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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】血栓摘出デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20240118BHJP
   A61F 2/01 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61B17/22 528
A61F2/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541626
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2022050381
(87)【国際公開番号】W WO2022152665
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】102021100703.8
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508140512
【氏名又は名称】フェノックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】PHENOX GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ハネス,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】トレスケン,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】モンシュタット,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケス,ハンス
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160MM37
(57)【要約】
本発明は、実質的に円筒形の構造体(1)を備えた血栓摘出デバイスであって、円筒形の構造体(1)が、近位端および遠位端を有し、かつ複数のブレースから成る複数のメッシュ(3,4)を備えており、血栓摘出デバイスが、円筒形の構造体(1)の近位端に設けられた近位のメッシュに配置され、近位方向に延びる2つの接続ブレース(5,5’)を備え、かつ円筒形の構造体(1)の近位側に配置された連結部材(11)が設けられており、該連結部材に接続ブレース(5,5’)が接続されており、連結部材(11)がプッシャ/挿入ワイヤに接続されており、近位のメッシュのブレース、接続ブレース(5,5’)および連結部材(11)ならびに近位のメッシュ間に配置され得るテンショニングブレース(9)が、閉じた環構造(6)を形成し、環構造(6)が、環構造(6)の空間的な位置を確認するためのX線不透過性の材料を有する環状マーカ(12)を備えている、血栓摘出デバイスに関する。本発明は、カテーテルからの解放時の血栓摘出デバイスの開放挙動および血管内でのデバイスの配向の可視化を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に円筒形の構造体(1)を備えた血栓摘出デバイスであって、前記円筒形の構造体(1)が、近位端および遠位端を有し、かつ複数のブレースから成る複数のメッシュ(3,4)を備えており、前記血栓摘出デバイスが、
-前記円筒形の構造体(1)の前記近位端に設けられた近位のメッシュに配置され、かつ近位方向に延びる2つの接続ブレース(5,5’)と、
-前記円筒形の構造体(1)の近位側に配置された連結部材(11)であって、該連結部材に前記接続ブレース(5,5’)が取り付けられており、前記連結部材(11)が、挿入/プッシャワイヤに接続されている、連結部材(11)と
を含み、
前記近位のメッシュのブレース、前記接続ブレース(5,5’)および前記連結部材(11)ならびに場合によっては前記近位のメッシュ間に配置されるテンショニングブレース(9)が、閉じた環構造(6)を形成する、血栓摘出デバイスにおいて、
前記環構造(6)が、該環構造(6)の空間的な位置を視覚化するためのX線不透過性の材料を有する環状マーカ(12)を備えていることを特徴とする、血栓摘出デバイス。
