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特表2024-503403リチウム二次電池の遷移金属の回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の遷移金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240118BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240118BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B47/00
C22B3/06
C22B3/26
C22B3/08
H01M10/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541907
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 KR2021019931
(87)【国際公開番号】W WO2022154316
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0006160
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】イ ヒョン フィ
(72)【発明者】
【氏名】ユン クム ジュン
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA11
4K001DB03
4K001DB26
4K001DB30
4K001DB31
4K001HA10
4K001HA12
5H031RR02
(57)【要約】
本発明のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法は、リチウム二次電池の正極から正極活物質を準備するステップと、正極活物質を、正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を含む第1酸性溶液で処理して第1浸出液を生成するステップと、正極活物質中の前記第1浸出液に含まれる分画を除いた残余正極活物質を、還元剤を含む第2酸性溶液で処理して第2浸出液を生成するステップとを含む。これにより、マンガン抽出率およびコバルト純度を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極から正極活物質を準備するステップと、
前記正極活物質を、前記正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を含む第1酸性溶液で処理して第1浸出液を生成するステップと、
前記正極活物質中の前記第1浸出液に含まれる分画を除いた残余正極活物質を、還元剤を含む第2酸性溶液で処理して第2浸出液を生成するステップとを含む、リチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項2】
前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有するリチウム遷移金属酸化物を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項3】
前記第1浸出液を生成するステップで使用される前記還元剤の量は、前記リチウム遷移金属酸化物の反応当量に相当する量の0.2~0.4倍である、請求項2に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項4】
前記還元剤の前記リチウム遷移金属酸化物に対する反応当量は、前記リチウム遷移金属酸化物1モルに対して0.5モルである、請求項3に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項5】
前記還元剤は過酸化水素である、請求項4に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項6】
前記第2浸出液を生成するステップで使用される前記還元剤の量は、前記残余正極活物質の反応当量に相当する量の0.8~1.2倍である、請求項3に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項7】
前記第1浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるコバルトおよびニッケルの含有量は75~100重量%であり、
前記第2浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるマンガンの含有量は30~75重量%である、請求項2に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項8】
前記第1浸出液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含む、請求項7に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項9】
前記第2浸出液から順次にマンガン、コバルト、およびニッケルを抽出するステップをさらに含む、請求項7に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項10】
前記正極活物質の重量に対する前記残余正極活物質の重量比は25~50重量%である、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項11】
