(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】音響光学偏向器を動作させるための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/33 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G02F1/33
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539320
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-05
(86)【国際出願番号】 US2021058985
(87)【国際公開番号】W WO2022146566
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】593141632
【氏名又は名称】エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ハウ,テイラー
(72)【発明者】
【氏名】アルペイ,メメット
(72)【発明者】
【氏名】ブルックハイザー,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,ジェレッド
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA30
2K102BA09
2K102BC07
2K102BD10
2K102DC07
2K102EA21
2K102EB10
2K102EB20
(57)【要約】
装置は、2次元スキャン領域内でレーザエネルギービームを偏向可能な音響光学偏向器(AOD)システムを含む。AODシステムは、2次元スキャン領域の第1の軸に沿ってレーザエネルギービームを偏向可能な第1のAODと、第1のAODの光学的な下流側に配置される第2のAODであって、2次元スキャン領域の第2の軸に沿ってレーザエネルギービームを偏向可能な第2のAODと、AODシステムと動作可能に連結されるコントローラとを含む。コントローラは、2次元スキャン領域内でレーザエネルギービームを偏向するように第1のAOD及び第2のAODのそれぞれを駆動するように構成され、第1のAOD及び第2のAODを少なくとも実質的に同一の回折効率で駆動するようにさらに構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元スキャン領域内でレーザエネルギービームを偏向可能な音響光学偏向器(AOD)システムであって、
前記2次元スキャン領域の第1の軸に沿って前記レーザエネルギービームを偏向可能な第1のAODと、
前記第1のAODの光学的な下流側に配置される第2のAODであって、前記2次元スキャン領域の第2の軸に沿って前記レーザエネルギービームを偏向可能な第2のAODと、
前記AODシステムと動作可能に連結されるコントローラであって、前記2次元スキャン領域内で前記レーザエネルギービームを偏向するように前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを駆動するように構成され、前記第1のAOD及び前記第2のAODを少なくとも実質的に同一の回折効率で駆動するようにさらに構成されるコントローラと
を含むAODシステムを備える、
装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを80%未満の回折効率で駆動するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを70%未満の回折効率で駆動するようにさらに構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを50%未満の回折効率で駆動するようにさらに構成される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記レーザエネルギービームからのレーザパルスを時間的に分割するように前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを駆動するようにさらに構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記レーザエネルギービームは、レーザパルスを含み、前記は、前記レーザパルス全体を偏向するように前記第1のAOD及び前記第2のAODのそれぞれを駆動するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記AODシステムの光学的な下流側に配置されるスキャンレンズをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記レーザエネルギービームを生成可能なレーザをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記レーザエネルギービームは、電磁スペクトルの赤外域の波長を有する、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記レーザエネルギービームは、電磁スペクトルの紫外域の波長を有する、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記コントローラは、前記第1のAOD及び前記第2のAODからなる群から選択される少なくとも1つのAODに与えられるRF駆動信号の振幅を制御することにより、前記第1のAOD及び前記第2のAODからなる群から選択される前記少なくとも1つのAODが駆動される回折効率を制御するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記第1のAOD及び前記第2のAODからなる群から選択される少なくとも1つは、複数の変換器が取り付けられた音響光学セルを含み、前記コントローラは、前記第1のAOD及び前記第2のAODからなる群から選択される少なくとも1つのAODのそれぞれの変換器に与えられるRF駆動信号の位相を制御することにより、前記第1のAOD及び前記第2のAODからなる群から選択される前記少なくとも1つのAODが駆動される回折効率を制御するように構成される、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で述べられる実施形態は、概して、レーザ加工装置及びその構成要素及びこれを動作させるための手法に関するものである。
【技術的背景】
【0002】
音響光学(AO)装置(時としてブラッグセルと呼ばれる)は、無線周波数で音波を用いて光を回折及びシフトするものである。これらの装置は、通信システムにおけるQスイッチ、信号変調、顕微観測システムにおけるレーザスキャニング及びビーム強度制御、分光システムにおける周波数シフト、波長フィルタリングのために使用されることが多い。他の多くの適用例が音響光学装置を使用することに適している。例えば、レーザを利用する材料加工システムにおいてAO偏向器(AOD)を用いることができる。
