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特表2024-503076肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子
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  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図1A
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図1B
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  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図2A
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図2B
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  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図3
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図4
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図5
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図6
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図7
  • 特表-肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】肺疾患の処置のための、肺胞2型細胞増殖の小分子制御因子
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240117BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/403 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/4162 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/4196 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 11/16 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00
A61K31/69
A61K31/40
A61K31/403
A61K31/519
A61K31/4985
A61K31/513
A61K31/496
A61K31/4162
A61K31/506
A61K31/4545
A61K31/4196
A61K31/53
A61K31/4375
A61K31/426
A61K31/407
A61K31/5513
A61K31/495
A61P43/00 105
A61P11/16
A61P37/08
A61P31/14
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/04
A61P35/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P1/04
A61P31/00
A61P9/10
A61P17/00
A61P25/00
A61P3/10
A61P17/06
A61P19/06
A61P9/00
A61P9/04
A61P13/12
A61P17/14
A61P37/02
A61P25/02
A61P1/16
A61P15/00
A61P21/00
A61P7/06
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542796
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 US2022070198
(87)【国際公開番号】W WO2022155674
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】63/138,131
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ボロング,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,シダ
(72)【発明者】
【氏名】チャタジー,アルナブ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ナン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA13
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA20
4C084ZA36
4C084ZA37
4C084ZA55
4C084ZA59
4C084ZA60
4C084ZA68
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA92
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB13
4C084ZB15
4C084ZB21
4C084ZB26
4C084ZB32
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZC20
4C084ZC31
4C084ZC35
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086BC10
4C086BC37
4C086BC42
4C086BC50
4C086BC54
4C086BC60
4C086BC62
4C086BC82
4C086CB03
4C086CB05
4C086CB09
4C086DA43
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA20
4C086ZA36
4C086ZA37
4C086ZA55
4C086ZA59
4C086ZA60
4C086ZA68
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA92
4C086ZA96
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB15
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC20
4C086ZC31
4C086ZC35
(57)【要約】
本開示は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP4)を阻害する化合物およびその薬学的組成物に関する。これらの化合物は、肺胞2型細胞(AEC2)の増殖を選択的に促進し、その病因が、例えば、特発性肺線維症(IFF)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)および乳児呼吸窮迫症候群(IRDS)のような肺疾患などの、上皮変性および不適応リモデリングに由来する疾患を処置する治療方法において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させることを必要とする対象において立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させるための、またはAEC2細胞の低下した増殖を回復させることを必要とする対象においてAEC2細胞の低下した増殖を回復させるための方法であって、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約5~約10倍である量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約5~約7倍である量で投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
疾患に罹患している対象における疾患を処置するための方法であって、疾患病因は上皮変性および/または不適応リモデリングに由来し、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項5】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約5~約10倍である量で投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約5~約7倍である量で投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、以下の表:
【表1】
から選択されるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、サキサグリプチン(4)およびリナグリプチン(5)から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩がサキサグリプチン(4)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象に投与されるサキサグリプチン(4)の量が約500mg1日2回である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩がリナグリプチン(5)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象に投与されるリナグリプチン(5)の量が約50mg~約100mg1日1回である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、以下の表:
【表2】
から選択されるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、以下の表:
【表3】