前記第1酸性溶液および前記第2酸性溶液は硫酸を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の遷移金属の回収方法に関し、より詳しくは、リチウム二次電池の正極から遷移金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えばパウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記正極活物質としてのリチウム金属酸化物は、リチウム前駆体と、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有するニッケル-コバルト-マンガン(NCM)前駆体とを反応させて製造することができる。
【0006】
前記正極活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に多大なコストがかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極活物質のリサイクル方法の研究が進められている。前記正極活物質のリサイクルのためには、正極から前記遷移金属前駆体を高効率、高純度で再生する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高効率かつ高純度でリチウム二次電池の遷移金属を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法は、リチウム二次電池の正極から正極活物質を準備するステップと、前記正極活物質を、前記正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を含む第1酸性溶液で処理して第1浸出液を生成するステップと、前記正極活物質中の前記第1浸出液に含まれる分画を除いた残余正極活物質を、還元剤を含む第2酸性溶液で処理して第2浸出液を生成するステップとを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含有するリチウム遷移金属酸化物を含むことができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記第1浸出液を生成するステップで使用される前記還元剤の量は、前記リチウム遷移金属酸化物の反応当量に相当する量の0.2~0.4倍であってもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記還元剤の前記リチウム遷移金属酸化物に対する反応当量は、前記リチウム遷移金属酸化物1モルに対して0.5モルであってもよい。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記還元剤は過酸化水素であってもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記第2浸出液を生成するステップで使用される前記還元剤の量は、前記残余正極活物質の反応当量に相当する量の0.8~1.2倍であってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記第1浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるコバルトおよびニッケルの含有量は75~100重量%であり、前記第2浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるマンガンの含有量は30~75重量%であってもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記第1浸出液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記第2浸出液から順次にマンガン、コバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質の重量に対する前記残余正極活物質の重量比は、25~50重量%であってもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記第1酸性溶液および前記第2酸性溶液は硫酸を含むことができる。
【発明の効果】
【0019】
前述の例示的な実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法では、相対的に少量の還元剤を投入して、コバルトおよびニッケルリッチ溶液である第1浸出液を準備し、第1浸出液の準備後、残った残余正極活物質に相対的に多量の還元剤を投入して、マンガンリッチ溶液である第2浸出液を準備することができる。この場合には、第1浸出液を直ちにコバルトおよびニッケル抽出工程に投入して高純度でコバルトを回収することができ、第2浸出液をマンガン抽出工程に投入して高いマンガン抽出率を実現することができる。これにより、リチウム二次電池の遷移金属の回収効率を向上させることができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質の重量に対して残余正極活物質の重量比を相対的に減少させることができる。これにより、マンガン抽出ステップの原料である第2浸出液の量が相対的に減少し、マンガン抽出率およびマンガン抽出効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
図2図2は、投入される還元剤の比率による各遷移金属の浸出率を示す概略的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態は、2段階の遷移金属浸出を含むリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を提供する。
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0024】
