(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】がんを処置するための併用療法スケジュール
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20240118BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240118BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240118BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/63 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K31/4178
A61K31/63
A61K31/7068
A61K31/7076
A61K31/706
A61K31/513
A61K31/7072
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543369
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 US2022012989
(87)【国際公開番号】W WO2022159497
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン ビョルエ エス.
(72)【発明者】
【氏名】バルデス ベニーニョ シー.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084AA24
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086BC43
4C086BC60
4C086DA20
4C086EA01
4C086EA17
4C086EA18
4C086GA07
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示の局面は、がんを有する対象を処置するための方法に指向している。ある特定の局面は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質による処置後の、アントラセン誘導体による処置に関する。また、さらなる局面は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後にアントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与することによって、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の効力を改善するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんに関して対象を処置する方法であって、
(a) 1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の治療的有効量を前記対象に投与する段階; および
(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を前記対象に投与する段階
を含む、前記方法。
【請求項2】
1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の効力を改善する方法であって、
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後にアントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、前記方法。
【請求項3】
前記アントラセン誘導体が、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記アントラセン誘導体が、0.05 mg/m
2~5000 mg/m
2の用量で投与される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記アントラセン誘導体が、0.1 mg/m
2~2500 mg/m
2の用量で投与される、請求項3または請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記アントラセン誘導体が、1 mg/m
2~1000 mg/m
2の用量で投与される、請求項3~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記アントラセン誘導体が、50 mg/m
2~500 mg/m
2の用量で投与される、請求項3~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、2つまたはそれ以上のピリミジン代謝拮抗物質を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、5-アザシチジン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、サパシタビン、CNDAC、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、2'-C-シアノ-2'-デオキシ-アラビノフラノシルシトシン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項8または請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、およびクロファラビンのうちの2つまたはそれ以上を含む、請求項8~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質がフルダラビンおよびクロファラビンを含む、請求項8~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質がシタラビンを含み、かつ前記シタラビンが、1 mg/m
2~1000 mg/m
2の用量で投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
前記シタラビンが、5 mg/m
2~500 mg/m
2の用量で投与される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記シタラビンが、25 mg/m
2~250 mg/m
2の用量で投与される、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記シタラビンが、50 mg/m
2~150 mg/m
2の用量で投与される、請求項13~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質がフルダラビンを含み、かつ前記フルダラビンが、0.25 mg/m
2~250 mg/m
2の用量で投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項18】
前記フルダラビンが、1.25 mg/m
2~125 mg/m
2の用量で投与される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記フルダラビンが、2.5 mg/m
2~60 mg/m
2の用量で投与される、請求項17または18記載の方法。
【請求項20】
前記フルダラビンが、10 mg/m
2~40 mg/m
2の用量で投与される、請求項17~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質がクラドリビンを含み、かつ前記クラドリビンが、0.001 mg/kg~1 mg/kgの用量で投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項22】
前記クラドリビンが、0.005 mg/kg~0.5 mg/kgの用量で投与される、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記クラドリビンが、0.01 mg/kg~0.25 mg/kgの用量で投与される、請求項21または22記載の方法。
【請求項24】
前記クラドリビンが、0.05 mg/kg~0.2 mg/kgの用量で投与される、請求項21~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質がクロファラビンを含み、かつ前記クロファラビンが、0.5 mg/m
2~500 mg/m
2の用量で投与される、請求項10または11記載の方法。
【請求項26】
前記クロファラビンが、1 mg/m
2~250 mg/m
2の用量で投与される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記クロファラビンが、5 mg/m
2~100 mg/m
2の用量で投与される、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
前記クロファラビンが、25 mg/m
2~75 mg/m
2の用量で投与される、請求項25~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
BH3ミメティックを前記対象に投与する段階をさらに含む、請求項1~28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記BH3ミメティックが、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)、WEHI-539、BXI-61、BXI-72、GX15-070 (オバトクラクス)、S1、JY-1-106、アポゴシポロン、BI97C1 (サブトクラクス)、TW-37、MIM1、MS1、BH3I-1、UMI-77、またはマリノピロールA (マリトクラクス)である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記BH3ミメティックが、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、またはABT-263 (ナビトクラクス)である、請求項29または請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記BH3ミメティックがABT-199である、請求項29~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
前記BH3ミメティックが、1 mg/kg~1000 mg/kgの用量で投与される、請求項29~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
前記BH3ミメティックが、5 mg/kg~500 mg/kgの用量で投与される、請求項29~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
前記BH3ミメティックが、25 mg/kg~250 mg/kgの用量で投与される、請求項29~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
前記BH3ミメティックが、50 mg/kg~150 mg/kgの用量で投与される、請求項29~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記アントラセン誘導体が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1週間以内に投与される、請求項1~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記アントラセン誘導体が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1日以内に投与される、請求項1~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
前記アントラセン誘導体が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後12時間以内に投与される、請求項1~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量が投与される、請求項1~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量を投与する段階を含み、かつ前記複数用量が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間連続して投与される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記方法が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量を投与する段階を含み、かつ前記複数用量が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間不連続的に投与される、請求項40記載の方法。
【請求項43】
前記アントラセン誘導体が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量のすべての用量の投与後に投与される、請求項40~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
前記アントラセン誘導体が、前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量の投薬と投薬の間に投与される、請求項40~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
前記アントラセン誘導体または前記1つもしくは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、腫瘍内に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、関節内に、関節滑液嚢内に、くも膜下腔に、経口に、局所に、吸入を通じて、または2つもしくはそれ以上の投与経路の組み合わせを通じて投与される、請求項1~44のいずれか記載の方法。
【請求項46】
前記アントラセン誘導体および前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、同じ投与経路を介して投与される、請求項1~45のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
前記アントラセン誘導体および前記1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質が、異なる投与経路を介して投与される、請求項1~45のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫である、請求項1~47のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
前記がんが小児急性白血病である、請求項1~48のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
前記がんが急性骨髄性白血病である、請求項1~49のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年1月20日付で出願された米国仮特許出願第63/139,683号の優先権の恩典を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
I. 本開示の分野
本開示の局面は、全体として、少なくともがん生物学および医学の分野に関し、より具体的には、特にがんの処置において、ビサントレンならびにその類似体および誘導体の治療的有用性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
II. 背景
基礎的な科学研究から実践的な患者管理の改善に至るまで多くの進歩が見られたが、がんなどの生命を脅かす疾患に対する有用な治療法の合理的な、成功裏の発見には依然として多大な不満が残っている。がんの遺伝的および後成的な異常の複雑さは、がん細胞の増殖を効率的に制御し、がん細胞の先天的かつ後天的な薬物耐性に対抗する薬物を見つけることの重要性を強調している。がんの処置において細胞傷害性効力の増大を達成するために、異なる作用機序を有する薬物が組み合わされてきたが、全生存性は依然として低い。残念ながら、前臨床試験および臨床評価に関する連邦規制要件をうまく満たしている細胞傷害性化合物の多くは、ヒト臨床試験では成功しないか期待外れであり、商業化に至ったいくつかの化合物は、単剤療法としての有効性が低く(奏効率25%未満)、望ましくない用量制限副作用(例えば、骨髄抑制、神経毒性、心毒性、胃腸毒性、または他の重大な副作用など)があるため、臨床的有用性が限られている。
【0004】
細胞傷害性の効力を最大化すること、および望ましくない副作用を低減することは、患者の処置成績にとって最も有益である。それゆえ、当技術分野では、がんを処置するために、より有効な薬物を同定し、他の利用可能な細胞傷害性剤との効果的な併用戦略においてそれらを使用する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
概要
本開示の局面は、がん(例えば、小児急性白血病)を有する対象を処置するための方法、および、異なるクラスの細胞傷害性剤を特定の順序で投与することにより、異なるクラスの細胞傷害性剤の効力を改善するための方法、を提供することによって、当技術分野における要求に対処する。したがって、いくつかの局面において、(a) 1つまたは複数の第1のがん治療法または細胞傷害性剤の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、がんを有する対象を処置するための方法が本明細書において提供される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第1のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、アントラセン誘導体を含む。
【0006】
本開示の態様は、がんを有する対象を処置するための方法、がんを有する対象を処置するために用いられる細胞傷害性剤の効力を改善するための方法、がんを有する対象を1つまたは複数の細胞傷害性剤に感作するための方法、がんを有する対象を併用療法の候補として同定するための方法、ならびに小児急性白血病を有する対象を処置するための方法および組成物を含む。本開示の方法は、以下の段階のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれ以上を含むことができる: 第1の細胞傷害性剤を対象に提供する段階、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を対象に提供する段階、第2の細胞傷害性剤を対象に提供する段階、アントラセン誘導体を対象に提供する段階、併用療法を対象に提供する段階、代替療法を対象に提供する段階、がんを有すると対象を判定する段階、2つまたはそれ以上のタイプのがん治療法を対象に提供する段階、1つまたは複数の細胞傷害性剤が効力の改善に必要であると同定する段階、ならびに1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質とアントラセン誘導体とを含む併用療法の候補であると対象を同定する段階。本開示のある特定の態様は、1つまたは複数の前記の要素および/または段階を除外することができる。
【0007】
いくつかの局面において、がんに関して対象を処置するための方法であって、(a) 1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、前記方法が本明細書において開示される。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与に続いてアントラセン誘導体を投与すると、著しい、相乗的な細胞傷害性効果がもたらされる。
【0008】
いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体である。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、0.05 mg/m2~5000 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、0.1 mg/m2~2500 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1 mg/m2~1000 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、50 mg/m2~500 mg/m2の用量で投与される。
【0009】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、2つまたはそれ以上のピリミジン代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、5-アザシチジン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、サパシタビン、CNDAC、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、2'-C-シアノ-2'-デオキシ-アラビノフラノシルシトシン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、およびクロファラビンのうちの2つまたはそれ以上を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンおよびクロファラビンを含む。
【0010】
いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビンを含み、かつシタラビンは、1 mg/m2~1000 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、5 mg/m2~500 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、25 mg/m2~250 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、50 mg/m2~150 mg/m2の用量で投与される。
【0011】
いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンを含み、かつフルダラビンは、0.25 mg/m2~250 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、1.25 mg/m2~125 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、2.5 mg/m2~60 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、10 mg/m2~40 mg/m2の用量で投与される。
【0012】
いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クラドリビンを含み、かつクラドリビンは、0.001 mg/kg~1 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.005 mg/kg~0.5 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.01 mg/kg~0.25 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.05 mg/kg~0.2 mg/kgの用量で投与される。
【0013】
いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クロファラビンを含み、かつクロファラビンは、0.5 mg/m2~500 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、1 mg/m2~250 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、5 mg/m2~100 mg/m2の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、25 mg/m2~75 mg/m2の用量で投与される。
【0014】
いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1週間以内、2週間以内、3週間以内、または1ヶ月以内に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1週間以内に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1日以内、2日以内、3日以内、4日以内、5日以内、または6日以内に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後1日以内に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後23時間以内、22時間以内、21時間以内、20時間以内、19時間以内、18時間以内、17時間以内、16時間以内、15時間以内、14時間以内、13時間以内、12時間以内、11時間以内、10時間以内、9時間以内、8時間以内、7時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与後12時間以内に投与される。
【0015】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量が投与される。いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量を投与する段階を含み、かつ複数用量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間連続して投与される。いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量を投与する段階を含み、かつ複数用量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間不連続的に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量のすべての用量の投与後に投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の複数用量の投薬と投薬の間に投与される。
【0016】
いくつかの態様において、アントラセン誘導体または1つもしくは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、腫瘍内に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、関節内に、関節滑液嚢内に、くも膜下腔に、経口に、局所に、吸入を通じて、または2つもしくはそれ以上の投与経路の組み合わせを通じて投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体、および1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、同じ投与経路を介して投与される。いくつかの態様において、アントラセン誘導体、および1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、異なる投与経路を介して投与される。
【0017】
いくつかの局面において、本方法は、BH3ミメティックを対象に投与する段階をさらに含む。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)、WEHI-539、BXI-61、BXI-72、GX15-070 (オバトクラクス)、S1、JY-1-106、アポゴシポロン、BI97C1 (サブトクラクス)、TW-37、MIM1、MS1、BH3I-1、UMI-77、またはマリノピロールA (マリトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、またはABT-263 (ナビトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックはABT-199である。いくつかの態様において、BH3ミメティックは1 mg/kg~1000 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは5 mg/kg~500 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは25 mg/kg~250 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは50 mg/kg~150 mg/kgの用量で投与される。
【0018】
いくつかの態様において、がんは、乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫である。いくつかの態様において、がんは小児急性白血病である。いくつかの態様において、がんは急性骨髄性白血病である。
【0019】
いくつかの態様において、がんは、結腸がん、前立腺がん、肺がん、黒色腫、または乳がんである。いくつかの態様において、がんは肺がんである。いくつかの態様において、肺がんは非小細胞肺がんである。いくつかの態様において、がんは転移性がんである。
【0020】
「個体」、「対象」、および「患者」は、互換的に用いられ、ヒトまたは非ヒトを指すことができる。
【0021】
本明細書において用いられる場合、「処置する」、「処置すること」、もしくは「処置」または同等の術語は、治療的処置および予防的または防止的手段の両方を指し、その目的はがんの成長、発生または拡散などの、望ましくない生理学的変化または障害を予防または遅延する(軽減する)ことである。本発明の目的のために、有益なまたは所望の臨床的結果は、検出可能か検出不能かにかかわらず、症状の緩和、疾患の程度の減弱、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化していない)、疾患進行の遅延または緩徐化、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分か完全かにかかわらず)を含むが、これらに限定されることはない。「処置」は、処置を受けていない場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することも意味することができる。処置を必要とする者は、状態もしくは障害を既に有する者だけでなく、その状態もしくは障害を有しやすい者、またはその状態もしくは障害を予防すべき者を含む。処置の結果は、アヘン剤もしくは他の鎮痛剤の投与の必要性の低減によって測定される痛みの低減の判定、腫瘍量の低減の判定、機能の回復の判定、または当技術分野において公知の他の方法などの、当技術分野において公知の方法によって判定することができる。
