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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ニューロン前駆体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/54 20060101AFI20240118BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20240118BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240118BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240118BHJP
【FI】
C12Q1/54
C12N5/0797
G01N33/48 M
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544342
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 AU2022050027
(87)【国際公開番号】W WO2022155708
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】2021900142
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520500093
【氏名又は名称】スキンツーニューロン ピーティーワイ エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バレンスエラ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン アダム
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045DA31
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ68
4B063QR03
4B063QR77
4B063QS10
4B063QS28
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA21
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、参照グルコース消費プロファイルの使用を含む、ソース組織が生存可能な毛包由来神経前駆細胞の生成に適している可能性を決定する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成することが実証されている無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を前記参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより高い場合に、前記ソース組織がHFNを提供するのに適していると決定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
ソース組織がHFNを提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成することが実証されている無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルよりも低い場合に、前記ソース組織がHFNを提供するのに適していない可能性があると決定することと、
を含む、方法。
【請求項3】
毛包のサンプルが単離に十分な数のHFNを含む可能性を決定する方法であって、
毛包のサンプルを準備することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を、HFNの単離に成功した無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより高い場合に、前記毛包のサンプルが単離に十分な数のHFNを含む可能性があると決定することと、
を含む、方法。
【請求項4】
毛包のサンプルが単離に十分な数のHFNを含む可能性を決定する方法であって、
毛包のサンプルを準備することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
前記サンプル中の毛包のグルコース消費を、HFNの単離に成功した無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルより低い場合に、前記毛包のサンプルが単離に十分な数のHFNを含まない可能性があると決定することと、
を含む、方法。
【請求項5】
毛包のサンプルからニューロン前駆細胞を生成する改良された方法であって、
毛包細胞のサンプルを毛包細胞が増殖期へと移行するのを可能にする条件で処理し、それによりコンディショニングされた毛包のサンプルを形成することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費を決定することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費を、生存可能なHFNが単離された毛包を表す参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより高い場合に、前記コンディショニングされた毛包を、ニューロン系列バイオマーカーを発現する細胞の数の富化を可能にする条件で引き続き処理し、それにより毛包のサンプルからニューロン前駆細胞の組成物を生成することと、
を含む、方法。
【請求項6】
毛包細胞のサンプルからニューロン前駆細胞を生成する改良された方法であって、
毛包細胞のサンプルを毛包が増殖期へと移行するのを可能にする条件で処理し、それによりコンディショニングされた毛包のサンプルを形成することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費を決定することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費を、生存可能なHFNの単離に成功しなかった毛包を表す参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
