いくつかの実施形態では、麻疹ウイルス糖タンパク質赤血球凝集素(H)、融合タンパク質(F)、又はその両方を偽型分類する(例えば、Frecha et al,Blood.1 12:4843-52,2008;及びFrecha et al,Blood.1 14:3173-80,2009を参照。これらの各々は、参照によりその全体が組み込まれる)。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターはテナガザル白血病ウイルス(GALV)で偽型分類される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、ネコ内在性レトロウイルス(RD114)を用いて偽型分類される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、ヒヒ内在性レトロウイルス(BaEV)を用いて偽型分類される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターはマウス白血病ウイルス(MLV)で偽型分類される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、ベクターを特定の細胞型に標的化するのに役立つ1つ以上の可変領域(例えば、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域)等の埋め込み抗体結合ドメインを含む。
【0116】
ウイルスベクターの作製は、例えば、Sambrook et al.(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y.(1989)),Coffin et al.(Retroviruses.Cold Spring Harbor Laboratory Press,N.Y.(1997))及び“RNA Viruses:A Practical Approach”(Alan J.Cann,Ed.,Oxford University Press,(2000))に記載されているように、制限エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、形質転換、プラスミド精製、PCR増幅、及びDNA配列決定の標準的な技術を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の適切な遺伝子工学技術を使用して達成することができる。
【0117】
当技術分野で公知の任意の様々な方法を使用して、そのゲノムがウイルスベクターのRNAコピーを含む適切なレトロウイルス粒子を作製することができる。1つの方法として、ウイルスベクターは、ウイルスベクターに基づくウイルスゲノムRNAを所望の標的細胞特異性を有するウイルス粒子にパッケージングするパッケージング細胞株に導入され得る。パッケージング細胞株は、典型的には、ウイルスゲノムRNAをウイルス粒子にパッケージングし、構造gagタンパク質、酵素polタンパク質、及びエンベロープ糖タンパク質を含む標的細胞に感染させるために必要なウイルスタンパク質をトランスで提供する。
【0118】
いくつかの実施形態では、パッケージング細胞株は、特定の必要な又は所望のウイルスタンパク質(例えば、gag、pol)を安定に発現する(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,218,181号を参照)。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞株は、本明細書に記載の麻疹ウイルス糖タンパク質配列を含む、特定の必要な又は所望のウイルスタンパク質(例えば、gag、pol、糖タンパク質)をコードするプラスミドで一過性にトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞株はgag及びpol配列を安定に発現し、次いで、ウイルスベクターをコードするプラスミド及び糖タンパク質をコードするプラスミドで細胞株をトランスフェクトする。所望のプラスミドの導入後、ウイルス粒子を収集し、それに応じて、例えば超遠心分離によって処理して、ウイルス粒子の濃縮ストックを得る。例示的なパッケージング細胞株には、293(ATCC CCL X)、HeLa(ATCC CCL2)、D17(ATCC CCL 183)、MDCK(ATCC CCL 34)、BHK(ATCC CCL-10)及びCf2Th(ATCC CRL 1430)細胞株が含まれる。
【0119】
本明細書で使用される場合、「生物学的活性」又は「生物活性」は、本明細書で企図される任意の化合物、薬剤、ポリペプチド、コンジュゲート、医薬組成物を投与した結果として、in vitroアッセイ又は細胞、組織、器官若しくは生物(例えば、動物、又は哺乳動物、又はヒト)において誘導される任意の応答を指す。生物学的活性は、アゴニスト作用又はアンタゴニスト作用を指し得る。生物学的活性は有益な効果であり得る。又は生物学的活性が有益でない場合がある、すなわち毒性である場合がある。いくつかの実施形態では、生物学的活性は、薬物又は医薬組成物が生体対象、例えばヒト等の哺乳動物に及ぼす正又は負の効果を指す。したがって、「生物学的に活性な」という用語は、本明細書に記載されるように、生物学的活性を有する任意の化合物を記載することを意味する。生物学的活性は、当業者に現在知られている任意の適切な手段によって評価され得る。そのようなアッセイは、定性的又は定量的であり得る。当業者は、異なるポリペプチドの活性を評価するために異なるアッセイを使用する必要性、平均的な研究者にとって日常的なタスクを容易に理解するであろう。そのようなアッセイは、最適化要件がほとんどない実験室環境で容易に実施されることが多く、ほとんどの場合、ほとんどの実験室に一般的な様々な技術を使用して広範囲のポリペプチドの生物学的活性の単純で信頼性があり再現性のある読み取り値を提供する市販のキットが利用可能である。そのようなキットが利用できない場合、通常の当業者は、過度の実験なしに、標的ポリペプチドのための社内の生物活性アッセイを容易に設計及び最適化することができ、これは科学的プロセスの日常的な態様である。
【0120】
「治療剤」は、対象に投与された場合、(例えば、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)治療有効量で、以下に定義される疾患又は状態の治療を行うことができる任意の化合物を指す。
【0121】
本明細書で使用される場合、「治療する」又は「治療すること」又は「治療」という用語は、患者の疾患又は状態に関連する症状の少なくとも改善を包含し、改善は、パラメータ、例えば治療されている状態に関連する症状の少なくとも大きさの減少を指すために広義に使用される。したがって、本明細書で使用される場合、「治療」は、目的の対象の疾患又は状態を有する対象、好ましくはヒトにおける目的の疾患又は状態の治療を包含し、(i)特に、そのような対象がその状態の素因を有するが、それを有するとまだ診断されていない場合に、疾患若しくは状態が対象において生じることを防止するか、若しくは阻害すること;(ii)疾患若しくは状態を阻害すること、すなわち、その発症を停止させること;(iii)疾患又は状態を軽減すること、すなわち、疾患若しくは状態の退行を引き起こすこと;又は(iv)疾患若しくは状態に起因する症状を軽減することを含む。本明細書で使用される場合、「疾患」、「障害」、及び「状態」という用語は、互換的に使用されてもよく、又は特定の疾病、損傷、又は状態が既知の原因物質を有していなくてもよく(そのため、病因はまだ解明されていない)、したがって、損傷又は疾患としてはまだ認識されていないが、望ましくない状態又は症候群としてのみ認識されており、症状の多かれ少なかれ特定のセットが臨床医によって特定されているという点で異なっていてもよい。
【0122】
本明細書で使用される場合、「治療有効」とは、酵素欠損、タンパク質欠損、ホルモン欠損、炎症、癌、自己免疫、又は感染症等の疾患又は障害に関連する症状を治療又は改善する、又は何らかの方法で軽減するのに十分な、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞の量を指す。方法に関して使用される場合、この方法は、疾患又は状態に関連する症状を処理又は改善するために、又は何らかの様式で軽減するために十分に有効である。例えば、疾患に関する有効量は、その発症を阻止又は予防するか、又は、疾患の病態が始まっている場合、疾患を緩和する、改善する、安定化する、疾患の進行を逆転させる若しくは遅延させるため、又はそうでなければ疾患の病理学的帰結を減少させるのに十分な量である。いずれの場合も、有効量を単回又は分割用量で与えてもよい。
【0123】
「組合せ」という用語は、1つの投薬単位形態の固定された組合せ、又は併用投与のための部品のキットのいずれかを指し、本明細書に記載される方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞と、組合せパートナー(例えば、「治療剤」又は「補助剤」とも呼ばれる、以下に説明される別の薬物)が、独立して同時に又は時間間隔内に別々に投与され得る。いくつかの状況では、組合せパートナーは、協同的な、例えば相乗的な効果を示す。本明細書で利用される「同時投与」又は「併用投与」等の用語は、それを必要とする単一の対象(例えば、患者)への選択された組合せパートナーの投与を包含することを意味し、薬剤が必ずしも同じ投与経路又は同時に投与されない治療レジメンを含むことを意図する。本明細書で使用される場合、「薬学的組合せ」という用語は、2つ以上の有効成分の混合又は組合せから生じる製品を意味し、有効成分の固定された及び固定されていない組合せの両方を含む。「固定された組合せ」という用語は、有効成分、例えば化合物及び組合せパートナーの両方が、単一の実体又は投薬量の形態で同時に患者に投与されることを意味する。「固定されていない組合せ」という用語は、有効成分、例えば化合物及び組合せパートナーが両方とも、特定の時間制限なしに同時に、同時に又は連続的に別々の実体として患者に投与され、そのような投与が患者の体内で2つの化合物の治療有効レベルを提供することを意味する。後者は、カクテル療法、例えば3つ以上の有効成分の投与にも適用される。
【0124】
本明細書で使用される場合、「養子細胞療法」は、養子細胞移入に適した細胞を含む任意の組成物が対象に投与される治療を指す。本発明の一実施形態では、養子細胞療法は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、TCR(すなわち、異種T細胞受容体)改変リンパ球及びCAR(すなわち、キメラ抗原受容体)改変リンパ球からなる群から選択される細胞型を含む。或る実施形態では、養子細胞治療組成物は、T細胞、CD8+細胞、前駆疲弊T細胞、CD4+細胞、NK細胞、δ-γ T細胞、制御性T細胞及び末梢血単核細胞からなる群から選択される細胞型を含む。いくつかの実施形態では、養子細胞療法は、TIL、T細胞、CD8+細胞、CD4+細胞、NK細胞、δ-γ T細胞、制御性T細胞又は末梢血単核細胞を含む。いくつかの実施形態では、養子細胞療法はT細胞を含む。いくつかの実施形態では、養子細胞療法は、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞を含む。いくつかの実施形態では、養子細胞療法は、本明細書に記載の方法を使用して拡大されたCD8+前駆疲弊T細胞を含む。本明細書で使用される場合、「腫瘍浸潤リンパ球」又はTILは、血流から離れて腫瘍内に移動した白血球を指す。リンパ球は、B細胞、T細胞及びナチュラルキラー細胞を含む3つの群に分けることができる。いくつかの実施形態では、養子細胞療法は、標的特異的キメラ抗原受容体又は特異的に選択されたT細胞受容体で改変されたT細胞を含む。本明細書で使用される場合、「T細胞」は、CD4+ヘルパー細胞、CD8+細胞傷害性T細胞及びγδ T細胞を含むCD3+細胞を指す。
【0125】
ハイスループットスクリーニングプラットフォーム
或る態様では、本開示は、前駆疲弊T細胞の拡大を促進する化合物をスクリーニングする方法であって、(a)標識化TCF-1タンパク質をコードするポリヌクレオチド及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成しているペプチド抗原に特異的なT細胞受容体をコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック対象からの脾細胞を提供することと、(b)脾細胞からの活性化CD8+T細胞を、化合物の存在下で、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することであって、脾細胞からのT細胞が、活性化剤による刺激を受けており、刺激を培養前又は培養と同時に行う、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することと、(c)(i)標識化Tcf7+T細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量、を測定することであって、化合物で処理されていない脾細胞と比較した(i)及び(ii)の増加が、化合物が前駆疲弊T細胞の増殖を促進すると同定する、標識化Tcf7+T細胞の量、及び/又は(ii)TCF-1発現の量、を測定することと、を含む、方法を提供する。
【0126】
増殖を分化から切り離す能力についてスクリーニングされている化合物を評価することは、CD8+T細胞上で行うことができ、したがって、T細胞は、T細胞の活性化中又は活性化前に化合物と接触することができる。いくつかの実施形態では、刺激は培養前に行われる。いくつかの実施形態では、刺激は培養と同時に行われる。いくつかの実施形態では、刺激は、培養前又は培養と同時に行われる。
【0127】
いくつかの実施形態では、活性化剤は、ペプチド抗原、抗原提示細胞、抗CD3、抗CD28、ホルボール12ミリステート13アセテート(PMA)、及びイオノマイシンのうちの1つ以上を含む。
【0128】
いくつかの実施形態では、化合物によって促進されたT細胞の増殖は、分化からのT細胞拡大を切り離す。
【0129】
いくつかの実施形態では、トランスジェニック対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、トランスジェニック対象はマウスである。
【0130】
当該標識化TCF-1の標識は、蛍光タグを含んでもよく、タグは、照射時に、典型的には、紫外、可視、又は赤外範囲(例えば、200~800nm)の光の規定された波長内で検出可能であり、適切な機器(例えば、フローサイトメーター、プレートリーダー、又はマイクロ流体チップ)によって検出することができる。いくつかの実施形態では、当該標識化TCF-1の標識は蛍光分子を含み、照射されると識別可能な蛍光発光スペクトルを提供する。一実施形態では、蛍光分子は緑色蛍光タンパク質(GFP)であり得る。別の実施形態では、蛍光分子はmCherryであり得る。別の実施形態では、蛍光分子はtdTomatoであり得る。別の実施形態では、蛍光分子はKeimaRedであり得る。別の実施形態では、蛍光分子は黄色蛍光タンパク質(YFP)であり得る。別の実施形態では、蛍光分子はシアン蛍光タンパク質(CFP)であり得る。標識には、上記の細胞内発現蛍光タンパク質が含まれ得るが、これらに限定されない。そのようなタンパク質の例は、Chalfie et al.,(1994)Science 263:802-805のGFPについて論じられている。いくつかの実施形態では、当該標識化TCF-1の標識は、増強された緑色蛍光タンパク質(EGFP)を含む。
【0131】
いくつかの実施形態では、脾細胞はナイーブ脾細胞を含む。
【0132】
いくつかの実施形態では、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成しているペプチド抗原に特異的なT細胞受容体は、トランスジェニックT細胞受容体(TCR)を含む。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、疾患又は障害に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、癌に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、感染症に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、オボアルブミン(OVA)ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、MHC I分子によって提示されるオボアルブミンOVA257-264を特異的に認識する。
【0133】
いくつかの実施形態では、培養は、脾細胞を培養培地に懸濁することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で使用するための培地には、イスコフ改変ダルベッコ培地(ウシ胎児又は他の適切な血清を含む又は血清を含まない)が含まれるが、これに限定されない。また例示的な培地には、IMDM、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 15及びX-Vivo 20が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、培地は、界面活性剤、抗体、プラスマネート若しくは還元剤、1つ以上の抗生物質、及び/又はインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びシクロスポリン等の添加剤を含み得る。
【0134】
いくつかの実施形態では、培養培地は抗原ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は、疾患又は障害に特異的な抗原ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は癌に特異的な抗原を含む。いくつかの実施形態では、培養培地は感染症に特異的な抗原を含む。いくつかの実施形態では、培地は抗原ペプチドを含み、ペプチドはオボアルブミンペプチドである。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドはOVA257-264である。いくつかの実施形態では、OVA257-264ペプチドは、配列番号1(例えば、SIINFEKL)と同一の配列を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、OVA257-264ペプチドは、配列番号1と少なくとも70%、75%、80%、85%、又は90%同一の配列を含む代替の誘導体を含み得る。いくつかの実施形態では、OVA257-264ペプチドは、配列番号2(例えば、SAINFEKL)又は配列番号3(例えばSIITFEKL)と同一の配列を有するポリペプチドを含む代替の誘導体を含み得る。
【0135】
いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、少なくとも10、50、100、250、500nM、1μM、2μM、5μM、又はそれ以上の濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約10nM~約100nMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約100nM~約250nMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約250nM~約500nMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約500nM~約1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、1μM~2μMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、2μM~5μMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、5μM~10μMの濃度である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は、250nM又は少なくとも250nMである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は、500nM又は少なくとも500nMである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は、750nM又は少なくとも750nMである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は1μM又は少なくとも1μMである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は1.5μM又は少なくとも1.5μMである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチド濃度は3μM又は少なくとも3μMである。
【0136】
いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、少なくとも10nM、50nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、又はそれ以上の濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約10nM~約100nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約100nM~約250nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約250nM~約500nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約500nM~約1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、1μM~2μMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、2μM~5μMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、5μM~10μMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約400nM又は少なくとも400nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約500nM又は少なくとも500nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約600nM又は少なくとも600nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約700nM又は少なくとも700nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約800nM又は少なくとも800nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約900nM又は少なくとも900nMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約1μM又は少なくとも1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、オボアルブミンペプチドは、約1.1μM又は少なくとも1.1μMの濃度である。
【0137】
いくつかの実施形態では、培養培地は、所望の結果(例えば、分化から切り離された拡大)を達成するために様々な濃度でin vitro細胞培養物に添加され得る活性化因子を更に含む。T細胞活性化因子は、T細胞を拡大するためであって、T細胞を分化させない培養培地中で利用され得ることが企図される。例えば、T細胞は、IL-2を含むがこれに限定されない1つ以上のT細胞活性化因子と共に培養され得る。いくつかの実施形態では、培養培地はIL-2を更に含む。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、500、又は1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10~100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100~200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200~500IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約500~1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約20IU/mL又は少なくとも20IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約30IU/mL又は少なくとも30IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約40IU/mL又は少なくとも40IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約50IU/mL又は少なくとも50IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mL又は少なくとも60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約70IU/mL又は少なくとも70IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約90IU/mL又は少なくとも90IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100IU/mL又は少なくとも100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約110IU/mL又は少なくとも110IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約120IU/mL又は少なくとも120IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約130IU/mL又は少なくとも130IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約140IU/mL又は少なくとも140IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約150IU/mL又は少なくとも150IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約160IU/mL又は少なくとも160IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約170IU/mL又は少なくとも170IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約180IU/mL又は少なくとも180IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約190IU/mL又は少なくとも190IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mL又は少なくとも200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約210IU/mL又は少なくとも210IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約220IU/mL又は少なくとも220IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約230IU/mL又は少なくとも230IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約240IU/mL又は少なくとも240IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約250IU/mL又は少なくとも250IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mLである。
【0138】
いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目に添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、スクリーニングされている化合物を、培養開始後約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日目又はそれを超えて添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目又は培養開始後約3日目に添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目又は培養開始後約5日目に添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養の約0日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約1日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約2日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約3日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約4日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約5日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約6日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約1日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約2日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約3日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約4日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約5日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約6日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約7日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約8日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約9日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約10日間である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約1日~約3日であり、その時点でT細胞は(c)の測定を受ける。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約3日~約5日であり、その時点でT細胞は(c)の測定を受ける。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約5~約10日間であり、その時点でT細胞は(c)の測定を受ける。
【0140】
或る態様では、本開示は、抗原特異的前駆疲弊T細胞の増殖を促進する化合物をスクリーニングする方法であって、(a)ペプチド抗原に特異的なT細胞受容体をコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック対象からの脾細胞を提供することと、(b)脾細胞からの活性化CD8+T細胞を、化合物の存在下で培養することと、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することであって、脾細胞からのT細胞が、活性化剤による刺激を受けており、刺激を培養前又は培養と同時に行う、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することと、(c)検出抗体をT細胞のサブ試料と接触させることであって、検出抗体が検出可能な標識を含み、抗体がPD-1又はTim3に特異的であり、それにより、検出抗体及びT細胞を含む混合物を生成する、検出抗体をT細胞のサブ試料と接触させることと、検出抗体がT細胞上に存在する特異的抗原に結合するのを可能にするのに十分な期間、当該混合物を維持することと、(d)T細胞から未結合検出抗体を除去するために当該混合物を洗浄することと、(e)(i)検出抗体が結合したT細胞の量及び/又は(ii)検出抗体からのシグナルの量を測定することと、(f)培養物中のT細胞を再刺激し、T細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該培養を維持することと、(g)T細胞を培養培地中で増殖させ、T細胞の増殖を可能にするのに十分な時間にわたって当該拡大を維持することと、(h)検出抗体を、検出可能な標識を含む増殖T細胞のサブ試料と接触させることであって、抗体がPD-1又はTim3に特異的であり、それにより、検出抗体及びT細胞を含む混合物を生成する、検出抗体を、検出可能な標識を含む増殖T細胞のサブ試料と接触させることと、検出抗体がT細胞上に存在する特異的抗原に結合するのを可能にするのに十分な期間、当該混合物を維持することと、(i)T細胞から未結合検出抗体を除去するために当該混合物を洗浄することと、(j)(i)検出抗体が結合したT細胞の量及び/又は(ii)検出抗体からのシグナルの量を測定することと、PD-1及びTCF-1について、(e)の検出抗体が結合したT細胞の量及び(e)の検出抗体からのシグナルの量、又は(j)の検出抗体が結合したT細胞の量及び(j)の検出抗体からのシグナルの量のいずれかの増加及び減少又は非存在、化合物で処理されていない脾細胞と比較したTim3について、(e)の検出抗体が結合したT細胞の量及び(e)の検出抗体からのシグナルの量、又は(j)の検出抗体が結合したT細胞の量及び(j)の検出抗体からのシグナルの量のいずれかの増加及び減少又は非存在が、化合物が、抗原特異的前駆疲弊T細胞の増殖を促進すると同定する、方法を提供する。
【0141】
いくつかの実施形態では、活性化剤は、ペプチド抗原、抗原提示細胞、抗CD3、抗CD28、ホルボール12ミリステート13アセテート(PMA)、及びイオノマイシンのうちの1つ以上を含む。
【0142】
いくつかの実施形態では、化合物によって促進されたT細胞の増殖は、分化からのT細胞拡大を切り離す。
【0143】
いくつかの実施形態では、トランスジェニック対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、トランスジェニック対象はマウスである。
【0144】
いくつかの実施形態では、当該検出抗体の標識は、蛍光タグを含んでもよく、タグは、照射時に、典型的には、紫外、可視、又は赤外範囲(例えば、200~800nm)の光の規定された波長内で検出可能であり、適切な機器(例えば、フローサイトメーター、プレートリーダー、又はマイクロ流体チップ)によって検出することができる。いくつかの実施形態では、当該検出抗体の標識は、蛍光分子を含み、照射されると、識別可能な蛍光発光スペクトルを提供する。一実施形態では、蛍光分子は緑色蛍光タンパク質(GFP)であり得る。別の実施形態では、蛍光分子はmCherryであり得る。別の実施形態では、蛍光分子はtdTomatoであり得る。別の実施形態では、蛍光分子はKeimaRedであり得る。別の実施形態では、蛍光分子は黄色蛍光タンパク質(YFP)であり得る。別の実施形態では、蛍光分子はシアン蛍光タンパク質(CFP)であり得る。標識には、上記の蛍光タンパク質が含まれ得るが、これらに限定されない。そのようなタンパク質の例は、Chalfie et al.,(1994)Science 263:802-805のGFPについて論じられている。いくつかの実施形態では、当該検出抗体の標識は、増強された緑色蛍光タンパク質(EGFP)を含む。