【請求項2】
前記円筒形の構造体(1)の周面にわたって螺旋状またはコイル状に延びるスリット(7)が設けられており、前記円筒形の構造体(1)の前記近位端において前記スリット(7)にテンショニングブレース(9)が跨がっていることを特徴とする、請求項1記載の血栓摘出デバイス。
【請求項3】
前記環状マーカ(12)が、前記環構造(6)をその長さに沿って少なくとも部分的に取り囲んでいることを特徴とする、請求項1または2記載の血栓摘出デバイス。
【請求項4】
前記環状マーカ(12)が、前記環構造(6)をその全長に沿って取り囲んでいることを特徴とする、請求項3記載の血栓摘出デバイス。
【請求項5】
前記環状マーカ(12)が、ワイヤ状またはスリーブ状であり、かつ前記環構造(6)を形成する前記ブレースの周囲に巻き付けられているか、または置かれていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項6】
ワイヤ状の前記環状マーカ(12)が、一体的な設計の環状マーカであることを特徴とする、請求項5記載の血栓摘出デバイス。
【請求項7】
前記連結部材(11)の領域に近位マーカ(13)が設けられていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項8】
ワイヤ状の前記環状マーカ(12)の端部が、前記近位マーカ(13)または連結部材(11)内に、または前記近位マーカ(13)または連結部材(11)に対して固定されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項9】
前記テンショニングブレース(9)が、湾曲部を形成し、該湾曲部の頂点が、前記円筒形の構造体(1)の前記遠位端を指していることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項10】
X線不透過性の材料から成る別の遠位マーカおよび/または近位マーカが設けられていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項11】
前記X線不透過性の材料が、金、タンタル、白金、パラジウムまたは貴金属をベースとした合金もしくは白金イリジウムのようなこれらの材料の組み合わせから選択されていることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項12】
前記円筒形の構造体(1)に沿って別の複数のマーカが設けられており、該マーカが、ワイヤ状、渦巻状、管状またはスリーブ状に設けられていてよいことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【請求項13】
前記円筒形の構造体(1)の少なくとも一部への付加的なマーキングが、X線不透過性の材料をコーティングすることにより設けられていることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の血栓摘出デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近位区域の改善されたマーキングを備えた血栓摘出デバイスに関する。血栓摘出デバイスは、実質的に円筒形の構造体を備え、この円筒形の構造体の近位端は、接続ブレースを介して連結部材に接続されている。血栓摘出デバイスは、特に、脳血管構造内にある血栓を除去するために設計されている。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、肺動脈塞栓症、末梢塞栓症、臓器血栓症等のような血栓塞栓症は、一般的に、血管内に詰まって、この血管を完全にまたは部分的に閉塞する、血小板、フィブリノーゲン、凝固因子等から成る血栓塞栓(以降、単に血栓または凝血塊と称する)、つまり粘弾性の血液の塊によって引き起こされる。臓器動脈の閉塞は、依属する組織への酸素および栄養素の供給の遮断にもつながる。機能喪失を伴う機能代謝の障害には、影響を受ける組織の破壊(梗塞)をもたらす構造代謝の不全が短時間のうちに続く。このようにして影響を受けることが最も多い臓器は、心臓および脳である。しかし、このような異常は、四肢の動脈および肺動脈にも影響を及ぼす。さらに、静脈血栓および血栓塞栓性の閉塞は、下肢および骨盤の静脈においても生じることが多い。頭蓋内静脈洞の血栓による閉塞の臨床像は、脳組織の静脈還流の不全による深刻な脳内出血につながり得る。