前記コンディショニングされた毛包のグルコース消費が前記参照グルコース消費プロファイルよりも高い場合に、前記コンディショニングされた毛包を、ニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数の富化を可能にする条件で引き続き処理し、それにより毛包のサンプルからニューロン前駆細胞の組成物を生成することと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記ニューロン系列バイオマーカーを発現する細胞の数の富化を可能にする条件が、前記コンディショニングされた細胞を1つ以上の酵素と接触させるか、又は前記コンディショニングされた細胞を機械的処理に供して、前記サンプル中に存在する結合組織及び/又は細胞外基質から前記毛包を解離させる工程を含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記毛包のサンプルが、毛包を含む皮膚のサンプルを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記毛包のサンプルがヒトの頭皮の皮膚、好ましくは後頭部正中線の頭皮の皮膚から得られる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コンディショニングされた細胞又は前記サンプル中の細胞のグルコース消費が無傷(完全)毛包から決定される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞のグルコース消費が、組織ドナーからの前記サンプルの単離収集又は採取の約1時間~約24時間以内、好ましくは約4時間~12時間の間に決定される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞のグルコース消費が、結合組織及び細胞外基質から前記サンプル中の毛包を解離させる工程の前に決定される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数の富化を可能にする条件が、前記コンディショニングされた細胞を、ニューロスフェアの形成及び拡大を促進する培養培地及び条件において培養することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項14】
前記ニューロスフェアの形成及び拡大を促進する培養培地及び条件がEGF及びFGF2を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記参照グルコース消費プロファイルが、生存可能なHFNの単離に成功した毛包の1つ以上のサンプルに由来する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
参照グルコースプロファイルを得る工程を更に含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプル中の細胞のグルコース消費を決定する工程の前に、前記毛包を含むサンプルを、毛包細胞を支持する培地と接触させる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記培地がウィリアム培地Eを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記培地に1つ以上の抗不応因子及び/又は1つ以上の成長促進因子を添加する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記培地がインスリン及び/又はソニックヘッジホッグを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記グルコース消費が、前記毛包による解糖速度を直接測定することから決定されるか又は得られる、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記グルコース消費が間接的に決定され、グルコース代謝の1つ以上の代理マーカーから推定される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記グルコース代謝の1つ以上の代理マーカーがピルビン酸、NADH、酸素、乳酸及びATPから選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記グルコース消費プロファイルが前記毛包中の細胞の数に対して正規化される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項5又は6に記載の方法によって得られるか又は得ることができる神経前駆細胞。
【請求項26】
請求項25に記載の神経前駆細胞の集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソース組織が生存可能な前駆細胞の生成に適している可能性を決定する方法に関する。
【0002】
[関連出願]
本出願は、オーストラリア仮特許出願第2021900142号の優先権を主張するものであり、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0003】
細胞ベースの療法の実用的開発における主な課題は、細胞の変動性である。かかる変動性は、ソースドナー組織内及び組織間の生物学的変動性、トランスフェクション方法又は更には基本的な試薬における変動性、バッチ間の変動性(同じ細胞親株に由来する)、株間の変動性(ドナー間)、クローン間の変動性(同じドナーに由来する株内)、並びに当然ながら更には細胞集団内での又は同じ細胞内で経時的な細胞間の変動性のように複数のレベル及び複数のソースから生じる可能性がある。
【0004】
理論的には、このような観察された変動は全て、生物学的変動性(内因的であるため排除することができない)、製造上の変動性(設計によるものであり、制御及び最適化することができる)及び技術的エラー(これも不可避であるが、最小限に抑えることができる)に分解することができる。
【0005】
細胞型又は製造プロセスに関わらず、ソース又はドナー開始組織の変動性は、対処がなされていない大きな課題である。これにより事実上、最初に変動の系統的成分が製造プロセスに導入され、最終的な細胞産物における変動に寄与することになる。さらに、現在の細胞製造方法では、この種の変動は、それに対する品質管理を導入する程には十分に理解されていない。言い換えると、現在の技術では、このドナー組織が通常又は理想とどの程度異なるかを定量化するために、ソース組織におけるどの生物学的特徴を測定すべきかかが理解されておらず、最終産物に対する管理手順(「このドナーソース組織は関連基準を満たしているか?」)によってプロセスが制御されることもない。
【0006】
生存可能な前駆細胞の生成に使用されるソース組織の適性を予測するバイオマーカーを特定する必要がある。
【0007】
本明細書におけるいずれの従来技術の参照も、この従来技術が何らかの権限における共通の一般的な知識の一部を形成し、又はこの従来技術が当業者によって理解され、関連があると見なされ、及び/又は従来技術の他の部分と組み合わせることを合理的に予測することができると認識されたもの又は示唆されたものではない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、本発明者らによる、ソース組織に基づくヒト毛包由来ニューロン前駆体の製造のための予測バイオマーカーの発見に基づく。
【0009】
したがって、第1の態様において、本発明は、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成することが実証されている無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより高い場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していると決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成することが実証されている無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルよりも低い場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していない可能性があると決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0011】
