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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】高温超伝導体界磁コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20240122BHJP
   H01F 6/02 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H01F6/06 120
H01F6/06 110
H01F6/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523607
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2021079107
(87)【国際公開番号】W WO2022084398
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】2016618.7
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512317995
【氏名又は名称】トカマク エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】スレード、 ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ベイトマン、 ロッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ノグテレン、 イェルーン
(57)【要約】
高温超伝導体(HTS)界磁コイルであって、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有するHTS界磁コイル。ターンは、HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層によって軸に垂直な方向に沿って互いに分離される。HTS界磁コイルはさらに、1つのターンから隣接するターンまで絶縁体材料の層を通って延びる1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素を含む。1つ以上の導電経路の両端に発生する電圧差に応じて、電流が1つ以上の導電体要素を通って駆動され、絶縁体材料の層を加熱する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超伝導体(HTS)界磁コイルであって、
前記コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有し、
前記ターンは、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、前記HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層によって前記軸に垂直な方向に沿って互いに分離され、
前記HTS界磁コイルはさらに、1つのターンから隣接するターンまで前記絶縁体材料の層を通って延びる1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素を含み、それによって、前記1つ以上の導電経路の両端に発生する電圧差に応じて、前記1つ以上の導電体要素を通って電流が駆動され、前記絶縁体材料の層を加熱する、HTS界磁コイル。
【請求項2】
前記絶縁体材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の金属相を有し、前記相転移温度よりも高い温度で第2の絶縁体又は半導体相を有し、前記相転移温度は前記HTS材料の発生温度よりも低い、請求項1に記載のHTS界磁コイル。
【請求項3】
前記絶縁体材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の絶縁体又は半導体相を有し、前記相転移温度よりも高い温度で第2の金属相を有し、前記相転移温度は前記HTS材料の発生温度よりも高い、請求項1に記載のHTS界磁コイル。
【請求項4】
前記絶縁体材料は、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する磁気抵抗材料であり、それによって、前記軸に垂直な方向に沿ったターンの間の電気抵抗は、前記コイルに電流が供給されると減少する、請求項1から3のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項5】
前記絶縁体材料は、二炭化ユウロピウム、酸化バナジウム、及び半導体材料の1つ以上であるか又は二炭化ユウロピウム、酸化バナジウム、及び半導体材料の1つ以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項6】
前記導電体要素又は各導電体要素は、1つのターンから隣接するターンまで前記絶縁体材料の層を通って延びる、請求項1から5のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項7】
前記導電体要素又は各導電体要素は、その上に前記絶縁体材料の層が設けられた導電層であり、前記絶縁体材料の層は、それを通して前記1つのターンに電気的接触を行うことができる1つ以上の窓を含む、請求項6に記載のHTS界磁コイル。
【請求項8】
前記導電層は前記絶縁体材料の層と他の絶縁体材料の層との間に設けられ、前記他の絶縁体材料の層は、それを通して前記隣接するターンに電気的接触を行うことができる1つ以上の窓を含む、請求項7に記載のHTS界磁コイル。
【請求項9】
前記他の絶縁体材料の層の窓又はそれぞれの窓は、前記絶縁体材料の層の窓又はそれぞれの窓からオフセットされている、請求項8に記載のHTS界磁コイル。
【請求項10】
前記導電経路又は各導電経路は、前記絶縁体材料の層内に設けられた複数の導電体要素を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項11】
前記複数の導電体要素は、前記絶縁体材料内の分散物として設けられる、請求項10に記載のHTS界磁コイル。
【請求項12】
前記導電体要素又は各導電体要素の電気抵抗率は、前記HTS材料の発生温度における前記絶縁体材料の第1の抵抗率よりも小さい、請求項1から11のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項13】
前記絶縁体材料の層内の導電経路又は各導電経路の少なくとも一部分が、前記コイルの軸の半径に垂直な方向に延びる構成部分を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項14】
前記導電経路は前記絶縁体材料の層内で蛇行している、請求項13に記載のHTS界磁コイル。
【請求項15】
前記HTS材料の発生温度は、ゼロ印加磁場における前記HTS材料の発生温度である、請求項1から14のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項16】
磁石のコイルに電流を流すためのケーブルであって、
前記ケーブルの長さに沿って延びる高温超伝導体(HTS)材料のHTS層と、
前記ケーブルの長さに沿って前記HTS層に平行に延びる絶縁体材料の層であって、前記絶縁体材料は、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、前記HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層と、
前記絶縁体材料の層の前記HTS材料と電気的に接触している側から前記絶縁体材料の層の反対側まで前記絶縁体材料の層を通る1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素であって、それによって、前記1つ以上の導電経路の両端に発生する電圧差に応じて、前記1つ以上の導電体要素を通って電流が駆動され、前記絶縁体材料の層を加熱する、導電体要素と
を含む、ケーブル。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか一項に記載のHTS界磁コイルを製造するために、HTS材料を含む高温超伝導体(HTS)テープと共巻するための絶縁体テープであって、
前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、前記HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層と、
前記絶縁体材料の層の一方の側から前記絶縁体材料の反対側まで前記絶縁体材料を通る1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素と
を含む絶縁体テープ。
【請求項18】
高温超伝導体(HTS)界磁コイルであって、
前記コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有し、
前記ターンは、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する磁気抵抗材料を含む1つ以上の層によって、前記軸に垂直な方向に沿って互いに分離され、それによって、前記軸に垂直な方向に沿ったターンの間の電気抵抗は、前記コイルに電流が供給されると減少する、HTS界磁コイル。
