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特表2024-503178皮の脱灰用の脱灰組成物および脱灰方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】皮の脱灰用の脱灰組成物および脱灰方法
(51)【国際特許分類】
   C14C 1/08 20060101AFI20240118BHJP
   C08F 251/00 20060101ALI20240118BHJP
   C08F 289/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C14C1/08
C08F251/00
C08F289/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523667
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022051284
(87)【国際公開番号】W WO2022157273
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】21153020.9
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523138459
【氏名又は名称】ティー・エフ・エル レーダーテヒニク ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TFL Ledertechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Peter-Krauseneck-Str. 16, 79618 Rheinfelden, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー ラーベ
(72)【発明者】
【氏名】ズザンネ デッパート
【テーマコード(参考)】
4F056
4J026
【Fターム(参考)】
4F056AA01
4F056CC45
4F056CC72
4F056DD14
4J026AA03
4J026AA04
4J026AA07
4J026BA25
4J026DB04
4J026DB14
4J026GA09
(57)【要約】
本発明は、少なくともアクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物から選択されたモノマーまたはそれらのモノマー混合物のラジカル重合によって得ることができる多糖類および/もしくはポリペプチドまたはそれらの各種誘導体から構成されるグラフトポリマーを使用した脱灰組成物および脱灰方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮の脱灰用の脱灰組成物であって、前記脱灰組成物は、
- 脱灰すべき皮と、
- 脱灰剤であって、前記脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであるものとする、脱灰剤と
を少なくとも含み、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする、脱灰組成物。
【請求項2】
前記モノマーAが、前記モノマー(b)および(c)を含まない、請求項1記載の脱灰組成物。
【請求項3】
前記モノマー(A)の前記モノマー混合物に、
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに(b)および(c)のうちの少なくとも1つが含まれ、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれる、請求項1記載の脱灰組成物。
【請求項4】
前記グラフトポリマーが、
A)以下のものから選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物:
(a)モノマーAを基準として20~100重量%の、アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、
(b)モノマーAを基準として0~80重量%の、モノマー(a)と共重合可能である他のモノエチレン性不飽和モノマー、および
(c)モノマーAを基準として0~5重量%の、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマー
を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができる、請求項1から3までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項5】
前記グラフトポリマーは、アクリル酸、ポリペプチド加水分解物および多糖類加水分解物のラジカル重合によって得ることができる、請求項1から4までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項6】
前記多糖類B1)は、500~10,000ダルトン、特に3000~10,000ダルトンの範囲の平均分子質量を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項7】
前記多糖類B1)は、加水分解により分解されたデンプンを含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項8】
前記ポリペプチドB2)は、1000以上の、特に3000ダルトン以上の範囲の平均分子質量を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項9】
前記ポリペプチドB2)は、クロムを用いてまたはクロムを用いずに鞣し処理された牛皮のシェービング屑に後処理を施したものを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の脱灰組成物。
【請求項10】
脱灰すべき皮を脱灰するための脱灰方法であって、前記脱灰方法は、
a)脱灰すべき皮を準備するプロセスステップと、
b)前記脱灰すべき皮に脱灰剤を加えるプロセスステップと
を少なくとも含み、ここで、前記脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする、方法。
【請求項11】
プロセスステップb)において、前記脱灰剤が、前記脱灰すべき皮の量を基準として≧0.5重量%~≦12重量%の割合で存在する、請求項10記載の脱灰方法。
【請求項12】
皮革の製造方法であって、
i)原皮を準備するプロセスステップと、
ii)前記原皮の石灰漬けまたは垢出しを行うプロセスステップと、
iii)前記原皮の脱灰を行うプロセスステップと、
iv)前記原皮の鞣しを行うプロセスステップと
を含む方法において、前記方法は、プロセスステップiii)による前記原皮の前記脱灰を、脱灰剤を用いて実施し、前記脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする、方法。
【請求項13】
皮の脱灰へのグラフトポリマーの使用であって、前記グラフトポリマーは、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができる、使用。
【請求項14】
グラフトポリマーによる脱灰が行われた、皮革製造の半製品であって、前記グラフトポリマーは、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)は、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーであるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができる、半製品。
【請求項15】
グラフトポリマーによる脱灰が行われた皮革であって、前記グラフトポリマーは、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、前記多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、前記ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、前記グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、前記モノマー(a)と共重合可能であり、かつ前記モノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)は、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーであるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができる、皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮の脱灰用の脱灰組成物、皮の脱灰方法、および皮の脱灰用の脱灰剤としてのグラフトポリマーの使用に関する。特に本発明は、特定のグラフトポリマーを使用した皮の脱灰に関する。
【0002】