また、使用される参照グルコース消費プロファイルが、生存可能なHFNの生成に適しないことが示された無傷毛包の1つ以上のサンプルからのものであってもよいことが理解されよう。したがって、更なる態様において、本発明は、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成しなかった無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルよりも高い場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していると決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0012】
さらに、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)細胞株を提供するのに適しているかを決定する方法であって、
生存可能なHFN細胞株を生成しなかった無傷ヒト毛包からの参照グルコース消費プロファイルを準備することと、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を決定することと、
サンプル中の毛包のグルコース消費を参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより低い場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していないと決定することと、
を含む、方法が提供される。
【0013】
したがって本方法は、毛包のサンプルからニューロン前駆細胞を生成する改良された方法であって、
毛包のサンプルを毛包細胞が増殖期へと移行するのを可能にする条件で処理し、それによりコンディショニングされた毛包のサンプルを形成することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費を決定することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費を、生存可能なHFN細胞株を生成した毛包を表す参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルと同じか又はそれより高い場合に、コンディショニングされた毛包を、ニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数の富化を可能にする条件で引き続き処理し、それにより毛包のサンプルからニューロン前駆細胞の組成物を生成することと、
を含む、方法を提供する。
【0014】
本方法はまた、毛包のサンプルからニューロン前駆細胞を生成する改良された方法であって、
毛包のサンプルを毛包が増殖期へと移行するのを可能にする条件で処理し、それによりコンディショニングされた細胞のサンプルを形成することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費を決定することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費を、生存可能なHFN細胞株を生成しなかった毛包を表す参照グルコース消費プロファイルと比較することと、
コンディショニングされた毛包のグルコース消費が参照グルコース消費プロファイルよりも高い場合に、コンディショニングされた毛包を、ニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数の富化を可能にする条件で引き続き処理し、それにより毛包のサンプルからニューロン前駆細胞の組成物を生成することと、
を含む、方法を提供する。
【0015】
いずれの態様においても、毛包のグルコース消費は、組織ドナーからのソース組織の単離収集又は採取の約1時間~72時間以内、好ましくは約12時間~24時間以内に決定するのが好ましい。
【0016】
いずれの態様においても、サンプルのグルコース消費は、無傷(完全)毛包から決定するのが好ましい。
【0017】
そのため、毛包のグルコース消費は、結合組織、細胞外基質、及び任意に最終分化細胞から毛包を解離させる工程の前に決定するのが好ましい。
【0018】
いずれの実施の形態においても、毛包細胞のサンプルを処理するための条件は、サンプル中の毛包前駆細胞が休止期から成長期へと移行するのを可能にする。かかる条件は、本明細書に更に記載されるように、毛包サンプルを抗不応毛包因子及び/又は成長促進因子で処理することを含むのが好ましい。
【0019】
ニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数の富化を可能にする条件は、コンディショニングされた細胞を、ニューロスフェアの形成及び拡大を促進する培養培地及び条件において培養することを含むのが好ましい。ニューロスフェア形成の方法は、一般に当該技術分野で既知であり、本明細書に更に例示される。特に好ましい実施の形態において、ニューロスフェアの形成及び拡大を促進する条件は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、特にFGF2である塩基性FGF、任意にB27(商標)サプリメント等の神経細胞培養サプリメントを含む培地において細胞を培養することを含む。
【0020】
参照グルコース消費プロファイルは、下流の処理後に生存可能なHFNを提供することが以前に決定された無傷毛包の1つ以上のサンプルに由来するものであってもよい。したがって、参照グルコース消費プロファイルは、無傷毛包のグルコース消費プロファイルの参照データセットとなり、前駆細胞の存在と毛包の増殖期との間の望ましいバランスを示すものであり、これにより生存可能なHFNを生成するために毛包を使用し得る可能性が高まる。
【0021】
いずれの態様においても、方法は、試験サンプル中の毛包のグルコース消費を1つ以上のグルコース消費プロファイルと比較することを含み得る。
【0022】
いずれの態様においても、毛包細胞を含む皮膚のサンプル又は毛包細胞のサンプルは、毛包細胞を支持するのに適した細胞培養培地中で準備される。好ましくは、細胞培養培地は、毛包前駆細胞が増殖期へと移行するのを促進し、本明細書において「コンディショニング培地」とも称される。同様に、毛包前駆細胞が増殖期へと移行するのを可能にする条件は通例、毛包細胞を支持するのに適した細胞培養培地において毛包を培養することを含む。ウィリアム培地Eが、この目的に使用するのに適した培地の一例である。他の例としては、異なる組合せのダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)+F-12、異なる組合せのF12+哺乳動物血清及び異なる添加リン酸緩衝生理食塩水の組合せが挙げられる。
【0023】
一実施の形態において、コンディショニング培地はウィリアムE培地を含む。好ましくは、ウィリアムE培地に1つ以上の抗不応因子(anti-refractory factors)及び/又は1つ以上の成長促進因子を添加する。或る特定の実施の形態において、ウィリアムE培地にインスリン、ソニックヘッジホッグ、ノギン及びTGF-βの1つ以上を添加する。特に好ましい実施の形態において、培養培地は、少なくともインスリン及びソニックヘッジホッグを添加したウィリアムE培地を含む。
