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▶ ビック−ケミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】極性溶媒中での層状物質の層間剥離
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20240117BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20240117BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240117BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240117BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240117BHJP
【FI】
C01B33/40
C08L101/14
C08K3/013
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023542931
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2022050648
(87)【国際公開番号】W WO2022152793
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】21151931.9
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596089399
【氏名又は名称】ビック-ケミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フサイン カロ
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト シースリング
(72)【発明者】
【氏名】ウド クラッペ
(72)【発明者】
【氏名】ベルトホルト ヤーコプス
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ベーマー
(72)【発明者】
【氏名】キリル シャフラン
(72)【発明者】
【氏名】タイラー ナッシュ
【テーマコード(参考)】
4G073
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA10
4G073BA62
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA80
4G073CM14
4G073FA30
4G073FC02
4G073FC25
4G073FC27
4G073FC30
4G073FD04
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA11
4G073UA08
4G073UB25
4J002AB001
4J002AD001
4J002BB201
4J002BB211
4J002BE021
4J002BF011
4J002BG011
4J002CH021
4J002CL021
4J002DJ006
4J002FD206
4J002GG01
4J002GG02
4J002GH00
4J002HA04
4J002HA06
4J038BA011
4J038BA181
4J038CE021
4J038DE001
4J038DG001
4J038DH001
4J038EA011
4J038HA456
4J038KA08
4J038KA20
4J038LA03
4J038MA06
4J038MA08
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA08
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】単一のクレイ薄層へと容易に層間剥離する合成層状物質を提供する。
【解決手段】本発明は、組成Na[Mg3-zLi]Si10(T)を有する層状物質を含む物質に関し、xが、0.4~0.8の範囲であり、yが、0.0~0.8の範囲であり、
zが、0.2~0.8の範囲であり、Tが、各出現においてそれぞれ独立して、F又はOHを表し、かつ、x+(3-z)+y≦4であり、層状物質の粉末X線回折パターンが、8.00~5.88°2シータの範囲に001ピークを有し、前記001ピークが、0.10°超の、ピーク極大値の半値における全幅を有し、かつ、層状物質が、最大1.5重量%の前記物質を含有する前記物質の水性分散体で動的レーザー光散乱によって決定される、500nm以上のZ平均粒子サイズを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成Na[Mg3-zLi]Si10(T)を有する層状物質を含む物質であって、
xが、0.4~0.8の範囲であり、
yが、0.0~0.8の範囲であり、
zが、0.2~0.8の範囲であり、
Tが、各出現においてそれぞれ独立して、F又はOHを表し、かつ、
x+(3-z)+y≦4であり、
前記層状物質の粉末X線回折パターンが、8.00~5.88°2シータの範囲に001ピークを有し、前記001ピークが、0.10°超の、ピーク極大値の半値における全幅を有し、かつ、
