(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】細胞培養法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240118BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240118BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240118BHJP
C07K 14/715 20060101ALI20240118BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240118BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240118BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240118BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240118BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240118BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240118BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20240118BHJP
A61K 47/68 20170101ALN20240118BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C07K19/00
C07K16/00
C07K14/715
A61K38/17
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/02
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/18
A61K39/395 Y
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537516
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021064616
(87)【国際公開番号】W WO2022140389
(87)【国際公開日】2022-06-30
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,エリヤフ
(72)【発明者】
【氏名】ナタラジャン,ベンカテシュ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,リッツデリーズ・ペレス
(72)【発明者】
【氏名】ニーブス,オマル・クルス
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064AG26
4B064CA19
4B064CC01
4B064CC24
4B064DA01
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB11
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4C076CC09
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD51
4C076DD67
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA08
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4C084BA23
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA53
4C084MA17
4C084MA44
4C084MA66
4C084NA20
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB15
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4C085BB42
4C085CC05
4C085DD61
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA51
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)からエタネルセプトを生産する方法であって、N生産バイオリアクターを運転する前に、再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)又は交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)細胞保持デバイスを、少なくとも約20μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で使用して、N-1バイオリアクターシステムを運転することを含む方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)からエタネルセプトを生産する方法であって、再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)又は交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)細胞保持デバイスを、少なくとも20μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で使用して、N-1バイオリアクターシステムを運転することを含む方法。
【請求項2】
200μm以下の細胞凝集体サイズを維持する条件下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
20μm~150μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
20μm~95μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で実行される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記システムは、以下の式1:
【数1】
[式中、εは[U
3/L](Lは前記バイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブの長さであり、Uは[チューブ内の流量/チューブの断面積]である)であり、νは[細胞培養物粘度/細胞培養物密度]である]
を使用して20μmのηを提供するチューブの長さ、チューブの断面積及び流量を利用する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ηは、式1を使用して200μm以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記流量は、(i)中空糸モジュールでは、約4mL/分/糸~約16mL/分/糸、(ii)フラットシートフィルタモジュールでは、約360L/m