【0022】
本出願の全体を通じて、「約」という用語は、値には測定法または定量法に対しての固有の誤差変動が含まれることを示すために用いられる。
【0023】
「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語の使用は、「含む」という用語とともに用いられる場合、「1つの(one)」を意味しうるが、それは「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つ、または2つ以上」のという意味とも一致する。
【0024】
「および/または」という語句は、「および」または「または」を意味する。例示すると、A、Bおよび/またはCは、A単独、B単独、C単独、AおよびBの組み合わせ、AおよびCの組み合わせ、BおよびCの組み合わせ、またはA、BおよびCの組み合わせを含む。言い換えれば、「および/または」は、包括的なまたはとして機能する。
【0025】
「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形態)または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形態)という単語は、包括的または非制限的であり、さらなる、引用していない要素も方法段階も除外しない。
【0026】
その使用のための組成物および方法は、本出願の全体に開示されている成分または段階のいずれか「を含む」、「から本質的になる」、または「からなる」ことができる。開示される成分または段階のいずれか「から本質的になる」組成物および方法は、特許請求の範囲を本開示の基本かつ新規の特徴に実質的に影響を与えない特定の材料または段階に限定する。
【0027】
治療的、診断的、または生理学的な目的または効果の文脈におけるいずれの方法も、記述された治療的、診断的または生理学的な目的または効果を達成または実施するための、本明細書において論じられる任意の化合物、組成物、または作用物質「の使用」などの「使用」クレーム言語で記述されうる。
【0028】
本明細書において論じられる任意の態様を、本開示の任意の方法または組成物に関して実施することができ、逆の場合も同様であることが企図される。さらに、本開示の組成物を、本開示の方法を達成するために用いることができる。
【0029】
本開示の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本開示の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から本開示の趣旨および範囲の中でさまざまな修正および変更が当業者には明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本開示のある特定の局面をさらに実証するために含められている。本開示は、これらの図面のうちの1つまたは複数を本明細書に提示した具体的な態様の詳細な説明と併せて参照することによってよりよく理解されうる。
【
図1A】
図1A~1Bは、さまざまなヌクレオシド類似体と組み合わせたビサントレン(Bis)およびABT199の細胞傷害性を示す。OCI-AML3細胞(
図1A)およびMOLM14 AML細胞(
図1B)を、MTTアッセイによる相対増殖およびアネキシンV (Ann V)アッセイによるアポトーシスの判定前に48時間、表示した濃度のBis、シタラビン(Ara-C)、クラドリビン(Clad)、フルダラビン(Flu)、クロファラビン(Clo)およびABT199に単独でまたは組み合わせで曝露した。アスタリスク(
*)は、ABT199と併用有り無しの薬物の統計的有意差(P < 0.05)を示す。結果は少なくとも3回の独立した実験の平均である。薬物の相乗作用を判定するために、MTTアッセイの前に48時間、細胞を一定の比率の濃度でさまざまな薬物の組み合わせに曝露した。計算された組み合わせ指数(CI)と影響を受けた割合(Fa)の関係を棒グラフの下に示す。CI < 1.0は相乗効果を示す。グラフは2回の独立した実験の代表である。
【
図2A】
図2A~2Dは、アポトーシスの分子マーカーの状態に及ぼすBis、ヌクレオシド類似体およびABT199の効果を実証する。細胞を表示した薬物に48時間曝露し、収集し、ウエスタンブロッティング(
図2Aおよび
図2B)、カスパーゼ3酵素アッセイ(
図2C)、ならびにDNAアガロースゲル電気泳動(
図2D)により分析した。他の凡例および略語は、
図1Aおよび1Bと同様である。
【
図3A】
図3A~3Dは、活性酸素種(ROS)およびミトコンドリア膜電位(MMP)の生成における薬物媒介性の変化を実証する。OCI-AML3およびMOLM14細胞をフローサイトメトリー分析の前に48時間、表示した薬物に曝露して、ROS生成(
図3Aおよび
図3B)ならびにMMPの状態(
図3Cおよび
図3D)を記述のように判定した。アスタリスク(
*)は、ABT199と併用有り無しの薬物の統計的有意差(P < 0,05)を示す。結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均±標準偏差として表されている。
【
図4A】
図4A~4Bは、細胞傷害性に及ぼす薬物の順序の影響を実証する。細胞を第1の薬物に24時間曝露し、次いで第2の薬物をさらに24時間添加した後に、MTT (
図4A)およびアネキシンV (
図4B)アッセイを用いた分析を行った。アスタリスク(
*)は統計的有意差(P < 0.05)を示す。結果は、5回の独立した実験の平均±標準偏差として表されている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本開示は、少なくとも部分的には、アントラセン生体異物ビサントレンが、異なるクラスの細胞傷害性剤、例えば、異なる作用様式を有し、異なる代謝経路に影響を及ぼす1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質からの作用物質と組み合わされる場合、ビサントレンおよび1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の順序づけが、さまざまな効果を誘発するという驚くべき発見に基づく。特に、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の後にビサントレンが続く場合、有意な相乗的細胞傷害性効果が観察されるが、ビサントレンが1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質に先行する場合、効果はせいぜい相加的で、最悪の場合には拮抗的であるため、処置失敗のリスクを増強し、がんの根絶を妨げる。
【0032】
したがって、いくつかの態様において、(a) 1つまたは複数のがん治療法の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、がんに関して対象を処置するための方法が開示される。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。したがって、いくつかの態様において、本方法は、(a) 1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む。
【0033】
I. 治療法
本開示の局面は、1つまたは複数のがん治療法の治療的有効量を、その必要がある対象または患者に投与する組成物および方法に指向している。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は細胞傷害性剤を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法はアントラセン誘導体を含み、これはビサントレンでありうる。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含み、これは、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、5-アザシチジン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、サパシタビン、CNDAC、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、2'-C-シアノ-2'-デオキシ-アラビノフラノシルシトシン、またはそれらの組み合わせを含みうる。1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与を含みうる。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、およびクロファラビンのうちの2つまたはそれ以上を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンおよびクロファラビンを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法はBH3ミメティックを含み、これはABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)、WEHI-539、BXI-61、BXI-72、GX15-070 (オバトクラクス)、S1、JY-1-106、アポゴシポロン、BI97C1 (サブトクラクス)、TW-37、MIM1、MS1、BH3I-1、UMI-77、またはマリノピロールA (マリトクラクス)でありうる。これらのがん治療法のいずれかが除外されてもよい。これらの治療法の組み合わせが投与されてもよい。
【0034】
本開示の組成物は、インビボ、インビトロ、またはエクスビボでの投与に用いられうる。組成物の投与経路は、例えば腫瘍内投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、関節内投与、関節滑液嚢内投与、くも膜下腔投与、経口投与、局所投与、吸入による投与、または2つもしくはそれ以上の投与経路の組み合わせによる投与でありうる。がん治療法は同じまたは異なる投与経路を介して投与されうる。
【0035】
本明細書において用いられる「がん」という用語は、固形腫瘍、転移がん、または非転移がんを記述するために用いられうる。ある特定の態様において、がんは、血液、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、十二指腸、小腸、大腸、結腸、直腸、肛門、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、首、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮で発生しうる。
【0036】
がんは、具体的には、以下の組織学的タイプのものであってもよいが、これらに限定されることはない: 新生物、悪性; がん腫; がん腫、未分化; 巨細胞および紡錘体細胞のがん腫; 小細胞がん; 乳頭状がん; 扁平上皮がん; リンパ上皮がん; 基底細胞がん; 石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma); 移行上皮がん; 乳頭状移行上皮がん; 腺がん; ガストリノーマ、悪性; 胆管がん; 肝細胞がん; 混合型肝細胞がんおよび胆管がん; 小柱腺がん(trabecular adenocarcinoma); 腺様嚢胞がん; 腺腫性ポリープ内腺がん; 腺がん、家族性大腸ポリポーシス; 固形がん; カルチノイド腫瘍、悪性; 細気管支肺胞腺がん; 乳頭状腺がん; 色素嫌性がん; 好酸性がん; 好酸性腺がん; 好塩基球がん腫; 明細胞腺がん; 顆粒細胞がん; 濾胞腺がん; 乳頭状腺がんおよび濾胞腺がん; 非被包性硬化性がん(nonencapsulating sclerosing carcinoma); 副腎皮質がん; 類内膜がん; 皮膚付属器がん; アポクリン腺がん; 皮脂腺がん; 耳垢腺がん; 粘表皮がん; 嚢胞腺がん; 乳頭状嚢胞腺がん; 乳頭状漿液嚢胞腺がん; 粘液性嚢胞腺がん; 粘液性腺がん; 印環細胞がん; 浸潤性導管がん; 髄様がん; 小葉がん; 炎症性がん; パジェット病、乳房; 腺房細胞がん; 腺扁平上皮がん; 扁平上皮化生随伴腺がん(adenocarcinoma w/squamous metaplasia); 胸腺腫、悪性; 卵巣間質腫、悪性; 莢膜細胞腫、悪性; 顆粒膜細胞腫、悪性; アンドロブラストーマ、悪性; セルトリ細胞腫; ライディッヒ細胞腫、悪性; 脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor)、悪性; パラガングリオーマ、悪性; 乳房外パラガングリオーマ(extra-mammary paraganglioma)、悪性; クロム親和細胞腫; 血管球血管肉腫; 悪性黒色腫; 無色素性黒色腫; 表在拡大型黒色腫; 巨大色素性母斑中の悪性黒色腫; 類上皮細胞黒色腫; 青色母斑、悪性; 肉腫; 線維肉腫; 線維性組織球腫、悪性; 粘液肉腫; 脂肪肉腫; 平滑筋肉腫; 横紋筋肉腫; 胎児性横紋筋肉腫; 胞巣型横紋筋肉腫; 間質性肉腫; 混合腫瘍、悪性; ミューラー混合腫瘍; 腎芽腫; 肝芽腫; がん肉腫; 間葉腫、悪性; ブレンナー腫瘍、悪性; 葉状腫瘍、悪性; 滑膜肉腫; 中皮腫、悪性; 未分化胚細胞腫; 胚性がん腫; テラトーマ、悪性; 卵巣甲状腺腫、悪性; 絨毛がん; 中腎腫、悪性; 血管肉腫; 血管内皮腫、悪性; カポジ肉腫; 血管周囲細胞腫、悪性; リンパ管肉腫; 骨肉腫; 傍骨骨肉腫; 軟骨肉腫; 軟骨芽細胞腫、悪性; 間葉性軟骨肉腫; 骨巨細胞腫; ユーイング肉腫; 歯原性腫瘍、悪性; エナメル芽細胞歯牙肉腫; エナメル上皮腫、悪性; エナメル上皮線維肉腫; 松果体腫、悪性; 脊索腫; 神経膠腫、悪性; 上衣腫; 星状細胞腫; 原形質性星状細胞腫; 線維性星状細胞腫; 星状芽細胞腫; グリア芽細胞腫; 乏突起神経膠腫; 乏突起神経膠芽細胞腫; 未分化神経外胚葉性; 小脳肉腫; 神経節芽細胞腫; 神経芽細胞腫; 網膜芽細胞腫; 嗅神経腫瘍; 髄膜腫、悪性; 神経線維肉腫; 神経鞘腫、悪性; 顆粒細胞腫瘍、悪性; 悪性リンパ腫; ホジキン病; ホジキン; 側肉芽腫; 悪性リンパ腫、小リンパ球性; 悪性リンパ腫、びまん性大細胞性; 悪性リンパ腫、濾胞性; 菌状息肉腫; 明記された他の非ホジキンリンパ腫; 悪性組織球症; 多発性骨髄腫; マスト細胞肉腫; 免疫増殖性小腸疾患; 白血病; リンパ性白血病; プラズマ細胞白血病; 赤白血病; リンパ肉腫細胞性白血病; 骨髄性白血病; 好塩基球性白血病; 好酸球性白血病; 単球性白血病; マスト細胞白血病; 巨核芽球性白血病; 骨髄肉腫; および毛様細胞性白血病。
【0037】
いくつかの態様において、乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫を含むがんを処置するための方法が開示される。いくつかの態様において、がんは小児急性白血病である。いくつかの態様において、がんは急性骨髄性白血病である。いくつかの態様において、がんはリンパ腫である。いくつかの態様において、がんは乳がんである。いくつかの態様において、がんは卵巣がんである。
【0038】
いくつかの態様において、がん治療法は局所がん治療法を含む。いくつかの態様において、がん治療法は全身がん治療法を含む。いくつかの態様において、がん治療法はがん治療法を除く。いくつかの態様において、がん治療法は局所がん治療法を除く。
【0039】
A. 化学療法
いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は化学療法を含む。化学療法剤の好適なクラスは、(a) アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド(cylophosphamide)、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミンおよびメチルメラミン(例えば、ヘキサメチルメラミン、チオテパ)、アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、クロロゾトシン(chlorozoticin)、ストレプトゾシン)およびトリアジン(例えば、ジカルバジン)、(b) 代謝拮抗物質、例えば葉酸類似体(例えば、メトトレキサート)、ピリミジン類似体(例えば、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、アザウリジン)およびプリン類似体ならびに関連物質(例えば、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、ペントスタチン)、(c) 天然産物、例えばビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン)、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシンおよびミトキサントロン)、酵素(例えば、L-アスパラギナーゼ)、ならびに生物学的応答修飾物質(例えば、インターフェロン-α)、ならびに(d) 種々の作用物質、例えば白金配位錯体(例えば、シスプラチン、カルボプラチン)、置換尿素(例えば、ヒドロキシ尿素)、メチルヒドラジン(methylhydiazine)誘導体(例えば、プロカルバジン)、および副腎皮質抑制剤(adreocortical suppressant) (例えば、タキソールおよびミトタン)を含む。
【0040】
患者に送達される化学療法剤の量は可変でありうる。1つの好適な態様において、化学療法剤は、化学療法が構築物とともに実施される場合、宿主におけるがんの停止または退行を引き起こすのに有効な量で投与されうる。他の態様において、化学療法剤は、化学療法剤の化学療法的有効量の1/2から1/10,000の間の任意の量で投与されうる。例えば、化学療法剤は、化学療法剤の化学療法的有効量の約1/20、約1/500、またはさらには約1/5000である量で投与されうる。
【0041】
本開示の化学療法薬は、単独でのまたは別の細胞傷害性剤との組み合わせでの所望の治療活性について、および有効な投与量の決定について、インビボで試験することができる。例えば、そのような化合物はヒトでの試験の前に、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サル、ウサギなどを含むが、これらに限定されない、好適な動物モデル系で試験することができる。実施例に記述されているように、インビトロ試験を用いて、好適な組み合わせおよび投与量を決定することもできる。
【0042】
1. アントラセン誘導体
いくつかの態様において、化学療法はアントラセン誘導体を含む。いくつかの態様において、開示される方法は、アントラセン誘導体の、その必要がある対象または患者への投与を含む。いくつかの態様において、アントラセン誘導体はビサントレンである。
【0043】
ビサントレンは、化学名 9,10-アントラセンジカルボキシアルデヒドビス[(4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イル)ヒドラジン]二塩酸塩を有する三環式芳香族化合物である。分子式はC
22H
22N
8・2HClであり、分子量は471.4である。塩酸ビサントレンの構造を式(I):
に示す。
【0044】
ビサントレンのアルキルイミダゾール側鎖は塩基性であり、生理的pHでは、正に帯電しており、これはビサントレンとDNA中およびRNA中の負に帯電したリボースリン酸基との間の静電引力を促進すると考えられている。
【0045】
ビサントレンは当初、アントラサイクリン化学療法剤として分類された。アントラサイクリンは、共鳴芳香環構造を中心とした平面構造を有する薬物であり、DNAおよびRNAのヘリックス内に挿入され、おそらく酵素トポイソメラーゼIIに対する強力な阻害効果により、DNAおよびRNA合成を含めて、さまざまな機能を妨害する。アントラサイクリンは、その臨床的有用性にもかかわらず、心毒性があることが知られている。イヌおよびサルにおける毒性研究では、アントラサイクリンは高用量で、白血球減少、食欲不振、下痢、注射部位壊死、腸炎、筋肉変性、および肺水腫を引き起こすことが実証された。しかし、ビサントレンの毒性はアントラサイクリン系ドキソルビシンの毒性よりも低いことが示されている。この薬物は動物において心毒性がなく、臨床での使用により、そのクラスの他の剤よりも心毒性が低いことが確認された。薬物投与中に心電図の変化を経験した患者はおらず、心血管造影モニタリングでは駆出率の低下または心臓機能の他の有意な変化は実証されなかった(J. W. Myers et al.,「Radioangiocardiographic Monitoring in Patients Receiving Bisantrene」, Am. J. Clin. Oncol. 7: 129-130 (1984), この参照により本明細書に組み入れられる)。ビサントレンは吐き気も嘔吐もほとんど生じないことも報告されており、ドキソルビシンと比較してビサントレンでは脱毛もあまりない(J. D. Cowan et al.,「Randomized Trial of Doxorubicin, Bisantrene, and Mitoxantrone in Advanced Breast Cancer: A Southwest Oncology Group Study」, J. Nat’l Cancer Inst. 83: 1077-1084 (1991))。
【0046】
ビサントレンに対する応答が見られたがんのタイプの中には、膀胱がん、多発性骨髄腫、肺腺がん、黒色腫、および腎細胞がん(Alberts et al. (1982), 上記)、ならびに乳がん(Bowden et al. (1985), 上記)および急性骨髄性白血病、特に再発性または難治性の急性骨髄性白血病(A. Spadea et al.,「Bisantrene in Relapsed and Refractory Myelogenous Leukemia」, Leukemia Lymphoma 9: 217-220 (1993)がある。ビサントレンは、結腸26細胞、ルイス(Lewis)肺細胞、リッジウェイ(Ridgway)骨肉腫細胞、B16細胞、リーバーマン(Lieberman)形質細胞、P388またはL1210がん細胞を用いたがんモデルにおいても有効であることが示されている。例えば、ビサントレンは、P-388白血病およびB-16黒色腫を含むマウス腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性を示している(R. V. Citarella et al.,「Anti-Tumor Activity of CL-216942: 9,10-Anthracenedicarboxaldehyde bis [(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)hydrazone)]dihydrochloride (Abstract #23) in Abstracts of the 20th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy (Bethesda, Md., American Society for Microbiology 1980))。インビトロコロニー形成アッセイで評価した場合にビサントレンに感受性であったヒト腫瘍細胞は乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がんおよび扁平上皮肺がん、リンパ腫、急性骨髄性白血病、黒色腫、膵臓がん、胃がん、副腎がん、肉腫、ならびに頭頸部がんを含む(D. D. Von Hoff et al,「Activity of 9,10-Anthracenedicarboxaldehydebis[(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)hydrazine]dihydrochloride (CL216,942) in a human tumor cloning system」, Cancer Chemother. Pharmacol. 6: 141-144 (1981) (「Von Hoff et al. (1981a)」)。
【0047】
第I相臨床試験において、ビサントレンは肝細胞がんおよび副腎腫(D. D. Von Hoff et al., Phase I Clinical Investigation of 10-Anthracenedicarboxaldehyde bis[(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)hydrazine]dihydrochloride (CL216,942),” Cancer Res. 3118-3121 (1981) (「Von Hoff et al. (1981b)」)において、ならびにリンパ腫、骨髄腫、黒色腫、腎がんおよび膀胱と肺の腫瘍(D. S. Alberts et al.,「Phase I Clinical Investigation of 9,10-Anthracenedicarboxaldehyde bis[(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)hydrazone] Dihydrochloride with Correlative in Vitro Human Tumor Clonogenic Assay」, Cancer Res. 42: 1170-1175 (1982))において活性を示した。第I相活性は、その他2名の副腎腫においても観察された(R. J. Spiegel et al.,「Phase I Clinical Trial of 9,10-Anthracene Dicarboxaldehyde (Bisantrene) Administered in a Five-Day Schedule」, Cancer Res. 42: 354-358 (1982))。
【0048】
第II相臨床試験において、ビサントレンは、転移性乳がんを有する患者において活性であった(H.-Y. Yap et al.,「Bisantrene, an Active New Drug in the Treatment of Metastatic Breast Cancer」, Cancer Res. 43: 1402-1404 (1983))。部分奏効率は、高度に前処置を受けた転移性乳がん患者においても観察されたが; しかしながら、重大な局所毒性のため研究は中止された。
【0049】
ビサントレンの用量は、中心静脈アクセス装置を介し1時間かけて注入されている(Van Hoff et al., 1981b)。ビサントレンはまた、末梢静脈から2時間かけて注入され、注入のために用いられる腕の遅発性腫脹を軽減するために、実行中のブドウ糖輸液中に「付け加え」られている。静脈刺激、色素沈着、薬物溢出、およびアナフィラキシー様反応を低減するため、患者にはビサントレンの直前にヒドロコルチゾン(50 mg IV)および抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミン(50 mg 1M)が投与されている(Alberts et al. (1982)), 前記)。1つの代替法では、ビサントレンバイアルは注射用滅菌水, USP 2~5 mLで再構成され、その後にD5W (水中5%のブドウ糖)中およそ0.1~0.5 mg/mLに希釈されている。
【0050】
いくつかのビサントレン第I相スケジュールにおける最大耐容量は、以下を含む: (1) 週200 mg/m2×3 (骨髄予備能の低い患者(例えば、放射線療法または広範な化学療法レジメンを受けた患者)の場合には150 mg/mg2) (Alberts et al. (1982), 前記); (2) 週150 mg/m2×3 (4~5週間ごとに繰り返す) (B.-S. Yap et al.,「Phase I Clinical Evaluation of 9,10-Anthracenedicarboxaldehyde[bis(4,5-dihydro-1H-imidazol-2-yl)hydrazone]dihydrochloride (Bisantrene)」, Cancer Treat. Rep. 66: 1517-1520 (1982)); (3) 月260 mg/m2 (3~4週間ごとに) (骨髄予備能の低い患者(例えば、放射線療法または広範な化学療法レジメンを受けた患者)の場合には240 mg/m2) (Von Hoff et al., 1981 b); および(4) 1日80 mg/m2×5 (4週間ごとに繰り返す) (R. J. Spiegel et al. (1982), 前記)。
【0051】
ビサントレンの95%超が血漿タンパク質に結合しており、この薬物は長い血漿中終末相半減期を有する。排出には3期あると考えられた: 6分の初期分配期、およそ1.5時間のβ期、および23~54時間の最終γ排出期(Alberts et al. (1983), 前記)。典型的な血漿中濃度×時間曲線下面積は、それぞれ260~340 mg/m2の静脈内投薬後に4.4~5.7 mg・h/mLである(Alberts et al. 1983, 前記)。ビサントレン投薬量の7%未満が尿中に排出され、この薬物の大部分は肝胆道経路により排出される。この薬物はインビボである程度まで代謝されうる。インビトロでは、ビサントレンは肝ミクロソーム酵素の基質であるが、特異的な代謝産物は同定されていない。前臨床薬物分布研究では、最も濃度の高い組織(降順に)は腎臓、肝臓、胆嚢、脾臓、肺、および心臓であることが示されている。この薬物はリンパ節および骨髄にも分布している(W. H. Wu & G. Nicolau, 「Disposition and Metabolic Profile of a New Antitumor Agent, CL 216,942 (Bisantrene) in Laboratory Animals」, Cancer Treat Rep. 66: 1173-1185 (1982))。
【0052】
