(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】安定化剤を使用せずに安定した、タンパーナセプトを含む眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240118BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240118BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240118BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240118BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542629
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 KR2022000661
(87)【国際公開番号】W WO2022154529
(87)【国際公開日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0005584
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514034870
【氏名又は名称】ハノル バイオファーマ カンパニーリミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANALL BIOPHARMA CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】43, Sangseodang 1-gil, Daedeok-gu, Daejeon, 306-120 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】パク スン クク
(72)【発明者】
【氏名】アン ヒェ キュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ミ ジン
(72)【発明者】
【氏名】シム ヒェ ウン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD23D
4C076DD26Z
4C076DD41Z
4C076DD42Z
4C076DD43Z
4C076DD51Z
4C076FF14
4C076FF61
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA22
4C084BA26
4C084CA18
4C084CA53
4C084DA25
4C084MA17
4C084MA58
4C084NA03
4C084ZA331
(57)【要約】
本発明は、安定化剤を使用せずに安定した、タンパーナセプトを含む眼科用組成物、及び前記組成物の製造及び使用方法に関する。ヒスチジン、スクロースなどの安定化剤の使用は、タンパーナセプト由来の酸性/塩基性変異体などの不純物の生成を引き起こし、生物学的活性に影響を及ぼすことが本発明により明らかになった。本発明による眼科用薬学組成物は、このような安定化剤の使用を排除する代わりに、pHを調節して冷蔵保存条件だけでなく、加速条件及び過酷条件においてもこのような不純物の生成を著しく減少させて安定したタンパーナセプト眼科用組成物を製造しうる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパーナセプト及びpH5.0~pH6.5のバッファーシステムを含み、
安定化剤を実質的に含まない安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項2】
前記眼科用組成物において、タンパーナセプトは、0.01%(w/v)~10%(w/v)で含まれる、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項3】
前記眼科用組成物において、バッファーシステムのpHは、pH5.0~pH6.0のバッファーシステムを含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項4】
前記眼科用組成物においてバッファーシステムのpHは、pH5.5~pH6.0のバッファーシステムを含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項5】
前記バッファーシステムは、ホスフェート緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、アセテート緩衝剤、スクシネート緩衝剤、シートレート緩衝剤、グルタメート緩衝剤及びラクテート緩衝剤からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上の緩衝剤を含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項6】
前記バッファーシステムは、バッファーシステムとしてシートレートバッファーシステム、ホスフェートバッファーシステムまたはシートレート-ホスフェートバッファーシステムを含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項7】
前記シートレートバッファーシステムは、緩衝剤としてクエン酸トリナトリウム及びクエン酸を含む、請求項6に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項8】
前記バッファーシステムは、5mM~50mMの緩衝剤を含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項9】
