IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ルーマス テクノロジー エルエルシーの特許一覧

特表2024-503111廃プラスチックの石油化学製品への変換
<>
  • 特表-廃プラスチックの石油化学製品への変換 図1
  • 特表-廃プラスチックの石油化学製品への変換 図2
  • 特表-廃プラスチックの石油化学製品への変換 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】廃プラスチックの石油化学製品への変換
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20240117BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20240117BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C10G1/10
C08J11/12 ZAB
C08J11/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543123
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-14
(86)【国際出願番号】 US2022012544
(87)【国際公開番号】W WO2022155484
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】63/138,233
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522005594
【氏名又は名称】ルーマス テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】チャクラボルティー, スディプト
(72)【発明者】
【氏名】ファーナルド, ダニエル, ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ガイモン, デビッド, リー
(72)【発明者】
【氏名】ハーバネック, ロン
(72)【発明者】
【氏名】ジブ, リチャード, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】コムズ, ジョニー, ドイル
(72)【発明者】
【氏名】リンジー, ボディ, リン
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA27
4F401BA02
4F401BA03
4F401CA03
4F401CA22
4F401CA58
4F401CA70
4F401CA75
4F401CA90
4F401CB01
4F401CB14
4F401CB18
4F401CB34
4F401DA01
4F401EA11
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC06
4H129BC12
4H129BC28
4H129BC34
4H129BC35
4H129NA19
(57)【要約】
廃プラスチックを変換するためのプロセスおよびシステムは、廃プラスチックを溶融タンクに供給し、溶融タンクで、廃プラスチックを加熱して溶融プラスチックを形成することを含む。溶融プラスチックは溶融タンクから引き出され、熱分解反応器に供給される。熱分解反応器で、溶融プラスチックは熱分解温度に加熱されて、熱分解油生成物および液体ピッチ生成物を生成する。熱分解油は、次いで熱分解ガス留分、軽質熱分解油留分、中質熱分解油留分、および重質熱分解油留分に分離される。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを変換するプロセスであって、
廃プラスチックを溶融タンクに供給すること;
上記溶融タンクで、上記廃プラスチックを加熱して加熱溶融プラスチックを形成すること;
上記加熱溶融プラスチックを上記溶融タンクから引き出し、上記加熱溶融プラスチックを熱分解反応器に供給すること;
上記熱分解反応器で、上記加熱溶融プラスチックを熱分解温度に加熱して熱分解油生成物および液体ピッチ生成物を生成すること;ならびに
上記熱分解油生成物を熱分解ガス留分、軽質熱分解油留分、中質熱分解油留分、および重質熱分解油留分に分離すること
を含むプロセス。
【請求項2】
上記廃プラスチックが、押出機から回収された部分的または完全に溶融した廃プラスチックとして上記溶融タンクに提供され、上記プロセスが、上記押出機で上記廃プラスチックを部分的または完全に溶融することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
上記熱分解反応器の温度を制御して、上記加熱溶融プラスチックの温度を、チャーまたはコークスが形成することとなる温度未満に制限することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
上記加熱溶融プラスチックを第1の部分および第2の部分に分割すること;
上記溶融タンクの上流で上記廃プラスチックと上記第2の部分を混合すること;ならびに
上記第1の部分を上記熱分解反応器に供給すること
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
上記廃プラスチックを上記溶融タンクに供給する前に、水を上記廃プラスチックから除去するのに十分な温度で上記廃プラスチックを窒素と接触させることをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
上記中質熱分解油留分を第1の部分および第2の部分に分割すること;ならびに
上記中質熱分解油の上記第1の部分を上記加熱溶融プラスチックと混合することであって、上記混合が上記溶融タンクの下流かつ上記熱分解反応器の上流で行われること
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
上記中質熱分解油留分を第3の部分に分割すること;ならびに
上記熱分解反応器から回収された上記熱分解油を上記中質熱分解油の上記第3の部分でクエンチすること
をさらに含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
上記重質熱分解油留分を第1の部分および第2の部分に分割すること;ならびに
上記重質熱分解油の上記第1の部分を上記加熱溶融プラスチックと混合することであって、上記混合が上記溶融タンクの下流かつ上記熱分解反応器の上流で行われること
をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
上記熱分解ガス留分の燃焼によって直接または間接に上記溶融タンクまたは上記熱分解反応器の一方または両方に熱を提供することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