別に定義しない限り、技術的または科学的な用語を含めてここで用いられる全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同一の意味を有する。一般的に用いられる辞書に定義されているような用語は、関連技術の文脈上有する意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本出願で明らかに定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0025】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0026】
図1を参照すると、リチウム二次電池の正極から正極活物質を準備することができる(例えば、ステップS10)。
【0027】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0028】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は下記化学式1で表される組成を有する化合物を含むことができる。
【0030】
[化学式1]
LiNi1-y2+z
【0031】
化学式1中、xは0.9≦x≦1.2、yは0≦y≦0.7、zは-0.1≦z≦0.1、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、SnまたはZrから選択される1種以上の元素であってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0033】
前記リチウム二次電池から前記正極を分離して正極を回収することができる。前記正極は、例えば、使用済みの廃リチウム二次電池、または製造過程で損傷または不良が発生した正極であってもよい。
【0034】
例えば、前記正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述の正極活物質と共に、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0035】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0036】
例示的な実施形態では、回収された前記正極を粉砕して正極活物質を収集することができる。これにより、前記正極活物質は、粉末状に収集することができる。前記正極活物質は、前述のようにリチウム遷移金属酸化物の粉末を含み、例えば、NCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O)を含むことができる。
【0037】
例示的な実施形態では、前記正極活物質は、前記NCM系リチウム酸化物のような正極活物質粒子を含むことができる。例えば、前記正極活物質は、前記正極活物質粒子で実質的に構成されてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、後述する還元浸出工程に投入する前に熱処理を行うことができる。例えば、前記熱処理により、前記正極活物質層に含まれる前記導電材および結合剤のような不純物を少なくとも部分的に除去することができる。これにより、高純度の正極活物質(例えば、リチウム遷移金属酸化物粒子)を還元浸出工程に投入することができる。
【0039】
前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃、好ましくは約350~450℃であってもよい。前記範囲内では、実質的に前記不純物が除去され、正極活物質の分解、損傷を防止することができる。
【0040】
例示的な実施形態では、準備された正極活物質を、正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を含む第1酸性溶液で処理することにより、第1浸出液を生成することができる(例えば、ステップS20)。
【0041】
例えば、正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を投入することにより、第1浸出液に相対的に少ない量のマンガンを浸出させることができる。これにより、第1浸出液のコバルト抽出ステップにおけるコバルト純度を増加させることができ、後述する第2浸出液のマンガン抽出率を増加させることができる。
【0042】
例えば、本明細書で使用される表現「正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤」とは、正極活物質の反応当量に相当するモル数よりも少ないモル数の還元剤、または正極活物質の反応当量に相当する重量よりも少ない重量の還元剤を意味し得る。
【0043】
例えば、前記「正極活物質の反応当量に相当する量」とは、正極活物質を実質的に全て還元するのに必要な還元剤の量を意味し得る。
【0044】
例えば、前記還元剤は、過酸化水素(H)、SO、NaS、NaHS、Na、NaHSO、Na、KHSO、KSO、FeSO、HS、グルコース(glucose)、スクロース(sucrose)およびアスコルビン酸(Ascorbic acid)の少なくとも1つを含むことができる。好ましくは、前記還元剤は過酸化水素であってもよい。前記種類の還元剤を用いると、例えば、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属酸化物の還元を容易に実現することができる。
【0045】
前記第1酸性溶液は酸溶媒であってもよく、例えば、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、シュウ酸(oxalic acid)およびクエン酸(citric acid)の少なくとも1つを含むことができる。好ましくは、前記第1酸性溶液は、硫酸を含むことができる。前記種類の酸性溶液を酸溶媒として使用すると、例えば、前記リチウム遷移金属酸化物をリチウム前駆体および遷移金属前駆体として容易に浸出させることができる。
【0046】
例えば、前記還元剤が過酸化水素であり、第1酸性溶液が硫酸である場合、前述の浸出は、例えば下記反応式1で表される反応によって行うことができる。
【0047】
[反応式1]
2Li(NCM)O+H+3HSO→LiSO+2(NCM)SO+4HO+O