【0145】
いくつかの実施形態では、ペプチド抗原に特異的なT細胞受容体はトランスジェニックT細胞受容体(TCR)を含む。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、疾患又は障害に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、癌に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、感染症に特異的な抗原ペプチドを特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRは、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチド(GP)の糖タンパク質を特異的に認識する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックTCRはGP33-41を特異的に認識する。
【0146】
いくつかの実施形態では、培養は、脾細胞を培養培地に懸濁することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、脾細胞を培養培地に懸濁することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で使用するための培地には、イスコフ改変ダルベッコ培地(ウシ胎児又は他の適切な血清を含む又は血清を含まない)が含まれるが、これに限定されない。また例示的な培地には、IMDM、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 15及びX-Vivo 20が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、培地は、界面活性剤、抗体、プラスマネート若しくは還元剤、1つ以上の抗生物質、及び/又はインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びシクロスポリン等の添加剤を含み得る。
【0147】
いくつかの実施形態では、培養培地は抗原ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は、疾患又は障害に特異的な抗原ペプチドを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は癌に特異的な抗原を含む。いくつかの実施形態では、培養培地は感染症に特異的な抗原を含む。いくつかの実施形態では、培地は抗原ペプチドを含み、ペプチドはリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質はGP33-41である。いくつかの実施形態では、GP33-41ペプチドは、配列番号4(例えば、KAVYNFATM)と同一の配列を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、GP33-41ペプチドは、配列番号4と少なくとも70%、75%、80%、85%、又は90%同一の配列を含む代替の誘導体を含み得る。
【0148】
いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、少なくとも約10nM、50nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM又はそれ以上の濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約10nM~約100nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約100nM~約250nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約250nM~約500nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約500nM~約1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1μM~約2μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約2μM~約3μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約3μM~約4μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約4μM~約5μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約400nM又は少なくとも400nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約500nM又は少なくとも500nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約600nM又は少なくとも600nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約700nM又は少なくとも700nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約800nM又は少なくとも800nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約900nM又は少なくとも900nMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1μM又は少なくとも1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.1μM又は少なくとも1.1μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.2μM又は少なくとも1.2μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.3μM又は少なくとも1.3μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.4μM又は少なくとも1.4μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.5μM又は少なくとも1.5μMの濃度である。いくつかの実施形態では、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスペプチドの糖タンパク質は、約1.0μMの濃度である。
【0149】
いくつかの実施形態では、培養培地は、所望の結果(例えば、分化から切り離された拡大)を達成するために様々な濃度でin vitro細胞培養物に添加され得る活性化因子を更に含む。T細胞活性化因子は、T細胞を拡大するためであって、T細胞を分化させない培養培地中で利用され得ることが企図される。例えば、T細胞は、IL-2を含むがこれに限定されない1つ以上のT細胞活性化因子と共に培養され得る。いくつかの実施形態では、培養培地はIL-2を含む。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、500、1000IU/mL、又はそれを超える。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10~100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100~200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200~500IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約500~1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約20IU/mL又は少なくとも20IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約30IU/mL又は少なくとも30IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約40IU/mL又は少なくとも40IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約50IU/mL又は少なくとも50IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mL又は少なくとも60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約70IU/mL又は少なくとも70IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約90IU/mL又は少なくとも90IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100IU/mL又は少なくとも100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約110IU/mL又は少なくとも110IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約120IU/mL又は少なくとも120IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約130IU/mL又は少なくとも130IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約140IU/mL又は少なくとも140IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約150IU/mL又は少なくとも150IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約160IU/mL又は少なくとも160IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約170IU/mL又は少なくとも170IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約180IU/mL又は少なくとも180IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約190IU/mL又は少なくとも190IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mL又は少なくとも200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約210IU/mL又は少なくとも210IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約220IU/mL又は少なくとも220IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約230IU/mL又は少なくとも230IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約240IU/mL又は少なくとも240IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約250IU/mL又は少なくとも250IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mLである。
【0150】
いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目に添加することを含み、化合物の濃度は培養全体を通して維持される。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目に添加することを含み、化合物の濃度は培養全体を通して増加する。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目に添加することを含み、化合物の濃度は培養全体を通して減少する。いくつかの実施形態では、培養は、培養の約0日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養することは、スクリーニングされている化合物を、培養開始後約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日目又はそれを超えて添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目又は培養開始後約3日目に添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、スクリーニングされている化合物を培養の約0日目又は培養開始後約5日目に添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養の約0日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約1日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約2日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約3日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約4日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約5日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。いくつかの実施形態では、培養は、培養開始後約6日目にスクリーニングされている化合物を添加することを含む。
【0151】
いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日間又はそれ以上である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約1日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約2日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約3日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約4日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約5日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約6日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約7日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約8日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約9日である。いくつかの実施形態では、培養中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約10日間である。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日目又はそれを超えて行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約1日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約2日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約3日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約4日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約5日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約6日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約7日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約8日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約9日目に行われる。いくつかの実施形態では、(e)の測定は、培養開始後約10日目に行われる。
【0152】
いくつかの実施形態では、培養物中のT細胞を再刺激することは、培養培地を抗CD3、抗CD28、及び/又はIL-2でパイクすることを含む。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、500、1000IU/mL、又はそれを超える。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10~100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100~200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200~500IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約500~1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約20IU/mL又は少なくとも20IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約30IU/mL又は少なくとも30IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約40IU/mL又は少なくとも40IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約50IU/mL又は少なくとも50IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mL又は少なくとも60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約70IU/mL又は少なくとも70IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約90IU/mL又は少なくとも90IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100IU/mL又は少なくとも100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約110IU/mL又は少なくとも110IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約120IU/mL又は少なくとも120IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約130IU/mL又は少なくとも130IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約140IU/mL又は少なくとも140IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約150IU/mL又は少なくとも150IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約160IU/mL又は少なくとも160IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約170IU/mL又は少なくとも170IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約180IU/mL又は少なくとも180IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約190IU/mL又は少なくとも190IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mL又は少なくとも200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約210IU/mL又は少なくとも210IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約220IU/mL又は少なくとも220IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約230IU/mL又は少なくとも230IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約240IU/mL又は少なくとも240IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約250IU/mL又は少なくとも250IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mLである。
【0153】
いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約12~24時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約24~36時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中T細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約36~48時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中T細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約48~60時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約60~72時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、約24~72時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は、少なくとも約10、20、40、50、60、又は70時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約38時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約48時間である。いくつかの実施形態では、(d)の再刺激(re-simulating)中にT細胞の刺激及び/又は増殖を可能にするのに十分な期間は約58時間である。
【0154】
いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な期間は約24時間である。
【0155】
いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間は、約6~12時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間は、約12~18時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間は、約18~24時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間は、約24~30時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な時間は、約12~36時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な期間は、少なくとも約5、10、15、20、又は25時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な期間は約18時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な期間は約24時間である。いくつかの実施形態では、(e)の拡大中にT細胞の増殖を可能にするのに十分な期間は約30時間である。
【0156】
いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約5日目又は約9日目の間に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約9日目又は約12日目の間に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約12日目又は約15日目の間に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約15日目又は約18日目の間に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約7日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約8日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約9日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約10日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約11日目に行われる。いくつかの実施形態では、(j)の測定は、培養開始後約12日目に行われる。
【0157】
T細胞拡大を分化から切り離す糖及び他の化合物の使用
或る態様では、本開示は、T細胞拡大を分化から切り離すことができる本明細書に記載される化合物の1つを利用して、養子移入後にin vivo持続性が増強されたT細胞を産生するために活性化T細胞を拡大するための方法を提供する。関連する態様では、本発明は、活性化T細胞(例えば、前駆疲弊T細胞)の集団の低分化状態(例えば、「幹細胞性(stemness)」)を維持するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の方法を実施するために使用される化合物は、例えば、GlcNAc及びNeu5Ac等の糖化合物、EZH2阻害剤、又はKRAS(G12C)阻害剤から選択することができる。いくつかの他の実施形態では、使用される化合物は、本明細書に記載のプリン及びピリミジン生合成中間体及び最終生成物、並びにグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼの阻害剤化合物から選択することができる。様々な活性化T細胞が、本方法による拡大に適している。これらには、例えば、幹メモリーT細胞(Tscm)、セントラルメモリーT細胞(Tcm)、エフェクターメモリーT細胞、エフェクターT細胞、前駆疲弊T細胞(Tpex)、又は末期疲弊T細胞(Ttex)が含まれる。いくつかの実施形態では、産生されたT細胞は、化合物で処理されていない活性化T細胞と比較して、より低い分化状態について評価することができる。いくつかの実施形態では、本方法は、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることを含む、増強された拡大及び/又は持続性により前駆疲弊T細胞の増殖及び/又は増殖を促進することを対象とする。いくつかの他の実施形態では、本発明は、TCF陽性T細胞を維持するため、又はTCF-1陰性T細胞をTCF-1陽性若しくは部分的に陽性に変換するために同じ化合物(例えば、Neu5Ac及びGlcNAc等の糖誘導体化合物)を使用する方法を提供する。これらの方法のいくつかは、終末疲弊Tim-3+TCF-細胞等の腫瘍浸潤T細胞のTCF陰性表現型を逆転させることを対象とする。
【0158】
いくつかの実施形態では、化合物によって促進されたT細胞の増殖は、分化からのT細胞拡大を切り離す。いくつかの実施形態では、有効量は、細胞又は細胞集団の増殖を引き起こすのに十分な量である。
【0159】
いくつかの実施形態では、化合物は糖である。いくつかの実施形態では、糖は、トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ノイラミン酸、又はそれらの誘導体である。いくつかの実施形態では、糖は、生理学的レベルを超える濃度である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、400mM、450mM、500mM、又はそれ以上である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約10mM、20mM、30mM、40mM 50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、又は150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~500mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~250mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~100mMである。いくつかの実施形態では、濃度は40mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は50mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は60mM又は少なくとも60mMである。いくつかの実施形態では、濃度は70mM又は少なくとも70mMである。いくつかの実施形態では、濃度は80mM又は少なくとも80mMである。いくつかの実施形態では、濃度は90mM又は少なくとも90mMである。いくつかの実施形態では、濃度は100mM又は少なくとも100mMである。
【0160】
いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることは、前駆疲弊T細胞の増殖を促進するのに十分な期間維持される。いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞の10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は更には100%が所望に応じて拡大するような条件下及び十分な期間接触される。T細胞を、所望の拡大を達成するための条件下及び十分な期間接触させる。いくつかの実施形態では、期間は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又はそれ以上の日である。いくつかの実施形態では、期間は、約3日~5日である。いくつかの実施形態では、期間は、約3日~7日である。いくつかの実施形態では、期間は、3日間~10日間である。いくつかの実施形態では、期間は約1日又は少なくとも1日である。いくつかの実施形態では、期間は、約2日又は少なくとも2日である。いくつかの実施形態では、期間は、約3日間又は少なくとも3日間である。いくつかの実施形態では、期間は、約4日又は少なくとも4日である。いくつかの実施形態では、期間は、約5日又は少なくとも5日である。いくつかの実施形態では、期間は、約6日又は少なくとも6日である。いくつかの実施形態では、期間は、約7日間又は少なくとも7日間である。いくつかの実施形態では、期間は、約8日間又は少なくとも8日間である。いくつかの実施形態では、期間は、約9日又は少なくとも9日である。いくつかの実施形態では、期間は、約10日間又は少なくとも10日間である。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約3日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約4日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約5日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約6日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約7日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約8日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約9日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約10日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約11日間維持される。いくつかの実施形態では、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることが、約12日間維持される。
【0161】
いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と接触させることは、T細胞を、化合物を含む培養培地と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、T細胞を培養培地と接触させることは、in vitroで培養することを含む。本方法の化合物は、当業者に知られているであろう任意の様々な培養培地(例えば、Current Protocols in Cell Culture,2000-2009 by John Wiley&Sons,Inc.を参照)と共に使用され得る。いくつかの実施形態では、培地は、10%FBS(HyClone、カタログ番号:SH30396.03)、1%Pen Strep(Gibco、カタログ番号15140-122)、1%MEM NEAA(Gibco、カタログ番号1140-050)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco、カタログ番号11360-070)、10mM HEPES(Gibco、カタログ番号15630-080)及び55μM 2-メルカプトエタノール(Gibco、カタログ番号21985-023)を補充したRPMI1640培地、GlutaMAX(商標)サプリメント(Gibcoカタログ番号61870-036)を含む。
【0162】
特定の実施形態では、ある期間(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9日間又はそれ以上の期間)の後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、1日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、2日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、3日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、4日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、5日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、6日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、7日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、8日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、9日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、10日後、追加量の培養培地が、培養されているT細胞に加えられてもよい。
【0163】