皮革製造における脱毛および皮の酵解、例えば不要なタンパク質の除去を目的とした皮の石灰漬けは、アルカリ性媒体中で、通常は無機またはさらには有機硫化物を用いてpH値12以上で実施される。アルカリ剤としては、通常は石灰が、通常は単独で、しかし場合によっては苛性ソーダまたは炭酸ナトリウムと混合して使用される。その後、さらなる加工に備えて、材料から石灰漬け剤、特に石灰を除去する、すなわち「脱灰」を行う必要がある。このステップは、通常、カルシウムイオンと可溶性錯体を形成する酸または酸塩を添加して、これを廃水と一緒に除去できるようにすることによって行われる。さらに、皮のpH値を所望の実質的に中性の値にすることが望ましい。これは、その後の処理ステップで使用される酵素による皮の酵解の完了に、このpH範囲が最も適しているためである。そのような酸の例は、特に、フタル酸、スルホフタル酸、ギ酸、酢酸、ホウ酸、脂肪族ジカルボン酸およびそれらの混合物、塩酸、硫酸およびそれらのアンモニウム塩、ならびに二酸化炭素である。
【0003】
確かに、pH値を脱灰剤によって皮の断面までも低下させることが望ましいが、その場合、方法中にpH値がタンパク質の等電点まで低下せず、またさらにはこの等電点を下回らないこと、すなわちpH値がおよそ5を下回らないことが望ましい。これが起こると、先行する石灰漬けの際に溶解したタンパク質物質が、場合によっては他の溶解粒子とともに析出し、除去が困難な形態で皮材の表面に沈着することになる。これらの残滓は、皮の外観を損ない、後の加工過程、特に染色の際に妨げとなる。また、終了時に生成される最終生成物である皮革の触感にも悪影響を及ぼす。
【0004】
このため、ほとんどの酸は、短期的かつ局所的にでもpH値が約5を下回らないように、非常に少量ずつ徐々に添加することしかできない。このことは、皮革製造方法中に系内に存在する石灰の量が変動するため、まったくまたは限定的にしか実用的ではない。
【0005】
このため、pH値9前後の緩衝域を有し、pH値が臨界的水準まで低下しにくいアンモニウム塩が、これまで最も頻繁に脱灰に使用されてきた。また、アンモニウム塩は、肥料として使用されるため世界的に入手し易く、経済的にも重要である。しかし、この使用には欠点がある。第一に、脱灰の過程で放出されるアンモニアガスは、臭気の点で不利であることに加え、対応する装置の操作者の呼吸器官を刺激するおそれもある。第二に、廃水にはアンモニア性窒素が多量に含まれており、これには自然環境保護上の観点からも問題がある。このため、鞣し工場から放出される廃水に含まれる量は、法的規制により制限されることが多い。
【0006】
したがって、上記のような問題を回避するため、多くの代替的な脱灰剤が開発されている。
【0007】
独国特許出願公開第804827号明細書から、脱灰剤としてのブチロラクトンの使用が知られている。このラクトンは、通常の脱灰条件下で加水分解するため、方法中に穏やかなpH曲線が得られる。しかし、加水分解が非常にゆっくりと行われるため、方法時間の実用性は限定的である。
【0008】
欧州特許出願公開第0059909号明細書では、多価脂肪族アルコールの5員または6員環状カーボネート、例えばエチレンカーボネートまたは1,2-プロピレンカーボネートが脱灰剤として用いられており、その使用時にpH値は7.5を下回らない。ここでの効果もまた、エステルの塩基性加水分解に基づくものである。これらの化合物の欠点は、ブチロラクトンの場合と同様に加水分解が遅いため、必要な時間が長すぎて実用性に乏しい場合があることである。
【0009】
国際公開第2013/107233号には、別の脱灰剤が開示されている。この薬剤は、ポリスクシンイミドまたはヒドロキシポリスクシンイミドを含む。ポリスクシンイミドの塩基性での開環に基づく緩衝作用があり、これにより脱灰時に安定したpH制御が行われる。しかし、これらの化合物は、高分子特性ゆえに比較的ゆっくりとしか皮に浸透せず、このため成果が認められていない。
【0010】
欧州特許出願公開第3425068号明細書では、脱灰剤として、アミノ酸および/またはアミノ酸を含むタンパク質加水分解物が提案されている。この場合の利点は、アミノ酸の両性電解質特性によって、方法中のpH値緩衝作用が生じることである。さらに、アミノ酸は可溶性のカルシウム塩を形成する。しかし、これはタンパク質加水分解物にも限られた範囲にしか適用されず、活性の窒素基およびカルボキシル基のほとんどは、それらの間のペプチド結合によってブロックされる。加水分解度については詳細に規定されていないが、該特許文献には、アミノ酸が実際の脱灰剤として記載されていることから、結果的に、高いアミノ酸含有量を伴う高い加水分解度が好ましいと記載されている。しかし、加水分解度が高いと、潜在的なタンパク質源の加水分解が比較的煩雑になる。
【0011】
欧州特許出願公開第3425069号明細書では、脱灰剤として、毛、シェービング屑、または皮革製造中に生じる他の残材の酸加水分解によって得ることができるタンパク質加水分解物が提案されている。ここでも、活性脱灰剤としてアミノ酸が記載されている。実施例に示されている高圧での加水分解から、比較的煩雑な加水分解を高い加水分解度で行う必要があることが明らかであり、この加水分解にはオートクレーブを使用する必要がある。
【0012】
したがって、本発明の課題は、先行技術の少なくとも1つの欠点を少なくとも部分的に克服することが可能な皮の脱灰方法を提供することである。特に、本発明の課題は、皮の簡便な脱灰方法であって、アンモニウム塩の使用を低減または回避し、使用される脱灰剤が、再生可能な天然ポリマーの使用に完全にまたは部分的に基づく、方法を提供することである。
【0013】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を有する脱灰組成物により解決される。本発明によれば、この課題はさらに、請求項10の特徴を有する原皮の脱灰方法、請求項12の特徴を有する皮革の製造方法、および請求項13の特徴を有する使用により解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項、発明の詳細な説明および実施例に開示されており、従属請求項または発明の詳細な説明または実施例に記載または示されているさらなる特徴は、文脈から一義的に逆の事項が示されない場合、個別にまたは任意の組み合わせで本発明の主題を構成することができる。
【0014】
本発明は、皮の脱灰用の脱灰組成物であって、該脱灰組成物は、
- 脱灰すべき皮と、
- 脱灰剤であって、該脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであるものとする、脱灰剤と
を少なくとも含み、グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)は、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーであるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができる、脱灰組成物に関する。
【0015】
驚くべきことに、本明細書に記載の脱灰組成物は、特に脱灰剤としての特定のグラフトポリマーの存在により、脱灰すべき皮の脱灰に関して上述の課題を解決することができることが見出された。
【0016】
脱灰組成物は、まず、脱灰すべき皮を含む。この点に関して、自体公知であるとおり、脱灰とは、皮革製造において例えば石灰漬けや垢出しに続く作業ステップであるとの説明がなされるべきである。このような脱灰すべき皮は、ペルトとも称される。ペルトは、毛および/または脂肪分が減少していること、または特に石灰漬けの後に、毛および/または皮に付着している脂肪が除去されていることを特徴とする。したがって、石灰漬け済みの皮は、例えば、特に毛がなく、特に脂肪残滓がない純粋な原皮のみを含む。
【0017】
石灰漬け済みの皮は、例えば、石灰漬けに使用された物質をなおも含んでいる。ここでは例えば、水酸化カルシウムや硫化ナトリウム、水和石灰、硫化ナトリウムおよび各種酵素が挙げられる。また、脱灰すべき皮は、上流の方法により塩基性範囲のpH値、特に9を上回る、例えば10以上、通常は11以上のpH範囲のpH値を有する。
【0018】
しかし、皮革製造における自体公知のさらなるプロセスステップである鞣しに向けて皮を準備するには、これらの物質を皮あるいはペルトから除去する必要がある。このステップが特に脱灰であり、この脱灰は、鞣しに向けて皮を準備する役割も果たす。脱灰では、例えば石灰漬けに使用された物質を皮から除去し、さらにpH値を低下させるが、このpH値の低下は、せいぜい実質的に中性の範囲にとどまるものである。これは、脱灰剤により達成することができる。したがって、脱灰後の皮は、例えば7以上9以下の範囲のpH値を有する。
【0019】
したがって、脱灰剤は特に、pH値を塩基性範囲から実質的に中性の範囲にまで低下させる役割を果たし、脱灰により、例えば石灰漬けに用いられた物質を除去することができる。
【0020】
本発明によれば、脱灰剤は、実質的に、多糖類、ポリペプチドおよび/またはそれらの誘導体のグラフトポリマーを有し、多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれる
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることが提供される。
【0021】
驚くべきことに、少なくともアクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物から選択されたモノマーまたはそれらのモノマー混合物のラジカル重合によって得ることができる多糖類および/もしくはポリペプチドまたはそれらの各種誘導体から構成されるグラフトポリマーを使用することで、上記の課題を解決できることが見出された。天然ポリマーをベースとするこのようなグラフトポリマーは知られており、その製造は特に国際公開第2012/163823号または独国特許出願公開第4416877号明細書に記載されている。これらの文献では、対応するポリマーが鞣し、すなわち脱灰の下流のプロセスステップに使用されているが、これとは異なり、驚くべきことに、前述のポリマーの脱灰剤としての利点が見出された。
