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  • 特表-免疫細胞へのRNPの連続的送達法 図1-1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】免疫細胞へのRNPの連続的送達法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/87 20060101AFI20240117BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240117BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240117BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543295
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 IB2022050492
(87)【国際公開番号】W WO2022157671
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】63/139,649
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521524601
【氏名又は名称】アヴェクタス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】オデイ シャーリー
(72)【発明者】
【氏名】マグワイア マイケル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA30
4B065BD39
4B065BD50
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、非接着細胞へのトランスフェクションに関する問題に対する解決法を提供する。エタノールと等張性塩溶液とを含む方法および組成物が、哺乳動物細胞への化合物および組成物の送達のために使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの外因性カーゴを含む免疫細胞であって、前記外因性カーゴが、リボ核タンパク質(RNP)、核酸、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを含む、前記免疫細胞。
【請求項2】
前記RNPが、T細胞受容体α定常部(TRAC)RNPまたは分化クラスター7(CD7)RNPを含む、請求項1記載の免疫細胞。
【請求項3】
前記少なくとも2つの外因性カーゴが連続的に送達されたものである、請求項1記載の免疫細胞。
【請求項4】
前記免疫細胞の生存率が、対照免疫細胞と比べて増大している、請求項1記載の免疫細胞。
【請求項5】
非接着免疫細胞の原形質膜を通過して少なくとも2つの外因性カーゴを送達する方法であって、
非接着細胞の集団を提供する段階;ならびに
前記細胞の集団を、ある体積の等張性水溶液と接触させる段階であって、前記水溶液が、前記外因性カーゴ、および、0.2パーセント(v/v)より高い濃度のアルコールを含む、前記段階
を含む、前記方法。
【請求項6】
前記少なくとも2つの外因性カーゴが連続的に送達される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つの外因性カーゴが、リボ核タンパク質(RNP)、核酸、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その内容全体がそのまま参照により本明細書に組み入れられる、2021年1月20日に出願された米国特許仮出願第63/139,649号の優先権の恩典を米国特許法第119条(e)項に基づいて主張する。
【0002】
参照による配列表の組入れ
2022年1月20日に作成され、サイズが4096バイトである「048831-528001WO_Sequence_Listing_ST25.txt」という名称を付けられた配列表テキストファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0003】
発明の分野
本発明は、免疫療法のための、哺乳動物細胞中への作用物質の送達に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
細胞トランスフェクション効率には、様々な細胞型の間で、ばらつきがある。浮遊細胞、例えば非接着細胞のトランスフェクションは、従来の方法を用いてでは困難であることが判明している。したがって、このような細胞のトランスフェクションを容易にするための組成物および方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、エクスビボ細胞療法に適用するための免疫細胞の操作についての解決法を提供する。本明細書において説明される組成物および方法は、複雑な改変および高レベルの細胞機能性を必要とする次世代細胞療法製品を実現する細胞操作技術を容易にする。本明細書において説明されるように、SOLUPORE(登録商標)送達方法は、細胞の生存率および機能性を保ちつつ、一次免疫細胞にカーゴを簡単かつ迅速かつ効率的に送達する非ウイルス手段である。この方法は、処理された細胞の細胞膜の、アルコールを用いる一時的な透過処理を含む。さらに、このようにして操作された細胞、例えば、操作された免疫細胞、例えばT細胞は、T細胞疲弊の可能性を低くし、したがって、複雑な治療ニーズのためにそれらを使用することが可能になる。
【0006】
複数の局面において、少なくとも2つの外因性カーゴを含む免疫細胞が、本明細書において提供される。例えば、外因性カーゴは、T細胞受容体α定常部(TRAC)リボ核タンパク質(RNP)または分化クラスター7(CD7)RNPを含む。
【0007】
複数の態様において、外因性カーゴは、連続的に送達される。
【0008】
別の例において、免疫細胞の生存率は、対照免疫細胞と比べて増大している。
【0009】
非接着免疫細胞の原形質膜を通過して少なくとも2つの外因性カーゴを送達するための方法もまた、本明細書において提供され、前記方法は、非接着細胞の集団を提供する段階;ならびに前記細胞の集団を、ある体積の等張性水溶液と接触させる段階であって、前記水溶液が、前記外因性カーゴ、および、0.2パーセント(v/v)より高い濃度のアルコール、例えば2~20%(v/v)エタノールを含む、前記段階、を含む。複数の態様において、少なくとも2つの外因性カーゴは、連続的に送達される。他の例において、少なくとも2つの外因性カーゴは、リボ核タンパク質(RNP)、核酸、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0010】
例えば、外因性カーゴは、T細胞受容体α定常部(TRAC)リボヌクレオタンパク質(RNP)または分化クラスター7(CD7)RNPを含む。
【0011】
外因性カーゴまたは「ペイロード」は、水溶液を介して、細胞原形質膜を通過して細胞内部へと送達される、化合物、例えばRNP、または組成物を説明するために使用される用語である。
【0012】
「外因性」という用語は、免疫細胞内で生じた内因性物質とは対照的に、細胞、例えば免疫細胞の外側から来るまたは由来するカーゴ(またはペイロード)を意味する。
【0013】
いくつかの態様において、本発明の免疫細胞は、少なくとも2つまたはそれより多い外因性カーゴ(例えば、3個、4個、5個、67個、8個、9個、または10個の外因性カーゴ)を含む。外因性カーゴは、リボ核タンパク質(RNP)、核酸、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0014】
非接着免疫細胞の原形質膜を通過して少なくとも2つの外因性カーゴ(または「外因性カーゴ」)を送達する方法もまた、本明細書において提供される。したがって、前記方法は、非接着細胞の集団を提供する段階;ならびに前記細胞の集団を、ある体積の等張性水溶液と接触させる段階であって、前記水溶液が、ペイロード、および、0.2パーセント(v/v)より高い濃度のアルコールを含む、前記段階、を含む。
【0015】
例えば、アルコール濃度は、約0.2パーセント(v/v)もしくはそれより高い濃度であるか、またはアルコールは、約0.5パーセント(v/v)もしくはそれより高い濃度であるか、またはアルコールは、約2パーセント(v/v)もしくはそれより高い濃度である。あるいは、アルコール濃度は、5パーセント(v/v)またはそれより高い。他の例において、アルコールは、10パーセント(v/v)またはそれより高い濃度である。
【0016】
例えば、アルコールは、エタノール、例えば10%のエタノールまたはそれより多いエタノールを含む。いくつかの例において、水溶液は、20~30%のエタノール、例えば27%のエタノールを含む。他の例において、RNPの送達は、10%のエタノールを含む。
【0017】
複数の例において、水溶液はアルコールを含み、アルコールはエタノールを含んでよい。他の例において、水溶液は、10%より多いエタノール、20~30%のエタノール、または約27%のエタノールを含む。複数の例において、水溶液は、12.5~500mMの塩化カリウム(KCl)、または約106mMのKClを含む。
【0018】
外因性カーゴを細胞に送達するための水溶液は、塩、例えば、12.5~500mMの塩化カリウム(KCl)を含む。例えば、溶液は、ヒトT細胞などの哺乳動物細胞の細胞質に対して等張性である。このような例示的な等張性送達容積は、106mMのKClである。
