(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】炭化水素とエネルギーのクリーンな生産のための多相連続垂直反応器、及びそこで実行される熱化学的方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/66 20060101AFI20240122BHJP
C10B 53/02 20060101ALI20240122BHJP
F23B 50/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C10J3/66
C10B53/02
F23B50/00 ZAB
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562963
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 IB2021053082
(87)【国際公開番号】W WO2021209926
(87)【国際公開日】2021-10-21
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522403619
【氏名又は名称】エス・エス・エス テクノロジーズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100153811
【氏名又は名称】青山 高弘
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス・フォンセカ ハイメ・エドゥアルド
【テーマコード(参考)】
3K046
4H012
【Fターム(参考)】
3K046AA17
3K046AB00
3K046AC01
3K046AD05
3K046BA01
3K046CA02
3K046CA03
4H012JA00
(57)【要約】
特に微細藻類において、湿潤バイオマスを、事前に乾燥させる必要なしに、熱化学的に分解するための反応器および方法が開示される。本発明は、蒸発、熱分解、ガス化燃焼の工程を別々のチャンバ内で、間接加熱を用いて、同時に、進行的かつ連続的に行う垂直連続多相反応器(VCMR)を提供する。反応器は、大気圧未満の圧力で動作し、熱効率と生産効率を高め、同じ生成物の一部を燃料として使用して熱自給自足を達成する。断熱膨張による低温瞬間蒸発方式を採用。反応器は高効率と高収率を持ち、最小限のスペースしか必要とせず、移動可能である。反応器から得られる生成物は合成ガス、バイオカーボン及びバイオオイルであり、エネルギー、農業、化粧品、健康、建設に使用される。本発明はまた、高湿潤バイオマスから炭化水素およびエネルギーを得るための方法を提供し、ここで工程は連続的に実施され、方法は、変換される新規の湿潤バイオマスを添加するために中断する必要がない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高湿潤のバイオマスから炭化水素とエネルギーを生成するための多相連続垂直反応器であって、
内部が複数に区切られ、上から下に、蒸発チャンバ(2)、熱分解チャンバ(5)、ガス化燃焼チャンバ(6)を有する垂直容器(10)を備え、
前記蒸発チャンバ(2)は、真空中で連続段階的に瞬時蒸発を行うセルフクリーニングローター(11)を含む断熱膨張弁(3)を有する、ことを特徴とする多相連続垂直反応器。
【請求項2】
前記蒸発チャンバ(2)と前記熱分解チャンバ(5)との間に焙焼チャンバ(4)を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記チャンバ(2、4、5、6)の壁に、伝導面と放射面により間接加熱を行う内側ジャケット(15)を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項4】
前記蒸発チャンバ(2)および前記熱分解チャンバ(5)が、処理中の原料の粒子サイズを小さくするための粉砕体を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項5】
前記熱分解チャンバ(5)は、ガスを凝縮触媒システム(7)に導く接続ダクト(26)を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項6】
前記蒸発チャンバ(2)から、蒸気インジェクタ(21)が提供される前記ガス化チャンバ(6)に通じるガス出口ダクト(20)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項7】