2/時~約720L/m
2/時、及び(iii)積層プレートモジュールでは、約1L/m/チャネル~約4L/m/チャネルから選択され、前記細胞培養物粘度は約1~約6センチポアズから選択され、且つ前記細胞培養物密度は約1g/L~約1.5g/Lから選択される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によって生産されるエタネルセプトを含む製剤。
【請求項9】
前記製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、100mMの塩化ナトリウム、25mMのリン酸ナトリウム、25mMのL-アルギニン及び水からなる、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記製剤は、凍結乾燥粉末で25mgのエタネルセプト、40mgのマンニトール、10mgのスクロース及び1.2mgのトロメタミンからなる、請求項8に記載の製剤。
【請求項11】
前記製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン及び水からなる、請求項8に記載の製剤。
【請求項12】
1mLの前記製剤が、プレフィルドシリンジ又はSURECLICK(登録商標)自己注射器に入っている、請求項9又は11に記載の製剤。
【請求項13】
0.51mLの前記製剤が、プレフィルドシリンジ又はSURECLICK(登録商標)自己注射器に入っている、請求項9又は11に記載の製剤。
【請求項14】
前記凍結乾燥粉末は、複数回使用バイアルに入っている、請求項10に記載の製剤。
【請求項15】
治療を必要とする患者を治療する方法であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を用いて生産されたエタネルセプトの有効用量を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項16】
前記患者は、関節リウマチ、多関節若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、又は尋常性乾癬を患っている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項8~14のいずれか一項に記載の製剤及び前記製剤の使用説明書を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療用タンパク質を生産するための細胞培養法の分野に関する。
【0002】
関連出願の相互参照及び電子的に提出された資料の参照による組み込み
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2020年12月22日出願の米国仮特許出願第63/129,349号の優先権の利益を主張する。
【0003】
本明細書と同時に提出され、以下の通り特定されるコンピュータ可読のヌクレオチド/アミノ酸配列表は、その全体が参照により組み込まれる:2021年12月21日に作製された4,255バイトの「55498_Seqlisting.txt」と命名された、ASCII(テキスト)ファイル。
【背景技術】
【0004】
治療用タンパク質の臨床的製造は、費用のかかる大規模な取り組みである。薬学的治療薬として使用するための組換えポリペプチドの生産は、一般的には、生産用バイオリアクターの接種に十分な細胞塊を生成するように設計された一連のスケールアップ及び拡張フェーズからなる原薬細胞培養プロセスを利用する。細胞培養プロセスは、ワーキングセルバンク(WCB)からのバイアルを解凍し、例えば、一連の振盪フラスコ、培養バッグ、及び/又は増殖シードバイオリアクター(例えば、N-3、N-2(ここで、数字は、バイオリアクターがN、最終、又は生産バイオリアクターから何段階前にあるかを示す)など)を使用することによって培養物を増殖させることによって開始される。種培養バイオリアクターで増殖させた後、培養物はN-1バイオリアクター(これは、例えば、潅流バイオリアクターであり得る)に移される。N-1潅流バイオリアクターにおいて、培養物は、最終培養工程(生産バイオリアクター(N))での接種に十分な細胞密度を生成するために、新鮮な培地で潅流される。生産バイオリアクターは、組換えポリペプチドの効率的な生産を最大化するように操作される。
【0005】
組換えポリペプチドの生産効率を高めるためのこれまでの努力の多くは、N生産バイオリアクターのパラメータを操作することを含んでいた。スケールアップ及び拡張フェーズで使用される方法及びシステムは、複雑で、労働集約的であり、扱いにくく、治療用タンパク質生産設備の拡張に多くの課題を提示する。しかし、スケールアップ及び拡張フェーズのための代替的な方法及びシステムは、N生産ランのための細胞力価及び培養生存率に対する悪影響や、最終治療用タンパク質産物にばらつきがあるために、見出しにくいことがわかっている。より大量の治療用組換えタンパク質に対する要求が高まるにつれ、現在のプロトコルの欠点を最小限に抑える、細胞増殖及び組換えタンパク質生産のための代替の方法及びシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)からエタネルセプトを生産する方法を提供する。方法は、N生産バイオリアクターを運転する前に、再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)又は交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)細胞保持デバイスを、少なくとも約20μm(且つ任意選択により約200μm以下、例えば、約20μm~約150μm又は約20μm~約95μm)の細胞凝集体サイズを維持する条件下で使用して、N-1バイオリアクターシステムを運転することを含む。様々な態様において、これらの条件は、式1:
【数1】
(式中、εは[U
3/L](LはバイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブの長さであり、Uは[チューブ内の流量/チューブの断面積]である)であり、νは[細胞培養物粘度/細胞培養物密度]である。任意選択により、条件には、中空糸モジュールでは約4mL/分/糸~約16mL/分/糸、フラットシートフィルタモジュールでは約360L/m
2/時間~約720L/m
2/時間、若しくは積層プレートモジュールでは約1L/m/チャネル~約4L/m/チャネルから選択されるチューブ内の流量;約1~約6センチポアズ(例えば、約2~約6センチポアズ)から選択される細胞培養物粘度;及び/又は約1g/L~約1.5g/Lから選択される細胞培養物密度が含まれる)を使用して少なくとも約20μm(且つ任意選択により約200μm以下)のηを提供する。
【0007】