から選択されるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記疾患が肺疾患または肺症状である、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患が、特発性肺線維症(IPF)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、珪肺症、石綿肺、塵肺症、アルミニウム肺症、ボーキサイト線維症、ベリリウム肺症、鉄沈着症、スズ肺、滑石肺、ラブラドール肺(混合粉塵性塵肺)、サルコイドーシス、過敏性肺臓炎(HP)/外因性アレルギー性肺胞炎(EAA)、慢性気管支炎、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎間質性肺疾患(RBILD)、急性間質性肺炎(AIP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP=特発性BOOP)、続発性器質化肺炎(BOOP)、リンパ球様間質性肺炎(LIP)、特発性間質性肺炎:特定不能、好酸球増加性肺疾患、結核(TB)、肺水腫、間質性肺疾患、気管支肺異形成症(BPD)、コロナウイルス、COVID-19、特発性器質化肺炎(COP)、嚢胞性線維症(CF)、電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺傷害(EVALI)、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、ヒストプラスマ症、インフルエンザ、レジオネラ病、MAC肺疾患、アルファ-1アンチトリプシン欠損症、アスペルギルス症、リンパ脈管筋腫症(LAM)、中東呼吸器症候群(MERS)、非結核性抗酸菌性肺疾患(NTM)、肺癌、肺塞栓症、グッドパスチャー症候群、特発性肺ヘモシデリン沈着症、原因不明の肺胞出血症候群、原因が明らかな肺胞出血症候群、孤発性肺リンパ脈管筋腫症(S-LAM)、結節性硬化症における肺リンパ脈管筋腫症(TSC-LAM)、肺胞蛋白症、肺アミロイドーシス、原発性肺リンパ腫、(内臓逆位を伴うまたは伴わない)原発性線毛機能不全症、過敏性肺臓炎のまれな原因(農夫肺疾患およびハト飼育者肺疾患以外の全ての原因)、遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)における肺動静脈奇形、全身性硬化症における間質性肺疾患、関節リウマチにおける間質性肺疾患、特発性炎症性筋症(多発性筋炎、皮膚筋炎、抗シンテターゼ症候群)における間質性肺疾患、シェーグレン症候群における間質性肺疾患、混合性結合組織病(MCTD)における間質性肺疾患、オーバーラップ症候群における間質性肺疾患、未分化結合組織病における間質性肺疾患および(非移植患者における)閉塞性細気管支炎から選択される、請求項2~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患が炎症性疾患または障害である、請求項2~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記疾患が、感染性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、虚血性大腸炎、放射線大腸炎、消化性潰瘍、腸癌、腸閉塞、関節リウマチ、乾癬性関節炎、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、グレーブス病、1型糖尿病、乾癬、強直性脊椎炎、強皮症、筋炎、痛風、抗リン脂質抗体症候群(APS)、血管炎、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、左心不全、右心不全、収縮期心不全、拡張期心不全(保持された駆出率を有する心不全)、心房中隔欠損症、房室中隔欠損症、大動脈縮窄、両大血管右室起始症、右旋性大血管転位、エブスタイン奇形、左心低形成症候群、大動脈弓離断症、肺動脈閉鎖、単心室、ファロー四徴症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹、心室中隔欠損症、多発性嚢胞腎、尿崩症、グッドパスチャー病、IgA血管炎、IgA腎症、ループス腎炎、成人ネフローゼ症候群、小児ネフローゼ症候群、溶血性尿毒症症候群、海綿腎、腎異形成、腎動脈狭窄、腎血管性高血圧、尿細管性アシドーシス、アルポート症候群、ウェゲナー肉芽腫症、アラジール症候群、シスチン症、ファブリー病、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、糸球体腎炎、aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症(ベルジェ病)、間質性腎炎、微小変化群、ネフローゼ症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、湿疹、乾癬、蜂巣炎、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、表皮水疱症、硬化性苔癬、魚鱗癬、白斑、末端剥離皮膚症候群、ブラウ症候群、原発性皮膚アミロイドーシス、皮膚膿瘍、褥瘡、眼瞼炎、フルンケル症、全層または部分層熱傷、毛細血管炎、蜂巣炎、角膜擦過傷、角膜びらん、乾燥症、扁平苔癬、慢性単純性苔癬、静脈性潰瘍(うっ血性潰瘍)、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、自己免疫性血管浮腫、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索および神経細胞型ニューロパチー(AMAN)、バロー病、水疱性類天疱瘡、セリアック病、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)または好酸球性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、多発血管炎性肉芽腫症、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹または妊娠性類天疱瘡(PG)、低ガンマグロブリン血症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、ランバート・イートン症候群、白血球破壊性血管炎、線状IgA病(LAD)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多巣性運動ニューロパチー(MMN)またはMMNCB、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児ループス、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンバーグ症候群、毛様体扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネージ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺性症候群I型、II型、III型、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発軟骨炎、下肢静止不能症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子および精巣自己免疫、全身硬直症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、甲状腺眼疾患(TED)、アラジール症候群、アルコール関連肝疾患、自己免疫性肝炎、胆道閉鎖症、肝硬変、リソソーム酸リパーゼ欠損症(LAL-D)、肝嚢胞、肝癌、新生児黄疸、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、骨粗鬆症、パジェット病、骨壊死、骨関節炎、低骨密度、痛風、線維性骨異形成症、マルファン症候群および骨形成不全症から選択される、請求項2~14および17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
肺疾患または肺症状に罹患している対象における肺疾患または肺症状を処置するための方法であって、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を前記対象に肺投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記疾患が、特発性肺線維症(IPF)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、珪肺症、石綿肺、塵肺症、アルミニウム肺症、ボーキサイト線維症、ベリリウム肺症、鉄沈着症、スズ肺、滑石肺、ラブラドール肺(混合粉塵性塵肺)、サルコイドーシス、過敏性肺臓炎(HP)/外因性アレルギー性肺胞炎(EAA)、慢性気管支炎、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎間質性肺疾患(RBILD)、急性間質性肺炎(AIP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP=特発性BOOP)、続発性器質化肺炎(BOOP)、リンパ球様間質性肺炎(LIP)、特発性間質性肺炎:特定不能、好酸球増加性肺疾患、結核(TB)、肺水腫、間質性肺疾患、気管支肺異形成症(BPD)、コロナウイルス、COVID-19、特発性器質化肺炎(COP)、嚢胞性線維症(CF)、電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺傷害(EVALI)、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、ヒストプラスマ症、インフルエンザ、レジオネラ病、MAC肺疾患、アルファ-1アンチトリプシン欠損症、アスペルギルス症、リンパ脈管筋腫症(LAM)、中東呼吸器症候群(MERS)、非結核性抗酸菌性肺疾患(NTM)、肺癌、肺塞栓症、グッドパスチャー症候群、特発性肺ヘモシデリン沈着症、原因不明の肺胞出血症候群、原因が明らかな肺胞出血症候群、孤発性肺リンパ脈管筋腫症(S-LAM)、結節性硬化症における肺リンパ脈管筋腫症(TSC-LAM)、肺胞蛋白症、肺アミロイドーシス、原発性肺リンパ腫、(内臓逆位を伴うまたは伴わない)原発性線毛機能不全症、過敏性肺臓炎のまれな原因(農夫肺疾患およびハト飼育者肺疾患以外の全ての原因)、遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)における肺動静脈奇形、全身性硬化症における間質性肺疾患、関節リウマチにおける間質性肺疾患、特発性炎症性筋症(多発性筋炎、皮膚筋炎、抗シンテターゼ症候群)における間質性肺疾患、シェーグレン症候群における間質性肺疾患、混合性結合組織病(MCTD)における間質性肺疾患、オーバーラップ症候群における間質性肺疾患、未分化結合組織病における間質性肺疾患および(非移植患者における)閉塞性細気管支炎から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が吸入可能な組成物中に存在する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記吸入可能な組成物がエアロゾルまたは噴霧製剤である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約0.1~約5倍である量で投与される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約2~約5倍である量で投与される、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、前記対象における糖尿病を処置することにおいて有効であろう前記阻害剤の量の約0.3~約3倍である量で投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記薬学的に許容され得る塩が、前記DPP4阻害剤の酸付加塩であり、前記酸が、塩酸、硫酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酒石酸、パルミチン酸、酢酸、リン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、エタンスルホン酸およびフマル酸からなる群から選択される、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、以下の表:
