(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ノルマルパラフィンの選択的水素化分解
(51)【国際特許分類】
B01J 29/76 20060101AFI20240118BHJP
C10G 47/16 20060101ALI20240118BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20240118BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20240118BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240118BHJP
【FI】
B01J29/76 M
C10G47/16
C01B39/48
B01J29/70 M
B01J35/10 301A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540028
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 IB2021062433
(87)【国際公開番号】W WO2022144802
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、コン - ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マーセン、テオドラス リュドヴィカス ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】デービス、トレイシー マーガレット
(72)【発明者】
【氏名】シエ、ダン
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G073BB04
4G073BB05
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4H129AA03
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4H129KC17Y
4H129KD15X
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4H129KD25X
4H129KD26X
4H129KD27X
4H129NA20
4H129NA24
4H129NA37
4H129NA45
(57)【要約】
イソパラフィンの生成を最小限に抑えながら、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素化分解するプロセスが提供される。このプロセスは、ノルマルパラフィンを含む炭化水素原料を水素化分解条件下で水素化分解することを含む。この反応は、必要なトポロジー及び酸点密度を有する、選択された触媒、例えば、LTA型ゼオライトの存在下で行われる。このゼオライトは、直径0.50nmを超える空隙を有するフレームワークタイプであり、最長直径が0.50nm未満で最短直径が0.30nmを超えることを特徴とする開口部を通してアクセス可能である。このように選択されたゼオライトの存在下で行われる反応により、n-パラフィンが豊富な生成物が生成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルマルパラフィンをノルマルパラフィンに富む軽質生成物に水素転化可能な、必要なトポロジー及び酸点密度を備えたゼオライトベースの触媒であって、
a)直径0.50nmを超える空隙を有するフレームワークタイプを有し、最長直径が0.50nm未満で最短直径が0.30nmを超えることを特徴とする開口部を通してアクセス可能であるゼオライトと;
b)水素添加機能と;を含み、
c)n-C
10水素化分解において、0.25未満のiC
4/nC
4生成物比を示す、
前記触媒。
【請求項2】
ノルマルパラフィンの水素転化のプロセスであって、
少なくとも3重量%のノルマルパラフィンを含む炭化水素供給原料を、最長直径が0.50nm未満であり、最短直径が0.30nmを超えることを特徴とする開口部を通ってアクセス可能である、直径0.50nmを超える空隙を有するゼオライトベースの触媒の存在下、水素転化条件下で水素転化反応に供することを含む、前記プロセス。
【請求項3】
前記触媒の前記ゼオライトが、AVE、MTF、LEV、IHW、RTE、SWY、AFV、AVL、SFW、DDR、AWW、AEI、CHA、EEI、ITE、RTH、AFT、SAS、AFX、IRN、SAV、UFI、LTN、PWN、LTA、KFI、NWF、RHO、PAU、NPT、またはTSCフレームワークタイプを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒の前記ゼオライトがLTA型ゼオライトである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記触媒の前記ゼオライトが8員環を含み、d-sphere/d-avgが1.4以上である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