本開示はさらに、本明細書に記載の方法を用いて生産されたエタネルセプトを含むエタネルセプトの製剤を提供する。様々な態様において、製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、100mMの塩化ナトリウム、25mMのリン酸ナトリウム、25mMのL-アルギニン及び水;凍結乾燥粉末で25mgのエタネルセプト、40mgのマンニトール、10mgのスクロース及び1.2mgのトロメタミン;又は50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン及び水を含む。本開示はまた、治療を必要とする患者を治療する方法であって、本開示の方法を用いて生産されたエタネルセプトの有効用量を患者に投与することを含む方法を提供する。様々な態様において、患者は、関節リウマチ、多関節若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、又は尋常性乾癬を患っている。治療を必要とする患者を治療するための、本明細書に記載されるように生産されたエタネルセプトの使用、及び治療を必要とする患者を治療する薬剤の調製における、本明細書に記載されるように生産されたエタネルセプトの使用が企図される。本明細書に記載の製剤及びその製剤の使用説明書を含むキットが提供される。
【0008】
本明細書中の様々な実施形態は、様々な状況下で「含む(comprising)」という語を使用して提示される一方、関連する実施形態はまた、「~からなる(consisting of)」又は「~から実質的になる(consisting essentially of)」という語を使用して説明され得ると理解されるべきである。本開示は、ある特徴を「含む」と記載された実施形態が、その特徴「からなる」又は「から実質的になる」実施形態を含むことを意図する。「1つの(a)」又は「1つの(an)」という用語は、1つ又は複数の(one or more)を指し;「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ又は複数の(one or more)」及び「少なくとも1つの(at least one)」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。用語「又は」は、文脈上明確に別段の要求がない限り、代替又は一緒に項目を包含すると理解されるべきである。用語「及び/又は」は、リスト中の各項目(個々に)、リスト中の項目の任意の組み合わせ、及びリスト中の全ての項目を一緒に包含すると理解されるべきである。
【0009】
値の範囲を記載する場合、本開示は、その範囲内に存在する個々の値を意図していると理解されるべきである。例えば、「約20μm~約200μmの間の細胞凝集体サイズ」は、以下に限定されないが、40μm、60μm、100μmなど、及びそのような値の間の任意の値であり得る。本明細書に記載される範囲のいずれかにおいて、範囲の端点はその範囲に含まれる。しかしながら、この説明はまた、小さい方の端点及び/又は大きい方の端点が除外された同じ範囲も意図する。
【0010】
本発明の追加の特徴及び変形形態は、図面及び詳細な説明を含む本出願の全体から当業者には明らかであろうが、そのような特徴は全て本発明の態様として意図される。同様に、本明細書に記載される本発明の特徴を組み換えて追加の実施形態とすることができ、これらもまた、特徴の組み合わせが本発明の態様又は実施形態として具体的に記載されているかどうかにかかわらず、本発明の態様として意図される。本書全体が、統合された開示として関連することが意図されており、たとえ特徴の組み合わせが本書の同じ文、段落、又は節中に共に記載されていなくても、本明細書に記載される特徴の全ての組み合わせが企図されていることを理解されたい。また、本発明にとって不可欠なものとして本明細書に記載されている限定のみがそのようなものとしてみなされるべきであり;本明細書に不可欠なものとして記載されていない限定を欠く本発明の変形形態は、本発明の態様として意図される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1はエタネルセプトのアミノ酸配列を示す。しかしながら、この配列に若干の改変及び欠失(10%まで)を加えることは可能であり、本発明の範囲内で使用できることを理解されるべきである。本開示の方法及び技術は、例えば、その配列、グリコシル化パターン又は他の翻訳後修飾がENBREL(登録商標)とは異なるバイオシミラーエタネルセプトを生産するために使用することができる。
【
図2】
図2は、実施例に記載したデータを示すグラフである。条件#1(AML SSM 2019)、条件#2(ATF A2B=0.125)、条件#3(ATF A2B=0.25)、及び条件#4(ATF A2B=0.375)で行ったN-1培養物から接種したN-0培養物について、エタネルセプトの最終力価(mg/L;y軸)を示す。
【
図3A】
図3A及び3Bは、細胞保持デバイスに動作可能に連結されたバイオリアクターを含むバイオリアクターシステムの概略図である。
図3Aの例示的な実施形態における細胞保持デバイスは、少なくとも1つのフィルタモジュール及びポンプを含む交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)システムである。
図3Bは、少なくとも1つのフィルタモジュール及びポンプを含む再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)システムに動作可能に接続されたバイオリアクターの図である。培地はバイオリアクターに導入され、一方、細胞保持デバイスポンプは、フィルタモジュールを通して細胞培養物を流す。通常、使用済み培地、培養廃棄物、組換えタンパク質などを含む、細胞を含まない回収物を除去する。チューブは培地供給源をバイオリアクターに接続し、バイオリアクターを細胞保持デバイスに接続し、細胞保持デバイスを回収物収集手段(概略的に矢印によって示す)に接続する。
図3A及び3Bの概略図は、本開示の代表的な態様を示すために提供されているに過ぎず、本開示のシステム及び方法はN-1バイオリアクターシステムの構成要素の特定の配置に依存しない。
【
図3B】
図3A及び3Bは、細胞保持デバイスに動作可能に連結されたバイオリアクターを含むバイオリアクターシステムの概略図である。
図3Aの例示的な実施形態における細胞保持デバイスは、少なくとも1つのフィルタモジュール及びポンプを含む交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)システムである。
図3Bは、少なくとも1つのフィルタモジュール及びポンプを含む再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)システムに動作可能に接続されたバイオリアクターの図である。培地はバイオリアクターに導入され、一方、細胞保持デバイスポンプは、フィルタモジュールを通して細胞培養物を流す。通常、使用済み培地、培養廃棄物、組換えタンパク質などを含む、細胞を含まない回収物を除去する。チューブは培地供給源をバイオリアクターに接続し、バイオリアクターを細胞保持デバイスに接続し、細胞保持デバイスを回収物収集手段(概略的に矢印によって示す)に接続する。
図3A及び3Bの概略図は、本開示の代表的な態様を示すために提供されているに過ぎず、本開示のシステム及び方法はN-1バイオリアクターシステムの構成要素の特定の配置に依存しない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