上記溶融タンクの下流かつ上記熱分解反応器の上流でアルカリ性試薬を上記加熱溶融プラスチックと混合すること、上記加熱溶融プラスチックに含有される塩素と上記アルカリ性試薬を反応させてカルシウム塩を形成すること、ならびに上記カルシウム塩を上記液体ピッチ生成物と共に回収することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
上記溶融タンクから蒸気流を引き出すこと、ならびに場合により上記蒸気流を処理してそこに含有されるハロゲンを除去することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
廃プラスチックを熱分解するためのシステムであって、
廃プラスチック供給システムから廃プラスチックを含む供給流を受けるために構成された入口;
上記廃プラスチックを供給温度から溶融温度に加熱して溶融プラスチックを生成するために構成された加熱システム;
上記溶融プラスチックを排出するために構成された出口
を有する溶融タンクと;
上記溶融プラスチックを受けるように構成された入口;
上記溶融プラスチックを熱分解温度に加熱するように構成された加熱システム;
熱分解油を回収するための第1の出口;
ピッチ生成物を回収するための第2の出口;および
上記加熱システムを制御して、上記溶融プラスチックの温度を上記ピッチ生成物の生成のための温度に制限するように構成された制御システム
を有する熱分解反応器と
を含むシステム。
【請求項13】
上記廃プラスチック供給システムが、上記廃プラスチックを部分的にまたは溶融するための押出機を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
上記溶融タンク出口および上記熱分解反応器入口の中間に配置され、上記溶融プラスチックを、上記熱分解反応器入口に供給される第1の部分と、第2の部分とに分割するように構成されたフローライン;ならびに
上記入口の上流かつ上記廃プラスチック供給システムの下流で上記廃プラスチックと上記溶融プラスチックの上記第2の部分を混合するように構成された混合システム
をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
上記廃プラスチック供給システムが供給ホッパーおよびスクリューコンベアを含み、上記システムが、
上記供給ホッパーおよび上記スクリューコンベアの少なくとも一方に窒素を提供するための窒素供給および窒素供給ライン;ならびに
上記窒素を100℃より高い温度に加熱するために構成された窒素ヒーター
をさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
上記熱分解油を2つ以上の留分に分離するように構成された分離システムをさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項17】
上記分離システムが、上記熱分解油を熱分解ガス留分、軽質熱分解油留分、中質熱分解油留分、および重質熱分解油留分に分離するように構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
上記中質熱分解油留分の一部または上記重質熱分解油留分の一部を供給し、上記溶融プラスチックと混合するために構成されたフローラインおよび混合システムをさらに含み、上記混合システムが、上記溶融タンク出口の下流かつ上記熱分解反応器入口の上流に配置されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
上記第1の出口を介して回収された上記熱分解油を上記中質熱分解油留分の一部でクエンチするように構成されたクエンチシステムをさらに含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
上記熱分解ガス留分を燃料としてヒーターに供給するために構成されたフローラインをさらに含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
上記ヒーターが、加熱された熱交換流体を上記溶融タンク加熱システム、上記溶融タンク出口の下流かつ上記熱分解反応器入口の上流に配置された熱交換器、ならびに窒素ヒーターに提供するように構成されている、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
上記溶融タンク加熱システムが、内部溶融タンク容器の周りに配置された外部ジャケット、および上記内部溶融タンク容器内に配置された1つまたは複数の加熱コイルを含む、請求項12に記載のシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は一般に、廃プラスチックの石油化学製品、燃料、ならびに他の有用な中間体および製品への変換に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック廃棄物を回収しリサイクルする必要性に関する環境的な関心が急速に高まって来ている。しかしながら、プラスチック熱分解技術は産業界では開発の初期段階にある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書の実施形態は、廃プラスチックを石油化学製品、燃料、および他の中間体または最終製品に変換するのに有用な熱化学プロセスおよびシステムに関する。
【0004】
1つの態様において、本明細書の実施形態は、廃プラスチックを変換するプロセスに関する。本プロセスは、廃プラスチックを溶融タンクに供給し、上記溶融タンクで、上記廃プラスチックを加熱して溶融プラスチックを形成することを含む。上記溶融プラスチックは、上記溶融タンクから引き出され、熱分解反応器に供給される。上記熱分解反応器で、上記溶融プラスチックは熱分解温度に加熱されて、熱分解油生成物および液体ピッチ生成物を生成する。上記熱分解油は、次いで熱分解ガス留分、軽質熱分解油留分、中質熱分解油留分、および重質熱分解油留分に分離される。
【0005】
別の態様において、本明細書の実施形態は、廃プラスチックを熱分解するためのシステムに関する。本システムは、廃プラスチック供給システムから廃プラスチックを含む供給流を受けるために構成された入口を有する溶融タンクを含む。また、上記溶融タンクは、上記廃プラスチックを供給温度から溶融温度に加熱して、溶融プラスチックを生成するために構成された加熱システム、ならびに上記溶融プラスチックを排出するために構成された出口を含む。廃プラスチックを熱分解するためのシステムはまた、上記溶融プラスチックを受けるように構成された入口を有する熱分解反応器、および上記溶融プラスチックを熱分解温度に加熱するように構成された加熱システムの他、熱分解油を回収するための第1の出口も含む。上記熱分解反応器は、ピッチ生成物を回収するための第2の出口をさらに含む。上記システムは、上記加熱システムを制御して、上記溶融プラスチックの温度を上記ピッチ生成物の生成のための温度(顕著なチャーまたはコークスが形成することとなる温度未満)に制限するように構成された制御システムをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本明細書に開示された1つまたは複数の実施形態によるシステムの簡略化したプロセスフローチャートを示す。