正流型であり、その内部に触媒材料が導入され、前記蒸気と直接接触し、ウォータージャケットによって冷却される、凝縮触媒システム(7)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器
【請求項8】
チャンバ間に、油圧及び/又は空圧作動により動作するハーメチックロックタイプの閉鎖ゲート(9)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項9】
前記ガス化燃焼チャンバ(6)は、灰および他の燃焼残留物を除去するウォームスクリュー(13)を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器
【請求項10】
前記ガス化燃焼チャンバ(6)は、耐熱及び断熱材料で裏打ちされている、ことを特徴とする請求項1に記載の反応器。
【請求項11】
連続垂直多相反応器内で湿潤バイオマスから炭化水素及びエネルギーを得る方法であって、以下の段階を含む:
段階a).断熱膨張ノズル(3)を介して、7MPaを超える圧力と80℃を超える温度から、15kPaまでの真空圧、又は80%真空及び真空温度で15kPaまでの真空圧と同等、又は80%真空及び60℃を下回る蒸発温度の温度と同等、へ移行させることにより、圧力と温度を変化させて蒸発チャンバ(2)内で湿潤バイオマスを乾燥させ、
段階b).この温度を20%低下させ、揮発性物質を放出するために、前記乾燥した原料を、焙焼チャンバ(4)及び熱分解チャンバ(5)において、好ましくは20%から80%までの真空状態で550℃まで加熱して、焙焼及び熱分解し、
段階c).化学量論比未満の量の燃焼剤を供給して、不完全燃焼により、ガス化燃焼チャンバ(6)において、基質をガス化燃焼する、
ここで、段階が次々と継続的に続き、新しい湿潤バイオマスが入り、変換される工程を中断する必要はないとする、方法。
【請求項12】
前記湿潤バイオマスは、7MPaよりも高い高圧、95%までの湿度、および温度200℃までの予熱で反応器に入れられる、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
段階a)は、高圧ポンプ回路および拡張により真空下の連続段階で瞬時蒸発を行うために、湿潤バイオマスを数回送り返すことにより、必要な湿度が得られるまで繰り返される、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
段階b)において、前記熱分解チャンバ(5)で得られた揮発性物質ガスが、第二鉄系触媒と接触する凝縮触媒システム(7)に達し、温度を60℃未満に下げると、バイオオイルから液体の形で沈殿する、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
段階c)において、前記熱分解チャンバ(5)で生成された合成ガス、及び/又は凝縮触媒システム(7)で生成されたバイオオイルで、燃焼が起こる、ことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続垂直熱反応器の分野であり、環境改善、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gases)削減、湿潤バイオマス及び事前乾燥なしのバイオソリッドからのエネルギー生産、有害物質の焼却、並びにバイオ炭化水素誘導体のクリーンな生産に有用である。
【0002】
反応器で実施されたプロセスから得られた生成物は、農業、統合された水管理、汚染除去などの分野で使用されると共に、製薬産業、化学産業、及び健康産業の原材料として使用される。
【背景技術】
【0003】
熱分解やガス化などのプロセスによるバイオマスの熱化学的変換は、さまざまな技術によって行われる(Brett Digman , 2020)。特に、微細藻類バイオマスは、主にバイオカーボン、バイオオイル、バイオ合成ガス、及び熱というような炭化水素の生産のために、さまざまな方法によるエネルギー利用と資源回収の大きな可能性を秘めている(John J. Milledge 1、2020)。
【0004】
しかし、常に50%HBSを超える微細藻類バイオマスの高い水分含有量は、その水分を放出するために大量のエネルギーが必要であり、これは負のエネルギー収支をもたらす燃料及び/又は外部熱源の利用となるため、微細藻類バイオマスのエネルギー利用の商業レベルへ引き上げにおいて大きな問題となっている。