治療用製品に費やされた長年の研究及び開発にもかかわらず、工業的規模での組換えタンパク質の効率的な生産は、依然として課題である。生産性を向上させ、製品の一貫性を向上させ、出発材料のコスト若しくは加工時間を低減させ、又は装置コストを低減させる製造の改善は、実質的な経済的利益を有する。しかしながら、製造プロセスの各段階は患者に送達される最終製品に影響を及ぼす可能性があり、特に工業規模のプロセスにスケールアップする場合、製造方法のパラメータを調整する最終的な効果は予測不可能であり得る。実際、組換えタンパク質を生産するシステム及び方法は、細胞培養によって生産されるタンパク質の量だけでなく、潜在的に予測不可能な方法で、例えば、グリコシル化パターンに関してタンパク質組成自体にも影響を及ぼす。さらに、1つの組換えタンパク質の生産に適した条件が、他の異なる組換えタンパク質の効率的で一貫した製造に必ずしも適しているとは限らない。本開示は、一貫した治療用製品を生産しながら、組換えタンパク質の生産を最大化し、治療用タンパク質の工業規模生産に関連する技術的ハードルを克服する、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞においてエタネルセプトを生産するためのシステム及び方法を提供する。
【0013】
エタネルセプト(Enbrel(登録商標)、Immunex Corporation)は、ヒトIgG1のFc部分に連結されたヒト75キロダルトン(p75)腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外リガンド結合部分からなる二量体融合タンパク質である(米国特許第9,518,111号明細書を参照)。エタネルセプトのFc成分は、ヒトIgG1の重鎖定常領域2(CH2)ドメイン、重鎖定常領域3(CH3)ドメイン及びヒンジ領域を含むが、重鎖定常領域1(CH1)ドメインは含まない。それは934のアミノ酸からなり、約150キロダルトンの見掛け分子量を有する(Physicians Desk Reference,2002,Medical Economics Company Inc.)。エタネルセプトは、この治療薬の活性及び免疫原性に潜在的に影響を及ぼすN-及びO-結合オリゴ糖の両方を含有する。本開示は、少なくとも部分的には、N-1生産中のCHO細胞の凝集レベルを特定レベルに維持することが産生フェーズ中の力価の増加をもたらすという驚くべき発見に基づいている。
【0014】
本開示は、CHO細胞からエタネルセプトを生産する方法を対象としている。CHO細胞は広く知られており、さらに、例えば、Brasel et al.(1996),Blood 88:2004-2012、Kaufman et al.(1988),J.Biol Chem 263:6352-6362、McKinnon et al.(1991),J.Mol Endocrinol 6:231-239,及びWood et al.(1990),J.Immunol.145:3011-3016)にも記載されている。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠失変異細胞株(Urlaub et al.(1980),Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)のDXB11及びDG-44は、効率的なDHFRの選択可能で増幅可能な遺伝子発現系により、これらの細胞での高レベルの組換えタンパク質発現が可能になるため、望ましいCHO宿主細胞株である(Kaufman R.J.(1990),Meth Enzymol 185:537-566)。さらに、これらの細胞は、接着又は懸濁培養物として操作しやすく、比較的良好な遺伝的安定性を示す。本開示の好ましい態様では、細胞培養物は懸濁培養物である。
【0015】
本開示の方法は、再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)又は交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)細胞保持デバイスを使用して、少なくとも約20μm、任意選択で約200μm以下の細胞凝集体サイズを維持する条件下で、N-1バイオリアクターシステムを運転し、その後、N生産バイオリアクターを運転することを含む。本開示は、少なくとも約20μm(及び、任意選択で約200μm以下)の細胞凝集体サイズが、所望の製品品質特性を維持しながら、N産生フェーズ中の力価の増大をもたらすN-1生産条件を支持することを報告する最初のものである。様々な態様において、細胞凝集サイズは約20μm~約150μm(例えば、約40μm~約125μm、約50μm~約100μm、約20μm~約40μm、約20μm~約60μm、約20μm~約75μm、約20μm~約80μm、約20μm~約120μm、又は約20μm~約120μm)である。様々な態様において、本方法は、約20μm~約95μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で実施される。例えば、様々な態様において、本方法は、少なくとも約20μm、少なくとも約30μm、少なくとも約40μm、少なくとも約50μm、少なくとも約60μm、少なくとも約70μm、少なくとも約80μm、少なくとも約90μm、少なくとも約100μm、少なくとも約120μm、少なくとも約140μm、少なくとも約160μm、又は少なくとも約180μmの細胞凝集体サイズを維持する条件下で実施される。或いは又は加えて、本方法は、約200μm以下、約190μm以下、約180μm以下、約170μm以下、約160μm以下、約150μm以下、約140μm以下、約130μm以下、約120μm以下、約110μm以下、約100μm以下、約90μm以下、約80μm以下、約70μm以下、約60μm以下、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下の細胞凝集体サイズを維持する条件下で実施される。本開示は、本明細書に記載される端点のいずれかの範囲を明示的に企図する。細胞凝集体のサイズを測定する手段は、当該技術分野において知られている。例えば、自動細胞計数器は、Beckman Coulter(例えば、Vi-CELL)、Roche(例えば、Cedex HiRes)、及びNOVA Biomedical(例えば、Bioprofile CDV)によって提供され、細胞計数、細胞又は凝集体サイズの決定、及び生存率のモニタリングに使用され得る。
【0016】
「バイオリアクター」という用語は、細胞培養物の増殖に有用な任意の容器を意味する。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、任意のサイズであり得、通常は、バイオリアクターは、その内部で増殖させる細胞培養物の体積に適したサイズである。通常、バイオリアクターは、少なくとも1リットルであり、2、5、10、50、100、200、250、500、1,000、1500、2000、2,500若しくは5,000リットル又はそれ以上、或いはそれらの間の任意の体積であり得る。バイオリアクターは、8,000、10,000、12,000、18,000、25,000リットル又はそれ以上、或いはそれらの間の任意の体積であり得る。pH及び温度(これらに限定されない)を含むバイオリアクターの内部条件は、培養期間中に制御することができる。当業者は、本明細書に記載の方法の実施に使用するのに好適なバイオリアクターを知っており、選択することができるであろう。