【0024】
いずれの態様においても、毛包が増殖期へと移行するのを可能にする条件は、毛包を支持するのに適した細胞培養培地において毛包を培養することを含む。一実施の形態において、培地はウィリアムE培地を含む。ウィリアムE培地に1つ以上の抗不応因子及び/又は1つ以上の成長促進因子を添加するのが好ましい。或る特定の実施の形態において、ウィリアムE培地にインスリン、ソニックヘッジホッグ、ノギン及びTGF-βの1つ以上を添加する。特に好ましい実施の形態において、培養培地は、少なくともインスリン及びソニックヘッジホッグを添加したウィリアムE培地を含む。
【0025】
本発明のいずれの態様においても、サンプル(又は参照プロファイル)のグルコース消費プロファイルは、毛包の解糖速度を直接測定することによって決定される。代替的には、グルコース消費は、間接的に決定してもよく、グルコース消費(解糖)の速度を示す代替バイオマーカーの変化の測定後に導かれる。このようなグルコース消費の代替尺度は、本明細書に更に記載され、当業者に既知である。
【0026】
好ましい実施の形態において、参照グルコース消費プロファイルは、HF解離時の生細胞の数に対して正規化された標的細胞の数、及び相対グルコース消費に関するデータを含む。
【0027】
本明細書において使用される場合、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という用語及びその用語の変化形、例えば「含む("comprising", "comprises" and "comprised")」は、更なる添加物、構成要素、整数又は工程を排除することを意図するものではない。
【0028】
本発明の更なる態様及び上記の段落に記載の態様の更なる実施形態は、例として挙げる以下の記載から、及び添付の図面を参照することにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】グルコース光学アッセイの結果が実際のグルコース濃度と高度に相関することを示す図である。製造業者の使用説明書に従って標準を二連で調製した。値を平均してゼロにし、Excelでプロットした。線形回帰により0.9966の相関係数が得られた。
図2】毛包当たりのグルコース消費が組織解離時に採取された全生存細胞と相関しないことを示す図である。毛包解離時に産生される細胞の数は、組織解離時に産生される細胞の数に殆ど影響を与えない。図は線形回帰モデルであり、適合度(R)は0.2241であり、0.4206のp値から、変数が有意に相関しないことが示される。5つの独立したHFN細胞株について毛包当たりの組織解離時に産生された細胞を図に表す。
図3】産生されたHFN標的細胞の絶対数がソース毛包のグルコース消費とは強く相関しないことを示す図である。データは線形回帰モデルとして表し、適合度(R)は0.6878であり、0.0825のp値から、統計的有意性を満たさない弱い正の傾向が示される。5つの独立したHFN細胞株に基づく。
図4】毛包解離時の細胞数に対するHFN標的細胞の数がソース毛包のグルコース消費によって強く予測されることを示す図である。HF解離時の生細胞の数に対して正規化されたニューロスフェア解離時の標的細胞の数は、コンディショニング培地におけるインキュベーションの最初の24時間でのグルコース消費と相関する。データは線形回帰モデルとして表し、適合度(R)は0.9511であり、0.0047のp値から、変数が有意に相関していることが示される。5つの独立したHFN細胞株に基づく。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、頭皮に由来するヒト皮膚サンプルからニューロン前駆細胞を作製する方法に関する、本発明者らによる以前の研究を基礎とする。本発明は、ドナー組織の採取後、僅かな時間で組織がニューロン前駆細胞の好適なソースを提供するかを評価する手段を提供する。
【0031】
有利には、本発明は、ニューロン前駆細胞を調製する研究者又は臨床医が、細胞外基質、結合組織から毛包を解離させ、最終分化細胞を枯渇させる前に、ソース組織が生存可能な前駆細胞のソースを提供するかを決定するのを可能にする。言い換えると、グルコース消費は、無傷毛包から決定することができる。このため、方法により、採取後僅か12時間~24時間でソース組織の品質を評価することが可能となる。
【0032】
毛包に由来するニューロン前駆細胞を単離する方法は、概して国際公開第2019/241846号に記載されており、その全内容が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0033】
本明細書において使用される場合、毛包神経前駆体(HFN)、毛包ニューロン前駆体及び毛包ニューロン前駆細胞という用語は、区別なく使用されると理解される。
【0034】
このため、本発明は、ドナー組織の単離の直後かつ更なる組織処理の前に毛包細胞によるグルコース消費を評価する工程を含む、HFNの調製プロセス中の品質管理の方法を提供する。
【0035】
さらに、本発明はまた、グルコース利用を決定する工程を含むことにより、HFNを生成する方法を改良することで、HFNの製造のためのより効率的なアプローチを可能にした。
【0036】
無傷毛包の単離
毛包は、毛包を含む皮膚のサンプルから得ることができる。通例、毛包は毛包単位を含む皮膚サンプルの採取によって得られる。最も高く、最も均一な毛包密度を有するヒトの頭皮の皮膚、好ましくは後頭部正中線の頭皮の皮膚からサンプルを得ることが好ましい。この皮膚は一般に、個体によってより高い活性毛包の密度を有する。
【0037】
毛包の細胞は一般に、毛包前駆体と総称される、バルジ領域、毛芽帯(germ zone)及び真皮乳頭を含む異なるニッチからの前駆細胞及び幹細胞を含む。毛包前駆体は、神経外胚葉バイオマーカーを発現し得る。
【0038】
採取された毛包を、続いて増殖期への移行を促進する条件で処理する。この工程は、神経前駆細胞の収率の増加に寄与することから重要である。採取後に可能な限り早く、好ましくは採取後約1時間~24時間以内、より好ましくは約2時間~12時間以内、最も好ましくは約2時間~6時間以内に、皮膚サンプルをこれらの条件に移行させるのが好ましい。
【0039】
培養培地
好ましい実施形態において、無傷毛包又は毛包を含む皮膚のサンプルを、その中の細胞のグルコース消費を決定する前にコンディショニング培地中で処理する。
【0040】
コンディショニング培地は通例、皮膚サンプルの細胞の細胞生存を支持し、細胞の成長期(又は毛包細胞周期の活性増殖期)への移行を可能にする任意の細胞培養培地である。コンディショニング培地はまた、上皮細胞のin vitro生存性及び毛包器官形成を支持するものである。ウィリアム培地Eは、好適な培地の一例である。他の例としては、異なる組合せのダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)+F-12、異なる組合せのF12+哺乳動物血清及び異なる添加リン酸緩衝生理食塩水の組合せが挙げられる。
【0041】
本明細書において使用される場合、ウィリアムE培地(ウィリアム培地Eとも称される)は、Williams, G.M., Weisburger, E.K. and Weisburger, J.H. 1971. Exptl. Cell Res. 69, 106に記載されている。ウィリアム培地Eは、成体ラット肝上皮細胞の長期細胞培養用にアミノ酸を富化し、グルコースを2倍にした低血清添加培地として使用するために1971年に開発された。ウィリアム培地E独自の成分としては、亜鉛、鉄、マンガン、非必須アミノ酸、還元剤グルタチオン及び脂質リノール酸エチルが挙げられる。ウィリアムE培地は、グルコース(最大2mM)及びL-グルタミンを含んでいてもよい。