【0003】
血栓塞栓症に関連する臨床像の深刻さおよびこの罹患率に鑑みて、血栓の溶解または除去を目的とする種々異なる技術が開発されている。
【0004】
血栓を溶解するために設計された血栓溶解薬による処置および血栓を取り除くための観血的な手術による介入とは別に、低侵襲の血管治療形態がますます多く使用されている。
【0005】
これらの公知の処置形態の1つは、血栓摘出デバイスとして知られるものの使用に関する。特許文献1には、血管ステントにおいても見られるような複数のメッシュを備えた円筒形の構造体を有するそのような血栓摘出デバイスが記載されている。基本的には公知のステント構造体と同様の円筒形の構造体は、2つの接続ブレースを備え、これらの接続ブレースは、連結部材内で終端し、連結部材を介してプッシャワイヤに接続されている。プッシャワイヤは、処置部位に血栓摘出デバイスを正確に配置することを可能にする。連結部材は、デバイスの近位端に配置されており、この近位端をプッシャワイヤの遠位端に接続する。
【0006】
公知の血栓摘出デバイスには、スリットが配置されており、このスロットは、円筒形で管形の構造体の周面にわたってコイル状または螺旋状に延びている。このような血栓摘出デバイスは、特に、レーザ切断によって管から製造することができるが、例えば交絡されたフィラメントまたはワイヤを介した代替的な製造方法も採用可能である。
【0007】
円筒形の構造体の周面は、スリットの領域で開いたままであり、これにより、円筒形の構造体の直径を、処置部位において存在する直径、つまり血管の管腔にある程度適合させることができる。
【0008】
スリットを備えた円筒形の構造体を位置固定し、かつこの構造体に所定の大きさの張力を加えるために、円筒形の構造体の近位端においてスリットに跨がるようにテンショニングクリップまたはテンショニングブレースが使用されている。これにより、近位端において閉じている、周方向で閉じた全体構造が製造され、さらに円筒形の構造体には、遠位側で螺旋状のスリットが設けられている。テンショニングクリップは、近位領域において円筒形の構造体の半径方向力を高め、さらに、スリットの、対峙して配置された縁部を互いに相対的な所定の位置に維持するために働く。
【0009】
「近位」という用語が、本発明に関連して本明細書において使用される場合、この用語は、デバイスが患者の体内に挿入された場合に、処置を施している人物に向いたデバイスの端部に関するのに対して、「遠位」という用語は、処置を施している人物から離れるほうに向いたデバイスの端部に関する。
【0010】
スリットを備えた公知の血栓摘出デバイスの近位領域は、テンショニングクリップから近位のメッシュのブレースおよび接続ブレースを介して連結部材に向かう、閉じた環構造を形成する。スリットがない場合にも、このような閉じた環構造を近位端においてもたらすことができるが、この場合、スリットに跨がるテンショニングクリップは不要である。環構造は、円筒形の構造体の長手方向軸線に対して傾いているか、または傾斜している。換言すれば、環構造により形成される(近似)平面は、円筒形の構造体の長手方向軸線に対して斜方向に位置し、かつ近位から遠位に向かって延びている。
【0011】
血栓摘出デバイスの最適な機能性を達成するために、いずれの場合にも、環構造が処置部位において十分に広く開き、デバイスの引込み中でさえ収縮しないか、または少なくとも不均衡に収縮しないことが極めて重要である。
【0012】
十分に広く開いた近位端のみが、デバイスによって血栓をうまく除去することを可能にする。このことを達成するために、処置を施している人物が介入中に近位の環構造の三次元の状態を評価することを可能にするデバイスが望ましい。血栓摘出デバイスの挿入中にも血栓摘出デバイスの引込み中にも、このような評価または鑑定は、処置の成功にとって最も重要となる。
【0013】