【表4】
から選択されるものである、請求項19~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が、以下の表:
【表5】
から選択されるものである、請求項19~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩が化合物15:
【表6】
である、請求項1~6または14~27のいずれか一項に記載の方法
【請求項30】
化合物15またはその薬学的に許容され得る塩が吸入によって投与される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
下気道修復の薬理学的刺激は、肺胞破壊および不適応リモデリングが疾患の原因である様々な症状を処置するための大きな可能性を有する。哺乳動物のガス交換の基本単位である肺胞は、2つの上皮細胞型:ガス交換のための表面領域を提供する大きな扁平上皮肺胞1型細胞(AEC1)および界面活性物質を分泌する立方状肺胞2型細胞(AEC2)から構成される。さらに、AEC2は、肺胞上皮を再配置させることに関与する一次前駆細胞型として同定されている。AEC2は成体期を通じてクローン増殖し、非対称に分裂して、AEC1およびAEC2を生じる。特発性肺線維症(IPF)は、AEC2の幹細胞能力の消耗によって引き起こされることがさらに実証されている。減少したAEC2増殖は、裸出した肺胞基底膜をもたらし、これは最終的に、過形成性上気道由来上皮細胞および細胞外マトリックス分泌筋線維芽細胞による下気道のコロニー形成を促進する。さらに、外因性因子(IL-6またはヒアルロン酸)による処置を通じてAEC2増殖を回復させることは、IPFのマウスモデルにおいて疾患重症度を阻害することが実証されている。IPFに加えて、肺胞上皮のバリア機能の急性喪失である急性呼吸促迫症候群(ARDS)が、AEC2細胞に対する損傷およびAEC2細胞による不十分な修復成長によって引き起こされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
【非特許文献1】Hogan,B.L.,Barkauskas,C.E.,Chapman,H.A.,Epstein,J.A.,Jain,R.,Hsia,C.C.,Niklason,L.,Calle,E.,Le,A.,Randell,S.H.,Rock,J.,Snitow,M.,Krummel,M.,Stripp,B.R.,Vu,T.,White,E.S.,Whitsett,J.A.,and Morrisey,E.E.(2014)Repair and regeneration of the respiratory system:complexity,plasticity,and mechanisms of lung stem cell function,Cell Stem Cell 15,123-138
【非特許文献2】Barkauskas,C.E.,Cronce,M.J.,Rackley,C.R.,Bowie,E.J.,Keene,D.R.,Stripp,B.R.,Randell,S.H.,Noble,P.W.,and Hogan,B.L.(2013)Type 2 alveolar cells are stem cells in adult lung,J Clin Invest 123,3025-3036
【非特許文献3】Noble,P.W.,Barkauskas,C.E.,and Jiang,D.(2012)Pulmonary fibrosis:patterns and perpetrators,J Clin Invest 122,2756-2762
【非特許文献4】Liang,J.,Zhang,Y.,Xie,T.,Liu,N.,Chen,H.,Geng,Y.,Kurkciyan,A.,Mena,J.M.,Stripp,B.R.,Jiang,D.,and Noble,P.W.(2016)Hyaluronan and TLR4 promote surfactant-protein-C-positive alveolar progenitor cell renewal and prevent severe pulmonary fibrosis in mice,Nat Med 22,1285-1293
【非特許文献5】Thompson,B.T.,Chambers,R.C.,and Liu,K.D.(2017)Acute Respiratory Distress Syndrome,N Engl J Med 377,1904-1905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本開示は、様々な態様において、例えば、肺における他の細胞型と比較してAEC2の特異的増殖を促進する上で有用な化合物を提供する。したがって、様々な態様において、本開示は、立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させることを必要とする対象において立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させるための、またはAEC2細胞の低下した増殖を回復させることを必要とする対象においてAEC2細胞の低下した増殖を回復させるための方法を提供する。この方法は、本開示に記載されるように、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与することを含む。
【0004】
さらなる態様において、本開示は、疾患に罹患している対象における疾患を処置するための方法であって、疾患病因が上皮変性および/または不適応リモデリングに由来する、方法を提供する。この方法は、本開示に記載されるように、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与することを含む。
【0005】
別の態様において、本開示は、肺疾患または肺症状に罹患している対象における肺疾患または肺症状を処置するための方法を提供する。この方法は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を対象に肺投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】ハイコンテンツな画像化スクリーニングは、DPP4阻害剤およびS1P1R調節因子をAEC2細胞の小分子増殖因子として同定する。分裂促進の陽性対照であるインスリン様成長因子1(IGF1)処理に応答したKi67 AEC2のパーセンテージの定量化および代表的な画像。
図1B】ハイコンテンツな画像化スクリーニングは、DPP4阻害剤およびS1P1R調節因子をAEC2細胞の小分子増殖因子として同定する。確認されたスクリーニングの、化学構造、AEC2細胞パーセンテージKi67陽性の定量およびパーセント肺線維芽細胞活性化は、NVP-728にヒットする。
図1C】ハイコンテンツな画像化スクリーニングは、DPP4阻害剤およびS1P1R調節因子をAEC2細胞の小分子増殖因子として同定する。確認されたスクリーニングの、化学構造、AEC2細胞パーセンテージKi67陽性の定量およびパーセント肺線維芽細胞活性化は、シポニモドにヒットする。
図2A】DPP4活性の薬理学的または遺伝的な減衰は、IGF1によって駆動される自己分泌型フィードフォワードループによるAEC2の拡大増殖を促進する。
図2B】表記濃度のDPP4阻害剤で、ウェルあたりのKi67陽性AEC2を処理する(siRNAによって媒介されるDPP4のノックダウンに応答した、Ki67陽性(左)および総AEC2数(右)。
図2C】DPP4阻害剤と組み合わせた表記濃度のIGFで処理されたウェルあたりのKi67陽性AEC2。
図2D】外因性IGFと可溶性DPP4での併用処理に応答したクリスタルバイオレット染色されたAEC2単層培養物の代表的な画像。
図3】AEC2増殖および毒性についてのアッセイにおける表記のS1P受容体サブタイプ調節因子の活性。
図4A】高用量のDPP4阻害剤サキサグリプチンおよびシタグリプチンは、急性肺傷害モデルにおいて修復を促進する。表記濃度のサキサグリプチンおよびシタグリプチンで経口処置され、気管内LPS投与でチャレンジされたマウスからの組織学的スコア。
図4B】高用量のDPP4阻害剤サキサグリプチンおよびシタグリプチンは、急性肺傷害モデルにおいて修復を促進する。表記濃度のサキサグリプチンおよびシタグリプチンで経口処置され、気管内LPS投与でチャレンジされたマウスからのBALFタンパク質レベル。
図4C】高用量のDPP4阻害剤サキサグリプチンおよびシタグリプチンは、急性肺傷害モデルにおいて修復を促進する。研究の3日目での、SFPTCおよびKI-67について共陽性に染色される細胞であるパーセント陽性AEC2の定量化。
図4D】高用量のDPP4阻害剤サキサグリプチンおよびシタグリプチンは、急性肺傷害モデルにおいて修復を促進する。研究の3日目での、SFPTCおよびKI-67について共陽性に染色される細胞であるパーセント陽性AEC2の定量化。
図5A】経口シタグリプチンは、ブレオマイシンによって誘発された肺線維症において改善効果を示す。線維化面積測定値。
図5B】経口シタグリプチンは、ブレオマイシンによって誘発された肺線維症において改善効果を示す。ピクロシリウスレッド測定値。
図5C】経口シタグリプチンは、ブレオマイシンによって誘発された肺線維症において改善効果を示す。修正アシュクロフトスコア。
図5D】経口シタグリプチンは、ブレオマイシンによって誘発された肺線維症において改善効果を示す。パーセント体重。
図5E】経口シタグリプチンは、ブレオマイシンによって誘発された肺線維症において改善効果を示す。シタグリプチンまたはピルフェニドン(いずれも100mg/kg1日2回)で処置され、気管内ブレオマイシン投与でチャレンジされたマウスからの代表的なマッソントリコーム染色された組織切片。
図6】4つのグリプチンの薬物動態プロファイリング。
図7A】リナグリプチンはインビトロでリン脂質症を誘導する。
図7B】リナグリプチンは、マウス急性肺傷害(ALI)モデルにおいて狭い有効投薬範囲を示す。
図8】デュトグリプチンボロナート(15)は、ブレオマイシンによって誘発された線維症モデルにおいて、ITを通じて4日に1回0.5mg/kgを投与された場合にBALFタンパク質レベルを低下させた。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示は、肺の幹細胞集団および前駆細胞集団の修復的増殖を刺激する薬物様化合物に対する長年の要望を充足する。本開示の化合物は、肺における他の細胞型(例えば、肺線維芽細胞)と比較してAEC2の特異的増殖を促進し、それにより、多数の下気道疾患において疾患修飾効力を示す。さらに、本化合物は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP4)の阻害剤として有用である。
