(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ポリマーコーティング層を有する硫黄被覆肥料
(51)【国際特許分類】
C05G 5/30 20200101AFI20240117BHJP
C05G 5/12 20200101ALI20240117BHJP
【FI】
C05G5/30
C05G5/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543140
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2022051107
(87)【国際公開番号】W WO2022157184
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522461239
【氏名又は名称】エべリス・インターナショナル・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バンナイズ,ペトラ・レオナルダ・ヘンドリカ
(72)【発明者】
【氏名】システルマンス,スサン・ティネ・カテリネ
(72)【発明者】
【氏名】モラ,アントニオ・マヌエル・ヒル
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス・マルティネス,ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】パクアイ,ヨゼーヒュス・バルバラ・ヘーラルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】アウト,ヘーラルドゥス・ヤコーブス・ヨゼフ
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB03
4H061BB15
4H061BB32
4H061BB52
4H061DD18
4H061EE07
4H061EE35
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4H061FF15
4H061GG15
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4H061HH02
4H061LL02
4H061LL05
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4H061LL15
4H061LL25
4H061LL26
(57)【要約】
本発明は、硫黄層上にポリマーコーティングを有し、ポリマーコーティングがポリカプロラクトンを含む硫黄被覆顆粒肥料に関する。硫黄被覆顆粒肥料は、硫黄層上のポリマーコーティングとして脂肪族ポリエステルを有することができ、標準水浸出試験で試験した場合、以下の特性を有する。
a. 24時間で約20%以下、好ましくは約15%以下の栄養素の初期放出、
b. 水浸出試験の開始から14日目~21日目の間に栄養素含有量の4%超、好ましくは約5%以上の放出。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄層上にポリマーコーティングを有する硫黄被覆顆粒肥料であって、ポリマーコーティングはポリカプロラクトンを含む、硫黄被覆顆粒肥料。
【請求項2】
前記ポリカプロラクトンが、ヒドロキシ酸又はポリオール上で重合された多数のカプロラクトンモノマーを含むポリマーであり、ポリオールは、好ましくはジオール又はトリオールである、請求項1に記載の肥料。
【請求項3】
前記ポリマーコーティングが、約1000~約100,000の間の平均分子量を有するポリカプロラクトン、及びそれらの混合物を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項4】
前記ポリマーコーティングが、約50重量%以上、好ましくは約70重量%以上のポリカプロラクトンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項5】
前記ポリマーコーティングが、本質的に1種以上のポリカプロラクトンポリマーからなる、請求項4に記載の肥料。
【請求項6】