【請求項19】
前記磁気抵抗材料は二炭化ユウロピウム、EuC2であるか又は二炭化ユウロピウム、EuC2を含む、請求項18に記載のHTS界磁コイル。
【請求項20】
前記磁気抵抗材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の金属相を有し、前記相転移温度よりも高い温度で第2の絶縁体又は半導体相を有し、前記相転移温度は前記HTS材料の発生温度よりも低い、請求項18又は19に記載のHTS界磁コイル。
【請求項21】
前記磁気抵抗材料が印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する温度は、前記相転移温度よりも高い、請求項18から20のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項22】
前記磁気抵抗材料は、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、前記HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い抵抗率を有する、請求項20又は21に記載のHTS界磁コイル。
【請求項23】
前記ターンは、前記HTS材料を可撓性基板上の層として含む1つ以上の長さのHTSテープから形成される、請求項20から22のいずれか一項に記載のHTS界磁コイル。
【請求項24】
前記磁気抵抗材料を含む各層は、前記コイルの軸の周りで1つ以上の長さのHTSテープと共巻きされた可撓性基板上に設けられる、請求項23に記載のHTS界磁コイル。
【請求項25】
巻いてHTS界磁コイルにするための高温超伝導体(HTS)ケーブルであって、可撓性基板と、HTS材料の層と、磁気抵抗材料の層とを含む層のスタックを有し、前記磁気抵抗材料は、前記HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する、ケーブル。
【請求項26】
請求項1から15のいずれか一項又は請求項18から24のいずれか一項に記載のHTS界磁コイルを1つ以上含む電磁石。
【請求項27】
プラズマ容器と、前記プラズマ容器内で磁場を生成するための一組の界磁コイルとを含むシステムであって、各界磁コイルは請求項1から15のいずれか一項又は請求項18から24のいずれか一項に記載のHTS界磁コイルである、システム。
【請求項28】
請求項1から15のいずれか一項又は請求項18から24のいずれか一項に記載のHTS界磁コイルを含むトカマク核融合炉であって、前記HTS界磁コイルはトロイダル磁場コイル又はポロイダル磁場コイルのいずれかである、トカマク核融合炉。
【請求項29】
高温超伝導体(HTS)磁石システムであって
請求項1から15のいずれか一項又は請求項18から24のいずれか一項に記載の高温超伝導体(HTS)界磁コイルと、
前記HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料における超伝導性の喪失を検出するように構成された検出ユニットと、
前記検出に応じて前記HTS界磁コイルから外部抵抗負荷に電流を伝達するように構成されたクエンチ保護ユニットと
を含むHTS磁石システム。
【請求項30】
前記外部抵抗負荷はバリスタである、請求項29に記載のHTS磁石システム。
【請求項31】
請求項1から15のいずれか一項又は請求項18から24のいずれか一項に記載の高温超伝導体(HTS)界磁コイルを、前記HTS界磁コイルの1つ以上のターンにおける超伝導性の喪失に続く損傷から保護する方法であって、
前記HTS界磁コイルの少なくとも1つのターンのHTS材料における超伝導性の喪失を検出することと、
前記検出に応じて前記HTS界磁コイルを外部抵抗負荷に電気的に接続することと
を含む方法。
【請求項32】
HTS界磁コイルと、クエンチ保護回路とを含む高温超伝導体(HTS)磁石システムであって、
前記HTS界磁コイルは、
前記コイルの軸に巻かれたHTS材料を含む複数のターンであって、絶縁体材料の層によって前記軸に垂直な方向に沿って互いに分離されているターンと、
1つのターンから隣接するターンまで前記絶縁体材料の層を通って延びるそれぞれの導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素と
を含み、
前記クエンチ保護回路は、前記HTS界磁コイルの少なくともいくつかのターンの両端に接続されたバリスタを含み、前記バリスタは、前記少なくともいくつかのターンの両端に発生する電圧に応じて抵抗が減少するように構成され、それによって、1つ以上の導電体要素を通る前記電圧によって駆動される電流の割合は、前記バリスタを通る電流に比べて、前記電圧が増加するにつれて減少する、HTS磁石システム。
【請求項33】
好ましくは0.5より大きい、より好ましくは0.9より大きい磁束結合係数でHTS界磁コイルに誘導結合された二次コイルをさらに含む、請求項32に記載のHTS磁石システム。
【請求項34】
ゼロ印加電圧における前記バリスタの抵抗は、前記HTS材料の発生温度における1つ以上の導電体要素のそれぞれの抵抗よりも大きい、請求項32又は34に記載の磁石システム。
【請求項35】
前記HTS界磁コイルは、請求項1から15のいずれか一項に記載のHTS界磁コイルである、請求項32又は33に記載の磁石システム。
【請求項36】
前記クエンチ保護回路はさらに、
前記HTS界磁コイルに電流を供給するための電源と、
前記HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料における超伝導性の喪失を検出するように構成された検出ユニットと、
前記HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料の超伝導性の損失を前記検出ユニットが検出したことに応じて前記HTS界磁コイルから前記電源を切断するように構成された回路遮断器と
を含む、請求項32から35のいずれか一項に記載の磁石システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超伝導体(HTS)界磁コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
核融合発電の課題は非常に複雑である。トカマク以外にも多くの代替装置が提案されているが、JETなどの現在稼働している最高のトカマクに匹敵する成果をもたらしたものはまだない。
【0003】
世界の核融合研究は、これまでに建設された中で最大かつ最も高価な(150億ユーロ)トカマクであるITERの建設開始後、新たな段階に入った。商用核融合炉への成功ルートは、電力生産を経済的にするために必要な高効率と組み合わせた、長パルス、安定した動作を必要とする。これら3つの条件を同時に達成することは特に困難であり、計画されたプログラムは、理論的かつ技術的研究だけでなく、ITER及び他の核融合施設に関する長年の実験的研究を必要とするであろう。このルートで開発された商用核融合炉は2050年までに建設されないと広く予想されている。
【0004】
経済的な発電(すなわち、電力入力よりもはるかに多い電力出力)に必要な核融合反応を得るために、従来のトカマクは、熱溶融が起こるのに十分なほどプラズマが高温になるようにエネルギー閉じ込め時間(プラズマ体積にほぼ比例する)が十分長くなるように、(ITERに代表されるように)巨大でなければならない。
【0005】
特許文献1には、中性子源又はエネルギー源として使用するためのコンパクトな球状トカマクの使用を含む代替的なアプローチが記載されている。球状トカマクにおける低アスペクト比のプラズマ形状は、粒子閉じ込め時間を改善し、非常に小さな機械での正味の発電を可能にする。しかしながら、小径の中心柱が必要であり、これはプラズマ閉じ込め磁石の設計に対する課題を提示する。高温超伝導体(HTS)界磁コイルは、このような磁石に有望な技術である。
【0006】
超伝導材料は通常、「高温超伝導体」(HTS)と「低温超伝導体」(LTS)に分類される。NbやNbTiなどのLTS材料は、その超伝導性をBCS理論で説明できる金属又は金属合金である。すべての低温超伝導体は、約30Kよりも低い臨界温度(この温度を超えると、ゼロ磁場でも材料が超伝導になることができない温度)を有する。対照的に、HTS材料の挙動はBCS理論では説明されず、このような材料は約30Kを超える臨界温度を有する可能性がある(ただし、HTS材料及びLTS材料を定義するのは臨界温度ではなく、組成及び超伝導動作の物理的な違いであることに注意する必要がある)。最も一般的に使用されるHTSは、BSCCO又はReBCO(Reは希土類元素、通常Y又はGd)などの銅酸化物(酸化銅基を含む化合物)をベースとするセラミックスである「銅酸化物超伝導体」である。他のHTS材料は、鉄ニクタイド(例えば、FeAs及びFeSe)及び二ホウ化マグネシウム(MgB2)を含む。
【0007】
ReBCOは通常、図1に示すような構造を有するテープとして製造される。このようなテープ100は、一般に厚さ約100ミクロン(マイクロメートル)であり、基板101(通常は厚さ約50ミクロン(マイクロメートル)の電解研磨ハステロイ)を含み、基板101の上に、イオンビーム支援蒸着(IBAD)、マグネトロンスパッタリング、又は他の好適な技術によって、バッファスタック102として知られる厚さ約0.2ミクロン(マイクロメートル)の一連のバッファ層が堆積される。エピタキシャルReBCO-HTS層103(MOCVD又は他の好適な技術によって堆積される)がバッファスタックを覆い、通常は厚さ1ミクロン(マイクロメートル)である。1~2ミクロン(マイクロメートル)の銀層104がスパッタリング又は他の好適な技術によってHTS層上に堆積され、銅層105が電気めっき又は他の好適な技術によってテープ上に堆積され、多くの場合テープを完全に封入する。