【0019】
他の例において、水溶液は、5~30%(例えば、0.2%~30%)のエタノール濃度を含むことができる。水溶液は、75~98%のH2O、2~45%のエタノール、6~91mMのスクロース、2~500mMのKCl、2~35mMの酢酸アンモニウム、および1~14mMの(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)(HEPES)のうちの1つまたは複数を含むことができる。例えば、送達溶液は、106mMのKClおよび27%のエタノールを含む。例えば、送達溶液は、106mMのKClおよび10%のエタノールを含む。例えば、送達溶液は、106mMのKClおよび5%のエタノールを含む。例えば、送達溶液は、106mMのKClおよび2%のエタノールを含む。
【0020】
例示的な非接着/浮遊細胞には、初代造血幹細胞(HSC)、T細胞(例えば、CD3+細胞、CD4+細胞、CD8+細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、サイトカイン誘導キラー(CIK)細胞、ヒト臍帯血CD34+細胞、B細胞、または細胞株、例えばジャーカットT細胞株が含まれる。非接着細胞は、実質的にコンフルエント、例えば75パーセントを上回るコンフルエントであることができる。細胞のコンフルエンシーとは、表面で互いに接触している細胞に関係する。例えば、これは、推定(または計数された)パーセンテージとして表すことができ、例えば、10%のコンフルエンシーとは、例えば組織培養容器の表面の10%が細胞で覆われていることを意味し、100%のコンフルエンシーとは、表面が完全に覆われていることを意味する。例えば、非接着細胞は、遠心沈殿されるか、減圧によって沈まされるか、もしくは細胞集団の上部から組織培養用培地が吸引除去されるか、または吸引によって取り出されるか、もしくは容器の底から減圧によって取り出される。これらの細胞は、細胞の単層を形成することができる。例えば、これらの細胞は、10%、25%、50%、75%、90%、95%、または100%コンフルエントである。
【0021】
複数の態様において、非接着細胞は、末梢血単核細胞を含む。複数の例において、非接着細胞は、免疫細胞、例えばTリンパ球を含む。
【0022】
前記方法は、送達溶液に溶かした外因性カーゴ(例えば、少なくとも2つの外因性カーゴ)を、単層を構成する非接着細胞の集団に送達する段階を含む。例えば、この単層を、水性送達溶液のスプレーと接触させる。方法は、細胞の細胞質中にペイロード/カーゴ(化合物または組成物)を送達し、その際、細胞の集団は、エレクトロポレーションまたはヌクレオフェクションによるペイロードの送達と比べて、高い生存率パーセントを含み、これはSoluporationシステムの有意な利点である。
【0023】
特定の態様において、非接着/浮遊細胞の単層は、メンブランフィルター上に存在する。いくつかの態様において、メンブランフィルターは、細胞単層を送達溶液のスプレーと接触させる段階の後に、揺り動かされる。メンブランフィルターは、細胞に送達溶液を噴霧する前、最中、および/または後に、揺り動かされるかまたは激しく揺り動かされてよい。
【0024】
細胞に送達される溶液の体積は、複数の単位、例えばスプレー、例えば、水性粒子の複数の液滴である。体積は、個々の細胞を基準として、またはコンフルエントもしくは実質的にコンフルエントな(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%コンフルエント、例えば、85%、90%、95%、97%、98%、100%コンフルエントな)細胞集団の露出した表面面積を基準として、説明される。例えば、体積は、細胞1個あたり6.0×10-7マイクロリットル~細胞1個あたり7.4×10-4マイクロリットルであることができる。体積は、細胞1個あたり4.9×10-6マイクロリットル~細胞1個あたり2.2×10-3マイクロリットルである。体積は、細胞1個あたり9.3×10-6マイクロリットル~細胞1個あたり2.8×10-5マイクロリットルであることができる。体積は、細胞1個あたり約1.9×10-5マイクロリットルであることができ、かつ、およそ、10パーセント以内である。体積は、細胞1個あたり6.0×10-7マイクロリットル~細胞1個あたり2.2×10-3マイクロリットルである。体積は、露出表面面積1平方マイクロメートル当たり2.6×10-9マイクロリットル~露出表面面積1平方マイクロメートル当たり1.1×10-6マイクロリットルであることができる。体積は、露出表面面積1平方マイクロメートル当たり5.3×10-8マイクロリットル~露出表面面積1平方マイクロメートル当たり1.6×10-7マイクロリットルであることができる。体積は、露出表面面積1平方マイクロメートル当たり約1.1×10-7マイクロリットルであることができる。
【0025】
本明細書の全体を通して、「約」という用語は、提供される量または他の計量値から10%以内であることができる。
【0026】
細胞のコンフルエンシーとは、表面で互いに接触している細胞に関係する。例えば、これは、推定(または計数された)パーセンテージとして表すことができ、例えば、10%のコンフルエンシーとは、例えば組織培養容器の表面の10%が細胞で覆われていることを意味し、100%のコンフルエンシーとは、表面が完全に覆われていることを意味する。例えば、接着細胞は、組織培養ウェル、プレート、またはフラスコの表面で2次元的に増殖する。非接着細胞は、遠心沈殿されるか、減圧によって沈まされるか、もしくは細胞集団の上部から組織培養用培地が吸引除去されるか、または吸引によって取り出されるか、もしくは容器の底から減圧によって取り出される。
【0027】
ペイロード(外因性カーゴ)は、低化学分子、ペプチドもしくはタンパク質、または核酸を含むことができる。低化学分子は1,000Da未満であることができる。化学分子には、MitoTrackerg Red CMXRos、ヨウ化プロピジウム、メトトレキサート、および/またはDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)が含まれ得る。ペプチドは、約5,000Daであることができる。ペプチドには、商品名カリビトルのエカランチド(遺伝性血管浮腫の治療用であり、心臓胸部手術の際に失血を防止する、60アミノ酸のポリペプチド)、リラグルチド(ブランド名ビクトーザとして市販され、II型糖尿病の治療のために使用されている、およびサクセンダ、または肥満の治療)、ならびにイカチバント(商品名フィラジル、遺伝性血管浮腫の急性発作の治療用のペプチド模倣体)が含まれ得る。低分子干渉リボ核酸(siRNA)分子は、約20~25塩基対長であることができ、または約10,000~15,000Daであることができる。siRNA分子は、任意の遺伝子産物の発現を低減させることができ、例えば、臨床的に関連する標的遺伝子またはモデル遺伝子の遺伝子発現をノックダウンし、例えば、グリセルアルデヒド-3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)siRNA、GAPDH siRNA-FITCシクロフィリンB siRNA、および/またはラミンsiRNAである。タンパク質治療物質には、ペプチド、酵素、構造タンパク質、受容体、細胞タンパク質、もしくは血中タンパク質、またはそれらの断片が含まれ得る。タンパク質またはポリペプチドは、約100~500,000Da、例えば1,000~150,000Daである。
【0028】
ペイロード(または「外因性カーゴ」)は、治療物質を含むことができる。治療物質、例えば薬物、または活性物質とは、治療目的または診断目的のために有用な任意の化合物を意味することができ、この用語は、病態の治療のために患者に投与される任意の化合物を意味すると理解され得る。したがって、治療物質には、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片、および低分子が含まれ得る。米国特許第7,667,004号(参照により本明細書に組み入れられる)に記載された治療物質は、本明細書において説明される方法において使用され得る。治療物質は、シスプラチン、アスピリン、スタチン(例えば、ピタバスタチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、プロマジンIICl、クロロプロマジンHO、チオリダジンHCl、ポリミキシンB硫酸塩、クロロキシン、ベンフルオレックスHCl、およびフェナゾピリジンHCl)、ならびにフルオキセチンのうちの少なくとも1つを含むことができる。ペイロードは、診断用物質を含むことができる。診断用物質は、検出可能な標識またはマーカー、例えば、メチレンブルー、パテントブルーV、およびインドシアニングリーンのうちの少なくとも1つを含むことができる。ペイロードは、蛍光性分子を含むことができる。ペイロードは、検出可能なナノ粒子を含むことができる。ナノ粒子は、量子ドットを含むことができる。
【0029】
ペイロード(「外因性カーゴ」)は、アルコールを含む。「アルコール」という用語は、少なくとも1個の炭素原子に結合されたヒドロキシル(-OH)官能基を含む、多原子有機化合物を意味する。アルコールは一価アルコールであってよく、かつ少なくとも1個の炭素原子を含んでよく、例えばメタノールである。アルコールは、少なくとも2個の炭素原子を含んでもよい(例えばエタノール)。他の局面において、アルコールは、少なくとも3個の炭素を含む(例えばイソプロピルアルコール)。アルコールは、少なくとも4個の炭素原子を含んでよく(例えばブタノール)、または少なくとも7個の炭素原子を含んでよい(例えばベンジルアルコール)。例示的なペイロードは、50%(v/v)以下のアルコールを含んでよく、より好ましくは、ペイロードは、2~45%(v/v)のアルコール、5~40%のアルコール、および10~40%のアルコールを含む。ペイロードは、20~30%(v/v)のアルコールを含んでよい。