前記ポリカプロラクトンが、1つのピーク分子量を有する単一の生成物であるか、又は少なくとも2つのピーク分子量を有するポリカプロラクトンポリマーのブレンドであり、ポリカプロラクトンの平均分子量は、約5000~約20000、好ましくは約6000~約15000の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項7】
前記ポリマーコーティングが、ポリカプロラクトンの混合物を含み、該混合物は、5~95%の分子量が9,000~50,000の間の第1のポリカプロラクトンと、95~5重量%の分子量が1000~9000の間のポリカプロラクトンとを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項8】
前記ポリマーコーティングが、ワックス若しくはポリマー、好ましくは生分解性オリゴマー若しくはポリマー、及び/又は着色剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項9】
肥料顆粒上、硫黄層上又はポリマーコーティング層上に、薄いワックス層などのさらなる層が存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項10】
前記肥料が、実験室水浸出試験において以下の特性を示す、請求項1~9のいずれか一項に記載の肥料。
a. 24時間で約20%以下、好ましくは約15%以下の栄養素の初期放出、
b. 水浸出試験の開始から14日目~21日目の間に栄養素含有量の4%超、好ましくは約5%以上の放出。
【請求項11】
硫黄層上にポリマーコーティングを有する硫黄被覆顆粒肥料であって、ポリマーコーティングは脂肪族ポリエステルを含み、標準水浸出試験で試験した場合、以下の特性を有する硫黄被覆顆粒肥料。
a. 24時間で約20%以下、好ましくは約15%以下の栄養素の初期放出、
b. 水浸出試験の開始から14日目~21日目の間に栄養素含有量の4%超、好ましくは約5%以上の放出。
【請求項12】
前記肥料が、尿素、KCl、K
2SO
4、NH
4NO
3、リン酸アンモニウム、又はそれらの混合物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項13】
前記肥料が小球化尿素である、請求項1~12のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項14】
前記顆粒肥料が、平均直径として、約0.5~約10mmの間、好ましくは約1~約5mmの間のサイズを有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の肥料。
【請求項15】
約60℃以上の温度を有する硫黄被覆顆粒に、ポリマーコーティング成分を溶融状態で塗布し、ポリマー被覆硫黄被覆顆粒肥料を冷却する、請求項1~14のいずれか一項に記載の肥料の製造プロセス。
【請求項16】
肥料コアを約80℃以上まで加熱し、硫黄を溶融物として塗布し、硫黄被覆肥料が40℃未満まで冷却されていない間にポリマーコーティングを塗布する、請求項15に記載の肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー被覆及び硫黄被覆肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
放出制御肥料(CRF)の概念は、当技術分野において周知である。これは、栄養素を制御された様式で田畑に放出させるコーティングを有する肥料を含む顆粒を保護することを含む。CRFの異なる技術の中で、硫黄被覆尿素(SCU)は現在最も重要である(Trenkel,M.E.(2010) Slow-and controlled-release and stabilized fertilizers:An option for enhancing nutrient use efficiency in agriculture、International Fertilizer Industry Associationを参照)。
【0003】
硫黄被覆尿素は、バリア被覆として元素硫黄(肥料顆粒上で溶融及び再結晶化)を使用する。このプロセスは、60年代初期にTennessee Valley Authority(TVA)によって開発された。「SCU」という総称にもかかわらず、硫黄は、尿素だけでなく、例えば、カリ、塩化カリウム、MAP(モノアンモニウムホスフェート)などの異なるタイプの肥料を被覆するために使用することができる。より一般的には、硫黄被覆肥料はSCF(硫黄被覆肥料)と略すことができる。