【0008】
定義
本明細書中に記載される化合物は、例えば、シス-またはトランス-立体構造を含む、立体配置異性体、幾何異性体および立体配座異性体を含む、様々な異性体形態で存在することができる。化合物は、単一の互変異性体および互変異性体の混合物の両方を含む1つ以上の互変異性形態でも存在し得る。「異性体」という用語は、本開示の化合物の互変異性体を含む、本開示の化合物の全ての異性体形態を包含することを意図している。本開示の化合物は、開鎖または環化形態でも存在し得る。いくつかの事例においては、環化形態の1つ以上は水の喪失から生じ得る。開鎖および環化形態の具体的な組成は、化合物がどのように単離され、保存され、または投与されるかに依存し得る。例えば、化合物は、酸性条件下では主に開鎖形態で存在し得るが、中性条件下では環化し得る。全ての形態が本開示に含まれる。
【0009】
本明細書に記載されるいくつかの化合物は、不斉中心を有することができ、したがって、異なるエナンチオマーおよびジアステレオマー形態で存在することができる。本明細書に記載されている化合物は、光学異性体またはジアステレオマーの形態であり得る。したがって、本開示は、ラセミ混合物を含む、本明細書に記載される化合物の光学異性体、ジアステレオ異性体およびこれらの混合物の形態の本明細書に記載される化合物およびそれらの使用を包含する。本開示の化合物の光学異性体は、不斉合成、キラルクロマトグラフィー、擬似移動床技術または光学活性分割剤の使用を通じた立体異性体の化学的分離などの公知の技術によって取得され得る。
【0010】
別段示されない限り、「立体異性体」という用語は、その化合物の他の立体異性体を実質的に含まない化合物の1つの立体異性体を意味する。したがって、1つのキラル中心を有する立体異性的に純粋な化合物は、該化合物の反対のエナンチオマーを実質的に含まない。2つのキラル中心を有する立体異性的に純粋な化合物は、該化合物の他のジアステレオマーを実質的に含まない。典型的な立体異性的に純粋な化合物は、約80重量%を超える化合物の1つの立体異性体および約20重量%未満の化合物の他の立体異性体、例えば、約90重量%を超える化合物の1つの立体異性体および約10重量%未満の化合物の他の立体異性体、または約95重量%を超える化合物の1つの立体異性体および約5重量%未満の化合物の他の立体異性体、または約97重量%を超える化合物の1つの立体異性体および約3重量%未満の化合物の他の立体異性体、または約99重量%を超える化合物の1つの立体異性体および約1重量%未満の化合物の他の立体異性体を含む。上記の立体異性体は、ここに記載されているそれぞれの重量百分率で存在する2つの立体異性体を含む組成物と見ることができる。
【0011】
描かれた構造とその構造に与えられた名称との間に不一致が存在する場合には、描かれた構造が優越する。さらに、構造または構造の一部の立体化学が例えば太線または破線で表記されていない場合、構造または構造の一部は、その全ての立体異性体を包含すると解釈されるべきである。しかしながら、いくつかの事例においては、1つより多くのキラル中心が存在する場合には、相対的な立体化学を記載するのを助けるために、構造および名称は、単一のエナンチオマーとして表され得る。有機合成の当業者は、化合物が化合物を調製するために使用される方法から単一のエナンチオマーとして調製されるかどうかを知っているであろう。
【0012】
本明細書で使用される場合、反対の指示がない限り、「化合物」という用語は、化合物またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体および/もしくは互変異性体を包含するという点で包括的である。したがって、例えば、本開示の化合物は、該化合物の互変異性体の薬学的に許容され得る塩を含む。
【0013】
本明細書では、「薬学的に許容され得る塩」は、本明細書に記載される化合物の薬学的に許容され得る有機または無機の酸または塩基塩である。代表的な薬学的に許容され得る塩としては、例えば、酢酸塩、アムソナート(4,4-ジアミノスチルベン-2,2-ジスルホナート)、ベンゼンスルホン酸塩、ベンゾナート、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、酪酸塩、カルシウム、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クエン酸塩、クラブラン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストラート、エシラート、フィウナラート、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニラート、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1-メテン-ビス-2-ヒドロキシ-3-ナフトアート、アインボナート)、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩(sulfosaliculate)、スラマート、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジドおよび吉草酸塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類塩、アンモニウム塩、水溶性および非水溶性塩が挙げられる。薬学的に許容され得る塩は、その構造中に1つより多くの荷電原子を有することができる。この例では、薬学的に許容され得る塩は複数の対イオンを有することができる。したがって、薬学的に許容され得る塩は、1つ以上の荷電原子および/または1つ以上の対イオンを有することができる。
【0014】
「処置する」、「処置すること」および「処置」という用語は、疾患または疾患に関連する症候の改善または根絶を指す。ある態様において、このような用語は、そのような疾患を有する患者への1つ以上の予防剤または治療剤の投与から生じる疾患の拡散または悪化を最小限に抑えることを指す。
【0015】
「予防する」、「予防すること」および「予防」という用語は、予防剤または治療剤の投与に起因する患者における疾患の発症、再発または拡散の予防を指す。
【0016】
「有効量」という用語は、疾患の処置もしくは予防において治療上もしくは予防上の利益を提供するのに、または疾患に関連する症候を遅延させもしくは最小化するのに十分な、本明細書に記載される化合物またはその他の活性成分の量を指す。さらに、本明細書に記載される化合物に関する治療有効量は、疾患の処置または予防において治療上の利益を提供する、単独でのまたは他の治療と組み合わせた治療剤の量を意味する。本明細書に記載される化合物に関連して使用される場合、この用語は、全体的な治療を改善し、疾患の症候もしくは原因を軽減もしくは回避し、または別の治療剤の治療有効性を増強するか、もしくは別の治療剤と相乗的である量を包含することができる。
【0017】
「患者」または「対象」には、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、子ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットなどの動物が含まれる。いくつかの態様によれば、動物は、非霊長類および霊長類(例えば、サルおよびヒト)などの哺乳動物である。一態様において、患者は、ヒト乳児、小児、青年または成人などのヒトである。本開示では、「患者」および「対象」という用語は互換的に使用される。
【0018】
「阻害剤」は、DPP4の発現、触媒活性、および/または局在化(すなわち、局所的濃度)を防止または低減する化合物を意味する。
【0019】
使用方法
本開示は、とりわけ疾患および症状の中でも肺傷害および線維症における再生的修復での使用に活用される効果である、DPP4阻害が肺胞2型細胞(AEC2)の拡大増殖をもたらすという驚くべき発見に基づいている。本明細書に開示されているDPP4阻害剤は、典型的には、米国FDAによって確立されたように、ラベルに表示された用途に関して安全で、有効であるので、本開示は、肺疾患および他の疾患などのこれらの疾患および症状を処置する上で使用するための、グリプチンの直接的な転用にさらに基づいている。本明細書に記載され、実施例全体を通して例示されているように、マウスからの薬物動態および有効性データによって、ラベルに表示された用途のためのこれらの化合物の経口用量は、驚くべきことに、ヒト患者において有効性を示すために約10倍の乗算を必要とすることが確立された。
【0020】
これらおよび他の発見に基づいて、本開示は、様々な態様において、立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させることを必要とする対象において立方状肺胞2型(AEC2)細胞の増殖を選択的に増加させるための、またはAEC2細胞の低下した増殖を回復させることを必要とする対象においてAEC2細胞の低下した増殖を回復させるための方法を提供する。この方法は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与することを含む。
【0021】
さらなる態様において、本開示は、疾患に罹患している対象における疾患を処置するための方法であって、疾患病因が上皮変性および/または不適応リモデリングに由来する、方法を提供する。この方法は、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を対象に投与することを含む。
【0022】
様々な態様において、疾患は、肺疾患または肺症状である。例示的な態様には、前記疾患が、特発性肺線維症(IPF)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、珪肺症、石綿肺、塵肺症、アルミニウム肺症、ボーキサイト線維症、ベリリウム肺症、鉄沈着症、スズ肺、滑石肺、ラブラドール肺(混合粉塵性塵肺)、サルコイドーシス、過敏性肺臓炎(HP)/外因性アレルギー性肺胞炎(EAA)、慢性気管支炎、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎間質性肺疾患(RBILD)、急性間質性肺炎(AIP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP=特発性BOOP)、続発性器質化肺炎(BOOP)、リンパ球様間質性肺炎(LIP)、特発性間質性肺炎:特定不能、好酸球増加性肺疾患、結核(TB)、肺水腫、間質性肺疾患、気管支肺異形成症(BPD)、コロナウイルス、COVID-19、特発性器質化肺炎(COP)、嚢胞性線維症(CF)、電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺傷害(EVALI)、ハンタウイルス肺症候群(HPS)、ヒストプラスマ症、インフルエンザ、レジオネラ病、MAC肺疾患、アルファ-1アンチトリプシン欠損症、アスペルギルス症、リンパ脈管筋腫症(LAM)、中東呼吸器症候群(MERS)、非結核性抗酸菌性肺疾患(NTM)、肺癌、肺塞栓症、グッドパスチャー症候群、特発性肺ヘモシデリン沈着症、原因不明の肺胞出血症候群、原因が明らかな肺胞出血症候群、孤発性肺リンパ脈管筋腫症(S-LAM)、結節性硬化症における肺リンパ脈管筋腫症(TSC-LAM)、肺胞蛋白症、肺アミロイドーシス、原発性肺リンパ腫、(内臓逆位を伴うまたは伴わない)原発性線毛機能不全症、過敏性肺臓炎のまれな原因(農夫肺疾患およびハト飼育者肺疾患以外の全ての原因)、遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)における肺動静脈奇形、全身性硬化症における間質性肺疾患、関節リウマチにおける間質性肺疾患、特発性炎症性筋症(多発性筋炎、皮膚筋炎、抗シンテターゼ症候群)における間質性肺疾患、シェーグレン症候群における間質性肺疾患、混合性結合組織病(MCTD)における間質性肺疾患、オーバーラップ症候群における間質性肺疾患、未分化結合組織病における間質性肺疾患および(非移植患者における)閉塞性細気管支炎から選択されるものが含まれる。