【0008】
基板101は、製造ラインを通して供給することができ、後続の層の成長を可能にする機械的なバックボーンを提供する。バッファスタック102は、その上にHTS層を成長させるための二軸配向結晶テンプレートを提供し、その超伝導特性を損なう基板からHTSへの元素の化学拡散を防止する。銀層104は、ReBCOから安定化層への低抵抗界面を提供し、安定化層105は、ReBCOのいずれかの部分が超伝導ではなくなる(「常伝導」状態になる)場合に代替的な電流経路を提供する。
【0009】
さらに、基板及びバッファスタックがなく、代わりにHTS層の両側に銀層を有する「剥離」HTSテープを製造することができる。基板を有するテープは「基板付き」HTSテープと呼ばれる。
【0010】
HTSテープはHTSケーブル内に配置することができる。HTSケーブルは1つ以上のHTSテープを含み、それらの長さに沿って導電性材料(通常は銅)によって接続される。HTSテープは積み重ねる(すなわち、HTS層が平行になるように配置する)ことも、ケーブルの長さに沿って変化する他のテープの配置を有することもできる。HTSケーブルの注目すべき特殊なケースは、単独のHTSテープとHTS対である。HTS対は、HTS層が平行になるように配置された1対のHTSテープを含む。基板付きテープを使用する場合、HTS対は、タイプ0(HTS層が互いに向かい合う)、タイプ1(一方のテープのHTS層が他方のテープの基板と向かい合う)、又はタイプ2(基板が互いに向かい合う)であり得る。3つ以上のテープを含むケーブルは、テープのいくつか又は全部をHTS対に配置することができる。積層されたHTSテープは、HTS対の様々な配置を含むことができ、最も一般的には、タイプ1の対のスタック又はタイプ0の対(又は同等にタイプ2の対)のスタックのいずれかである。HTSケーブルには、基材テープと剥離テープが混在していてもよい。
【0011】
本明細書でコイルを説明する際は、以下の用語を使用する。
【0012】
・「HTSケーブル」-1つ以上のHTSテープを含むケーブル。この定義では、単独のHTSテープがHTSケーブルである。
・「ターン」-コイル内のHTSケーブルのうち、コイルの内側を囲む(すなわち、完全なループとしてモデル化することができる)部分。
・「アーク」-界磁コイル全体より短いコイルの連続した長さ。
・「内側/外側半径」-コイルの中心からHTSケーブルの内側/外側までの距離。
・「内側/外側周長」-コイルの内側/外側の周囲で測定した距離。
・「厚さ」-コイルのすべてのターンの半径方向の深さ、すなわち、内側半径と外側半径の差。
・「臨界電流」-所与の温度及び外部磁場でHTSが常伝導になる電流。この場合、HTSは、テープが1mあたりE0ボルトを生成する超伝導転移の特徴点で「常伝導になった」と見なされる。E0の選択はある程度任意であるが、通常は10又は100マイクロボルト/メートルとされる。
・「臨界温度」-所与の磁場及び電流でHTSが常伝導になる温度Tc(厳密には、「臨界温度」という用語は形式上、ゼロ磁場に対して定義されているが、本明細書では便宜上、この用語をより一般的に使用している)。
・「ピーク臨界温度」-外部磁場がなく、電流が無視できる場合に、HTSが常伝導になる温度。
【0013】
HTS材料の発生温度は、HTS材料が常伝導になる(すなわち、超伝導と見なされなくなる)ことによって有意な電圧を発生する温度を指す。詳細には、発生温度は、テープ内を流れる輸送電流I0によって臨界電場E0(V/m)が発生する温度である。上述のように、E0は選択された閾値であり、臨界電場E0が発生したときにI0=Icとなるように、臨界電流Icを定義する。したがって、発生温度は、局所的な磁場強度(B)及び、磁場がHTS材料のc軸となす角度(θ)など、臨界電流に影響を与える多くの要因によって決まる。発生温度はまた、超伝導から常伝導への挙動への遷移がいかに急激に起こるかを特徴付ける、HTS超伝導体のn値によっても決まる。電流が臨界電流(Ic)の約80%であり、磁場強度が約20TであるHTS界磁コイル200内のReBCO材料では、約35Kの典型的な発生温度が見られる。
【0014】
超伝導磁石は、HTSケーブル(又は個々のHTSテープ(この説明では、単一テープケーブルとして扱うことができる))を巻くことによって、又はHTSケーブルから作られたコイルの複数の部分を提供してそれらを結合することによって、HTSケーブルをコイル状に配置することによって形成される。HTSコイルには大きく3つのクラスがある。
【0015】
・(電流がHTSケーブルを通る「螺旋状経路」にのみ流れることができるように)ターンの間に電気絶縁材料を有する、絶縁。
・(例えば、HTSケーブルの銅安定層を接続することによって)ターンが半径方向に接続されているだけでなくケーブルに沿って接続されている、非絶縁。
・(例えば、銅と比較して)高い抵抗を有する材料を使用することによって、又はコイル間に断続的な絶縁を提供することによって、ターンが制御された抵抗で半径方向に接続されている、部分絶縁。
【0016】
非絶縁コイルは、部分絶縁コイルの低抵抗の場合と考えることもできる。部分絶縁界磁コイルは特許文献2に記載されている。
【0017】
HTS界磁コイルは一般に、すべてのHTSテープがすべてのターンにおいて局所臨界電流Ic未満で動作するように設計され、局所臨界電流Icは、不均一な磁場B及びコイル温度Tのためにコイルの周りで変化する。しかしながら、様々な障害状態によってHTSテープの電流が臨界電流を超えることがある。
【0018】
・Tを(局所的に又は全体的に)増加させ、それによってIcを減少させる冷却障害。
・輸送電流I0の一時的な増加、例えば、電源の過電流障害。
・HTS材料への損傷(例えば、応力割れ、磁石の熱サイクルや通電サイクルによる疲労、又は核融合装置において、中性子衝撃や逃走電子によって引き起こされ得るような放射線誘起劣化による)。
・熱暴走を引き起こすのに十分な局所的なエネルギー蓄積。この「最小クエンチエネルギー」は10Jのオーダーであり、プラズマの破壊により、この量のエネルギーが誘導的に又は放射線(例えば、逃走電子)を介してHTS磁石に放出される可能性がある。
【0019】
いずれかのテープ内の電流が臨界電流Icを超えると、HTS材料層に電圧が発生し、テープの金属層(主にハステロイ基板よりもはるかに抵抗が低い銅層)への電流の一部の輸送を引き起こす可能性がある。電流は、そのターン内で他のテープの「予備のIc容量」にシェアすることもできる。「常伝導の」(すなわち、抵抗性の)導体の層を通ってテープ間を流れる電流は熱を発生し、局所的な臨界電流Icをさらに減少させる。最終的に、元の欠陥の近くにあるHTS界磁コイルの影響を受けたターン内のすべてのテープが、積層されたテープケーブルの材料の混合及び形状に応じて、通常数ミリ秒から数秒で測定される時間スケール内で常伝導になる。
【0020】
最初に障害状態の影響を受けるHTSテープの領域は、「ホットスポット」として知られている。ホットスポットの早期検出は、磁石を「クエンチ」させてそのエネルギーを散逸させることによってHTS磁石への損傷を回避できるようにするために重要である。ホットスポットを検出するための様々なアプローチが知られており、例えば、温度センサ、歪センサ、又は電圧タップを使用する。例えば、コイルの周囲に分散されたセンサと電圧タップのネットワークを使用して、有害な熱暴走やクエンチにつながる可能性のあるホットスポットの場所を検出及び特定することができる。HTS磁石の動作時に磁石に蓄えられるエネルギーの量は、磁石のサイズ及び形状によって決まり、磁石の体積に対する磁束の2乗の積分に比例する。大型のHTS磁石は大量の磁気エネルギーを蓄えることができ、この磁気エネルギーはクエンチの際に安全かつ迅速に散逸させる必要がある。
【0021】
特許文献3には、コイルの巻線間に介在する金属絶縁体転移(MIT)材料層を含む超伝導コイルが記載されている。MIT材料の抵抗率は、転移温度を超える温度では大幅に減少する。超伝導コイルに電流が供給されると、巻線の1つに抵抗性の「ホットスポット」(すなわち、常伝導ゾーン)が形成されることにより、その温度を転移温度より高く上昇させるMIT材料層の局部的な加熱が生じる可能性があり、それによってMIT材料層の抵抗が低下し、コイル内の電流がMIT材料層を通って隣接するターンに流れるようになり、常伝導ゾーンを迂回してその温度上昇の速度を低下させる。
【0022】
特許文献3に記載されている超伝導コイルの1つの問題は、MIT材料層の電気抵抗率がコイルへの損傷を避けるのに及び/又はコイル内の暴走発熱を防ぐのに十分なほど急速に低下せず、クエンチにつながる可能性があることである。既存のHTSコイル設計のもう1つの問題は、コイルのターン間抵抗がホットスポットの急速な横方向(半径方向)の伝播を可能にするほど十分に低いか、又はコイルを急速に通電/非通電できるほど十分に高いか、すなわち、コイルの時定数L/Rが小さくなる(L及びRはコイルのインダクタンス及び抵抗である)のに十分なほど高いかのトレードオフがあることである。小さい時定数の必要性は、大型で高インダクタンスのコイルにおいて特に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2013/030554号公報