選択された前記ゼオライトに水素化機能金属がロードされている、請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記水素化機能金属が貴金属を含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記貴金属が、Pd、Pt、Au、またはそれらの混合物を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記水素化機能金属成分が、Ni、Mo、W、それらの硫化物、またはそれらの混合物を含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ロードされた選択されたゼオライトが、少なくとも5重量%のノルマルパラフィンを含む前記原料を用いてノルマルパラフィンをノルマルパラフィンに富む軽質生成物に水素転化する水素転化反応に使用される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項11】
前記触媒の前記ゼオライトがLTA型ゼオライトまたはTSC型ゼオライトである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記原料が少なくとも10重量%のノルマルパラフィンを含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
前記原料が石油原料または石油ベースの原料である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項14】
前記原料が前記水素転化反応の前に水素転化処理に供される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項15】
前記原料中の前記ノルマルパラフィンのパスあたりの転化率が25~99%である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ノルマルパラフィンの水素転化に有用なゼオライト触媒を調製するプロセスであって、
a)直径0.45nm未満の開口部を通ってアクセスされ、直径0.5nmを超える空隙を備えた細孔システムを有するゼオライトを選択することと;
b)n-C
10水素化分解における前記ゼオライトが前記生成物中で0.25未満のiC
4/nC
4を示すことを確認することと;
c)前記ゼオライトを成形ペレットに結合することと、
d)前記ゼオライト含有ペレットに水素化機能金属をローディングして水素転化触媒を調製することと、を含む前記プロセス。
【請求項17】
a)における前記選択されたゼオライトがLTA型ゼオライトである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記生成物が前記反応から回収され、水蒸気分解装置に送られる、請求項6または10に記載のプロセス。
【請求項19】
前記生成物が、前記水蒸気分解装置に供給される前に、分離工程を行わずに前記水蒸気分解装置に送られる、請求項18に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月30日出願の米国仮特許出願第63/132,039号に対する優先権の利益を請求し、その開示は、その全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
技術分野
イソパラフィンの生成を最小限に抑えて、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素化分解するプロセス、及び触媒を選択するプロセス。
【背景技術】
【0003】
1世紀にわたり、水素化分解と接触分解は、製油所で原油及び石炭由来の液体の沸点を下げ、H/C比を高めるために使用されてきた。本質的に、これらの触媒プロセスはまた、軽質留分のイソパラフィン含有量も増大させた。これは、分解生成物の意図された用途が内燃機関である場合に望ましいことであった。しかし、原油は現在化学製造にますます使用されており、イソパラフィン含有量が高いことが酸触媒(水素)分解の望ましくない副作用となっている。
【0004】
ノーベル賞受賞者のGeorge Olahは、酸触媒がn-パラフィンを直接n-パラフィンに分解しないことを確立した。代わりに、酸はまずn-パラフィンからイソパラフィンへの変換を触媒し、その後初めてイソパラフィンを分解する。結果として、イソパラフィン含有量が高い生成物スレートは、一般に、酸触媒による分解の兆候であると考えられる。対照的に、n-パラフィン含有量が高い生成物スレートは、熱分解(熱分解)の兆候である。
【0005】
歴史的には、ノルマルパラフィンが豊富なC5+液体は、石油などの混合物からノルマルパラフィンを選択的に抽出することによって調製されてきた。この操作は比較的高価であり、原料中のノルマルパラフィンの含有量に制限される。例えば、圧力スイング吸着プロセスで吸着剤から特に長いパラフィンを回収するには、高価で複雑な脱着ステップが必要となる。ノルマルパラフィンは、フィッシャー・トロプシュ法でも製造され得る。ただし、フィッシャー・トロプシュ法では、上記の用途で使用できる範囲から外れる可能性のある重い生成物も生成される。これらの重い生成物を従来の酸性触媒上での水素化分解により軽質の生成物に変換すると、通常のパラフィンに富んだ生成物ではなく、イソパラフィンに富んだ生成物が得られる。