【0004】
硫黄が非常に脆いので、通常、トップコート層がSCFに追加されて、硫黄層の欠陥及び細孔を封止し、該被覆の耐摩耗性を改善する。PSCF(ポリマー硫黄被覆肥料)という名称も、このポリマー含有層の存在を示すために使用される。
【0005】
米国特許第5,219,465号は、エチレン-ビニルアセテートコポリマー及びエチレン-アクリル酸コポリマーの群から選択される5~50重量%のポリマーと、約60℃及び80℃の融点を有する天然石油ワックス及び60℃~105℃の間の融点を有する合成炭化水素ワックスの群から選択される95~50%の炭化水素ワックスとからなるトップコーティングポリマー組成物を記載する。
【0006】
米国特許第5,466,274号は、炭化水素ワックスと、エチレン-ビニルアセタートコポリマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-エチルアクリレートコポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、エチレン-ビニルアルコール-ビニルアセテートターポリマー及びそれらの混合物のようなポリマーとのブレンドからなる、硫黄被覆肥料に改善された特性を提供するこのトップコーティング層の組成物を記載する。
【0007】
JPH11228274(A)号は、以下のもの、すなわち、木質ワックス、ホホバ油、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックスのような植物性ワックス;ラノリン、蜂蜜ワックス、クジラろうなど;動物ワックス;モンタンワックス、セレシン、オゾケライトなどの鉱物ワックス;パラフィンワックス、ペトロラタム、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、及び硬化ヒマシ油などの合成炭化水素ワックスなどのシーラントワックスの使用に言及している。水溶性ポリマーからなる追加の保護層もまた、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアミン、ポリエチレンオキシド、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム及び無水マレイン酸の群から選択される。
【0008】
SCF(及びPSCF)は、市場で最も改良されたバージョンでも、それらの放出において以下の2つの典型的な望ましくない特徴を提示する(Trenkel 2010)。
- 施用の初日における比較的高い放出。これは、エンドユーザによる共通の苦情である。
- ロックオフ(lock-off)効果。かなりの量の栄養素は、放出制御肥料の予想される寿命後に放出されないままである。
【0009】
これは
図1に例示されている。
図1において、市場で入手可能な異なる製品の水浸出試験における放出を比較する。上のグラフは、比較的少量の被覆を有する製品を表す。初日の放出は非常に高く、その後、事実上全ての製品がその後放出される。下の線は、比較的高い被覆重量を有する製品を示す。初期放出ははるかに低いが、肥料のかなりの部分が顆粒中に固定される。中央の線は、中程度の量の被覆を有する製品を表す。得られる放出プロファイルも平均するが、完全には許容されない。
【0010】
その結果、PSCFの放出を改善するためにこれらの制限を克服する必要がある。第1に、ロックオフを低減することによって、施肥効率が向上し、PSCFの(過剰)投与が制限される。第2に、爆発的な放出を制限することによって、植物に対する安全性が改善される。多量の肥料は、小さな植物を損傷する可能性がある。ある量の前もっての放出が必要とされる場合(例えば、植物がより大きいか又は良好に設置されている場合)、これは、高い爆発的な初期放出を有するPSCFを使用することによってよりも、被覆されていない肥料を使用することによって、より経済的に達成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5219465号明細書
【特許文献2】米国特許第5466274号明細書
【特許文献3】特開平11-228274号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Trenkel,M.E.(2010) Slow-and controlled-release and stabilized fertilizers:An option for enhancing nutrient use efficiency in agriculture、International Fertilizer Industry Association
