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特表2024-503726臨床応用のために生殖組織由来細胞の収量および生存率を最適化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-26
(54)【発明の名称】臨床応用のために生殖組織由来細胞の収量および生存率を最適化する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/48 20150101AFI20240119BHJP
   A61K 35/52 20150101ALI20240119BHJP
   A61K 35/54 20150101ALI20240119BHJP
   A61P 19/04 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
A61K35/48
A61K35/52
A61K35/54
A61P19/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543282
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-09-08
(86)【国際出願番号】 US2022070219
(87)【国際公開番号】W WO2022159934
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】63/139,031
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523271170
【氏名又は名称】ギャラント・ペット,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】セオドア・ティー・サンド
(72)【発明者】
【氏名】リンダ・ブラック
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・バリジャス
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA04
4C087BB57
4C087BB61
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
本明細書で開示されるのは、例えば避妊手術および去勢手術から得られた生殖組織を処理する新規な方法であって、臨床応用に通常必要とされる複数の治療用量を得るために適した方法であり、細胞収量および生存率を最適化する。例えば、本明細書で開示されるのは、生殖組織およびその分画を消化、撹拌、インキュベートする新規な方法であって、例えば、細胞移動を促進するために、往復的および/または振動的な機械的撹拌、細胞懸濁液と部分的に消化された組織との共培養等を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生殖組織由来細胞を得るために生殖組織を処理する方法であって、
a.避妊手術または去勢手術から生殖組織を採取する工程と、
b.前記生殖組織を細断する工程と、
c.前記細断された生殖組織と酵素溶液とを混合し、組織懸濁液を得る工程と、
d.機械的撹拌が組織懸濁液に適用されるように、前記組織懸濁液を撹拌する工程と、
e.組織懸濁液を濾過して、細胞懸濁液画分と部分的に消化された生殖組織画分とに分ける工程と、
f.細胞懸濁液画分を遠心分離して第1の遠心分離細胞ペレットを形成し、第1の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して単一細胞懸濁液とする工程と、
g.細胞が部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地に移動するように、部分的に消化された生殖組織画分をインキュベーション培地中でインキュベートする工程と、
h.インキュベーション培地を遠心分離して第2の遠心分離細胞ペレットを形成し、第2の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して移動細胞懸濁液とする工程と、
i.単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得る工程と
を含む、方法。
【請求項2】
生殖組織は、精巣、卵巣、精管、精巣上体外側、卵管、子宮、またはそれらの組み合わせからの組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生殖組織は、イヌ科またはネコ科の生殖組織である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生殖組織は、去勢手術または避妊手術から得られる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酵素溶液は、コラゲナーゼもしくは中性プロテアーゼ、またはその両方を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
撹拌は、37℃に設定された乾熱培養装置内で実行される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
撹拌は、少なくとも40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、もしくは200分間、または前述の時間の任意の2つによって規定される範囲内の任意の時間の間実行される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
撹拌は、少なくとも40分以上実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
撹拌は、最大5、10、15、20、25、30、35、もしくは40分間、または前述の時間の任意の2つによって規定される範囲内の任意の時間実行される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
撹拌は、最大40分間実行される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
組織懸濁液は、往復および振動の両方の機械的撹拌が組織懸濁液に加えられるように撹拌される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
組織懸濁液は、回転的な機械的撹拌が組織懸濁液に加えられないように撹拌される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
撹拌は、プラットフォーム上で実行される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
濾過工程は、組織懸濁液を1個または複数のセルストレーナーに通して、細胞懸濁液画分と部分的に消化された組織画分とに分離することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
1個または複数のセルストレーナーは、300μm、100μm、70μm、もしくは40μmのストレーナー、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
単一細胞懸濁液画分は、4℃で保存される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
部分的に消化された生殖組織画分の培養工程は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、もしくは24時間未満、または前述の時間の任意の2つによって定義される範囲内の任意の時間である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
部分的に消化された生殖組織画分の培養工程は、2時間以下である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
単一細胞懸濁液画分は、凍結保存される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
部分的に消化された生殖組織画分は、凍結保存される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織画分は、同一のバイアル中で一緒に凍結保存される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織画分を解凍する工程を更に含む、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
解凍された単一細胞懸濁液および解凍された部分的に消化された生殖組織を、同じ組織培養フラスコ内で一緒にインキュベートする工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
生殖組織由来細胞は、部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地に移動する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
生殖組織由来の成長因子は、部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地中に拡散する、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
培養液は、遠心分離され、生殖組織由来細胞を含む細胞ペレットを得る、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織から単離された単一細胞の総収量を改善する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液とを組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織から単離された単一細胞の総収量を、細胞懸濁液画分単独で単離された単一細胞の総収量と比較して、少なくとも50%、100%、120%、140%、160%、180%、200%、220%、240%、260%、280%、300%、320%、340%、360%、380%、もしくは400%、または前述の割合のいずれか2つによって定義される範囲内の任意の割合で改善する、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
単一細胞懸濁液と移動細胞懸濁液とを組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織1グラム当たり、約3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、もしくは10個の細胞、または前述の細胞数のいずれか2つによって規定される範囲内の任意の細胞数の、生殖組織から単離された単一細胞の総収量をもたらす、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
部分的酵素的消化組織を凍結保存する方法であって、
a.組織を得る工程と、
b.前記組織を細断する工程と、
c.前記細断された組織を酵素溶液と混合して、組織懸濁液を得る工程と、
d.組織懸濁液に機械的撹拌が加えられるように、前記組織懸濁液を撹拌する工程と、
e.組織懸濁液を濾過して、細胞懸濁液画分と部分的に消化された生殖組織画分とに分ける工程と、
f.部分的に消化された組織画分を凍結保存する工程と
を含む、方法。
【請求項31】
部分的に消化された組織画分は、細胞懸濁液画分を伴わずに、凍結保存される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
部分的に消化された組織は、細胞懸濁液画分とともに、凍結保存される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2021年1月19日に出願された米国仮特許出願第63/139,031号の優先権の利益を主張するものであり、その全体を参照によって本明細書に明示的に組み入れる。
【0002】
本開示の態様は、一般に、細胞の収量および生存率を最適化するための生殖組織の処理方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ペットや家畜も人間と同じように、年をとると多くの病気および障害に悩まされる。獣医学的環境における治療目的の細胞組成物の投与は、ますます普及し、有望視されている。しかし、動物用試料の処理に使用される従来の方法では、収量に大きなばらつきが生じる。必要なときに患者に投与できるように、最小限の供給源から複数の臨床用量を確実に生成する能力が重要である。本開示の態様は、このような需要に対応する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示されるのは、例えば避妊手術および去勢手術から得られた生殖組織を処理する新規な方法であって、細胞の収量および生存率を最適化して、臨床応用に必要な生殖組織由来細胞の複数の治療用量を得る。例えば、本明細書で開示されるのは、生殖組織およびその分画を消化、撹拌、インキュベートする新規な方法であって、例えば、細胞移動を促進するために、往復的および/または振動的な機械的撹拌、細胞懸濁液と部分的に消化された組織との共培養等を含む。
