(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】MRマンモグラフィ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023541911
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022050504
(87)【国際公開番号】W WO2022152730
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ベック ガブリエル
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA04
4C096AA07
4C096AC04
4C096BA07
4C096DC33
(57)【要約】
本発明は、対象物、すなわち女性の乳房の少なくとも一部のMR撮像方法に関する。本発明の方法は、(a)RF励起パルス及びスイッチングされる磁場勾配を含む撮像シーケンスを対象物10に施すステップであって、各RF励起パルス後に異なるエコー時間TE1、TE2、TE3で複数のエコー信号が生成される、施すステップと、(b)所与のk空間領域を網羅する1セットの放射状又はらせん状のk空間軌道に沿ってエコー信号を取得するステップであって、RF励起パルス後に生成されるエコー信号のそれぞれに、k空間における放射状又はらせん状の軌道の異なる方向が割り当てられる、取得するステップと、(c)取得されたエコー信号から、各エコー時間TE1、TE2、TE3についてシングル・エコー画像を再構成するステップと、(d)深層学習アルゴリズムを用いて、シングル・エコー画像から高解像度の水、脂肪、B0、及び/又は見かけの横緩和時間T2*のマップを導出するステップと、(d)水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから高解像度マンモグラフィ画像を合成するステップとを有する。さらに、本発明は、MR装置1、及びMR装置1のためのコンピュータ・プログラムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR装置の検査ボリューム内に配置された対象物のMR撮像の方法であって、前記方法が、
(a)RF励起パルス及びスイッチングされる磁場勾配を含む撮像シーケンスを対象物に施すステップであって、各RF励起パルス後に異なるエコー時間で複数のエコー信号が生成される、施すステップと、
(b)所与のk空間領域を網羅する1セットの放射状又はらせん状のk空間軌道に沿って前記エコー信号を取得するステップであって、RF励起パルス後に生成される前記エコー信号のそれぞれに、k空間における前記放射状又はらせん状の軌道の異なる方向が割り当てられる、取得するステップと、
(c)取得された前記エコー信号から、各エコー時間についてシングル・エコー画像を再構成するステップと、
(d)深層学習アルゴリズムを用いて、シングル・エコー画像から高解像度の水、脂肪、B
0、及び/又は見かけの横緩和時間(T
2*)のマップを導出するステップと、
(d)前記水、脂肪、B
0、及び/又はT
2*のマップから高解像度マンモグラフィ画像を合成するステップとを有し、
前記放射状又はらせん状のk空間軌道のセットによって網羅される前記k空間領域全体からの、前記異なるエコー時間で取得された前記エコー信号の組み合わせから、高解像度の中間画像が再構成され、前記高解像度の水、脂肪、B
0、及び/又はT
2*のマップを導出するステップが、前記高解像度の中間画像に基づいて行われる、方法。
【請求項2】
組織分類マップ及び/又は石灰化マップが、前記水、脂肪、B
0、及び/又はT
2*のマップから導出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各RF励起後の前記第1のエコー信号が超短エコー時間で生成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記k空間領域の1つ又は複数の欠落部分からエコー信号が別個に取得される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記高解像度マンモグラフィ画像を合成するステップと、組織分類マップ及び/又は石灰化マップの導出とのうちのさらに少なくとも1つが、前記高解像度の中間画像にさらに基づく、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記放射状又はらせん状のk空間軌道のセットがk空間の中央部分をオーバーサンプリングする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エコー信号の均一なk空間分布が得られるように、取得中に、前記放射状又はらせん状のk空間軌道の回転角度がインクリメントされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