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
良好な放出制御特性が得られるような、硫黄被覆肥料上のポリマーコート層を提供することが本発明の目的である。
【0014】
さらに、上述の制限を克服することができ、栄養素のロックオフを制限する経時的な段階的な放出と組み合わせた低い初期放出を提示することができる、硫黄被覆肥料のための改善されたポリマーコート層を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記のいずれか又は両方の目的を達成する本発明は、硫黄層上にポリマーコーティングコーティングを有する硫黄被覆肥料顆粒であって、ポリマーコーティングはポリカプロラクトンを含む硫黄被覆肥料顆粒を提供する。
【0016】
また、上記のいずれか又は両方の目的を達成する本発明は、硫黄層上にポリマーコーティングを有する硫黄被覆顆粒肥料であって、ポリマーコーティングは脂肪族ポリエステルを含み、被覆肥料は、標準水浸出試験で試験した場合、以下の特性を有する硫黄被覆顆粒肥料を提供する。
- 24時間で約20%以下の栄養素の初期放出、
- 水浸出試験の開始から14日目~21日目の間に栄養素含有量の4%超の放出。
【0017】
脂肪族ポリエステルは、脂肪族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジオールを含むポリエステルであり得る。好ましくは、脂肪族ポリエステルは、開環カプロラクトンなどのヒドロキシ酸、又は4~10個の炭素原子を含む他のヒドロキシ酸を含む。好ましくは、ヒドロキシ酸はα,ω-ヒドロキシ酸である。
【0018】
好ましい実施形態では、脂肪族ポリエステルはポリカプロラクトンである。ポリカプロラクトントップコートは、水バリアと透水性との間の良好なバランス特性を提供して、顕著な放出制御パターンを提供する。ポリカプロラクトン層は、機械的応力に対して良好な耐性を示し、田畑におけるプロセスの取扱い及び最終使用に耐えるのに充分な耐衝撃性を有する。
【0019】
ポリマーコーティングは、ポリカプロラクトン(これは、約1000~約50,000の間のような様々な分子量を有し得る)及びそれらの混合物を含む。好ましくは、ポリカプロラクトンは、約30000以下の分子量を有する。ポリマーコーティングは、好ましくは約50重量%以上、より好ましくは約70重量%以上のポリカプロラクトンを含む。
【0020】
このようなポリカプロラクトン被覆層を有する硫黄被覆肥料は、標準水浸出試験の結果から明らかである以下の顕著な放出特性を提供する。
- より低い初期放出(典型的には、20%未満の栄養素が24時間で放出される)
- ロックオフを制限する、製品の全持続時間にわたる延長放出。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】市販のポリマー被覆硫黄被覆尿素顆粒の水浸出試験の結果を示す。
【
図2】先行技術に記載されたポリマーコーティングのポリマー被覆硫黄被覆尿素顆粒の水浸出試験の結果を示す。
【
図3】ポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素顆粒の水浸出試験の結果を示す。
【
図4】他のポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素顆粒の水浸出試験の結果を示す。
【
図5】さらに他のポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素顆粒の水浸出試験の結果を示す。
【
図6】参照製品と比較したポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素顆粒の実験室水浸出試験及びフィールドテストの結果を示す。
【
図7】機械的ストレス試験前後の参照製品と比較したポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素顆粒の実験室水浸出試験の結果を示す。
【
