(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用ゼオライト系複合セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/434 20210101AFI20240119BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240119BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240119BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240119BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240119BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240119BHJP
【FI】
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/491
H01M50/403 D
H01M50/403 A
H01M10/0566
H01M10/058
H01M10/052
H01M50/489
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540201
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(85)【翻訳文提出日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 US2021064481
(87)【国際公開番号】W WO2022146756
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,シャン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユンクイ
(72)【発明者】
【氏名】シェパード,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】サンカラン,アシュウィン
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021BB12
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE05
5H021EE06
5H021EE07
5H021EE08
5H021EE10
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE25
5H021EE32
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H021HH04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ04
5H029EJ03
5H029EJ05
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ09
(57)【要約】
リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するためのセパレータであって、複数の第1の無機粒子と、1つ以上の第2の無機粒子と、ポリマーバインダーと、を含み、第1の無機粒子と第2の無機粒子との重量比が、1:99~99:1の範囲であり、第1の無機粒子と第2の無機粒子とを合わせたものとポリマーバインダーとの重量比が、50:50~99:1である、セパレータ。無機粒子は、一種のリチウム交換ゼオライトであって、リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、リチウム(Li)の濃度が0.1wt.%~20wt.%の範囲であり、ナトリウム(Na)の濃度が5wt.%未満である。第2の無機粒子は、第1の無機粒子とは組成が異なり、ナトリウム(Na)の濃度が0.005wt.%~1.0wt.%の範囲である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルで使用するための複合セパレータであって、
複数の第1の無機粒子と、
1つ以上の第2の無機粒子と、
ポリマーバインダーと、を含み、
前記第1の無機粒子は、一種のリチウム交換ゼオライトであって、前記リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、リチウム(Li)の濃度が0.1wt.%~20wt.%の範囲であり、ナトリウム(Na)の濃度が5wt.%未満であり、
前記第2の無機粒子は、前記第1の無機粒子とは組成が異なり、ナトリウム(Na)の濃度が0.005wt.%~1.0wt.%の範囲であり、
前記第1の無機粒子と前記第2の無機粒子との重量比が、1:99~99:1の範囲であり、前記第1の無機粒子と前記第2の無機粒子とを合わせたものと前記ポリマーバインダーとの重量比が、50:50~99:1である、複合セパレータ。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーは、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアニリン(PANI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の複合セパレータ。
【請求項3】
前記電気化学セルは、正極と、負極と、非水電解液と、前記複合セパレータと、を含む、請求項1または2に記載の複合セパレータ。
【請求項4】
前記リチウム交換ゼオライトは、前記非水電解液中に存在する水分(H
2O)、フッ化水素酸(HF)および/または遊離遷移金属イオンを捕捉するように構成されている、請求項3に記載の複合セパレータ。
【請求項5】
前記リチウム交換ゼオライトは、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMから選択される骨格を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項6】
前記リチウム交換ゼオライトは、SiO
2/Al
2O
3比が1~100であり、平均粒度(D50)が0.01μm~2μmの範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項7】
前記リチウム交換ゼオライトは、表面積が10~1000m
2/gの範囲であり、細孔容積が0.1~2.0cc/gの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項8】
前記第2の無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、κ-アルミナ、χ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項9】
前記1つ以上の第2の無機粒子は、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイトおよび水酸化アルミニウムとして選択される、請求項8に記載の複合セパレータ。
【請求項10】
前記第2の無機粒子は、小さな板状、立方体、球状、不規則またはそれらが混在したいずれかのモルフォロジーを示す、請求項1~9のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項11】
前記第2の無機粒子は、平均粒度(D
50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2μmの範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項12】
前記第2の無機粒子におけるナトリウム(Na)の濃度は、前記第2の無機粒子の総重量に対して0.007wt.%~0.75wt.%の範囲である、請求項1~11のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項13】
前記複合セパレータは、厚さが5μm~50μmの範囲であり、気孔率が20%~60%である、請求項1~12のいずれか1項に記載の複合セパレータ。
【請求項14】
電気化学セルで使用するための複合セパレータを形成する方法であって、
複数の第1の無機粒子を乾燥させ、
1つ以上の第2の無機粒子を乾燥させ、
前記乾燥させた第1の無機粒子および第2の無機粒子を、有機溶媒中でポリマーバインダーと組み合わせてスラリーを形成し、
