(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240118BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240118BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240118BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20240118BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/38
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 183
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023537545
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 KR2021019221
(87)【国際公開番号】W WO2022139336
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179579
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ゼフン
(72)【発明者】
【氏名】シン, スヨン
(72)【発明者】
【氏名】ク, ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, スンイル
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA02
4K033CA03
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4K033CA05
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5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
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5E041NN14
5E041NN15
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】鋼板にCr元素を適正量添加し、冷間圧延および最終焼鈍工程条件を調節して、鋼板内部にCr濃化層を形成することにより、周波数に関わらず磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
下記式1を満たし、
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
P:0.005~0.08重量%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含み、
C:0.0040重量%以下、S:0.0040重量%以下、N:0.0040重量%以下、およびTi:0.0040重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たし、
鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板全体厚さの1/50以下の厚さで形成されたCr濃化層および基材を含み、
前記Cr濃化層内の平均結晶粒径が基材内の平均結晶粒径の50~95%であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
P:0.005~0.08重量%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
C:0.0040重量%以下、S:0.0040重量%以下、N:0.0040重量%以下、およびTi:0.0040重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、V:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、Nb:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
鋼板の表面上に位置する絶縁層をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
200Hz~800Hz範囲での透磁率の周波数依存性(α)が-5以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は45μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たすスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
前記冷延板を製造する段階での圧延最大速度が10m/s以上であり、鋼板表面温度を150℃以上で3分以上維持し、
前記最終焼鈍する段階は均熱温度後から700℃まで冷却速度10~40℃/sで冷却することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
【請求項9】
前記熱延板を製造する段階の前にスラブを1100~1250℃に加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱延板を製造する段階の後、850~1150℃で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷延板を製造する段階での圧下率は70~95%であることを特徴とする請求項8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記最終焼鈍する段階では800~1070℃で均熱することを特徴とする請求項8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、鋼板にCr元素を適正量添加し、冷間圧延および最終焼鈍工程条件を調節して、鋼板内部にCr濃化層を形成することによる周波数に関わらず磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギ、微細粉塵発生の低減および温室ガスの低減など地球環境の改善のために電気エネルギの効率的な使用が大きな課題となっている。現在発電する全体電気エネルギの50%以上は電動機で消費されているので、電気の効率的な使用のためには電動機の高効率化が不可欠である。近年、環境に優しい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気車、燃料電池車)分野の急激な発展に伴い、高効率駆動モータへの関心が高まっており、さらに家電用高効率モータ、重電機用スーパープレミアムモータなど高効率化に対する認識および政府の規制が持続する中、電気エネルギの効率的な使用への要求がこれまで以上に高いといえる。