【0005】
しかし、エネルギー、バイオチャー誘導体、及びバイオオイルは、熱化学的手段によりバイオマスを変換することから得られ、農業(化学肥料、有機肥料、改良剤、殺虫剤、殺菌剤、免疫剤)、家畜(サプリメント、脱気装置、獣医薬)、食品(フィルター)、エネルギー(ペレット、ブリケット、合成ガス、合成ディーゼル、合成ナフサ)、建設(保湿剤、エアフィルター、脱イオン剤)、健康(解毒剤)、化粧品(洗面用品と皮膚科学)などの分野で、化石燃料から得られる炭化水素の置き換えに適用される(Schmidt、2012)。
【0006】
微細藻類などの各種の湿潤バイオマスに含まれる有機物の熱化学分解は、吸熱プロセスによって結合を切断し、炭素、水素、及び酸素間の反応を促進し、重炭化水素の複雑な鎖を中分子量および低分子量の化合物に分解する。このプロセスは、バイオ精製所の装置の全体システムを考慮して、圧力、温度、熱流、原料およびガス流の変数が制御される反応器で行われる。
【0007】
現在までに入手可能な情報は、エネルギー回収と資源回収のためのさまざまなプロセス技術とデバイスに関する特許取得済みの開発と科学的研究が示すものである。この特許に関連するものには、次のものが含まれる。
【0008】
カナダ国特許発明第2798582号明細書(CA2798582)は、複数のオーブンで有機材料を乾燥および焙焼するための装置および方法を示している。この反応器では、廃棄物管理によって生成されたガスの乾燥と回収のみが達成される。
【0009】
中国特許第105859097号明細書(CN105859097)は、火力発電所からの廃熱を使用してスラッジを乾燥させるための方法と装置を示しており、熱を回収してスラッジを蒸発させることの有用性を示しているが、熱源は別のプロセスに由来するため、自己熱またはエネルギー自給自足のシステム又は反応器ではない。
【0010】
中国実用新案第204438139号明細書(CN204438139)は、熱分解の結果として焼却を更に局所化し、追加の燃料を必要とする複数炉床炉スラッジ焼却装置を開示しているため、自己熱とはみなされない。
【0011】
米国特許第4215637号明細書(US4215637)は、湿った廃棄物を燃焼させるシステムを開示している。スラッジ燃焼を主眼としているが、高温・高圧のプロセスが必要なため、エネルギー消費量が多くなる。
【0012】
一方、米国特許出願公開第2011/0197797号明細書(US20110197797)は、活性炭の製造方法と装置を示しており、乾燥、焙焼、および熱分解のプロセスは、垂直多床反応器で実行され、熱を回収し、熱分解ガスを再利用して、反応器に供給する。
【0013】
同様に、米国特許第4100032号明細書(US4100032)及びロシア国特許出願公開第0002703617号明細書(RU0002703617)は、ガスおよび蒸気が接触するときの対流効果によって、原料に熱を伝達する直接加熱システムを使用して、別々のセクションを備えた垂直トレイ反応器で蒸発、熱分解および燃焼プロセスを実行する。
【0014】
米国特許出願公開第2018/0106538号明細書(US2018/0106538)は、また、資源およびエネルギーを回収せず、その稼働のために外部燃料を必要とし、大気圧で、かつ最大250℃の温度でフリーズドライおよびフリーズドライ焙焼が行われる反応器を開示している。原料はトレイのシステム内を移動して、スイープブレードは固定されているため、原料カットの均一性が低下する。
【0015】
米国特許第4308807号明細書(US4308807)はスラッジ処理を許容せず、水分の少ない固体有機廃棄物に限定されている。反応器は連続垂直スパイラル型で、他のプロセスへの熱回収がある。
【0016】
米国特許第4732092号明細書(US4732092)は、エネルギー回収に使用されるガスを生成する目的で、熱分解チャンバと燃焼チャンバとを分離するためのゲートシステムを使用する装置を開示している。垂直反応器は、熱分解プロセスの熱を生成するために、各チャンバでの燃焼を必要とする。
【0017】
米国特許第7452392号明細書(US7452392)は、固体有機廃棄物のための合成ガス生成のための固定床向流真空反応器を開示している。スラッジには使用できず、相分離もない。
【0018】
