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特表2024-503582振動膜ネブライザにおける液体の存在の検出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-26
(54)【発明の名称】振動膜ネブライザにおける液体の存在の検出
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
A61M11/00 300D
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023537143
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2021085980
(87)【国際公開番号】W WO2022129220
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20214452.3
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511148433
【氏名又は名称】ヴェクトュラ・デリヴァリー・ディヴァイスィズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤニック・ウィーサー
(57)【要約】
本発明は、振動装置および膜を備えるエアロゾル発生装置と、膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、を備える呼吸作動型吸入デバイスを提供する。デバイスを動作させるための方法も提供される。振動装置は、エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を有するように、間欠的に駆動される。膜を複数の周波数で振動させるときに振動装置の電気パラメータが測定される走査が実施される。吸入の間の走査から得られるスペクトルは、液体が貯留部内に存在するか否かを判定するために、その吸入の前または後の期間の間の走査から得られるスペクトルと比較される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、前記膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、前記膜が振動してエアロゾルを発生させるように前記振動装置を駆動するための駆動信号を提供する制御装置と、を備える呼吸作動型吸入デバイスであって、前記制御装置は、
前記エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、前記吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し経るように、前記振動装置を間欠的に駆動することと、
前記膜を複数の周波数で振動させ、前記振動装置の少なくとも1つの電気パラメータがスペクトルを提供するために前記複数の周波数で測定される走査を実施することであって、前記走査が、前記吸入の間、および、前記吸入の前または後の前記期間の間に実施される、実施することと、
吸入の間に得られたスペクトルを、当該吸入の前または後の前記期間の間に得られたスペクトルと比較することと、
前記スペクトルの前記比較に基づいて、液体が前記貯留部内に存在するか否かを判定することと、
液体が存在しないと前記制御装置が判定する場合、前記振動装置を駆動するのを停止することと、
を行うように構成される、吸入デバイス。
【請求項2】
前記制御装置は、第1のスペクトルを得るために各々の吸入の前に第1の走査を実施すること、第2のスペクトルを得るために各々の吸入の間に第2の走査を続いて実施すること、および、前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとを比較することを行うように構成される、請求項1に記載の吸入デバイス。
【請求項3】
前記吸入デバイスは、空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有する通路と、前記通路に空気的に連結される圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサからの信号に基づいて、前記エアロゾル出口開口部における患者による吸入を検出すること、および、前記吸入に応答してエアロゾル発生の期間を開始することを行うように構成される、請求項1または2に記載の吸入デバイス。
【請求項4】
前記制御装置は、前記エアロゾル発生の期間が開始された後の予め設定された時間において、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間を開始するように構成される、請求項3に記載の吸入デバイス。
【請求項5】
前記エアロゾル発生装置は、前記振動装置が取り付けられる第1の端または前記第1の端の近くにおけるフランジと、前記膜が搭載される第2の端と、を有する中空管状体を備える支持部材を有し、前記吸入デバイスは、充填室と前記中空管状体とが一緒に前記貯留部を形成するように、前記支持部材の上方に前記充填室を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項6】
前記制御装置は、前記エアロゾル発生装置の共鳴周波数を前記スペクトルから判定すること、および、前記走査以外の前記エアロゾル発生の期間の間、前記共鳴周波数において、または、前記共鳴周波数に関連する周波数において、前記振動装置を駆動することを行うように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項7】
前記複数の周波数は、前記共鳴周波数より約10kHzまたは約15kHzだけ低い周波数から、前記共鳴周波数より約10kHzまたは約15kHzだけ高い周波数、例えば、75kHzから約100kHzまでを含む、請求項6に記載の吸入デバイス。
【請求項8】
前記制御装置は、重なり関数を計算することにより前記スペクトルを比較するように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項9】
前記制御装置は、前記重なり関数が閾値を上回る場合、前記貯留部内に液体が存在しないと判定するように構成される、請求項8に記載の吸入デバイス。
【請求項10】
前記制御装置は、前記重なり関数が、3つまたは5つの期間など、複数の連続したエアロゾル発生の期間にわたって前記閾値を上回る場合、前記振動装置を駆動するのを停止するように構成される、請求項9に記載の吸入デバイス。
【請求項11】
振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、前記膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、を備える呼吸作動型吸入デバイスを動作させる方法であって、