前記眼科用組成物は、等張化剤をさらに含む、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項10】
前記等張化剤は、塩化ナトリウムである、請求項9に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項11】
前記眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後、タンパーナセプトの電荷変異体の量が20%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項12】
前記眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後、タンパーナセプトの塩基性変異体の量が10%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項13】
前記眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後、タンパーナセプトの酸性変異体の量が10%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項14】
前記眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後、タンパーナセプトの電荷変異体の量が20%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項15】
前記眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後、タンパーナセプトの塩基性変異体の量が10%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項16】
前記眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後、タンパーナセプトの酸性変異体の量が10%以下である、請求項1に記載の安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【請求項17】
前記眼科用組成物の浸透圧濃度は、260mOsm/kg~320mOsm/kgである、請求項1に記載のタンパーナセプト含有眼科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化剤を使用せずに安定した、タンパーナセプトを含む眼科用組成物、及び前記組成物の製造及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、目に局所投与するための治療剤は、液状またはゲル状のいずれかに剤形化され、投与時まで無菌状態で安定して維持されなければならない。このような眼科用溶液は、緩衝液、様々な界面活性剤、安定化剤、等張化剤などを含み、これらは眼科用組成物がユーザーにとってより快適になるように補助する。眼科用溶液の効能及び商業化にとって特に重要なのは、溶液の安定性である。溶液の安定性は、製剤中に存在するすべての化合物の相互作用、ならびに温度及びpHに応じて異なりうる。
【0003】
タンパク質含有薬学組成物は、最適な条件ではない条件下で物理化学的に変性が発生する。特に、タンパク質の濃度、緩衝剤の種類、安定化剤の種類及び濃度、有機共溶媒の種類及び濃度、塩の濃度、pH、温度、空気との接触などの要因は、タンパク質の酸化(oxidation)、脱アミド化(deamidation)、異性化(isomerization)、重合(polymerization)などにかなりの影響を及ぼす。このような変性は、タンパク質の凝集(aggregation)、断片(fragment)、及び異性体(isomer)を生成させて生理活性を減少させることができる。
【0004】
一方、腫瘍壊死因子(TNF-α)は、単球及びマクロファージを含む多くの細胞タイプによって生産されるサイトカインである。TNF-αは、感染症、自己免疫疾患、敗血症、移植拒否など様々なその他のヒト免疫疾患に関連している。TNF-αの過剰発現は、ヒト疾患における否定的な結果をもたらすので、治療剤としての方向は、TNF-αの活性を制御するか、または相殺させる方向で考案されてきた。そこで、TNF-αに結合して中和させる抗体を開発し、様々なタンパク質製剤として販売されている。しかし、この抗TNF-α抗体製剤は、大きな分子量によって局所部位で誘発される炎症疾患には製剤が効率的に到達できないという限界がある。そこで、本出願人は、小サイズの高い活性を有することにより、局所炎症疾患の治療に適したポリペプチド分子を開発したことがある。本発明のTNF-α阻害剤である変形したヒト腫瘍壊死因子受容体-1ポリペプチド、タンパーナセプトは、出願人の特許出願である大韓民国公開特許公報第2012-0072323号に開示されており、その眼球乾燥症に対する治療用途も大韓民国公開特許公報第2013-0143484号に記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】大韓民国公開特許公報第2012-0072323号
【特許文献2】大韓民国公開特許公報第2013-0143484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンパク質組成物は、保管寿命が化学合成医薬品に比べて保管期間が短いこともあり、また、保管期間中に誘発される電荷変異体や凝集物などの物理化学的不純物が誘発され、生物学的活性が低下することもある。
【0007】