前記層状物質が、最大1.5重量%の前記物質を含有する前記物質の水性分散体で動的レーザー光散乱によって決定される、500nm以上のZ平均粒子サイズを有する、
物質。
【請求項2】
Tが、その出現の少なくとも50%で、Fを表す、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
yが、0.4~0.8の範囲である、請求項1又は2に記載の物質。
【請求項4】
前記層状物質が、最大1.5重量%の前記物質を含有する前記物質の水性分散体で動的レーザー光散乱によって決定される、500nm~25000nmの範囲のZ平均粒子サイズを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物質。
【請求項5】
前記物質が、80~100重量%の前記層状物質を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の物質。
【請求項6】
前記物質が、下記の工程を含む方法によって得られる、請求項1~5のいずれか一項に記載の物質:
(i)Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物を含有する混合物を提供すること、ここで、これらの化合物は、炭酸塩、ハロゲン化物、及び酸化物から選択され、Na:Mg:Li:Siのモル比が、0.4~0.8:2.2~2.8:0.0~0.8:4.0の範囲である、
(ii)前記混合物を1500℃超の温度に加熱して、均一な液体を形成すること、
(iii)前記混合物を、少なくとも0.5時間の期間の間に500℃未満の温度に冷却すること。
【請求項7】
下記の工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の物質を調製する方法:
(i)Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物を含有する混合物を提供すること、ここで、これらの化合物は、炭酸塩、ハロゲン化物、及び酸化物から選択され、Na:Mg:Li:Siのモル比が、0.4~0.8:2.2~2.8:0.0~0.8:4.0の範囲である、
(ii)前記混合物を1100℃超の温度に加熱して、均一な液体を形成すること、
(iii)前記混合物を、少なくとも2.0時間の期間の間に1000℃未満の温度に冷却すること。
【請求項8】
工程(iii)を、少なくとも3.0時間の期間の間に行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、水を含有する水性媒体中に前記物質を分散させることを含むさらなる工程を有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記分散された物質を含む前記水性媒体を、50℃~400℃の範囲の温度に加熱する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、前記物質を粉砕して粉末にし、かつこの粉末を少なくとも48時間の期間にわたって500℃~1100℃の範囲の温度に加熱するさらなる工程を有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのバインダ、及び請求項1~6のいずれか一項に記載の物質を含む、組成物。
【請求項13】
前記バインダが、水性ポリマー溶液又は水性ポリマー分散体のうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
コーティング層のバリア特性を改善するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状物質、この物質を調製するための方法、この物質とバインダとを含む組成物、及び、コーティング層のバリア特性を改善するためのこの物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
Stoter et al.,Langmuir 2013、29 pp.1280-1285は、層間剥離の際にアスペクト比20000を示すナトリウムヘクトライトのナノ小板(ナノプレートレット)を記載している。この物質は、自発的かつ完全に1nm厚の単一のクレイ薄板(粘土薄板、粘土ラメラ)へと分解されることができる。この合成クレイは、優れたガスバリア特性及び機械特性を有する高度に透明なナノ複合体における機能性フィラーとしての潜在性を提供する。この物質は、溶融合成とそれに続く長期間アニーリングによって得られた。長期間アニーリングは、モリブデンるつぼ中で、6週間の期間にわたる1045℃の温度で行われた。高温での長期のアニーリング時間は、重大な不利な点を有しており、この技術を商業実施することの魅力を低下させる。
【0003】
US2011/0204286A1は、ポリマー/フィロシリケートのナノ複合体のための合成フィロシリケートに関する。この文献に記載された合成フィロシリケートは、層のスタックの形態で存在しており、タクトイドとしても言及される。これらのタクトイドを含むポリマーナノ複合体は、向上したガスバリア特性を示す。しかしながら、単一のクレイ薄板への完全な層間剥離は見られない。一般に考えられているところでは、完全な層間剥離は、複合材料を通る拡散のための経路長を最大化し、そのようにして、バリア特性を向上させる。したがって、ガスバリア特性に関する完全な潜在性は、この文献に記載されているタクトイドでは達成されない。