【0006】
重ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに選択的に分解することは、当該技術分野において開示されている。例えば、米国特許公開第2007/0032692号に注目のこと。
【0007】
G.E.Langlois、R.F.Sullivan、及びClark J. Egan、「Hydrocracking of Paraffins with Nickel on Silica-Alumina Catalysts--the Role of Sulfiding」、Symposium on The Chemical and Physical Nature of Catalysts Presented Before the Division of the Petroleum Chemistry,American Chemical Society,Atlantic City Meeting,Sep.12-17,1965(Table 1,page B-128)には、水素化分解中の異なる金属によるシリカアルミナ上でのn-デカン(nC10)の変換が記載されている。
【0008】
硫化しないニッケルは、低いi/n比(0.08)でC4~C7生成物を生成するが、この触媒の転化率は非常に低く(7.8%)、メタン収率は比較的高い(0.28重量%)。比較すると、シリカアルミナ上の硫化ニッケル触媒は転化率が高く(52.8)、メタン収率は低い(0.02重量%)が、高いi/n比(6.6)でC4~C7生成物が得られる。ここで、良好な活性、低いi/n比生成物、及び低いメタン生成量の組み合わせを有する触媒について説明する。
【0009】
Jule A.Rabo、「Unifying Principles in Zeolite Chemistry and Catalysis」、Zeolites:Science and Technology,editor F.Ramoa Ribeiro et al.,NATO ACS Series Vol.80,pages 291-316,1984(page 295-296)は、ヘキサンを分解するための、酸性ヒドロキシルを含まないアルカリ中和ゼオライトの使用を開示している。しかしながら、この参考文献は分解を開示しているが、水素転化については開示しておらず、かなりの量のメタン(3.1重量%)及びオレフィンが生成される。
【0010】
Harry L.Coonradt及びWilliam E.Garwood,「The Mechanism of Hydrocracking」、I&EC Process Design and Development,Vol.,3 No.1,January 1964 pages 38-45には、低レベルのメタンを生成しながらの、ヘキサデカン(n-C16)、n-ヘプタン、n-ドコサン(n-C20はエイコサンとしても公知)の水素化分解のためのシリカアルミナ上の白金触媒の使用について記載されている。かなりの量のシクロパラフィンも生成され、生成物は異性化される(40ページの第1列目に記載)が、異性化の程度は不明である。この触媒の担体の細孔特性は記載されていないが、シクロパラフィン及びイソパラフィンの形成によって示されるように、おそらく微孔性ではなかった。
【0011】
B.S. Greensfelder、H.H.Voge、及びG.M.Good、「Catalytic and Thermal Cracking of Pure Hydrocarbons」、Industrial and Engineering Chemistry,November 1949,pages 2573-2584には、セタン(n-C16)の変換のためのさまざまなクラスの触媒の評価が記載されている。特に注目すべきは、活性炭は熱反応よりもメタンの収率が低いが、それでもかなりの量のメタンと、かなりの量のエタン、プロパン、及びブタンを生成する。鎖の分岐(イソパラフィンの形成)がほとんど観察されなかったことが注目された(2576ページ、第2欄、第2段落)。しかし、他の分解研究と同様に、かなりの量のオレフィンが生成され、ガスの収量が過剰であった。
【0012】
業界では、原油のバリューチェーンを燃料から多様化することが急務となっている。原油を優れた水蒸気分解原料に変えることが現在重要である。イソパラフィンは、望ましいオレフィンを生成するが、大量の望ましくない熱分解油という代償を伴うという点で、あまり望ましくないスチームクラッカー供給流である。業界は、イソパラフィンの生成を最小限に抑えながら、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素転化するための単純かつ効率的な触媒プロセスを歓迎するであろう。
【発明の概要】
【0013】