【0003】
一方、電動機の高効率化のためには素材の選択から設計、組み立て、制御に至るまでのあらゆる領域での最適化は非常に重要である。特に素材の側面では電磁鋼板の磁性特性が最も重要であり、低鉄損および高磁束密度に対する要求が高い。商用周波数領域だけでなく高周波領域でも駆動が必要な自動車駆動モータやエアコンコンプレッサ用モータは高周波低鉄損の特性が非常に重要である。このような高周波低鉄損の特性を得るためには透磁率を改善することが重要であり、特に周波数が高くなっても透磁率の低下量は少ないことが求められる。透磁率が良いということは、磁化力下でも磁化が早くなるので高周波低鉄損を得るためには必須の特性であり、透磁率の高周波依存性が低いということは、モータがより高速で回転してもモータ効率が急激に低下しないことを意味する。
通常、電磁鋼板は製造過程でSi、Al、Mnのような比抵抗元素を多量添加し、結晶粒径を減少させて渦電流損失を低減する。一方、渦電流は周波数が上昇することにより鋼板の表面層のみを通過するので、表面層の比抵抗元素を高めたり、表面層の結晶粒径を小さく制御したりするすると、透磁率の周波数依存性を低下させて高周波鉄損を改善することができる。しかし、通常の製造法では厚さ方向に均一な鋼板が得られるので、透磁率の周波数依存性が必然的に大きくなり、CVDなどを用いて比抵抗元素を表面に拡散させる方法はコスト上昇が過度に大きいため商業的に用いにくい限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することであり、具体的には、鋼板にCr元素を適正量添加し、冷間圧延および最終焼鈍工程条件を調節して、鋼板内部にCr濃化層を形成することにより、周波数に関わらず磁性に優れる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たす。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板全体厚さの1/50以下の厚さで形成されたCr濃化層および基材を含み、Cr濃化層内の平均結晶粒径が基材内の平均結晶粒径の50~95%である。
P:0.005~0.08重量%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含み得る。
C:0.0040重量%以下、S:0.0040重量%以下、N:0.0040重量%以下、およびTi:0.0040重量%以下のうちの1種以上をさらに含み得る。
Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、V:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、Nb:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含み得る。
鋼板の表面上に位置する絶縁層をさらに含み得る。
200Hz~800Hz範囲での透磁率の周波数依存性(α)が-5以上であり得る。
ただし、透磁率の周波数依存性(α)は、磁束密度1T下で、200Hz、400Hz、600Hz、800Hzでの透磁率を測定してその平均傾き(H/m/Hz)から求める。
比抵抗が45μΩ・cm以上であり得る。
【0007】
無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たすスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
冷延板を製造する段階での圧延最大速度が10m/s以上であり、鋼板表面温度を150℃以上で3分以上維持し得る。
最終焼鈍する段階は均熱温度後から700℃まで冷却速度10~40℃/sで冷却し得る。
熱延板を製造する段階の前にスラブを1100~1250℃に加熱する段階をさらに含み得る。
熱延板を製造する段階の後、850~1150℃で熱延板焼鈍する段階をさらに含み得る。
冷間圧延する段階での圧下率は70~95%であり得る。
最終焼鈍する段階では800~1070℃で均熱し得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無方向性電磁鋼板によれば、鋼板に適正量のCrを添加し、Cr濃化層を形成することにより、透磁率の周波数依存性を顕著に減らすことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、モータに製造すると、高速回転時にも少ない電流でモータの駆動が可能であるためモータ効率に優れる。
窮極的に本発明の無方向性電磁鋼板は、環境に優しい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級電動機を製造することに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の無方向性電磁鋼板の概略的な側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限られない。これらの用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと称することができる。
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形は文脈上明らかに逆の意味を示さない限り複数形も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
ある部分が他の部分の「上に」または「の上に」あるという場合、これは他の部分のすぐ上にまたは上にあるか、その間に他の部分が介在し得る。逆にある部分が他の部分の「すぐ上に」あるという場合、その間に他の部分が介在しない。
別に定義していないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。一般に用いられている辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在の開示された内容に合う意味を有すると追加解析され、定義されない限り理想的または公式的過ぎる意味に解釈されない。
また、特記しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施例で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部である鉄(Fe)の代わりとして含むことを意味する。
【0011】
以下、本発明の実施例について本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実現することができ、ここで説明する実施例に限られない。