他のいくつかの臨床試験でも、ヒトにおけるビサントレンの薬物動態が調査されている。ある試験では、患者に260 mg/m2のビサントレンを90分間注入したところ、初期半減期65±15分、終末相半減期1142±226分、および定常状態分布容積(Vdss) 1845 L/m2の二相性排出が観察された。この試験における血漿クリアランスは735 ml/分/m2であったが、投与した用量の11.3%が24時間後に尿中に変化なく排出された。別の試験では、80~250 mg/m2の用量が評価され、初期半減期および終期相半減期はそれぞれ0.6時間および24.7時間であり、クリアランスは1045.5±51.0 ml/kg/時間および計算分布容積は42.1±5.9 L/kgであった。この試験では、96時間後には投与した用量の3.4±1.1%のみが尿中に見出された。他の3つの単回投与試験についても三相性排出が報告されている。3つの試験のうち最初の試験では、t1/2α、β、およびγがそれぞれ3.44分、1.33時間、および26.13時間であったと報告され; 3つの試験のうち2番目の試験では、t1/2α、β、およびγがそれぞれ3分、1時間、および8時間であったと報告され; ならびに3つの試験のうち最後の試験では、t1/2α、β、およびγがそれぞれ0.1時間、1.9時間、および43.9時間であったと報告された。ある報告では、大きな分布容積(687 L/m2)は、薬物の組織隔離とその後の貯蔵効果と解釈された。72時間の注入試験では、56 mg/m2の用量で12±6 ng/mlの血漿中濃度が観察されたが、260 mg/m2の用量では55±8 ng/mlの血漿中濃度が得られた。この試験では、血漿クリアランスは1306±179 ml/分/m2であり、尿中排泄は24時間で用量の4.6%であった。最後に、別の試験では、注入60分の5日間スケジュールでは、t1/2αおよびβがそれぞれ0.9時間および9.7時間であり、用量の7.1%が尿中に排泄された。
【0053】
ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体の投与で用いるのに適したさまざまな製剤が、当技術分野において公知である。参照によりその全体が本明細書に組み入れられるDesaiらの米国特許第4,784,845号には、(i) 疎水性薬物; (ii) ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)またはブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を実質的に含まない油性媒体または油相; (iii) 共界面活性剤または乳化剤; (iv) 共界面活性剤または補助乳化剤; および(v) 共溶媒としてのベンジルアルコールを含む、疎水性薬物(すなわち、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体)の送達のための物質の組成が開示されている。参照によりその全体が本明細書に組み入れられるDesaiらによる米国特許第4,816,247号には、(i) 疎水性薬物; (ii) (a) 天然に存在する植物油および(b) 半合成モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドからなる群より選択される薬学的に許容される油性媒体または油であって、BHTまたはBHAを含まない、前記油性媒体または油; (iii) 界面活性剤または乳化剤; (iv) 共界面活性剤または乳化剤; (v) 疎水性薬物が塩基性である場合にはC6~C20飽和または不飽和脂肪族酸から選択されるイオンペア形成剤および疎水性薬物が酸性である場合には薬学的に許容される芳香族アミン; ならびに(vi) 水を含む、疎水性薬物(ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体などの)の静脈内、筋肉内、または関節内経路による送達のための物質の組成が開示されている。参照によりその全体がそれぞれ本明細書に組み入れられるLawterらの米国特許第5,000,886号およびLawterらの米国特許第5,143,661号には、揮発性シリコーン流体である硬化剤を含むマイクロカプセルを含んだビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体などの薬剤の送達のための組成物が開示されている。参照によりその全体がどれも本明細書に組み入れられるMurdockらの米国特許第5,070,082号、Murdockらの米国特許第5,077,282号およびMurdockらの米国特許第5,077,283号には、ホスホロアミド酸の塩である、ビサントレン、誘導体および類似体を含む、難溶性疎水性薬物のプロドラッグ形態が開示されている。参照によりその全体がそれぞれ本明細書に組み入れられるMurdockらの米国特許第5,116,827号およびMurdockらの米国特許第5,212,291号には、キノリンカルボン酸誘導体である、ビサントレン、誘導体および類似体を含む、難溶性疎水性薬物のプロドラッグ形態が開示されている。参照によりその全体が本明細書に組み入れられるTsouの米国特許第5,378,456号には、ジビニルエーテル-マレイン酸(MVE)共重合体と共役または混和されているビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体などの、アントラセン抗腫瘍剤を含有する組成物が含まれる。参照によりその全体が本明細書に組み入れられるTsouの米国特許第5,609,867号には、ビサントレンの重合性1,4-ビス誘導体、およびビサントレンと二無水物などの別の単量体との共重合体が開示されている。
【0054】
薬物の治療有効性、安定性、および/または生物学的利用能を改善し、骨髄抑制、白血球減少、アナフィラキシー様反応、静脈炎、紅斑、および浮腫を含む、ビサントレン処置の副作用を回避しながら、がんの処置のためにビサントレンおよびその類似体または誘導体を使用するための改善された方法および組成物は、参照によりその全体がそれぞれ本明細書に組み入れられる米国特許第9,974,774号、PCT出願番号WO 2019/073296およびPCT出願番号2020/072948に記述されている。これらの特許および出願には、上記のように、がんを有する患者にとって最適ではない性能を有する、ビサントレンならびにその誘導体および類似体を含め、化学的物質の有用性を改善するための新規な組成物および方法、ならびに改善された医薬成分、投与量形態、賦形剤、溶媒、希釈剤、薬物送達システム、保存料、より的確な薬物投与、改善された用量決定およびスケジュール、毒性のモニタリングおよび改善、毒性を回避または低減するための技法または作用物質、診断キットまたは薬物動態学的もしくは代謝的モニタリングアプローチの使用を通じた表現型または遺伝子型の決定の使用により、薬物送達システム、新規なプロドラッグ、重合体結合体、新規な投与経路、化合物の活性を増強するまたは最適以下の細胞効果もしくは亜致死的な損傷の修復を阻害する、あるいはアポトーシスなどの、より破壊的な細胞段階に細胞を「押しやる」他の作用物質の使用により、治療剤でいっそう良好な転帰が得られる可能性のある患者を同定/予測するための技法およびツールの新規な開発が記述されている。場合によっては、本発明の例には、放射線または他の従来の化学療法剤もしくは生物療法剤、例えば抗体、ワクチン、サイトカイン、リンホカイン、遺伝子およびアンチセンス療法、あるいは他の生物療法剤と併せた、これらの最適以下の治療用物質の使用が含まれる。
【0055】
ビサントレンは、直接的な細胞傷害性作用および非免疫学的効果を有することが分かっている。ビサントレンのDNAへの非共有結合は、2種類の相互作用を含む: (1) DNA塩基対間の平面アントラセン部分のインターカレーション; および(2) DNAの負電荷を帯びたリボースリン酸と薬物のアルキル側鎖上の正電荷を帯びた塩基性窒素との間の静電結合。これはインビトロでの仔牛胸腺DNAにおけるビサントレンの二相DNA解離曲線に反映されている(W. O. Foye et al.,「DNA-Binding Abilities of Bisguanylhydrazones of anthracene-9,10-dicarboxaldehyde」, Anti-Cancer Drug Design 1:65-71 (1986))。他のアントラサイクリンと同様に、ビサントレンはDNAにインターカレートし、A-Tに富む領域に優先的に結合し、そこでスーパーコイルに変化をもたらし、DNA関連タンパク質とともに鎖切断を開始する。これは、複製中のDNA コイル形成を緩和するトポイソメラーゼ II の阻害に起因する。具体的には、ビサントレンはDNAインターカレーションを示すDNAスーパーコイル形成の変化を誘導することが示されている(G. T. Bowden et al.,「Comparative Molecular Pharmacology in Leukemic L1210 cells of the Anthracene Anticancer Drugs Mitoxantrone and Bisantrene, Cancer Res. 45: 4915-4920 (1985))。L-1210白血病細胞において、ビサントレンはDNAトポイソメラーゼII酵素の薬物誘導性阻害に典型的なタンパク質関連DNA鎖切断を誘導することも示されている(Bowden et al., 1985)。細胞傷害性もDNA鎖切断も低酸素状態では低減するようである(C. U. Ludwig et al.,「Reduced Bisantrene-Induced Cytotoxicity and Protein-Associated DNA Strand Breaks Under Hypoxic Condition」, Cancer Treat. Rep. 68: 367-372 (1984))。
【0056】
DNAインターカレーターとしてのビサントレンの活性に関連した直接的な抗新生物効果に加えて、ビサントレンは、免疫増強などの、ゲノムおよび免疫学的な作用様式を含めて、他の作用機序も有している。例えば、ビサントレンは腫瘍細胞増殖抑制性マクロファージを活性化すると報告されており(B. S. Wang et al.,「Activation of Tumor-Cytostatic Macrophages with the Antitumor Agent 9,10-Anthracenedicarboxaldehyde Bis[(4,5-dihydro-1H-imidazole-2-yl)hydrazine Dihydrochloride (Bisantrene)」, Cancer Res. 44: 2363-2367 (1984))、この参照により本明細書に組み入れられる。ビサントレンの最小有効インビボ用量は、25 mg/kgであり、ピーク活性化は50~100 mg/kgの用量で達成されるようであった。同種マクロファージ移植におけるおよびビサントレンによって活性化されたマクロファージの上清によるビサントレンの効力が、参照により本明細書に組み入れられるB. S. Wang et al.,「Immunotherapy of a Murine Lymphoma by Adoptive Transfer of Syngeneic Macrophages Activated by Bisantrene」, Cancer Res. 46: 503-506 (1986)に示されている。具体的には、腹膜滲出液から活性細胞が得られた。ビサントレンで活性化されたマクロファージは、腫瘍細胞に対して高度に細胞増殖抑制性であることが示された。活性化されたマクロファージによる繰り返し処置は、腫瘍を接種された動物を保護する上でより効果的であることが示された。これは免疫担当細胞の養子移入による免疫療法である。活性化されたマクロファージの培養上清も腫瘍細胞に対して抗増殖効果を有することが分かり、細胞分裂抑制因子がこれらのマクロファージによって産生されることが示された。(B. S. Wang et al.,「Activation of Tumor-Cytostatic Macrophages with the Antitumor Agent 9,10-Anthracenedicarboxaldehyde Bis[(4,5-dihydro-1H-imidazole-2-yl)hydrazine] Dihydrochloride (Bisantrene)」, Cancer Res. 44: 2363-2367 (1984))。したがって、ビサントレンで活性化されたマクロファージからの上清は、腫瘍細胞培養において保護細胞静止効果を有し、EL-4リンパ腫を有するマウスに養子移入したビサントレン活性化マクロファージはマウスの生存期間中央値を2倍超に延長し、群のなかで10匹中7匹のマウスが治癒した。ビサントレンによるDNA発現の阻害は、NSC80467およびYM155を含むサバイビン阻害剤の効果を模倣するという証拠もある。
【0057】
その他の免疫学的機序は、以下に記述されている: (i) N. R. West et al.,「Tumor-Infiltrating Lymphocytes Predict Response to Anthracycline-Based Chemotherapy in Estrogen-Resistant Breast Cancer」, Breast Canc. Res. 13: R126 (2011)、これには腫瘍浸潤リンパ球のレベルがアントラサイクリン系剤の投与に対する応答と相関していると結論付けられている; 腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に関連するマーカーにはCD19、CD3D、CD48、GZMB、LCK、MS4A1、PRF1およびSELLが含まれる; (ii) L. Zitvogel et al.,「Immunological Aspects of Cancer Chemotherapy」, Nature Rev. Immunol. 8: 59-73 (2008)、これにはビサントレンなどのインターカレート剤によって生じるようなDNA損傷が、ATM依存的におよびCHK1依存的(しかしp53非依存的)に腫瘍細胞上のNKG2Dリガンドの発現を誘導すると述べられている; NKG2Dは、NK細胞、NKT細胞、γδT細胞ならびに安静時(マウスでは)および/または活性時(ヒトでは) CD8+ T細胞による腫瘍免疫監視に関与する活性化受容体であり、また、アントラサイクリン系剤は、特にIL-12との組み合わせで、免疫刺激剤として作用しうると述べられている; そのような剤はまた、HMGB1の放出を促進し、T細胞を活性化する; (iii) D. V. Krysko et al.,「TLR2 and TLR9 Are Sensors of Apoptosis in a Mouse Model of Doxorubicin-Induced Acute Inflammation」, Cell Death Different. 18: 1316-1325 (2011)、これにはアントラサイクリン系抗生物質が、MyD88、TLR2およびTLR9によって媒介される免疫賦活特性を有する免疫原性形態のアポトーシスを誘導すると述べられている; (iv) C. Ferraro et al.,「Anthracyclines Trigger Apoptosis of Both G0-G1 and Cycling Peripheral Blood Lymphocytes and Induce Massive Deletion of Mature T and B Cells」, Cancer Res. 60: 1901-1907 (2000)、これにはアントラサイクリンが、アポトーシスおよびセラミド生成を誘導し、ならびに静止細胞と循環細胞においてカスパーゼ-3を活性化する; 誘導されるアポトーシスはCD95-L/CD95およびTNF/TNF-Rとは無関係であると述べられていた; ならびに(v) K. Lee et al.,「Anthracycline Chemotherapy Inhibits HIF-1 Transcriptional Activity and Tumor-Induced Mobilization of Circulating Angiogenic Cells」, Proc. Natl. Acad. Sci USA 106: 2353-2358 (2009)、これにはアントラサイクリン系抗生物質の別の抗新生物機序、すなわちHIF-1を介した遺伝子転写の阻害が提供されており、その結果、血管新生に必要なVEGFの転写が阻害される; HIF-1はまた、転移性がん細胞において観察される高レベルのグルコース取り込みとリン酸化に必要とされる、グルコース輸送体GLUT1ならびにヘキソキナーゼHK1およびHK2、ならびに、ミトコンドリアからピルビン酸をシャントし、それによって乳酸生成を増加させるピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ1 (PDK1)、をコードする遺伝子の転写を活性化する; 免疫組織化学的結果に基づいてHIF-1αの過剰発現を有する患者は、アントラサイクリン系抗生物質による処置の良好な候補であることが示唆された。
【0058】
ビサントレンの抗テロメラーゼ活性を改善するために、ビサントレンの類似体も作製された。ヒト黒色腫(SK-Mel5)および結腸がん(LoVo)腫瘍細胞は、これらの類似体の存在下でその増殖能力を失うことが観察された。アポトーシスは観察されなかったが、処理された細胞が老化し、加齢し、死滅する能力を再び獲得し、不死性の喪失が実証された。
【0059】
ビサントレンおよびその類似体は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるM. Folini et al.,「Remarkable Interference with Telomeric Function by a G-Quadruplex Selective Bisantrene Regioisomer」, Biochem. Pharmacol. 79: 1781-1790 (2010)に開示されているように、特に4つのグアニンが折り畳みによって会合する部位に形成されるG-四重鎖DNA構造を安定化することによって、テロメラーゼ活性を阻害すると報告されている。テロメラーゼは、テロメアの長さの維持を担うリボ核タンパク質逆転写酵素である。その発現は、ほとんどのヒト腫瘍細胞において発現されるが、ほとんどの正常な体細胞においては活性がないため、細胞の不死化および腫瘍形成に関連している。一般に、テロメラーゼ活性の阻害は、テロメラーゼが阻害されている細胞の初期テロメア長と相関する時間依存的な様式で細胞の老化またはアポトーシスを引き起こす。テロメア構造が崩壊するかまたは破壊されると、DNA損傷によって生じるシグナル伝達カスケードに匹敵するシグナル伝達カスケードが活性化され、細胞周期停止(老化の加速)またはアポトーシスによる細胞死が誘導される。
【0060】
テロメラーゼ基質はテロメアであり、3'が突出した突出部(100~200塩基長)を有する二本鎖DNA部分であり、非コード配列(ヒトではTTAGGG)の繰り返しによって形成される。一本鎖部分は折り畳まれて、4つのフーグスティーン(Hoogsteen)対グアニンから形成される平面領域が重なり合う、G-四重鎖と呼ばれる構造になりうる。フーグスティーン塩基対形成は、水素結合アクセプターとしてのプリン塩基のN7位とドナーとしてのピリミジン塩基のC6アミノ基の間で行われる。ビサントレンのような選択されたリガンドは、この異常なDNA塩基対形成の配置を認識して安定化することにより、テロメアとテロメラーゼの相互作用を損ない、かくして酵素により触媒されるテロメア伸長段階を妨害する。さらに、ビサントレンはテロメアキャッピングに関与するテロメア結合タンパク質(すなわち、TRF2およびhPOT1)を置換することができ、それによって遊離末端配列をDNA損傷領域として認識できるようになる。テロメアのGに富む一本鎖突出部によって形成されるG-四重鎖構造と相互作用し、安定化しうるビサントレンのような化合物は、プロトン付加可能な側鎖に結合した大きい平らな芳香族表面に基づく一般的な共通の構造モチーフを共有している。DNA結合は主に末端G四分子上でのスタッキングによって起こるが、側鎖はDNA溝との疎水性/イオン性相互作用によって複合体の安定性に寄与する。
【0061】
ビサントレン類似体は、式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、および(VIII):
のものを含むが、これらに限定されることはない。
【0062】
同様の基本的特徴がインターカレーションと塩基スタッキングを特徴付けるため、古典的なインターカレーション剤の足場は、G-四重鎖を認識し、G-四重鎖に結合する化合物を生成するための出発構造として一般に用いられる。G-四重鎖の結合には、生理的pHでプロトン化可能なアミン基を有する少なくとも2つの側鎖が必要である。最も効率的なG-四重鎖結合物質は、芳香族系の長軸に対して反対方向を向いた側鎖を有する2つの異なる芳香環上で置換されていることから、4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-2-イルヒドラゾン基とG-四重鎖構造との間にさらに特異的な相互作用が形成されることが示唆される。
【0063】
ビサントレンは、効果的なG-四重鎖結合物質に特徴的な構造的「コンセンサスモチーフ」を共有している。ビサントレンは、側鎖がどちらかの溝に位置するπ-πスタッキングによって二本鎖DNAの隣接塩基対の間にインターカレートすると考えられており(スレッディングモード)、これにより生理学的条件下で106 M-1をはるかに超える親和定数が得られる。ビサントレン類似体の少なくとも1つである式(III)は、基質認識を妨害して触媒活性を抑制することによりテロメラーゼレベルでも、テロメアの構造組織を改変することによりテロメアレベルでも作用する能力を有する。この化合物は、テロメスタチンについて報告された結果と一致して、テロメアに部分的に共局在するγH2AX巣の形成により証明されるように、一貫してDNA損傷応答を引き起こすため、テロメラーゼ発現細胞だけでなくALT陽性細胞株でもテロメア機能に影響を与える。この化合物の場合、そのようなDNA損傷応答は、アポトーシスの欠如および細胞周期障害(主にG2M期停止)の誘導と合わせて、薬物を介した老化経路の活性化を示唆している。
【0064】
別のビサントレン類似体はHL-37として知られる化合物であり、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるS. Q. Xie et al.,「Anti-Tumour Effects of HL-37, a Novel Anthracene Derivative, In-Vivo and In-Vitro」, J. Pharm. Pharmacol. 60:213-219 (2008)に記述されている。HL-37は、アントラセン-9-イルメチレン-[2-メトキシエトキシメチルスルファニル]-5-ピリジン-3-イル-[1,2,4]トリアゾール-4-アミンであり、以下の式(IX):
として示される構造を有する。
【0065】
N,N'-ビス[2-(ジメチルアミノ)エチル]-9,10-アントラセン-ビス(メチルアミン)およびN,N'-ビス(1-エチル-3-ピペリジニル)-9,10-アントラセン-ビス(メチルアミン)を含む、T. P. Wunz et al.,「New Antitumor Agents Containing the Anthracene Nucleus」, J. Med. Chem. 30: 1313-1321 (1987)に開示されているビサントレン類似体、ならびにJ. A. Elliott et al.,「Interaction of Bisantrene Anti-Cancer Agents with DNA: Footprinting, Structural Requirements for DNA Unwinding, Kinetics and Mechanism of Binding and Correlation of Structural and Kinetic Parameters with Anti-Cancer Activity」, Anticancer Drug Dis. 3: 271-282 (1989)に開示されているビサントレン類似体を含めて、他のビサントレン類似体および誘導体は、当技術分野において公知である。C. Sissi et al.,「DNA-Binding Preferences of Bisantrene Analogs: Relevance to the Sequence Specificity of Drug-Mediated Topoisomerase II Poisoning」, Mol. Pharmacol. 54: 1036-1045 (1998)には、ビサントレン-アムサクリンハイブリッドと考えることができるアザ-生物学的等価体(aza-bioisostere)を含む、さらなる類似体が開示されている。さらに他のビサントレン類似体および誘導体が、G. Zagotto et al.,「Synthesis, DNA-Damaging and Cytotoxic Properties of Novel Topoisomerase II-Directed Bisantrene Analogues」, Bioorg. Med. Chem. Lett. 20: 121-126 (1998)に開示されている。T. L. Fields et al.,「The Synthesis of Heterocyclic Analogs of Bisantrene」, J. Heterocyclic Chem. 25: 1917-1918 (1988)には、ビサントレン類似体としてアントラセン-9,10-ジカルボキシアルデヒドのビスグアニルヒドラゾンが開示されている。ビサントレン-アムサクリンハイブリッドは、G. Capranico et al.,「Mapping Drug Interactions at the Covalent Topoisomerase II-DNA Complex by Bisantrene/Amsacrine Congeners」, J. Biol. Chem. 273: 12732-12739 (1998)にも開示されている。これらの化合物は、以下に式(X)、(XI)、(XII)、および(XIII):
として描かれている。
【0066】
ビサントレンの他の誘導体および類似体は、Murdockの米国特許第4,900,838号およびMurdockらの米国特許第5,212,191号に開示されているビサントレンのジホスホロアミド誘導体およびモノホスホロアミド誘導体を含み、これらのどちらも本参照により本明細書に組み入れられる。これらの化合物は、式(XIV):
の化合物であり、
式中、
R
1およびR
3は同じものまたは異なるものであり、水素、C
1~C
6アルキル、-C(O)-R
5であり、ここでR
5は水素、C
1~C
6アルキル、フェニル、モノ置換フェニル(ここで置換基はオルト、メタ、またはパラであってもよく、フルオロ、ニトロ、C
1~C
6アルキル、C
1~C
3アルコキシ、またはシアノである)、ペンタフルオロフェニル、ナフチル、フラニル、
-SO
3Hであり; ここでR
1およびR
3のうちの1つのみが水素またはC
1~C
6アルキルであってもよく; R
2およびR
4は同じものまたは異なるものであり、水素、C
1~C
4アルキルまたは-C(O)-R
6であり、ここでR
6は水素、C
1~C
6アルキル、フェニル、モノ置換フェニル(ここで置換基はオルト、メタ、またはパラ位にあってもよく、フルオロ、ニトロ、C
1~C
6アルキル、C
1~C
3アルコキシ、またはシアノである)、ペンタフルオロフェニル、ナフチル、フラニル、または-CH
2OCH
3である。化合物は概略構造B(Q)
nを有することができ、ここで、Bはアミン、アミジン、グアニジン、イソウレア、イソチオウレア、またはビグアニド含有薬学的活性化合物の1つまたは複数の塩基性窒素原子からの水素原子の除去によって形成される残基であり、Qは水素またはAであり、ここで、Aは、R'およびR''が、同じものまたは異なるものであり、かつR (ここで、Rが、C
1~C
6アルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアルキル、NC-CH
2CH
2-、
、Cl
3C-C
2-、またはR7が水素もしくはC
1~C
6アルキルであるR
7OCH
2CH
2-、である、水素、または、薬学的に許容されるカチオンであるような、あるいは、R'およびR''が、連結されて-CH
2CH
2-基または
基を形成するような
であり、かつnは、少なくとも1つのQがAであるような化合物中の第一級または第二級塩基性窒素原子の数を表す整数である。
【0067】
さらなるビサントレン類似体はM. Kozurkova et al.,「DNA Binding Properties and Evaluation of Cytotoxic Activity of 9,10-Bis-N-Substituted (Aminomethyl)anthracenes」, Int. J. Biol. Macromol. 41: 415-422 (2007)に開示されている。これらの化合物は9,10-ビス[(2-ヒドロキシエチル)イミノメチル]アントラセン; 9,10-ビス{[2-(-2-ヒドロキシエチルアミノ)エチル]イミノメチル}アントラセン; 9,10-ビス{[2-(モルホリン-4-イル)エチル]イミノメチル}アントラセン; 9,10-ビス[(2-ヒドロキシエチル)アミノメチル]アントラセン; 9,10-ビス{[2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)エチル]アミノメチル}アントラセン四塩酸塩; 9,10-ビス{[2-(ピペラジン-1-イル)エチル]アミノメチル}アントラセン六塩酸塩; および9,10-ビス{[2-(モルホリン-4-イル)エチル]アミノメチル}アントラセン四塩酸塩を含む。
【0068】
上記の化合物の誘導体および塩の形態を含めて、他の類似体および誘導体が当技術分野において公知である。
【0069】
ビサントレンならびにその類似体および誘導体は、DNAにおけるインターカレーション、酵素トポイソメラーゼIIの阻害、免疫刺激、およびテロメラーゼの阻害を含むが、必ずしもこれらに限定されない、いくつかの機序を通じて抗新生物活性を保有する。これらの活性は上述されている。また、上述したように、ビサントレンならびにその類似体および誘導体もマクロファージを活性化することができる。
【0070】
本明細書において用いられる場合、ビサントレンに適用される「誘導体」という用語は、三環式芳香核および三環式芳香核に付着された2つの側鎖を含めて、ビサントレンと同じ炭素骨格を有するが、ビサントレンに存在する少なくとも1つの水素を別の部分で置き換えた下記の1つまたは複数の置換基を有する化合物を指す。本明細書において用いられる場合、ビサントレンに適用される「類似体」という用語は、ビサントレンと構造的に関連するが、例えば、三環式芳香族核における1つもしくは複数の炭素を窒素で置換することにより、または側鎖の一方もしくは両方を除去もしくは移動することにより、三環式芳香族核のうちの1つもしくは複数または側鎖のうちの1つもしくは複数が改変された、化合物に適用される。いくつかの類似体は上述されており; 他の類似体は当業者に公知である。
【0071】