正極膜または負極膜のいずれかの表面に前記スラリーを堆積させてその上に層を形成し、
前記堆積させたスラリー層を乾燥させて、請求項1~14に記載の複合セパレータを形成することを含み、前記複合セパレータは、前記正極膜または前記負極膜のいずれかの前記表面に付着し、
前記第1の無機粒子は、一種のリチウム交換ゼオライトであって、前記リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、リチウム(Li)の濃度が0.1wt.%~20wt.%の範囲であり、ナトリウム(Na)の濃度が5wt.%未満であり、
前記第2の無機粒子は、前記第1の無機粒子とは組成が異なり、ナトリウム(Na)の濃度が0.005wt.%~1.0wt.%の範囲であり、
前記第1の無機粒子と前記第2の無機粒子との重量比が、1:99~99:1の範囲であり、前記第1の無機粒子と前記第2の無機粒子とを合わせたものと前記ポリマーバインダーとの重量比が、50:50~99:1であり、スラリー中の固形物負荷が1%~50%である、方法。
【請求項15】
前記有機溶媒は、1-ブタノール、アセトン、ジエチレングリコール、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、ペンタン、トルエン、またはそれらの混合物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記スラリーの堆積に、押出プロセスまたはコーティングプロセスを使用する、請求項14または15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記コーティングプロセスは、スクリーン印刷、フィルムキャスティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、スプレーコーティングまたはディップコーティングを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記スラリーを、熱を加えてまたは加えずに真空下で乾燥させる、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記複合セパレータと前記正極膜または前記負極膜とは、実質的な剥離が観察されないように互いに付着されている、請求項14~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
リチウムイオン二次電池などの電気化学セルに使用されるセルであって、
前記セルのカソードとしての活物質と、前記カソードに接している集電体と、を含む正極と、
前記セルのアノードとしての活物質と、前記アノードに接している集電体と、を含む負極と、
前記負極と前記正極との間に配置され、前記負極および前記正極の両方に接している非水電解液と、
リチウムイオンの可逆的な流れに対して透過性である、請求項14~19のいずれか1項に従って形成された複合セパレータ と、を含み、前記複合セパレータは、前記正極または前記負極のいずれかの前記表面に付着するように、前記正極と前記負極との間に配置され、
前記セルが充電している時には前記カソードから前記アノードにリチウムイオンが流れ、
前記セルが放電している時には前記アノードから前記カソードにリチウムイオンが流れ、
前記非水電解液は、前記正極と前記負極との間のリチウムイオンの可逆的な流れを助ける、セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義にはリチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための複合セパレータと、それを製造するための製造方法に関する。特に、本開示は、リチウム交換ゼオライトであって、リチウムイオン二次電池に用いられるセルのセパレータを形成するためにポリマーバインダー中で、異なった、あるいは第2のタイプの無機粒子とともに配置された無機捕捉剤または添加剤として、リチウム交換ゼオライトを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、先行技術を構成するものではない。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般にエネルギー密度が高く、生じる酸化還元反応の可逆性により、充放電サイクルを何度も繰り返すことができる。そのため、リチウムイオン二次電池は、多くの携帯型電子機器(携帯電話、ノートパソコンなど)、電動工具、電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵などのエネルギー源として広く利用されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の主な構成要素には、通常、負極(アノード)、非水電解液、セパレータ、正極(カソード)、両電極用の集電体が含まれる。これらの構成要素はいずれも、ケース、エンクロージャ、パウチ、袋、円筒形のシェルなど(一般に電池の「筐体」と呼ばれる)に封入されている。市販のリチウムイオン電池では、グラファイトとLi4Ti5O12が、負極に一般に使用される最先端の活物質である。しかしながら、ケイ素およびリチウム金属が、グラファイトよりも比容量が1マグニチュード大きいことから、グラファイトに取って代わる可能性のある有望な材料である。
【0005】
リチウムイオン電池のセパレータは通常、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの材料で形成されたマイクロメートルサイズの孔があるポリオレフィン膜である。セパレータは、正極と負極との間の物理的な接触を防ぐが、リチウムイオンの行き来は可能にしている。電池の袋またはセルに注入されるのは、一般にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)またはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)などのリチウム塩を、例えばエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機キャリア液体に加えた溶液である非水電解液である。正極の活物質は通常、例えば、LiCoO2、LiNi1-x-yCoxMnyO2(x+y≦2/3)、xLi2MnO3・(1-x)LiNi1-y-zCoyMnzO2(y+z≦2/3)、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4またはLiFePO4などのリチウム遷移金属酸化物またはリン酸塩である。
【0006】
リチウムイオン二次電池によって発揮されるエネルギーとパワーは、活物質すなわち正極と負極に含まれる材料に大きく依存する。電池の安全性、耐久性、ハイレート性能において、セパレータが重要な役割を担っている。ポリオレフィン膜には電気的な絶縁性があり、内部短絡を回避するために、ポリオレフィン膜によって正極と負極とを完全に分断する。ポリオレフィン膜はイオン伝導性ではないが、膜の大きな孔に非水電解液が充填されるため、膜全体でリチウムイオンの移動が可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリオレフィン膜は一般に非水電解液による濡れ性が乏しいため、リチウムイオン輸送のインピーダンスが増大し、ハイレート特性が悪くなる。また、ポリオレフィン膜は電池の作動時に温度が上昇すると収縮する場合があり、それによって短絡が生じる危険性が増すとともに、最終的には火災または爆発が発生する可能性がある。さらに、ポリオレフィン膜は柔らかいことから、セパレータを容易に突き抜けることができるリチウムデンドライトの成長を許してしまい、安全性に対する懸念が増す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、リチウムイオン二次電池などの電気化学セルで使用するための複合セパレータと、それを製造するための製造方法に関する。特に、本開示は、リチウム交換ゼオライトであって、リチウムイオン二次電池に用いられるセルのセパレータを形成するために、ポリマーバインダー中で、異なった、あるいは第2のタイプの無機粒子とともに配置された無機捕捉剤または添加剤として、リチウム交換ゼオライトを使用することに関する。
【0009】