【0022】
これらの化合物は、例えば皮革のシェービング屑のような天然ポリマー成分を高い加水分解度までコストをかけて加水分解する必要がなく、かつその高分子特性にもかかわらず、設定された課題を解決することができる。
【0023】
有利には、ポリマー成分は、天然ポリマー成分を有することができる。天然ポリマー成分とは、本明細書において、あらゆる種類の多糖類およびポリペプチド源であると理解される。これらの例としては特に、デンプン、シェービング屑、皮革片、骨膠、毛および羽毛があり、これらは多糖類またはポリペプチドとして機能することができる。
【0024】
脱灰組成物を形成する際、脱灰に利用されるグラフトポリマーに、脱灰助剤、緩衝塩、有機酸またはタンパク質分解酵素を添加することもできる。
【0025】
脱灰助剤は、マグネシウム塩、砂糖および/または糖蜜であってよい。記載された緩衝塩は、ピロ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウムから選択することができ、記載された酸は、フタル酸、スルホフタル酸、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ヘキサン二酸、ホウ酸、脂肪族ジカルボン酸およびそれらの混合物、塩酸、硫酸およびそれらのアンモニウム塩、ならびに二酸化炭素から選択することができる。記載されたタンパク質分解酵素は、軟化作用を示すタンパク質分解酵素から選択することができる。
【0026】
記載された脱灰組成物によって、特に脱灰剤を使用することで、当業者に自体公知の皮の脱灰方法を実施することが可能となり、その際、脱灰剤のみを変更すれば済む。言い換えれば、自体公知の方法を用いることができ、その際、脱灰剤として記載されたグラフトポリマーが使用されるか、あるいは脱灰剤は、記載されたグラフトポリマーを含む。
【0027】
したがって、記載された脱灰組成物の利点は、特に、天然ポリマーをベースとするグラフトポリマーの使用によって、脱灰プロセスにおけるアンモニウム塩の使用を回避あるいは低減できることにある。再生可能な原料を使用し、かつ廃水中のアンモニウム塩を低減することで、著しい自然環境保護的および経済的な利点が得られる。皮革製造時に発生する例えば毛やシェービング屑などの残材をグラフトポリマーの出発材料として使用することで、廃棄物量が削減されるだけでなく、鞣し工場にとっても物流面での利点がある。
【0028】
さらに、本発明によれば、pH値を皮の断面までも低下させるが、ただし、pH値がタンパク質の等電点まで低下せず、またさらにはこの等電点を下回らないようにすることができる。これによって、先行する石灰漬けの際に溶解したタンパク質物質が、場合によっては他の溶解粒子とともに析出し、除去が困難な形態で皮材の表面に沈着することが阻止される。残滓は、皮の外観を損ない、後の加工過程、特に染色の際に妨げとなるが、こうした残滓を明らかに低減またはさらには完全に阻止することができる。終了時に生成される最終生成物である皮革の触感にも悪影響を及ぼす。
【0029】
本発明によりアンモニウム塩を使用せずに済み、その結果、脱灰組成物がこのような塩を含まないようにすることによってさらに、臭気の点で不利であることに加え、対応する装置の操作者の呼吸器官を刺激するおそれもあるアンモニアガスの放出を阻止することができる。一方で、廃水にはさらに皮由来のアンモニア性窒素が好ましくは全くまたは極めて少量しか含まれていないため、これにより自然環境保護的な態様をさらに向上させることができる。言い換えれば、場合によっては対応するアンモニア性窒素が存在することもあるが、これは特に先行技術の脱灰方法と比較して極めて少量であるに過ぎない。
【0030】
さらに、グラフトポリマーは、好ましくは水分散性または水溶性であってよく、これにより、脱灰時の方法制御を特に好ましいものとすることができる。
【0031】
したがって、総括すると、先行技術では不可能であった自然環境保護的および経済的観点に関する特別な利点が生じる。
【0032】
好ましくは水溶性であるグラフトポリマーは、天然物質B1)および/またはB2)の存在下でのモノマーAの単独重合または共重合によって得ることができる。適したモノマーAには、群(a)(メタ)アクリル酸およびそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩が含まれる。また、これらの混合物も使用することができる。これらの塩は、例えば、酸の水溶液を苛性ソーダ、水酸化マグネシウム溶液、アンモニア、アミンまたはアルカノールアミンで中和して、(メタ)アクリル酸として得ることができる。群(a)のモノマーAを、モノマー(a)と共重合可能な他のモノエチレン性不飽和モノマー(b)とともにグラフト共重合に供することができる。その場合、モノマー混合物中のモノマー(a)の量は、全モノマーAを基準として20~100重量%、有利には40~100重量%、特に98~100重量%であるのに対して、モノマー(b)は、モノマー混合物中に最大で80重量%、有利には最大で60重量%、特に最大で2重量%の量で含まれていてよい。
【0033】
グラフト重合の際に使用される群(b)のモノマーAの例は、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸、メタクリル酸またはクロトン酸のC~Cアルキル-およびヒドロキシアルキルエステル、ならびにマレイン酸、フマル酸またはシトラコン酸のモノまたはジC~Cアルキル-またはヒドロキシアルキルエステル、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、アクリル酸β-ヒドロキシエチル、アクリル酸β-およびγ-ヒドロキシプロピル、アクリル酸δ-ヒドロキシブチル、メタクリル酸β-ヒドロキシエチル、ならびにメタクリル酸β-およびγ-ヒドロキシプロピルである。群(b)のモノマーAとして、(a)で挙げられた化合物のアミドおよびN置換アルキルアミド、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、アルキル基が1~18個のC原子を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド、例えば、N-メチルアクリルアミド、Ν,Ν-ジメチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-オクタデシルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドおよびアクリルアミドグリコール酸も適している。他の好適なモノマー(b)は、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、例えば、β-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、β-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、β-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、δ-(ジエチルアミノ)プロピルアクリレートおよびδ-(ジエチルアミノ)プロピルメタクリレートである。
【0034】
群(b)の他の好適なモノマーは、スルホ基含有モノマー、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、3-スルホプロピルアクリレート、3-スルホプロピルメタクリレートおよびアクリルアミドプロパンスルホン酸、ならびにホスホン酸基含有モノマー、例えば、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸およびアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸である。
【0035】
このモノマーAの群(b)には、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、1-ビニルイミダゾール、1-ビニル-2-メチルイミダゾール、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル、アクロレインおよびメタクロレイン、クロトンアルデヒドおよびそれらのアセタールも含まれている。
【0036】
群(b)の他の好適なモノマーAは、アルコキシル化C~Cアルコールのエステルであり、これは、C~Cアルコールを2~50モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはそれらの混合物とともに群(a)のモノエチレン性不飽和カルボン酸と反応させたものであり、例えば、各種の量のエチレンオキシド、例えば3、5、7、10または30モルのエチレンオキシドと反応させたC13/15アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステルである。
【0037】
群(b)のモノマーAとして、ビニル芳香族化合物、例えば、スチレンおよびα-メチルスチレン、ならびにC-C12オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテンまたはブタジエンも適している。
【0038】