要約すると、ビサントレンおよびその誘導体または類似体は、以下のがんに対して抗新生物活性を有するものと期待することができる: 乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫。したがって、いくつかの態様の方法によって処置されるがんは、乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫である。
【0072】
ビサントレンの誘導体は、(1) 三環式芳香族核に直接結合している炭素原子に結合している水素原子の少なくとも1つが低級アルキルで置換されているビサントレンの誘導体; (2) N=NH部分における水素原子の少なくとも1つが低級アルキルで置換されているビサントレンの誘導体、または(3) 5員環の窒素に結合している水素原子の少なくとも1つが低級アルキルで置換されているビサントレンの誘導体を含むが、これらに限定されることはない。ビサントレンの他の誘導体を以下に記述する。
【0073】
ビサントレンの類似体は、式(II)~(XIV)として上述した化合物、ならびに上述したさらなる化合物およびその誘導体を含むが、これらに限定されることはない。
【0074】
上述したように、および以下により一般的に詳述するように、ビサントレンの誘導体および類似体は、誘導体または類似体の薬理学的活性に実質的に影響を及ぼさない1つまたは複数の基で置換されていてもよい。これらの基は当技術分野において一般的に知られている。任意の置換基として使用できるいくつかの一般的な基の定義を以下に提供するが: しかしながら、これらの定義からのいずれの基の省略も、任意の置換基に対する化学的および薬理学的要件が満たされる限り、そのような基を任意の置換基として使用できないことを意味するものと解釈されるべきではない。
【0075】
本明細書において用いられる場合、「アルキル」という用語は、置換されていてもよい1~12個の炭素原子の、非分枝、分枝もしくは環状の飽和ヒドロカルビル残基、またはそれらの組み合わせを指し; アルキル残基は、置換されていない場合、CおよびHのみを含む。典型的には、非分枝または分枝飽和ヒドロカルビル残基は、炭素原子1~6個であり、これは本明細書において「低級アルキル」といわれる。アルキル残基が環状であり、環を含む場合、ヒドロカルビル残基は、環を形成するための最小数である少なくとも3個の炭素原子を含むと理解される。本明細書において用いられる場合、「アルケニル」という用語は、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する非分枝、分枝または環状ヒドロカルビル残基を指す。
【0076】
本明細書において用いられる場合、「アルキニル」という用語は、1つまたは複数の炭素-炭素三重結合を有する非分枝、分枝または環状ヒドロカルビル残基を指し; 残基は1つまたは複数の二重結合を含むこともできる。「アルケニル」または「アルキニル」の使用に関して、複数の二重結合が存在すると芳香環を生成することはできない。本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシアルキル」、「ヒドロキシアルケニル」および「ヒドロキシアルキニル」という用語は、それぞれ、置換基として1つまたは複数のヒドロキシル基を含むアルキル、アルケニルまたはアルキニル基を指し; 以下に詳述されるように、さらなる置換基が任意で含まれていてもよい。
【0077】
本明細書において用いられる場合、「アリール」という用語は、芳香族性の周知の特徴を有する単環式または縮合二環式部分を指し; 例としては、置換されていてもよいフェニルおよびナフチルが挙げられる。本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシアリール」という用語は、置換基として1つまたは複数のヒドロキシル基を含むアリール基を指し; 以下に詳述されるように、さらなる置換基が任意で含まれていてもよい。本明細書において用いられる場合、「ヘテロアリール」という用語は、芳香族性の特徴を有し、O、SおよびNから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含む単環式または縮合二環式環系を指す。
【0078】
ヘテロ原子を含むことで、5員環でも6員環でも芳香族性が得られる。典型的なヘテロ芳香族系には、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チエニル、フラニル、ピロリル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、テトラゾリル、テトラジニルおよびイミダゾリルなどの単環式C5~C6ヘテロ芳香族基、ならびにこれらの単環式ヘテロ芳香族基のうちの1つをフェニル環と、またはヘテロ芳香族単環式基のいずれかと融合させて、インドリル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリル、キノリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ピラゾリルピリジル、キナゾリニル、キノキサリニル、シノリニル、および当技術分野において公知の他の環系などのC8~C10二環式基を形成することにより形成される縮合二環式部分が含まれる。環系全体に非局在化した電子分布という点で芳香族性の特徴を有するいずれの単環式または縮合環式二環系も、この定義に含まれる。
【0079】
この定義には、少なくとも分子の残部に直接付着されている環が、芳香族性の特徴である非局在化した電子分布を含む、芳香族性の特徴を有する二環式基も含まれる。典型的には、環系は5~12個の環員原子および4個までのヘテロ原子を含み、ここでヘテロ原子はN、O、およびSからなる群より選択される。しばしば、単環式ヘテロアリールは5~6個の環員ならびにN、O、およびSからなる群より選択される3個までのヘテロ原子を含み; しばしば、二環式ヘテロアリールは8~10個の環員ならびにN、O、およびSからなる群より選択される4個までのヘテロ原子を含む。ヘテロアリール環構造におけるヘテロ原子の数および配置は、芳香族性および安定性という周知の制限に従っており、ここで安定性には、ヘテロ芳香族基が生理的温度で水に曝されても急速に分解しないほどに安定であることが必要になる。
【0080】
本明細書において用いられる場合、「ヒドロキシヘテロアリール」という用語は、置換基として1つまたは複数のヒドロキシル基を含むヘテロアリール基を指し; 以下にさらに詳述されるように、さらなる置換基が含まれていてもよい。
【0081】
本明細書において用いられる場合、「ハロアリール」および「ハロヘテロアリール」という用語は、それぞれ、少なくとも1つのハロ基で置換された、アリールおよびヘテロアリール基を指し、ここで「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択されるハロゲンを指し、典型的には、ハロゲンは、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択され; 以下に詳述されるように、さらなる置換基が含まれていてもよい。本明細書において用いられる場合、「ハロアルキル」、「ハロアルケニル」、および「ハロアルキニル」という用語は、それぞれ、少なくとも1つのハロ基で置換された、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基を指し、ここで「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択されるハロゲンを指し、典型的には、ハロゲンは、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選択され; 以下に詳述されるように、さらなる置換基が含まれていてもよい。
【0082】
本明細書において用いられる場合、「置換されていてもよい」という用語は、置換されていてもよいといわれる特定の基が、水素以外の置換基を有していなくてもよい、または基が、得られる分子の化学的および薬理学的活性と一致する1つもしくは複数の水素以外の置換基を有していてもよいことを示す。他に指定されない場合、存在しうるそのような置換基の総数は、記述されている基の非置換型に存在する水素原子の総数に等しく、そのような置換基の最大数より少ない数が存在してもよい。カルボニル酸素(C=O)などの、任意の置換基が二重結合を介して付着している場合、その基は、任意の置換基が付着している炭素原子上で利用可能な2つの原子価を占めるため、含まれうる置換基の総数は、利用可能な原子価の数に応じて低減する。本明細書において用いられる場合、「置換された」という用語は、「置換されていてもよい」の一部として用いられるかそうでないかにかかわらず、特定の基(group)、部分または基(radical)を改変するために用いられる場合、1つまたは複数の水素原子が、それぞれ、互いに独立して、同じまたは異なる置換基で置き換えられていることを意味する。
【0083】
特定の基(group)、部分、または基(radical)における飽和炭素原子を置換するのに有用な置換基は、-Za、=O、-OZb、-SZb、=S-、-NZcZc、=NZb、=N-OZb、trihalomethyl、-CF3、-CN、-OCN、-SCN、-NO、-NO2、=N2、-N3、-S(O)2Zb、-S(O)2NZb、-S(O2)O-、-S(O2)OZb、-OS(O2)OZb、-OS(O2)O-、-OS(O2)OZb、-P(O)(O-)2、-P(O)(OZb)(O-)、-P(O)(OZb)(OZb)、-C(O)Zb、-C(S)Zb、-C(NZb)Zb、-C(O)O-、-C(O)OZb、-C(S)OZb、-C(O)NZcZc、-C(NZb)NZcZc、-OC(O)Zb、-OC(S)Zb、-OC(O)O-、-OC(O)OZb、-OC(S)OZb、-NZbC(O)Zb、-NZbC(S)Zb、-NZbC(O)O-、-NZbC(O)OZb、-NZbC(S)OZb、-NZbC(O)NZcZc、-NZbC(NZb)Zb、-NZbC(NZb)NZcZcを含むが、これらに限定されることはなく、ここで、Zaは、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、シクロヘテロアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリールおよびヘテロアリールアルキルからなる群より選択され; 各Zbは独立して水素またはZaであり; かつ各Zcは独立してZbであるか、あるいは、2つのZcは、それらが結合している窒素原子と一緒になって4員、5員、6員または7員シクロヘテロアルキル環構造を形成してもよく、この環構造は、N、OおよびSからなる群より選択される1~4個の同じまたは異なるヘテロ原子を任意で含んでいてもよい。具体例として、-NZcZcは、-NH2、-NH-アルキル、-N-ピロリジニルおよび-N-モルホリニルを含むことを意味するが、それらの特定の代替物に限定されることはなく、当技術分野において公知の他の代替物を含む。同様に、別の具体例として、置換アルキルは、-アルキレン-O-アルキル、-アルキレン-ヘテロアリール、-アルキレン-シクロヘテロアリール、-アルキレン-C(O)OZb、-アルキレン-C(O)NZbZb、および-CH2-CH2-C(O)-CH33を含むことを意味するが、それらの特定の代替物に限定されることはなく、当技術分野において公知の他の代替物を含む。1つまたは複数の置換基は、それらが結合している原子と一緒になって、シクロアルキルおよびシクロヘテロアルキルを含むが、これらに限定されない、環状環を形成してもよい。
【0084】
同様に、特定の基、部分、または基における不飽和炭素原子を置換するのに有用な置換基は、-Za、ハロ、-O-、-OZb、-SZb、-S-、-NZcZc、トリハロメチル、-CF3、-CN、-OCN、-SCN、-NO、-NO2、-N3、-S(O)2Zb、-S(O2)-、-S(O2)OZb、-OS(O2)OZb、-OS(O2)O-、-P(O)(O-)2、-P(O)(OZb)(O-)、-P(O)(OZb)(OZb)、-C(O)Zb、-C(S)Zb、-C(NZb)Zb、-C(O)O-、-C(O)OZb、-C(S)OZb、-C(O)NZcZc、-C(NZb)NZcZc、-OC(O)Zb、-OC(S)Zb、-OC(O)O-、-OC(O)OZb、-OC(S)OZb、-NZbC(O)OZb、-NZbC(S)OZb、-NZbC(O)NZcZc、-NZbC(NZb)Zb、および-NZbC(NZb)NZcZcを含むが、これらに限定されることはなく、ここで、Za、Zb、およびZcは上記で定義された通りである。
【0085】
同様に、ヘテロアルキルおよびシクロヘテロアルキル基における窒素原子を置換するのに有用な置換基は、-Za、ハロ、-O-、-OZb、-SZb、-S-、-NZcZc、トリハロメチル、-CF3、-CN、-OCN、-SCN、-NO、-NO2、-S(O)2Zb、-S(O2)O-、-S(O2)OZb、-OS(O2)OZb、-OS(O2)O-、-P(O)(O)2、-P(O)(OZb)(O)、-P(O)(OZb)(OZb)、-C(O)Zb、-C(S)Zb、-C(NZb)Zb、-C(O)OZb、-C(S)OZb、-C(O)NZcZc、-C(NZb)NZcZc、-OC(O)Zb、-OC(S)Zb、-OC(O)OZb、-OC(S)OZb、-NZbC(O)Zb、-NZbC(S)Zb、-NZbC(O)OZb、-NZbC(S)OZb、-NZbC(O)NZcZc、-NZbC(NZb)Zb、および-NZbC(NZb)NZcZcを含むが、これらに限定されることはなく、ここで、Za、Zb、およびZcは上記で定義された通りである。
【0086】
本明細書において記述される化合物は、1つまたは複数のキラル中心および/または二重結合を含んでもよく、それゆえ、二重結合異性体(すなわち、EおよびZなどの幾何異性体)、鏡像異性体またはジアステレオ異性体などの、立体異性体として存在してもよい。本開示は、単離された立体異性形態(鏡像異性的に純粋な異性体、EおよびZ異性体、ならびに他の立体異性形態など)の各々だけでなく、ラセミ混合物、ジアステレオ異性体の混合物、ならびにEおよびZ異性体の混合物を含めて、さまざまなキラル純度または割合のEおよびZの立体異性体の混合物も含む。したがって、本明細書において描かれる化学構造は、立体異性体的に純粋(例えば、幾何学的に純粋、鏡像異性的に純粋またはジアステレオ異性的に純粋)な形態ならびに鏡像異性体および立体異性体の混合物を含む、例示された化合物の全ての可能な鏡像異性体および立体異性体を包含する。鏡像異性体および立体異性体の混合物は、当業者に周知の分離技法またはキラル合成技法を用いて、それらの成分の鏡像異性体または立体異性体に分割することができる。本開示は、単離された立体異性形態の各々、ならびにラセミ混合物を含めて、さまざまなキラル純度の立体異性体の混合物を含む。これは、さまざまなジアステレオ異性体も包含する。他の構造が特定の異性体を描いているように見える場合があるが、それは単に便宜上のものであり、描かれた異性体に本開示を限定することを意図するものではない。化学名が化合物の異性体形態を特定していない場合、それは化合物の可能な異性体形態のいずれか1つ、またはそれらの異性体形態の混合物を示す。
【0087】
本化合物は、いくつかの互変異性形態で存在してもよく、本明細書における1つの互変異性体の描写は便宜のためのみであり、示された形態の他の互変異性体も包含するものと理解される。したがって、本明細書において描かれる化学構造は、例示される化合物の全ての可能な互変異性形態を包含する。本明細書において用いられる「互変異性体」という用語は、平衡状態で一緒に存在できるように、非常に容易に互いに変化する異性体を指す。例えば、ケトンおよびエノールは1つの化合物の2つの互変異性形態である。
【0088】
本明細書において用いられる場合、「溶媒和物」という用語は、溶媒和(溶媒分子と溶質の分子もしくはイオンとの組み合わせ)によって形成される化合物、または溶質イオンもしくは分子、すなわち、本開示の化合物と、1つもしくは複数の溶媒分子からなる凝集体を意味する。水が溶媒である場合、対応する溶媒和物は「水和物」である。水和物の例としては、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物、六水和物、および他の他の水和形態が挙げられるが、これらに限定されることはない。本化合物の薬学的に許容される塩および/またはプロドラッグは、溶媒和物の形態で存在してもよいことが、当業者には理解されるはずである。溶媒和物は、典型的には、本化合物の調製の一部である水和を介して、または本開示の無水化合物による自然な水分の吸収を通じて形成される。
【0089】
本明細書において用いられる場合、「エステル」という用語は、分子の-COON官能基のいずれかが-COOR官能基により置換された本化合物の任意のエステルを意味し、ここでエステルのR部分は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリール、アリールアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクリルアルキルおよびそれらの置換誘導体を含むが、これらに限定されない、安定なエステル部分を形成する任意の炭素含有基である。本化合物の加水分解性エステルは、カルボキシルが加水分解性エステル基の形態で存在する化合物である。すなわち、これらのエステルは薬学的に許容され、インビボで対応するカルボキシル酸に加水分解されうる。
【0090】
上記の置換基に加えて、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、代替的にまたは追加的に、C1~C8アシル、C2~C8ヘテロアシル、C6~C10アリール、C3~C8シクロアルキル、C3~C8ヘテロシクリル、またはC5~C10ヘテロアリールにより置換されてもよく、それらの各々が置換されていてもよい。また、さらに、5~8個の環成員を有する環を形成することができる2つの基が同一原子または隣接原子に存在する場合、その2つの基は、それらが付着している置換基中の原子と一緒になって、そのような環を任意で形成していてもよい。
【0091】
「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」、および「ヘテロアルキニル」などは、対応するヒドロカルビル(アルキル、アルケニルおよびアルキニル)基と同様に定義されるが、「ヘテロ」という用語は、骨格残基に1個から3個のO、S、もしくはNヘテロ原子またはそれらの組み合わせを含有する基を指し; つまり、対応するアルキル、アルケニルまたはアルキニル基の少なくとも1つの炭素原子が指定のヘテロ原子のうちの1つにより置換されて、それぞれ、ヘテロアルキル、ヘテロアルケニルまたはヘテロアルキニル基を形成する。化学的安定性の理由から、特別の定めのない限り、ニトロまたはスルホニル基のようにNまたはSにオキソ基が存在する場合を除き、こうした基は3つ以上の隣接するヘテロ原子を含まないことも理解される。
【0092】
本明細書において用いられる「アルキル」はシクロアルキルおよびシクロアルキルアルキル基を含むが、本明細書において「シクロアルキル」という用語は、環状炭素原子を介して接続される炭素環式非芳香族基を記述するために用いられることがあり、「シクロアルキルアルキル」はアルキルリンカーを通じて分子に接続された炭素環式非芳香族基を記述するために用いられることがある。
【0093】
同様に、「ヘテロシクリル」は、少なくとも1つのヘテロ原子(典型的にはN、OおよびSから選択される)を環の構成員として含有し、かつC (炭素連結)またはN (窒素連結)であってもよい環の原子を介して分子に接続される非芳香族環状基を記述するために用いられることがあり; 「ヘテロシクリルアルキル」は、リンカーを通じて別の分子に接続されるこうした基を記述するために用いられることがある。ヘテロシクリルは完全に飽和していてもまたは部分的に飽和していてもよいが、非芳香族である。シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクリル、およびヘテロシクリルアルキル基に対して適したサイズおよび置換基は、アルキル基に対して上述したものと同じである。ヘテロシクリル基は、典型的には、環員としてN、OおよびSから選択される1、2または3個のヘテロ原子を含有し; NまたはSは、複素環系におけるこれらの原子によく見られる基で置換することができる。本明細書において用いられる場合、これらの用語は、付着される環が芳香族でない限り、1つまたは2つの二重結合を含有する環も含む。置換されたシクロアルキルおよびヘテロシクリル基は、基の付着点が芳香族/芳香族複素環に対するものではなくシクロアルキル環またはヘテロシクリル環に対するものであれば、芳香環または芳香族複素環に縮合されたシクロアルキル環または複素環も含む。
【0094】
本明細書において用いられる場合、「アシル」は、カルボニル炭素原子の二つの利用可能な原子価位置の一方において付着されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキル基を含む基を包含し、ヘテロアシルは、カルボニル炭素以外の少なくとも1つの炭素が、N、OおよびSから選択されるヘテロ原子によって置換されている、対応する基を指す。
【0095】
アシルおよびヘテロアシル基は、カルボニル炭素原子の開放原子価を通じてあらゆる基または分子に付着して結合される。典型的には、それらはホルミル、アセチル、ピバロイルおよびベンゾイルを含むC1~C8アシル基、ならびにメトキシアセチル、エトキシカルボニルおよび4-ピリジノイルを含むC2~C8ヘテロアシル基である。
【0096】
同様に、「アリールアルキル」および「ヘテロアリールアルキル」は、置換または未置換の、飽和または不飽和の、環式または非環式のリンカーを含む、アルキレンなどの連結基を通じて付着点に結合された芳香族および芳香族複素環系を指す。典型的には、リンカーはC1~C8アルキルである。これらのリンカーは、カルボニル基をも含むことによって、アシルまたはヘテロアシル部分としての置換基を提供できるようにしてもよい。アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキル基中のアリールまたはヘテロアリール環は、アリール基に対して上述したものと同じ置換基で置換されていてもよい。好ましくは、アリールアルキル基は、アリール基に対して上に定義された基で置換されていてもよいフェニル環と、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1~C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1~C4アルキレンとを含み、アルキルまたはヘテロアルキル基は任意で環化してシクロプロパン、ジオキソランまたはオキサシクロペンタンなどの環を形成してもよい。同様に、ヘテロアリールアルキル基は好ましくは、アリール基の典型的な置換基として上述された基で置換されていてもよいC5~C6単環式ヘテロアリール基と、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1~C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1~C4アルキレンとを含むか、または置換されていてもよいフェニル環もしくはC5~C6単環式ヘテロアリールと、未置換であるかまたは1つもしくは2つのC1~C4アルキル基もしくはヘテロアルキル基で置換されるC1~C4ヘテロアルキレンとを含み、アルキルまたはヘテロアルキル基は任意で環化してシクロプロパン、ジオキソランまたはオキサシクロペンタンなどの環を形成してもよい。
【0097】
アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキル基が、置換されていてもよいと記述されるとき、置換基はその基のアルキルまたはヘテロアルキル部分にあっても、アリールまたはヘテロアリール部分にあってもよい。アルキルまたはヘテロアルキル部分に任意で存在してもよい置換基は、アルキル基に対して一般的に上述されたものと同じである; アリールまたはヘテロアリール部分に任意で存在してもよい置換基は、アリール基に対して一般的に上述されたものと同じである。
【0098】
本明細書において用いられる「アリールアルキル」基は、未置換のときにはヒドロカルビル基であり、環およびアルキレンまたは類似のリンカー中の炭素原子の総数によって記述される。つまりベンジル基はC7-アリールアルキル基であり、フェニルエチルはC8-アリールアルキルである。
【0099】
上述の「ヘテロアリールアルキル」は、連結基を通じて付着されるアリール基を含む部分を指し、「アリールアルキル」と異なる点は、アリール部分の少なくとも1つの環原子、または連結基における1つの原子が、N、OおよびSから選択されるヘテロ原子である点である。本明細書において、ヘテロアリールアルキル基は組み合わされる環およびリンカーの原子の総数によって記述され、それはヘテロアルキルリンカーを通じて結合されたアリール基; アルキレンなどのヒドロカルビルリンカーを通じて結合されたヘテロアリール基; およびヘテロアルキルリンカーを通じて結合されたヘテロアリール基を含む。よって、例えばC7-ヘテロアリールアルキルは、ピリジルメチル、フェノキシ、およびN-ピロリルメトキシを含む。
【0100】
本明細書において用いられる「アルキレン」は、二価のヒドロカルビル基を指し; 二価であるため、アルキレンは二つの他の基をともに連結することができる。典型的には、アルキレンは-(CH2)n-を指し、ここでnは1~8であり、好ましくは、nは1~4であるが、指定されるときにはアルキレンは他の基で置換されていてもよいし、他の長さであってもよいし、開放原子価は鎖の反対側端部になくてもよい。「アルキレン」という一般的な用語は、nが2である「エチレン」、nが3である「プロピレン」、およびnが4である「ブチレン」などの、より具体的な例を包含する。アルキレンのヒドロカルビル基は、上述のように置換されていてもよい。
【0101】
一般に、置換基に含有されるあらゆるアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、またはアリールもしくはアリールアルキル基それ自体が、付加的な置換基によって置換されていてもよい。置換基が別様に記述されていなければ、これらの置換基の性質は一次置換基それ自体に関して挙げられるものと同様である。
【0102】
本明細書において用いられる「アミノ」は-NH2を指すが、アミノが「置換される」または「置換されていてもよい」と記述されるとき、この用語はNR'R''を含み、ここでR'およびR''の各々は独立して、Hであるか、またはアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、もしくはアリールアルキル基であり、このアルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、もしくはアリールアルキル基の各々は、本明細書において対応の基に対して適切であると記述される置換基で置換されていてもよく; R'およびR''基、ならびにそれらが付着されている窒素原子は、3~8員環を任意で形成していてもよく、これは飽和、不飽和または芳香族であってもよく、環構成員としてN、OおよびSから独立して選択される1~3個のヘテロ原子を含有し、アルキル基に対して適切であると記述される置換基で置換されていてもよいか、またはNR'R''が芳香族基であるときには、ヘテロアリール基に対して典型的であると記述される置換基で置換されていてもよい。
【0103】
本明細書において用いられる場合、「炭素環」、「炭素環の」、または「炭素環式の」という用語は、環内に炭素原子のみを含む環式環を指すが、「複素環」または「複素環式の」という用語は、ヘテロ原子を含む環を指す。「炭素環の」は完全に飽和していても部分的に飽和していてもよいが、非芳香族である。例えば、一般的な用語「炭素環の」はシクロアルキルを包含する。炭素環式および複素環式構造は、単環式、二環式または複数の環系を有する化合物を包含する; そのような系は、芳香環、複素環式環、および炭素環式環を混合していてもよい。混合環系は、記述されている化合物の残部に付着している環にしたがって記述されている。
【0104】
本明細書において用いられる場合、「ヘテロ原子」という用語は、窒素、酸素または硫黄などの、炭素または水素ではない任意の原子を指すが、状況によっては、「ヘテロ原子」はリン、セレン、または、炭素および水素以外の他の原子、を指すことができる。ヘテロ原子が鎖または環の主鎖または骨格の一部である場合、ヘテロ原子は、少なくとも二価である必要があり、通常はN、O、P、およびSから選択される。
【0105】
本明細書において用いられる場合、「アルカノイル」という用語は、カルボニル(C=O)基に共有結合的に連結されたアルキル基を指す。「低級アルカノイル」という用語は、アルカノイル基のアルキル部分がC1~C6であるアルカノイル基を指す。アルカノイル基のアルキル部分は、上述のように置換されていてもよい。「アルキルカルボニル」という用語を代替的に用いることもできる。同様に「アルケニルカルボニル」および「アルキニルカルボニル」という用語は、それぞれ、カルボニル基に連結されたアルケニル基またはアルキニル基を指す。
【0106】
本明細書において用いられる場合、「アルコキシ」という用語は、酸素原子に共有結合的に連結されたアルキル基を指し; アルキル基は、ヒドロキシル基の水素原子を置換すると考えることができる。「低級アルコキシ」という用語は、アルコキシ基のアルキル部分がC1~C6であるアルコキシ基を指す。アルコキシ基のアルキル部分は、上述のように置換されていてもよい。本明細書において用いられる場合、「ハロアルコキシ」という用語は、アルキル部分が1つまたは複数のハロ基で置換されているアルコキシ基を指す。
【0107】
本明細書において用いられる場合、「スルホ」という用語は、スルホン酸(-SO3H)置換基を指す。本明細書において用いられる場合、「スルファモイル」という用語は、構造-S(O2)NH2を有する置換基を指し、ここで基のNH2部分の窒素は、上述のように置換されていてもよい。
【0108】
本明細書において用いられる場合、「カルボキシル」という用語は、構造-C(O2)Hの基を指す。本明細書において用いられる場合、「カルバミル」という用語は、構造-C(O2)NH2の基を指し、ここで基のNH2部分の窒素は、上述のように置換されていてもよい。
【0109】
本明細書において用いられる場合、「モノアルキルアミノアルキル」および「ジアルキルアミノアルキル」という用語は、構造-Alk1-NH-Alk2および-Alk1-N(Alk2)(Alk3)の基を指し、ここでAlk1、Alk2、およびAlk3は、上述のアルキル基を指す。
【0110】
本明細書において用いられる場合、「アルキルスルホニル」という用語は、構造-S(O)2-Alkの基を指し、ここでAlkは上述のアルキル基を指す。「アルケニルスルホニル」および「アルキニルスルホニル」という用語は同様に、それぞれ、アルケニル基およびアルキニル基に共有結合されたスルホニル基を指す。「アリールスルホニル」という用語は、構造-S(O)2-Arの基を指し、ここでArは上述のアリール基を指す。「アリールオキシアルキルスルホニル」という用語は、構造-S(O)2-Alk-O-Arの基を指し、ここでAlkは上述のアルキル基であり、Arは上述のアリール基である。「アリールアルキルスルホニル」という用語は、構造-S(O)2-AlkArの基を指し、ここでAlkは上述のアルキル基であり、Arは上述のアリール基である。