【特許文献2】国際公開第2019/150123号公報
【特許文献3】国際公開第2017/039299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、上記の問題に対処するか又は少なくとも軽減するHTS界磁コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の第1の態様によれば、高温超伝導体(HTS)界磁コイルであって、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有するHTS界磁コイルが提供される。ターンは、HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層によって軸に垂直な方向に沿って互いに分離される。HTS界磁コイルはさらに、1つのターンから隣接するターンまで絶縁体材料の層を通って延びる1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素を含む。1つ以上の導電経路の両端に発生する電圧差に応じて、電流が1つ以上の導電体要素を通って駆動され(すなわち、流れ)、絶縁体材料の層を加熱する。電圧差は、例えば、HTS材料に形成される(又は形成され始める)1つ以上の「ホットスポット」によって発生し得る。
【0026】
半径方向の電流による導電体要素の急速な加熱により、導電体要素の近くにある絶縁体材料の温度が上昇し、ホットスポットに隣接するコイルの少なくとも一部(例えば、絶縁体)のターン間抵抗が急速に減少する。その後、半径方向の電流が絶縁体材料を通して駆動され、ターン内のHTS材料が常伝導になる。
【0027】
絶縁体材料の第2の抵抗率は、第1の抵抗率の0.1未満、できれば第1の抵抗率の0.01未満であり得る。
【0028】
絶縁体材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の金属相を有し、相転移温度よりも高い温度で第2の絶縁体又は半導体相を有することができる。相転移温度は、HTS界磁コイルが動作するときに絶縁体材料が第2の絶縁体又は半導体相になるように、HTS材料の発生温度よりも低いことができる。
【0029】
代替的に、絶縁体材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の絶縁体又は半導体相を有し、相転移温度よりも高い温度で第2の金属相を有し、相転移温度はHTS材料の発生温度よりも高いことができる。絶縁体材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する磁気抵抗材料であることができ、それによって、軸に垂直な方向に沿ったターンの間の電気抵抗は、コイルに電流が供給されると減少する。
【0030】
絶縁体材料は、二炭化ユウロピウムであることができ、又は二炭化ユウロピウムを含むことができる。二炭化ユウロピウムは、ユウロピウムと炭素の原子比が1:2.0から1:2.6の非化学量論的であることができる。
【0031】
絶縁体材料は、酸化バナジウムであることができ、又は酸化バナジウムを含むことができる。
【0032】
1つ以上の導電体要素は、それぞれ金属又は合金を含むことができ、金属又は合金は、好ましくは銅、真鍮、鋼、ステンレス鋼、ハステロイ、及びニッケルのうちの1つ以上を含むことができる。
【0033】
1つ以上の導電体要素は、それぞれ半導体を含むことができる。
【0034】
導電体要素又は各導電体要素は、1つのターンから隣接するターンまで絶縁体材料の層を通って延びることができる。
【0035】
導電体要素又は各導電体要素は、その上に絶縁体材料の層が設けられる導電層を含むことができ、絶縁体材料の層は、それを通して1つのターンに電気的接触を行うことができる1つ以上の窓を含む。すなわち、導電体要素はさらに窓内の部分を含むことができる。
【0036】
導電層は、絶縁体材料の層と他の絶縁体材料の層との間に設けられ、他の絶縁体材料の層は、それを通して隣接するターンに電気的接触を行うことができる1つ以上の窓を含む。他の絶縁体材料の層の窓又はそれぞれの窓は、絶縁体材料の層の窓又はそれぞれの窓からオフセットされることができ、導電要素又は各導電要素は、窓内の部分を含むことができる。
【0037】
したがって、導電経路又は各導電経路は、絶縁体材料の層内に設けられた複数の導電体要素を含むことができる。
【0038】
窓の代わりに、又は窓に加えて、複数の導電体要素を絶縁体材料内の分散物として設けることができる。
【0039】
導電体要素又は各導電体要素の電気抵抗率は、HTS材料の発生温度における絶縁体材料の第1の抵抗率よりも小さいことができる。
【0040】
絶縁体材料の層内の導電経路又は各導電経路の少なくとも一部分は、コイルの軸の半径に垂直な方向に延びる構成部分(部分)を有することができる。導電経路は、絶縁体材料の層内で蛇行し得る。
【0041】
HTS材料はReBCOであることができる。
【0042】
第1の温度は25K以下であることができ、第2の温度は40K以上であることができる。
【0043】
HTS材料の発生温度は、ゼロ印加磁場におけるHTS材料の発生温度であることができる。
【0044】
HTS材料のターンは一次コイルを提供し、さらに0.5より大きい、好ましくは0.9より大きい磁束結合係数で一次コイルに誘導結合された二次コイルを含むことができる。
【0045】
HTS界磁コイルは、50cmを超える寸法、2mを超える寸法、又は5mを超える寸法を有することができる。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、磁石のコイルに電流を流すためのケーブルが提供される。ケーブルは、
ケーブルの長さに沿って延びる高温超伝導体(HTS)材料のHTS層と、
ケーブルの長さに沿ってHTS層に平行に延びる絶縁体材料の層であって、絶縁体材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層と、
絶縁体材料の層のHTS材料と電気的に接触している側から絶縁体材料の層の反対側まで絶縁体材料の層を通る1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素と
を含む。
【0047】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様によるHTS界磁コイルを製造するために、HTS材料を含む高温超伝導体(HTS)テープと共巻するための絶縁体テープであって、
HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有する絶縁体材料の層と、
絶縁体材料の層の一方の側から絶縁体材料の反対側まで絶縁体材料を通る1つ以上の導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素と
を含む絶縁体テープが提供される。
【0048】
1つ以上の導電経路の両端に発生する電圧差に応じて、電流が1つ以上の導電体要素を通って駆動され、絶縁体材料の層を加熱する。
【0049】
本発明の第4の態様によれば、高温超伝導体(HTS)界磁コイルであって、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有するHTS界磁コイルが提供される。ターンは、磁気抵抗材料を含む1つ以上の層によって軸に垂直な方向に沿って互いに分離される。磁気抵抗材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有し、それによって、軸に垂直な方向に沿ったターンの間の電気抵抗は、コイルに電流が供給されると減少する。
【0050】
磁気抵抗という用語は、印加磁場に応じた(磁気抵抗)材料の抵抗の変化を指す。これは、印加磁場の関数としての材料の抵抗(又は抵抗率)の相対的な変化によって定量化することができる。例えば、材料の磁気抵抗は((ρ(B)-ρ(0)))(ρ(0))のように表すことができ、ここでρ(B)は印加磁場B(例えば、1T)における材料の抵抗率、ρ(0)はゼロ印加磁場における材料の抵抗率である。巨大磁気抵抗(CMR)という用語は、本明細書では、例えば、1Tの印加磁場において5%を超える電気抵抗率の絶対変化など、従来にない大きな(又は極端な)磁気抵抗を示す材料の磁気抵抗を表すために使用される。
【0051】
1Tの印加磁場に応答した前記温度における磁気抵抗材料の電気抵抗率の相対的な減少は、5%より大きく、50%より大きく、より好ましくは99%より大きくなり得る。
【0052】
20Kの温度における磁気抵抗材料の電気抵抗率は、103オームcmより大きく、104オームcmより大きく、より好ましくは105オームcmより大きくなり得る。
【0053】
磁気抵抗材料は、二炭化ユウロピウムEuC2であることができ、又は二炭化ユウロピウムEuC2を含むことができる。二炭化ユウロピウムは非化学量論的であることができ、ユウロピウムと炭素の原子比は1:2.0から1:2.6である。
【0054】
HTS材料はReBCOであることができる。
【0055】
磁気抵抗材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い抵抗率を有することができる。
【0056】