【0048】
したがって、還元剤のリチウム遷移金属酸化物に対する反応当量は、リチウム遷移金属酸化物1モルに対して0.5モルであってもよい。
【0049】
図2は、投入される還元剤の比率による各遷移金属の浸出率を示す概略的なグラフである。具体的には、図2は、正極活物質の反応当量に対する、投入される過酸化水素の比率による遷移金属の浸出率を概略的に示すグラフである。
【0050】
図2に示すように、正極活物質の反応当量に対して投入される過酸化水素の比率が低い区間(例えば、0.4以下)では、非常に低いマンガン浸出率と、高いニッケル及びコバルト浸出率を共に実現することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、第1浸出液を生成するステップで使用される前記還元剤の量は、前記リチウム遷移金属酸化物の反応当量に相当する量の0.2~0.4倍であってもよい。この場合、図2に示すように、マンガンの浸出率が非常に低く、ニッケル及びコバルトの浸出率が高いので、第1浸出液におけるニッケル及びコバルトの含有量は増加させ、マンガンの含有量は顕著に減少させることができる。これにより、後述するように、第1浸出液は、マンガン抽出ステップを経ずに直ちにコバルト抽出ステップに投入することができる。
【0052】
図1に示すように、第1浸出液に含まれる分画を除いた残余正極活物質を、還元剤を含む第2酸性溶液で処理することにより、第2浸出液を生成することができる(例えば、ステップS30)。
【0053】
例えば、前記「残余正極活物質」とは、正極活物質から第1浸出液を分離して残った物質を意味し得る。例えば、残余正極活物質は、前述の正極活物質と実質的に同一の元素で構成してもよく、正極活物質とは異なる組成を有してもよい。例えば、残余正極活物質は、正極活物質よりもマンガン含有量が多く、コバルトおよびニッケル含有量が少なくてもよい。
【0054】
例示的な実施形態では、第2浸出液を生成するステップで使用される還元剤の量は、残余正極活物質の反応当量に相当する量の0.8~1.2倍の量で投入することができ、好ましくは0.9~1.1倍の量で投入することができる。
【0055】
例えば、第2浸出液を生成するステップでは、残余正極活物質の反応当量に相当する量を投入することができる。この場合、用語「反応当量」は、反応に必要な正確な当量のみならず、工程誤差を考慮した値を含むことができる。
【0056】
例えば、第2浸出液を生成するステップに投入される還元剤の種類および第2酸性溶液の種類は、第1浸出液を生成するステップに投入される還元剤の種類および第1酸性溶液の種類と実質的に同一であってもよい。
【0057】
この場合には、図2に示すように、高いマンガン浸出率により、第2浸出液に含まれるマンガンの含有量を増加させることができる。例えば、多量のコバルトおよびニッケルが第1浸出液に分離されたため、第2浸出液は、マンガン含有量が多く、コバルトおよびニッケル含有量が少なくなり得る。これにより、第2浸出液は、マンガン抽出ステップにおいて、高いマンガン抽出率およびマンガン抽出効率を確保することができる。
【0058】
前述のように、第1浸出液は、ニッケルおよびコバルトの含有量がマンガンの含有量よりも多く、第2浸出液は、マンガンの含有量がニッケルおよびコバルトの含有量よりも多くてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、第1浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるコバルトおよびニッケルの含有量は75~100重量%であり、第2浸出液に含まれる遷移金属の全重量におけるマンガンの含有量は30~75重量%であってもよい。前記金属は、マンガン、コバルト、ニッケル及び/又はリチウムを含むことができる。
【0060】
この場合、第1浸出液はコバルトおよびニッケルリッチ(Co/Ni rich)溶液であり、第2浸出液はマンガンリッチ(Mn rich)溶液であってもよい。これにより、後述するように、第1浸出液は、直ちにコバルトおよびニッケル抽出ステップに投入して高純度のコバルトを抽出することができ、第2浸出液は、マンガン抽出ステップに投入してマンガン抽出率および抽出効率を増加させることができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質に含まれる遷移金属の含有量比によって還元剤が異なるように投入することができる。例えば、正極活物質のNCM含有量比は、Ni:Co:Mnが40:30:30、60:20:20、または80:10:10から選択されるいずれかであってもよい。
【0062】
例えば、前記Ni含有量が増加するほど還元剤の投入量を増加させることができる。これにより、正極活物質の遷移金属組成比によって還元剤の投入量を流動的に変更し、最適な浸出条件で遷移金属を浸出させることができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質の重量に対する残余正極活物質の重量比は、25~50重量%であってもよい。この場合、マンガン抽出ステップに投入される溶液(例えば、第2浸出液)の重量を低減することができる。これにより、マンガン抽出効率が増加し、抽出されるマンガンの純度を向上させることができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、前述の第1浸出液および第2浸出液から遷移金属を回収することができる(例えば、ステップS40)。
【0065】
例えば、正極活物質を、正極活物質の反応当量に相当する量の還元剤を含む酸性溶液で処理して単一の浸出液を準備し、それをマンガン抽出ステップに直ちに投入することができる。しかし、この場合には、単一の浸出液中のマンガンおよびコバルトの含有量が両方とも高く、マンガン抽出時にコバルトまたはニッケルが共に抽出されることがある。そのため、マンガン抽出率およびコバルト純度が低下することがある。