本開示の一態様によれば、電気化学セルで使用するための複合セパレータであって、複数の第1の無機粒子と、1つ以上の第2の無機粒子と、ポリマーバインダーと、を含み、第1の無機粒子と第2の無機粒子との重量比が、1:99~99:1の範囲であり、第1の無機粒子と第2の無機粒子とを合わせたものとポリマーバインダーとの重量比が、50:50~99:1である、複合セパレータが提供される。第1の無機粒子は、一種のリチウム交換ゼオライトであって、リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、リチウム(Li)の濃度が0.1wt.%~20wt.%の範囲であり、ナトリウム(Na)の濃度が5wt.%未満である。第2の無機粒子は、第1の無機粒子とは組成が異なる。第2の無機粒子は、ナトリウム(Na)の濃度が0.005wt.%~1.0wt.%の範囲である。
【0010】
複合セパレータは、厚さが5μm~50μmの範囲であってもよい。複合セパレータは、気孔率が20%~60%であってもよい。
【0011】
リチウム交換ゼオライトは、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMから選択される骨格を有していてもよい。リチウム交換ゼオライトは、SiO2/Al2O3比が1~100、平均粒度(D50)が0.01μm~2μmの範囲であってもよく、表面積が10~1000m2/gの範囲および/または細孔容積が0.1~2.0cc/gの範囲であってもよい。
【0012】
第2の無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、κ-アルミナ、χ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から選択されてもよい。あるいは、1つ以上の第2の無機粒子は、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイトおよび水酸化アルミニウムとして選択される。第2の無機粒子は、平均粒度(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2μmの範囲であってもよい。
【0013】
ポリマーバインダーは、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアニリン(PANI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0014】
本開示のさらに別の態様によれば、電気化学セルで使用するための複合セパレータを形成する方法が提供される。この方法は、主に、複数の第1の無機粒子を乾燥させ、1つ以上の第2の無機粒子を乾燥させ、乾燥させた第1の無機粒子および第2の無機粒子を、有機溶媒中でポリマーバインダーと組み合わせてスラリーを形成し、正極膜または負極膜のいずれかの表面にスラリーを堆積させてその上に層を形成し、複合セパレータが正極膜または負極膜のいずれかの表面に付着するように、堆積させたスラリー層を乾燥させて複合セパレータを形成することを含む。第1の無機粒子は、一種のリチウム交換ゼオライトであって、リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、リチウム(Li)の濃度が0.1wt.%~20wt.%の範囲であり、ナトリウム(Na)の濃度が5wt.%未満である。第2の無機粒子は、第1の無機粒子とは組成が異なり、ナトリウム(Na)の濃度が0.005wt.%~1.0wt.%の範囲である。第1の無機粒子と第2の無機粒子との重量比が、1:99~99:1の範囲であるのに対し、第1の無機粒子と第2の無機粒子とを合わせたものとポリマーバインダーとの重量比が、50:50~99:1である。スラリー中の固形物負荷が、1%~50%である。
【0015】
本明細書の記載から、さらなる適用分野が明らかになるであろう。なお、説明および具体例は例示のみを目的としたものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0016】
本開示をよく理解することができるようにするために、添付の図面を参照しながら、例示として与えられる様々な形態について説明する。各図面の構成要素を必ずしも縮尺通りに示していない場合もあるが、そのような場合には本発明の原理を説明することに重点をおいている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本開示の教示内容に従って電気化学セルで使用するための複合セパレータを形成する方法を示すフローチャートである。
【
図2A】
図2Aは、本開示の教示内容に従って形成した電気化学セルの概略図である。
【
図2B】
図2Bは、本開示の教示内容に従って形成したリチウムイオン二次セルとして示される、
図2Aの電気化学セルの概略図である。
【
図2C】
図2Cは、本開示の教示内容に従って形成した別の電気化学セルの概略図である。
【
図2D】
図2Dは、本開示の教示内容に従って形成したリチウムイオン二次セルとして示される、
図2Cの電気化学セルの概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の教示内容に従って形成したリチウムイオン二次電池の概略図であり、より大きな混合セルを形成するために
図2Bのセルのうちの1つ以上を含む二次セルを積層した状態を示している。
【
図4】
図4は、本開示の教示内容に従って形成したリチウムイオン二次電池の別の概略図であり、
図2Bのセルのうちの1つ以上を含む二次セルを直列に組み込んだ状態を示している。
【
図5】
図5は、
図1の方法で形成したセパレータがある場合とない場合のフルセルが60℃でのフロート試験時に示した容量保持率のグラフ比較である。
【0018】
本明細書で説明する図面は例示を目的としたものであり、いかなる形でも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示またはその適用もしくは使用を制限することを何ら意図したものではない。例えば、構造要素とその使用を一層完全に説明するために、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に従って製造および使用されるゼオライトを、リチウムイオン二次電池で使用するための二次セルと組み合わせて説明する。限定ではなくリチウムイオン電池で使用される一次セルなどの他の電気化学セルをはじめとする他の用途において、このような無機材料を添加剤として取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。本明細書および図面を通して、対応する参照数字は、同様または対応する部品および特徴を示すことを理解されたい。
【0020】
リチウムイオン電池とリチウムイオン二次電池の主な違いとして、リチウムイオン電池が一次セルを含む電池を表し、リチウムイオン二次電池が二次セルを含む電池を表すことである。「一次セル」という用語は、容易にあるいは安全な充電ができない電池セルをいい、「二次セル」という用語は、充電可能な電池セルをいう。本明細書で使用する場合、「セル」とは、電極と、セパレータと、電解液とを含む電池の基本的な電気化学的単位をいう。これに対して、「電池」とは、例えば1つ以上のセルなどのセルの集合体をいい、筐体と、電気的接続と、場合によっては制御および保護用の電子機器とを含む。
【0021】
リチウムイオン(例えば一次セル)電池は充電できないため、現在の耐用寿命は約3年であり、それを過ぎると価値がなくなってしまう。そのように寿命が限られていても、リチウムイオン二次電池よりリチウム電池の方が、多くの容量を提供することができる。リチウム電池では、電池のアノードとしてリチウム金属が使用されており、複数の他の材料を使ってアノードを形成することができるリチウムイオン電池とは異なる。
【0022】
リチウムイオン二次セル電池の重要な利点のひとつに、効果がなくなるまでに何度も充電できることがあげられる。上述したように、リチウムイオン二次電池が何度も充放電サイクルを繰り返すことができるのは、生じる酸化還元反応の可逆性による。
【0023】
リチウムイオン二次電池は通常、1つ以上のセルが内蔵された筐体を含む。各々のセルは、負極、非水電解液、セパレータ、正極ならびに、各々の電極に対する集電体を含む。動作している間、電池が示すクーロン効率すなわち電流効率と放電容量とが比較的一定に維持されることが望ましい。クーロン効率とは、電池内で電子が移動する際の充電効率を表す。放電容量とは、電池から取り出せる電荷の量を表す。
【0024】