特定の実施形態では、化合物と共に培養したT細胞は、化合物と共に培養していないT細胞と比較してより大きな拡大を呈する。特定の実施形態では、化合物と共に培養したT細胞は、化合物と共に培養していないT細胞と比較して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20倍の拡大を呈する。特定の実施形態では、化合物と共に培養したT細胞は、化合物と共に培養していないT細胞と比較して1~2倍大きい拡大を呈する。特定の実施形態では、化合物と共に培養したT細胞は、化合物と共に培養していないT細胞と比較して、7~14倍大きい拡大を呈する。
【0164】
特定の実施形態では、T細胞は、細胞の数が培養開始時のT細胞の数の1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、又はそれ以上の条件下及び十分な期間培養される。いくつかの実施形態では、細胞の数は、その中の連続する整数を含めて、培養開始時のT細胞の数の10倍~1000倍である。いくつかの実施形態では、拡大されたT細胞集団は、最初の単離T細胞集団よりも少なくとも10倍大きい。別の実施形態では、拡大されたT細胞集団は、最初の単離T細胞集団よりも少なくとも100倍大きい。いくつかの実施形態では、拡大されたT細胞集団は、最初の単離T細胞集団よりも少なくとも500倍大きい。いくつかの実施形態では、拡大されたT細胞集団は、最初の単離されたT細胞集団よりも少なくとも1000倍大きい。
【0165】
T細胞は、目的の1つ以上タンパク質を発現するようにトランスフェクト又は操作されていてもよく、in vitro拡大後に培養物から回収されることが企図される。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する1日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する2日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する3日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する4日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する5日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する6日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する7日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する8日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する9日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養する10日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と共に培養する約1~約10日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と共に培養する約1~約5日前に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した後、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した1日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した2日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した3日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した4日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した5日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した6日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した7日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した8日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した9日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物で培養した10日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と共に培養した約1~約10日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と共に培養した約1~約5日後に、T細胞をトランスフェクト又は操作する。
【0166】
いくつかの実施形態では、T細胞を化合物と接触させることは、化合物をin vivoでT細胞と接触させることを含むin vivo治療を含む。いくつかの実施形態では、in vivoでの治療は、化合物を対象に投与することを含み、化合物はT細胞と接触する。いくつかの実施形態では、in vivoでの処理は、化合物及び1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤又は希釈剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、本開示の化合物は、単独で、又は標的細胞集団(例えば、抗原特異的T細胞集団又はトランスフェクトされたT細胞集団、あるいは他の方法で操作され、拡大されたT細胞集団)と共に、T細胞養子療法を支援するために対象に集合的に投与され得る。いくつかの実施形態では、化合物は、T細胞を投与した後に対象に投与され、T細胞は養子細胞療法に使用されている。いくつかの実施形態では、化合物はT細胞と同時に対象に投与され、T細胞は養子細胞療法に使用されている。いくつかの実施形態では、in vivoでの治療は、化合物の投与なしで移入されたT細胞と比較して、養子細胞療法に使用される移入されたT細胞のin vivo拡大を増強する。いくつかの実施形態では、in vivoでの治療は、化合物の投与なしで移入されたT細胞と比較して、養子細胞療法に使用される移入されたT細胞のより大きな幹細胞性を維持する。いくつかの実施形態では、in vivoでの治療は、化合物の投与なしで移入されたT細胞と比較して、養子細胞療法に使用される移入されたT細胞のin vivo持続性を増強する。いくつかの実施形態では、化合物は、T細胞と同時に対象に投与され、T細胞は養子細胞療法に使用されている。いくつかの実施形態では、化合物は、T細胞を対象に移入する前にin vitroで、並びにT細胞を対象に移入した後にin vivoでT細胞と接触する。いくつかの実施形態では、化合物は、移入前にin vitroでT細胞と接触せず、T細胞を対象に移入した後にin vivoでT細胞と接触する。
【0167】
in vivoでの処理の投与は、局所投与が望ましいか全身投与が望ましいかに応じて、いくつかの方法で実施され得る。化合物は、典型的には非経口投与に適しており、投与は、対象の組織の物理的な破損及び組織の破損を介した化合物の投与を特徴とする任意の投与経路を含み、したがって一般に血流、筋肉又は内臓への直接投与をもたらす。したがって、非経口投与には、注射による化合物の投与、外科的切開を介した化合物の適用、組織貫通非外科的創傷を介した化合物の適用等が含まれるが、これらに限定されない。特に、非経口投与は、皮下、腹腔内、筋肉内、胸骨内、静脈内、鼻腔内、気管内、動脈内、髄腔内、脳室内、尿道内、頭蓋内、腫瘍内、眼内、皮内、滑液包内注射又は注入、及び腫瘍内技術を含むがこれらに限定されないことが企図される。いくつかの実施形態では、化合物は静脈内投与を含む。
【0168】
培養製剤
或る態様では、本開示は、有効量の化合物を含む、増強された拡大及び/又は持続性を有する前駆疲弊T細胞の拡大及び/又は増殖を促進するための培養培地を提供し、化合物は、前駆疲弊T細胞の増殖を促進する化合物をスクリーニングする方法で同定される。
【0169】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で使用するための培地には、イスコフ改変ダルベッコ培地(ウシ胎児又は他の適切な血清を含む又は血清を含まない)が含まれるが、これに限定されない。また例示的な培地には、IMDM、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 15及びX-Vivo 20が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、培地は、界面活性剤、抗体、プラスマネート若しくは還元剤、1つ以上の抗生物質、及び/又はインスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びシクロスポリン等の添加剤を含み得る。いくつかの実施形態では、培地は、10%FBS(HyClone、カタログ番号:SH30396.03)、1%Pen Strep(Gibco、カタログ番号15140-122)、1%MEM NEAA(Gibco、カタログ番号1140-050)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco、カタログ番号11360-070)、10mM HEPES(Gibco、カタログ番号15630-080)及び55μM 2-メルカプトエタノール(Gibco、カタログ番号21985-023)を補充したRPMI1640培地、GlutaMAX(商標)サプリメント(Gibcoカタログ番号61870-036)を含む。
【0170】
いくつかの実施形態では、化合物によって促進されたT細胞の増殖は、分化からのT細胞拡大を切り離す。いくつかの実施形態では、有効量は、T細胞集団の増殖を引き起こすのに十分な量である。
【0171】
実施例5は、増殖を分化から切り離す同定された化合物の有無にかかわらずin vitroで培養されたT細胞間のトランスクリプトーム分析を記載する。多数の遺伝子が、増殖を分化から切り離すと同定された化合物を処理していないものと比較して、化合物(例えば、GlcNac又はNeu5Ac)で処理したT細胞において有意に差次的に発現されることが同定された。更に、増殖を分化から切り離すと同定された異なる化合物に曝露されたT細胞からの二次PCA分析の間に顕著な類似性があった。したがって、増殖を分化から切り離すために同定された化合物で処理した試料間に見られる有意に差次的に調節された遺伝子は、おそらく分離に関与する分子機構において重要な役割を果たす。したがって、Cd24a、lgfbp7、Tcf7、lgfbp4、Adcy5、Nt5e、Hck、Lif、Apol9b、Gm4951、ligp1、Gzmk、Serpina3f、Nt5dc2、Maged1、Bmf、Cacnb3、Fut4、Egr1、Slc6a12、Fbxo2、Egr2、Fos、Plxnb2、Marcksl1、Ikzf2、Filip1I、Trerf1、Stard10、Pls1、Gm13546、Ccr7、Igha、Itgae、Hic1、Klrh1、Als2cl、Tanc2、Slco4a1、Piwil4、Slc25a23、Itga4、Ckb、Actn1、Sema7a、Gm24187、Mir6236、H4c12、Gzmc、Prf1、Csf1、Gzmd、Tspan32、Atp6v0a1、Map6、Lmna、Rxra、Gpr141、Gm20559、Adam8、Anxa1、Stc2、Fosl2、Akr1c13、Cdkn2a、Crmp1、Tnfrsf21、Kctd12、Ccr2、Samd9I、Sytl2、Ccr5、Tnfrsf9、Mme、Asns、Eomes、Oas3、Ly6a2、Ifi204、Ifit1、Cdh1、Ifit3、Isg15、Rtp4、Mx1、Oasl2、Rpl12、Rrp1、Rrp1b、Rrp12、Rrp15、mt.Rnr2、CT010467.2、Gm23935、Ct010467.1、及びLars2の遺伝子の1つ以上を調節する化合物は、T細胞の分化及び増殖の分離に影響を及ぼすと予想される。いくつかの実施形態では、化合物は、Cd24a、lgfbp7、Tcf7、lgfbp4、Adcy5、Nt5e、Hck、Lif、Apol9b、Gm4951、ligp1、Gzmk、Serpina3f、Nt5dc2、Maged1、Bmf、Cacnb3、Fut4、Egr1、Slc6a12、Fbxo2、Egr2、Fos、Plxnb2、Marcksl1、Ikzf2、Filip1I、Trerf1、Stard10、Pls1、Gm13546、Ccr7、Igha、Itgae、Hic1、Klrh1、Als2cl、Tanc2、Slco4a1、Piwil4、Slc25a23、Itga4、Ckb、Actn1、Sema7a、Gm24187、Mir6236、H4c12、Gzmc、Prf1、Csf1、Gzmd、Tspan32、Atp6v0a1、Map6、Lmna、Rxra、Gpr141、Gm20559、Adam8、Anxa1、Stc2、Fosl2、Akr1c13、Cdkn2a、Crmp1、Tnfrsf21、Kctd12、Ccr2、Samd9I、Sytl2、Ccr5、Tnfrsf9、Mme、Asns、Eomes、Oas3、Ly6a2、Ifi204、Ifit1、Cdh1、Ifit3、Isg15、Rtp4、Mx1、Oasl2、Rpl12、Rrp1、Rrp1b、Rrp12、Rrp15、mt.Rnr2、CT010467.2、Gm23935、Ct010467.1、及びLars2の遺伝子の1つ以上を調節する化合物である。
【0172】
いくつかの実施形態では、化合物は糖である。いくつかの実施形態では、糖は、トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ノイラミン酸、又はそれらの誘導体である。いくつかの実施形態では、糖は、生理学的レベルを超える濃度である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、400mM、450mM、500mM、又はそれ以上である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約10mM、20mM、30mM、40mM 50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、又は150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~500mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~250mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~100mMである。いくつかの実施形態では、濃度は40mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は50mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は60mM又は少なくとも60mMである。いくつかの実施形態では、濃度は70mM又は少なくとも70mMである。いくつかの実施形態では、濃度は80mM又は少なくとも80mMである。いくつかの実施形態では、濃度は90mM又は少なくとも90mMである。いくつかの実施形態では、濃度は100mM又は少なくとも100mMである。I
いくつかの実施形態では、培養培地は、所望の結果(例えば、分化から切り離された拡大)を達成するために様々な濃度でin vitro細胞培養物に添加され得る活性化因子を更に含む。T細胞活性化因子は、T細胞を拡大するためであって、T細胞を分化させない培養培地中で利用され得ることが企図される。例えば、T細胞は、IL-2を含むがこれに限定されない1つ以上のT細胞活性化因子と共に培養され得る。いくつかの実施形態では、培養培地はIL-2を含む。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、500、1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10~約100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100~約200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200~約500IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約500~約1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約20IU/mL又は少なくとも20IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約30IU/mL又は少なくとも30IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約40IU/mL又は少なくとも40IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約50IU/mL又は少なくとも50IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mL又は少なくとも60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約70IU/mL又は少なくとも70IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約90IU/mL又は少なくとも90IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100IU/mL又は少なくとも100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約110IU/mL又は少なくとも110IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約120IU/mL又は少なくとも120IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約130IU/mL又は少なくとも130IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約140IU/mL又は少なくとも140IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約150IU/mL又は少なくとも150IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約160IU/mL又は少なくとも160IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約170IU/mL又は少なくとも170IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約180IU/mL又は少なくとも180IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約190IU/mL又は少なくとも190IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mL又は少なくとも200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約210IU/mL又は少なくとも210IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約220IU/mL又は少なくとも220IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約230IU/mL又は少なくとも230IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約240IU/mL又は少なくとも240IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約250IU/mL又は少なくとも250IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mLである。
【0173】
FucoID及び糖の使用
或る態様では、本開示は、抗原に特異的な前駆疲弊T細胞を同定する方法であって、(a)前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を培地中で培養することと、(b)標識にコンジュゲートされたドナー糖ヌクレオチドの存在下で、細胞集団を改変樹状細胞と接触させることであって、(i)改変樹状細胞が、その細胞表面に、ドナー糖ヌクレオチドを使用してT細胞上の細胞表面グリカンのグリコシル化を触媒することができる活性フコシルトランスフェラーゼを含むように操作されており、(ii)改変樹状細胞が1つ以上の抗原でプライミングされている、細胞集団を改変樹状細胞と接触させることと、(c)接触後に、前駆細胞枯渇T細胞の集団の細胞表面を分析して、任意の標識が存在するかどうかを判定することであって、前駆疲弊T細胞の細胞表面上の標識の存在が、前駆疲弊T細胞が、1つ以上の抗原の少なくとも1つに対して特異性を有する抗原に特異的であることを示す、前駆細胞枯渇T細胞の集団の細胞表面を分析して、任意の標識が存在するかどうかを判定することと、を含む方法を提供する。
【0174】
いくつかの実施形態では、培養培地は有効量の糖を含む。いくつかの実施形態では、糖は、トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、ノイラミン酸、又はそれらの誘導体である。いくつかの実施形態では、糖は、生理学的レベルを超える濃度である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、400mM、450mM、500mM、又はそれ以上である。いくつかの実施形態では、濃度は、少なくとも約10mM、20mM、30mM、40mM 50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、又は150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~500mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~250mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~150mMである。いくつかの実施形態では、濃度は約10mM~100mMである。いくつかの実施形態では、濃度は40mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は50mM又は少なくとも50mMである。いくつかの実施形態では、濃度は60mM又は少なくとも60mMである。いくつかの実施形態では、濃度は70mM又は少なくとも70mMである。いくつかの実施形態では、濃度は80mM又は少なくとも80mMである。いくつかの実施形態では、濃度は90mM又は少なくとも90mMである。いくつかの実施形態では、濃度は100mM又は少なくとも100mMである。
【0175】
いくつかの実施形態では、培養培地は、所望の結果(例えば、分化から切り離された拡大)を達成するために様々な濃度でin vitro細胞培養物に添加され得る活性化因子を更に含む。T細胞活性化因子は、T細胞を拡大するためであって、T細胞を分化させない培養培地中で利用され得ることが企図される。例えば、T細胞は、IL-2を含むがこれに限定されない1つ以上のT細胞活性化因子と共に培養され得る。いくつかの実施形態では、培養培地はIL-2を含む。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、300、350、400、500、1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10~約100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100~約200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200~約500IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約500~約1000IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約20IU/mL又は少なくとも20IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約30IU/mL又は少なくとも30IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約40IU/mL又は少なくとも40IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約50IU/mL又は少なくとも50IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mL又は少なくとも60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約70IU/mL又は少なくとも70IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約90IU/mL又は少なくとも90IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約10IU/mL又は少なくとも10IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約100IU/mL又は少なくとも100IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約110IU/mL又は少なくとも110IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約120IU/mL又は少なくとも120IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約130IU/mL又は少なくとも130IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約140IU/mL又は少なくとも140IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約150IU/mL又は少なくとも150IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約160IU/mL又は少なくとも160IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約170IU/mL又は少なくとも170IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約180IU/mL又は少なくとも180IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約190IU/mL又は少なくとも190IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mL又は少なくとも200IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約210IU/mL又は少なくとも210IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約220IU/mL又は少なくとも220IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約230IU/mL又は少なくとも230IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約240IU/mL又は少なくとも240IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約250IU/mL又は少なくとも250IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約60IU/mLである。いくつかの実施形態では、IL-2の量は、約200IU/mLである。
【0176】
いくつかの実施形態では、本開示は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)又は循環T細胞から腫瘍特異的抗原(TSA)反応性T細胞を同定して濃縮する、及び/又は特定の疾患の抗原を認識するT細胞を同定して濃縮するための組成物及び方法の使用を提供する。
【0177】
本明細書で使用される場合、「FucoID」又は「FucoID標識」という用語は、フコシルトランスフェラーゼを使用して抗原特異的T細胞を同定及び濃縮する方法を指す。FucoIDは、標識にコンジュゲートされたドナー糖ヌクレオチドの存在下で、T細胞の集団を改変樹状細胞と接触させることを含み、(i)改変樹状細胞が、その細胞表面に、ドナー糖ヌクレオチドを使用してT細胞上の細胞表面グリカンのグリコシル化を触媒することができる活性グリコシルトランスフェラーゼを含むように操作されており、(i)改変樹状細胞が、1つ以上の抗原でプライミングされている、T細胞の集団を改変樹状細胞と接触させることと、(b)接触後に、T細胞の集合の細胞表面を分析して、任意の標識が存在するかどうかを決定することであって、T細胞の細胞表面上の標識の存在が、T細胞が、1つ以上の抗原のうちの少なくとも1つに対する特異性を有する反応性T細胞であることを示す、T細胞の集合の細胞表面を分析して、任意の標識が存在するかどうかを決定することと、を含む。
【0178】
「フコシルトランスフェラーゼ」、「FucT」及び「FT」という用語は、本明細書では互換的に使用され、GDP-β-L-フコース(「GDP-フコース」)からアクセプター基質へのフコースの転移を触媒する酵素(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ)を指す。アクセプター基質は、オリゴ糖及び/又はタンパク質上に存在し得る。例えば、フコシルトランスフェラーゼは、N-グリカン(例えば、タイプ1:Galβ1、3GlcNAc)中に存在する最も内側のGlcNAc(N-アセチルグルコサミン)残基にフコースを転移し、「コアフコシル化」として公知のα-1,6-フコシル化をもたらすことができる。フコシルトランスフェラーゼは、Galβ1、4GlcNAc(LacNAcとも呼ばれるII型)又はGalβ1、3GlcNAc(III型)等のオリゴ糖上の末端ガラクトース残基にフコースを結合させる「末端フコシル化」も触媒することができる。異なるタイプのフコシル化を触媒する13タイプのフコシルトランスフェラーゼがこれまでに記載されている(FUT1-FUT11、POFUT1及びPOFUT2を含む)。例えば、FUT1(NM_000148.1)及びFUT2(NM_000511.1)は、α-1,2-フコシル化の合成を触媒する;FUT3(NM_000149.1)は、α-1,3-及びα-1,4-フコシル化(α-1、3/4フコシル化)の合成を触媒する;FUT4(NM_002033.1),FUT5(NM_002034.1),FUT6(NM_000150.1)FUT7(NM_004479.1),FUT9(NM_006581.1),FUT10(NM_032664.2)及びFUT11(NM_173540.1)は、α-1,3-フコシル化を触媒する;FUT8(NM_004480.1)はα-1,6-フコシル化を触媒する;並びにPOFUT1(NM_015352.1)及びPOFUT2(NM_015227.1)は、O-グリコシド結合を介したセリン及びトレオニン残基へのフコースのポリペプチドへの直接付加を触媒する。13種のフコシルトランスフェラーゼ酵素についての上記NCBI参照配列番号に対応する配列のそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0179】
LacNAcという用語は、N-アセチルラクトサミンを指し、互換的にGal 1,4 GlcNAcと呼ばれる。
【0180】
sLacNAc及びシアリルLacNAcという用語は、α2,3-シアリル化LacNAcを指し、本明細書ではシアリルラクトサミンとも呼ばれる。
【0181】
様々な実施形態では、本開示の組成物及び方法は、別の細胞と接触すると、操作された細胞上の酵素が、他の細胞上の標識(又は「タグ」)を結合する標識反応を触媒するように、細胞表面に酵素を有するように操作された細胞を提供する。このプロセスは、本明細書では「相互作用依存性標識」と呼ばれ、標識反応を触媒する操作された細胞を「ベイト細胞」と呼び、ベイト細胞によって標識化された細胞を「プレイ細胞」と呼ぶ。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の技術を使用することにより、抗原、例えば腫瘍溶解物でプライミングされたフコシルトランスフェラーゼ(FT)(又は他の酵素)改変自己iDCを、DCと相互作用する細胞、例えばTIL又は循環T細胞の表面へのビオチン(又は他の)タグの近接ベースの移入を誘導するベイト細胞として使用することができる。蛍光活性化細胞選別(FACS)(例えば、又は他の富化方法)を使用して、ビオチン化T細胞(又は他の方法でタグ付けされた細胞)を、真正抗原反応性、例えばTSA反応性TILとして単離することができ。これらの単離された細胞はまた、予想されるTSA反応性(例えば、PD-1、CD134又はCD137)を示す現在使用されている表面マーカー、又はCXCR5及び/若しくはTIM3等の他のマーカーを発現し得る。そのような実施形態では、近接に基づくビオチン化は、抗原提示DCと相互作用する細胞上でのみ起こることから、この方法を使用すると、PD-1、CD134、CD137、CXCR5、及び/又はTIM330も発現するヒト腫瘍浸潤物に見られるバイスタンダーCD8+T細胞が効果的に排除される。したがって、様々な実施形態では、本開示は、本明細書に開示される近接標識法を使用して単離されたTSA反応性TIL又はT細胞の組成物(医薬組成物を含む)、並びにそのようなTSA反応性TIL又はT細胞の拡大した集団を含む。そのような組成物は、(例えば、癌)等の疾患の治療又は予防に使用され得る。
【0182】
様々な実施形態において、本開示のベイト細胞は、ベイト細胞とプレイ細胞とが接触したときに標的プレイ細胞への標識(又は「タグ」)の移入を触媒するための酵素をその細胞表面に含む。ベイト細胞の表面での使用に適した酵素は本明細書に開示されており、グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、フコシルトランスフェラーゼ及びシアリルトランスフェラーゼ)、ソルターゼ、及びプロミスキャス ビオチンリガーゼ(promiscuous biotin ligase)が含まれるが、これらに限定されない。
【0183】