【0017】
バイオリアクターシステムを「運転する」とは、細胞培養、すなわち、多細胞生物又は組織の外での細胞の成長及び増殖を支持するために、バイオリアクターシステム内の条件を維持することを意味する。哺乳動物細胞に好適な培養条件は、当該技術分野において知られている。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳動物細胞は、懸濁液中で又は固形の培養基に付着されながら培養され得る。流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラーボトル、振盪フラスコ、又は撹拌タンクバイオリアクターは、マイクロキャリアの有無にかかわらず、バッチモード、フェドバッチモード、連続モード、半連続モード、又は灌流モードで操作され、哺乳動物細胞培養に利用可能である。哺乳動物細胞のフェドバッチ培養は、培養物が栄養素を含有する濃縮供給培地によって連続的に又は定期的に供給されるものである。例えば、Chu and Robinson(2001),Current Opin.Biotechnol.12:180-87)を参照されたい。灌流ベースのシステムでは、培地は培養物に連続的に供給され、培養物から連続的に除去される。培地及び細胞培養物の望ましくない生成物が除去されると(例えば、「細胞を含まない回収物」)、細胞は細胞保持デバイス、例えば、交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)及び再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)システムなどのタンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムによって保持される。RTFは、再循環手段、最も一般的には蠕動ポンプを使用するもので、細胞培養物を一方向に且つ膜表面に平行に移動させて、バイオリアクター中に細胞を留めながら使用済み培地を除去する。ATFシステムは、一方向のみに流す代わりに、モジュール(例えば、中空糸フィルタモジュール)内で細胞培養物を前後に移動させるポンプがあることを除いて、RTFシステムのものと同様である。例えば、米国特許第6,544,424号明細書、Furey(2002)Gen.Eng.News.22(7),62-63を参照されたい。ATFの利点は、交互の流れによって誘発されるフィルタの洗浄効果である。任意選択により、本開示の方法は、ATF灌流システムを使用してN-1バイオリアクターを運転することを含む。
【0018】
典型的には、中空糸フィルタがRTF又はATFシステムにおいて使用される(但し、これは必須ではない)。細胞培養培地、細胞(全細胞及び溶解細胞)、可溶性発現組換えタンパク質、宿主細胞タンパク質、老廃物などを含む細胞培養物が、孔径又は分子量カットオフ(MWCO)に応じて、フィルタに導入されると、中空糸材料は、中空糸材料の孔径又は分子量カットオフに基づいて、特定の細胞培養成分(細胞自身に加えて)を内腔側(内側)に保持し、特定の成分をフィルタを通過(透過)させることができる。保持された材料(保持物)は、バイオリアクターに戻される。新鮮な灌流細胞培養培地をバイオリアクターに加え、透過液を所定の間隔で又は連続的にフィルタから抜き出して、所望の又は一定のバイオリアクター体積を維持する。透過物(「細胞を含まない回収物」とも呼ばれる)は、廃棄されるか、保持タンク、保持バッグ若しくは保持トートに保存されるか、又は濾過、凝集、遠心分離及び/若しくは他の下流の精製方法などの別のユニット操作に直接移送され得る。糸は、様々な態様において、約0.5mm~約1mmの内径を有し、任意の好適な長さ(例えば、約30cm~約110cm)であり得る。精密濾過のための中空糸は、一般に、0.1μm~10μmの範囲の孔径又は500kDa以上の分子量カットオフを有し、タンパク質を透過物中に通過させるために使用することができる。限外濾過中空糸は、一般に、0.01μm~0.1μmの孔径範囲又は300kDa以下の分子量カットオフを有し、所望のタンパク質を保持物中に保持し、それをバイオリアクターに戻すために使用することができる。これは、例えば、回収に向けて組換えタンパク質生産物を濃縮するために使用することができる。このようなフィルタとして、例えば、Xampler UFP-750-E-4MA;Xampler UFP-30-E-4MA、(GE Healthcare、Pittsburgh、Pa);及びMidikros TCモジュールT02-E030-10、T02-050-10、T02-E750-05、T02-M10U-06(Spectrum Laboratories,Inc、Dominguez、Calif.)が市販されている。
【0019】
細胞培養物は、ポンプシステムによってバイオリアクターからフィルタモジュール内に抜き出すことができ、ポンプシステムは細胞培養物をフィルタを通して又はフィルタに沿って(例えば、中空糸の内腔側を通して)通過させる。細胞ポンプシステムの例としては、蠕動ポンプ、二重ダイヤフラムポンプ、低剪断ポンプ(Levitronix(商標)ポンプ、Zurich、スイス)、及び交互タンジェンシャルフローシステム(ATF(商標)、Repligen、Waltham、MA)が挙げられる。透過物は、蠕動ポンプの使用によってフィルタから抜き出すことができる。実際、好ましい実施形態では、灌流が交互タンジェンシャルフローシステムの使用によって達成される。
【0020】
本開示の方法は、RTF又はATF細胞保持デバイスを使用して、上記で開示したような細胞凝集体サイズを維持する条件下でN-1バイオリアクターシステムを運転することを含む。条件の例としては、バイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブの長さ、バイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブを通る流量、バイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブの断面積、細胞培養物の粘度、及び/又は細胞培養物密度が挙げられる。本開示の様々な態様において、これらの条件は、式1を使用して少なくとも約20μm(且つ任意選択により約200μm以下)のηを提供する:
【数2】
【0021】
式1において、εは[U
3/L]である。LはバイオリアクターとRTF又はATF細胞保持デバイスとを接続するチューブの長さであり、Uは[バイオリアクターとRTF又はATFとを接続するチューブ内の流量/バイオリアクターとRTF又はATFとを接続するチューブの断面積]である。式1において、νは[細胞培養物粘度/細胞培養物密度]である。いくつかの例では、バイオリアクターと細胞保持デバイスとを接続する単一のチューブがあり、バイオリアクターのポートから細胞保持デバイスのポートまでそのチューブの長さが利用される(例えば、説明のための