【0023】
さらなる態様において、疾患は炎症性疾患または障害である。例としては、感染性大腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、虚血性大腸炎、放射線大腸炎、消化性潰瘍、腸癌、腸閉塞、関節リウマチ、乾癬性関節炎、橋本甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、グレーブス病、1型糖尿病、乾癬、強直性脊椎炎、強皮症、筋炎、痛風、抗リン脂質抗体症候群(APS)、血管炎、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、左心不全、右心不全、収縮期心不全、拡張期心不全(保持された駆出率を有する心不全)、心房中隔欠損症、房室中隔欠損症、大動脈縮窄、両大血管右室起始症、右旋性大血管転位、エブスタイン奇形、左心低形成症候群、大動脈弓離断症、肺動脈閉鎖、単心室、ファロー四徴症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹、心室中隔欠損症、多発性嚢胞腎、尿崩症、グッドパスチャー病、IgA血管炎、IgA腎症、ループス腎炎、成人ネフローゼ症候群、小児ネフローゼ症候群、溶血性尿毒症症候群、海綿腎、腎異形成、腎動脈狭窄、腎血管性高血圧、尿細管性アシドーシス、アルポート症候群、ウェゲナー肉芽腫症、アラジール症候群、シスチン症、ファブリー病、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、糸球体腎炎、aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、IgA腎症(ベルジェ病)、間質性腎炎、微小変化群、ネフローゼ症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、湿疹、乾癬、蜂巣炎、膿痂疹、アトピー性皮膚炎、表皮水疱症、硬化性苔癬、魚鱗癬、白斑、末端剥離皮膚症候群、ブラウ症候群、原発性皮膚アミロイドーシス、皮膚膿瘍、褥瘡、眼瞼炎、フルンケル症、全層または部分層熱傷、毛細血管炎、蜂巣炎、角膜擦過傷、角膜びらん、乾燥症、扁平苔癬、慢性単純性苔癬、静脈性潰瘍(うっ血性潰瘍)、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、自己免疫性血管浮腫、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索および神経細胞型ニューロパチー(AMAN)、バロー病、水疱性類天疱瘡、セリアック病、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)または好酸球性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、多発血管炎性肉芽腫症、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹または妊娠性類天疱瘡(PG)、低ガンマグロブリン血症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、ランバート・イートン症候群、白血球破壊性血管炎、線状IgA病(LAD)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多巣性運動ニューロパチー(MMN)またはMMNCB、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児ループス、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンバーグ症候群、毛様体扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネージ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺性症候群I型、II型、III型、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発軟骨炎、下肢静止不能症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子および精巣自己免疫、全身硬直症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、甲状腺眼疾患(TED)、アラジール症候群、アルコール関連肝疾患、自己免疫性肝炎、胆道閉鎖症、肝硬変、リソソーム酸リパーゼ欠損症(LAL-D)、肝嚢胞、肝癌、新生児黄疸、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、骨粗鬆症、パジェット病、骨壊死、骨関節炎、低骨密度、痛風、線維性骨異形成症、マルファン症候群および骨形成不全症から選択される疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
様々な態様において、DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩は、以下の表1から選択されるものである。
【表1】
さらなる態様において、DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩は、以下の表2から選択されるものである。
【表2】
さらなる態様において、DPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩は、以下の表3から選択されるものである。
【表3】
例示的な態様において、本開示は、肺疾患または肺症状に罹患している対象において肺疾患または肺症状を処置するための方法などの本明細書に開示される方法であって、化合物15であるDPP4阻害剤またはその薬学的に許容され得る塩を前記対象に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの態様において、化合物15は、吸入によって投与される。
【0025】
薬学的組成物
本開示は、様々な態様において、治療有効量の本明細書に記載される1つ以上の化合物、またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体および/もしくは互変異性体を、薬学的に許容され得る担体と混合して含む薬学的組成物も提供する。いくつかの態様において、組成物は、薬学的配合の許容される慣行に従って、1つ以上の追加の治療剤、薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤、補助剤、安定剤、乳化剤、防腐剤、着色剤、緩衝剤、香味付与剤をさらに含有する。
【0026】
一態様において、薬学的組成物は、表1~3に示されるものから選択される化合物またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体および/もしくは互変異性体と、薬学的に許容され得る担体とを含む。
【0027】
本開示の薬学的組成物は、優良医療規範と一致する様式で製剤化され、投薬され、投与される。これに関連して考慮すべき因子には、処置されている特定の障害、処置されている特定の対象、対象の臨床症状、障害の原因、作用物質の送達の部位、投与の方法、投与のスケジュール、および医療従事者に公知の他の因子が含まれる。
【0028】
投与される化合物またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体および/もしくは互変異性体の「治療有効量」は、このような考慮事項によって規定され、AEC2細胞増殖を再生するために、またはDPP4を阻害するため、またはその両方のために必要な最小量である。このような量は、正常細胞または対象全体に対して毒性である量を下回り得る。一般に、投与される本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)の初期治療有効量は、約0.01~約200mg/kgの範囲である。典型的な用量範囲は、約0.1~約400mg/kg患者体重/日であり、典型的な初期範囲は、約50~約200mg/kg/日である。錠剤およびカプセル剤などの経口単位剤形は、約0.1mg~約1000mgの本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)を含有し得る。別の態様では、このような剤形は、約50mg~約500mgの本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)を含有する。さらに別の態様では、このような剤形は、約25mg~約200mgの本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)を含有する。さらに別の態様では、このような剤形は、約10mg~約100mgの本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)を含有する。さらなる態様では、このような剤形は、約5mg~約50mgの本開示の化合物(またはその薬学的に許容され得る塩、立体異性体もしくは互変異性体)を含有する。前述の態様のいずれにおいても、剤形は、1日に1、2、3または4回投与され得る。
【0029】
本開示の組成物は、経口的に、局所的に、非経口的に、吸入もしくはスプレーによって、例えば肺投与のために、または投与単位製剤で直腸に投与され得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射または注入技術を含む。
【0030】
本明細書に記載される適切な経口組成物には、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマルジョン、硬または軟カプセル、シロップまたはエリキシル剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
別の態様では、本開示の化合物またはその薬学的に許容され得る立体異性体、塩もしくは互変異性体と、薬学的に許容され得る担体とを含む単一単位投与に適した薬学的組成物も包含される。
【0032】