接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒するための好適な酵素をその表面上に有するように操作され得ることを条件として、別の細胞と接触することができる任意の細胞がベイト細胞として使用され得る。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は抗原提示細胞(APC)である。いくつかの例では、ベイトセルはプロフェッショナルAPCである。いくつかの例では、ベイトセルは非プロフェッショナルAPCである。いくつかの例では、ベイト細胞はMHCクラスI分子を発現する。いくつかの例では、ベイト細胞はMHCクラスII分子を発現する。いくつかの例では、ベイト細胞は白血球である。いくつかの例では、ベイト細胞は非定型APCである。いくつかの例では、ベイト細胞は、DC、マクロファージ、B細胞、単球、顆粒球、肥満細胞、好中球、内皮細胞、上皮細胞から選択される細胞である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は操作されたAPC、例えば人工APC(「aAPC」)である。そのようなaAPCは当技術分野で公知である。aAPCは、細胞ベースのaAPC又は非細胞ベースのaAPCであり得る。いくつかの例では、非細胞ベースのaAPCは、シグナル1及びシグナル2を含み、場合により、ナノ粒子又は微粒子aAPC上のシグナル3は、2つのシグナル:主要組織適合遺伝子複合体(MHC)シグナル及び共刺激分子を含む。いくつかの例では、aAPC中のMHCシグナルはMHCクラスIである。いくつかの例では、aAPC中のMHCシグナルはMHCクラスIIである。いくつかの例では、aAPC中の共刺激シグナルは、CD80(B7.1)又はCD86(B7.2)によって生成される。aAPCはまた、サイトカイン分泌を刺激してT細胞の刺激及び拡大を促進する第3のシグナルを含み得る。いくつかの例では、aAPCは、aAPCがT細胞に結合した後にIL-2分泌を刺激する第3のシグナルを含む。いくつかの例では、aAPCは、第1のシグナル及び第2のシグナル、並びに場合により第3のシグナルを発現するように操作された線維芽細胞である。線維芽細胞はまた、ICAM-1及び/又はLFA-3を発現し得る。例えば、特定の実施形態では、ベイト細胞は樹状細胞であり、プレイ細胞はエフェクター細胞である。樹状細胞は、未成熟樹状細胞であり得る。樹状細胞は抗原でプライミングされ得る。いくつかの実施形態では、抗原は、癌、病原性感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は遺伝性障害に由来する。いくつかの実施形態では、樹状細胞であるベイト細胞と組み合わせて本発明においてプレイ細胞として使用されるエフェクター細胞には、ナイーブT細胞、メモリー幹細胞T細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ヘルパーT細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD8/CD4+T細胞、αβ T細胞、γδ T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、ナチュラルキラー細胞、及びマクロファージから選択されるエフェクター細胞が含まれる。そのような方法では、腫瘍溶解物でプライミングされた自己未成熟DCは、いくつかの実施形態では、ベイト細胞DCと相互作用するプレイ細胞(すなわち、TIL又は循環T細胞)の表面へのタグ(例えば、ビオチン)の近接に基づく転移を誘導する酵素で改変され得る。蛍光活性化細胞選別(FACS)(又は他の適切な単離方法)を使用して、予想されるTSA反応性(例えば、PD-1、CD134又はCD137)28~30を示す現在使用されている表面マーカー又はCXCR5及び/若しくはTIM3等の他のマーカーも発現し得るタグ付け(例えば、ビオチン付け)されたT細胞を単離することができる。単離されたT細胞は、抗原反応性T細胞、例えばTSAに対する反応性を有する腫瘍反応性T細胞について高度に濃縮されている。同様に、自己免疫患者生検からの組織溶解物でプライミングされたDCは、ベイト細胞DCと相互作用するプレイ細胞(循環自己反応性T細胞)の表面へのタグ(例えば、ビオチン)の近接に基づく転移を誘導する酵素で改変され得る。このアッセイから、予測される自己反応性T細胞であるタグ付けされた(例えば、ビオチン+)CD8+T細胞、及び予測される抗原特異的調節性T細胞であるタグ付けされた(例えば、ビオチン+)CD4+、CD25+、FOXP3+T細胞を単離し得る。
【0184】
いくつかの実施形態では、ベイト細胞はB細胞である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞はB細胞であり、プレイ細胞はT細胞である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞はナイーブB細胞又は胚中心B細胞である。
【0185】
同様に、いくつかの実施形態では、ベイト細胞はそのようなエフェクター細胞(例えば、ナイーブT細胞、メモリー幹細胞T細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ヘルパーT細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD8/CD4+T細胞、αβ T細胞、γδ T細胞、細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、ナチュラルキラー細胞、又はマクロファージ)であり、したがって、エフェクター細胞は、接触したプレイ細胞の接触誘導性相互作用依存的標識化を触媒するのに適した酵素をその表面に有するように操作される。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は、接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒するための好適な酵素をその表面に発現するT細胞であり、プレイ細胞はB細胞である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は、接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒するための好適な酵素をその表面に発現するT細胞であり、プレイ細胞は、ナイーブB細胞、胚中心B細胞である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は、接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒するための好適な酵素をその表面に発現するT細胞であり、プレイ細胞は樹状細胞である。本開示の特定の実施形態では、ベイト細胞は、接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒するための好適な酵素をその表面に発現するB細胞であり、プレイ細胞はCD4+T細胞である。
【0186】
タグ付けされた基質を利用する接触したプレイ細胞の接触誘導相互作用依存的標識化を触媒することができる任意の酵素が、ベイト細胞の表面に配置され、本発明において利用され得る。そのような酵素は、本明細書では「適切な酵素」と呼ばれる。いくつかの実施形態では、本発明による相互作用依存的標識化を容易にするためのベイト細胞上での使用に適した酵素は、(i)バックグラウンド標識が最小限であるように、プレイ細胞の表面に見出されるアクセプター基質に対して高いKmを有し、(ii)ベイト細胞とプレイ細胞との間の相互作用が起こるときに相互作用依存的な標識化を引き起こすための高いkcatを有する。酵素は、ヒト酵素であってもよい。酵素は、非ヒト酵素であってもよい。酵素は、組換え酵素であってもよい。酵素は、単離された酵素であってもよい。酵素は、天然酵素であってもよい。酵素は、非天然酵素であってもよい。酵素は、タグ(例えば、エピトープタグ)を含み得る。そのようなタグは当技術分野で周知であり、限定はしないが、本明細書に記載の任意のタグを含む本発明で使用することができる。
【0187】
いくつかの例では、ベイト細胞の表面上の酵素はトランスフェラーゼである。一般に、トランスフェラーゼは、1つの分子から別の分子への1つの分子基の転移を触媒する。例えば、そのような分子基には、他の基の中でも、リン酸基、アミノ基、メチル基、アセチル基、アシル基、ホスファチジル基、ホスホリボシル基が含まれ、本発明での使用に適したトランスフェラーゼには、分子がタグ(例えば、当技術分野で公知であるか、又は本明細書に記載されるタグ)で標識化されている場合であっても、ある分子から別の分子への転移を触媒することができる任意のトランスフェラーゼが含まれる。
【0188】
例えば、いくつかの実施形態では、本開示は、グリコシルトランスフェラーゼである酵素を表面に有するベイト細胞を提供する。グリコシルトランスフェラーゼは、例えばタンパク質及び他の糖部分(グリカン)、例えば糖タンパク質、糖脂質、オリゴ糖等を含み得るアクセプター分子への糖ヌクレオチドドナーの転移を触媒する。
【0189】
特定の実施形態では、本開示は、表面にフコシルトランスフェラーゼ又はシアリルトランスフェラーゼを有するベイト細胞を提供する。
【0190】
フコシルトランスフェラーゼは、α1,2-結合におけるGDP-FucからGalへのフコースの転移、及びα1,3-、α1,4-、又はα1,6-結合におけるGlcNAcへのフコースの転移を触媒する。既知のフコシルトランスフェラーゼは同じヌクレオチド糖を利用するので、それらの特異性はアクセプターの認識及び形成される連結のタイプにあると考えられる。タンパク質配列類似性に基づいて、これらの酵素は、(1)アルファ-2-フコシルトランスフェラーゼ、(2)アルファ-3-フコシルトランスフェラーゼ、(3)哺乳動物アルファ-6-フコシルトランスフェラーゼ、及び(4)細菌アルファ-6-フコシルトランスフェラーゼの4つの異なるファミリーに分類されている。保存された構造的特徴、並びにコンセンサスペプチンモチーフは、原核生物及び真核生物起源由来の全てのアルファ-2及びアルファ-6-フコシルトランスフェラーゼの触媒ドメインにおいて同定されている。これらの配列類似性に基づいて、アルファ-2及びアルファ-6-フコシルトランスフェラーゼは、1つのスーパーファミリーにグループ化されている。更に、少数のアミノ酸がこのスーパーファミリーにおいて厳密に保存されていることが見出され、これらの残基のうちの2つがヒトアルファ-2-フコシルトランスフェラーゼの酵素活性に必須であることが報告されている。アルファ-3-フコシルトランスフェラーゼは、コンセンサスペプチドを欠くため、別個のファミリーを構成するが、いくつかの領域は、アルファ-2及びアルファ-6-フコシルトランスフェラーゼと類似性を示す。これらの全ての所見は、フコシルトランスフェラーゼがいくつかの共通の構造的及び/又は触媒的特徴を共有することを強く示唆している。ヒトでは、少なくとも11のフコシルトランスフェラーゼが記載されており、これらはヒト遺伝子FUT1;FUT2;FUT3;FUT4;FUT5;FUT6;FUT7;FUT8;FUT9;FUT10;及びFUT11によってコードされる。
【0191】
シアリルトランスフェラーゼは、触媒ドメインに相同の保存領域を含む糖タンパク質、糖脂質及びオリゴ糖の炭水化物基の末端シアリル化を担うグリコシルトランスフェラーゼである。シアリルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、Gal/31、3GalNAc α2,3シアリルトランスフェラーゼ及びGall,3(4)GlcNAc α2,3シアリルトランスフェラーゼを含む。シアリル化とは、糖タンパク質、糖脂質、オリゴ糖等の糖鎖上の末端位置へのシアル酸の転移を指す。酵素的に機能的なシアリルトランスフェラーゼの例は、シアル酸をCMP-シアル酸からアクセプターオリゴ糖に転移することができるものであり、ここで、オリゴ糖アクセプターは、特定のシアリルトランスフェラーゼに応じて変化する。多数のシアリルトランスフェラーゼが当技術分野で公知であり、ヒトシアリルトランスフェラーゼSIAT4C;SIAT9;ST3GAL1;ST3GAL2;ST3GAL3;ST3GAL4;ST3GAL5;ST3GAL6;ST3GalIII;ST6GAL1;ST6GAL2;ST6Gal;ST8SIA1;ST8SIA2;ST8SIA3;ST8SIA4;ST8SIA5;ST8SIA6;及びST8Siaが含まれるが、これらに限定されない。
【0192】
典型的には、グリコシルトランスフェラーゼは、厳しいドナー基質特異性を有する。しかしながら、本発明者らは、ピロリ菌(H.pylori)α1,3フコシルトランスフェラーゼが顕著な基質耐性を有することを発見して、最近報告し(国際公開第2018/144769号として公開されたPCT/US2018/016503号(その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、例えば、リンカーを介して、そのGDP-フコース基質にコンジュゲート化され、それでもなおフコシル化反応を触媒することができることが望ましい任意のものを本質的に可能にする。本発明者らは、ST6Gal1を以前の研究において同様に、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)α(2,3)シアリルトランスフェラーゼM144D変異体(Pm2,3ST-M144D);及びフォトバクテリア・ダムセラエ(Photobacterium damsel)α(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(Pd2,6ST))は、官能化CMP-シアル酸ドナー基質に対して許容性であることを示した(同上、及びHong,S,et al.,Bacterial glycosyltransferase-mediated cell-surface chemoenzymatic glycan modification.)。Nature Communications 10,Article number:1799(2019)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。加えて、本発明者らは、ピロリ菌(H.pylori)α1,3/1,4フコシルトランスフェラーゼが、;ヒトα1,3フコシルトランスフェラーゼ(FUT6);ヒトα2,6αシアリルトランスフェラーゼ(ST6Gal1)もまた、コンジュゲート化ドナー基質に対して同様に許容性であり、ヒトα1,3フコシルトランスフェラーゼFUT9(データは示さず)も同様であることを示す。
【0193】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、その表面に配置されたフコシルトランスフェラーゼ又はシアリルトランスフェラーゼを含むベイト細胞、及びそのようなベイト細胞を使用して相互作用依存的標識を達成し、それによってベイト細胞が別の細胞と接触したかどうかを検出する方法を提供する。特定の態様では、それぞれのグリコシルトランスフェラーゼ(すなわち、フコシルトランスフェラーゼについてはGDP-フコース、シアリルトランスフェラーゼについてはCMP-Neu5Acである)に適したドナー糖ヌクレオチドのタグ付けされたコンジュゲートの存在下で、表面に配置されたフコシルトランスフェラーゼ又はシアリルトランスフェラーゼを有するベイト細胞が、適切なグリカンアクセプター部分を含むプレイ細胞と接触する場合、ベイト細胞上の酵素はグリコシルトランスフェラーゼ反応を触媒し、それにより、それぞれのタグ付けされたドナー糖ヌクレオチドのプレイ細胞への付着がもたらされ、したがって、ベイト細胞とプレイ細胞との間で細胞-細胞相互作用が起こったという持続的な指標がもたらされる。
【0194】
一実施形態では、本開示は、表面にヒトフコシルトランスフェラーゼ酵素を含むベイト細胞、及びそれを相互作用依存的にプレイ細胞を標識する際に使用する方法を提供する。一実施形態では、ヒトフコシルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトα1,3-フコシルトランスフェラーゼである。一実施形態では、ヒトα1,3-フコシルトランスフェラーゼは組換えにより調製される。一実施形態では、本開示は、その表面にピロリ菌(H.pylori)フコシルトランスフェラーゼ酵素を含むベイト細胞を提供する。一実施形態では、ピロリ菌フコシルトランスフェラーゼは、ピロリ菌α1,3-フコシルトランスフェラーゼである。一実施形態では、ピロリ菌フコシルトランスフェラーゼは、ピロリ菌α1,3/1,4-フコシルトランスフェラーゼである。
【0195】
一実施形態では、本開示は、表面にヒトシアリルトランスフェラーゼ酵素を含むベイト細胞、及びそれを相互作用依存的にプレイ細胞を標識する際に使用する方法を提供する。一実施形態では、ヒトシアリルトランスフェラーゼはST6GAL1である。一実施形態では、ヒトシアリルトランスフェラーゼはST6GalNAc1である。本開示の一実施形態では、ベイト細胞の表面上の酵素は、非ヒトシアリルトランスフェラーゼである。一実施形態では、非ヒトシアリルトランスフェラーゼはパスツレラ・ムルトシダα(2,3)シアリルトランスフェラーゼM144D変異体(Pm2、3ST-M144D)又はフォトバクテリウム・ダンセラα(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(Pd2、6ST)である。
【0196】
一実施形態では、本開示は、その表面にソルターゼ酵素を含むベイト細胞、及びそれをプレイ細胞の相互作用依存的標識化において使用する方法を提供する。ソルターゼは、第1のタンパク質のC末端を第2のタンパク質のN末端にアミド転移を介してコンジュゲートするペプチド転移反応を行うことができる酵素のファミリーである。ベイト細胞の表面に含まれるソルターゼ酵素が、その表面にソルターゼ認識配列(例えば、LPXTG(配列番号5)(Xは、ソルターゼAである))を含むタグ付けペプチドの存在下でそのN末端にソルターゼ受容体ペプチド(例えば、GGG残基)を含むポリペプチドを有するプレイ細胞と接触する場合、ソルターゼは、ソルターゼ認識配列を含むポリペプチドのN末端へのタグ付けされたペプチドの結合を触媒し、それによって、タグをプレイ細胞に付着させる。当技術分野で公知の又は本明細書に開示される任意のソルターゼは、本明細書に記載されるようなプレイ細胞の相互作用依存的標識化を促進する目的で、ベイト細胞の表面へのコンジュゲーションに適した酵素として、本発明に関連して利用され得る。
【0197】
ソルターゼはトランスアミダーゼとも呼ばれ、典型的にはプロテアーゼ活性とペプチド転移活性の両方を呈する。原核生物由来の様々なソルターゼが同定されている。例えば、グラム陽性菌由来のいくつかのソルターゼは、タンパク質を切断し、無傷の細胞壁中のプロテオグリカン部分に転位させる。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)から単離されたソルターゼの中には、ソルターゼA(Srt A)及びソルターゼB(Srt B)がある。したがって、特定の実施形態では、本明細書に記載される相互作用依存的な標識方法に従って使用されるトランスアミダーゼは、例えば、本明細書でSrtAaureusとも称される黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のソルターゼAである。他の実施形態では、トランスアミダーゼは、例えば、本明細書ではSrtBaureusとも呼ばれる黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のソルターゼBである。
【0198】
ソルターゼは、グラム陽性細菌ゲノム由来の61個のソルターゼの配列アラインメント及び系統発生分析に基づいて、A、B、C及びD(すなわち、それぞれ、ソルターゼA、ソルターゼB、ソルターゼC及びソルターゼD)と命名された4つのクラスに分類されている(Dramsi et al.,Res Microbiol.156(3):289-97,2005;その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)。また、これらのクラスは、クラスA(サブファミリー1)、クラスB(サブファミリー2)、クラスC(サブファミリー3)、及びクラスD(サブファミリー4及び5)のソルターゼのサブファミリーに対応し、Comfort及びClubb(Comfort et al.,Infect Immun.,72(5):2710-22,2004;その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)によってソルターゼが分類されている。前述の参考文献は、多数のソルターゼ及びそれらの認識モチーフを開示している。Pallen et al.,TRENDS in Microbiology,2001,9(3),97-101を参照されたい(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる)。当業者は、その配列及び/又は前出のDrami,et al.に記載されているような他の特徴に基づいて、ソルターゼを正しいクラスに容易に割り当てることができるであろう。
【0199】
「ソルターゼA」という用語は、本明細書では、任意の特定の細菌種において通常SrtAと呼ばれるクラスAソルターゼ、例えば黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のSrtAを指すために使用される。同様に、「ソルターゼB」は、本明細書では、任意の特定の細菌種において通常SrtBと呼ばれるクラスBソルターゼ、例えば黄色ブドウ球菌由来(S.aureus)のSrtBを指すために使用される。本開示は、当技術分野で公知の任意のソルターゼクラス(例えば、任意の細菌種又は株由来のソルターゼA、任意の細菌種又は株由来のソルターゼB、任意の細菌種又は株由来のクラスCソルターゼ、及び任意の細菌種又は株由来のクラスDソルターゼ)に関する実施形態を包含する。
【0200】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の相互作用依存的標識方法で使用されるソルターゼは、野生型酵素である。他の実施形態では、ソルターゼは、野生型対応物(例えば、より高い触媒活性)と比較して優れた特徴を有し得る改変バージョンである。いくつかの例では、ソルターゼは、以下の位置:P94、S102、A104、E105、K138、K152、D160、K162、T164、D165、K173、I182、K190及びK196の1つ以上を含み得るSrtAの変異体であり得る。例えば、SrtA変異体は、以下の変異:P94R又はP94S、S102C、A104H、E105D、K138P、K152I、D160K又はD160N、K162H、T164N、D165A、K173E、I182V、K190E、及びK196S又はK196Tのうちの1つ以上を含み得る。一例では、ソルターゼは、黄色ブドウ球菌由来のSrtAの三重変異体P94S/D160N/K196Tである。
【0201】
他の実施形態では、変化した基質特異性を有する改変ソルターゼを、本明細書に記載の細胞間標識方法で使用することができる。例えば、位置S102(例えば、S102C)、A104(例えば、A104H又はA104V)、E105(例えば、E105D)、K138(例えば、K138P)、K152(例えば、K152I)、N162(例えば、N162N)、T164(例えば、T164N)、K173(例えば、K173E)、I182(例えば、I182V)、T196(例えば、T196S)、N98(例えば、N98D)、A118(例えば、A118T)、F122(例えば、F122A)、K134(例えば、K134R)、F144(例えば、F144L)及びE189(例えば、E189F)に1つ以上の変異を有するソルターゼA変異体。そのような改変ソルターゼは、LAXTG(配列番号6)及び/又はLPXSG(配列番号7)等の配列を認識し得、ここで、Xは任意のアミノ酸残基であり得る。例としては、変異体S102C/A104H/E105D/K138P/K152I/N162N/T164N/K173E/I182V/T196S、及び変異体N98D/A104V/A118T/F122A/K134R/F144L/E189Fが挙げられる。変化した基質特異性を有する更なるソルターゼ変異体は、米国特許出願公開第20140057317号及びDorr et al.,PNAS 111(37):13343-13348(2014)に開示されており、その中の関連する開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0202】
野生型ソルターゼの改変バージョンは、野生型対応物と少なくとも85%(例えば、90%、95%、98%、又はそれを超える)の配列同一性を共有し得る。それは、野生型ソルターゼのアミノ酸配列をSrtAのアミノ酸配列で分析することによって同定することができる上記のものに対応する1つ以上の位置に突然変異を含有し得る。2つのアミノ酸配列の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993のように改変された、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムを使用して決定することができる。このようなアルゴリズムは、Altschul,et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施して、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されているように、Gapped BLASTを利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、XBLAST及びNBLAST)を使用することができる。
【0203】
いくつかの実施形態では、相互作用依存的標識方法は、ソルターゼの活性フラグメントを使用することができる。このような特定のソルターゼのフラグメントは、当技術分野の知識に基づいて、又はそのソルターゼのアミノ酸配列を既知の構造/機能相関(例えば、同定されている活性ドメイン)を有するソルターゼと比較することによって同定することができる。いくつかの例では、本明細書で使用されるソルターゼは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のSrtA等のソルターゼAの活性フラグメント、例えばN末端59若しくは60アミノ酸残基を欠くソルターゼAフラグメント、又は本明細書に記載される変異の1つ以上を含み得るその機能的バリアントであり得る。
【0204】
Srt A及びSrt Bのアミノ酸配列及びそれらをコードするヌクレオチド配列は当業者に公知であり、本明細書に引用されるいくつかの参考文献に開示されており、それらの全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。例えば、GenBankアクセッション番号NP_375640及びYP_043193を参照されたい。黄色ブドウ球菌(S.aureus)SrtA及びSrtBのアミノ酸配列は相同であり、例えば22%の配列同一性及び37%の配列類似性を共有する。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のソルターゼ-トランスアミダーゼのアミノ酸配列はまた、他のグラム陽性細菌由来の酵素の配列と実質的な相同性を有し、そのようなトランスアミダーゼは、本明細書に記載されるライゲーションプロセスにおいて利用され得る。例えば、SrtAの場合、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)オープンリーディングフレームの配列決定された領域全体にわたって最良のアラインメントを有する約31%の配列同一性(及び約44%の配列類似性)が存在する。ネスルンド放線菌(A.naeslundii)オープンリーディングフレームの配列決定された領域全体にわたって最良のアラインメントを有する約28%の配列同一性がある。異なる細菌株は、特定のポリペプチドの配列の違いを呈し得、本明細書の配列は例示的なものであることが理解されよう。
【0205】
特定の実施形態では、ソルターゼをコードする化膿レンサ球菌(S.pyogenes)、ネスルンド放線菌(A.naeslundii)、ミュータンス菌(S.mutans)、E.ファエカリス(E.faecalis)又は枯草菌(B.subtilis)のオープンリーディングフレームと18%以上の配列同一性、20%以上の配列同一性、又は30%以上の配列同一性を有するトランスアミダーゼをスクリーニングすることができ、黄色ブドウ球菌(S.aureus)からのSrt A又はSrt Bに匹敵するトランスアミダーゼ活性を有する酵素を利用することができる(例えば、同等の活性は、Srt A又はSrt B活性の10%以上であるときがある)。
【0206】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の相互作用依存的標識方法は、ソルターゼA(SrtA)又はその活性フラグメントを使用する。SrtAはモチーフLPXTXを認識する(配列番号8);ここで、Xの各存在は、独立して、任意のアミノ酸残基を表し)、共通の認識モチーフは、例えば、LPKTG(配列番号9)、LPATG(配列番号10)又はLPNTG(配列番号11)である。いくつかの実施形態では、LPETG(配列番号12)をソルターゼ認識モチーフとして使用する。しかしながら、このコンセンサスから外れるモチーフも認識され得る。例えば、いくつかの実施形態では、モチーフは、4位に「T」ではなく「A」、例えばLPXAG(配列番号13)又はLPNAG(配列番号14)を含む。いくつかの実施形態では、モチーフは、5位に「G」ではなく「A」、例えばLPXTA(配列番号15)又はLPNTA(配列番号16)を含む。いくつかの実施形態では、モチーフは、2位に「P」ではなく「G」、例えばLGXTG(配列番号17)又はLGATG(配列番号18)を含む。いくつかの実施形態では、モチーフは、1位に「L」ではなく「I」、例えばIPXTG(配列番号19)、IPNTG(配列番号20)又はIPETG(配列番号21)を含む。更なる好適なソルターゼ認識モチーフは当業者に明らかであり、本発明はこの点に関して限定されない。トランスアミダーゼ又はソルターゼによって認識される配列に関して、「認識モチーフ」及び「認識配列」という用語は互換的に使用されることが理解されよう。いくつかの実施形態では、SrtAは、野生型対応物と比較して改善された酵素活性を有し得る本明細書に記載される変異体である。そのような変異体は、LAETG(配列番号22)を認識し、その認識配列を含むペプチドを基質として使用し得る。そのようなソルターゼ認識モチーフは、本明細書に記載の方法のいずれかで使用することができる。
【0207】
本発明のいくつかの実施形態では、ソルターゼは、ソルターゼB(SrtB)又はその活性フラグメント、例えば黄色ブドウ球菌(S.aureus)、炭疽菌(B.anthracis)、又はL.モノサイトゲネス(L.monocytogenes)のソルターゼBである。Bクラスのソルターゼ(SrtB)によって認識されるモチーフは、コンセンサス配列NPXTX、例えばNP[Q/K]-[T/s]-[N/G/s](配列番号23)、例えばNPQTN(配列番号24)又はNPKTG(配列番号25)の範囲内にあることが多い。例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)又は炭疽菌(B.anthracis)のソルターゼBは、それぞれの細菌においてIsdCのNPQTN(配列番号24)又はNPKTG(配列番号25)モチーフを切断する(例えば、Marraffini et al.,Journal of Bacteriology,189(17):6425-6436,2007を参照)。クラスBソルターゼの推定基質に見られる他の認識モチーフは、NSKTA(配列番号26)、NPQTG(配列番号27)、NAKTN(配列番号28)、及びNPQSS(配列番号29)である。例えば、L.モノサイトゲネス(L.monocytogenes)由来のSrtBは、NAKTN(配列番号28)及びNPQSS(配列番号29)等の、2位でPを欠く及び/又は3位でQ又はKを欠く特定のモチーフを認識する(Mariscotti et al.,J Biol Chem.2009 Jan.7)。そのようなソルターゼ認識モチーフもまた、本明細書に記載の方法のいずれかで使用することができる。
【0208】
一実施形態では、ソルターゼ酵素は、ソルターゼA、ソルターゼB、ソルターゼC、又はソルターゼD、又はその活性フラグメントから選択される。
【0209】
ソルターゼアクセプターペプチドは、ソルターゼAのためのソルターゼ認識配列(例えば、LPTXG)(配列番号5)を含み得、ここで、Xは任意のアミノ酸残基である)、ペプチドは、検出可能な標識又はタグ、例えばビオチン又は蛍光色素と会合している。
【0210】
いくつかの実施形態では、ベイト細胞の表面に配置されたソルターゼは、野生型対応物と比較して改善された触媒活性を呈する変異体ソルターゼ(例えば、変異体ソルターゼA)である。いくつかの例では、変異体ソルターゼA(SrtA)は、P94R又はP94S、S102C、A104H、E105D、K138P、K152I、D160K又はD160N、K162H、T164N、D165A、K173E、I182V、K190E、及びK196S又はK196Tの1つ以上の変異を含む。一例において、変異体SrtAは、変異体P94S、D160N及びK196Tを含む。
【0211】
一実施形態では、ソルターゼ酵素は、ソルターゼA:(5M)及びmgSrtAから選択される。
【0212】
いくつかの特定の実施形態では、ベイト(bate)細胞は、その細胞表面に上記のソルターゼ酵素を含むように操作される。特定の一実施形態では、ベイト(bate)細胞は、本明細書に記載の複合糖質法によってその表面上に上記のソルターゼ酵素を含むように操作され、それにより、GDP-Fuc-酵素コンジュゲートは、細胞の表面上にソルターゼ酵素をコンジュゲートするためのドナーヌクレオチド基質として使用されるGDP-Fuc-ソルターゼ酵素コンジュゲートである。特定の一実施形態では、ベイト(bate)細胞は、フコシルトランスフェラーゼを利用してGDP-Fuc-Sortase酵素コンジュゲートを結合させる代わりに、本方法がシアリルトランスフェラーゼ酵素及びCMP-NeuAc-Sortase酵素コンジュゲートを利用して、シアリル化反応を介して細胞の表面にソルターゼを結合させることを除いて、本明細書に記載の複合糖質化方法によって、その表面に上記のソルターゼ酵素を含むように操作される。
【0213】
いくつかの特定の実施形態では、上記のソルターゼは、ベイト細胞の表面に化学的にコンジュゲートされる。
【0214】
いくつかの特定の実施形態では、ソルターゼは、ベイト細胞の遺伝子改変を介してソルターゼ酵素を発現させることを含まない方法によってベイト細胞の表面に配置される。
【0215】
一実施形態では、本開示は、その表面に酵素を含むベイト細胞であって、ここで、酵素は、TurboID、miniTurbo、BioID及びBioID2から選択されるプロミスキャス ビオチンリガーゼである、ベイト細胞、及びそれをプレイ細胞の相互作用依存的標識に使用する方法を提供する。プロミスキャス ビオチンリガーゼの場合、ベイト細胞が、ビオチンの存在下でプレイ細胞をその表面上の隣接タンパク質と接触させると、相互作用依存的標識が起こり、この場合、プロミスキャス ビオチンリガーゼは隣接タンパク質にビオチンを転移する。
【0216】
当業者には明らかなように、様々な実施形態において、プレイ細胞上のアクセプター分子及びベイト細胞によってプレイ細胞に付着されるドナー糖ヌクレオチド-タグ-コンジュゲート又は他のタグ付けされた基質の性質は、ベイト細胞上に配置される酵素によって駆動される。例えば、様々な実施形態において、ベイト細胞がその細胞表面上にフコシルトランスフェラーゼを含む場合、プレイ細胞上のアクセプター分子は、フコシルトランスフェラーゼによってフコシル化され得るフコース受容体であり、ドナー糖ヌクレオチド-タグ結合体は、タグを含むGDP-フコースコンジュゲートである。このようなフコース受容体は当技術分野で公知であり、LacNAc及びα2,3-シアリル化LacNAc(sLacNAc)が含まれ、これらはほとんどの細胞表面を装飾する複合型及びハイブリッドN-グリカンに一般的に見られる。同様に、ベイト細胞がその細胞表面にシアリルトランスフェラーゼを含む場合、プレイ細胞上のアクセプター分子は、シアリルトランスフェラーゼによってシアリル化され得るシアル酸(NeuAc)-アクセプターであり、ドナー糖ヌクレオチド-タグコンジュゲートは、タグを含むCMP-Neu5Acコンジュゲートである。そのようなNeuAc受容体は当技術分野で公知であり、ガラクトース及びN-アセチルガラクトサミンGalNAcが含まれる。
【0217】