【0042】
ウィリアムE培地は、Sigma-Aldrich(W4128)、Lonza(BE02-019F)、Fisher Scientific(10137414)を含む様々な商業的供給業者から得ることができる。
【0043】
抗不応毛包因子及び/又は成長促進因子は、毛包前駆細胞及び幹細胞の成長期への移行を促進するために利用することができ、それにより皮膚における毛包細胞の増殖期への移行が可能となる。抗不応毛包因子の例としては、ノギン若しくはソニックヘッジホッグ(SHH)、又はそのWnt1シグナル伝達経路を活性化するか、若しくは骨形成タンパク質(不応促進)刺激を阻害する因子が挙げられる。抗不応因子の他の例としては、WNT、並びにGrem 1及びBambi等のBMPアンタゴニストが挙げられる。TGF-β2が重要な成長促進因子であり、成長促進因子の他の例としては、FGF7、FGF10及び血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられる。
【0044】
一般に、無傷毛包又は毛包を含む皮膚のサンプルは、約12時間~100時間にわたってコンディショニング培地中で処理されるが、状況によっては、より長時間培養することが可能であり得る。本明細書において更に説明するように、コンディショニング培地中の細胞によるグルコースの消費は、細胞をコンディショニング培地に曝露した後、約12時間~72時間の間に決定するのが好ましく、その結果は、毛包が生存可能なHFNの生成に有用であるかの指標を提供するのに有用である。
【0045】
グルコース消費アッセイ
細胞によるグルコース消費を決定する任意の標準的な方法が本発明に従って用いられ得ることが理解されよう。通例、培養中の細胞によるグルコース消費(解糖)は、異なる時点で培養培地中に存在するグルコースの割合/グルコース濃度を比較することによって決定することができる。
【0046】
当業者であれば、in vitroでのグルコース利用を推定する様々な比色法、蛍光測定法、生物発光法及び放射標識法に精通しているだろう。かかる方法の例は、Yamamoto et al., (2015) Curr. Protoc. Pharmacol. 71: 12.14.1-22、Zou et al., (2005) J. Biochem. Biophys. Methods, 64: 207-215、Blake et al., (1989) Anal Biochem, 177: 156-60、Valley et al., (2016) Anal. Biochem. 505: 43-50に見ることができ、それぞれ引用することにより本明細書の一部をなす。
【0047】
当業者であれば、培養中の細胞の解糖能の評価を行うために、異なる時点での細胞培地中のグルコース濃度/グルコース量の差の決定に使用するのに適した様々な市販のキットに精通しているだろう。
【0048】
培養培地中のグルコース濃度を決定するための市販のキットの非限定的な例としては、AbcamのGlucose Assay Kit(ab65333)、Cell BiolabsのGlucose Assay Kit(STA-680)、Sigma AldrichのGlucose Assay Kit(GAGO20、HAHK20、CBA086、MAK181)、Merck MilliporeのGlucose Assay、BioAssay SystemsのEnxyGhrom Glucose Assay Kit(EBGL-100)及びGlucose-Glo Assay(Promega、J6021及びJ6022)が挙げられる。
【0049】
さらに、本発明の方法に従って、毛包のグルコース消費を直接又は間接的に決定し得ることが理解されよう。例えば、或る特定の実施形態において、グルコース消費プロファイルは、当業者に既知であるか又は本明細書に記載されるようなグルコース測定アッセイを用いることで、毛包によるグルコースの消費を直接測定することにより、毛包について決定することができる。代替的な実施形態において、グルコース消費の「プロキシ」又は「代理」マーカーを測定することができ、毛包によるグルコース消費を推定するために使用することができる。当業者であれば、細胞のグルコース消費、ひいてはエネルギー消費と相関し得る様々な代謝産物又は関連バイオマーカーに精通しているだろう。かかるマーカーの例としては、ピルビン酸、NADH、酸素、乳酸、ATP及びグルコース代謝の他の副生成物が挙げられる。したがって、本発明の或る特定の実施形態において、毛包のグルコース消費は、ピルビン酸、NADH、酸素、乳酸、ATP又はグルコース代謝の任意の他の副生成物の1つ以上のレベルの変化の測定から決定することができる。
【0050】
ピルビン酸、NADH、酸素、乳酸、ATP又はグルコース代謝の任意の他の副生成物を測定する方法は、当該技術分野で既知であり、市販のキットを用いて評価することもできる。
【0051】
本発明の特に好ましい実施形態において、グルコース消費プロファイル(及び参照のプロファイル)は、毛包内の細胞の数に対して正規化される。これは毛包のサイズ及びそれに含まれる細胞の数に基づくグルコース利用の変化を説明するものである。
【0052】
参照グルコース消費プロファイル
本発明は、参照グルコース消費プロファイルを準備する、得る又は準備した工程を含むのが好ましい。グルコース消費プロファイルが、毛包(又は毛包を含む皮膚サンプル)が生存可能なHFNを生じさせるか、又はHFNを下流の臨床用途又は研究用途に使用し得るような十分な数の生存可能なHFNを生じさせることを示す、グルコース消費の程度に関する参照標準として機能することが理解されよう。
【0053】
参照グルコース消費プロファイルが、下流の臨床用途及び研究用途への使用に適した生存可能なHFNの生成に有用であることが最終的に見出された無傷毛包から得られるのが好ましい。しかしながら、或る特定の状況においては、生存可能な又は臨床的に有用なHFNを生じなかった毛包からの参照グルコース消費プロファイルを考慮することも有用又は適切であり得る。
【0054】
かかる参照グルコース消費プロファイルは、毛包が、下流の処理後にHFNの産生を促進するのに十分な前駆細胞及び適正な成長段階(例えば成長期)にある前駆細胞を含むかを示す、毛包によるグルコース消費のベンチマークを設定する助けとなる。そのため、毛包サンプルのグルコース消費を本明細書に記載されるグルコース消費プロファイルと比較することによって、毛包が生存可能なHFNを生じさせるかを産生プロセスの早い段階で評価する手段を当業者に提供する。
【0055】
当業者であれば、毛包から得られるグルコース消費プロファイル(本発明の比較工程に使用される)が、後続の処理後にそれらの毛包に由来するHFNの特性と相関することを理解するであろう。生存可能かつ有用なHFNの特性を本明細書に更に記載する。
【0056】