介入中の評価または鑑定における補助は、X線可視マーカまたはX線不透過性マーカによって提供することができる。この性質のマーカは、医療インプラントおよびデバイスの分野、例えばステントおよびカテーテルバルーンの分野において長く知られている。適切なマーカは、通常、特定の点に施され、例えば、ステントまたはカテーテルの近位端および遠位端、または分岐インプラントの場合には、開窓部のようなステントまたはカテーテルの特定の領域または区域にマーキングする。
【0014】
しかし、公知のマーカは、血栓摘出デバイスの近位の環構造の開放挙動または開放の必要な鑑定のために適していない。なぜならば、公知のマーカは、その主に点状の取付けのために、その環構造の空間的な状態に関する情報を単に不十分にしか提供することができないからである。さらに、公知のマーカは、血栓を除去するために必要な機能性、つまりデバイスの剪断力に悪影響を及ぼしてしまう。
【0015】
しかし、血栓除去の成功において極めて重要であるのは、特に血栓摘出デバイスの近位の区分であるので、介入の各ステップ中に、環構造の開放状態に関して極めて正確な情報を得ることが極めて重要である。実際に、血管からの血栓の除去が成功するかどうかは、デバイス、特に近位の環構造が血管壁に可能な限り最良に接触するという要求に本質的に依存することに留意されたい。なぜならば、このことが、血栓を血管壁から剥がす唯一の方法であるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2012/156069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、X線不透過性マーキングを備えた血栓摘出デバイスであって、X線不透過性マーキングは、処置を施す人物が、介入中にデバイスの機能性を損なうことなしに、特に近位の環構造の三次元の状態を鑑定および評価することを可能にする、血栓摘出デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、本発明によれば、実質的に円筒形の構造体を備えた血栓摘出デバイスであって、円筒形の構造体が、近位端および遠位端を有し、かつ複数のブレースから成る複数のメッシュを備えており、血栓摘出デバイスが、円筒形の構造体の近位端の近位のメッシュに配置され、かつ近位方向に延びる2つの接続ブレースをさらに備え、かつ円筒形の構造体の近位側に配置された連結部材が設けられており、この連結部材に、接続ブレースが接続されており、連結部材が、挿入またはプッシャワイヤに接続されており、近位のメッシュのブレース、接続ブレースおよび連結部材ならびに近位のメッシュ間に配置され得るテンショニングブレースが、閉じた環構造を形成し、環構造が、該環構造の空間的な位置を確認するためのX線不透過性の材料を有する環状マーカを備えている、血栓摘出デバイスによって達成される。
【0019】
本発明によって提案される血栓摘出デバイスは、近位端および遠位端を有する実質的に円筒形の構造体を備え、この円筒形の構造体は、複数のメッシュによって形成されている。円筒形の構造体は、本質的に典型的なステントであるが、血栓摘出デバイスは、異なる目的のために働く。
【0020】
血栓摘出デバイスの実質的に円筒形の構造体は、周面にわたって分配された複数の開口を有しており、これらの開口は、本発明に関してメッシュと呼ばれる。換言すると、基本的な円筒形の構造体の周面に複数の開口またはメッシュが形成されるように、ブレースから構成された格子またはメッシュ構造が形成される。血栓摘出デバイスの別の領域、特に、円筒形の構造体に近位側で隣接する近位の区分は、ブレースにより形成された開口を備えた格子構造を有していてもよく、近位の区分の直径は、通常、近位に向かう方向で減少するので、したがって近位の区分は、円筒形ではない。
【0021】
円筒形の構造体の近位端では、(通常は異なる)メッシュに2つの接続ブレースが配置されている。これらの接続ブレースは、デバイスの位置決めのためにプッシャワイヤが取り付けられている連結部材において終端している。連結部材の領域には、近位マーカが設けられていてよく、遠位マーカは、デバイスの遠位端に配置されていてよい。近位マーカおよび遠位マーカは、以下に述べるように、公知のX線不透過性の材料を含んでいてよい。
【0022】