経口使用に適した本開示の組成物は、薬学的組成物の製造のための当技術分野で公知の任意の方法に従って調製され得る。例えば、本開示の化合物の液体製剤は、化合物の薬学的に口当たりのよい調製物を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤および防腐剤からなる群から選択される1つ以上の作用物質を含有する。
【0033】
錠剤組成物については、非毒性の薬学的に許容され得る賦形剤と混合された本開示の化合物が錠剤の製造のために使用される。そのような賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤、例えば、コーンスターチまたはアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア、および潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクが挙げられるが、これらに限定されない。錠剤はコーティングされていなくてもよく、または胃腸管での崩壊および吸収を遅延させ、それによって所望の期間にわたって持続的な治療作用を提供するために公知のコーティング技術によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料が使用され得る。
【0034】
経口使用のための製剤は、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合される硬ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水もしくは油性媒体、例えば落花生油、流動パラフィンもしくはオリーブ油と混合される軟ゼラチンカプセルとしても提供され得る。
【0035】
水性懸濁液の場合、本開示の化合物は、安定な懸濁液を維持するのに適した賦形剤と混合される。このような賦形剤の例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
経口懸濁液は、天然ホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えばポリオキシエチレンステアラート、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレアート、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとの縮合生成物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレアートなどの分散剤または湿潤剤も含有することができる。水性懸濁液は、1つ以上の防腐剤、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、および1つ以上の甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンも含有し得る。
【0037】
油性懸濁液は、本開示の化合物を植物油、例えば落花生油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油、または流動パラフィンなどの鉱油に懸濁することによって製剤化され得る。油性懸濁液は、増粘剤、例えば蜜蝋、硬質パラフィンまたはセチルアルコールを含有し得る。
【0038】
口当たりのよい経口調製物を提供するために、上記されているものなどの甘味剤、および香味剤が添加され得る。これらの組成物は、アスコルビン酸などの酸化防止剤の添加によって保存され得る。
【0039】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および1つ以上の防腐剤と混合された本開示の化合物を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤は、既に上述したものによって例示される。追加の賦形剤、例えば甘味剤、香味剤および着色剤も存在し得る。
【0040】
本開示の薬学的組成物は、水中油型エマルジョンの形態でもあり得る。油性相は、植物油、例えばオリーブ油もしくは落花生油、または鉱油、例えば流動パラフィン、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤は、天然に存在するガム、例えばアラビアガムまたはトラガカントガム、天然に存在するホスファチド、例えばダイズ、レシチン、ならびに脂肪酸およびヘキシトールに由来するエステルまたは部分エステル、無水物、例えばソルビタンモノオレアート、ならびに前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合反応生成物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートであり得る。エマルジョンは、甘味剤および香味剤も含有し得る。
【0041】
シロップおよびエリキシルは、甘味剤、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースとともに製剤化され得る。そのような製剤は、粘滑剤、防腐剤、ならびに香味剤および着色剤も含有し得る。薬学的組成物は、無菌注射剤、水性懸濁液または油性懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、上記の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、公知の技術に従って製剤化され得る。無菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であり得る。使用され得る許容され得るビヒクルおよび溶媒としては、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌固定油は、溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含む任意の無刺激性固定油が使用され得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤の調製において使用される。
【0042】
本開示の化合物はまた、直腸投与のための坐剤の形態で投与され得る。これらの組成物は、常温では固体であるが直腸温度では液体であり、したがって直腸内で融解して化合物を放出する適切な非刺激性賦形剤と化合物を混合することによって調製され得る。そのような材料は、カカオバターおよびポリエチレングリコールである。
【0043】
非経口投与のための組成物は、無菌媒体中で投与される。使用されるビヒクルおよび製剤中の化合物の濃度に応じて、非経口製剤は、溶解された化合物を含有する懸濁液または溶液のいずれかであり得る。局所麻酔薬、防腐剤および緩衝剤などの補助剤を非経口組成物に添加することもできる。
【0044】
グリプチンの経口送達、全身曝露
本開示はまた、様々な態様において、肺障害に罹患している対象を処置する方法であって、グリプチンの経口投与のために製剤化された本明細書に開示される化合物(すなわち、グリプチン)を前記対象に投与することを含む方法を提供する。例示的な態様において、化合物は、リナグリプチンおよびサキサグリプチンから選択される。様々な態様において、化合物は、1つ以上の賦形剤とともに、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマルジョン、硬または軟カプセル、シロップまたはエリキシル剤を含む任意の経口剤形に製剤化される。
【0045】
本開示の利点は、糖尿病の治療的処置において使用するための、リナグリプチンおよびサキサグリプチンなどの、FDAによって承認されたグリプチン化合物の確立された安全性および有効性にある。しかしながら、以下の実施例が例示するように、ラベルに表示された用途のための、経口投与による承認されたグリプチン化合物の推奨用量は、急性肺傷害(ALI)および急性呼吸促迫症候群(ARDS)などの本明細書に開示される肺疾患を処置するために、肺において有効な曝露を提供しない。したがって、様々な態様において、本発明の方法において使用するためのグリプチン化合物の経口用量は、糖尿病に罹患している対象における糖尿病を処置するのに有効であろう用量の約5倍~約15倍の範囲である。抗糖尿病経口用量の例は、抗糖尿病適応症について米国FDAによって承認されたグリプチン化合物の用量である。様々な態様において、経口用量は、有効な抗糖尿病用量、例えば、承認された経口用量の約2倍~約12倍、約3倍~約10倍、約5倍~約10倍、約5倍~約7倍または約8倍~約12倍である。例示的な用量には、承認された経口用量の約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、および約10倍が含まれる。したがって、例示的な態様において、サキサグリプチンの1日経口用量は約500mgであり、承認された経口用量は2.5~5mg(1日1回)である。別の例示的な態様において、リナグリプチンの1日経口用量は約50~約100mgであるが、承認された経口用量は5mg(1日1回)である。
【0046】
グリプチン塩、吸入可能な製剤の肺送達
いくつかの態様において、本開示は、肺送達のための本明細書に開示されるグリプチン化合物の塩またはプロドラッグを提供する。化合物は、一般に、塩形成に適した、2つおよび3つを含む少なくとも1つのイオン化可能な基、例えばアミンを有する。しかしながら、塩は肺組織と適合性でなければならず、肺組織に対して非毒性でなければならないので、任意の薬学的に許容され得る塩が肺送達に適しているとは限らない。これは、グリプチン塩が全身曝露ではなく局所曝露のために投与される態様において特に重要である。したがって、様々な態様において、本開示は、本明細書に開示される化合物のいずれかの酸付加塩を提供する。例示的な酸としては、塩酸、硫酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酒石酸、パルミチン酸、酢酸、リン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、エタンスルホン酸およびフマル酸が挙げられる。
【0047】
塩は、本明細書に開示されるような肺疾患または肺症状の処置など、対象への肺送達に適している。例えば、複数の態様において、局所肺症状としては、急性肺傷害(ALI)および急性呼吸促迫症候群(ARDS)によって例示される、一般に急性呼吸不全を共通して有する一連の臨床的症候群が挙げられる。さらなる態様において、局所肺症状は、間質性肺疾患(ILD)または特発性肺線維症(IPF)である。
【0048】
確立された原理によれば、化合物の塩の形成は、化合物の水溶性を増加させ、肺送達に適した組成物の製剤化をより容易にする。肺薬物送達技術は、噴射剤、賦形剤および送達デバイスの選択を含めて、当業者に周知である。例えば、本明細書に開示される化合物の塩の低侵襲性肺送達は、いくつかの態様においては、当技術分野で公知の噴射剤、界面活性剤、非水性吸入器、乾燥粉末吸入器、定量吸入器、およびジェットまたは超音波噴霧器の任意の組み合わせを使用して達成される。様々な態様において、肺送達エアロゾル用の吸入可能な組成物および化合物の噴霧化製剤。
【0049】