本発明は、タンパーナセプトを含む、安定化剤を使用せずに安定した眼科用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、冷蔵保存条件だけでなく、加速及び過酷条件での保管時にも、タンパーナセプト由来不純物(酸性/塩基性変異体)の生成を最小化できる眼科用組成物を開発するために、タンパーナセプトの安定性に対する様々な研究を行った。特に、本発明者らは、緩衝剤、等張化剤、pH範囲、機能性賦形剤などを含む様々な製剤化の研究を行った。その結果、本発明者らは、ヒスチジン、スクロースなどの安定化剤の使用が特定のpHでは、むしろ、酸性/塩基性変異体を生成させ、タンパーナセプトの組成物の安定性に影響を及ぼすことを見出した。そこで、本発明は、安定化剤を含まないpH5.0~pH6.5で安定したタンパーナセプト眼科用組成物を提供する。
【0009】
具体的には、本発明は、タンパーナセプト及びpH5.0~pH6.5のバッファーシステムを含み、安定化剤を実質的に含まない安定したタンパーナセプト含有眼科用組成物を提供する。
【0010】
タンパーナセプトは、大韓民国公開特許公報第2013-0143484号に開示されているTNFRI変異体で、天然型TNFRIのアミノ酸配列の41番ないし211番からなるアミノ酸配列(TNFRI171)においてL68V/S92M/H95F/R97P/H98G/K161Nのアミノ酸変形を含むアミノ酸配列で表される。
【0011】
タンパーナセプトは、計171個のアミノ酸からなるポリペプチドであるため、一般的なタンパク質含有薬学組成物がそうであるように患者に投与する前まで安定性を確保し、最善の薬効を示すようにすることが薬物開発における最も重要な課題の一つである。
【0012】
タンパーナセプトの安定性を確保できる製剤の開発のために、本発明者らは、まず、タンパーナセプトの保管安定性を実験し、その結果、タンパーナセプトが保管過程で電荷変異体を形成することが観察された(実験例1)。本願で使用される用語の「電荷変異体」とは、タンパク質またはポリペプチドの天然状態から変形され、タンパク質またはポリペプチドの電荷が異なることを意味する。一例において、電荷変異体は、本来のタンパク質またはポリペプチドよりも酸性、すなわち、本来のタンパク質またはポリペプチドよりも低いpI値を有する。他の例において、電荷変異体は、本来のタンパク質またはポリペプチドよりも塩基性、すなわち、本来のポリペプチドよりも高いpI値を有する。このような変形は操作されるか、または自然過程、例えば、酸化、脱アミド化、リジン残基のC-末端プロセシング、N-末端ピログルタメート形成、及び非酵素的糖化の結果であってもよい。一例において、タンパク質またはポリペプチド電荷変異体は、タンパク質に付着したグリカンが、例えば、シアル酸またはその誘導体の添加によって変形され、糖タンパク質の電荷が母糖タンパク質と比較して異なる糖タンパク質である。本願で使用される「タンパーナセプト電荷変異体」は、タンパーナセプトの天然状態から変形され、タンパーナセプトの電荷が異なる物質である。
【0013】
電荷変異体は、一般的に薬物の活性低下を引き起こすことがよく知られているので、電荷変異体の生成量を一定水準以下に管理することが必要である。そこで、本発明者らは、眼科用安定化剤として使用可能な成分を用いて電荷変異体のような不純物の発生を最小化できるかを確認し、一次的にスクロースとヒスチジンを含むことが好ましいことを確認した(実験例2)。しかし、タンパーナセプト含有組成物の適正pHを探すさらなる研究過程において、特定のpHではこれらの安定化剤を使用しても電荷変異体の生成率が高く、むしろ安定化剤を使用せずにpHをpH5.0~pH6.5のレベルに調節することが電荷変異体の生成率を最も下げることができる方法であることを確認した(実験例3)。
【0014】
そこで、本発明は、タンパーナセプト及びpH5.0~pH6.5のバッファーシステムを含み、安定化剤を実質的に含まないタンパーナセプト含有眼科用組成物を提供する。
【0015】
タンパーナセプトは、適正の含量で組成物内に含むことが好ましいが、含量が高くなるほど、凝集物などの不純物の含量が増加しうるためである。本発明のタンパーナセプト含有眼科用組成物において、タンパーナセプトは、0.01~10%(w/v)、例えば、0.01~8%(w/v)、0.01~6%(w/v)、0.01~4%(w/v)、0.01~2%(w/v)、0.01~1%(w/v)、0.02~1%(w/v)、0.05~0.8%(w/v)、0.1~0.7%(w/v)、0.2~0.6%(w/v)などの含量で含まれてもよい。商業的目的を考慮し、タンパーナセプトは、0.25%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)、3%(w/v)、4%(w/v)、5%(w/v)、6%(w/v)、7%(w/v)、8%(w/v)、9%(w/v)、10%(w/v)などの含量で組成物内に含まれてもよい。前記タンパーナセプトの含量は、投与対象患者の疾患の種類、重症度などに応じて異なりうる。
【0016】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、pH5.0~pH6.5のバッファーシステムを含む。前記バッファーシステムは、pH5.0~pH6.5のpHを有するもので十分であり、例えば、pH5.0~pH6.0のバッファーシステム、pH5.5~pH6.5のバッファーシステム、pH5.5~pH6.0のバッファーシステム、pH5.8~pH6.3のバッファーシステムなどのpH5.0~pH6.5の範囲内に属する数値範囲は、すべて本発明のカテゴリに含まれる。本発明の一具体例において、本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、pH5.0~pH6.0のバッファーシステムを含む。本発明の他の具体例において、本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、pH5.5~pH6.0のバッファーシステムを含む。