磁気抵抗材料は、相転移温度よりも低い温度で第1の金属相を有し、相転移温度よりも高い温度で第2の絶縁体又は半導体相を有し、HTS界磁コイルが動作するときに絶縁体材料が第2の絶縁体又は半導体相にあるように、相転移温度はHTS材料の発生温度よりも低いことができる。磁気抵抗材料が印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する温度は、相転移温度よりも高い。
【0057】
HTS材料の発生温度は、HTS材料が常伝導になることによって大きな電圧を生成し始める(すなわち、完全に超伝導でなくなる)温度を指す。
【0058】
ターンは、HTS材料を可撓性基板上の層として含む1つ以上の長さのHTSテープから形成することができる。
【0059】
磁気抵抗材料を含む各層は、コイルの軸の周りで1つ以上の長さのHTSテープと共巻きされた可撓性基板上に設けることができる。
【0060】
磁気抵抗材料を含む各層は、5ミクロン(マイクロメートル)から100ミクロン(マイクロメートル)の厚さを有することができる。
【0061】
本発明の第5の態様によれば、巻いてHTS界磁コイルにするための高温超伝導体(HTS)ケーブルが提供される。ケーブルは、可撓性基板と、HTS材料の層と、第4の態様について上述したように、磁気抵抗材料の層(例えば、二炭化ユウロピウム)とを含む層のスタックを有する。磁気抵抗材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で、印加磁場に応じて減少する電気抵抗率を有する。
【0062】
本発明の第6の態様によれば、第1又は第4の態様による1つ以上のHTS界磁コイルを含む電磁石が提供される。
【0063】
本発明の第7の態様によれば、プラズマ容器と、プラズマ容器内で磁場を生成するための一組の界磁コイルとを含み、各界磁コイルは本発明の第1又は第4の態様によるHTS界磁コイルであるシステムが提供される。
【0064】
本発明の第8の態様によれば、本発明の第1又は第4の態様によるHTS界磁コイルを含み、HTS界磁コイルはトロイダル磁場コイル又はポロイダル磁場コイルのいずれかであるトカマク核融合炉が提供される。
【0065】
本発明の第9の態様によれば、高温超伝導体(HTS)磁石システムであって、
本発明の第1又は第4の態様による高温超伝導体(HTS)界磁コイルと、
HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料における超伝導性の喪失を検出するように構成された検出ユニットと、
前記検出に応じてHTS界磁コイルから外部抵抗負荷に電流を移すように構成されたクエンチ保護ユニットと
を含むHTS磁石システムが提供される。
【0066】
HTS界磁コイルは50cmより大きい半径を有することができる。
【0067】
外部抵抗負荷はバリスタ(すなわち、印加電圧によって決まる抵抗を有する抵抗器)であることができる。
【0068】
本発明の第10の態様によれば、本発明の第1又は第4の態様による高温超伝導体(HTS)界磁コイルを、HTS界磁コイルの1つ以上のターンにおける超伝導性の喪失に続く損傷から保護する方法が提供される。方法は、
HTS界磁コイルの少なくとも1つのターンのHTS材料における超伝導性の喪失を検出することと、
前記検出に応じてHTS界磁コイルを外部抵抗負荷に電気的に接続することと
を含む。
【0069】
本発明の第11の態様によれば、高温超伝導体(HTS)界磁コイルを含むHTS磁石システムであって、HTS界磁コイルは、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含む複数のターンであって、絶縁体材料の層によって軸に垂直な方向に沿って互いに分離されているターンと、1つのターンから隣接するターンまで絶縁体材料の層を通って延びるそれぞれの導電経路を提供するように配置された1つ以上の導電体要素とを含むHTS磁石システムが提供される。HTS磁石システムは、HTS界磁コイルの少なくともいくつかのターンの両端に接続されたバリスタを含むクエンチ保護回路を含む。バリスタは、少なくともいくつかのターンの両端に発生する電圧に応じて抵抗が減少するように構成され、それによって、1つ以上の導電体要素を通る前記電圧によって駆動される電流の割合は、バリスタを通る電流に比べて、電圧が増加するにつれて減少する。
【0070】
HTS磁石システムはさらに、好ましくは0.5より大きい、より好ましくは0.9より大きい磁束結合係数でHTS界磁コイルに誘導結合された二次コイルを含むことができる。
【0071】
ゼロ印加電圧におけるバリスタの抵抗は、HTS材料の発生温度における1つ以上の導電体要素のそれぞれの抵抗よりも大きいことができる。
【0072】
HTS界磁コイルは、上述の本発明の第1の態様によるHTS界磁コイルであることができる。
【0073】
クエンチ保護回路はさらに、HTS界磁コイルに電流を供給するための電源と、HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料における超伝導性の喪失を検出するように構成された検出ユニットと、HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部分のHTS材料における超伝導性の喪失を検出ユニットが検出したことに応じて前記HTS界磁コイルから前記電源を切断するように構成された回路遮断器とを含むことができる。
【0074】
本明細書には、HTS界磁コイルであって、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有し、ターンは、相転移温度よりも低い温度で第1の金属相を有し、相転移温度よりも高い温度で第2の絶縁体又は半導体相を有する材料を含む1つ以上の層によって、軸に垂直な方向に沿って互いに分離され、相転移温度はHTS材料の発生温度よりも低い、HTS界磁コイルも記載されている。
【0075】
本明細書には、HTS界磁コイルであって、コイルの軸の周りに巻かれたHTS材料を含むターンを有し、ターンは二炭化ユウロピウムを含む1つ以上の層によって軸に垂直な方向に沿って互いに分離されている、HTS界磁コイルも記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0076】
図1】既知のHTSテープの概略図である。
図2】本発明の一実施形態によるコイルの概略半径方向断面図である。
図3図3Aは本発明の一実施形態による絶縁体テープの概略図である。
【0077】
図3B図3Aの絶縁体テープの概略側面図である。
図4】本発明の別の実施形態によるコイルの概略半径方向断面図である。
図5】トカマク核融合炉の概略断面図である。
図6】外部抵抗への磁気エネルギーのダンピング中のトロイダル磁場コイルにおけるエネルギーの計算結果を示すグラフである。
図7】外部抵抗への磁気エネルギーのダンピング中のHTS及び絶縁テープの温度の計算結果を示すグラフである。
図8】クエンチ保護システムの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
導電体要素による部分絶縁
本明細書では、HTS界磁コイルの隣接するターンが、ホットスポットの形成中又は形成後にターンの間を流れる電流の結果として急速に増加することができる導電率を有する「部分絶縁」層によって互いに分離されている、界磁コイルが提案されている。部分絶縁層は、絶縁体材料の層と、絶縁体材料の層を通る導電経路を提供する導電体要素とを含む。コイルのターンの1つにホットスポットが形成されると、電流が影響を受けたターンを少なくともある程度バイパスし、それにより当該ターンから隣接する1つのターン(又は複数のターン)へと導電体要素を通って電流が流れる。絶縁体材料は、HTS材料の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度でより低い第2の抵抗率を有するように選択される。導電体要素の抵抗加熱は、周囲の絶縁体材料の温度を上昇させ、それによってコイルのターン間抵抗を減少させる。
【0079】
図2は、リボンのスプールと同様の方法で、軸Z(コイルの軸)の周りにHTSテープ100(この場合はReBCOテープ)を巻くことによって形成されたコイル200の半径方向断面図を示す。明確にするために、図には2つのターン(巻線)201A、201Bのみが示されているが、任意の数の巻線を使用することができる。ターン201A、201Bは互いに入れ子になって、しばしば「パンケーキ」コイルと呼ばれる、全体として平面的なコイル200を形成する。HTSテープ100は、図1に関して上述したようにHTSテープ(又はその剥離版)であることができる。コイル200の内周は円形であるが、一般に任意の二次元形状、例えば、「D」形状であることができる。
【0080】
HTSテープ100の各ターン201A、201Bが絶縁体テープ203のターンによって半径方向(すなわち、軸Zに垂直で軸Zを通る方向)に互いに離れるように、絶縁体テープ203がHTSテープと共巻きされる。絶縁体テープ203は、HTSテープの幅(この場合は12mm)と実質的に等しい幅(すなわち、Z軸に沿った長さ)を有する。絶縁体テープ203は、コイルが通常の低温条件下で(すなわち、ホットスポットがない状態で)動作するときに、ターン201A、201Bを互いに電気的に絶縁する絶縁体材料207を含む。この実施例では、絶縁体材料は二炭化ユウロピウム(EuC2)であるが、二炭化ユウロピウムに加えて又は二炭化ユウロピウムの代わりに他の好適な絶縁体材料を使用することもできる。例えば、絶縁体材料は、材料の必要とされる温度性能に応じて、様々な化学量論性(例えば、V23、V35、V2n2n+1…VO)の酸化バナジウムであることができる。要件に応じて使用できる他の絶縁体材料には、ゲルマニウムなどの半導体、又はFe4、RNiO3(R=La、Sm、Nd、Pr)、La1-xSrxNiO4、NiSe1-xSex、BaVS3などの他の既知の金属絶縁体転移(MIT)材料が含まれる。代替的に又は追加的に、他の遷移金属又は希土類元素の炭化物、酸化物、もしくは窒化物が、場合によっては好適な絶縁体材料となり得る。