【0004】
WO2019/154758Aは、フッ化物と、Na、Mg、Li及びSiの酸化物との混合物を提供することによって組成Na0.5Mg2.5Li0.5Si10を有する層状物質を作成する方法を記載している。この混合物は、1750℃の温度にまで加熱されて、均一な液体が形成される。その後に、この混合物を1300℃にまで55℃/minの速度で冷却し、さらに、1050℃にまで10℃/minの速度で冷却する。最後に、電源を切ることによって急冷する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一のクレイ薄板へと容易に層間剥離する合成層状物質の必要性が現在存在し、この物質は、良好なバリア特性を提供し、かつ経済的に実行可能なプロセスによって調製できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、組成Na[Mg3-zLi]Si10(T)を有する層状物質を含む物質を提供し、
xは、0.4~0.8の範囲であり、
yは、0.0~0.8の範囲であり、
zは、0.2~0.8の範囲であり、
Tは、各出現においてそれぞれ独立して、F又はOHを表し、かつ
x+(3-z)+y≦4であり、
層状物質の粉末X線回折パターンが、8.00~5.88°2θの範囲に001ピークを有し、この001ピークが、0.1°超の、ピーク極大値の半値における全幅を有し、かつ、
層状物質が、最大1.5重量%の物質を含有する物質の水性分散体における動的レーザー光散乱によって決定される、500nm以上のZ平均粒子サイズを有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の物質は、容易に、かつ多くの場合に自発的に、単一の薄板(単一のラメラ)へと層間剥離する層状物質を提供する。この物質は、経済的に実行可能なプロセスによって調製しうる。
【0008】
層状物質は、クレイ物質(粘土物質)であり、一般的に、ヘクトライトとして分類されうる。ヘクトライトは、マグネシウムに基づくスメクタイト型のクレイ(粘土)である。本発明の層状物質は、一般に、合成クレイである。調製方法を、下記でさらに記載する。
【0009】
層状物質は、組成Na[Mg3-zLi]Si10(T)を有しており、
xは、0.4~0.8の範囲であり、
yは、0.0~0.8の範囲であり、
zは、0.2~0.8の範囲であり、
Tは、各出現においてそれぞれ独立して、F又はOHを表し、かつ
x+(3-z)+y≦4である。
【0010】
Tの出現のうちの、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%が、Fで表される。いくつかの態様では、Tが、出現の100%でFを表す。
【0011】
Na、Mg、及びLiの比は、上記の範囲内で種々の値であってよい。好ましい実施態様では、物質が、リチウムを含む。これらの実施態様では、yが、一般に、0.4~0.8の範囲である。さらに好ましい実施態様では、xが0.4~0.6の範囲であり、yが0.4~0.6の範囲であり、zが0.4~0.6の範囲である。
【0012】
層状物質の粉末X線回折パターンは、8.00°~5.88°2θの範囲に001ピークを有し、この001ピークが、0.10°超の、ピーク極大値の半値における全幅を有する。これらの特徴が、層状物質の、単一の薄板への非常に容易な層間剥離をもたらすことが、見いだされた。
【0013】
粉末X線回折パターンは、一般に、層状物質の粉末サンプルで取得され、これは、23℃における相対湿度43%での周囲湿分中で少なくとも12時間の期間にわたって平衡化されたものである。X線回折パターンの計測のために、1.541Åの波長を有する銅K-アルファ放射線が用いられる。
【0014】
001ピークの位置は、ピーク極大値の位置として定義される。
【0015】
ピーク極大値の半値における全幅は、001ピークの幅として定義され、°で表現される。ピークの幅は、最大強度の値の半分に対応する高さで計測される。
【0016】
好ましい実施態様では、ピーク極大値の半値における全幅が、少なくとも0.15°、より好ましくは少なくとも0.20°である。一般に、ピーク極大値の半値における全幅は、最大で0.60°、好ましくは最大で0.50°である。典型的な実施態様では、ピーク極大値の半値における全幅が、0.15°~0.60°、好ましくは0.20°~0.50°の範囲である。
【0017】
層状物質は、最大1.5重量%の層状物質を含有する物質の水性分散体で動的レーザー光散乱によって決定される500nm以上のZ平均粒子サイズを有する。一般に、水性分散体は、0.2~1.5重量%の層状物質を含有する。
【0018】
動的光散乱の結果は、多くの場合、Z平均の観点で表される。Z平均は、キュムラントの技術の使用によって動的光散乱データを分析したときに得られる。
【0019】
Z平均の算出は、数学的に安定なので、Z平均は、ノイズに不感受性である。Z平均は、強度に基づく調和平均として表現でき、下記の等式によって示される:
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、Sは、粒子iからの散乱強度であり、Dは、粒子iの直径である。結果は、調和平均の形態である。この平均は、強度加重分布から計算され、Z平均サイズは、強度加重調和平均サイズであるとの記載につながる。