いずれの実施形態においても、本発明の方法は、初めに参照データセットを導き出すために、一連の無傷毛包からHFNを誘導することによってグルコース消費プロファイルを得ることと、得られたHFNが下流の用途にとって生存可能/適切/十分な数であったかを決定することと、次いでそれから生存HFNが得られ得ることを示す(又は示さない)毛包についてグルコース消費の速度を特定することとを含み得る。代替的には、方法は、データベースに保存され、成功したHFN単離と相関する1つ以上のグルコース消費プロファイルを検討/観察/読み取ることを含む。
【0057】
本発明の方法は、毛包のサンプルから得られるコンディショニングされた細胞のグルコース消費を、生存可能なHFNを生成した毛包を表す参照グルコース消費プロファイルと比較することを含むのが好ましい。この比較は、コンディショニングされた細胞のグルコース消費がグルコース消費プロファイル(又は参照標準)よりも高いか、低いか又は同じであるかを決定することを含む。
【0058】
いずれの実施形態においても、プロファイル又は参照標準と比較して「より高い」グルコース消費の速度は、プロファイル又は参照標準と比較して少なくとも約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍若しくは5倍、又はそれ以上速い速度を含むと理解される。
【0059】
いずれの実施形態においても、プロファイル又は参照標準と比較して「より低い」グルコース消費の速度は、プロファイル又は参照標準と比較して少なくとも約1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍若しくは5倍、又はそれ以上遅い速度を含むと理解される。
【0060】
いずれの実施形態においても、プロファイル又は参照標準と比較して「より高い」グルコース消費の速度は、グルコース消費プロファイル又は参照標準の速度より少なくとも約15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれ以上速いグルコース消費の程度を含むと理解される。
【0061】
いずれの実施形態においても、プロファイル又は参照標準と比較して「より低い」グルコース消費の速度は、グルコース消費プロファイル又は参照標準より少なくとも約15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれ以上遅いグルコース消費の速度を含むと理解される。
【0062】
いずれの実施形態においても、グルコース消費プロファイル又は参照標準と「同じ」であるグルコース消費の速度は、グルコース消費プロファイル又は参照標準より少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%又は10%高いか又は低いグルコース消費の速度を含むと理解される。
【0063】
特に好ましい実施形態において、グルコース消費プロファイルは、約0.1μmol/毛包/24時間~約0.9μmol/毛包/24時間のグルコース消費範囲に対して正規化される。通例、毛包における望ましいグルコース消費速度(すなわち、毛包が下流の処理に適した数の生存可能なHFNを生じることを示す)は、少なくとも約0.6μmol/毛包/24時間、好ましくは少なくとも約0.7μmol/毛包/24時間若しくは少なくとも約0.8μmol/毛包/24時間、又はそれ以上のグルコース消費に相当する。更なる態様において、本発明は、毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適したソース組織を特定する方法であって、
毛包細胞のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の細胞のグルコース消費を決定することと、
細胞のグルコース消費が少なくとも約0.6μmol/毛包/24時間、好ましくは少なくとも約0.7μmol/毛包/24時間若しくは少なくとも約0.8μmol/毛包/24時間、又はそれ以上である場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していると決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0064】
更なる態様において、本発明は、毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適したソース組織を特定する方法であって、
毛包細胞を含む皮膚のサンプルの形態のソース組織を準備することと、
サンプル中の細胞のグルコース消費を決定することと、
細胞のグルコース消費が少なくとも約0.6μmol/毛包/24時間、好ましくは少なくとも約0.7μmol/毛包/24時間若しくは少なくとも約0.8μmol/毛包/24時間、又はそれ以上である場合に、ソース組織が毛包由来神経前駆体(HFN)を提供するのに適していると決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0065】
解離及びニューロスフェア培養
無傷毛包からニューロスフェア及びHFNを生成する前に、前駆細胞が封入されている皮膚組織の細胞外基質及び非細胞成分を除去すること(言い換えると、無傷毛包中に存在する前駆細胞を皮膚成分から解離させること)が一般に望ましい。任意に、解離工程は、線維芽細胞等の最終分化細胞を低減又は除去する工程を含んでいてもよい。
【0066】
皮膚組織からの毛包の解離には、当業者に既知の標準的な方法を用いることができる。或る特定の例においては、方法は、無傷毛包を酵素の溶液に再懸濁することを含む。一般に、酵素はトリプシン、DNアーゼ、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、及びAccustaseとTrypLEとの組合せからなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0067】
コンディショニングされた皮膚の性質に応じて、代替的には、組織を細かく刻むか、又はコンディショニングされた組織を破壊することによってより小さな粒子に分離する機械的手段により、コンディショニングされた皮膚から細胞を遊離させることが可能であり得る。
【0068】
幾つかの実施形態において、酵素処理と機械的処理(穏やかな摩砕であってもよい)との組合せにより、コンディショニングされた皮膚から細胞を遊離させる。酵素処理及び機械的処理は同時に行ってもよいが、一般に、機械的処理を開始する前に酵素処理を開始する。
【0069】
組織成分から毛包を解離させるための酵素処理及び/又は機械的処理に続いて、溶液を濾過及び/又は遠心分離して、細胞から結合組織及び細胞外基質を更に除去してもよい。
【0070】
皮膚/無傷毛包のサンプルから得られる細胞の組成物は不均質であり、組織が採取された部位に応じて、ニューロン前駆細胞、他の別個の多能性細胞、並びに線維芽細胞、ケラチノサイト、並びに皮膚組織の表皮層及び皮層の他の細胞を含む最終分化細胞を含む。したがって、或る特定の実施形態において、本発明の方法は、コンディショニングされたヒト皮膚から遊離された細胞の組成物から非神経前駆細胞である細胞を除去する工程を含む。除去される細胞は通例、最終分化細胞(すなわちケラチノサイト、線維芽細胞、他の真皮細胞及び表皮細胞)、並びにアポトーシス細胞である。
【0071】
一実施形態において、サンプルと最終分化細胞を選択的に枯渇させる試薬とを接触させることにより、サンプルから最終分化細胞を枯渇させる。作用物質は、最終分化細胞に結合するが、非最終分化細胞には結合しない抗体であるのが好ましい。抗体処理、好ましくは神経前駆細胞に結合しないモノクローナル抗体を用いた抗体処理がこの工程に有効である。抗体がケラチノサイト等の表皮若しくは真皮の細胞又は線維芽細胞に結合するのが好ましい。かかる抗体の例としては、ニューロン前駆細胞の表面に見られる抗原ではない線維芽細胞特異的抗原1又はCD45に選択的に結合する抗体を挙げることができる。