【0111】
本明細書において用いられる場合、「アルキルオキシカルボニル」という用語は、カルボニル炭素が分子への付着点であるアルキル基を含むエステル置換基を指す。一例は、CH3CH2OC(O)-であるエトキシカルボニルである。同様に、「アルケニルオキシカルボニル」、「アルキニルオキシカルボニル」および「シクロアルキルカルボニル」という用語は、それぞれアルケニル基、アルケニル基またはシクロアルキル基を含む同様のエステル置換基を指す。同様に、「アリールオキシカルボニル」という用語は、カルボニル炭素が分子への付着点であるアリール基を含むエステル置換基を指す。同様に、「アリールオキシアルキルカルボニル」という用語は、アルキル基自体がアリールオキシ基により置換されているアルキル基を含むエステル置換基を指す。
【0112】
他の置換基の組み合わせが当技術分野において公知であり、例えば、この参照により本明細書に組み入れられるJungらの米国特許第8,344,162号に記述されている。例えば、用語「チオカルボニル」および「チオカルボニル」を含む置換基の組み合わせは、二重結合した硫黄が基中の通常の二重結合した酸素に置き換わるカルボニル基を含む。「アルキリデン」という用語および同様の専門用語は、特定のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、またはシクロアルキル基を指し、その基は1つの炭素原子から2つの水素原子が取り除かれ、その結果、その基は構造の残部に二重結合される。
【0113】
したがって、本開示による方法および組成物は、置換されていてもよいビサントレン誘導体または類似体が、トポイソメラーゼII阻害およびDNAインターカレーションの一方または両方の観点から定義されるアモナフィドと実質的に等価な薬理学的活性を保有するという条件で、上記で定義される1つまたは複数の任意選択の置換基を含むビサントレン誘導体および類似体を包含する。トポイソメラーゼII阻害の判定のための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、この参照により本明細書に組み入れられるA. Constantinou et al., 「Novobiocin- and Phorbol-12-Myristate-13-Acetate-Induced Differentiation of Human Leukemia Cells Associates with a Reduction in Topoisomerase II Activity」, Cancer Res. 49: 1110-1117 (1989)に記述されている。DNAインターカレーションの判定のための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、この参照により本明細書に組み入れられるH. Zipper et al., 「Investigations on DNA Intercalation and Surface Binding by SYBR Green I, Its Structure Determination and Methodological Implications」, Nucl. Acids. Res. 32(12): e103 (2004)に記述されている。
【0114】
2. ピリミジン類似体代謝拮抗物質
いくつかの態様において、化学療法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、開示される方法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の、その必要がある対象または患者への投与を含む。本明細書において用いられる場合、「ピリミジン類似体代謝拮抗物質」(同様に「ピリミジン類似体」または「代謝拮抗物質」)は、ピリミジンの代謝および利用に影響を及ぼす代謝拮抗化合物を記述する。いくつかの態様において、本開示のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、5-アザシチジン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、サパシタビン、CNDAC、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、または2'-C-シアノ-2'-デオキシ-アラビノフラノシルシトシンである。いくつかの態様において、ピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、またはクロファラビンである。本開示の態様は、がんを有する対象への、少なくとも1、2、3、4、5つ、またはそれ以上のピリミジン類似体代謝拮抗物質の投与を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、およびクロファラビンのうちの2つまたはそれ以上を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンおよびクロファラビンを含む。
【0115】
a. シタラビン
いくつかの態様において、ピリミジン類似体代謝拮抗物質はシタラビンである。シタラビンは、シトシンアラビノシド(ara-C)としても知られ、1β-アラビノフラノシルシトシンの化学名を有する。構造式はC9H13N3O5 (M.W. 243.22 g/mol)である。これは、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、非ホジキンリンパ腫を処置するために用いられる化学療法薬である。シトシンアラビノシドは、シトシン塩基とアラビノース糖とを結び付けたものである。これは、ヒトのDNAに組み込まれるほどヒトのデオキシシトシンに類似しているが、DNAの合成を妨げるほど類似していない。シタラビンは主にhENT-1によって細胞内に輸送される。その後、デオキシシチジンキナーゼにより一リン酸化され、最終的に、DNA合成中にDNAに組み込まれる活性代謝物質であるシタラビン-5'-三リン酸となる。シトシンアラビノシド三リン酸へのその急速な変換は、細胞周期がDNAのDNA合成S期に留まっている場合にDNAを損傷する。シトシンアラビノシドはまた、DNA合成に必要なDNAおよびRNAポリメラーゼとヌクレオチドレダクターゼ酵素の両方を阻害する。
【0116】
シタラビンに対する耐性の機序はいくつか報告されている。例えば、シタラビンは血清中のシチジンデアミナーゼによって速やかに脱アミノ化され、不活性なウラシル誘導体になる。シタラビン-5'-一リン酸はデオキシシチジル酸デアミナーゼにより脱アミノ化され、不活性なウリジン-5'-一リン酸類似体になる。シタラビン-5'-三リン酸はSAMDH1の基質でもあり、SAMHD1は患者におけるシタラビンの有効性を制限することが示されている。
【0117】
シタラビンは、多くの場合、持続静脈内注入により投与され、これは二相性の排出、すなわち、初期の速いクリアランス速度に続いて、類似体の遅いクリアランス速度が続く。半減期が約10分の最初の分配段階があり、その後、半減期が約1~3時間の第2の排出段階が続く。分配段階の後、血漿中放射能の80%超は不活性代謝産物1-β-D-アラビノフラノシルウラシル(ara-U)によって占められうる。24時間以内に、投与された放射能の約80%が尿中で回収されうるが、そのおよそ90%がara-Uとして排出される。比較的一定の血漿レベルを、持続的な静脈内注入によって達成することができる。トリチウムで標識したシタラビンの皮下または筋肉内投与の後に、放射能レベルの血漿中ピークは注射から約20~60分後に達成され、静脈内投与後よりもかなり低い。
【0118】
シタラビン投与のスケジュールおよび方法は、用いられる治療法のプログラムによって異なる。シタラビンは、例えば、静脈内注入もしくは注射により、皮下にまたはくも膜下腔内に投与されうる。患者は、緩徐な注入と比較して、急速な静脈内注射によって薬物を投与される場合、より高い総用量を耐容することができる。この現象は、薬物の迅速な不活化と、迅速な注射後の感受性のある正常細胞および新生物細胞の短期間の有意なレベルへの曝露に関連している。正常細胞および新生物細胞は、これらの異なる投与方法に対してある程度並行して応答すると考えられるが、どちらについても明確な臨床上の利点は実証されていない。
【0119】
b. フルダラビン
いくつかの態様において、ピリミジン類似体代謝拮抗物質はフルダラビンである。フルダラビンは、抗ウイルス剤ビダラビンのフッ素化ヌクレオチド類似体である9-p-D-アラビノフラノシルアデニン(ara-A)であり、これはアデノシンデアミナーゼによる脱アミノ化に対して比較的耐性である。フルダラビンの化学名は、9H-プリン-6-アミン, 2-フルオロ-9-(5-O-ホスホノ-O-D-アラビノ-フラノシル) (2-フルオロ-ara-AMP)である。フルダラビンの分子式はC10H13FN5O7P (MW 365.2 g/mol)である。シトシンアラビノシド(ara-C)としても知られ、1β-アラビノフラノシルシトシンの化学名を有する。これは、例えば、慢性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、および急性リンパ性白血病を処置するために用いられる化学療法薬である。
【0120】
フルダラビンは急速に2-フルオロ-ara-Aに脱リン酸化され、その後にデオキシシチジンキナーゼにより細胞内で活性三リン酸である2-フルオロ-ara-ATPにリン酸化される。この代謝産物は、DNAポリメラーゼアルファ、リボヌクレオチドレダクターゼおよびDNAプライマーゼを阻害し、したがって主に細胞分裂のS期におけるDNA合成を阻害することにより作用するものと考えられる。また、フルダラビンは、それぞれRNAおよびタンパク質へのウリジンおよびロイシンの組み込みを減少させることによってRNAを妨害すると仮定されている。フルダラビンは非増殖細胞に対しても活性である。
【0121】
ヒトでの第I相研究では、フルダラビンが静脈内注入後の数分以内に活性代謝物質である2-フルオロ-ara-Aに急速に変換されることが実証された。その結果、臨床薬理学研究では、2-フルオロ-ara-Aの薬物動態に焦点を当ててきた。がん患者に25 mgの2-フルオロ-ara-AMP/m2の日用量5回を30分かけて注入した後に、2-フルオロ-ara-A濃度は中程度の蓄積を示す。5日間の処置スケジュール中に、2-フルオロ-ara-A血漿トラフレベルは約2倍に増加した。2-フルオロ-ara-Aの終末相半減期はおよそ20時間と推定された。インビトロでは、フルダラビンの血漿タンパク質結合は19%~29%の範囲であった。
【0122】
フルダラビン投与のスケジュールおよび方法は、用いられる治療法のプログラムによって異なる。フルダラビンは、例えば、経口的に、静脈内注入もしくは注射により、または皮下に投与されうる。
【0123】
c. クラドリビン
いくつかの態様において、ピリミジン類似体代謝拮抗物質はクラドリビンである。クラドリビンは、アデノシンデアミナーゼによる脱アミノ化に部分的に耐性である2'-デオキシアデノシンの塩素化ヌクレオチド類似体である。クラドリビンの化学名は2-クロロ-6-アミノ-9-(2-デオキシ-β-D-エリスロペントフラノシル)プリン(2-CdaA)である。これは分子式C10H12ClN5O3 (M.W. 285.7 g/mol)を有する。これは、例えば、毛様細胞白血病、慢性リンパ性白血病、および非ホジキンリンパ腫を処置するために用いられる化学療法薬である。
【0124】
ある特定の正常および悪性リンパ球および単球集団に対する2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシンの選択的毒性は、デオキシシチジンキナーゼおよびデオキシヌクレオチダーゼの相対的活性に基づいている。クラドリビンは細胞膜を受動的に通過する。デオキシヌクレオチダーゼに対するデオキシシチジンキナーゼの比率が高い細胞では、クラドリビンはデオキシシチジンキナーゼにより2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシン一リン酸(2-CdAMP)にリン酸化される。2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシンはアデノシンデアミナーゼによる脱アミノ化に耐性であり、リンパ球および単球にはデオキシヌクレオチドデアミナーゼがほとんど存在しないので、2-CdAMPは細胞内に蓄積し、その後に活性な三リン酸デオキシヌクレオチド、2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシン三リン酸(2-CdATP)に変換される。有毒なデオキシヌクレオチドが細胞内に蓄積するため、デオキシシチジンキナーゼ活性が高く、デオキシヌクレオチダーゼ活性が低い細胞は、2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシンによって選択的に死滅すると仮定されている。
【0125】
高濃度のデオキシヌクレオチドを含む細胞は、一本鎖DNA切断を適切に修復することができない。DNA末端の切断が酵素ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼを活性化し、NADおよびATPの枯渇、ならびに細胞代謝の破壊を引き起こす。また、2-CdATPが分裂中の細胞のDNAに組み込まれ、DNA合成の障害を引き起こすという証拠もある。したがって、2-クロロ-2'-デオキシ-β-D-アデノシンは、活発に分裂しているおよび静止しているリンパ球および単球の両方に対して細胞傷害性であり、DNA合成および修復の両方を阻害するという点で、プリン代謝に影響を及ぼす他の化学療法剤と区別することができる。
【0126】
臨床研究において、毛様細胞白血病および正常な腎機能を有する患者17名を、推奨されるクラドリビン(0.09 mg/kg/日)の持続静脈内注入による処置計画で7日間処置した。クラドリビンを7日にわたって持続注入により投与した場合、定常状態の平均血清濃度は5.7 ng/mLであると推定され、推定全身クリアランスは663.5 mL/h/kgであった。毛様細胞白血病患者では、血清濃度と最終的な臨床転帰との間に関連はないようである。別の研究では、血液悪性腫瘍を有する患者8名がクラドリビン(0.12 mg/kg)の二(2)時間の注入を受けた。注入終了時の平均血漿クラドリビン濃度は、48±19 ng/mLであった。これらの患者のうち5名については、クラドリビンの消失は二相性または三相性の低下のいずれかにより説明することができた。正常な腎機能を有するこれらの患者の場合、平均終末相半減期は5.4時間であった。クリアランスおよび定常状態の分布容積の平均値は、それぞれ978±422 mL/h/kgおよび4.5±2.8 L/kgであった。
【0127】
静脈内投与後のクラドリビン血漿濃度は多指数関数的に減少し、平均半減期は6.7±2.5時間である。一般に、クラドリビンの見かけの分布容積はおよそ9 L/kgであり、体組織に広範に分布していることを示している。クラドリビンは脳脊髄液に浸透する。ある報告によると、濃度は血漿中の濃度のおよそ25%であることが示されている。
【0128】
クラドリビン投与のスケジュールおよび方法は、用いられる治療法のプログラムによって異なる。クラドリビンは、例えば、経口的に、静脈内注入もしくは注射により、または皮下に投与されうる。
【0129】
d. クロファラビン
いくつかの態様において、ピリミジン類似体代謝拮抗物質はクロファラビンである。クロファラビンは、2'-デオキシ-2'-フルオロ-D-アラビノフラノースの1β位に付着された6-アミノ-2-クロロプリン-9-イル基からなるプリンヌクレオシド類似体である。クロファラビンの化学名は、2 2-クロロ-9-(2-デオキシ-2-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-9H-プリン-6-アミン2-クロロ-9-(2-デオキシ-2-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-9H-プリン-6-アミンである。これは分子式C10H11ClFN5O3 (M.W. 303.68 g/mol)を有する。これは、例えば、再発性または難治性の急性リンパ性(リンパ芽球性)白血病、急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、および骨髄芽球期慢性骨髄性白血病(myeloid blast phase chronic myeloid leukemia) (CML)を処置するために用いられる化学療法薬である。
【0130】
クロファラビンは、細胞内でデオキシシチジンキナーゼならびにモノホスホキナーゼおよびジホスホキナーゼにより5'-一リン酸代謝物質に順次代謝されて、活性な5'-三リン酸代謝物質となる。クロファラビンは、活性化リン酸化酵素であるデオキシシチジンキナーゼに対して、天然の基質であるデオキシシチジンと同等以上の親和性を有する。クロファラビンは、リボヌクレオチドレダクターゼに対する阻害作用により細胞内のデオキシヌクレオチド三リン酸プールを減少させ、DNAポリメラーゼの競合阻害によりDNA鎖の伸長を終結させ、DNA鎖への組み込みによる修復を阻害することにより、DNA合成を阻害する。これらの酵素に対するクロファラビン三リン酸の親和性は、デオキシアデノシン三リン酸の親和性と同等以上である。前臨床モデルにおいて、クロファラビンは修復過程中のDNA鎖への組み込みによりDNA修復を阻害する能力を実証した。また、クロファラビン5'-三リン酸はミトコンドリア膜の完全性を破壊し、アポトーシス促進性ミトコンドリアタンパク質であるチトクロームCおよびアポトーシス誘導因子の放出を引き起こし、プログラムされた細胞死を引き起こす。クロファラビンは、インビトロで急速に増殖しているがん細胞タイプおよび静止しているがん細胞タイプに対して細胞傷害性である。
【0131】
再発性または難治性の急性リンパ芽球性白血病(ALL)または急性骨髄性白血病(AML)を有する2~19歳の小児患者40名(男性21名/女性19名)において、クロファラビンの母集団薬物動態を調べた。与えられた52 mg/m2の用量では、広範囲の体表面積(BSA)にわたって同様の濃度が得られた。クロファラビンは47%が血漿タンパク質に結合し、主にアルブミンに結合した。非コンパートメント分析に基づくと、定常状態での全身クリアランスおよび分布容積は、それぞれ28.8 L/h/m2および172 L/m2であった。終末相半減期は5.2時間であった。ALLを有する患者とAMLを有する患者との間で、または男性と女性との間で薬物動態に明らかな差は認められなかった。この集団では、クロファラビンまたはクロファラビン三リン酸の曝露と毒性または応答との間に関係は見られなかった。小児試験における24時間採尿に基づくと、用量の49~60%が未変化のまま尿中に排出される。単離されたヒト肝細胞を用いたインビトロ試験から、代謝が非常に限られていること(0.2%)が示されている。
【0132】
クロファラビン投与のスケジュールおよび方法は、用いられる治療法のプログラムによって異なる。クロファラビンは、例えば、静脈内注入または注射により投与されうる。
【0133】
e. 他のピリミジン類似体代謝拮抗物質
類似体の5-アザシチジン(4-アミノ-1-p-D-リボフラノシル-1,3,5-トリアジン- 2(1/-/)-オン)はDNAメチルトランスフェラーゼを阻害し、DNAの低メチル化を引き起こし、また、RNAおよびDNAの両方に直接組み込まれ、細胞死を引き起こす; 5-アザシチジンは、DNAよりもRNAに頻繁に組み込まれる。類似体の5-アザシチジンは、例えば、骨髄異形成症候群および急性骨髄性白血病の処置において用いられる。
【0134】
ゲムシタビンは4-アミノ-1-[(2R,4R,5R)-3,3-ジフルオロ-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]ピリミジン-2-オンである。ゲムシタビンは膵臓がんを処置するために使用され、進行性または転移性の膀胱がんおよび進行性または転移性の非小細胞肺がんにはシスプラチンと併用され、卵巣がんまたは乳がんにもさまざまな組み合わせで使用される。ゲムシタビンは親水性であり、ヌクレオシドの分子輸送体、特にSLC29A1 SLC28A1およびSLC28A3を介して細胞内に輸送される。その後、ゲムシタビンはリン酸化されてゲムシタビン一リン酸(dFdGMP)となり、最終的にはゲムシタビン三リン酸となる。その後、ゲムシタビンはシチジンの代わりにDNAに組み込まれる。ゲムシタビンがDNAに組み込まれると、その隣にネイティブな、つまり正常なヌクレオシド塩基が付加できるようになる。ゲムシタビンは「欠陥のある」塩基であるが、隣接するネイティブなヌクレオシドのために細胞の正常な修復システム(塩基除去修復)を逃れてしまうため、これが「マスクされた連鎖終結」につながる。したがって、ゲムシタビンが細胞のDNAに組み込まれると、修復不可能なエラーが生じ、それがさらなるDNA合成の阻害につながり、それによって細胞死につながる。
【0135】
フロクスウリジンは5-フルオロ-1-[(2R,4S,5R)-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]ピリミジン-2,4-ジオンである。フロクスウリジンは結腸直腸がん、腎臓がんおよび胃がんの処置において用いられる。フロクスウリジンはインビボで5-フルオロウラシルに変換され、これがDNAとRNAの両方の合成を妨げる; 5-フルオロウラシルはまた、ウラシルリボシドホスホリラーゼを阻害し、RNA合成において予め形成されたウラシルの利用を抑止する。
【0136】
フロクスウリジンの代謝産物である5-フルオロウラシルは、それ自体が代謝拮抗物質として用いられる。化合物5-フルオロウラシルは、とりわけ食道がん、結腸がん、胃がん、膵臓がん、乳がんおよび子宮頸がんを処置するために用いられる。これは5-フルオロ-1H-ピリミジン-2,4-ジオンのIUPAC名を有し、チミジル酸シンターゼの作用を遮断し、DNA合成を阻害する。
【0137】
カペシタビンは別のピリミジン代謝拮抗物質である。カペシタビンは乳がん、胃がんおよび結腸直腸がんを処置するために用いられる。そのIUPAC名は、N-[1-[(2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-メチルオキソラン-2-イル]-5-フルオロ-2-オキソピリミジン-4-イル]カルバミン酸ペンチルである。また、カペシタビンはインビボで5-フルオロウラシルに変換される。
【0138】
他のピリミジン代謝拮抗物質は、6-アザウラシルならびに以下のさらなる剤: 6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、およびサパシタビンを含めて、W.B. Parker, 「Enzymology of Purine and Pyrimidine Antimetabolites Used in the Treatment of Cancer」, Chem. Rev. 109: 2880-2893 (2009)に開示されているさらなるピリミジン代謝拮抗物質を含む。6-アザウラシルは2H-1,2,4-トリアジン-3,5-ジオンである。トロキサシタビンは4-アミノ-1-[(2S,4S)-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-ジオキソラン-4-イル]ピリミジン-2-オンである。チアラビンは4-アミノ-1-[(2R,3S,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)チオラン-2-イル]ピリミジン-2-オンである。サパシタビンはN-[1-[(2R,3S,4S,5R)-3-シアノ-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-2-イル]-2-オキソピリミジン-4-イル] ヘキサデカナミドである。サパシタビンはCNDAC ((2R,3S,4S,5R)-2-(4-アミノ-2-オキソピリミジン-1-イル)-4-ヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)オキソラン-3-カルボニトリル)のプロドラッグである。
【0139】
さらに他のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、および2'-C-シアノ-2'-デオキシ-1-β-d-アラビノフラノシルシトシンを含む、Moriらの米国特許第5,776,488号に開示されている2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン化合物を含めて、当技術分野において公知である。
【0140】
3. BH3ミメティック
いくつかの態様において、開示される方法は1つまたは複数のBH3ミメティックの、その必要がある対象または患者への投与をさらに含む。いくつかの態様において、BH3ミメティックはABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)、WEHI-539、BXI-61、BXI-72、GX15-070 (オバトクラクス)、S1、JY-1-106、アポゴシポロン、BI97C1 (サブトクラクス)、TW-37、MIM1、MS1、BH3I-1、UMI-77、またはマリノピロールA (マリトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックはABT-199 (ベネトクラクス)またはABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックはABT-199である。
【0141】
アポトーシスを標的とすることは、がん治療法において魅力的なアプローチである。アポトーシスはがんにとって回避しなければならない主要な障壁であり、アポトーシスの回避はがんの特徴であり、がん化学療法に対する耐性を引き起こす。BCL-2ファミリータンパク質はアポトーシスの重要な調節因子であり、ミトコンドリアのすぐ上流で機能している。BCL-2ファミリータンパク質は、保存されたBCL-2相同性(BH)ドメインを保有し、抗アポトーシス成員とアポトーシス促進性成員に分類され、これらは4つのBHドメイン(BH1からBH4)を含む「マルチドメイン」タンパク質と「BH3のみ」のタンパク質にさらに細分される。これらのタンパク質のうち、アポトーシス促進性マルチドメインの成員BAXおよびBAKは、ミトコンドリア実行因子として機能し、ミトコンドリア外膜に孔を直接開け、シトクロムcおよびSmac/Diabroなどのアポトーシス誘発因子の放出を引き起こす。BaxとBakの両方を欠損しているマウスでの研究により、BaxとBakはDNA損傷を含む、さまざまな刺激に応答するミトコンドリア媒介性アポトーシスの必須の誘導因子であることが示された。対照的に、抗アポトーシスマルチドメイン成員であるBcl-2、Bcl-XLおよびMcl-1は、直接結合によってBaxおよびBakの細孔形成を阻害する。BH3のみのタンパク質はアポトーシスの開始に重要であり、マルチドメイン成員のすぐ上流で機能し、直接的および/または間接的な活性化を通じてBaxおよびBakを活性化する。Bim、Bid、PumaおよびNoxaの四重欠損は、さまざまな刺激によって誘導されるアポトーシスを無効にすることから、Bax/Bak媒介性アポトーシス誘導の誘発におけるこれらの直接活性化因子タイプのBH3のみのタンパク質の重要性が示唆される。
【0142】
BH3のみのタンパク質は、その直接的な効果に加えて、抗アポトーシスマルチドメインタンパク質も不活性化し、BaxおよびBakの間接的な活性化を引き起こす。BH3のみのタンパク質のうち、BIMおよびPUMAは全ての抗アポトーシスマルチドメインタンパク質に等しい親和性で結合するようであるが、他の成員は異なった親和性を示す。特に、腫瘍抑制因子p53媒介アポトーシスの誘導物質であるNOXAは、BCL-2、BCL-XLまたはBCL-Wには結合しないが、MCL-1およびA1には高い親和性で結合するという点で独特の特徴を示す。それゆえ、BH3ドメイン構造の違いがアポトーシス誘導経路の変化を制御している可能性がある。
【0143】
したがって、BCL-2ファミリーのBH3のみのタンパク質(BCL-2相同性ドメインBH3のみを有する)は、このファミリーの生存促進性の成員に結合し、その機能活性を中和(アポトーシス促進性Bcl-2ファミリーの成員の隔離)することによりアポトーシスを誘発することができるため、「BH3ミメティック」という概念により、BH3のみのタンパク質を模倣し、かくしてアポトーシスを誘発しうる低分子の開発が促されてきた。アポトーシス促進性BH3ドメインは両親媒性α-ヘリックスからなり、抗アポトーシスマルチドメインタンパク質のBH1、-3および-4を含む疎水性溝に結合し、その結果、隔離されたアポトーシス促進性タンパク質BAX、BAK、および活性化因子タイプのBH3のみのタンパク質の放出が引き起こされる。放出されたBAXおよびBAKは、それ自体を活性化し、かつ/または放出されたBH3のみのタンパク質により活性化されてアポトーシスを誘導することから、BH3ペプチドまたはBH3ドメインに構造的に類似した低分子化合物をがんに対する治療剤として用いることができることが示唆される。
【0144】
これに関連して、抗アポトーシスBCL-2ファミリータンパク質のいくつかの天然または合成低分子阻害剤が同定されており、がん細胞および腫瘍に対するそれらの効果が分析されている。これらの化合物のうち、ABT-263 (ナビトクラクス)、つまり経口的に利用可能なABT-737誘導体(BCL-2、BCL-XLおよびBCL-Wに結合することによりBH3のみのタンパク質を模倣し、いくつかのがん細胞においてミトコンドリア媒介性のアポトーシスを効果的に誘導することが示されている)は臨床試験で大部分のCLL患者において有意に有効であることが示されており、ABT-199 (ベネトクラクス)も、再発性または難治性CLLを有する患者において有効であることが示されている。他のBH3ミメティックであるGX15-070 (オバトクラクス)、Bl-97C1 (サブトクラクス)、AT-101 (ゴシポール)、およびAT-101の誘導体も臨床的に試験されている。これらのおよびその他のBH3ミメティックは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるNakajima and Tanaka, (2016) BH3 mimetics: Their action and efficacy in cancer chemotherapy. Integr Cancer Sci Therap. 3に記述されている。