【0030】
最も好ましくは、ペイロード送達溶液は、25%(v/v)のアルコールを含む。あるいは、ペイロードは、2~8%(v/v)のアルコール、または2%のアルコールを含むことができる。アルコールには、エタノールが含まれてよく、ペイロードは、5%(v/v)、10%(v/v)、20%(v/v)、25%(v/v)、30%(v/v)、および最高で40%(v/v)または50%(v/v)のエタノール、例えば、27%のエタノールを含む。例示的な方法は、メタノールをアルコールとして含んでよく、ペイロードは、5%(v/v)、10%(v/v)、20%(v/v)、25%(v/v)、30%(v/v)、または40%(v/v)のメタノールを含んでよい。ペイロードは、2~45%(v/v)のメタノール、20~30%(v/v)のメタノール、または25%(v/v)のメタノールを含んでよい。好ましくは、ペイロードは、20~30%(v/v)のメタノールを含む。さらに別法として、アルコールはブタノールであり、ペイロードは2%(v/v)、4%(v/v)、または8%(v/v)のブタノールを含む。
【0031】
本発明の主題のいくつかの局面において、ペイロードは、等張性溶液中または緩衝液中に存在する。
【0032】
本発明の主題によれば、ペイロードは、少なくとも1種類の塩を含んでよい。塩は、NaCl、KCl、Na2HPO4、C2H3O2NH4、およびKH2PO4より選択され得る。例えば、KCl濃度は、2mM~500mMの範囲にわたる。いくつかの好ましい態様において、濃度は100mMより高く、例えば106mMである。本発明の主題の例示的な方法によれば、ペイロードは、糖(例えば、スクロースまたは二糖)を含んでよい。例示的な方法によれば、ペイロードは、121mM未満の糖、6~91mM、または26~39mMの糖を含む。さらになお、ペイロードは、32mMの糖(例えばスクロース)を含む。任意で、糖はスクロースであり、ペイロードは、6.4mM、12.8mM、19.2mM、25.6mM、32mM、64mM、76.8mM、または89.6mMのスクロースを含む。
【0033】
複数の態様において、免疫細胞の原形質膜を通過して外因性カーゴを送達するための方法は、少なくとも2つの外因性カーゴ(または「2個のペイロード」)を送達する段階をさらに含む。外因性カーゴは、リボ核タンパク質、核酸、タンパク質、またはそれらの任意の組合せを含む。複数の例において、免疫細胞は、2個の外因性カーゴ、3個の外因性カーゴ、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個の外因性カーゴを含む。
【0034】
複数の態様において、少なくとも2つの外因性カーゴは、連続的に送達される。例えば、連続的に送達されるとは、1つの外因性カーゴの送達と、それに続く、第2、第3、または第4の外因性カーゴの送達を意味し得る。例えば、(外因性カーゴを含む)本発明の免疫細胞は、次いで、第2の外因性カーゴを含むようにさらにマニピュレートされてよい。本明細書において使用される場合、「マニピュレートされた」という用語は、SOLUPORE(登録商標)送達方法、膜を破壊する方法(エレクトロポレーション、ソノポレーション、マグネトフェクション、オプトポレーション)、または担体を用いる方法(脂質ナノ粒子)を含む、細胞内送達のための任意の公知のトランスフェクション方法を意味し得る。エレクトロポレーションには、例えば、電場を細胞に印加して細胞膜透過性を高める細胞内送達方法(エレクトロトランスファーとも呼ばれる)が含まれる。
【0035】
他の局面において、非接着細胞の原形質膜を通過して外因性カーゴを送達する方法が本明細書において提供され、前記方法は、非接着細胞の集団を提供する段階;ならびに(i)前記細胞の集団を、ある体積の等張性水溶液と接触させることより選択される少なくとも2つの細胞内送達方法を使用する段階であって、前記水溶液が、前記外因性カーゴ、および0.5パーセント(v/v)より高い濃度のアルコールを含む、前記段階、を含む。水溶液中のアルコールの濃度は、0.2パーセント(v/v)濃度より高いか、または0.5パーセント(v/v)濃度より高いか、または2パーセント(v/v)濃度より高いか、または5パーセント(v/v)濃度より高いか、または10パーセント(v/v)濃度より高い。いくつかの例において、水溶液は、20~30%のエタノール、例えば27%のエタノールを含む。
【0036】
本発明の他の特徴および利点は、その好ましい態様についての以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有している。本明細書において説明されるものと同様または等価な方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を後述する。本明細書において引用されるすべての公開されている外国特許および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に引用されるアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBI提出物は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に引用される他のすべての公開された参照文献、文書、原稿、および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1-1】図1A図1Dは、SOLUPORE(登録商標)送達方法によるT細胞の効率的な操作を示す棒グラフである。図1Aは、3名のドナーに由来するT細胞へのGFP mRNA送達から24時間後の、GFP発現および細胞生存率を示すグラフである。送達は、細胞の合計パーセンテージとして表している。図1Bは、1名のドナーに由来するT細胞へのGFP mRNA送達後の予測増殖曲線を示す線グラフであり、n=2の平均を示している。SOLUPORE(登録商標)処理細胞と未処理対照細胞との間に、増殖の有意な差は観察されていない(ウィルコクソンのマッチドペア符号順位検定)。図1Cは、GFP mRNAおよびCD19 CAR mRNAの同時送達を示すグラフである(1名のドナーにおいてn=3)。図1Dは、TRAC RNPおよびCD7 RNPの個別の送達を示すグラフであり、TRAC RNPの送達に続いて2日後にCD7 RNPを送達し、CD7 RNP送達後5日目に解析したものである(1名のドナーにおいてn=3)。(SOL=SOLUPORE(登録商標)送達システム)。
図1-2】図1-1の説明を参照のこと。
図2図2Aおよび2Bは、3種類すべてのタンパク質について陰性であった集団のパーセンテージが、SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムおよび臨床使用プラットフォームの場合に、それぞれ46±7および38±9であったことを示す棒グラフである(3名のドナー、3回の技術的反復);それぞれ、図2Aおよび2B。SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムおよび臨床プラットフォームにおいて同程度の成績が観察され、他の技術によるトリプル編集は、10%またはそれより少ない。
図3】RNPの同時送達のための実験デザインの概略図である。Cas9 RNP-TRAC sgRNAは、2:1の比で、0.4μg/μLの濃度で調製した(3.3μg/1×106細胞と同等); S緩衝溶液は、0%、5%、10%、および15%のエタノールとRNPとを用いて調製し、各実験は、各エタノール濃度のS緩衝溶液を用いて、SOLUPORE(登録商標)送達システムにおいて実施した。
図4】CD3を標的とする抗体で染色された細胞から得られた代表的なフローサイトメトリープロットを示す(生きた集団にゲートがかけられた)。未処理(UT)細胞は、93%を超えるCD3陽性率を示し、これは、SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムによるTRAC RNPの送達後に低下した。処理された試料においては、2種類の異なる集団が観察され、左側(ゲート内の)集団が、CD3染色について陰性であった細胞を指している。この陰性集団は、送達溶液中にエタノールが存在しない試料の場合の約59%から、エタノールが存在する試料の場合の約67%へと増加した。存在するエタノールの量には限界があり、それ(0.4μg/μL Cas9 RNPの場合には20%エタノール)を超えるとCas9タンパク質の沈殿が起こる。
図5A】SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムによるTRAC RNP(ガイドとCas9のモル比2:1;3.3μg/1×106細胞)の送達後72時間目の活性化T細胞における、1つの条件当たり2~3個のレプリケートから得られた平均CD3陰性集団(±標準偏差)を示す棒グラフである。漸増濃度のエタノールが、送達溶液中にカーゴと共に加えられた。CD3編集のレベルは、エタノールの濃度上昇に伴って少し上昇した(0%EtOHでの58%から15%EtOHでの66%)。
図5B】SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムによるTRAC RNP送達後72時間目の、各群のCD3陰性発現の平均値、標準偏差、平均値の標準誤差、および変動係数を示す表である。