【0022】
一般に、Z平均粒子サイズは、500nm~25000nmの範囲である。好ましい実施態様では、Z平均粒子サイズが、少なくとも1000nm、より好ましくは少なくとも1500nm、最も好ましくは少なくとも1800nmである。典型的な実施態様では、Z平均粒子サイズが、1500~25000nmの範囲である。
【0023】
一般に、本発明の物質は、固体粒子の物質として存在する場合に、80~100重量%の層状物質を含有し、好ましくは90~100重量%、最も好ましくは95~100重量%の層状物質を含有する。物質は、上記の層状物質の特徴を満たさない、微量の他の層状シリケートを含有しうる。
【0024】
本発明は、さらに、本発明の物質を調製する方法に関する。この方法は、下記の工程を含む:
(i)Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物を含む混合物を提供すること、ここで、これらの化合物は、炭酸塩(カーボネート)、ハロゲン化物、及び酸化物から選択され、Na:Mg:Li:Siのモル比は、0.4~0.8:2.2~2.8:0.0~0.8:4.0の範囲である、
(ii)混合物を1100℃超の温度で加熱して、均一な液体を形成すること、
(iii)混合物を、少なくとも0.5時間の期間の間に、1000℃未満の温度にまで冷却すること。
【0025】
第1の工程において、Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物の混合物を提供する。これらの混合物は、酸化物、ハロゲン化物、又は炭酸塩の形態で提供される。典型的な実施態様では、アルカリ金属塩/アルカリ土類金属塩、アルカリ土類酸化物、及びケイ素酸化物、好ましくは、二元アルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物、アルカリ土類酸化物、及びケイ素酸化物、好ましくは、LiF、NaF、MgF、MgO、石英が用いられる。さらなる好ましい実施態様では、本発明の物質を、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、及び二酸化ケイ素(石英)の混合物から調製する。出発化合物のモル比は、調製される層状物質のモル組成を反映する。したがって、出発物質として用いられる金属化合物のモル比は、上記の層状物質のモル組成に到達するように選択される。
【0026】
出発化合物の相対的な割合は、例えば、二酸化ケイ素のモルあたりの、アルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態での、0.4~0.6モルのF、及び、二酸化ケイ素のモルあたりの、0.4~0.6モルのアルカリ土類酸化物、好ましくは、二酸化ケイ素のモルあたりの、アルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態での0.45~0.55モルのF、及び二酸化ケイ素のモルあたりの0.45~0.55モルのアルカリ土類酸化物、特に好ましくは、二酸化ケイ素のモルあたりのアルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態での0.5モルのF、及び二酸化ケイ素のモルあたりの0.5モルのアルカリ土類酸化物、であってよい。
【0027】
好ましくは、出発化合物が、高い純度を有する。好ましい実施態様では、個々の出発化合物が、0.05重量%未満の酸化カルシウムの含有を有する。さらに好ましくは、個々の出発化合物が、0.05重量%未満の酸化鉄の含有を有する。
【0028】
第2の工程では、出発化合物の混合物を、1100℃超の温度にまで加熱して、均一な液体を形成する。加熱は、好ましくは、開放るつぼ又は密閉るつぼで行われる。
【0029】
典型的には、化学的に不活性又は遅い反応性の金属、好ましくはモリブデン又は白金、でできた高溶融るつぼを、用いる。
【0030】
加熱は、典型的には、高周波誘導炉で行われる。必要な場合には、るつぼを、保護性周囲雰囲気(例えばアルゴン)、減圧、又はこれらの対策の組み合わせによって、酸化から保護する。白金などの貴金属に関して、これは必要ではない。
【0031】
第2の工程において、混合物を1100℃超の温度にまで加熱する。温度は、反応混合物の溶融温度を超える温度である必要があり、それによって、均一な液体が得られる。一般に、第2の工程における温度範囲は、1100℃~1700℃であり、好ましくは1300℃~1600℃である。一般に、この工程の時間の長さは、60分から240分であり、好ましくは75分から180分である。
【0032】
第3の工程において、少なくとも2.0時間の期間の間に、好ましくは少なくとも3.0時間の期間の間に、混合物を、1000℃未満の温度にまで冷却する。
【0033】
第3の工程は、一般に、制御された冷却工程であり、混合物の温度を、特定の期間の間に、特定の目標温度にまで減少させる。混合物の温度は、この特定の期間の終了時に、この特定の温度に到達する。いくつかの実施態様では、この特定の期間の間に、温度が一様に減少する。
【0034】