【0005】
本発明は、細胞の収量および生存率を最適化するための生殖組織の処理方法を開示する。本開示の実施形態、ならびにその構成および利点は、本明細書の説明から明らかになるであろう。
【0006】
具体的には、本発明は、生殖組織由来細胞を得るために生殖組織を処理する方法であって、避妊手術または去勢手術等から生殖組織を得る工程と、前記生殖組織を細断する工程と、前記細断した生殖組織を酵素溶液で消化して組織懸濁液を得る工程と、この組織懸濁液に往復機械的撹拌が加えられるように、前記組織懸濁液を撹拌する工程と、この組織懸濁液を濾過して、細胞懸濁液画分と部分的に消化された生殖組織画分とに分ける工程と、この細胞懸濁液画分を遠心分離して第1の遠心分離細胞ペレットを形成し、この第1の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して単一細胞懸濁液とする工程と、細胞が部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地に移動するように、部分的に消化された生殖組織画分をインキュベーション培地中でインキュベートする工程と、このインキュベーション培地を遠心分離して第2の遠心分離細胞ペレットを形成し、この第2の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して移動細胞懸濁液とする工程と、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得る工程と、を含む。
【0007】
本発明に包含される生殖組織としては、オスについては、精巣、精管、精巣上体外側、またはそれらの任意の組み合わせの組織が挙げられ、メスについては、卵巣、卵管、子宮、またはそれらの任意の組み合わせの組織が挙げられる。本発明に包含される生殖組織としては、イヌ科またはネコ科からの組織が挙げられる。いくつかの実施形態において、生殖組織は避妊手術または去勢手術から単離される。
【0008】
特定の実施形態において、本発明の方法は、生殖組織の消化のために、酵素溶液を利用する。いくつかの実施形態において、酵素溶液は、コラゲナーゼもしくは中性プロテアーゼ、またはその両方を含む。特定の実施形態において、生殖組織は、37℃に設定された乾熱培養装置内で撹拌が実行されるように撹拌される。いくつかの実施形態において、撹拌は、少なくとも40分、50分、60分、70分、80分、90分、100分、110分、120分、130分、140分、150分、160分、170分、180分、190分、もしくは200分、または前述の時間の任意の2つによって定義される範囲内の任意の時間実行される。特定の実施形態において、撹拌は少なくとも40分以上実行される。いくつかの実施形態において、撹拌は、最大5、10、15、20、25、30、35、もしくは40分間、または前述の時間の任意の2つによって規定される範囲内の任意の時間実行される。他の実施形態において、撹拌は、最大40分間実行される。
【0009】
特定の実施形態において、組織懸濁液は、往復および振動機械的撹拌の両方が組織懸濁液に加えられるように、撹拌される。更に他の実施形態において、組織懸濁液は、撹拌され、回転的な機械的撹拌が組織懸濁液に加えられない。特定の実施形態において、撹拌は、プラットフォーム上で実行される。
【0010】
濾過を伴う実施形態において、濾過工程は、組織懸濁液を1個または複数のセルストレーナーに通して、単一細胞懸濁液画分と部分的に消化された組織画分とを分離することを含む。いくつかの実施形態において、1個または複数のセルストレーナーは、300μm、100μm、70μm、40μmのストレーナー、またはそれらの任意の組み合わせを含む。単一細胞懸濁液画分は、4℃で保存される。
【0011】
部分的に消化された生殖組織画分をインキュベートする実施形態において、部分的に消化された生殖組織画分の培養工程は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、もしくは24時間以未満、または前述の時間の任意の2つによって定義される範囲内の任意の時間である。いくつかの実施形態において、培養は2時間以下である。
【0012】
特定の実施形態において、単一細胞懸濁液画分は、凍結保存される。
【0013】
他の実施形態において、部分的に消化された生殖組織画分は、凍結保存される。
【0014】
いくつかの実施形態において、単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織は、別々に凍結保存される。更に他の実施形態において、単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織画分は、同一のバイアル中に一緒に凍結保存される。
【0015】
ある治療実施形態において、単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織画分は、解凍される。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、単一細胞懸濁液および部分的に消化された生殖組織画分を解凍する工程を更に含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、解凍された単一細胞懸濁液および解凍された部分的に消化された生殖組織を一緒にインキュベートすることを更に含む。他の実施形態において、解凍された単一細胞懸濁液および解凍された部分的に消化された生殖組織画分は、同じ組織培養フラスコで一緒に培養される。生殖組織由来細胞は、部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地に移動し得る。生殖組織由来の成長因子も、部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地中に拡散し得る。インキュベーション培地を遠心分離し、生殖組織由来細胞を含む細胞ペレットを得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織から単離された単一細胞の総収量を改善する。いくつかの実施形態において、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織から単離された単一細胞の総収量を、細胞懸濁液画分単独で単離された単一細胞の総収量と比較して、少なくとも50%、100%、120%、140%、160%、180%、200%、220%、240%、260%、280%、300%、320%、340%、360%、380%、もしくは400%、または前述の割合のいずれか2つによって定義される範囲内の任意の割合で改善する。いくつかの実施形態において、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせて、生殖組織由来細胞を得ることは、生殖組織1グラム当たり、約3×10個、4×10個、5×10個、6×10個、7×10個、8×10個、9×10個、もしくは10個、または前述の細胞数のいずれか2つによって規定される範囲内の任意の細胞数の、生殖組織から単離された単一細胞の総収量をもたらす。
【0018】
本明細書で開示するものは、部分的酵素的消化組織を凍結保存する方法である。いくつかの実施形態において、この方法は、組織を得る工程と、前記組織を細断する工程と、前記細断した組織を酵素溶液と混合して、組織懸濁液を得る工程と、組織懸濁液に機械的撹拌が加えられるように、前記組織懸濁液を撹拌する工程と、組織懸濁液を濾過して、細胞懸濁液画分と部分的に消化された生殖組織画分とに分ける工程と、および部分的に消化された組織画分を凍結保存する工程と、を含む。いくつかの実施形態において、酵素溶液は、1種または複数種の解離酵素および/または中性プロテアーゼを含む。いくつかの実施形態において、酵素溶液は、コラゲナーゼおよび/または中性プロテアーゼを含む。いくつかの実施形態において、部分的に消化された組織画分は、細胞懸濁液画分を伴わずに、凍結保存される。ある実施形態において、部分的に消化された組織画分は、細胞懸濁液画分とともに、凍結保存される。
【0019】
本明細書で示される実施形態のいずれかにおいて、患者は、イヌ、ネコ、ウマ、または他の非ヒト哺乳動物であり得る。いくつかの実施形態において、送達は自家由来であり得る。いくつかの実施形態において、送達は同種間であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で開示するのは、生殖組織処理方法を最適化して、より高い収量で生存可能な再生細胞を得る、すなわち臨床応用に適した量の再生細胞を得る、新規な方法である。この詳細な説明では、特定の実施形態を参照し、具体的な表現を使用して、実施形態を説明する。この説明は例示を意図したものであることが理解されよう。記載された実施形態における任意の変更および更なる改良、ならびにその原理の更なる適用は、本開示が関連する技術分野の当業者が通常思いつくように考慮される。
【0021】
定義
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、この主題が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書における主題の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、主題を限定することを意図するものではない。
【0022】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の1個または2個以上(例えば、少なくとも1個)の文法上の目的語を指すために、使用される。例として、「要素」とは、1個の要素または複数の要素を意味する。
【0023】
本明細書で使用する「約」または「おおよそ」という用語は、基準となる量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量、重量または長さに対して、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2または1%も変化する量、レベル、値、数、頻度、割合、寸法、大きさ、量、重量または長さを指す。
【0024】
本明細書を通じて、文脈上別段の定めがない限り、「~を含む」、「~を含む」、および「~を含んでいる」という語句は、記載された工程もしくは要素、または工程もしくは要素の群を含むことを意味するが、他の工程もしくは要素、または工程もしくは要素の群を排除することを意味しないと理解される。「~からなる」とは、「~からなる」という文言の後に続くものを含み、それに限定されるという意味である。したがって、「~からなる」という表現は、列挙された要素が必要または必須であり、それ以外の要素が存在し得ないことを示す。「~から本質的になる」とは、語句の後に列挙された要素を含むことを意味し、列挙された要素について開示で指定された活性または作用を妨げない、または寄与しない他の要素に限定される。したがって、「~から本質的になる」という語句は、列挙された要素は必要または必須であるが、その他の要素は任意であり、列挙された要素の活性や作用に重大な影響を与えるか否かに応じて、存在してもしなくてもよいことを示している。
【0025】
本明細書に開示されるように治療される「個体」、「患者」または「対象」は、いくつかの実施形態において、哺乳動物である。本明細書で使用される用語「哺乳動物」には、ヒト、霊長類を含むヒト以外の動物、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、げっ歯類(例えば、ラットまたはマウス)、サル等が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、個体、患者、または対象は、家庭用ペットまたは家畜動物である。いくつかの実施形態において、個体、患者、または対象は、ネコ(ネコ科)、イヌ(イヌ科)、またはウマである。対象は、本明細書に開示される方法を「必要とする」対象であり得、または疾患状態を経験している、および/または疾患状態を経験することが予測される対象であり得、本発明の方法および組成物は、治療的および/または予防的治療のために使用される。対象は患者であり得、患者は、病気の診断や治療のために医療提供者を訪れる対象を指す。対象は、疾患や障害に罹患している、または罹患しやすいが、疾患または障害の症状を示す場合もあれば、示さない場合もある。
【0026】
本明細書で開示されるいくつかの実施形態は、必要な対象または患者を選択することに関する。いくつかの実施形態において、対象は、疾患を有する者、疾患の治療または療法を必要とする者、疾患に罹患する危険性のある者、以前に疾患に罹患した者、または現在は疾患に罹患していない者から選択される。いくつかの実施形態において、以前に別の療法に反応しなかった対象が選択される。
【0027】
本明細書で使用する「機能」および「機能的」という用語は、生物学的、酵素学的、または治療的機能を指す。
【0028】