必要に応じて円筒形の構造体を切り離すことができるように、連結部材に、またはプッシャワイヤの領域に分離点が設けられていてよい。しかし、血栓除去の目的のために、血栓摘出デバイスは、主に血管系から引き抜かれるためのものであるので、分離点は厳密には必要ではなく、むしろ単に、血栓摘出デバイスを引き戻すことができない場合の分離のために働く。分離点は、例えば、円筒形の構造体が挿入/プッシャワイヤから切り離すことを可能にする電解腐食システムであってよい。別の分離方法、例えば、機械的、熱的または化学的な解除機構が、当業者に公知である。
【0023】
任意には、スリットが円筒形の構造体の周面にわたって螺旋状に延びるように配置されていてよい。この場合、テンショニングクリップとも呼ばれ得る1つのテンショニングブレースが、円筒形の構造体の近位端においてスリットに跨がっている。
【0024】
近位のメッシュの少なくとも幾つかのブレース、接続ブレースおよび連結部材は一緒に閉じた環構造を形成する。したがって、環構造は、近位のメッシュの関連するブレース、接続ブレースおよび連結部材によって形成されている。
【0025】
血栓摘出デバイスにスリットが設けられている場合、円筒形の構造体の近位端に設けられたスリットに跨がるテンショニングブレースも環構造の一部を形成する。つまり、テンショニングブレース、近位のメッシュの幾つかのブレース、接続ブレースおよび連結部材が一緒に閉じた環構造を構成する。
【0026】
本発明によって提案されるように、この環構造は、少なくとも1つの環状マーカを備え、この環状マーカは、マーカが介入中に環構造の空間的な位置もしくは空間的な配向を表示することができ、したがってユーザに環構造の開放状態を鑑定することを可能にするように、環構造に配置されている。環構造のマーカは、別の遠位マーカおよび近位マーカと区別するために、以下では「環状マーカ」と呼ぶ。環構造は、典型的には、血管の内腔を通って斜方向に延びているので、環状マーカは、処置を施している医師に長手方向軸線を中心とした血栓摘出デバイスの配向を視覚化することも可能にする。
【0027】
好ましい或る実施形態では、環状マーカが、X線不透過性の材料、例えば金、白金、パラジウム、タンタルまたは貴金属をベースとした適切な組み合わせもしくは白金イリジウムのような可能な合金および組み合わせを含む。この種のX線不透過性の材料は、血栓摘出デバイスの別のマーカのためにも使用することができる。
【0028】
好ましくは、環状マーカはワイヤ状である。環状マーカが、一体的な要素として提供されている、すなわち、環状マーカが連続的なワイヤを備えていることも好ましい。
【0029】
ワイヤ自体は、例えば、編まれ、交絡され、撚り合わされ、または別の方法で接続された複数の個別のストランドを備えていてよい。したがって本発明によれば、ワイヤは撚線設計のワイヤであってよい。本発明の意味の範囲内で、連続的なワイヤから形成された環状マーカは、ワイヤ、もしくは環状マーカがその長さに沿って中断されていないと理解すべきである。
【0030】
ワイヤ状の環状マーカは、好ましくは、環構造を形成するブレースの周囲に巻き付けられている。しかし代替的には、環状マーカは、環構造の一方の側にのみ配置されていてよく、例えば、内側または外側に配置されていてよく、または環状マーカが単に1回転または数回転だけ環構造の周囲に巻き付けられていてよい。
【0031】
環状マーカが、環構造にその全長にわたって巻き付いており、すなわち、例えば連結部材を起点として、もしくは近位マーカを起点として、第1の接続ブレースおよび近位のメッシュのブレースを介して、配置されている場合にはテンショニングブレースに向かって、かつ次いで近位のメッシュのブレースおよび第2の接続ブレースを介して、連結部材または近位マーカにまで戻ると好都合であると考えられる。
【0032】
環状マーカの端部は、好ましくは、近位マーカまたは連結部材に固定されている。
【0033】
代替的な実施形態では、環状マーカの配置は、環構造の単に1つの部分または複数の部分に、例えば、テンショニングブレースおよび/または接続ブレースおよび/または近位のメッシュのブレースに制限されていてもよい。しかし、この場合も同様に、環状マーカは、環構造の展開および配向を適切なイメージング技術を用いた視覚化に基づいて全体として導き出すことができる程度にまで、環構造の輪郭を描くことが望ましい。
【0034】
したがって、環状マーカが、複数の個別の環状マーカ要素から構成されていることも考えられる。