本発明の無方向性鋼板にCr元素を適正量添加し、冷間圧延および最終焼鈍工程条件を調節して、鋼板内部にCr濃化層を形成することにより、周波数に関わらず磁性を改善する。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる。
【0012】
先に無方向性電磁鋼板の成分を限定する理由から説明する。
Si:2.5~3.8重量%
ケイ素(Si)は材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割をする。Siが過度に少なく添加される場合、高周波鉄損の改善効果が不十分であり、過度に多く添加される場合は材料の硬度が上昇して生産性および打抜性が劣るので、好ましくない。より具体的には、Siは2.6~3.5重量%を含み得る。
【0013】
Al:0.1~1.5重量%
アルミニウム(Al)は材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割をする。Alが過度に少なく添加されると、高周波鉄損の低減に効果がなく、窒化物が微細に形成されて磁性を低下させ得る。逆に、過度に多く添加されると、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を発生させて生産性を大きく低下させ得る。したがって、前述した範囲でAlを添加する。より具体的にはAlを0.3~1.0重量%含み得る。
【0014】
Mn:0.1~2.0重量%
マンガン(Mn)は材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割をする。Mnが過度に少なく添加されると、MnSが微細に析出されて磁性を低下させ得る。逆に、過度に多く添加されると、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少し得る。したがって、前述した範囲でMnを添加する。より具体的にはMnを0.2~1.5重量%含み得る。
【0015】
比抵抗45μΩ・cm以上
比抵抗は13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)から計算された値である。この時、[Si]、[Al]、[Mn]はそれぞれSi、Al、Mnの含有量(重量%)を示す。比抵抗が高いほど鉄損を低くする役割をする。比抵抗が低すぎると鉄損が劣るため高効率モータとしての使用は難しい。より具体的には、比抵抗は50~80μΩ・cmであり得る。
【0016】
Cr:0.010~0.150重量%
クロム(Cr)は材料の比抵抗を高めて鉄損を低下させる役割をし、さらに、冷間圧延条件および最終焼鈍条件を調節して表面に濃化させてCr濃化層を形成することができる。Crが過度に少なく含まれると、表面濃化効果が発生せず、Crを過度に多く添加すると、表面濃化よりは全体厚さにわたって等しく分布する。より具体的にはCrを0.030~0.100重量%含み得る。
本発明の無方向性電磁鋼板は式1を満たす。
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
式1はCrとAl、Mn、Siの間の相関関係を定義した関係式であって、式1を満たさない場合、すなわち、CrまたはSiが少なく含まれるか、AlまたはMnが過量含まれる場合は多様な固溶体を形成してCr濃化層が適切に形成されず、周波数に関わらず磁性を改善しようとする本願発明の目的を達成することが難しい。
【0017】
本発明の無方向性電磁鋼板は、P:0.005~0.08重量%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含み得る。追加元素がさらに含まれる場合、残部であるFeの代わりとして含み得る。
P:0.005~0.08重量%
リン(P)は表面に濃縮され、内部酸化層の分率を制御する役割をする。Pの添加量が少なすぎると均一な内部酸化層の形成が難しい。Pの添加量が多すぎるとSi系酸化物の融点が変動して、内部酸化層が急激に形成される。したがって、含有量を前述した範囲にPを制御する。より具体的にはPを0.005~0.07重量%含み得る。
【0018】
Sn:0.01~0.08重量%
スズ(Sn)は鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時の表面酸化を抑制して集合組織を改善する役割をする。Snが過度に少なく添加されると、その効果が充分でない。Snが過度に多く添加されると、結晶粒界に偏析されて靱性を低下させて磁性改善に対して生産性が低下するので好ましくない。より具体的には、Snは0.02~0.07重量%含まれ得る。
【0019】
Sb:0.005~0.05重量%
アンチモン(Sb)は鋼板の表面および結晶粒界に偏析して焼鈍時の表面酸化を抑制して集合組織を改善する役割をする。Sbが過度に少なく添加されると、その効果がなく、0.05%以上になると、結晶粒界に偏析されて材料の靱性を低下させて磁性改善に対して生産性が低下するので好ましくない。より具体的には、Sbは0.01~0.03重量%含まれ得る。
【0020】
本発明の無方向性電磁鋼板は、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、V:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、Nb:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含み得る。
これらは不可避的に含まれるC、S、Nなどと反応して微細な炭化物、窒化物または硫化物を形成して磁性に悪影響を及ぼしうるので、前述したように上限を限定する。
【0021】
その他不純物
前述した元素の他にも炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、チタン(Ti)などの不可避的に混入される不純物が含まれ得る。
C、N、Tiは炭窒化物を形成して磁区移動を妨げる役割をするので制限し、Sは硫化物を形成して結晶粒成長性を劣らせるので、その上限を制限する。これらの元素はそれぞれ0.0040重量%以下で含み得る。
NはTi、Nb、Vと結合して窒化物を形成し、結晶粒成長性を低下させる役割をする。
CはN、Ti、Nb、Vなどと反応して微細な炭化物を作って結晶粒成長性および磁区移動を妨げる役割をする。
Sは硫化物を形成して結晶粒成長性を劣らせる。
このように不純物元素をさらに含む場合、C、S、N、Ti、NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下で含み得る。
【0022】
図1では本発明の無方向性電磁鋼板の概略的な側断面図を示す。
図1の無方向性電磁鋼板は単に本発明を例示するためであり、本発明はこれに限定されるものではない。したがって、無方向性電磁鋼板の構造を多様に変形することができる。