本明細書において、「単離された」という用語は、(1)(自然界および/または実験的環境においてであるか否かを問わず)最初に生産されたときに関連していた成分の少なくとも一部から分離された、および/または(2)ヒトの手によって生産、調製、および/または製造された物質および/または実体を指す。単離された物質および/または実体は、それらが最初に関連していた他の成分と等しい、または少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約99%、実質的に100%、もしくは100%(または前述の値を含むおよび/または前述の値にまたがる範囲)から分離される。いくつかの実施形態において、単離された薬剤は、約80%超、約85%超、約90%超、約91%超、約92%超、約93%超、約94%超、約95%超、約96%超、約97%超、約98%超、約99%超、実質的に100%超、もしくは100%純粋である(または前述の値を含む範囲および/または前述の値にまたがる範囲)。本明細書で使用する場合、「単離された」物質は、「純粋」(例えば、他の成分を実質的に含まない)であり得る。本明細書において、「単離された細胞」という用語は、多細胞生物または組織に含まれない細胞を指し得る。
【0029】
「初代細胞画分」または「PCF」という用語は、培養工程の前に、標的組織から生存可能な単一細胞懸濁液を調製するために行われる分離工程、解離工程、および/または精製工程から得られる細胞集団を指す。PCF集団は、1回または複数回の培養工程の後に得られる細胞集団とは異なる。なぜなら、集団内の特定の細胞型の相対的割合と、前記細胞型の性質が、1回または複数回の培養工程の間に変化するからである。
【0030】
「間葉系幹細胞(MSC)」という用語は、骨形成系統、軟骨形成系統、脂肪形成系統に分化する可能性を示す紡錘形の付着細胞集団を指す。MSCは、「間葉系間質細胞」、「間葉系前駆細胞(MPC)」、「間質細胞」と呼ばれることもある。MSCは、主に骨髄から単離されているが、臍帯組織、臍帯血、白色脂肪組織、胎盤組織等にも存在する。培養すると、MSCは一般的にCD105、CD73、CD90を発現し、一般的にCD14、CD19、CD34、CD45、およびHLA-DR(クラスII)を発現しない。複数の細胞型に分化する能力を持ち、MHCクラスIIを持たないことから、自家または同種での再生細胞治療への使用が検討されている。
【0031】
本明細書で使用される場合、「生体内」とは、通常の意味を有し、組織抽出物または死んだ生物とは対照的に、生体、通常は動物、ヒトを含む哺乳類、および植物の内部で、方法が実行されることを指す。
【0032】
本明細書において、「生体外」とは、通常の意味を有し、自然条件をほとんど変化させることなく、生体外で方法を実施することを指す。
【0033】
本明細書において、「試験管内」とは、通常の意味を有し、生物学的条件下以外、例えばペトリ皿や試験管内で方法を実施することを指す。
【0034】
本明細書で使用される物質、化合物、または材料の「純度」という用語は、予想される存在量に対する物質、化合物、または材料の実際の存在量を意味する。例えば、物質、化合物、または材料は、少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または純度100%であり、その間のすべての小数を含む。純度は、細胞、核酸、DNA、RNA、ヌクレオチド、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、脂質、細胞膜、細胞破片、低分子、分解産物、溶媒、担体、ビヒクル、汚染物質、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、望ましくない不純物によって、影響を受け得る。いくつかの実施形態において、物質、化合物、または材料は、細胞タンパク質、細胞核酸、プラスミドDNA、汚染ウイルス、プロテアソーム、細胞培養成分、プロセス関連成分、マイコプラズマ、発熱物質、細菌内毒素、および外来性物質を実質的に含まない。純度は、電気泳動、SDS-PAGE、キャピラリー電気泳動、PCR、rtPCR、qPCR、クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、分光法、紫外可視分光分析法、赤外分光分析法、質量分析法、核磁気共鳴法、重量測定法、もしくは滴定、またはそれらの任意の組合せを含むが、これらに限定されない、当技術分野で理解されている技術を使用して、測定できる。
【0035】
本明細書で使用する物質、化合物または材料の「収量」という用語は、予想される全体量に対する物質、化合物または材料の実際の全体量を意味する。例えば、物質、化合物、または材料の収量は、予想される全体量の少なくとも80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%であり得、その間のすべての小数を含む。収量は、反応またはプロセスの効率、望ましくない副反応、分解、投入物質、化合物、もしくは材料の品質、または製造のいずれかの段階における所望の物質、化合物、もしくは材料の損失によって影響を受け得る。
【0036】
本明細書で使用される用語「%w/w」または「%wt/wt」は、本明細書に照らして理解される通常の意味を有し、組成物の総重量に対する成分または薬剤の重量で表される割合に100を乗じたものを指す。本明細書で使用される用語「%v/v」または「%vol/vol」は、本明細書に照らして理解される通常の意味を有し、組成物の総体積に対する化合物、物質、成分、または薬剤の総液体体積で表される割合に100を乗じたものを指す。
【0037】
生殖組織由来細胞
本発明の方法により、傷害、疾患および障害の治療および予防において明確な利点を有する生殖組織由来生細胞組成物が得られる。本発明の方法に従って得られる生殖組織由来生細胞組成物は、1種または複数種の再生、抗炎症、抗アポトーシス、免疫調節および栄養細胞等の生殖組織由来細胞の単離または混合集団を含み得、それらの中でも間葉系幹細胞を含むがこれらに限定されず、これらの細胞は天然の組織環境から取り出され、元の組織環境と比較して濃縮される。ある特定の実施形態において、生細胞は、最初にペレット化されたとき、それらが単離された組織中のそれらの濃度よりも約2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100倍高い濃度で存在する、または前述の倍濃度のいずれか2つによって定義される範囲内の任意の倍濃度で存在する。
【0038】
本開示の実施形態において、多種多様な生殖組織由来の細胞型が使用される。例えば、生殖組織由来細胞は、「再生細胞」であってよく、これは広い意味で使用され、従来の幹細胞、間葉系幹細胞、前駆細胞、間葉系前駆細胞、前前駆細胞、周皮細胞、内皮細胞、上皮細胞、精原性前駆細胞または卵原性前駆細胞を含む生殖細胞系列幹細胞等のいずれか1種または複数種を含む。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の投与は、疾患、障害、状態に罹患した患者を治療する。例えば、本発明の生殖組織由来細胞は、創傷治癒のために、瘢痕形成速度を低下し得、血管由来の血管形成速度を増加し得る。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞組成物は、他の細胞型、例えば、特に、赤血球、白血球、血小板、好中球、単球/マクロファージ、線維芽細胞、線維芽細胞様細胞、リンパ球、好塩基球、周皮細胞、または末梢神経前駆細胞のうちの1種または複数種も含み得る。
【0039】
本明細書の実施形態に開示される生殖組織由来細胞は、任意の適切な種の動物、例えばヒト、イヌ科(例えばイヌ)、ネコ科(例えばネコ)、ウマ科(例えばウマ)、ブタ、ヒツジ、ヤギ、またはウシ等の哺乳動物から得ることができる。本明細書の実施形態に開示される生殖組織由来細胞は、オスまたはメスの生殖組織または器官を含む、任意の適切な生殖組織または器官から得ることができる。これらは、ほんの一例として、精巣組織、卵巣組織、子宮組織、卵管、精管、精巣上体外側に由来する細胞を含む。例えば、去勢手術中のオス対象の生殖組織試料の場合、精管と精巣上体外側を切除してもしなくても、睾丸からの細胞を本発明の特定の方法で使用し得る。避妊手術中のメス対象の生殖組織試料の場合、卵管を切除してもしなくても、子宮または卵巣からの細胞を本発明の特定の方法で使用し得る。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞は、一般的に、付着細胞と非付着細胞の両方のマーカーを発現する細胞集団であり得る。これらのマーカーは、フローサイトメトリー等の従来の方法を使用して、検出できる。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明の特定の方法に従って得られる生殖組織由来生細胞組成物は、追加の非細胞性組織成分を更に含むことができる。このような非細胞性成分は、可溶性因子であっても、脂質のような不溶性成分であってもよく、またはその両方であってもよい。このような非細胞性組織成分の例としては、細胞外マトリックスタンパク質、プロテオグリカン、分泌因子、サイトカイン、成長因子、分化誘導因子、分化阻害因子、またはそれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、非細胞成分集団としては、コラーゲン、トロンボスポンジン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、またはそれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、非細胞成分集団は、コラーゲンまたはその断片を含む。コラーゲンとしては、I型、III型、IV型コラーゲンもしくはそれらのアイソフォーム、ラミニンもしくは他の特定のアイソフォーム、バーシカン、パールカン、またはエンタクチンが含まれるが、これらに限定されない。特に、IV型コラーゲンおよびラミニンは、血管および神経の形成に重要な役割を果たしている。繰り返しになるが、これらの追加的な非細胞成分は、もともと単離された細胞集団の中に存在することが多い。しかしながら、特定の実施形態において、そのような非細胞成分は、患者に投与する前、培養増殖前に加えられ得る。いくつかの実施形態において、これらの追加的な非細胞成分は、患者に投与する前、細胞組成物から除去される。
【0041】
生殖組織由来細胞の取得方法
以下は、臨床応用のために細胞の収量と生存率を最適化するための、生殖組織を処理する例示的な方法である。特に、去勢手術または避妊手術中に得られた生殖組織から細胞組成物を得るための最適化された方法が、記載されている。本明細書に記載の方法で得られた生細胞組成物は、臨床応用に適している。
【0042】
従来から理解されているように、去勢手術とは、オスから精巣と精管を摘出する外科手術である(去勢)。従来から理解されているように、避妊手術とは、メスから卵巣および卵管ならびに/または子宮を摘出する外科手術である(卵巣子宮摘出術)。
【0043】
卵管、精巣上体、精管、脂肪組織等の付随組織も、これらの手術中に摘出し得る。
【0044】
下記は作業指示書の一例である。
【0045】
解離酵素の調製。酵素を使用して、細胞を細胞外マトリックスおよび細胞同士から解離させ、それによって単一細胞集団を生成する。いくつかの実施形態において、細胞を解離させるために使用される酵素としては、コラゲナーゼ、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、リゾチーム、パパイン、ペクチナーゼ、ペプシン、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。特定の実施形態において、効率を向上させるために、中性プロテアーゼ(例えば、ディスパーゼ)を併用してもよい。
【0046】
組織処理。処理前に、組織試料を処理するための適切な量の備品が、生物学的安全キャビネット(BSC)に、準備されていることを確認する。組織全体(例えば、避妊手術または去勢手術から)を、適切な大きさのあらかじめ計量した滅菌容器に移す。組織全体の質量を測定する。新しい試料容器を入手し、滅菌鉗子を使用して、慎重に組織試料を新しい試料容器に移す。組織を収容する滅菌容器に50~60mLのPBSを加える。滅菌容器の蓋をしっかりと閉め、容器を振って組織から余分な残渣および/または血液を洗い流す。滅菌鉗子とペトリ皿を使用して、慎重に組織をペトリ皿の内側に移す。組織を試料容器の内側にスライドさせ、余分な液体が組織から排出されるようにする。
【0047】
生殖組織の適切な部位を採取することによって、組織を解剖する。オスから単離した組織については、滅菌鉗子と小型の解剖用はさみを使用して、精管および精巣上体外側を切除して、廃棄する。メスから単離した組織については、滅菌鉗子と小型の解剖用はさみを使用して、卵巣から卵管を切除して、廃棄する。子宮および/または脂肪組織も含むメス対象からの生殖組織試料の場合、追加処理のために子宮および/または脂肪組織を別途保持して、最終的な細胞調製に十分な血管組織量を確保できる。すべての場合において、摘出したい生殖組織試料(睾丸または卵巣/子宮を含む)を扱いやすい大きさに切断する。組織片をあらかじめ秤量したラベル付き50mLコニカルチューブに移す。コニカルチューブの印でおおよそ測った22.5mL以下の組織量を移す。生殖組織の質量を測定する。生殖組織をおおよそ2~3mmの大きさに細断にする。解離酵素原液を得る。細断にした組織の質量を測定する。観察された細断組織の質量と等容量の酵素原液/PBSを加える。酵素原液およびPBSの量を以下のように計算して、試料に加える。組織20gにつき、酵素原液1mLを加える。適量の酵素原液およびPBSを細断した組織試料に加える。50mLコニカルチューブの蓋をしっかり閉め、試料を数回転倒させ、組織試料が混合されていることを確認する。