【0081】
二炭化ユウロピウムは、低温では高い電気抵抗率を有するが、高温では非常に低い抵抗率を有するため、好ましい絶縁体材料である。詳細には、二炭化ユウロピウムは、HTS材料(ReBCO)の発生温度よりも低い温度で第1の抵抗率を有し、HTS材料の発生温度よりも高い第2の温度で非常に低い抵抗率を有する(第1の抵抗率及び第2の抵抗率は、一定の印加磁場における、例えば、ゼロ印加磁場における二炭化ユウロピウム207に対するものである)。例えば、(ゼロ磁場で測定した)二炭化ユウロピウムの電気抵抗率は、15Kの温度で約107オームcmの(ゼロでない磁場の場合はこれよりも低い)最大電気抵抗率を有するが、300Kの温度では約1オームcm未満である。この挙動により、コイルが低温(例えば、40Kよりも低い温度)で動作するときに、EuC2207がターン201A、201Bを互いに電気的に絶縁することができ、すなわち、EuC2207は電流がターンの間で半径方向に流れるのを実質的に防ぐため、電流の大部分(例えば、>95%)がターンの周りで円周方向に流れる。より高い温度では、EuC2207は、ターン201A、201B間に実質的により低い抵抗を提供し、それにより、HTS材料層103で超伝導性の喪失(したがって電気抵抗の増加)があるときに、より大きな電流がターンの間で半径方向に流れることを可能にする。
【0082】
絶縁体テープ203はさらに、コイル軸Zに対して半径方向に二炭化ユウロピウム207を通過してターン201A、201Bを電気的に接続する銅ブリッジ205A~205Cを含む。銅ブリッジ205A~205Cは、絶縁体テープ203の各ターンの周りに円周方向に配置されるように、すなわち、コイル軸Zの周りに少なくとも360度の範囲に及ぶように、絶縁体テープ内で長さ方向に途切れずに延在することができる。代替的に、銅ブリッジ205A~205Cは円周方向に短い距離だけ延在することができ、すなわち、各銅ブリッジ205A~205Cが絶縁体材料207のそれぞれの窓(貫通孔)を埋め、円周方向に間隔を置いて配置された銅ブリッジ205A~205Cが存在し得る。後者の場合、銅ブリッジを含まない半径方向断面が存在し得る(すなわち、絶縁体材料207は、これらの半径方向断面において界磁コイルの上端から下端まで途切れずに延びている)。図2に示す半径方向断面には3つの銅ブリッジしか見えていないが、このような断面に任意の数のブリッジが存在し得ることが理解されるであろう。したがって、絶縁体テープ203は全体として、銅ブリッジ205A~205Cの比較的高い導電率と共に二炭化ユウロピウム207の比較的高い抵抗率のために、低温では「部分的な」絶縁体として機能する。
【0083】
ターン201A、201Bのうちの1つのHTS材料層103にホットスポットが形成された場合、影響を受けたターンに流れる電流の少なくとも一部はホットスポットをバイパスし、ターンの間に生じる電圧の結果として銅ブリッジ205A~205Cを通して隣接するターンに移され、すなわち、銅ブリッジ205A~205Cは、ターン201A、201Bの間で半径方向に電流を移す。銅ブリッジ205A~205Cは、半径方向の電流によって急速に加熱され、これにより、銅ブリッジ205A~205Cを囲む二炭化ユウロピウム207の温度が上昇し、ホットスポットに隣接するコイル200の少なくとも一部のターン間抵抗が急速に減少する。その後、コイル200に蓄積された磁気エネルギーが、絶縁体材料を通して半径方向の電流を駆動し、ターン207A、207BのHTS材料を迅速に常伝導に変える。このプロセスはその後、HTS材料がコイルの大部分について常伝導になるまで続く。
【0084】
銅ブリッジ205A~205Cによる加熱に続いて二炭化ユウロピウム207の抵抗率が大幅に低下することにより、半径方向のターン間電流の少なくとも一部が代わりに二炭化ユウロピウム207を通って流れる。すなわち、銅ブリッジ205A~205Cを流れる電流は、二炭化ユウロピウム207の抵抗率が非常に高いままであった場合に流れるであろう電流と比べて減少する。この減少により、銅ブリッジ205A~205C(又はコイル200の別の部分)が銅ブリッジ205A~205Cの抵抗材料を流れる非常に大きな電流によって損傷又は「焼損」するリスクが大幅に低減又は排除される。
【0085】
銅ブリッジ205A~205Cに流れる電流を制限することは、銅ブリッジ205A~205Cの抵抗が温度と共に増加するため((例えば、20Kから200Kの間で約15倍)、過度の発熱を避けるために特に重要である。これらの懸案事項は、膨大な量の磁気エネルギーを蓄えることができる非常に大きなコイル、例えば、約1.5GJの磁気エネルギーを蓄えることができる、約6mの高さを有するトカマクTFコイルにとって最も重要である。より大きなコイルの問題のいくつかは、コイルの特徴的な長さ寸法(例えば、半径)が大きくなるにつれてコイルの特性がどのように変化するかを考慮することによって理解することができる。蓄積された磁気エネルギーは、長さ寸法の3乗に応じて上昇するが、そのエネルギーを吸収しなければならないコイルの質量は、コイル寸法に対して直線的に又は2乗のオーダーでしか上昇しない。したがって、クエンチ中の熱がコイル全体に均一に分散されるようにすることが重要である。
【0086】
二炭化ユウロピウム207と銅ブリッジ205A~205Cの組み合わせにより、絶縁体テープ203がホットスポットの形成(又は形成の始まり)によって生じる局所的な加熱に応答できる速度が大幅に増加する。すなわち、絶縁体テープ203の抵抗が減少する速度は、銅ブリッジ205A~205Cが二炭化ユウロピウム207を加熱することによって増加する。銅ブリッジがない、既存の形式の温度依存ターン間絶縁体の場合、絶縁体が十分に加熱されてコイルのターン間抵抗の大幅な減少を引き起こす前に、HTSテープ100のクラッド(例えば、銀層104又は銅層105)内を流れる電流によって、より多くの熱が生成されなければならない。このような局所的かつ比較的長時間の加熱は、HTSテープ100の損傷の増加につながる可能性がある。絶縁体テープ203の「応答時間」の改善(すなわち、減少)から生じる別の利点は、HTS磁石に機械的損傷をもたらす可能性がある、HTS界磁コイル200の異なる部分の間に不均衡な力が蓄積する時間が短縮されることである。
【0087】
HTS界磁コイル200のターン間抵抗は、絶縁体テープ203内のブリッジ205A~205Cの数密度を変えること、絶縁体テープ203の厚さを変えること、又は真鍮、ステンレス鋼、ハステロイ、ニッケル又は半導体材料などの銅以外の抵抗材料をブリッジに使用することなどの多くの異なる方法で変えることができる。ブリッジは、その長さに沿って(すなわち、図2に示す水平な半径方向に沿って)実質的に一定の断面積を有することができ、任意の形状をとることができる。ブリッジの断面積を増加(又は減少)することにより、必要に応じてターン間抵抗を増加(又は減少)することができる。場合によっては、ブリッジのいくつかが絶縁体テープ203の端まで延びることができ、すなわち、これらのブリッジのそれぞれが片側で絶縁体材料によって囲まれないようにすることができる。
【0088】
絶縁体材料を通る導電経路の長さはまた、ブリッジ205A~205Cを、絶縁体材料内の蛇行経路(例えば、絶縁体材料内で一回以上自身に折り重なる、曲がりくねった又は「蛇行する」経路)をたどるように構成することによって長くすることができる。この種の配置により、ブリッジで発生した熱を、曲がりくねっていない経路と比較してより広い面積にわたって絶縁体材料に伝達することができる。
【0089】
上述の金属ブリッジは、絶縁体テープ203によって提供されるターン間抵抗が各ターンで(少なくともほぼ)一定のままであることを確実にするために、絶縁体テープ203に沿って変化させることができる。
【0090】
2つのコイル200は、一方のコイル200が他方のコイル200の上に積層され、2つのコイル200の間に絶縁層を有する「ダブルパンケーキコイル」として配置することができる。2つのパンケーキコイル200はそれぞれ逆方向に巻かれ、コイル200のそれぞれの外側端子(すなわち、各コイルの最も外側のターンの終端)に電圧を加えることによってコイルに電流を供給することができるように、コイル200の内側端子(すなわち、各コイルの最も内側のターンの終端)が互いに接続される。
【0091】
絶縁体テープ203は基板を含み、基板の上に二炭化ユウロピウム207(又は他の絶縁体材料)が層として設けられ、銅ブリッジ205A~205Cが基板と二炭化ユウロピウム207の両方を貫通することを可能にする貫通孔(すなわち、窓)を備えることができる。基板は、銅ブリッジ205A~205Cから二炭化ユウロピウム207への熱伝達を促進するために、銅などの別の熱伝導性材料から形成されるか又は別の熱伝導性材料を含むことができる。基板はまた導電性であることができ、その場合、銅ブリッジ205A~205Cはそれぞれ、基板にスルーホールが必要ないように基板と電気的に接触していることができる。一実施例では、基板はハステロイで作られ、100ミクロン(マイクロメートル)の厚さを有し、一方、EuC2層207は20ミクロン(マイクロメートル)の厚さを有する。EuC2層207の厚さは、所望のターン間抵抗に従って調整することができ、例えば、1ミクロン(マイクロメートル)から100ミクロン(マイクロメートル)であることができる。任意選択で、基板の両側にEuC2層207を設けることができる。EuC2層207は、例えば、WanderらのInorganic Chemistry(2010)49,1,312-318によって記載されるように、元素ユウロピウムとグラファイトの1673Kでの反応によって形成することができる。
