(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】複製可能アデノウイルス4型SARS-COV-2ワクチンおよびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/861 20060101AFI20240118BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240118BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20240118BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240118BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240118BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240118BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240118BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C12N15/861 Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/50
A61P31/14
A61P37/04
A61K35/761
A61K48/00
A61K39/215
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543164
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 US2022012530
(87)【国際公開番号】W WO2022155476
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】309004585
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプリゼンテッド バイ ザ セクレタリー、デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
【氏名又は名称原語表記】THE U.S.A.AS REPRESENTED BY THE SECRETARY,DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コナーズ, マーク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA26
4B065CA45
4C084AA13
4C084MA59
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB33
4C085AA03
4C085BA71
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA59
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するように改変された複製可能アデノウイルス4型(Ad4)が記載される。組換えAd4のゲノムは、スパイクタンパク質コード配列の挿入に適合するために、アデノウイルスE3領域のうちの少なくとも一部の欠失を有するように改変される。上気道への組換えAd4の投与は、粘膜免疫を誘発し、これは、SARS-CoV-2感染からの防御のためにおよび上記ウイルスの伝播を防止するために重要である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質を発現する組換えアデノウイルス4型(Ad4)であって、ここで:
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも95%同一である;
前記組換えAd4は、複製可能である;および
前記組換えAd4のゲノムは、アデノウイルスE3領域における欠失および前記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を含む、組換えAd4。
【請求項2】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも99%同一である、請求項1に記載の組換えAd4。
【請求項3】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2を含むかまたはからなる、請求項1または請求項2に記載の組換えAd4。
【請求項4】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、融合前コンホメーションにおいて前記タンパク質を安定化するために少なくとも1つの改変を含む、請求項1に記載の組換えAd4。
【請求項5】
前記少なくとも1つの改変は、K986PおよびV987P置換を含む、請求項4に記載の組換えAd4。
【請求項6】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11または配列番号12を含むかまたはからなる、請求項4または請求項5に記載の組換えAd4。
【請求項7】
前記E3領域における前記欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K オープンリーディングフレーム(ORF)の欠失を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項8】
前記SARS-CoV-2 Sタンパク質の前記コード配列は、前記欠失されたE3領域の代わりに挿入される、請求項1~7のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項9】
前記Sタンパク質は、コドン最適化された核酸配列によってコードされる、請求項1~8のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項10】
前記コドン最適化された核酸配列は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18または配列番号19を含むかまたはからなる、請求項9に記載の組換えAd4。
【請求項11】
前記ゲノムのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも95%同一である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項12】
前記ゲノムのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも99%同一である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項13】
前記ゲノムのヌクレオチド配列は、配列番号1を含むかまたはからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換えAd4。
【請求項14】
アデノウイルスE3領域における欠失および前記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を含み、ここで前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも95%同一である、組換えアデノウイルス4型(Ad4)ベクター。
【請求項15】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも99%同一である、請求項14に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項16】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2を含むかまたはからなる、請求項14または請求項15に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項17】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、前記融合前コンホメーションにおいて前記タンパク質を安定化するために、少なくとも1つの改変を含む、請求項14に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項18】
前記少なくとも1つの改変は、K986PおよびV987P置換を含む、請求項17に記載の組換えAd4。
【請求項19】
前記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11または配列番号12を含むかまたはからなる、請求項17または請求項18に記載の組換えAd4。
【請求項20】
前記E3領域における前記欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K オープンリーディングフレーム(ORFs)の欠失を含む、請求項14~19のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項21】
前記SARS-CoV-2 Sタンパク質の前記コード配列は、前記欠失されたE3領域の代わりに挿入される、請求項14~20のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項22】
前記Sタンパク質は、コドン最適化された核酸配列によってコードされる、請求項14~21のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項23】
前記コドン最適化された核酸配列は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18または配列番号19を含むかまたはからなる、請求項22に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項24】
前記ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも95%同一である、請求項14~16のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項25】
前記ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも99%同一である、請求項14~16のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項26】
前記ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号1を含むかまたはからなる、請求項14~16のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクター。
【請求項27】
請求項1~13のいずれか1項に記載の組換えAd4または請求項14~26のいずれか1項に記載の組換えAd4ベクターおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む、免疫原性組成物。
【請求項28】
被験体においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘発する方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の請求項1~13のいずれか1項に記載の組換えAd4、請求項14~26のいずれか1項に記載の組換え複製可能Ad4ベクターまたは請求項27に記載の免疫原性組成物を投与し、それによって、前記被験体においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘発することを包含する方法。
【請求項29】
SARS-CoV-2感染に対して被験体を免疫する方法であって、前記方法は、前記被験体に、治療上有効な量の請求項1~13のいずれか1項に記載の組換えAd4、請求項14~26のいずれか1項に記載の組換え複製可能Ad4ベクターまたは請求項27に記載の免疫原性組成物を投与し、それによって、SARS-CoV-2感染に対して前記被験体を免疫することを包含する方法。
【請求項30】
投与は、鼻内投与を含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
鼻内投与は、直径10ミクロンより大きい粒子を含むエアロゾルの投与を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
約10
4~約10
6 組換えAd4粒子の用量を投与することを包含する、請求項28~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
約10
5 組換えAd4粒子の用量を投与することを包含する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記組換えAd4、前記組換えAd4ベクター、または前記免疫原性組成物は、単一用量において投与される、請求項28~33のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年1月15日出願の米国仮特許出願第63/138,221号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
分野
本開示は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現する組換え複製可能アデノウイルス4型(Ad4)ならびにSARS-CoV-2感染および伝播を阻害するための免疫原性組成物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
コロナウイルスは、軽度から中程度の上気道疾患を代表的には引き起こすウイルスの大きなファミリーである;しかし、このファミリーのうちのいくつかのメンバーは、ヒトにおいて重篤な疾患および死を引き起こし得る。過去20年間で、コロナウイルスには、ヒトにおいて、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、およびSARS-CoV-2から生じる3つの大きなアウトブレイクがあり、その中でも後者は、2019年12月に中国の武漢において初めて出現した。2021年1月当時、SARS-CoV-2は、全世界で8400万人超の人々に感染し、およそ200万人の死亡をもたらした。いくつかのSARS-CoV-2ワクチンが米国および他の国々において使用が承認されているが、粘膜免疫を誘導し、迅速に大量に生産され得る効果的なSARS-CoV-2ワクチンが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