図2】本明細書に開示された1つまたは複数の実施形態によるシステムの簡略化したプロセスフローチャートを示す。
図3】本明細書に開示された1つまたは複数の実施形態によるシステムの簡略化したプロセスフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書の実施形態は、廃プラスチックを有用な石油化学製品、燃料、および他の中間体または最終製品に変換する熱化学プロセスに関する。本明細書の実施形態はまた、熱分解反応器の設計および制御にも関する。
【0008】
熱分解により廃プラスチック熱分解油を形成し得るポリマーには、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、およびエラストマーが含まれ得る。例えば、熱分解を受けて廃プラスチック熱分解油を形成する廃棄物材料として、他にも多数ある熱可塑性樹脂のなかでも、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリベンゾイミダゾール、ポリ乳酸、ナイロン、およびアクリルポリマー(例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA))が挙げられる。また、本明細書で有用な廃プラスチック熱分解油は、ポリブタジエン、イソプレン、スチレン-ブタジエン、エチレン酢酸ビニル、およびその他諸々のような当技術分野で公知の様々な不飽和または飽和エラストマーおよびゴムからも形成され得る。本明細書の実施形態は、上に挙げたものや他の当技術分野で公知のものも含め、いくらかの量のヘテロ原子含有ポリマーを処理するのに十分堅牢であり得るが、得られる廃プラスチック熱分解油のヘテロ原子含量は、典型的には2wt%未満、例えば1wt%未満または0.5wt%未満であるべきである。
【0009】
廃プラスチックは、本明細書の実施形態によるシステムを用いて熱分解油に変換できる。該システムは、基本の構成要素として溶融タンクおよび熱分解反応器を含んでもよい。また該システムは、以下に記載するように、廃プラスチック供給システム、熱分解油分離システム、および1つまたは複数の加熱システムも含んでもよい。
【0010】
一般に、廃プラスチック供給システムは、廃プラスチック供給物を溶融タンクに提供するように構成されたシステムであり、多くの異なる構成が使用できるので特に制限されることはない。いくつかの実施形態において、廃プラスチック供給システムは供給ホッパーを含んでもよく、このホッパーは、チップ、ペレット、フレーク、弱繊維(attenuated fiber)、破砕プラスチック(shredded plastic)の形態、およびリサイクル業者または他の廃プラスチック供給業者から受け得る他の廃プラスチック形態などのある量の廃プラスチックで満たされてもよい。供給ホッパーは、廃プラスチックを溶融タンクに計量搬送するためのスクリューコンベアまたはその他の手段と流体連結されてもよい。いくつかの実施形態において、廃プラスチック供給システムは、単軸式または二軸式であってもよい押出機を含んでもよく、モーターにより回転スクリューに供給される機械エネルギーの粘性消散によって廃プラスチックを加熱し、部分的または完全に溶融してもよい。
【0011】
一般に、溶融タンクおよび熱分解反応器に供給される水および酸素の量を制限することが望ましい。スクリューコンベアおよび/または供給ホッパーまたは関連のフローラインを高温窒素供給システムに接続して、水を除去するのに十分であるがポリマーを溶融するほど高くはない温度にポリマーが加熱されるようにすることで、水蒸気および置換され得る酸素を含有する窒素流を排気してもよい。
【0012】
乾燥した廃プラスチックは、次いで溶融タンクに供給してもよく、そこで廃プラスチックは、プラスチックを溶融するのに十分であるが廃プラスチックの著しい変換を避けられるほど十分低い温度に加熱される。これは、熱分解反応器での変換による反応および得られる反応生成物を制御することが好ましいからである。いくつかの実施形態において、廃プラスチックは、押出機で加熱されてもよく、加熱されて部分的または完全に溶融した状態で溶融タンクに供給されてもよい。廃プラスチックは、次いで溶融タンクで約200℃~約375℃の範囲、例えば約300℃の温度に加熱またはさらに加熱されてもよい。溶融プラスチックの温度は、プラスチックを溶融し所望の粘度の溶融プラスチックを提供して、単位操作間の輸送を容易にするほど十分高いが、上記の通り、溶融タンク内でのプラスチックの変換を制限または回避できるほど十分低くするべきである。
【0013】
溶融タンクは撹拌槽であってもよい。該槽は、廃プラスチック供給システムから廃プラスチックを含む供給流を受けるための入口、ならびに得られる溶融プラスチックを搬送または排出するための出口を含んでもよい。溶融タンクはまた、溶融タンクで生成されたまたは廃プラスチックから放出されたガス、例えば、供給物に同伴され得るものまたは廃プラスチックの加熱により生じ得るものを排気するための蒸気出口も含んでもよい。溶融タンク槽は、廃プラスチックを供給温度から溶融温度に加熱するための加熱システムを含んでもよい。加熱システムは、廃プラスチックを溶融するための熱を提供する外部ジャケットおよび内部コイルの一方または両方を含んでもよい。
【0014】
廃プラスチックの溶融後、溶融プラスチックは、溶融プラスチックを熱分解油生成物およびピッチ生成物に変換するための熱分解反応器に供給されてもよい。熱分解反応器は、溶融プラスチックを受けるように構成された入口、熱分解油を回収するための第1の出口、およびピッチ生成物を回収するための第2の出口を含んでもよい。熱分解反応器はまた、溶融プラスチックを入口温度から熱分解温度に加熱するように構成された加熱システムも含んでもよい。溶融プラスチックは、熱分解反応器内で、例えば、約350℃~約700℃、例えば約370℃(700°F)~約675℃(1250°F)、例えば350℃(662°F)~550℃(1022°F)の範囲の温度まで、約0.3barg(4psig)~約1.4barg(20psig)の範囲、例えば約0.4barg(6psig)の圧力で加熱されてもよい。
【0015】