【0017】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物においてバッファーシステムを具現する方法は、当業者によく知られている。pH5.0~pH6.5のバッファーシステムは、ホスフェート緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、アセテート緩衝剤、スクシネート緩衝剤、シートレート緩衝剤、グルタメート緩衝剤及びラクテート緩衝剤からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上の緩衝剤を含んでもよい。いかなるバッファーシステムを使用してもpH5.0~pH6.5の条件を満たせば、タンパーナセプトの安定性の確保が可能であると判断される。ただし、特定のバッファーシステムの使用が相対的に好ましい場合がある。下記の実施例を通じて、アセテート緩衝剤に比べてシートレート緩衝剤が相対的に凝集物や電荷変異体生成の制御の側面で有利であることが確認された(実験例4)。したがって、本発明の具体例において、前記バッファーシステムは、シートレート緩衝剤を含むバッファーシステム、例えば、シートレートバッファーシステムまたはシートレート-ホスフェートバッファーシステムであってもよいが、これに制限されるものではない。バッファーシステムに含まれる緩衝剤は、緩衝効果を増大させるために、共役酸-共役塩基の組み合わせから構成されてもよい。例えば、本発明の一具体例において、前記バッファーシステムはシートレート緩衝剤を含み、ここで、シートレート緩衝剤としては、クエン酸トリナトリウム(共役塩基)及びクエン酸(共役酸)を含む。
【0018】
本発明のバッファーシステムは、5mM~50mMの濃度の緩衝剤、例えば、10mM~30mM濃度の緩衝剤を含む。
【0019】
本発明の眼科用組成物は、安定化剤を実質的に含まないことを特徴とする。ここで、安定化剤とは、有効成分として使用されるタンパーナセプトの化学的、物理的安定性または生物学的活性の減少を防ぐために製剤内に含まれる追加の成分を意味する。例えば、眼科用組成物においてタンパク質の凝集阻害のためにスクロースやマンニトールなどの糖類を使用するか、またはプロリン、アルギニン、グリシン、リシンまたはメチオニンなどのアミノ酸系安定化剤を使用してタンパク質の安定化を図ることがよく知られている。本発明は、以下の実施例で確認したように、通常の場合とは異なり、このような安定化剤を含む場合、むしろ、タンパーナセプトの安定性に悪影響を及ぼすことを見出し、安定化剤を実質的に含まない。本発明で説明する緩衝剤や等張化剤は、安定化剤に含まれない。
【0020】
安定化剤を「実質的に含まない」とは、安定化剤を0.1%(w/v)未満、0.05%(w/v)未満、0.03%(w/v)未満、0.02%(w/v)未満、0.01%(w/v)未満、0.005%(w/v)未満、0.001%(w/v)未満で含むか、または最も好ましくは、全く含まないことを意味する。
【0021】
前記眼科用組成物の浸透圧濃度は、260mOsm/kg~320mOsm/kgであってもよい。
【0022】
本発明による眼科用組成物は、有効成分であるタンパーナセプトとバッファーシステムの他に等張化剤をさらに含んでもよい。等張化剤は、本発明による眼科用組成物の浸透圧を調節するために使用される。本発明において、等張化剤は、本発明による眼科用組成物が260mOsm/kg~320mOsm/kgの浸透圧濃度を有するように含まれる。浸透圧は、水単位当たり溶解した粒子の数を測定したものである。溶液において、水の単位数(溶媒)に比例して溶質粒子の数が少ないほど、低-浸透圧溶液が少なく濃縮される。半-透過性膜(溶媒分子のみ透過可能な膜)を使用して他の溶質濃度の溶液を分離する場合、溶媒分子が膜を横切って低濃度から高濃度に交差して濃度平衡を形成する浸透現象が発生する。前記動きを駆動する圧力を浸透圧といい、溶液中の溶質の「粒子」の数によって左右される。同じ濃度の粒子を含有して同じ浸透圧を加える溶液を等-浸透圧という。もし、低-浸透圧または高-浸透圧溶液が目に配置されれば、それは目を損傷させるおそれがあり、したがって、目に使用される薬物のための等-浸透圧溶液が必要である。本発明では、等張化剤として塩化ナトリウムを使用した。本発明による眼科用組成物内において等張化剤の含量は、0.5%(w/v)~1%(w/v)であってもよい。本発明による眼科用組成物において等張化剤の濃度は、100mM~150mMであってもよい。
【0023】
本発明の一具体例において、本発明による眼科用組成物は、タンパーナセプト、pH5.5~pH6.0のバッファーシステム、等張化剤及び水からなる。一実施例において、本発明による眼科用組成物は、タンパーナセプト、シートレート緩衝剤を含むpH5.5~pH6.0のバッファーシステム、塩化ナトリウム及び水からなる。
【0024】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、加速または過酷な条件下でも非常に安定している。
【0025】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後の電荷変異体の量が20%以下であってもよい。
【0026】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後の塩基性変異体の量が10%以下であってもよい。
【0027】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、加速条件下で6ヶ月保管後の酸性変異体の量が10%以下である。