【0003】
図1を参照すると、AOD100のようなAODは、概して、AOセル102及び(AOセル102の変換器端部で)AOセル102に取り付けられた変換器(transducer)104を含んでおり、(変換器端部とは反対側のAOセル102の吸収器端部で)AOセル102に取り付けられた音響吸収器106も含み得る。
【0004】
AOセル102(「AOセル」ともいう)は、典型的には、回折される光の波長に対して好適に透明な結晶質又はガラス質の材料である。変換器104は、一般的には、圧電変換器であり、外部から与えられたRF信号(すなわち駆動信号)に応答して振動可能となっている。変換器104は、振動している変換器104が(変換器端部から音響吸収器106に向かってAOD100の回折軸に沿って)AOセル102内を伝搬する対応音波を生成するようにAOセル102に取り付けられている。知られているように、音波の振幅、周波数及び持続時間は、与えられたRF駆動信号の振幅、周波数及び持続時間に対応する。音波は、AOセル102内において拡大領域及び圧縮領域の周期的な連続として表され、これによりAOセル102内で周期的に変化する屈折率を生じる。この周期的に変化する屈折率は、AO媒体を通過するレーザ光ビームを回折可能な光学格子のように機能する。1つの変換器104だけが図示されているが、AODは、AOセル102に音響的に連結された複数の変換器104を含んでいてもよく、これらは典型的にはAODの帯域幅及びその中の光の回折を高めるために駆動され得る。
【0005】
入射レーザ光ビームを回折することにより、典型的にはゼロ次回折ピーク及び1次回折ピークを含み、さらに高次の回折ピーク(例えば2次、3次など)も含み得る回折パターンが生成される。当該技術分野においては、ゼロ次回折ピークにおいて回折されたレーザ光ビームの部分を「ゼロ次」ビームといい、1次回折ピークにおいて回折されたレーザ光ビームの部分を「1次」ビームというなどすることが一般的である。一般的に、ゼロ次ビーム及び他の回折次ビーム(例えば1次ビームなど)は、AOセル102を出る際に異なるビーム経路に沿って伝搬する。例えば、ゼロ次ビームはゼロ次ビーム経路に沿って伝搬し、1次ビームは1次ビーム経路に沿って伝搬するといったようである。ゼロ次ビーム経路と他の回折次ビーム経路との間の角度は、AOセル102に入射したレーザ光ビームを回折するために変換器104に与えられた駆動信号の周波数(又は複数の周波数)に対応している。
【0006】
駆動信号は、RFドライバ108によって変換器104の入力に与えられ得る。
図1に示されるように、RFドライバは、RFシンセサイザ110と、増幅器112と、インピーダンス整合回路114とを含み得る。RFシンセサイザ110(例えばDDSシンセサイザ)は、所望の周波数の予備信号を生成及び出力する。増幅器112は、予備信号を増幅することにより、予備信号を駆動信号に変換する。その後、駆動信号は、インピーダンス整合回路114を介して変換器104の入力に与えられる。
【0007】
一般的に、RFシンセサイザ110及び増幅器112の動作は、AOD100の変換器104に高速で(例えば1MHz以上の速度で)与えることが可能な、異なる周波数及び振幅を有するRF駆動信号を生成するように、コントローラ(図示せず)によって制御可能である。開示を容易にするために、RF駆動信号をAOD100の変換器104に与える動作を本明細書ではAOD100を「駆動する」ともいう。異なる周波数の駆動信号を用いてAOD100を連続的に駆動することにより、AOD100を用いて1次ビームを高速でスキャンすることができる。本明細書で使用される場合には、「回折効率」という用語は、入射レーザエネルギービーム中のAOD100が1次ビームに回折するエネルギーの割合を意味し得る。このため、回折効率は、入射レーザエネルギービームの光パワーに対する、1次ビームに回折された光パワーの比として表され得る。AODが駆動される回折効率は、与えられる駆動信号の周波数及び振幅によって変化し得る。このため、1次ビームのエネルギー成分を制御するための1つの手法は、1次ビームを生成するためにAODに与えられる駆動信号の振幅を制御することを含む。
【0008】
(例えば、ワークピースの材料加工中に)レーザエネルギービームを高速でスキャンするために多軸AODシステムがレーザを利用する材料加工システム内に一般的に組み込まれている。この多軸AODシステムは、典型的には、AOD100のような複数のAODを含んでいる。例えば、多軸AODシステムは、レーザエネルギービームを第1の軸に沿ってスキャンするように配置及び構成される一のAOD(例えば第1のAOD)と、レーザエネルギービームを第2の軸に沿ってスキャンするように配置及び構成される別のAOD(例えば第2のAOD)とを含み得る。第2のAODは、第2のAODに関連付けられたスキャン領域が第1のAODに関連付けられたスキャン領域に重なるように第1のAODと直列に(すなわちその光学的な下流側に)配置される。
図2及び
図3は、異なる種類の多軸AODシステムを示している。単一の加工ヘッド又は複数の加工ヘッドを有するレーザ加工システム内に多軸AODシステムを組み込むことができる。多軸AODシステムを組み込んだマルチヘッドレーザ加工システムの例は、国際公開第2020/159666号において述べられており、この国際公開公報は参照により本明細書に組み込まれる。
【0009】
図2及び
図3において、第1のAODは100aで特定され、第2のAODは100bで特定される。
図2を参照すると、第1のAOD100aは、XZ平面内で方向付けられた第1のスキャン領域(一点鎖線の領域により描かれている)内で1次ビームを回折するように配置及び構成されており、第2のAOD100bは、YZ平面内で方向付けられた第2のスキャン領域(一点鎖線の領域により描かれている)内で、第1のAOD100aにより出力された1次ビームを回折するように配置及び構成されている。このため、多軸AODシステムのスキャン領域は、第1のスキャン領域及び第2のスキャン領域の重ね合わせであり、XY平面に延びるものである。
図3を参照すると、第1のAOD100a及び第2のAOD100bは、それぞれ、XZ平面内で方向付けられたスキャン領域内で1次ビームを回折するように配置及び構成されているが、第1のAOD100aと第2のAOD100bとの間には、第1のAOD100aから出力された1次ビームの像を90度回転するための1以上の光学構成要素(総称して300で示されている)が設けられている。このため、多軸AODシステムのスキャン領域は、第1のスキャン領域及び第2のスキャン領域の重ね合わせであり、XY平面に延びるものである。
【0010】