群(b)の他の好適なモノマーAは、モノエチレン性不飽和C~Cカルボン酸のN-モノ-およびΝ,Ν-二置換アミドであり、その際、アミド窒素は、置換基としてポリオキシアルキル化C~C28アルカノール、特にC~C18アルカノールを有し、これらは、2~100、特に3~20モルのエチレンオキシド、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドと反応させたものである。このような化合物の例は、HC=CH-CO-NH-CHCH-O(CO)-H、HC=CH-CO-N[CHCHO-(CO)-H]、HC=C(CH)-CO-NH-(CH-O-(CO)-H、HC=C(CH)-CO-NH-CO-(C-HおよびHC=CH-CO-NH-(CH18-O-(CO)-Hであり、前述の化合物において、n=3~20である。
【0039】
塩基性モノマーは、有利には、鉱酸、例えば、塩酸、硫酸もしくは硝酸との塩の形態で、または四級化された形態で使用される。好適な四級化剤は、例えば、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、塩化メチル、塩化エチルおよび塩化ベンジルである。カルボン酸は、有利には遊離酸の形態で、およびアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩またはそれらの混合物として使用される。
【0040】
グラフトポリマーの製造に好ましく使用されるモノマー混合物Aの成分(b)は、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはクロトン酸のC~Cアルキル-、特にC~Cアルキル-もしくはヒドロキシアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸もしくはシトラコン酸のモノもしくはジC~Cアルキル、特にC~Cアルキルもしくは-ヒドロキシアルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メタクロレイン、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、N-ビニルイミダゾール、またはそれらの混合物である。
【0041】
グラフトポリマーは、群(c)のモノマーAの存在下でグラフト重合を行うことにより、さらに修飾することができる。この場合、モノマー混合物は、特に、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーを最大で5重量%含む。これらの化合物は、通常は共重合において架橋剤として使用される。これらは、共重合に使用される群(a)のモノマーに添加してもよいし、(a)および(b)のモノマー混合物に添加してもよい。これらを使用する場合、モノマー(c)の好ましい使用量は、全モノマーの量を基準として0.05~2重量%である。共重合において群(c)のモノマーAを併用すると、コポリマーのK値が上昇する。
【0042】
したがって、モノマー(A)のモノマー混合物に、
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに(b)および(c)のうちの少なくとも1つが含まれ、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)は、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーである
ことが有利であり得る。
【0043】
好適な化合物(c)は、例えば、メチレンビスアクリルアミド、アクリル酸およびメタクリル酸と多価アルコールとのエステル、例えば、グリコールジアクリレート、グリセリルトリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、グリセリルトリメタクリレートおよびポリオール、例えばペンタエリスリトールおよびグルコースをアクリル酸またはメタクリル酸と少なくともジエステル化させたものである。他の好適な架橋剤は、ジビニルベンゼン、ジビニルジオキサン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルおよびペンタアリルスクロースである。この群から、好ましくは、水溶性モノマー、特に、最大で3,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールのエチレングリコールジアクリレートもしくはグリコールジアクリレートまたはそれらの混合物が使用される。好ましい一実施形態では、グラフトポリマーの製造には、モノマーAとして、アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩が単独で使用されるか、またはモノマー混合物Aとして、アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩少なくとも80重量%、特に少なくとも98重量%とモノマー(b)との混合物が使用される。モノマーAの重合は、有利には、化合物B1)またはB2)をベースとする天然物質の存在下で行われる。
【0044】
ただし、モノマーAがモノマー(b)および(c)を含まない場合、あるいはモノマーAがモノマー(a)のみからなる場合も有利であり得る。
【0045】
B1
多糖類の誘導体とは、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類を指す。
【0046】
経済的な観点から、グラフト重合における成分B1)の多糖類として、好ましくは、デンプン、熱的および/または機械的に処理されたデンプン、酸化、加水分解または酵素により分解されたデンプンおよび化学的に修飾されたデンプンが使用され、特に、あらゆるデンプンが好適である。しかし、好ましくは、トウモロコシ、コムギ、米およびタピオカから得られるデンプンが使用され、特にジャガイモデンプンも使用される。デンプンは、実質的に水に不溶であり、公知のように熱的および/もしくは機械的処理、または酵素もしくは酸触媒による分解により、水溶性の形態に変換することができる。他の好適な成分B1)は、酸化により分解されたデンプンである。酸化、加水分解または酵素によるデンプンの分解によって得ることができるデンプン分解物の例は、以下の化合物である:デキストリン、例えば白色および黄色デキストリン、マルトデキストリン、グルコースシロップ、マルトースシロップ、D-グルコースを多く含む加水分解物、デンプン糖化物、ならびにマルトースおよびD-グルコースおよびその異性化産物であるフルクトース。
【0047】
他の好適な成分B1)は、酸化デンプン、例えばジアルデヒドデンプン、および酸化デンプン分解物、例えばグルコン酸、グルカル酸およびグルクロン酸である。そのような化合物は、例えば、過ヨウ素酸塩、クロム酸、過酸化水素、二酸化窒素、四酸化二窒素、硝酸または次亜塩素酸塩を用いたデンプンの酸化によって得られる。
【0048】
他の好適な成分B1)は、化学的に修飾された多糖類、特に化学的に修飾されたデンプンであり、例えば、デンプンおよびデンプン分解物を酸と反応させてエステルとしたものや、アルコールと反応させてエーテルとしたものである。これらの物質のエステル化は、無機酸や有機酸、あるいはその無水物や塩化物を用いて行うことができ、直接エステル化させる場合には、脱離した水によって酸触媒によるグリコシド結合の切断が生じる。特に工業的に重要であるのは、リン酸化およびアセチル化されたデンプンおよびデンプン分解物である。デンプンのエーテル化の最も一般的な方法は、アルカリ水溶液中での有機ハロゲン化合物、エポキシドまたは硫酸塩によるデンプンまたはデンプン分解物の処理である。デンプンのエーテルとは、例えば、デンプンのアルキルエーテル、ヒドロキシアルキルエーテル、カルボキシアルキルエーテルおよびアリルエーテルである。成分B1)の化学的に修飾されたデンプンとは、特にカチオン修飾されたデンプン、例えば、米国特許第3,649,616号明細書に記載されているように2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドと反応させたデンプンを意味する。
【0049】
化学的に修飾された多糖類には、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、スルホエチルセルロース、カルボキシメチルスルホエチルセルロース、ヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース、ヒドロキシエチルスルホエチルセルロース、メチルスルホエチルセルロースおよびエチルスルホエチルセルロースが含まれる。
【0050】
他の好適な成分B1)は、化学的に修飾されたデンプン分解物、例えばソルビトールおよびマンニトールのようなデンプン加水分解物の水添生成物、マルチトールおよび水添グルコースシロップ、または加水分解もしくは酵素により分解され、酸化されたデンプンである。
【0051】
酸触媒または酵素によるトランスグルコシド化またはグリコシド化の生成物、例えばメチルグルコシドも適している。
【0052】
特に好ましい成分B1)は、加水分解により分解されたデンプンであって、特にコムギ由来であり、例えば単糖類および純粋な単糖類を多く含有するものである。
【0053】
好ましい一実施形態では、多糖類B1)は、500~10,000ダルトン、特に3,000~10,000ダルトン、有利には3,000~8,000ダルトンの平均分子質量を有する。特に好ましくは、多糖類B1)は、500~10,000ダルトン、特に3,000~10,000ダルトン、有利には3,000~8,000ダルトンの平均分子質量を有する、酸化、加水分解または酵素により分解された多糖類、特に加水分解により分解されたデンプンである。