a) 前記エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、前記吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し経るように、前記振動装置を間欠的に駆動するステップと、
b) 前記膜を複数の周波数で振動させ、前記振動装置の少なくとも1つの電気パラメータがスペクトルを提供するために前記複数の周波数で測定される走査を実施するステップであって、前記走査が、前記吸入の間、および、前記吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間の間に実施される、実施するステップと、
c) 吸入の間に得られたスペクトルを、当該吸入の前または後の前記期間の間に得られたスペクトルと比較するステップと、
d) 前記スペクトルの前記比較に基づいて、液体が前記貯留部内に存在するか否かを判定するステップと、
e) ステップd)において、液体が存在しないと判定される場合、前記振動装置を駆動するのを停止するステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
第1の走査が、第1のスペクトルを得るために各々の吸入の前に実施され、第2の走査が、第2のスペクトルを得るために各々の吸入の間に続いて実施され、前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとが比較される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記呼吸作動型吸入デバイスは、空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有する通路と、前記通路に空気的に連結される圧力センサと、を備え、前記エアロゾル発生の期間は、前記圧力センサからの信号に基づいて、前記患者による吸入に応答して開始される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ステップc)において、前記スペクトルは重なり関数を計算することにより比較される、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップd)において、前記重なり関数が閾値を上回る場合、前記貯留部内に液体が存在しないと判定され、好ましくは、ステップe)において、前記重なり関数が、3回または5回の吸入など、複数の連続した吸入にわたって前記閾値を上回る場合、前記振動装置を駆動することが停止する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動膜ネブライザに関し、特に、膜と接触している液体の存在を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療吸入療法のためのエアロゾルが、しばしば水であるエアロゾル化可能液体内に、溶解または懸濁される活性成分を概して含む。約5μmの液滴の大きさを有するエアロゾル液滴の均一な分配が、肺の中へ深く到達するために必要とされる。振動膜ネブライザは、このようなエアロゾルを生成するための一種のデバイスである。これらのデバイスは、振動を誘導するために超音波周波数で励起される圧電要素などの振動装置と、典型的には1μmから10μmまでの直径を有する多数の穴を有する膜(メッシュまたは開口板と呼ばれることもある)と、膜に液状製剤を供給する貯留部と、を備えるエアロゾル発生装置を有する。
【0003】
液体貯留部が空にされた後に振動膜ネブライザを動作させ続けることは、膜を亀裂または破損させる可能性がある。そのため、液体が貯留部内に存在するか否か/膜と接触しているか否かを確実に検出すること(「空検出」)ができることが重要である。液体が使い果たされたとき、ネブライザは、治療時間の終了を患者に指示することができ、かつ/または、振動装置を自動的にオフにすることができる。
【0004】
1つの手法は、単純に、適切なセンサで貯留部内の液体の量を測定することである。例えば、特許文献1は、貯留部内の液体の量が、圧電センサ、光学センサ、伝導度センサ、または歪みゲージによって検知されるネブライザを開示している。しかしながら、これは、デバイスのコストおよび複雑性をもたらす専用のセンサを必要とし、また、センサは液体と接触している必要があり得、これは問題を起こす可能性がある。
【0005】
代替の手法は、膜が乾燥しているときと比べて、膜が液体と接触しているときにはエアロゾル発生装置の振動特性(例えば、共鳴周波数、電力消費など)が典型的にはまったく異なるという事実を利用する。例えば、特許文献2は、特定の周波数における電気パラメータ(圧電要素への電流など)の検出値を保存された値と比較することにより液体が存在するか否かを判定するネブライザを開示している。特許文献3は、同様の手法でインピーダンス測定を使用している。単一の周波数を使用する代わりに、エアロゾル発生装置の電気機械的挙動は、例えば、振動周波数の関数としての電力または電流消費のグラフなど、スペクトルとして表すことができる。特許文献4および5は、空検出の信頼性を向上させるために、平均化および様々な数学的技術を用いて、測定されたスペクトルと保存されているスペクトルとを比較するための方法を開示している。比較は、典型的には、膜を治療時間の間に振動させている間、液体がすべて使い果たされたことが特定されるまで、規則的な間隔で実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0255174号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0102172号明細書
【特許文献3】米国特許第9272101号明細書
【特許文献4】国際公開第2014/062175号
【特許文献5】国際公開第2015/091356号
【特許文献6】欧州特許出願公開第2724741号明細書
【特許文献7】国際公開第2013/098334号
【特許文献8】国際公開第2008/058941号
【特許文献9】国際公開第2012/046220号
【特許文献10】国際公開第2015/193432号
【特許文献11】米国特許第9027548号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ネブライザのハードウェア構成要素(例えば、エアロゾル発生装置、駆動装置電子機器)における固有の振動、および/または、ネブライザの耐用期間にわたるそれら固有の振動の変化、もしくは、周囲温度などの外部条件の変化によるそれら固有の振動の変化は、電気機械的挙動に影響を与える可能性がある。例えば、予め設定された値との比較に依拠する方法は、エアロゾル発生装置および/または駆動装置電子機器の特性が、標準的な保存されている値が基づく特性と異なる場合、誤った結果を生み出す可能性がある。その結果、振動装置は、液体が使い果たされた後に振動し続ける可能性があり、このことは膜を損傷させる可能性があり、または、液体が依然としてエアロゾル化されないままである間に振動が停止される可能性があり、そのため服用量全体が患者に送達されない。したがって、貯留部内の液体、および/または、膜と接触している液体の存在を確実に検出するための改善された方法に対する要求が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、噴霧される液体がいつ使い果たされたかを判定するための改善された方法を提供する。本発明者は、振動の開始または停止の直後にスペクトルにおいて一時的な効果が観察できることと、これらが、膜と接触している液体の存在または不在を確実に検出するために使用できることと、を認識した。したがって、第1の態様において、本発明は、振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、膜が振動してエアロゾルを発生させるように振動装置を駆動するための駆動信号を提供する制御装置と、を備える呼吸作動型吸入デバイスであって、制御装置は、
・ エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し有するように、振動装置を間欠的に駆動することと、
・ 膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータがスペクトルを提供するために複数の周波数で測定される走査を実施することであって、走査が、吸入の間、および、吸入の前または後の期間の間に実施される、実施することと、
・ 吸入の間に得られたスペクトルを、その吸入の前または後の期間の間に得られたスペクトルと比較することと、
・ スペクトルの比較に基づいて、液体が貯留部内に存在するか否かを判定することと、
・ 液体が存在しないと制御装置が判定する場合、振動装置を駆動するのを停止することと、
を行うように構成される、吸入デバイスを提供する。
【0009】
膜を振動させている間に電気パラメータの値を測定する以前の空検出方法は、液体の体積が時間と共に減少するときのエアロゾル発生装置の電気機械的特性における変化に依拠している。対照的に、本発明は、呼吸作動型ネブライザのように、膜を間欠的に振動させるときに生じる効果に依拠している。本発明は、振動が開始または停止されるときにそれぞれ、貯留部における定常波の形成または消散から生じる変化を特定するために、エアロゾル発生の期間の間に得られるスペクトルと、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間の間に得られるスペクトルと、を比較する。本発明は、例えば、保存されているスペクトルとの比較に依拠しないため、先の方法よりもはるかにエアロゾル発生装置の特性に依存しておらず、代わりに、液体が存在するときのみに起こる一時的な変化を検出する。結果として、本発明は、ハードウェアにおける変化、ネブライザの耐用期間にわたるハードウェアにおける変化、および、外部の条件における変化に対して、よりロバストである。
【0010】
制御装置は、第1のスペクトルを得るために、各々の吸入またはエアロゾル発生の期間の前に、第1の走査を実施すること、第2のスペクトルを得るために、各々の吸入またはエアロゾル発生の期間の間に、第2の走査を続いて実施すること、および第1のスペクトルと第2のスペクトルとを比較することを行うように構成され得る。第1の走査は、エアロゾル発生の期間の開始の直前に実施され得る。第2の走査は、エアロゾル発生の期間の開始の後の少なくとも50msまたは100msに実施され得る。これは、定常波が第2の走査において検出可能となるように、定常波が形成されるのに十分な時間を提供する。第2の走査は、エアロゾル発生の期間の開始の後の1000ms未満または500ms未満に実施され得る。第1の走査と第2の走査との間の時間遅延は、液体の不在が検出できる時点を判定する。より小さい遅延はより早い空検出をもたらし、そのため膜の振動がより早く停止され得る。
【0011】
吸入デバイスを呼吸で作動させ、つまり、エアロゾルは連続的に発生せず、患者が吸入するときだけ発生する。デバイスは、空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有する通路と、通路に空気的に連結される圧力センサと、を備えてもよく、制御装置は、圧力センサからの信号を受信すること、圧力センサからの信号に基づいて、エアロゾル出口開口部における患者による吸入を検知すること、および、吸入に応答してエアロゾル発生の期間を開始することを行うように構成され得る。制御装置は、エアロゾル発生の期間が開始された後の予め設定された時間において、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間を開始するように構成され得る。代替で、制御装置は、圧力センサからの信号に基づいて、患者が吸入するのを停止するときを検知すること、および、吸入の停止に応答して、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間を開始することを行うように構成され得る。本発明の方法は、エアロゾルが本質的には間欠的に発生するので、ネブライザが動作する手法への変更が必要ではないため、呼吸作動型ネブライザに特に適している。
【0012】
エアロゾル発生装置は、振動装置および/または膜が搭載される支持部材を備え得る。振動装置は、環状の圧電要素であり得る。支持要素は、圧電要素が取り付けられる第1の端または第1の端の近くにおけるフランジと、膜が搭載される第2の端または第2の端と、を有する中空管状体の形態の変換器であり得る。デバイスは、充填室と中空管状体とが一緒に貯留部を形成するように、支持部材の上方に位置付けられ、支持部材と流体連通している充填室を備えてもよい。代替で、支持部材は本質的に平面状の環体または円板を備えてもよく、膜および/または振動装置は、例えば両側において、支持部材に搭載されてもよい。
【0013】
制御装置は、エアロゾル発生装置の共鳴周波数をスペクトルから判定すること、および、走査以外のエアロゾル発生の期間の間、共鳴周波数において、または、共鳴周波数からの固定オフセットなど、共鳴周波数に関連する周波数において、振動装置を駆動することを行うように構成され得る。
【0014】
複数の周波数は、共鳴周波数よりも約10kHzまたは約15kHzだけ低い周波数から、共鳴周波数よりも約10kHzまたは約15kHzだけ高い周波数までを含むことができ、例えば、約75kHzから約100kHzまでを含み得る。
【0015】
制御装置は、重なり関数を計算することによりスペクトルの比較を実施するように構成され得る。制御装置は、重なり関数の値が閾値を上回る場合、貯留部内に液体が存在しないと判定するようにさらに構成され得る。制御装置は、重なり関数が、3回もしくは5回の吸入または3つもしくは5つのエアロゾル発生の期間など、複数の連続した吸入またはエアロゾル発生の期間にわたって閾値を上回る場合、振動装置を駆動するのを停止するようにも構成され得る。重なり関数はロバストな比較方法を提供する。
【0016】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の吸入デバイスを動作させる方法、ならびに/または、振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、を備える呼吸作動型吸入デバイスを動作させる方法であって、
a) エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し有するように、振動装置を間欠的に駆動するステップと、
b) 膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータがスペクトルを提供するために複数の周波数で測定される走査を実施するステップであって、走査が、吸入の間、および、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間の間に実施される、実施するステップと、
c) 吸入の間に得られたスペクトルを、その吸入の前または後の期間の間に得られたスペクトルと比較するステップと、
d) スペクトルの比較に基づいて、液体が貯留部内に存在するか否かを判定するステップと、
e) ステップd)において、液体が存在しないと判定される場合、振動装置を駆動するのを停止するステップと、
を含む、方法を提供する。
【0017】
第1の走査が、第1のスペクトルを得るために各々の吸入の前に実施でき、第2の走査が、第2のスペクトルを得るために各々の吸入の間に続いて実施でき、第1のスペクトルと第2のスペクトルとが比較され得る。
【0018】
吸入デバイスは、空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有する通路と、通路に空気的に連結される圧力センサと、を備え、エアロゾル発生の期間は、圧力センサからの信号に基づいて、患者による吸入に応答して開始され得る。ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間は、エアロゾル発生の期間が開始された後の予め設定された時間において開始され得る。代替で、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間は、患者による吸入の停止に応答して開始されてもよい。
【0019】
スペクトルは、重なり関数を計算することにより比較できる。重なり関数が閾値を上回る場合、貯留部内に液体が存在しないと判定され得る。振動装置を駆動することは、重なり関数が、3回もしくは5回の吸入または3つもしくは5つのエアロゾル発生の期間など、複数の連続した吸入またはエアロゾル発生の期間にわたって閾値を上回る場合、停止し得る。
【0020】
特定の実施形態において、本発明は、振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、膜が振動してエアロゾルを通路において発生させるように振動装置を駆動するための駆動信号を提供する制御装置と、を備える呼吸動作型吸入デバイスであって、制御装置は、
・ エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し有するように、振動装置を間欠的に駆動することと、
・ 各々の吸入の開始もしくはエアロゾル発生の期間の直前に、または各々の吸入の開始時もしくはエアロゾル発生の期間に、膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータが第1のスペクトルを提供するために複数の周波数の各々について測定される第1の走査を実施することと、
・ 各々の吸入またはエアロゾル発生の期間の間に続いて、膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータが第2のスペクトルを提供するために複数の周波数の各々について測定される第2の走査を実施することと、
・ 第1のスペクトルと第2のスペクトルとの比較を実施することと、
・ 第1のスペクトルと第2のスペクトルとの比較に基づいて、液体が貯留部内に存在するか否かを判定することと、
・ 液体が存在しないと制御装置が判定する場合、振動装置を駆動するのを停止することと、
を行うように構成される、呼吸動作型吸入デバイスを提供する。
【0021】
本発明は、この特定の実施形態による、呼吸作動型吸入デバイスを動作させる方法であって、
a) エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し有するように、振動装置を間欠的に駆動するステップと、
b) 各々の吸入の開始もしくはエアロゾル発生の期間の直前に、または各々の吸入の開始時もしくはエアロゾル発生の期間に、膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータが第1のスペクトルを提供するために複数の周波数の各々について測定される第1の走査を実施するステップと、
c) 各々の吸入またはエアロゾル発生の期間の間に続いて、膜を複数の周波数で振動させ、振動装置の少なくとも1つの電気パラメータが第2のスペクトルを提供するために複数の周波数の各々について測定される第2の走査を実施するステップと、
d) 第1のスペクトルと第2のスペクトルとの比較を実施するステップと、
e) 第1のスペクトルと第2のスペクトルとの比較に基づいて、液体が貯留部内に存在するか否かを判定するステップと、
f) ステップe)において、液体が存在しないと判定される場合、振動装置を駆動するのを停止するステップと、
を含む、方法も提供する。
【0022】
ここで、本発明は、図を参照してさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】振動膜ネブライザの展開図である。
図2図1のネブライザのためのエアロゾル発生装置の断面図である。
図3】エアロゾル発生装置のための駆動回路の概略図である。
図4A】膜の振動の前の貯留部における液体表面の概略図である。
図4B】膜の振動の間の貯留部における液体表面の概略図である。
図5】液体が貯留部にないときに得られたスペクトルである。
図6】液体が貯留部にあるときに得られたスペクトルである。
図7】代表的な治療の経過にわたる重なり関数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
「エアロゾル発生の期間」という用語は、典型的には共鳴周波数またはその近く(例えば、共鳴周波数の2kHz内)である、エアロゾルを発生させるための通常の意図された周波数で、振動装置が主に駆動される時間の期間をいう。エアロゾル発生の期間は、1つまたは複数の走査が実施される短い時間の期間を含んでもよい。エアロゾル発生の期間は、1s~10s、2s~6s、または3s~5sなど、典型的な患者の吸入の長さに対応することができる。「ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間」という用語は、振動装置が主に駆動されないエアロゾル発生の期間同士の間の間隔をいう。ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間は、1つまたは複数の走査が実施される短い時間の期間を含んでもよい。走査周波数のほとんどが共鳴周波数からかなり離れているため(例えば、2kHzよりも大きい)、走査の間にエアロゾルがほとんどまたはまったく発生しない。結果として、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間において、エアロゾルはほとんどまたはまったく発生しない。ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間は、1s~10s、2s~6s、または3s~5sなど、患者の吸入同士の間の典型的な時間に対応することができる。したがって、振動装置を(通常の駆動周波数において)間欠的に駆動することは、交互のエアロゾル発生の期間とエアロゾル発生なしの期間とをもたらす。