【0028】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後のタンパーナセプトの電荷変異体の量が20%以下である。
【0029】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後のタンパーナセプトの塩基性変異体の量が10%以下である。
【0030】
本発明によるタンパーナセプト含有眼科用組成物は、長期保管条件下で36ヶ月保管後のタンパーナセプトの酸性変異体の量が10%以下である。
【0031】
本発明による眼科用薬学組成物は、タンパーナセプトの物理化学的及び生物学的安定性を向上させることにより、眼乾燥症などのTNF-媒介眼疾患を患っている患者に点滴投与などの通常の方法により投与されてもよい。
【発明の効果】
【0032】
ヒスチジン、スクロースなどの安定化剤の使用は、タンパーナセプト由来の酸性/塩基性変異体などの不純物の生成を引き起こし、生物学的活性に影響を及ぼすことが本発明により明らかになった。本発明による眼科用薬学組成物は、このような安定化剤の使用を排除する代わりに、pHを調節して冷蔵保存条件だけでなく、加速条件及び過酷条件においてもこのような不純物の生成を著しく減少させて安定したタンパーナセプト眼科用組成物を製造しうる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】37℃で0週~4週間保管後のタンパーナセプトの等電点電気泳動(IEF)結果を示す。
【
図2】37℃で0週~4週間保管後のタンパーナセプトのIEX-HPLC分析結果を示す。
【
図4】電荷変異体のIEX-HPLC分析結果を示す。
【
図5】安定化剤を含まない対照群と、安定化剤としてメチオニン、グリシン、ヒスチジン塩酸塩、スクロースをそれぞれ含む安定化剤スクリーニング溶液群のIEX-HPLC主ピーク変化量を示す。
【
図6】安定化剤を含まない対照群と、安定化剤としてメチオニン、グリシン、ヒスチジン塩酸塩、スクロースをそれぞれ含む安定化剤スクリーニング溶液群のIEX-HPLC酸性変異体変化量を示す。
【
図7】安定化剤を含まない対照群と、安定化剤としてメチオニン、グリシン、ヒスチジン塩酸塩、スクロースをそれぞれ含む安定化剤スクリーニング溶液群のIEX-HPLC塩基性変異体変化量を示す。
【
図8】様々なpH及び安定化剤の条件によるタンパーナセプト眼科用組成物の40℃、4週間保管後の安定性をRP-HPLC変異体により分析した結果を示す。
【
図9】様々なpH及び安定化剤の条件によるタンパーナセプト眼科用組成物の40℃、4週間保管後の安定性をIEX-HPLC主ピーク変化量によって示したものである。
【
図10】様々なpH及び安定化剤の条件によるタンパーナセプト眼科用組成物の40℃、4週間保管後の安定性をIEX-HPLC酸性変異体変化量によって示したものである。
【
図11】様々なpH及び安定化剤の条件によるタンパーナセプト眼科用組成物の40℃、4週間保管後の安定性をIEX-HPLC塩基性変異体変化量により示したものである。
【
図12】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったSEC-HPLC分析結果を示す。
【
図13】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったSEC-HPLC分析結果を示す。
【
図14】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったSEC-HPLC分析結果を示す。
【
図15】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた酸性変異体分析結果を示す。
【
図16】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた酸性変異体分析結果を示す。
【
図17】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた酸性変異体分析結果を示す。
【
図18】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた塩基性電荷変異体分析結果を示す。
【
図19】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた塩基性電荷変異体分析結果を示す。
【
図20】4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた塩基性電荷変異体分析結果を示す。
【
図21】タンパーナセプト眼科用組成物の安定性をSEC-HPLCを用いた凝集物分析結果を通じて示す。
【
図22】タンパーナセプト眼科用組成物の安定性をIEX-HPLCを用いた電荷変異体分析結果を通じて示す。
【
図23】タンパーナセプト眼科用組成物の安定性をIEX-HPLCを用いた電荷変異体分析結果を通じて示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の利点、特徴、及びそれらを達成する方法は、後述する製造例、実施例、実験例を参照すれば、明らかになるであろう。しかし、これらは本発明の理解を助けるためのものであり、本発明は、以下に開示される実施例に限定されるものではない。
【0035】
実験例1:タンパーナセプト電荷変異体の分析
電荷変異体の生成は薬物活性、安定性、安全性に影響を及ぼしうるため、本発明者らは、まず、タンパーナセプトの電荷変異体について分析した。タンパーナセプトを37℃で4週間保管した後、等電点電気泳動(IEF)及びIEX-HPLC分析を行った。
【0036】
等電点電気泳動法