【0145】
4. 他の化学療法
シスプラチンは、例えば、転移性精巣がんもしくは卵巣がん、進行性膀胱がん、頭頸部がん、子宮頸がん、肺がん、または他の腫瘍などのがんを処置するために広く用いられてきた。シスプラチンは経口的に吸収されず、それゆえ、例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内注射などの他の経路を介して送達しなければならない。シスプラチンは単独でまたは他の剤との組み合わせで用いることができ、ある特定の態様では計3過程について3週間ごとに5日間、約15 mg/m2から約20 mg/m2を含め臨床用途において用いられる有効用量が企図される。いくつかの態様において、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたEgr-1プロモーターを含む構築物と併せて細胞および/または対象に送達されるシスプラチンの量は、シスプラチンを単独で用いる場合に送達される量よりも少ない。
【0146】
他の好適な化学療法剤は、抗微小管剤、例えば、パクリタキセル(「タキソール」)および塩酸ドキソルビシン(「ドキソルビシン」)を含む。アデノウイルスベクターおよびドキソルビシンを介して送達されるEgr-1プロモーター/TNFα構築物の組み合わせは、化学療法および/またはTNF-αに対する耐性を克服するのに効果的であることが確認されており、このことから、構築物およびドキソルビシンによる併用処置がドキソルビシンおよびTNF-αの両方に対する耐性を克服することが示唆される。
【0147】
ドキソルビシンは吸収が不十分であり、好ましくは静脈内投与される。ある特定の態様において、成体に適切な静脈内用量は、約21日間隔で約60 mg/m2から約75 mg/m2または約3週間から約4週間間隔で繰り返される2日もしくは3日連続のそれぞれで約25 mg/m2から約30 mg/m2または週に1回、約20 mg/m2を含む。最低用量は、以前の化学療法によって引き起こされた以前の骨髄抑制もしくは腫瘍性骨髄浸潤がある場合、または薬物が他の骨髄造血抑制薬と組み合わされている場合、高齢患者において用いられるべきである。
【0148】
ナイトロジェンマスタードは、本開示の方法において有用な別の好適な化学療法剤である。ナイトロジェンマスタードは、メクロレタミン(HN2)、シクロホスファミドおよび/またはイホスファミド、メルファラン(L-サルコリシン)、ならびにクロラムブシルを含みうるが、これらに限定されることはない。シクロホスファミド(シトキサン(CYTOXAN)(登録商標))はMead Johnsonから入手可能であり、NEOSTAR(登録商標)はAdriaから入手可能であり)、別の好適な化学療法剤である。成体に適した経口用量は、例えば、約1 mg/kg/日から約5 mg/kg/日を含み、静脈内用量は、例えば、最初に約2日から約5日にわたり分割用量で約40 mg/kgから約50 mg/kg、または約7日から約10日ごとに約10 mg/kgから約15 mg/kgまたは週2回、約3 mg/kgから約5 mg/kg、または約1.5 mg/kg/日から約3 mg/kg/日を含む。胃腸への悪影響のため、静脈内経路が好ましい。薬物はまた、筋肉内に、浸潤によりまたは体腔内に投与されることもある。
【0149】
B. 他のがん治療法
1. 放射線療法
いくつかの態様において、電離放射線などの放射線療法が対象に実施される。本明細書において用いられる場合、「電離放射線」は、十分なエネルギーを有するか、または電離(電子の獲得もしくは喪失)を生み出すための核相互作用を介して十分なエネルギーを生み出すことができる粒子または光子を含む放射線を意味する。電離放射線の好ましい非限定的な例は、x線である。標的組織または細胞にx線を送達するための手段は、当技術分野において周知である。
【0150】
いくつかの態様において、放射線療法は、外部放射線療法、内部放射線療法、放射免疫療法、または術中放射線療法(IORT)を含むことができる。いくつかの態様において、外部放射線療法は、三次元原体放射線療法(3D-CRT)、強度変調放射線療法(IMRT)、陽子線療法、画像誘導放射線療法(IGRT)、または定位放射線療法を含む。いくつかの態様において、内部放射線療法は、組織内近接照射療法、洞内近接照射療法、または腔内放射線療法を含む。いくつかの態様において、放射線療法は原発腫瘍に対して実施される。
【0151】
いくつかの態様において、電離放射線の量は20 Gyより大きく、1回の線量で投与される。いくつかの態様において、電離放射線の量は18 Gyであり、3回の線量で投与される。いくつかの態様において、電離放射線の量は、少なくとも0.5、1、2、4、6、8、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、18、19、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、もしくは60 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも0.5、1、2、4、6、8、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、18、19、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、もしくは60 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に0.5、1、2、4、6、8、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、18、19、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、もしくは60 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)である。いくつかの態様において、電離放射線は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10回(またはその中で導出可能な任意の範囲)の線量で投与される。2回以上の線量が投与される場合、線量は、約1、4、8、12、もしくは24時間または1、2、3、4、5、6、7、もしくは8日または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、もしくは16週間、あるいはその中で導出可能な任意の範囲の間隔を空けてもよい。
【0152】
いくつかの態様において、対象に実施される放射線療法の量は、放射線療法の総線量として提示されてもよく、それが分割線量で投与される。例えば、いくつかの態様において、総線量は、各5 Gyの10回の分割線量で投与される50 Gyである。いくつかの態様において、総線量は、各2~3 Gyの20~60回の分割線量で投与される50~90 Gyである。いくつかの態様において、放射線の総線量は、少なくとも0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40,41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、125、130、135、140、もしくは150 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40,41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、125、130、135、140、もしくは150 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40,41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、125、130、135、140、もしくは150 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)である。いくつかの態様において、総線量は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、15、20、25、30、35、40、45、もしくは50 Gy (またはその中で導出可能な任意の範囲)の分割線量で投与される。いくつかの態様において、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100回(またはその中で導出可能な任意の範囲)の分割線量が投与される。いくつかの態様において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12回(またはその中で導出可能な任意の範囲)の分割線量が1日当たり投与される。いくつかの態様において、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、もしくは30回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、多くとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、もしくは30回(またはその中で導出可能な任意の範囲)、あるいは正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、もしくは30回(またはその中で導出可能な任意の範囲)の分割線量が1週間当たり投与される。
【0153】
2. がん免疫療法
いくつかの態様において、本方法はがん免疫療法の実施を含む。がん免疫療法(免疫腫瘍学と呼ばれることもあり、IOと略される)は、がんを処置するための免疫系の使用である。免疫療法は能動的、受動的またはハイブリッド(能動的および受動的)に分類することができる。これらのアプローチは、がん細胞がその表面に、腫瘍関連抗原(TAA)として知られる、免疫系により検出されうる分子を有することが多いという事実を利用しており; それらはタンパク質または他の高分子(例えば炭水化物)であることが多い。能動免疫療法は、TAAを標的とすることによって腫瘍細胞を攻撃するように免疫系に指令する。受動免疫療法は、既存の抗腫瘍応答を増強し、モノクローナル抗体、リンパ球およびサイトカインの使用を含む。さまざまな免疫療法は当技術分野において公知であり、その例を以下に記述する。
【0154】
a. チェックポイント阻害剤および併用処置
本開示の態様は、免疫チェックポイント阻害剤の投与を含み得、その例が以下にさらに記述される。本明細書において開示される場合、「チェックポイント阻害剤療法」(同様に「免疫チェックポイント遮断療法」、「免疫チェックポイント療法」、「ICT」、「チェックポイント遮断免疫療法」、または「CBI」)は、1種類または複数種類の免疫チェックポイント阻害剤を、がんに罹患しているか、またはがんを有することが疑われる対象に提供することを含む、がん治療を指す。
【0155】
(1) PD-1、PDL1、およびPDL2阻害剤
PD-1は、T細胞が感染または腫瘍に遭遇する腫瘍微小環境において作用することができる。活性化されたT細胞はPD-1を上方制御し、末梢組織においてPD-1を発現し続ける。IFN-γなどのサイトカインは、上皮細胞および腫瘍細胞でのPDL1の発現を誘導する。PDL2はマクロファージおよび樹状細胞に発現する。PD-1の主な役割は、末梢でのエフェクタT細胞の活性を制限し、免疫応答中の組織への過度の損傷を防ぐことである。本開示の阻害剤は、PD-1および/またはPDL1活性の1つまたは複数の機能を遮断しうる。
【0156】
「PD-1」の代替名には、CD279およびSLEB2が含まれる。「PDL1」の代替名には、B7-H1、B7-4、CD274、およびB7-Hが含まれる。「PDL2」の代替名には、B7-DC、Btdc、およびCD273が含まれる。いくつかの態様において、PD-1、PDL1、およびPDL2は、ヒトPD-1、PDL1、およびPDL2である。
【0157】
いくつかの態様において、PD-1阻害剤は、PD-1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PD-1リガンド結合パートナーはPDL1および/またはPDL2である。別の態様において、PDL1阻害剤は、PDL1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL1結合パートナーはPD-1および/またはB7-1である。別の態様において、PDL2阻害剤は、PDL2とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL2結合パートナーはPD-1である。阻害剤は抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドでもよい。例示的な抗体は米国特許第8,735,553号、同第8,354,509号、および同第8,008,449号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において提供される方法および組成物で用いるための他のPD-1阻害剤は、米国特許出願公開第US2014/0294898号、同第US2014/022021号、および同第US2011/0008369号に記述のように当技術分野において公知であり、これらは全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0158】
いくつかの態様において、PD-1阻害剤は抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびピディリズマブからなる群より選択される。いくつかの態様において、PD-1阻害剤は、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)と融合したPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの態様において、PDL1阻害剤はAMP-224を含む。ニボルマブはMDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても知られ、WO2006/121168に記述の抗PD-1抗体である。ペンブロリズマブはMK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても知られ、WO2009/114335に記述の抗PD-1抗体である。ピディリズマブはCT-011、hBAT、またはhBAT-1としても知られ、WO2009/101611に記述の抗PD-1抗体である。AMP-224はB7-DCIgとしても知られ、WO2010/027827およびWO2011/066342に記述のPDL2-Fc融合可溶性受容体である。さらなるPD-1阻害剤は、AMP-514としても知られるMEDI0680、およびREGN2810を含む。
【0159】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、MEDI4736としても知られるデュルバルマブ、MPDL3280Aとしても知られるアテゾリズマブ、MSB00010118Cとしても知られるアベルマブ、MDX-1105、BMS-936559、またはそれらの組み合わせなどのPDL1阻害剤である。ある特定の局面において、免疫チェックポイント阻害剤は、rHIgM12B7などのPDL2阻害剤である。
【0160】
いくつかの態様において、阻害剤はニボルマブ、ペンブロリズマブ、またはピディリズマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、阻害剤は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、またはピディリズマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびにニボルマブ、ペンブロリズマブ、またはピディリズマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、前記抗体は、前述した抗体と同じ、PD-1、PDL1、もしくはPDL2上のエピトープとの結合において競合し、かつ/または前述した抗体と同じ、PD-1、PDL1、もしくはPDL2上のエピトープに結合する。別の態様において、前記抗体は、上述した抗体との少なくとも約70、75、80、85、90、95、97、もしくは99% (またはその中で導出可能な範囲)の可変領域アミノ酸配列同一性を有する。
【0161】
(2) CTLA-4、B7-1、およびB7-2
本明細書において提供される方法において標的にされることができる別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4 (CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列はGenbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4はT細胞表面に見出され、抗原提示細胞の表面上のB7-1 (CD80)またはB7-2 (CD86)に結合すると「オフ」スイッチとして働く。CTLA4は、ヘルパーT細胞表面に発現し、阻害シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞補助刺激タンパク質であるCD28に類似し、両分子とも、抗原提示細胞上のB7-1およびB7-2に結合する。CTLA-4は阻害シグナルをT細胞に伝達するのに対して、CD28は刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA-4は調節性T細胞の中にも見出され、その機能にとって重要である可能性がある。T細胞受容体およびCD28を介してT細胞が活性化されると、B7分子に対する抑制性受容体であるCTLA-4の発現が増加する。本開示の阻害剤は、CTLA-4、B7-1、および/またはB7-2活性の1つまたは複数の機能を遮断しうる。いくつかの態様において、阻害剤はCTLA-4およびB7-1相互作用を遮断する。いくつかの態様において、阻害剤はCTLA-4およびB7-2相互作用を遮断する。
【0162】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0163】
本発明の方法で用いるのに適した抗ヒト-CTLA-4抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を用いて作製することができる。あるいは、当技術分野において認められている抗CTLA-4抗体を用いることができる。例えば、米国特許第8,119,129号、WO01/14424、WO98/42752;WO00/37504 (CP675,206、トレメリムマブ; 以前はチシリムマブ(ticilimumab)としても知られる)、米国特許第6,207,156号; Hurwitz et al., 1998に開示される抗CTLA-4抗体は、本明細書において開示される方法において用いることができる。前述した刊行物のそれぞれの開示は参照により本明細書に組み入れられる。CTLA-4との結合では、これらの当技術分野において認められている任意の抗体と競合する抗体も用いることができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願番号WO2001/014424、WO2000/037504、および米国特許第8,017,114号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。
【0164】
本開示の方法および組成物においてチェックポイント阻害剤として有用なさらなる抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合断片および変種である(例えば、WO01/14424を参照されたい)。
【0165】
いくつかの態様において、阻害剤はトレメリムマブまたはイピリムマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、阻害剤は、トレメリムマブまたはイピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびにトレメリムマブまたはイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、前記抗体は、前述した抗体と同じ、PD-1、B7-1、もしくはB7-2上のエピトープとの結合において競合し、かつ/または前述した抗体と同じ、PD-1、B7-1、もしくはB7-2上のエピトープに結合する。別の態様において、前記抗体は、上述した抗体との少なくとも約70、75、80、85、90、95、97、もしくは99% (またはその中で導出可能な範囲)の可変領域アミノ酸配列同一性を有する。
【0166】
(3) LAG3
本明細書において提供される方法において標的としてよい別の免疫チェックポイントは、CD223およびリンパ球活性化3としても知られるリンパ球活性化遺伝子3 (LAG3)である。ヒトLAG3の完全なmRNA配列は、Genbankアクセッション番号NM_002286を有する。LAG3は、活性化されたT細胞、ナチュラルキラー細胞、B細胞、および形質細胞様樹状細胞の表面に見られる免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。LAG3の主なリガンドはMHCクラスIIであり、CTLA-4およびPD-1と同様の方法で、T細胞の細胞増殖、活性化、および恒常性を負に調節し、Treg抑制機能に役割を果たすことが報告されている。LAG3はまた、CD8+ T細胞を寛容原性状態に維持するのにも役立ち、PD-1と連携して、慢性ウイルス感染中のCD8疲弊の維持にも役立つ。LAG3は樹状細胞の成熟および活性化に関与していることも知られている。本開示の阻害剤は、LAG3活性の1つまたは複数の機能を遮断しうる。
【0167】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗LAG3抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0168】
本方法で用いるのに適した抗ヒトLAG3抗体(またはそれに由来するVHおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を用いて作製することができる。あるいは、当技術分野で認識されている抗LAG3抗体を用いることもできる。例えば、抗LAG3抗体はGSK2837781、IMP321、FS-118、Sym022、TSR-033、MGD013、BI754111、AVA-017またはGSK2831781を含むことができる。米国特許第9,505,839号(BMS-986016, レラトリマブとしても知られる); 米国特許第10,711,060号(IMP-701, LAG525としても知られる); 米国特許第9,244,059号(IMP731, H5L7BWとしても知られる); 米国特許第10,344,089号(25F7, LAG3.1としても知られる); WO 2016/028672 (MK-4280, 28G-10としても知られる); WO 2017/019894 (BAP050); Burova E., et al., J. ImmunoTherapy Cancer, 2016; 4(Supp. 1):P195 (REGN3767); Yu, X., et al., mAbs, 2019; 11:6 (LBL-007)に開示されている抗LAG3抗体を、本明細書において開示される方法において用いることができる。本開示において有用なこれらのおよびその他の抗LAG-3抗体を、例えば、WO 2016/028672、WO 2017/106129、WO 2017062888、WO 2009/044273、WO 2018/069500、WO 2016/126858、WO 2014/179664、WO 2016/200782、WO 2015/200119、WO 2017/019846、WO 2017/198741、WO 2017/220555、WO 2017/220569、WO 2018/071500、WO 2017/015560; WO 2017/025498、WO 2017/087589 、WO 2017/087901、WO 2018/083087、WO 2017/149143、WO 2017/219995、US 2017/0260271、WO 2017/086367、WO 2017/086419、WO 2018/034227およびWO 2014/140180において見出すことができる。前述の刊行物の各々の教示は、参照により本明細書に組み入れられる。LAG3への結合に関してこれらの当技術分野で認識されている抗体のいずれかと競合する抗体も用いることができる。
【0169】
いくつかの態様において、阻害剤は抗LAG3抗体の重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、阻害剤は、抗LAG3抗体のVH領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメイン、ならびに抗LAG3抗体のVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、抗体は、上記の抗体との少なくとも約70、75、80、85、90、95、97、もしくは99% (またはその中で導出可能な任意の範囲)の可変領域アミノ酸配列同一性を有する。
【0170】
(4) TIM-3
本明細書において提供される方法において標的としてよい別の免疫チェックポイントは、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有3 (TIM-3)、別名A型肝炎ウイルス細胞受容体2 (HAVCR2)、およびCD366である。ヒトTIM-3の完全なmRNA配列は、Genbankアクセッション番号NM_032782を有する。TIM-3は、IFNγを産生する、CD4+ Th1細胞およびCD8+ Tc1細胞の表面に見出される。TIM-3の細胞外領域は、膜に対して遠位の1つの免疫グロブリン可変ドメイン(IgV)と、膜のより近くに位置する、可変長のグリコシル化ムチンドメインからなる。TIM-3は免疫チェックポイントであり、かつ、PD-1およびLAG3を含めた他の抑制性受容体とともに、T細胞の疲弊を媒介する。TIM-3はまた、CD4+ Th1に特異的な細胞表面タンパク質であり、マクロファージの活性化を調節することも示されている。本開示の阻害剤は、TIM-3の活性の1つまたは複数の機能を遮断しうる。
【0171】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗TIM-3抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、それらの抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0172】
本方法で用いるのに適した抗ヒトTIM-3抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の手法を用いて作製されてよい。あるいは、当技術分野において認められている抗TIM-3抗体が用いられてもよい。例えば、以下を含む抗TIM-3抗体が、本明細書において開示される方法において用いられうる: MBG453、TSR-022 (別名コボリマブ)、およびLY3321367。本開示において有用な、これらの抗TIM-3抗体および他の抗TIM-3抗体は、例えば、以下に見出されうる: 米国特許第9,605,070号、米国特許第8,841,418号、米国特許出願公開第2015/0218274号、および米国特許出願公開第2016/0200815号。上述の出版物のそれぞれの教示は、参照により本明細書に組み入れられる。LAG3への結合に関して、当技術分野において認められている上述の抗体の任意のものと競合する抗体もまた、用いられてよい。
【0173】
いくつかの態様において、阻害剤は、抗TIM-3抗体の重鎖および軽鎖の、CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、阻害剤は、抗TIM-3抗体のVH領域の、CDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含み、かつ抗TIM-3抗体のVL領域の、CDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、抗体は、上述の抗体との少なくとも約70、75、80、85、90、95、97、もしくは99%(またはその中で導出可能な範囲)の可変領域アミノ酸配列同一性を有する。
【0174】
b. 共刺激分子の活性化
いくつかの態様において、免疫療法は共刺激分子のアゴニストを含む。いくつかの態様において、アゴニストは、B7-1 (CD80)、B7-2 (CD86)、CD28、ICOS、OX40 (TNFRSF4)、4-1BB (CD137; TNFRSF9)、CD40L (CD40LG)、GITR (TNFRSF18)の活性化因子、およびそれらの組み合わせを含む。アゴニストは、活性化抗体、ポリペプチド、化合物、および核酸を含む。
【0175】
c. 樹状細胞療法
樹状細胞療法は、樹状細胞に腫瘍抗原をリンパ球に対して提示させ、それによってリンパ球を活性化し、抗原を提示している他の細胞を死滅化するようにリンパ球を刺激することによって抗腫瘍応答を惹起する。樹状細胞は、哺乳動物免疫系における抗原提示細胞(APC)である。がん処置において、樹状細胞はがん抗原ターゲティングを助ける。樹状細胞に基づく細胞がん治療の一例は、シプリューセル-Tである。
【0176】
樹状細胞を、腫瘍抗原を提示するように誘導する1つの方法は、自家腫瘍溶解物または短いペプチド(がん細胞上のタンパク質抗原に対応するタンパク質の小さな部分)をワクチン接種することによるものである。これらのペプチドは、免疫および抗腫瘍応答を高めるためにアジュバント(免疫原性の高い物質)と組み合わせて与えられることが多い。他のアジュバントは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの、樹状細胞を誘引および/または活性化するタンパク質または他の化学物質を含む。
【0177】
樹状細胞は腫瘍細胞にGM-CSFを発現させることによりインビボで活性化することもできる。これは、腫瘍細胞を遺伝子操作してGM-CSFを産生させることにより、またはGM-CSFを発現する腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍細胞に感染させることにより達成することができる。
【0178】
別の戦略は、樹状細胞を患者の血液から除去し、それらを体外で活性化することである。樹状細胞は、単一の腫瘍特異的ペプチド/タンパク質または腫瘍細胞溶解物(破壊された腫瘍細胞の溶液)でありうる、腫瘍抗原の存在下で活性化される。これらの細胞(選択的なアジュバントを有する)が注入され、免疫応答を惹起する。
【0179】