【0092】
代替的に(又は追加的に)、絶縁体テープ203をHTSテープ100から切り離して設けるのではなく、EuC2層207及び銅ブリッジ205A~205CをHTSテープ100の片面に接合するか、もしくはHTSテープ100の両面に設けること、すなわち、HTSテープ100の各面にそれぞれEuC2層207及び銅ブリッジ205A~205Cが設けられるようにすることができる。このような1つ又は複数のテープ及び1つ以上のHTSテープ100を積層配置で(すなわち、各テープのHTS層が平行であるように配置して)含むケーブルも作ることができる。このようなケーブルは、大型の界磁コイルを製造するのに特に有益である可能性がある。
【0093】
絶縁体テープ203を形成する別の方法は、絶縁体材料(例えば、二炭化ユウロピウム)と金属粒子(例えば、銅粉)の混合物を、銅層又はHTSテープ100などの基板上に堆積させることを含む。金属粒子は二炭化ユウロピウム内に分散され、二炭化ユウロピウムを通る導電経路を提供する小型の導電性「トラック」を形成する。この方法は、HTSテープ100、例えば、REBCOテープを製造する既存の方法に容易に組み込むことができる。二炭化ユウロピウム内の金属粒子の数密度及び/又はサイズは、絶縁体テープ203の特定の部分がより導電性になるように不均一であることができる。金属粒子の数密度及び/又はサイズはまた、絶縁体テープ203がHTS界磁コイル200に巻かれたときに(実質的に)一定のターン間抵抗を提供するように変化させることができる。
【0094】
図3A及び図3Bは、(絶縁体テープ203について上述したように、基板とみなすことができる)金属(例えば、銅)ストリップ301の少なくともコイルが巻かれたときにHTSケーブルに面する側に絶縁体材料(例えば、EuC2)302の薄いコーティングが設けられた絶縁体テープ300を示す。絶縁コーティングは、金属ストリップ301のそれぞれの側で間隔を置いて窓又は「貫通穴」303の上で除去される(又は塗布されない)。窓は任意の形状を有することができ、任意選択で絶縁体テープ300の端まで延びることができる。金属ストリップ301の両側の窓303の位置は、図3Bに示すように互い違いになっており(すなわち、窓は互いにオフセットされており)、ある窓から別の窓に流れる電流の経路310が金属ストリップ301の長さ方向に平行に延びる部分を含むようになっている。この配置は、絶縁体テープ300全体の抵抗を(絶縁されていないストリップ、又は両側の窓が直接向かい合っているストリップに比べて)増加させ、絶縁体材料コーティングのより大きな加熱を引き起こす。
【0095】
金属ストリップは、良好な電気的接触を確実にするために(例えば、巻線中に)HTSケーブルにはんだ付けすることができる。代替的に、単に一度巻かれたコイル内の圧力によって接触を達成することができる。更なる代替手段として、付加的な導電性インサートを窓に追加することもでき、金属ストリップが窓内に延びる突出部を有することもできる。インサート又は突出部は、窓全体を埋めることもでき、窓の一部のみを埋めることもできる。例えば、窓が「レーン」である場合、インサートは、そのレーンに沿って間隔を置いて設けることができるので、インサートは、事実上、窓のサイズを縮小し、絶縁体テープ303によって提供されるターン間抵抗を調整するために使用することができる。
【0096】
図3の絶縁体テープ300と同様の絶縁体テープは、フレキシブルプリント回路基板(PCB)として製造することができ、絶縁体材料(例えば、EuC2)302は、接着剤によって金属ストリップに接合され、その後、窓を形成するためにエッチングされ、更なる金属要素が、金属ストリップと電気的に接触するように、必要に応じて絶縁コーティング又は金属ストリップに接合される。代替的に、絶縁体材料のコーティングは、事前に切断された窓を有する(又は、ストリップに塗布されたときに「レーン」ができるようにサイズを設定する)ことができ、その後、巻線中に接着剤によって金属ストリップに接合することができる。他の製造方法を使用することもできる。
【0097】
上述のように、HTSコイルは、HTS材料の隣接するターンの間に設けられる材料に応じて、非絶縁、部分絶縁、又は絶縁であることができる。これらの異なるタイプのHTSコイルは、HTS材料の一部にホットスポットが形成された後に著しく異なる挙動を示す可能性があり、ホットスポットの形成に安全かつ効果的に対応するために、異なるアプローチが必要とされる。
【0098】
完全に絶縁された磁石の場合、HTSテープ100の一部にホットスポットが形成されると、電流がHTS材料の常伝導ゾーンをバイパスし、HTSテープ又はHTSケーブルの別の層に優先的に流れる。例えば、いわゆる「安定化」金属(銅やアルミニウムなど)を追加せずに積層テープケーブルを使用して巻かれた磁石では、輸送電流は、HTSテープの外殻の銅(存在する場合)及びハステロイ(又はニッケルタングステン)基板に優先的に流れる。HTSテープ又はHTSケーブルの他の層内のジュール加熱により、ホットスポットの温度が急速に上昇し、ケーブルの構造及び磁石に蓄えられた磁気エネルギーの量にもよるが、通常は10~1000ミリ秒以内に銅の融点を超える。十分な蓄積された磁気エネルギーが利用可能である場合、ターンはその最も熱い点で蒸発し、破壊的なアークが形成され、磁石に回復不能な損傷を与える。HTS磁石は高温(磁石の設計にもよるが、概ね最大30~60Kまで)で超伝導状態を維持することができるため、この問題はHTS磁石で特に深刻である。これらの温度では、従来の低温超伝導(LTS)磁石が動作する温度である1.2~4.2Kなどの低温と比較して、ほとんどの材料が大幅に増加した熱容量を有する。このより高い熱容量は、ホットスポットが通常、ターンの周り及び隣接するターンの間で非常にゆっくりと(例えば、約10~100mm/sの速度で)伝播し、まだ超伝導であり散逸がない周囲のHTS材料とホットスポットのピーク温度との間に大きな温度勾配が形成されることを意味する。
【0099】
これらの問題は、完全に絶縁された磁石の場合、HTSケーブルに付加的な高導電性の常伝導(すなわち、非超伝導体)金属(例えば、銅)を追加してジュール加熱を減らし、温度上昇の速度を遅くすることで軽減することができ、これにより、ホットスポットを検出して磁石の安全なシャットダウンを開始するまでの時間を長くすることができる。しかしながら、大型の磁石は、ホットスポットを検出してクエンチを開始するための許容可能な時間枠を与えるために、各ターンにかなりの量の付加的な高導電性金属が追加されることを必要とする。付加的な金属は、巻線パック電流密度、すなわち、ケーブルが流す電流をケーブルの断面積で割った値を大幅に減少させるが、ホットスポットが発生するまでは何の目的も果たさない。さらに、この目的に最適な金属(銅及びアルミニウム)は比較的低いヤング率を有するため、多くの場合、見られる高い電磁応力に耐えるためにケーブルを高強度材料のジャケットで覆う必要があり、HTSケーブルの電流密度がさらに低下する。これらの問題は、HTSテープ100のターンの間の絶縁体材料の層が比較的薄く、例えば、1mm未満の厚さ又は5ミクロン(マイクロメートル)から100ミクロン(マイクロメートル)の厚さを有する、上述の界磁コイル200、400などの界磁コイルを用いて回避することができる。
【0100】
コンパクトな球状トカマク(ST)のトロイダル磁場(TF)磁石の中心柱の場合、結果として得られる電流密度は、典型的に<50A/mm2であり、確実に<100A/mm2である。しかしながら、より大きなSTに必要な平均電流密度は非常に高い。例えば、1.4mの長半径(R0)と、R0で4Tの磁場とを有するSTは、400A/mm2程度の平均電流密度を必要とする。したがって、より大きなSTでは、大量の付加的な導体を追加することは現実的ではない。したがって、上述の界磁コイル200(及び後述の界磁コイル400)などの界磁コイルは、コンパクトな球状トカマクに特に適している。
【0101】
磁気抵抗材料を含むHTS界磁コイル
磁気抵抗材料層を使用してHTSコイルのターン間電気絶縁を提供する、上述の問題のいくつかに対する別の解決策が本明細書に提案されている。磁気抵抗材料の電気抵抗率は、HTSコイルの発生温度よりも低い温度で印加磁場に応じて減少する。磁気抵抗材料層は、HTSコイルに供給される電流の量が少ない(したがって、コイルによって生成される磁場が小さい)とき、HTSコイルのターンの間に高い電気抵抗を提供する(すなわち、コイルは「絶縁」コイルである)。しかしながら、HTSコイルにより多くの電流が供給されると、HTSコイルによって生成される磁場により、磁気抵抗材料層の電気抵抗は減少する(コイルは「非絶縁」又は「部分絶縁」のみのコイルになる)。この挙動により、ランプアップの初期段階中は(すなわち、電流が低い値から高い値に上昇するときは)急速に、その後はコイルのターン間抵抗がより低い最終抵抗まで減少する(したがって、L/R比が増加する)につれてより低い速度で、コイルに電流を供給することができる。したがって、HTSコイルの全体的なランプアップ時間は、HTSコイルが到達する最終ターン間抵抗と同じターン間抵抗を有するが、磁気抵抗材料を含まない他のHTSコイルに比べて短縮される。