個々のエコーの前記k空間軌道がk
z方向に分布する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エコー信号の前記取得中に発生する前記対象物の体動が、前記エコー信号の少なくとも1つから導出され、
検出された前記体動が、前記シングル・エコー画像を再構成するステップにおいて補正され、
検出された前記体動がいくつかの体動状態のうちの1つに属し、B
0マップが、それぞれの前記体動状態に割り当てられた前記エコー信号からそれぞれの前記体動状態について導出される、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記高解像度の水、脂肪、B
0、及び/若しくはT
2*のマップを導出するステップ、前記高解像度マンモグラフィ画像を合成するステップ、並びに/又は前記組織分類マップ及び/若しくは石灰化マップの導出が、異なる前記体動状態について導出された前記B
0マップにさらに基づく、請求項9に記載の方法
【請求項11】
k空間強調画像コントラスト(KWIC)フィルタが前記シングル・エコー画像の再構成に使用される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
検査ボリューム内に均一な定常磁場B
0を発生させる少なくとも1つの主磁石コイルと、前記検査ボリューム内の異なる空間方向にスイッチングされる磁場勾配を発生させるいくつかの勾配コイルと、前記検査ボリューム内にRFパルスを発生させる、及び/又は前記検査ボリューム内に配置される対象物からMR信号を受信する少なくとも1つのRFコイルと、RFパルス及びスイッチングされる磁場勾配の時間的遷移を制御する制御ユニットと、受信された前記MR信号からMR画像を再構成する再構成ユニットとを含むMR装置であって、前記MR装置が、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、MR装置。
【請求項13】
MR装置上で実行されるコンピュータ・プログラムであって、前記コンピュータ・プログラムが、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するための命令を含む、コンピュータ・プログラム。
【請求項14】
高解像度の水、脂肪、B
0、及び/又はT
2*マップを得るための方法であって、前記方法は、
対象物に対して実行される撮像シーケンスの各RF励起パルスの後、異なるエコー時間で生成された複数のエコー信号を受信するステップであって、前記エコー信号が、所与のk空間領域を網羅する1セットの放射状又はらせん状のk空間軌道に沿って取得されたものであり、RF励起パルス後に生成された前記エコー信号のそれぞれに、k空間における前記放射状又はらせん状の軌道の異なる方向が割り当てられる、受信するステップと、
取得された前記エコー信号から、各エコー時間についてシングル・エコー画像を再構成するステップであって、前記放射状又はらせん状のk空間軌道のセットによって網羅される前記k空間領域全体から前記異なるエコー時間で取得された、前記エコー信号の組み合わせから、高解像度中間画像が再構成される、再構成するステップと、
前記高解像度の中間画像にさらに基づく、高解像度の水、脂肪、B
0、及び/又はT
2*のマップを導出するステップと
を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴(MR)撮像分野に関する。本発明は、MR装置の検査ボリューム内に配置された対象物のMR撮像方法に関する。本発明は、MR装置及びMR装置上で実行されるコンピュータ・プログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
2次元又は3次元の画像を形成するために、磁場と核スピンとの間の相互作用を利用する画像形成MR法は、軟部組織の撮像について、多くの点で他の撮像法よりも優れており、電離放射線を必要とせず、通常は侵襲的でないので、現在、特に医療診断の分野で幅広く使用されている。
【0003】