元の武漢株に由来するまたはSARS-CoV-2変異株(例えば、ベータ(B.1.351)変異株、デルタ(B.1.617.2)変異株、ガンマ(P.1)変異株、デルタプラス変異株、またはオミクロン(B.1.1.529)変異株)に由来する野生型または改変バージョンのSタンパク質のようなSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質(「Ad4-Spike」)を発現する複製可能アデノウイルス4型(Ad4)から構成される免疫原性組成物が、本明細書で開示される。本開示のAd4ベクターにおいて、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードする遺伝子は、Ad4ワクチン株のE3領域にクローン化される。上記Sタンパク質の挿入に適合するために、E3領域のうちの少なくとも一部が、欠失される。本開示のAd4-Spikeワクチンは、他の推奨されかつ認可されたSARS-CoV-2ワクチンプラットフォームを超えるいくつかの重要な利点を有する。特に、複製ベクターとして、Ad4-Spikeは、粘膜免疫を含む永続性のある免疫応答を誘導し得る。これは、ウイルスの感染および伝播の両方を阻害するために重要な因子である。さらに、Ad4-Spikeワクチンは、比較低コストで高力価へと迅速に生成され得る。
【0005】
SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現する組換え複製可能Ad4が本明細書で提供される。上記組換えAd4のゲノムは、アデノウイルスE3領域において欠失および上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を含む。上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、天然のSタンパク質または改変されたSタンパク質(例えば、安定化または短縮化Sタンパク質)であり得る。さらに、上記Sタンパク質は、SARS-CoV-2の武漢株またはその変異株(例えば、懸念される変異株(variant of concern)(VOC))に由来し得る。
【0006】
アデノウイルスE3領域における欠失および上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を有する組換え複製可能Ad4ベクターがまた、提供される。上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、武漢株またはSARS-CoV-2変異株(例えば、VOC)のいずれかに由来する天然のSタンパク質または改変されたSタンパク質(例えば、安定化または短縮化Sタンパク質)であり得る。
【0007】
本明細書で開示される組換えAd4または組換えAd4ベクターおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む免疫原性組成物が、さらに提供される。
【0008】
被験体に、治療上有効な量の本明細書で開示される組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物を投与することによって、被験体においてSARS-CoV-2に対して免疫応答を誘発する方法およびSARS-CoV-2感染に対して被験体を免疫する方法がまた、提供される。いくつかの実施形態において、上記組換えAd4、組換えAd4ベクターまたは免疫原性組成物は、上気道に(例えば、鼻内に)投与される。
【0009】
本開示の前述および他の目的および特徴は、添付の図面を参照しながら進められる以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1:トランスフェクトしたA549細胞における安定化および短縮化設計のSARS-CoV-2スパイク発現。A549細胞を、武漢株(nCoV)に由来するSARS-CoV-2スパイクタンパク質の遺伝子を含むシャトルベクタープラスミドでトランスフェクトした。4種のスパイクタンパク質構築物を作製した: 野生型(WT)、安定化(PP)、尾部短縮化(TT)、およびエンドサイトーシスモチーフ短縮化(noEndo)。コントロールは、トランスフェクトしていない(unTF)細胞およびHIV-1エンベロープ(Env)タンパク質(FDE3)を発現するプラスミドでトランスフェクトした細胞を含んだ。スパイクおよびEnvの発現を、それぞれ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的抗体およびHIV-1 Env特異的抗体(VRC01)を使用するフローサイトメトリーによって測定した。トランスフェクトしたA549細胞におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質発現は、野生型スパイクタンパク質と比較して、変異の安定化、尾部の短縮、およびエンドサイトーシスモチーフ短縮に伴って減少した。
【
図2A】
図2A~2B:感染したA549細胞における安定化および短縮化設計のSARS-CoV-2スパイク発現。SARS-CoV-2タンパク質遺伝子を有する複製アデノウイルスを使用して、A549細胞を感染させた。武漢株に基づく3種のスパイクタンパク質設計を、A549細胞の表面での発現に関して試験した: 野生型(nCoV-WT)、PP安定化(nCoV-PP)、および尾部短縮化(nCoV-TT)スパイクタンパク質。HIV-1 Envタンパク質(FDE3)を発現する複製アデノウイルスを、感染の陽性コントロールとして使用し、感染していない(unIF)細胞を、陰性コントロールとして使用した。スパイクタンパク質の発現を、SARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的抗体を使用するフローサイトメトリーによって測定した。抗体VRC01を使用して、HIV Envの発現を検出した。nCoV-WTによるスパイクの発現を、
図2Aに示す; FDE3、nCoV-PPおよびnCoV-TTによるスパイクの発現を、
図2Bに示す。
図2A~2Bに示されるように、スパイクタンパク質の発現は、nCoV-WTおよびnCoV-PP構築物の両方で高かった。
【
図3】
図3:SARS-CoV-2スパイクタンパク質遺伝子を含む複製Ad4での免疫は、ウサギにおいて中和を誘導する。ニュージーランドホワイトウサギを、1.29×10
9 感染単位(IFU)の精製済みの複製Ad4 nCoV-WTで、0日目および28日目(矢印で示した)に免疫した。ルシフェラーゼアッセイを使用して、武漢SARS-CoV-2シュードウイルスに対する血清中和を、免疫の4週間後に(2回目の用量の前に)開始して検出したところ、免疫後12週間まで増加し続けた。
【
図4】
図4:nCoV-PP、nCoV-WT、nCoV-尾部短縮化、およびnCoV-No-Endoスパイクタンパク質のアミノ酸アラインメント。アラインメントは、SARS-Cov-2野生型(武漢)スパイクタンパク質に導入された3つの変異の位置を示す。nCoV-PPは、アミノ酸位置986および987において二重プロリン安定化置換を含む; nCoV-尾部短縮化は、細胞質尾部における末端の24個のアミノ酸の欠失を含む; nCoV-No-Endoは、末端エンドサイトーシスシグナル伝達モチーフ(末端の5残基)の欠失を含む。アミノ酸の番号付けは、配列番号2として本明細書に示される野生型スパイクタンパク質を参照している。
【
図5】
図5A~5B:ハムスターでの鼻内Ad4-SARS-CoV-2
WuPPの用量漸増における武漢シュードウイルスに対する血清中和。シリアンゴールデンハムスターに、10
2~10
7 感染形成単位(IFU)の、PP安定化(Ad4-SARS-CoV-2
WuPP)を有するAd4-SARS-CoV-2武漢スパイクを鼻内に投与した。武漢シュードウイルスに対する血清中和を、4週目(
図5A)および8週目(
図5B)に測定した。Ad4-SARS-CoV-2
WuPPの最高用量に関しては両方の時点において強い中和が観察された。
【
図6A-B】
図6A~6E:ハムスターにおける、示されたVOCスパイクを発現する鼻内Ad4-SARS-CoV-2の血清中和。シリアンゴールデンハムスターに、武漢株(Ad4-CoV2-武漢)、ベータ変異株(Ad4-CoV2-SA)、デルタ変異株(Ad4-CoV2-インド)またはガンマ変異株(Ad4-CoV2-ブラジル)、またはベータ変異株RBD(Ad-CoV2-Wu/RBD-SA)を有する安定化キメラスパイクタンパク質のいずれかから安定化スパイクタンパク質を発現する鼻内Ad4で免疫した。インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンを発現するAd4(Ad4-H5)および偽接種を、陰性コントロールとして含めた。武漢シュードウイルス(
図6A)またはデルタシュードウイルス(
図6B)に対する血清中和は、鼻内投与後28日で決定された。さらに、武漢シュードウイルス(
図6C)、デルタシュードウイルス(
図6D)およびオミクロンシュードウイルス(
図6E)に対する血清中和は、鼻内投与後56日で決定された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
配列表
添付の配列表において列挙される核酸配列およびアミノ酸配列は、米国特許法施行規則1.822に規定されるように、ヌクレオチド塩基に関する標準的な文字による略記、およびアミノ酸に関する三文字コードを使用して示される。各核酸配列の一方の鎖のみが示されるが、その相補鎖は、その示される鎖に対する任意の参照によって含まれると理解される。配列表は、ASCIIテキストファイル(2022年1月14日作成、199 KB)として提出され、これは、本明細書において参考として援用される。添付の配列表は、以下である:
【0012】
配列番号1は、Ad4-SARS-CoV-2スパイクベクターのヌクレオチド配列である。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
【化1-5】
【化1-6】
【化1-7】
【化1-8】
【化1-9】
【0013】
配列番号2は、GenBank Accession No. YP_009724390.1の下で寄託された野生型 SARS-CoV-2(武漢株)スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化2-1】
【化2-2】
【0014】
配列番号3は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2スパイクタンパク質(nCoV-PP)のアミノ酸配列である。
【化3】
【0015】
配列番号4は、尾部短縮化SARS-CoV-2スパイクタンパク質(nCoV-TT)のアミノ酸配列である。
【化4】
【0016】
配列番号5は、C末端エンドサイトーシスモチーフを欠いているSARS-CoV-2スパイクタンパク質(nCoV-noEndo)のアミノ酸配列である。
【化5-1】
【化5-2】
【0017】
配列番号6は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする核酸配列である。
【化6】
【0018】
配列番号7は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2ベータ変異株スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化7-1】
【化7-2】
【0019】
配列番号8は、ベータ変異株のRBDおよび武漢株に由来する残りの配列を含む安定化二重プロリン置換キメラSARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化8】
【0020】
配列番号9は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2 デルタ変異株スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化9】
【0021】
配列番号10は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2ガンマ変異株スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化10】
【0022】
配列番号11は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2 デルタプラス変異株スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化11】
【0023】
配列番号12は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2オミクロン変異株スパイクタンパク質のアミノ酸配列である。
【化12】
【0024】
配列番号13は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2ベータ変異株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化13】
【0025】
配列番号14は、ベータ変異株のRBDおよび武漢株に由来するその残りの配列を含む安定化二重プロリン置換キメラSARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化14-1】
【化14-2】
【0026】
配列番号15は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2デルタ変異株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化15-1】
【化15-2】
【0027】
配列番号16は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2ガンマ変異株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化16-1】
【化16-2】
【0028】
配列番号17は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2デルタプラス変異株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化17-1】
【化17-2】
【0029】
配列番号18は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2オミクロン変異株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化18-1】
【化18-2】
【0030】