【0048】
組織消化。検証用温度計の温度を確認することによって、乾燥培養装置の温度が36~40℃であることを検証する。試料を培養区画に入れ、撹拌速度を450±50rpmに設定する。組織試料を40±5分間インキュベートする。培養後、組織試料を培養装置から取り出す。培地を入手して、無菌的に移し替え、消化処理をクエンチさせる。
【0049】
組織洗浄。試料チューブに培地を加えた後、試料チューブの容量をPBSで50mLにする。試料を反転させて混合する。混合した試料チューブを遠心分離機に入れ、低ブレーキ、周囲温度(18~25℃)、1,400±100rpmの速度に設定し、15分間遠心分離する。遠心分離終了後、試料チューブを取り出し、無菌的に試料チューブをBSCに移す。滅菌済みコニカルチューブまたは滅菌容器を使用し、上清を注ぐ。ペレットがそのまま残っている場合は、上清を廃棄容器に捨て、次に進む。ペレットが緩んでいる場合は、上清を元の試料チューブに戻し、もう一度遠心分離する。ペレットに5~10mLのPBSを加え、血清ピペットで再懸濁する。あらかじめラベルを貼った50mLコニカルチューブを入手し、再懸濁した細胞ペレットを以下のいずれかの方法で細胞株化する。
【0050】
積み重ねないセルストレーナー。100μmセルストレーナーの包装を注意深く開け、フィルター部分が滅菌されたままであることを確認する。100μmのセルストレーナーを、あらかじめラベルを貼った50mLコニカルチューブにセットする。血清ピペットを使用して、ペレットを再懸濁し、再懸濁液をフィルター上部に移す。フィルターを通して、液体を排出させる。細胞懸濁液の濾過を助けるために、以下の手順を使用する。血清ピペットの先端を使用して、セルストレーナーの内容物を混合し、再懸濁液の濾過を助ける。追加のPBSをフィルターの上部に加え、内容物と混合して濾過する。セルストレーナーを上向きにゆっくりと持ち上げ、コニカルチューブに戻し、発生した可能性のある気泡を解放する。
【0051】
元の試料チューブを5~10mLのPBSで洗浄し、セルストレーナーで処理する。再懸濁液の濾過が完了したら、セルストレーナーを取り外して廃棄する。第1の濾過コニカルチューブを横に置き、次の濾過チューブを準備する。あらかじめラベルを貼った新しい50mLコニカルチューブを用意する。70μmフィルターを注意深く開け、フィルター部分が滅菌されたままであることを確認する。70μmのセルストレーナーを、あらかじめラベルを貼った新しいコニカルチューブの1つにセットする。新しい血清ピペットを使用して、細胞懸濁液を70μmフィルターの上部に移す。フィルターを通して、細胞懸濁液を排出させる。前のチューブを5mLのPBSですすぎ、すすぎ液を70μmフィルターの上部に移す。次の濾過チューブを、横に置き、準備する。あらかじめラベルを貼った50mLコニカルチューブをもう1本用意する。40μmのフィルターを注意深く開け、フィルター部分が滅菌されたままであることを確認する。40μmのセルストレーナーを、あらかじめラベルを貼った新しいコニカルチューブにセットする。新しい血清ピペットを使用して、細胞懸濁液を40μmフィルターの上部に移す。フィルターを通して、細胞懸濁液を排出させる。前のチューブを5mLのPBSですすぎ、すすぎ液を40μmフィルターに移す。
【0052】
積み重ね可能なセルストレーナー。各フィルターの包装を注意深く開封し、フィルターの滅菌状態を維持する。40μmフィルターをあらかじめラベルを貼った50mLコニカルチューブにセットする。残りの2つのフィルターの漏斗部分を無菌的に取り外す。フィルター部分の外側のみを扱う。フィルターメッシュには触れない。70μmフィルターを40μmフィルターの上に重ねる。70μmフィルターを40μmフィルターの上に固定したら、100μmフィルターを70μmフィルターの上に積み重ねる。
【0053】
血清ピペットを使用して、ペレットを再懸濁し、再懸濁液を積み重ねたフィルターの上部に移す。フィルターシステムを通して、再懸濁液を排出させる。血清ピペットを使用して、上部フィルターの内容物を混合し、濾液がフィルターを通過するのを助ける。追加のPBSをフィルターの上部に加え、内容物を混合して濾過する。元の試料チューブにPBSを5~10mL加え、血清ピペットでチューブの側面をすすぐ。すすぎ液をフィルターの上部に加え、フィルターシステムを通して排出させる。フィルターまたはフィルターシステムが詰まった場合は、追加のセルストレーナーを使用する必要があるかもしれない。その場合は、フィルターの内容物を試料チューブに戻し、新しいフィルターを入手する。上記の指示に従って、濾過の工程を繰り返す。
【0054】
連続セルストレーナーまたは積み重ね式セルストレーナーで再懸濁液を濾過した後、濾過した細胞懸濁液が入った試料チューブの容量が35~40mLになるように所定量のPBSを加え、試料チューブに蓋をする。転倒混和する。試料チューブを遠心分離機に移し、低ブレーキ、周囲温度(18~25℃)、1,400±100rpmで、試料を7分間遠心分離する。遠心洗浄後に試料チューブを取り出し、無菌的にBSCに移す。
【0055】
滅菌済みコニカルチューブまたは滅菌容器を使用し、上清を注ぐ。ペレットがそのまま残っている場合は、上清を廃棄容器に捨て、次に進む。ペレットが緩んでいる場合は、上清を元の試料チューブに戻し、もう一度遠心分離する。ペレットを軽くはじき再懸濁させ、試料チューブをPBSで35~40mLの容量にする。試料チューブに蓋をし、転倒混和する。試料チューブを遠心分離機に移し、低ブレーキ、周囲温度(18~25℃)、1,400±100rpmで、試料を7分間遠心分離する。
【0056】
最終再懸濁と細胞計数の準備:試料が最終遠心洗浄工程にある間に、血清ピペットとピペットチップ、マイクロピペッターを追加し、BSCを準備する。微量遠心チューブに試料の一意の識別子をラベル付けする。試料の外観(すなわち、赤血球含有量が多いように見える)によっては、細胞計数試料を希釈する必要がある。調製した計数試料を横に置く。遠心機から試料チューブを取り出し、滅菌的にBSCに移す。滅菌済みコニカルチューブまたは滅菌済み容器を使用して、上清を注ぐ。ペレットがそのまま残っている場合は、上清を廃棄容器に捨て、次に進む。ペレットが緩んでいる場合は、上清を元の試料チューブに戻し、もう一度遠心分離する。
【0057】
ペレットを軽くはじくことにより、ペレットを流動化させる。約2.0mLになるように、所定量のPBSを加える。細胞ペレットが大きい場合は、容量を増やす必要があり得る。細胞懸濁液をピペットで静かに再懸濁し、最終容量を測定する。
【0058】
マイクロピペッターを使用して、細胞懸濁液の細胞計数試料を採取し、準備した試料採取チューブに入れる。細胞計数を実施する間、細胞懸濁液を2~8℃で保存する。細胞計数する。
【0059】
細胞培養液の調製 DMEM 445mLに、4.5g/Lグルコース、lxGlutaMax(商標)、ピルビン酸ナトリウムを添加して500mLとし、0.2ミクロンの培地濾過システムに加える。50mLのEquaFetal(商標)血清と5mLのペニシリン/ストレプトマイシンを濾過システムに加える。
【0060】
細胞培養。細胞数が適切な用量の数を達成するのに必要な最小量を下回る場合、細胞を細胞培養に入れ、培養増殖自家細胞用量を生成する。
【0061】
再懸濁した細胞を培地で希釈し、滅菌したT75フラスコの表面に、細胞15,000~50,000個/cmの範囲の被覆密度とした。細胞は、5%CO、37℃の加湿チャンバー内で、細胞が80~90%コンフルエントになるまで、6~10日間インキュベートした。培地は3日後に交換し、必要に応じて、更に3~4日後に再度交換した。これを初代(P=0)培養と呼ぶ。80~90%のコンフルエントに達した時点で培地を除去し、付着細胞をおおよそ10mLのPBSで1回洗浄した。フラスコからPBSを吸引した。7mLのTrypLE(商標)をフラスコに加え、フラスコを5%COを含む加湿チャンバー内で37℃、5~8分間インキュベートした。同量の増殖培地を加え、TrypLE活性をクエンチした。フラスコを手のひらで強く叩き、細胞をフラスコ表面から剥がした。細胞は、10mLまたは25mLのピペットを使用して、15mLの追加の増殖培地を含有する50mLのコニカルチューブに移した。細胞を、周囲温度、1350~1500rpmで、5~7分間遠心した。遠心分離後、培地を注いでまたは吸引して除去した。いずれの場合も、細胞ペレットを失わないように注意した。ペレットを弾いて細胞を再懸濁し、30mLの増殖培地を細胞に加えた。2本のT175フラスコにそれぞれ15mLの細胞懸濁液を加えた。各フラスコに更に15mLの培地を加えた。細胞を入れたフラスコを、5%COを含む37℃の加湿チャンバーに入れ、細胞を接着させ増殖させた。
【0062】
細胞が80~90%コンフルエントになるまで、3~4日ごとに培地を交換した。細胞が80~90%のコンフルエントに達した時点で、培地を除去し、付着細胞を約10mLのPBSで1回洗浄した。フラスコからPBSを吸引した。15mLのTrypLEをフラスコに加え、フラスコを5%COの加湿チャンバー内で37℃、5~8分間インキュベートした。同量の増殖培地を加えて、TrypLE活性をクエンチした。フラスコを手のひらで強く叩き、細胞をフラスコ表面から剥がした。10mLまたは25mLのピペットを使用して、細胞を15mLの追加の増殖培地を含有する50mLのコニカルチューブに移した。
【0063】
細胞を、周囲温度、1350~1500rpmで、5~7分間遠心した。
【0064】
遠心分離後、培地を注いで、または吸引して除去した。いずれの場合も、細胞ペレットを失わないように注意した。ペレットを弾いて、細胞をおおよそ2.5~3.0mLに再懸濁した。細胞計数と生存率測定のために、200μlを除去した。計数後、残った細胞を約17mLの追加培地に希釈し、周囲温度、1350~1500rpmで、5~7分間遠心分離した。遠心分離後、培地を吸引し、ペレットを弾いて再懸濁し、細胞を凍結保存培地で最終容量2~3mLのいずれかに再構成し、あらかじめラベルを貼った凍結バイアルに移し、本明細書に記載したように凍結した。
【0065】
細胞培養用培地添加剤
成長/栄養因子-EGF、bFGF、TGF-B1、もしくは-B3、IGF-I、ITS(インスリン、チロキシン、セレン)、非必須アミノ酸補給、無血清培地(Nucleus Biologies、Physiologix SF)
【0066】
プライミング(Priming)添加剤:骨修復用:アスコルビン酸塩、デキサメタゾン、ビタミンD3、BMP-2の併用または非併用。軟骨用:BMP-6、TGF-B3、ITS。神経症状用:FGF-10、BDNF、N2培地サプリメント(ThermoFisher)、他の細胞型の馴化培地(すなわち、神経膠細胞/幹細胞培養の神経細胞馴化培地)。
【0067】
免疫調節症状用:炎症性作動物質(リポ多糖、別名LPS、コンカナバリンA)で刺激したリンパ球の馴化培地。同種または自家由来のリンパ球を使用し得る。
【0068】
血管再生用:組織からの脱細胞化マトリックス、VEGF+胎盤成長因子(P1GF)+アンギオジェニンまたはアンジオポエチンA。同種または自家由来の脱細胞化マトリックスが使用される。
【0069】
細胞を解凍するために、選択した水性培地を37℃の水槽で温める。バイアルを軽く振り、37℃の水槽で細胞を素早く解凍する。1.5~2分間解凍する。バイアルを水没させない。凍結した細胞ペレットがわずかに残る程度になったら、バイアルを取り出す。細胞をボルテックスしない。適量の温めた培地で細胞を希釈する。室温、1450±50rpmで5分間、試料を遠心分離する。チューブから上清を取り除き、2~5mLの新しい増殖培地に再懸濁する。細胞の生存率と数を測定する。
【0070】
生殖組織の最適化された代替処理方法
顧客のペットから避妊手術または去勢手術からの組織は、動物病院で採取されて、専用の容器に入れられ、Gallant Laboratoryに輸送される。組織は、標準化された受入/採取プロトコールに従って処理される。組織が処理用に受け入れられると、研究室に移送されて、初代細胞画分(PCF)用量の生成が開始され、これは、生物学的安全キャビネット(BSC)を使用して、無菌的に行われる。
【0071】
BSC内で、組織を細片に細断する。細断後、酵素溶液を加えて、組織片を消化する。酵素溶液は、市販のコラゲナーゼと中性プロテアーゼ製剤(例えば、DE10、VitaCyte)を含む。
【0072】
37℃に設定した乾熱培養装置内の揺動台(rocker platform)の上で、組織を懸濁状態で40分間保持する。試料は40分間消化された後、BSCに戻される。ウシ胎児血清(10%、FBS)を含有する培養液で反応を停止させ、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈する。
【0073】
組織消化懸濁液を積み重ねセルストレーナー(300または100μm/70μm/40μmスタックドストレイナー(Coming))に通し、放出された細胞を組織片から分離する。フィルターに保持された断片をPBSで洗浄し、その後、セルストレーナーを廃棄する。集めた細胞を遠心分離し、PBSで2回洗浄する。2回目の洗浄の前に、一定分量を採取し、細胞数と生存率を測定する。2回目の遠心分離後、上清を除去し、細胞ペレットを適切な量の凍結保存液に再懸濁し、PCF用量を生成する。