イソパラフィンの形成を最小限に抑えながら、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素化分解するプロセスが提供される。このプロセスは、ノルマルパラフィンを含む炭化水素原料を水素化分解条件下で水素化分解することを含む。原料は一般に少なくとも3重量%、または一実施形態では少なくとも5重量%のノルマルパラフィンを含む。この反応は、必要なトポロジー及び酸点密度を有するゼオライトを含む特定の種類のゼオライトベースの触媒の存在下で行われる。本発明のゼオライトは、直径0.50nmを超える空隙を有するフレームワークタイプであり、最長直径が0.50nm未満で最短直径が0.30nmを超えることを特徴とする開口部を通してアクセス可能である。ゼオライトは、例えば一実施形態では、LTA-ゼオライトである。このようなゼオライトの存在下で行われる反応は、低級オレフィンを製造するために水蒸気分解装置に供給される前に分離工程を必要としない、n-パラフィンが豊富な生成物を生成する。
【0014】
他の要因の中でも、本発明のプロセスにより、イソパラフィンの生成を最小限に抑えながらn-パラフィン含有原料の水素化分解に使用され得るゼオライトベースの触媒を評価し、選択することが可能になる。したがって、本発明の水素化分解プロセスは、現在の高価でかつ非効率的な商業的分離プロセスを回避しながら、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素転化するための単純かつ効率的な触媒プロセスを利用することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で調製したLTA型ゼオライトのXRDパターンである。
【
図2】実施例4の実験における変換収率対反応温度をグラフで示す。
【
図3】実施例4の実験における収率対転化率をグラフで示す。
【
図4】実施例4の水素異性化生成物における一分岐C
10異性体の分布をグラフで示す。
【
図5】実施例4の実行に関して2.2モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図6】実施例4の実行に関して、5.8モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図7】実施例4の実行に関して、10.8モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図8】実施例4の実行に関して14.6モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図9】実施例4の実行に関して20.6モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図10】実施例4の実行に関して28.2モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図11】実施例4の実行に関して39.1モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図12】実施例4の実行に関して、50.3モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【
図13】実施例4の実行に関して65.9モル%の分解収率での分解生成物の分布をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義:
水素転化(hydroconversion)及び水素転化する(hydroconvert):水素の存在下、大気圧より高い圧力で操作し、異性化を最小限に抑え、メタンやエタンを過剰に生成することなく、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに変換する触媒プロセス。水素化処理及び水素化分解は、明らかに異なる触媒プロセスであるが、水素の存在下では大気圧より高い圧力でも作動する。水素化分解は、ノルマルパラフィンを大量のイソパラフィンを含むより軽質の生成物に変換する。水素化処理では、大量の原料がより軽質の生成物には変換されないが、硫黄含有化合物や窒素含有化合物などの不純物は除去される。また、比較対照において、熱分解はノルマルパラフィンを最小限の分岐でより軽質の生成物に変換するが、このプロセスは触媒を使用せず、通常ははるかに高い温度で作動し、より多くのメタンを生成し、オレフィンとノルマルパラフィンの混合物が生成される。
【0017】
ゼオライトの「開口部」とは、吸収または脱着分子がゼオライトの内部に入るために通過する必要がある最も狭い通路である。開口部の直径dapp(nm)は、IZA(国際ゼオライト協会)のゼオライトアトラス(http://www.iza-Structure.org/databases/)に記載されている最短のdshort(nm)軸及び最長のdlong(nm)軸の平均として定義される。メチル基を持つノルマルパラフィン及びイソパラフィンはどちらも、dlong≧0.50nmの開口部を通過し得るが、dshort>0.30nmの条件でdlong<0.50nmの開口部を通過し得るのはノルマルパラフィンのみである。
【0018】
開口部は、ゼオライトトポロジーのより広い部分である「空隙」へのアクセスを提供する。空隙の直径dvoid(nm)は、IZA Zeolite Atlas(http://www.iza-structural.org/databases/)によるような空隙内で膨張し得る球の最大直径によって特徴付けられる。これは、例えば、かなり球形のLTAタイプのボイド(またはケージ)を直径1.1nmのボイド、細長いAFXタイプのボイドを球形の直径0.78nmのボイドとして特徴付ける。dvoid/dapp≧1.4nm/nmの場合、ボイドはケージとして定義される。