【0025】
「走査」という用語は、定められた範囲にわたる段階的な増分で多数の異なる周波数において振動装置を連続的に振動させ、周波数のうちの一部または全部において電気パラメータの値を測定する過程をいう。「スペクトル」という用語は、電気パラメータの測定値を周波数の関数としてプロットすることにより得られるグラフをいう。電気パラメータは、電流、電圧、電力、インピーダンス、および/または、電流/電圧位相シフトであり得る。具体的には、電気パラメータは、振動装置の電流消費、振動装置に電力を提供する電力変換装置の電流消費、または、振動装置における電圧降下であり得る。これらのパラメータは、直接的または間接的な手法で、1つまたは複数の電流センサおよび/または電圧センサを使用することにより測定できる。
【0026】
図1は、特許文献6および7に記載されている振動膜ネブライザデバイスの展開図を示している。デバイスは、3つの部品、すなわち、ベースユニットと、マウスピース部品と、エアロゾルヘッドと、を備える。ベースユニット100は、その後端(図1では視認できない)における1つまたは複数の空気入口開口部と、空気出口開口部102と、マウスピース部品200を受け入れるための溝103と、1つまたは複数のキーロック部材104と、を有する。ベースユニット内の通路(図1では視認できない)が空気入口開口部を空気出口開口部102に連結する。マウスピース部品200は、ベースユニット100の空気出口開口部102に取り付け可能である空気入口開口部201と、エアロゾル発生装置301を受け入れるための側方開口部202と、エアロゾル出口開口部203と、を有する。通路205は、空気入口開口部201からエアロゾル出口開口部203まで延びている。マウスピース200はベースユニット100の溝103に挿入可能である。エアロゾルヘッド300は、エアロゾル発生装置301と、エアロゾル発生装置301の上端と流体接触している、エアロゾル化される液状製剤のための充填室302と、ベースユニット100のキーロック部材104と相補的な1つまたは複数のキーロック部材303と、を備える。蓋304が充填室302を閉じ、使用の間の液体の汚染または漏れを防止する。
【0027】
ベースユニット100と、マウスピース200と、エアロゾルヘッド300と、は取り外し可能に互いに連結可能である。デバイスは、マウスピース200をベースユニット100における溝103に挿入し、次にエアロゾルヘッド300をマウスピース200の上に置き、エアロゾルヘッド300とベースユニット100との両方への穏やかな圧力によってエアロゾルヘッドのキーロック部材303をベースユニットのキーロック部材104と係合させることにより組み立てられる。エアロゾル発生装置301は、キーロック部材と係合するとき、エアロゾル発生装置301がマウスピース200の側方開口部202に挿入されるような方法で、エアロゾルヘッド300において位置決めされる。これは、エアロゾル発生装置301とマウスピースにおける側方開口部202との間、およびベースユニット100の空気出口開口部102とマウスピース200の空気入口開口部201との間に、気密な連結を作り出す。ベースユニット100と、マウスピース200と、エアロゾルヘッド300と、は、これらのステップを逆に行うことにより分離できる。
【0028】
ベースユニット100は、溝103またはその近くに位置決めされた1つまたは複数の凹部106を有し、マウスピース200は1つまたは複数の位置決め部材204を有する。ベースユニットの凹部は、マウスピースの位置決め部材と相補的である(つまり、位置決め部材を受け入れるように成形されている)。この状況において、凹部は、その「負」の形が、フランジまたは突起などの位置決め部材の「正」の形と相補的である窪みである。一緒になって、凹部と位置決め部材とは、マウスピースをベースユニット内において正確に位置決めするように作用する。凹部と位置決め部材とは、マウスピースを一方向のみにおいてベースユニットに挿入させることができるように、非対称であってもよい。これは、互いに対するマウスピースとベースユニットとの位置および配向が正確となるような手法でデバイスが組み立てられることを確保する。ベースユニットは、ネブライザの動作を制御する印刷回路基板(PCB)などの制御装置を含む。
【0029】
図2は、特許文献8において詳細に記載されているエアロゾル発生装置を示している。エアロゾル発生装置は、圧電要素308などの振動装置と、変換器本体306と、膜309と、を備える。圧電要素は、好ましくは、変換器本体を縦モードで振動させる環状の単一層または多層のセラミックである。変換器本体は、例えば、ステンレス鋼、チタン、またはアルミニウムから作られ、エアロゾル化される液体を収容する空洞307を包囲する。充填室302の内側は、液体が重力の下で変換器本体の上流端306aに流れ、空洞に流れ落ちるように、円錐状となっている。一緒になって、充填室302と空洞307とは液体のための貯留部を形成する。
【0030】
膜309は、変換器本体306の下流端306bに位置決めされる。膜における穴は、通常は約1μmから約10μmまでの範囲における開口で、電鋳法によって、または、レーザ穴あけによって形成され得る。膜の振動のない状態で、圧力のバランス、穴の形、および、膜のために使用される材料の性質は、液体が膜を通じて滲み出ないようにされている。しかしながら、膜の振動は、穴を通じたエアロゾルの液滴の形成および排出をもたらす。膜は、プラスチック、シリコン、セラミック、またはより好ましくは金属から作ることができ、接着、ろう付け、圧着、またはレーザ溶接などの様々な手段によって、変換器本体の下流端に固定させることができる。任意選択で、膜は、その中心領域においてドームを少なくとも部分的に形成し、これは、発生しようとしているエアロゾル液滴のジェットを発散させることにより、液滴の合体する危険性を低減する。
【0031】
図3に概略的に示されている駆動回路400が、圧電要素を励起させる駆動信号を生成することにより、典型的には50kHz~200kHzの範囲の周波数で膜を振動させる。入力直流電力が電池401によって提供される。これは、電力変換装置402および変圧器403によって交流駆動電圧に変換される。閉ループ制御装置404は、パルス幅変調によりエアロゾル発生装置301に供給される電力を、デューティサイクルを変えることによって、つまり、電力がエアロゾル発生装置に供給される時間の割合を変えることによって制御する。制御装置404は、駆動周波数およびデューティサイクルを電力変換装置402に入力する。制御装置404は、電力変換装置402の入力と直列の分路抵抗器405を用いて、エアロゾル発生装置301によって消費される電流の測定もする。有効電力消費およびインピーダンスの絶対値が、測定された電流から導き出すことができる。エアロゾル発生装置は、駆動信号の周波数がエアロゾル発生装置の共鳴周波数(典型的には約85kHz)からの固定オフセット(500Hzまたは1kHzなど)としてである近共鳴駆動を用いて駆動される。