図6】漸増するエタノール濃度ならびに送達前、送達後(3日目)、および送達後(5日目)からなる時点における生存率パーセントを示す棒グラフである。
図7図7A~7Cは、ヒト初代T細胞におけるCRISPR/RNP編集を示す線グラフである。図7Aは、TRAC RNP(μg/1×106細胞)を用いた場合のCD3陰性用量反応を示すグラフである。図7Bは、CD7 RNP(μg/1×106細胞)を用いた場合のCD7陰性用量反応を示すグラフである。図7Cは、β-2マイクログロブリン(B2m)RNP(μg/1×106細胞)を用いた場合のHLA陰性用量反応を示すグラフである。生存率が80%を超える、複数のTRAC(CD3) RNP、CD7 RNP、B2M(HLA) RNPについての上首尾な編集が観察された。
図8】編集の間中T細胞表現型が維持されたことを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
複雑な改変および高レベルの細胞機能性を必要とする次世代細胞療法製品を実現する細胞操作技術が、本明細書において提供される。
【0039】
自己キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法薬は、ある種の液性腫瘍を有する再発性がん患者または難治性がん患者のコホートにおいて前例のない有効性および持続的反応を示し、その結果、2種類のCAR T製品がこれまでに承認されている(Ahmad A, Uddin S, Steinho M. CAR-T cell therapies: An overview of clinical studies supporting their approved use against acute lymphoblastic leukemia and large b-cell lymphomas. Int J Mol Sci 2020; 21:3906)。これらの細胞製品を用いて得られた概念実証によって、現在、エクスビボ細胞療法分野における有意なレベルの研究、開発、および商業活動が推進されている。
【0040】
ウイルス形質導入は、細胞操作のために最も一般的に使用される方法であり、最初に承認された前記CAR T細胞療法薬は、ウイルスベクターを用いて操作された。しかし、ウイルスベクターの限界は、周知である。製造能力の利用可能性に対する制約を伴う、特殊なウイルス製造工程は、商業的需要を満たすための規模変更を大きな課題にする(Levine B, Miskin J, Wonnacott K, Keir C. Global Manufacturing of CAR T Cell Therapy. Mol Ther 2017; 4:92-101)。細胞療法薬のためのウイルス生産の開始からGMPベクターのバッチ出荷までのタイムラインは、非常に長くかつ費用がかかる可能性がある。ウイルス送達システムはまた、ベクターを介した遺伝毒性、例えば、有害な免疫原性および重度の副作用をもたらす、正常遺伝子を破壊するランダム挿入、偶発的ながん遺伝子活性化、または挿入変異誘発の影響を受けやすい(David R, Doherty A. Viral Vectors: The road to reducing genotoxicity. Toxicol Sci 2017; 155:315-25)。さらに、ウイルスベクターがカーゴを収容する能力に対する制約も、固形腫瘍に成功裡に対処するためおよび同種異システム製品のために複雑な改変を必要とする次世代細胞療法製品の操作への適用性に対するさらなる制限である(Rafiq S, Hackett C, Brentjens R. Engineering strategies to overcome the current roadblocks in CAR T cell therapy. Nat Rev Clin Oncol 2020; 17:147-67)。
【0041】
ウイルスベクターに関連する、規模変更、費用、および安全性の難題が推進力となって、ウイルスではない代替物の開発に関心が持たれるようになった。ウイルスベクターに関連する製造上の難題、副作用、および規制の重圧をすべて回避しつつ、多様な細胞型および短期の製造タイムラインに対応する、より大きな多重処理能力、融通性、および汎用性は、任意の1つの細胞内送達方法における魅力的な属性である(Stewart M, Sharei A, Ding X, Sahay G, Langer R, Jensen K. In vitro and ex vivo strategies for intracellular delivery. Nature 2016; 538:183-92)。非ウイルス細胞内送達方法は、2つの主要カテゴリーに大まかに分類することができる。第1のカテゴリーは、物理的/力学的方法、例えば、エレクトロポレーション、ソノポレーション、マグネトフェクション、遺伝子銃、マイクロインジェクション、および細胞圧縮を含む(Stewart M, Langer R, Jensen K. Intracellular delivery by membrane disruption: Mechanisms, strategies, and concepts. Chem Rev 2018; 118: 7409-531、Bono N, Ponti F, Mantovani D, Candiani G. Non-viral in vitro gene delivery: It is now time to set the bar. Pharmaceutics 2020; 12:183、およびDiTommaso T, et al. Cell engineering with microfluidic squeezing preserves functionality of primary immune cells in vivo. Proc Natl Acad Sci USA 2018; 115: E10907-E10914)。しかし、これらの方法の多くは、細胞療法薬の製造工程には適していない。
【0042】
第2のカテゴリーは、化学的ベクター、例えば、カチオンポリマーおよび脂質(脂質ナノ粒子を含む)を含むが、現在のところ、これらの化学的方法の効率は、ウイルス対応物に匹敵せず、毒性が依然として懸念されている(Azarnezhad A, Samadian H, Jaymand M, Sobhani M, Ahmadi A. Toxicological profile of lipid-based nanostructures: are they considered as completely safe nanocarriers? Crit Rev Toxicol 2020; 50: DOI: 148-176)。結果として、エレクトロポレーションプラットフォームは、現在、細胞操作のために最も広く使用されている非ウイルス技術である。
【0043】
次世代の免疫細胞製品は、ウイルスを用いて改変されたものとウイルスを用いずに改変されたものの両方である可能性がある。T細胞のCRISPR-Cas9遺伝子編集の安全性を試験するための、ヒトでの最初の試験では、CARを送達するためのウイルス形質導入の前に、エレクトロポレーションを用いて遺伝子編集ツールを送達した(Stadtmauer E, et. al., CRISPR-engineered T cells in patients with refractory cancer. Science 2020; 367: eaba7365)。しかし、細胞内カルシウムレベルの維持、遺伝子発現プロファイルの変化、増殖能力の低減、および能力の低下を含む、免疫細胞に対するエレクトロポレーション工程の強い影響に関して、懸念が残る(DiTommaso T et al. Cell engineering with microfluidic squeezing preserves functionality of primary immune cells in vivo. Proc Natl Acad Sci USA 2018; 115: E10907-E10914、Zhang M, et al. The impact of Nucleofection on the activation state of primary human CD4 T cells. J Immunol Methods 2014; 408:123-31、およびBeane J, et al. Clinical Scale Zinc Finger Nuclease-mediated Gene Editing of PD-1 in Tumor Infiltrating Lymphocytes for the Treatment of Metastatic Melanoma. Mol Ther 2015; 23:1380-90)。
【0044】