【0054】
特に好ましい多糖類B1)は、ジャガイモやトウモロコシのような食用植物由来の加水分解により分解されたデンプンであって、特に広い分子量分布を有するものである。これは、加水分解により分解された各種デンプンを混合することによって達成することができる。
【0055】
B2
ポリペプチドの誘導体とは、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドを指す。
【0056】
ポリペプチドB2)に関しては、重合条件下で少なくとも20重量%の割合が重合媒体に溶解するあらゆるタンパク質が好ましい。好適なタンパク質の例は、Ullmanns Enzyklopadie der technischen Chemie, 4. Auflage, Weinheim, 1980, Band 19, p.491-557に記載されている。ポリペプチドは、再生可能な原料である。それらは、例えば、皮膚、支持組織および結合組織、骨および軟骨、例えば、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、オセインおよび膠に由来するものである。乳由来のポリペプチドは、乳ポリペプチド、カゼインおよびラクトアルブミンである。羊毛、剛毛、羽毛および毛は、ケラチンを提供する。また、魚または卵由来のポリペプチドや、屠殺場廃棄物としての血液を由来とするポリペプチド、例えば、血液ポリペプチド、アルブミン、グロブリン、グロビン、フィブリノーゲンおよびヘモグロビンも適している。他の好適なポリペプチドは、コム(Com)、コムギ、オオムギおよびオートムギなどの植物に由来し、例えばグルテリン、プロラミン、ゼインおよび樹液である。さらに、ポリペプチドは、種子、例えばダイズ、綿実、ピーナッツ、ヒマワリ、菜種、ココナッツ、亜麻仁、ゴマ、サフラワー、エンドウ、マメおよびレンズマメから得ることができる。さらに、シロツメクサ、ムラサキウマゴヤシ、イネ科植物、ジャガイモ、キャッサバおよびヤマイモのポリペプチド成分を使用することができる。他のポリペプチド源は、細菌、真菌、藻類および酵母、例えばシュードモナス属菌、ラクトバチルス属菌、ペニシリウム属菌、藍色植物、緑色藻類、クロレラ、スピルリナおよび余剰酵母である。
【0057】
グラフトコポリマーの製造のための成分B2)としての好ましいポリペプチドは、皮およびスキン由来のコラーゲン(天然のもの、または鞣しにより改質されたもの)、カゼイン、ゼラチン、骨膠、ダイズ、穀物、特にコムギおよびトウモロコシおよびエンドウ由来のポリペプチドである。ポリペプチドは、天然原料から、例えば溶解、粉砕、ふるい分けおよび分級により得ることができる。ポリペプチドを好ましい可溶性の形態にするためには、多くの場合、物理的、化学的または酵素的処理による酵解を行う必要があり、これは例えば、酸もしくはアルカリによる加水分解、酵母、細菌もしくは酵素による発酵、抽出処理による二次成分の除去、加熱による抽出物からの凝固、電解質の添加、pH調整、または沈殿剤の添加である。純粋な生成物は、例えば、分別溶解および沈殿によって、または透析によって製造することができる。
【0058】
好ましいポリペプチドB2)は、1000以上の、特に3000ダルトン以上の平均分子質量を有し、有利には、動物性ポリペプチド、植物性ポリペプチドおよびそれらの加水分解物からなる群から選択される。
【0059】
このような分子量は、本発明によれば、高い加水分解度を設定する必要なく加水分解物を使用できることを示す。
【0060】
特に好ましくは、B2)には、加水分解による再生皮革廃材、ダイズなどの脱脂油種子由来のタンパク質抽出物、乳タンパク質、およびコムギまたは米由来の植物性タンパク質が含まれる。
【0061】
さらに好ましくは、ポリペプチドは、クロムを用いてまたはクロムを用いずに鞣し処理された牛皮のシェービング屑に後処理、例えば塩基または酵素による後処理を施したものを含むことを提供することができる。特に、皮革製造時に発生する残材の1つであるクロム含有シェービング屑の再利用は、自然環境保護的観点から重要である。このシェービング屑は、皮革製造において厚みの調整、いわゆるシェービングを行う際に、主にコラーゲン含有材料からなる小さな削り屑として発生するものである。皮革の鞣しが予めクロム鞣剤で行われている場合、ウェットブルーとも呼ばれる、クロムで鞣し処理されたまだ湿潤している状態の皮革には、コラーゲンの他に、酸化数(III)のクロムが通常2~6重量%程度含まれている。クロム鞣しは最も非常に広く行われている鞣し法であるため、クロムを含有する皮革シェービング屑の廃棄物が大量に発生する(ドイツだけで年間約17,000t)。タンパク質成分とクロム成分とに分離し、特にクロム成分を再利用するには高いコストがかかるため、大量の廃棄物を完全に再生させることはしばしば経済的でなく、したがって、皮革シェービング屑はそのまま有害廃棄物として投棄および処理されるか、プレスして皮革繊維状材料とされるか、または管理条件下で焼却されるが、これは環境に負荷をかけるものである。タンパク質とクロムとの一般的な分離方法は、酸もしくは塩基による皮革シェービング屑の分解、および/または加熱下での微生物あるいは酵素による分解を含み、これらのステップは通常、煩雑な多段方法で互いに組み合わされている。欧州特許出願公開第3425069号明細書で選択されているシェービング屑の酸加水分解は、加水分解の前に出発材料からすべてのクロムを除去するために、クロム含有材料の煩雑な前処理を必要とする。その結果、クロム含有シェービング屑の前処理には2~4日を要する。これにより、クロム含有材料について記載された方法は、煩雑で非常に時間がかかるものとなっている。
【0062】
クロム含有シェービング屑を使用する場合、塩基による加水分解および/または加熱下での微生物あるいは酵素による分解を行うことができるため、クロムとタンパク質分とを分離するためのクロムを含有する皮革シェービング屑の煩雑な前処理を省くことができる。クロムは4.5超のpH値で不溶になるため、単純な濾過により、タンパク質を含有する濾液からクロムを含有する固体残渣を分離することができる。タンパク質を含有する濾液は、例えば国際公開第2012/163823号または独国特許出願公開第4416877号明細書に記載されているように、その後のグラフトポリマーにおいて出発材料として使用することができる。
【0063】
グラフトポリマーの製造方法
グラフトポリマーを製造するために、モノマーAを、有利には、糖類成分B1)および/またはタンパク質成分B2)の化合物の存在下でラジカル重合に供する。場合によっては、B1)で挙げられた2つ以上の化合物、またはB2)で挙げられた2つ以上の化合物を使用することが、得られるグラフトポリマーの作用にとって有利となり得る。B1)には、例えば、酸触媒もしくは酵素により分解されたデンプンとグルコン酸との混合物、単糖類と少糖類との混合物、酵素により分解されたデンプンと単糖類との混合物、またはグルコースとスクロースもしくはマンノースとの混合物を挙げることができる。B2)については、皮革廃材加水分解物とコムギまたは米由来の植物性タンパク質との混合物、骨膠と乳タンパク質との混合物、またはダイズタンパク質と羽毛加水分解物との混合物を挙げることができる。重合は、不活性溶媒または不活性希釈剤の存在下または非存在下で行うことができる。重合を不活性溶媒または不活性希釈剤の非存在下で行うと、往々にして不均一なグラフトポリマーが生じるため、不活性溶媒または不活性希釈剤中でのグラフト重合が好ましい。好適であるのは、例えば、B1)またはB2)で挙げられた化合物を懸濁させることができ、かつモノマーAが溶解する不活性希釈剤であり、これらの場合、グラフトポリマーは重合後に懸濁状態で存在し、濾過により容易に固体状態で単離することが可能である。
【0064】
好適な不活性希釈剤は、例えば、トルエン、o-、m-およびp-キシレンならびにそれらの異性体混合物、エチルベンゼン、脂肪族炭化水素、または重合性モノマーを含まないガソリン留分である。また、クロロホルム、四塩化炭素、ヘキサクロロエタン、ジクロロエタンおよびテトラクロロエタンなどの塩素化炭化水素も同様に適している。
【0065】
成分B1)あるいはB2)を不活性希釈剤に懸濁させる上記の方法では、好ましくは成分B1)またはB2)の無水化合物が使用され、その際、好ましくは、モノマーAの群(b)のジカルボン酸の無水物が使用される。グラフトポリマーを製造するための好ましい方法は溶液重合であり、その際、多糖類成分B1)あるいはB2)、モノマーAおよび得られるグラフトコポリマーは、少なくとも分散した形態で、多くの場合溶解した形態で存在する。溶液重合には、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびそれらの混合物などの不活性溶媒が適している。
【0066】
重合は、連続的に行ってもよいし、バッチ式で行ってもよい。既述のとおり、成分AおよびB1)またはB2)を、不活性希釈剤または不活性溶媒の非存在下で重合させることも可能である。これに特に適しているのは、160~250℃での連続重合である。必要であれば、これを重合開始剤の非存在下で行うこともできる。しかし好ましくは、ここでは、重合条件下でフリーラジカルを形成する触媒、例えば無機および有機過酸化物、過硫酸塩、アゾ化合物およびレドックス触媒が使用される。記載された、有利には水溶性のグラフトポリマーは、通常、ラジカル開始剤の存在下で製造される。好ましいラジカル開始剤は、それぞれ選択された重合温度において3時間未満の半減期を有するすべての化合物である。重合を最初に低温で開始して高温で完了させる場合、異なる温度で分解する少なくとも2つの開始剤を用いて反応を行うこと、すなわち、まずは低温で分解する開始剤を用いて重合を開始し、次に高温で分解する開始剤を用いて主重合を完了させることが有利である。水溶性開始剤および非水溶性開始剤、または水溶性開始剤と非水溶性開始剤との混合物を使用することができる。その場合、非水溶性開始剤は、有機相に可溶である。