【0019】
本発明のプロセスは、イソパラフィンの形成を最小限に抑えながら、ノルマルパラフィンをより軽質のノルマルパラフィンに水素転化(hydroconvert)する。このプロセスは、ゼオライトベースの触媒の存在下、水素化分解条件下でノルマルパラフィンを含む炭化水素供給原料を水素転化することを含み、このゼオライトは直径0.50を超える空隙を有し、最長直径が0.50nm未満で最短直径が0.30nm超を特徴とした開口部を通ってアクセス可能である。本発明のゼオライトはまた、nC10水素化分解において0.5未満、一実施形態では0.25未満、さらには0.15未満というiC4/nC4生成比を示す。より具体的には、ゼオライトに0.1~0.5重量%のPdをロードして触媒を還元し、約600°F(315℃)、1200psigの全圧、0.5のLHSV及び5:1のH2/n-C10モル比で、約80%のn-C10転化率で運転し得る。生成物中で得られるiC4/nC4は、0.50未満、0.25未満、さらには0.15未満である。一旦選択して確認したら、ゼオライトに水素化機能金属をロードして、本プロセスで使用する触媒を作成し得る。
【0020】
本発明のプロセスにとって重要なのは、金属がロードされるゼオライトベースである。というのは、本明細書に従って選択されたゼオライト触媒は、高い転化率をもたらし、イソパラフィンの生成を最小限に抑えることができることが判明したからである。触媒ゼオライトの重要な特徴には、0.45nm未満のサイズの開口部を通した細孔系へのアクセス、及び直径0.50nmを超える空隙を含む細孔系が含まれることが見出されている。別の実施形態では、ゼオライトは直径0.50nmを超える空隙を有し、これは、最長直径が0.5nm未満で最短直径が0.30nmを超えることを特徴とする開口部を通じてアクセス可能である。これらの基準を満たすゼオライトフレームワークには、LTA型ゼオライトのほか、ITEフレームワーク(例えば、SSZ-36)及びSASフレームワーク(例えば、SSZ-73)を有するゼオライトが挙げられる。
【0021】
ゼオライトA(リンデタイプA、フレームワークコードLTA)は、分離、吸着、及びイオン交換で最もよく使用されるゼオライトの1つである。この構造には、直径4.1Åの小さな8員環(8MR)開口部によって三次元的に接続された大きな球状ケージ(直径約11.4Å)が含まれている。LTAは通常、ナトリウムの存在下、Si/Al約1を含む水酸化物媒体中で合成される。カチオンを変更することで、8MR開口部の限界直径を調整し得、よく使用される一連の吸着剤3A(カリウム型、直径2.9Å)、4A(ナトリウム型、直径3.8Å)及び5A(カルシウム型、直径4.4Å)を作成し得、ガス及び液体から水、NH3、SO2、CO2、H2S、C2H4、C2H6、C3H6及びその他のn-パラフィンなどの種を選択的に除去するために使用される。LTAは前述の用途に大量に使用されるが、フレームワークのSi/Al比が低く、それに伴う水熱安定性が低いため、触媒用途で一般的に見られるより要求の厳しいプロセス条件下での使用は制限される。
【0022】
ITEフレームワークは、ゼオライトSSZ-36に示されており、これについては米国特許第6,218,591号に詳細に記載されている。SASフレームワークはゼオライトSSZ-73に示されており、これは、米国特許第7,138,099号に詳細に記載されている。
【0023】
以下の表は、本発明のプロセスで有用な触媒のゼオライトベースとして認定するために必要な特性を有する、IZAの3文字コードによって識別されるフレームワークタイプの例を示す。この表には、LTA、ITE、及びSASゼオライトが含まれている。表において、d-short、d-long、d-sphereの値は、IZA Webサイトにおいてオングストロームで示されている細孔寸法である。表に示されている値はオングストローム単位である。リングのサイズは、空隙への出入りを可能にする開口部を構成する酸素原子の数を指定する。
【表1】
【0024】
本発明のプロセスにおいて有用な水素化分解触媒または水素転化触媒は、典型的には、触媒活性な水素化金属を含有し得る。触媒活性のある水素化金属の存在は、生成物、特にIV及び安定性の向上につながる。典型的な触媒活性な水素化金属としては、クロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金、及びパラジウムが挙げられる。金属の白金及びパラジウムが特に好ましく、白金が最も特に好ましい。白金及び/またはパラジウムが使用される場合、活性水素化金属の総量は、典型的には全触媒の0.1重量%~5重量%の範囲、通常は0.1重量%~2重量%である。
【0025】
ゼオライトには、水素化機能金属またはそのような金属の混合物がロードされている。このような金属は当技術分野で知られており、以前に一般的に議論されている。好ましい金属は通常、Pd、Pt、及びAuなどの貴金属、またはNi、Mo、及びWなどの卑金属のいずれかである。金属とその硫化物の混合物を使用してもよい。ゼオライトへの金属のローディングは、含浸またはイオン交換などの当技術分野で公知の技術によって達成され得る。このように選択されたゼオライトに水素化機能金属をロードして触媒を作製する。次いで、作成された触媒は、水素転化プロセスで使用され得る。