【0072】
枯渇工程の完了時に、サンプルは通例、最終分化細胞の数により約5%以下、任意に約10%以下、約15%以下、約20%以下の最終分化細胞を含有する。
【0073】
上記のような解離又は枯渇工程の後に、細胞は通例、ニューロスフェアの形成を促進するための成長培地に移される。言い換えると、ニューロン系列バイオマーカーを含む細胞の数を増進若しくは増加させ、及び/又はニューロン系列バイオマーカーを有しない細胞の割合若しくは数を減少させる条件で細胞を培養する。
【0074】
特に好ましい工程においては、ニューロスフェアの形成を可能にする条件で細胞を処理する。ニューロスフェア形成の方法は、当該技術分野で一般に既知であり、本明細書において更に例示される。一実施形態において、細胞を処理して、富化若しくは別の形でニューロン系列バイオマーカーを有する細胞の数を増加させるか、又はバイオリアクター内で細胞を培養することによってニューロスフェアの形成を可能にする。ニューロスフェアの形成のための改善された条件をもたらすためにバイオリアクターを用いることができる。
【0075】
ニューロスフェアの促進を可能にするための成長培地も当該技術分野で一般に既知である。或る特定の実施形態において、成長培地はDMEM/F12、EGF、bFGF及びB27を含む。
【0076】
ニューロスフェアの形成の完了時に、神経前駆細胞であるか、又は神経系列バイオマーカーを発現するニューロスフェアの細胞の数を拡大工程によって増加させることが有利であり得る。培養中のニューロスフェアを拡大させる方法も当該技術分野で既知である。
【0077】
本発明の改良された方法によって作製されるHFNは、ニューロン前駆細胞又はより一般には神経系列バイオマーカーを発現する増殖細胞である。神経系列バイオマーカーは、(最も原始的には)神経幹細胞様マーカーであるネスチン、神経芽細胞マーカーであるダブルコルチン(DCX)及びNCAM、並びに未熟ニューロンマーカーであるβIII-チューブリンを含み得る発生スペクトルを包含する。CD133等のより一般的な幹細胞様マーカーも発現され得る。これらのマーカーについて陽性の細胞は、ニューロスフェアに富化され、最終分化ニューロンを形成する可能性を有する。概して、これらの細胞は、ニューロン及びグリア等の神経系列の最終分化細胞を生成する能力を有する。
【0078】
「生存可能」と考えられる(したがって、本発明の方法に従って使用される適切なグルコース消費プロファイルを特定する目的で用いられる)HFNは、或る特定の好ましい特性を有し、より一般には、上で述べたように神経系列バイオマーカーを発現する増殖細胞であることが理解されよう。
【0079】
通例、本発明の改良された方法によって作製される(又は生存可能とみなされ、したがって特定のグルコース消費プロファイルを有する毛包と関連付けるのに有用な)ニューロン前駆体(HFN)の集団は、マーカーであるアディポネクチン、オリゴデンドロサイト04、筋線維芽細胞SMA及び/又はGFAPを発現する細胞を5%未満含む。HFNの集団は通例、マーカーであるネスチン、CD133(プロミニン-1)、CD271(P75NTR)、ニューロフィラメント及び/又はβIII-チューブリンについて陽性の細胞を90%超含む。
【0080】
特に好ましい実施形態において、生存可能なHFN又は下流の臨床用途及び研究用途に特に適したHFNは、以下のタンパク質マーカー:ネスチン、CD133(プロミニン-1)、CD271(P75NTR)及びβIII-チューブリン又はニューロフィラメントの1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ又は全てについて陽性の毛包由来神経前駆細胞である。さらに、生存可能なHFN又は下流の臨床用途及び研究用途に特に適したHFNは、以下のタンパク質マーカー:GFAP、K14/15、SOX2及びOCT3/4の1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ又は全てについて陰性でもある毛包由来神経前駆細胞である。
【0081】
HFNの生存性は、ニューロン成長因子に対する走化性及び分化後の電気生理学的活性等の機能的特性を含む、当該技術分野で既知の他の方法を用いて決定することもできる。かかる機能的特性は、当業者に既知であり、従来技術に記載されている。
【実施例
【0082】
実施例1:材料及び方法
生体サンプル
毛髪移植手術を受ける患者からインフォームドコンセントを得てヒト皮膚サンプルを得た。組織は手術時に滅菌条件下で採取した。概して、ドナーの後頭皮を剃毛し、両刃メスを用いて脂肪層までの全厚で1×3cmのサンプルを採取した。毛包採取(hair follicle extraction)のために、真皮組織全体を直接顕微鏡下で迅速かつ段階的に個々の毛包に切り分け、およそ100個の毛包を単離した。皮膚及び毛包の組織を保持培地(インスリン及び抗生物質-抗真菌剤を含有するウィリアムE培地)中に保存し、即座に処理するために可能な限り迅速に氷上で実験室に輸送した。
【0083】
ここでの実験に使用したHFN細胞株は、32歳~57歳の5人の独立したドナーからのものであった。
【0084】
HFN細胞製造プロセス
HFN製造は、国際公開第2019/241846号に記載のプロセスに従った。簡潔に述べると、組織が実験室に到着した後、毛包を遠心分離し、洗浄した。
【0085】
細胞をコンディショニング培地(本明細書に記載される)に移し、培地の1mLサンプルを採取し、0時間対照とするために凍結した。予め温めたコンディショニング培地に毛包を懸濁した後、37℃/5%COで24時間インキュベートした。24時間の時点で培地の1mLアリコートを各サンプルから採取し、凍結する一方で、残りの培地を捨て、予め温めた新たに作製したコンディショニング培地(別の対照サンプルを採取した)と交換した。更に24時間後に別の培地サンプルを採取し、毛包を解離させ、精製し、拡大させた。
【0086】
解離及びニューロスフェア培養
富化後に、毛包を遠心分離してコンディショニング培地を除去し、毛包をコラゲナーゼ/ディスパーゼ溶液に再懸濁し、細胞外基質及び結合組織から前駆細胞を遊離させた。細胞を温かいHFN成長培地(本明細書に記載される)に移した。細胞懸濁液の10μLアリコートを使用し、トリパンブルーを用いた細胞数及び生存性の計算を行った。HFNニューロスフェア培養のために、コーティングされていない未処理の6ウェルプレートの合計5mLの成長培地中に細胞を2×10細胞/mLで播種した。
【0087】
懸濁培養物を37℃/5%COでインキュベートし、ニューロスフェア形成について2日から3日に1回モニタリングした。ニューロスフェアが直径30μm~50μmに達した後(通常は播種後2日目又は3日目まで)、スフェア懸濁液をバイオリアクターユニット(ABLE Biott、ReproCell)に移した。バイオリアクターのウェルをスフェア成長について毎日モニタリングした。5日目又は7日目頃に、スフェア懸濁液を回収し、遠心分離した。同量の予め温めたHFN成長培地を細胞に添加し、10μLアリコートを使用し、トリパンブルーを用いた標的細胞の細胞数及び生存性の計算を行った。その後のHFN接着培養のために、細胞をbiolamininコーティング6ウェルプレートに播種した。翌日、TryPLE Selectを含有する培地を新たなHFN成長培地に交換した。成長をモニタリングして標的細胞型の形態を確認した。