加熱に伴い、溶融プラスチックは短鎖の石油炭化水素に分解されてもよく、これを回収し、分離システムで分離することができる。本明細書の実施形態がピッチ生成物を生成し、したがってプラスチックの熱分解により形成されるコークスまたはチャーの量を制限することが望ましい。熱分解反応器内での溶融プラスチックの加熱は、いくつかの実施形態において1wt%未満;他の実施形態において0.5wt%未満;さらに他の実施形態において0.2wt%未満の廃プラスチックしかコークスまたはチャーに変換されないように制限または制御してもよい。チャー形成を制限することで、極めて長い反応器稼働時間ならびにより価値が高いピッチ生成物の生成が提供されてもよい。制御システムは、熱分解反応器加熱システムを制御することにより、ピッチ生成物の生成に優先的であり、かつ顕著なチャーまたはコークスが形成することとなる温度未満である加熱プロファイルまたは加熱温度を提供するために提供されてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、熱分解反応器加熱システムは予熱ゾーンおよび反応ゾーンを含んでもよい。予熱ゾーンは、低い変換率、例えば5~20wt%の変換率、例えば10wt%の変換率(本明細書での変換率は、断りのない限りwt%である)を標的にして、溶融プラスチックを第1の熱分解温度まで加熱するように構成されてもよい。予熱ゾーンの後、溶融プラスチックを反応セクションで処理して、プラスチックのかなりの部分を熱分解油に変換してもよい。熱分解温度および滞留時間は、30wt%~80wt%の変換率の範囲、例えば70wt%の変換率の反応ゾーン変換率を標的にしてもよい。熱分解ガスおよび熱分解油への廃プラスチックの全変換率は、いくつかの実施形態において、例えば、80wt%超、85wt%超、90wt%超、最大で95wt%または97wt%までであってもよく、廃プラスチックの残りはピッチ生成物として熱分解反応器から回収してもよい。
【0017】
熱分解反応器から回収した熱分解油は、熱分解反応流出物を2つ以上の留分に分離するための分離システムに供給されてもよい。分離システムは1つまたは複数の蒸留塔を含んでもよい。また、プレフラッシュ(pre-flash)タンクは、熱分解反応器流出物を、蒸留塔に供給される液体供給物および蒸気供給物に分離するために提供されてもよい。いくつかの実施形態において、熱分解反応器から回収した熱分解反応生成物は、沸点に基づいて熱分解ガス留分、軽質熱分解油留分、中質熱分解油留分、および重質熱分解油留分に分離されてもよい。
【0018】
ポリマーの混合および溶融を促進するために、本明細書の実施形態は、溶融タンク出口および熱分解反応器入口の中間に配置され、溶融プラスチックを第1の部分および第2の部分に分割するように構成されたフロースプリッターを含んでもよい。第1の部分は、熱分解反応器入口に供給されてもよい。第2の部分は、溶融プラスチックの第2の部分を廃プラスチックと混合するように構成された混合システムに供給されてもよい。混合システムは、スクリューコンベアで廃プラスチック固体を溶融プラスチックと混合することなどにより、廃プラスチック供給システムの一部として構成されてもよく;他の実施形態において、混合システムは、溶融タンク入口の上流かつ廃プラスチック供給システムの下流に配置されてもよい。
【0019】
いくつかの実施形態において、熱分解反応器からの回収および分離システムの中間で、熱分解反応流出物がクエンチされてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、中質熱分解油または重質熱分解油をクエンチ媒体として使用することにより、熱分解反応器流出物の温度を低下させ、分離システムへの輸送中にさまなければ起こり得る反応を減速または停止させてもよい。このようにして、プラスチックの過度の熱分解および熱分解ガスの過剰な生成を回避することにより、より高い液体熱分解油回収率をもたらしてもよい。したがって、本明細書のシステムは、中質または重質熱分解油を第1および第2の部分に分割するためのフロースプリッター(単一のティー(tee)またはパイプ/バルブであってもよい)、ならびに上記部分のうち一方を熱分解反応器から回収した熱分解反応生成物と混合するためのクエンチシステムを含んでもよい。
【0020】
溶融タンクから回収した溶融プラスチックの輸送可能性を高めるために、本明細書のプロセスは、溶融プラスチックを重質または中質熱分解油の一部と混合することを含んでもよい。例えば、フロースプリッターを用いて重質熱分解油を分割してもよく、重質熱分解油の一部を希釈剤としてリサイクルし、混合システム(例えば、フローティー、静的ミキサー、または小さい撹拌槽であってもよい)で溶融プラスチックと混合してもよい。他の実施形態において、例えば、フロースプリッターを用いて中質熱分解油を分割してもよく、中質熱分解油の一部を希釈剤としてリサイクルし、混合システムで溶融プラスチックと混合してもよい。混合システムは、溶融タンクの下流かつ熱分解反応器の上流に配置してもよい。いくつかの実施形態において、混合システムは、溶融タンクおよび溶融プラスチックフロースプリッターの中間に配置される。
【0021】
いくつかの実施形態において、熱交換器も、溶融プラスチックを溶融タンクから熱分解反応器に輸送するフローラインに設けられる。熱交換器は、溶融プラスチックを加熱するかまたはその温度を維持して、下流のシステムへの流動性を維持するように構成されてもよい。溶融プラスチックを所望の温度に維持するために、リサイクルした中質または重質熱分解加熱との混合後に加熱が必要な場合もある。
【0022】
上に概略したように、本明細書のシステムは、加熱ジャケットおよび加熱コイルを有する溶融タンク、窒素ヒーター、ならびに溶融プラスチック熱交換器を含んでもよい。熱は、熱交換媒体を用いてそれらの各々に提供されてもよい。熱交換媒体は、例えば、燃焼または電気加熱システムを用いて加熱されてもよい。燃料が燃焼加熱システムに供給されてもよく、外部燃料供給であってもよく、または内部燃料供給、例えば分離システムから回収した熱分解ガスであってもよい。熱交換媒体は、閉ループ系を介して提供されてもよく、熱交換媒体は、燃焼ヒーターから各々それぞれのユーザーに所望の速度で循環され、次いで連続加熱、循環、および使用のために燃焼ヒーターに戻されてもよい。
【0023】
塩素およびその他のハロゲンを含有するポリマー、例えばPVCを処理するシステムの場合、本明細書の実施形態は、ハロゲンと反応し、その除去を容易にする試薬を提供するための薬品注入システムを含んでもよい。無機および有機塩化物およびその他のハロゲン化物(フッ化物、臭化物)は、あらゆる種類のプラスチック中に通常存在し、典型的には添加剤、結合剤、難燃剤、および残留触媒として存在するが、それらに限定されない。これらのハロゲン化物は、溶融タンクで解離して塩化またはフッ化または臭化水素を形成することにより部分的に除去され、溶融タンクまたは溶融蒸気分離器からベントガスとして回収され、塩化物除去システムを用いて処理される。残るハロゲンは、その場のアルカリ性薬品注入によって除去されてもよい。薬品注入は、ポリマー溶融物中に、例えば熱分解反応器の上流でまたは直接熱分解反応器中に行ってもよい。典型的には無水石灰、苛性ソーダ、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、または酸化マグネシウムであるがそれらに限定されないアルカリ性薬品がこの目的で使用される。例えば、アルカリ性薬品のスラリー相溶液が調製され、熱分解反応器中に注入され、そこでは500°F~1000°Fの範囲の温度および5分~60分の範囲の滞留時間が提供されて、有機ハロゲン化物がアルカリ性薬品と反応して塩を形成し、それにより熱分解生成物油およびガスから除去される。生成したアルカリ性塩および未反応のアルカリ性薬品は、熱分解反応器底部からピッチと共に抽出される。