様々な要因が、リチウムイオン二次電池の劣化の原因になり得る。これらの要因の1つとして、非水電解液中に、様々な有害な種が存在することがあげられる。これらの有害な種としては、水分(例えば、水または水蒸気)、フッ化水素(HF)、溶存遷移金属イオン(TMn+)があげられる。実際、もとの可逆容量の20%以上が失われたり、不可逆的になったりすると、リチウムイオン二次電池の寿命が著しく制限される場合がある。リチウムイオン二次電池の充電可能容量や全体としての寿命を延ばすことができれば、交換時のコスト削減や廃棄およびリサイクル時の環境リスクの低減につながる。
【0025】
電解液中の水分には、主に、製造時に残ったものと有機電解液の分解によって発生するものがある。乾燥した環境が望ましいとはいえ、電池または電池セルを製造する従来の製造時に、水分の存在を完全に排除することはできない。また、電解液中の有機溶媒は、特に高温での作動時に分解してCO2およびH2Oを生じる傾向がある。この水(H2O)がLiPF6などのリチウム塩と反応して、フッ化リチウム(LiF)やフッ化水素(HF)が発生する可能性がある。不溶性のフッ化リチウム(LiF)は、アノードまたはカソードの活物質の表面に堆積して、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。この固体電解質界面(SEI)は、場合によってはリチウムイオンの(デ)インターカレーションを減少または遅延させ、活物質の表面を不活化することで、レート能力の低下および/または容量の損失をもたらす。
【0026】
さらに、フッ化水素(HF)が存在すると、遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極を攻撃し、活物質とは組成的に異なる遷移金属化合物と水がさらに生じる場合がある。水が存在して反応物として作用すると、生じる反応が周期的になり得ることから、電解液や活物質が継続的に悪影響を受ける場合がある。加えて、形成される遷移金属化合物が不溶性で電気化学的に不活性な場合がある。これらの遷移金属化合物が正極の表面に存在することで、SEIが形成される場合がある。一方、可溶性の遷移金属化合物は、電解液に溶解して遷移金属イオン(TMn+)になる場合がある。これらの遊離遷移金属イオン、例えば、Mn2+やNi2+は、アノードに向かって移動することができ、アノードでSEIとして堆積して様々な異なる反応を引き起こす場合がある。これらの反応によって、電極の活物質や電解液中のリチウムイオンが消費される場合があり、こうした反応もリチウムイオン二次電池の容量損失の原因となり得る。
【0027】
本開示は主に、水系電解液中など、リチウムイオン二次電池の筐体内に存在するようになるか筐体内で形成される可能性のある、水分(H2O)、遊離遷移金属イオン(TMn+)および/またはフッ化水素(HF)などの有害な種を吸収することができる、1種類以上のリチウムイオン交換ゼオライトを含む、本質的に当該ゼオライトからなる、あるいは当該ゼオライトからなる、無機材料を提供するものである。これらの有害な種を除去することで、セパレータに無機材料を適用した場合または取り入れた場合の電池のカレンダー寿命およびサイクル寿命が長くなる。
【0028】
上述したような問題に対処するために、無機材料が、電池の水系電解液中に存在する有害な種に対するトラップ剤またはスカベンジャーとして作用する。この無機材料は、中に含まれるリチウムイオンおよび有機輸送媒体をはじめとする非水電解液の性能に影響を与えることなく、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的に効果的に吸収することで、この目的を達成する。セパレータ内に含まれる添加剤またはセパレータに塗布されるコーティング材料として、リチウムイオン二次電池またはその中の各セルに多機能無機粒子を導入してもよい。
【0029】
上述したように、筐体(例えば電池の袋)の中にある水分は、主に、製造時に残ったり有機電解液の分解によって生じたりする。乾燥した環境の必要性は知られているが、電池の製造時に水分を完全に除去することはできない。また、有機電解質溶媒は、特に電池の作動温度が高い場合に分解してCO
2およびH
2Oを生じる傾向がある。水(H
2O)がLiPF
6などのリチウム(Li)塩と反応して、LiFやHFが発生する可能性がある。リチウムイオン電池内に水分が残ってしまうことで起こる反応を、式1)および2)に示す。ここで、Mは一般に正極の材料に存在する遷移金属を表す。
【化1】
【0030】
不溶性のLiFが活物質(例えば、正極または負極)の表面に堆積し、固体電解質界面(SEI)を形成する場合がある。SEIが形成されると、リチウムイオンの(デ)インターカレーションが遅延し、活物質の表面が不活化してレート能力の低下と容量の損失につながる可能性がある。さらに、式2に示すように、遷移金属イオンと酸素イオンとを含む正極をHFが攻撃し、活物質以外の遷移金属含有化合物とH2Oがさらに生じる場合がある。式1)の反応物および式2)の生成物としての残留水(H2O)がこれらの反応をどちらも周期的に結びつけることで、電解液と活物質の両方の損傷が加速される。
【0031】
また、電池の作動時に形成される遷移金属含有化合物の一部は、不溶性で電気化学的に不活性である。これらの化合物が正極の表面に存在し、SEIが形成される場合がある。一方、可溶性の部分は、イオンの形で有機電解液に溶解することができる。Mn2+、Ni2+、Co2+などの遊離遷移金属イオン(TMn+)が負極にシャトル移動し、さまざまな反応でSEIとして堆積する可能性がある。上記の反応は、活物質や電解液中のリチウムイオンを連続的に消費し、それによって、リチウムイオン電池の容量損失の原因となり得る。
【0032】
リチウム交換ゼオライトを取り入れると、リチウムイオン電池に使用されるセパレータにコーティングした場合に、セルのサイクル寿命がのびる場合がある。これは、リチウム交換ゼオライトが、ポリマー膜を強化して濡れ性を向上させるだけでなく、非水電解液中の水分、フッ化水素酸、遊離遷移金属イオンを捕捉して劣化を防止するためである。しかしながら、従来のコーティング方法は、通常、水性スラリーを用いて行われるため、ゼオライト粒子が多孔質構造中の遊離水分で飽和してしまう。このような従来の方法を用いてコーティングした後、セパレータ膜は、膜のポリマー(例えば、ポリオレフィン)部分の融点が低いため、約80℃を超えて処理することができない。このような条件下では、遊離水分をセパレータから完全に除去することは非常に困難である。残留水分が存在すると、上記の式1)および式2)で説明した反応が開始され、リチウム交換ゼオライトをセパレータに取り入れる効果が制限されることになる。
【0033】
リチウム交換ゼオライトの捕捉機能を利用し、セパレータ内に最初から水分が存在するのを避けるために、本開示では、新規なタイプのセパレータと、当該セパレータを効果的に製造する方法の両方を説明する。本開示のセパレータは、主に、3つの成分すなわち、リチウム交換ゼオライト(第1の構成要素)、第2の無機粒子タイプ(第2の構成要素)およびポリマーバインダー(第3の構成要素)を含む、これらの構成要素からなる、または本質的に当該構成要素からなる。
【0034】
セパレータの第1の構成要素は、捕捉剤として作用する複数のリチウム交換ゼオライトである。これらのゼオライトのモルフォロジーは、小さな板状、立方体、球状またはこれらの組み合わせのいずれかである。あるいは、モルフォロジーは、本質的に球状が優位である。これらの粒子は、平均粒度または直径(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~2マイクロメートル(μm)であってもよい。あるいは、平均粒度(D50)は、約0.01マイクロメートル(μm)~約1.5マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは約0.05マイクロメートル(μm)~約1.0マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは0.25マイクロメートル(μm)~約1.75マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは0.1マイクロメートル(μm)~約2マイクロメートル(μm)の範囲、あるいは0.05μm以上、あるいは0.1μm以上、あるいは2.0 μm未満である。当技術分野で知られている走査型電子顕微鏡(SEM)または他の光学的イメージング法またはデジタルイメージング法を使用して、無機添加剤または粒子の形状および/またはモルフォロジーを決定してもよい。平均粒度と粒度分布の測定については、例えば、ふるい分け、顕微鏡検査、コールター計数、動的光散乱または粒子画像分析など、従来のどのような技術を用いて行ってもよい。あるいは、平均粒度とそれに対応する粒度分布の決定に、レーザー粒子分析装置を使用する。