図1に示すように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は、鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板全体厚さの1/50以下の厚さで形成されたCr濃化層12および基材11を含む。Cr濃化層12を含むことによって、比抵抗を上昇させる効果があるので、周波数が高くなっても透磁率の変化は少ない。
【0023】
Cr濃化層12の厚さdは鋼板全体厚さの1/50以下であり得る。Cr濃化層12が過度に厚く形成される場合、濃化するCrの量が減ってCr濃化層12内の結晶粒径が十分に小さくならない。より具体的には、Cr濃化層12の厚さdは鋼板全体厚さの1/100~1/50になる。
表面から内部方向にCrの濃度勾配が存在する。鋼板全体厚さの1/50以下の範囲でCr濃化層12が存在し、Cr濃化層12内にはCrを鋼板基材11に比べて多量含み得る。より具体的には0.15重量%を超えて含み得る。この時、Cr含有量はCr濃化層12全体厚さに対する平均含有量を意味する。残りの元素の含有量は前述した無方向性電磁鋼板100内の元素含有量と同一であり得る。Cr濃化層12が全体電磁鋼板の厚さに比べて薄く形成されるので、基材11内のCr含有量は無方向性電磁鋼板100内のCr含有量と実質的に同一であり得る。
【0024】
このように、Cr濃化層12には基材11に比べてCrを多量含み、これはCr濃化層12内の結晶粒を基材11に比べて微細にする。Cr濃化層12内のCr含有量および微細化された結晶粒は、渦電流が表面層に沿って流れるスキン効果(Skin effect)によって周波数が高くなっても透磁率の変化が少なくなる。
具体的には、Cr濃化層内の平均結晶粒径が基材内の平均結晶粒径の50~95%であり得る。具体的には、Cr濃化層内の平均結晶粒径とは、Cr濃化層12の中間の厚さ(d/2)での平均結晶粒径を意味し、基材内の平均結晶粒径とは、鋼板の中間の厚さ(t/2)での平均結晶粒径を意味する。結晶粒の測定基準面は圧延面(ND面)と平行な面であり得る。より具体的には、Cr濃化層内の平均結晶粒径が基材内の平均結晶粒径の80~93%になる。
より具体的には、Cr濃化層12内の平均結晶粒径は55~90μmであり得、基材11内の平均結晶粒径は60~100μmであり得る。
図1に示すように、Cr濃化層12上には絶縁層20がさらに形成されることができる。絶縁層20はCr濃化層12の表面上、すなわち鋼板の外部に形成されるものであって、Cr濃化層12とは区別される。絶縁層20の厚さは0.7~1.0μmであり得る。絶縁層20については無方向性電磁鋼板の技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0025】
本発明では透磁率の周波数依存性を顕著に減らすことができる。具体的には、200Hz~800Hz範囲での透磁率の周波数依存性(α)が-5.0以上であり得る。
この時、透磁率の周波数依存性(α)は下記のように計算される。
([200Hz~800Hz範囲での最小透磁率]-[200Hz~800Hz範囲での最大透磁率])
透磁率の周波数依存性(α)が小さいので、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、モータに製造すると、高速回転時にも少ない電流でモータの駆動が可能であるためモータ効率に優れる。
透磁率の周波数依存性(α)は-4.5~-1.0であり得る。
200Hzでの透磁率は9500~11000H/mであり得る。400Hzでの透磁率は9000~10000H/mであり得る。600Hzでの透磁率は8500~9500H/mであり得る。800Hzでの透磁率は7500~9000H/mであり得る。
【0026】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たすスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
以下では各段階別に具体的に説明する。
【0027】
先にスラブを製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定する理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成を限定する理由と同様であるため、重複する説明を省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同じである。
熱延板を製造する段階の前にスラブを加熱し得る。具体的には、スラブを加熱炉に装入して1100~1250℃に加熱する。1250℃を超える温度で加熱すると析出物が再溶解されて熱間圧延後に微細に析出される。
加熱したスラブは2~2.3mmに熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で仕上げ圧延温度は800~1000℃であり得る。
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含み得る。この時の熱延板焼鈍温度は850~1150℃であり得る。熱延板焼鈍温度が850℃未満の場合、組織が成長しないか成長が微細であるため磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1150℃を超えると磁気特性がかえって低下し、板形状の変形により圧延作業性が悪くなる。より具体的には、温度範囲は950~1125℃であり得る。より具体的には、熱延板の焼鈍温度は900~1100℃である。熱延板焼鈍は必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われ、省略することも可能である。
【0028】
次に、熱延板を酸洗して所定の板の厚さになるように冷間圧延する。熱延板の厚さによって異なるように適用できるが、70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.2~0.65mmになるように冷間圧延する。圧下率を合わせるために1回冷間圧延または中間焼鈍を間に置いた2回以上の冷間圧延を行い得る。
冷延板を製造する段階では圧延最大速度が10m/s以上であり得る。圧延最大速度が小さいと、Crが鋼板表面に拡散する速度が遅くてCr濃化層が適切に形成されない。より具体的には、圧延最大速度は10~20m/sであり得る。
冷延板を製造する段階で鋼板表面温度を150℃以上で3分以上維持する。鋼板温度は熱延板を製造する段階または熱延板焼鈍する段階の残熱であるかまたは外部から熱が供給される方式で上げることができる。鋼板表面温度が150℃以上の時間を適切に確保できないと、Crが鋼板表面に拡散する速度が遅くてCr濃化層が適切に形成されない。より具体的には、鋼板表面温度を150℃以上で3~7分間維持する。
【0029】
最終冷間圧延された冷延板は最終焼鈍を実施する。最終焼鈍する段階では800~1070℃で均熱する。均熱温度が低すぎると再結晶が十分に発生されなく、均熱温度が高すぎると結晶粒径が過度に大きくなって高周波鉄損が劣る。