【0024】
いくつかの実施形態において、アルカリ性薬品注入システムは、石灰スラリーを形成するための石灰供給システムを含んでもよい。石灰スラリーは、例えば、石灰を重質または中質熱分解油の一部と混合することにより形成されてもよい。石灰スラリーは、次いで、石灰スラリーを溶融プラスチックと混合するための混合システムに供給されてもよい。石灰混合システムは熱分解反応器の上流に配置されてもよく、いくつかの実施形態においては溶融プラスチックフロースプリッターの下流に配置される。フローラインおよび熱分解反応器で、石灰は溶融プラスチックに含有される塩素と反応して塩化カルシウムを生成し得るが、これがピッチ生成物と共に熱分解反応器から回収されてもよい。他のアルカリ性薬品注入試薬が同様にして使用されてもよい。
【0025】
本明細書の実施形態による熱化学プロセスの簡略化したプロセスフローチャートを図1に示す。プラスチック廃棄物供給物10は、プラスチックの熱分解油への変換のための熱分解反応領域20に供給されてもよく、該熱分解油には、各種の炭化水素、例えば軽質(C1~C4)炭化水素、ナフサ範囲の炭化水素、ディーゼル範囲の炭化水素、およびそれより重質の炭化水素、場合によってはピッチまでが含まれてもよい。ピッチは副生成物流12として回収されてもよく、残る変換生成物は熱分解油14として回収されてもよい。熱分解油14は、次いで、熱分解油を各種の炭化水素留分、例えば上述の軽質炭化水素15、ナフサ16、ディーゼル18、および重質油留分19に分離するための蒸留および分離領域22に供給されてもよい。軽質炭化水素15の一部または全部、例えばC1またはC1~C2またはC1からC3、C4、C5、C6、またはC7までの炭化水素は、反応器に付随するバーナー(図示していない)および/またはヒーター(同じく図示していない)の燃料として使用するために熱分解反応領域20にリサイクルされてもよい。より重質の生成物も、必要に応じてまたは必要ならば、熱分解反応領域20にリサイクルされてもよく;例えば、以下にさらに記載するように、ナフサ、ディーゼル、または重質油留分は熱分解反応領域20に供給され、希釈剤流またはクエンチ流として使用されてもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、熱分解ユニットのためのプロセス機器はモジュール化された形態であってもよい。プロセスモジュールは、トラックまたは鉄道により輸送してもよく、現場で組み立ててもよい。モジュール化によって、厳密な品質管理を工場条件下で達成することができる。またモジュール化によって、コストおよびスケジュール要件がより予測可能となり、超過を最小限度にすることも確保される。
【0027】
本明細書の実施形態は、各種グレードのガスおよび液体生成物を生成するためにプラスチック供給原料の熱化学分解(熱分解)に依拠する。固体プラスチック粒子は、溶融タンク、その後連続して反応器に導入される。これらの容器の各々が熱的に加熱される。溶融タンクの場合、熱は循環する高温熱流体流により提供される。反応器は、低融点金属のジャケットで覆われていてもよい容器壁にバーナー煙道ガスを直接衝突させる一連のガス燃焼バーナーにより熱的に加熱される。ジャケット内部の金属が溶融して均一な加熱を提供する。
【0028】
本プロセスの熱的機構は本質的に非触媒的であり、プラスチック供給原料中のポリマー結合を熱分裂により破断する。
【0029】
熱分解の程度は溶融タンクおよび反応器の温度に関係している。一般に、温度が高いほど、供給原料プラスチックの熱分解量が多くなり、生成物の分子量は低くなる(すなわち、ポリマー鎖がより少ない炭素原子のより小さい断片に分割される)。したがって、使用されるプロセス温度は、高過ぎる(その結果、より多いガス発生量およびより軽い低粘度液体生成物となる)か、低過ぎる(その結果、より少ないガス発生量およびより重い高粘度液体生成物となる)かのバランスをとることになる。
【0030】
供給原料プラスチックの組成の変化は、溶融タンクおよび反応器を動作させるための好ましい温度に影響する。特に、供給原料中のPVCならびに高密度PPおよびPEの量が増えると、温度を上昇させる必要がある。同様に、供給原料中のPVCの量が減ると共に低密度PPおよびPEの量が増えると、より低いプロセス温度の使用が可能となる。
【0031】
溶融および熱分解の後、本明細書の実施形態は、次いで分別を用いてガスおよび液体を所望の生成物流に分離する。本明細書の実施形態は、以下の生成物リスト:(i)燃焼性熱分解ガス;(ii)未処理の天然ナフサまたはガソリンと類似の物理的および化学的特性を有するより軽質の液体生成物;(iii)未処理のディーゼルおよび重油と類似の物理的および化学的特性を有するより重質の液体生成物;ならびに(iv)他の精製プロセス由来のアスファルテンとブレンドすることができる重質液体ピッチ生成物を提供してもよい。
【0032】
本明細書の実施形態の1つの利点は、プラスチック供給原料組成および容量の変動に対処するためのその単純さおよび柔軟性である。さらに、本明細書のプロセスの実施形態は触媒または添加剤の添加を必要としないので、本プロセスは、生成物収量および特性を管理するために、かなり単純で基本的なプロセス制御(すなわち、温度)しか必要としない。
【0033】
必要であれば、プロセス温度は、プラスチック供給原料の組成の変化を反映するように調整することができる。同時に、プラスチック供給原料中のPVCおよびPETの量は最小限にするべきである。PVCプラスチックは溶融および分解させるのがより困難であり;また分解生成物は塩素ガスを放出する(これは溶融タンクから排気され、次いで水と接触することにより除去される)。また、残留する塩素は、最終的に液体生成物流を汚染することになる可能性もあり、望ましくない。PET分解は、酸素化物を生成物流中に放出する傾向があり、これも望ましくない汚染物質である。
【0034】