【0035】
ワイヤの形態で提供されていることとは別に、環状マーカおよび環状マーカ要素が、別の形状を有していてもよく、例えば、渦巻状、管状またはスリーブ状の構造であってもよい。
【0036】
別の実施形態では、円筒形の構造体に沿った所定の位置、例えば中央領域に配置されている付加的なマーカが設けられている。これらのマーカも同様に、連続的な設計であってよく、または複数のマーカ要素から構成されていてよく、例えば、ワイヤ状、渦巻状、管状またはスリーブ状に設けられていてよい。
【0037】
ワイヤ状の環状マーカおよび別のマーカの横断面は、好ましくは円形であるが、楕円形または屈曲したワイヤを特徴とする実施形態も考えられる。
【0038】
好ましくは、ワイヤの直径は、0.01mm~0.5mmの範囲であり、ワイヤのエッジ長は、0.01mm~0.5mmである。
【0039】
環状マーカまたは環状マーカ要素および複数のマーカまたはマーカ要素の取付けは、公知の方法によって、特に(例えばレーザによる)溶接、圧着、クランプまたは接着/結合によって行われる。
【0040】
上述のマーカに対して付加的に、本発明の別の或る実施形態において、円筒形の構造体の少なくとも一部、すなわち、例えば近位領域、遠位領域または中央領域に、X線不透過性の材料をコーティングすることによって、付加的なマーキングを設けることが考えられる。適切なコーティング材料は、別のマーカにとって適切であると前述した材料、合金および組み合わせと実質的に同一である。例えば、金コーティングが施与され得る。
【0041】
本発明に係る血栓摘出デバイスは、様々な方法で実施され得る。近位の環構造に沿って環状マーカを配置する、本発明の根底にある思想は、類似のデバイスに容易に転用可能である。
【0042】
テンショニングブレースは、後から円筒形の構造体に取り付けられてよいが、このテンショニングブレースが、構造体自体の一部を形成してもよく、例えば、構造体と一緒に管から切断されてもよい。
【0043】
テンショニングブレースの形態の近位のクリップは、近位領域における円筒形の構造体の半径方向力特性を改善する。特に、このクリップを設けることにより、円筒形の構造体の細りが減じられるだけでなく、デバイスがカテーテル内に引き込まれる場合に生じる引張応力も減じられる。同時に、付加的な剥取り効果が、円筒形の構造体のメッシュおよび縁部により達成されるのと同様に引き起こされる。
【0044】
しかし、特に重要であるのは、近位区域における、円筒形の構造体が血管腔に最適に適合することを可能にする展開力が改善されることである。同時に、この構成は、スリットにより分離された円筒形の構造体の領域が互いにずれることを阻止する。
【0045】
円筒形の構造体をカテーテル内に容易に引き込むことを可能にするために、テンショニングブレースのアーチ形の湾曲部は、その頂点が円筒形の構造体の遠位端を指すように形成されている。つまり、テンショニングブレースの湾曲した部分は、遠位に向かって閉じられており、これに対して近位に向かっては接続ブレースおよび近位のメッシュのブレースと一緒に、連結部材内で終端する環構造を形成する。
【0046】
代替的には、テンショニングブレースは、円筒形の構造体に設けられたスリットに、波状の態様で、例えば、テンショニングブレースがスリットの一方の側から他方の側へとメッシュ構造の縁部の配置構造をなぞるように、跨がっている。本発明の或るバリエーションによれば、本発明の円筒形の構造体は、捕捉バスケットが使用されている場合のように血栓材料を内部に収集することを目的としたメッシュ構造により、遠位端において閉塞されていてよい。
【0047】
円筒形の構造体のメッシュ構造は、編まれていてよく、すなわち、個別のワイヤまたはワイヤストランドから構成されてよいが、好ましくは切り出された構造体であってよく、この切り出された構造体のために、適切な直径の管が使用され、この管からレーザによりメッシュ構造が切り出される。材料は通常、金属であるが、プラスチック材料も採用され得る。材料の弾性は、慣用のカテーテルの直径に適した収縮を可能にするために十分でなければならず、さらに、カテーテルからの解放時に所望のかつ予め規定された直径への拡張を引き起こさなければならない。さらに、電解研磨によって格子構造を処理して、格子構造をより滑らかで丸みのあるものにし、したがって格子構造をより外傷性の少ないものにすることが好都合であると考えられる。これは、細菌または別の不純物が構造体に付着するリスクも減じる。ストラットまたはワイヤは、円形、楕円形、正方形、方形または台形の横断面を有してよく、正方形、方形または台形の横断面の縁部は、有利には、丸み付けされている。薄いストリップ、特に金属ストリップの形態の薄いブレース/ワイヤが採用されてもよい。