一般的なMR法によると、検査される患者の体は、強力で均一な磁場B0内に配置され、同時に磁場B0の方向によって、測定が関連する座標系の軸(通常はz軸)が画定される。磁場B0は、磁場の強度に依存して個々の核スピンに異なるエネルギー準位を生成し、これは、定義された周波数(いわゆるラーモア周波数、又はMR周波数)の電磁交番磁場(RF磁場)を印加することによって励起(スピン共鳴)することができる。巨視的観点から、個々の核スピンの分布によって全体的な磁化が生じ、この磁化は、適切な周波数の電磁パルス(RFパルス)を印加することによって平衡状態から偏向させることができ、このRFパルスの対応する磁場B1はz軸に垂直に延在しており、その結果、磁化によりz軸を中心とした歳差運動が行われる。歳差運動は円錐の表面を描き、この開口角はフリップ角と呼ばれる。フリップ角の大きさは、印加される電磁パルスの強度及び時間幅に依存する。いわゆる90°パルスの場合、磁化はz軸から横断平面に偏向される(90°のフリップ角)。
【0004】
RFパルスの終了後、磁化は緩和されて元の平衡状態に戻り、z方向の磁化は第1の時定数T1(スピン格子緩和時間又は縦緩和時間)で再び構築され、z方向に垂直な方向の磁化は第2のより短い時定数T2(スピン-スピン緩和時間又は横緩和時間)で緩和される。磁化の変動がz軸に垂直な方向において測定されるやり方で、横断方向磁化及びその変動は、MR装置の検査ボリューム内に配置及び配向された受信RFコイルによって検出することができる。
【0005】
体内の空間解像度を実現するために、3つの主軸に沿って延在する時間変化する磁場勾配が、均一磁場B0に重ね合わせられ、スピン共鳴周波数の線形空間依存性がもたらされる。したがって、受信コイルで拾われる信号は、体内の異なる場所に関連付けることができる異なる周波数の成分を含む。受信コイルを介して得られる信号データは空間周波数領域に対応し、k空間データと呼ばれる。k空間データは、通常、異なる位相エンコードで取得された複数のラインを含む。各ラインは、いくつかのサンプルを収集することによってデジタル化される。k空間データのセットは、フーリエ変換によってMR画像に変換される。
【0006】
乳がんは女性にとって最も一般的ながんの1つである。最近の研究により、MR撮像は、マンモグラフィで見逃されることのある小さい乳房病変を位置特定することができることが明らかになった。MR撮像は、乳房インプラントをしている女性、及び乳房組織の密度が高い傾向のある比較的若い女性の乳がんを発見するのに役立つ。これらのケースでは、従来の(X線に基づく)マンモグラフィはMR撮像ほど有効ではないことがある。MR撮像は電離放射線を使用しないので、特に40歳以下の女性のスクリーニング検査のために、また、乳がんのリスクが高い女性の1年ごとのスクリーニング検査の回数を増やすために使用され得る。
【0007】
乳房MR撮像は、従来のマンモグラフィを上回る明確な利点があるが、潜在的な限界も有する。例えば、健康な組織とがん性の異常との間の区別が必ずしもできず、不必要な乳房生検になり得る。これは「偽陽性」検査結果と呼ばれることがある。乳房MR撮像の別の欠点は、乳がんを示す可能性がある微小なカルシウム沈着(微小石灰化)を特定することが、今までできなかったことである。
【0008】
解像度がより高く、通常特異度がより高いという理由から、従来のマンモグラフィは、MR撮像の感度が高く、特に密度の高い乳房組織では説得力のある結果が得られるにもかかわらず、乳房スクリーニング検査のツールとして依然として第1の選択肢である。
【0009】
WINKELMANNら(JOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE IMAGING、24:939~944、2006年)は、放射状マルチ勾配エコー・シーケンスを用いたMR撮像及びT2*マッピング技法を同時に行うことについて記載している。アンダーサンプリングされた画像のいくつかが、異なるエコー時間ごとに再構成される。これらの画像は、高解像度画像及びT2*マップを計算するために同時に使用される。
【0010】
KHOULIら(PROCEEDINGS OF THE INTERNATIONAL SOCIETY FOR MAGNETIC RESONANCE IN MEDICINE, 18TH ANNUAL MEETING、p.2489、2010年)は、3テスラのMR撮像による乳房微小石灰化の検出のための方法について記載している。放射状再構成を伴う3D SPGRE超短エコー時間シーケンスは、磁化率強調撮像法と組み合わせて使用される。
【0011】
EP3531154A1では、放射状取得又はらせん状取得によるマルチ勾配エコー・シーケンスを使用した、水/脂肪分離、並びにB0マッピング及びT2*マッピングが行われるMR撮像法が開示されている。取得されたエコー信号データ、B0マップ、及び/又はT2*マップから、指定されたコントラストの画像が合成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先述の内容から、MRベースのマンモグラフィの改良された方法が必要であることが容易に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、MR装置の検査ボリューム内に配置された対象物のMR撮像方法が開示される。