上述の分析から、既存の反応器は、50%HBHを超える高い湿潤性のバイオマスの乾燥と変換を達成するために、大量のエネルギー消費を必要とし、それらを部分的にしか変換しないという問題が存続していると推測できる。したがって、バイオオイル、バイオチャー、合成ガスなどのクリーンな最終製品を得るために、エネルギーを大量に消費するプロセスである原料の事前乾燥を必要とせずに、培養された微細藻類などの湿潤バイオマスまたはスラッジの全てを完全に変換できる装置が必要である。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、バイオマスの予備乾燥のための装置またはプロセスを使用する必要なしに、湿潤バイオマス、特に培養された微細藻類由来のもので、50%HBHを超えるものをバイオ炭化水素に変換する問題を解決する。連続熱化学プロセスは、乾燥、熱分解、ガス化、および燃焼のために垂直多相反応器で実行される。反応器は、自己熱的であるため、追加の燃料や外部熱源を必要とせず、真空での断熱膨張と熱回収による瞬間的な多重効用蒸発からなるオペレーションにより高い効率を伴う。
【0020】
実施されたプロセスの最終生成物は、バイオカーボン、バイオオイル、合成ガスなどのバイオ炭化水素である。
【0021】
多相連続垂直反応器は(
図1を参照):バイオマスおよびバイオソリッド供給システム(1)、蒸発チャンバ(2)、断熱膨張弁(3)による真空多重効果高速蒸発システム、熱分解チャンバ(5)、ガス化燃焼チャンバ(6)、及び凝縮触媒システム(7)を有している。
【0022】
好ましい形態では、反応器は、蒸発チャンバ(2)と熱分解チャンバ(5)との間に配置された焙焼チャンバ(4)を有し、必要とするバイオマスの追加処理を可能にする。
【0023】
本発明の高い水分含有量を有する基質からバイオ炭化水素及びエネルギーを得るためのプロセスは、連続的かつ自己熱的であることを特徴とする。原料は、あるチャンバから別のチャンバに連続的に流れ、徐々に温度を上げて液相、気相、液相を分離することにより、進行的な変換を実現する。
【0024】
それは、1又は複数のノズル又は断熱膨張弁(3)を介して、7MPaを超える圧力と80℃を超える温度から、15kPaまでの真空圧、又は80%真空及び60℃を下回る蒸発温度の温度と同等、への移行により、圧力と温度の変化によって湿潤バイオマスを脱水することから始まる。
【0025】
続いて、脱水された原料の焙焼と熱分解は、好ましくは20%から80%までの真空状態で、550℃まで加熱されることにより行われ、この温度を20%下げて揮発性物質を放出する。
【0026】
そして、800℃を超える温度で化学量論比を下回る量の燃焼剤を供給して、不完全燃焼により得られた基質のガス化と燃焼で終了する。
【0027】
微細藻類バイオマスに理想的なこのプロセスは、50%HBHを超え、95%HBHまでのいかなるタイプの湿潤バイオマスにも使用可能である。このプロセスを実行するための好ましいバイオマスには、微細藻類バイオマス、残留バイオマス、又は都市、農村および産業由来の液体基質中のスラッジ及び/又は固形物に存在するそれらの混合物、及びその他のより高密度のバイオソリッドがある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
これまでの説明を補足し、本発明の特徴をより理解するために、以下の図は、例示的かつ非限定的な目的で、上述の説明の不可分な部分として添付される。
【0029】
【
図1】多相連続垂直反応器(10)及び凝縮触媒システム(7)の正面図。
【
図2】断面における、多相連続垂直反応器(10)の正面図。
【
図3】多相連続垂直反応器(10)の要素とその部品の詳細についての説明図。
【
図5】セルフクリーニング断熱膨張弁またはノズルの a)断面図及び b)正面図。
【
図6】ハーメチックシーリングゲート、制水タイプ(9)の a) 斜視図 b)断面図。
【
図7】加熱ジャケット(15)の詳細が示された、垂直反応器(10)の a) 斜視図 b)断面図。
【
図8】スパイラルアーム(16)の詳細が示された、垂直反応器(10)の放射図。
【
図10】X軸:温度(℃)、Y軸:重量(mg)によりバイオソリッドの性質を示す熱重量曲線。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[反応器の構造]
ダウンフロー反応器として機能する多相連続垂直反応器は、垂直容器(10)、垂直シャフト(8)、複数のチャンバ、すなわち蒸発チャンバ(2)、熱分解チャンバ(5)、ガス化燃焼チャンバ(6)で構成されている。