【0074】
本明細書に記載の生殖組織由来細胞を得るための、生殖組織を処理する方法を最適化するために、本発明は、避妊手術または去勢手術から生殖組織を得る工程と、前記生殖組織を細断する工程と、前記細断した生殖組織を酵素溶液で消化して組織懸濁液を得る工程と、往復機械的撹拌(例えば、揺動)が組織懸濁液に加えられるように、前記組織懸濁液を撹拌する工程と、組織懸濁液を濾過して、単一細胞懸濁液画分および部分的に消化された生殖組織画分に分離する工程と、細胞懸濁液画分を遠心分離して第1の遠心分離細胞ペレットを形成し、第1の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して単一細胞懸濁液とする工程と、細胞が部分的に消化された生殖組織画分からインキュベーション培地中に移動するように、部分的に消化された生殖組織画分をインキュベーション培地(例えば、37℃)中でインキュベートする工程と、インキュベーション培地を遠心分離して第2の遠心分離細胞ペレットを形成し、第2の遠心分離細胞ペレットを再懸濁して移動細胞懸濁液とする工程と、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を合わせて生殖組織由来細胞を得る工程と、を含む。
【0075】
本発明の生殖組織処理方法を最適化するために、強化された手動の機械的処理技術の使用を利用し得る。具体的には、より大きな機械的撹拌の適用を使用し得る。例えば、最適化された手動方法において、組織細片および酵素消化液を収容したチューブを、37℃での培養期間中、10分ごとに手で振る(40回振る)ことができる。
【0076】
標準酵素消化液と揺動を用いて、上述の非最適化法で処理した一連のイヌの子宮組織において、処理した避妊組織1gあたりの生細胞の平均収量は、細胞1.3×10個/g(n=6)であった。本明細書で概説した、手動による機械的撹拌(10分ごとに40回振盪)を強化し、標準的な酵素消化液プロトコールで処理したイヌの子宮組織について、処理した避妊組織1gあたりの生細胞の平均収量は細胞7.0×10個/g(n=5)であった。
【0077】
本発明の生殖組織処理方法を更に最適化するために、強化された非手動の機械的処理技術の使用を利用し得る。例えば、機械的撹拌は、PTR-60 Rotator(Grant USA,Inc.、Beaver Falls、PA)のような回転装置を使用して適用できる。PTR-60は、プラットフォームの長軸を中心とした回転、往復運動、プラットフォームの振動の3つのモードで機械的に撹拌する。これらの運動は、回転を少なくし、往復/振動の機械的撹拌を多く適用できるようにプログラムできる。その他の設定としては、プラットフォームの角度/振動の持続時間、ならびに往復運動の円弧およびその持続時間等が挙げられる。これら3つの機械的撹拌モードは、単一のプロセスに統合され、指定された時間持続できる。PTR-60 Rotatorと、コラゲナーゼMA酵素製剤およびサーモリシン(いずれもVitaCyte,Inc.から)を含む酵素製剤との使用により、平均細胞収量/gは、避妊組織で5.54×10(n=5)、去勢組織で7.16×10(n=5)であった。これらのいずれの結果も、標準的方法(標準酵素消化液を用いた揺動)で処理した顧客所有の試料から得られた値を大幅に上回っており、標準的方法における、避妊組織の平均細胞収量/gは1.3×10(n=6)であり、去勢組織の平均細胞収量/gは1.8×10(n=6)であった。
【0078】
本発明の生殖組織処理法を最適化するために、部分的に消化された組織片および細胞懸濁液の取り扱いを改良できる。通常のプロトコールにおいては、組織消化物を一組のセルストレーナーに入れて、組織消化物中に存在する単一細胞を組織片から分離し、その後セルストレーナーを廃棄する。本発明の最適化されたプロトコールにおいて、単一細胞懸濁液を組織片から分離した後、組織片を含む1個または複数のセルストレーナーを滅菌6ウェルプレート中の少量のインキュベーション培地(例えば、PBS)に入れ、37℃で1~2時間インキュベートする。追加培養期間の終わりに、組織片をPBSですすぎ、組織片に付随する細胞を更に回収し、ウェル内の液を回収する。採取した液を遠心分離し、上清を捨て、ペレットを少量のPBSで再懸濁する。この調製物は、先に得られた単一細胞懸濁液と組み合わされ、しばらくの間4℃で保存される。組み合わせた一定分量について、細胞数と生存率を測定し、調製物を遠心分離する。上清を除去し、ペレットを適切な容量に再懸濁し、1回分または複数回分の臨床用量を製造する。部分的に消化された組織片からの経時的な細胞移動が証明されているので(表1)、本発明の方法は、組織片をPBS中でインキュベートする限られた期間中に放出された追加の細胞を回収することを意図している。
【0079】
本発明を更に最適化するために、部分的に消化された生殖組織を凍結保存してもよい。強化機械的撹拌法において、組織の細胞外マトリックスの一部を消化する酵素溶液で、組織片を処理して、細胞を放出させる。しかし、消化の程度は、消化される組織の物理的寸法および密度等、組織片の特性によって異なる。
【0080】
6ウェルプレート中の組織片を長期間静置した後を含めて、単一細胞懸濁液が回収されたら、組織片を回収して、凍結バイアル中の凍結保存液に懸濁し、上記の臨床用量に使用されたものと同様に、LN貯蔵庫に入れることができる。部分的に消化された組織片を凍結保存する利点は、生細胞の存在に依存する。
【0081】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、生殖組織から単離された単一細胞の総収量の改善をもたらす。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞を得るために、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせることによって、生殖組織から単離された単一細胞の総収量が改善する。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞を得るために、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせることによって、細胞懸濁液画分単独で単離された単一細胞の総収量と比較して、生殖組織から単離された単一細胞の総収量が、少なくとも50%、100%、120%、140%、160%、180%、200%、220%、240%、260%、280%、300%、320%、340%、360%、380%、もしくは400%改善される、または前述の割合のいずれか2つによって定義される範囲内の任意の割合が改善される。いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞を得るために、単一細胞懸濁液および移動細胞懸濁液を組み合わせることによって、生殖組織から単離された単一細胞の総収量は、生殖組織1グラム当たり、約3×10個、4×10個、5×10個、6×10個、7×10個、8×10個、9×10個、もしくは10個、または前述の細胞数のいずれか2つによって規定される範囲内の任意の細胞数となる。
【0082】
生殖組織由来細胞の作用メカニズム
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能としては、抗炎症/免疫調節効果が挙げられる。本発明の方法を使用して得られた生殖組織由来細胞は、炎症反応を制限し、抗炎症経路を促進する。炎症環境に存在する場合、本発明の細胞は、免疫細胞のサイトカイン分泌プロフィールを変化させ得、炎症促進環境から抗炎症環境または寛容環境へと移行させる。
【0083】
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能としては、栄養支持が挙げられる。本発明の生殖組織由来細胞は、血管再生、組織改造、分化、抗アポトーシス事象を支援する生理活性レベルのサイトカインおよび成長因子を分泌する。本発明の細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)および形質転換増殖因子β1(TGF-β1)のような多くの血管再生関連サイトカインを分泌する。
【0084】
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能としては、分化が挙げられる。本発明の生殖組織由来細胞は、脂肪系、骨系、軟骨系、筋系、心筋系、内皮系、肝臓系、神経系、上皮系、および造血系への分化を含む多様な可塑性を示すことが期待される。従って、本発明の細胞は、例えば、アキレス腱修復、指屈筋腱損傷、変形性関節症における半月板損傷の修復、骨の再生および修復等、移植生着と分化を介して、損傷組織や疾患組織を修復できる。
【0085】
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能は自動追尾を示す。本発明の生殖組織由来細胞は、自動追尾または走化性に関与しており、細胞が身体のある部位から、その治療効果が必要とされる遠くの損傷部位に移動する。この機能は、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)等のサイトカインの分泌に起因する。
【0086】
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能としては、組織の修復および血行再建が挙げられる。本発明の生殖組織由来細胞は、内皮前駆細胞、幹細胞のほか、血小板由来増殖因子-BB(PDGF-BB)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、形質転換増殖因子β1(TGF-β1)、マクロファージ炎症性タンパク質-β1等のサイトカインを分泌して、血管再生および血管新生を補助する前駆細胞を含み得る。
【0087】
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞の機能として、抗アポトーシスが挙げられる。アポトーシスは、プログラムされた細胞死または「細胞の自殺」と定義され、遺伝的に制御された事象である。本発明の生殖組織由来細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)、形質転換増殖因子β1(TGF-β1)、肝細胞増殖因子(HGF)等の細胞生存を支援する因子を発現することにより、細胞のアポトーシスを減少させる。
【0088】
生殖組織由来細胞の凍結保存と解凍
いくつかの実施形態において、生殖組織由来細胞組成物は、選択されたレベルの生細胞組成物を維持する方法で、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む水性凍結保存培地と組み合わされる。DMSOは、細胞膜に一時的な穴を開け、分子の迅速な膜間通過を可能にするために凍結保存で使用される化学物質であり、凍結保存中の細胞毒性を軽減することが示されている。凍結保存中の細胞毒性も減少させるDMSOの代替物、例えばDMSOを含まない凍結保存培地も、本発明により考慮される。DMSOを含む生殖組織由来細胞組成物は、抗アポトーシス剤を更に組み合わせ得る。細胞とDMSOの組み合わせは、任意の適切な方法で行える。細胞とDMSOおよび抗アポトーシス剤との組み合わせは、生細胞と、DMSOおよび抗アポトーシス剤の両方を含む溶液とを組み合わせること、または細胞と、DMSOを含む溶液と、抗アポトーシス剤を含む溶液とを組み合わせることが挙げられ、任意の適切な方法で行える。凍結保存培地は、DMSOおよび抗アポトーシス剤以外の薬剤を含むことができ、他の凍結保存剤を含むことが理解される。しかしながら、好ましい形態において、DMSOは、水以外の凍結保存媒体の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、もしくは少なくとも20%、または前述の割合のいずれか2つによって定義される範囲内の任意の割合を構成する。
【0089】
凍結保存される好ましい調製された生殖組織由来生細胞組成物において、凍結保存培地は、約10%以下、5%以下または約3%以下、約1%~3%の範囲または約1.5%~約2.5%の範囲の濃度のDMSOを含む。ある好ましい形態において、凍結保存培地は、約10%の濃度のDMSOを含む。
【0090】
凍結保存される、好ましい調製された生殖組織由来生細胞組成物において、生細胞は、少なくとも約20万細胞/ml、少なくとも約50万細胞/ml、少なくとも約100万細胞/ml、少なくとも約200万細胞/ml、少なくとも約500万細胞/ml、もしくは少なくとも約1000万細胞/mlの濃度、または前述の細胞濃度のいずれか2つによって規定される範囲内の任意の細胞濃度で存在する。
【0091】
本発明の方法を使用して得られた生殖組織由来生細胞組成物は、4℃または液体窒素下での保存前および保存後、ならびに12℃以下または氷上での出荷後のいずれにおいても、高い生存性を示す。特定の実施形態において、本発明の生細胞組成物の調製直後に、標準的な計数法、例えばトリパンブルー色素排除法によって決定される生細胞の割合は、少なくとも30%、40%、50%、60%、65%、70%、80%、90%または95%である。関連する実施形態において、解凍後、標準的な計数法、例えばトリパンブルー色素排除法によって決定される生細胞の割合は、少なくとも30%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、85%または90%である。別の実施形態において、24時間未満の冷蔵保存またはアイスパックでの出荷後、標準的な計数法によって決定される生細胞の割合は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。