図3Aを参照されたい)。他の例では、バイオリアクターと細胞保持デバイスとを接続する複数のチューブが存在し(例えば、説明のための
図3Bを参照されたい)、これらの配置では式1で利用されるチューブの長さは、バイオリアクター出口ポートで始まり、バイオリアクター入口ポートで終わる、細胞保持デバイスを含まない、回路内のチューブの最も長いセグメントである。単に説明のために、
図3Bの概略図において、バイオリアクターと細胞保持デバイスへの入口とを接続するチューブを表す太線が、式1において使用される。これらのパラメータの1つ又は複数を調整することが残りのパラメータに影響を及ぼすことは理解されよう。本開示の様々な態様において、チューブを通る流量は、(i)中空糸モジュールでは、約4mL/分/糸~約16mL/分/糸、(ii)フラットシートフィルタモジュールでは、約360L/m
2/時~約720L/m
2/時、又は(iii)積層プレートモジュール(例えば、MilliporeSigmaから販売されているPROSTAK(登録商標)モジュール)では、約1L/m/チャネル~約4L/m/チャネルから選択され、細胞培養物粘度は約1~約6センチポアズ(例えば、約2~約6センチポアズ)から選択され、且つ/又は細胞培養物密度は約1g/L~約1.5g/Lから選択される。
【0022】
細胞培養培地は、インビトロ細胞培養における哺乳動物細胞などの動物細胞の増殖に好適な培地である。細胞培養培地製剤は、当該技術分野においてよく知られている。通常、細胞培養培地は、緩衝液、塩、炭水化物、アミノ酸、ビタミン及び微量の必須元素を含有する。細胞培養培地は、血清、ペプトン、及び/又はタンパク質を含んでも含まなくてもよい。無血清の既知組成培養培地を含む様々な組織培養培地が市販されており、例えば、以下の細胞培養培地のいずれか1つ又は組み合わせを使用することができる:RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地、F-12K培地、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、及びEX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences、Lenexa、KS)などの無血清培地。細胞培養培地には、培養される細胞の要件及び/又は所望の細胞培養パラメータに応じて、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などの追加の又は濃度を高めた成分を補充し得る。
【0023】
細胞培養培地は、無血清、無タンパク質、及び/又は無ペプトン培地であり得る。「無血清」は、ウシ胎児血清などの動物血清を含まない細胞培養培地に適用される。「無タンパク質」は、トランスフェリン、タンパク質成長因子IGF-1、又はインスリンなどの外部から添加されるタンパク質を含まない細胞培養培地に適用される。無タンパク質培地は、ペプトンを含有しても含有しなくてもよい。「無ペプトン」は、動物及び/又は植物のタンパク質加水分解物などの外因性タンパク質加水分解物を含まない細胞培養培地に適用される。細胞培養培地から血清及び/又は加水分解物を除去することは、ロット間のばらつきを低減し、濾過などの処理工程を増強するという利点を有する。しかしながら、血清及び/又はペプトンが細胞培養培地から除去された場合、細胞増殖、生存率及び/又はタンパク質発現は、減少するか、又は最適に至らないことがあり得る。したがって、無血清及び/又は無ペプトン細胞培養培地は、アミノ酸、微量元素などの濃度を大きく高めるようにしてもよい。例えば、米国特許第5,122,469号明細書及び同第5,633,162号明細書を参照されたい。
【0024】
既知組成細胞培養培地製剤は、アミノ酸、無機塩、炭水化物、脂質、ビタミン、緩衝液及び微量必須元素を含有する複合物である。所望の特性を有する細胞培養物を維持するために必要且つ有益である成分を特定することは、進行中の課題である。特定の宿主細胞の要求を満たすために又は所望の性能パラメータを満たすために補充又は濃縮されている既知組成基礎培地製剤は、既知組成培地を開発するための1つのアプローチである。
【0025】
培地及び細胞自体の成分を含む細胞培養物粘度は、任意選択により、約1~約6センチポアズ(例えば、約2~約6センチポアズ)である。細胞培養物粘度は、「コーンプレート型」粘度計などの任意の好適な粘度計を使用して特徴付けることができる。培地及び細胞自体の成分を含む細胞培養物密度は、任意選択により、約1g/L~約1.5g/Lから選択される。細胞培養物密度は、例えば、トリパンブルー排除法を使用するRoche Cedex HiResなどの自動細胞計数器を用いることによって特徴付けることができる。
【0026】
本開示の方法は、細胞が2つ以上の異なるフェーズで培養される、大規模生産プロセスの一部として使用され得る。例えば、細胞は、N-1生産フェーズ前の1つ以上の増殖フェーズで培養され、N-1生産フェーズで培養され、次いで、タンパク質生産を最大にする条件下で(N)産生フェーズに移され得る。各フェーズは、それ自体のバイオリアクター容器又は細胞培養に適した他の容器中で行うことができる。2つ以上のフェーズを共通の容器中で行うことができる。1つのそのような例では、増殖フェーズと産生フェーズが同じバイオリアクター容器中で行われる。哺乳動物細胞によるタンパク質の生産のための商業的プロセスでは、一般に、最終産生フェーズに先行する異なる培養容器中で起こる、複数の、例えば、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の増殖フェーズが存在する。本開示の方法は、少なくともN-1増殖フェーズ中に用いることができるが、先行する増殖フェーズ(例えば、N-2又はN-3)においても用いることができる。
【0027】
CHO細胞などの哺乳動物細胞は、例えば、約30mlの培地を有する100ml容器、約80~約90mlの培地を有する250ml容器、又は約150~約200mlの培地を有する250ml容器などの小規模培養物中で培養することができる。或いは、培養物、例えば、約300~約1000mlの培地を有する1000ml容器、約500ml~約3000mlの培地を有する3000ml容器、約2000ml~約8000mlの培地を有する8000ml容器、及び約4000ml~約15000mlの培地を有する15000ml容器などの大規模であり得る。タンパク質治療薬の臨床製造用などの大規模細胞培養は、通常、細胞が所望のタンパク質を産生する間、数日間又は数週間維持される。この時間の間、培養物に、細胞培養物の産生フェーズの過程で消費される栄養素及びアミノ酸などの成分を含有する濃縮供給培地が補充され得る。濃縮フィード培地は、ほぼあらゆる細胞培養培地製剤をベースにすることができる。そのような濃縮供給培地は、細胞培養培地の成分の大部分を、例えば、それらの正常量の約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍又は50倍で含有することができる。濃縮供給培地は、多くの場合、フェドバッチ培養プロセスにおいて使用される。
【0028】