各チャンバはそれぞれ熱分解(thermolysis)の段階である。これらのチャンバは、真空下で動作するように、密閉シールされたエアロック型のゲート(9)によって、互いに接続される(
図2及び3参照)。
【0031】
好ましい方法では、反応器は、蒸発チャンバ(2)と熱分解(pyrolysis)チャンバ(5)との間に配置された焙焼チャンバ(4)を有する。これは、粒子凝集条件及び/又は強い温度変化での圧縮化傾向があるために、追加処理を必要とするバイオマスに対して、その追加処理を可能にする。
【0032】
垂直容器(10)は、円筒形または正方形断面の支持構造を有し、駆動システム(22)によって駆動され、スパイラルアーム(16)が取り付けられる垂直回転シャフト(8)を有する。駆動システム(22)は、好ましくは、歯車付きモータ型であり、電気モータ、減速ギアボックス、シャフトカップリングおよびベアリングで支持されたシャフトを有する。
【0033】
反応器の一部であるすべてのチャンバには、チャンバ(2、4、5、6)の壁に配置された、高温ガスの自己出力型内側ジャケットが内蔵されており、伝導面と放射面(
図6)による間接加熱を行う。垂直チャンバには、ヘリカル撹拌器またはスパイラルアーム(16)があり、内部およびチャンバ間の原料の移動を容易にする(
図8)。
【0034】
チャンバ間の分離は、油圧及び/又は空圧駆動により動作する、密閉シール制水ゲート(9)で行われる。気密性を失うことなく、原料は、これらのゲートを介してチャンバ間を移動する(
図6)。
【0035】
供給システム(1)は、プレミキサー(24)、バイオマスおよびスラッジ用の移送式ポンプ(25)、シェルアンドチューブ熱交換器(23)で構成される。
【0036】
供給システム(1)に接続された蒸発チャンバ(2)は、その入口(3)で瞬間的な蒸発効果を発生させる、1つ又は複数のノズル又は断熱膨張弁を備えており、
図5に示すように、目詰まりを防ぎ、真空下において連続段階による瞬間的な蒸発を行うセルフクリーニングローター(11)を有している。蒸発チャンバ(2)で分離された蒸気は、真空ポンプで抽出され、接続ダクト(20)により蒸気インジェクタ(21)を介して、回収されてガス化燃焼チャンバ(6)に再供給される。
【0037】
この蒸発チャンバ(2)は、蒸気、液体及び個体の相分離のための湿潤バイオマスの膨張を可能にし、革新的な再循環方法を使用して、2つ以上の瞬間的な複数瞬間蒸発効果を発生させ、各ステップで基質のHBHの15%以上を削減する。蒸発チャンバの出口では、熱回収ユニット(23)への移送のために低温で冷たい蒸気を除去するための真空ポンプ(12)が接続される。熱回収ユニット(23)は、スラッジポンプ(25)の前にプレミキサーシステム(24)の入口で湿潤バイオマスを予熱する。
【0038】
焙焼チャンバ(4)が存在する場合、焙焼チャンバ(4)は、
図6に示されるような密閉シールゲート(9)を有している。金属加熱チャンバ(14)は、
図7に示すような、ガス化燃焼チャンバ(6)からくる高温ガスの内側ジャケット(15)を有している。撹拌機は、
図8に示すような態様で、中心動作軸(8)に取り付けられた2以上のスパイラルアーム(16)を有している。密閉シールゲート(9)は、個体原料の出口として、
図6に示されている。焙焼チャンバ(4)は、密閉シールゲート(9)により、上部で蒸発チャンバ(2)に接続され、同様に、下部で熱分解チャンバ(5)と接続される。
【0039】
熱分解チャンバ(5)は、
図6に示されるように、密閉シールゲート(9)によって形成される。
図7に示されるように、金属加熱チャンバ(14)は、ガス化燃焼チャンバ(6)から来る高温ガスの内側ジャケット(15)を有する。
図8に示すように、撹拌機は、中心動作軸(8)に取り付けられた2以上のスパイラルアーム(16)を有する。個体原料の出口としての密閉シールゲート(9)は、
図5に示される。熱分解ガス出口ダクトは、凝縮触媒システム(7)に接続される。
【0040】
好ましい方法では、蒸発チャンバ(2)、焙焼チャンバ(4)および熱分解チャンバ(5)は、処理される原料の粒子サイズを減少させるために、球体、棒または同等物などの粉砕体を有する。バイオマスの特性に応じて、焙焼チャンバと熱分解チャンバは1つに統合されてもよい。
【0041】
ガス化燃焼チャンバ(6)は、油及びガス用のバーナーから熱的に絶縁された耐熱材料(17)で覆われたチャンバと、中心動作軸に取り付けられた回転格子(28)と、を有する。灰皿(13)は、後燃材排出口らせん刃を有する。接続ダクト(18)は、燃焼ガスを、熱分解チャンバ(5)のジャケットに接続する。