レーザ材料加工の観点からは、入射レーザエネルギービームを生成するために使用されるレーザを考える際の1つのファクタは、レーザが、多軸AODシステムにより回折された後(かつ、ビーム経路内の他の光学構成要素で反射した後又はこれを透過した後)に、ワークピースで好適な材料加工を行うのに十分な平均又はピークパワーをまだ有するレーザエネルギービームを生成できるか否かであることが多い。本明細書における開示によれば、「好適な材料加工」は、レーザエネルギービームをワークピースに照射して、望ましくない程度にまでワークピースにダメージを与えることなく、ワークピースに1以上のビア、開口、チャネル、スロット、切溝、スクライブなどを形成する際にワークピース上で行われる。このため、レーザ加工システムを設計する際には、レーザ(及び多軸AODシステムのような、レーザとワークピースとの間のビーム経路内の他の光学構成要素)を加工するワークピースの種類に整合させ、ワークピース上で行われる材料加工の特定の種類及び品質に整合させることが一般的に行われている。このため、異なる2つの種類のワークピースの両方を何らかの方法でレーザ加工しなければならない場合には、異なるワークピースのうちの一方の加工に適したレーザをそれぞれ備えた2つの異なるレーザシステムを単純に設けることが一般的である。例えば、(相対的に厚い上部導電体を有する)第1のプリント回路基板と(相対的に薄い上部導電体を有する)第2のプリント回路基板の両方をレーザ加工してその内部にビアを形成する必要がある場合には、(例えば、第1のワークピースの相対的に厚い上部導電体にビア開口を形成するのに好適なパワー特性を有する第1のレーザを有する)第1のレーザシステムと、(例えば、第2のワークピースの相対的に薄い上部導電体にビア開口を形成するのに好適なパワー特性を有する第2のレーザを有する)第2のレーザシステムとを設けることが一般的である。
【概要】
【0011】
本発明の一実施形態は、2次元スキャン領域内でレーザエネルギービームを偏向可能な音響光学偏向器(AOD)システムを含む装置として広く特徴付けられる。上記AODシステムは、上記2次元スキャン領域の第1の軸に沿って上記レーザエネルギービームを偏向可能な第1のAODと、上記第1のAODの光学的な下流側に配置される第2のAODであって、上記2次元スキャン領域の第2の軸に沿って上記レーザエネルギービームを偏向可能な第2のAODと、上記AODシステムと動作可能に連結されるコントローラとを含む。上記コントローラは、上記2次元スキャン領域内で上記レーザエネルギービームを偏向するように上記第1のAOD及び上記第2のAODのそれぞれを駆動するように構成され、上記第1のAOD及び上記第2のAODを少なくとも実質的に同一の回折効率で駆動するようにさらに構成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態による、音響光学偏向器(AOD)及び関連するドライバを模式的に示すものである。
【0013】
【
図2-3】
図2及び
図3は、多軸AODシステムの異なる構成を模式的に示すものである。
【0014】
【
図4-5】
図4及び
図5は、ある実施形態による多軸AODシステムを模式的に示す方法で、
図2及び
図3に示されているような多軸AODシステムの信頼性の高い低パワー動作を行うための手法を示すタイミングチャートである。
【0015】
【
図6】
図6は、ある実施形態による、多軸AODシステムを有するレーザ加工システムを模式的に示すものである。
【0016】
【
図7】
図7は、一実施形態による、
図6に示されるレーザ加工システムを用いて非貫通ビア孔を形成するための手法を模式的に示すものである。
【詳細な説明】
【0017】
ここで、実施形態の例を添付した図面を参照しつつ述べる。明示的に述べている場合を除き、図面においては、コンポーネント、特徴部、要素などのサイズや位置などやそれらの間の距離は、必ずしも縮尺通りではなく、また理解しやすいように誇張されている。図面を通して同様の数字は同様の要素を意味している。このため、同一又は類似の数字は、対応する図面で言及又は説明されていない場合であっても、他の図面を参照して述べられることがある。また、参照番号の付されていない要素であっても、他の図面を参照して述べられることがある。
【0018】
明細書において使用される用語は、特定の例示的な実施形態を説明するためだけのものであり、限定を意図しているものではない。特に定義されている場合を除き、本明細書において使用される(技術的用語及び科学的用語を含む)すべての用語は、当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合には、内容が明確にそうではないことを示している場合を除き、単数形は複数形を含むことを意図している。さらに、「備える」及び/又は「備えている」という用語は、本明細書で使用されている場合には、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を特定するものであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/又はそのグループの存在又は追加を排除するものではないことを理解すべきである。特に示している場合を除き、値の範囲が記載されているときは、その範囲は、その範囲の上限と下限の間にあるサブレンジだけではなく、その上限及び下限を含むものである。特に示している場合を除き、「第1」や「第2」などの用語は、要素を互いに区別するために使用されているだけである。例えば、あるノードを「第1のノード」と呼ぶことができ、同様に別のノードを「第2のノード」と呼ぶことができ、あるいはこれと逆にすることもできる。
【0019】
特に示されている場合を除き、「約」や「およそ」、「実質的に」などは、量、サイズ、配合、パラメータ、及び他の数量及び特徴が、正確ではなく、また正確である必要がなく、必要に応じて、あるいは許容誤差、換算係数、端数計算、測定誤差など、及び当業者に知られている他のファクタを反映して、概数であってもよく、さらに/あるいは大きくても小さくてもよいことを意味している。本明細書において、「下方」、「下」、「下側」、「上方」、及び「上側」などの空間的に相対的な用語は、図に示されるような、ある要素又は特徴の他の要素又は特徴に対する関係を述べる際に説明を容易にするために使用され得るものである。空間的に相対的な用語は、図において示されている方向に加えて異なる方向を含むことを意図するものであることは理解すべきである。例えば、他の要素又は特徴の「下方」又は「下」にあるとして説明される要素は、図中の対象物が反転した場合には、他の要素又は特徴の「上方」を向くことになる。このように、「下方」という例示的な用語は、上方及び下方の方向の双方を含み得るものである。対象物が他の方向を向く場合(例えば90度回転される場合や他の方向にある場合)には、本明細書において使用される空間的に相対的な記述子はこれに応じて解釈され得る。
【0020】