図8】参照被覆と比較したポリカプロラクトン被覆硫黄被覆尿素小球の実験室水浸出試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による硫黄被覆顆粒肥料は、肥料コアと、肥料コア上の硫黄層と、硫黄層上のポリマーコーティングとを含み、ポリマーコーティングは、脂肪族ポリエステル、好ましくはポリカプロラクトンを含む。
【0023】
肥料コアは、任意の顆粒肥料であり得、好ましくは、尿素、KCl(MOP)、K2SO4(SOP)、硫酸アンモニウム、NH4NO3、モノアンモニウムホスフェート(MAP)、ジアンモニウムホスフェート(DAP)、配合NPK肥料(同様に、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム及び硫酸カリウムから構成される21+10+11NPK肥料)又はそれらの混合物から選択される。尿素が最も好ましい。肥料コアは、平均直径として0.5~10mmの間、好ましくは1~5mmの間のサイズを有する。
【0024】
硫黄は、肥料コアに対して5~30重量部の間の量で存在する。好ましくは、その量は、肥料コア100重量部当たり10~20重量部(pph)の間、例えば、肥料コアに対して約12pph又は16pphである。硫黄は一般に純粋な硫黄であり、溶融した純粋な化合物として塗布される。
【0025】
本明細書で使用されるポリカプロラクトン(PCL)は、以下の繰り返し単位を含む任意のポリマー又はコポリマーを指す。
【0026】
【0027】
これは、標準的なポリエステルポリマーを含むが、ポリカプロラクトンジオール又はポリカプロラクトントリオールとしても知られており、繰り返し単位は、以下の構造中に示されるように、ジオール又はトリオール、例えば、ジエチレングリコールに結合している。
【0028】
【0029】
両方の図における繰り返し単位の数は、m及び/又はnによって示される。平均分子量から平均繰り返し数を計算することができる。
【0030】
好ましくは、ポリマーコーティングは、約1000~約50,000の間の様々な分子量を有するポリカプロラクトン、及びそれらの混合物を含む。好ましくは、ポリカプロラクトンは、約30,000以下の分子量を有する。より好ましい実施形態では、ポリカプロラクトンは、1つのピーク分子量を有する単一の生成物であるか、又は少なくとも2つのピーク分子量を有するポリカプロラクトンポリマーのブレンドであり、ポリカプロラクトンの平均分子量は、約5000~約20000、好ましくは約6000~約15000の範囲である。
【0031】
一般に、硫黄被覆肥料上のポリマーコーティングは、50重量%以上、好ましくは70重量%超のポリカプロラクトンを含む。添加剤又はフィルム形成成分を添加してもよい。好適な添加剤は、例えば、粘土などの、例えば、潜在的な粘着性を低減するか又は放出を改善するための充填剤であり得る。他の好適な添加剤としては、比較的高分子量のポリカプロラクトンが使用される場合、可塑剤が挙げられる。他の好適な添加剤としては、フィルム形成ポリマー、例えば、ヒドロキシ酸からの生分解性ポリマーが挙げられる。他の好適な添加剤としては、被覆肥料に色を付与するための着色剤が挙げられる。好適な色としては、黄色、橙色、緑色又は赤色が挙げられ、好ましくは橙色着色剤が使用される。
【0032】
一実施形態では、ポリマーコーティングは、本質的に1種以上のポリカプロラクトンポリマーからなり、これは、ポリカプロラクトンの量が約95重量%以上、好ましくは約100重量%であることを意味する。
【0033】
1つの好ましい実施形態では、ポリマーコーティングは、ポリカプロラクトンの混合物を含み、混合物は、5~95重量%の分子量が9,000~50,000の間である第1のポリカプロラクトンと、95~5重量%の分子量が1000~9000の間であるポリカプロラクトンとを含む。より好ましい実施形態では、ブレンド比は、平均分子量が約5000~約20000、好ましくは約6000~約15000の範囲であるように選択される。
【0034】
別の実施形態では、ポリマーコーティングは、ワックス又はポリカプロラクトン以外のポリマー、好ましくは生分解性オリゴマー又はポリマーの少なくとも1種をさらに含む。例えば、300~3000の間の分子量を有し得るそのようなワックス又はポリマーは、約40重量%以下、好ましくは約20重量%以下の量で存在し得る。
【0035】
肥料に対するポリマーコーティングの量は、必要とされる放出及び寿命に応じて様々であり得、一般に1pph~10pphの間である。好ましくは、量は肥料重量に対して約1~約5pphの間で様々である。