【0088】
実施例2:グルコース使用量の決定
サンプルの除タンパク
全てのサンプルを解凍し、Abcamの10kDスピンカラム(ab93349)に移し、10000×gにて4℃で10分間遠心分離した。濾液を回収し、グルコースアッセイに使用した。
【0089】
グルコースアッセイ
グルコースアッセイは、AbcamのGlucose Assay Kit(ab65333)を用い、製造業者の使用説明書に従って行った。簡潔に述べると、除タンパクした対照(0時間)及び24時間サンプルを、バックグラウンド対照サンプルとともにアッセイバッファーで10倍、100倍及び1000倍に希釈し、96ウェルプレートの個々のウェルに添加した。グルコース標準を調製し、同じプレートで実行した。全てのサンプル及び標準を二連で実行した。全ての標準及びサンプル希釈物の最終容量は50μLとした。各ウェルについて、50μLの反応混合物又は50μLのバックグラウンド反応混合物を以下のように調製した。
【0090】
【表1】
【0091】
50μLの反応混合物を各標準及びサンプルに添加して混合し、50μLのバックグラウンド反応混合物を各バックグラウンド対照サンプルに添加して混合した。プレートを遮光して37℃で30分間インキュベートした。次いで、マイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの570nmでの光学密度を決定した。サンプルの読取りからブランク調整したバックグラウンド反応混合物のODを減算することによってサンプルの読取りをゼロにした。ブランク標準を標準から減算し、標準曲線を作成した。作成された直線のr2が0.99未満の場合に標準曲線を棄却した。標準曲線に収まるサンプル希釈物を使用した。サンプルのグルコース含量は、標準曲線によって作成された直線式を用いて算出し、サンプルの元の希釈倍率を乗算して補正した。0時間対照サンプル中に存在するグルコースから24時間又は48時間のサンプル中に存在するグルコースを減算することにより、24時間及び48時間の時点でのグルコース消費を算出した。0時間及び24時間のデータをその後の分析に用いた。
【0092】
5つの独立した細胞株について、元の組織(HF)の解離時の生存細胞、生存可能な起源細胞当たりの下流の標的HFN細胞及び毛包当たりのグルコース消費をPrismで分析した。
【0093】
一次分析
毛包当たりのグルコース使用量、HF解離時の生存細胞数及び下流の標的HFN細胞の数の間の関係を線形回帰によって調べた。標的HFNは、製造プロセスの約DIV7での解離ニューロスフェア細胞の数によって定義し、HFN細胞株が製造プロセスの終了時(約DIV28)にいずれかの重要品質特性に不合格であった場合、ゼロに設定した。
【0094】
実施例3:結果
アッセイの技術的検証としての標準曲線
第1段階として、本発明者らは、グルコース比色アッセイの技術的性能を検証した。既知の濃度の培地を段階希釈してゴールドスタンダードベンチマークとし、AbcamのGlucose Assayに対して比較した。添付の図1に示されるように、アッセイは、ほぼ完璧な定量的精度で行われた。
【0095】
グルコース使用量により、ソース組織中の生細胞当たりの採取された標的細胞の割合が予測される
次に、本発明者らは、このアッセイを用いてn=5の独立したHFN細胞株におけるグルコース消費を測定した。
【0096】
組織処理の24時間富化段階中の毛包当たりのグルコース使用量により、HF解離時に採取された細胞の数は有意には予測されない(図2)。言い換えると、本発明者らの保持培地中で24時間後のHFに由来する非特異的細胞の総数は、その時間中のグルコース消費とは無関係であった。
【0097】
次に、本発明者らは、24時間のHFグルコース消費とDIV7(ニューロスフェア解離後)での標的HFN細胞の数との関係を調べた。図3に示されるように統計的有意性を満たさない弱い正の傾向が見られた(p=0.083)。
【0098】
しかしながら、本発明者らは、これらの結果指標(元のHF集団の総生細胞数に対して正規化したHFN標的細胞)の両方を組み合わせた後、最初の24時間でのグルコース消費と著しく強い有意な予測関係を見出した(R 0.95、p<0.005。図4)。これらのデータは、最初の24時間での個々のHFによるより高いグルコース消費により、ドナーソース組織中の全ての生存細胞に対する下流のHFNの数がほぼ完全に予測されることを明らかに示す。
【0099】
実施例4:論考及び結論
生物学的分析法の品質は、検量線の直線性に大きく依存する。図1はグルコースアッセイについての標準曲線を示し、0.99のRにより、極めて正確な読出しが実証される。この単純なアッセイは、安価でコスト効率が高く、標準曲線を作成するこのアプローチでは、新たな設定でのアッセイの検証に容易に再現された。
【0100】
ここで報告したデータから、毛包当たりの平均in vitroグルコース使用量が、ドナーに応じて24時間で毛包当たり0.51μmol~0.78μmolの範囲であることが示される。
【0101】
図2に示すグルコース消費とHF解離時の細胞数との関係の欠如により、ドナー材料の細胞組成における高度の変動が示唆される。言い換えると、無傷毛包のグルコース消費が総HF細胞採取量に対応しなかったことから、異なるドナー毛包の代謝プロファイルが、それらの細胞密度と同様に変動することが示唆される。毛包は、異なる代謝プロファイルを有する複数の細胞型から構成され、これは毛包が毛周期内のどこにあるかによって大きく影響を受ける。
【0102】
毛包のグルコース消費と標的細胞数との間の有意でない傾向関係(図3)は、より特異的な指標である毛包由来細胞当たりの産生される標的細胞を用いた場合に、強く予測的となるように変化した(図4)。これは事実上、重要な結果変数(ニューロスフェア解離後のHFNの数)をソースHFの数及びサイズによって調整する。この指標を用いることで、最初の24時間での全HFによるグルコース消費が著しく直線的に予測的となった。
【0103】
元のHFの解離時に、採取される細胞の性質及び数は多様である。これらのデータから、依然として無傷HFである一方で、細胞製造の最初の24時間での高いグルコース需要が、標的HFN細胞のより大きな割合とほぼ完全に対応することが示される。これらのデータから、HFグルコース需要の増加が標的HFNと密接な関係を有することが示唆される。
【0104】
生HF細胞当たりの産生される標的HFN細胞の数は、ソース組織処理の最初の24時間でのグルコース使用量にほぼ完全に比例する。したがって、本発明者らは、細胞製造プロセスの開始時のHFN細胞の品質及び量の重要な決定因子の1つを特定した。それにより、ソース組織バイオマーカーを用いて最終的な治療細胞の品質及び量を予測し、制御することができる。
【0105】
本明細書において開示及び定義される本発明は、本文若しくは図面に挙げられ又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上の全ての代替的組合せに拡大されることが理解されるであろう。これらの様々な組合せの全ては、本発明の種々の代替的態様を構成する。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】