様々な実施形態では、本明細書に開示される組成物及び方法は、タグ付けされたドナーヌクレオチド糖基質;ソルターゼ認識配列を含むタグ付けされたソルターゼアクセプターペプチド;又は他のタグ付けされた基質を利用する。近接標識転移の検出を可能にするために、任意の適切なタグをそのような基質にコンジュゲートさせることができる。そのようなタグは、限定されないが、モノ-又はポリ-ヒスチジン配列(例えば、6xHis)、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、V5、VSVG、GFP(及びそのバリアント)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP);アルカリホスファターゼ(AP)、グルコースオキシダーゼ、マルトース結合タンパク質;SUMOタグ、チオレドキシン、ポリ(NANP)、ポリ-Arg、カルモジュリン結合タンパク質、PurFフラグメント、ケトステロイドイソメラーゼ、PaP3.30、TAF12ヒストンフォールドドメイン、FKBPタグ、SNAPタグ、ハロタグ、免疫グロブリンFc部分(及びそのバリアント)、ビオチン、ストレプトアビジン、アビジン、カルモジュリン、Sタグ、SBP、CBP、softag 1、softag 3、Xpress、isopeptag、spytag、BCCP、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、Nus、チオレドシン、NANP、TC、Ty、GCN4、蛍光分子又はプローブ(例えば、Alexa Fluor;フルオレセイン、例えばFAM)、蛍光プローブCy2、Cy3、Cy3B、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7(又は他のシアニン色素)、ペリジニンクロロフィルタンパク質複合体、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は赤色蛍光タンパク質(RFP))、フィコエリトリン(PE);等を含み得る。所望であれば、タグは切断可能であってもよく、したがって、例えばプロテアーゼによって除去され得る。いくつかの実施形態では、これは、例えばタグの機能的部分に隣接又は連結されたプロテアーゼ切断部位をタグに含めることによって達成される。この様式で使用され得るプロテアーゼタグの非限定的な例としては、トロンビン、TEVプロテアーゼ、第Xa因子及びPreScissionプロテアーゼが挙げられる。いくつかの実施形態では、タグはビオチンである。更に、いくつかの実施形態では、基質及びタグは同一である。例えば、ベイト細胞の表面に配置される酵素がプロミスキャス ビオチンリガーゼである場合、基質はビオチンである。上記のように、ビオチンは適切なタグである。したがって、タグ付けされた基質のプレイ細胞への接触誘導性コンジュゲーション後の、プレイ細胞上の基質の存在の検出を容易にするために、ビオチン基質へのタグのコンジュゲーションは必要とされない。
【0218】
本発明のベイト細胞は、任意の適切な方法によってその表面に酵素を有するように操作され得る。特定の実施形態では、ベイト細胞は、コンジュゲーションを介してそれらの細胞表面に結合した酵素を含む。コンジュゲーションは、任意の適切な方法によるものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、コンジュゲーションは、化学的又は酵素的コンジュゲーションを介する。そのようなコンジュゲーション方法は当技術分野で公知であり、本明細書に開示されている。いくつかの実施形態では、酵素は、遺伝子改変を介してベイト細胞の表面上に発現される。
【0219】
例えば、いくつかの実施形態では、ベイト細胞は、例えば、国際出願PCT/US2018/016503(国際公開第2018/144769として公開されている)に以前に記載されているようなグリコシル化ベースのコンジュゲーション方法を介してそれらの細胞表面に結合した酵素を含み、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。適切なグリコシル化ベースのコンジュゲーションには、本明細書に開示される方法が含まれる。ピロリ菌α1,3フコシルトランスフェラーゼは、顕著な基質耐性を有し、本質的に任意の望ましいものが、例えばリンカーを介してGDP-フコースにコンジュゲートされ、依然としてグリコシル化反応において酵素によって利用され得る。したがって、いくつかの実施形態では、酵素は、以下の工程を含む方法によってベイト細胞の表面にコンジュゲートさせることができる:最初に、酵素を、アミン結合又は部位特異的修飾(アルデヒドタグ又は非天然アミノ酸修飾等)によって、テトラジン、アジド又はアルキン等の「クリック可能な」基と連結させる。次いで、酵素を、相補的な「クリッカブル」基を有する容易に入手可能なGDP-フコース誘導体と更に連結して、クリックケミストリーを介してGDP-Fuc-酵素を形成する。最後に、GDP-Fuc-酵素は、ピロリ菌α1,3フコシルトランスフェラーゼによって触媒される細胞表面に転移され、このフコシルトランスフェラーゼは、LacNAc/シアリルLacNAcグリカン等の細胞表面上の糖受容体をグリコシル化する。同様に、いくつかの実施形態では、他のフコシルトランスフェラーゼを使用して、ベイト細胞の表面上へのGDP-Fuc-酵素の転移を触媒し得る。例えば、特定の実施形態では、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)α1-2-フコシルトランスフェラーゼ(Hm1,2FT)、ピロリ菌(H.pylori)α1,3/1,4フコシルトランスフェラーゼ;又はヒトα1,3フコシルトランスフェラーゼ(FUT6)を使用して、ベイト細胞の表面上へのGDP-FUC-酵素の転移を触媒する。同様に、特定の実施形態では、シアリルトランスフェラーゼを使用して、ベイト細胞の表面へのCMP-NeuAc-酵素の転移を触媒する。例えば、特定の実施形態では、ST6GAL1;ST6GalNAc1;ST3Gal1;パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)α(2,3)シアリルトランスフェラーゼM144D変異体(Pm2、3ST-M144D);又はPhotobacterium damsela(フォトバクテリウム・ダムセラ)α(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(Pd2、6ST)を使用して、ベイト細胞の表面上へのCMP-NeuAc-酵素の転移を触媒する。
【0220】
いくつかの実施形態では、酵素は化学的コンジュゲーション法によってベイト細胞の表面にコンジュゲートされる。特定の実施形態では、酵素は、本明細書に開示される方法を含むベイト細胞の表面に化学的にコンジュゲートされ、第1の酵素は、アミンカップリングによってテトラジンと連結されて酵素-テトラジンコンジュゲート(酵素-Tz)を形成する。次に、酵素とコンジュゲートさせる細胞をTCO-NHSエステルで処理して、細胞表面にTCO部分を導入する。最後に、酵素-Tzコンジュゲートを細胞表面上のTCO-NHS部分と二重直交反応によって反応させて、細胞-酵素表面コンジュゲートを形成する。
【0221】
いくつかの実施形態では、酵素は、遺伝子改変を介してベイト細胞の表面上に発現される。細胞を遺伝子改変するための方法は当技術分野で周知であり、本発明のベイト細胞を操作するために任意の適切な方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、酵素は、周知の分子生物学における標準的な組換え技術を使用してベイト細胞の表面に発現される(例えば、Joseph Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,1.53 [Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989](本明細書に組み込まれる)を参照)。方法論は、いかなる特定のクローニング戦略にも限定されない。当業者は、本開示に従ってベイト細胞上での発現のための酵素を含有する発現ベクターを作製するために任意の様々なクローニング戦略を使用し得ることを十分に理解するであろう。例えば、酵素をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを、ベイト細胞の表面上への酵素の発現を駆動するための適切なベクターエレメントと共に発現ベクターにクローニングしてもよい。いくつかの例では、酵素のヌクレオチド配列(「コドン最適化された」配列であってもよい)が決定されると、遺伝子(又は、互換的に「ポリヌクレオチド」)がデノボで合成されて、遺伝子と、遺伝子の5’及び3’末端に固有の制限酵素切断部位を含む追加のヌクレオチド配列とを含むcDNAが形成される。この目的のためにいくつかの直接遺伝子合成法を使用することができ、これらの方法は当業者に周知である(Montague MG,Lartigue C,Vashee S.(2012)Synthetic genomics:potential and limitations.Curr.Opin.Biotechnol.23(5):659-665(本明細書に組み込まれる))。酵素遺伝子全体を表すポリヌクレオチド、及び前述の追加のヌクレオチド配列を直接合成することができ、あるいは遺伝子の部分フラグメントを直接合成し、続いてPCRプライマーを使用してこれらのフラグメントをライゲーションして全長遺伝子を作製することができる。遺伝子合成後、隣接制限部位及び任意選択の調節エレメントを有する新規遺伝子のヌクレオチド配列は、当業者に周知のcDNAの直接遺伝子配列決定によって確認することができる(Pettersson E,Lundeberg J,Ahmadian A.(2009)Generations of sequencing technologies.Genomics 93:(2)105-111(本明細書に組み込まれる))。cDNA配列が確認されたら、分子生物学における標準的な組換え技術を使用して、cDNAを組換えタンパク質発現ベクターにクローニングする。発現ベクターは、典型的には、発現される組換えタンパク質の量及び品質を最適化するために、組換えタンパク質を発現させるために使用される特定の宿主細胞に適合するように選択される。発現ベクターは、典型的には、特定の宿主細胞における新規遺伝子の発現を最適化するために必要な更なるエレメントを表すヌクレオチド配列を用いて操作され、これには、限定されないが、新規遺伝子、効率的なプロモーター/エンハンサーエレメントを含むcDNAの挿入を容易にするためのクローニング部位、高レベルの遺伝子発現、cDNAインサートの配列決定を可能にするプライマー部位、新規遺伝子のmRNAの効率的な転写終結及びポリアデニル化を可能にするポリアデニル化シグナル、並びに細菌細胞及び哺乳動物細胞における形質転換体の選択を可能にするための選択遺伝子が含まれる。発現ベクターは、真核生物発現ベクターであり得る。発現ベクターは哺乳動物発現ベクターであり得る。発現ベクターはウイルス発現ベクターであり得る。発現ベクターは、レンチウイルス発現ベクターであり得る。本方法は、発現ベクターを配列決定すること、ベクターの泳動ゲル電気泳動を行うこと、及び/又はSDS pageゲル上で酵素を見ることを含む、酵素をコードする1つ以上のポリヌクレオチドの発現ベクターへのクローニングを検証することを更に含み得る。本方法は、酵素をコードするポリヌクレオチドを増幅すること、及び発現ベクターに酵素をクローニングすることを更に含み得る。酵素をコードするポリヌクレオチドを増幅することは、遺伝子に少なくとも部分的に相補的なオリゴヌクレオチドを合成することを含み得る。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドにアニールするために遺伝子に十分に相補的であり得る。オリゴヌクレオチドは、リンカー配列を含み得る。多くの適切なリンカーが当技術分野で公知であり、本発明での使用に適している。
【0222】
本方法は、発現ベクターを細胞にトランスフェクト又は感染させることを含み得る。本方法は、酵素を細胞内で発現させることを更に含み得る。本方法は、無細胞系で酵素を発現させることを更に含み得る。本方法は、発現ベクターを含むウイルスを産生することを更に含み得る。本方法は、ウイルスを増やすことを更に含み得る。本方法は、発現ベクターを含むウイルスを細胞に感染させることを更に含み得る。本方法は、細胞を増やすことを更に含み得る。
【0223】
いくつかの実施形態では、酵素は、ヒトFUT6がベイト細胞の表面上に発現されるレンチウイルスベクターを使用して発現される。このコンストラクトは、N末端からC末端に、2つのグリシンアミノ酸を介してHAタグに連結された膜アラニルアミノペプチダーゼ膜貫通ドメイン(TMD)を含み、HAタグ付けされたTMDをFUT6外部ドメインに連結するリンカー(TEV切断部位を含有する)。FUT6レンチウイルスコンストラクトインサートのタンパク質配列は416aaであり、以下のアミノ酸配列を有する47.21kDaタンパク質をコードすると予測される。
【0224】
MAKGFYISKSLGILGILLGVAAVCTIIALSVVYSQEKNKNANSSPVASTTPSASATTNPASATTLGGYPYDVPDYAEFASTSLYKKAGSENLYFQGDPTVYPNGSRFPDSTGTPAHSIPLILLWTWPFNKPIALPRCSEMVPGTADCNITADRKVYPQADAVIVHHREVMYNPSAQLPRSPRRQGQRWIWFSMESPSHCWQLKAMDGYFNLTMSYRSDSDIFTPYGWLEPWSGQPAHPPLNLSAKTELVAWAVSNWGPNSARVRYYQSLQAHLKVDVYGRSHKPLPQGTMMETLSRYKFYLAFENSLHPDYITEKLWRNALEAWAVPVVLGPSRSNYERFLPPDAFIHVDDFQSPKDLARYLQELDKDHARYLSYFRWRETLRPRSFSWALAFCKACWKLQEESRYQTRGIAAWFT(配列番号30)
FUT6レンチウイルスコンストラクトインサートは、以下のDNA配列(1251bp)によってコードされ得る。
【0225】
ATGGCCAAGGGCTTCTATATTTCCAAGTCCCTGGGCATCCTGGGGATCCTCCTGGGCGTGGCAGCCGTGTGCACAATCATCGCACTGTCAGTGGTGTACTCCCAGGAGAAGAACAAGAACGCCAACAGCTCCCCCGTGGCCTCCACCACCCCGTCCGCCTCAGCCACCACCAACCCCGCCTCGGCCACCACCTTGGGCGGCTACCCATACGATGTTCCAGATTACGCTGAGTTCGCCAGCACCAGCCTGTACAAGAAGGCCGGCAGCGAGAACCTGTACTTCCAGGGCGATCCCACTGTGTACCCTAATGGGTCCCGCTTCCCAGACAGCACAGGGACCCCCGCCCACTCCATCCCCCTGATCCTGCTGTGGACGTGGCCTTTTAACAAACCCATAGCTCTGCCCCGCTGCTCAGAGATGGTGCCTGGCACGGCTGACTGCAACATCACTGCCGACCGCAAGGTGTATCCACAGGCAGACGCGGTCATCGTGCACCACCGAGAGGTCATGTACAACCCCAGTGCCCAGCTCCCACGCTCCCCGAGGCGGCAGGGGCAGCGATGGATCTGGTTCAGCATGGAGTCCCCAAGCCACTGCTGGCAGCTGAAAGCCATGGACGGATACTTCAATCTCACCATGTCCTACCGCAGCGACTCCGACATCTTCACGCCCTACGGCTGGCTGGAGCCGTGGTCCGGCCAGCCTGCCCACCCACCGCTCAACCTCTCGGCCAAGACCGAGCTGGTGGCCTGGGCAGTGTCCAACTGGGGGCCAAACTCCGCCAGGGTGCGCTACTACCAGAGCCTGCAGGCCCATCTCAAGGTGGACGTGTACGGACGCTCCCACAAGCCCCTGCCCCAGGGAACCATGATGGAGACGCTGTCCCGGTACAAGTTCTATCTGGCCTTCGAGAACTCCTTGCACCCCGACTACATCACCGAGAAGCTGTGGAGGAACGCCCTGGAGGCCTGGGCCGTGCCCGTGGTGCTGGGCCCCAGCAGAAGCAACTACGAGAGGTTCCTGCCACCCGACGCCTTCATCCACGTGGACGACTTCCAGAGCCCCAAGGACCTGGCCCGGTACCTGCAGGAGCTGGACAAGGACCACGCCCGCTACCTGAGCTACTTTCGCTGGCGGGAGACGCTGCGGCCTCGCTCCTTCAGCTGGGCACTCGCTTTCTGCAAGGCCTGCTGGAAACTGCAGGAGGAATCCAGGTACCAGACACGCGGCATAGCGGCTTGGTTCACCTGA(配列番号31)
レンチウイルス発現ベクター中のインサートを有するFUT6レンチウイルスコンストラクトは、以下のDNA配列(8622bp)によってコードされ得る。
【0226】
caggtggcacttttcggggaaatgtgcgcggaacccctatttgtttatttttctaaatacattcaaatatgtatccgctcatgagacaataaccctgataaatgcttcaataatattgaaaaaggaagagtatgagtattcaacatttccgtgtcgcccttattcccttttttgcggcattttgccttcctgtttttgctcacccagaaacgctggtgaaagtaaaagatgctgaagatcagttgggtgcacgagtgggttacatcgaactggatctcaacagcggtaagatccttgagagttttcgccccgaagaacgttttccaatgatgagcacttttaaagttctgctatgtggcgcggtattatcccgtattgacgccgggcaagagcaactcggtcgccgcatacactattctcagaatgacttggttgagtactcaccagtcacagaaaagcatcttacggatggcatgacagtaagagaattatgcagtgctgccataaccatgagtgataacactgcggccaacttacttctgacaacgatcggaggaccgaaggagctaaccgcttttttgcacaacatgggggatcatgtaactcgccttgatcgttgggaaccggagctgaatgaagccataccaaacgacgagcgtgacaccacgatgcctgtagcaatggcaacaacgttgcgcaaactattaactggcgaactacttactctagcttcccggcaacaattaatagactggatggaggcggataaagttgcaggaccacttctgcgctcggcccttccggctggctggtttattgctgataaatctggagccggtgagcgtgggtctcgcggtatcattgcagcactggggccagatggtaagccctcccgtatcgtagttatctacacgacggggagtcaggcaactatggatgaacgaaatagacagatcgctgagataggtgcctcactgattaagcattggtaactgtcagaccaagtttactcatatatactttagattgatttaaaacttcatttttaatttaaaaggatctaggtgaagatcctttttgataatctcatgaccaaaatcccttaacgtgagttttcgttccactgagcgtcagaccccgtagaaaagatcaaaggatcttcttgagatcctttttttctgcgcgtaatctgctgcttgcaaacaaaaaaaccaccgctaccagcggtggtttgtttgccggatcaagagctaccaactctttttccgaaggtaactggcttcagcagagcgcagataccaaatactgtccttctagtgtagccgtagttaggccaccacttcaagaactctgtagcaccgcctacatacctcgctctgctaatcctgttaccagtggctgctgccagtggcgataagtcgtgtcttaccgggttggactcaagacgatagttaccggataaggcgcagcggtcgggctgaacggggggttcgtgcacacagcccagcttggagcgaacgacctacaccgaactgagatacctacagcgtgagctatgagaaagcgccacgcttcccgaagggagaaaggcggacaggtatccggtaagcggcagggtcggaacaggagagcgcacgagggagcttccagggggaaacgcctggtatctttatagtcctgtcgggtttcgccacctctgacttgagcgtcgatttttgtgatgctcgtcaggggggcggagcctatggaaaaacgccagcaacgcggcctttttacggttcctggccttttgctggccttttgctcacatgttctttcctgcgttatcccctgattctgtggataaccgtattaccgcctttgagtgagctgataccgctcgccgcagccgaacgaccgagcgcagcgagtcagtgagcgaggaagcggaagagcgcccaatacgcaaaccgcctctccccgcgcgttggccgattcattaatgcagctggcacgacaggtttcccgactggaaagcgggcagtgagcgcaacgcaattaatgtgagttagctcactcattaggcaccccaggctttacactttatgcttccggctcgtatgttgtgtggaattgtgagcggataacaatttcacacaggaaacagctatgaccatgattacgccaagcgcgcaattaaccctcactaaagggaacaaaagctggagctgcaagcttaatgtagtcttatgcaatactcttgtagtcttgcaacatggtaacgatgagttagcaacatgccttacaaggagagaaaaagcaccgtgcatgccgattggtggaagtaaggtggtacgatcgtgccttattaggaaggcaacagacgggtctgacatggattggacgaaccactgaattgccgcattgcagagatattgtatttaagtgcctagctcgatacaataaacgggtctctctggttagaccagatctgagcctgggagctctctggctaactagggaacccactgcttaagcctcaataaagcttgccttgagtgcttcaagtagtgtgtgcccgtctgttgtgtgactctggtaactagagatccctcagacccttttagtcagtgtggaaaatctctagcagtggcgcccgaacagggacctgaaagcgaaagggaaaccagagctctctcgacgcaggactcggcttgctgaagcgcgcacggcaagaggcgaggggcggcgactggtgagtacgccaaaaattttgactagcggaggctagaaggagagagatgggtgcgagagcgtcagtattaagcgggggagaattagatcgcgatgggaaaaaattcggttaaggccagggggaaagaaaaaatataaattaaaacatatagtatgggcaagcagggagctagaacgattcgcagttaatcctggcctgttagaaacatcagaaggctgtagacaaatactgggacagctacaaccatcccttcagacaggatcagaagaacttagatcattatataatacagtagcaaccctctattgtgtgcatcaaaggatagagataaaagacaccaaggaagctttagacaagatagaggaagagcaaaacaaaagtaagaccaccgcacagcaagcggccgctgatcttcagacctggaggaggagatatgagggacaattggagaagtgaattatataaatataaagtagtaaaaattgaaccattaggagtagcacccaccaaggcaaagagaagagtggtgcagagagaaaaaagagcagtgggaataggagctttgttccttgggttcttgggagcagcaggaagcactatgggcgcagcctcaatgacgctgacggtacaggccagacaattattgtctggtatagtgcagcagcagaacaatttgctgagggctattgaggcgcaacagcatctgttgcaactcacagtctggggcatcaagcagctccaggcaagaatcctggctgtggaaagatacctaaaggatcaacagctcctggggatttggggttgctctggaaaactcatttgcaccactgctgtgccttggaatgctagttggagtaataaatctctggaacagattggaatcacacgacctggatggagtgggacagagaaattaacaattacacaagcttaatacactccttaattgaagaatcgcaaaaccagcaagaaaagaatgaacaagaattattggaattagataaatgggcaagtttgtggaattggtttaacataacaaattggctgtggtatataaaattattcataatgatagtaggaggcttggtaggtttaagaatagtttttgctgtactttctatagtgaatagagttaggcagggatattcaccattatcgtttcagacccacctcccaaccccgaggggacccgacaggcccgaaggaatagaagaagaaggtggagagagagacagagacagatccattcgattagtgaacggatctcgacggttaacttttaaaagaaaaggggggattggggggtacagtgcaggggaaagaatagtagacataatagcaacagacatacaaactaaagaattacaaaaacaaattacaaaaattcaaaattttatcgagctttgcaaagatggataaagttttaaacagagaggaatctttgcagctaatggaccttctaggtcttgaaaggagtgcctCGTGAGGCTCCGGTGCCCGTCAGTGGGCAGAGCGCACATCGCCCACAGTCCCCGAGAAGTTGGGGGGAGGGGTCGGCAATTGAACCGGTGCCTAGAGAAGGTGGCGCGGGGTAAACTGGGAAAGTGATGTCGTGTACTGGCTCCGCCTTTTTCCCGAGGGTGGGGGAGAACCGTATATAAGTGCAGTAGTCGCCGTGAACGTTCTTTTTCGCAACGGGTTTGCCGCCAGAACACAGGTAAGTGCCGTGTGTGGTTCCCGCGGGCCTGGCCTCTTTACGGGTTATGGCCCTTGCGTGCCTTGAATTACTTCCACCTGGCTGCAGTACGTGATTCTTGATCCCGAGCTTCGGGTTGGAAGTGGGTGGGAGAGTTCGAGGCCTTGCGCTTAAGGAGCCCCTTCGCCTCGTGCTTGAGTTGAGGCCTGGCCTGGGCGCTGGGGCCGCCGCGTGCGAATCTGGTGGCACCTTCGCGCCTGTCTCGCTGCTTTCGATAAGTCTCTAGCCATTTAAAATTTTTGATGACCTGCTGCGACGCTTTTTTTCTGGCAAGATAGTCTTGTAAATGCGGGCCAAGATCTGCACACTGGTATTTCGGTTTTTGGGGCCGCGGGCGGCGACGGGGCCCGTGCGTCCCAGCGCACATGTTCGGCGAGGCGGGGCCTGCGAGCGCGGCCACCGAGAATCGGACGGGGGTAGTCTCAAGCTGGCCGGCCTGCTCTGGTGCCTGGCCTCGCGCCGCCGTGTATCGCCCCGCCCTGGGCGGCAAGGCTGGCCCGGTCGGCACCA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いくつかの実施形態では、本開示は、プレイ細胞をベイト細胞と相互作用依存的に標識するための方法であって、適切なタグ付けされた基質の存在下で、プレイ細胞をベイト細胞と接触させることを含む方法を提供する。本明細書における「適切なタグ付けされた基質」への言及は、本明細書に開示されるタグを含む、ベイト細胞の表面に結合した酵素による相互作用依存的標識反応に利用され得る基質を意味する。したがって、例えば、限定されるものではないが、ベイト細胞上に配置された酵素がフコシルトランスフェラーゼである場合、「適切なタグ付けされた基質」への言及は、タグ付けされたGDP-フコース(例えば、GDP-Fuc-ビオチン)を意味する。同様に、ベイト細胞上に配置された酵素がシアリルトランスフェラーゼである場合、「適切なタグ付けされた基質」への言及は、タグ付けされたCMP-シアル酸(例えば、CMP-NeuAc-ビオチン)を意味する。ベイト細胞の表面上に酵素が存在するため、そのような接触事象は相互作用依存的標識、すなわち、タグ付けされた基質のプレイ細胞上への接触誘導性コンジュゲーションをもたらす。上記のように、適切な基質の選択は当業者には明らかであり、ベイト細胞上で操作される酵素に依存する。
【0227】
プレイ細胞上のタグの存在(すなわち、「標識化された細胞」)は、例えば、限定されないが、免疫蛍光を介して、;免疫組織化学;免疫ブロット;フローサイトメトリー;FACS;マイクロアレイ分析、SDS page;質量分析;HPLC:標識化された細胞は、例えば、標識の存在についてFACS選別を利用するために濃縮され得る。標識化されたコールは、他のマーカー、例えば、PD-1、CD134、CD137、CXCR5及び/又はTIM3等の細胞表面マーカー、並びに/あるいは細胞タイプ、例えば、CD45、CD8、CD4等を示すための更なるマーカーの存在又は非存在によって更に分類され得る。
【0228】
一実施形態では、本開示は、酵素、例えばフコシルトランスフェラーゼ(FT)を、短いPEGリンカーを介してその基質GDP-Fucにコンジュゲートさせて、GDP-Fuc-FTを形成する組成物及び方法を提供する。GDP-Fuc-FTは、およそ15分で細胞表面糖鎖触媒中のLacNAcにFuc-FTを移入させるための自己触媒として働く。細胞-FTコンジュゲートは、細胞間相互作用を検出するために、接触しているプレイ細胞の表面グリカンにプローブ分子(例えば、GDP-Fuc-ビオチン又はGDP-Fuc-タグ)を移入させることができる。この技術にはいくつかの利点がある:(1)GDP-フコース受容体-グリカンLacNAc又はα2,3-シアリル化LacNAc(sLacNAc)は、ほとんどの細胞表面を装飾する複合型及びハイブリッド型N-グリカンに一般的に見られるので、異なる細胞型に適している;(2)時間がかかり複雑な遺伝子改変は必要ない;及び(3)蛍光顕微鏡イメージング及びフローサイトメトリー/FACS等の一般的な実験室技術を使用して、このようにして近接標識化された細胞の細胞間相互作用を検出/監視/選別する。
【0229】
いくつかの実施形態では、本開示は、特定の抗原をタグ付けするための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、ウイルス特異的抗原をタグ付けするための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の集団に存在する腫瘍特異的抗原(TSA)反応性T細胞をタグ付けするための方法を提供する。
【0230】
いくつかの実施形態では、方法は、細胞を含み、ここで、(a)標識を含み、CD8+発現及びPD-1+発現の両方を呈する任意の細胞は、抗原反応性細胞傷害性T細胞である;及び(b)標識を含み、CD4+発現及びPD-1+発現の両方を呈する任意の細胞は、抗原反応性ヘルパーT細胞である、細胞を含む。いくつかの実施形態では、T細胞上に存在する標識の大きさは、抗原に対するT細胞の表面に発現されるT細胞受容体の結合親和性を示す。いくつかの実施形態では、T細胞上に存在する標識の大きさは、抗原を発現する他の細胞を死滅させる濃縮T細胞の能力及び/又は抗原の存在下で活性化されるようになる濃縮T細胞の能力を示す。
【0231】
いくつかの実施形態では、TSA反応性T細胞は、実質的に又は完全にCD4+である。いくつかの実施形態では、TSA反応性T細胞は、実質的に又は完全にCD8+である。
【0232】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞によって発現される抗原特異的TCRを同定するために、単一細胞T細胞受容体(TCR)配列決定によってその細胞表面に標識を有する細胞を配列決定することを更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、対象特異的免疫細胞療法のために濃縮細胞を拡大させることを更に含む。
【0233】
いくつかの実施形態では、分析することは、蛍光活性化細胞選別(FACS)によって標識を含む細胞を濃縮することを含む。いくつかの実施形態では、分析することは、標識を含む細胞が抗原反応性を示す他のマーカーを更に含むかどうかを判定することを更に含む。いくつかの実施形態では、本方法は、FACSによる抗原反応性を示す他のマーカーを含む細胞を濃縮することを更に含む。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、T細胞マーカー(すなわち、細胞傷害性T細胞に対するCD8+細胞;ヘルパーT細胞に対するCD4+を濃縮する)を発現するタグ付けされた細胞を濃縮する;DCマーカーを発現する細胞を除外する(すなわち、CD45.1-/-細胞を濃縮する);及び/又は予測されるTSA反応性を示すマーカー(すなわち、PD-1+、CD134+、CD137+である細胞を濃縮する)及び/又はCXCR5+及び/又はTIM3+等の他のマーカーを濃縮するために選別される。いくつかの実施形態では、他のマーカーは、PD-1発現、TCF-1発現、及びTIM3発現の1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、方法は、標識及びPD-1発現の両方を含む細胞を濃縮することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、CD8+及び/又はCD4+発現を含む細胞を濃縮することを更に含む。
【0234】
上記方法のいくつかの実施形態では、酵素はフコシルトランスフェラーゼであり、タグ付けされた基質は、タグにコンジュゲートされたGDP-フコースである。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、ピロリ菌(H.pylori)α1,3フコシルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態では、ドナー糖ヌクレオチドは、GDP-フコースである。いくつかの実施形態では、タグは、本明細書に開示されるタグのいずれか1つである。いくつかの実施形態では、タグはビオチンである。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトフコシルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトα1,3-フコシルトランスフェラーゼである。一実施形態では、ヒトα1,3-フコシルトランスフェラーゼは組換えにより調製される。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトフコシルトランスフェラーゼではない。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼ酵素は、ピロリ菌(H.pylori)フコシルトランスフェラーゼである。一実施形態では、ピロリ菌フコシルトランスフェラーゼは、ピロリ菌α1,3-フコシルトランスフェラーゼである。一実施形態では、ピロリ菌フコシルトランスフェラーゼは、ピロリ菌α1,3/1,4-フコシルトランスフェラーゼである。上記方法のいくつかの実施形態では、酵素はシアリルトランスフェラーゼであり、タグ付けされた基質はタグにコンジュゲートされたCMP-Neu5Acである。いくつかの実施形態では、タグはビオチンである。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素はヒトシアリルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素はヒトST6GAL1である。一実施形態では、ヒトST6GAL1を組換え調製する。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトST6GalNAc1である。一実施形態では、ヒトST6GalNAc1を組換え調製する。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素はヒトシアリルトランスフェラーゼではない。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素は、パスツレラ・ムルトシダα(2,3)シアリルトランスフェラーゼM144D変異体(Pm2,3ST-M144D)又はフォトバクテリウム・ダンセラα(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(Pd2,6ST)である。いくつかの実施形態では、ベイト細胞は、細胞表面への酵素のコンジュゲーション又は細胞内での酵素の組換え発現を介して、その表面に酵素を含むように操作される。いくつかの実施形態では、コンジュゲーションは、化学的コンジュゲーションである。いくつかの実施形態では、コンジュゲーションは、細胞表面への酵素の酵素コンジュゲーションを介する。いくつかの実施形態では、酵素的コンジュゲーションは、細胞とGDP-Fuc-酵素コンジュゲートとのフコシル化を介する。特定の実施形態では、細胞の表面への酵素のコンジュゲーションを触媒するフコシル化酵素は、ピロリ菌(H.pylor)α1,3フコシルトランスフェラーゼ酵素である。いくつかの実施形態では、細胞の表面への酵素のコンジュゲーションを触媒するフコシル化酵素は、ヒトα1,3フコシルトランスフェラーゼ(FUT6)又はピロリ菌α1,3/4フコシルトランスフェラーゼ)である。いくつかの実施形態では、酵素的コンジュゲーションは、本明細書に記載されるように行われるが、ドナーヌクレオチド基質としてフコシルトランスフェラーゼ酵素及びGDP-Fuc-酵素コンジュゲートとのフコシル化反応を使用して細胞の表面に酵素をコンジュゲートする代わりに、本方法は、及びCMP-NeuAc-酵素に従うシアリルトランスフェラーゼ酵素を利用して、細胞の表面上に酵素をコンジュゲートする。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素はヒトシアリルトランスフェラーゼである。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素は、ヒトST6GAL1ヒトST6GalNAc1である。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素はヒトシアリルトランスフェラーゼではない。いくつかの実施形態では、シアリルトランスフェラーゼ酵素は、パスツレラ・ムルトシダα(2,3)シアリルトランスフェラーゼM144D変異体(Pm2,3ST-M144D)又はフォトバクテリウム・ダンセラα(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(Pd2,6ST)である。