【0032】
圧電要素の励起は、変換器本体306の対称軸と平行な方向においてミクロンの度合いの縦の変位および/または変形を引き起こす。変換器本体は、比較的大きい壁厚を有し、応力集中ゾーン306cとして働く圧電要素308に近い領域と、その下流の比較的小さい壁厚を有し、変形増幅ゾーンとして働く領域306dと、を有する。この構成は、圧電要素308によって引き起こされる変換器本体306の振動または変形を増幅する。圧電要素308は、応力集中ゾーン306cの高さまたはそれに隣接して位置付けられる。変形増幅ゾーンにおける変換器本体の内径は、壁厚における違いが異なる外径に対応するように、応力集中ゾーンと同じであってもよい。代替で、内径が2つのゾーンの位置において異なる一方で、変換器本体の外径が一定であってもよい。
【0033】
患者が吸入しているときにだけエアロゾルを発生させるように、ネブライザを呼吸で作動させる。これは、連続的に動作するネブライザで起こり得るような、患者が息を吐いているときに発生するエアロゾルを無駄にすることを回避する。圧力センサ(例えば、気圧センサ)は、空気入口開口部と空気出口開口部102との間のベースユニットにおける通路に隣接し、その通路と空気的に連結して位置付けられる。圧力センサは、通路における圧力を測定し、圧力を表す信号を制御装置に送る。患者がマウスピースで吸入し始めるとき、通路における圧力が低下する。圧力が特定の値より低下する場合、制御装置は、患者が吸入し始めたと判定し、エアロゾルの液滴が発生するように、圧電要素を振動させ、延いては膜を振動させる。
【0034】
ネブライザを動作させるとき、膜309によって発生するエアロゾルが通路205に放出される。空気は、ベースユニットにおける空気入口を通じて入り、ベースユニットにおける通路と、空気出口開口部102と、マウスピース部品の空気入口開口部201と、を通過し、空気がエアロゾルと混ざる通路205に入る。次に、空気およびエアロゾルは、通路205に沿って流れ、マウスピースのエアロゾル出口開口部203を通じて出て患者の気道に流れる。
【0035】
制御装置は、エアロゾル発生が開始してから予め設定された時間の長さ(例えば、3s)が経過したとき、エアロゾル発生を停止する。予め設定された時間の長さは、典型的な吸入の長さに対応することができ、患者によって構成可能であり得る。代替で、予め設定された時間の長さは、吸入の最終部分において患者が空気を受け入れるがエアロゾルを受け入れないように、典型的な吸入よりも短くされてもよい。これは、エアロゾルが患者の気道の中心部および下方部に到達するが、効果がないであろう患者の上方の気道(例えば、喉)へは送達されないことを確保する。しかしながら、制御装置は、代替で、通路における圧力の上昇を検知することにより、患者が吸入するのを停止するときを検出し、次いでエアロゾル発生を停止してもよい。
【0036】
エアロゾル発生装置の共鳴周波数は、貯留部における液体の量が減少するにつれて、治療の期間にわたって変化する。駆動信号周波数と共鳴周波数との間で固定オフセットを維持するために、例えば0.5sごとに、エアロゾル発生装置の動作を通じて間隔を置いて共鳴周波数を測定することが必要である。これは、例えば、75kHzから約100kHzまで0.1kHzのステップでなど、共鳴周波数よりも約10kHzまたは約15kHzだけ低い周波数から、共鳴周波数よりも約10kHzまたは約15kHzだけ高い周波数までといった、共鳴周波数よりも低い周波数から共鳴周波数よりも高い周波数までの周波数の範囲にわたって駆動信号の周波数を走査することにより行われる。各々の周波数において、例えばエアロゾル発生装置の電流消費など、エアロゾル発生装置の振動に関連する電気パラメータが測定される。結果的に得られる周波数の関数としての電流のグラフ(スペクトル)は、エアロゾル発生装置の共鳴周波数においてピークを有する。走査は、例えば、実施するために約70msを要する。走査の間、エアロゾル発生装置は最適な周波数において動作せず、そのためエアロゾル出力レートが低下する。結果として、エアロゾルのほとんどすべてが、走査同士の間の時間(この場合には430ms)に発生する。
【0037】
膜が乾燥した時点は、例えば、時間の関数としてのスペクトルの形における変化からなど、走査から、または、例えば、特許文献2~5において記載されているように、標準的なスペクトルと比較して判定することができる。しかしながら、先に検討されているように、これらの方法は、ハードウェアにおける変化、ネブライザの耐用期間にわたるハードウェアにおける変化、および、外部条件における変化の結果として、誤った結果を生み出す可能性がある。
【0038】
本発明は、これらの変化に依存しない異なる効果に基づき、そのためより信頼できる。ネブライザがスイッチオフされるとき、空洞における液体は、縁の周りにメニスカスを有する平坦な表面を有する。ネブライザがスイッチオンされ、エアロゾル発生装置がその共鳴周波数またはその近くにおいて振動されるとき、定常波が約50ms内で液体に形成される。振動が停止されるときに逆の効果が観察されるが、波が消散し、液体表面が再び平坦になることは、より長い時間が掛かる(約1s)。
【0039】
図4は、図1のネブライザの貯留部における液体の表面の概略図を示している。図4Aは、振動が開始される前の液体を示しており、表面は平坦であり、つまり、変換器本体にわたって液体の均一な分布がある。図4Bは、振動の間の表面を示しており、液体は中心にピークを有する定常波を形成している。
【0040】
図5および図6は、一定のデューティサイクルで、0.1kHzのステップで75kHzから100kHzまでの一連の異なる周波数において膜を振動させ、各々の周波数における電力変換装置の電流消費を測定することによって、図1のネブライザで得られるスペクトルを示している。それぞれが70ms掛かる7回の走査が、500msの間隔で実施された。走査同士の間、膜を、その通常の近共鳴駆動周波数において、430msにわたって振動させた。
【0041】
図5は、液体が存在しないときの結果的に得られるスペクトルを示している。最大電流消費が生じる89.5kHzにおける主要なピークが、エアロゾル発生装置の共鳴周波数である。膜の共鳴周波数である約83kHzには、より小さいピークもある。液体が存在せず、そのため定常波が形成されず、結果として、エアロゾル発生装置の電気機械的特性は走査の間に変化しない。したがって、各々のスペクトルが別々の線としてプロットされているが、それらの線はほとんど正確に互いに重なっており、それらの間で区別することは不可能である。
【0042】