代替的には、温度を、3以上の区間で段階的に減少させてもよい。一般に、第3の工程の期間は、2.0~36.0時間の範囲であり、好ましくは2.5~24時間の範囲である。非常に好ましい実施態様では、制御された冷却工程の期間が、2.5時間から18時間の範囲であり、さらにより好ましくは4時間~15時間の範囲である。
【0035】
制御された冷却工程の間に、混合物を、1000℃未満の温度にまで冷却する。一般に、混合物は、1100℃以上の温度から、1000℃未満の温度にまで冷却される。好ましい実施態様では、混合物を、800℃以下の温度にまで、さらにより好ましくは600℃以下の温度にまで、最も好ましくは400℃以下の温度にまで、冷却する。
【0036】
さらに好ましい実施態様では、混合物を、4~15時間の期間の間に、1100℃以上の温度から、600℃以下の温度にまで、冷却する。さらなる実施態様では、混合物を、4~12時間の間に、1600~1400℃の範囲の温度から、600~400℃以下の温度にまで冷却する。
【0037】
制御された冷却工程の後で、物質を、一般には、周囲温度にまで冷ます。
【0038】
いくつかの実施態様では、本方法が、さらなる工程を有し、この工程は、工程(iii)後に得られた物質を、水を含む水性媒体中に分散させることを含む。
【0039】
一般に、水が、水性媒体の主成分である。したがって、水性媒体は、65~100重量%、好ましくは80~100重量%の水を含有する。水に加えて、水性媒体が、他の添加剤、及び有機極性溶媒、好ましくは、水に混和性の溶媒、例えば1~4の炭素原子を有するアルコールを、含有してよい。
【0040】
一般に、水性媒体中に分散された物質の量は、0.5~20.0重量%の範囲であり、好ましくは、1.0~18.0重量%、より好ましくは1.5~15.0重量%であり、それぞれ、分散体の合計重量に基づいて計算される。
【0041】
これらの条件下で、本発明の物質は、多くの場合、自発的に、単一の薄板へと層間剥離する。
【0042】
いくつかの実施態様では、層状物質の、単一の薄板への層間剥離は、分散された物質を含有する水性媒体を50~400℃の範囲の温度にまで加熱することによって、促進できる。50~120℃の範囲の温度への水性媒体の加熱によって、非常に良好な結果が得られている。
【0043】
さらなる実施態様では、分散体を、圧力反応器中で、180~500℃の範囲の温度、好ましくは250~400℃の範囲の温度にまで加熱してよい。
【0044】
分散体は、一般的に、0.5~48時間の期間にわたって加熱される。
【0045】
熱処理あり又は無しで、水性分散体を、改善されたバリア特性を提供する配合のために用いることができる。所望される場合には、薄板(ラメラ)の分散体を、任意の層間剥離していない不純物から、液体-固体分離プロセスによって分離してよく、例えば遠心によって分離してよい。所望される場合には、層間剥離した物質を、水の蒸発によって乾燥させてよい。
【0046】
代替的な実施態様では、方法の工程(iii)の後に、物質を粉末にまで粉砕しかつこの粉末を500℃~1100℃の範囲の温度に少なくとも48時間の期間にわたって加熱するさらなる工程を、行う。この加熱工程の間における蒸発による物質の望ましくない損失を回避するために、物質を、密封された容器中に配置してよい。
【0047】
上記のように、本発明の物質は、複合材料のバリア特性を改善するために非常に適している。したがって、本発明は、また、少なくとも1つのバインダ及び本発明の物質を含有する組成物にも関する。
【0048】
バインダは、一般に、基材の上に層を形成できる物質である。
【0049】
バインダの例としては、有機ポリマー及び樹脂、プレポリマー、並びに、ポリマーを形成できるモノマーが挙げられる。バインダは、天然由来若しくは合成由来であってよく、又は、合成によって修飾された天然材料であってよい。バインダの例は、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリオレフィン、ゴム、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、多糖、ポリリジン、ポリスチレン、ポリアルキレン酸化物、及びポリエポキシド、並びにこれらの組み合わせである。
【0050】
バインダは、水性ポリマー溶液又は水性ポリマー分散体のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。水性媒体中のバインダの例は、タンパク質、多糖、ポリリジン、ポリアクリレート、ポリビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、酸化ポリオレフィン、及びマレイン酸変性ポリオレフィン、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
いくつかの実施態様では、組成物が、液体組成物であり、これを、基材に、コーティングとして適用できる。液体組成物が希釈剤としての水又は有機溶媒を含む場合には、基材への適用の後で、水又は溶媒の蒸発によって組成物を乾燥して、コーティング層を形成する。
【0052】