様々な態様によれば、肺内への塩の効果的な堆積は、一般に、直径5μm未満の液滴を必要とする。肺への流体の送達は、装置からの排出を可能にするのに十分高いが、舌または咽喉の後部への堆積を防止するのに十分に低い運動量を付与するために液滴送達装置を一般に必要とする。直径5μm未満の液滴は、液滴を運ぶ空気中への同伴によってほぼ完全に輸送され、液滴自体の運動量によっては輸送されない。
【0050】
IPF、ILD、ALIおよびARDSなどの局所肺症状の治療的処置の場合、本明細書に開示されるグリプチン塩の用量は、基礎グリプチンの承認された治療のための、例えば、II型糖尿病の処置における、対応する基礎グリプチンの経口送達製剤における用量よりもかなり高い。様々な態様において、本明細書に開示されるグリプチンは、本明細書に開示される肺疾患の処置などのために、肺送達を介して投与され、これは、総用量を減少させ、グリプチンの治療域を改善するという利点を有する。例示的な態様では、シタグリプチン、サキサグリプチン、ビルダグリプチンおよびリナグリプチンのマウス肺薬物動態パラメータは、同様の肺薬物曝露を達成するための肺送達のために、わずか1/5の用量が必要とされることを示した(図6参照)。さらなる態様において、投与頻度を1日1回から1日2回または3回に増加させることによって、総1日用量がさらに低減される。したがって、様々な態様において、本発明の方法における肺送達のためのグリプチン塩の用量は、承認された用途のための経口投与によって与えられる基礎グリプチンの用量の約0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1.0、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5または約5倍である。さらなる態様では、用量は、承認された用途のための経口投与によって与えられる基礎グリプチンの用量の約0.1~約5、0.1~約4、約0.3~約3、約0.5~約2.5または約0.9~約2倍である。例示的な態様において、吸入可能な製剤中のグリプチン塩の用量は、承認された経口剤形中の対応する基礎グリプチンの用量の約3倍である。
【0051】
AEC2増殖を選択的に促進する化合物を同定するためのスクリーニング
本明細書に開示されるように、AEC2を増殖させることができる小分子を同定するために、本発明者らは、まず、商業的供給源からの初代ヒト小気道上皮細胞(SAEC)を用いて培養系を確立した。SAECは、サーファクタントタンパク質C(SFPTC)を含む多数のAEC2マーカーについて陽性に染色し(>90%)、中性脂質を貯蔵し(サーファクタント貯蔵体の存在を示す)、それらが主にAEC2であることを示す。マイトジェンを含まない条件でウェルあたりのKi67陽性AEC2の総数を測定するハイコンテンツな画像化アッセイを最適化することによって、インスリン様成長因子1(IGF1)が生物学的に関連する陽性増殖対照として使用された場合に、高度に再現性のあるスクリーニングアッセイ(Z’>0.55)が得られた(図1A)。
【0052】
次いで、本発明者らは、S期AEC2を増加させる小分子について、包括的なリパーパシングライブラリーであるReFRAMEをスクリーニングした。形質転換成長因子ベータ受容体(TGFBR)阻害剤が、AEC2増殖分子の以前に報告されたクラスとして同定され、これにより、アッセイおよび細胞供給源に対する信頼性が確立された。生物学的機構が報告されていない上位ヒットの中には、NVP-728(治験中のDPP4阻害剤;EC50約500nM;図1B)およびシポニモド(BAF312;FDAによって承認されたS1P1R調節因子;EC50約100nM、図1C)があった。これらの分子がヒト肺線維芽細胞の一次調製物に対して試験された場合、これらの分子は、これらの分子がAEC2増殖を促進する濃度で、これらの細胞の総数、Ki67陽性百分率、または筋線維芽細胞分化状態を増加させなかった(図1Bおよび1C)。したがって、これらの分子は、筋線維芽細胞の活性化または増殖に影響を及ぼすことなく特異的なAEC2増殖を促進し、これはほとんどの疾患状況において望ましくない。
【0053】
NVP-728およびシポニモドがそれらの報告された作用機序を介してAEC2増殖を促進することを確認して、本発明者らは、これらのシグナル伝達経路のさらなる薬理学的操作および遺伝子操作を用いてさらなる実験を行った。本発明者らは、2つのさらなるFDA承認DPP4阻害剤であるサキサグリプチンおよびシタグリプチンが、NVP-728と同じ規模までAEC2増殖を促進すること(図2A)、ならびに細胞EC50値が、組換え酵素の阻害について報告されたIC50値の後をたどることを見出した(0.6nM、サキサグリプチン;18nM、シタグリプチン;14nM、NVP-728)。同様に、本発明者らは、DPP4レベルのsiRNAによって媒介されるノックダウンが総AEC2細胞数およびKi67陽性AEC2細胞数の増加を促進することを見出した(図2B)。
【0054】
ジペプチジルプロテアーゼであるDPP4は、タンパク質性シグナル伝達分子を分解して、その基質のシグナル伝達応答の持続時間および規模を制御する。AEC2中で最も高度に発現されるDPP4基質の中にはIGF1があり、IGF1はこの細胞型に対する自己分泌増殖因子として以前に報告されている。本発明者らは、DPP4阻害剤によるAEC2の処理が、おそらくはシグナル伝達分子の分解を阻害することを介して、IGF1の増殖効果に対して細胞を増感させることを見出した(図2C)。これに関連して、本発明者らは、AEC2が外因性IGF1で刺激された場合、この増殖効果が、漸増量の組換えDPP4によって阻害されることを見出した(図2D)。これらの結果は共に、DPP4阻害が、AEC2細胞拡大増殖を促進するための作動機構であることを実証している。
【0055】
シポニモドがS1PR1を標的とする機構を介してAEC2拡大増殖を促進することを確認して、本発明者らは、異なる受容体サブタイプに対して様々な親和性を有するS1PR調節因子のパネルを評価した(図3)。汎S1PR調節因子(例えば、FTY-720)、S1PR1/S1PR5選択的(例えば、オザニモド)およびS1PR1選択的(例えば、SEW-2871)調節因子は、AEC2増殖アッセイにおいて活性であった(図3)。S1PR1とは対照的に、S1PR5は、AEC2では発現されず(図示せず)、S1PR1活性を調節することが、この文脈において、AEC2成長を促進するための共通の薬理学的に適切な標的であることを示している。文献は、成体生物においてAEC2および肺機能を保護する上でのS1PR1アゴニズムの役割も確認する。StoneらおよびDiabら10の研究は、虚血再灌流モデルまたは気腫モデルの状況において成体マウスがチャレンジされた場合、S1PR1リガンドであるFTY720およびSEW2871が肺胞上皮におけるアポトーシスおよび炎症性サイトカイン放出を阻害したことを示しており、S1P受容体アゴニズムが様々な疾患状態に介入するためのAEC2関連機構であり得ることを示している。
【0056】
例示的な態様では、リポ多糖(LPS)肺傷害モデルにおける2つの広く使用されている薬物であるシタグリプチンおよびサキサグリプチンは、これらの薬物の増殖活性が肺損傷および線維症の小型げっ歯類モデルにおける保護的有効性につながることを実証した。LPSが肺胞の完全性の喪失およびAEC1/2細胞死を誘導するので、このモデルは、下気道への損傷をシミュレートするためにしばしば使用される。シタグリプチンおよびサキサグリプチン処置の両方の経口投与は、組織学的スコアリングならびにBALFタンパク質および細胞内含有量(透過性および炎症の尺度)を含む全ての測定された測定指標において劇的な改善をもたらした。重要なことに、これらのモデルにおいて有効性を達成するためには、糖尿病の齧歯類モデルに対して使用される用量(経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)モデルにおける有効性は、シタグリプチンについては3~30mg/kg、サキサグリプチンについては0.5~5mg/kgで観察される)よりも有意に大きい用量が必要とされた(最小有効用量=サキサグリプチンについて50mg/kg;100mg/kgシタグリプチン)。
【0057】
LPSモデルにおいて、グリプチン誘発性のAEC2拡大増殖が薬物有効性の原因となる程度をさらに決定した。経時的研究により、高用量のシタグリプチンは、初期の時点でサイトカインまたは気管支肺胞洗浄液(BALF)レベルに影響を及ぼさないことが確立された。より後の時点においてのみ、シタグリプチンはサイトカインおよびBALFタンパク質レベルの変化を促進する。さらに、シタグリプチンは、増殖性AEC2(KI-67 SFPTC二重陽性細胞)の実質的な増加を促進するが、肺内の細胞の総数(全ての核)またはKi-67陽性細胞(主に免疫細胞)を有意に増加させない。まとめると、これらのデータは、DPP4阻害が増殖性再生を介して肺修復を促進することを実証している(図4A~4D)。
【0058】
別の例示的な態様では、マウスにおけるブレオマイシン誘発線維症に対するその効果について、シタグリプチンを評価した。これに関連して、マウスへの気管内ブレオマイシン投与は、AEC2集団に死を誘導し、これはヒト疾患で観察されるAEC2の喪失を模倣する可能性が高い特徴である。高用量のシタグリプチン(100mg/kgを1日1回または1日2回)は、体重減少、生存、BALFタンパク質含有量、ヒドロキシプロリン含有量およびパーセント線維化領域組織学的スコアリングを含む疾患進行の複数の測定指標に堅固な保護をもたらした(図5A~5E)。重要なことに、本発明者らは、これらの効果が承認された薬物であるピルフェニドンと同等か、またはそれを超えることを見出した。ピルフェニドンに加えて、シタグリプチンと承認薬ニンテダニブ(Ofev)の同時処置は、ブレオマイシンモデルにおいて相乗的保護をもたらした(Bliss独立計算によって決定された薬理学的相乗作用)。ニンテダニブは筋線維芽細胞活性を阻害することが予想されるのみであるので、疾患進行に対するこの組み合わせの効果は、増殖を通じて修復を誘導することが疾患を処置するための相補的な機構であることを示唆する。このアプローチは肺胞の修復を促進するのみならず、さらなる疾患進行を減少させるので、この組み合わせ処置戦略は、増大した患者の利益をもたらす。インビボ有効性のためには、肺における標的カバレッジのために高用量が必要とされる(以下に記載されるPKによって実証される)。
【0059】
さらなる例示的な態様では、本明細書の実施例に詳述されているように、デュトグリプチンのプロドラッグとしてのデュトグリプチンボロナート(15)は、吸入を通じて長期の肺保持を提供した。デュトグリプチン(1)は、第2/3相臨床試験で試験されたボロン酸ベースのDPP4阻害剤である。200mgおよび400mgの1日1回経口用量は、プラセボと比較してHbA1cを統計学的に低下させた。別のマウスIT薬物動態研究では、ボロナート(15)が血漿および肺の両方で活性な薬物デュトグリプチンに変換されることが示された。肺における活性薬物曝露は、投与されたデュトグリプチンそのものからのものよりもはるかに高く、はるかに長く持続した(表8A/B参照)。ブレオマイシン誘発性肺線維症モデルでは、ボロナート(15)は、4日に1回、IT投与された場合、ビヒクルと比較してBALFタンパク質レベルを低下させた(図8参照)。
【0060】
前セクション中の番号が付された参考文献は、以下のとおりである。
【0061】