【0042】
ガス化燃焼チャンバ(6)は、1200℃を超える温度に耐えるために、耐熱断熱材料で裏打ちされている。
【0043】
凝縮触媒システム(7)は、
図9に示すように、熱交換器またはフロースルーコンデンサ(19)のバンク、及び炭化水素の沈殿を促進するフェライト系触媒試薬でジャケットされ、飽和された水を有している。
【0044】
燃焼ガスの熱回収器(23)は、内側ジャケット(15)の出口に配置されたガス-ガスプレート熱交換器によるものとすることができる。熱回収器は、プレミキサー(24)に入る前に湿潤バイオマスを予熱する。
【0045】
反応器のオペレーション曲線がさまざまな種類のバイオマスに対して較正されると、すべてのオペレーション変数は、オペレーションとオペレーションパラメータが同期した中央電子システムによって制御されることができる。このシステムは、リモート監視とオペレーションのために、IoT(Internet of Things)プラットフォームに接続されていてもよい。
【0046】
[湿潤バイオマス変換プロセス]
このプロセスは、任意のタイプの湿潤バイオマスに適用される。好ましくは微細藻類バイオマス、廃バイオマス、又は、都市、農村および産業由来の液体基質中のスラッジ及び/又は固形物に存在するそれらの混合物に適用され、50%HBH から95%HBHの水分含有量を有するものがより好ましい。
【0047】
好ましい方法では、出発点となる湿潤バイオマスは、最大60%の揮発性物質と5%を超える固定炭素、5MJ/kgを超える発熱量、および最大25mmの固体画分の粒子サイズを含むように調整される。しかしながら、これらの条件の原料を調整するための前処理を行うことが可能であり、これらの条件に限定されない。
【0048】
図4の工程図では、最大95%HBHの水分を含む残留バイオマスが供給ポンプ(25)に入り、供給ポンプ(25)は、原料の特性により、7MPa~15MPaの圧力と 50℃~200℃の温度で原料を運ぶ。
【0049】
本プロセスの利点は、反応器が多段での連続運転であることを考慮すると、新しい湿潤バイオマスがプロセスに入るためにプロセスを中断する必要がないことにある。したがって、基質が2番目以降のチャンバに移動すると、最初のチャンバにロードして、事前の乾燥を必要としない、より湿ったバイオマスの変換を開始できる。
【0050】
原料は、一連のノズルまたは断熱膨張弁(3)を通過し、これにより、供給ポンプ(25)の出口で原料の圧力を大気圧よりも低く下げる。80%から20%の真空が、フラッシュ蒸発効果を引き起こし、蒸発チャンバ(2)内の固体画分から水蒸気を分離する。原料は、蒸発チャンバ(2)を通過するたびに10%から30%の水分を失うため、蒸発チャンバ(2)でフィードバックサイクルが必要になり、複数のフラッシュ蒸発効果が引き起こされる。蒸発チャンバ(2)内の真空は、真空ポンプ(12)によって生成される。
【0051】
蒸発チャンバ(2)で分離された蒸気は回収され、接続ダクト(20)により蒸気インジェクタ(21)を介してガス化燃焼チャンバ(6)に供給される。このフィードバックされた蒸気は、活性化によるバイオチャーの膨張と、より高い割合の水素とメタンを生成することによる合成ガスの発熱量の増加という2つの効果を生み出す。蒸気の流れは、三方計量バルブ(27)によって調整される。
【0052】
原料が30%HBH未満の湿度に達すると、2つのチャンバを接続する密閉シール制水ゲート(9)を通って、焙焼チャンバ(4)及び熱分解チャンバ(5)に入る。エアロックゲート(9)を介した、熱分解チャンバ(5)とガス化燃焼チャンバ(6)の間の原料の通過においても同様である。
【0053】
処理中の原料は、各チャンバ内で加熱され、スパイラルアーム(16)によって、軸方向に上下および中心から周辺に放射状に移動させられる。スパイラルアーム(16)は、モータ減速機システムにより駆動される駆動システム(22)によって回転する回転の垂直軸(8)に固定される螺旋状攪拌機としても知られる。
【0054】
プロセス原料が200℃を超えて550℃まで上昇したときに、焙焼チャンバ(4)/熱分解チャンバ(5)内で揮発性物質として放出されるガスは、誘導ドラフトファンを有する出口ダクト(26)から排出される。次に、ガスは凝縮触媒システム(7)に渡され、そこでバイオオイルは60℃未満の温度に達すると沈殿する。このシステムで回収された熱は、供給システム(1)、具体的にはプレミキサー(24)でスラッジの予熱に使用される。