コーティングされる基材は、コーティング層を受容するのに適した任意の基材であってよい。適切な基材材料の例は、ポリマー、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルクロリド、及びポリオレフィン、並びに、紙、段ボール、及び金属である。いくつかの実施態様では、基材が、ポリマー箔であり、例えば、食品包装に適しているポリマー箔である。他の実施態様では、基材が、食品又は飲料をパッケージングするのに適したトレイ、容器、又はボトルの形態であってよい。さらなる実施態様では、基材が、腐食に対して保護される金属基材であってよく、例えば、鉄、鋼、若しくは銅、又はアルミニウムの基材であってよい。基材は、また、積層体の形態で存在してよく、異なる材料の2以上の層を含んでよい。さらには、コーティング層が、それ自体、複層材料における内側層又は外側層を形成してよい。
【0053】
組成物における、バインダの、本発明に係る物質に対する重量比は、一般に、3:97~97:3の範囲であり、好ましくは、7:93~93:7である。
【0054】
バインダへの本発明の物質の取り込みは、慣用的な技術によって行ってよく、例えば、混合、攪拌、押出、混練プロセス、ローターステータープロセス(Dispermat、Ultra‐Turrax等)、すりつぶしプロセス、又はジェット分散によって行ってよく、バインダの粘性に依存する。
【0055】
さらなる実施態様では、本発明は、本発明に係る物質の、コーティング層のバリア特性を改善するための使用に関する。コーティング層中に含有されるときに、本発明の物質は、コーティング層のバリア特性を大幅に向上させる。関連するバリア特性としては、コーティング層を通過するガス及び液体の透過性が挙げられる。改善したバリア特性とは、コーティング層を通過するガス及び液体の透過性が減少することを意味する。透過性が減少するガスの例としては、酸素、二酸化炭素、水蒸気、及び窒素が挙げられる。これらのガスの透過率を低減することは、食品及び飲料のパッケージングの分野で特に重要である。
【実施例
【0056】
例1
工程(a)
式Na0.5[Mg2.5Li0.5]Si4O10F2の層状物質を、炭酸ナトリウム(68.8g、純度99.9%)、炭酸リチウム(47.8g、純度99.9%)、酸化マグネシウム(159.8g、純度98.0%)、フッ化マグネシウム(161.4g、純度99.9%)、及び二酸化ケイ素(623.0g、純度99.9%)の混合物から調製した。この原材料混合物を、白金るつぼ中で1530℃に加熱して、均一な溶融物を形成し、この温度で2時間にわたって保持した。この後で、溶融物をセラミックるつぼ中に注いだ。溶融物を有するセラミックるつぼを、炉内に配置し、6時間の期間の間に400℃の温度へと冷却した。
【0057】
工程(b)
室温への冷却の後で、工程(a)で調製した層状物質3.0gを、攪拌によって、97.0gの蒸留水に分散させた。この水性分散体を、45分の期間にわたって80℃の温度にまで加熱した。その後に、約0.3gの、層間剥離していない物質を、遠心(10分間の5000rpm)によって分散体から除去した。分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残留物を粉砕して粉末にした。
【0058】
例2
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質3.0gを、攪拌によって、97.0gの蒸留水中に分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱した。加熱された分散体を、S25N 18Gの分散器を有するIKA ULTRA-TURRAX(商標)T25で、10分間の期間にわたって5000rpmの速度で処理した。その後に、約0.3gの、層間剥離していない物質を、遠心(10分間の5000rpm)によって分散体から除去した。分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残留物を粉砕して粉末にした。
【0059】
例3
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質3.0gを、攪拌によって、97.0gの蒸留水中に分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱した。加熱された分散体を、S25N 18Gの分散器を有するIKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、10分間の期間にわたって25000rpmの速度で処理した。その後に、約0.3gの、層間剥離していない物質を、遠心(10分間の5000rpm)によって分散体から除去した。分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残留物を粉砕して粉末にした。
【0060】
例4
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質10.0gを、攪拌によって、90.0gの蒸留水に分散させた。そして、この水性分散体を、圧力容器中に配置し、48時間の期間にわたって300℃の温度にまで加熱した。室温への冷却の後で、この分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残留物を粉砕して粉末にした。
【0061】
例5(比較)