【0092】
生細胞および上記凍結保存用培地を含む生殖組織由来生細胞組成物は、未凍結(液状)の状態で、凍結保存用バイアルや凍結保存用バッグ等の凍結保存用容器で調製してもよいし、そこに送達してもよいし、またはそれ以外の方法で提供してもよい。好ましい形態において、各凍結保存用容器は約1ml~約10mlの細胞組成物、より好ましくは約1ml~約5mlの組成物、最も好ましくは約1ml~約3mlの組成物を含む。本明細書の実施形態で使用するための好ましい凍結保存用バイアルは市販されている。
【0093】
生細胞組成物を収容した凍結保存用容器を、凍結保存条件に付すことによって、組成物を凍結保存することができる。例えば、凍結保存条件は、生細胞組成物が凍結する温度で、凍結保存用容器を保存することを含むことができる。例えば、細胞組成物は、約-60℃以下、例えば約-60℃~-150℃、より好ましくは約-60℃~-100℃、更に好ましくは約-70℃~-90℃の範囲の温度で凍結保存状態に維持できる。特定の形態において、細胞組成物は約-80℃/-5℃の温度で凍結保存状態に維持できる。いくつかの実施形態において、生細胞組成物を収容している凍結保存用容器は、手術施設、製造施設、貯蔵施設、流通施設、または診療施設に近い他の施設において、凍結保存条件下(例えば、液体窒素に浸す、および/または機械式冷凍庫に入れる)で保存でき、生細胞を収容している凍結保存用容器は、凍結保存条件(例えば、液体窒素システムおよび/またはドライアイス/凍結炭酸ガスを含む輸送用パッケージの中)を維持したまま診療現場に輸送でき、生細胞を収容している凍結保存用容器は、診療現場(例えば、動物病院またはクリニック)において、好ましくは本明細書に開示されるような機械式冷凍庫内で、投与に必要となるまで凍結保存条件下で保存できる。
【0094】
細胞および水性凍結保存培地(例えば、DMSOを含むもの)を含む好ましい生殖組織由来生細胞組成物は、約-60℃~-196℃の範囲の温度での保存中に細胞の生存能力を維持する良好な能力を示す。例えば、最初の患者由来試料の組成にもよるが、-60℃~-196℃の範囲の温度で6ヶ月間、より好ましくは-60℃~-196℃の範囲の温度で1年間保存した場合、好ましい組成物は、最初の生細胞の20%以下、10%以下の生細胞、または5%以下の生細胞を失う。比較的適度な冷却条件下でのこのような保存安定性によって、有利な製品流通および使用方法が可能になり、それによって、複数の診療現場拠点(例えば、10ヵ所以上、または20ヵ所以上)は、機械式冷凍庫を維持でき、その機械式冷凍庫は、本明細書に記載の細胞組成物を収容する複数の凍結保存用容器が保存される。このような保存条件下で細胞の生存率が安定することで、診療の現場で許容可能な保存期間を提供できる。いくつかの実施形態において、細胞の生存率は数時間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間以内)安定または安定に近い状態を維持する。投与の直前に(例えば、6時間以内、または2時間以内、または1時間以内)、凍結保存用容器を冷凍庫から取り出し、その中の組成物を解凍して、追加の操作(例えば、以下のように希釈する)および/または投与できる。
【0095】
本明細書のいくつかの方法において、細胞組成物を解凍するために、凍結保存用容器を、凍結した細胞組成物が液状に戻る温度まで、加温できる。これは任意の適切な方法で達成できる。例えば、容器は、無菌的に密封されたまま、室温(例えば約20℃~25℃)の気体環境(例えば、診療現場での室内空気環境)に晒して、細胞組成物を解凍できる。別の形態において、容器を加熱された液体またはビーズバス中でインキュベートして細胞組成物を解凍することができ、例えば、約33℃~37℃、好ましくは約37℃の範囲の温度に加熱する。細胞組成物の凍結保存とそれに続く解凍は、好ましくは細胞生存能の高い維持をもたらし、例えば解凍された組成物は、少なくとも60%~少なくとも90%の生細胞の回収を可能にする。
【0096】
解凍後、凍結保存用容器から生細胞組成物を取り出すことができる。例えば、いくつかの実施形態において、凍結保存用容器は隔壁を有しており、この隔壁に針または他のカニューレデバイスを通すことにより、容器内の無菌環境を維持しながら、容器の内容物にアクセスできる。その後、針やその他のカニューレデバイスを使用して、細胞組成物を容器から無菌的に、例えばシリンジバレルまたはその他の器に取り出せる。他の実施形態において、凍結保存用容器内の細胞組成物にアクセスし、生細胞組成物を取り出すための他の方法を使用してもよいことが理解されよう。
【0097】
いくつかの形態において、生細胞組成物は、凍結保存用容器から取り出したときにその組成物を改変せずに、患者に投与することができ、または研究もしくは他の用途に利用できる。いくつかの実施形態において、生細胞組成物は、患者への投与に使用するため等、使用のために改変される。改変としては、例えば、生細胞組成物への1種または複数種の物質の添加が挙げられる。
【0098】
好ましい方法において、生細胞組成物を水性培地と組み合わせて、組成物の細胞濃度を希釈し、生細胞組成物の他の成分、例えばDMSOの濃度も潜在的に希釈する。有益な態様において、水性培地は生理学的に許容される水性液体、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水またはその他の緩衝化生理食塩水であり得、場合によっては他の添加物を加え得る。また、水性培地は、所与の組成物の単一容量として、または同一組成物もしくは異なる組成物の複数容量として、生細胞組成物と組み合わせることができることが理解されよう。
【0099】
好ましい方法において、患者への投与や他の用途のために希釈した生細胞組成物を調製するために、水性培地は、細胞組成物と少なくとも2:1、少なくとも3:1、少なくとも5:1、または少なくとも8:1の体積比で組み合わせる。より好ましい形態において、このような体積比は、約3:1~約20:1、または約5:1~約15:1の範囲であろう。調製された希釈組成物中の細胞濃度およびDMSO濃度は、希釈前の出発細胞組成物に対して、相応して低下することが企図される。しかしながら、いくつかの形態において、希釈に使用される水性培地は、希釈細胞組成物中の細胞、およびDMSOのいくらかの希釈をもたらすように、通常、出発細胞組成物中の濃度より低いとはいえ、それ自体、いくらかの濃度の細胞、添加剤、薬剤および/またはDMSOを含み得る。
【0100】
解凍した細胞組成物と水性培地との組み合わせは、任意の適切な容器または器中で行われる。有益な様式において、組み合わせは第2の容器(細胞が保存または保持された凍結保存用容器または他の容器以外)で行われる。この第2の容器は、細胞組成物および/または水性培地のような物質を第2の容器に無菌的に移すための、例えば隔壁のような投入ポートまたは他の投入部材を含み得る。いくつかの形態において、細胞組成物と水性培地を組み合わせることには、例えば、いずれかの順序で、または同時に、これらの両方を第2の容器に送達することを含み得る。他の形態において、第2の容器は無菌状態の水性培地を既に収容している事前製造容器として提供でき、細胞組成物は事前製造容器に加え得る。これらの実施形態のいずれにおいても、第2の容器はバッグであり得、および/または、例えば患者への送達のため、調製された希釈細胞組成物をバッグまたは他の容器から送達するために、投入ポートまたは他の部材から間隔が置かれた排出ポートを有し得る。第2の容器は、例えば医療における患者治療用の一般的な生理食塩水バッグに見られるように、材料を無菌的に投入するための隔壁と、材料を排出するためのバルブ付きポートとを有するバッグであり得る。解凍された細胞組成物、および潜在的な希釈培地(バッグ内で事前製造されていない場合)は、隔壁を通して針により無菌的にバッグ内に送達でき、調製された希釈細胞組成物は、バルブ付きポートを通して、患者に無菌的に送達できる。
【0101】
特定の実施形態において、水性培地は生細胞組成物と組み合わされ、調製された希釈細胞組成物は、その初期レベル(例えば、凍結保存細胞組成物について上記に示したレベルのいずれか)から、約5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.3%、0.1%、0.05%以下の希釈濃度、または前述の濃度のいずれか2つによって定義される範囲内の任意のDMSO濃度に減少した、DMSO濃度を有する。いくつかの実施形態において、DMSOの濃度は、約0.3%以下である。いくつかの実施形態において、DMSOの濃度は、約0.05%~約0.5%の範囲、または約0.1%~約0.3%の範囲である。希釈された細胞組成物中の細胞濃度に関して、水性培地は、通常、細胞を含まず、希釈生細胞組成物の細胞濃度は、出発細胞組成物のそれよりも低く、例えば約10万細胞/ml~約2000万細胞/ml、または約25万細胞/ml~約500万細胞/ml、または約50万細胞/ml~約200万細胞/mlの範囲となる。特定の形態において、調製された希釈細胞組成物の細胞濃度は、約100万細胞/mlである。
【0102】
本明細書の特定の実施形態において、水性培地は、解凍後の細胞死を減少させるための薬剤または添加剤、例えば、抗アポトーシス剤、添加剤または化合物を含む。抗アポトーシス剤または添加剤の例としては、例えば、抗トロンボスポンジン抗体、Bcl-2の発現および細胞の生存を促進する化合物、ラジカル酸素種産生の阻害剤、例えば、ビタミンE、メラトニン、レスベラトロール、カルノシン、コエンザイムQ10、カスパーゼ阻害剤、GSK-3B阻害剤を含むが、これらに限定されない:リチウム、パウロン、インジルビン、チアゾール、アミノピリミジン、ビシンドール-マレイミド(SB-216763およびSB-41528、グラクソスミスクライン社が開発した)、PPARアゴニスト(例えば、ロシグリタゾン、およびトログリタゾン)、ミノサイクリン、Cox-2阻害剤、またはセレコキシブが、挙げられる。追加の保護用水性組成物としては、Cell Thawing Medium(BioLife Solutions)またはHypoThermosol(BioLife)のような市販品が挙げられる。従って、水性培地は細胞組成物と組み合わされ、調製された希釈細胞組成物は、DMSOの濃度よりも高い抗アポトーシス剤濃度、および/または少なくとも約0.1%、より好ましくは少なくとも約0.3%の抗アポトーシス剤濃度を有し、いくつかの実施形態において約0.1%~約6%の範囲または約0.3%~約2%の範囲の抗アポトーシス剤濃度を有する。
【0103】
水性培地は、任意の適切な濃度の薬剤または添加剤を含み得る。例えば、凝集防止添加剤をこれらの目的に使用し得る。特定の態様において、水性培地は、約1重量%~約20重量%、または約1重量%~約10重量%、または約2重量%~約7重量%、または約2.5重量%~約5重量%、または約3重量%~約4重量%の濃度の薬剤または添加剤、例えば凝集防止剤または添加剤を含む。水性培地は、本明細書で規定する薬剤または添加剤を含むか否かにかかわらず、他の成分を含むこともでき、および/または特定の浸透圧を有することもできる。例えば、生理学的に許容されるレベルの塩化ナトリウム、例えば約0.5%~約1.5%の範囲のレベル、例えば約0.9%(等張)の塩化ナトリウムを含むことができる。水性培地は、緩衝液、例えばリン酸緩衝液も含むことができ、約6~8、または約6.8~7.8、または約7~7.5の範囲のpHを有することができる。水性培地はまた、200~600ミリオスモル/kg(mosm/kg)、または250~500mosm/kg、または250~400mosm/kgの範囲の浸透圧を有することができる。
【0104】
薬剤または添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤を含有する水性培地を、DMSOを含有する細胞組成物に組み合わせて、DMSOとともに(例えば、DMSOを上記で規定した希釈細胞組成物に対する濃度で)、適当な濃度の薬剤または添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤を有する、薬剤または添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤を含有する希釈細胞組成物を調製できる。調製された希釈生細胞組成物中の薬剤または添加剤、例えば凝集防止剤または添加剤の濃度は、特定の実施形態において、約1重量%~約10重量%の薬剤または添加剤、例えば凝集防止剤または添加剤、または約2重量%~約7重量%、または約2.5重量%~約5重量%、または約3重量%~約4重量%の範囲である。加えて、または代替的に、薬剤または添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤の濃度は、薬剤または添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤を含まない対応する細胞組成物と比較して、細胞の凝集を阻害するのに有効であり得る。凝集の阻害は、例えば細胞組成物の調製から少なくとも10分後、細胞組成物の調製から少なくとも20分後、または細胞組成物の調製から少なくとも60分後の時点で、調製された細胞組成物中に細胞の塊が、少しおよび/または小さく形成されることによって観察できる。細胞組成物の調製後、かなりの期間、凝集を抑制する薬剤や添加剤、例えば、凝集防止剤または添加剤の能力は、静脈または動脈アクセスによって、および/または細胞組成物の局所移植により、例えば、患者の血流に細胞組成物を注射または注入することによって、例えば、調製した細胞組成物を患者に投与するのに十分な時間を提供できる。細胞組成物の治療用途において、比較的長時間、例えば、少なくとも10分、少なくとも20分、少なくとも60分かけて、組成物を患者に投与できる。