【0026】
このプロセスの原料は、少なくとも5重量%のノルマルパラフィンを含む炭化水素原料である。炭化水素原料が少なくとも20重量%のノルマルパラフィンを含む場合、より大きな利益が達成され、少なくとも50重量%のノルマルパラフィン、特に少なくとも80重量%のノルマルパラフィンを含む場合にはさらに良好である。ノルマルパラフィンの含有量が高いため、原料はワックス状原料と呼ばれ得る。このような供給原料は、全原油、還元原油、真空塔残渣、合成原油、フッツ油、フィッシャー・トロプシュ由来ワックスなどを含む多種多様な供給源から得ることができる。典型的な原料としては、水素化処理または水素化分解軽油、水素化処理潤滑油ラフィネート、ブライトストック、潤滑油ストック、合成油、ろう下油、フィッシャー・トロプシュ合成油、高流動点ポリオレフィン、ノルマルアルファオレフィンワックス、スラックワックス、脱油ワックス、及びマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。本プロセススキームのプロセスでの使用に適した他の炭化水素原料は、例えば、軽油及び真空軽油;大気圧蒸留プロセス由来の残留留分;溶剤脱れき石油残渣;シェールオイル、サイクルオイル;動物及び植物由来の脂肪、油及びワックス;石油及びスラックワックス;ならびに化学プラントのプロセスで生成されるワックスから選択され得る。
【0027】
一実施形態では、原料の芳香族化合物、ならびに有機窒素及び有機硫黄含有量が低減される。これは、水素転化の前に原料を水素化処理することによって達成され得る。原料を水素化処理触媒と接触させることは、原料中の芳香族化合物を効果的に水素化し、原料からN-及びS-含有化合物を除去するのに役立ち得る。
【0028】
本発明のプロセスが実施される条件には、一般に、約390°F~約800°F(199℃~427℃)の範囲内の温度が含まれる。一実施形態では、第1及び第2の水素異性化脱ろう条件のそれぞれは、約550°F~約700°F(288℃~371℃)の範囲の温度を含む。さらなる実施形態では、温度は約590°F~約675°F(310℃から357℃)の範囲であってもよい。圧力は、約50~約5000psigの範囲、典型的には約100~約2000psigの範囲であってもよい。
【0029】
典型的には、本発明の脱ろうプロセス中の触媒系/反応器への供給速度は、約0.1~約20h-1LHSV、通常は約0.1~約5h-1LHSV、及び一実施形態では、0.5~約2h-1LHSVの範囲であってもよい。一般に、本発明の脱ろうプロセスは水素の存在下で行われる。典型的には、炭化水素に対する水素の比率は、炭化水素供給1バレル当たり約2000~約10,000標準立方フィートH2の範囲内であり、通常、炭化水素供給1バレルあたり約2500~約5000標準立方フィートH2であり得る。
【0030】
原料中のn-パラフィンのより軽質の生成物へのパスあたりの転化率は、一般に25~99%であり、ほとんどの場合は40~80%である。
【0031】
水素転化から回収されたノルマルパラフィンが豊富な生成物は、その後、水蒸気分解装置に送られ得る。本発明の水素転化プロセスから回収される生成物は、選択されたゼオライトをベースとする触媒の使用のおかげで、水蒸気分解装置に供給される前に分離工程を必要としない。水蒸気分解プロセスは当技術分野で公知である。炭化水素原料を水蒸気分解すると、エチレン、プロピレン、及びブテンなどのオレフィンを含むオレフィン流が生成される。本発明の水素転化プロセスは、水蒸気分解装置用の優れた原料を提供する。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
LTAゼオライトの合成
米国特許第9,821,297号に記載されているように、LTAの合成には次のルートを使用した。
【0033】
この合成で使用される構造指向剤(SDA)、2,3-ジメチル-1-(4-メチル-ベンジル)-3H-イミダゾール-1-イウムカチオンを以下に示す。4.17gのテトラエチルオルトシリケート(TEOS)、0.24gのテトラメチルアンモニウム(TMA)五水和物、11.89gのSDAの水酸化物溶液(0.84mmol/g)を、23mLのPEEKカップ中で混合した。この混合物を密閉し、24時間振とうして、TEOSを完全に加水分解させた。次いで、0.19gの水酸化アルミニウム及び0.05gのLTAシードを添加した。過剰な水を除去するために、混合物を90℃で12時間放置した。続いて、乾燥混合物を粉砕し、0.39gのHF(50重量%溶液)を添加した。ゲルの最終的なモル組成は次のとおりである。
【0034】
1 SiO:0.05 AlO:5 H2O:0.5 SDA-OH:0.07 TMA-OH:0.5 HF
【0035】
PEEKカップに蓋をしてステンレス鋼製オートクレーブ内に密閉し、175℃で72時間加熱した。結晶化後、ゲルをオートクレーブから回収し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。得られた生成物を粉末XRDで分析した。得られたXRDパターンを