本明細書において使用されるセクション見出しは、特に言及している場合を除いて、整理のためだけのものであり、述べられた主題を限定するものと解釈すべきではない。本開示の精神及び教示を逸脱することなく、多くの異なる形態、実施形態及び組み合わせが考えられ、本開示を本明細書で述べた実施形態の例に限定して解釈すべきではないことは理解できるであろう。むしろ、これらの例及び実施形態は、本開示が完全かつすべてを含むものであって、本開示の範囲を当業者に十分に伝えるように提供されるものである。
【0021】
I.概して、多軸AODシステムを用いて高減衰ビームを生成することに関する実施形態
【0022】
図4及び
図5は、高減衰1次ビームを生成するように、
図2及び
図3に示されるもののいずれかのような多軸AODシステムを動作させるための手法を示すタイミングチャートである。
【0023】
図4及び
図5のいずれにおいても、線(a)は、多軸AODシステムの第1のAOD100aに入射する任意のレーザエネルギービームのパワーを表しており、線(b)は、多軸AODシステムの第1のAOD100aに与えられるRF駆動信号(すなわち「第1の」RF駆動信号)に応答して、第1のAOD100aのアパーチャを通過する第1の音波の振幅を表しており、線(c)は、多軸AODシステムの第2のAOD100bに与えられるRF駆動信号(すなわち「第2の」RF駆動信号)に応答して、第2のAOD100aのアパーチャを通過する第2の音波の振幅を表しており、線(d)は、多軸AODシステムの第2のAOD100bから出力される1次ビームのパワーを表している。本明細書で使用される場合には、第1のRF駆動信号及び第2のRF駆動信号は、RF駆動信号の「セット」と考えることができる。
【0024】
パワープロファイルは、線(a)によって略一定のピークパワー(すなわちP1_hi)を有するものとして表されているが、第1のAOD100aに入射するレーザエネルギービームは、(例えば、レーザエネルギービームが生成されたレーザ源に対応する)他のプロファイルを有し得ることは理解できよう。同様に、althoughtheパワープロファイルは、線(d)によって略一定のピークパワー(すなわちP2_hi)を有するものとして表されているが、第2のAOD100bから出力される1次レーザエネルギービームは、(例えば、線(a)において表されているパワープロファイルに対応する、あるいは第1のAOD100a及び第2のAOD100b内の音波の立ち上がり時間及び立ち下がり時間に対応する、あるいはこれに類するものに対応する、あるいはこれらを組み合わせたものに対応する)他のプロファイルを有し得ることは理解できよう。しかしながら、一般的には、第2のAOD100bから出力される1次レーザエネルギービームの平均パワー、ピークパワー、又はこれらを組み合わせたものは、第1のAOD100aに入射するレーザエネルギービームの平均パワー、ピークパワー、又はこれらを組み合わせたものの80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以下であり得る。このため、多軸AODシステムの回折効率(すなわち、第1のAOD100aに入射するレーザエネルギービームの光パワーに対する、第2のAOD100bから出力され、1次ビームに回折された光パワーの比)は、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以下となり得る。このため、多軸AODシステムにより出力される1次ビームは、「高減衰1次ビーム」ということができる。
【0025】
さらに、図示はされていないが、第1のRF駆動信号及び第2のRF駆動信号(ひいてはこれらから生成される音波)は、多軸AODシステムが多軸AODシステムのスキャン領域内の好適な位置又は所望の位置に1次ビームを方向付けるのに好適な周波数により特徴付けられ得ることは理解できよう。「A1_hi」という用語は、第1のAOD100aを通過し、最大回折効率で第1のAOD100aを動作させるために、あるいは、与えられるRF周波数の範囲にわたって同一の最大回折効率(又は閾値回折効率を上回る回折効率)で第1のAOD100aを動作させるために与えられる第1のRF信号に応答して生成された第1の音波の振幅を意味する。同様に、「A2_hi」という用語は、最大回折効率で第2のAOD100bを動作させるために、あるいは、与えられるRF周波数の範囲にわたって同一の最大回折効率(又は閾値回折効率を上回る回折効率)で第2のAOD100bを動作させるために与えられる第2のRF信号に応答して生成された第2の音波の振幅を意味する。
【0026】
一般的に知られているように、音波は、数mm/μsのオーダの速度でAOD(すなわち、第1のAOD100a及び第2のAOD100bの一方)のAOセル102を通過する。この速度は、光速(~3×105mm/μs)よりも著しく遅い。したがって、AODのアパーチャが音波により回折されるレーザエネルギーにより照射される前にRF駆動信号を与える必要がある。
【0027】
図4及び
図5を参照すると、これらのタイミングチャートは、レーザエネルギービームが最初に多軸AODシステムにおけるAODのアパーチャに照射された後に、第1の音波及び第2の音波が第1のAOD100a及び第2のAOD100bのアパーチャにそれぞれ存在することを示している。このため、第1のAOD100a及び第2のAOD100bは、レーザエネルギービームが最初に第1のAOD100aに入射する後までレーザエネルギービームを回折せず、入射レーザエネルギービームの一部は、ビームダンプ(図示せず)で吸収される前に(例えば、ゼロ次ビームとして)多軸AODシステムを透過する。
【0028】
第1のAOD100aを通過するレーザエネルギービームは、第1のAOD100aに与えられる第1のRF駆動信号に応答して生成される第1の音波により回折され、特に、1次ビームを生成する。同様に、第2のAOD100bを通過する1次ビームは、第2のAOD100bに与えられる第2のRF駆動信号に応答して生成される第2の音波により回折され、特に別の1次ビームを生成する。以下、第2のAOD100bから出力される1次ビームは、多軸AODシステムにより出力される1次ビームとして考えることにする。ゼロ次ビーム(及び1次ビーム以外の他の高次ビーム)のレーザエネルギーは、1以上のビームダンプ(図示せず)で任意の好適な方法又は所望の方法により吸収され得る。
【0029】
第1の音波及び第2の音波が第1のAOD100a及び第2のAOD100bのアパーチャをそれぞれ通過してしまうと、1次ビームが多軸AODシステムから出力されなくなり、結果得られるゼロ次ビームは、1以上のビームダンプ(図示せず)で任意の好適な方法又は所望の方法により吸収され得る。
【0030】
上記から理解できるように、それぞれ有限の期間(すなわちt_o)、第1のRF駆動信号及び第2のRF駆動信号を付与すると、入射レーザエネルギービーム(すなわち、t_i(t_iはt_oよりも大きい)のパルス持続時間を有するレーザパルス)を1次ビーム(すなわち、t_oのパルス持続時間を有するレーザパルス)に時間分割することになる。上記を考慮すると、t_oは少なくとも実質的にt_iと等しくてもよい(すなわち、t_iと等しいか、あるいはこれよりもわずかに大きいか、あるいはこれよりもわずかに小さくてもよい)ことも理解できよう。また、入射レーザエネルギービームは、1つのパルス又は一連のパルスとしてではなく、連続又は準連続レーザエネルギービーム(すなわち、CW又はQCWレーザエネルギービーム)として表現され得ることも理解できよう。