【0067】
温度が40℃~60℃の場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:アセチルシクロヘキサンスルホニルペルオキシド、ジアセチルペルオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、tert-ブチルペルネオデカノエート、2,2’-フェニルプロピオンアミジンジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド。温度が60℃より高く80℃以下の場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:tert-ブチルペルピバレート、ジオクタノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、2,2’-アゾビス(2,4-,5-ジメチルバレロニトリル)。
【0068】
温度が80℃より高く100℃以下の場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペル-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルマレエート、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム。
【0069】
温度が100℃より高く120℃以下の場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルアセテート、過酸化水素。
【0070】
温度が120℃より高く140℃以下の場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:2,2-ビス(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-アミルペルオキシド、ジ-tert-5-ブチルペルオキシド。
【0071】
温度が140℃より高い場合には、有利には以下の開始剤を使用することができる:p-メンタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドおよびtert-ブチルヒドロペルオキシド。挙げられた開始剤に加えて、重金属、例えば銅、コバルト、マンガン、鉄、バナジウム、セリウム、ニッケルおよびクロムの塩もしくは錯体、または有機化合物、例えばベンゾイン、ジメチルアニリンもしくはアスコルビン酸が、グラフト化剤として単独で、またはラジカル開始剤の助剤として使用される。ラジカル開始剤と併用することで、挙げられたラジカル開始剤の半減期を短縮することができる。例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシドを5ppmの銅(II)アセチルアセトナートの添加により活性化させて、重合が既に100℃で行われるようにすることが可能である。レドックス触媒の還元型成分は、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムおよびヒドラジンのような化合物によっても提供することができる。
【0072】
重合に使用されるモノマーAを基準として0.01~20重量%、有利には0.05~15重量%の重合開始剤または複数の重合開始剤の混合物、ラジカル開始剤または重金属系グラフト化剤が有利に使用される。レドックス成分としては、重合に使用されるモノマーAを基準として0.01~30重量%の還元型化合物が添加され、重金属は、重合に使用されるモノマーAを基準として0.1~100ppm、有利には0.5~10ppmの量で使用される。また、過酸化物と還元剤と重金属とを組み合わせてレドックス触媒として使用することも有利である。
【0073】
モノマーAの重合は、紫外線開始剤の存在下または非存在下で、紫外線の作用下に行うことも可能である。紫外線の作用下での重合には、通常の光開始剤または増感剤が使用される。これらは、例えば、ベンゾインおよびベンゾインエーテル、α-メチルベンゾインおよびα-フェニルベンゾインのような化合物である。また、ベンジルジケタールなどの三重項増感剤も使用することができる。紫外線照射源としては、例えばカーボンアークランプ、水銀蒸気ランプまたはキセノンランプなどの高エネルギー紫外線ランプのほか、例えば青色含有率の高い蛍光管などの低紫外線光源も該当する。
【0074】
成分B1)またはB2)をコアとして使用する、本発明によるグラフトポリマーの好ましい製造方法は、ラジカル誘導共重合であって、不活性溶媒中のA)のモノマーの成分を、ラジカル形成性開始剤の存在下に40℃~180℃の温度でB1)またはB2)に加える方法において、ラジカル形成性開始剤の少なくとも50重量%、特に70重量%超が、モノマーA)の添加前に成分B1)またはB2)とともに存在しており、残りを、A)のモノマーと一緒に、またはその後に加えることを特徴とする方法である。
【0075】
有利には、開始剤の残りは、A)のモノマーと一緒に反応混合物に加えられる。
【0076】
グラフト重合では、重合調整剤を用いて、必要に応じて側鎖の長さを調整することができる。連鎖移動剤としては、活性水素を含むあらゆる化合物を使用することができる。好適な調整剤は、例えば、メルカプト化合物、例えばメルカプトアルコール、メルカプト酸またはメルカプトエステルである。他の好適な調整剤は、アリルアルコール、アルデヒド、ギ酸、アミンまたはそれらの塩である。必要に応じて、モノマーAの量を基準として0.05~10重量%使用することができる。
【0077】
グラフト重合のその他の条件は、そのような方法の通常の手順に従う。重合系は、大気中酸素を排除した不活性ガス雰囲気中にあることが望ましい。酸化数1~4の水溶性リン化合物を用いることで、得られるグラフトポリマーの着色を低減することができ、モノマー混合物Aの適切な混合および添加速度の制限により、温度および生成物の均一性を制御することが可能である。
【0078】
既述のとおり、水性懸濁液中の多糖類B1)をグラフト重合に供することも可能である。しかし有利には、多糖類のグラフトポリマーは、まず水性懸濁液中の非水溶性多糖類を酵素および/または酸の添加により水溶性の形態に変換し、得られた分解された多糖類の水溶液をグラフト重合に供することにより製造される。この場合、非水溶性多糖類、例えばジャガイモデンプンをまず水に懸濁させて分解させる。この分解は、酵素、例えばα-もしくはβ-アミラーゼ、もしくは脱分岐酵素、例えばプルラナーゼの作用下で、または無機酸もしくは有機酸の作用によって、公知のとおりに行うことができる。好適な無機酸の例は、リン酸、硫酸、塩酸および硝酸である。好適な有機酸の例は、飽和または不飽和カルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、p-トルエンスルホン酸およびベンゼンスルホン酸である。
【0079】
酵素によるデンプンの分解は、30℃~120℃で行われ、加水分解によるデンプンの分解は、50℃~150℃で行われる。加水分解には約5分~10時間かかり、デンプンの加水分解度は、選択された温度、pH値および時間に依存する。
【0080】
グラフト重合では、温度は、通常は40℃~180℃、有利には60℃~150℃である。重合時の温度が不活性希釈剤もしくは不活性溶媒またはモノマーAの沸点を超えたらすぐに、重合は圧力下で行われる。不活性溶媒または不活性希釈剤の存在下での重合時の成分AおよびB1)またはB2)の濃度は、10~80重量%、有利には20~70重量%である。
【0081】
グラフトポリマーの製造は、通常の重合装置で実施することができる。これには、例えば、アンカー式撹拌機、パドル式撹拌機もしくはインペラ式撹拌機、または多段インパルス向流式撹拌機を備えた撹拌槽が使用される。特に、希釈剤の非存在下でのグラフト重合では、ニーダーで重合を行うことが有利である場合がある。また、高濃度で方法を実施する場合や、天然物質が高分子量であり最初に強く膨潤する場合にも、ニーダーで重合を実施することが必要となり得る。
【0082】
好ましい一実施形態では、グラフトポリマーは、アクリル酸、ポリペプチド加水分解物および多糖類加水分解物のラジカル重合によって得ることができる。例えば、グラフトポリマーの製造に使用されるモノマー混合物は、アクリル酸、ポリペプチド加水分解物および多糖類加水分解物からなっていてよく、すなわち、上記のもの以外のモノマーを有しないことが可能である。
【0083】
本発明の方法によって得られるグラフトポリマーの水性溶液または水性分散液は、皮革および皮の製造における脱灰用の薬剤としてそのまま使用することができる。しかし、本発明の方法によって得られるグラフトポリマーの水性溶液または水性分散液は、さらなる添加剤を含んでもよく、またさらなる添加剤の有無にかかわらず、例えば噴霧乾燥によって乾燥させてもよい。
【0084】