-pH3.0~pH7.0の範囲のゲルでwell当たり10μgをローディングし、100Vで1時間、200Vで1時間、500Vで30分間電気泳動を行った。12%trichloroacetic acidで30分間固定させた後、クマシーブルーで染色した。
【0037】
IEX-HPLC(イオン交換高性能液体クロマトグラフィー)
IEX-HPLC(イオン交換高性能液体クロマトグラフィー)は、イオン交換体を使用してタンパク質の純電荷(net charge)によるカラムの固定相との親和度によってタンパク質を分離する。本試験法は、カチオン交換カラムと温度制御部(25℃設定)、自動サンプル抽出器(4℃設定)、280nmが駆動されるUV検出器と0.7mL/minの流速を維持できる高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行った。
【0038】
電荷変異体の分離精製
タンパーナセプト眼科用組成物に存在する電荷変異体の特性によって分離して分析するために、SP-HPカラムとタンパク質分離用液体クロマトグラフィー(FPLC)を用いて塩濃度に応じて分離精製を行った。電荷変異体の特性によって酸性変異体(A)、主ピーク試料(B)、塩基性変異体(C)で試料を準備し、それぞれIEFとIEX-HPLC分析を行った。
【0039】
図1は、37℃で0週~4週間保管後のタンパーナセプトの等電点電気泳動(IEF)結果を示す。
【0040】
等電点電気泳動の結果、
図1Aに示すように、保管期間が増えるほど低いpI値位置でバンドが濃くなり、タンパーナセプトの酸性変異体の生成が非常に明確であることが確認された。
【0041】
図2は、37℃で0~4週間保管後のタンパーナセプトのIEX-HPLC分析結果を示す。
【0042】
IEX-HPLCの結果からも、
図2に示すように、保管期間が長くなるほど酸性変異体の量が増加することが確認された。
【0043】
電荷変異体の特性を調べるために、SP-HPカラムを用いて電荷によって分離して得られた酸性変異体、主ピーク試料、塩基性変異体試料をIEFとIEX-HPLCで分析した。
【0044】
図3は、電荷変異体のIEF分析結果を示し、
図4は、電荷変異体のIEX-HPLC分析結果を示す。
図3及び
図4から分かるように、酸性変異体のみを分離したA試料は、クロマトグラムで主ピーク試料よりも前部に溶出され、またIEF結果からも主ピーク試料より低いpIを有することが分かる。これに加えて、塩基性変異体試料であるB試料は、クロマトグラム結果において主ピーク試料よりも後部に溶出され、IEF結果からも主ピーク試料を含めて多少高いpI値を示すことが分かった。
【0045】
実験例2:眼科用安定化剤のスクリーニング
【0046】
タンパク質組成物に添加される安定化剤は、患者に投与する前まで製剤を安定して保管するために必要である。これらを添加して保管中に誘発され得る凝集物や電荷変異体などの不純物を最小化し、保管期間中に安定した製剤に維持できるようにする。したがって、タンパク質組成物において主成分を安定化させる適切な安定化剤を選択して安定した組成物を製造することは何よりも重要である。本発明者らは、主成分であるタンパーナセプトを安定化させる安定化剤の種類を選定するための各安定化剤における過酷試験(40℃、4週間保管)を行うため、まず、下記のような実験を行った。
【0047】
1)タンパーナセプト溶液試料の製造
125mM塩化ナトリウムを含有する20mMクエン酸ナトリウム緩衝剤に含まれる10mg/mLのタンパーナセプト溶液を製造した。
【0048】
2)緩衝剤pH7.0、20mMクエン酸リン酸塩の製造
超純水900mLにクエン酸無水物0.37g、リン酸水素二ナトリウム2.58gを加えてよく混合した。37%塩酸または40%水酸化ナトリウムを用いてpH7.0に滴定した後、超純水を添加して最終1Lで製造した。
【0049】
3)安定化剤スクリーニング溶液の製造
2)で製造した緩衝剤100mLに安定化剤4種(メチオニン0.149g、グリシン0.751g、ヒスチジン塩酸塩1.55g、スクロース6.84g)をそれぞれ添加してpH7.0の4種類の安定化剤スクリーニング用組成物を製造した。
【0050】
【0051】
4)試料の製造及び評価
3.5kDa遠心分離フィルターにタンパーナセプトと3)で製造した眼科用安定化剤スクリーニング用溶液を10mL添加後、4℃、4000rpmで試料を遠心分離し、前記1)のタンパーナセプトの緩衝剤から3)の安定化剤スクリーニング用緩衝剤に置換した。前記過程を繰り返してタンパーナセプト1mg/mLを含む安定化剤スクリーニング用溶液(試料)を製造した。これを40℃、4週間保管して0週目、4週目試料をIEX-HPLC分析して各試料で確認される物理化学的不純物を分析した。
【0052】
【0053】
表2及び
図5~7は、安定化剤を含まない対照群と、安定化剤としてメチオニン、グリシン、ヒスチジン塩酸塩、スクロースをそれぞれ含む安定化剤スクリーニング溶液群のIEX-HPLC分析結果を示す。
【0054】
その結果、表2及び
図5~7に示すように、スクロースとヒスチジン塩酸塩を含む場合、塩基性変異体及び酸性変異体の生成量が減少する傾向が現れることが確認された。特に、ヒスチジン塩酸塩の場合、対照群や他の安定化剤に対して酸性変異体の生成量を大きく減少させることが確認された。
【0055】
実験例3:様々なpHを有する眼科用組成物の製造及び安定性の評価
涙のpHは、pH7.0~7.5であるので、これと類似したpH条件で眼科用組成物を設定することが最も好ましいが、タンパク質の安定性は、pHによっても大きく影響を受けることができるため、様々なpHを有する眼科用組成物を製造し、その安定性を評価した。
【0056】
(1)眼科用組成物の製造
1)緩衝剤pH5.0~pH7.0、20mMクエン酸リン酸塩の製造