【0031】
図4及び
図5は、入射レーザエネルギービームを1次ビームに1回だけ(すなわち、1セットのRF信号を与えることにより)時間的に分割することになる駆動手法を図示しているが、入射レーザエネルギービームは、複数セットのRF駆動信号を連続的に与えることにより(すなわち、異なるセットの第1のRF駆動信号及び第2のRF駆動信号を連続的に与えることにより)一連の1次ビームに時間的に分割されてもよいことは理解できよう。本明細書で使用される場合には、連続的に与えられる2セットのRF駆動信号は、あるRF駆動信号セットにおけるRF駆動信号(例えば第1のRF駆動信号)の振幅及び/又は周波数が、他のRF駆動信号セットにおける対応するRF駆動信号(例えば第1のRF駆動信号)の振幅及び/又は周波数と異なる場合には、互いに異なるものである。最後に、上記では、入射レーザエネルギービームは、t_iのパルス持続時間を有する単一のレーザパルスからなるものとして述べられてきたが、入射レーザエネルギービームは、一連のレーザパルスとして表現され得ることは理解できよう。したがって、入射レーザエネルギービーム中の1以上の(又はすべての)レーザパルスは、本明細書で述べられる実施形態により、任意の方法により時間的に分割され得る。
【0032】
本明細書で使用される場合には、t_i及びt_oは、時間に対するレーザエネルギービーム中の光パワーの半値全幅(FWHM)としてそれぞれ測定され得る。一般的に、t_iは、入射レーザエネルギービームにより照射される多軸AODシステム内のいずれかのAOD(例えば第1のAOD100a)のアパーチャを通過する音波の通過時間よりも長いか、これに等しい(又は少なくとも実質的に等しい)任意の期間であり得る。通過時間は、AOセルが形成される材料の音速及びアパーチャのサイズにより決定される。AOセルは、Ge、LiNbO3、PbMoO4、TeO2、GaAs、GaP、ガラス状SiO2、石英、As2S3などのような任意の好適な材料から形成され得る。AOセルが形成される材料の例示的な音速は、約2mm/μsから約7mm/μsの範囲にあり得る。AODのアパーチャのサイズは、AODに入射するレーザエネルギービームのビームのビームサイズのサイズに対応し得る。本明細書で使用される場合には、「ビームサイズ」という用語は、レーザパルスの直径又は幅を意味し、ビーム軸から、光学強度がビーム経路116に沿った伝搬軸での光強度の1/e2にまで下がるところまでの半径方向距離又は横断距離として測定され得る。本明細書で述べられる実施形態によれば、ビームサイズは、0.25mm(又はその前後)から10mm(又はその前後)の範囲であり得る。AOセルが形成される材料は、AOセルに入射するレーザエネルギービームの波長に依存することは理解すべきである。このため、多軸AODシステムのAODに入射するレーザエネルギービームは、200nm(又はその前後)から12μm(又はその前後)の範囲の波長を有し得る。そして、そのようなレーザエネルギービームは、当該技術分野で知られている任意の好適な手段により生成され得る。
【0033】
t_oはt_iよりも小さくてもよいが、実際上はt_oをどれだけ短くできるか制限する考慮がなされ得ることに留意すべきである。具体的には、RF駆動信号をAODの変換器に与えることにより、AOセル内に過渡応答が誘引され得る。この過渡応答は、AOセルを通過する音波内で、RF駆動信号がAODに与えられた直後及びRF駆動信号が与えられなくなった直後の短い時間(本明細書では「過渡期間」ともいう)の間に存在するものとして表現される。これらの過渡期間は、
図4及び
図5において「t_t」で例示的に示されている。過渡期間中、多軸AODシステム内のそれぞれのAOD(ひいては多軸AODシステム自体)により出力される1次ビームの実際のパワーは、(例えば、RF駆動信号の振幅を与えたときに)予測されるパワーよりも低いことがある。また、多軸AODシステム内のそれぞれのAOD(ひいては多軸AODシステム自体)により出力される1次ビームのスポット形状も過渡期間中に歪む(例えば回折軸に沿って細長くなる)ことがある。ファクタとして、特にそれぞれの過渡期間の長さは、過渡時間に対応し得る(例えば、少なくとも近似的に又は実質的に等しいか、あるいはこれに比例し得る)。このため、t_oが過渡時間の2倍よりも長くなるように第1のAOD100a及び第2のAOD100bを駆動することが好ましいことがある。ある実施形態においては、t_oは、0.25μs(又はその前後)以上である。例えば、t_oは、0.25μs、0.5μs、0.75μs、1μs、1.5μs、2μs、4μsなど、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以上であり得る。上記にかかわらず、ある実施形態においては、t_oが過渡時間t_tの2倍以下となるように第1のAOD100a及び第2のAOD100bを駆動することが許容される場合がある。
【0034】
A.第1の実施形態
図4に示される実施形態においては、第1のAOD100aに与えられる第1のRF駆動信号の第1の振幅A1はA1_hiよりも十分に小さく、第2のAOD100bに与えられる第2のRF駆動信号の第2の振幅A2はA2_hiと等しい(又は少なくとも実質的に等しい)。一般的に、第1の振幅A1はA1_hiの80%(又はその前後)未満である。例えば、第1の振幅A1は、A1_hiの75%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以下であり得る。このため、第1のRF駆動信号に応答して、第1のAOD100aは、75%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以下である回折効率で駆動され得る。上記にかかわらず、ある実施形態においては、第1の振幅A1をA1_hiとA1_hiの80%との間の範囲における任意の値に設定することは許容され得る。また、第2の振幅が第1の振幅A1よりも大きい限り、第2の振幅A2はA2_hi未満であってもよいことも理解できよう。
【0035】
上述したように第1のAOD100aに与えられる第1のRF信号の振幅を制限することにより、第2のAOD100bが動作され得る回折効率の範囲は、(多軸AODシステムにより出力される)高減衰1次ビームのエネルギー成分を制御できる分解能を著しく上昇させる。しかしながら、この利点の多い出力分解能の上昇は、
図4に関して述べられた駆動手法を逆にした場合(すなわち、第1の振幅A1をA1_hiと等しく設定し、与えられる第2の振幅A2をA2_hiよりも十分に小さく設定する)には見られない。