上記の方法によって製造することができるグラフトポリマーは、無色ないし帯褐色の生成物である。重合が水性媒体中で行われる場合、このグラフトポリマーは、分散液またはポリマー溶液の形態となる。グラフトポリマーのそれぞれの組成あるいは濃度に応じて、生成物は、低粘度ないしペースト状の水溶液または分散液となる。天然物質が含まれているため、記載されたグラフトポリマーは、エチレン性不飽和モノマーをベースとする従来から使用されていたポリマーよりも容易に生分解されるが、少なくとも下水処理場の廃水から下水汚泥とともに除去することができる。
【0085】
このようにして得ることができるグラフトポリマー水溶液は、皮革および皮の製造用の脱灰剤として非常に好適である。
【0086】
したがって、本発明によるグラフトポリマーは、水性浴液中での皮の脱灰に使用することができる。特に有利には、これらの用途には、アクリル酸もしくはその塩単独から構成されるグラフトポリマーか、またはアクリル酸もしくはその塩(a)とモノマー(b)とのモノマー混合物Aから構成され、(a)が少なくとも80重量%、特に少なくとも98重量%であるグラフトポリマーが使用される。
【0087】
原則として、グラフトポリマーが、
A)以下のものから選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物:
(a)モノマーAを基準として20~100重量%の、アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、
(b)モノマーAを基準として0~80重量%の、モノマー(a)と共重合可能である他のモノエチレン性不飽和モノマー、および
(c)モノマーAを基準として0~5重量%の、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマー
を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下で、有利には重量比A:(B1+B2)=60:40~1:99でラジカル重合させることによって得ることができることが好ましい場合がある。
【0088】
脱灰組成物のさらなる利点および技術的特徴に関しては、脱灰方法、皮革の製造方法、使用に関する説明および実施例が参照され、その逆もまた成り立つ。
【0089】
さらに、脱灰すべき皮を脱灰するための脱灰方法であって、特に、脱灰が、脱灰すべき皮のpH値を低下させることを含む方法について説明する。本方法は、
a)脱灰すべき皮を準備するプロセスステップと、
b)脱灰すべき皮に脱灰剤を加えるプロセスステップと
を少なくとも含み、ここで、該脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、該グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能である他のモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)は、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーであるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする。
【0090】
したがって、このような方法は、特に事前に石灰漬け済みの皮から、石灰漬けに用いられた物質を除去し、その際特に、皮のpH値を実質的に中性の範囲、特に7~9の範囲にまで低下させる脱灰方法である。したがって、脱灰すべき皮とは、特に、塩基性範囲のpH値、特に9を上回る、特に10以上、例えば11以上のpH範囲のpH値を有する皮であると理解される。
【0091】
本発明の基礎を成す方法は、特に、当業者に自体公知の皮の脱灰方法に対応するが、その際、脱灰剤として、記載されたグラフトポリマーが使用される。
【0092】
本方法は、第1のステップにおいて、緩衝塩および/または酸を使用するいわゆる予備脱灰を含むことができる。しかし、いわゆる予備脱灰を省くことも可能である。この場合、記載される本方法は、例えば、(a)準備された脱灰すべき皮を水で洗浄してこの水を排出した後、これに、水と、亜硫酸水素ナトリウムと、有機酸からなる脱灰剤とを加えるステップと、b)これに、グラフトポリマーをベースとする脱灰剤と、必須ではないが必要に応じて少量のアンモニウム塩とを加え、この過程でpH値を検出するステップと、c)皮の断面がフェノールフタレインにより呈色しなくなったら、本プロセスを終了するステップとを含む。
【0093】
このように、記載された本方法の利点は、天然ポリマーをベースとするグラフトポリマーの使用によって、脱灰プロセスにおけるアンモニウム塩の使用を回避あるいは低減できることにある。再生可能な原料を使用し、かつ廃水中のアンモニウム塩を低減することで、著しい自然環境保護的および経済的な利点が得られる。皮革製造時に発生する例えば毛やシェービング屑などの残材をグラフトポリマーの出発材料として使用することで、廃棄物量が削減されるだけでなく、鞣し工場にとっても物流面での利点がある。
【0094】
好ましくは、プロセスステップb)において、脱灰剤を、石灰漬け済みのペルトの量を基準として≧0.5重量%~≦12重量%、好ましくは≧1.5重量%~≦8重量%、例えば≧2重量%~≦6重量%、好ましくは≧2.5重量%~≦5重量%の割合で加えることができる。特に脱灰剤がこのような割合であると、脱灰剤によって脱灰が効果的に可能となり得るにもかかわらず、その際にpH値の局所的な強度の変化が生じないことが判明した。特に、上述したような、非常に酸性度の高い範囲へのpH値の不利な局所的な低下を阻止することができる。
【0095】
脱灰方法のさらなる利点および技術的特徴に関しては、脱灰組成物、皮革の製造方法、使用に関する説明および実施例が参照され、その逆もまた成り立つ。
【0096】
さらに、皮革の製造方法であって、
i)原皮を準備するプロセスステップと、
ii)原皮の石灰漬けまたは垢出しを行うプロセスステップと、
iii)原皮の脱灰を行うプロセスステップと、
iv)原皮の鞣しを行うプロセスステップと
を含む方法について説明するが、ここで、該方法は、プロセスステップiii)による原皮の脱灰を、脱灰剤を用いて実施し、該脱灰剤は、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、該グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする。
【0097】
ここで、本方法は、原則的に、本発明の範囲から逸脱することなく、皮革製造において当業者に基本的に知られている他のプロセスステップも含むことができる。このようなさらなる任意のプロセスステップの例としては、例えば、水漬け、分割、浸酸、シェービング、染色、乾燥が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらのステップも、当業者に知られているように実施することができる。
【0098】
上記のとおり、本脱灰剤を使用することで、自然環境保護的および経済的な観点での著しい利点が得られる。
【0099】
さらに記載されるプロセスステップ、例えば特に石灰漬けまたは鞣しは、さらに原則的に自体公知の方法で実施することができる。
【0100】
皮革製造における脱毛および皮の酵解、例えば不要なタンパク質の除去を目的とした皮の石灰漬けは、特にアルカリ性媒体中で、通常は無機またはさらには有機硫化物を用いてpH値12以上で実施される。アルカリ剤としては、石灰が通常は単独で、しかし場合によっては苛性ソーダまたは炭酸ナトリウムと混合して使用される。しかし、基本的に、石灰漬けは当業者に知られている。
【0101】
次いで、上記のように脱灰が行われる。
【0102】
次いで、脱灰の後に鞣しを行うことができる。
【0103】
鞣しも、自体公知の方法で実施することができる。基本的に知られているとおり、鞣しとは、毛の有無にかかわらず、動物の皮を鞣剤によって保存するプロセスであると理解される。鞣しの際に、鞣剤は、動物の皮の繊維組織と化学結合を形成し、これにより、皮の繊維組織の硬化や劣化が阻止されるとともに、動物の皮が長期的に安定化される、あるいは酸化や腐敗から保護される。ここで、原則として、本明細書に記載される方法には、あらゆるタイプの鞣しが含まれ得る。例示的な鞣剤には、例えばクロム鞣しの場合には、酸化クロム(III)含有量が約26%の塩基性硫酸クロム33%が含まれる。これには、例えば、クロム(III)塩の使用が健康に無害であると考えられており、靴または衣類の分野で集中的に皮膚に接触するにもかかわらず、大多数の人々に何の問題も引き起こさないという利点がある。
【0104】
特に、鞣しは、脱灰方法あるいは脱灰組成物に関して上述したようなグラフトポリマーを含まないものであってよい。しかし、鞣しを上述のグラフトポリマーを用いて実施することも提供することができる。
【0105】
皮革の製造方法のさらなる利点および技術的特徴に関しては、脱灰組成物、脱灰方法、使用に関する説明および実施例が参照され、その逆もまた成り立つ。
【0106】
上記に続いてさらに、本発明の主題は、上記のグラフトポリマー、ひいては例えば上記の脱灰組成物および/または上記の脱灰方法の、皮の脱灰への使用である。
【0107】
このような使用によって、経済的および自然環境保護的な観点で明らかな利点が生じる。
【0108】
使用のさらなる利点および技術的特徴に関しては、脱灰組成物、皮革の製造方法、脱灰方法に関する説明および実施例が参照され、その逆もまた成り立つ。
【0109】