インビトロでの堅調な免疫細胞増殖およびエフェクター機能は、インビボでの抗腫瘍機能の向上と相関していることが明らかになっており、エフェクター細胞のこれらの重要な品質特性に悪影響を与えない送達方法の必要性を浮き彫りにしている(Ghassemi S, et al Reducing ex vivo culture improves the antileukemic activity of chimeric antigen receptor (CAR) T cells. Can Immunol Res 2018; 6:1100-9およびFinney O, et al. CD19 CAR T cell product and disease attributes predict leukemia remission durability. J Clin Invest 2019; 129:2123-32)。さらに、製造が、費用、時間の観点から実現可能であり、かつ差し迫った臨床的必要性を満たすことを徹底するためには、患者を治療するための最終製品を生産するのに十分な収量の生存可能な導入遺伝子陽性細胞を得ることが、不可欠である。したがって、代替のアプローチが必要とされており、理想的な細胞内送達方法は、正常な細胞機能の撹乱を最小限に抑えつつ、複数の細胞型への多種多様なカーゴのトランスフェクションを可能にするものであると考えられる。
【0045】
SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いる非ウイルス方法が報告されており、この方法は、細胞膜の一時的な透過処理を可能にして、様々な組成、特性、およびサイズを有するカーゴ、例えば高分子および核酸、の迅速な細胞内送達を実現する(O'Dea S, et al. Vector-free intracellular delivery by reversible permeabilization. PLoS ONE 2017; 12)。本明細書において、SOLUPORE(登録商標)送達システムが、細胞生存を保持しつつ、mRNAおよび遺伝子編集ツール、例えばCRISPR-Cas9の、初代ヒトT細胞への送達を首尾よく促進することが示された。
【0046】
外因性カーゴ
免疫細胞に送達される外因性カーゴ(または「ペイロード」)とは、水溶液を介して、細胞原形質膜を通過して細胞内部へと送達される、化合物または組成物を表す。外因性カーゴは、核酸(例えば、RNA(リボ核酸)、mRNA(メッセンジャーRNA)、もしくはDNA(デオキシリボ核酸))、タンパク質もしくはペプチド、低化学分子、またはそれらの任意の組合せを含むことができる。低化学分子は1,000Da未満であることができる。低分子は、質量が2000ダルトン未満である化合物である。低分子の分子量は、好ましくは1000ダルトン未満、より好ましくは600ダルトン未満であり、例えば、化合物は、500ダルトン、400ダルトン、300ダルトン、200ダルトン、または100ダルトン未満である。
【0047】
好ましい例において、外因性カーゴは、リボ核タンパク質(RNP)、例えば、TRAC(T細胞受容体α定常部)RNPまたはCD7(分化クラスター)RNPを含む。
【0048】
外因性カーゴの連続的送達
複数の態様において、少なくとも2つの外因性カーゴは、連続的に送達される。例えば、連続的に送達されるとは、1つの外因性カーゴの送達と、それに続く、第2、第3、または第4の外因性カーゴの送達を意味し得る。例えば、(外因性カーゴを含む)本発明の免疫細胞は、次いで、第2の外因性カーゴを含むようにさらにマニピュレートされてよい。本明細書において使用される場合、「マニピュレートされた」という用語は、SOLUPORE(登録商標)送達方法、膜を破壊する方法(エレクトロポレーション、ソノポレーション、マグネトフェクション、オプトポレーション)、または担体を用いる方法(脂質ナノ粒子)を含む、細胞内送達のための任意の公知のトランスフェクション方法を意味し得る。
【0049】
好ましい例では、TRAC RNPが送達され、その後に、CD7 RNPが送達される。他の例では、CD7 RNPが送達され、その後に、TRAC RNPが送達される。
【0050】
カーゴの二重/多重送達と同様に、連続的送達は、腫瘍細胞を標的とするかまたは腫瘍細胞を効果的に死滅させる能力を高める複数の新しい特徴を有するように細胞を改変することができるという、治療的利点を与える。
【0051】
特定の例において、外因性カーゴ(例えば、少なくとも2つのRNP)の連続的送達は、連続的送達および/または対照(外因性カーゴを含まない免疫細胞)のいずれかと比べて、相乗効果を与える。例えば、相乗効果とは、2つまたはそれより多い外因性カーゴが(例えば、連続的に)送達された場合に、それらのうちのいずれか一方だけの場合よりも大きな効果を生み出す、効果である。
【0052】
T細胞受容体α定常部(TRAC)
TRAC RNPが送達され、その後、例えば2日後に、CD7 RNPが送達された。
【0053】
TRAC RNP送達後のTCR発現の混乱は、例えば、フローサイトメトリーなどの標準的な方法を用いて細胞表面上のCD3の存在を検出することにより、分化クラスター3(CD3)発現の喪失/減少に基づいて評価される。CD3はTCR(T細胞受容体)と表面複合体を形成し、CD3の存在について細胞を染色することによって、TRACノックダウンが検出される。CD7 RNP送達後の分化クラスター7(CD7)発現の混乱は、例えば、フローサイトメトリーなどの標準的な方法を用いて細胞表面上のCD7の存在を検出することにより、CD7発現の喪失/減少に基づいて評価される。
【0054】
特許請求される本発明、例えば連続的RNP/RNP送達の利点
所定の細胞集団においてトランスフェクション事象を繰り返すことは、トランスフェクションが細胞にストレスを引き起こし得るため、困難である。リポフェクションおよびエレクトロポレーションなどの多くのトランスフェクション方法は、様々な程度で細胞毒性に関連しており、1回のトランスフェクション事象は許容され得るが、トランスフェクション事象の繰り返しは、細胞生存率の有意な減少および高レベルの細胞死という結果をもたらし得る。生き延びた細胞でさえ、損傷を受け、送達された外因性カーゴを正確に処理することができない可能性がある。
【0055】
RNPは、DNAがその後に細胞によって修復されるように前記DNAを切断する、遺伝子編集ツールである。細胞は、この修復プロセスを実行し、それと同時に生存し続けるために、健全な状態でなければならない。細胞が損傷を受けた場合には、遺伝子編集が成功裡に実施される可能性は低くなる。RNPを細胞に送達するトランスフェクションプロセスは、生存能力があり遺伝子編集を存在させる細胞を生じるために、低毒性でなければならない。
【0056】
SOLUPORE(登録商標)送達システムは、細胞中へのカーゴの効率的な送達を可能にする穏やかなトランスフェクションプロセスを提供する。RNPがSOLUPORE(登録商標) システムを用いて送達される場合、効率的な遺伝子編集が実現され、同時に、高い細胞生存率が保持される。細胞ストレスは存在せず、第2のRNPトランスフェクションプロセスを、同等に高いレベルの編集効率および細胞生存率で行うことができるほどである。これは、細胞治療薬の製造のために免疫細胞の複雑な操作を実施できることを意味する。さらに、出発原料、例えば、T細胞、NK細胞、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの患者由来細胞が壊れやすい場合には、SOLUPORE(登録商標)送達システムなどの穏やかなプロセスを複雑な操作のために使用することが重要である。他の出発原料、例えばiPSC由来のT細胞またはNK細胞もまた、壊れやすく、したがって、これらの細胞に対して最小限のストレスしか引き起こさないSOLUPORE(登録商標)送達システムなどのシステムを用いて、これらの細胞においてトランスフェクションを繰り返し行うことが望ましい。
【0057】
定義
以下の定義は、本発明の主題を理解する目的、および添付の特許請求の範囲を構成するために、含まれる。本明細書において使用される略語は、化学技術および生物学技術の範囲内の通常の意味を有する。
【0058】
本発明の様々な態様および局面が本明細書において示され説明されているが、このような態様および局面は単なる例として提供されていることが、当業者には明らかであろう。多数の変形、変更、および代用が、本発明から逸脱することなく、当業者にはすぐに思い浮かぶであろう。本明細書において説明される本発明の態様の様々な代替案が、本発明を実践する際に使用され得ることが、理解されるべきである。
【0059】
本明細書において使用されるセクションの見出しは、系統化するためにすぎず、説明される主題を限定するものとして解釈されるべきではない。特許、特許出願、記事、書籍、マニュアル、および論文を非限定的に含む、本出願において引用される全ての文書または文書の一部は、任意の目的のために、その全体が参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【0060】
「患者」または「それを必要とする対象」とは、指定の障害に罹患しているか、または罹患している可能性のある、動物界の生きているメンバーを意味する。複数の態様において、対象は、疾患に自然に罹患し得る個体を含む種のメンバーである。複数の態様において、対象は哺乳動物である。哺乳動物の非限定的な例には、げっ歯動物(例えば、マウスおよびラット)、霊長類(例えば、キツネザル、ガラゴ、サル、類人猿、およびヒト)、ウサギ、イヌ(例えば、コンパニオンドッグ、介助犬、または作業犬、例えば、警察犬、軍用犬、競争犬、もしくはショー用の犬)、ウマ(例えば、競走馬および使役馬)、ネコ(例えば、飼い慣らされたネコ)、家畜(例えば、ブタ、ウシ、ロバ、ラバ、バイソン、ヤギ、ラクダ、およびヒツジ)、ならびにシカが含まれる。複数の態様において、対象はヒトである。
【0061】
「対象」、「患者」、「個体」などの用語は、限定することを意図せず、通常、交換することができる。すなわち、「患者」として記載される個体は、必ずしも所与の疾患を有するとは限らず、単に医学的助言を求めているにすぎない場合がある。
【0062】