【0036】
さらに、第2の振幅A2は第1の振幅A1よりも大きいので、第2のAOD100bにより出力される1次ビームのスポット形状歪みの大きさは、過渡期間中に第2のAOD100bにより出力される1次ビームのスポット形状歪みの大きさよりも大きくなる。その結果として、多軸AODシステムにより出力される高減衰1次ビームのスポット形状は、過渡期間中に多少歪む(すなわち、第2のAOD100bの回折軸に対応する、多軸AODシステムのスキャン領域のY軸に沿って細長くなる)ことがある。
【0037】
B.第2の実施形態
図5に示される実施形態においては、第1の振幅A1がA1_hiよりも十分に小さく、第2の振幅A2がA2_hiよりも十分に小さい。一般的に、第1の振幅A1はA1_hiの90%(又はその前後)未満であり、第2の振幅A2はA2_hiの90%(又はその前後)未満である。例えば、第1の振幅A1は、A1_hiの90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%、あるいはこれらの値のいずれかの間の値よりも小さいか、あるいはこれに等しくなり得る(又はほぼ等しくなり得る)。同様に、第2の振幅A2は、A2_hiの90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%、あるいはこれらの値のいずれかの間の値よりも小さいか、あるいはこれに等しくなり得る(又はほぼ等しくなり得る)。第1のRF駆動信号及び第2のRF駆動信号に反応して、第1のAOD100a及び第2のAOD100bは、それぞれ、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%よりも小さいか、あるいはこれに等しい(又はほぼ等しい)対応回折効率で駆動され得る。
【0038】
一実施形態においては、第1の振幅A1及び第2の振幅A2は互いに等しい(又は少なくとも実質的に等しい)。このように第1の振幅A1及び第2の振幅A2を設定することにより、第1のAOD100aにより出力される1次ビームのスポット形状歪みの大きさは、過渡期間中に第2のAOD100bにより出力される1次ビームのスポット形状歪みの大きさに少なくとも実質的に等しくなる。その結果として、多軸AODシステムにより出力される高減衰1次ビームのスポット形状が、過渡期間中に少なくとも実質的に等しく歪む(すなわち、多軸AODシステムのスキャン領域のX軸及びY軸に沿って細長くなる)ことがある。第1の振幅A1及び第2の振幅A2を互いに等しくなるように(又は少なくとも実質的に等しくなるように)設定することにより、第1のAOD100a及び第2のAOD100bのそれぞれの回折効率が多軸AODシステムの所望の回折効率の平方根に等しくなる(又は少なくとも実質的に等しくなる)ことは理解できよう。例えば、50%の回折効率で多軸AODシステムを動作させることが望まれる場合には、第1のAOD100a及び第2のAOD100bのそれぞれを約70%(すなわち2√0.5=0.707)の回折効率で動作させることができる。上記にかかわらず、他の実施形態においては、大きさの違いにより生じるスポット形状歪みが許容限界範囲内である限り、第1の振幅A1を第2の振幅A2と異なる(例えば、これよりも高く又は低くなる)ように設定することも許容され得る。
【0039】
II.多軸AODシステムを有するレーザ加工システムに関する実施形態の例
ある実施形態によれば、
図2又は
図3のいずれかを参照して述べた多軸AODシステムを
図6に示されるレーザ加工システム600のようなレーザ加工システム内に組み込んでもよい。
図6を参照すると、レーザ加工システム600は、レーザ602と、(
図2又は
図3のいずれかを参照して述べたように提供される)多軸AODシステム604と、スキャンレンズ606とを含んでいる。
【0040】
一般的に、レーザ602はレーザエネルギービーム608を生成可能であり、このレーザエネルギービーム608は多軸AODシステム604に伝搬され得る。例えば、レーザ602は、連続レーザエネルギービーム又はパルス又は0.25μsよりも長いか、これに等しい(又はほぼ等しい)パルス持続時間(例えば、0.25μs、0.5μs、0.75μs、1μs、1.5μs、2μs、5μs、10μs、15μs、20μs、40μs、50μs、100μs、200μs、500μs、1ms、20ms、50ms、100ms、500ms、1sなど、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以上)(時間に対するパルス中の光パワーの半値全幅(FWHM)に基づく)を有する一連のレーザパルスとして表現される準連続レーザエネルギービームを生成するのに好適なレーザとして提供され得る。レーザ602として提供され得るレーザの種類の例としては、ガスレーザ(例えば、二酸化炭素レーザ、一酸化炭素レーザ、エキシマレーザなど)、CWレーザ及びQCWファイバレーザなどが挙げられる。用いられる特定のレーザによっては、レーザ602により出力されるレーザエネルギービーム608は、電磁スペクトルの紫外(UV)域、可視域又は赤外(IR)域の1以上の波長を有し得る。
【0041】
多軸AODシステム604は、上述したように1次ビーム610を生成するように入射レーザエネルギービーム608を回折可能である。一般的に、多軸AODシステム604は、上述したように1次ビーム610として高減衰1次ビームを生成するように動作可能である。必要に応じて、多軸AODシステム604は、(例えば、上述した第1のAOD100a及び第2のAOD100bのいずれかに与えられるRF駆動信号の周波数を変調することにより)そのスキャン領域内で高減衰1次ビーム610をスキャンするように動作可能である。上記にかかわらず、多軸AODシステム604は、入射レーザエネルギービーム608の80%よりも高い(例えば、80%、90%、95%、98%、99%など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以上)平均パワー、ピークパワー、又はこれらの組み合わせを有する1次ビーム610を生成するようにも動作可能である。1次回折ビーム610はスキャンレンズ606に伝搬され得る。
【0042】
スキャンレンズ606は、1次回折ビーム610を集束して集束レーザエネルギービーム612を生成可能である。集束レーザエネルギービーム612は、典型的には、(例えば、ガウス形ビームとして)ワークピース(図示せず)に伝搬され、ワークピース上で材料加工を行う。
【0043】
図示はされていないが、レーザ加工システム600は、典型的には、レーザエネルギーがレーザ602からスキャンレンズ606に、場合によっては、加工されるワークピースに伝搬される際に、変化するすべての形態における(すなわち、ビーム608、610及び/又は612としての)レーザエネルギーを集束し、拡大し、コリメートし、偏光し、フィルタし、あるいは修正し、調整し、方向付け、監視し、分析するなどするための1以上の他の光学構成要素(例えば、ビームエキスパンダ、アパーチャ、フィルタ、コリメータ、レンズ、ミラー、偏光子、波長板、回折光学素子、反射光学素子など、又はこれらを任意に組み合わせたもの)を含んでいる。