【0036】
さらなる実施形態では、硫黄及びポリマー被覆肥料は、肥料コア、硫黄被覆、又はポリマーコーティング上に存在するさらなる層、例えば、薄いワックス層を有し得る。
【0037】
本発明による肥料は、好ましくは、実験室水浸出試験において、以下の特性の組み合わせを示す。
a. 24時間での約20%以下の栄養素の初期放出
b. 水浸出試験の開始から14日目~21日目の間に栄養素の4%より高い放出。
【0038】
1日での初期放出は、一般に約20%以下、好ましくは約15%以下である。
【0039】
水浸出試験における14日目~21日目の間の栄養素放出は、好ましくは約5%以上、さらにより好ましくは約6%以上である。先行技術の被覆製品は、ロックオフ効果を示し、以下の実施例に示すように、14~21日の間で約2~3%の間の放出を示す。
【0040】
経時的な放出は、必要とされる寿命に依存し、6ヶ月の寿命を有する放出制御肥料では比較的低い可能性がある。4ヶ月未満の寿命を有する本発明による放出制御肥料の場合、14~21日の間の放出は、好ましくは約7%以上である。4~6ヶ月の間の寿命を有する本発明による放出制御肥料の場合、14日~42日(6週間)の間の放出は、好ましくは15%超、好ましくは約20%以上である。
【0041】
本発明による肥料の製造プロセスは、約60℃以上、例えば、約80~85℃の温度を有する硫黄被覆顆粒を提供するステップと、溶融物中にポリマーコーティング成分を提供するステップとを含み、その後、ポリマー被覆硫黄被覆顆粒肥料を冷却する。好ましくは、まず、溶融硫黄元素を、いわゆる落下カーテンS噴霧システムによって約85℃で、回転ドラム中で顆粒肥料基材上に噴霧する。次のステップでは、製品を回転ドラムに移し、そこで溶融組成物であるポリマー混合物を硫黄基材被覆製品に塗布し、最後に冷却する。噴霧中に固体ポリマー層が形成される。このプロセスは、効率的な混合のためのバッフルを備えたドラムコーターで行うことができる。
【0042】
好ましい実施形態では、肥料を製造するプロセスにおいて、肥料コアは約80℃以上まで加熱され、硫黄は溶融物として塗布され、ポリマーコーティングは、硫黄被覆肥料が40℃未満に冷却されていない間に塗布される。
【0043】
本発明は、実施例においてさらに説明されるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0044】
<材料>
以下の特性、すなわち、栄養素含有率46重量%のN、0.3%未満の水分含有率(カールフィッシャー滴定により測定)、平均直径3.2mmを有する市販の標準顆粒尿素を、被覆試験に使用した。尿素顆粒の材料は、使用前に標準ふるいでふるい分けされ、2.36~4.00mmの間の画分を使用する。
【0045】
また、顆粒化の代わりに小球化プロセスによって製造された異なる市販の標準尿素(小球化尿素)をいくつかの実施例で使用した。小球化尿素は、そのより小さいサイズ、より弱い機械的抵抗性、及び顆粒中の空洞(ピンホール)の存在により、被覆するのがより困難な肥料である。この小球化尿素は、以下の特性、すなわち、栄養素含有率46重量%のN、0.3%未満の水分含有率(カールフィッシャー滴定により測定)、及び2mmの平均直径を有する。
【0046】
尿素顆粒の被覆に使用した硫黄は、黄色の顆粒の形状で99.9%の純粋な硫黄であった。融点は119℃である。
【0047】
硫黄被覆尿素のポストコート層として使用する材料は以下の通りである。
【0048】
【0049】
<被覆手順>
記載の顆粒状(又は小球化)尿素2kgを、4つのバッフルを有する回転水平ドラムに供給する。ドラムは直径35cmであり、約35rpmで回転し続けた。ドラムをホットエアガンで加熱して、尿素を約85℃に保った。硫黄は、ポンプ、加熱ホース、及び標準的な2mm開口ノズルを備えた手動スプレーガンを備えたホットメルトユニットから添加する。溶融タンクを140℃まで加熱した。ホース及び手動スプレーガンを150℃まで加熱した。ポンプを200g/分の硫黄流に設定した。空気圧を2.0バールに設定した。加圧空気を加熱し、スプレーコーンを作製するために使用した。
【0050】
尿素を所望の温度(85℃)に加熱した後、噴霧を開始した。噴霧からの溶融硫黄は、顆粒上で凝固し、硫黄被覆を生成する。所望の被覆重量の硫黄が達成されたときに、噴霧を停止し、顆粒を冷却した。この場合、硫黄被覆重量は15pph(尿素100部当たりの重量部)であった。いくつかのバッチを作製し、ブレンドして、使用した異なるポリマーコート層を適切に比較するのに充分で均質な硫黄被覆尿素製品を得た。