「含む(comprising)」という移行用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」、または「を特徴とする(characterized by)」と同義であり、包括的または非限定的であり、付加的な挙げられていない要素も方法段階も除外しない。対照的に、「からなる」という移行句は、請求項で指定されていない任意の要素、段階、または成分を除外する。「から本質的になる」という移行句は、指定された材料または段階に、ならびに、特許請求される発明の「基本的および新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないもの」に、請求項の範囲を限定する。
【0063】
本明細書における説明および特許請求の範囲において、「のうちの少なくとも1つ」または「のうちの1つまたは複数」などの句の後には、要素または特徴の連結的なリストが続き得る。「および/または」という用語もまた、2つまたはそれより多い要素または特徴のリスト中に存在し得る。そのような句は、それが使用される文脈と暗黙的または明示的に別段の矛盾がない限り、列挙された要素もしくは特徴のいずれかを個別に、または列挙された要素もしくは特徴のいずれかを、他の列挙された要素もしくは特徴のいずれかと組み合わせて、意味することが意図される。例えば、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」、「AおよびBのうちの1つまたは複数」、ならびに「Aおよび/またはB」という句は、それぞれ、「Aのみ、Bのみ、またはAとBとを一緒に」を意味することが意図される。3つまたはそれより多い項目を含むリストについても、同様の解釈が意図される。例えば、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」、「A、B、およびCのうちの1つまたは複数」、ならびに「A、B、および/またはC」という句は、それぞれ、「Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとを一緒に、AとCとを一緒に、BとCとを一緒に、またはAとBとCとを一緒に」を意味することが意図される。さらに、上記および特許請求の範囲における「に基づく」という用語の使用は、挙げられていない特徴または要素も許容されるように、「に少なくとも部分的に基づく」を意味することが意図される。
【0064】
本明細書において使用される場合、「単離された」または「精製された」核酸分子、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、組換え技術によって作製された場合、他の細胞材料も培地も実質的に含まず、または化学的に合成された場合、化学的前駆物質も他の化学物質も実質的に含まない。精製された化合物は、少なくとも60重量%(乾燥重量)の、関心対象の化合物である。好ましくは、調製物は、少なくとも75%重量、より好ましくは少なくとも90%重量、および最も好ましくは少なくとも99%重量の、関心対象の化合物である。例えば、精製された化合物は、少なくとも90%(w/w)、91%(w/w)、92%(w/w)、93%(w/w)、94%(w/w)、95%(w/w)、98%(w/w)、99%(w/w)、または100%(w/w)の所望の化合物である、化合物である。純度は、任意の適切な標準的方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって測定される。精製または単離されたポリヌクレオチド(リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA))またはポリペプチドは、その天然状態では隣接しているアミノ酸配列も核酸配列も含まない。また、「精製された」は、ヒト対象への投与にとって安全である無菌性の程度、例えば、感染性物質も毒性物質もないこと、を定める。
【0065】
対照レベルと比べて、測定されるレベルは、増大したレベルであり得る。本明細書において使用される場合、レベル(例えば、説明されるSOLUPORE(登録商標)方法の後のサイトカイン放出、遺伝子調節、またはT細胞の代謝速度)に関して「増大した」という用語は、対照レベルを任意のパーセント上回る増大を意味する。様々な態様において、増大したレベルは、対照レベルと比べて、少なくともまたは約5%の増大、少なくともまたは約10%の増大、少なくともまたは約15%の増大、少なくともまたは約20%の増大、少なくともまたは約25%の増大、少なくともまたは約30%の増大、少なくともまたは約35%の増大、少なくともまたは約40%の増大、少なくともまたは約45%の増大、少なくともまたは約50%の増大、少なくともまたは約55%の増大、少なくともまたは約60%の増大、少なくともまたは約65%の増大、少なくともまたは約70%の増大、少なくともまたは約75%の増大、少なくともまたは約80%の増大、少なくともまたは約85%の増大、少なくともまたは約90%の増大、少なくともまたは約95%の増大であってよい。
【0066】
対照レベルと比べて、測定されるレベルは、低下したレベルであり得る。本明細書において使用される場合、レベル(例えば、説明されるSOLUPORE(登録商標)方法の後のサイトカイン放出、遺伝子調節、またはT細胞の代謝速度)に関して「低下した」という用語は、対照レベルを任意のパーセント下回る低下を意味する。様々な態様において、低下したレベルは、対照レベルと比べて、少なくともまたは約5%の低下、少なくともまたは約10%の低下、少なくともまたは約15%の低下、少なくともまたは約20%の低下、少なくともまたは約25%の低下、少なくともまたは約30%の低下、少なくともまたは約35%の低下、少なくともまたは約40%の低下、少なくともまたは約45%の低下、少なくともまたは約50%の低下、少なくともまたは約55%の低下、少なくともまたは約60%の低下、少なくともまたは約65%の低下、少なくともまたは約70%の低下、少なくともまたは約75%の低下、少なくともまたは約80%の低下、少なくともまたは約85%の低下、少なくともまたは約90%の低下、少なくともまたは約95%の低下であってよい。
【0067】
増大または低下はまた、変動比またはlog変動として表されてよい。例えば、2を底とする対数(またはlog2)を使用して、上方調節された遺伝子および下方調節された遺伝子に対して等しい値を有する軸に沿って結果を正規化した。例示的な計算を下記に示す:
遺伝子A 対照に対する処理=7.0(過剰発現している);
遺伝子B 処理に対する対照=7.0、または対照に対する処理=0.142(過小発現している)。
【0068】
どちらも、同じ強さで過剰発現または過小発現しているが、線形目盛では、これは反映されない。あるいは、遺伝子Aは、7.0倍に上方調節されており、遺伝子2は0.142倍に下方調節されている。これがlog2で表される場合には、遺伝子Aは2.81倍に上方調節されており、遺伝子Bは-2.81倍に下方調節されている。
【実施例
【0069】
以下の実施例は、本発明のある特定の態様を例示するものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0070】
本明細書の態様は、以下の実施例および詳細なプロトコールによってさらに例示される。しかし、これらの実施例は、単に態様を例示することを意図しており、本明細書において範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本出願の全体にわたって引用されるすべての参照文献ならびに公開された特許および特許出願の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0071】
実施例1: SOLUPORE(登録商標)送達方法を用いる、エクスビボ細胞療法適用のための初代ヒトT細胞の効率的な操作
初代ヒトT細胞の効率的かつ汎用性のある操作
次世代の免疫細胞療法薬は、細胞機能の付加と欠失の両方を含み得る複雑な編集を必要とする。したがって、SOLUPORE(登録商標)送達システムの能力が、mRNAを用いてT細胞に機能性を導入することと、CRISPR-Cas9タンパク質-gRNAリボ核タンパク質(RNP)複合体を用いて機能性を欠失させることとの両方のために、使用された。プラットフォームの汎用性をさらに調べるために、これらのカーゴを、組み合わせてまたは連続的に送達した。
【0072】
GFP mRNAを、3名のヒトドナーに由来するT細胞に送達し、トランスフェクション後24時間目に、GFP発現および細胞生存率を調べた。GFP発現は、各ドナーにおいて80%より高く、高い細胞生存率が保持された(図1A)。GFP mRNAの送達後のT細胞の増殖は、未処理細胞の増殖と同様のままであった(図1B)。
【0073】
より複雑なカーゴ送達計画をさらに検討した。CAR mRNAをGFP mRNAと同時送達した場合、トランスフェクション後24時間目に、集団の57%超がGFP+/CAR+であり、この場合もやはり、高い細胞生存率が保持されていた(図1C)。TRAC遺伝子およびCD7遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9 RNP複合体を、T細胞に個別および連続的に送達した。個別に送達した場合、処理された集団におけるCD3発現およびCD7発現は、どちらの場合も約25%まで低下した(図1D)せ。TRAC RNPを送達し、その2日後にCD7 RNPを送達した場合、CD7 RNPの送達後4日目に調べた際、処理された集団のおよそ5%がCD3+/CD7+表現型を保持し、生存率は高いままであった(図1D)。
【0074】