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製された層状物質3.0gを、12時間にわたって23℃で43%の相対湿度に曝露し、粉砕して粉末にした。この粉末を、適切なサイズのSi3N4るつぼに充填して、スチールタイプの反応器1.4841に配置した。この反応器を、反応器と同じ材料でできている蓋を用いて閉じた。反応器が高温で耐ガス漏洩性となるように、ふたを、900℃で溶融するカリウムシリケート粉末で覆った。そして、この反応器を、炉内に配置した。炉を、3時間以内に室温から500℃にまで加熱し、12時間にわたって保持した。次に、炉を、1時間以内に1023℃にまで加熱した。炉の温度を6週間にわたって保持した。6週間後に、炉を室温にまで冷却し、粉末を反応器から回収した。
【0062】
例6(比較)
例1を繰り返した。しかしながら、均一溶融物を1530℃で2時間にわたって保持した後で、物質を、15分間の期間の間に25℃にまで冷却した。
【0063】
X線回折パターンの決定
X線回折パターンの決定の前に、上記の例の層状物質の粉末を、12時間の期間にわたって23℃で43%の相対湿度に曝露した。X線回折パターンは、Pixcel検出器を有するPanalytical EmpyreanのX線装置で決定した。サンプルを、下記の測定条件及び装置設定を用いて計測した。
【0064】
【表1】
【0065】
001ミラー指数を用いて、ピーク極大値の半値における全幅(FWHM)を決定した。FWHM値は、粉末X線回折パターンから、Panalyticalデータビュワーソフトウェアで観察した。結果を下記の表1にまとめる。
【0066】
Z平均粒子サイズの決定
層状物質のZ平均粒子サイズを、1.0重量%の層状物質を含有する、物質の水性分散体における動的レーザー光散乱によって、決定した。装置は、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern ゼータサイザーナノZS)であった。
【0067】
下記の測定及び装置設定を用いた。
【0068】
【表2】
【0069】
結果を下記の表1に示す。
【0070】
バリア特性の測定
層状シリケート物質の粉末を、完全に分散するまで攪拌下で脱イオン水に分散させた。ポリビニルアルコール(Mowiol(R) 20~98Mw 125000g/mol)の溶液を、攪拌を伴って、1時間にわたって、シリケート分散体に徐々に添加した。合計の不揮発分含有量は、3重量%であった。シリケート:ポリビニルアルコールの重量比は、10:90であった。複合物の分散体を、36μmの厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)箔にコーティングした。コーティング層の乾燥層厚は、1μmであった。コーティング層を、6時間にわたって80℃で乾燥させた。コーティングされた箔の酸素透過率OTRを、相対湿度75%でMocon Ox-Tran(1/50)タイプを用いて計測した。コーティングされた箔の水蒸気透過度WVTRを、Mocon Permatran W(1/50G)タイプを用いて、相対湿度75%で測定した。結果を表1にまとめる。
【0071】
微小角X線分光(SAXS)を介した層状物質の浸透圧膨張及び層間剥離の決定
上記の例の層状物質を、タイプDouble Ganesha AIR(SAXSLAB)の微小角回折システムで計測した。X線源は、マイクロフォーカスビームを生じる回転アノード(Cu、MicroMax 007HF、株式会社リガク)であった。空間分解検出器PILATUS 300K(Dectris AG)を用いた。計測は、1mm直径のガラスキャピラリー(ガラス番号50、Hilgenberg)中で、室温(23℃)で、かつ水中の5重量%層状物質で、行った。半径方向に平均化したデータを主ビーム及び計測時間に対して標準化し、溶媒を除去した。データ分析は、下記に従って行った:M.Stoter,B.Biersack,S.Rosenfeldt,M.J.Leitl,H.Kalo,R.Schobert,H.Yersin,G.A.Ozin,S.Forster,J.Breu,Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,4963-4967。結果を表1にまとめる。
【0072】
【表3】
*は、比較例を示す。
Laponite(商標)Bは、合成層状フルオロシリケートである。水に不溶であるが、水和し膨張して、半透明、無色のコロイド分散体を生じる。Laponite(商標)Bは、BYK-Chemie社から市販されている。
【0073】
表1から、本発明に係る例は、PET箔にコーティングされたときに、酸素及び水蒸気のバリア特性において非常に良好な向上をもたらすと結論できる。バリア特性は、比較例5の比較層状物質で得られるものと同じレベルである。層距離値d001は、水中における物質の完全な層間剥離を示す。しかしながら、本発明に係る例1~4の層状物質は、比較例5の層状物質を調製するために用いられたプロセスよりも経済的にはるかにより魅力的な方法によって調製された。比較例6は、例1と類似した様式で調製された。しかしながら、比較例6では、例1におけるよりも、冷却速度が大幅に速い。比較例6の物質は、劣ったバリア特性を提供する。これは、均一な溶融物の冷却速度が、層状シリケートの特性を大きく左右することを示す。Laponite Bは、例1~5と類似の組成を有する市販の層状物質である。この物質は、小さい粒子サイズを有する。結果として、劣ったガスバリア特性が観察された。
【国際調査報告】