【0105】
本明細書に開示されるように、調製された希釈生細胞組成物は、特定濃度の細胞、DMSO、薬剤もしくは添加剤、例えば抗アポトーシス剤もしくは添加剤、および/または薬剤もしくは添加剤、例えば凝集防止剤もしくは添加剤を有することができる。最小濃度もしくは最大濃度、または濃度の範囲が記載されている場合、調製された希釈生細胞組成物において記載された量を達成するために、出発生細胞組成物の希釈条件を制御できることが理解されよう。これらの条件としては、例えば、希釈前の出発生細胞組成物中の成分濃度、出発生細胞組成物に対して使用される水性培地の容量比、水性培地中の同定された成分の濃度(もしあれば)が、挙げられる。
【0106】
本明細書における追加の実施形態としては、本明細書に記載の希釈細胞組成物の調製に有用な製品が挙げられる。一実施形態において、希釈細胞組成物の調製に有用な水性培地が提供される。水性培地は、本明細書で規定する成分および量を含有し得る。同様に、水性培地は、キットに含まれる容器内に無菌形態で提供される。その容器は、バイアル、バッグ、その他の容器であり得る。特定の形態において、容器は、本明細書で上述した「第2の容器」の構成を有し、第2の容器では、希釈細胞組成物が調製され、第2の容器は、例えば、上述したように、入口ポートまたは他の部材(例えば、ニードル隔壁)および離れた排出ポートを含む。本明細書に開示されたキットは、水性培地を収容する容器と、1種または複数種の追加的な構成要素、例えば注射器および取付け済みまたは取り付け可能な針等の液体移送装置を含むがこれらに限定されず、希釈細胞組成物を調製するために使用される、出発細胞組成物を収容している容器も潜在的に含み得る。出発細胞組成物を収容している容器は、凍結保存状態(例えば、キットと一緒に冷凍で出荷)または非凍結保存状態(例えば、以前凍結保存されていた細胞を解凍した場合)の細胞組成物を含むことができ、凍結保存細胞組成物がDMSOを上記で規定した量のいずれかで含む実施形態を含む。本明細書に開示されるキットはまた、患者への投与前に調製された希釈細胞組成物を通過させることができる少なくとも1個のフィルター、例えばヘモネートフィルター、および/または患者への投与中に希釈細胞組成物を通過させることができるチューブを含み得る。
【0107】
細胞送達
用語「個体」、「患者」、「対象」は、互換的に、哺乳動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、家畜哺乳動物(例えば、イヌ科またはネコ科)、農業哺乳動物(例えば、ウマ科、ウシ属、ヒツジ、ブタ)、または実験哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター)を指す。
【0108】
本明細書で使用される場合、「治療する」および「治療」という用語は、その用語が適用される疾患もしくは状態(すなわち、ドライアイ症候群もしくはドライアイ疾患)、またはそのような疾患もしくは状態の1種もしくは複数種の症状のいずれかの発症を遅らせること、その進行を遅らせることもしくは逆転させること、その重症度を低減すること、またはそれを緩和することもしくはそれを予防することを指す。
【0109】
「軽減する」という用語は、その病状もしくは疾患の1種または複数種の症状の低減または除去、および/またはその病状もしくは疾患の1種または複数種の症状の発症速度もしくは重症度の低減または遅延、および/またはその病状もしくは疾患の予防を指す。
【0110】
「有効量」または「治療上有効な量」という用語は、所望の生物学的結果(例えば、1種または複数種の症状の予防、遅延、低減または抑制)を誘導するのに十分な活性剤の量を指す。その結果、疾患の兆候、症状、原因の緩和、または生物学的システムの望ましい変化がもたらされる。本明細書において、「治療上有効な量」という用語は、一定期間にわたって患部に繰り返し適用した場合に、病状に実質的な改善をもたらす製剤の任意の量を示すために使用される。その量は、治療される症状、症状の進行段階、適用される製剤の種類および濃度によって、異なる。任意の例における適切な量は、当業者には容易に明らかであろうし、日常的な実験によって決定できるであろう。
【0111】
本明細書で使用される「治療効果」という用語は、上記のような治療的利益および/または予防的利益を包含する。予防的効果としては、疾患もしくは状態の出現を遅延もしくは排除すること、疾患もしくは状態の症状の発症を遅延もしくは排除すること、疾患もしくは状態の進行を減速、停止、もしくは逆転させること、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0112】
本明細書において、「投与する」とは、局所投与および全身投与を指し、例えば、経腸投与および非経口投与を含む。本発明で使用される細胞の投与経路としては、例えば、坐剤としての投与、静脈内(「iv」)、腹腔内(「ip」)、筋肉内(「im」)、皮内、髄腔内(「it」)、病巣内、鼻腔内、皮下(「sc」)投与が挙げられる。また、標的組織または損傷組織に局所的に投与することもできる。例えば、ドライアイ障害の場合、細胞は、眼周囲的、涙腺内的、涙腺周囲的、結膜下的、眼瞼間質、例えば眼瞼縁、マイボーム腺内またはその周囲に投与、生着または移植できる。投与は、細胞によって分泌される免疫抑制剤が、標的組織、例えば、涙腺および/またはマイボーム腺および/または結膜の杯細胞に対する破壊または損傷を予防、低減または阻害するような任意の適切な経路によって行うことができる。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、細動脈内投与、脳室内投与、皮内投与、髄腔内投与、皮下投与、腹腔内投与、直腸内投与が含まれる。
【0113】
特定の実施形態において、生細胞集団は、患者への送達に適合し、および適切な組成物、すなわち生理学的に適合する組成物内に存在する。従って、生細胞集団の組成物は、多くの場合、1種または複数種の緩衝剤(例えば、中性緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン等)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはグリシン等のアミノ酸、抗酸化剤、静菌薬、EDTAまたはグルタチオン等のキレート剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム等)、製剤をレシピエントの血液と等張、低張または弱高張にする溶質、懸濁化剤、増粘剤および/または保存剤を更に含むであろう。
【0114】
細胞集団および関連組成物は、様々な異なる手段によって、患者に提供される。調製された細胞組成物は、任意の適切な方法で、患者に投与し得る。特定の実施形態において、それらは局所的に、例えば、実際に傷害が発生した部位、または潜在的に傷害が発生した部位に提供される。一実施形態において、これらは、傷害または疾患の可能性がある部位または実際にある部位に、組成物を注射するために注射器を使用して提供される。他の実施形態において、これらは、全身的に提供される。特定の形態において、細胞組成物は、例えば静脈または動脈に送達することによって、患者の血流中に全身的に送達される。一実施形態において、それらは静脈または動脈によって血流に投与される。特定の投与経路は、治療または予防の対象となる疾患または傷害の部位と性質に、大きく依存する。従って、本発明は、経口、非経口、静脈内、動脈内、鼻腔内、皮内、髄腔内、筋肉内投与を含むがこれらに限定されない、既知の利用可能な方法または経路を介して、本発明の細胞集団または組成物を提供することを含む。患者の治療においては、これらの投与方法のいずれか、またはその任意の組み合わせを使用し得る。
【0115】
ある種の併用治療において、調製された本明細書中の細胞組成物の第1の量を患者の血流中に全身的に送達でき、調製された本明細書中の細胞組成物の第2の量(例えば、第1の量とともにまたは第1の量とは別に調製され、同じ型の細胞または異なる型の細胞を含む)を、患者の1箇所または複数箇所の骨格関節またはその近傍に局所的に移植して、関節炎状態、例えば本明細書中で同定された関節炎状態のいずれかを治療する。また、本明細書の患者治療での、いくつかの実施形態においては、本明細書に記載の調製された細胞組成物の単回投与を行うことができるが、他の実施形態においては、本明細書に記載の調製された細胞組成物の複数回の別個の投与を経時的に行うことができる(例えば、毎週または毎月の投与)。更なる実施形態において、調製された、希釈細胞組成物は、例えば、存在し得る細胞の塊を除去するために、患者に投与する前に、濾過できる。特定の形態において、細胞組成物は、患者の血流、例えば患者の静脈または動脈に通じるチューブ内に配置されたインラインフィルターに、細胞組成物を通過させることができる。このようなフィルターは、ある種の変形例において、約200μm以下の粒径カットオフ(すなわち、約200μmを超える最大断面寸法を有する粒子を通過から除外する)、または約170μm以下の粒径カットオフ、または約100μm以下の粒径カットオフを有し、一方、単一懸濁細胞がフィルターを通過することを許容する。
【0116】
具体的な一実施態様において、治療方法は、イヌ、ネコまたはウマの生殖組織から単離され、本発明の方法に従って調製された生細胞を含む組成物を、同一または異なるイヌ、ネコまたはウマの腱または靭帯のような実際のまたは潜在的な損傷部位に注射する工程を含む。
【0117】
例えば、経口投与、非経口投与、静脈内投与、鼻腔内投与、髄腔内投与、および筋肉内投与および製剤化を含む様々な治療レジメンにおいて、本明細書に記載の細胞集団および組成物を使用するための適切な投与および治療レジメンの開発は、やはり、治療または予防される疾患や傷害および投与経路によって、大きく左右される。適切な投与量および治療レジメンの決定は、当技術分野で一般的に知られている情報に基づいて、容易に行うことができる。
【0118】
治療は、単回治療または複数回治療を含み得る。特に、予防の目的で、例えば動物のレース(例えば、イヌやウマのレース)のような、傷害を引き起こす可能性があるストレスの前に、本発明の生細胞集団を投与することが、ある種の実施形態においては、考えられている。
【実施例1】
【0119】
標準生殖組織処理プロトコール
顧客のペットから避妊手術または去勢手術からの組織は、動物病院で採取されて、専用の容器に入れられ、Gallant Laboratoryに輸送される。組織は、標準化された受入/採取プロトコールに従って処理される。組織が処理に受け入れられると、研究室に移送されてPCF用量の生成が開始され、それは、生物学的安全キャビネット(BSC)を使用して、無菌的な方法で行われる。
【0120】
BSC内で、組織を細片に細断する。細断後、酵素溶液を加えて組織片を消化する。酵素溶液は、市販のコラゲナーゼと中性プロテアーゼ製剤(DE10、VitaCyte)を含む。
【0121】
37℃に設定した乾熱培養装置内の揺動台の上で、組織を懸濁状態で40分間保持する。試料は、40分間消化された後、BSCに戻される。ウシ胎児血清(10%、FBS)を含有する培養液で反応を停止させ、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈する。
【0122】
組織消化懸濁液を、積み重ねセルストレーナー(300または100μm/70μm/40μmスタックドストレイナー(Coming))に通し、放出された細胞を組織片から分離する。フィルターに保持された断片をPBSで洗浄し、その後、セルストレーナーを廃棄する。集めた細胞を遠心分離し、PBSで2回洗浄する。
【0123】
2回目の洗浄の前に一定分量を採取し、細胞数と生存率を測定する。2回目の遠心分離後、上清を除去し、細胞ペレットを適切な量の凍結保存液に再懸濁し、PCF用量を生成する。
【実施例2】
【0124】
最適化された生殖組織処理プロトコール
PCFを生成するための強化された手動機械的処理技術の使用
【0125】
上記の標準プロトコールに対する重要な変更点は、より大きな機械的撹拌の適用である。改変マニュアル法において、組織片および酵素消化液を収容するチューブを、37℃での培養期間中、10分ごとに手で振る(40回振る)。標準酵素消化液を用いる標準プロトコールで処理した一連のイヌ子宮組織において、処理された避妊組織1gあたりの生細胞の平均収量は、細胞1.3×10個/gであった(n=6)。この項で概説した、手動による機械的撹拌を強化し、標準的な酵素消化液のプロトコールで処理したイヌの子宮組織について、処理した避妊組織1gあたりの生細胞の平均収量は、細胞7.0×10個/g(n=5)であった。
【0126】
PCFを生成するための強化された非手動機械的処理技術の使用