配列番号19は、二重プロリン置換を有する安定化SARS-CoV-2武漢株スパイクタンパク質をコードするコドン最適化された核酸配列である。
【化19】
【0031】
詳細な説明
I.略語
Ad アデノウイルス
CoV コロナウイルス
COVID-19 コロナウイルス感染症2019
Env エンベロープ
GI 消化管の
HIV ヒト免疫不全ウイルス
IFU 感染形成単位
IM 筋肉内
IN 鼻内
OPV 経口ポリオウイルス
PP 二重タンパク質置換
S スパイクタンパク質
SARS 重症急性呼吸器症候群
TT 尾部短縮化
URT 上気道
VOC 懸念される変異株
Wu 武漢株
【0032】
II.用語
別段注記されなければ、技術用語は、従来の使用法に従って使用される。分子生物学における一般的な用語の定義は、以下において見出され得る:Jones & Bartlett Publishersによって2009年に発行されたBenjamin Lewin, Genes X;および2008年にWiley-VCHによって発行された全16巻のMeyersら(編), The Encyclopedia of Cell Biology and Molecular Medicine;ならびに他の類似の参考文献。
【0033】
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの、ある)」、「an(1つの、ある)」および「the(この、その、上記)」は、文脈が別段明らかに示さなければ、単数形および複数形の両方に言及する。例えば、用語「抗原(an antigen)」とは、1つのまたは複数の抗原を含み、語句「少なくとも1つの抗原」に等しいと考えられ得る。本明細書で使用される場合、用語「含む、包含する(comprises)」とは、「含む、包含する、が挙げられる(includes)」を意味する。核酸またはポリペプチドに関して示される任意のおよび全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子量または分子質量の値は、別段示されなければ、概算値であり、説明目的で提供されることがさらに理解されるべきである。本明細書で記載されるものに類似または等しい多くの方法および材料が使用され得るが、特定の適した方法および材料が本明細書で記載される。矛盾する場合には、本明細書が、用語を含めて優先する。さらに、材料、方法および例は、例証目的に過ぎず、限定であることは意図されない。種々の実施形態の検討を容易にするために、以下の用語の説明が提供される:
【0034】
アデノウイルス: 直線状の2本鎖DNAゲノムおよび二十面体カプシドを有する、エンベロープのないウイルス。ヒトアデノウイルスの少なくとも68の公知の血清型が存在し、これらは、7つの種(種A、B、C、D、E、FおよびG)に分けられる。アデノウイルスの血清型が異なれば、関連する疾患のタイプも異なり、いくつかの血清型は、呼吸器疾患(主に種BおよびC)、結膜炎(種BおよびD)、および/または胃腸炎(種FおよびG)を引き起こす。アデノウイルス4型(Ad4)は、急性呼吸器疾患および眼の疾患を引き起こし得る種Eのウイルスである。アデノウイルスベースのベクターは、種々の治療適用(ワクチンおよび遺伝子治療ベクターを含む)に一般に使用される。本明細書中のいくつかの実施形態において、上記アデノウイルスベクターは、E3領域における完全または部分的な欠失を有するヒト複製可能Ad4である。
【0035】
アジュバント: 抗原性を増強するために使用される免疫原性組成物の成分。いくつかの実施形態において、アジュバントは、抗原が吸着される無機物(ミョウバン、水酸化アルミニウム、またはリン酸塩)の懸濁物;または油中水型エマルジョン(例えば、そこでは抗原溶液が、ミネラルオイル(フロイント不完全アジュバント)中に乳化され、時には、抗原性をさらに増強する(抗原の分解を阻害するおよび/またはマクロファージの流入を引き起こす)ために、殺滅したマイコバクテリアを含める(フロイント完全アジュバント)こともある)を含む。いくつかの実施形態において、本開示の免疫原性組成物において使用されるアジュバントは、レシチンおよびカルボマーホモポリマー(例えば、Advanced BioAdjuvants, LLCから市販されるADJUPLEXTMアジュバント;Wegmann, Clin Vaccine Immunol 22(9): 1004-1012, 2015も参照のこと)の組み合わせである。本開示の免疫原性組成物において使用するためのさらなるアジュバントとしては、QS21精製植物抽出物、Matrix M、AS01、MF59、およびALFQアジュバントが挙げられる。免疫刺激性オリゴヌクレオチド(例えば、CpGモチーフを含むもの)はまた、アジュバントとして使用され得る。アジュバントは、共刺激分子のような生物学的分子(「生物学的アジュバント」)を含む。例示的なアジュバントとしては、IL-2、RANTES、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、G-CSF、LFA-3、CD72、B7-1、B7-2、OX-40L、4-1BBLおよびtoll様レセプター(TLR)アゴニスト(例えば、TLR-9アゴニスト)が挙げられる。当業者は、アジュバントに精通している(例えば、Singh(編) Vaccine Adjuvants and Delivery Systems. Wiley-Interscience, 2007を参照のこと)。
【0036】
投与: 選択された経路による被験体への組成物の導入。投与は、局所または全身であり得る。例えば、選択された経路が静脈内である場合、上記組成物は、被験体の静脈へと組成物を導入することによって投与される。例示的な投与経路としては、鼻内、吸入、経口、注射(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、および静脈内)、舌下、直腸、経皮(例えば、局所)および膣経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
コドン最適化された: コドンが特定のシステム(例えば、特定の種または種の群)での発現に最適であるように変化させた核酸配列。例えば、核酸配列は、哺乳動物細胞においてまたは特定の哺乳動物種(例えば、ヒト細胞)において発現するために最適化され得る。コドン最適化は、そのコードされるタンパク質のアミノ酸配列を変化させない。
【0038】
保存的改変体(conservative variant): タンパク質(例えば、コロナウイルススパイクタンパク質)の機能に実質的に影響を及ぼさず、減少させない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質。「保存的」アミノ酸置換とは、タンパク質の機能(例えば、被験体に投与される場合に、タンパク質が免疫応答を誘発する能力)に実質的に影響を及ぼさず、減少させないそれらの置換である。保存的バリエーションという用語はまた、置換されていない親アミノ酸の代わりに、置換されたアミノ酸の使用を含む。さらに、コードされた配列において1個のアミノ酸またはアミノ酸の小さなパーセンテージ(例えば、5%未満、いくつかの実施形態においては1%未満)を変化させるか、付加するかまたは欠失させる個々の置換、欠失または付加は、その変化が、あるアミノ酸の化学的に類似のアミノ酸による置換をもたらす場合、保存的バリエーションである。
【0039】
以下の6個の群は、互いに対して保存的置換であると見做されるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0040】
非保存的置換は、組換えEnvタンパク質のようなタンパク質の活性または機能(例えば、被験体に投与される場合に免疫応答を誘発する能力)を低減するものである。例えば、アミノ酸残基が上記タンパク質の機能に必須である場合、他の点で保存的な置換であっても、その活性を妨害し得る。従って、保存的置換は、目的のタンパク質の基本的な機能を変化させない。
【0041】
コロナウイルス: ヒトおよび非ヒト動物に感染し得るプラス鎖の1本鎖RNAウイルスの大きなファミリー。コロナウイルスは、それらの表面に王冠様のスパイクがあることからそれらの名称が付けられている。そのウイルスエンベロープは、ウイルス膜(M)、エンベロープ(E)およびスパイク(S)タンパク質を含む脂質二重層から構成される。大部分のコロナウイルスは、軽度から中程度の上気道の病気(例えば、風邪)を引き起こす。しかし、より重篤な病気および死亡を引き起こし得る3つのコロナウイルスが出現した: 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、SARS-CoV-2、および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)。ヒトに感染する他のコロナウイルスとしては、ヒトコロナウイルスHKU1(HKU1-CoV)、ヒトコロナウイルスOC43(OC43-CoV)、ヒトコロナウルス229E(229E-CoV)、およびヒトコロナウルス NL63(NL63-CoV)が挙げられる。
【0042】
COVID-19: コロナウルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患。
【0043】
縮重改変体(degenerate variant): 遺伝コードの結果として縮重している配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。20の天然アミノ酸が存在し、そのうちの大部分は、1より多くのコドンによって特定される。従って、全ての縮重ヌクレオチド配列は、上記ポリペプチドのアミノ酸配列が変化していない限りにおいて含まれる。
【0044】
E3領域: アデノウイルス初期領域3(E3)遺伝子をいう。これは、複数のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。ヒトアデノウイルス4型(Ad4)のE3領域は、以下のORFを含む: 12.1K、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K。本明細書中のいくつかの実施形態において、E3領域における欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFの欠失を含む。他の実施形態において、E3領域における欠失は、24.8K、6.3Kおよび29.7K ORFのみの欠失である。
【0045】
異種の: 別個の遺伝的供給源または種に由来すること。例えば、異種ポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは、異なる供給源または種に由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。
【0046】
免疫応答: 刺激に対する免疫系の細胞(例えば、B細胞、T細胞、または単球)の応答。いくつかの実施形態において、上記応答は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のような特定の抗原に対して特異的である(「抗原特異的応答」)。いくつかの実施形態において、上記免疫応答は、T細胞応答(例えば、CD4+応答またはCD8+応答)である。他の実施形態において、上記応答は、B細胞応答であり、特異的抗体の生成を生じる。「免疫応答を感作する(priming an immune response)」とは、免疫応答を誘導するために「感作(prime)」免疫原/免疫原性組成物での被験体の処置をいう。その免疫応答は、その後、ブースト免疫原/免疫原性組成物で「ブーストされ」る。まとめると、感作およびブースト免疫は、被験体において所望の免疫応答を生成する。
【0047】
免疫原性組成物: 免疫原または免疫原(例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質)をコードする核酸分子またはベクターを含み、被験体に投与された場合に、上記免疫原に対して測定可能なCTL応答を誘発するおよび/または上記免疫原に対して測定可能なB細胞応答(例えば、抗体の生成)を誘発する組成物。それはさらに、免疫原をコードする単離された核酸(例えば、免疫原を発現するために使用され得る(従って、この免疫原に対する免疫応答を誘発するために使用され得る)核酸)をいう。インビボでの使用に関しては、上記免疫原性組成物は、薬学的に受容可能なキャリア中に上記タンパク質または核酸分子を含み得、アジュバントのような他の剤をも含み得る。
【0048】
免疫する: 被験体を、特定の感染性因子(例えば、SARS-CoV-2)による感染から保護された状態にすること。免疫は、100%保護を要求しない。いくつかの例では、免疫は、免疫の非存在下での感染と比較して、感染に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の保護を提供する。
【0049】
単離された: 「単離された」生物学的成分は、他の生物学的成分(例えば、その成分が天然に存在する他の生物学的成分(例えば、他の染色体のおよび染色体外のDNA、RNA、およびタンパク質)から実質的に分離または精製されている。「単離され」ているタンパク質、ペプチド、核酸、およびウイルスとしては、標準的精製法によって精製されたものが挙げられる。単離されたは、絶対的な純度を要求せず、少なくとも50% 単離されている(例えば、少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、99%、またはさらには99.9% 単離されている)タンパク質、ペプチド、核酸、またはウイルス分子を含み得る。
【0050】
中和抗体: 感染性因子(例えば、ウイルス(例えば、コロナウルス))上の特定の抗原に結合することによって、その感染性因子の感染力価を低減する抗体。いくつかの実施形態において、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して特異的な抗体は、SARS-CoV-2の感染力価を中和する。例えば、SARS-CoV-2を中和する抗体は、ウイルスを直接結合し、細胞への進入を制限することによって、ウイルスに干渉し得る。あるいは、中和抗体は、病原体とレセプターとの1またはこれより多くの結合後相互作用に、例えば、レセプターを使用するウイルス進入に干渉することによって、干渉し得る。いくつかの実施形態において、SARS-CoV-2中和抗体は、コントロール抗体と比較して、細胞のSARS-CoV-2感染を、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%阻害する。
【0051】