【0044】
必要に応じて、レーザ加工システム600は、レーザエネルギービームがレーザ加工システム600内を伝搬するときにレーザエネルギービームをスキャン可能な1以上のビームポジショナ(図示せず)を含んでいる。多軸AODシステム604の光学的な上流側に、多軸AODシステム604の光学的な下流側に、あるいはこれらを組み合わせた位置にビームポジショナを配置してもよい。ビームポジショナは、ガルバノメータミラー、他のAOD、電気光学(EO)偏光器(EOD)、ファストステアリングミラー(FSM)、回転多面鏡スキャナなど、あるいはこれらを任意に組み合わせたものとして提供され得る。種類によっては、ビームポジショナのスキャン領域が、多軸AODシステム604のスキャン領域よりも(サイズ又は角度範囲の意味において)大きいか、これと等しいか、あるいはこれよりも小さい場合がある。同様に、ビームポジショナの最大スキャン速度(すなわち、ビームポジショナがレーザエネルギービームをそのスキャン領域内の特定の位置に確実に位置決めできる最大速度)は、多軸AODシステム604の最大スキャン速度以下になり易い。
【0045】
図示はされていないが、レーザ加工装置600は、レーザ602、多軸AODシステム604及び制御可能な方法で動作させることができる他の構成要素(例えばビームポジショナ)の動作を制御するように構成される1以上のコントローラを含んでいる。
【0046】
当該技術分野において知られているように、コントローラは、命令を実行すると、多軸AODシステム604におけるそれぞれのAODを駆動するRFドライバの動作を制御する1以上の制御信号を生成するように動作可能な1以上のプロセッサを含み得る。プロセッサは、命令を実行するように動作可能なプログラマブルプロセッサ(例えば、1以上の汎用コンピュータプロセッサ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサなど、あるいはこれらを任意に組み合わせたものを含む)として提供され得る。プロセッサにより実行可能な命令は、ソフトウェア、ファームウェアなど、あるいは、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、フィールドプログラマブルオブジェクトアレイ(FPOA)、特定用途向け集積回路(ASIC)を含む(デジタル回路、アナログ回路、アナログ/デジタル混合回路を含む)好適な形態の回路など、あるいはこれらを任意に組み合わせて実現され得る。命令の実行は、1つのプロセッサ上で行ってもよく、複数のプロセッサに分散させてもよく、1つのデバイス内又はデバイスのネットワークにわたる複数のプロセッサにわたって並行に行っても、あるいはこれに類する方法でも、あるいはこれらを任意に組み合わせて行ってもよい。当該技術分野において知られているように、コントローラは、(例えば、1以上の有線又は無線通信リンクを介して)プロセッサによりアクセス可能なコンピュータメモリのような有形媒体を含み得る。本明細書で使用される場合には、「コンピュータメモリ」は、磁気媒体(例えば、磁気テープ、ハードディスクドライブなど)、光学ディスク、揮発性又は不揮発性半導体メモリ(例えば、RAM、ROM、NAND型フラッシュメモリ、NOR型フラッシュメモリ、SONOSメモリなど)などを含んでおり、ローカルアクセス可能なもの、又は(例えばネットワークを通じて)遠隔アクセス可能なもの、又はこれらを組み合わせたものであってもよい。一般的に、命令は、コンピュータソフトウェア(例えば、実行コード、ファイル、命令など、ライブラリファイルなど)として格納され得る。そのようなコンピュータソフトウェアは、例えば、C、C++、Visual Basic、Java、Python、Tel、Perl、Scheme、Ruby、アセンブリ言語、ハードウェア記述言語(例えば、VHDL、VERILOGなど)などによって書かれ、当業者によって本明細書で述べられた説明から簡単に作成することができる。コンピュータソフトウェアは、通常、コンピュータメモリにより伝達される1以上のデータ構造に格納される。
【0047】
上記を考慮し、
図7を参照すると、レーザ602は、レーザエネルギーが多軸AODシステム604により回折され、スキャンレンズ606を透過した後に、結果得られる集束レーザエネルギービーム612のエネルギー成分が、ワークピースに望ましくない程度にダメージを与えることなく、異なる種類のワークピースの材料加工を行うのに十分となるような十分に高い平均パワー又はピークパワーを有するレーザエネルギービーム608を生成可能であることを理解すべきである。一実施形態においては、レーザ加工装置600は、国際公開公報第2020/159666号において述べられている実施形態のいずれかによるレーザ加工システムとして提供され得る。この国際公開公報は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
III.ワークピースの材料加工を行うための手法の例
一実施形態においては、
図7を参照すると、レーザ加工システム600を用いて加工され得るワークピースは、概してプリント回路基板(PCB)として分類され得る。
図7を参照すると、ワークピース700(すなわちPCB)は、第1の導電体構造704(本明細書においては「上部導電体」ともいう)と接触する、あるいはこれに付着する第1の面を有する誘電体構造702を含んでいる。誘電体構造702は、FR4、ポリイミド、液晶ポリマ、ABFなどのような材料として提供され得る。第1の導電体構造704は、銅又は銅合金のような材料から形成される膜又は箔として提供され得る。第1の導電体構造704は、15μm(又はその前後)から1μm(又はその前後)の範囲の厚さを有し得る。例えば、第1の導電体構造704は、15μm、12μm、9μm、7μm、5μm、2μm、1.5μm、1μmなど、あるいはこれらの値のいずれかの間の値に等しい(又は略等しい)厚さを有し得る。しかしながら、ある実施形態においては、第1の導電体構造704の厚さは、15μmよりも大きくてもよい。必要に応じて、第1の導電体構造704の上面が、レーザエネルギーの吸収を増加させるために、例えば化学反応により、あるいはレーザ暗化プロセスなどにより処理され得る。必要に応じて、ワークピース700は、第1の面とは反対側の誘電体構造702の第2の面に接触する、あるいはこれに付着する第2の導電体構造706のような他の導電体構造(例えば、銅又は銅合金などにより形成されるパッド、トレースなど)を含んでいる。
【0049】