【0051】
ポストコート層による被覆のために、700gの硫黄被覆尿素を、20rpmの回転速度で3つのバッフルを備えた直径25cmの回転ドラムに入れた。ドラムを加熱して、硫黄被覆尿素の床の温度を約80℃に維持した。ポストコート層のために選択されたポストコートブレンドを溶融し(典型的には約130℃で)、徹底的に混合し、床上に均一に滴下することによって硫黄被覆尿素の回転床に添加する。所望の量のポリマーを添加するとき、自由流動床を有するために冷気による強制冷却を使用する。その後、製品を袋詰めし、試験した。
【0052】
<分析>
被覆肥料の性能を、水と接触させたときの顆粒からの栄養素放出速度によって測定した。より遅い放出速度は、経時的にその栄養素を放出するという点で、該製品のより長い寿命を示す。製品の放出特性を決定するための業界標準は、水浸出放出試験を含む。
【0053】
<水浸出放出試験>
水浸出放出試験では、被覆肥料を21℃の水に入れ、必要に応じて異なる時間間隔、すなわち、24時間、7日、14日、21日などで試験した。特に、20グラムの被覆肥料を、400mLの脱塩水を含むフラスコに入れた。試料を入れたフラスコを3回反転させて混合し、21℃に維持した。24時間後、フラスコを3回反転させ、試料を採取して水中の栄養素(尿素の場合は窒素、N)の量を決定した。水を交換し、400mLの新らしい脱塩水で再開した。7日後に測定を再度繰り返した。放出制御肥料の作業時間中の放出プロファイルをプロットすることができるように追加の測定点を得ることができる。最後の測定後、残りの粒子を粉砕し、既知の体積に溶解し、分析して、各栄養成分の物質収支の遮断をチェックした。結果を、異なる時間間隔で溶液中に放出された栄養素(尿素についてはN)の重量%として与える。
【0054】
栄養素ロックオフの有無は、前記水浸出試験における14日目~21日目の間の放出を計算することによって、水浸出放出結果から決定することができる。水浸出試験における14日目~21日目の間に放出される栄養素の量が総栄養素含有量の4%未満である場合、栄養素ロックオフがあると考える。
【0055】
<ケーキング感度試験>
ケーキング(ある圧力が加えられた後、例えば、保存されたときに、顆粒が互いに固着する傾向)に対する感度を測定した。ケーキング試験は、試料バッグに100gの製品を充填し、バッグを密封し、バッグを15cm×15cmの2つの平行な正方形プレートの間に置き、10kgの重りを上に置くことからなる。ケーキング試験は、温度制御チャンバ内で所望の温度(40、50及び60℃が典型的である)で1週間行う。1週間後、試料バッグを評価し、全ての顆粒がまだ自由流動している場合、ケーキングはない。塊が見える場合、製品はケーキングに敏感である。
【0056】
<フィールド放出試験>
被覆肥料の性能を、特定の植物の成長なしに土壌と接触させたときの顆粒からの栄養素放出速度によって測定した。試験する各製品について、10gの材料を、土壌及び水との良好な接触を可能にするメッシュから作製された肥料用レストバッグに秤量する。肥料レストバッグを密封し、回収のためにタグ付けする。土壌を均質化し、肥料レストバッグを土壌中に水平に3cm離して5cmの深さで埋める。土壌を、試験時間全体にわたって湿った状態に保つ。7つの異なる時点で、各製品の3つの試料を取り出し、さらに分析する。レストバッグ毎に粒子を粉砕し、既知の体積に溶解し、顆粒中に残っている栄養素の量を分析する。これから経時的に放出される栄養素の量を計算する。結果を、異なる時間間隔で土壌中に放出された栄養素(尿素についてはN)の重量%として与える。
【0057】
<機械的抵抗試験>
被覆肥料の機械的抵抗の性能を、被覆製品が機械抵抗試験を受けた後の水浸出放出試験によって測定した。この試験のために、50gの製品を、農業用スプレッダを通過する際の顆粒の機械的損傷を模倣する装置に入れた。この装置は、被覆顆粒のためのフィーダーからなり、この顆粒は、顆粒にぶつかり、顆粒を中心から遠ざかるように推進して「拡散」作用をシミュレートする垂直の半径方向ブレードを有する回転プレートの中心に落下する。被覆顆粒を回収し、性能を、機械的抵抗試験を受けていない被覆顆粒の性能と比較する。
【0058】
[参考例A~D]