薬学的に受容可能なキャリア: 有用な、薬学的に受容可能なキャリアは、従来どおりである。Remington’s Pharmaceutical Sciences, by E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 第19版, 1995は、本開示の免疫原(例えば、SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現する組換えAd4)および免疫原性組成物の薬学的送達に適した組成物および製剤を記載する。
【0052】
概して、キャリアの性質は、使用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口的製剤は通常、薬学的にかつ生理学的に受容可能な流体(例えば、ビヒクルとしての水、生理食塩水、平衡化塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなど)を含む注射可能な流体を含む。固体組成物(例えば、粉剤・散剤(powder)、丸剤、錠剤、またはカプセル剤の形態)に関しては、従来の非毒性固体キャリアとしては、例えば、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。生物学的に中性のキャリアに加えて、投与される医薬組成物は、微量の非毒性補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝化剤など(例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレート))を含み得る。被験体への投与に適した特定の実施形態において、上記キャリアは、無菌であり得る、および/または懸濁され得る、もしくはそうでなければ、所望の抗SARS-CoV-2免疫応答を誘発するために適した組成物の1またはこれより多くの測定された用量を含む単位剤形において含まれ得る。それはまた、処置目的のためのその使用のために、薬物療法が付随し得る。上記単位剤形は、例えば、無菌の内容物を含む密封されたバイアル、被験体への注射用のシリンジ、または後の可溶化および投与のための凍結乾燥されたもの、または固体もしくは放出制御投与量にあり得る。
【0053】
疾患防止すること、処置することまたは改善すること: 疾患を「防止すること」とは、疾患の完全な発生を阻害することをいう。「処置すること」とは、疾患または病的状態が発生し始めた後のその疾患または病的状態の徴候または症状を改善する治療介入(例えば、ウイルス負荷の低減)をいう。「改善すること」とは、疾患(例えば、コロナウルス感染)の徴候または症状の数または重篤度の低減をいう。
【0054】
組換え: 組換え核酸、ベクターまたはウイルスは、天然には存在しない配列を有するか、または配列の2つの他の方法で分離されたセグメントの人工的な組み合わせによって作製される配列を有するものである。この人工的な組み合わせは、例えば、遺伝子操作技術を使用する、例えば、核酸の単離されたセグメントの人工的な操作によって達成され得る。
【0055】
複製可能ウイルス(replication-competent virus): ゲノム複製およびタンパク質合成を受けて、子孫ウイルスを生成し得るウイルス。
【0056】
配列同一性: アミノ酸配列間またはヌクレオチド配列間の類似性は、その配列の間の類似性の観点で表現され、別段、配列同一性といわれる。配列同一性は頻繁に、パーセンテージ同一性の点で測定される; パーセンテージが高いほど、その2つの配列はより類似している。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドのホモログ、オルソログ、または改変体は、標準的な方法を使用して整列させた場合に、比較的高い配列同一性の程度を有する。
【0057】
比較のための配列のアラインメントの方法は、公知である。種々のプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、以下において記載される: Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988; Higgins & Sharp, Gene, 73:237-44, 1988; Higgins & Sharp, CABIOS 5:151-3, 1989; Corpetら, Nuc. Acids Res. 16:10881-90, 1988; Huangら Computer Appls. In the Biosciences 8, 155-65, 1992;およびPearsonら, Meth. Mol. Bio. 24:307-31, 1994。Altschulら, J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990は、配列アラインメント方法および相同性計算の詳細な考慮事項を示す。
【0058】
ポリペプチドまたは核酸配列の改変体は、代表的には、目的のアミノ酸またはヌクレオチド配列との全長アラインメントにわたって計数して、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99% 配列同一性を有することによって特徴づけられる。参照配列に対してさらにより高い類似性を有する配列は、この方法によって評価される場合にパーセンテージ同一性の増加を示す(例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99% 配列同一性)。全体の配列より短いものが配列同一性に関して比較されている場合、ホモログおよび改変体は、代表的には、10~20アミノ酸(または30~60ヌクレオチド)の短い範囲(short window)にわたって少なくとも80% 配列同一性を有し、参照配列に対するそれらの類似性に依存して、少なくとも85%または少なくとも90%または95%の配列同一性を有し得る。このような短い範囲にわたって配列同一性を決定するための方法は、インターネット上のNCBIウェブサイトにおいて利用可能である。
【0059】
本明細書で使用される場合、「少なくとも90%同一性」(または類似の文言)への言及は、特定の参照配列と「少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはさらには100%同一性」に言及する。
【0060】
SARS-CoV-2: 2019年にヒトにおいて初めて出現したベータコロナウルス属のコロナウルス。このウイルスは、武漢コロナウルス、2019-nCoV、または2019年新型コロナウルスとしても公知である。用語「SARS-CoV-2」は、その変異株(例えば、アルファ(B.1.1.7およびQ系統);ベータ(B.1.351および子孫系統);デルタ(B.1.617.2およびAY系統);ガンマ(P.1および子孫系統);イプシロン(B.1.427およびB.1.429);エータ(B.1.525);イオタ(B.1.526);カッパ(B.1.617.1);1.617.3;ミュー(B.1.621、B.1.621.1)、ゼータ(P.2)およびオミクロン(B.1.1.529およびBA系統)が挙げられるが、これらに限定されない)を含む。SARS-CoV-2感染の症状としては、発熱、悪寒、乾性咳嗽、息切れ、疲労、筋/身体の疼痛、頭痛、味覚もしくは嗅覚の新たな喪失、喉の痛み、悪心もしくは嘔吐、および下痢が挙げられる。重篤な疾患を有する患者は、肺炎、多臓器不全、および死亡を生じ得る。曝露から症状の開始までの時間は、およそ2~14日間である。SARS-CoV-2ビリオンは、大きなスパイク糖タンパク質を有するウイルスエンベロープを含む。SARS-CoV-2ゲノムは、大部分のコロナウルスと同様に、共通のゲノム組織化を有し、ゲノムの5’側2/3にレプリカーゼ遺伝子が含まれ、ゲノムの3’側1/3に構造遺伝子が含まれる。SARS-CoV-2ゲノムは、順に、5’-スパイク(S)-エンベロープ(E)-膜(M)およびヌクレオカプシド(N)-3’の構造タンパク質遺伝子の標準セットをコードする。
【0061】
SARSスパイク(S)タンパク質: SARS-CoVについてはおよそ1256アミノ酸、およびSARS-CoV-2については1273アミノ酸の前駆体タンパク質として最初に合成されるクラスI融合糖タンパク質。個々の前駆体Sポリペプチドは、ホモトリマーを形成し、ゴルジ装置内でグリコシル化を受け、ならびにプロセシングを受けて、シグナルペプチドを除去し、SARS-CoVに関してはおよそ位置679/680の間で、およびSARS-CoV-2に関しては685/686の間で細胞プロテアーゼによって切断を受けて、別個のS1およびS2ポリペプチド鎖を生成する。これらは、上記ホモトリマー内でS1/S2プロトマーとして会合したままであり、それによって、ヘテロダイマーのトリマーを形成する。S1サブユニットは、ウイルス膜に対して遠位にあり、その宿主レセプターへのウイルス結合を媒介すると考えられるレセプター結合ドメイン(RBD)を含む。S2サブユニットは、融合タンパク質装置(例えば、融合ペプチド)を含むと考えられる。S2はまた、融合糖タンパク質、膜貫通ドメイン、およびサイトゾル尾部ドメインの典型的な、2つのヘプタッドリピート配列(HR1およびHR2)および中央ヘリックスを含む。例示的な野生型(武漢株)SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列は、配列番号2として本明細書に示される。例示的な改変された武漢SARS-CoV-2スパイクタンパク質配列は、配列番号3~5として本明細書に示される。さらに、例示的なSARS-CoV-2変異株スパイクタンパク質配列は、配列番号7~12として本明細書に示される。
【0062】
被験体: 生きている多細胞脊椎動物であって、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含むカテゴリー。いくつかの実施形態において、上記被験体はヒトである。いくつかの例では、SARS-CoV-2感染を阻害または防止する必要性のある被験体が選択される。例えば、上記被験体は、感染しておらずかつSARS-CoV-2感染のリスクにあり得る。
【0063】
治療上有効な量: 処置されている被験体において所望の効果(例えば、防御的免疫応答)を達成するために十分な特定の物質(例えば、本開示の免疫原(例えば、SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現する組換えAd4)または免疫原性組成物の分量。「治療上有効な量」は、SARS-CoV-2複製を阻害するか、または存在するSARS-CoV-2感染を有する被験体においてCOVID-19を処置するために必要な量であり得る。「予防上有効な量(prophylactically effective amount)」とは、感染(例えば、SARS-CoV-2による感染)の確立を阻害または防止する薬剤または組成物の投与に言及する。それは、目的の抗原に対する防御的免疫応答を得るために、本開示の免疫原/免疫原性組成物の複数回の投与、および/またはブースト免疫原が感作免疫原性組成物とは異なり得る感作ブーストプロトコールにおける、「感作」として本開示の組成物の投与が必要とされ得ることは理解される。よって、本開示の免疫原/免疫原性組成物の有効量は、被験体において感作免疫応答を誘発するために十分な免疫原または免疫原性組成物の量であり得る。上記被験体は、防御的免疫応答を誘発するために同じかまたは異なる免疫原でその後ブーストされ得る。
【0064】
1つの例では、所望の応答は、SARS-CoV-2感染を阻害または防止する免疫応答を誘発することである。SARS-CoV-2感染細胞は、上記組成物が有効であるために、完全に排除または防止される必要はない。例えば、免疫原または免疫原性組成物の有効量の投与は、免疫の非存在下でのSARS-CoV-2感染細胞の数と比較して、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%(検出可能なSARS-CoV-2感染細胞の排除または防止)まで、所望の量によって、SARS-CoV-2感染細胞の数を減少させる(または細胞の感染を防止する)免疫応答を誘発し得る。
【0065】
単位剤形: ヒト患者に対して単位投与量として適している物理的に別個の単位(例えば、カプセル剤、錠剤、または液剤)であって、各単位は、少なくとも1種の薬学的に受容可能な希釈剤もしくはキャリア、またはこれらの組み合わせと会合した状態で、治療効果を生じるために計算された1またはこれより多くの活性成分の所定の量を含むもの。
【0066】
ワクチン: 被験体において予防的または治療的免疫応答を誘発する医薬組成物。いくつかの場合では、上記免疫応答は、防御的免疫応答である。代表的には、ワクチンは、病原体(例えば、ウイルス病原体)の抗原に対して、または病的状態と相関する細胞成分に対して、抗原特異的免疫応答を誘発する。ワクチンは、ポリヌクレオチド(例えば、本開示の抗原をコードする核酸)、ペプチドもしくはポリペプチド(例えば、本開示の抗原)、ウイルス、細胞または1もしくはこれより多くの細胞成分を含み得る。1つの具体的な非限定的例では、ワクチンは、SARS-CoV-2感染と関連する症状の重篤度を低減する、および/またはコントロールと比較して、ウイルス負荷を減少させる。別の非限定的例では、ワクチンは、コントロールと比較して、SARS-CoV-2感染および/または伝播を低減する。
【0067】
ベクター: 目的のタンパク質(例えば、免疫原性タンパク質)のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター(複数可)を有し、そのコード配列を発現し得るDNAもしくはRNA分子を含む実体。非限定的例としては、裸のもしくはパッケージされた(脂質および/もしくはタンパク質)DNA、裸のもしくはパッケージされたRNA、複製不能であり得るウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物の副次成分、または複製可能であり得るウイルスもしくは細菌もしくは他の微生物を含む。ベクターはときおり、構築物といわれる。組換えDNAベクターは、組換えDNAを有するベクターである。ベクターは、宿主細胞において複製を可能にする核酸配列(例えば、複製起点)を含み得る。ベクターはまた、1またはこれより多くの選択マーカー遺伝子および他の遺伝的要素を含み得る。ウイルスベクターは、1またはこれより多くのウイルスに由来する少なくともいくつかの核酸配列を有する組換え核酸ベクターである。ウイルスベクターの非限定的例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、およびポックスウイルスベクター(例えば、ワクシニア、鶏痘)が挙げられる。
【0068】
III.緒言