樹状細胞療法は、樹状細胞の表面の受容体に結合する抗体の使用を含む。抗原を抗体に加えることができ、樹状細胞を成熟へ誘導し、腫瘍に対する免疫を提供することができる。TLR3、TLR7、TLR8またはCD40などの樹状細胞受容体が抗体標的として用いられている。
【0180】
d. CAR-T細胞療法
キメラ抗原受容体(キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体または人工T細胞受容体としても知られている、CAR)は、がん細胞を標的とする免疫細胞と新しい特異性を組み合わせた操作された受容体である。通常、これらの受容体はモノクローナル抗体の特異性をT細胞へ移植する。受容体は、異なる供給源からの部分が融合しているため、キメラと呼ばれる。CAR-T細胞療法は、がん治療のためにそのような形質転換細胞を用いる処置を指す。
【0181】
CAR-T細胞デザインの基本原理には、抗原結合機能とT細胞活性化機能を組み合わせた組換え受容体が含まれる。CAR-T細胞の一般的な前提は、がん細胞に見られるマーカーを標的にしたT細胞を人工的に作製することである。科学者らは人からT細胞を取り除き、それらを遺伝的に改変し、がん細胞を攻撃するためにそれらを患者に戻すことができる。T細胞がCAR-T細胞になるように操作されると、それは「生きている薬物」として作用する。CAR-T細胞は、細胞外リガンド認識ドメインと細胞内シグナル伝達分子との間にリンクを作出し、これがT細胞を活性化する。細胞外リガンド認識ドメインは通常、一本鎖可変断片(scFv)である。CAR-T細胞療法の安全性の重要な局面は、正常細胞ではなく、がん性腫瘍細胞だけが標的とされることを確実にする方法である。CAR-T細胞の特異性は、標的とされる分子の選択によって決定される。
【0182】
例としてのCAR-T療法としてはチサゲンレクルユーセル(Tisagenlecleucel) (キムリア(Kymriah))およびアキシカブタゲンシロルユーセル(Axicabtagene ciloleucel) (イエスカルタ(Yescarta))が挙げられる。
【0183】
e. サイトカイン療法
サイトカインは、腫瘍内に存在する多くのタイプの細胞によって産生されるタンパク質である。それらは免疫応答を調節することができる。腫瘍は、多くの場合、サイトカインを利用して腫瘍を成長させ、免疫応答を低減させる。これらの免疫調節効果により、免疫応答を惹起させる薬物としてそれらを用いることが可能になる。一般的に用いられる2つのサイトカインは、インターフェロンおよびインターロイキンである。
【0184】
インターフェロンは免疫系によって産生される。それらは通常、抗ウイルス応答に関与しているが、がんにも使われている。それらは3つの群に分類される: タイプI (IFNαおよびIFNβ)、タイプII (IFNγ)ならびにタイプIII (IFNλ)。
【0185】
インターロイキンは、数々の免疫系効果を有する。IL-2は例としてのインターロイキンサイトカイン療法である。
【0186】
f. 養子T細胞療法
養子T細胞療法は、T細胞の輸血(養子細胞移入)による受動免疫の一形態である。T細胞は血液および組織中に見られ、通常、外来病原体を見つけると活性化する。具体的には、T細胞の表面受容体が、表面抗原上に外来タンパク質の一部を提示する細胞に遭遇すると、T細胞は活性化する。これらは感染細胞または抗原提示細胞(APC)のいずれかであることができる。それらは正常組織中および腫瘍組織中に見られ、その場合、それらは腫瘍浸潤リンパ球(TIL)として知られている。それらは、腫瘍抗原を提示する樹状細胞などのAPCの存在により活性化される。これらの細胞は腫瘍を攻撃しうるが、腫瘍内の環境は免疫抑制性が高く、免疫介在性の腫瘍死を防ぐ。
【0187】
腫瘍を標的としたT細胞を産生および取得する複数の方法が開発されている。腫瘍抗原に特異的なT細胞は、腫瘍サンプルから除去する(TIL)か、血液からろ過することができる。その後の活性化および培養はエクスビボで実施され、その結果、再注入される。活性化は、遺伝子治療を通じて、またはT細胞を腫瘍抗原に曝露することによって行うことができる。
【0188】
がん処置は、本明細書において記述されるがん処置のいずれかを除外しうることが企図される。さらに、本開示の態様は、本明細書において記述される治療法について以前に処置された患者、本明細書において記述される治療法について現在処置されている患者、または本明細書において記述される治療法について処置されていない患者を含む。いくつかの態様において、患者は、本明細書において記述される治療法に耐性があると判定された者である。いくつかの態様において、患者は、本明細書において記述される治療法に感受性があると判定された者である。
【0189】
3. 腫瘍溶解性ウイルス
いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は、腫瘍溶解性ウイルスを含む。腫瘍溶解性ウイルスは、選択的にがん細胞に感染し、がん細胞を死滅化するウイルスである。感染したがん細胞が腫瘍溶解によって破壊されると、それらは新しい感染性ウイルス粒子またはビリオンを放出して、残存している腫瘍を破壊するのを助ける。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍細胞の直接破壊を引き起こすだけでなく、長期免疫療法のために宿主の抗腫瘍免疫応答を刺激すると考えられている。
【0190】
4. 多糖類
いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は多糖類を含む。キノコに見出されるある特定の化合物、主に多糖類は、免疫系を上方制御することができ、抗がん特性を持ちうる。例えば、レンチナンなどのベータ-グルカンは、マクロファージ、NK細胞、T細胞および免疫系サイトカインを刺激することが実験室での研究において示されており、免疫学的アジュバントとして臨床試験で調べられている。
【0191】
5. 新生抗原
いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は新生抗原の投与を含む。多くの腫瘍は変異を発現している。これらの変異は、T細胞免疫療法で用いるための新しく標的となりうる抗原(新生抗原)を潜在的に作製する。RNA配列決定データを用いて特定された、がん病変におけるCD8+ T細胞の存在は、変異負荷の高い腫瘍において高くなる。ナチュラルキラー細胞およびT細胞の細胞溶解活性に関連する転写物のレベルは、多くのヒト腫瘍における変異負荷と正の相関がある。
【0192】
6. 外科手術
がんを有する人のおよそ60%は、予防手術、診断、または進行度診断のための手術、根治的手術、および姑息的手術を含む何らかの種類の外科手術を受ける。根治的手術は、がん組織の全てまたは一部が物理的に除去、切除、および/または破壊される切除を含み、本発明の態様の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の療法とともに用いられる場合がある。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除に加えて、外科手術による処置は、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡的に管理される手術(microscopically-controlled surgery) (モース術)を含む。
【0193】
がんの細胞、組織、または腫瘍の一部または全てを切除すると体内に空洞が形成されることがある。処置は、その領域にさらなる抗がん療法を灌流、直接注射、または局所塗布することによって行われてもよい。そのような処置は、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは7日ごとに、または1週間、2週間、3週間、4週間、および5週間ごとに、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、もしくは12ヶ月ごとに繰り返されてもよい。これらの処置もさまざまな投与量の処置であってもよい。
【0194】
7. 他の作用物質
処置の治療有効性を改善するために、本発明の態様のある特定の局面と組み合わせて他の作用物質が用いられうることが企図される。これらのさらなる作用物質には、細胞表面受容体およびギャップ結合の上方制御に影響を及ぼす作用物質、細胞分裂停止物質および分化物質、細胞接着阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が含まれる。ギャップ結合数を増やすことで細胞間シグナル伝達を増大させると、付近の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖作用が増大する。他の態様において、処置の抗過剰増殖有効性を改善するために、細胞分裂停止物質または分化物質は本発明の態様のある特定の局面と組み合わせて用いることができる。細胞接着阻害剤は本発明の態様の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は局所接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。処置有効性を改善するために、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他の作用物質、例えば、抗体c225を本発明の態様のある特定の局面と併用できることがさらに企図される。
【0195】
II. がん処置
本開示の局面は、がんに罹患している、またはがんを有する疑いのある対象の処置を含む方法に指向している。いくつかの態様において、がんは乳がん、卵巣がん、腎臓がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、黒色腫、胃がん、副腎がん、頭頸部がん、肝細胞がん、副腎腫、膀胱がん、小児急性白血病、慢性リンパ性白血病、前立腺がん、膠芽腫、および骨髄腫である。いくつかの態様において、がんは小児急性白血病である。いくつかの態様において、がんは急性骨髄性白血病である。いくつかの態様において、がんはリンパ腫である。いくつかの態様において、がんは乳がんである。いくつかの態様において、肺がんは卵巣がんである。
【0196】
いくつかの態様において、開示される方法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質およびアントラセン誘導体の組み合わせを用いてがんに罹患している対象を処置することを含む。いくつかの態様において、アントラセン誘導体は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の後に投与される。本明細書において開示されるように、細胞傷害性剤が投与される順序は、驚くべきことにかつ予期せぬことに、前記剤の効力に影響を与える。1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の後にアントラセン誘導体を投与すると、驚くべきことに、著しい、相乗的な細胞傷害性効果が得られると分かった。逆に、1つまたは複数のピリミジン類似代謝拮抗物質の前にアントラセン誘導体を投与すると、驚くべきことに、せいぜい、相加的な効果、場合によっては、拮抗的な効果が得られると分かった。したがって、いくつかの態様において、(a) 1つまたは複数のがん治療法の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、がんに関して対象を処置するための方法が開示される。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。したがって、いくつかの態様において、(a) 1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質の治療的有効量を対象に投与する段階; および(b) (a)に続いて、アントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、がんに関して対象を処置するための方法が開示される。
【0197】
いくつかの態様において、アントラセン誘導体はビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体である。
【0198】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、2つまたはそれ以上のピリミジン代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、5-アザシチジン、ゲムシタビン、フロクスウリジン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-アザウラシル、トロキサシタビン、チアラビン、サパシタビン、CNDAC、2'-デオキシ-2'-メチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-フルオロメチリデンシチジン、2'-デオキシ-2'-メチリデン-5-フルオロシチジン、2'-デオキシ-2',2'-ジフルオロシチジン、2'-C-シアノ-2'-デオキシ-アラビノフラノシルシトシン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビン、フルダラビン、クラドリビン、クロファラビン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビンを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クラドリビンを含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クロファラビンを含む。
【0199】
いくつかの局面において、本方法は、BH3ミメティックを対象に投与する段階をさらに含む。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、ABT-263 (ナビトクラクス)、WEHI-539、BXI-61、BXI-72、GX15-070 (オバトクラクス)、S1、JY-1-106、アポゴシポロン、BI97C1 (サブトクラクス)、TW-37、MIM1、MS1、BH3I-1、UMI-77、またはマリノピロールA (マリトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、ABT-199 (ベネトクラクス)、ABT-737、またはABT-263 (ナビトクラクス)である。いくつかの態様において、BH3ミメティックはABT-199である。
【0200】
さらなる態様において、1つまたは複数のがん治療法の効力を改善するための方法であって、1つまたは複数のがん治療法の実施後にアントラセン誘導体の治療的有効量を対象に投与する段階を含む、方法が開示される。いくつかの態様において、1つまたは複数のがん治療法は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。ある特定の態様において、対象は、細胞傷害性剤、例えば、アントラセン誘導体および/または1つもしくは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質で処置されているか、または以前に処置されていた。いくつかの態様において、細胞傷害性剤の効力が改善される。細胞傷害性剤の効力の改善は、例えば、固形腫瘍モデル評価方法および非固形腫瘍モデル評価方法を用いて腫瘍を含む動物モデルにおいて治療活性を測定すること、またはクローン形成能アッセイを用いて治療活性を測定することなどの、当技術分野において公知の試験および診断方法を用いて特定されうる。
【0201】
いくつかの態様において、開示される方法は、細胞傷害性剤の現在または以前の効力に基づいて、1つまたは複数の細胞傷害性剤の組み合わせによる処置の候補であると、1名または複数名の対象を特定する段階を含む。例えば、いくつかの態様において、現在もしくは以前の1つもしくは複数のがん治療法および/またはアントラセン誘導体の効力が最適ではない、または最適ではなかったと判定することにより1つまたは複数のがん治療法(例えば1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質)およびアントラセン誘導体の組み合わせによる処置の候補であると、がんを有する対象を特定する段階を含む方法が、開示される。いくつかの態様において、開示される方法は、現在または以前の細胞傷害性剤が最適ではない、または最適ではなかった対象に最適ながん処置を決定する段階を含む。いくつかの態様において、対象には複数タイプのがん治療法、例えば複数の化学療法が与えられる。
【0202】
III. 治療用組成物の投与
本明細書において提供される治療法は、少なくとも1つまたは複数の第1のがん治療法または細胞傷害性剤および1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤を含む、治療剤の組み合わせの投与を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の第1のがん治療薬または細胞傷害性剤は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療薬または細胞傷害性剤は、アントラセン誘導体を含む。いくつかの態様において、治療剤は連続的に投与され、第1のがん治療法が、第2のがん治療法または細胞傷害性剤の前に実施されるか、または細胞傷害性剤が、第2のがん治療法または細胞傷害性剤の前に投与される。
【0203】
本開示の態様は、治療用組成物を含む組成物および方法に関する。異なる治療法は、1つの組成物において、または2つ以上の組成物、例えば2つの組成物、3つの組成物もしくは4つの組成物において実施されうる。いくつかの態様において、第1および第2のがん治療法は、別個の組成物中で実施される。いくつかの態様において、第1および第2のがん治療法は、同じ組成物におけるものである。作用物質のさまざまな組み合わせが用いられうる。
【0204】
本発明による組成物は、標準的な技法にしたがって調製することができ、アルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどのような、安定性の増強のための糖タンパク質を含めて、水、緩衝水、生理食塩水、グリシン、デキストロース、等張スクロース溶液などを含みうる。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技法によって滅菌されうる。得られた水溶液は、使用のために包装され、または無菌条件下でろ過され、凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥された調製物が、投与の前に滅菌水溶液と組み合わされてもよい。組成物は、生理学的条件に近づけるために必要な薬学的に許容される補助物質、例えばpH調整剤および緩衝剤、等張調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどを含有していてもよい。がん治療薬を含有する組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられるRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed. Lippincott Williams and Wilkins, 2005によって例示されているように、本開示に照らして当業者に公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)投与の場合、調製物は、FDA Office of Biological Standardsによって要求される無菌性、発熱原性、一般的安全性および純度基準を満たすべきであることが理解されるであろう。
【0205】
本開示のがん治療法は、同じ投与経路によりまたは異なる投与経路により投与されうる。いくつかの態様において、がん治療法は動脈内に、静脈内に、腹腔内に、皮下に、筋肉内に、腫瘍内に、局所的に、経口的に、経皮的に、眼窩内に、移植により、吸入により、くも膜下腔内に、脳室内に、または鼻腔内に投与される。適切な投与量は、処置される疾患のタイプ、疾患の重症度および経過、個体の臨床状態、個体の病歴および処置に対する応答、ならびに主治医の裁量に基づいて決定されうる。
【0206】
処置はさまざまな「単位用量」を含みうる。単位用量は、治療用組成物の所定量を含有すると定義される。投与される量、ならびに特定の経路および製剤化は、臨床分野におけるものの決定スキルの範囲内である。単位用量は、単回注射として投与される必要はないが、設定された期間にわたる持続注入を含みうる。いくつかの態様において、単位用量は、単一の投与可能な用量を含む。
【0207】
いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後1週間以内、2週間以内、3週間以内、または1ヶ月以内に実施または投与される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後1週間以内に実施または投与される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後1日以内、2日以内、3日以内、4日以内、5日以内、または6日以内に実施または投与される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後1日以内に実施または投与される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後23時間以内、22時間以内、21時間以内、20時間以内、19時間以内、18時間以内、17時間以内、16時間以内、15時間以内、14時間以内、13時間以内、12時間以内、11時間以内、10時間以内、9時間以内、8時間以内、7時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内に実施または投与される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数の第1のがん治療法の実施後または細胞傷害性剤の投与後12時間以内に実施または投与される。
【0208】
本明細書において開示される方法のいくつかの態様において、1つまたは複数の第1および/または第2のがん治療法の単回用量が投与される。本明細書において開示される方法のいくつかの態様において、1つまたは複数の第1および/または第2のがん治療法の複数用量が投与される。いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数の第1および/または第2のがん治療法の複数用量を投与する段階を含み、かつ複数用量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間連続して投与される。いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数の第1および/または第2のがん治療法の複数用量を投与する段階を含み、かつ複数用量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、または28日間不連続的に投与される。連続した日または不連続的な日に複数用量を投与することは、サイクルを含むことができ、このサイクルは、1ヶ月に1回、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月間連続してもしくは不連続的に、または、1年に1回、1、2、3、4、もしくは5年間連続してもしくは不連続的に繰り返されうる。
【0209】
いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法は、1つまたは複数の第1のがん治療法の複数用量のすべての用量の投与後に実施される。いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法は、1つまたは複数の第1のがん治療法の複数用量の投薬と投薬の間に実施される。したがって、いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法は、1つまたは複数の第1のがん治療法のすべての用量の後に実施されない。
【0210】
投与される量は、処置の回数と単位用量の両方に応じて、望まれる処置効果に依る。有効用量は、特定の効果を達成するために必要な量を指すと理解される。ある特定の態様における実践において、10 mg/kgから200 mg/kgの範囲の用量が、これらの作用物質の保護能力に影響を及ぼしうることが企図される。したがって、用量には、約0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、および200、300、400、500、1000 μg/kg、約0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、および200、300、400、500、1000 mg/kg、約0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、および200、300、400、500、1000μg/日、もしくは約0.1、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、および200、300、400、500、1000 mg/日、またはその中で導出可能な任意の範囲の用量が含まれることが企図される。さらに、そのような用量は複数回で、1日の間に、および/または複数の日、週、もしくは月に投与することができる。
【0211】
ある特定の態様において、薬学的組成物の有効用量は、約1 μM~150 μMの血中レベルを提供できる用量である。別の態様において、有効用量は、約4 μM~100 μM; もしくは約1 μM~100 μM; もしくは約1 μM~50 μM; もしくは約1 μM~40 μM; もしくは約1 μM~30 μM; もしくは約1 μM~20 μM; もしくは約1 μM~10 μM; もしくは約10 μM~150 μM; もしくは約10 μM~100 μM; もしくは約10 μM~50 μM; もしくは約25 μM~150 μM; もしくは約25 μM~100 μM; もしくは約25 μM~50 μM; もしくは約50 μM~150 μM; もしくは約50 μM~100 μM (またはその中で導出可能な任意の範囲)の血中レベルを提供する。他の態様において、用量は、対象に投与される治療剤から生じる、作用物質の以下の血中レベルを提供することができる: 約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100 μM、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100 μM、または多くとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100 μM、あるいはその中で導出可能な任意の範囲。ある特定の態様において、対象に投与される治療剤は体内で代謝された治療剤に代謝され、この場合、血中レベルはその剤の量を指しうる。あるいは、治療剤が対象によって代謝されない範囲内で、本明細書において論じられる血中レベルは、代謝されていない治療剤を指しうる。
【0212】
いくつかの態様において、1つまたは複数の第1のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、シタラビンを含む。シタラビンは、1 mg/m
2から1000 mg/m
2の間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、シタラビンは、少なくとも
、多くとも
、または約
、1 mg/m
2~1000 mg/m
2の任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、5 mg/m
2~500 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、25 mg/m
2~250 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、シタラビンは、50 mg/m
2~150 mg/m
2の用量で投与される。さらに、シタラビン投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。例えば、シタラビンは、持続IV注入により100 mg/m
2/日(1~7日目)または12時間ごとに100 mg/m
2 IV (1~7日目)の用量で投与されうる。
【0213】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、フルダラビンを含む。フルダラビンは、0.25 mg/m
2から250 mg/m
2の間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、フルダラビンは、少なくとも
、多くとも
、または約
、1 mg/m
2~250 mg/m
2の任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、1.25 mg/m
2~125 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、2.5 mg/m
2~60 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、フルダラビンは、10 mg/m
2~40 mg/m
2の用量で投与される。さらに、フルダラビン投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。例えば、フルダラビンは連続5日間、毎日およそ30分にわたり静脈内投与される25 mg/m
2の用量で投与されうる。各5日間の処置過程は28日ごとに開始されうる。
【0214】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クラドリビンを含む。クラドリビンは、0.001 mg/kgから1 mg/kgの間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、クラドリビンは、少なくとも
、多くとも
、または約
、0.001 mg/kg~1 mg/kgの任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.005 mg/kg~0.5 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.01 mg/kg~0.25 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、クラドリビンは、0.05 mg/kg~0.2 mg/kgの用量で投与される。さらに、クラドリビン投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。例えば、クラドリビンは、0.09 mg/kg/日の用量で連続7日間の連続注入によって投与される単一過程として投与されうる。