本方法は、
(a)RF励起パルス及びスイッチングされる磁場勾配を含む撮像シーケンスを対象物に施すステップであって、各RF励起パルス後に異なるエコー時間で複数のエコー信号が生成される、施すステップと、
(b)所与のk空間領域を網羅する1セットの放射状又はらせん状のk空間軌道に沿ってエコー信号を取得するステップであって、RF励起パルス後に生成されるエコー信号のそれぞれに、k空間における放射状又はらせん状の軌道の異なる方向が割り当てられる、取得するステップと、
(c)取得されたエコー信号から、各エコー時間についてシングル・エコー画像を再構成するステップと、
(d)深層学習アルゴリズムを用いて、シングル・エコー画像から高解像度の水、脂肪、B0、及び/又は見かけの横緩和時間(T2*)のマップを導出するステップと、
(d)水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから高解像度マンモグラフィ画像を合成するステップとを有し、
放射状又はらせん状のk空間軌道のセットによって網羅されるk空間領域全体から異なるエコー時間(TE1、TE2、TE3)で取得されたエコー信号の組み合わせから、高解像度の中間画像が再構成され、高解像度の水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップを導出するステップが、高解像度の中間画像にさらに基づく。
【0014】
本発明によると、複数のエコー信号が異なるエコー時間で取得される。エコー信号は、(KOOSH-ball、アルキメデスらせん、らせん葉序などの知られている取得方式を含む)放射状又はらせん状のk空間軌道に沿って取得される。放射状又はらせん状のk空間軌道は、それらの内在的な体動へのロバスト性から、従来のデカルトk空間軌道よりも好ましい。放射状又はらせん状のk空間サンプリングを使用すると、k空間の中心がオーバーサンプリングされ、連続的に更新される。この冗長性は、体動、B0、及びT2*の影響を検出及び補正するために有利に利用することができる。
【0015】
RF励起パルスの後に生成されるエコー信号のそれぞれには、k空間における放射状又はらせん状の軌道の異なる方向が割り当てられている。これは、k空間の「エコー時間分布型」サンプリングが行われることを意味する。放射状又はらせん状のk空間の軌道は、特定のエコー時間と一意に関連付けられる。非常に高い取得速度を達成するためには、同じ放射状又はらせん状のk空間軌道を異なるエコー時間で複数回取得することは避けるべきである。
【0016】
網羅されるk空間領域から取得されたエコー信号から、各エコー時間についてシングル・エコー画像が再構成される。k空間強調画像コントラスト(KWIC)フィルタは、シングル・エコー画像の再構成に有利に使用することができる(Songら、Magn.Reson.Med.、44、825~832、2000年を参照)。例えば、シングル・エコー画像のそれぞれは、それぞれのエコー時間に属するアンダーサンプリングされたk空間データから再構成することができる。特定のエコー時間に属する、取得されたエコー信号は、一般的に少なくともk空間の周縁部ではアンダーサンプリングされることになる。したがって、圧縮検知(CS)は、アンダーサンプリングされた信号データからシングル・エコー画像を再構成するために有利に使用される。特定のエコー時間に属する(KWICフィルタリングされた)エコー信号は、k空間内に不規則に分布している。CSの理論では、信号データが著しく削減される可能性が大きいことが知られている。CS理論では、変換領域で疎な表現を有する信号データ・セットは、適切な正則化アルゴリズムの適用によって、アンダーサンプリングされた測定値から復元することができる。信号サンプリング及び再構成のための数学的フレームワークとして、k空間サンプリング密度がナイキスト基準よりもはるかに低い場合においても、CSは、信号データ・セットを正確に、又は少なくとも高画質で再構成することができる条件を規定し、そのような再構成の方法も提供する。
【0017】
さらに、単一の高解像度中間画像は、エコー信号の全体、すなわち異なるエコー時間ごとに取得された全てのエコー信号を含むエコー信号から、放射状又はらせん状のk空間軌道のセットによって網羅されるk空間領域全体から再構成される。
【0018】