免疫系にウイルス糖タンパク質を提示するための利用可能なワクチンプラットフォームのうち、複製ベクターは、大部分の非複製ベクターを超えるいくつかの重要な利点を有する(Robert-Guroff, Curr Opin Biotechnol 18(6):546-556, 2007)。複製可能ベクターは、ウイルス表面タンパク質を発現し得、その結果、抗原の合計用量は、非複製ベクターのものを遙かに超える。複製粘膜ワクチンは、粘膜免疫(IgAおよびIgG抗体を含む)、およびバランスのとれたT細胞応答(常在する記憶T細胞を含む)を誘導する。さらに、複製ベクター(例えば、複製可能アデノウイルス(Ad)ベクター)は、生ウイルスの感染と同様に、長期間にわたってウイルス糖タンパク質を発現する。この特徴は、リンパ節中の樹状細胞の負荷および永続性のある抗体応答の誘導にとって重要であると考えられる(Cirelliら, Cell 177(5): 1153-1171, 2019; Tamら, Proc Natl Acad Sci USA 113(43): E6639-E6648, 2016; Muellerら, Mol Pharm 12(5): 1356-1365, 2015)。これらの特徴の各々は、複製ウイルスワクチン接種後に観察される免疫応答の規模および持続性に寄与する。
【0069】
本明細書で開示されるワクチン構築物は、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質をコードする複製可能Ad4である。Ad4ワクチン株に由来する本開示のAd4ベクターでは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする遺伝子は、複数のE3 ORFの欠失を有するE3領域へとクローン化される。親Ad4ワクチンベクターは、優れた安全性の記録とともに、1000万人超の人々に与えられている。Ad4組換え体は、インフルエンザウイルスH5およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)エンベロープ(Env)およびGagタンパク質の両方に関して開発された。これらのAd4ベースのワクチンは、免疫原性に関するウサギでの前臨床試験およびフェーズI臨床試験におけるヒト試験を経ている。
【0070】
上記複製可能Ad4ベースのワクチンプラットフォームは、他の提唱されかつ認可されたSARS-CoV-2ワクチンと比較して、いくつかの別個の利点を有する。例えば、Ad4ワクチンの有効性は、米国軍において単一用量腸溶カプセルとして慣用的に投与され、95%超の有効性とともに呼吸器疾患を防止することが見出されていることから、既に確立されている。さらに、鼻内にまたは扁桃に投与される場合、複製可能Ad4ベースのワクチンは、ヒト被験体において中和抗体応答を誘導する。上気道投与はまた、大部分の人々において、既存のAd4免疫を回避する。粘膜免疫を誘導することによって、上記Ad4ベースのワクチンプラットフォームは、ワクチン接種した被験体に防御を提供するのみならず、SARS-CoV-2の他への伝播を妨害する潜在的能力をも有する。非複製ウイルスワクチンとは対照的に、上記複製可能Ad4ベースのシステムは、永続性のある免疫応答を生じる。さらに、mRNAベースのSARS-CoV-2ワクチンとは異なり、Ad4ワクチンは、4~8℃において長期間貯蔵され得る。さらに、本開示のワクチンプラットフォームは、拡張可能性およびコストの点において比類ないものである。本開示のSARS-CoV-2 ワクチンが、1用量あたり1セント未満で生成され得ると予測される。
【0071】
IV.実施形態の概説
SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質を発現する組換えアデノウイルス4型(Ad4)(いくつかの実施形態においては、「Ad4-SARS-CoV-2-spike」または「Ad4-Spike」といわれる)、上記組換えAd4-Spikeをコードする組換えAd4核酸ベクター、およびその免疫原性組成物が、本明細書で開示される。
【0072】
1つの局面において、SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現する組換えAd4が,本明細書で提供される。上記組換えAd4は、複製可能であり、上記Ad4のゲノムは、アデノウイルスE3領域における欠失および上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を含む。いくつかの実施形態において、上記Sタンパク質のアミノ酸配列は、天然のSタンパク質(例えば、配列番号2として本明細書に示される武漢SARS-CoV-2株のSタンパク質)のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体例では、上記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2を含むかまたはからなる。
【0073】
SARS-CoV-2 Sタンパク質の残基に関して本明細書で使用されるアミノ酸番号付けは、配列番号2として提供される野生型武漢株SARS-CoV-2 S配列を参照して行われる。配列番号2として提供されるSARS-CoV-2 Sタンパク質配列を参照すると、SARS-CoV-2 Sタンパク質のエクトドメインは、約残基16~1208を含む。残基1~15は、シグナルペプチドであり、これは、細胞プロセシングの間に除去される。S1/S2切断部位は、位置685/686に位置する。HR1は、約残基915~983に位置する。中央ヘリックスは、約残基988~1029に位置する。HR2は、約1162~1194に位置する。S2エクトドメインのC末端は、約残基1208に位置する。Sタンパク質の位置の番号付けは、SARS-CoV-2株間で変動し得るが、配列は、関連する構造ドメインおよび切断部位を決定するために整列され得る(例えば、
図4を参照のこと)。
【0074】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4は、HR1ドメインと中央ヘリックスドメインとの間の境界においてまたは境界付近において、融合前コンホメーションにおいてSタンパク質を安定化する1またはこれより多くの(例えば、2個の、例えば、2個連続の)プロリン置換を含むSARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列を含む。いくつかのこのような実施形態において、融合前コンホメーションにおいてSタンパク質を安定化する上記1またはこれより多くの(例えば、2個の、例えば、2個連続の)プロリン置換は、HR1のC末端残基のうちのN末端側にある位置15のアミノ酸と、中央ヘリックスのN末端残基のうちのC末端側にある位置5のアミノ酸との間に位置する。いくつかの実施形態において、融合前コンホメーションにおいてSARS-CoV-2 Sタンパク質を安定化する上記1またはこれより多くの(例えば、2個の、例えば、2個連続の)プロリン置換は、残基975~995(例えば、981~992)の間に位置する。いくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、K986PおよびV987P置換(「PP」または「2P」)によって融合前コンホメーションにおいて安定化される。いくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、トリマーにあるSエクトドメインプロトマーの位置D985、K986、またはV987において1または2個のプロリン置換によって、融合前コンホメーションにおいて安定化される。いくつかの例では、上記1またはこれより多くのプロリン置換(例えば、K986PおよびV987P置換)によって融合前コンホメーションにおいて安定化されるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、融合前コンホメーションにおける安定化のための1またはこれより多くのさらなる改変を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4ゲノムによってコードされるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号3(武漢-PP)と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を含み、ここで上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、本明細書で提供される改変(例えば、K986PおよびV987P置換)のうちの1またはこれより多くのもので、融合前コンホメーションにおいて安定化される。他の実施形態において、上記安定化されたプロリン置換Sタンパク質は、SARS-CoV-2変異株に由来する。いくつかの例では、SARS-CoV-2変異株に由来する安定化Sタンパク質は、配列番号7(ベータ-PP)、配列番号8(武漢/RDB-ベータ-PP)、配列番号9(デルタ-PP)、配列番号10(ガンマ-PP)、配列番号11(デルタプラス-PP)または配列番号12(オミクロン-PP)と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を含む。特定の例では、上記安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11または配列番号12を含むかまたはからなる。
【0076】
他の実施形態において、上記組換えAd4ゲノムによってコードされるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、C末端短縮(例えば、細胞質尾部の短縮またはエンドサイトーシスモチーフの短縮)を含む。具体例では、短縮化SARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはからなる。
【0077】
SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードする例示的な核酸配列は、配列番号6として提供される。いくつかの例では、上記Sタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号6と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体的な非限定的例では、上記Sタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号6を含むかまたはからなる。
【0078】
上記で提供される例示的なSARS-CoV-2 Sタンパク質のDNA配列は、融合前安定化のために。本明細書で開示されるアミノ酸置換および欠失を導入するために改変され得る。いくつかの実施形態において、このDNA配列(アミノ酸置換を導入するための改変ありまたはなし)は、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードする配列として上記組換えAd4ベクター中に含められ得る。いくつかの実施形態において、上記Sタンパク質は、コドン最適化された核酸配列によってコードされる。いくつかの例では、上記Sタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号13(ベータ-PP)、配列番号14(武漢/RBDベータ-PP)、配列番号15(デルタ-PP)、配列番号16(ガンマ-PP)、配列番号17(デルタプラス-PP)、配列番号18(オミクロン-PP)または配列番号19(武漢-PP)と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体例では、上記Sタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号13~19のうちのいずれか1つを含むかまたはからなる。
【0079】
いくつかの実施形態において、上記E3領域における欠失は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、または少なくとも7つのE3オープンリーディングフレーム(ORF)の欠失である。いくつかの例では、上記欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFのうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、または少なくとも7つを含む。特定の非限定的例では、上記E3領域における欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFの各々の欠失を含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列は、E3領域の欠失された部分の代わりに挿入される。
【0081】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4のゲノムのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。いくつかの例では、上記組換えAd4のゲノムのヌクレオチド配列は、配列番号1を含むかまたはからなる。
【0082】
組換え複製可能Ad4核酸ベクターがまた、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記組換えAd4ベクターは、上記アデノウイルスE3領域における欠失および上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列の挿入を含む。いくつかの実施形態において、上記Sタンパク質のアミノ酸配列は、天然のSタンパク質(例えば、配列番号2として本明細書で示される武漢SARS-CoV-2株のSタンパク質)のアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体例では、上記Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号2を含むかまたはからなる。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、K986PおよびV987P置換(「PP」または「2P」)によって融合前コンホメーションにおいて安定化される。いくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、トリマーにあるSエクトドメインプロトマーの位置D985、K986、またはV987における1個または2個のプロリン置換によって融合前コンホメーションにおいて安定化される。いくつかの例では、1またはこれより多くのプロリン置換(例えば、K986PおよびV987P置換)によって融合前コンホメーションにおいて安定化されるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、上記融合前コンホメーションにおける安定化のために1またはこれより多くのさらなる改変を含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4核酸ベクターによってコードされるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号3(武漢-PP)と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を含み、ここで上記SARS-CoV-2 Sタンパク質は、本明細書で提供される改変のうちの1またはこれより多くのもの(例えば、K986PおよびV987P置換)で融合前コンホメーションにおいて安定化される。他の実施形態において、その安定化されたプロリン置換Sタンパク質は、SARS-CoV-2変異株に由来する。いくつかの実施形態において、上記Sタンパク質は、コドン最適化された核酸配列によってコードされる。いくつかの例では、SARS-CoV-2変異株に由来する安定化されたSタンパク質は、配列番号7(ベータ-PP)、配列番号8(武漢/RDB-ベータ-PP)、配列番号9(デルタ-PP)、配列番号10(ガンマ-PP)、配列番号11(デルタプラス-PP)または配列番号12(オミクロン-PP)と少なくとも90%(例えば、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一のアミノ酸配列を含む。特定の例では、上記安定化SARS-CoV-2 Sタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11または配列番号12を含むかまたはからなる。