【0066】
いくつかの実施形態によると、第1浸出液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含むことができる。
【0067】
第1浸出液は、例えばコバルト抽出工程(例えば、ステップS43)に投入し、コバルト抽出後にニッケル抽出工程(例えば、ステップS45)に投入することができる。これにより、コバルトおよびニッケルリッチ溶液である第1浸出液から高純度のコバルトおよびニッケルを抽出することができる。例えば、前述のコバルト抽出およびニッケル抽出は連続して行うことができる。
【0068】
いくつかの実施形態によると、第2浸出液から順次にマンガン、コバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含むことができる。
【0069】
第2浸出液は、例えば、マンガン抽出工程(例えば、ステップS41)に投入し、その後、コバルト抽出工程(例えば、ステップS43)およびニッケル抽出工程(例えば、ステップS45)に順次に投入することができる。これにより、マンガンリッチ溶液である第2浸出液から高いマンガン抽出率でマンガンを回収することができる。例えば、前述のマンガン抽出、コバルト抽出およびニッケル抽出は連続して行うことができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、前述の遷移金属の回収ステップには、第1浸出液からマンガンを抽出するステップが含まれなくてもよい。第1浸出液のマンガン含有量が非常に少なくても、または実質的になくてもよく、第1浸出液を直ちにコバルト抽出工程に投入して、工程効率を高めながら高純度のコバルトを抽出することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記マンガン抽出、コバルト抽出およびニッケル抽出ステップで使用される抽出剤は、リン酸系抽出剤、ホスフェート系抽出剤、ホスフィンオキシド系抽出剤およびカルボン酸系抽出剤の少なくとも1つを含むことができる。
【0072】
例えば、前記抽出剤は、ジ-2-エチルヘキシルリン酸(Di-2-ethylhexyl phosphoric acid、D2EHPA)、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(Bis(2,4,4-trimethylpentyl)phosphinic acid、Cyanex 272)、2-エチルヘキシルリン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル(2-Ethylhexyl phosphoric acid mono-2-ethylhexyl ester、PC88A)、トリブチルホスフェート(Tributyl phosphate)、トリオクチルホスフィンオキシド(Trioctyl phosphine oxide)およびアルキルモノカルボン酸(alkyl monocarboxylic acid)の少なくとも1つを含むことができる。
【0073】
いくつかの実施形態によると、前述の抽出剤を有機溶媒希釈剤に希釈することができる。例えば、前記有機溶媒は、ケロシン(kerosene)、ヘキサン(hexane)、ベンゼン(benzene)およびトルエン(toluene)の少なくとも1つを含むことができる。例えば、希釈剤中の抽出剤のモル比は0.4~0.7であってもよい。
【0074】
例えば、前記希釈した抽出剤を塩基性化合物(例えば、NaOH)と反応させてケン化することができる。この場合、酸性抽出剤のH基がNa基で置換され、遷移金属抽出時の抽出対象溶液のpH低下を防止することができる。
【0075】
例えば、前記ケン化された抽出剤を抽出対象溶液(例えば、第1浸出液または第2浸出液)と有機相/水相の比が1~5となるように混合して遷移金属を抽出することができる。例えば、抽出対象溶液の遷移金属含有量が増加するにつれて、有機相/水相の比を増加させることができる。これにより、遷移金属の含有量による最適な有機相/水相の比を採用し、優れた遷移金属抽出率を実現することができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、マンガン抽出工程ではD2EHPAを抽出剤として使用することができ、コバルト抽出工程ではCyanex 272を抽出剤として使用することができる。また、ニッケル抽出工程では、D2EHPAまたはPC88Aを抽出剤として使用することができる。
【0077】
例えば、前述の遷移金属を回収するステップは、連続多段抽出工程により行うことができる。この場合、複数の抽出段を経ることにより、有機相中の抽出対象金属の比率が高くなり、最終的には遷移金属の回収率を向上させることができる。
【0078】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0079】
実施例1
廃リチウム二次電池から分離された1kgの正極材を450℃で1時間熱処理した。熱処理した前記正極材を小単位に切断し、ミリングにより粉砕処理して、Li-Ni-Co-Mn酸化物正極活物質の試料を採取した(ステップS10)。
【0080】
前記正極活物質試料0.1kgおよび正極活物質の反応当量に相当する量の0.4倍の過酸化水素を35%過酸化水素溶液に調製して3Mの硫酸溶媒0.6kgに投入し、80℃、1atmの条件下で6時間反応させた。反応後、残った残余正極活物質と溶液を分離して、第1浸出液および残余正極活物質を生成した(ステップS20)。
【0081】
前記残余正極活物質および残余正極活物質の反応当量に相当する量の1.0倍の過酸化水素を35%過酸化水素溶液に調製して3M硫酸溶媒に投入し、6時間反応させた。反応後、生成した溶液を分離して第2浸出液を生成した(ステップS30)。
【0082】