【0235】
いくつかの実施形態では、標識は、小分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体、化学的又は生物学的マーカー及び/又はプローブから選択される。いくつかの実施形態では、化学的又は生物学的部分は、ビオチン、ビオチンプローブ、蛍光分子、蛍光分子を含むプローブ、色素、色素を含むプローブ、色素標識化一本鎖DNA、FLAGタグ又はStrepタグである。
【0236】
いくつかの実施形態では、細胞表面グリカンは、Gal、LacNAc及びシアリルLacNAcから選択される。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは第2のベイト細胞にとって天然ではない。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、第2の細胞の細胞表面にコンジュゲートされる。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、第2の細胞の細胞表面に共有結合している。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、第2の細胞の表面上に存在する第2の細胞表面グリカンに共有結合している。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼ及び第2の細胞表面グリカンは、グリコシル化反応を介して共有結合している。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、リンカー部分を介して第2のドナー糖ヌクレオチドに結合している。いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼは、第2のベイト細胞の細胞表面上に組換え発現される。
【0237】
いくつかの実施形態では、フコシルトランスフェラーゼの発現は、条件付きで活性化されるプロモーターによって駆動される。いくつかの実施形態では、条件付きで活性化されるプロモーターは、外因性化合物の存在下で活性化される。いくつかの実施形態では、外因性化合物は小分子又はポリペプチドである。
【0238】
いくつかの実施形態では、本方法は完了するのに2週間未満かかる。いくつかの実施形態では、方法は、抗原反応性T細胞を濃縮する前に抗原候補を同定することを含まない。いくつかの実施形態では、方法は、濃縮T細胞から非濃縮T細胞を除外することを含む。
【0239】
更に、いくつかの実施形態では、TSA反応性及び自己反応性T細胞をタグ付け及び単離するための上記に開示された方法は、過度の実験なしに任意の抗原に適用するように容易に適合される。例えば、別の抗原、例えば細菌抗原又はウイルス抗原等の病原性抗原に対する特異性でT細胞をタグ付け及び単離するために、上記と同じプロトコルに従うだけでよいが、関連する抗原源を使用してベイト細胞樹状細胞をプライミングし、次いで、適切な供給源からの組織浸潤又は循環T細胞の適切な供給源を使用して、これらの供給源が、プライミングされた抗原に対するTCR特異性を有する1つ以上のT細胞を含有するようにする。したがって、簡潔には、ウイルス特異的反応性を有するT細胞を同定するためには、DCをプライミングするために、ウイルス特異的抗原又はその供給源(例えば、疾患組織細胞溶解物)のいずれかとベイト細胞樹状細胞をインキュベートするだけでよく、次いで、プライミングされたDC-酵素コンジュゲートを、適切なタグ付けされた基質の存在下で組織浸潤又は循環T細胞と混合し、タグ付けされたT細胞を検出し、上記のように濃縮する。様々な実施形態では、樹状細胞をプライミングするための適切な抗原/抗原源を単離する方法に関して記載された方法に対するわずかな変更、及び本明細書に記載される相互作用依存的標識方法を使用して同定及び単離される抗原特異的T細胞を含むT細胞の関連集団を単離する方法に対するわずかな変更のみで、同じことが目的の任意の抗原に適用される。
【0240】
例えば、AML、ALL、CLL等の血液悪性腫瘍のためのTSA特異的T細胞候補を同定するために、いくつかの実施形態では、以下のプロトコルに従うことができる。癌細胞を患者(骨髄又は血液)から単離し、同じ患者に由来するiDCをプライミングするために溶解する。プライミングされたiDC又はプライミングされていない(対照)iDCをCellTracker(商標)Green CMFDAで染色し、細胞表面上のフコシルトランスフェラーゼ(FT)とコンジュゲートし、同じ患者の自己PBMCと異なる比率で1~2時間培養する。次いで、GDP-Fuc-ビオチン(50μM)を添加し、更に30分間インキュベートする。N-アセチル-D-ラクトサミン(LacNAc)で反応をクエンチした後、細胞混合物をAlexa Fluor 647ストレプトアビジン及び細胞同一性マーカーで染色し、フローサイトメトリー分析に供する。Alexa Fluor 647+でもあるCD4+(Foxp3-)及び又はCD8+T細胞は、予想されるTSA特異的T細胞として単離される。
【0241】
同様に、ヒトの固形腫瘍に対するTSA特異的T細胞候補を同定するために、いくつかの実施形態では以下のプロトコルに従うことができる。患者から単離された腫瘍を小片にクロスカットし、細かく刻み、腫瘍溶解物を調製するか、又は単一細胞懸濁液を調製する。単一細胞懸濁液の調製は、当技術分野で周知の予め確立されたFicoll-paque密度勾配遠心分離プロトコルを使用して実施される。例えば、Tan Y.S.,Lei Y.L.(2019)Isolation of Tumor-Infiltrating Lymphocytes by Ficoll-Paque Density Gradient Centrifugation.In:Allen I.(eds)Mouse Models of Innate Immunity.Methods in Molecular Biology,vol 1960.(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。腫瘍溶解物は、同じ患者に由来するiDCをプライミングするために使用される。プライミングされたiDC又はプライミングされていない(陰性対照)iDC又は正常組織溶解物でプライミングされたiDC(陰性対照)を、CellTracker(商標)Green CMFDAで染色し、細胞表面のフコシルトランスフェラーゼ(FT)とコンジュゲートし、異なる比率(自家単一細胞:DC=5:1~10:1)で腫瘍から単離された自己単一細胞懸濁液と共に1~2時間培養する。次いで、GDP-Fuc-ビオチン(50μM)を添加し、更に30分間インキュベートする。LacNAcとの反応をクエンチした後、細胞混合物をAlexa Fluor 647ストレプトアビジン並びに細胞同一性及び表現型マーカーで染色し、FACに供する。CD3+/CD4+/CD25-/Alexa Fluor 647+又はCD3+/CD8+/PD-1+/Alexa Fluor 647+細胞を、それぞれ、TSA特異的CD4又はCD8 T細胞候補として単離する。
【0242】
特定の実施形態では、T細胞は、野生型T細胞受容体に由来するVα及びVβを含むTSA特異的T細胞受容体(TCR)又はその抗原結合フラグメントを発現し、Vα及びVβは、それぞれ相補性決定領域1(CDR-1)、相補性決定領域2(CDR-2)及び相補性決定領域3(CDR-3)を含み、Vα CDR-3は、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【表1】
【0243】
いくつかの実施形態では、そのようなT細胞は、TCRを発現するように操作される。いくつかの実施形態では、そのようなT細胞は、キメラTCRを発現するように操作される。いくつかの実施形態では、そのようなT細胞は、構造Vα-リンカー-Vβ又はVβ-リンカー-Vαを含む一本鎖TCRを発現するように操作される。いくつかの実施形態では、TCRは特定の抗原に反応性である。いくつかの実施形態では、そのようなT細胞は、上記の群(配列番号33~配列番号72)から選択されるVα CDR-3配列を発現するように操作される。いくつかの実施形態では、操作されたT細胞は、上記の群(配列番号33~配列番号72)から選択されるVα CDR-3配列を含むキメラTCRを発現し得る。
【0244】
抗原特異的TCRは、TCR又はその抗原結合フラグメントと抗体とを含む二重特異性T細胞受容体であり得る。TCRは、(配列番号33~配列番号72)から選択されるアミノ酸配列を含むVα CDR-3を含み得る。
【0245】
糖拡大細胞及び組成物
或る態様では、本開示は、前駆疲弊T細胞を含む細胞集団を有効量の化合物と接触させることを含む、拡大及び持続性が増強された前駆疲弊T細胞の増殖を促進する方法で細胞集団を生成することを含む細胞集団を提供し、細胞集団は前駆疲弊T細胞を含む。
【0246】
いくつかの実施形態では、本発明は、抗原反応性T細胞のin vitro又はex vivo拡大集団を提供し、T細胞は、本明細書に記載の方法を使用して単離された。抗原反応性T細胞は、いくつかの実施形態では、癌、病原性感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は遺伝性障害から抗原を認識し得る。
【0247】
いくつかの実施形態では、本発明は、TSA反応性T細胞のin vitro又はex vivo拡大集団を提供し、T細胞は、本明細書に記載の方法を使用して単離された。
【0248】
いくつかの実施形態では、細胞集団はナイーブ脾細胞に由来する。
【0249】
いくつかの実施形態では、ナイーブ脾細胞は、場合により操作された抗体ベースの結合剤を含み、抗体ベースの結合剤は、標識にコンジュゲートされたドナー糖ヌクレオチドの存在下で細胞集団を改変樹状細胞で収縮させることを含む、抗原に特異的な前駆疲弊T細胞を同定する方法で同定された抗原に特異的に結合する。
【0250】
いくつかの実施形態では、結合剤はウイルス特異的抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、ウイルス特異的抗原は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、C型肝炎ウイルス(HCV)又はヒト免疫不全ウイルス(HIV)の抗原である。いくつかの実施形態では、結合剤は腫瘍特異的抗原(TSA)に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、腫瘍特異的抗原(TSA)はオボアルブミンの抗原である。
【0251】
いくつかの実施形態では、結合剤は、相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3を含むリガンド結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、結合ドメインはVH及びVLを含む。いくつかの実施形態では、リガンド結合ドメインは一本鎖可変フラグメントを含む。いくつかの実施形態では、結合剤は、単一のポリペプチド鎖を含む。いくつかの実施形態では、結合剤はキメラ抗原受容体である。
【0252】
いくつかの実施形態では、細胞集団はCD8+である。いくつかの実施形態では、細胞集団はTCF-1+、PD-1+及びTim3-である。
【0253】
いくつかの実施形態では、細胞集団は、増強された拡大及び持続性を呈する。
【0254】
或る態様では、本開示は、細胞集団及び1つ以上の薬学的に許容され得る賦形剤又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0255】
T細胞及びその拡大集団は、医薬組成物に製剤化され得る。医薬組成物は、本明細書に開示される任意の組成物であり得る。
【0256】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、前駆疲弊T細胞を含み、いくつかの実施形態では、薬学的に許容され得る担体を更に含む、医薬的に許容される組成物を指す。
【0257】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る」という用語は、動物、より具体的にはヒト及び/又は非ヒト哺乳動物での使用に安全な他の製剤に加えて、連邦政府又は州政府の規制機関によって承認されているか、又は米国薬局方、他の一般に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。
【0258】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る担体」又は「薬学的に有効な賦形剤」という用語は、前駆疲弊T細胞と共に投与される賦形剤、希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、及び/又はビヒクルを指す。そのような担体は、石油、動物、植物又は合成起源のもの(例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等)、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒を含む、水及び油等の滅菌液体であり得る。ベンジルアルコール、メチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;塩化ナトリウム又はデキストロース等の等張性を調整するための薬剤も担体であってもよい。担体と組み合わせて組成物を製造するための方法は、当業者に公知である。いくつかの実施形態では、「薬学的に許容され得る担体」という用語は、薬学的投与に適合するありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、等張剤及び吸収遅延剤等を含むことを意図している。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である。例えば、Remington,The Science and Practice of Pharmacy,20th ed.,(Lippincott,Williams&Wilkins 2003)を参照されたい。任意の従来の媒体又は薬剤が活性化合物と不適合である場合を除いて、組成物におけるそのような使用が企図される。
【0259】
投与に適した医薬組成物の製剤は、典型的には、一般に、滅菌水又は滅菌等張食塩水等の薬学的に許容され得る担体と組み合わせた有効成分を含む。そのような製剤は、ボーラス投与又は連続投与に適した形態で調製、包装又は販売され得る。注射用製剤は、アンプル又は防腐剤を含む複数回用量容器等の単位剤形で調製、包装又は販売され得る。投与のための製剤には、懸濁液、溶液、油性又は水性ビヒクル中のエマルジョン、ペースト等が含まれるが、これらに限定されない。そのような製剤は、限定されないが、懸濁化剤、安定化剤、又は分散剤を含む1つ以上の追加の成分を更に含み得る。製剤はまた、塩、炭水化物及び緩衝剤又は無菌のパイロジェンフリーの水等の賦形剤を含有し得る水溶液を含み得る。例示的な投与形態は、滅菌水溶液、例えばプロピレングリコール水溶液又はデキストロース水溶液中の溶液又は懸濁液を含み得る。そのような剤形は、必要に応じて適切に緩衝化することができる。
【0260】
本発明の組成物は、医薬組成物中に従来見られる他の補助成分を更に含有し得る。したがって、例えば、組成物は、追加の適合性の薬学的に活性な材料、例えば、抗掻痒剤、収斂剤、局所麻酔剤又は抗炎症剤を含有してもよく、又は本発明の組成物の様々な剤形を物理的に製剤化するのに有用な追加の材料、例えば、色素、保存剤、酸化防止剤、乳白剤、増粘剤及び安定剤を含有してもよい。しかしながら、そのような材料は、添加される場合、本開示の組成物の成分の生物学的活性を過度に妨害すべきではない。製剤を滅菌し、必要に応じて、補助剤、例えば潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、着色剤、及び/又は製剤と有害に相互作用しない芳香族物質等と混合することができる。
【0261】
細胞及び組成物の使用
或る態様では、本開示は、有効量の細胞集団又は医薬組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における疾患又は障害を治療する方法を提供する。
【0262】
いくつかの実施形態では、細胞の表面上で疾患特異的抗原の発現をもたらす任意の疾患又は障害は、本明細書に記載される方法によって単離された抗原反応性前駆疲弊T細胞又はそれを含む医薬組成物で治療され得る。この方法は、それを必要とする対象に、本明細書に記載される方法及び当該分野で公知の方法によって単離され、拡大培養された1つ以上の異なる集団の前駆疲弊T細胞を投与することを含み得る。例えば、特定の抗原に対する前駆細胞枯渇T細胞の集団は、本明細書に開示される方法によって同定され、拡大され得、別の異なる抗原に対する前駆疲弊T細胞の別の集団は、本明細書に開示される方法によって同定され、拡大され得、両方の集団は、それを必要とする対象に投与され得る。
【0263】
一般に、投与は、局所、非経口、又は経腸であり得る。本開示の組成物は、典型的には非経口投与に適している。本明細書で使用される場合、医薬組成物の「非経口投与」は、対象の組織の物理的破損及び組織の破損を介した医薬組成物の投与を特徴とする任意の投与経路を含み、したがって一般に血流、筋肉又は内臓への直接投与をもたらす。したがって、非経口投与には、それだけに限らないが、組成物の注射による医薬組成物の投与、外科的切開を介した組成物の適用、組織貫通非外科的創傷を介した組成物の適用等が含まれる。特に、非経口投与は、皮下、腹腔内、筋肉内、胸骨内、静脈内、鼻腔内、気管内、動脈内、髄腔内、脳室内、尿道内、頭蓋内、腫瘍内、眼内、皮内、滑液包内注射又は注入、及び腎臓透析注入技術を含むがこれらに限定されないことが企図される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞及び組成物は静脈内投与を含む。いくつかの実施形態では、本開示の細胞及び組成物は筋肉内投与を含む。いくつかの実施形態では、本開示の細胞及び組成物は皮下投与を含む。
【0264】
いくつかの実施形態では、投与は非経口投与を含む。いくつかの実施形態では、投与は静脈内投与を含む。
【0265】
いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載の方法によって単離された及び拡大された抗原反応性前駆疲弊T細胞の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、24、30、35、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、96、100、120、150、200、300、384、400、500、600、700、800、900、1000又はそれ以上の集団を投与することを含み得る。
【0266】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞は、単回投与量として投与することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞は、複数回投与量として投与することができる。
【0267】
特定の対象に対する最適な投与量及び治療計画は、疾患の徴候について患者を監視し、それに応じて治療を調整することによって、医学の当業者によって決定され得る。生物学的試料(例えば、体液又は組織試料)中の治療剤(例えば、前駆疲弊T細胞の数)のレベルを測定した後に治療を調整してもよく、治療の有効性を評価するために使用することもでき、治療はそれに応じて増減するように調整され得る。
【0268】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された単回用量の前駆疲弊T細胞を対象に投与する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された2つ以上の用量の前駆疲弊T細胞を対象に順次投与する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された3用量の前駆疲弊T細胞を対象に順次投与する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞の用量は、対象に毎週、隔週、毎月、隔月、四半期ごと、半年ごと、毎年、又は隔年で投与される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞の2回目又はその後の用量は、本明細書に記載の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞の量が減少した場合に対象に投与される。
【0269】
一実施形態では、抗原反応性T細胞又は抗原反応性T細胞の集団は、本明細書に記載の方法によって同定及び濃縮され、疾患又は状態を治療するために拡大され、患者に投与される。疾患又は状態は、細胞増殖性障害であり得る。細胞増殖性障害は、固形腫瘍、リンパ腫、白血病及び脂肪肉腫から選択され得る。細胞増殖性障害は、急性、慢性、再発性、難治性、加速、寛解、I期、II期、III期、IV期、若年性又は成人であり得る。細胞増殖性障害は、骨髄性白血病、リンパ芽球性白血病、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、骨髄単球性白血病、好中球性白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、大細胞リンパ腫、混合細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、再発性小リンパ球性リンパ腫、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、好塩基球性白血病、好酸血球性白病、巨核芽球性白血病、単芽球性白血病、単球性白血病、赤白血病、赤血球白血病及び肝細胞癌から選択され得る。細胞増殖性障害は、血液悪性腫瘍を含み得る。血液悪性腫瘍は、B細胞悪性腫瘍を含み得る。細胞増殖性障害は、慢性リンパ性白血病を含み得る。細胞増殖性障害は、急性リンパ芽球性白血病を含み得る。細胞増殖性障害は、CD19陽性バーキットリンパ腫を含み得る。
【0270】
疾患又は状態は、癌、病原性感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は遺伝性障害であり得る。
【0271】
癌は、再発性及び/又は難治性の癌を含み得る。癌の例には、肉腫、癌腫、リンパ腫又は白血病が含まれるが、これらに限定されない。癌は、神経内分泌癌を含み得る。癌は、膵臓癌を含み得る。癌は、外分泌膵臓癌を含み得る。癌は、甲状腺癌を含み得る。甲状腺癌は、甲状腺髄様癌を含み得る。癌は、前立腺癌を含み得る。癌は上皮癌を含み得る。癌は、乳癌を含み得る。癌は、子宮内膜癌を含み得る。癌は、卵巣癌を含み得る。卵巣癌は、間質性卵巣癌を含み得る。癌は、子宮頸癌を含み得る。癌は、皮膚癌を含み得る。皮膚癌は、血管新生性皮膚癌を含み得る。皮膚癌は、黒色腫を含み得る。癌は、腎臓癌を含み得る。癌は、肺癌を含み得る。肺癌は、小細胞肺癌を含み得る。肺癌は、非小細胞肺癌を含み得る。癌は、結腸直腸癌を含み得る。癌は、胃癌を含み得る。癌は結腸癌を含み得る。癌は脳癌を含み得る。脳癌は、脳腫瘍を含み得る。癌は、神経膠芽腫を含み得る。癌は、星状細胞腫を含み得る。癌は、血液癌を含み得る。血液癌は、白血病を含み得る。白血病は、骨髄性白血病を含み得る。癌は、リンパ腫を含み得る。リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫を含み得る。癌は、肉腫を含み得る。肉腫は、ユーイング肉腫を含み得る。
【0272】
肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、又は他の結合組織若しくは支持組織の癌である。肉腫には、骨癌、線維肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン細胞腫、両側前庭神経鞘腫、骨肉腫、軟部組織肉腫(例えば、肺胞軟部肉腫、血管肉腫、葉状嚢胞肉腫(cystosarcoma phylloides)、皮膚線維肉腫、デスモイド腫瘍、類上皮肉腫、骨外骨肉腫、線維肉腫、血管周囲細胞腫、血管肉腫、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、リンパ管肉腫、リンパ肉腫、悪性線維性組織球腫、神経線維肉腫、横紋筋肉腫及び滑膜肉腫)が含まれるが、これらに限定されない。
【0273】
癌腫は、身体の表面を覆い、ホルモンを産生し、腺を構成する細胞である上皮細胞で始まる癌である。非限定的な例として、癌腫には、乳癌、膵臓癌、肺癌、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、胃癌、前立腺癌、肝臓癌、卵巣癌、脳癌、膣癌、外陰癌、子宮癌、口腔癌、陰茎癌、精巣癌、食道癌、皮膚癌、卵管の癌、頭頸部癌、消化管間質癌、腺癌、皮膚又は眼内黒色腫、肛門部の癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺の癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、尿道の癌、腎盂の癌、尿管の癌、子宮内膜の癌、子宮頸部の癌、下垂体の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、脳幹神経膠腫、及び脊髄軸腫瘍が含まれる。いくつかの例では、癌は、基底細胞癌、扁平上皮癌、黒色腫、非黒色腫、又は光線性(日光)角化症等の皮膚癌である。
【0274】
いくつかの例では、癌は肺癌である。肺癌は、肺(気管支)又は肺の小さな空気袋(肺胞)に供給するために気管から分岐する気道で始まり得る。肺癌には、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌、及び中皮腫が含まれる。NSCLCの例としては、扁平上皮癌、腺癌及び大細胞癌が挙げられる。中皮腫は、肺及び胸腔の内層(胸膜)又は腹部の内層(腹膜)の癌性腫瘍であり得る。中皮腫は、アスベスト曝露に起因し得る。癌は、神経膠芽腫等の脳癌であり得る。
【0275】
あるいは、癌は中枢神経系(CNS)腫瘍であり得る。CNS腫瘍は、神経膠腫又は非神経膠腫として分類され得る。神経膠腫は、悪性神経膠腫、高悪性度神経膠腫、びまん性内在性橋神経膠腫であり得る。神経膠腫の例としては、星状細胞腫、乏突起膠腫(又は乏突起膠腫及び星細胞腫要素の混合)、及び上衣腫が挙げられる。星状細胞腫には、低悪性度星状細胞腫、退形成星状細胞腫、多形性膠芽腫、毛様細胞性星状細胞腫、多形黄色星細胞腫、及び上衣下巨細胞性星細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。乏突起膠腫には、低悪性度乏突起膠腫(又は乏突起星細胞腫)及び退形成性乏突起膠腫が含まれる。非神経膠腫には、髄膜腫、下垂体腺腫、原発性CNSリンパ腫及び髄芽腫が含まれる。いくつかの例では、癌は髄膜腫である。
【0276】
白血病は、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、又は慢性骨髄性白血病であり得る。白血病の更なるタイプとしては、有毛細胞白血病、慢性骨髄単球性白血病、及び若年性骨髄単球性白血病が挙げられる。
【0277】
リンパ腫は、リンパ球の癌であり、Bリンパ球又はTリンパ球のいずれかから発生し得る。リンパ腫の2つの主要なタイプは、以前はホジキン病として知られていたホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫である。ホジキンリンパ腫は、リード-シュテルンベルク細胞の存在によって特徴付けられる。非ホジキンリンパ腫は、いずれもホジキンリンパ腫ではないリンパ腫である。非ホジキンリンパ腫は、緩徐進行性リンパ腫及び侵襲性リンパ腫であり得る。非ホジキンリンパ腫には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、粘膜関連リンパ組織リンパ腫(MALT)、小細胞リンパ球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、ワルデンストロームマクログロブリン血症、結節性辺縁帯B細胞リンパ腫(NMZL)、脾臓辺縁帯リンパ腫(SMZL)、節外辺縁帯B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、及びリンパ腫様肉芽腫症が含まれるが、これらに限定されない。
【0278】
癌は、固形腫瘍を含み得る。癌は、肉腫を含み得る。癌は、膀胱癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、腎臓癌、肺癌、黒色腫、骨髄腫、甲状腺癌、膵臓癌、神経膠腫、脳の悪性神経膠腫、神経膠芽腫、卵巣癌、及び前立腺癌からなる群から選択され得る。癌は、不均一な抗原発現を有し得る。癌は、調節された抗原発現を有し得る。抗原は表面抗原であり得る。癌は、骨髄腫を含まなくてもよい。癌は、黒色腫を含まなくてもよい。癌は、結腸癌を含まなくてもよい。癌は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)であり得る。癌は、再発性ALLであり得る。癌は、難治性ALLであり得る。癌は、再発性の難治性ALLであり得る。癌は、慢性リンパ性白血病(CLL)であり得る。癌は、再発性CLLであり得る。癌は、難治性CLLであり得る。癌は、再発性の難治性CLLであり得る。
【0279】
癌は、乳癌を含み得る。乳癌は、トリプルポジティブ乳癌(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体及びHer2陽性)であり得る。乳癌は、トリプルネガティブ乳癌(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体及びHer2陰性)であってもよい。乳癌は、エストロゲン受容体陽性であり得る。乳癌は、エストロゲン受容体陰性であり得る。乳癌は、プロゲステロン受容体陽性であり得る。乳癌は、プロゲステロン受容体陰性であり得る。乳癌は、Her2陰性乳癌を含み得る。乳癌は、低発現Her2乳癌を含み得る。乳癌は、Her2陽性乳癌を含み得る。Her2を発現する細胞株は、悪性腫瘍を0(<20,000 Her2抗原/細胞)、1+(100,000 Her2抗原/細胞)、2+(500,000 Her2抗原/細胞)及び3+(>2,000,000 Her2抗原/細胞)として分類する臨床免疫組織化学的特徴付けを反映して、抗原密度について十分に特徴付けられている。本発明は、これらの分類の乳癌を治療する方法を提供する。乳癌は、Her2 0として分類される乳癌を含み得る。乳癌は、Her2 1+として分類される乳癌を含み得る。乳癌は、Her2 2+として分類される乳癌を含み得る。乳癌は、低発現Her2 3+乳癌を含み得る。
【0280】
疾患又は状態は、病原性感染症であり得る。病原性感染症は、1つ以上の病原体によって引き起こされ得る。いくつかの例では、病原体は、細菌、真菌、ウイルス、又は原虫である。
【0281】
例示的な病原体には、ボルデテラ(Bordetella)、ボレリア(Borrelia)、ブルセラ(Brucella)、カンピロバクター(Campylobacter)、クラミジア(Chlamydia)、クラミドフィラ(Chlamydophila)、クロストリジウム(Clostridium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、エシェリヒア(Escherichia)、フランシセラ(Francisella)、ヘモフィルス(Haemophilus)、ヘリコバクター(Helicobacter)、レジオネラ(Legionella)、レプトスピラ(Leptospira)、リステリア(Listeria)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、ナイセリア(Neisseria)、シュードモナス(Pseudomonas)、リケッチア(Rickettsia)、サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、トレポネマ(Treponema)、ビブリオ(Vibrio)又はエルシニア(Yersinia)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、病原体によって引き起こされる疾患又は状態は結核であり、不均一な試料は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に由来する外来分子及び対象に由来する分子を含む。いくつかの例では、疾患又は状態は、結核、肺炎(これは、ストレプトコッカス(Streptococcus)及びシュードモナス(Pseudomonas)等の細菌によって引き起こされ得る)、食品媒介疾患(これは、赤痢菌(Shigella)、カンピロバクター(Campylobacter)及びサルモネラ(Salmonella)等の細菌によって引き起こされ得る)、並びに破傷風、腸チフス、ジフテリア、梅毒及びハンセン病等の感染症によって引き起こされる。疾患又は状態は、自然に発生する細菌叢の不均衡によって引き起こされる膣の疾患である細菌性膣炎であり得る。あるいは、疾患又は状態は、細菌性髄膜炎、髄膜(例えば、脳及び脊髄を覆う保護膜)の細菌性炎症である。細菌によって引き起こされる他の疾患又は状態には、細菌性肺炎、尿路感染症、細菌性胃腸炎、及び細菌性皮膚感染症が含まれるが、これらに限定されない。細菌性皮膚感染症の例としては、限定されないが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)又は化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)によって引き起こされ得る膿痂疹;リンパ拡散を伴う深部表皮の連鎖球菌感染によって引き起こされ得る丹毒;及び正常な皮膚細菌叢又は外因性細菌によって引き起こされ得る蜂窩織炎が挙げられる。