【0215】
いくつかの態様において、1つまたは複数のピリミジン類似体代謝拮抗物質は、クロファラビンを含む。クロファラビンは、0.5 mg/m
2から500 mg/m
2の間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、クロファラビンは、少なくとも
、多くとも
、または約
、0.5 mg/m
2~500 mg/m
2の任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、1 mg/m
2~250 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、5 mg/m
2~100 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、クロファラビンは、25 mg/m
2~75 mg/m
2の用量で投与される。さらに、クロファラビン投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。例えば、クロファラビンは、連続5日間毎日2時間にわたる静脈内注入として52 mg/m
2の用量として投与されうる。
【0216】
いくつかの態様において、1つまたは複数の第1のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数のBH3ミメティックをさらに含む。1つまたは複数のBH3ミメティックは、1 mg/kgから1000 mg/kgの間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、BH3ミメティックは、少なくとも
、多くとも
、または約
、1 mg/kg~1000 mg/kgの任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、5 mg/kg~500 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、25 mg/kg~250 mg/kgの用量で投与される。いくつかの態様において、BH3ミメティックは、50 mg/kg~mg/kgの用量で投与される。さらに、投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。
【0217】
いくつかの態様において、1つまたは複数の第2のがん治療法または細胞傷害性剤は、1つまたは複数のアントラセン誘導体を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数のアントラセン誘導体は、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体を含む。ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体は、0.05 mg/m
2から5000 mg/m
2の間の任意の投与量で対象に投与されうる。したがって、いくつかの態様において、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体は、少なくとも
、多くとも
、または約
、0.05 mg/m
2~5000 mg/m
2の任意の値、あるいはその中で導出可能な任意の範囲もしくは値の用量で投与される。いくつかの態様において、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体は、0.1 mg/m
2~2500 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体は、1 mg/m
2~1000 mg/m
2の用量で投与される。いくつかの態様において、ビサントレンまたはその誘導体もしくは類似体は、50 mg/m
2~500 mg/m
2の用量で投与される。さらに、投薬スケジュールは、種々の期間、例えば6週間まで、または本開示が関係する当業者によって決定される通りであってもよい。
【0218】
治療用組成物の的確な量も、実践者の判断に依存し、各個人に特有である。用量に影響を与える要因は、患者の身体的および臨床的状態、投与経路、意図した処置目標(症状の緩和 対 治癒)、ならびに対象が受けている可能性のある特定の治療用物質または他の治療法の効力、安定性および毒性を含む。
【0219】
体重のμg/kgまたはmg/kgの投与量単位は、4 μM~100 μMなどの、μg/mlまたはmM (血中レベル)の同等の濃度単位に変換して表現されうることが、当業者により理解され、認識されるであろう。また、取り込みは種および臓器/組織に依存することが理解される。取り込みおよび濃度測定に関してなされる適用可能な変換係数および生理学的仮定は周知であり、当業者であれば、ある濃度測定を別の濃度測定に変換し、本明細書において記述される投与量、有効性および結果に関して妥当な比較および結論を下すことができるであろう。
【実施例】
【0220】
以下の実施例は、本開示の態様を実証するために含まれる。当業者には、以下の実施例に開示した技法が、本開示の実践において十分に機能を果たすと本発明者によって発見された技法であることが認識されよう。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みると、開示している具体的な態様において、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく多くの変更が行なわれうるが、それでもなお同様または類似の結果が得られることが認識されるはずである。
【0221】
1. (Bis+Ara-C+ABT199)の組み合わせは、AML 細胞株に対して相乗的な細胞傷害性を発揮する
シタラビン(Ara-C)は、AMLの標準治療レジメンの一般的な構成要素である(Boddu et al, 2017)。本発明者らはOCI-AML3およびMOLM14細胞株におけるその細胞傷害性を、単独でまたはBisおよびABT199との組み合わせで判定した。OCI-AML3細胞を0.038 pM Bis、0.26 pM Ara-C、または0.3 pM ABT199に48時間連続曝露したところ、それぞれ80%、76%、および79%の細胞増殖がもたらされた; BisおよびAra-Cの組み合わせは対照細胞と比べて、68%の細胞増殖をもたらし、この2薬の組み合わせへのABT199の付加は細胞増殖を42%に有意に低減させた(
図1A)。同様の結果が別のAML細胞株においても観察された。FLT3-ITD陽性MOLM14細胞を0.038 pM Bis、0.45 uM Ara-C、または6.3 nM ABT199に曝露すると、それぞれ79%、89%、および77%の細胞増殖がもたらされた。増殖率は、細胞を[Bis+Ara-C]および[Bis+Ara-C+ABT 199]に曝露した場合、それぞれ75%および65%に減少した(
図1B)。
【0222】
[Bis+Ara-C+ABT 199]の組み合わせで観察された細胞傷害性は、OCI-AML3細胞におけるアネキシンV陽性細胞の27% (Bis+Ara-C)から65% [Bis+Ara-C+ABT 199]への増加(
図1A)およびMOLM14細胞における21% [Bis+Ara-C]から60% [Bis+Ara-C+ABT 199]への増加(
図1B)と一致しており、アポトーシスの有意な活性化を示唆している。
【0223】
薬物相乗作用を定量的に決定するために、細胞を異なる濃度の個々の薬物、または一定の濃度比の3薬の組み合わせに曝露し、48時間後にMTTアッセイを実施した。薬効が増加する際の組み合わせ指数(Cl)値を、
図1 (棒グラフ下)に示すように、Chou-Talalay法にしたがってグラフ分析した。50%の細胞増殖、または0.5 Faで、[Bis+Ara-C+ABT199]の計算Cl値は、OCI-AML3およびMOLM14細胞株においてそれぞれ0.4および0.5であり、3薬の強力な相乗作用(CI<1)を示唆していた。
【0224】
2. Bis、Clad、およびABT199の効果はAML細胞において相乗的である
アデノシン類似体であるクラドリビン(Clad)は、難治性AMLの処置に有効である(Zhou et al, 2019)。本発明者らは、Ara-Cと同様に、CladがAML細胞においてBisおよびABT199と相乗的な細胞傷害性をもたらすかどうかを判定しようとした。
図1Aは、OCI-AML3細胞を14 nM Cladに曝露すると、87%の細胞増殖が得られたことを示す。0.038 pM Bisと組み合わせると、細胞増殖は70%に減少した; さらに0.3 pM ABT199を添加すると、59%の増殖が得られた。MOLM14細胞を[Bis+Clad]または[Bis+Clad+ABT199]に曝露すると、それぞれ80%および70%の増殖が得られた。[Bis+Clad]または[Bis+Clad+ABT199]に曝露されたOCI-AML3細胞の分析から、36%および62%のAnn V陽性が明らかである(
図1B)。MOLM14細胞では、[Bis+Clad]または[Bis+Clad+ABT199]曝露により、15%および49%のAnn V陽性細胞が得られた(
図1B)。ここでも、Bis、Clad、およびABT199の相乗作用が、OCI-AML3細胞とMOLM14細胞の両方において1よりはるかに小さいCI値により示唆される。
【0225】
3. Bis、Flu、およびABT199はAML細胞において相乗的な細胞傷害性をもたらす
フルダラビンは、Ara-CおよびCladと同様に、白血病患者の処置に適応されるヌクレオシド類似体である。それは、寛解の誘導と、その免疫抑制特性のため(Terenzi et al., 1996)、AMLに対する移植前調整レジメンの一部としても有効である(Russell et al. 2002; de Lima et al., 2004: Andersson et al., 2017; Short et al., 2018)。ABT199の非存在下または存在下でのBisによる細胞傷害性を判定するために、OCI-AML3およびMOLM14細胞を個別の薬物にまたは組み合わせで曝露した。
図1Aは、個々の薬物への曝露により、OCI-AML3およびMOLM14細胞のそれぞれ79~88%および77~79%の増殖が得られ; [Bis+Flu]への曝露により、70% (OCI-AML3)および64% (MOLM14)の増殖が得られ; [Bis+Flu+ABT199]への曝露により、増殖が39% (OCI-AML3)および30% (MOLM14)に有意に阻害されたことを示す。アポトーシスの活性化の分析により、単独のBis、FluまたはABT199に曝露されたOCI-AML3細胞では16%~35%のアネキシンV陽性、[Bis+Flu]に曝露された場合は23%および[Bis+Flu+ABT199]に曝露された場合は67%が示された。MOLM14細胞でも同様の結果が得られた。個々の薬物への曝露により、15%~35%のアネキシンV陽性が得られ; [Bis+Flu]への曝露時に24%および[Bis+Flu+ABT199]組み合わせへの曝露時に79%が得られた(
図1B)。Bis、Flu、およびABT199の相乗的な細胞傷害性は、OCI-AML3細胞(CI = 0.5)およびMOLM14細胞(CI = 0.3)における1よりはるかに小さいCI値によって示される(
図1B)。これらの結果は、[Bis+Flu]の組み合わせにABT199を加えると、2薬組み合わせの細胞傷害性が有意に増加したことを示唆している。
【0226】
4. BisおよびABT199へのクロファラビン(Clo)の添加は、AML細胞株に対して相乗効果をもたらす
試験した3つのヌクレオシド類似体(Ara-C、Clad、Flu)の中で、Fluと[Bis+ABT199]の組み合わせは、OCI-AML3細胞およびMOLM14細胞において最高の細胞傷害性をもたらした(
図1Aおよび1B)。本発明者らの以前の前臨床試験(Valdez et al., 2011)および臨床試験(Andersson et al., 2011)により、[Flu+Clo]の効力が実証された。本発明者らは、それゆえ、AML細胞株における[Bis+Clo+ABT199]および[Bis+Flu+Clo+ABT199]の細胞傷害性を探索しようとした。OCI-AML3細胞を[Bis+Clo]に曝露すると、68%の細胞増殖および33%のアネキシンV陽性が得られた(
図1A)。この2薬の組み合わせにFluを加えると、増殖は55%増殖に減少し、アネキシンV陽性細胞は40%に増加した。[Bis+Clo]または[Bis+Flu+Clo]にABT199を加えると、増殖はそれぞれ57%および31%に有意に減少し、アネキシンV陽性は61%および79%に増加した。同様の結果がMOLM14細胞でも得られた。[Bis+Clo]、[Bis+Flu+Clo]、および[Bis+Flu+Clo+ABT199]に曝露すると、それぞれ77%、68%、および22%の細胞増殖、ならびに23%、52%および85%のアネキシンV陽性が得られた(
図1B)。その相互作用の分析により、OCI-AML3細胞における[Bis+Clo+ABT199]および[Bis+Flu+Clo+ABT199]の両方のCI値が0.4であり、MOLM14細胞における[Bis+Clo+ABT199]および[Bis+Flu+Clo+ABT199]のCI値が0.8および0.6であることが示され(
図1B)、Bis、Flu、およびCloをABT199と組み合わせた場合に相乗的な細胞傷害性が増大することを示唆していた。
【0227】
5. BisおよびABT199とヌクレオシド類似体との組み合わせにより、アポトーシス経路が活性化される
観察されたAnn V陽性細胞の増加は、アポトーシスの活性化を示唆している。本発明者らはそれゆえ、アポトーシス活性化の分子マーカーとして一般的に用いられているPARP1およびカスパーゼ3の切断の変化を判定しようとした。OCI-AML3細胞を[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]に曝露すると、PARP1およびカスパーゼ3の広範な切断が引き起こされた(
図2A)。MOLM14をABT199または[Flu+Clo]に曝露するとPARP1の切断が引き起こされたが、[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]はPARP1およびカスパーゼ3のより顕著な切断を引き起こした(
図2B)。このアポトーシスの活性化および観察された細胞増殖の減少(MTTアッセイによって示される)は、生存促進c-MYCタンパク質のレベルの減少と一致している(
図2B)。ヒストン2 AX (y-H2AX)のリン酸化およびヒストン3のLys27位でのメチル化の増加(
図2Aおよび2B)は、3薬または4薬の組み合わせによってDNA損傷応答およびクロマチン弛緩の活性化が媒介される可能性を示唆している。
【0228】
薬物を介した細胞死におけるカスパーゼの重要性をさらに分析するために、本発明者らは、薬物の組み合わせに曝露された細胞におけるカスパーゼ3の酵素活性を測定した。OCI-AML3細胞を[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT 199]に曝露すると、対照細胞と比べてカスパーゼ3活性のおよそ3~5倍増加が引き起こされた; 同様の結果がMOLM14細胞においても観察され、カスパーゼ3活性はおよそ2~4倍増加した(
図2C)。さらに、細胞をこれらの薬物の組み合わせに曝露すると、アガロースゲル分析によって判定した場合、アポトーシスの生化学的特徴であるDNA断片化(Wyllie, 1980)が増加し(
図2D)、カスパーゼ依存性DNaseの活性化が示唆された。
【0229】
薬物誘発性アポトーシスは、薬物がDNAに損傷を与えた核内のヌクレオシド類似体およびBisの影響によって開始された可能性があり、それが次いで、NAD+およびアセチル-CoAのレベルを低下させる複雑なシグナル伝達経路を通じてミトコンドリアに伝達される(Fang et al., 2016)。ヌクレオシド類似体はリン酸化されると、合成中にDNAに取り込まれ、DNA損傷およびヒストン修飾を引き起こし、クロマチンリモデリングを誘導する。弛緩したクロマチンは、おそらくBisによるDNAインターカレーションを受けやすくなり、本発明者らが以前に報告したDNAアルキル化剤に対する弛緩したクロマチンの感受性を連想させる(Valdez et al., 2011)。低分子のDNAへのインターカレーションは、制約の少ないクロマチンではより効率的であることが知られている(Bosire, et al., 2019)。そのようなプロセスにより、BisはDNAの塩基対間にインターカレートし、トポイソメラーゼIIを阻害する効率が高くなると予想される。このモデルは、本発明者らの薬物順序の実験の結果と一致している。AML細胞を[Flu+Clo]に曝露した後Bisに曝露すると、逆の薬物順序と比較して、より大きな増殖阻害が得られた(
図4)。
【0230】
[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]に曝露した細胞において観察されたDNAの断片化(
図2D)は、薬物による著しいDNA鎖切断の形成を示唆している。ヌクレオシド類似体の成長中のDNA鎖への取り込みは、DNA複製フォークを崩壊させ、DNA合成を阻害することが知られており(Gandhi et ah, 1994)、その結果DNA切断を誘導する。アントラサイクリンが媒介するトポイソメラーゼIIの毒作用も、ニックの入ったDNA鎖のライゲーションを妨げることによりDNA切断の形成を誘導する(Marinello et al., 2018)。アントラサイクリンは酸化還元反応を起こしてフリーラジカルを生成し、DNAを損傷することもある(Simunek et al., 2009)。これらの分子事象は全て、ATM基質H2AXのリン酸化によって示唆されるように、DNA損傷応答の活性化をもたらす(
図2A、
図2B)。
【0231】
著しいDNA損傷は、細胞にアポトーシスを起こさせる可能性がある。AML細胞を[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT 199]の組み合わせに曝露すると、アネキシンV陽性(
図1)、PARP1およびカスパーゼ3の切断(
図2A、
図2B)、カスパーゼ3酵素活性(
図2C)、ならびにDNA断片化(
図2D)の増加が引き起こされ、アポトーシスの活性化が示唆された。
【0232】
6. [Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]]の組み合わせは、ROSの生成を活性化し、ミトコンドリア膜電位(MMP)を低下させる
薬物媒介性の細胞死の根底にある細胞応答をよりよく理解するために、本発明者らは、既知の細胞死メディエータであるROSの生成を調べた。OCI-AML3細胞を個々の薬物(drags)に曝露すると、対照と比べておよそ1~4倍ROS生成が増加したが、2薬の組み合わせではおよそ2~5倍ROSが増加し、3薬または4薬の組み合わせではおよそ4~9倍ROSが増加した(
図3A)。MOLM14細胞においても同様の結果が観察された; 個別または2薬の組み合わせに曝露すると、ROSのおよそ1~2倍の増加が起きたが、[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT 199]に曝露すると、ROS生成がおよそ3.5~5倍に有意に増加した(
図3B)。この結果は、これらの薬物の組み合わせがミトコンドリアを擾乱し、ROS生成を増加させたことを示唆している。
【0233】
ミトコンドリアの完全性に及ぼす[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]の組み合わせの効果を立証するために、JC-1試薬を用いてミトコンドリア膜電位(MMP)の低下を測定した。ミトコンドリア内の凝集型のJC-1は赤色の蛍光を発し、MMPの減少によりJC-1試薬が細胞質に移行し、そこで緑色の蛍光を発するその単量体型に変換される。
図3Cに示されるように、対照の未処理OCI-AML3細胞は92%の凝集体および8%の単量体を示した。個別または2薬の組み合わせに曝露すると、9%~30%のJC-1単量体が得られたが、[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]への曝露では52%~73%の単量体が得られ、JC-1試薬がミトコンドリアから細胞質へ著しく漏出したことが示唆された。MOLM14細胞においても同様の結果が得られた; JC-1単量体は、個別もしくは2薬の組み合わせに曝露された細胞における4%~20%から、[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]に曝露された細胞における39%~77%に増加した(
図3D)。全体として、これらの結果は、[Bis+ヌクレオシド類似体+ABT199]の組み合わせに曝露された細胞におけるミトコンドリア膜の強い脱分極を示唆しており、このことがアポトーシス促進性ミトコンドリア因子の細胞質への漏出を引き起こし、カスパーゼ3およびPARP1の切断と一致して、アポトーシスに至るカスパーゼ依存性の事象カスケードを開始した可能性がある(
図2A、
図2B)。
【0234】
7. 薬物順序の効力
薬物の投与順序は、2つまたはそれ以上の薬物の効力および相互作用において重要な因子となりうる(Mancini et al., 2011)。例えば、CG5乳がん細胞をゲムシタビンの後にドキソルビシンに曝露すると、相加的であることが観察されたが、逆の順序は拮抗的であった(Zupi et al., 2005)。本発明者らは、Bisおよびヌクレオシド類似体への曝露の順序が効力に異なる影響を及ぼすかどうかを判定しようとした。OCI-AML3細胞をBisに24時間、その後[Flu+Clo]にさらに24時間曝露すると、およそ61%の細胞増殖が得られた; 逆の順序では39%の増殖が得られた(
図4A)。別の2つのAML細胞株においても同様の結果が得られた; MOLM14細胞をBisに曝露した後に[Flu+Clo]に曝露すると58%の細胞増殖が得られたが、逆の順序では27%の増殖が得られ、KBM3/Bu2506細胞をBisに曝露した後に[Flu+Clo]に曝露すると46%の細胞増殖が得られたが、逆の順序では27%の増殖が得られた(
図4A)。全ての差異は統計的に有意であった。アネキシンV アッセイによる分析でも同様の有意差が得られた。OCI-AML3、MOLM14、およびKBM3/Bu2506細胞をBisに曝露した後、[Flu+Clo]に曝露すると、それぞれ31%、33%、および23%のアネキシンV陽性細胞が得られ; 逆の順序では、それぞれ49%、62%、および41%のアネキシンV陽性細胞が得られた(
図4B)。これらの結果は、相乗的相互作用を最適化するために、Bisの前にAML細胞をヌクレオシド類似体に曝露することの妥当性を示唆している。
【0235】
8. 例示的な方法
細胞株および化学物質。本研究において用いたAML細胞株には、KBM3/Bu2506とも呼ばれるKBM3/Bu2506 (Valdez et al., 2008)、どちらもMichael Andreeff博士の研究室(UT MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)からのものであるOCI-AML3およびMOLM14を含めた。KBM3/Bu2506細胞株はP53陰性であり、MOLM14は内部タンデムリピートFLT3 (ITD-FLT3)の存在に関して陽性である。細胞は、10%熱不活化ウシ胎仔血清(Atlanta Biologicals, Inc., Flowery Branch, GA, USA)ならびに100 U/mlペニシリンおよび100 μg/mlストレプトマイシン(Mediatech)を補充したRPMI 1640 (Mediatech, Manassas, VA, USA)中37℃にて空気中5% CO2の完全加湿雰囲気下で培養した。EZ-PCRマイコプラズマ検出キット(Biological Industries, Cromwell, CT, USA)を用いて、マイコプラズマ汚染を判定した。ビサントレン-HCl (Bis)は、IRISYS (San Diego, CA, USA)を通じてRace Oncology (Australia)により提供された。シタラビン、CloおよびABT199/ベネトクラクスは、SelleckChem (Houston, TX, USA)から入手した。BisおよびAra-Cのストック溶液はそれぞれ滅菌水およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、CloおよびABT199はジメチルスルホキシド(dimelthyl sulfoxide)に溶解した。
【0236】
細胞傷害性およびアポトーシスアッセイ。T25フラスコ中の細胞(6 mlの細胞0.5×106個/ml)を48時間薬物に曝露し、96ウェルプレートに分注(100 μl)して、3 (4,5ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにより分析した。簡単に説明すると、PBS中2 mg/mlのMTT試薬(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA) 30 μlをウェルごとに加え、37℃で3~4時間インキュベートした。可溶化溶液(10% Triton X-100を含有するイソプロパノール中0.1 NのHCl) 100 μlを添加し、混合し、37℃で少なくとも1時間インキュベートすることにより、固体の反応生成物を溶解した。Victor X3 (Perkin Elmer Life and Analytical Sciences, Shelton, CT, USA)プレートリーダーを用いて、570 nmの吸光度を測定した。MTT陽性細胞数は、溶媒対照細胞と比べて決定した。
【0237】
アポトーシスは、Muse Cell Analyzer (EMD Millipore, Billerica, MA, USA)を用いアネキシン-V-FLUOS (Roche Diagnostics, Indianapolis, IN, USA)および蛍光DNA結合マーカー7-アミノアクチノマイシンD (BD Biosciences, San Jose, CA, USA)でのホスファチジルセリン外在化のフローサイトメトリー測定により判定した。薬物の組み合わせ効果は、CalcuSynソフトウェア(Biosoft, Ferguson, MO, USA)を用いて算出された組み合わせ指数(CI)値(Chao and Talalay, 1984)に基づいて推定した。
【0238】
タンパク質分析。ウエスタンブロット分析を実施して、主要タンパク質のレベルの変化およびその改変を分析することにより相乗作用の機序を決定した。細胞を試験薬とともに48時間インキュベートし、遠心分離し、氷冷PBSで洗浄し、ペレット化した。細胞を溶解緩衝液(Cell Signaling Technology, Danvers, MA, USA)で溶解し、BCAプロテインアッセイキット(Thermo Scientific, Rockford, IL, USA)を用いて総タンパク質濃度を決定した。タンパク質抽出液をローディング緩衝液と合わせ、5分間煮沸し、等量のタンパク質のアリコートを電気泳動のためにポリアクリルアミド-SDSゲルにロードした。タンパク質をニトロセルロース膜(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)に転写した。必要な抗体を添加し、化学発光基質イモビロン(Immobilon) (EMD Millipore)を用いて検出した。オートラジオグラムをスキャンし、UN-SCAN-ITソフトウェア(Silk Scientific, Inc., Orem, UT, USA)を用いて分析した。
【0239】
ミトコンドリア膜電位(MMP)の分析。MMP検出キット(Cayman Chemical Co., Ann Arbor, MI, USA)を使いJC-1 試薬(5,5',6,6'-テトラクロロ-1,1',3,3'-テトラエチルベンズイミダゾリルカルボシアニンヨーダイド)を用いて、MMPの変化を判定した。分析する細胞を5 mlチューブに分注(0.5 ml)した。希釈した(細胞増殖培地で1:10、40 μl) MMP感受性蛍光色素JC-1試薬を各チューブに加え、37℃で20分間インキュベートし、製造業者によって記述されているようにフローサイトメトリーにより直ちに分析した。
【0240】
カスパーゼ3アッセイ。細胞を薬物に48時間曝露し、収集し、氷冷PBSで洗浄した。カスパーゼ-3比色活性アッセイキット(Chemicon International, Temecula, CA, USA)を用いて、全細胞抽出物を調製した。総タンパク質濃度を上記のように決定した。同じキットを用いて、等量のタンパク質をカスパーゼ3活性について分析した。
【0241】
結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均値±標準偏差として示し、2群間の差異の統計的有意性はMicrosoft(登録商標) Office Excelプログラムによって決定し、P 値 < 0,05を統計的に有意と見なした。
【0242】
本明細書において開示および主張される方法は全て、本開示を考慮すれば過度の実験なく行うことおよび実施することができる。本開示の組成物および方法をある特定の態様に関して記述してきたが、本開示の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記述される方法および本明細書において記述される方法の段階または段階の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書において記述される作用物質の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある特定の作用物質を用いることができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることが明らかである。当業者に明らかな、このような類似の代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の趣旨、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0243】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書において記載されたものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する範囲で、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【国際調査報告】