薬物製造のための新たなパラダイムを作り出した複雑な製造プロセスおよび物流プロセスにもかかわらず、将来性のある「生きた」CAR T薬物という成功が得られた(Freitag F, Maucher M, Riester Z, Hudecek M. New targets and technologies for CAR-T cells. Curr Opin Oncol 2020; 32:510-517)。しかし、1名の患者のために1つのバッチが製造される製造プロセスの費用および複雑さ、ならびに患者由来の材料の品質について、厳しい教訓が既に学ばれている(Namuduri M, Brentjens RJ. Enhancing CAR T cell efficacy: the next step toward a clinical revolution? Expert Rev Hematol 2020; 13:533-543)。将来の主要な注目領域には、液性腫瘍に対する細胞療法薬の最適化、固形腫瘍における成功を可能にするための革新サイクルタイムの加速、および製造プロセスの変化が含まれなければならないことが、現在、広く認められている。ウイルスを含まないプロトコールが、これらの局面のすべてにおいて重要な役割を果たし、最終的には患者アクセスを改善し得ることが予測されている(Freitag F, Maucher M, Riester Z, Hudecek M. New targets and technologies for CAR-T cells. Curr Opin Oncol 2020; 32:510-517)。さらに、遺伝子工学ツールの継続的な進歩は、非ウイルスアプローチによるゲノムターゲティングが今や可能であることを意味する(Roth T et al. Reprogramming human T cell function and specificity with non-viral genome targeting. Nature 2018; 559:405-9)。
【0075】
SOLUPORE(登録商標)送達システムは、細胞療法分野の開発および製造の必要性に対処することを目標とする先進技術として開発された。本明細書において説明されるように、様々なカーゴタイプを用いる前記システムの送達効率が実証された。このプラットフォームの、細胞生存率を低下させずに多重送達および連続的遺伝子編集を支援する能力は、重要な特徴である。ターゲティングおよび有効性を、液性腫瘍および固形腫瘍の両方に対する自己細胞療法薬において強化しようとする場合、細胞は、製造プロセスに組み込まれ得る段階を用いての複数の改変を必要とするであろう。これは、多重または連続的な操作段階を伴い得る。複雑な編集が必要とされる可能性が高いことを細胞拒絶およびGvHDが意味する、同種異系アプローチにも、同様の需要が当てはまる。
【0076】
ウイルスベクターの収容力およびエレクトロポレーション毒性における制限は、これらのモダリティが多くの複雑な操作レジメンにとって不適切であり得ることを意味する。さらに、研究グレードのウイルスベクターでさえも設計および作製するために長いリードタイムが必要とされることは、開発段階で所望されるよりもタイムラインが長くなり得ることを意味する。このことは、固形腫瘍のための進歩しつつある新規のアプローチに関して、特に懸念されており、ターゲティングおよび有効性についての課題は、多数の候補標的抗原および細胞効力増強を試験する必要があることを意味する。ウイルスベクターに全面的に頼る場合、著しく制約される可能性が高い迅速なハイスループット様式で無数の細胞組成物を評価することが必要であると考えられる。したがって、新しい非ウイルス細胞内送達モダリティが必要とされている。本明細書におい報告される研究は、前記システムが、液性腫瘍のためのCAR Tの最適化および固形腫瘍に立ち向かう際の影響力ある進歩に必要とされる革新サイクルタイムの短縮と両立できることを示す。
【0077】
細胞工学が有用であり得るためには、細胞生存率が維持されなければならない。この分野では、細胞に対して穏やかでありつつ効率的であることができる代替的な非ウイルス送達方法を開発することに、関心が持たれている。本明細書において報告される研究は、トランスフェクションプロセスが細胞生存率に与える影響が最小限であることを実証する。
【0078】
要約すれば、SOLUPORE(登録商標)送達システムは、高レベルの細胞生存率を保持しつつT細胞を効率的に操作する魅力的な非ウイルス送達プラットフォームとなり、したがって、次世代の細胞療法製品の製造課題に対処するために好適である。
【0079】
本明細書において使用される材料および方法
細胞単離および培養
PBMCを、リンホプレップ密度勾配培地(StemCell)を用いて新鮮なロイコパックから単離し、標準的な方法を用いて凍結保存した。解凍後、可溶性CD3(クローンOKT3)抗体およびCD28(クローン15E8)抗体(どちらもMiltenyi Biotech)をそれぞれ100ng/mlで用いて、PBMCからT細胞を刺激した。細胞を、5%Physiologix血清代替物(Nucleus Biologics)、1%L-グルタミン、および250 IU/ml IL-2(CellGenix)を含むCTS OpTimizer+サプリメント(Gibco)からなる完全培地中で3日間、刺激した。
【0080】
SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いるトランスフェクション
トランスフェクション方法は、以前に説明されているものを元にして作り直した(O'Dea S, Annibaldi V, Gallagher L, Mulholland J, Molloy E, Breen C, Gilbert J, Martin D, Maguire M, Curry F. Vector-free intracellular delivery by reversible permeabilization. PLoS ONE 2017; 12)。細胞を、96ウェルフィルターボトムプレート(Agilent)にウェル当たり3.5×105個の細胞またはトランスフェクションポッド(Avectas)にポッド当たり6×106個の細胞のいずれかで、移した。培地を、96ウェルプレートからは350×gで120秒間の遠心分離によって、ポッドからは重力流によって、除去した。カーゴを送達溶液(水に溶かした32.5mMスクロース、106mM塩化カリウム、5mM Hepes)と混合し、1μlまたは50μlを、それぞれ96ウェルプレートまたはポッド中の細胞に向けて送達した。RNPおよびmRNAの送達の場合、送達溶液はまた、10% v/vおよび12% v/vのエタノールをそれぞれ含んだ。室温での30秒間のインキュベーションに続いて、50~2000μlの0.5×リン酸緩衝生理食塩水溶液(68.4mM塩化ナトリウム、1.3mM塩化カリウム、4.0mMリン酸水素ナトリウム、0.7mMリン酸二水素カリウム)を添加し、30秒後に完全培地を添加した。
【0081】
GFP mRNA、CAR mRNA、およびRNPの複合体の送達
GFP mRNAおよびCD19 CAR mRNA(どちらもTriLink Biotechnologies)を、SOLUPORE(登録商標)送達システムおよびエレクトロポレーションのために、それぞれ2μg/1×106細胞および3.3μg/1×106細胞の最終濃度となるように送達した。ビオチン結合CD19 CAR検出試薬(Miltenyi Biotec)、続いて生死判別染色剤としての7 AADと共にストレプトアビジン-PEを用いて、CD19 CAR発現を評価した。Cas9タンパク質(Integrated DNA Technologies)を、3.3μg/1×106細胞の最終濃度で送達し、2モル過剰のgRNA(Cas9 2.48μMおよびgRNA 4.96μM;Integrated DNA Technologies)と、予め複合体を形成させた。ヒトTRACを標的とするgRNAの配列は
であり、ヒトCD7を標的とするgRNAの配列は
であった。CD3およびCD7(抗体クローンCD7-6B7、BioLegend)の発現をフローサイトメトリーによって解析した。
【0082】
増殖アッセイ法
GFP mRNAによるトランスフェクションの後に、製造業者のプロトコールに従ってNC-3000(商標)においてNC-Slide A8(商標)およびSolution 13(ChemoMetec)を用いてT細胞を計数した。試料を1×106細胞/mLの生存細胞密度になるよう調整し、200μLをU底96ウェルプレート(Greiner)に移した。37℃、5%CO2の加湿インキュベーター中に72時間、細胞を置いた。次いで、細胞を計数し、新しい培地に1×106細胞/mLの生存細胞密度で再播種し、さらに96時間インキュベーションした。7日間にわたって予測される細胞増殖を、5×106個の生存細胞である出発細胞数に、3日間にわたって観察された増殖倍率を掛けることによって計算し、次いで、この値に、その後の4日間にわたって観察された増殖倍率を掛けた。
【0083】
フローサイトメトリー解析
NovoCyte 3000を用いてフローサイトメトリーを実施した。データを、NovoExpressソフトウェア(Acea Biosciences)を用いて考察した。
【0084】
統計学
細胞増殖データに対して、ウィルコクソンのマッチドペア符号順位検定を行った。
【0085】
実施例2: SOLUPORE(登録商標)送達システムにおける複数の同時編集
SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いて、複数のCas9 RNPを同時に送達した後の複数の標的部位の編集を評価した。SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムおよび臨床プラットフォーム(SUS)の両方を、これらの実験で使用した。3名の健康なドナーから単離されたCD3+細胞を、TexMACS(Miltenyi Biotech)5%HAB(Valley Biomedical)中で培養し、TransAct(TA;Miltenyi Biotech)および120mL IL-2(Cell Genix)を用いて3日間活性化した。TRAC(ガイドRNA配列
)、CD7(ガイドRNA配列
)、およびβ-2ミクログロブリン(B2m;ガイドRNA配列
)の座位を標的とするCRISPR Cas9 RNPを作製し(モル比2:1のガイドRNAとCas9)、活性化された細胞に送達した(3μg/1×106細胞)(SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムの場合は6×106細胞/レプリケート、および臨床プラットフォームの場合は20×106細胞/レプリケート)。
【0086】
送達後、細胞を37℃、5%CO2、および95%湿度で4日間培養し(2日目に分割)、次いで、タンパク質発現を介して、編集について解析した。CD3(TRAC RNP、抗体クローンSK7、BioLegend)、CD7(CD7 RNP;CD7-SB7、BioLegend)、およびHLA(B2m RNP;抗体クローンW6/32、BioLegend)に対する抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーを用いて発現を評価した。B2M KOについては、使用された抗体は、HLA-ve応答を測定する抗HLA-APCであった。この理由は、MHC-1が、ペプチドに結合する、ヒト白血球抗原(HLA)にコードされたα鎖と、安定化足場の役割を果たすβ-2-ミクログロブリン(B2M)タンパク質とを有し、B2M遺伝子ノックアウトは、HLA-1の表面発現の喪失をもたらすからである。
【0087】
3種類すべてのタンパク質について陰性であった集団のパーセンテージは、SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムおよび臨床使用プラットフォームの場合に、それぞれ46±7および38±9であった(3名のドナー、3回の技術的反復);それぞれ、図2Aおよび2Bを参照されたい。SOLUPORE(登録商標)リサーチプラットフォーム送達システムおよび臨床プラットフォームにおいて同程度の成績が観察され、他の技術によるトリプル編集は、10%またはそれより少ない。
【0088】
SOLUPORE(登録商標)送達システムによる送達後のRNP編集効率に対するアルコール(エタノール)の影響
SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いて、エタノールが送達後のRNP編集効率に影響を及ぼすかどうかを判定するために実験を実施した。さらに、SOLUPORE(登録商標)送達システムによるRNPの送達後の編集のために最適なエタノール濃度を確かめるための実験も実施し、例えば、最適なCas9誘導編集を可能にするエタノール濃度の上限を明らかにした。エタノールの増加は、細胞へのより多量のカーゴ送達を可能にして、より高い編集効率を可能にし得る。
【0089】
Cas9 RNP-TRAC sgRNAは、2:1の比で、0.4μg/μLの濃度で調製した(3.3μg/1×106細胞と同等); S緩衝(32.5mMスクロース;106mM塩化カリウム;5mM HEPES)溶液は、0%、5%、10%、および15%のエタノールとRNPとを用いて調製し、各実験は、各エタノール濃度のS緩衝溶液を用いて、SOLUPORE(登録商標)送達システムにおいて実施した。実験計画を図3に示している。
【0090】
「S緩衝液」は、4℃で5分間、低浸透圧の生理学的緩衝溶液(78mMスクロース、30mM KCl、30 mM酢酸カリウム、12mM HEPES)を含む(Medepalli K. et al., Nanotechnology 2013; 24(20);その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの例において、S緩衝液中の酢酸カリウムは、酢酸アンモニウムで置き換えられる。S緩衝液は、国際出願WO 2016/065341の、例えば¶[0228]~[0229]でさらに説明されており、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。例えば、この一連の実験で使用されるS緩衝液は、32.5mMスクロース;106mM塩化カリウム;および5mM HEPESを含んだ。
【0091】
結論:各エタノール濃度でのCD3編集効率(例えば、TRAC RNPのモニタリング)を、SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いた送達後に試験した。CD3を標的とする抗体で染色された細胞から得られた代表的なフローサイトメトリープロットを示す(生きた集団にゲートがかけられた)図4を参照されたい。図5Aは、CD3編集のレベルがエタノールの濃度上昇とともに少し上昇した(0%EtOHでの58%から15%EtOHでの66%)ことを示す棒グラフを示し、これらの結果を、図5Bの表にさらにまとめて示している。
【0092】
実施例3: ヒト初代T細胞におけるCRISPR/RNP編集
1つのカーゴを単一編集のために送達する、および複数のカーゴを同時に投与する、3種類の異なる実験を行った。
【0093】
CRISPR/RNP編集をヒト初代T細胞において評価した。複数の標的部位におけるCRISPR/RNP単一編集を評価したところ、編集効率は60~80%の範囲であり、細胞生存率は80~90%であった。図7A~7Cを参照されたい。TRAC(ガイドRNA配列
;CD3)RNP、CD7(ガイドRNA配列
)RNP、およびB2M(ガイドRNA配列
;HLA)RNPについて、様々なRNP濃度(0.12μg/1×106細胞;0.37μg/1×106細胞;1.1μg/1×106細胞;3.3μg/1×106細胞、および9.9μg/1×106細胞)にわたって、成功裡の編集が観察され、生存率は80%を超えていた。
【0094】
編集の間中T細胞表現型が維持された
遺伝子編集は、RNP送達後4時間以内に明らかになり、したがって、初期の時点での幹細胞に似た細胞表現型の維持が重要であった。CD8+細胞は、主要な細胞障害性T細胞であり、同様の傾向がCD4+ヘルパーT細胞でも認められた。(4時間の時点が記録された)図8を参照されたい。
【0095】
SOLUPORE(登録商標)送達システムを用いる細胞は、遺伝子編集時間枠の間中、ヌクレオフェクション(NF;Lonza Nucleofection)よりも高いパーセントで、幹細胞に似た表現型を示した。例えば、初期の時点の時間枠は、3時間を含んでよく(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるKim et al. Highly efficient RNA-guided genome editing in human cells via delivery of purified Cas9 ribonucleoproteins. Genome Res. 2014;24(6):1012-1019を参照されたい)、または後期の時点の時間枠は、遺伝子編集が24時間までに完了する場合であってよい(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられるBrinkman EK, et al. Kinetics and Fidelity of the Repair of Cas9-Induced Double-Strand DNA Breaks. Mol Cell. 2018;70(5):801-813.e6を参照されたい)。
【0096】
他の態様
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を例示することを意図し、限定することを意図しない。他の局面、利点、および修正は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0097】
本明細書において言及される特許および科学文献は、当業者が利用可能な知識を確立する。本明細書に引用される全ての参照文献、例えば、米国特許、米国特許出願公開、米国を指定国とするPCT特許出願、公開された外国特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に引用されるアクセッション番号によって示されるGenbankおよびNCBI提出物は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に引用される他のすべての公開された参照文献、文書、原稿、および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0098】
本発明は、その好ましい態様を参照して特に示し、説明したが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明において形態および詳細を様々に変更してよいことが、当業者によって理解されると考えられる。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
【配列表】
2024503137000001.app
【国際調査報告】