【0055】
チャンバ(5)内の熱分解段階で生成されたバイオチャーは、密閉シール制水ゲート弁(9)を通ってガス化燃焼チャンバ(6)に入る。チャンバ(5)では、バイオチャーは回転円錐格子(28)に落ち、そこで処理された体積の30%を超えない部分がガス化され、ファンによって供給される一次空気と接触して燃焼し、必要な熱、つまり蒸発、焙焼、熱分解、及びガス化の各プロセスの吸熱反応のために必要な熱を生成する。熱伝達は、高温ガスの内側ジャケット(15)により燃焼ガスと各チャンバの間で行われ、外側から断熱され内側に放射されるため、熱は壁や床を伝って処理中の原料に流れる。反応器ジャケットの出口における燃焼ガスからの廃熱は、供給システム(1)に入るスラッジをプレミキサー(24)で予熱するために、熱交換器(23)で回収される。
【0056】
バイオオイルと合成ガスの一部を燃焼プロセスに使用することも可能である。この場合、反応器の加熱ジャケット(15)に接続された外部バーナーが、回転格子に加えて配置される。
図7に示すように、加熱ジャケット内の高温ガスの流れは、バタフライフローバルブによって制御され、ガスの滞留時間は、加熱ジャケット内の流量デフレクターダンパーまたはバッフルを使用して最適化される。ガス化燃焼チャンバ(6)で発生したバイオチャー及び灰は、螺旋刃(13)によって反応器から取り除かれる。
【実施例】
【0057】
[例1]微細藻類バイオマスから電気エネルギーと熱エネルギーを得るプロセス
50%HBHを超え、最大95%HBHのスラッジ又は湿潤微細藻類バイオマスの供給は、7~15MPaの高圧で行われ、それを室温から50~200℃のプロセス温度にさせる。
【0058】
この微細藻類スラリーは、断熱膨張ノズルを通過して、大気圧に対して20~80%真空の圧力を有する蒸発チャンバに入る。膨張効果により、温度が80℃未満に下がり、瞬間蒸発が発生する。微細藻類スラッジは、湿度が30%未満に低下するまで数回再循環される。蒸気は、微細藻類バイオマスから分離され、微細藻類バイオマスは、別の気密チャンバでの熱分解(pyrolysis)プロセスに送られる。別の気密チャンバでは、揮発性物質を放出することのできる450℃を超える温度となる間接加熱を伴い、揮発性物質は、60℃未満の温度で沈殿する凝縮器と触媒のバンクに渡されて、中及び高分子量の炭化水素であるバイオオイルが得られる。60℃未満の非凝縮ガスは、低分子量で30MJ/kgを超える高発熱量の炭化水素からなる合成ガスである。熱分解チャンバで揮発しない物質は、灰とバイオチャーで構成され、微細藻類バイオマスの変換の吸熱プロセスで必要な熱を生成するために、ガス化燃焼チャンバに送られる。このチャンバは、原料とエネルギーのバランスに応じて、そのバイオオイル及び合成ガスの一部で動作することもできる。バイオオイルは、とりわけ、オットーサイクル内燃機関、ランキンサイクルタービン(蒸気およびORC有機流体)、ブライトンサイクル及びスターリングサイクル外部燃焼エンジンの場合のように、電気及び/又は熱生成のための火力発電所において、単独または組み合わせて使用できる。
【0059】
[プロセス諸元設定]
・原料とエネルギーのバランス
原料とエネルギーのバランスから、1.5TPDの能力における、乾燥及び焙焼プロセス、熱分解及びガス化の各々の入出力条件を計算する。表1は、プロセスとプラントサイズごとの原料とエネルギーのバランスをまとめたものである。
【0060】
最初の列はデータの行を示し、2番目の列は熱処理プロセスとそのプロセスから得られた生成物を示し、3番目の列は計算された熱力学的変数を示し、4番目の列は国際単位系の測定単位を示し、5番目の列は、期待される能力で3つのプラントサイズに分類し、最後の列には、記録されたデータの説明又はその情報源を記載している。
【表1】
【0061】
・オートサーマル乾燥のエネルギーバランス
表1のバランスで得られたデータから、1.5TPDの処理能力の場合、表2に示すように、熱処理で期待される生成物を用いて、微細藻類基質を乾燥させるために必要なエネルギー需要と供給を計算することができる。
【0062】
熱収支は、バイオオイル乾燥プロセスのみが自己熱的であり、原料で利用可能なエネルギーの82%となっている。乾燥微細藻類基質、バイオチャー及び合成ガスなどの他の生成物を使用するには、各工場サイズに対して、括弧内に示されている不足値に比例した追加の外部燃料を必要となる可能性がある。
【0063】