【0282】
病原体は、カンジダ(Candida)、アスペルギルス(Aspergillus)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、ヒストプラズマ(Histoplasma)、ニューモシスチス(Pneumocystis)及びスタキボトリス(Stachybotrys)等の真菌であり得る。真菌によって引き起こされる疾患又は状態の例としては、限定されないが、いんきんたむし、酵母感染症、白癬、及び足白癬が挙げられる。
【0283】
病原体は、ウイルスであり得る。ウイルスの例としては、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エプスタイン・バーウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型、B型及びC型の肝炎)、単純ヘルペスウイルス(1型及び2型)、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、HIV、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、パピローマウイルス、パラインフルエンザウイルス、ポリオウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、風疹ウイルス、及び水痘帯状疱疹ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスによって引き起こされる疾患又は状態の例としては、限定されないが、風邪、インフルエンザ、肝炎、AIDS、水痘、風疹、流行性耳下腺炎、麻疹、疣贅及び灰白髄炎が挙げられる。
【0284】
病原体は、アカントアメーバ(Acanthamoeba)(例えば、A.アストロニクシス(A.astronyxis)、A.カステラーニ(A.castellanii)、カルバトソニA.(A.culbertsoni)、A.ハチェッティ(A.hatchetti)、A.ポリファーガ(A.polyphaga)、A.リソデス(A.rhysodes)、A.ヘリイ(A.healyi)、A.ディビィオネシス(A.divionensis))、ブラキオラ(Brachiola)(例えば、B.コンノリ(B.connori)、B.ベシクラルム(B.vesicularum))、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)(例えば、C.パルバム(C.parvum))、シクロスポラ(Cyclospora)(例えば、C.ケイエタネンシス(C.cayetanensis))、エンセファリトゾーン(エンセファリトゾーン)(例えば、E.クニクリ(E.cuniculi)、E.ヘレム(E.hellem)、E.インテスチナリス(E.intestinalis))、エンタモエバ(Entamoeba)(例えば、E.ヒストリチカ(E.histolytica))、エンテロシトゾーン(Enterocytozoon)(例えば、E.ビエネウシ(E.bieneusi))、ジアルジア(Giardia)(例えば、ランブル鞭毛虫(G.lamblia))、イソスポラ(Isospora)(例えば、I.ベリ(I.belli))、ミクロスポリジウム(Microsporidium)(例えば、M.アフリカナム(M.africanum)、M.セイロネンシス(M.ceylonensis))、ネグレリア(Naegleria)(例えば、N.fowleri)、ノゼマ(Nosema)(例えば、N.アルゲラエ(N.algerae)、N.オクラルム(N.ocularum))、プレストホラ(Pleistophora)、トラキプリストホラ(Trachipleistophora)(例えば、T.アントロポフテラ(T.anthropophthera)、T.ホミニス(T.hominis))、及びビッタホルマ(Vittaforma)(例えば、V.コルネア(V.corneae))等の原虫であり得る。
【0285】
疾患又は状態は、自己免疫疾患又は自己免疫関連疾患であり得る。自己免疫障害は、身体に自身の組織を攻撃させる身体の免疫系の機能不全であり得る。自己免疫疾患及び自己免疫関連疾患の例には、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群(APS)、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性心筋炎、ベーチェット病、セリアックススプルー、クローン病、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、橋本病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、若年性関節炎、糖尿病、若年性糖尿病、川崎症候群、ランベルト・イートン症候群、狼瘡(SLE)、混合性結合組織病(MCTD)、多発性硬化症、重症筋無力症、天疱瘡、結節性多発動脈炎I型、II型及びIII型多腺性自己免疫症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、乾癬、乾癬性関節炎、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、精子及び精巣の自己免疫、全身硬直症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、血管炎、白斑、及びウェゲナー肉芽腫症が含まれるが、これらに限定されない。
【0286】
疾患又は状態は、炎症性疾患であり得る。炎症性疾患の例としては、肺胞炎、アミロイドーシス、血管炎、強直性脊椎炎、無血管性壊死、バセドウ病、ベル麻痺、滑液包炎、手根管症候群、セリアック病、胆管炎、膝蓋骨軟骨軟化症、慢性活動性肝炎、慢性疲労症候群、コーガン症候群、先天性股関節形成異常、軟骨炎、クローン病、嚢胞性線維症、ドケルバン腱炎、糖尿病関連関節炎、びまん性特発性骨格性骨増殖症、円板状狼瘡、エーラス・ダンロス症候群、家族性地中海熱、筋膜炎、線維性組織炎/線維筋痛症、五十肩、神経節嚢胞、巨細胞性動脈炎、痛風、グレーブス病、HIV関連リウマチ性疾患症候群、副甲状腺機能亢進症関連関節炎、感染性関節炎、炎症性腸症候群/過敏性腸症候群、若年性関節リウマチ、ライム病、マルファン症候群、ミクリッツ病、混合性結合組織病、多発性硬化症、筋筋膜性疼痛症候群、変形性関節症、骨軟化症、骨粗鬆症及びコルチコステロイド誘発性骨粗鬆症、パジェット病、回帰性リウマチ、パーキンソン病、プラマー病、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、偽痛風、乾癬性関節炎、レイノー現象/症候群、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、坐骨神経痛(腰髄神経根障害)、強皮症、壊血病、鎌状赤血球症、シェーグレン症候群、脊柱管狭窄、脊椎すべり症(spondyloisthesis)、スティル病、全身性エリテマトーデス、高安病(脈欠損)、腱炎、テニス肘/ゴルフ肘、甲状腺関連関節炎、ばね指、潰瘍性大腸炎、ウェゲナー肉芽腫症、及びホイップル病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0287】
いくつかの実施形態では、本方法は、前駆疲弊T細胞又は前駆疲弊T細胞の集団を所望の効果のために用量設定することを含み得る。前駆疲弊T細胞又は前駆疲弊T細胞の集団の力価測定は、抗原密度の識別を可能にし得る。例えば、肺における低レベルのHer2発現に対するHer2標的化CAR-T細胞の致死的なオンターゲット、オフ腫瘍反応性は、臨床における固形腫瘍へのCAR-T細胞の適用を弱めた。診療所では、これを使用して、治療を適切な治療指数に用量設定することができる。
【0288】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法によって同定及び濃縮された病原性抗原反応性前駆疲弊T細胞を拡大させ、患者に投与して病原性感染症を治療する。いくつかの実施形態では、病原体は、ウイルス、寄生虫、又は細菌である。いくつかの実施形態では、T細胞は医薬組成物として投与される。
【0289】
一実施形態では、本明細書に記載の方法によって同定及び濃縮された自己抗原反応性調節性T細胞を拡大させ、自己免疫疾患又は障害を治療するために患者に投与する。一実施形態では、疾患は多発性筋炎である。いくつかの実施形態では、T細胞は医薬組成物として投与される。
【0290】
いくつかの実施形態では、治療することは、疾患又は障害の少なくとも1つの徴候又は症状の重症度を軽減することを含む。いくつかの実施形態では、疾患又は障害は、癌である。いくつかの実施形態では、癌は、黒色腫腫瘍;乳癌腫瘍;並びに毛様細胞性星細胞腫;AML;ALL;甲状腺;嫌色素性腎細胞癌;CLL;髄芽腫;神経芽細胞腫;神経膠腫低悪性度;神経膠芽腫;前立腺;卵巣;骨髄腫;膵臓;腎乳頭;リンパ腫B細胞;腎明細胞;頭頸部;肝臓;子宮頸部;子宮;膀胱;結腸直腸;肺小細胞;食道;胃;肺アデノ(Lung adeno);及び肺扁平上皮からなる群から選択される腫瘍から選択される。いくつかの実施形態では、投与は医薬組成物としてである。いくつかの実施形態では、疾患又は障害は、感染症である。
【0291】
いくつかの実施形態では、細胞組成物又は医薬組成物は、投与前に純度について評価される。いくつかの実施形態では、細胞組成物又は医薬組成物は、無菌性について試験される。いくつかの実施形態では、細胞組成物又は医薬組成物は、レシピエント対象と一致することを確認するためにスクリーニングされる。
【0292】
いくつかの実施形態では、対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0293】
いくつかの実施形態では、細胞集団は対象に対して同種異系である。いくつかの実施形態では、細胞集団は対象にとって自家である。
【0294】
いくつかの実施形態では、投与することは、IL-2との併用投与を含む。
【0295】
免疫チェックポイント阻害剤は、養子細胞移入(ACT)に基づく療法と組み合わせて使用され得る。PD-1/PD-L1遮断後の抗腫瘍免疫応答の成功には、腫瘍微小環境に存在する新抗原特異的T細胞の再活性化及びクローン増殖が必要であると考えられている。新抗原特異的T細胞の不十分な生成、新抗原特異的T細胞のエフェクター機能の抑制、及びメモリーT細胞の形成障害は、チェックポイント阻害剤療法の失敗の原因となる主な要因である。
【0296】
いくつかの実施形態では、投与は、本明細書に開示される前駆疲弊T細胞の増殖を促進する化合物をスクリーニングする方法を使用して同定された化合物との併用投与を含む。いくつかの実施形態では、投与することは、細胞表面受容体プログラム細胞死1(PD-1)阻害剤又はプログラム死リガンド1(PD-L1)阻害剤との併用投与を含む。いくつかの実施形態では、PD1阻害剤又はPD-L1阻害剤は、それぞれ(PD-1)又は(PD-L1)に特異的に結合するモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、PD-1に特異的に結合するモノクローナル抗体は、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、又はセミプリマブである。いくつかの実施形態では、PD-L1に特異的に結合するモノクローナル抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブである。いくつかの実施形態では、治療方法で使用するための対象への細胞集団又は医薬組成物。
【0297】
或る態様では、本開示は、細胞集団又は医薬組成物及び使用説明書を含むキットを提供する。
【0298】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法又は当技術分野で公知の他の方法を使用して拡大された前駆疲弊T細胞は、限定するものではないが、抗ウイルス薬、化学療法、放射線、免疫抑制剤(シクロスポリン、ビスルフィン、ボルテゾミブ、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、及びFK506等)、抗体、又は他の免疫除去剤(CAMPATH、抗CD3抗体若しくは他の抗体療法、シトキシン、フィウダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、及び照射等)による治療を含む任意の数の関連治療様式と併せて(例えば、前に、同時に、又は後に)患者に投与される。これらの薬物は、カルシウム依存性ホスファターゼであるカルシニューリン(シクロスポリン及びFK506)、プロテアソーム(ボルテゾミブ)、又は成長因子誘導性シグナル伝達に重要なp70S6キナーゼ(ラパマイシン)のいずれかを阻害する(Liu et al,Cell 66:807-815,1991;Henderson et al,Immun.73:316-321,1991;Bierer et al,Curr.Opin.Immun.5:763-773,1993;Isoniemi(前出))。
【0299】
本明細書で言及される全ての刊行物及び特許は、あたかも各個々の刊行物又は特許が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書における任意の定義を含む本出願が優先する。しかしながら、本明細書で引用される任意の参考文献、論文、刊行物、特許、特許刊行物、及び特許出願の言及は、それらが有効な先行技術を構成するか、又は世界の任意の国における共通の一般知識の一部を形成することの承認又は任意の形態の示唆として解釈されるべきではない。
【0300】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成上の目的のためだけであり、記載された主題を限定するものと解釈されるべきではない。
【0301】
例示的な実施形態を図示及び説明したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解されよう。
【0302】
[実施例]
次に、本開示を以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は例示のみを目的として提供されており、本開示は決してこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになる任意の及び全ての変形を包含すると解釈されるべきである。
【0303】
更なる説明がなければ、当業者は、前述の説明及び以下の例示的な例を使用して、本開示の方法を作製及び利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本開示の実施形態を具体的に指摘しており、決して本開示の残りの部分を限定するものと解釈されるべきではない。
【0304】
これらの実験で使用される材料及び方法を次に説明する。
【0305】
[実施例1]
T細胞拡大を分化から切り離す化合物をスクリーニングするためのハイスループットアッセイの開発
背景
養子細胞移入療法は、確立された疾病(例えば、腫瘍負荷又は感染症)の軽減において有効性が限られている。移入後のin vivoでのT細胞の短い持続性は、持続的な臨床応答がないことと相関する。T細胞(TCRで操作され、単離された抗原特異的T細胞)は、患者注入(例えば、養子細胞移入)のための多数の細胞を産生するためにin vitroで拡大される必要がある。おそらく、T細胞移入治療を受けている対象において観察される持続性T細胞の欠如は、十分な数のT細胞を産生するために使用される広範な拡大レジメンに起因し、T細胞は最終分化へと駆動され、限られた複製能を呈するか又は複製能がない。
【0306】
Tpex細胞(Tim3-TCF-1+)は、抗PD-1/PD-L1療法後に末期疲弊T細胞(Ttex、Tim3+TCF-1-)を形成することによって増殖性バースト及びエフェクター機能を提供する。癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)データベースのメタ解析による患者生存率の評価は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるTcf7/Pdcd1シグネチャが患者の生存率の差と相関するという証拠を裏付けている。
【0307】
したがって、この研究は、より分化していない表現型を有する抗PD-1応答性CD8+T細胞の数を増やすことによって、単離されたT細胞の質を改善するためにin vitro拡大中に使用することができる小分子モジュレーターを同定するための新規なアッセイを使用することを目的とする。
【0308】
方法
内因性Tcf7遺伝子座由来のレポーターEGFPを発現するB6(Cg)-Tcf7tm1Hhx/J(Tcf7GFP)マウスを、CD8+T細胞がMHC I分子によって提示されるOVA257-264を認識するトランスジェニックTCRを有するOT-I TCR-Tgマウスと交雑させることによって、OT-I-Tcf7GFPマウスを繁殖させた。ナイーブOT-1-Tcf7GFP脾細胞を、添加化合物の存在下又は非存在下でOVA257-264ペプチド(500nM)及びIL-2(60IU/mL)によりin vitroで100万/mL(96/ウェルプレート中100μL/ウェル)の密度で3日間刺激し、次いで添加化合物の存在下又は非存在を維持しながら60IU/mL IL-2を含有する培養培地で4日間拡大させた。細胞数を3日目及び7日目に記録した。7日目に、フローサイトメトリー又はプレートリーダー分析のために、細胞を抗CD8a(PerCP-Cy5.5)及び抗Tim3(BV421)抗体で染色した。
【0309】
結果
TCF1発現はT細胞の幹細胞性と正に相関するため、T細胞が発現するEGFPのシグナルが大きいほど、T細胞の分化はより低くなる。更に、化合物がT細胞増殖も促進する場合、未処理対照と比較して1ウェル当たりより多くのT細胞が存在する。したがって、TCF-1発現を維持するだけでなくT細胞成長を促進する化合物は、最も強い緑色蛍光強度を生成する。様々な糖が、TCF-1発現を維持することができるT細胞の数を増加させることが見出された。特定の糖は、OT-1細胞の増殖及びTim3-TCF-1+比の両方を改善することが見出されたのに対し(表1)、他の糖は、Tim3-TCF-1+比を増加させるが、OT-1細胞の増殖を阻害するか又は有意に変化させないことが見出された(表1)。GlcAはグルクロン酸を表す。
【表2】
【0310】
考察
この研究は、このスクリーニング方法が、幹細胞性を失うことなくT細胞の増殖を促進する目的の化合物を評価するために使用され得ることを実証する。
【0311】
[実施例2]
抗原特異的P14 CD8+T細胞のin vitro活性化及び拡大中にTCF-1+細胞を増加させることができる小分子モジュレーターのスクリーニング
背景
養子細胞移入療法は、確立された疾病(例えば、腫瘍負荷又は感染症)の軽減において有効性が限られている。移入後のin vivoでのT細胞の短い持続性は、持続的な臨床応答がないことと相関する。T細胞(TCRで操作され、単離された抗原特異的T細胞)は、患者注入(例えば、養子細胞移入)のための多数の細胞を産生するためにin vitroで拡大される必要がある。おそらく、T細胞移入治療を受けている対象において観察される持続性T細胞の欠如は、十分な数のT細胞を産生するために使用される広範な拡大レジメンに起因し、T細胞は最終分化へと駆動され、限られた複製能を呈するか又は複製能がない。
【0312】
Tpex細胞(Tim3-TCF-1+)は、抗PD-1/PD-L1療法後に末期疲弊T細胞(Ttex、Tim3+TCF-1-)を形成することによって増殖性バースト及びエフェクター機能を提供する。癌ゲノムアトラス(TCGA:The Cancer Genome Atlas)データベースのメタ解析による患者生存率の評価は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるTcf7/Pdcd1シグネチャが患者の生存率の差と相関するという証拠を裏付けている。
【0313】
したがって、この研究は、より分化していない表現型を有する抗PD-1応答性CD8+T細胞の数を増やすことによって、単離されたT細胞の質を改善するためにin vitro拡大中に使用することができる小分子モジュレーターを同定するための新規なアッセイを使用することを目的とする。
【0314】
方法
リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の糖タンパク質33-41抗原(GP33-41)に特異的なトランスジェニックT細胞抗原受容体を有するP14 TCR-Tgマウス由来のCD8+T細胞を使用した。P14脾細胞を、添加した化合物の存在下又は非存在下で、GP33ペプチド(1μM)及びIL-2(60IU/mL)で3日間、100万/mLの密度(96/ウェルプレート中100uL/ウェル)でin vitro刺激し、次いで、60IU/mLのIL-2を含有する培養培地で4日間拡大させた。プレート結合抗CD3(1μg/mL)、可溶性抗CD28(1μg/mL)及び200IU/mL IL-2を用いて、100万/mLの細胞密度(96/ウェルプレート中100μL/ウェル)で48時間(6日目から8日目まで)二次再刺激を行い、200IU/mL IL-2を含有する培養培地中で24時間更に拡大させた。処理の全過程の間、化合物を同じ濃度に維持した。処理された細胞について、活性化及び拡大段階の全てで化合物を添加した。細胞数を3日目、6日目及び9日目に記録した。6日目に、細胞を、フローサイトメトリー分析のために抗CD8a抗体(PE-Cy7)、抗Tim3抗体(BV421)及び抗TCF-1抗体(AF488)で染色した。
【0315】
結果
6日目に、フルクトース、スクロース、ラクトース及びトレハロースで処理したT細胞では、それぞれ追加の糖サプリメントなしで培養したT細胞及びグルコースで培養したT細胞と比較して、ウイルス特異的Tim3-TCF-1+CD8+T細胞のパーセンテージ及び総数の約1.4~1.6倍の増加を呈した(
図1、B)。Tim3-TCF-1+CD8+Tのパーセンテージは、糖濃度の増加と共に増加した。
【0316】
9日目に、フルクトース、スクロース、トレハロース及びラクトースで処理したT細胞は、未処理T細胞と比較して、ウイルス特異的Tim3-TCF-1+CD8+T細胞のパーセンテージ及び総数の7~14倍の増加を呈した(
図1、C)。
【0317】
トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、ガラクトース及びフルクトースを含むいくつかの糖の添加は、細胞増殖を阻害しなかったが、有意に増強した(1.1~2倍)。これは、未処理T細胞の増殖と比較して、T細胞増殖をわずかに10~20%減速させるT細胞分化の既知の代謝調節因子であるK+とは際立って対照的であった。
【0318】
特定の糖は、OT-1細胞の増殖及びTim3-TCF-1+比の両方を改善することが見出された(表2)。
【表3】
【0319】
考察
この研究は、このスクリーニング方法が、幹細胞性を失うことなくT細胞の増殖を促進する目的の化合物を評価するために使用され得ることを実証する。
【0320】
[実施例3]
糖処理ウイルス特異的CD8+T細胞は、未処理T細胞よりもin vivoで良好に拡大した
背景
Tim3-TCF-1+CD8+T細胞は、様々な条件下でin vitroで差次的拡大を経験することが示されている(実施例1及び実施例2に示す)。特に、糖で処理した細胞(実施例1及び実施例2で発見された化合物)は、糖で処理しなかった細胞と比較して、増強された細胞拡大(例えば、より分化していない表現型を有するより多数のT細胞)を示した。
【0321】
この研究は、糖を使用して最初にin vitroで拡大された移入されたTim3-TCF-1+CD8+T細胞のin vivo拡大を評価することを目的とする。
【0322】
方法
ナイーブP14脾細胞(Thy1.1+/+or Thy1+/-)を、添加した化合物の存在下又は非存在下で、GP33ペプチド(1μM)及びIL-2(60IU/mL)で3日間、100万/mLの密度(96/ウェルプレート中100μL/ウェル)でin vitro刺激し、次いで、60IU/mLのIL-2を含有する培養培地で4日間拡大させた。プレート結合抗CD3(1μg/mL)、可溶性抗CD28(1μg/mL)及び200IU/mL IL-2を用いて、100万/mLの細胞密度(96/ウェルプレート中100μL/ウェル)で48時間(6日目から8日目まで)二次再刺激を行い、200IU/mL IL-2を含有する培養培地中で24時間更に拡大させた。
【0323】
in vivo評価のため、未処理(Thy1.1+/+)及びスクロース(Thy1.1+/-)処理細胞の細胞混合物(1:1の数比)又は未処理(Thy1.1+/-)及びスクロース(Thy1.1+/+)処理細胞の細胞混合物(1:1の数比)を尾静脈の静脈内注射によってC57BL/6Jマウス(Thy1.2+/+)に移入し、マウスにLCMV-Cl13(2.0×106CFU/マウス)を感染させた。血液を採取し、感染後7日目に分析した。
【0324】
9日目に、細胞を、フローサイトメトリー分析のために抗CD8a抗体(PE-Cy7)、抗Tim3抗体(BV421)及び抗TCF-1抗体(AF488)で染色した。in vivo拡大のため、未処理(Thy1.1+/-)及びスクロース(Thy1.1+/+)処理細胞(又はラクトース/フルクトース処理細胞Thy1.1+/+)の細胞混合物(数比1:1)を尾静脈の静脈内注射によってC57BL/6Jマウス(Thy1.2+/+)に移入し、マウスにLCMV-Cl13(2.0×106CFU/マウス)を感染させた。移入前の細胞混合物、血液(7日目)、感染後の血液(14日目)及び脾臓(14日目)をフローサイトメトリーによって分析した。
【0325】
結果
感染後7日目(dpi)に、血液中の未処理のThy1.1+/+P14細胞よりも、スクロースで前処理した拡大されたウイルス特異的(Thy1.1+/-)P14 CD8+T細胞の有意に高いパーセンテージ及び総数が観察された(
図2、A)。同様に、拡大したウイルス特異的P14 CD8+T細胞(スクロース、ラクトース及びフルクトース処理)の有意により高いパーセンテージ及び総数が、14dpiで脾臓及び肝臓において見出された(
図2、B)。
【0326】
考察
この研究は、前駆疲弊T細胞のin vitro拡大中の糖の使用が、in vivoでのT細胞のより良好な拡大を可能にすることを実証する。
【0327】
[実施例4]
糖処理された抗原特異的OT-1 CD8+T細胞は、未処理T細胞よりもin vivoで腫瘍成長を抑制する有意に良好な能力を呈する
背景
Tim3-TCF-1+CD8+T細胞を糖(実施例1及び実施例2で発見された化合物)と接触させると、TCF-1の発現及び継続した幹細胞性を維持しながら増殖が増加することが示された。糖を使用してin vitroで拡大されたT細胞は、対象に移入した後、in vivoでより良好な拡大を呈する(実施例3に示す)。
【0328】
この研究は、in vitro拡大中の糖の使用が養子移入T細胞療法の有効性を高めるかどうかを評価することを目的とする。
【0329】
方法
OT-1マウス由来のナイーブ脾細胞を、添加化合物の存在下又は非存在下でOVA257-264(500nM)及びIL-2(60IU/mL)で100万/mL(96/ウェルプレート中100uL/ウェル)の密度で3日間in vitroで刺激し、次いで4日間拡大させた。7日目に、PD-1、Tim3及びTCF-1の発現を、細胞を抗CD8a(PerCP-Cy5.5)、抗Tim3(BV421)及び抗TCF-1(AF488)抗体で染色することによってフローサイトメトリーによって評価した。養子移入のために、0.6M B16-OVA細胞(6×105個)をC57BL/6に移入する3~5日前に皮下接種した。養子移入の日に、マウスに5GyのX線を照射し、腫瘍サイズに従って無作為化し、0.2~0.3Mの異なる条件下で拡大させたCD8+OT-1T細胞(2×105個)を静脈内注射し、続いて50000 IUのIL-2を12時間ごとに4日間投与した。対照群では、マウスに無細胞ビヒクルのみを注射した。フルクトースとの接触によって活性化及び拡大されたOT-1 CD8+T細胞の養子移入を評価するために、移入後9日目に、T細胞移入を受けたマウスに抗PD-1(100ug/マウス)を投与した。細胞をNeu5Acと接触させることによって活性化及び拡大されたOT-1 CD8+T細胞の養子移入を評価するために、移入後14日目及び21日目に、T細胞移入を受けたマウスに抗PD-1(100ug/マウス)を投与した。腫瘍サイズを測定することによって、腫瘍成長を3~4日ごとにモニターした。パーセント生存もまたモニターし、処理後40日の期間内に記録した。腫瘍浸潤OT-1T細胞を評価するために、0.6M B16-OVA細胞(6×105個)をC57BL/6に移入する3~5日前に皮下接種した。養子移入の日に、マウスに5GyのX線を照射し、腫瘍サイズに従って無作為化し、0.2~0.3Mの異なる条件下で拡大させたCD8+OT-1T細胞(2×105個)を静脈内注射し、続いて50000 IUのIL-2を12時間ごとに4日間投与した。次いで、腫瘍を単離し、総CD8+T細胞からのOT-1T細胞のパーセンテージ及び腫瘍組織1グラム当たりのOT-1 T細胞数について評価した。アポトーシスを評価するために、ナイーブOT-1脾細胞を、糖の非存在下でIL-2を含まないOVA257-264(500nM)によって5日間刺激し、続いてアネキシンVアポトーシス検出キット(Biolegend)を使用した。IL-2産生を評価するために、ナイーブOT-1脾細胞を、糖の存在下又は非存在下でIL-2を含まないOVA257-264(500nM)によって5日間刺激し、測定した。他の細胞特性を評価するために、ナイーブOT-1脾細胞を、糖の存在下又は非存在下で7又は8日間、IL-2(60IU/mL)を用いてOVA257-264(500nM)によって刺激した。7日目又は8日目に、細胞を採取し、ROS、NADPH/NADP+比、及びGSH/GSSG比の評価によって分析した。
【0330】
結果
フルクトース又はスクロースの両方で処理したT細胞は、未処理T細胞と比較して、ウイルス特異的Tim3-TCF-1+CD8+T細胞のパーセンテージ及び総数の6~7倍の増加を呈した。ラクトース、グルコース及びガラクトースを添加すると、Tim3-TCF-1+CD8+T細胞のパーセンテージも増加したが、より低いレベルであった。80mMのガラクトースの存在下では、T細胞増殖は有意に抑制される(
図3、B)。
【0331】
養子移入すると、ラクトース処理及びフルクトース処理T細胞は、未処理T細胞と比較して、腫瘍成長を制御する有意に良好な能力を呈した。糖で処理され、マウスに移入されたT細胞は、糖で処理されなかったT細胞と比較して腫瘍体積の有意な減少を示した(
図3、D)。糖で処理されたT細胞は、糖で処理されていないT細胞と比較して、増強された生存率及び異なるアポトーシス特性を有する(
図3、E)。
【0332】
同様に、GlcNAc又はNeu5Acの両方で処理したT細胞は、糖で処理していないT細胞と比較して、増強された生存率及び異なるアポトーシス特性を呈した(
図4、B)。GlcNAc処理T細胞及びNeu5Ac処理T細胞はまた、IL-2の有意により大きい産生を呈した(
図4、C)。更に、ROS、NADPH/NADP+比、及びGSH/GSSG比の分析により、GlcNAc処理細胞とNeu5Ac処理細胞の両方が、糖で処理していないT細胞と比較して、ROSが有意に少なく(
図4、E)、NADPH/NADP+比が大きく(
図4、F)、GSH/GSSG比が大きい(
図4、G)ことが明らかになった。
【0333】
養子移入されると、Neu5Acで処理されたT細胞は、抗PD-1抗体処理とともに使用された場合、処理後の腫瘍体積(
図5、B)及び生存率(
図5、C)によって、未処理T細胞と比較して腫瘍成長を制御する有意に良好な能力を呈する。更に、GlcNAc及びNeu5Acで処理され、マウスに移入されたT細胞は両方とも、腫瘍浸潤OT-1 T細胞数の増加を示した(
図5、E及びF)。
【0334】
考察
この研究は、in vitro拡大中の糖の使用が養子移入T細胞療法の有効性を高めることを実証している。
【0335】
[実施例5]
糖処理OT-1 CD8+T細胞は、未処理T細胞と比較して有意に分化した調節遺伝子を呈する
背景
Tim3-TCF-1+CD8+T細胞を糖(実施例1及び実施例2で発見された化合物)と接触させると、TCF-1の発現及び継続した幹細胞性を維持しながら増殖が増加することが示された。T細胞を特定の化合物に曝露することが全体的な遺伝子発現にどのように影響するかを解明することは、個々の化合物がどのように機能してin vitro拡大中に増殖を分化から切り離すかについての更なる洞察を提供し得る。
【0336】
この研究は、in vitro拡大中に増殖を分化から切り離す小分子モジュレーター(実施例1及び実施例2で特定)で処理したT細胞集団におけるトランスクリプトームの違いを調査及び特定することを目的とする。
【0337】
方法
ナイーブOT-1脾細胞を、添加化合物(未処理(U)、GlcNAc(GN)、及びNeu5Ac(SA))の存在下又は非存在下でOVA257-264ペプチド(500nM)及びIL-2(60IU/mL)で100万/mL(96/ウェルプレート中100μL/ウェル)の密度で3日間in vitro刺激し、次いで添加化合物の存在下又は非存在を維持しながら60IU/mL IL-2を含有する培養培地で4日間拡大させた。7日目に、死細胞を除去し、80,000個の生細胞をRNA抽出のために収集し、バルクRNA配列分析に供した。RNA seq設計は、各処理の3つの試料を含んでいた(未処理、GlcNAc処理、及びNeu5Ac処理)。DESeq2を用いてペアワイズDEG分析を行った。試料のみのPCAプロット、PCAバイプロット、及び試料間の分散による上位遺伝子の階層的クラスター化のヒートマップによって、全体的な遺伝子発現分析を行った。
【0338】
結果
PCAにより、処理群内の試料(未処理、GlcNAc処理、及びNeu5Ac処理T細胞)が、差次的遺伝子発現の同様のクラスター化を呈することが明らかになった。個々の処理は、試料間の変動性が限られており、各処理は、上位の差次的に調節される遺伝子内に独特で区別可能な差次的遺伝子発現をもたらした。二次PCA分析により、GlcNaC処理細胞及びNeu5Ac処理細胞の両方がある程度の重複を有することが明らかになり、差次的に調節された遺伝子が未処理細胞と比較して同様に影響を受けたことから、これらの化合物への曝露が同様の様式でT細胞の遺伝子発現を調節することが示唆された。T細胞増殖を分化から切り離すために同定された異なる化合物は、未処理T細胞と比較して、差次的に調節される遺伝子の同様の発現を呈する。上位100の差次的に調節される遺伝子の発現パターン化は、GlcNAc及びNeu5Acに曝露された場合、いずれの化合物にも曝露されていない細胞と比較して同様の発現パターン化を示す。
【0339】
更に、これらの遺伝子は、増殖を分化から切り離す役割を果たす可能性が高い。したがって、Cd24a、lgfbp7、Tcf7、lgfbp4、Adcy5、Nt5e、Hck、Lif、Apol9b、Gm4951、ligp1、Gzmk、Serpina3f、Nt5dc2、Maged1、Bmf、Cacnb3、Fut4、Egr1、Slc6a12、Fbxo2、Egr2、Fos、Plxnb2、Marcksl1、Ikzf2、Filip1I、Trerf1、Stard10、Pls1、Gm13546、Ccr7、Igha、Itgae、Hic1、Klrh1、Als2cl、Tanc2、Slco4a1、Piwil4、Slc25a23、Itga4、Ckb、Actn1、Sema7a、Gm24187、Mir6236、H4c12、Gzmc、Prf1、Csf1、Gzmd、Tspan32、Atp6v0a1、Map6、Lmna、Rxra、Gpr141、Gm20559、Adam8、Anxa1、Stc2、Fosl2、Akr1c13、Cdkn2a、Crmp1、Tnfrsf21、Kctd12、Ccr2、Samd9I、Sytl2、Ccr5、Tnfrsf9、Mme、Asns、Eomes、Oas3、Ly6a2、Ifi204、Ifit1、Cdh1、Ifit3、Isg15、Rtp4、Mx1、Oasl2、Rpl12、Rrp1、Rrp1b、Rrp12、Rrp15、mt.Rnr2、CT010467.2、Gm23935、Ct010467.1、及びLars2の遺伝子の1つ以上の調節は、T細胞の分化及び増殖の分離に影響を及ぼすと予想される。
【0340】
考察