図6は、液体が存在したとき得られるスペクトルを示している。図5のものと比較してスペクトルの大まかな形の間に違いがある。第一に、主要な共鳴ピークはより低い周波数(86.5kHz)にあり、図5におけるものよりも若干幅広く、つまり、液体が存在するとき共鳴は鋭さが若干小さい。いくつかの吸入の経過にわたる主要な共鳴ピークにおけるこれらの変化は、空検出のいくつかの知られている方法について、根拠を形成している。第二に、より小さいピークが消滅している。
【0043】
さらに、図5と対照的に、エアロゾル発生装置がスイッチオンされるときに定常波が形成されることによる液体の再分布のため、図6におけるスペクトルの間にはっきりと見ることができる違いもある。共鳴ピークは、若干より高い周波数に移動し、各々の連続スペクトルにおいて若干幅広になる。最も大きい違いは、第1のスペクトル10と第2のスペクトル20との間である。第3のスペクトル30およびその後続のスペクトルは、測定されたときに液体がすでに再分配されているため、互いに似ている。
【0044】
液体が存在するときにだけこれらの変化が起こるため、それらの変化は、膜の湿った状態と乾燥した状態との間を区別するために使用することができる。これは本発明の根拠を形成している。したがって、測定値またはスペクトルを予め設定された値またはスペクトルと比較すること、または、治療の経過にわたって起こる変化を特定するために、異なる吸入において得られたスペクトルを比較することの代わりに、本発明は、エアロゾルが発生しないときに得られたスペクトルを、エアロゾル発生が開始した後に得られたスペクトルと比較する。液体が存在しない場合、定常波がなく、そのため、振動の前のスペクトルと振動の間のスペクトルとは同じになる。しかしながら、液体が存在する場合、スペクトルは異なり、第1のスペクトルは初期の平坦な液体の表面を反映し、後続のスペクトルは定常波を反映する。
【0045】
図6における第1のスペクトル(t=0s、エアロゾル発生の前)が、好ましくは第2のスペクトル(t=0.5s)である後続のスペクトルのうちの1つ(または複数)と比較され得る。効果は、液体の再分布のほとんどが素早く起こり、典型的には約50ms以内に起こり、つまり、第2のスペクトルが得られる前に起こるため、第1のスペクトルと第2のスペクトルとの間で最もはっきりと見られる。この違いは、第1のスペクトルを任意の後続のスペクトルと比較するときにも存在する。しかしながら、スペクトルは貯留部における液体充填レベルによっても影響される。第1のスペクトルが記録される時間と第2のスペクトルが記録される時間との間に、充填レベルにおいてほとんど変化がない。対照的に、第1のスペクトルが、例えば、第7のスペクトル(t=3s)と比較される場合、それらの間の違いは、液体充填レベルにおける低下、ならびに定常波の形成を反映する。したがって、後続のスペクトルを使用して比較を行うこともできるが、これは、これらのスペクトルが2つの効果の組み合わせを反映するため、あまり好ましくない。
【0046】
2つのスペクトルが互いに合致する度合いは、「重なり関数」によって表すことができる。重なり関数は、各々の周波数におけるスペクトル同士の間の差の絶対値の合計の逆数として計算できる。したがって、スペクトルが異なるとき(例えば、図6における第1のスペクトルおよび第2のスペクトル)、絶対差の合計は大きくなり、その逆数は小さくなり、したがって重なり関数は小さい値を有する。一方で、スペクトルが(図5におけるように)非常に似ているとき、重なり関数はより大きい値を有する。
【0047】
代表的な治療動作が、4mLの0.9%生理食塩水を噴霧するために、図1のネブライザを使用して実施された。治療動作は195回の吸入から成り、つまり、約20μLの溶液が各々の吸入において噴霧された。エアロゾル発生は、患者の吸入が検出されたときに開始され、各々の吸入において3sにわたって続けられた。各々の吸入の間に7回の走査が実施された(t=0s、0.5s、1s、1.5s、2s、2.5s、および3s)。各々の走査は70ms掛かった。共鳴周波数は各々の走査におけるピークから判定された。走査同士の間、膜を、直前の走査から判定されるように、共鳴周波数よりも470Hzだけ高い周波数において430msにわたって振動させた。
【0048】
図7は、代表的な治療動作における各々の吸入に対する重なり関数のグラフを示している。重なり関数は、初めの180回の吸入にわたって小さい値(ほとんどが1000未満)でおおよそ一定である。これは、膜が振動し始めるときに定常波が液体に形成されるため、第1のスペクトルと第2のスペクトルとがこれらの吸入において異なることを示している。その後、重なり関数の値は急激に上昇し、これは、第1のスペクトルと第2のスペクトルとが180回~190回の呼吸においてより似ていることを示し、つまり、液体がほとんど残っていないため、定常波の効果が消えつつあることを示している。
【0049】
予め設定された閾値は、貯留部が液体をもはや収容していない時点を判定するために使用できる。例えば5000の閾値が図7では適していることになる。いつ液体が使い果たされたかの判定は、重なり関数の値がいくつかの連続した呼吸(例えば、3回または5回の呼吸)にわたって閾値よりも大きい場合に、貯留部が空であることを判定するだけで、よりロバストとさせることができる。これは、重なり関数におけるノイズまたは誤った測定から生じる不正確な判定を防止する。
【0050】
第1のスペクトルと第2のスペクトルとを使用することは、第1のスペクトルと第2のスペクトルとの間の時間遅れ(0.5s)が、第1のスペクトルと第7のスペクトルとの間(3s)などよりも小さいため、後続のスペクトルが使用される場合よりも重なり関数が若干早く計算できることを意味する。これは、いつ閾値が超えられたかの判定をより早く行うことができ(この例では、2.5sだけ)、そのため膜の振動ができるだけ早く停止されるという利点を有する。
【0051】
本発明は、振動装置を必ず間欠的に動作させるため、つまり、患者が吸入するときにだけ動作させるため、呼吸作動型ネブライザに特に適している。本発明は、振動装置がスイッチオフされる期間を導入することにより、通常は連続的に動作するネブライザでも使用できる。オフの期間の長さは、振動が再び始められる前に液体が平坦な表面に戻るのを可能にするために、少なくとも約0.5s、好ましくは1sとすべきである。
【0052】
図7における重なり関数は、エアロゾル発生の期間の直前のスペクトルとエアロゾル発生の期間の間のスペクトルとを比較することにより得られ、そのため、それらの間の差は、膜が振動し始めるときの定常波の形成を反映する。別の言い方をすれば、エアロゾル発生の期間の間に得られたスペクトルが、その前のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間の間に得られたスペクトルと比較される。しかしながら、重なり関数は、エアロゾル発生の期間の間に得られたスペクトルを、その後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間の間に得られたスペクトルと比較することにより等しく得ることができる。エアロゾル発生の間のスペクトルとエアロゾル発生の後のスペクトルとの間の差は、膜が振動するのを止めるときの定常波の消散を反映する。これは、振動が停止した後で、スペクトルが測定される前に、十分な時間が経過したことを必要とする。典型的には、定常波は、形成するのに掛かる(約50ms)よりも、消散するのに長く掛かる(500ms~1000ms)。これは、吸入同士の間の時間が通常は1sよりも長いため、呼吸作動型吸入器における問題ではない。しかしながら、呼吸作動型でないネブライザでは、膜を振動させない期間は、消散を可能とするためにより長くする必要があり、これは全体のエアロゾル出力レートにおいて低減をもたらす。