表3に示すように、微細藻類基板の特性評価で行われる熱重量分析から、熱分解(thermolysis)プロセス及び熱分解(pyrolysis)プロセスを達成および維持するための追加の熱出力を推定できる。
【表2】
【表3】
表3のバランスから、プロセスは依然として自己熱的であり、焙焼プロセスと熱分解プロセスでそれぞれ原料の利用可能なエネルギーの3%を追加で消費していると推測できる。
【0064】
このように、燃焼と熱伝達のエネルギー効率を差し引いて、バランスにおけるエネルギーの自給自足の達成には、エネルギーの自己消費は、焙焼安定化微細藻類基質で利用可能なエネルギーの85%になる。
【0065】
一方、熱分解プロセスでは、バイオオイルで利用可能なエネルギーの60%が自己熱的に消費される。残りのバイオオイルは、燃焼と熱伝達の効率を差し引いて、エネルギー回収に使用できるものとして、40%近くになる可能性がある。
【0066】
これらの計算は、乾燥プロセスで発生する蒸気の熱回収による効率向上を考慮せずに行われている。これにより、必要なエネルギーの30~50%を節約できる。
【0067】
・プロセス仕様
試作プラントの結果に基づくと、微細藻類基質の熱処理プロセスは、以下の表4に示す仕様範囲内にある。情報源は、仕様値が取得されたデータベースを参照しており、このレポートの付録として提示されている。
【表4】
【0068】
熱電供給プラントの変換効率は、湿度30%で870W/kgバイオスラッジである。
【0069】
[例2]都市下水処理プラント(WWTP)でバイオソリッドから炭化水素を取得するプロセス
バイオソリッドは、廃水処理(WWTP:wastewater treatment)からの有機スラッジの安定化プロセス後に発生する生成物である。安定化は、その病原性レベル、その発酵力、および媒介性疾患を発生させる能力を低下させるために行われる。安定化されたスラッジ又はバイオソリッドは、毒物又は危険物として分類できないが、都市廃棄物と同程度と見なされ、処理が必要な汚染物質が含まれている。
【0070】
プロセスは、バイオソリッドの準備で開始される。原料は反応器に入り、熱変換の第1段階となる。この段階では、温度を120℃に上げて余分な水分を除去し、次の熱分解(thermolysis)段階の原料とする。反応器を300℃の温度にすると、密閉されたチャンバの酸素のない内部に閉じ込められた原料は、揮発性物質、オイル、タールを放出する。この温度で、原料は還元状態に達し、圧縮され、熱分解(thermolysis)パラメーターを満たす。プロセスの次の段階では、バイオマスは酸素の非存在下でも500℃を超える温度に加熱される。そこでは、すべての揮発性物質が、熱分解(pyrolysis)条件に達して、オイルとタールを含む蒸気とガスに変換され、バルブから排出される。次の段階では、原料は900℃を超える温度に加熱される。ここでエネルギー供給を増加させ、ガス化条件を達成するために化学量論比未満の量を追加し、完全な気相への変換が行われ、合成バイオ燃料が得られる。
図10は、上述のバイオソリッドが示す熱重量曲線を示す。熱分解(thermolysis)段階および熱分解(pyrolysis)段階で得られたガスと蒸気を凝縮し、熱交換器によって80℃未満の温度に冷却し、蒸気を凝縮して液相のバイオ燃料を得ることができる。熱分解(pyrolysis)段階で反応器に残る生成物は、農業投入物として使用されるバイオチャーとバイオオイルである。バイオソリッドから最終生成物への変換効率は、次の表にまとめられる。
【表5】
【0071】
[参考文献]
Brett Digman, H. S.-S. (30/01/2020). American Institute of Chemical Engineers.
URL: https://aiche.onIineIibrary.wiIey.com/doi/abs/10.1002/ep.10336
John J. Milledge 1, B. S. (31/01/2020). Energies Journal.
URL: www.mdpi.com/journal/energies:
John J. Milledge, S. H. (31/01/2020). SpringerLink.
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s11157-014-9339-1
Schmidt, H.-P. (2012). 55 Uses of Bio char. Ithakajournal 1, 286 - 289.
【国際調査報告】