【0085】
他の実施形態において、上記組換えAd4核酸ベクターによってコードされるSARS-CoV-2 Sタンパク質は、C末端短縮(例えば、細胞質尾部の短縮またはエンドサイトーシスモチーフの短縮)を含む。具体例では、上記短縮化されたSARS-CoV-2 Sタンパク質は、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはからなる。
【0086】
本開示のAd4ベクターのいくつかの実施形態において、上記E3領域における欠失は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、または少なくとも7つのE3 ORFの欠失である。いくつかの例では、上記欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFのうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、または少なくとも7つを含む。特定の非限定的例では、上記E3領域における欠失は、23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFの各々の欠失を含む。
【0087】
本開示のAd4ベクターのいくつかの実施形態において、上記SARS-CoV-2 Sタンパク質のコード配列は、上記E3領域の欠失された部分の代わりに挿入される。いくつかの例では、上記Sタンパク質のコード配列は、配列番号2~5および7~12のうちのいずれか1つと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体的な非限定的例では、上記Sタンパク質のコード配列は、配列番号2~5および7~12のうちのいずれか1つを含むかまたはからなる。
【0088】
いくつかの実施形態において、上記Ad4ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。いくつかの例では、上記Ad4ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号1を含むかまたはからなる。
【0089】
組換えAd4または組換えAd4ベクター、および薬学的に受容可能なキャリアを含む免疫原性組成物がさらに、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記免疫原性組成物は、アジュバントをさらに含む。他の実施形態において、上記免疫原性組成物は、アジュバントを含まない。
【0090】
被験体においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘発する方法がまた、提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、治療上有効な量の、本明細書で開示される組換えAd4、組換えAd4(核酸)ベクターまたは免疫原性組成物を上記被験体に投与することを包含する。SARS-CoV-2感染に対して被験体を免疫する方法がまた、提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、治療上有効な量の、本明細書で開示される組換えAd4、組換えAd4ベクターまたは免疫原性組成物を上記被験体に投与することを包含する。
【0091】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、上記組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物は、鼻内にまたは扁桃に投与される。いくつかの例では、鼻内投与は、エアロゾルの投与を含む。上記エアロゾルの粒度は、上気道への送達を可能にするべきであるが、下気道へは可能にするべきではない。具体例では、上記エアロゾルは、直径が10ミクロンより大きい(例えば、20ミクロンより大きい、30ミクロンより大きい、40ミクロンより大きい、または50ミクロンより大きい)粒子を含む。特定の例では、上記エアロゾルは、約10~約150ミクロン(例えば、約20~約125ミクロンまたは約30~約100ミクロン)の粒子を含む。当業者は、本開示の組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物の、上気道への鼻内送達のための適切なデバイスを選択し得る。デバイスの非限定的例としては、AccusprayTM(Becton-Dickinson)およびMAD NasalTM(Teleflex(登録商標))アトマイザーが挙げられる。
【0092】
いくつかの実施形態において、上記方法は、約104~約106 組換えAd4粒子(例えば、約5×104~約5×105 ウイルス粒子または約1×105 ウイルス粒子)の用量を投与することを包含する。いくつかの例では、上記用量は、約1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、または1×106 組換えAd4粒子である。
【0093】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物は、単一用量において投与される。
【0094】
いくつかの実施形態において、上記組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物は、感作-ブースト免疫プロトコールの一部として投与される。いくつかの例では、上記組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物は、感作用量である。他の例では、上記組換えAd4、組換えAd4ベクター、または免疫原性組成物は、ブースト用量である。
【0095】
V. COVID-19ワクチン開発に関連する前臨床試験および臨床試験
一連の経口生ポリオウイルス(OPV)チャレンジ試験においてワクチン誘導性粘膜中和抗体応答を試験することによって、治験責任医師は、全身および粘膜抗体システムの顕著な分離を強く示した(Brickleyら, Clin Infect Dis. 2018;67(suppl_1):S42-S50)。この研究は、高レベルの血清抗体を誘導し、麻痺性のポリオからの個体防御を提供するにもかかわらず、不活性化Salkワクチンは、経腸的ポリオウイルス複製を阻害し、糞口伝播を防止するために極めて重要な腸管IgA応答を誘導できないことを明らかに示す。対照的に、弱毒化生Sabin OPVでの最初のワクチン接種は、生OPVでチャレンジすると、強い粘膜IgA応答および殺菌免疫(sterilizing immunity)を誘導する。この観察は、粘膜免疫を誘導して、COVID-19の感染および伝播を防止するという極めて重要な性質を強調する。OPVで認められる粘膜免疫原性の欠如は、サブユニットまたは複製不能の全身投与されるSARS-CoV-2ワクチンによって反復されると考えられる。
【0096】
SARS-CoV-2ワクチンの前臨床試験において、感染をブロックするにあたって粘膜免疫に類似の利点が、観察された。フェレットにおいて、複製欠損Ad5-spike組換えでのIMまたは粘膜免疫は、血清においてスパイク特異的抗体の類似のレベルを誘導したが、粘膜免疫のみが、上気道(URT)の殺菌防御を誘導した(Wuら, Nat Commun 11(1): 4081, 2020)。URTの粘膜免疫および殺菌防御を誘導するにあたって、筋肉内投与を超える鼻内投与の類似の利点が、レンチウイルスまたはチンパンジーアデノウイルススパイク組換え体を使用して、SARS-CoV-2感染を寛容するマウスモデルにおいて観察された(Kuら, Cell Host Microbe S1931-3128(20)30672-7, 2020; Hassanら, Cell 183(1): 169-184, 2020; Kingら, Kingら, bioRxiv 2020.10.10.331348, 2020)。局所特異的IgAが、コロナウルス229Eでのチャレンジ後のヒトにおいてウイルス排出を終えることと非常に関連することが観察された(Callowら, J Hyg 95(1): 173-189, 1985)。
【0097】
非経口的に投与された非複製ワクチンを使用して、宿主がナイーブであるウイルス粘膜感染から防御しようとする以前の試みは、失敗したかまたは疾患の増強を生じた。例としては、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルス(PIV)-3、Ad4、ロタウイルス、および麻疹ウイルスが挙げられる。これらの失敗の理由は、部分的に、ウイルスレセプターでそれらの尖端表面上が被覆された粘膜表面を防御することが困難であること、血清と比較してこれらの表面での100~1000倍低い抗体、および非複製ベクターによって生成されるゆがんで短命の(distorted and short-lived)免疫応答にある。本開示のAd4-SARS-CoV-2-spikeワクチンの臨床試験は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質およびアデノウイルスベクターに対する液性応答および粘膜応答を詳細に評価する。本開示のAd4-SARS-CoV-2-spikeワクチンは、気道において粘膜抗体を生じ、自然なSARS-CoV-2感染後に観察される免疫プロフィールに最も近く模倣すると予測される。さらに、本開示のワクチンが、COVID-19パンデミックの間に伝播を永続的に妨げる最良の可能性を提供すると考えられる。
【0098】
ヒト使用のために利用可能な組換えウイルスベクターの中で、複製アデノウイルスは、いくつかの重要な利点を提供する。複製Ad4は、Ad4呼吸器疾患に対するワクチンとして軍の1000万人超の人々に与えられ、並外れた安全性および有効性の記録を有する(Gaydos and Gaydos, Mil Med. 1995;160(6):300-304)。この組換えAd4は、腸溶性コーティング錠剤の形態において消化管へと投与することによって弱毒化され、呼吸器疾患を引き起こさない(Choudhryら, Vaccine 2016:34(38) 4558-4564)。腸溶カプセル剤送達を使用して、フェーズ3試験を、軍の基礎訓練に入っている4,000名のボランティアで行った。その結果は、ワクチン有効性99.3%およびAd4によって引き起こされる呼吸器疾患に対してセロコンバージョン94.5%を明らかに示した(Kuschnerら, Vaccine 2013:31 2963-2971)。
【0099】
ヒトにおける1回の治験において、経腸的に送達したインフルエンザウイルスH5を発現する複製組換えアデノウイルスベクターは、中程度に免疫原性であるに過ぎなかった。これは、E3欠失と併せて、消化管への投与による複製の減弱化に関連する可能性が最も高い(Gurwithら, Lancet Infect Dis. 2013;13(3):238-50)。アデノウイルスベクターへの大きな遺伝子(例えばコロナウルススパイクタンパク質をコードする遺伝子)の導入は、最初期(この場合には、E3)遺伝子の除去を含み、組織培養物、チンパンジー、およびヒトにおいて親アデノウイルスに対して少なくとも10倍の減弱化をもたらす(Lubeckら, Nat Med. 1997;3(6):651-8)。
【0100】
別の臨床試験では、インフルエンザウイルスヘマグルチニン5型ベトナムを発現する複製可能Ad4(Ad4-H5-Vtn)を消化管(GI)と比較してURTに投与した場合に、インフルエンザ特異的中和抗体の高くかつ顕著に永続性のあるレベルが観察された(Matsudaら, Sci Immunol. 2019;4(34):eaau2710; Matsudaら, J Clin Invest 131(5):e140794, 2021)。URTへと送達されたワクチンは、108の用量まで非常に安全であった(参加者のうちの25%において鼻うっ血または喉の不快感、グレード2を上回るものはなし)。このレベルの反応性は、プラセボで認められるものとおよそ同じレベルであり、いくつかの非経口投与される非複製プラットフォームは現在、SARS-CoV-2に対して試験中であり、現在認可されている水痘帯状疱疹(Shingrix)ワクチンのものを下回る。Ad4セロポジティブヒトへのアデノウイルスのURT投与は、再感染を生じなかった。URT投与は、ベクター特異的免疫を克服するために、上気道を防御することにおける困難を有利に使用する。その一例は、以前にアデノ免疫動物におけるEbola構築物のIM投与後に防御が観察されなかった一方で、Ebola糖タンパク質を発現するアデノウイルスがアデノ免疫霊長類(adeno-immune primate)において鼻内経路によるEbolaチャレンジの際に防御的免疫を誘導する能力である。
【0101】
Ad4-H5-VtnおよびAd4-HIV組換え体での以前の結果は、ほぼ全てのヒト参加者が、導入遺伝子に対する応答を発生させることを示した。ワクチンの単一の鼻内または扁桃投与の後に、H5特異的B細胞、H5特異的抗体体細胞超変異、および効力における増大が観察された。上記ワクチンはまた、非常に永続性のある応答を誘導した。認可されたスプリットインフルエンザワクチンに対する応答は、代表的には、免疫後2~6ヶ月以内に5~10倍程度衰える。しかし、Ad4-H5-Vtn参加者は、3~5年後にブーストするために戻るように求められたとき、中和抗体はなおも、認可されたワクチンでの免疫後にピークレベルで観察されるそのレベルにあった。本明細書で開示されるAd4-SARS-CoV-2-spikeワクチン構築物は、全身性のワクチン接種後に粘膜免疫を生成するために使用され得る。あるいは、サブユニットワクチンは、粘膜および全身性の抗体(これは、H5-Vtnワクチン構築物で起こることが示された)をブーストするために、本開示のワクチンでの免疫後に投与され得る。