均熱後冷却時、均熱温度後から700℃まで冷却速度10~40℃/sで冷却する。冷却速度が過度に速いとCrが表面層に濃化される時間が不足し、冷却速度が過度に遅いと結晶粒径が過度に成長して高周波鉄損が劣る。より具体的には15~35℃/sの速度で冷却する。
その後、絶縁層を形成する段階をさらに含み得る。絶縁層の形成方法については無方向性電磁鋼板の技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0030】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例だけであり、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
下記表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載した成分以外のC、S、N、Ti、Nb、Vなどはいずれも0.003重量%以下に制御し、残部はFeである。スラブを1150℃に加熱して、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延した熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後に酸洗した。その後、冷間圧延して板厚さを0.25mmにした後に最終焼鈍を実施した。冷間圧延最大速度、150℃以上の維持時間、最終焼鈍均熱温度、均熱後から700℃までの平均冷却速度、最終鋼板厚さを表2のとおりに調節した。
全体厚さの1/50部分で結晶粒径を測定し、全体厚さの1/2部分で結晶粒径を測定して下記表2に整理した。
製造した無方向性電磁鋼板を200Hz、400Hz、600Hz、800Hzでそれぞれ透磁率を測定して下記表3に整理した。また、周波数依存度を計算して下記表3に整理した。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
表1~表3に示すように、合金成分および製造工程条件を満たす実施例は、Cr濃化層内の結晶粒の大きさが適切に形成され、周波数の変化にも透磁率が一定であることを確認することができる。
これに対して、合金成分を満たさない鋼種1、3、4、6、7、8は、Cr濃化層内の結晶粒の大きさが適切に形成されず、周波数変化による透磁率の変化が大きいことを確認することができる。
また、製造工程条件を満たさない鋼種10、11、12は、Cr濃化層内の結晶粒の大きさが適切に形成されず、周波数変化による透磁率の変化が大きいことを確認することができる。
【0035】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることを理解することができる。したがって、上記一実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0036】
11 鋼板基材
12 Cr濃化層
20 絶縁層
100 無方向性電磁鋼板
【手続補正書】
【提出日】2023-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たし、
鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板全体厚さの1/50以下の厚さで形成されたCr濃化層および基材を含み、
前記Cr濃化層内の平均結晶粒径が基材内の平均結晶粒径の50~95%であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
P:0.005~0.08重量%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
C:0.0040重量%以下、S:0.0040重量%以下、N:0.0040重量%以下、およびTi:0.0040重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、V:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、Nb:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1
~請求項3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
鋼板の表面上に位置する絶縁層をさらに含むことを特徴とする請求項1
~請求項4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
200Hz~800Hz範囲での透磁率の周波数依存性(α)が-5以上であることを特徴とする請求項1
~請求項5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は45μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1
~請求項6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
重量%で、Si:2.5~3.8%、Al:0.1~1.5%、Mn:0.1~2.0%およびCr:0.01~0.15%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式1を満たすスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
前記冷延板を製造する段階での圧延最大速度が10m/s以上であり、鋼板表面温度を150℃以上で3分以上維持し、
前記最終焼鈍する段階は均熱温度後から700℃まで冷却速度10~40℃/sで冷却することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
[Cr]>([Al]+[Mn])/[Si]/10
(式1において、[Cr]、[Al]、[Mn]および[Si]はそれぞれCr、Al、MnおよびSiの含有量(重量%)を示す。)
【請求項9】
前記熱延板を製造する段階の前にスラブを1100~1250℃に加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱延板を製造する段階の後、850~1150℃で熱延板焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8
または請求項9に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷延板を製造する段階での圧下率は70~95%であることを特徴とする請求項8
~請求項10のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記最終焼鈍する段階では800~1070℃で均熱することを特徴とする請求項8
~請求項11のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【国際調査報告】