この例では、当該技術分野で言及された硫黄被覆尿素のための多数のポストコートポリマーコーティングを調製し、比較した。選択したポリマーは以下の通りであった。C30+(参考例A)、C30+/EVA(75/25重量比)(参考例B)、蜜蝋(参考例C)、及びパラフィンワックス(参考例D)。全ての製品は、15pphの硫黄及び3.5pphのポストコートのコーティング重量を有していた。水浸出試験における放出を使用して、製品を比較した。結果を
図2に示す。全ての試料は、文献に記載されているロックオフ効果を共有する。ブレンドC30+/EVA(75/25)の試料サンプル参考例Bは、最新技術のコーティングの最良である(米国特許第5,466,274号から示される)。
【0059】
[実施例1~3]
本実施例では、PCL1及びPCL3を異なる割合でブレンドし、コーティングとして使用した。PCL1/PCL3の比は、実施例1、2及び3についてそれぞれ90/10、75/25及び0/100であった。全ての製品を、15pphの硫黄及び3.5pphのポストコート層で作製した。水浸出試験における放出特性は、
図3に見ることができる。
【0060】
[実施例4~7]
この実施例では、異なるコーティング重量のポリマーコーティングを使用した。選択されたポリマーコーティングは、90/10の比のPCL1とPCL3とのブレンドであった。被覆肥料は、実施例4、5、6及び7についてそれぞれ、15pphの硫黄並びに3.5、4、5及び6pphのポリマーコーティング層で作製した。水浸出試験における放出特性は、
図4のグラフに見ることができる。
【0061】
[実施例8~13]
ポリカプロラクトンをベースとする異なるコーティングを以下のように調製した。
【0062】
【0063】
図5に示すように、水分放出を測定した。このグラフは、他のグレードのポリカプロラクトンブレンドが同等の結果を達成することを示し、これはまた、ポリカプロラクトンコーティング系が広い適用性を有することを示す。
【0064】
<ロックオフ比較>
先の実施例の試料を、水浸出試験の14日目~21日目の間の放出によって決定される栄養素のロックオフのレベルについて比較した。次の表は、参考試料及び既に提示された実施例試料についてのこの放出を要約する。
【0065】
【0066】
【0067】
<ケーキングの比較>
4つの異なる製品(3つの参考例及び実施例2の製品)の2つの試料を、異なる温度でケーキング試験に供した。全ての試料は、上記実施例に記載されたように、15pphの硫黄及び3.5pphのポリマーコーティングを含有していた。
【0068】
結果を次の表に示す。
【0069】
【0070】
<フィールド放出の比較>
図6は、水浸出試験と比較したフィールドテストにおける参考例Bの放出(
図6において参考例として示される)及び実施例2の製品の放出(硫黄層上にポリカプロラクトン層を有する、
図6に実施例2として示す)を示す。フィールド放出を、以前に提示されたような水浸出試験結果の隣のエラーバーを有する個々の点として示す。
【0071】
<機械的試験の比較>
この比較では、
図1で使用した市販の材料(市販B)及びポリカプロラクトンコーティングを使用した試料(実施例10)を、記載した機械的試験に供した。機械的試験を受ける試料の放出を、元の放出と比較した。
図7において、市販B-MTは、機械的試験に供された市販B材料の試料を指し、実施例10-MTは、機械的試験に供された実施例10の試料を指す。放出試験の結果を
図7に示す。硫黄層上のコーティングとしてポリカプロラクトンを使用する製品の機械的抵抗は、機械的応力を加える前後の実施例10の放出プロファイルが市販製品Bのプロファイルよりも互いに近いので、既存の市販製品の1つよりも良好である。
【0072】
[実施例14~15及び参考例E]
これらの3つの実験では、顆粒の代わりに小球化尿素を被覆して、肥料を被覆するのにより困難なことにおけるその適用性を実証した。実施例14及び参考例Eの両方を、25pphの硫黄及び5pphのポリマーポストコートで被覆した。参考例Eポリマーポストコートは参考例Bと同じであり、C30+/EVA(75/25重量比)からなる。実施例14のポリマーポストコートは実施例10と同じであり、重量比80/20のブレンドPCL2/PCL4からなる。実施例15では、100%ポリマーPCL4の4pphのポリマーポストコートを使用した。水浸出試験における放出特性は、
図8のグラフに見ることができる。
【国際調査報告】