次のステップとして、深層学習アルゴリズムを使用してシングル・エコー画像から高解像度の水、脂肪、B0、及び/又は見かけの横緩和時間(T2*)のマップが導出される。深層学習方式を使用した低解像度画像からの「超解像」MR画像の計算は、当技術分野でそのように知られている。シングル・エコー画像を含む適切な訓練データを入力として使用し、関連付けられた高解像度(超解像)の水、脂肪、B0、及びT2*のマップを人工ニューラル・ネットワークの出力として使用して、本発明によるDixon法超解像深層学習再構成アルゴリズムが実施される。高解像度の水、脂肪、B0、及びT2*のマップの品質を向上させるために、深層学習に基づく再構成は、上記のように、全ての異なるエコー時間について取得されたエコー信号の組み合わせから再構成された高解像度の中間画像にさらに基づく。
【0019】
高解像度組織分類マップ及び/又は石灰化マップは、水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから導出することができる。さらに、例えば脂肪分類マップ、脂肪含有量マップなどの、さらなるマップが導出される。T2*は主磁場B0の不均一性から主に生じる。これらの不均一性は、主磁場そのものにある内在的な不均一性、及び組織によって生じる磁化率に誘起される磁場歪みの結果である。その結果、シングル・エコー画像から導出された(理想的には、水、脂肪、及びB0のマップと組み合わせた)高解像度T2*マップを本発明に従って使用して、(高解像度)組織分類マップを導出することができる。特に、乳房組織のがん腫に関連付けられ得る微小石灰化は、特有の磁化率に誘起される磁場の歪みを、局所環境において引き起こす。これは、特に診断価値の高い、高解像度石灰化マップを導出するために、特にT2*マップを使用することによって、本発明で利用される。超解像Dixon法深層学習の再構成と組み合わせて、直径1mm未満の微小石灰化を特定することができる。
【0020】
最後に、水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから高解像度マンモグラフィ画像が合成される。合成されたマンモグラフィ画像は、各ピクセル又はボクセルにハンスフィールド単位値を割り当てることによって計算される。各画像位置に割り当てられたハンスフィールド単位値は、従来のマンモグラフィ・スクリーニング検査の分野で放射線技師が慣れているものと全く同じコントラスト特徴を備えた実際のマンモグラフィ画像の計算を可能にする、組織のX線放射線減衰特性を提供する。ハンスフィールド単位の画像位置への割り当ては、高解像度の水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップに基づいて実行される。水/脂肪分離を提供するDixon法撮像が、合成X線画像を生成する目的で有効であることが知られていることが、当技術分野でそのように知られている。各画像位置のハンスフィールド単位を正しく決定するために、同じ領域の追加のコントラスト情報が有用である。したがって、マンモグラフィ画像の合成は、理想的には、導出された組織分類及び/又は石灰化マップにも基づく。
【0021】
エコー信号の均一なk空間分布を得るために、(kx平面/ky平面に配置された)放射状又はらせん状のk空間軌道の回転角度は、180°と黄金比の乗算に相当する黄金角だけ、取得中にインクリメントさせることができる。勾配のインクリメントが大きいことを回避し、黄金角のインクリメントが微小であることが好ましい。もう1つの可能性は、k空間において連続した順序で、放射状又はらせん状のk空間軌道に沿ってエコー信号を取得することである。これは、偶数及び奇数のエコー・サンプリングから得られるシステム誘導位相誤差が補正される点において有利である。さらなる選択肢は、取得中にkz方向にインクリメントさせることによって、個々のエコーのk空間軌道をkz方向(すなわち、放射状又はらせん状のk空間軌道が回転される平面に垂直な方向)に分布させることである。均一な分布は、(k空間の規則的なグリッド上の分布とは対照的に)深層学習アルゴリズムを使用してシングル・エコー画像からの高解像度の水、脂肪、B0、及び/又は見かけの横緩和時間(T2*)のマップの導出を支援する。高解像度マップの、深層学習に基づく導出をさらに支援するために、放射状又はらせん状のk空間軌道に沿ったエコーの変動シフトが適用される。さらに、取得帯域幅(すなわち、それぞれのエコー取得の時間幅及び/又はサンプリング周波数)は、撮像シーケンスの異なるショット間、及び/又は異なるエコー信号の取得間で変化する。
【0022】