【0035】
リチウム交換ゼオライトの表面積は10~1000m2/g、細孔容積は0.1~2.0cc/gである。あるいは、リチウム交換ゼオライトは、表面積が約20m2/g~約900m2/gの範囲、あるいは約25m2/g~約800m2/gの範囲、あるいは約40m2/g~約750m2/gの範囲、あるいは約50m2/g~約500m2/gの範囲である。あるいは、リチウム交換ゼオライトの細孔容積は、約0.15cc/g~約1.75cc/gの範囲、あるいは0.2cc/g~約1.5cc/gの範囲であってもよい。無機添加剤または粒子の表面積および細孔容積の測定は、顕微鏡検査、小角X線散乱、水銀ポロシメトリー、BET分析を含むがこれらに限定されるものではない、公知のどのような技術を用いて実施してもよい。あるいは、BET分析を使用して、表面積および細孔容積を決定する。
【0036】
SiO2/Al2O3比(SAR)は、1~100の範囲、あるいは2~75、あるいは約2~50の範囲、あるいは約2~25、あるいは約2~約20の範囲、あるいは約5~約15の範囲である。ゼオライトの骨格は、ABW、AFG、BEA、BHP、CAS、CHA、CHI、DAC、DOH、EDI、ESV、FAU、FER、FRA、GIS、GOO、GON、HEU、KFI、LAU、LTA、LTN、MEI、MER、MOR、MSO、NAT、NES、PAR、PAU、PHI、RHO、RTE、SOD、STI、TER、THO、VET、YUGおよびZSMから選択すればよいが、これらに限定されるものではない。あるいは、ゼオライトの骨格は、CHA、CHI、FAU、LTAまたはLAUの骨格から選択される。
【0037】
リチウム交換ゼオライト中に存在するナトリウム(Na)イオンの濃度は、最初は、0.1~25wt.%である。あるいは、Na濃度は、約0.1~20wt.%の範囲、あるいは約0.2wt.%~約15.0wt.%範囲、あるいは0.3wt.%~12.5wt.%、あるいは0.15wt.%より大きく17.5wt.%未満であってもよい。リチウムイオンは、0.1wt.%~20wt.%の濃度になるようにイオン交換することによって、骨格中の最初のナトリウムイオンの一部を置換することができる。あるいは、リチウムイオンの濃度は、リチウム交換ゼオライトの総重量に対して、約0.1wt.%~約10wt.%、あるいは約0.15wt.%~約9wt.%、あるいは約0.2wt.%~約8wt.%、あるいは約0.5wt.%~約7.5wt.%、あるいは約0.5wt.%~約5.0wt.%である。リチウム交換ゼオライト中に残存するナトリウム(Na)イオンの量は、15wt.%未満、あるいは10wt.%未満、あるいは5.0wt.%未満、あるいは3.0wt.%未満、あるいは0.01wt.%~5.0wt.%であってもよい。望ましい場合、リチウム交換ゼオライトは、Al、Mn、Sm、Y、Cr、Eu、Er、Ga、ZrおよびTiから選択される1つ以上のドーピング元素をさらに含んでもよい。セパレータ中に存在するリチウム交換ゼオライトの量は、セパレータの総重量に対して、0wt.%を超えて最大99wt.%、あるいは最大75wt.%、あるいは0.1wt.%~50wt.%であってもよい。
【0038】
セパレータの第2の構成要素は、複合セパレータを強化し、その物理的完全性の維持を補助する複数の別のタイプの無機粒子を含むことである。第2のタイプの無機粒子は、シリカ、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、κ-アルミナ、χ-アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびペロブスカイトからなる群から選択されてもよい。あるいは、1つ以上の第2の無機粒子は、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ、ベーマイト、擬ベーマイトまたは水酸化アルミニウムとして選択される。第2の無機粒子は、小さな板状、立方体、球状または不規則のいずれかのモルフォロジーを示し、平均粒径(D50)が0.01マイクロメートル(μm)~約2μmの範囲、あるいは約0.1μm~約1.75μm、あるいは約0.2μm~1.5μmである。1つ以上の第2の無機粒子中のナトリウム(Na)イオンの濃度は、第2の無機粒子の総重量に対して、0.005wt.%~1.0wt.%の範囲、あるいは約0.01wt.%~0.75wt.%、あるいは約0.007wt.%~0.75wt.%、あるいは約0.05wt.%~0.5wt.%、あるいは約0.01wt.%~0.3wt.%、あるいは、約0.05wt.%~0.25wt.%である。
【0039】
セパレータの第3の構成要素は、第1の構成要素および第2の構成要素を所定の位置に保持または固定し、あるいは、第1の構成要素および第2の構成要素を支持するとともに、セパレータに可撓性を提供するように構成されたポリマーバインダーである。この第3の構成要素は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアニリン(PANI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリビニルピロリドン(PVP)から選択される1つ以上であってもよい。あるいは、この第3の構成要素は、限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのブレンドなどの半結晶構造を有するポリオレフィン系材料ならびに、微多孔性ポリ(メチルメタクリレート)グラフト、シロキサングラフトポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含むポリマーバインダーである。
【0040】
上述し、本明細書でさらに定義する複合セパレータを形成する方法を、
図1に示す。この方法100によれば、セパレータ105を製造する前に、リチウム交換ゼオライト101および第2の無機粒子103を乾燥させるか焼成し(110、115)、そこに存在する遊離水分を部分的にまたは完全に除去することができる。乾燥させたリチウム交換ゼオライト101、第2の無機粒子103、ポリマーバインダー104を有機溶媒中でブレンドすることによって、スラリーを形成する(120)。有機溶媒は、1-ブタノール、アセトン、ジエチレングリコール、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、イソプロパノール、メタノール、ペンタン、トルエン等から選ばれる1つ以上として選択すればよい。スラリーの固形物負荷は、スラリーの総重量に対して1wt.%~50wt.%である。リチウム交換ゼオライト101と第2の無機粒子103との質量比は、99:1~1:99の範囲であり、第1の無機粒子101と第2の無機粒子103とを合わせた合計とポリマーバインダー104との質量比は、50:50~99:1の範囲である。ポリマーバインダーと有機溶媒との組み合わせは、ポリマーバインダーが、少なくとも組み合わせをコーティングまたは押出しできる程度に有機溶媒に溶解する程度に選択される。次いで、このスラリーを、スクリーン印刷、フィルムキャスティング、グラビアコーティング、ナイフコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの公知のコーティングプロセスを用いて、負極または正極のいずれかの電極膜107上に堆積させる(125)。塗布されたコーティングについては、有機溶媒を蒸発させて除去するために熱を加えるか真空下で乾燥させるなど、これらに限定されるものではない任意の従来の方法を用いて、乾燥させることができる(130)。リチウム交換ゼオライト101、第2の無機粒子103およびポリマーバインダー104は、セパレータ105として機能するように構成された電極膜107に付着した多孔質層または膜を形成する。
【0041】
上述した複合セパレータ105層は、セルおよび/または電池の製造時に剥げたり剥離したりすることなく、電極膜107に付着したままである。セパレータ層の厚さは、5~50μmの範囲、あるいは、約3~10μmとすべきである。リチウムイオン電池のセパレータとして効果的に機能するためには、リチウムゼオライト系の複合層は、孔の大きさが1μm未満、気孔率は40%前後で、非水電解液に対する良好な濡れ性を有し、製造時と電気化学的動作時の両方で曝露に耐える適切な機械的特性を有する必要がある。これらの特性は、配合や選択したコーティングプロセスによって影響を受ける。
【0042】