ここで図2を参照すると、本明細書の実施形態に従ってプラスチック廃棄物を変換するためのシステムの簡略化したプロセスフローチャートが示されている。破砕プラスチック10は、溶融タンク40の頂部付近に位置する供給領域に移されてもよい。次いでプラスチックは、供給原料オーガー(auger)(図示していない)を通して溶融タンク40に向けられる。いくつかの実施形態において、供給原料オーガーは押出機と取り替えてもよく、または押出機をさらに含んでいてもよく、プラスチック供給原料は押出機の作用により加熱されてもよい。溶融タンクに供給される前に、破砕プラスチックは、溶融タンクの底部からリサイクルされた溶融プラスチック42の一部と合わせてもよい。次いで、合わせたプラスチック供給物は、溶融タンク内で、例えば232℃~343℃(450°F~650°F)、例えば300℃(573°F)の温度に加熱される。該タンクは、溶融タンクの外部タンクジャケット(図示していない)および内部コイル(図示していない)を通って循環する高温熱流体を用いて温度を上げてもよい。あるいは、該タンクは、電気加熱素子により、または加熱ジャケット中で循環する高温煙道ガスにより加熱されてもよい。溶融プラスチックは、内部溶融タンク撹拌機(図示していない)により十分に混合されてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、溶融ポリマー41は、次いで溶融タンク40から回収され、ポンプで送られ、さらに溶融熱交換器(図示していない)で高温熱流体に対して加熱され、溶融蒸気分離器(図示していない)に供給されてもよい。分離器への供給温度は、溶融熱交換器への高温熱流体の量を制御することにより設定されてもよい。溶融タンクで生成した蒸気は、溶融ポリマーから分離されるオフガスとして回収されてもよい。いくつかの実施形態において、重質熱分解液体生成物76Bおよび/または中質熱分解液体生成物74Bは、希釈剤として使用されてもよく、リサイクルされ、溶融タンク内で溶融プラスチックに加えられるか、または熱分解反応器44の上流の適切な位置で加えられる。この希釈剤はまた、熱を直接プラスチック溶融物に提供することにより、固体プラスチックを溶融するのに必要とされる全熱負荷(heat duty)を補う。リサイクル希釈剤の濃度は、入熱を最適化し、溶融プラスチック流を維持するために変化させる。
【0036】
次いで、溶融プラスチックの第1の部分43は、熱分解反応器44の入口に向けられてもよく、そこでさらに加熱され熱分解されてもよい。ポンプで送られた溶融プラスチックの第2の部分42は、例えば溶融熱交換器で加熱された後、リサイクルされて溶融タンクに戻され、供給パッケージからの新鮮なプラスチックと合わせられてもよい。
【0037】
溶融タンクおよび/または溶融蒸気分離器(図示していない)から回収されたベントガス45は、合わせられ塩化物除去システムに向けられてもよい。塩化物除去システムは、塩化水素を完全に中和するかまたは塩酸の副生成物を生成するために苛性洗浄塔または水洗浄塔を含んでもよい(図示していない)。塩化物はベントガス流に存在してもよく、分離塔70から塔頂コンデンサー72への塔頂蒸気68と合わせる前に除去されてもよい。
【0038】
溶融プラスチック43は、熱分解反応器で供給分配器にゆっくり供給されてもよく、そこで溶融プラスチックは上部熱分解反応器撹拌機(図示していない)の助けによりダウンフロー内壁上で加熱される。いくつかの実施形態において、内壁は先細りになっていてもよい。上記した通り、アルカリ性試薬も熱分解反応器に導入されてもよい。溶融プラスチックは、外部ジャケットを通って循環するガスバーナー由来の高温煙道ガスにより、約4psig~約20psigの範囲、例えば約6psigの圧力で、例えば、約700°F~約1250°F、例えば662°F~1022°Fの範囲の温度に加熱されてもよい。加熱に伴い、溶融プラスチックは短鎖の石油炭化水素に分解されてもよく、これを蒸留および分離領域22で分離することができる。
【0039】
本明細書の実施形態による熱分解反応器は、以下の2つのゾーン:第1のセクションおよび第2のセクションに分割されてもよい。第1のセクションは、5~20%の変換率、例えば10%の変換率などの低い変換率を標的にする予熱ゾーン、および30%~80%の変換率、例えば40%~70%の変換率、例えば約60%の変換率(重量基準)を標的にする反応ゾーンを含んでもよい。第2のセクションは、上記した温度で動作する液体生成物最大化ゾーンであり、そこで最終の変換がより長い滞留時間で完了する。第2のセクションの温度は、コークス化を避けて、液体ピッチ生成物の生成に有利となるように制御されてもよい。下部熱分解反応器撹拌機(図示していない)は、ピッチ生成物を混合し、また反応器の壁および底部上の固体を除去する。
【0040】
いくつかの実施形態において、分離システムは1つまたは複数の蒸留塔を含んでもよい。いくつかの実施形態において、分離システム22は、他の構成要素の中でも特にプレフラッシュドラムおよび1つまたは複数の蒸留塔を含んでもよい。いくつかの実施形態において、熱分解蒸気生成物46は、熱分解反応器44から引き出されるが、熱分解反応器蒸気クエンチミキサーにおいて、分離塔70のサイドドロー(side draw)74から回収した冷却された中質熱分解カット液体74aの一部によりクエンチされる。クエンチされた熱分解蒸気48は、次いで分離塔70に供給される前にプレフラッシュドラム(図示していない)に送られる。蓄積を防ぐために、反応器の底部からの高温ピッチ生成物50が除去され、熱分解反応器底部オーガー(図示していない)を介してピッチドラム(図示していない)に送られる。熱分解反応器からのピッチ生成物は、プレフラッシュドラム(図示していない)からの重質熱分解カット液体のスリップストリーム(図示していない)により冷却されてもよく、これは幾分ピッチ生成物の粘度も低減する。ピッチドラムは、周囲の空気によって、約400°F未満であるが軟化点より高い温度に冷却されてもよい。
【0041】
熱分解反応器44の塔頂からのクエンチされた熱分解生成物48は、蒸留および分離領域22でプレフラッシュドラム(図示していない)に供給されてもよい。プレフラッシュドラムから脱落する重質熱分解カット液体は、ポンプで送られ分離塔70底部76と合わせられてもよい。また、このプレフラッシュドラムからの重質熱分解カット液体の一部は、ピッチドラム(図示していない)に送り戻され、上記の通り熱分解反応器からのピッチ生成物を冷却し、その粘度を低減してもよい。フラッシュドラムの塔頂は、供給物として分離塔に供給される。分離塔は、頂部セクションのバルブトレイ、中央セクションの充填層、および底部セクションのバッフルトレイからなっていてもよい。該塔の基本的な目的は、熱分解反応器流出物48を熱分解ガス78、軽質熱分解カット80、中質熱分解カット74、および重質熱分解カット76に分離することである。
【0042】
分離塔70の塔頂蒸気68全体が、苛性ドラム(図示していない)からの処理されたベントガス流45と合わせられ、これは次いで塔頂コンデンサーで冷却水に対して部分的に凝縮された後に還流ドラム72に入る。次いで、還流ドラムからの軽質熱分解液体カットが、軽質熱分解カットポンプにより送られ、一部80Rが還流液として塔の頂部に送り戻される。残りの軽質熱分解生成物80は、生成物として回収され、いくつかの実施形態においては、酸化防止剤がこの流れに注入される。いくつかの実施形態において、軽質熱分解生成物は、分離塔の上部トレイからサイドドローとして引き出されてもよく、かかる実施形態において、該塔は全還流で動作してもよい。
【0043】