【0048】
鉄合金(ステンレス鋼、ばね鋼)およびコバルト-クロム合金の他に、特に形状記憶合金、例えば二元系のニッケル・チタン合金(ニチノール)および三元系のニッケル・チタン・クロム合金(クロムドープ合金)がブレースの材料として使用するために適している。特に、ニチノールは、神経血管分野における自己拡張構造体における適用のために知られている。
【0049】
近位のテンショニングブレースに加えて、適切な血栓摘出デバイスには、中央領域および遠位領域に別のテンショニングクリップが設けられていてよい。しかし、十分な形状回復効果を示すことができる形状記憶材料を使用する場合、テンショニングクリップを全て省略することもできる。
【0050】
血栓摘出デバイスは、カテーテルを用いて使用部位にもたらされ、かつ血栓自体内で、血栓に隣接して、または血栓に対して遠位で解放されるように使用される。デバイスは、血管内で拡張し、血管内腔に適合する。デバイスが拡開されるとすぐに、またはデバイスが引き込まれると、血栓材料がメッシュ構造内に絡み取られ、デバイスが引き込まれるときにカテーテル内に運ばれる。血管の壁にまだ付着している凝血塊の破片は、メッシュの剪断作用により、スリットの縁部に沿って除去され、運び去られる。凝血塊はカテーテル内に引き込まれ、カテーテルが除去されるときに身体から摘出される。
【0051】
別のカテーテル、特に吸引カテーテルを用いることにより、血栓の付加的に分解された粒子を吸引することができ、これらの粒子によって引き起こされ得る別の塞栓症のリスクを最小限に抑えることができる。
【0052】
凝血塊の摘出中に、周面を横切るスリットの螺旋状の配置構造は、円筒形の構造体の、スリットに沿った縁部が、後退中に血管壁の周囲に沿って接線方向に移動するという特別な利点を提供する。このことは、剪断効果を改善する。さらに、スリットの螺旋状またはコイル状の配置構造は、デバイスが蛇行した血管パターンに、より良好に適合し得る程度にまで曲げ剛性を改善(低減)し、このことは、デバイスの位置決めおよび複雑な血管構造からの凝血塊の摘出の両方を容易にする。
【0053】
本明細書で前述したように、本発明の円筒形の構造体は、好ましくは、レーザを用いて円筒形の管から切り出される。この方法を用いれば、個別のメッシュに特別な断面、例えば正方形、方形または台形の断面を提供することができる。方形および台形の形状の場合、断面の小さい側/短い側が外周側に配置されていても、長い側が外周側に配置されていてもよい。しかし、方形、特に台形の狭幅側が血管壁に面していると好ましく、このことは、血栓をメッシュ構造内により容易に進入させ、円筒形の構造体が拡張した場合に凝血塊を効率的に移動させることを可能にする。
【0054】
円筒形の構造体の近位端に配置された接続ブレースは、スリットに隣接する近位のメッシュから連結部材にまで延びており、この連結部材において結合されている。接続ブレースは、円筒形の構造体の一部を形成し、そのために、通常、同一の材料から構成されている。
【0055】
本発明は、添付の図面により例示的にさらに説明される。図面は、本発明の好適な実施形態のバリエーションを示しているが、本発明自体は、このバリエーションに限定されないことに留意されたい。技術的に有意である限り、本発明は、特に、特許請求の範囲または明細書において本発明に関連するものとして述べられた技術的特徴の任意の組み合わせも含む。本発明は、以下の図面によって明確にされる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】公知の円筒形の構造体を示す三次元図である。