好ましい実施形態では、各RF励起後の第1のエコー信号は、アクセス可能なエコー時間値の範囲を拡張するために超短エコー時間(UTE)において生成される。知られている部分エコー技法もこの目的のために適用される。エコー・シフトは、エコー時間のカバー率を向上し、T2*マッピングを最適化するために、代替的又は追加的に利用される。超短エコー時間は、非常に短い見かけの横緩和時間を特徴とする石灰化の特定によく適している。結果としてフィッティング及びT2*マッピングが改善される。UTE技法と組み合わせて、所与のk空間領域をサンプリングするために、3D放射状k空間取得方式(「KOOSH-ball」)を利用することができる。MRハードウェアの制限(送信/受信切り替えの不感時間)により、超短エコー時間でサンプリングされた中心から外側への各放射状k空間軌道は、k空間の中心に間隙を有することになる。これらの間隙を埋めるために、知られているPETRA方式が利用される。PETRA方式では、中央のk空間領域を別個の(デカルト)サンプリングによって間隙が埋められる。
【0023】
さらに好ましい実施形態では、取得中に発生する対象物の体動が、エコー信号の少なくとも1つから導出される。これは、シングル・エコー画像を再構成するステップにおいて、検出された体動を補正するのに使用することができる。例えば、放射状又はらせん状のk空間サンプルを表すエコー信号の1つ又は複数を、体動状態又は呼吸状態の検出のための内因性ナビゲータとして使用することができる。これは、体動によって誘起されるアーチファクトを低減するために、本発明の方法と有利に組み合わせることができる。特に、検出される体動(例えば、撮像される対象物の検出変位)は、検査される患者又は検査される身体部分が、例えば呼吸中に、経験するいくつかの離散的な体動状態のうちの1つに起因する。そのため、それぞれの体動状態に割り当てられたエコー信号から、各体動状態に対してB0マップを導出することができる。このように、内在的な体動、及び体動に誘起されたB0の決定及び補正を組み込むことにより、より正確なT2*マッピングを可能にする。乳房撮像における組織マッピングの精度は、体動に誘起されるB0変動に対処することで著しく向上させることができる。特に、呼吸によって誘起されるB0の変動は、乳房組織のマッピングに大きい影響を与える。体動、及び体動に誘起されるB0の検出から結果として得られる中間情報は、正確な組織分類マップを決定するために深層学習アルゴリズムに提供することができる。このように改善されたフィッティングにより、この技法を磁化率強調撮像ストラテジ(SWI)と組み合わせることも可能になり、例えば、より正確な位相画像を決定することが可能になる。
【0024】
結果として、本発明は、高解像度MR石灰化マンモグラフィ及び組織性状検出技法を提供する。組織性状診断は、石灰化マップに追加の情報を提供する。同じ取得から、組織の酸素化レベル、例えば脂肪含有量による脂肪分類を同じスキャン内で提供することができる。これは、乳房スクリーニング検査及び非造影乳房MR撮像によく適した、腫瘍に関連した診断及び治療情報を提供する。
【0025】
これまで説明した本発明の方法は、検査ボリューム内に均一な定常磁場B0を発生させる少なくとも1つの主磁石コイルと、検査ボリューム内の異なる空間方向にスイッチングされる磁場勾配を発生させるいくつかの勾配コイルと、検査ボリューム内にRFパルスを発生させる、及び/又は検査ボリューム内に配置される患者の体からMR信号を受信する少なくとも1つの生体RFコイルと、RFパルス及びスイッチングされる磁場勾配の時間的遷移を制御する制御ユニットと、受信されたMR信号からMR画像を再構成する再構成ユニットとを含むMR装置によって実行することができる。本発明の方法は、再構成ユニット及び/又はMR装置の制御ユニットの対応するプログラミングによって実施することができる。
【0026】
本発明の方法は、現在臨床で使用されているほとんどのMR装置において有利に実施できる。この目的のためには、MR装置が本発明の上記説明した方法ステップを実行するようにMR装置を制御するコンピュータ・プログラムを利用することが必要なだけである。コンピュータ・プログラムは、MR装置の制御ユニットにインストールするためにダウンロードされるように、データ・キャリア上に存在するか、又はデータ・ネットワーク内に存在してもよい。
【0027】
添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を開示している。しかしながら、図面は例示のみを目的としており、本発明の限定を定義することは意図していないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の方法を実行するためのMR装置を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による概略的な(簡略化された)放射状k空間サンプリング方式を示す図である。
【