この研究は、in vitro拡大中の糖及び可能性のある化合物又は(実施例1及び実施例2で使用されたスクリーニング方法を使用して発見された)他の化合物の使用が、未処理細胞と比較して特異的遺伝子及び経路の差次的調節をもたらし、分化及び増殖の分離に重要であることを実証する。
【0341】
[実施例6]
糖はCD8+TSA反応性CD8+TILのin vitro拡大中にTCF-1+細胞を増加させる
背景
細胞間相互作用は、免疫応答を含む多くの生物学的プロセスにおいて不可欠である。細胞間相互作用の動態を監視するための技術は、研究者がこれらの生物学的プロセスをよりよく理解するために必要とされる。今日まで、細胞間相互作用をin vitro及びin vivoでモニタリングするための方法は限られている。最も実践されている細胞工学的アプローチとして、遺伝子工学は、初代細胞のウイルス形質導入耐性、不均一な発現レベル、及び内因性遺伝子破壊の可能性等の技術的な複雑さ及び安全性の懸念によって制限される。これらの問題に対処するために、化学生物学ツールを使用して「外部」から細胞表面を操作することは、相補的で一般的に適用可能なアプローチとして浮上している。
【0342】
この研究は、グリカン編集酵素で細胞表面を官能化する方法を評価することを目的とする。この酵素官能化細胞は、プローブ(例えば、ビオチン、タグ、蛍光分子)を相互作用依存的に隣接細胞に移入するための「検出器」として機能する。この技術は、抗原に特異的なT細胞を同定するために使用されることが意図されている。更に、抗原に特異的なT細胞を同定した後、糖(実施例1及び実施例2で発見した化合物)を用いて細胞を拡大に供し、細胞移入養子療法における有効性を評価する。
【0343】
方法
腫瘍浸潤T細胞のin vitro拡大中の糖の効果を試験するために、腫瘍を単一細胞懸濁液に機械的に解離させ、TSA反応性CD8+腫瘍浸潤T細胞を、それぞれFucoID(
図6、A)又はH-2Kb-SIINFEKL四量体染色によってMC38又はB16-OVA腫瘍から単離し、次いで、フィーダー細胞(フィーダー細胞:T細胞=100:1)としての同種異系(BALB/cByJ)脾細胞の存在下で、0.5ng/mL抗CD3及び1500IU/mL IL-2と共に急速増殖プロトコルを使用して拡大させた。TILの増殖開始時又は増殖中に糖を添加し、拡大の終了まで維持した。拡大9日目に、拡大されたT細胞の表現型を評価し、細胞を養子移入に使用した(
図6、E)。養子移入のために、0日目に50万個の細胞(B16-OVA又はMC38)を各マウスの皮下に接種し、1日目にリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)-OVA(LM-OVA)感染50万CFU/マウスに接種し、7日目に血液分析を記録した。
【0344】
結果
P14及びOT-I CD8+T細胞と同様に、いくつかの糖を添加して拡大されたCD8+TILにおけるTim3-TCF-1+集団の増加が、拡大後のMC38 TILにおいて観察された(
図6、B)。
【0345】
TCF-1発現の増加に従って、KLRG1、Tim3及びPD-1の有意な減少並びにCD27の増加が観察され、糖処理TILが拡大中により分化していない前駆疲弊表現型を維持したことを示した(
図6、C)。更に、スクロース、GlcNAc及びNeu5Acで処理すると、細胞表面抗CLA(皮膚リンパ球関連抗原)染色の有意な増加が観察された(
図6、D)。CLAは血管レクチン内皮細胞-白血球接着分子1の皮膚リンパ球ホーミング受容体であるため、CLAの増加は、養子移入されたT細胞の腫瘍浸潤を促進して腫瘍治療効果を改善し得る。養子移入に使用する場合、スクロースの存在下で拡大されたB16-OVA腫瘍から単離したOVA特異的TILは、腫瘍対照においてより高い活性を呈した(
図6、F)。これらの拡大細胞をナイーブマウスに移入し、続いてLM-OVAチャレンジ(
図6、G)を行った場合、追加の糖を添加せずに拡大されたT細胞と比較して、より良好な増殖を示した。
【0346】
考察
この研究は、選択された化合物が、FucoID法を使用して細胞間相互作用をモニタリングすることによって同定及び濃縮された養子移入細胞の接着、ホーミング及び生着を改善するために使用され得ることを実証する。FucoIDはまた、マウス脾臓、ヒト腫瘍、腫瘍排出リンパ節及び末梢血から抗原特異的細胞傷害性又は調節性T細胞を同定及び濃縮するために使用することができる。養子移入T細胞療法の有効性を高めるために、当該特異的調節性T細胞のin vitro拡大中に更なる糖が使用され得る。
【0347】
[実施例7]
ヒトT細胞のin vitro拡大中にTCF-1+細胞を増加させることができる小分子モジュレーターのスクリーニング
背景
糖(実施例1及び実施例2で発見された化合物)を使用した前駆疲弊T細胞(Tim3-TCF-1+CD8+)の増殖は、マウスを使用したin vivoでの拡大の増強をもたらし(実施例3に示す)、結果として、糖で処理されていないT細胞と比較してin vivoでの腫瘍成長を抑制する有意に良好な能力をもたらす(実施例4に示す)。
【0348】
これらの糖がヒトにおいてT細胞の低分化状態を保存する同様の効果を有するかどうかを評価するために、本研究は、ヒト末梢血T細胞の拡大中に選択された糖を評価することを目的とする。
【0349】
方法
ヒトPBMCを、Ficoll勾配遠心機を使用して全血から単離した。単球を接着によって除去した。非接着細胞を100万/mLで播種し、抗ヒトCD3/CD28 dynabeadsを1:1の比で添加し、IL-2を300IU/mLで添加した。細胞を3日間刺激し、刺激後にdynabeadsを除去した。次いで、0.5万~200万/mLの濃度を維持することによって細胞を拡大させた。7~20日目の間に二次刺激を実施することができた。化合物(糖)を初期刺激の開始時又は二次活性化の開始時のいずれかに添加した。異なる時点の細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0350】
結果
拡大したヒト末梢CD8+T細胞のTCF-1+集団の評価により、いくつかの糖が、一次活性化及び増殖中にヒトT細胞におけるTCF-1の発現を拡大させることができることが明らかになった。スクロース及びトレハロースは、増殖したヒト末梢血CD8中のTCF-1+集団を10%から20~50%に拡大させた。
【0351】
CD4+及びCD8+T細胞内の異なる集団の詳細な分析により、糖処理が総T細胞の成分を変化させたことが明らかになった。ナイーブ(TN、CCR7+CD45RA+)及びセントラルメモリー(TCM、CCR7+CD45RA-)集団は、糖処理群において増加したが、ターミナルエフェクター集団(TEMRA、CCR7-CD45RA+)は減少した。この効果の程度は、ドナーPBMCの初期T細胞表現型に依存し、全てではないが一部のドナーで観察された。
【0352】
ヒトT細胞の二次活性化又は単離されたヒト腫瘍浸潤T細胞の拡大中に添加された糖は、疲弊を減少させ、TCF-1発現を維持することが観察された。TCF-1及びCCR7又はTim3のフローサイトメトリー分析は、T細胞のスクロース、フルクトース、NeuAc又はGlcNAc-処理が、未処理群と比較して、TCF-1+CCR7+及びTCF-1+Tim3-CD8+及びCD4+集団のパーセンテージを1.5~2倍増加させ得ることを示した。
【0353】
考察
この研究は、ヒトT細胞のin vitro拡大中の糖の使用が、T細胞の低分化状態の保存をもたらすことを実証する。合わせて、実施例1~実施例7は、本明細書のスクリーニング方法を使用して、T細胞拡大と増殖を切り離す化合物を同定することができ、それらの化合物を使用して、養子細胞療法を使用する治療のために幹細胞性を維持してT細胞を増殖させることができるという裏付けとなる証拠を提供する。更に、同定された化合物は、ヒトCAR又はTCRを発現するT細胞、腫瘍浸潤性T細胞、又は排出リンパ節T細胞の拡大に使用して、それらの前駆疲弊又は低分化表現型を保存することもできる。
【0354】
[実施例8]
ヒトT細胞のin vitro拡大中にTCF-1+細胞を増加させることができる小分子モジュレーターのスクリーニング
本発明者らはまた、論文に報告された2つの小分子(KCl及びp38i)を試験した。(Science 2019,363,(6434);Cancer Cell 2020,37,(6),818-833 e9)。K
+は、OT-1細胞のTim3-TCF-1+比を増加させ、OT-1細胞の増殖をわずかに阻害した。p38iは、OT-1細胞の増殖又はTim3-TCF-1+比のいずれにも変化を引き起こさなかった。
【表4】
【0355】
[実施例9]
糖はCAR-T細胞増殖を増強する
T細胞疲弊は、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞機能不全を引き起こすことが更に疑われており、これは、CAR T細胞の幹細胞性を維持することがin vivo応答を改善し得るという予想を提起した。例えば、ジシアロガングリオシド(GD2)特異的14g2a scFv、CD3ζ及びCD28シグナル伝達ドメイン(GD2-28z)を組み込んだCAR T細胞は、抗原非依存的な方法によるscFv自己相互作用によって引き起こされる受容体クラスター化及びトニックシグナル伝達の結果として、培養中の拡大の減少、養子移入前のin vitro培養中の阻害性受容体の発現の増加を含む疲弊の重大な特徴を発達させる(例えば、(例えば、Weber et al.,Science 372(6537):eaba1786,2021;及びLong et al.,Nat.Med.21(6):581-90,2015を参照)。)。ここで、本発明者らは、HA-28z CAR T細胞(
図7、A)を構築し、選別されたCD8
+又はCD4
+CAR T細胞を糖(N-アセチルグルコサミン、GlcNAc 60mM又はN-アセチルノイラミン酸、Neu5Ac 50mM)と共に14日間培養した。Neu5Acで処理したCD8
+(
図7、B)CAR T細胞及びCD4
+(
図7、C)CAR T細胞はどちらも、通常のT細胞培地中で糖なしで拡大した細胞よりも1.5~2倍速く増殖し、前駆疲弊T細胞(Tim-3
-TCF-1
+)の増加及びそれに伴う阻害性受容体(例えば、PD-1、Tim-3)発現の減少を示した(
図7、D~E)。
【0356】
[実施例10]
エフェクターT細胞の生成及び拡大に対する小分子の効果
以下に詳述するように、本発明者らは、小分子化合物が、in vitro拡大中の細胞成長を損なうことなく前駆様(Tpex、Tim-3-、TCF-1+)CD8+T細胞の生成を促進することを観察した。この化合物、K-Ras(G12C)阻害剤12の構造及びいくつかの生物学的活性は、当技術分野で公知である。例えば、Ostrem et al.,Nature 503:548-51,2013.を参照されたい。本発明者らは、K-Ras(G12C)阻害剤12がin vitroでT細胞特性を調節することができるかどうかを評価することにした。本発明者らはまず、MHC-I上に提示されたSIINFEKLペプチド(OVA257-264)に特異的なトランスジェニックTCRを発現するOT-I CD8+T細胞の表現型を分析した。OT-I脾細胞をOT-I TCRトランスジェニックマウスから単離し、0日目に500μM SIINFEKLペプチドの単回投与でプライミングして活性化を誘導し、60IU/mLインターロイキン-2(IL2)を含有する培地で培養して増殖を誘導し、5μM濃度のK-Ras(G12C)阻害剤12(Selleckchem、米国テキサス州ヒューストン)で又はK-Ras(G12C)阻害剤12なしで処理した。5μM濃度では、K-Ras(G12C)阻害剤12は細胞拡大を損なわない。
【0357】
CD8+T細胞疲弊は、阻害性受容体PD-1及びTim-3の上方制御によって特徴付けられたが、前駆様表現型は、転写因子TCF-1の上方制御及びTim-3の下方制御によって特徴付けられた。5日目に、未処理CD8+OT-I T細胞の23.8%が末期疲弊(PD-1+、Tim-3+)、38.6%が前駆様表現型を呈した(Tim-3-、TCF-1+)。逆に、5日目の分析では、K-Ras(G12C)阻害剤12で処理したCD8+OT-I T細胞の約0.46%が末期疲弊し(PD-1+、Tim-3+)、91.6%が前駆様表現型を示した(Tim-3-、TCF-1+)。
【0358】
本発明者らは更に、K-Ras(G12C)阻害剤12が、in vitro拡大中に、末期疲弊(PD-1+、Tim-3+)抗原特異的CD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の生成を防ぎ、前駆様(Tpex、Tim-3-、TCF-1+)抗原特異的CD8+TILの産生を促進することを観察した。具体的には、K-Ras(G12C)阻害剤12がin vitroで腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の特性を調節する能力を解明するために、MC38マウス結腸癌モデルを利用した。C57BL/6J(B6)マウスにMC38細胞を接種した。腫瘍を14日間成長させ、次いで回収した。抗原特異的(H-2Kb-拘束性MuLV p15E604-611特異的、以下M8四量体+)CD8+TILを単離した。M8四量体+CD8+TILを急速拡大に供した。急速拡大の1日目に、TILを照射されたBALB/c脾細胞と1:100で添加し、増殖のために1500IU/mLのIL2、活性化のために0.5mg/mLの抗CD3(マウス)抗体、及びK-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)の有無にかかわらずインキュベートした。
【0359】
更に、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)で処理したM8四量体
+CD8
+TILは、未処理対照(1.18×10
6個のTIL)と比較して、より小さい細胞拡大(0.397×10
6個のTIL)を経験する(
図8、A)。しかしながら、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)は、急速拡大を介して末期疲弊(PD-1
+Tim-3
+)M8テトラマー
+CD8
+TILの生成を効果的に防止した。急速な拡大後、8日目に、未処理のCD8
+細胞の79.4%が末期疲弊表現型を示したが、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)で処理したCD8
+細胞の29.2%のみが末期疲弊表現型を示した(
図8、B)。更に、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)は、急速な拡大を介して前駆様(Tim-3
-、TCF-1
+)M8四量体
+CD8
+TILを維持し、有意に上方制御する。拡大後、未処理CD8
+細胞の0.076%が前駆様表現型を示したが、K-Ras(G12C)阻害剤12(5μM)処理CD8
+細胞の12.8%が前駆様表現型を示した(
図8、C)。
【0360】
更なる研究は、K-Ras(G12C)阻害剤12が、in vitro拡大中の細胞成長を損なうことなく、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からの前駆様(TCF-1+Tim-3-)CD8+及びCD4+T細胞の生成を促進することを示す。PBMCは、個体間で異なる細胞頻度を有する異種細胞集団を包含する。更に、PBMCサブタイプ(すなわち、ナイーブT細胞対メモリーT細胞、TCF-1発現等)の表現型比は個体間で大きく異なり、多数の環境因子に関連する。これは、いくつかの異なるドナーにおけるK-Ras(G12C)阻害剤12の活性を比較することの重要性を強調している。具体的には、本発明者らは、2つの異なるドナー(以降、「ドナー3」及び「ドナー4」)における細胞拡大及び表現型調節を比較した。
【0361】
ドナーhPBMC細胞を、5人の異なるドナー(以降、フィーダー細胞)由来のhPBMCの照射(50Gy)混合物と1:1で共培養した。照射は細胞分裂を停止させるが、これらのフィーダー細胞は、ドナー細胞の増殖を助ける細胞外分泌物を提供する能力を保持する。サイトカインシグナル伝達及びHLAミスマッチは、強固なドナーhPBMC活性化を提供する。ドナーhPBMCを、最初に0日目に、次いで同様に6日目に、照射されたフィーダー細胞混合物で2回活性化した(
図9、A)。0日目から開始して、ドナーhPBMCを、300IU/mLのIL2及びK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)の存在下又は非存在下で連続培養した(
図9、A)。両方のドナー由来のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理hPBMCは、平均細胞拡大において統計学的に有意な妥協を経験しない(
図9、B)。
【0362】
13日目に、免疫表現型分析は、未処理ドナー3のCD8
+hPBMCの3.52%及び未処理ドナー4のCD8
+hPBMCの5.01%がそれぞれ末期疲弊した(PD-1
+、Tim-3
+)ことを示した。対照的に、2.6%のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー3CD8
+hPBMC及び3.27%のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー4CD8
+hPBMCは、それぞれ末期疲弊(PD-1
+、Tim-3
+)(
図9、C)。K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)もまた、ドナー3及びドナー4の両方のCD8
+hPBMCにおいて前駆様(Tim-3
-、TCF-1
+)表現型を上方制御した。13日目に、未処理ドナー3のCD8
+hPBMCの15.9%が前駆様表現型の特徴を示し、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー3のCD8
+hPBMCの51.5%が前駆様表現型を示した。更に、6.78%の未処理ドナー4CD8
+hPBMCが前駆様表現型を示したが、39.7%のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー4CD8
+hPBMCが前駆様表現型を呈した(
図9、D)。
【0363】
更に、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理は、ドナー3及びドナー4の両方のCD8
+hPBMCにおいて、低分化幹様メモリーCD8
+T細胞(T
SCM、CCR7
+、CD45RA
+)を産生し、CD45RAを再発現するCD8
+最終分化エフェクターメモリー細胞(T
EMRA、CCR7
-、CD45RA
+)を下方制御した(
図9、E)。
【0364】
CD8+T細胞に加えて、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)もまた、両方のドナー由来のCD4+hPBMCに対して同様のin vitro調節特性を有することが見出された。13日目に、未処理ドナー3のCD4+hPBMCの15.7%及び未処理ドナー4のCD4+hPBMCの14.7%がそれぞれ末期疲弊した(PD-1+、Tim-3+)。K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)で処理したhPBMCでは、ドナー3のCD4+hPBMCの0.83%及びドナー4のCD4+hPBMCの7.9%がそれぞれ13日目に末期疲弊した。両方のドナー由来のCD8+hPBMCで先に示された結果と同様に、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)は、ドナー3及びドナー4の両方のCD4+hPBMCにおける前駆様(Tim-3-、TCF-1+)表現型の生成を促進した。13日目に、未処理ドナー3のCD4+hPBMCの33.3%及び未処理ドナー4のCD4+hPBMCの53.3%がそれぞれ前駆様表現型を示した。同様に、78.4%のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー3 CD4+hPBMC及び78.7%のK-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)処理ドナー4のCD4+hPBMCが前駆様表現型を呈した。最後に、K-Ras(G12C)阻害剤12(2μM)は、ドナー3のCD4+hPBMC中の低分化幹様メモリーCD4+T細胞(TSCM、CCR7+、CD45RA+)を上方制御し、CD45RAを再発現する最終分化エフェクターメモリー細胞(TEMRA、CCR7-、CD45RA+)又はドナー4のCD4+hPBMC中の高分化エフェクターメモリーCD4+T細胞(TEM、CCR7-、CD45RA-)を下方制御した。
【0365】
健康なT細胞はK-Ras(G12C)を発現しないので、K-Ras(G12C)阻害剤12はオフターゲット結合を介してT細胞集団の表現型調節を誘導する可能性が高い。これを確認するために、以前に記載されたOT-I培養モデルを利用して、5μMのK-Ras(G12C)阻害剤12に対して様々な濃度で2つの高度に特異的なK-Ras(G12C)阻害剤-ソトラシブ及びMRTX849-を試験した。結果は、K-Ras(G12C)阻害剤12が前駆様T細胞の生成を効果的に促進したが、非常に特異的な変異体K-Ras(G12C)阻害剤は、in vitro拡大中にCD8+OT-I TCRトランスジェニックT細胞を調節する活性を有さなかったことを示している。具体的には、5日目の平均細胞拡大分析で、高度に特異的な変異体K-Ras阻害剤は、細胞増殖の増加に正の効果を示さず、試験した全ての濃度で未処理対照で観察されたものとほぼ同じ結果であることが観察された。更に、非常に特異的な変異体K-Ras阻害剤は、末期疲弊(PD-1+、Tim-3+)CD8+OT-I T細胞の下方制御又は前駆様(Tim-3-、TCF-1+)CD8+OT-I T細胞の上方制御に有効ではなかった。この研究からの結果は、K-Ras(G12C)阻害剤12がオフターゲット結合を介してT細胞特性を調節することを更に裏付けた。
【0366】
[実施例11]
EZH2阻害剤タゼメトスタットは前駆様T細胞の拡大及び抗腫瘍活性を促進する
序論:
養子細胞療法(ACT)に基づく癌免疫療法は、転移性癌を有する患者において顕著な臨床応答を誘発した。しかしながら、持続性の応答は、個体のサブセットに限定される。更に、固形腫瘍に対する再現性のある有効性が報告されることはまれである(pmid:25319501、pmid:31501612)。T細胞疲弊の発生及びACTに使用される細胞の機能障害は、固形腫瘍を治療するためのACTの適用の成功を制限する2つの主要な障害である。慢性感染症及び癌の間、持続的な抗原曝露はT細胞疲弊を引き起こし、その発現には、エフェクター機能の進行性及び階層的喪失、複数の阻害性受容体の持続的な上方制御及び共発現、重要な転写因子の発現及び使用の変化、代謝障害、並びに休止への移行及び抗原非依存性メモリーT細胞恒常性応答性の獲得の失敗が含まれる。同様に、患者注入のために少数の反応性T細胞を多数に増殖させるために使用されるin vitro拡大レジメン中、T細胞はしばしば疲弊へと駆動される。その結果、移入後の複製能は非常に限られているか、又は存在しない。
【0367】
最近の研究は、疲弊したT細胞の2つの異なる集団。すなわち、幹細胞様特性を有し、細胞傷害性機能を有する末期疲弊CD8+T細胞(Tex-term)を生じさせる前駆疲弊T細胞が存在することを明らかにした。前駆疲弊TILは抗PD-1療法に応答することができるが、末期疲弊TILは応答することができない。T細胞の活性化及び分化は、遺伝子をオン又はオフに切り替え、どのタンパク質が転写されるかを決定するエピジェネティックな変化を伴う。そのような変化は、次に、T細胞の運命及び機能の決定において極めて重要な役割を果たす。DNAメチル化及びヒストン翻訳後修飾は、2つの主要なエピジェネティック機構を表す(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31813765/)。
【0368】
急性ウイルス感染モデルを使用した以前の研究は、Ezh2欠損が、メモリー細胞形成を過酸化することなくCD8エフェクタープログラムの低下をもたらしたことを明らかにした。その発現がエフェクター細胞の分化中に減少したがメモリー細胞の分化中には減少しなかったEzh2標的を分析すると、多くの遺伝子がメモリー細胞の分化に関連しているがエフェクター細胞の分化には関連していない産物をコードしていることが明らかになった(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28218746/)。これらのEzh2標的には、Tcf7及びEomes等のメモリー関連転写因子をコードする遺伝子が含まれた。その産物がT細胞の生存及びホーミングを制御するCD8+(例えば、Klf2)に連結されている、TGFシグナル伝達を媒介する分子(例えば、Smad2);同様にまた、メモリーCD8+Tリンパ球の分化において重要な役割を有するミトコンドリア融合の調節因子をコードするOpa1を含む。疲弊T細胞のエピジェネティック状態の確立におけるEZH2の役割はまだ調査されていないが、前駆疲弊T細胞で高度に発現される多くの遺伝子は、メモリー細胞の分化に関連するがエフェクター細胞の分化には関連しない前述のEZH2標的と重複する。更に、可逆的疲弊状態に関連する多くの遺伝子も増殖に関連する(特に、TCF-1、MYC、NF-κB、及び解糖を可能にする遺伝子)。これらの所見は、疲弊に向かうT細胞分化の初期段階におけるEZH2の一過性阻害が、免疫チェックポイント遮断及びACTの状況における癌免疫療法に非常に望ましい「ステム様」特性を有する前駆疲弊T細胞の生成を促進し得ることを示唆する。
【0369】
以下に詳述するように、本発明者らは、CD8 T細胞をTazと共にin vitroで培養すると、H3K27Me3の形成が阻害され、細胞増殖を損なうことなく前駆様/メモリー特性を有するT細胞が産生されることを発見した。T細胞をTazで処理することは、EZH2の阻害をin vitro拡大に限定し、したがって養子移入後の長期機能的EZH2喪失を回避する。養子移入すると、Tazの非存在下でEZH2活性が回復し、移入されたT細胞が、より良好な腫瘍制御のためにエフェクター様機能を有する細胞に分化することを可能にする。
【0370】
結果:
TazによるEZH2の一過性阻害は、細胞拡大を損なうことなくT細胞の前駆様特徴を促進する:TazによるEZH2の一過性阻害がT細胞のプロメモリー又は前駆様特徴を促進し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、MHC-I上に提示されるニワトリ卵白アルブミンのSIINFEKLペプチド(OVA
257-264)に特異的なトランスジェニックTCRを発現するin vitro拡大OT-I CD8 T細胞の表現型を分析するためのアッセイプラットフォームを開発した。このアッセイでは、OT-I脾細胞を高濃度のOVA
257-264ペプチド(500nM)でプライミングし、PD-1及びTim-3の上方制御によって証明されるように、7日目までに顕著なT細胞疲弊をもたらした。この時点で、58.9%のOT-I T細胞が末期疲弊(Tim3
+TCF-1
-)、8.47%が前駆疲弊表現型(Tim3
-TCF-1
+)を呈した(
図10、A-B)。本発明者らはまず、T細胞活性化後の異なる時点でTazを添加することによって、T細胞増殖に対するTazの影響を評価する。0日目に、OVA
257-264ペプチドと共にTazを培養物に添加した場合、全ての細胞が死滅したことが見出された。対照的に、3日目にTazを添加し、in vitro培養中に同じ濃度に維持すると、細胞拡大に対する阻害はなかった(
図10、C)。Tazを添加した約24時間で、H3K27Me3の顕著な下方制御が検出された。そして、48時間までに、H3K27Me3の形成は、ほぼ完全に抑制された(
図10、D)。T細胞拡大の7日目に、Taz(3-7)で処理したT細胞は、前駆疲弊細胞27.7%(Tim3
-TCF-1
-)を2.5~3.5倍増加させることが分かった(
図10、A-B)。
【0371】
一過性EZH2阻害は、移入されたT細胞のin vivo増殖及びリコール応答を改善する:in vivo移入後のT細胞機能に対するTazの長期機能的効果を決定するために、本発明者らは、Tazと共に培養したOT-I T細胞のin vivo恒常性及びリコール応答を評価した。OT-II細胞を、活性化後4日間、Tazと共に培養した。7日目に、T細胞からTazを除去した後、本発明者らは、同等の数のTaz処理及び未処理OT-I細胞(CD45.2+/+)を、同質に印を付けたC57BL/6マウス(CD45.1+/+又はCD45.1+/-)に移入した(
図11、A)。OT-I細胞の恒常性を評価するために、これらのマウスを、細胞の養子移入後30日目にLM-OVA(10
4 CFU/マウス)に感染させた。LM-OVAチャレンジ後、in vitro拡大中にTazで処理したOT-I CD8 T細胞は、より多くのOT-I細胞が血液(
図11、B-C)及び脾臓(
図11、D)で見出されたことによって証明されるより強い応答を示した。したがって、OT-I細胞のin vitroでの一過性EZH2阻害は、in vivoでのLM-OVAによる一次チャレンジ時に、より良好な恒常性及びリコール応答を提供することができる。
【0372】
一過性EZH2阻害は、ACTのマウスモデルにおいて移入されたT細胞の抗腫瘍有効性を増強する:in vivoで固形腫瘍を治療するためのTaz処理T細胞の能力を決定するために、本発明者らは、確立されたB16-OVA腫瘍(
図12、A)を有するC57BL/6マウスに未処理T細胞及びTazありで拡大されたOT-I T細胞を静脈内注入し、続いて14日目及び21日目に抗PD-1投与した。対照群では、マウスをPBSのみで処理した。OT-I(Tazありで拡大)又は抗PD-1及びOT-I(Tazなしで拡大)処理は中程度の腫瘍制御しか示さなかったが、OT-I(Tazありで拡大)は腫瘍成長を有意に減速させ、中央腫瘍サイズはOT-I(Tazなしで拡大)で処理したもののわずか1/8であった(処理20日目)(
図12、B)。抗PD-1及びOT-I(Tazありで拡大)の組合せを使用した場合、更に良好な腫瘍制御が実現された(
図12、B)。更に、いずれの対照群のマウスも24日目まで生存しなかったが、OT-I(Tazありで拡大)で処理した80%超のマウス(
図12、C)は30日目まで依然として生存していた。これらの結果は、未処理OT-I細胞と比較して、Tazありで拡大された細胞が、in vivoでの腫瘍成長を制御するための著しく高い活性を有することを示した。これらのTaz前処理細胞は、PD-1遮断時にエフェクター機能が首尾よく解明された幹細胞様前駆疲弊CD8+T細胞のより高い画分からなる。
【0373】
一過性EZH2阻害は、ヒトPBMC及びCAR-T細胞における前駆様細胞を増加させる:ヒトT細胞に対する一過性EZH2阻害を評価するために、本発明者らは、別の5人のHLA不一致ドナー(
図13、A)からの照射された(50Gy)hPBMCの混合物でヒト末梢血単核細胞(hPBMC)を活性化した。3日間活性化した後、hPBMC細胞をTaz(1μM)ありで3日間拡大させた。1回目の活性化後13日目まで、2回目の活性化及び拡大のためにTazも同じ濃度で維持した(
図13、A)。13日目に、通常のT細胞培地中で拡大させたhPBMCと比較して、Tazありで培養したhPBMCは、ドナーA及びドナーBの両方について増殖(
図13、D及びG)を損なうことなく、より多くの前駆様細胞表現型(
図13、B及びE)、幹細胞メモリー及びエフェクターメモリー様特徴(
図13、C及びF)を呈した。これらのTaz処理hPBMCはまた、活性化後により高いサイトカイン産生を示した(
図13、E及びH)。
【0374】
Mackall及び共同研究者による最近の研究は、一過性の休止が疲弊したCAR-T細胞において機能性を回復させ得ることを実証した(参考文献:Science,2021,372(6537),49,DOI:10.1126/science.aba1786)。細胞をTazで処理することによるCAR-T細胞拡大中の一過性EZH2阻害が同様の結果をもたらし得るかどうかを調べるために、本発明者らは、自発的な受容体クラスター形成の結果として抗原非依存的な緊張性CARシグナル伝達を受けることが知られている緊張性シグナル伝達GD2標的化CAR(H28)をドナーPMBCに形質導入し、選別されたCAR-T細胞をTazの存在下で14日間培養した(
図14、A)。
【0375】
HA28 CAR-T細胞は、非常に堅牢なトニックシグナル伝達並びに選別後5日目まで(活性化後11日目)の疲弊の獲得された機能的、トランスクリプトーム的及びエピジェネティックな特徴を示す。拡大後14日目に、正常培地中で培養したCAR-T細胞と比較して、Tazの存在下で培養した細胞は、阻害性受容体発現の減少(
図14、C~F)及び付随するTCF-1発現の増加を呈した(
図14、B)。
【0376】
[実施例12]
糖は前駆疲弊特徴を維持し、B16-OVA腫瘍から末期の疲弊TILを前駆疲弊T細胞に戻す
どの集団の糖が主にT細胞上で変化したかを調べるために、B16-OVA癌細胞(7×105細胞)を、内因性Tcf7遺伝子座由来のEGFP蛍光レポーターを発現するTCF7GFPマウスの左側又は右側の側腹部に皮下接種し、これにより、生細胞におけるTCF-1の発現を追跡することが可能になる。
【0377】
Tcf7
GFPマウスに接種したB16-OVA腫瘍から単離されたTIL由来の細胞の2つの集団、Tim-3
-TCF-GFP
+(前駆疲弊)及びTim-3
+TCF-GFP
-(末期疲弊)を選別し、7日間の急速増殖プロトコルに従ってin vitroで拡大させた(
図15、A)。選別されたTim-3
-TCF-GFP
+TILについて、糖を含まない正常な培養条件と比較して、GlcNac及びNeu5Acの両方を補充した培地は、より高い比率のTim-3
-TCF/GFP
+細胞集団及びより低い阻害性受容体の発現を含む、前駆疲弊特徴を有するより多くのTim-3
-TCF-GFP
+細胞を維持することができる(
図15、B)。重要なことに、Neu5Acは、選別されたTim-3
+TCF-GFP
-をTim-3
-TCF-GFP
+表現型に部分的に逆転させることができる(
図15、C)。
【0378】
[実施例13]
プリン及びピリミジン生合成最終生成物は、T細胞前駆疲弊表現型を維持するのに役立つ
本発明者らは、CD8+T細胞をN-アセチルノイラミン酸で処理すると、プリン及びピリミジン生合成最終生成物並びにこれらの2つの経路における特定の中間体が上方制御されることを発見した。したがって、本発明者らは、プリン及びピリミジンヌクレオチドがN-アセチルノイラミン酸と同様の効果を有し、拡大中のT細胞のより分化していない表現型の維持を助けるかどうかを試験した。OT-I脾細胞を、500nM SIINFEKLペプチド(OVA257-264)と共に、1×106/mLの初期細胞密度で3日間培養して、CD8+T細胞集団を活性化及び拡大させた。プリン又はピリミジンのde novo合成経路における異なる濃度の生成物又は中間体を3日目に添加した。試験される化合物としては、例えば、グアノシン、デオキシグアノシン、アデノシン、デオキシアデノシン、イノシン、キサントシン、オロチジン、ウリジン、シチジン、デオキシシチジン、チミジン、デオキシチミジン、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)、オロト酸及びジヒドロオロト酸が挙げられる。拡大したT細胞の表現型を5日目に分析した。予想通り、これらのプリンヌクレオチド又はピリミジンヌクレオチドは、50~250μMという低い濃度で、Tim3-TCF1+前駆疲弊集団を20%から50%超に増加させることができた。これらのプリンヌクレオチド又はピリミジンヌクレオチドをN-アセチルノイラミン酸と一緒に3日目に添加すると、細胞増殖に有意な影響を及ぼすことなく5日目に分析した場合、Tim3-TCF1+T細胞の割合が更に1.5~2倍増強された。最後に、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(Ghergurovich et al.,Nat Chem Biol.2020 Jul;16(7):731-739)の阻害剤であるG6PDi-1は、ペントースリン酸経路の調節を介して同様の効果を示した。OT-I培養の3日目にG6PDi-1を添加すると、細胞増殖に有意な影響を及ぼさずに5日目に分析した場合、Tim3-TCF1+T細胞の割合が1.5倍増加する。
【配列表】
【国際調査報告】