産生フェーズは、大規模に行うことができる。大規模プロセスは、少なくとも約100、500、1000、2000、3000、5000、7000、8000、10,000、15,000又は20,000リットルの体積で行うことができる。増殖フェーズは、産生フェーズより高温で起こり得る。例えば、増殖フェーズは、約35℃~約38℃の第1の温度で起こり得、産生フェーズは、約29℃~約37℃、任意選択により、約30℃~約36℃又は約30℃~約34℃の第2の温度で起こり得る。加えて、例えば、カフェイン、酪酸塩、及びヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)などのタンパク質産生の化学誘導剤を、温度シフトと同時に、温度シフトの前に、及び/又は温度シフトの後に添加し得る。誘導剤が、温度シフトの後に加えられる場合、それらは、温度シフトの1時間~5日後、任意選択により、温度転換の1~2日後に加えられ得る。
【0029】
生産の増殖段階(N-1段階)の持続時間は、例えば、7~14日の範囲であり得、産生(N)バイオリアクターの接種前に指数関数的増殖で細胞を維持するように設計され得る。
【0030】
細胞培養物からの試料は、当該技術分野で知られた分析技術などの任意の分析技術を使用してモニターし、評価することができる。エタネルセプトの品質、培地の品質、及び他の特性を含む様々なパラメータを、培養期間の間、モニターすることができる。試料は、連続モニタリング、リアルタイム又は準リアルタイムを含む、所望の頻度で断続的に採取し、モニターすることができる。試料は、N-1(又は先行する)フェーズ中、産生(N)フェーズ中、又は精製プロセス中に採取して、タンパク質生産物及び生産プロセスの特性を定量的及び/又は定性的にモニターすることができる。生産物品質属性の検出は、質量分析、UV及び/又は質量分析検出を伴う液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動などを使用して達成され得る。アミノ酸プロセシング及びグリコシル化などの翻訳後修飾は、例えば、サイズ排除モードで操作され、ESI-MSと結合したpolyhydroxyethyl aspartamideカラムを使用して特徴付けられ得る(Brady et al.,(2008)J Am Soc Mass Spectro,19:502-509)。イオン交換クロマトグラフィーからの溶出液のリアルタイムモニタリングは、レーザー光散乱検出器及びUV吸光度を使用して、各画分について正規化LS/UV比をモニタリングすることによって実施することができる(例えば、米国特許出願公開第2013/0303732号明細書を参照されたい)。
【0031】
本開示の方法、技術、及び組成物は、組換えタンパク質産物を生産するための、特にエタネルセプトを生産するための他の方法、技術、及び組成物と組み合わせて使用することができる。そのような他の方法、技術、及び組成物は、米国特許第7,915,225号明細書、同第8,119,605号明細書、同第8,410,060号明細書、同第8,722,631号明細書、同第7,648,702号明細書、同第8,119,604号明細書、同第8,828,947号明細書、同第7,294,481号明細書、同第7,476,722号明細書、同第7,122,641号明細書、同第6,872,549号明細書、同第7,452,695号明細書、同第7,300,773号明細書、同第8,063,182号明細書、同第8,163,522号明細書、同第6,924,124号明細書、同第7,645,609号明細書、同第6,890,736号明細書、同第7,067,279号明細書、同第7,384,765号明細書、同第7,829,309号明細書、同第6,974,681号明細書、同第6,309,841号明細書、同第7,834,162号明細書、同第8,217,153号明細書、同第8,273,707号明細書、同第7,781,395号明細書、同第7,427,659号明細書、同第7,157,557号明細書、同第7,544,784号明細書、同第7,083,948号明細書、同第7,723,490号明細書、同第8,053,236号明細書、同第7,888,101号明細書、同第8,247,210号明細書、同第8,460,896号明細書、同第8,680,248号明細書、同第6,413,744号明細書、同第7,091,004号明細書、同第6,897,040号明細書、同第6,632,637号明細書、同第7,956,160号明細書及び同第7,276,477号明細書中に見出すことができ、これらの各文献は、それが教示し開示する全てについて、参照によりその全体が組み込まれる。
【0032】
本開示はさらに、本明細書に記載の方法を用いて生産されたエタネルセプトを含む製剤を提供する。製剤は、液体製剤又は凍結乾燥製剤であり得る。通常、本製剤のエタネルセプト濃度は、水性製剤(例えば、溶媒として水)中、約40mg/mL~約200mg/mLである。より好ましくは、エタネルセプト濃度は、約40mg/mL~約100mg/mL、より一層好ましくは約40mg/mL~約75mg/mL、及び任意選択により約50mg/mLである。本製剤での使用に好適な賦形剤としては、スクロース、ラクトース、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルトース、イノシトール、トレハロース及びグルコースなどの糖/ポリオール;血清アルブミン(ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒトSA又は組換えHA)、デキストラン、PVA、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレンイミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などのポリマー;多価アルコール、(例えば、PEG、エチレングリコール及びグリセロール)ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)などの非水性溶媒;L-アルギニン、プロリン、L-セリン、アラニン、グリシン、塩酸リシン、サルコシン及びガンマ-アミノ酪酸などのアミノ酸;ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60及びポリソルベート80などの界面活性剤、並びに塩化ナトリウム、塩化カリウム及びクエン酸ナトリウムなどの塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
様々な態様において、製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、100mMの塩化ナトリウム、25mMのリン酸ナトリウム、25mMのL-アルギニン、及び水を含む(又はそれらからなる)。或いは、製剤は、凍結乾燥粉末中に、25mgのエタネルセプト、40mgのマンニトール、10mgのスクロース、及び1.2mgのトロメタミンを含む(又はそれらからなる)。或いは、製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、1%のスクロース(w/v)、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン、及び水を含む(又はそれらからなる)。