生成した第1浸出液をコバルト抽出工程に投入してコバルトを回収し、連続してニッケル抽出工程に投入してニッケルを回収した。また、第2浸出液をマンガン抽出工程に投入してマンガンを回収し、連続してコバルト抽出工程およびニッケル抽出工程に投入してコバルトおよびニッケルを回収した(ステップS40)。
【0083】
前記マンガン抽出工程では、抽出剤として50%ケン化1M D2EHPA溶液を使用した。具体的には、ケロシンにD2EHPAを希釈して1M D2EHPA溶液を調製し、前記希釈した1M D2EHPA溶液にD2EHPAのモル数の50%に相当するモル数だけNaOHを投入してケン化過程を行い、前記50%ケン化1M D2EHPA溶液を得た。得られた50%ケン化1M D2EHPA(有機相)と第2浸出液(水相)を有機相/水相の比が4.5となるように混合し、マンガンを抽出した。
【0084】
また、前記コバルト抽出工程では、抽出剤として40%ケン化0.8M Cyanex 272を使用した。前記40%ケン化0.8M Cyanex 272(有機相)と第2浸出液(水相)を有機相/水相の比が2.0となるように混合し、コバルトを抽出した。
【0085】
さらに、ニッケル抽出工程では、抽出剤として60%ケン化1M PC88Aを使用した。前記60%ケン化1M PC88A(有機相)と第2浸出液(水相)を有機相/水相の比が3.5となるように混合し、ニッケルを抽出した。
【0086】
実施例2
第1浸出液生成ステップにおいて、正極活物質の反応当量に相当する量の0.28倍の還元剤を投入したこと、及び50%ケン化1M D2EHPA(有機相)と第2浸出液(水相)を有機相/水相の比が3.7となるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属を回収した。
【0087】
実施例3
第1浸出液生成ステップにおいて、正極活物質の反応当量に相当する量の0.5倍の還元剤を投入した以外は、実施例1と同様にして遷移金属を回収した。
【0088】
実施例4
第1浸出液生成ステップにおいて、正極活物質の反応当量に相当する量の0.1倍の還元剤を投入した以外は、実施例1と同様にして遷移金属を回収した。
【0089】
比較例
正極活物質試料、および正極活物質の反応当量に相当する量の1.0倍の還元剤を硫酸溶媒に投入して浸出液を得ること、残余正極活物質に対して別の浸出工程を行わないこと、得られた浸出液をマンガン抽出工程、コバルト抽出工程およびニッケル抽出工程に連続して投入してマンガン、コバルトおよびニッケルを回収したこと以外は、実施例1と同様にして遷移金属を回収した。
【0090】
前記実施例および比較例の第1浸出液準備ステップにおける過酸化水素の当量比、残余正極活物質率および組成を下記表1に示す。ただし、比較例の場合は、単一の浸出液を基準として示す。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示すように、実施例1~3は、第1浸出液生成ステップに投入される過酸化水素の量が、正極活物質の反応当量に相当する量の0.5倍以下であるので、第1浸出液準備ステップで投入される過酸化水素のモル数は、全投入モル数の50%以下である。ここで、残りの過酸化水素は、第2浸出液生成ステップに投入されるので、第1浸出液生成ステップで投入される過酸化水素のモル数は、第2浸出液生成ステップで投入される過酸化水素のモル数以下である。
【0093】
この場合、第1浸出液には少量のマンガンだけが浸出し、ほとんどのマンガンは第2浸出液に浸出した。
【0094】
ただし、第1浸出液生成ステップに投入される過酸化水素の量が、正極活物質の反応当量に相当する量の0.4倍を超える実施例3では、実施例1、2に比べて相対的に多い量のマンガンが第1浸出液に浸出した。
【0095】
また、第1浸出液生成ステップに投入される過酸化水素の量が、正極活物質の反応当量に相当する量の0.2倍未満である実施例4では、実施例1、2に比べて相対的に多い量のコバルト及びニッケルが第2浸出液に浸出した。
【0096】
実験例
(1)第2浸出液からの各遷移金属の抽出率の測定
第2浸出液のマンガン、コバルト、ニッケル及びリチウムの重量、並びに第2浸出液から抽出されたマンガン、コバルト、ニッケル及びリチウムの重量を測定し、正極活物質の遷移金属の重量に対する、抽出されたマンガンの重量を、各金属別に重量%として算出した。
ただし、比較例の場合には、単一の浸出液から各遷移金属の抽出率を測定した。
【0097】
(2)第1浸出液から抽出されたコバルトの純度
前述の実施例および比較例では、有機相に抽出された遷移金属中のコバルトの重量比をICP-OESにより測定し、コバルトの純度を算出した。
測定結果を下記表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示すように、第1浸出液生成ステップにおいて、前記正極活物質の反応当量に相当する量よりも少ない量の還元剤を投入した実施例では、最初から反応当量に相当する量の還元剤を投入して単一の浸出液を準備した比較例に比べて、相対的に高いマンガン抽出率および高いコバルト純度を確保した。
【0100】
ただし、第1浸出液生成ステップにおいて、前記正極活物質の反応当量に相当する量の0.4倍を超える実施例3では、実施例1、2に比べて相対的に多い量のマンガンが第1浸出液に浸出した。これにより、第2浸出液には相対的に多い量のコバルトが浸出した。これにより、第2浸出液中のコバルトの純度は実施例1、2と比較して相対的に低下した。
【0101】
また、第1浸出液生成ステップにおいて、前記正極活物質の反応当量に相当する量の0.2倍未満である実施例4では、実施例1、2に比べて、相対的に少ない量のコバルト及びニッケルが第1浸出液から浸出するので、第2浸出液中のコバルトおよびニッケル含有量が増加し、マンガン抽出率が実施例1、2に比べて低下した。
【0102】
正極活物質試料に直ちに第1浸出液生成ステップで前記正極活物質の反応当量に相当する量を全て投入し、別の残余正極活物質浸出ステップを経ていない比較例では、マンガン抽出率およびコバルト純度が実施例よりも顕著に低下した。
図1
図2
【国際調査報告】