【0127】
PTR-60 Rotator(Grant USA,Inc.、Beaver Falls、PA)等の回転装置を使用して、機械的撹拌を適用し得る。PTR-60は、プラットフォームの長軸を中心とした回転、往復運動、プラットフォームの振動の3つのモードで機械的撹拌を行う。これらの運動は、回転を少なくし、往復/振動の機械的撹拌を多く適用できるようにプログラムできる。その他の設定には、プラットフォームの角度/振動の持続時間、往復運動の円弧およびその持続時間等が挙げられる。これら3つの機械的撹拌モードは、単一のプロセスに統合され、指定された時間持続できる。
【0128】
PTR-60 Rotatorと、コラゲナーゼMA酵素製剤およびサーモリシン(いずれもVitaCyte社製)を含む酵素製剤との使用により、平均細胞収量/gは避妊組織で5.54×10個(n=5)、去勢組織で7.16×10個(n=5)であった。これらの結果はいずれも、標準的方法で処理した顧客所有の試料から得られた値を大幅に上回っており、避妊組織の平均細胞収量/gは1.3×10(n=6)であり、去勢組織の平均細胞収量/gは1.8×10(n=6)であった。
【0129】
細胞分離後の組織片の取り扱いを改変
【0130】
標準プロトコールにおいては、組織消化物を一組のセルストレーナーに入れ、組織消化物中に存在する単一細胞を組織片から分離した後、セルストレーナーを廃棄する。標準プロトコールの更なる改変として、単一細胞懸濁液を組織片から分離した後、組織片を含む1個または複数のセルストレーナーを滅菌6ウェルプレート中の少量のPBSに配置し、37℃で1~2時間インキュベートする。追加培養期間の終わりに、組織片をPBSですすぎ、組織片に付随する細胞を更に回収し、ウェル内の液を回収する。
【0131】
回収液を遠心分離し、上清を捨て、ペレットを少量のPBSに再懸濁する。この調製物は、プロセスにおいて先に得られた単一細胞懸濁液と組み合わされ、しばらくの間4℃で保存される。組み合わせた一定分量について、細胞数と生存率を測定して、調製物を遠心分離し、上清を除去し、ペレットを適切な容量に再懸濁し、PCF用量を産生する。部分的に消化された組織片からの経時的な細胞移動が証明されているので(表1)、本発明の方法は、組織片をPBS中でインキュベートする限られた期間中に放出された追加的な細胞を回収することを意図している。
【0132】
消化組織片の凍結保存
【0133】
強化機械的撹拌法において、組織の細胞外マトリックスの一部を消化する酵素溶液で、組織片を処理して、細胞を放出させる。しかし、消化の程度は、消化される組織の物理的寸法および密度等、組織片の特性によって、さらに、異なる対象から単離された組織によっても異なる。6ウェルプレート内で組織片を長期間静置した後を含めて、単一細胞懸濁液が回収されたら、組織片を回収して、凍結バイアル中の凍結保存液に懸濁し、PCF投与に使用したのと同様に、LN貯蔵庫に置くことができる。部分的に消化された組織片を凍結保存する利点は、生細胞の存在に依存する。
【0134】
上記の強化手動撹拌法(10分ごとに40回振盪)で処理した後に得られた部分的に消化された組織片に生細胞が存在することが、組織片を単一細胞懸濁液から分離した後に培養に配置された実験で、観察された。被覆後1日目に、組織片を培養フラスコから回収し、新しい培養フラスコに移し、2日目、3日目、4日目にこのプロセスを繰り返した。各フラスコ内の細胞を標準的な酵素剥離法で回収し、計数した。2個のドナー子宮組織由来消化物から、手動による機械的撹拌法で得られた細胞の総数を、表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1に示すように、培養組織片から移動する細胞数は、培養時間によって変化し、ドナーにも依存する。しかし、両ドナーから得られた部分的に消化された組織片は、時間の経過とともに組織片から移動できる生細胞が含まれている。
【0137】
酵素消化により得られた部分的に消化された組織片の凍結保存
【0138】
避妊および去勢組織のような、組織の消化を実施して、組織を含まない調製物を得ることができ、「PCFを産生するための標準プロトコール」の項に記載されているように、この調製物は、組織が得られた患者と同じ患者に治療的に使用することを意図している(自家使用)。
【0139】
別の実施形態において、部分的に消化された組織および放出された細胞の両方の凍結保存は、表1に示されるように、組織片に生細胞が存在することによって、支持される。組織の消化後に得られた組織および細胞の保存には、2つの選択肢がある。PCF調製物が治療用量として使用されることを意図している場合、凍結保存された組織はPCF「用量」とは別に保存されるべきである。この実施形態において、PCF用量とは別に、患者の組織片が利用可能である。この準備において、要求に応じて、PCFを供給できる。しかし、患者の顧客/所有者が細胞数を増やすよう要求した場合、PCF調製物と組織片の両方を培養物に入れることができる。一方、PCF調製物を将来常にインキュベートするのであれば、細胞と組織片を同じ容器に一緒に保存するのが有利であろう。組織片と細胞を一緒に保存した調製は、初代細胞画分-組織(PCF-T)と呼ばれる。
【0140】
この準備は、組織を消化して同種間用量を作成する場合に、有効である。この場合、放出された細胞は将来培養されるだけなので、凍結保存中に組織片から細胞を分離する必要はない。部分的に消化された組織片の凍結保存は、表1に示すように、組織片が更なる生細胞の供給源となるように、PCFと組織片を一緒にインキュベートした場合に得られる細胞数を増加させる手段を提供する。患者の細胞をインキュベートする一つの方法は、PCF用量を解凍し、回収細胞を組織培養フラスコに入れることである。部分的に消化された組織片が凍結保存されていれば、凍結保存された組織を回収し、PCF用量から解凍した細胞とともに、組織培養フラスコに入れることができる。このアプローチの利点は、部分的に消化された組織に残っている細胞が培養液に反応して組織片から移動することである。組織内に存在する成長因子も、培養液中に拡散する。組織由来の成長因子および部分的に消化された組織から移動する細胞を加えることにより、患者の細胞をうまく増殖できる可能性が高まり、より多くの治療用量を作り出すことができる。
【0141】
PCF調製物が汚染されていることが判明し、培養に移された場合にも、同様の機会が存在する。患者の凍結保存組織を解凍し、PCF細胞と組み合わせることで、PCF細胞の増殖に成功する可能性が向上する。
【0142】
ドナー組織が同種間用量の作製に使用されることを意図している状況では、バイアル中に細胞および部分的に消化された組織を一緒に保存することにより、新たなドナー組織を入手して処理する必要なく、将来の培養サイクルにおいて、その後の使用のために細胞/組織調製物を保持する機会を提供する。このアプローチは、作業量を管理し、以前に消化された組織および細胞の予備ソースを維持する手段を提供する。
【0143】
先に説明した実施形態の少なくともいくつかにおいて、ある実施形態で使用される1個または複数の要素は、そのような置き換えが技術的に実行可能でない場合を除き、別の実施形態で互換的に使用することができる。当業者であれば、特許請求される主題の範囲から逸脱することなく、上述した方法および構造に対して、様々な他の省略、追加、および変更がなされることが理解されよう。このような修正および変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される主題の範囲内に入ることが意図されている。
【0144】
本明細書における実質的に任意の複数および/または単数の用語の使用に関して、当業者であれば、文脈および/または用途に応じて、複数形から単数形へ、および/または単数形から複数形へ翻訳できる。様々な単数形/複数形の順列は、明確にするために本明細書で明示される場合がある。
【0145】
一般に、本明細書、特に添付の特許請求の範囲において使用される用語(例えば、添付の特許請求の範囲の本体)は、一般に「開放」用語(例えば、「含む」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきであり、「有する」という用語は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む」という用語は「含むが限定されない」と解釈されるべきである等)として意図されることが当業者には理解されよう。当業者であれば更に理解できるであると思われるが、導入された特許請求の範囲の記載の特定の数が意図されている場合、そのような意図は特許請求の範囲に明示的に記載され、そのような記載がない場合、そのような意図は存在しない。例えば、理解の一助として、以下の添付の特許請求の範囲には、特許請求の範囲の記載を導入するために、「少なくとも1個」および「1個または複数」という導入句の用法が含まれる場合がある。しかしながら、このような語句の使用は、不定冠詞「a」または「an」による請求項の記載の導入が、そのような導入がされた請求項の記載を含む特定の請求項を、そのような列挙を1個のみ含有する実施形態に限定することを意味するものと解釈されるべきではない、これは、同じ請求項が導入句「1個または複数」または「少なくとも1個」および不定冠詞「a」および「an」を含む場合であっても同じである(例えば、「a」および/または「an」は、「少なくとも1個」または「1個または複数」を意味すると解釈されるべきである)。請求項の詳述を導入するために使用される定冠詞の使用についても、同じことが言える。加えて、導入された請求項の記載の特定の回数が明示的に記載されている場合であっても、当業者であれば、そのような記載は、少なくとも記載された回数を意味するものと解釈されるべきであることを認識するであろう(例えば、他の修飾語句を伴わない「2回の反復」というそのままの記載は、少なくとも2回の反復、または2回以上の反復を意味する)。更に、「A、B、およびCのうちの少なくとも1個等」に類似する慣例が使用される場合、一般に、そのような構成は、当業者がその慣例を理解する意味で意図される(例えば、「A、B、およびCのうちの少なくとも1個を有するシステム」は、A単独、B単独、C単独、AおよびBを一緒、AおよびCを一緒、BおよびCを一緒、ならびに/またはA、B、およびCを一緒に有するシステム等を含むが、これらに限定されない)。「A、B、またはCのうちの少なくとも1個等」に類似する慣例が使用されている場合、一般的に、そのような構成は、当業者がその慣例を理解する意味で意図されている(例えば、「A、B、またはCのうちの少なくとも1個を有するシステム」は、A単独、B単独、C単独、AおよびBを一緒、AおよびCを一緒、BおよびCを一緒、ならびに/またはA、B、およびCを一緒を有するシステム等を含むが、これらに限定されない)。当業者には、2つ以上の代替的な用語を提示する実質的に任意の離接的な単語および/または語句は、本明細書または特許請求の範囲にかかわらず、用語の一方、用語のいずれか一方、または両方の用語を含む可能性を想定していると理解されるべきであることが、更に理解されよう。例えば、「AまたはB」という表現は、「A」または「B」、または「AおよびB」の可能性を含むと理解される。
【0146】
加えて、本開示の構成または態様がマーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本開示がそれによってマーカッシュ群の任意の個別の要素または要素の下位群の観点からも記載されていることを認識するであろう。
【0147】
当業者には理解されるように、本明細書で開示されるすべての範囲は、文章による説明を提供するという観点等、あらゆる目的のために、あらゆる可能な下位の範囲およびその下位の範囲の組み合わせも包含する。列挙されたどの範囲も、同じ範囲を少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1等に分解することを十分に記述し、可能にするものとして容易に認識できる。非限定的な例として、本明細書で議論される各範囲は、下位3分の1、中位3分の1、および上位3分の1等に容易に分解できる。また、当業者には理解されるように、「~まで」、「少なくとも」、「~より大きい」、「~より小さい」等のすべての文言は、言及された数を含み、上述したように、その後下位の範囲に分解できる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるように、範囲は個別の要素を含む。したがって、例えば、1~3個の項目を有する群は、1個、2個、または3個の項目を有する群を指す。同様に、1~5個の項目を有する群は、1個、2個、3個、4個、5個等の項目を有する群を指す。
【0148】
本出願を通じて引用された、文献参照、発行済み特許、公開特許出願、および同時係属出願中の特許出願を含む、すべての引用文献の内容は、その全体を参照によって本明細書に明示的に組み入れる。参照によって組み入れる刊行物および特許または特許出願が、本明細書に含まれる開示と矛盾する限りにおいて、本明細書は、そのような任意の矛盾する資料に優先し、および/またはそれらの上に立つことを意図している。当業者であれば、本明細書に記載された本発明の具体的な実施形態に相当する多くの均等物を、日常的な実験以上のことを行わずに、認識、または確実にできるであろう。このような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】