ワークピース700は、非貫通ビア孔(BVH)、貫通孔(LTH)又は他の開口、トレンチ、スロット、凹部領域などのフィーチャを任意の好適な手法により形成するためにレーザ加工システム600を用いて加工され得る。例えば、(例えば、集束レーザエネルギービーム612のビームウェストがワークピース700の表面又はその近傍に位置するように)ワークピース700上に集束レーザエネルギービーム612を照射して第1の導電体構造704に開口を形成し、その下の誘電体構造702を除去することにより非貫通ビア孔(BVH)708をワークピース700に形成することができる。この例では、集束レーザエネルギービーム612は、9μm(又はその前後)よりも長い波長を有し得る。フィーチャ(この例では、非貫通ビア孔708)を(集束レーザエネルギービーム612が伝搬する際に沿う軸がワークピース700に対して静止したままである)「パンチ」プロセスにより形成することができ、あるいは、(集束レーザエネルギービーム612が伝搬する際に沿う軸がワークピース700に対して移動又は再配置される)「トレパン」又は「ラスタ」プロセスにより形成することができる。フィーチャが「トレパン」又は「ラスタ」プロセスにより形成される場合には、(例えば、多軸AODシステム604、1以上のビームポジショナなど、あるいはこれらを任意に組み合わせたものを好適に動作させることにより)集束レーザエネルギービーム612をスキャンすることができる。
【0050】
上述した実施形態によれば、ワークピース加工中に多軸AODシステム604が動作される回折効率は、レーザ602により出力されるレーザエネルギービーム608の平均パワー又はピークパワー、レーザ加工装置600における合計光損失、及び第1の導電体構造704の厚さtcに対応する。この場合において、多軸AODシステム604が動作される回折効率は、フィーチャを形成可能とするように十分に高いが、ワークピース700が加工中にダメージを受けることを防止するように(そして、許容可能な品質水準の範囲内でフィーチャを形成可能とするように)十分に低い。例えば(レーザ602により出力されるレーザエネルギービーム608の平均パワー又はピークパワー及びレーザ加工装置600における合計光損失が,remain少なくとも実質的に一定のままであると仮定すると)、第1の導電体構造704の厚さが第1の厚さ範囲内にある場合には、対応する第1の回折効率で多軸AODシステム604を動作させることができ、第1の導電体構造704の厚さが(第1の厚さ範囲よりも薄い厚さの)第2の厚さ範囲内にある場合には、(第1の回折効率よりも低い)対応する第2の回折効率で多軸AODシステム604を動作させることができ、第1の導電体構造704の厚さが(第2の厚さ範囲よりも薄い厚さの)第3の厚さ範囲内にある場合には、(第2の回折効率よりも低い)対応する第3の回折効率で多軸AODシステム604を動作させることができる。他の例としては、厚さ範囲が9μmよりも大きな厚さを包含している場合には、80%以上(例えば、85%、90%、95%、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以上)の回折効率で多軸AODシステム604を動作させることができる。しかしながら、他の厚さ範囲が2μm未満の厚さを包含している場合には、80%未満(例えば、75%、70%、65%、60%、55%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、2%、1%、0.5%、0.1%など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値以下)の回折効率で多軸AODシステム604を動作させることができる。
【0051】
IV.結論
上記は、本発明の実施形態及び例を説明したものであって、これに限定するものとして解釈されるものではない。例えば、
図4及び
図5に関して上記で述べたRF振幅変調手法に加えて、あるいはこれに代えて、多軸AODシステムにおける少なくとも1つのAODを共通のAOセル102に音響的に連結された複数の変換器104を含むAODとして提供することにより、高減衰1次ビームを生成してもよい。この場合において、AOセル102内でわずかに破壊的な方法で干渉するように互いに等しい周波数であるがわずかに位相がずれた音波を生成し、これによりAODが駆動される回折効率を低下させるように変換器104を駆動してもよい。他の例においては、上述した手法のいずれかに加えて、あるいはこれに代えて、ビーム経路内で多軸AODシステム604の光学的な上流側にバルク変調器又は光モードスイッチを配置してもよく、レーザエネルギービーム608が多軸AODシステム604に入る前にレーザエネルギービーム608を選択的に減衰させるようにこれを動作させてもよい。
【0052】
さらに、上記ではt_oがt_iよりも小さいか、これと少なくとも実質的に等しい実施形態について述べたが、t_oはt_iよりも大きくてもよいことは理解できよう。さらにまた、
図4及び
図5に関して上記で述べた実施形態では、2つのAODからなる多軸AODシステムに関して説明したが、上述した実施形態は、2つよりも多くのAODからなる多軸AODシステムにも(例えば、3つのAOD、4つのAODなどからなる多軸AODシステムにも)同様に適用できることは理解できよう。この場合において、
図5に関して上記で述べた実施形態は、設けられるAODの数に基づいて修正できることは理解できよう。例えば、3AOD多軸AODシステム(すなわち、3つのAODからなる多軸AODシステム)を所望の回折効率で動作させる場合には、3つのAODのそれぞれを3AOD多軸AODシステムの所望の回折効率の立方根に等しい(又は少なくとも実質的に等しい)回折効率で動作させることができる。4AOD多軸AODシステム(すなわち、4つのAODからなる多軸AODシステム)を所望の回折効率で動作させる場合には、4つのAODのそれぞれを4AOD多軸AODシステムの所望の回折効率の4乗根に等しい(又は少なくとも実質的に等しい)回折効率で動作させることができる。一般化すると、nAOD多軸AODシステム(すなわち、nを2よりも大きな任意の整数として、n個のAODからなる多軸AODシステム)を所望の回折効率で動作させる場合には、n個のAODのそれぞれを所望の回折効率のn乗根に等しい(又は少なくとも実質的に等しい)回折効率で動作させることができる。
【0053】
いくつかの特定の実施形態及び例が図面を参照して述べられたが、当業者は、本発明の新規な教示や利点から大きく逸脱することなく、開示された実施形態及び例と他の実施形態に対して多くの改良が可能であることを容易に認識するであろう。したがって、そのような改良はすべて、特許請求の範囲において規定される本発明の範囲に含まれることを意図している。例えば、当業者は、そのような組み合わせが互いに排他的になる場合を除いて、いずれかの文や段落、例又は実施形態の主題を他の文や段落、例又は実施形態の一部又は全部の主題と組み合わせることができることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲とこれに含まれるべき請求項の均等物とによって決定されるべきである。
【国際調査報告】