還流ドラム72からの軽質炭化水素および非凝縮物78は、熱分解ガスコンプレッサーパッケージ(図示していない)に送られ、そこで圧縮され、次いで冷却される。冷却された熱分解ガスは、次いで熱分解ガスアキュムレーター(図示していない)に送られ、そこで、始動および運転停止時に必要とされ得るものなどの燃料ガス補給物と混合されてもよい。アキュムレーターからのオフガスは、次いで熱流体パッケージ(図示していない)および熱分解反応器バーナー(図示していない)に送られて燃料ガスとして使用される。
【0044】
中質熱分解カット生成物は、サイドドロー74として分離塔70の中央セクションから引き出される。中質熱分解生成物74は、次いでポンプで送られ、一部74aがリサイクルされて分離塔に戻されて、蒸気供給物を冷却される前に洗浄する。中質熱分解カット冷却器(図示していない)が残る残部を冷却してもよく、残る残部の一部は、リサイクルして熱分解反応器蒸気クエンチミキサーに戻して熱分解反応器蒸気のためのクエンチ液体として使用してもよい。残る部分は生成物として回収されてもよく、酸化防止剤をこの流れに注入することができる。
【0045】
塔リボイラー負荷は、リボイラー(図示していない)で循環する高温熱流体により提供してもよい。重質炭化水素の混合物である塔底部からの重質熱分解カット生成物76は、ポンプで送られ、次いでプレフラッシュドラムからの重質熱分解カットと合わせられ、重質熱分解カット冷却器(図示していない)により冷却された後に貯蔵に送られてもよい。
【0046】
上記したように、重質熱分解カット生成物76の一部76Bおよび/または中質熱分解カット74の一部76Bは、リサイクルされて溶融タンク、または溶融セクションの適切な位置に戻され、溶融タンク40から回収された溶融プラスチックと混合されてもよい。
【0047】
熱分解ガス78またはその一部は、高温熱流体加熱システム(図示していない)のバーナーおよび熱分解反応器バーナー(図示していない)を燃焼させるのに使用されてもよい。しかしながら、生の熱分解ガスはオレフィンおよびジオレフィンを含有し得る。いくつかの実施形態において、生の熱分解ガスは、冷却してから分別することでC2またはC3よりも重質の全ての化合物を回収することができる。他の実施形態において、生の熱分解ガス生成物流78全体を圧縮し、生成物として回収してもよい。
【0048】
上記したように、本明細書の実施形態によるシステムはモジュール式であってもよい。いくつかの実施形態において、該システムは、3つ以上のモジュール、例えば、(1)溶融タンクおよび関連機器、(2)熱分解反応器および関連機器、ならびに(3)分離セクションおよび関連機器を含むように構築されてもよい。他の様々な貯蔵タンク、コンプレッサー、熱流体加熱システム、およびシステムのその他の部分も、1つまたは複数の追加のモジュールに含まれてもよい。また、モジュールは、土台にアンカーボルトで固定されるように設計されてもよい。さらに、モジュールは、ユーティリティー、例えば電力、冷却水、天然ガス、供給原料導入、生成物などのための適切な接続点が設けられていてもよい。
【0049】
ここで図3を参照すると、本明細書の実施形態に従う供給システム、溶融タンク、およびベントガス分離器の簡略化したプロセスフローチャートが示されている。破砕プラスチック(チップ、塊、ペレット、小繊維、またはその他の容易に流動する形態で提供され得るもの)などの廃プラスチック302が供給ホッパー304に供給されてもよい。加熱された窒素の小さい連続流306が供給ホッパー304に供給されて、供給廃プラスチックに付随する水分を除去すると共に、溶融タンク308への酸素(空気)進入も防ぐ。例えば、窒素供給物は、窒素ヒーター307で高温熱流体330Aを用いて60℃超または100℃超などの温度に加熱されてもよい。湿った窒素流312は、供給ホッパー304から排気されるが、いくつかの実施形態において、大気に排気されてもよい。乾燥した廃プラスチックは、次いで供給原料オーガー310を通して溶融タンク308に向けられるが、この供給原料オーガーは、所望の速度で溶融タンクへとフローライン311を介して破砕プラスチックを計量するのに使用されてもよい。
【0050】
溶融タンク308に供給される前に、破砕プラスチック311は、溶融タンク308で溶融され、その底部からフローライン318を介して回収されたプラスチックの一部であってもよいリサイクルされた溶融プラスチックの一部316と合わせられる。合わせたプラスチック供給物317は、次いで溶融タンク308内で、廃プラスチックを溶融するのに十分な温度、例えば250℃~350℃の範囲、例えば300℃の温度に加熱され、溶融プラスチックは、フローライン318を介して引き出し下流の機器へ輸送するのに十分な流動性(十分低い粘度)を有する。
【0051】
溶融タンク308は、熱流体パッケージ328からの高温熱流体330を用いて温度を上げてもよい。図3に示されているように、溶融タンクは、外部溶融タンクジャケット308Jを通って高温熱流体の一部330Cを循環させること、ならびに内部加熱コイル308Cを通って高温熱流体の一部330Bを循環させることによって、温度を上げてもよい。熱流体330の使用は、溶融タンクのあらゆる箇所での最高表面温度を制限し、これは、溶融タンク308でのコークス形成を最小限または無にするのに役立ち得る。溶融プラスチックは、溶融タンク308内で内部溶融タンク撹拌機320により混合される。
【0052】
フローライン318を介して溶融タンクから引き出された溶融プラスチックは、次いで溶融熱交換器322で高温熱流体330Dに対して、例えば325℃~375℃の範囲、例えば350℃の温度にさらに加熱される。得られる加熱ポリマー溶融物は、上記したように、溶融タンク308にリサイクルされる部分316と、下流で溶融蒸気分離器340および下流の処理(図示していない)、例えば廃棄ポリマー溶融物をより軽質の炭化水素に変換するための熱分解反応器に供給されてもよいポリマー溶融物部分324とに分割されてもよい。
【0053】
いくつかの実施形態において、重油、または下流の熱分解反応器で生成した熱分解油の中質もしくは重質カットなどの溶媒が、フローライン342を介して供給され、溶融タンク308から引き出された溶融ポリマー318と混合されてもよい。リサイクルされた熱分解油は、プラスチックを溶融するのに役立ち得るが、これは、反応器での上首尾の熱分解への最初の一歩である。プラスチックは非ニュートン液体で粘性が高い。プラスチックをタンクで加熱し均一に保つのは非常に困難である。プラスチックの粘度は、プラスチックポリマーの分子量、撹拌機およびその他の機械的応力に起因する剪断速度、ならびに温度と共に大きく変化する。所望の溶融温度以下でプラスチックレオロジーの幅広い変動を制限するために、適切な溶媒342を溶融タンク308で溶融プラスチックと混合することができる。溶媒342は、熱分解プロセスからの液体生成物のいずれか(インハウス溶媒)または外部源に由来することができる。いくつかの実施形態において、該溶媒は、新鮮な廃プラスチック311供給量の10~30%(重量)の流量で提供される。さらなる利点として、該溶媒を使用すると、プラスチック粘度が低減され、溶融タンクでの熱伝達が改善される。