図2】本発明によるデバイスの好ましい実施形態を示す三次元図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、好ましくは異なって設計されたメッシュ3,4と接続ブレース5および5’とを備えた公知の円筒形の構造体1の或るバリエーションの三次元図を示している。メッシュ3,4は、構造体全体に安定性および可撓性を与える。
【0058】
円筒形の構造体1を通ってスリット7が延びており、当該スリットには、円筒形の構造体1の近位端に設けられたテンショニングブレース9が跨がっている。スリット7は、メッシュ構造の縁部10および10’によって画定されている。スリット7は、好ましくは、円筒形の構造体1の長手方向軸線に対して斜めに延びており、このことは、三次元図において、周面に沿った螺旋状の延在部として図示されている。
【0059】
円筒形の構造体1の背面側に配置された円筒形の構造体1のブレースは、より明るい色で示されている。円筒形の構造体1の近位端にスリット7が配置されており、このスリット7が、テンショニングクリップ9の下を通って延びていて、円筒形の構造体1の周面を巡って右側に向かう螺旋状に延びていることを確認することができる。スリット7は、遠位側では円筒形の構造体1の下面で終端しており、したがって、約180°の回転/巻付きを有している。
【0060】
接続ブレース5,5’は、単独の連結部材11内で結合されており、この連結部材11を介して、図1では単に示唆されているに過ぎないプッシャワイヤへの接続が行われる。
【0061】
近位マーカ13が、連結部材11の領域に設けられていて、円筒形の構造体1の近位端を示している。
【0062】
スリット7には、テンショニングブレース9が跨がっている。テンショニングブレース9は、メッシュ構造の縁部10,10’に配置されているメッシュ3に取り付けられており、このテンショニングブレース9の円弧は、円筒形の構造体1の遠位側を指している。このことは、カテーテル内に円筒形の構造体1を容易に引き込むことを可能にする。
【0063】
好ましい或る実施形態では、テンショニングブレース9は、メッシュ構造の側面または縁部10の形状を、その波状の形状でなぞることができ、この形状を、反対側に配置された縁部10’まで継続する。しかし、代替的には、テンショニングブレース9が、単純なアーチ状の形状、すなわち波状でない形状をとることもできる。
【0064】
接続ブレース5,5’は、隣接するメッシュ縁部およびテンショニングブレース9と一緒に、捕捉バスケットの開口に類似した一種のループを形成し、このループは、カテーテル内への血栓摘出デバイスの引込みを容易にし、さらに、血管壁に付着した凝血塊または凝血塊の残存物を剪断除去するために適している。
【0065】
連結部材11と一緒に、接続ブレース5,5’、接続ブレース5,5’に隣接するメッシュ縁部およびテンショニングブレース9が、環構造を形成する。
【0066】
円筒形の構造体の遠位端は、付加的に、メッシュ構造によって閉鎖されていてもよい。
【0067】
図2は、本発明によって提案されたデバイスを示しており、環状マーカ12が、近位の環構造6に沿って設けられている。図示のような好ましい実施形態では、環状マーカ12は、ワイヤ状のX線不透過性の材料を有しており、このX線不透過性の材料は、環構造6の全周にわたってループ状に巻き付けられている。好ましくは、ワイヤ状の環状マーカ12は、一体的な要素として提供されており、したがって、単独の連続的なワイヤのみを備えている。ワイヤ自体は、例えば、互いに編まれた、交絡された、互いに撚り合わされた、または別の形式で接続された複数の個別のストランドを備えていてよい。したがって、本発明によれば、連続したワイヤから成るワイヤ状の環状マーカ12は、その長さに沿って中断しない、すなわち、単独の一体的な要素として提供される環状マーカ12である。
【0068】
環状マーカ12の端部は、近位マーカ13内に、または近位マーカ13上に固定されている。
【0069】
付加的な近位マーカ13および遠位マーカ2が設けられていてよい。
【0070】
図面において、同一の参照符号は、同一の対象物を指すことを意味する。
【符号の説明】
【0071】
1 円筒形の構造体
2 遠位マーカ
3,4 メッシュ
5,5’ 接続ブレース
6 環構造
7 スリット
9 テンショニングブレース
10 メッシュ縁部
11 連結部材
12 環状マーカ
13 近位マーカ
d 遠位
p 近位
図1
図2
【国際調査報告】