【0102】
VI.免疫原性組成物
本開示の免疫原(例えば、SARS-CoV-2 Sタンパク質を発現する組換えAd、またはSARS-CoV-2 Sタンパク質コード配列を含む組換えAd4核酸ベクター)および薬学的に受容可能なキャリアを含む免疫原性組成物がまた、提供される。このような組成物は、種々の投与様式(例えば、鼻内、扁桃上への、吸入、経口、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内、関節内、腹腔内、または非経口の経路)によって被験体に投与され得る。投与可能な組成物を調製するための方法は、Remingtons Pharmaceutical Sciences, 第19版(Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1995)のような刊行物においてより詳細に記載される。
【0103】
従って、本明細書で記載される免疫原は、許容可能な温度範囲内での貯蔵の間に安定性の増加をも促進すると同時に、生物学的活性を保持することを助けるために、薬学的に受容可能なキャリアとともに製剤化され得る。潜在的なキャリアとしては、生理学的に平衡化された培養培地、リン酸緩衝液食塩液(phosphate buffer saline solution)、水、エマルジョン(例えば、油/水または水/油エマルジョン)、種々のタイプの湿潤剤、凍結保護添加剤または安定化剤(例えば、タンパク質、ペプチドもしくは水解(例えば、アルブミン、ゼラチン)、糖(例えば、スクロース、ラクトース、ソルビトール)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸ナトリウム)、または他の保護剤)が挙げられるが、これらに限定されない。その得られる水性溶液は、そのまま使用するためにパッケージされてもよいし、凍結乾燥されてもよい。凍結乾燥された調製物は、1回または複数回のいずれかの投与のために、投与前に無菌溶液と合わされる。
【0104】
製剤化された組成物、特に液体組成物は、貯蔵中の分解を防止するかまたは最小限にするために静菌剤を含み得る(有効濃度(通常は≦1% w/v)のベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール、メチルパラベン、および/またはプロピルパラベンが挙げられるが、これらに限定されない)。静菌剤は、ある患者にとっては禁忌であり得る;従って、凍結乾燥された製剤は、このような成分含むかまたは含まないいずれかの溶液中で再構成され得る。
【0105】
本開示の免疫原性組成物は、生理学的条件に近づけるために必要な場合、薬学的に受容可能なビヒクル物質(例えば、pH調整剤および緩衝化剤、張度調整剤、湿潤剤など(例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、およびトリエタノールアミンオレエート)を含み得る。
【0106】
上記医薬組成物は必要に応じて、宿主の免疫応答を増強するためにアジュバントを含み得る。適切なアジュバントは、例えば、toll様レセプターアゴニスト、ミョウバン、AlPO4、アルハイドロゲル(alhydrogel)、Lipid-Aおよびこれらの誘導体または改変体、油-エマルジョン、サポニン、中性リポソーム、ワクチンおよびサイトカインを含むリポソーム、非イオン性ブロックコポリマー、ならびにケモカインである。ポリオキシエチレン(POE)およびポリオキシプロピレン(POP)を含む非イオン性ブロックコポリマー(例えば、POE-POP-POEブロックコポリマー、MPLTM(3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA; Corixa, Hamilton, IN)およびIL-12(Genetics Institute, Cambridge, MA))は、アジュバントとして使用され得る(Newmanら, 1998, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 15:89-142)。これらのアジュバントは、これらが非特異的様式において免疫系を刺激するように助け、従って、医薬製品に対する免疫応答を増強するという点において利点を有する。いくつかの実施形態において、アジュバントは、必要とされず、従って、Ad4-Spikeワクチンとともに投与されない。
【0107】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、無菌組成物として提供され得る。上記医薬組成物は、代表的には、有効量の本開示の免疫原を含み、従来技術によって調製され得る。代表的には、上記免疫原性組成物の各用量における免疫原の量は、有意な有害副作用なしに免疫応答を誘発する量として選択される。いくつかの例では、上記用量は、約1×104~約106 ウイルス粒子(例えば、約5×104~約5×105 ウイルス粒子または約1×105 ウイルス粒子)である。
【0108】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、被験体において免疫応答を誘発するために、例えば、被験体においてSARS-CoV-2感染を防止するために使用するための単位剤形において提供され得る。単位剤形は、被験体への投与に適した単一の事前選択した投与量、あるいは適切な印が付けられたまたは測定された、倍数の2もしくはこれより多くの事前選択した単位投与量、および/あるいはその単位用量もしくはその倍数を投与するための計量機構を含む。いくつかの例では、上記単位投与量は、約1×104~約106 ウイルス粒子(例えば、約5×104~約5×105 ウイルス粒子)である。具体例では、上記単位投与量は、約1×105 ウイルス粒子である。
【0109】
VII. 免疫応答を誘発する方法
本開示の免疫原(例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現する組換え複製可能アデノウイルス)、本開示の免疫原をコードするポリヌクレオチドおよびベクター、ならびにこれらを含む組成物は、SARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導して、SARS-CoV-2感染を防止、阻害(伝播の阻害を含む)、および/または処置する方法において使用され得る。
【0110】
被験体においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘発する方法が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、上記方法は、有効量の、本明細書で開示される組換えアデノウイルス、アデノウイルスベクターまたは免疫原性組成物を上記被験体に投与することを包含する。いくつかの例では、上記組換えアデノウイルス、ベクターまたは免疫原性組成物は、鼻内に(例えば、スプレーにおいて)または経口的に(例えば、腸溶性コーティング錠剤を使用することによって)投与される。
【0111】
SARS-CoV-2感染を阻害、処置、または防止する場合、上記方法は、SARS-CoV-2セロネガティブ被験体において(例えば、SARS-CoV-2感染から防御する免疫応答を誘導することによって)感染を回避するか、またはSARS-CoV-2セロポジティブ被験体において存在する感染を処置するかのいずれかのために、使用され得る。
【0112】
本開示の方法に従う予防または処置のための被験体を特定するために、受容されたスクリーニング方法が、標的化されたもしくは疑われた疾患もしくは状態と関連するリスク因子を決定するために、または被験体において存在する疾患もしくは状態の状況を決定するために、使用される。これらのスクリーニング方法としては、例えば、上記標的化されたもしくは疑われた疾患もしくは状態と関連し得る環境的、家族的、職業的、および他のこのようなリスク因子を決定する従来の後処理、ならびに診断方法(例えば、SARS-CoV-2感染を検出および/もしくは特徴づけるための種々のELISAおよび他のイムノアッセイ方法)が挙げられる。これらのおよび他の慣用的方法は、臨床医が、本開示の方法および免疫原性組成物を使用する治療の必要性のある患者を選択することを可能にする。これらの方法および原理に従って、組成物は、無関係の予防もしくは処置プログラムとして、または他の処置に対する追跡、補助的もしくは調整処置(coordinate treatment)レジメンとして、本明細書中の教示、または他の従来の方法に従って投与され得る。
【0113】
本開示の免疫原は、調整(coordinate)(または感作-ブースト)免疫プロトコールまたは組み合わせ製剤において使用され得る。ある特定の実施形態において、新規な組み合わせ免疫原性組成物および調整免疫プロトコールは、別個の免疫原または製剤を使用する(各々、抗SARS-CoV-2免疫応答(例えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する免疫応答)を誘発することに向けられている)。抗SARS-CoV-2免疫応答を誘発する別個の免疫原性組成物は、単回の免疫ステップにおいて被験体に投与される多価免疫原性組成物中に合わせられ得るか、またはそれらは、調整免疫プロトコールにおいて別個に(一価の免疫原性組成物において)投与され得る。
【0114】
1つの実施形態において、適切な免疫レジメンは、本開示のAd4-Spikeを含む1またはこれより多くの免疫原性組成物による少なくとも2回の別個の接種を含む(2回目の接種は、1回目の接種後、約2週間を超えて、約3~8週間を超えて、または約4週間を超えて投与される)。3回目の接種は、2回目の接種後、数ヶ月を超えて投与され得、具体的実施形態では、1回目の接種後、約5ヶ月を超えて、1回目の接種後、約6ヶ月から約2年を超えて、または1回目の接種後、約8ヶ月から約1年を超えて投与され得る。3回目以降の定期接種はまた、被験体の「免疫記憶」を増強するために望ましい。選択されたワクチン接種パラメーター、例えば、製剤、用量、レジメンなどの妥当性は、上記被験体から血清のアリコートを採取し、免疫プログラムの過程の間の抗体力価をアッセイすることによって決定され得る。あるいは、T細胞集団が、従来の方法によってモニターされ得る。さらに、上記被験体の臨床状態は、所望の効果、例えば、SARS-CoV-2感染の防止、疾患状態の改善(例えば、ウイルス負荷の低減)、または伝播頻度の低減に関してモニターされ得る。このようなモニタリングが、ワクチン接種が最適に満たないことを示す場合、上記被験体は、免疫原性組成物のさらなる用量でブーストされ得、上記ワクチン接種パラメーターは、上記免疫応答を強化すると予測される様式で改変され得る。従って、例えば、本開示の免疫原の用量が増加され得るか、または投与経路が変更され得る。
【0115】
数回のブーストがあり得ること、および各ブーストが異なる免疫原であり得ることは、企図される。いくつかの例では、上記ブーストが別のブースト、または感作と同じ免疫原であり得ることがまた、企図される。
【0116】
上記感作および上記ブーストは、単一用量もしくは複数用量として投与され得る。例えば、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量もしくはより多くの用量が、数日間、数週間または数カ月間にわたって被験体に投与され得る。複数のブーストがまた、与えられ得る(例えば、1~5回、またはより多い)。異なる投与量が、一連の逐次的接種において使用され得る。例えば、初回接種では比較的大きな用量であり、次いで、ブーストは、比較的小さな用量である。上記選択された抗原性表面に対する免疫応答は、被験体の1またはこれより多くの接種によって誘発され得る。
【0117】
いくつかの実施形態において、本開示の免疫原は、アジュバントの投与と同時に被験体に投与され得る。他の実施形態において、上記免疫原は、アジュバントの投与後に、および上記免疫応答を誘発するために十分な時間量内で、被験体に投与され得る。他の実施形態において、アジュバントは投与されない。
【0118】
上記方法が有効であるために、SARS-CoV-2感染が完全に阻害される必要はない。例えば、SARS-CoV-2に対する免疫応答の誘発は、免疫の非存在下でのSARS-CoV-2感染と比較して、所望の量、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%(検出可能なSARS-CoV-2感染細胞の排除または防止)まで、SARS-CoV-2感染を低減または阻害し得る。さらなる例では、SARS-CoV-2複製は、本開示の方法によって低減または阻害され得る。SARS-CoV-2複製は、上記方法が有効であるために、完全に排除される必要はない。例えば、本開示の免疫原のうちの1またはこれより多くのものを使用して誘発される免疫応答は、免疫応答の非存在下でのSARS-CoV-2複製と比較して、所望の量、例えば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはさらには少なくとも100%(検出可能なSARS-CoV-2複製の排除または防止)まで、SARS-CoV-2複製を低減し得る。
【0119】
被験体の免疫後、血清を適切な時点で上記被験体から集め、凍結し、中和試験のために貯蔵し得る。中和活性についてアッセイする方法としては、プラーク低減中和(PRNT)アッセイ、マイクロ中和アッセイ、フローサイトメトリーベースのアッセイ、単一サイクル感染アッセイ、およびシュードウイルス中和アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
いくつかの実施形態において、免疫は、組換えAd4ベクターDNAの投与によって達成される。核酸構築物による免疫は、例えば、米国特許第5,643,578号(これは、所望の抗原をコードするDNAを導入して、細胞媒介性もしくは体液性応答を誘発することによって、脊椎動物を免疫する方法を記載する)、同第5,593,972号および同第5,817,637号(これは、抗原をコードする核酸配列を調節配列に作動可能に連結して、発現を可能にすることを記載する)に教示され、広くは、Janeway & Travers, Immunobiology: The Immune System In Health and Disease, page 13.25, Garland Publishing, Inc., New York, 1997;およびMcDonnell & Askari, N. Engl. J. Med. 334:42-45, 1996に記載される。
【0121】