リチウム交換ゼオライトの捕捉機能によって、複合セパレータは、従来のポリオレフィン系セパレータや不織布セパレータに比べてサイクル寿命を長くすることができる。また、上述した製造プロセスによって、リチウムイオン電池の比容量と体積容量が大幅に改善される。
【0043】
図2A~
図2Dを参照すると、電気化学セル2A、2Cまたは二次リチウムイオンセル2B、2Dは主に、正極10と、負極20と、非水電解液30と、セパレータ40とを備える。正極10は、セル1のカソード5として機能する活物質と、カソード5に接触している集電体7とを含み、セル1が充電している時にカソード5からアノード15にイオン45(Li
+など)が流れるようになっている。同様に、負極20は、セル1のアノード15として機能する活物質と、アノード15と接触する集電体17とを含み、セル1が放電している時にアノード15からカソード5へイオン45(Li
+など)が流れるようになっている。カソード5と集電体7との接触ならびにアノード15と集電体17との接触には、独立に、直接接触または間接接触が選択されてもよく、あるいは、アノード15またはカソード5と、対応する集電体17、7とが直接的に接触する。
【0044】
非水電解液30は、負極20と正極10との間に配置され、それらの両方と接触すなわち流体連通している。この非水電解液30によって、正極10と負極20との間でのイオン45の可逆的な流れが助けられる。正極10と負極20との間にはセパレータ40が配置され、このセパレータ40が一部の電解液30およびアノード15を、残りの電解液30およびカソード5から分離するようになっている。セパレータ40は、このセパレータ40を通るイオン45の可逆的な流れに対して透過性がある。
【0045】
セパレータ40は、水分、遊離遷移金属イオンまたはフッ化水素(HF)のうちの1つ以上ならびに、セル内に存在するようになる他の有害な種を吸収するように、リチウム交換ゼオライト50aと、第2の無機粒子50bと、高分子バインダー50cと、を含む。あるいは、リチウム交換ゼオライトと、第2の無機粒子と、ポリマーバインダー50(a~c)とを含むセパレータは、水分、遊離遷移金属イオンおよび/またはフッ化水素(HF)を選択的に吸収する。
【0046】
依然として
図2A~
図2Dを参照すると、リチウムイオン電池2Bなどの電気化学セル2Aで使用されるセパレータ40を形成するために、リチウム交換ゼオライト50aおよび第2の無機粒子50bを、ポリマーバインダー50cの少なくとも一部に分散させてもよい(
図2Aおよび
図2B参照)。本開示の別の態様によれば、ポリマーバインダー50Cに分散したリチウム交換ゼオライト50a、第2の無機粒子50bは、リチウムイオン電池2Dなどの電気化学セル2Cで使用される正極10または負極20の表面の一部にコーティングまたはフィルムとして塗布されてもよい(
図2Cおよび
図2D参照)。
【0047】
ゼオライトは、Tが最も一般的にはケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)であるTO4四面体単位の繰り返しで構成される結晶性または準結晶性のアルミノケイ酸塩である。これらの繰り返し単位は、互いに結合し、内部に分子レベルの大きさの空洞および/またはチャネルを含む結晶性の骨格すなわち構造体を形成する。このように、アルミノケイ酸塩ゼオライトでは、少なくとも酸素(O)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)の原子が、骨格構造に組み込まれている。ゼオライトは、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)が酸素原子を共有して相互に結合した結晶骨格を有するため、結晶骨格中に存在するSiO2:Al2O3(SAR)の比率によって特徴付けられることがある。
【0048】
本開示のリチウム交換ゼオライトは、上述したような骨格トポロジーを示す。これらの骨格は、通常、骨格のタイプに関連する名称を表す3文字の表記によって特徴付けられる。例えば、チャバザイト骨格は「CHA」、キアベナイト骨格は「CHI」、フォージャサイト骨格は「FAU」、リンデタイプA骨格は「LTA」、ラウモンタイト骨格は「LAU」の骨格表記によって特徴付けられる。骨格表記とは、ゼオライトの骨格構造を定義する国際ゼオライト学会(International Zeolite Associate(IZA))が定めたコードを表す。したがって、例えば、チャバザイトとは、ゼオライトの主結晶相が「CHA」であるゼオライトを意味する。
【0049】
ゼオライトの結晶相または骨格構造を、X線回折(XRD)データによって解析してもよい。しかしながら、XRDの測定値は、ゼオライトの成長方向、構成元素の比率、吸着物質や欠陥などの存在、XRDスペクトルにおける各ピークの強度比またはポジショニングのずれなど、様々な要因の影響を受ける可能性がある。したがって、IZAが提供する定義に記載された各ゼオライトの骨格構造の各々のパラメータについて測定された数値に、10%以下、あるいは5%以下、あるいは1%以下のずれがあっても、予想される許容範囲内である。
【0050】
本開示の一態様によれば、本開示のゼオライトは、天然ゼオライト、合成ゼオライトまたはそれらの混合物であってもよい。あるいは、ゼオライトは合成ゼオライトである。なぜなら、そのようなゼオライトは、SAR、結晶子の大きさ、結晶子のモルフォロジーの点で他のゼオライトより均一性が高く、不純物(例えば、アルカリ土類金属)が少なく集中していないためである。
【0051】
依然として
図2A~
図2Dを参照すると、正極10および負極20の活物質は、リチウムイオン二次電池においてこの機能を果たすことが知られているどのような材料であってもよい。正極10に用いられる活物質としては、リチウム遷移金属酸化物または遷移金属リン酸塩があげられるが、これらに限定されるものではない。正極10に用いられる活物質のいくつかの例としては、LiCoO
2、LiNi
1-x-yCo
xMn
yO
2(x+y≦2/3)、zLi
2MnO
3・(1-z)LiNi
01-x-yCo
xMn
yO
2(x+y≦2/3)、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4およびLiFePO
4があげられるが、これらに限定されるものではない。また、負極15に用いられる活物質としては、グラファイトやLi
4Ti
5O
12ならびにケイ素やリチウム金属などがあげられるが、これらに限定されるものではない。あるいは、負極に用いられる活物質は、比容量が1マグニチュード大きいことから、ケイ素やリチウム金属である。正極10および負極20の両方における集電体7、17は、例えばカソードにアルミニウム、アノードに銅など、リチウム電池の電極に使用されることが当技術分野で知られている任意の金属で作られていてもよい。また、正極10および負極20におけるカソード5およびアノード15は、一般に2つの異種活物質で構成されている。
【0052】
非水電解液30は、酸化/還元プロセスを助け、イオンがアノード15とカソード5との間を流れるための媒体を提供するために用いられる。非水電解液30は、リチウム塩を有機溶媒に入れた溶液であってもよい。リチウム塩のいくつかの例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)があげられるが、これらに限定されるものではない。これらのリチウム塩は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの有機溶媒と溶液を形成していてもよい。電解液の具体例としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合物(EC/DEC=50/50vol.)中LiPF6の1モル溶液があげられる。
【0053】
本開示の別の態様によれば、1つ以上の二次セルを組み合わせて、リチウムイオン二次電池を製造してもよい。そのような電池75Aの例を、
図3に示す。図中、二次セルを4つ積層し、さらに大きな単一の二次セルを形成して、これを容器に封入して電池75Aを製造している。
図4には、電池75Bの別の例を示す。図中、二次セルを4つ積むか並べて直列に配置し、各々のセルを個別に収容した状態で大容量の電池75Bを製造している。リチウムイオン二次電池75A、75Bは、物理的保護と環境保護の両方の目的で、内側に二次セル1が封入されるか囲まれた内壁を有する筐体60も含む。当業者であれば、
図3および
図4に示す電池75A、75Bには、本開示によるセパレータ50(a~c)を有する
図2Aおよび