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【0070】
本開示のさらなる態様は、以下の非限定的な実施例に記載されている。
【0071】
[実施例]
[実施例1]
DPP4活性およびAEC2細胞増殖アッセイ
DPP4活性アッセイ。製造者の説明書に従ってDPP4 Activity Assay Kit(Sigma-Aldrich、MAK088)を使用してヒトDPP4活性アッセイデータを得た。簡潔に記載すると、DPP4アッセイ緩衝液中溶解された10μLの希釈された化合物を移す前に、低容量384ウェルプレート中に、ウェルあたり10μLのDPP4 Assay Bufferを移した。酵素によって切断されると蛍光性になる蛍光基質を含有する5μLのMaster Reaction Mix。Envision Multimode Plate Reader(PerkinElmer)を使用して、20分間にわたって、1分の時間間隔で蛍光強度測定を記録した。
【0072】
AEC2増殖アッセイ。EGF、レチノイン酸を含まず、5%BPEを含む50μLのSmall Airway Epithelial Cell Growth Medium(Lonza)中、10ug/mLのラミニン(Life Technologies)で被覆された黒色384ウェルプレート(Greiner)に、ウェルあたり1,500細胞の密度で初代ヒトAEC2を蒔いた。次いで、ピンツールヘッド(V&P Scientific)が装着されたBiomek FX機器(Beckman Coulter)を使用して、DMSO中に溶解された100nLの化合物を送達した。37℃で96時間成長させた後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、PBSで3回洗浄し、次いで、4℃で一晩、KI-67陽性について免疫染色した(1:1000、Abcam、ab15580)。さらに3回洗浄し、二次AlexaFluorコンジュゲート二次抗体と室温で1時間インキュベートし、10μg/mLのHoechst 33342(Life Technologies)に曝露した後、プレートを密封し、次いでCellInsight CX5 HCS機器(ThermoFisher)で定量的なハイコンテンツな画像化を行った。
【0073】
アッセイに供された化合物および対応する結果を以下の表4に示す。
【表4】
[実施例2]
承認されたおよび治験中のDPP4阻害剤のインビトロ性質決定
ReFRAMEのハイコンテンツな画像化スクリーニングから同定された、「グリプチン」と呼ばれる薬物クラスからのジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)の阻害剤は、インビトロで肺胞2型細胞を有効に拡大増殖させることが見出された。この現象をこの化合物クラスにわたってよりよく性質決定するために、本発明者らは、表5に示されるように、承認されたグリプチンおよび後期段階の治験中のグリプチンの市販のバージョンおよび再合成されたバージョンを取得した。全ての物質が、文献に報告されている効力と同様の効力でDPP4酵素活性を阻害することが見出され、使用された物質の信頼性が高いことが示唆された。テネリグリプチンを除き、評価された全てのグリプチンは、細胞培養において、0.1~4μMの効力で、AEC2に増殖表現型を誘導することが見出された。グリプチンは肺線維芽細胞を増殖させない。自己分泌成長因子の分解の阻害を伴う機構が、観察された増殖表現型の原因であることが実証された。
【表5】
[実施例3]
肺傷害および線維症のマウスモデルにおけるグリプチンのインビボ有効性活性。
【0074】
急性肺傷害(ALI)モデルの実験方法
大腸菌(E.coli)I111:B4(Sigma)由来のLPSを使用して、マウスに急性肺傷害を誘導した。9~11週齢の体重を合わせた(19グラム~22グラム)雌C57BL/6Jマウスを選択して、ALIモデルにおいて使用した。
【0075】
経口送達されるDPP4阻害剤については、化合物をPBSに溶解して透明な溶液を得た。PKプロフィールに基づいて選択された1日1回または2回の経口胃管栄養法によって、ビヒクル対照またはDPP4阻害剤を10ml/kgで投与した。気管内送達されるDPP4阻害剤については、化合物をPBSに溶解して透明な溶液を得た。22gの柔軟なカテーテルを通して、ビヒクル対照またはDPP4阻害剤を2ml/kgで1日おきに投与した。
【0076】
LPS(経口送達されるDPP4阻害剤を試験する場合には1.5mg/kgおよび気管内送達されたDPP4阻害剤を試験する場合には1.2mg/kg)またはシャム群においてはPBSを0日目にマウスの肺に気管内注射した。LPS注射の1日前(-1日目)から開始して、DPP4阻害剤またはビヒクル対照をマウスに与えた。
【0077】
LPS注射後3.5日目に、全ての動物を屠殺した。標準的な方法を使用して、気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。1mlの4%ホルマリンを使用して肺を膨張させ、その後、4%ホルマリンで24時間固定し、組織学的過程まで70%EtOH中で保存した。
【0078】
読み取りのために、BCAアッセイを使用してBALF中の総タンパク質含有量を定量し、H&E染色を使用して肺の炎症および損傷を評価した。
【0079】
ブレオマイシンモデルの実験方法
ブレオマイシン(Hospira)を使用して、マウスに肺線維症を誘導した。10~12週齢の体重を合わせた(24グラム~28グラム)雄C57BL/6Jマウスを選択して、ブレオマイシンモデルにおいて使用した。
【0080】
経口送達されるDPP4阻害剤については、化合物をPBSに溶解して透明な溶液を得た。PKプロフィールに基づいて選択された1日1回または2回の経口胃管栄養法によって、ビヒクル対照またはDPP4阻害剤を10ml/kgで投与した。気管内送達されるDPP4阻害剤については、化合物をPBSに溶解して透明な溶液を得た。22gの柔軟なカテーテルを通して、ビヒクル対照またはDPP4阻害剤を2ml/kgで4日おきに投与した。
【0081】
0.5U/kgブレオマイシンまたはシャム群においてはPBSを0日目にマウス肺中に気管内注射した。ブレオマイシン注射の1日前(-1日目)から開始して、DPP4阻害剤またはビヒクル対照をマウスに与えた。
【0082】
ブレオマイシン注射後20日目に、全ての動物を屠殺した。標準的な方法を使用して、気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収した。1mlの4%ホルマリンを使用して肺を膨張させ、その後、4%ホルマリンで24時間固定し、組織学的過程まで70%EtOH中で保存した。
【0083】
読み取りのために、体重を毎日測定し、BCAアッセイを使用して、BALF中の総タンパク質含有量を定量し、マッソントリクローム染色を使用して肺線維症を評価した。
【0084】
高経口用量の3つの承認されたグリプチン(シタグリプチン、サキサグリプチンおよびリナグリプチン)は、LPSによって誘導された急性肺傷害(体重保持、組織学的スコアリング、BALFタンパク質、炎症解消)のみならず、ブレオマイシンによって誘導された肺線維症(体重保持、組織学的スコアリング、コラーゲン含有量、パーセント線維化面積)のマウスモデルにおいて有効であることが見出された。
【0085】
3つの例示的なグリプチンは、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)モデルにおける有効性のための有効用量を何倍も上回る用量を必要とした。用量予測は、これらの3つの例示的なグリプチンが患者において有効性を達成するためにヒト用量の約10倍を必要とする可能性が高いことを示しており(表6)、マウス薬物動態データによって支持される結果である(実施例4参照)。
【表6】
[実施例4]
承認されたグリプチンの安全性および薬物動態プロファイリング。
【0086】
A.安全性。グリプチンは、一般に安全で忍容性の高い医薬品である。公に入手可能な情報源からの関連する安全性情報が表7にまとめられている。
【表7】
B.薬物動態プロファイリング。本実施例の目的は、グリプチンの治療的肺曝露のために必要とされる驚くほど高い経口用量を実証することである。このため、米国FDAによって現在承認されている5つのグリプチンのうちの4つを、それぞれ経口的に(100mg/kg)または気管内(IT)もしくは中咽頭(OP)経路(20mg/kg)を通じてマウスに投与した。投与後、試験された各グリプチンの肺曝露は初期の時点で観察されたが、急速に低下した(図6)。ITまたはOPの投与では、同様の肺曝露を達成するために経口用量の1/5のみが必要とされた。しかしながら、AEC2増殖についてのEC50を上回るトラフ値を達成するためには、高用量のグリプチンまたはより頻繁な投与レジメンが必要とされる。
【0087】
リナグリプチンは、評価された時間枠にわたってかなりより高い肺曝露を示した。その報告された安全性プロファイルとは対照的に、リナグリプチンはいくつかの望ましくない効果を示し、これは注意を示唆し、またはより高い用量でのその直接の経口投与を不可能にし得る。リナグリプチンは、カチオン性両親媒性物質であるので、優れた組織暴露および大量の分布を示す。この特性と一致して、リナグリプチンは、アッセイにおいて使用された陽性対照と同様に、低濃度で有意なリン脂質症を誘導することが見出された(図7A)。さらに、リナグリプチンは肺疾患の動物モデルにおいて有効であるが、リナグリプチンの反復投与は最小の治療指数で「V字形」曲線を示すことが見出された。リナグリプチンは、1mg/kgで有効であることが見出されているが、2mg/kg以上の用量で拮抗活性を示す(図7B)。これらのデータは、AEC2にリン脂質症を誘導する上では、リナグリプチンは概ね安全であり得るのに対して、このグリプチンは、既にリスクのあるIPF集団にとっては潜在的な懸念となり得ることを示している。
【0088】
[実施例5]
吸入を通じて投与された場合に長期間にわたって肺において活性ボロン酸デュトグリプチンを放出するためのプロドラッグアプローチとしての、化合物(15)などのデュトグリプチンボロナートの予期せぬ発見。
【0089】
他のグリプチンと同様、PBS溶液とともにマウスにIT投与されたデュトグリプチン(1)は、肺で急速に除去された(<24時間、表8A)。その合成中間体であるピナコールボロナート(15)がIT経路によって投与された場合、デュトグリプチンボロナート(15)の血漿レベルおよび肺レベルは極めて低く、0.25時間後には存在しなかった(データは示さず)。親薬物のデュトグリプチンは、血漿および肺において検出された。肺曝露は、デュトグリプチン自体のIT投与で観察されたよりも有意に高かった(表8B)。薬物は、48時間にわたって肺に保持された。データは、ボロナートプロドラッグ15の予想外の肺保持能力を明確に示した。
【表8】
【表9】
優れた肺曝露に基づいて、デュトグリプチンボロナート(15)をブレオマイシン誘発性肺線維症マウスモデルで試験した。0.5mg/kgをITで4日に1回投与されると、BALFタンパク質レベルが低下した(図8)。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】