図4】本発明の方法によって合成されたMRマンモグラフィ画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照すると、MR装置1がブロック図として示されている。本装置は、実質的に均一で時間的に一定の主磁場B
0が、検査ボリュームを通ってz軸に沿って形成されるような、超伝導又は抵抗性の主磁石コイル2を含む。本装置は、1セットの(1次、2次、及び、適切な場合は3次)シム・コイル2’をさらに含み、セット2’の個々のシム・コイルを通る電流は、検査ボリューム内のB
0偏差を最低限に抑える目的で制御可能である。
【0030】
磁気共鳴発生及び操作システムは、一連のRFパルス及びスイッチングされた磁場勾配を印加して、核磁気スピンの反転又は励起、磁気共鳴の誘導、磁気共鳴の再収束、磁気共鳴の操作、磁気共鳴の空間的及びその他の方法でのエンコード、スピンの飽和などを行って、MR撮像を実行する。
【0031】
より具体的には、勾配増幅器3が、検査ボリュームのx軸、y軸、及びz軸に沿って、全身勾配コイル4、5、及び6のうちの選択されたものに電流パルス又は波形を印加する。デジタルRF周波数送信機7は、RFパルス又はパルス・パケットを送信/受信スイッチ8を介して生体RFコイル9に送信して、検査ボリュームにRFパルスを送信する。典型的なMR撮像・シーケンスは、任意の印加磁場勾配と共に、核磁気共鳴信号の選択された操作を達成する、短い時間幅のRFパルス・セグメントのパケットで構成される。RFパルスは、共鳴の飽和、共鳴の励起、磁化の反転、共鳴の再収束、又は共鳴の操作を行いうこと、及び検査ボリューム内に配置された体10の一部分を選択することに使用される。MR信号は生体RFコイル9によっても拾われる。
【0032】
体10の限定された領域のMR画像を生成するために、又は並列撮像によるスキャン加速のために、1セットの局所アレイRFコイル11、12、13が、撮像のために選択された領域に隣接して配置される。アレイ・コイル11、12、13は、生体コイルRF送信によって誘起されたMR信号を受信するために使用することができる。
【0033】
結果としてのMR信号は、生体RFコイル9及び/又はアレイRFコイル11、12、13によって拾われ、好ましくはプリアンプ(図示せず)を含む受信機14によって復調される。受信機14は送信/受信スイッチ8を介してRFコイル9、11、12、及び13に接続されている。
【0034】
ホスト・コンピュータ15は、シム・コイル2’、並びに勾配パルス増幅器3、及び送信器7を制御して、エコー・プラナ撮像(EPI)、エコー・ボリューム撮像、勾配及びスピン・エコー撮像、高速スピン・エコー撮像などの複数のMR撮像・シーケンスのいずれかを生成する。選択されたシーケンスについて、受信機14は、各RF励起パルスに続いて、単一又は複数のMR信号を素早く連続して受信する。データ取得システム16は、受信された信号のアナログ-デジタル変換を実行し、各MRデータ・サンプルをさらなる処理に適したデジタル・フォーマットに変換する。現代のMR装置では、データ取得システム16は、生の画像データの取得に特化した別個のコンピュータである。
【0035】
最終的に、デジタル生画像データは、フーリエ変換又は他の適切な再構成アルゴリズムを適用する再構成プロセッサ17によって再構成されて画像表示になる。MR画像は、患者を通る平面スライス、平行な平面スライスの配列、3次元ボリュームなどの表示である。次いで、画像は画像メモリに記憶され、この画像には、スライス、投影、又は画像表示の他の部分を、視覚化のための適切なフォーマットに変換するためにアクセスすることができ、この視覚化は、例えば、結果のMR画像の、人が可読な表示を提供するビデオ・モニタ18を介して行われる。
【0036】
ホスト・コンピュータ15は、本明細書で上述及び後述される本発明の方法を実行するようにプログラムされている。
【0037】
本発明の一実施形態では、RF励起パルスと、読み出し方向及び位相エンコード方向であるx及びy並びにスライス選択方向zのスイッチングされた磁場勾配とを含む撮像シーケンスが適用される。放射状のサンプリング・パターンによってk空間の必要な領域を完全に網羅するために、x方向/y方向及び/又はz方向において異なる勾配波形を使用して、エコー信号の複数のセットが、複数回の繰り返し(ショット)のシーケンスで取得される。異なるエコー時間TE1、TE2、…、TENが提供されるように、x/y方向の読み出し勾配のタイミング及び振幅が選択される。好ましくは、撮像シーケンスは、各RF励起直後のエコー信号が超短エコー時間で生成されるようなUTEシーケンスである。
【0038】