図2Bの二次セルが1つ以上組み込まれていることを理解するであろう。あるいは、すべてのセルにセパレータ50(a~c)が組み込まれていてもよい。望ましい場合、本開示に従って形成されたセパレータ50(a~c)が電池75A、75Bのセルのうちの少なくとも1つに組み込まれているかぎり、電池75A、75Bには、従来のセパレータが組み込まれているか含まれるセルが1つ以上含まれていてもよい。
【0054】
筐体60を構成するには、当技術分野でそのような使用が知られているどのような材料を用いてもよい。リチウムイオン電池は通常、3通りの主なフォームファクタまたは幾何学形状すなわち、円筒形、多面体またはソフトパウチに収容される。円筒形電池の筐体60は、アルミニウム、スチールなどで作られていてもよい。多面体の電池は通常、円筒形ではなく直方体形の筐体60を含む。ソフトパウチの筐体60は、様々な形状と大きさに形成することができる。これらの軟質の筐体は、アルミニウム箔でできた袋の内側、外側またはその両方にプラスチックをコーティングして構成されたものであってもよい。また、軟質の筐体60は、ポリマータイプのケースであってもよい。筐体60に用いられるポリマー組成物は、リチウムイオン二次電池に従来から用いられている公知のポリマー材料であればよい。数ある例の中でも具体的な例としては、内側にポリオレフィン層、外側にポリアミド層からなるラミネートパウチの使用があげられる。軟質の筐体60は、筐体60が電池75内の二次セル1を機械的に保護するように設計する必要がある。
【0055】
本開示で提供する具体例は、本発明の様々な実施形態を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではない。これらの実施形態は、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で説明されているが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりできることが想定され、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【実施例】
【0056】
実施例1-Li-ゼオライト粉末
【0057】
FAU型ゼオライトを水熱ルートで合成する。粒子は多孔質球体であり、D10、D50、D90を測定すると、それぞれ0.5、1.0、1.5μmになる。表面積を測定すると500m2/g、細孔容積を測定すると0.2cc/gになる。また、ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)は2~10である。このゼオライトは、最初はナトリウムイオンを含んでいたが、その後、Li+との間でNa+交換が行われた。ゼオライト中のNa2Oの濃度を測定すると0.1~2.0%、Li2Oの濃度を測定すると3.0~9.0%の範囲になる。ゼオライトを乾燥させ、残っている水分を除去する。
【0058】
実施例2-リチウム交換ゼオライトの遷移金属カチオントラップ能力
【0059】
Mn2+、Ni2+およびCo2+に対する吸蔵能力に関する、実施例1で述べたようなリチウム交換ゼオライトの性能を、有機溶媒すなわちエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol)中で測定する。
【0060】
有機溶媒中における無機添加剤のMn2+、Ni2+、Co2+に対するトラップ能力を、誘導結合プラズマ-発光分光分析(ICP-OES)により分析する。有機溶媒については、過塩素酸マンガン(II)、過塩素酸ニッケル(II)、過塩素酸コバルト(II)をそれぞれ1000ppm含むように調製する。粒子状の無機添加剤を総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、Mn2+、Ni2+およびCo2+の濃度の低下を測定する。ICPによって、実施例1のリチウム交換ゼオライトは、Mn2+、Ni2+、Co2+の濃度を、それぞれ75%、65%、55%低下させることがわかる。
【0061】
実施例3-リチウム交換ゼオライトのHF捕捉能力
【0062】
非水電解液すなわち、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に1MのLiPF6を分散させた溶液における、実施例1で説明したようなリチウム交換ゼオライトのHF捕捉能力を、フッ化物イオン選択(ISE)計によって分析する。電解液については、100ppmのHFを含むように調製する。粒子状の乾燥させたリチウム交換ゼオライトを総質量の1wt.%として添加し、混合物を1分間撹拌した後、25℃で24時間静置した上で、溶液中のF-の減少を測定する。240時間経過後に、別の測定を行う。実施例1のリチウム交換ゼオライトで電解液を処理した後、電解液中のHF濃度は、24時間後には75ppmまで減少し、240時間後には45ppmまで減少した。
【0063】
実施例4-セパレータの製造
【0064】
活物質としてグラファイト粉末、導電剤としてカーボンブラック、ポリマーバインダーとしてスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC)、ベースおよび集電体として銅膜を含む市販の負極膜が基材である。負極膜の厚さは50μmである。
【0065】
有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用して、5重量%のPVDF溶液を調製する。続いて、実施例1の乾燥リチウム交換ゼオライトを、十分に乾燥させた一種のボーマイト粒子とともに、その溶液に添加する。ゼオライト:ベーマイト:PVDFの質量比は40:40:20である。次に、このスラリーをブレードギャップとして40μmを使用して負極膜にスクリーン印刷またはコーティングする。120℃の真空オーブンで一晩乾燥させた後、カレンダーでプレスすると、負極膜とセパレータ膜を合わせた厚さの合計が70μmになる。得られたフィルムを、最後に直径16mmの円板状に打ち抜いた。
【0066】
実施例5-コイン型セルの作製
【0067】
正極として使用する膜を製造するために、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のn-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2などの活物質(AM)とカーボンブラック(CB)粉末とを分散させることによって、スラリーを形成する。スラリー中のAM:CB:PVDFの質量比は、90:5:5である。このスラリーをアルミニウム膜にブレードコーティングする。乾燥およびカレンダー処理後、形成された各正極膜の厚さを測定すると、50~150μmの範囲内になる。これらの正極膜を、それぞれ直径14mmの円板状に打ち抜く。活物質は質量負荷が5~15mg/cm2の範囲である。
【0068】
チウム交換ゼオライトセパレータを電気化学的環境で評価するために、コイン型セル(2025型)を作製する。この2025型のコイン型セルについては、実施例4で説明した正極円板、負極とセパレータとを組み合わせた円板とともに作製する。エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合物(EC/DMC=50/50vol.)に分散させたLiPF6の1M溶液を、電池の性能試験用に本明細書でさらに説明するように電解液として使用する。
【0069】
比較例A-市販の純ポリプロピレン(PP)セパレータ
【0070】
市販のポリプロピレン(PP)セパレータ(Celgard(登録商標)2400、Celgard LLC)をリチウム交換ゼオライトセパレータの代わりに使用し、同一の条件下でのサイクル用に2025型のコイン型セルを作製する。
【0071】
比較例B-市販のポリプロピレン(PP)ポリエチレン(PE)セパレータ
【0072】
市販のポリプロピレン(PP)セパレータ(Celgard(登録商標)2325、Cellgard LLC)をリチウム交換ゼオライトセパレータの代わりに使用し、同一の条件下でのサイクル用に2025型のコイン型セルを作製する。
【0073】
比較例C-市販のアルミナコートセパレータ
【0074】
市販のポリプロピレン(PP)セパレータ(Celgard(登録商標)Q16S1HI、Cellgard LLC)をリチウム交換ゼオライトセパレータの代わりに使用し、同一の条件下でのサイクル用に2025型のコイン型セルを作製する。
【0075】
実施例6-電気化学的サイクリング
【0076】
実施例3で準備した本開示のセパレータを含む、実施例4で作製したコイン型セルを試験して、比較例1~3の従来のセパレータを使用して形成したコイン型セルと比較する。各セルについて、2回のC/10形成サイクルの後、25℃でC/3の電流負荷で3~4.3Vの間でサイクルする。