超純水400mLにクエン酸無水物とリン酸水素二ナトリウムを各pHに合わせて加えてよく混合した。(pH5.0/5.5緩衝剤製造の場合;クエン酸無水物0.62g、リン酸水素二ナトリウム0.97g//pH6.0/6.5緩衝剤製造の場合;クエン酸無水物0.43g、リン酸水素二ナトリウム1.11g//pH7.0緩衝剤製造の場合;クエン酸無水物0.19g、リン酸水素二ナトリウム1.29g)37%塩酸または40%水酸化ナトリウムを用いて各条件に合うpH5.0~pH7.0に滴定した後、超純水を添加して最終500mLで製造した。
【0057】
2)安定化剤を添加した眼科用組成物の製造(pH5.0~pH7.0)
1)で製造したpH5.0~pH7.0に該当する緩衝剤5種の各100mLにスクロース6.85gとヒスチジン1.55gを添加してスクロース200mMを含むpH5.0~pH7.0の20mMのクエン酸リン酸塩緩衝剤5種とヒスチジン100mMを含むpH5.0~pH7.0の20mMのクエン酸リン酸塩緩衝剤5種を製造した。安定化剤未含有実験群としては、1)で製造したpH5.0~pH7.0の20mMのクエン酸リン酸塩緩衝剤をそのまま使用し、安定化剤が含まれていない/含まれているpH5.0~pH7.0の緩衝剤を計15種製造した。
【0058】
3)試料の製造及び評価
3.5kDa遠心分離フィルターを用いて2)で製造した緩衝剤4mLとタンパーナセプトを添加後、4℃、4000rpmで試料を遠心分離して従来のタンパーナセプトの緩衝剤から安定化剤を含むpH5.0~pH7.0の緩衝剤に置換した。前記過程を繰り返して互いに異なるpHと安定化剤を含む15種の試料を製造した。これを40℃、4週間保管して0週目、4週目試料を分析し、各試料から確認される物理化学的不純物を分析した。
【0059】
【0060】
(2)pH及び安定化剤によるタンパーナセプト安定性の評価
1)逆相クロマトグラフィーによる分析
RP-HPLC(逆相クロマトグラフィー)は、タンパク質の極性に応じて純度を評価する方法である。本試験法は、逆相クロマトグラフィーカラムと温度制御部(60℃設定)、自動サンプル抽出器(4℃設定)、214nmが駆動されるUV検出器と1.0mL/minの流速を維持できる高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行った。
【0061】
前記製造した15種の試料を過酷条件(40℃保管)で4週間保管して0週目、4週目試料を分析し、各試料から確認される変異体の生成変化量を比較した。その結果、表4及び
図8に示すように、pH7.0では安定化剤未含有実験群に対してスクロースまたはヒスチジンを安定化剤として含む実験群が低い変異体生成率を示した。しかし、ヒスチジンを安定化剤として含む実験群の場合、pH5.0~pH6.5でいずれも対照群より高い変異体生成率を示し、スクロースを安定化剤として含む実験群の場合、pH5.0~pH6.0で対照群より高い生成率を示した。
【0062】
【0063】
2)イオン交換高性能液体クロマトグラフィーによる分析
IEX-HPLC(イオン交換高性能液体クロマトグラフィー)は、イオン交換体を使用してタンパク質の純電荷(net charge)によるカラムの固定相との親和度によってタンパク質を分離する。本試験法は、カチオン交換カラムと温度制御部(25℃設定)、自動サンプル抽出器(4℃設定)、280nmが駆動されるUV検出器と0.7mL/minの流速を維持できる高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行った。
【0064】
先に製造した15種の試料を過酷条件(40℃保管)で4週間保管し、0週目、4週目試料を分析し、各試料から確認される酸性/塩基性変異体の生成変化量を比較した。
【0065】
その結果、表5及び
図9~11に示すように、酸性変異体の生成量の側面からpH5.0~pH6.5で安定化剤未含有群は、スクロースやヒスチジン含有実験群より良い結果を示した。特に、pH5.0~pH6.0で安定化剤未含有実験群は、10%未満の酸性変異体生成量の変化を示した。塩基性変異体の場合、pH5.0~pH6.0で安定化剤未含有群は、スクロースやヒスチジン含有実験群より良い結果を示した。pH6.5~pH7.0では、スクロース含有実験群が最も低い塩基性変異体生成量の変化を示し、ヒスチジン含有実験群の場合、安定化剤未含有群とは大差はなかった。
【0066】
【0067】
前記結果を分析した結果、pH7.0では安定化剤未含有群よりもスクロースやヒスチジン含有群の方が変異体生成量が低い傾向を示したが、pHがpH5.5またはpH6.0と低くなると、むしろスクロースやヒスチジン含有群の変異体生成量が安定化剤未含有群に比べてかなり高くなる傾向性が確認できた。
【0068】
実験結果を総合的に分析した結果、予想とは異なり、タンパーナセプト眼科用組成物は、pH5.5~pH6.0で安定化剤を未含有群が最も低い変異体生成量を示すことが把握された。
【0069】
一般的に眼科用組成物は、生体内のpH条件に類似するようにpH7.0に設定することを考慮しているが、眼科用組成物において有効成分の安定性は薬効発揮の重要な要素であるので、本発明によるタンパーナセプト眼科用組成物は、pH5.5~6.0にpHを設定し、スクロースやヒスチジンは含まないことが好ましいという結論を得た。
【0070】
実験例4:バッファーシステムによる安定性の評価
タンパーナセプトの濃度、pH、塩化ナトリウムの濃度、浸透圧などは固定し、バッファーの組成及び機能性賦形剤2種の添加の有無の差を比較するための4つの群を構成し、4℃、25℃、40℃条件で最終製剤の選定のためのスクリーニングを行った。眼科用組成物のpHは、先の実験結果を
考慮してpH5.5に固定し、この範囲で一般的に使用可能な基本バッファーとして、酢酸ナトリウム(20mM)とクエン酸ナトリウム(20mM)を使用してバッファーシステムによるタンパーナセプトの安定性を評価した。