【0053】
本発明は、共鳴周波数を判定するために規則的な走査が実施される、図1に示されている種類のネブライザに特に適している。本発明の方法は、これらの走査からのスペクトルを使用することができ、追加の情報をこれらの走査から抽出することができる。したがって、本発明を実施することは、スペクトルのいくらかの追加の分析だけを必要とし、ネブライザを動作させる方法を変更する必要がない。
【0054】
本発明の原理は、定常波が形成され得る液体貯留部と膜が接触しているあらゆる振動膜ネブライザに適用される。したがって、本発明は、例えば、特許文献2、5および9~11に記載されているものなど、他の種類のネブライザと使用することができる。これらのネブライザは、中空管状体の形態の変換器を有していない。代わりに、膜は圧電要素に直接的に搭載され、または、膜および/または圧電要素が搭載される環状で平面状の支持部材がある。
【0055】
本発明の方法は、膜が乾燥しているか否かを判定するための組み合わされた決定処理を提供するために、(例えば、液体の体積が時間に伴って減少するにつれて、電気パラメータにおける変化を測定する特許文献2~5におけるような)他の空検出方法の代替または追加で使用されてもよい。本発明の方法は、これらの他の方法と完全に異なる効果に依拠するため、液体が存在するか否かについての完全に独立した情報を提供する。したがって、本発明の方法と、異なる方法と、の組み合わせは、特にロバストな空検出を提供する。
【符号の説明】
【0056】
10 第1のスペクトル
20 第2のスペクトル
30 第3のスペクトル
100 ベースユニット
102 空気出口開口部
103 溝
104 キーロック部材
106 凹部
200 マウスピース部品
201 空気入口開口部
202 側方開口部
203 エアロゾル出口開口部
204 位置決め部材
205 通路
300 エアロゾルヘッド
301 エアロゾル発生装置
302 充填室
303 キーロック部材
304 蓋
306 変換器本体
306a 上流端
306b 下流端
306c 応力集中ゾーン
306d ゾーン
307 空洞
308 圧電要素
309 膜
400 駆動回路
401 電池
402 電力変換装置
403 変圧器
404 閉ループ制御装置
405 分路抵抗器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動装置および膜を有するエアロゾル発生装置と、前記膜と流体連通しているエアロゾル化される液体のための貯留部と、前記膜が振動してエアロゾルを発生させるように前記振動装置を駆動するための駆動信号を提供する制御装置と、を備える呼吸作動型吸入デバイスであって、前記制御装置は、
前記エアロゾル発生装置が、患者の吸入の間のエアロゾル発生の期間と、前記吸入の前および/または後のほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間と、を繰り返し経るように、前記振動装置を間欠的に駆動することと、
前記膜を複数の周波数で振動させ、前記振動装置の少なくとも1つの電気パラメータがスペクトルを提供するために前記複数の周波数で測定される走査を実施することであって、前記走査が、前記吸入の間、および、前記吸入の前または後の前記期間の間に実施される、実施することと、
吸入の間に得られたスペクトルを、当該吸入の前または後の前記期間の間に得られたスペクトルと比較することと、
前記スペクトルの前記比較に基づいて、液体が前記貯留部内に存在するか否かを判定することと、
液体が存在しないと前記制御装置が判定する場合、前記振動装置を駆動するのを停止することと、
を行うように構成される、吸入デバイス。
【請求項2】
前記制御装置は、第1のスペクトルを得るために各々の吸入の前に第1の走査を実施すること、第2のスペクトルを得るために各々の吸入の間に第2の走査を続いて実施すること、および、前記第1のスペクトルと前記第2のスペクトルとを比較することを行うように構成される、請求項1に記載の吸入デバイス。
【請求項3】
前記吸入デバイスは、空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有する通路と、前記通路に空気的に連結される圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサからの信号に基づいて、前記エアロゾル出口開口部における患者による吸入を検出すること、および、前記吸入に応答してエアロゾル発生の期間を開始することを行うように構成される、請求項1または2に記載の吸入デバイス。
【請求項4】
前記制御装置は、前記エアロゾル発生の期間が開始された後の予め設定された時間において、ほとんどまたはまったくエアロゾルの発生のない期間を開始するように構成される、請求項3に記載の吸入デバイス。
【請求項5】
前記エアロゾル発生装置は、前記振動装置が取り付けられる第1の端または前記第1の端の近くにおけるフランジと、前記膜が搭載される第2の端と、を有する中空管状体を備える支持部材を有し、前記吸入デバイスは、充填室と前記中空管状体とが一緒に前記貯留部を形成するように、前記支持部材の上方に前記充填室を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項6】
前記制御装置は、前記エアロゾル発生装置の共鳴周波数を前記スペクトルから判定すること、および、前記走査以外の前記エアロゾル発生の期間の間、前記共鳴周波数において、または、前記共鳴周波数に関連する周波数において、前記振動装置を駆動することを行うように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項7】
前記複数の周波数は、前記共鳴周波数より約10kHzまたは約15kHzだけ低い周波数から、前記共鳴周波数より約10kHzまたは約15kHzだけ高い周波数、例えば、75kHzから約100kHzまでを含む、請求項6に記載の吸入デバイス。
【請求項8】
前記制御装置は、重なり関数を計算することにより前記スペクトルを比較するように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項9】
前記制御装置は、前記重なり関数が閾値を上回る場合、前記貯留部内に液体が存在しないと判定するように構成される、請求項8に記載の吸入デバイス。
【請求項10】
前記制御装置は、前記重なり関数が、3つまたは5つの期間など、複数の連続したエアロゾル発生の期間にわたって前記閾値を上回る場合、前記振動装置を駆動するのを停止するように構成される、請求項9に記載の吸入デバイス。
【国際調査報告】