【0077】
最初の形成サイクルでは、従来のセパレータ(比較例A~C)を有するセルと、本開示に従って作製したセパレータ(実施例3)を有するセルは、ほぼ同一の放電容量とクーロン効率を示す。C/5充放電を100サイクル行った後、本開示に従って作製したセパレータ(実施例3)を有するセルは、従来の市販のセパレータ(比較例A~C)を有するセルが示した容量の損失よりも容量損失が少ない。同様に、本開示のセパレータ(実施例3)を有するセルのクーロン効率は、従来の市販のセパレータ(比較例A~C)を有するセルで生じることが観察されたほどは低下しない。
【0078】
実施例7-重量比の範囲を超える性能に対する追加のサポート
【0079】
この実施例は、第1の無機粒子と第2の無機粒子との重量比が1:99~99:1の範囲内にあるセパレータの使用に関連する利点をさらに示すものである。特に、様々な比率の第1および第2の無機粒子は、実施例5に従って作製および評価された、そこから作られたセルとともに、実施例4によるセパレータの調製およびコーティングに用いられる。
【0080】
コーティング付きセパレータの調製-予備粉砕したベーマイト(第2の無機粒子)とリチウム交換ゼオライト(第1の無機粒子)を、両方の材料の平均(D50)粒径が1.0マイクロメートル(μm)未満になるように調製した。この材料を、水とポリビニルアルコール(PVA)のポリマーバインダーとを質量比95wt.%/5wt.%で混合した混合物に分散させ、固体含有量約26wt.%のスラリーを形成した。表1に示すように、ベーマイト粒子とゼオライト粒子とを異なる質量比でスラリーに取り入れて、合計で5種類のスラリーを調製した。各スラリーを、プラネタリーミキサー(株式会社シンキー、日本)を用いて十分に混合した後、厚さ25μmのポリプロピレン(PP)セパレータにドクターブレード法で厚さ3~4μmのコーティングを施すのに使用した。コーティング後のセパレータを空気中で乾燥させ、フルセルの作製と評価に使用するために円板状に切断した。
【0081】
【0082】
セルの作製と評価-カソード層と、表1から選択したセパレータと、アノード層とを有するフルセルを、積み重ねた単層のパウチ型セルとして作製した。カソードについては、Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O2(NCM622)、カーボンナノチューブ(CNT)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)から、NCM622/CNT/PVDFの比を97/1.5/1.5、面質量負荷を約27mg/cm2として作製した。アノードについては、人工グラファイト、セラミックマトリックス複合材(cmc)、スチレンブタジエンゴム(SBR)から、グラファイト/cmc/SBRの比を96/2/2、面質量負荷を約20mg/cm2として作製した。セルの調製前にアノードとカソードをカレンダー処理した。電解液には、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネート(EC/DEC=25/75vol.)と、1%ビニレンカーボネート(VC)と、1%フルオロエチレンカーボネート(FEC)との混合物に、1モルのLiPF6を加えたものを用いた。セルの評価用に、セルを2つのペーパークリップで固定した。
【0083】
60℃でのフロート試験を使用して、各フルセルの性能を評価した。試験は、予熱したオーブンの中にそれぞれのセルを配置し、約C/10のレート、2.7V~4.2Vで、充放電サイクルを2回行った。その後、セルを4.2Vまで充電し、4.2Vで3日間保持した後、2.7Vまで放電した。その後、さらに1サイクルの充放電を行った。望ましい場合には、続けてセルを充電して4.2Vまで戻し、4.2Vで3日間保持した後、2.7Vまで放電し、再びフロート試験を実施してもよい。
【0084】
純粋なベーマイト(C-7d)または純粋なゼオライト(C-7f)だけを含むスラリーは、第1/第2の混合粒子(Ex-7a、Ex-7b、Ex-7c)を含むスラリーよりもゲル状であった。このように、第1の無機粒子と第2の無機粒子の混合物を含むスラリーは、より流体に似た特性を示すため、コーティングの実用化には一層魅力的であり、それによって、連続的な工業コーティングプロセスでコーティングとして適用しやすくなる。
【0085】
フロート試験時に各々のフルセルが示した安定性を
図5に示す。コーティング付きのセパレータを含むセル(Ex-7a、Ex-7b、Ex-7c、C-7d、C-7f)の容量保持率は、コーティングのないPPセパレータを含むセル(C-7e)の容量保持率よりも高かった。コーティング付きセパレータを含むセルのうち、第1のフロート試験(すなわち、第3サイクル)後の放電容量は、Ex-7a≒Ex-7b>Ex-7c>C-7d>C-7fを示した。2回目のフロート試験(すなわち、第5サイクル)直後の容量保持率は、Ex-7b>Ex-7a≒Ex-7c>C-7d>C-7fの順であった。いずれの場合においても、混合コーティング材料(Ex-7a、Ex-7b、Ex-7c)を含むセルは、いずれかの材料だけを含むセル(C-7d、C-7f)よりも高い容量保持率を示した。しかしながら、セルEx-7aの容量低下はセルEx-7bまたはEx-7cの容量低下よりも速いように見えたため、一層良好な安定性にするためには、第2の無機粒子(例えば、ベーマイト)をより多く含む混合比のセルが好ましい場合がある。この実施例は、本開示の複合セパレータが、第1の無機粒子と第2の無機粒子との質量比が1:99~99:1の範囲、あるいは25:75~75:25の範囲、あるいは50:50~25:75の範囲になるように、複数の第1の無機粒子と、1つ以上の第2の無機粒子とを、ポリマーバインダー中に含む必要があることをさらに示している。
【0086】
本開示の目的で、本明細書では、「約」および「実質的に」という語を、当業者に知られた予想されるばらつき(例えば、測定時の限界やばらつき)に起因する測定可能な値および範囲に関して使用する。
【0087】
本開示の目的で、要素での「少なくとも1つ」および「1つ以上の」という表現を同義に使用しており、これらの表現が同じ意味を持つ場合もある。単一の要素または複数の要素を含むことを示すこれらの表現を、要素の最後に接尾辞「(s)」を付して表す場合もある。例えば、「少なくとも1種の金属」、「1種類以上の金属」および「金属(s)」を同義に用いることができ、これらの語が同じ意味を持つことを意図している。
【0088】
本明細書では、明確かつ簡潔な明細書を書くことができるような方法で実施形態を説明したが、本発明から逸脱することなく、実施形態を様々に組み合わせたり、分離したりしてもよいことが想定されており、また、理解されるであろう。例えば、本明細書で説明した好ましい特徴はいずれも、本明細書で説明した本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0089】
本開示に照らして、当業者であれば、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを越えたりすることなく、本明細書に開示した特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するであろう。また、当業者であれば、本明細書で報告した特性はいずれも、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表していることも、理解するであろう。本明細書で説明した方法は、そのような方法の1つを表しており、本開示の範囲を越えることなく、他の方法を使用してもよい。
【0090】
本発明の様々な形態についての上述した説明は、例示および説明の目的で提示したものである。網羅的であることや、開示された厳密な形態に本発明を限定することは、意図していない。上記の教示内容に照らして、多数の改変または変形を施すことが可能である。ここに示す形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最もよく示すことで、当業者が、考えられる特定の用途に適した様々な形態で、様々な改変を施して本発明を利用できるようにするために選択され、説明されたものである。このようなすべての改変および変形は、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内であり、特許請求の範囲が公正かつ適法に、衡平に与えられる範囲に従って解釈される。
【国際調査報告】