上記に続いてさらに、本発明の主題は、グラフトポリマーによる脱灰が行われた、皮革および皮革製造の半製品である。該グラフトポリマーは、該グラフトポリマーが、多糖類、ポリペプチドまたはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つのグラフトポリマーを含み、多糖類の誘導体は、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、またはそのような化学的に修飾された分解物、または化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類であり、ポリペプチドの誘導体は、加水分解または酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチドであり、該グラフトポリマーは、
A)以下:
(a)アクリル酸もしくはメタクリル酸もしくはそれらの混合物、またはそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩、ならびに任意に(b)および(c)のうちの少なくとも1つであって、ここで、
(b)には、モノマー(a)と共重合可能であり、かつモノマー(a)とは異なるモノエチレン性不飽和モノマーが含まれ、
(c)には、分子中に少なくとも2つのエチレン性不飽和非共役二重結合を有するモノマーが含まれるものとする
から選択されたモノマー、またはそれらのモノマー混合物を、以下:
B1)多糖類、酸化、加水分解もしくは酵素により分解された多糖類、加水分解により分解され、酸化された多糖類、もしくは酵素により分解され、酸化された多糖類、もしくはそのような化学的に修飾された分解物、化学的に修飾された単糖類、少糖類もしくは多糖類、または前述の化合物の混合物、および
B2)ポリペプチド、加水分解もしくは酵素により分解され、任意に化学的に修飾されたポリペプチド、または前述の化合物の混合物
のうちの少なくとも1つの存在下でラジカル重合させることによって得ることができることを特徴とする。
【0110】
ここで、このような皮革あるいは皮革製造のこのような半製品によって、その製造に関する経済的および自然環境保護的な観点で明らかな利点が生じる。
【0111】
ここで、半製品は特に、脱灰により生じたままで、まだ鞣し処理されていないものであってよい。例えば、脱灰済みであるがまだ鞣し処理されていない半製品をさらに、グラフトポリマーを含む溶液中に配置することができる。
【0112】
また、皮革は、仕上げ処理された皮革であってよい。
【0113】
皮革および半製品のさらなる利点および技術的特徴に関しては、使用、脱灰組成物、皮革の製造方法、脱灰方法に関する説明および実施例が参照され、その逆もまた成り立つ。
【0114】
実施例
本発明は、以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、これは本発明を限定する効果を有するものではない。
【0115】
グラフトポリマーの製造
以下の実施例で使用されるタンパク質加水分解物は、クロムを用いてまたはクロムを用いずに鞣し処理された牛皮のシェービング屑を塩基により後処理するための商業的に運転されている装置から得られたものであり、第1のケースではクロム含有、第2のケースではクロム不含のタンパク質加水分解物が得られる。クロム含有タンパク質加水分解物の場合、使用前にタンパク質加水分解物を濾過して、タンパク質を含有する濾液から固体クロム残渣を分離した。(タンパク質加水分解物は、約1000ダルトン~8000ダルトン、好ましくは2000ダルトン~3000ダルトンの範囲の平均分子質量を有することができる。)
【0116】
使用したデンプン加水分解物も同様に、塩基/酵素により小麦粉を後処理するための商業的に運転されている装置から得られたものである。(デンプン加水分解物は、約3000ダルトンの分子量を有する。)
【0117】
このような分子量の利点は、特に加水分解度が低くなり得ることである。
【0118】
グラフト重合の全般的規定
対応する量のタンパク質加水分解物40重量%(水中)および対応する量のデンプン加水分解物40重量%(水中)を、1リットルの反応器に加えた。この反応器の内容物を撹拌しながら88~92℃に加熱し、この混合物に、対応する量の過酸化水素(30%、量1)を加え、15分間撹拌した。その後、過硫酸アンモニウム水溶液、(10%)、対応する量の70%アクリル酸(アクリル酸(98%)を対応する量の水で希釈して調製)および対応する量の過酸化水素(30%、量2)を加えた。30分の反応時間後に、過酸化水素(30%、量3)を再び加え、88~92℃でさらに2時間撹拌した。この反応器の内容物を40℃に冷却した後、50%水酸化ナトリウム溶液を、反応器内の温度が60℃以下に保たれるように留意しながら、pH値が4~5になるまで撹拌しながらゆっくりと加えた。撹拌しながら反応器を室温まで放冷し、殺生物剤を加え、よく混合して最終生成物を得た。
【0119】
P1)グラフトポリマー1
全般的規定によるグラフト重合1
【表1】
【0120】
P2)グラフトポリマー2
全般的規定によるグラフト重合
【表2】
【0121】
P3)グラフトポリマー3
全般的規定によるグラフト重合
【表3】
【0122】
P4)グラフトポリマー4
全般的規定によるグラフト重合
【表4】
【0123】
P5)グラフトポリマー5
全般的規定によるグラフト重合1
【表5】
【0124】
P6)グラフトポリマー6
全般的規定によるグラフト重合1
【表6】
【0125】
グラフトポリマーを用いた応用技術例
応用例1:グラフトポリマー1によるアンモニウムを用いない脱灰
石灰漬け後に分割および秤量した、厚さ約3.5mmのペルト(牛皮)を出発材料として使用した。以下の薬品使用量はいずれも、この基準重量(ペルト重量)を基準とする。
【0126】
石灰漬け済みのペルトを、当業者に知られている通常の準備作業の後に150%の水で洗浄する。次に、30%の水、0.3%の亜硫酸水素ナトリウムおよび0.3%のPeltec DL(ジカルボン酸混合物、Lanxessの市販品)を加える。15分後、例1のグラフトポリマーを5%加え、皮の断面がpH指示薬のフェノールフタレインにより呈色しなくなる(pH<8.2)まで反応させる。表1に、本発明による方法のプロセスステップを、皮革半製品の製造のための後続のステップである浸酸および鞣しとともに示す(重量%は、ペルト重量を基準とする)。
【0127】
【表7】
【0128】
本発明の方法により、皮革半製品を架台に置き、水絞りおよびシェービングを施し、次いで一般的な方法によりさらに加工してクラストレザー完成品とする。次いで、このクラストレザーを定性的に評価する。
【0129】
応用例2:グラフトポリマー2によるアンモニウムを用いない脱灰
例1と同様であるが、ただし、5%のグラフトポリマー2を用いた。
【0130】
応用例3:グラフトポリマー3によるアンモニウムを低減した脱灰
例1と同様であるが、ただし、2.5%のグラフトポリマー3の添加前に、0.5%のPeltec DLA(アンモニウム塩の混合物、Lanxess AGの市販品)を加えた。
【0131】
応用例4:グラフトポリマー4によるアンモニウムを低減した脱灰
例1と同様であるが、ただし、2.5%のグラフトポリマー4の添加前に、0.5%のPeltec DLA(アンモニウム塩の混合物、Lanxessの市販品)を加えた。
【0132】
応用例5:グラフトポリマー5によるアンモニウムを低減した脱灰
例1と同様であるが、ただし、2.5%のグラフトポリマー5の添加前に、0.5%のPeltec DLA(アンモニウム塩の混合物、Lanxessの市販品)を加えた。
【0133】
応用例6:グラフトポリマー6によるアンモニウムを低減した脱灰
例1と同様であるが、ただし、2.5%のグラフトポリマー6の添加前に、0.5%のPeltec DLA(アンモニウム塩の混合物、Lanxessの市販品)を加えた。
【0134】
比較例1:アンモニウム塩を用いた脱灰
例1と同様であるが、ただし、グラフトポリマーの代わりに、2.0%のPeltec DLA(アンモニウム塩の混合物、Lanxessの市販品)を加えた。
【0135】
【表8】
【0136】
表2に示すように、グラフトポリマーを単独で使用して、または比較例と比較して低減した量のアンモニウム塩を使用して脱灰を行った場合、遅くとも60分後には、アンモニウム塩を単独で使用して脱灰した比較例と同様のpH値に達した。30分後のpH値は、確かに場合によってはわずかに低いが、回避すべき約5のpH値(タンパク質の等電点)およびそれに伴うクラストレザー完成品の品質上の問題からはほど遠い。これは、物質の良好な緩衝作用を示している。プロセス終了時のpH値は8.5前後で類似しているが、これは、グラフトポリマーによって、アンモニウム塩と同様に皮の断面を良好に中和できることを意味している。
【0137】
いずれにせよ、グラフトポリマーを使用した場合、アンモニウム塩を使用しない方法でもアンモニウム塩を低減した方法でも、廃水中のアンモニウム窒素の値は著しく減少している。
【0138】
アンモニウム塩を使用した脱灰では約4300ppmである値が、アンモニウム塩を用いない方法では約200ppmの値に、そして低減した方法では約1000ppmに低減している。これは、アンモニウム塩を使用した脱灰と比較して、廃水中のアンモニウム含有量が、第1のケースでは95%、第2のケースでは75%低減されたことを意味する。
【0139】
アンモニウム塩を使用しない方法の場合、アンモニウム塩を使用した脱灰に比べて浸透時間は確かに若干長くなるが、それでも実務者にとって許容できるレベルである。大幅に低減した量のアンモニウム塩をグラフトポリマーと併用することで、プロセス時間が同等となる。このことは、例3~例6から明らかである。
【0140】
例1~例6で得られた皮から仕上げたクラストレザーはいずれも、比較例に匹敵する均一な色、柔らかな触感、および非常に細かい肌理を有する。
【国際調査報告】