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または実施形態を例証するために提供される。これらの実施例は、本開示をその記載される特定の特徴または実施形態に限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0122】
実施例
実施例1: 野生型および改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質の発現
以下の試験は、野生型武漢株SARS-CoV-2スパイクタンパク質(配列番号2)および武漢株スパイクタンパク質の3種の改変バージョン: 安定化(PP)、尾部短縮化(TT)、およびエンドサイトーシスモチーフ短縮化(no-Endo)の細胞表面発現を評価した。PPは、アミノ酸位置986および987において二重プロリン安定化置換を含む(配列番号3); TTは、細胞質尾部の末端24アミノ酸の欠失を含む(配列番号4); no-Endoは、C末端エンドサイトーシスシグナル伝達モチーフの欠失を含む(配列番号5)(
図4を参照のこと)。
【0123】
SARS-CoV-2 WT、PP、TTおよびno-Endoスパイクタンパク質の発現を、A549細胞において評価した。細胞を、WTまたは改変されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質のための遺伝子を含むシャトルベクタープラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクトしていない細胞を、陰性コントロールとして供し、HIV-1 Envタンパク質を発現するプラスミドでトランスフェクトした細胞を、トランスフェクションに関する陽性コントロールとして使用した。スパイクおよびEnvの発現を、それぞれSARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的抗体およびHIV Env特異的抗体(VRC01)を使用するフローサイトメトリーによって測定した。
図1に示されるように、トランスフェクトしたA549細胞におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質発現は、野生型スパイクタンパク質と比較して、尾部の短縮およびエンドサイトーシスモチーフの短縮に伴って減少した。
【0124】
WT、PPまたはTT SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードする核酸配列を、上記E3 23.3K、19K、24.8K、6.3K、29.7K、10.4K、14.5Kおよび14.7K ORFの欠失を有する複製可能Ad4ベクターのE3領域へと挿入した。WTスパイクタンパク質コード配列を含む組換えAd4のヌクレオチド配列は、配列番号1として本明細書に示される。組換えAd4感染A549細胞におけるWT、安定化および短縮化スパイクタンパク質の発現を評価した。WTスパイク核酸配列(nCoV-WT)、PP安定化スパイク核酸配列(nCov-PP)または尾部短縮化スパイク核酸配列(nCov-TT)を有する複製Ad4を、A549細胞に感染させるために使用した。HIV-1 Envタンパク質(FDE3)を発現する複製アデノウイルスを、感染の陽性コントロールとして使用し、感染させていない(unIF)細胞を、陰性コントロールとして使用した。スパイクタンパク質の発現を、SARS-CoV-2スパイクタンパク質特異的抗体を使用するフローサイトメトリーによって測定した。抗体VRC01を使用して、HIV-1 Envの発現を検出した。感染の2日後のAd4-Spikeからのスパイクタンパク質発現を、
図2Aに示す。
図2Bでは、PP安定化および短縮化スパイクタンパク質の発現を示す。
図2A~2Bに示されるように、nCoV-WTおよびnCoV-PP構築物の両方からのスパイクタンパク質の発現は高かった。
【0125】
実施例2: ウサギにおけるAd4-Spike(WT)の免疫原性
Ad4-Spike(配列番号2のWTスパイクタンパク質配列を発現する)の免疫原性を、ニュージーランドホワイトウサギで試験した。ウサギおよび他の実験動物は、Ad4ウイルスを複製しないが、筋肉内投与(IM)が、免疫原性についてのスクリーニングとして一般に使用される。ウサギに、精製された複製Ad4-Spikeの1.29×109 感染単位(IFU)を0日目および28日目にIMで免疫した。ルシフェラーゼアッセイを使用して、武漢SARS-CoV-2シュードウイルスに対する血清中和を4週間(2回目の免疫の前)で検出し、該血清中和は、12週間の試験期間を通して増加し続けた。
【0126】
実施例3: ハムスターにおける免疫原性試験
ヒトアデノウイルスは、シリアンゴールデンハムスターに感染する能力がある(van der Lubbeら, NPJ Vaccines 6(1):39, 2021)。従って、免疫原性試験を。これらの動物において行った。PP安定化を有する鼻内Ad4-SARS-CoV-2武漢スパイク(Ad4-SARS-CoV-2
WuPP)の10
2~10
7 感染形成単位(IFU)の用量漸増を行った。強い血清中和が、Ad4-SARS-CoV-2
WuPPの最高用量において、レンチウイルスシュードタイプアッセイにおいて4週目(
図5A)および8週目(
図5B)で観察された。
【0127】
これらの結果は、ハムスターがAd4に関して半許容性(semi-permissive)であるが、血清中和抗体を誘導するために十分にウイルスを複製することを示唆した。スパイク特異的IgAおよびIgGはまた、60日目に鼻洗浄物中で観察された。
【0128】
次いで、ハムスターを、懸念される変異株(VOC)に由来する安定化(二重プロリン置換-PP)スパイクタンパク質を発現する鼻内Ad4で免疫した。Ad4-CoV2-武漢、Ad4-CoV2-SA(ベータ)、Ad-CoV2-Wu/RBD-SA、Ad4-CoV2-インド(デルタ)およびAd4-CoV2-ブラジル(ガンマ)を、この試験に含めた。インフルエンザウイルスH5ヘマグルチニンを発現するAd4(Ad4-H5)および偽接種を、陰性コントロールとして含めた。
【0129】
武漢、デルタおよびオミクロンシュードウイルスに対する血清中和を、鼻内投与の28日後および56日後に決定した。その結果を
図6A~6Eに示す。武漢-PP(配列番号3)またはデルタ-PP(配列番号9)を発現するAd4が、最も免疫原性であった。
【0130】
実施例4: ハムスターにおけるチャレンジ試験
この実施例は、シリアンゴールデンハムスターモデルにおける候補ワクチンを試験する試験を記載する。
【0131】
この試験において、シリアンゴールデンハムスターに、実施例3において特定された免疫原性候補(候補1または候補2)を10
7 IFUの用量で鼻内に投与し、その後、SARS-CoV-2デルタ感染動物またはSARS-CoV-2 オミクロン感染動物と同居させることによってSARS-CoV-2でチャレンジする(van Doremalenら, Sci Transl Med 13(607):eabh0755, 2021)。表1は、使用される動物の群を示す。群Aにおける動物を、免疫後60日目にチャレンジする一方で、群Bにおける動物を、免疫の6ヶ月後にチャレンジする。Ad4-H5-Vtnの鼻内投与を受けるハムスターを、陰性コントロールとして含める。Pfizer mRNAまたはAd26-Spikeを、比較するものとして筋肉内に投与する。
【表1】
【0132】
鼻内Ad4-Spikeワクチンは、mRNAまたはAd26と同じ桁の全身性の中和抗体を与えるが、より永続性があると予測される。Ad4-Spikeが、非経口投与されるワクチンと比較して、チャレンジウイルスのより大きな制限を引き起こすことが同様に予測される。
【0133】
実施例4: ヒト臨床試験
健常ボランティアにおける単一用量の鼻内投与Ad4-Spikeのフェーズ1/2オープンラベル試験を行う。登録を、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)に罹ったことがある若しくは罹ったことがない、またはワクチン接種を受けたことがある若しくは受けたことがないボランティアで始める。選択された国際環境は、COVID-19ワクチンの供給が限られており、かつSARS-CoV-2に罹っていないボランティアがより容易に登録され得る環境である。全てのSARS-CoV-2に罹っていない参加者に、試験完了時または6ヶ月の時点後で彼らの中和力価が約40を下回る(これは、Moderna mRNA 1272ワクチンの四分位範囲の下限である)場合に、緊急使用許可(EUA)ワクチンを提供する。各試験参加者は、鼻内Ad4-SARS-CoV-2ワクチンの単一用量、または許可もしくは認可されたブースターによる筋肉内(IM)免疫を受ける。試験参加者を有害事象(AE)に関してモニターし、血液および呼吸器分泌物を、免疫原性および安全性試験のために、試験期間の間中定期的に集める。鼻スワブを集めて、アデノウイルス排出をモニターし、鼻洗浄物を集めて、粘膜免疫応答をモニターする。参加を希望する家庭内接触者および密接接触者をまた登録し、血清学によってワクチンウイルスの伝播についてモニターする。
【0134】
一次エンドポイントは、ワクチン接種後最初の28日間での非自発的な(solicited)および自発的な(unsolicited)有害事象の頻度およびグレードによって測定した安全性に関する。安全性を、追跡の継続期間にわたる治験の候補ワクチンアームにおける発生率、重篤度、および有害事象のタイプを別個に評価することによって評価する。ワクチンレシピエントのうちの21%(N=10/48)が、ワクチン関連徴候および症状(例えば、頭痛疲労、筋肉痛、鼻漏、悪心、下痢)を経験し得ると予測される。ワクチンウイルス排出は、系列的に集められた鼻洗浄物サンプル中の排出されたウイルスの存在、分量、および継続期間を記載することによって評価する。
【0135】
二次的エンドポイントは、免疫原性である。免疫原性を、系列的に集められた血清、鼻および糞便のサンプルにおいて評価する。免疫原性を、レンチウイルスベースのシュードウイルス中和アッセイによって決定する。そのアッセイは、B細胞クローン、補体増強および抗体依存性増強、粘膜およびT細胞免疫の特徴付けによって測定される場合の機能的抗体を含む。呼吸器粘膜応答は、COVID-19感染後に認められつつあり、従って、Ad4-Spikeワクチンの区別できる顕著な特徴であると予測される。Ad4-ベクター化したSARS-CoV-2ワクチンがレシピエントのうちの95%において「摂取」され、かつこれらのレシピエントのうちの90%においてアデノウイルス4およびSARS-CoV-2スパイクタンパク質に対して免疫原性である場合、全身性の免疫応答がワクチンレシピエントのうちの85%(N=44/52)において誘導され、粘膜応答がボランティアのうちの90~100%において誘導されると予測される。
【0136】
ワクチンの証拠が30日でとれないという希な場合には、60日での第2の用量を投与する。しかし、一次分析は、1用量後である。なぜならこのワクチンは、単一用量レジメンであると予測されるからである。以前のAd4ベースのワクチン治験における大部分の参加者は、2回目の免疫後により高い応答を発生させなかった。第2の用量は、参加者が第1の用量に感染していないという希な場合において応答を誘導するに過ぎない。
【0137】
ボランティアは、血清抗体に関して予めスクリーニングされていないことから、そのボランティアのサブセットは、循環している野生型アデノウイルスに対する曝露の結果として、Ad4のベースラインにおいてセロポジティブである(約30%、N=20/60)。以前のベクター化ワクチン治験において既存のAd4免疫を有する者の応答は、Ad4免疫が上記ベクターへの応答をモジュレートしてウイルス排出を制限し得るが、ベクター特異的免疫はなおも誘導されることが示唆されている。
【0138】
参加者を、1年間にわたって安全性および免疫原性に関してモニターする。フェーズ1治験は、必要に応じて、他のSARS-CoV-2 Spike免疫原(例えば、DNA、mRNA、またはタンパク質ワクチン)とともにAd4-Spikeを使用することが許容される臨床試験へと設計された並行探索アームを含む。Ad4-Spikeは、非複製非経口投与タンパク質または核酸ワクチンと比較して、より大きな永続性ならびに粘膜TおよびB細胞応答を与えると予測される。
【0139】
標的試験集団は、呼吸器ウイルス感染症によって悪影響を受ける可能性がある者(例えば、妊婦または重篤な免疫不全を有する者)のみを排除する。組換えAd4ワクチン接種の症状は、それらが起こる場合、軽度および自己限定される傾向がある。上気道感染症に対応するにあたって困難がないそれらの人々は、Ad4-Spikeワクチンで重篤な症状を経験しないはずである。Ad4に対する既存の免疫は珍しくもない(30%)が、それは、鼻内ワクチン接種により大きく克服される。ベクター特異的免疫が克服される程度は、評価され、ワクチンウイルスの複製および上記スパイクタンパク質の免疫原性の関数であると予測される。16歳未満の個人におけるAd4抗体の保有率は極めて低く、このことは、このワクチンを就学年齢の小児(school aged children)において永続性のある免疫を誘導する非常に魅力的な様式にしている。一次エンドポイントは、安全性および免疫原性である。安全性は、一次エンドポイントが達成される場合に、治験のフェーズ2において最終的に対処される。
【0140】
以前のAd4組換えウイルスワクチンが鼻内に与えられた場合、そのウイルスは、2~4週間にわたって低レベルで複製した。しかし、ウイルス培養によって検出されるウイルスの排出は、非常に低レベルであり、メジアンが1日であった。参加者に、ワクチン接種後14日間は密接な接触を回避するように助言する。これらの理由から、家庭内接触者および密接接触者へのワクチンウイルスの伝播は、観察されていない。大部分のワクチンは、無症候性である。しかし、最も一般的な有害事象(AE)は、参加者のうちの25%における喉の不快感および鼻うっ血であり、グレード2を上回るものはない。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含む組換えAd4は、以前のAd4ベースの鼻内投与ワクチンに類似の結果を生じると予測される。
【0141】
フェーズ3試験および/またはチャレンジ試験を、フェーズ2の後に行う。
【0142】
本開示の主題の原理が適用され得る多くの可能な実施形態に鑑みて、例証される実施形態が、本開示の好ましい例に過ぎず、本開示の範囲を限定すると理解されるべきではないことが認識されるべきである。むしろ、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲によって規定される。従って、本発明者らは、これら請求項の範囲および趣旨の範囲内にある全てのものを特許請求する。
【配列表】
【国際調査報告】