【0054】
上記したように、ポリマー溶融物は、溶融蒸気分離器340に入る前に交換器322で加熱される。溶融蒸気分離器340への供給温度は、らせん型熱交換器であってもよい溶融熱交換器322への高温熱流体の量を制御することにより設定される。処理されるポリマーに応じて、石灰344をスラリー相として溶融蒸気分離器340に注入して、無機および有機塩化物を溶融プラスチック供給物から除去してもよい。酸化カルシウムは、反応器内の塩化物と反応して塩化カルシウムを形成し、これは、次いでピッチと共に反応器から除去されることとなる。分離器340の底部からフローライン346を介して回収された溶融プラスチックは、次いで熱分解反応器(図示していない)に向けられ、そこで図1および2に関して上に記載したように加熱され熱分解され処理される。
【0055】
溶融タンクからのベントガス348および溶融蒸気分離器からのベントガス350は、合わせられベントガス冷却器(図示していない)に向けられてもよい。冷却されたベントガスは、ワックス油分離器(図示していない)に送られてもよい。凝縮した炭化水素/ワックス油は、ワックス油分離器ドラムで、冷却されたベントガスから分離される。液体炭化水素/ワックス油は、熱分解反応器の下流の分離塔に送って炭化水素を回収してもよい。合わせたベントガス流中に存在する塩化物は、水洗浄により除去された後、熱分解反応器の下流の分離塔からの塔頂蒸気と合わせられてもよい。また、反応器に加えられた石灰は、除去するのが困難な有機塩化物を除去することで、熱分解生成物中の塩化物を非常に低いppmレベルとする。
【0056】
反応器への石灰またはその他のアルカリ性注入は、生成物の塩化物仕様を満たすために使用されてもよい。PVC由来などの供給物に付随する塩化物は、有機および無機塩化物の両方である。溶融タンク条件で解離される無機および有機塩化物の一部は、溶融タンク蒸気と共に除去されるが、除去するのがより困難な他の塩化物は、熱分解反応器でCaO(石灰)などのアルカリ性試薬と反応して、塩化カルシウム(CaCl)などの塩を形成する。得られる塩および未反応のアルカリ性試薬、例えばCaClおよび未反応のCaOは、ピッチと共に熱分解反応器の底部から除去される。いくつかの実施形態において、無水石灰粉末が、重質カット生成物などの熱分解油と混合され、得られる石灰スラリーが、フローライン344を介して熱分解反応器へとポンプで送られる。石灰(アルカリ性試薬)投入速度は、熱分解生成物中の塩素の低減が所望のものとなるように調整することができる。
【0057】
上に記載したように、熱流体パッケージ328を使用して、窒素ヒーター307、溶融タンクコイル308C、溶融タンクジャケット308J、および溶融熱交換器322の各々に加熱された熱流体を供給してもよい。それぞれのユニットでの熱交換の後、熱流体は、再加熱し熱交換ループで再使用するために熱流体パッケージに戻されてもよい。熱流体パッケージ328は、例えば、1つまたは複数の燃料を燃料としてもよい燃焼式熱交換器であってよく、該燃料は、いくつかの実施形態において、熱分解反応器の下流の分離塔から回収された軽質炭化水素留分360、または外部燃料供給361であってもよい。燃料は、空気362とともに燃焼させて排ガス364を生成してもよい。熱流体を加熱するのに使用される燃焼式熱交換器は、独立型ユニットであってもよいし、またはコンビナートの多数のプロセスもしくはユーティリティー流を加熱するのに使用されるより大きい燃焼ヒーターの一部として構成されてもよい。他の実施形態において、熱流体は、電気ヒーターにより加熱されてもよい。
【0058】
いくつかの実施形態において、熱分解ユニット全体は、通常の動作条件に達したら、熱分解ガス生成物の一部をユニット自体内で消費するように設計される。この熱分解ガスは、高温熱流体加熱システム328のバーナーおよび熱分解反応器バーナーを燃焼させるのに使用されることとなる。しかしながら、処理全体によっては、生の熱分解ガスは、オレフィンおよびジオレフィンを含み得るので、環境問題となり得る火炎プロファイル(flame profile)を生じ得る。選択肢として、生の熱分解ガスは、冷却および分別により精製して、C1、C2、またはC3よりも重質の全ての化合物を回収することができる。さらなる選択肢は、生の熱分解ガス生成物流全体を(例えば、およそ27bargに)圧縮し、次いで圧縮流を生成物として輸送することである。その場合、熱分解スキッド(skid)の加熱要件が、輸入された天然ガスを用いて完全に満たされる。
【0059】
上に記載したように、本明細書の実施形態は、廃ポリマー材料の有用な石油化学製品、燃料、ならびに他の中間体および生成物への変換のためのプロセスおよびシステムに関する。有利なことに、本明細書の実施形態は、タールまたはコークスではなくピッチ生成物を生成し、高品質の熱分解油の生成を可能にする温度および変換率で動作する。
【0060】
他に定義されない限り、使用される全ての技術的および科学的用語は、これらのシステム、装置、方法、プロセス、および組成物が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0061】
単数形「1つの」、「1種の」、「その」、および「上記」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の指示対象を含む。
【0062】
本明細書および添付される特許請求の範囲で使用される場合、「含む」、「有する」、および「含有する」という単語、ならびにそれらの全ての文法上の変形例はそれぞれ、追加の要素またはステップを排除しないオープンで非限定的な意味を有するものとする。
【0063】
「必要に応じて」または「場合により」は、その後に記載される事象または状況が生じても生じなくてもよいことを意味する。その記載は、事象または状況が生じる場合および生じない場合を含む。
【0064】
「およそ」または「約」という単語が使用される場合、この用語は、最大±10%、最大5%、最大2%、最大1%、最大0.5%、最大0.1%、または最大0.01%の値のばらつきがあり得ることを意味する場合がある。
【0065】
範囲は、およその一つの特定値からおよその他の特定値までとして、それらの値を包含して表される場合がある。そのような範囲が表されるとき、別の実施形態は、上記範囲内の全ての特定値およびそれらの組合せとともに、上記一つの特定値から上記他の特定値までであると理解されたい。
【0066】
本開示は限られた数の実施形態しか含んでいないが、本開示の利益を有する当業者ならば、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態が考えられることが理解されよう。したがって、該範囲は、添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。

図1
図2
図3
【国際調査報告】