【0071】
下記表6に示すように、4つのタンパーナセプト眼科用組成物を製造してタンパーナセプトの安定性を試験した。
【0072】
【0073】
SEC-HPLCを用いた凝集物分析とIEX-HPLCを用いた電荷変異体分析を通じて、タンパーナセプト眼科用組成物の安定性試験を行った。安定性試験は、4℃、25℃、40℃の条件で計2ヶ月間行い、0週、2週、1ヶ月、2ヶ月の時点でSEC-HPLCを用いた凝集物分析とIEX-HPLCを用いた電荷変異体分析を行った。
【0074】
(1)SEC-HPLCを用いた凝集物分析
SEC-HPLC(サイズ排除高性能液体クロマトグラフィー)は、多孔質ゲルで満たされたカラムの固定相試料を注入し、サイズに応じた差によってタンパク質を分離する。本試験法は、サイズ排除カラムと温度制御部(25℃設定)、自動サンプル抽出器(4℃設定)、214nmが駆動されるUV検出器と0.5mL/minの流速を維持できる高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行った。
【0075】
表7~9、及び
図12~14は、前記4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったSEC-HPLC分析結果を示す。SEC-HPLC分析の結果、温度が高いほど凝集物が増加する傾向を示し、特にアセテートバッファー使用製剤の場合に急速に生成されることが把握された。シートレートバッファーを使用した3つの製剤は、FFS3が4℃、2ヶ月の結果において高く測定された。25℃、40℃2週間、1ヶ月、2ヶ月すべての条件でFFS2の賦形剤を使用していない場合、最も安定した結果を示した。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
(2)IEX-HPLCを用いた酸性変異体の分析
表10~12、及び
図15~17は、前記4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた酸性変異体分析結果を示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
(3)IEX-HPLCを用いた塩基性変異体分析
表13~15、及び
図18~20は、前記4種のタンパーナセプト眼科用組成物を4℃、25℃、40℃の条件で保管しながら行ったIEX-HPLCを用いた塩基性電荷変異体分析結果を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
IEX-HPLC分析では、すべての製剤が40℃の高温保存条件で酸性及び塩基性電荷変異体が増加する傾向を示し、アセテートバッファー(FFS1)製剤では、塩基性変異体がすべての温度で明らかに増加するパターンを示した。
【0088】
結論として、凝集物及び塩基性変異体生成の側面から、シートレートバッファー(FFS2~4)に比べてアセテートバッファー(FFS1)の安定性が相対的に低下することを確認した。また、シートレートバッファーの組成に基づいて機能性賦形剤を添加した群と機能性賦形剤を添加していない群の比較時、賦形剤を使用していない群が最も安定していたことが示され、製品製造工程の単純化、製造工程上の汚染及び均一性の問題などを総合的に考慮し、シートレートバッファー(FFS2)を使用する剤形を最終剤形として選定した。しかし、涙の生理学的pHが中性であることを考慮し、物質安定性が受容可能な水準で患者のコンプライアンスがより高いと予想されるpH6.0を最終製品のpHとして選択した。
【0089】
製造例1:タンパーナセプト眼科用組成物の製造
超純水900mlにクエン酸トリナトリウム二水和物(Tri-sodium citrate dihydrate)5.35g、クエン酸無水物(Citric acid,anhydrous)0.35g、塩化ナトリウム(sodium chloride)7.3gを入れて完全に溶かして緩衝剤を製造した。製造した緩衝剤のpHは、pH6.0±0.1であることを確認した後、メスシリンダーを用いて最終1Lに合わせて0.22μm bottle top filter systemでろ過した。
【0090】
前記製造された緩衝剤にタンパーナセプトを含めて、下記のような組成のタンパーナセプト0.25%の点眼剤組成物を製造した。
【0091】
【0092】
実験例5:タンパーナセプト眼科用組成物の安定性の評価
製造例1によるタンパーナセプト眼科用組成物の安定性を評価した。
【0093】
長期保管条件は5℃(湿度微調節)、加速条件は、25℃/60%RHに設定して製造例1の組成物を保管し、前述したSEC-HPLCを用いた凝集物分析とIEX-HPLCを用いた電荷変異体分析を行った。
【0094】
【0095】
表17及び
図21は、SEC-HPLCを用いた凝集物分析結果を示す。表17及び
図21に示すように、製造例1の組成物は、5℃長期保管条件で3年間保管したとき、凝集物が5%以内で誘発されて安定していることが確認された。また、25℃/60%RH加速条件で6ヶ月間保管したとき、5%以内で誘発されたことを確認した。
【0096】
【0097】
表18及び
図22~
図23は、IEX-HPLCを用いた電荷変異体分析結果を示す。表18及び
図22~
図23に示すように、製造例1の組成物は、5℃長期保管条件で3年間保管したとき、酸性変異体10%以内で誘発され、保管期間中に安定していることが確認された。塩基性変異体も10%以内で誘発され、保管期間中に安定していることが確認された
【0098】
また、25℃/60%RH加速条件で6ヶ月間保管した際、酸性変異体10%以内で誘発されたことを確認した。塩基性変異体も10%以内で誘発され、保管期間中に安定していることが確認された。
【国際調査報告】