【0034】
任意選択により、製剤は、送達デバイス、又は貯蔵若しくは輸送のための容器中に存在する。例えば、本開示の様々な実施形態において、約1mL又は約0.51mLの製剤が、プレフィルドシリンジ又は自己注射器(例えば、SURECLICK(登録商標)自己注射器)に入っている。製剤が凍結乾燥粉末である場合、製剤は、任意選択により、複数回使用バイアルに入っている。本開示は、本明細書に記載の製剤を、この製剤の使用説明書と共に含むキットをさらに提供する。キットは、容器、例えば、単回使用容器(すなわち、1用量製剤を保持する容器)を含み得る。単回容器は、容器から規定量の単一用量を確実に患者に投与することができるように、単一用量に加えて十分な余分を含み得るが、容器が第2の用量を投与するために使用できるほどの余分はないことは認識されている。容器(単回使用の容器であるか複数回使用の容器であるかにかかわらず)の例としては、バイアル、シリンジ、及び自動注射器が挙げられる。好適な自己注射器の例としては、米国特許8,177,749号明細書、同第8,052,645号明細書及び同第8,920,374号明細書、並びに国際公開第2014/0089393号パンフレット、国際公開第2016/033496号パンフレット及び国際公開第2016/033507号パンフレット(これらの各文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見出されるものが挙げられる。
【0035】
本明細書に記載のエタネルセプト含有組成物及び製剤、並びに本明細書に記載のシリンジ、自己注射器、キットなどは、治療を必要とする患者、すなわちエタネルセプトによる治療が有効な病態の患者を治療する方法に使用することができる。「治療を必要とする患者」という用語には、既にその障害を有する対象及びその障害を予防しようとする対象を含む。「患者」には、予防的処置又は治療的処置を受けるヒト対象及び他の哺乳動物対象が含まれる。「治療」という用語は、治療的治療と予防的(prophylactic)又は予防的(preventative)手段の両方を指す。「治療」は、疾患の完全な寛解又は根絶である必要はなく、疾患の何らかの改善及び/又は疾患に関連する症状の改善が企図される。エタネルセプトによる治療に応答する病態の例としては、関節リウマチ、多関節若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、及び乾癬(すなわち、尋常性乾癬)が挙げられる。エタネルセプトによる患者の治療方法は、例えば、米国特許第7,915,225号明細書、同第8,119,605号明細書、同第8,410,060号明細書、同第8,722,631号明細書、及び同第8,119,604号明細書(これらの各文献は、その全体が特に、上記の病態及び投与レジメンの説明に関して、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0036】
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。実施例は、本発明を説明することのみを目的としており、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0037】
RTFは、組換えタンパク質の生産に有効であるが、労働集約的であり、複雑な装置を必要とし、現在の生産上の課題であり得る。CHO細胞においてエタネルセプトを組換え産生するために、N-1生産フェーズにおいてATFの使用を試験した。N-1生産フェーズにおいて,RTFをATFに置き換えた初期の試験では、培養物によって最終的に産生されるエタネルセプトの量(N産生フェーズ後)が減少した。驚くべきことに、N-1生産フェーズ期におけるCHO細胞凝集レベルが、Nフェーズ産生における産物力価に影響を及ぼすことがわかった。
【0038】
2つのタイプの灌流法、再循環タンジェンシャルフロー濾過(RTF)及び交互タンジェンシャルフロー濾過(ATF)を用いてN-1潅流リアクターを運転した。以下の2つのタイプの細胞保持デバイスを使用した:RTF潅流用の孔径0.2μmのSartorious Sartoconスライスカセット、及びATF潅流用の孔径0.45μmの中空糸膜を有するGE Healthcare。N-1リアクターの作動容積は2Lであった。3つの異なるATF移送ライン内径を試験した(0.375”、0.25”及び0.125”)。システムは、同じ、バイオリアクターと細胞保持デバイスとを接続するチューブ長さ、チューブ内の流量、細胞培養物粘度、及び細胞培養物密度を使用し、条件#2、#3、及び#4の唯一の変数はチューブの断面積(内径)であった。式1をシステムパラメータに適用して、条件#2及び#3のηを決定した。条件1及び4は、細胞凝集に影響を及ぼすのに十分な乱流を生じなかった。実験条件を、表1に要約する。
【0039】
【0040】
試験した各N-1条件からの接種源を用いて、1Lの作動容積を有するN-0リアクターに接種し、標準的な操作パラメータを用いて運転した。この設計により、N-0リアクター性能及び生産性に対する細胞凝集速度の潜在的影響の評価が可能になった。
【0041】
条件#1~#4を用いて運転したN-1潅流リアクターは全ての所望の細胞増殖培養性能パラメータを満たし、試験の全過程(5日間)にわたって95%以上の細胞生存率を支持した。N-1潅流リアクターから接種されたN-0培養物もまた、正常な細胞生存率を示した。しかしながら、驚くべきことに、条件#2を用いたN-1培養物から接種されたN-0培養物は、条件#1、#3及び#4を用いて行われたN-1培養物から接種された培養物と比較して、力価が非常に低かった。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、η=17μmをもたらす条件#2の潅流パラメータは、N-1段階における細胞凝集体の破壊を促進する有害な流体力学的条件と関連していた。N-1段階における細胞凝集体の破壊は、予想を超えるN-0培養性能の低下をもたらした。ηの値を増加させるためにパラメータを調整することにより、N-1培養物の凝集速度が増加し、驚くべきことに、N-0培養物における力価が増加した。20μm以上のη値は、一貫した生産物品質属性を維持しながら、より高い力価をもたらす細胞凝集レベルを維持するのに十分な大きさの潅流の流れの渦に相当する。実際、条件#3及び#4からのN-1培養物について採取されたN-0培養物は、培養性能、力価、メインピーク、及び凝集体に関して、RTFを使用したN-1培養物と同等であった。
【0042】
特許、特許出願、文献刊行物などを含む、本明細書に引用されている全ての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0043】
本発明は好ましい実施形態に重点を置いて記載してきたが、好ましい化合物及び方法の変形が使用され得ること、及び本発明が本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施され得ることが意図されていることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲に包含される全ての変更を含む。
【配列表】
【国際調査報告】