図1に示す。合成したままの生成物は、ICP元素分析によって測定したところ、25のSiO
2/Al
2O
3モル比を有していた。
【0036】
【0037】
[実施例2]
Pd/LTAの調製
実施例1の材料を空気中1103°Fで5時間焼成して、ゼオライトのチャネル/ケージに吸蔵された有機SDA分子を除去し、それをプロトン形態に変換した。次いで、0.93gの焼成LTAゼオライト材料に、最初に5.6gの脱イオン水、次に0.51gの(NH3)4Pd(NO3)2溶液(0.148NのNH4OH溶液でpH9.5に緩衝化)を用いて室温で3日間振盪しながら混合することによってパラジウムをロードして、これによって1gのゼオライトと混合した1gのこの(NH3)4Pd(NO3)2溶液によって0.55重量%のPdローディングを得た。回収したPd交換ゼオライトを、脱イオン水で洗浄し、200°Fで乾燥させ、次いで650°Fで3時間焼成した。次いで、焼成されたPd/LTA触媒をペレット化し、粉砕し、触媒試験のために20~40メッシュにふるいにかけた。
【0038】
[実施例3]
n-C10による触媒試験の手順
触媒試験のために、実施例2からのPd/LTA触媒0.44g(0.7ml、20~4メッシュ)(熱重量分析によると1112°Fで乾燥した場合の0.40gに相当)を、ゼオライト触媒床の両側に触媒的に不活性なアランダムをロードした、23インチ長×外径0.25インチのステンレス鋼反応管の中心にロードした。次いで、この触媒を水素流中で約600°F(315℃)で5時間還元する。触媒反応は、全圧1200psigで実行した。1気圧及び75°F(24°C)で測定した場合、ダウンフロー水素速度は6.25mL/分;下降流液体供給速度0.5mL/時間;反応温度は490~650°F(254~343℃)の範囲である。生成物は、60分ごとに1回オンラインキャピラリーガスクロマトグラフィー(GC)によって分析した。GCからの生データは、自動データ収集/処理システムによって収集し、炭化水素転化率は生データから計算した。転化率は、(i)分解生成物(C9-)と(ii)異性化生成物(iso-C10異性体)の両方を含む生成物を生成するために反応したn-デカンの量(モル%)として定義される。収率は、n-デカン以外の生成物、すなわち分解生成物(C9-)及び異性化生成物(iso-C10異性体)に変換されたn-デカン供給物のモルパーセントとして表される。
【0039】
[実施例4]
n-C10によるPd/LTAの触媒試験
実施例2からのパラジウム交換LTAサンプルを、実施例3に記載の条件下でn-デカンの選択的水素転化について試験した。結果を
図2~
図4に示す。結果は、n-デカン供給原料の95%超が変換されることを示している。n-デカンの転化率は、反応温度の上昇とともに増大する。
図2~3に示すように、低温では、この触媒上で水素化分解と水素異性化の両方がすでに同時に起こっている。反応温度が上昇すると、水素化分解と水素異性化の両方の収率が増大する。競合する水素化分解反応が起こり、温度がさらに上昇すると、水素異性化生成物の収率は最大値まで上昇し、その後減少する。なお、
図2~
図3に示すように、この実施例で適用される条件下では、490~650°Fの全温度範囲にわたって、水素化分解が水素異性化よりも優勢であることに注目のこと。さらに、水素異性化生成物においては、単分岐C
10異性体が多分岐C
10異性体よりも優勢である。一分岐C
10異性体(すなわち、2-、3-、4-及び5-メチルノナン)の分布は、
図4に示すように、以下の順序で、反応温度にはほぼ依存しない:3MC9>2MC9>4MC9>5MC9。
【0040】
この実施例の触媒のもう1つの重要な特徴は、n-デカンを選択的に水素化分解してノルマルパラフィンに富むより軽質の生成物を生成することである。
図5~13に示されるように、分解生成物(C
4-C
9)は、2.2~65.9モル%の分解収率範囲において、イソパラフィンよりも主にノルマルパラフィンからなる。
【0041】
本開示で使用される「含む」または「含んでいる」という用語は、名前付き要素を含めることを意味するが、他の名前のない要素を必ずしも除外するわけではない、無制限の遷移として意図されている。「本質的に~からなる」または「本質的に~からなっている」という語句は、組成物にとって本質的に重要な他の要素を排除することを意味することを意図している。「からなっている」または「からなる」という語句は、ほんの微量の不純物を除いて、列挙された要素以外のすべての除外を意味する遷移として意図されている。
【0042】
当業者には理解されるように、これらの教示に照らして本発明の多くの修正及び変形が可能であり、そのようなものはすべて本明細書によって企図される。例えば、本明細書に記載される実施形態に加えて、本発明は、本明細書に引用される本発明の特徴と、本発明の特徴を補完する引用される先行技術文献の特徴との組み合わせから生じる発明を企図し、特許請求する。同様に、記載された任意の材料、特徴、または物品は、他の任意の材料、特徴、または物品と組み合わせて使用してもよく、そのような組み合わせは本発明の範囲内にあるとみなされることが理解されるであろう。
【0043】
本開示に引用した全ての刊行物は、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】