その1/2励起パルスを用い、k空間の中心から放射状撮像を用いる基本的なUTEパルス・シーケンスを利用することができる。磁場勾配を位相エンコードのためのz方向にスイッチングして、(3D画像の再構成を可能にする、知られている「stack of stars」サンプリング方式により)この方向のデカルトk空間サンプリング・パターンを実現するようにする。超解像撮像(van Reethら、Concepts in Magnetic Resonance Part A、vol.40A(6)、306~325、2012年参照)に使用されるシフトk
zスライス・エンコード・サンプリングを有利に適用することができる。放射状のk空間サンプリングを使用すると、k空間の中心がオーバーサンプリングされる。エコー取得をシフト又は遅延させることによって、及び/又は連続する多重エコー取得によって、エコー時間が変化する多重エコー信号を取得することができる。逆エコー取得が適用されてもよい。k空間の「エコー時間分布型」サンプリングが実行される。これは、エコー時間がk空間の中心のオーバーサンプリングを伴ってk空間に分布していることを意味する。これは
図2に示されている。
図2は、使用されるUTEシーケンスの1ショットあたり4つの放射状取得における3つの異なるエコー時間TE1、TE2、及びTE3について、放射状撮像のための放射状k空間軌道の方向を示している。放射状k空間軌道の取得シーケンスは、番号1、2、…、12で示されている。k空間における取得されたエコー信号データの最適な分布を伴うこのやり方で、非常に高速な取得が達成される。説明されたやり方でのエコー信号データの取得は、
図3のフロー図のステップ31において実行される。
【0039】
次のステップ(
図3のステップ32)として、網羅されるk空間領域の中央部分から取得されたエコー信号から、各エコー時間についてシングル・エコー画像が再構成される。k空間強調画像コントラスト(KWIC)フィルタを、シングル・エコー画像を再構成するために使用することができる。
【0040】
さらに、エコー信号全体、すなわち、異なるエコー時間について取得された全てのエコー信号を含むエコー信号から、及び、放射状又はらせん状のk空間軌道のセットによって網羅されるk空間領域全体から、ステップ33において単一の高解像度中間画像が再構成される。
【0041】
ステップ34において、取得中に発生した体動がエコー信号の少なくとも1つから導出される。放射状のk空間サンプルの1つ又は複数を、体動状態又は呼吸状態を検出するための内因性ナビゲータとして使用することができる。特に、検出された体動は、いくつかの離散的な体動状態のいずれかに属する。そのため、それぞれの体動状態に割り当てられたエコー信号から、各体動状態について低解像度のB0マップが導出される。
【0042】
ステップ35では、深層学習アルゴリズムを用いて、シングル・エコー画像(及びシフトkzスライス・エンコード)から高解像度の水、脂肪、B0、及びT2*のマップが導出される。高解像度の水、脂肪、B0、及びT2*のマップの品質を向上させるために、深層学習に基づく再構成は、ステップ33で再構成される高解像度の中間画像にも基づく。さらに、ステップ34における体動、及び体動に誘起されるB0の検出の結果として生じる中間情報は、正確な組織分類マップを決定するために、深層学習アルゴリズムに提供される。T2*マッピングの精度は、体動によって誘起されるB0の変動に対処することによって、著しく向上する。
【0043】
水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから、ステップ36において高解像度組織分類マップ及び石灰化マップが導出される。
【0044】
最後に、水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップから、ステップ37において高解像度マンモグラフィ画像が合成される。合成されたマンモグラフィ画像は、各画素又はボクセルにハンスフィールド単位値を割り当てること、及び結果として得られるX線放射減衰に従って画素又はボクセルの強度を計算することによって、計算される。ハンスフィールド単位の画像位置への割り当ては、高解像度の水、脂肪、B0、及び/又はT2*のマップに基づいて実行される。マンモグラフィ画像の合成は、各画像位置についてハンスフィールド単位を正しく決定するために導出される組織分類及び/又は石灰化マップにも基づく。
【0045】
システムの不完全性の除去(例えば、ぼかし除去)及び/又は深層学習再構成のための確信度マップの使用のための後処理ステップなどの、さらなるステップ(図示せず)が任意選択で含まれてよい。
【0046】
使用者のための可能な画像出力は、深層学習再構成の結果として得られる高解像度の水、脂肪、及びT
2*のマップであり、特に
図4に示すような合成されたマンモグラフィ画像である。また、導出された組織分類及び石灰化マップは、診断を支援するために使用者に表示され得る。
【国際調査報告】