【0102】
例えば、HTSコイルがインダクタンスLを有し、例えば、HTS層103にホットスポットが形成された場合にターンの間に電流が流れることを可能にするために、最終ターン間抵抗R1が望ましいと仮定する。磁気抵抗材料層を含むHTSコイルは、最終ターン間抵抗R1よりも高い(ゼロ電流での)当初ターン間抵抗R0を有する。したがって、HTSコイルの平均時定数はL/R0とL/R1の間になる。対照的に、一定のターン間抵抗R1を有する同等のHTSコイルは、より大きな時定数L/R1を有することになる。好ましくは、磁気抵抗材料は、巨大磁気抵抗(CMR)を示すことができる。例えば、強度0Tの印加磁場から強度1Tの印加磁場に移行するときの磁気抵抗材料の電気抵抗率の減少率は、5%を超えることができる。
【0103】
図4は、HTSテープ100の複数のターン401A、401Bを含むコイル400の半径方向断面図を示す。このコイルは、絶縁体テープ403が銅ブリッジを含まないことを除いて、図2に関して上述したコイル200と同一である。すなわち、絶縁体テープ403は、導電性(例えば、銅又はハステロイ)基板405と、絶縁体材料(例えば、二炭化ユウロピウム)層407とを含む。
【0104】
絶縁体材料は磁気抵抗材料、すなわち、外部磁場の印加による電気抵抗率の変化である磁気抵抗を示す材料である。二炭化ユウロピウムは、大きな磁場の印加による電気抵抗率の変化が非常に大きい、いわゆる巨大磁気抵抗(CMR)を示すため、磁気抵抗材料の好ましい選択肢である。例えば、20Kの温度において、二炭化ユウロピウムは、ゼロ磁場では約107オームcmの電気抵抗率を有するが、1Tの磁場では約104オームcmの低効率、14Tの磁場では10から100オームcmの低効率を有する。
【0105】
絶縁体テープ403の磁気抵抗は、最初は急速に、その後はHTS界磁コイル400が生成する磁場に応じてHTSコイル400のターン間抵抗が減少するにつれてより低い速度でコイル400に電流を供給できることを意味する。また、HTSコイル400が高電流(すなわち、高磁場)で動作するときの非常に低いターン間抵抗は、HTSテープの隣接するターン401A、401B間で電流をある程度共有することを可能にし、これにより、後述するように、HTSコイル400はホットスポット形成に対してよりつよくなる。
【0106】
HTSテープ100の1つのターン401A、401Bの領域が「ホットスポット」を形成すると、すなわち、HTSテープ100の残りの部分よりも暖かくなると、ホットスポットは、HTSテープ100が超伝導でなくなるのに十分な熱が生成されるまで、すなわち、HTS材料103の発生温度を超えるまで、ターンの周囲に広がる可能性がある。しかしながら、絶縁体テープ403はこの問題を軽減するのに役立つ。ホットスポットで発生する熱により、ホットスポットに隣接する(例えば、ホットスポットの両側の)絶縁体テープ403の導電性がより高くなり、これにより、ホットスポットを含むターン401A、401B内の電流の一部がホットスポットをバイパスして隣接するターン401A、401Bに移動する(すなわち、電流が半径方向に流れる)からである。
【0107】
上述のように、HTSコイル100を流れる電流によって生成される磁場は、磁気抵抗層407の抵抗を大幅に減少させる。この抵抗の減少は、磁気抵抗層407の電気抵抗がホットスポット形成中又は形成後に隣接するターン401A、401B間で電流が移動するのに十分なほど低くなる前に、比較的小さな温度上昇のみが必要であることを意味する。したがって、層407の磁気抵抗は、電流がホットスポットから実質的に離れるように進路変更する前に、過度の局所的な加熱を防ぐのに役立つ。この挙動は、材料の抵抗が隣接するターン間で大きな電流移動が起こるのに十分なほど低くなる前に比較的大きな温度上昇が必要となり得る非磁気抵抗材料の挙動と対照的である。
【0108】
図4に示す実施形態では、各ターン401A、401Bは単層のHTSテープを有するが、コイル400は、各ターン401A、401Bが2層以上のHTSテープを含むように、対面配置で積み重ねられた2層以上のHTSテープ400を含むケーブルから形成することもできる。好ましくは、ケーブルは、HTS層103が互いに向き合うように配置されたHTSテープを含む(すなわち、HTS層103は、HTSテープ100のそれぞれのハステロイ層101の間にある)。
【0109】
二炭化ユウロピウムの抵抗率は、20Kで約106オームcm、35Kで約103オームcmである。したがって、HTSテープ内に発生するホットスポットは、EuC2層407によって提供されるターンの間抵抗が比較的高いままであるため、初めはターン401A、401Bの周りに比較的ゆっくりと(例えば、約10から50cm/sの速度で)広がる傾向がある。これは、電流がターンを通って流れ続け、コイル400によって生成される磁場が約20Tでほぼ一定のままであることを意味する。ホットスポットの温度が上昇すると、EuC2層407の温度が上昇し、その抵抗率が、例えば、約70Kで約10オームcmまで低下する。EuC2層407のより低い抵抗により、かなりの量の電流が、ホットスポットが形成されたターン401A、401Bから、絶縁体テープ403を通って、HTSテープの1つ以上の隣接するターン401A、401Bへと半径方向に流れることができる。これらのターンのホットスポット付近の部分はその後、臨界電流を超え、それ自体が常伝導になる。したがって、ホットスポットは、クエンチが発生する前に、コイル200を横切って半径方向に(すなわち、Z軸及び1つ以上のターンの接線の両方に垂直な方向に)拡大することができる。
【0110】
酸化バナジウム(例えば、V23)などの他の金属絶縁体転移(MIT)材料とは対照的に、二炭化ユウロピウムの電気抵抗率の低下は狭い温度範囲に限定されず、より低い温度、詳細には、REBCOベースの磁石の場合に冷却コストと導体コストとの最良の妥協点が生じる15~25K付近の温度で始まる。詳細には、二炭化ユウロピウムは、他の金属絶縁体転移材料よりも著しく低い約15Kの相転移温度を有し、転移温度より下の金属相から転移温度より上の絶縁体又は半導体相へ相転移が起こる。この後者の相における二炭化ユウロピウムの電気抵抗率は、上述のように温度の上昇と共に著しく低下する。その結果、二炭化ユウロピウムでは、発生温度を超えた後(そしてHTS材料が超伝導状態から常伝導状態に遷移した後)、ターン間の電流漏れがより急速に発生する。これにより、二炭化ユウロピウム層407は、例えば、酸化バナジウムよりもホットスポット温度の上昇に対してより優れた「制動」効果を有することができる。出願のこの部分の開示は二炭化ユウロピウムに焦点を当てているが、(HTS材料の発生温度に応じて)他の磁気抵抗材料を使用することもできる。例えば、他の希土類元素又は遷移材料の他の炭化物、酸化物、もしくは窒化物が、場合によっては好適な絶縁体材料となり得る。
【0111】
クエンチ保護
上記のように、部分絶縁コイルは、ターン間の絶縁の抵抗を減らすことによってホットスポット付近で発生する熱を低減する方法を提供し、電流が隣接するターンに半径方向に流れることによってホットスポットを有するターンをバイパスできるようにする。したがって、磁石がターンの間に部分的な絶縁を有する場合、電流はターン間だけでなく1つのターン内のテープ間でも移動することができるため、局所的な「ホットスポット」(常伝導ゾーン)の温度が上昇する速度は大幅に低下する。この低下により、ホットスポットを検出し、潜在的に有害なクエンチが発生する前に保護措置を講じるための時間が大幅に長くなる。
【0112】
非絶縁又は部分絶縁磁石で成長している局所的なホットスポットの存在が検出された場合、一連の事象は完全に絶縁されたコイルで発生する一連の事象とは異なる。非絶縁のオプションは、非常に低いインダクタンスを有するコイルにのみ適用可能である。これは、磁石の充電(又はランプ)時間が、超伝導の螺旋状経路と抵抗性の半径方向経路のインダクタンスの比、L/R時定数によって決まるためである。半径方向の抵抗Rは磁石の寸法(例えば、ターンの長さ)の逆数によって決まるが、Lは磁石の寸法の3乗に比例して変化するため、L/Rは線形磁石の寸法の4乗に比例して変化する。インダクタンスは非常に高い輸送電流I0で動作することを選択することによって低減することができるが、極低温コイルを室温電源に接続する電流リードが大きくなりすぎる(許容できない熱漏れを引き起こす)ため、このアプローチには実際的な限界(約100kA)がある。トカマクの場合、非常に高い輸送電流を使用したとしても、非絶縁TFコイルのL/R時定数は長すぎて実用的な時間枠で磁石をランプすることができない。実際には、妥当なランプ時間(より高いRを必要とする)と、妥当な検出ウィンドウ(より低いRを必要とする)を可能にするためにホットスポット温度の上昇速度を遅くすることの間に妥協点を見つける必要がある。Rの適切な妥協値(これをRcと呼ぶ)を見つけるには、各要素の臨界電流を考慮した熱電ネットワークモデルを使用した複雑なモデリングが必要である。
【0113】
シャットダウンは一般に、電源を切断し、磁石の外部の抵抗シャントを介して磁石電流の方向を変え、磁場に蓄えられたエネルギーを吸収して散逸させる。ホットスポットの加熱の速度は、磁石のエネルギーが外部ダンプに放出されるにつれて急速に低下する。磁石設計者は、過度に他と異なる熱応力を避けるために、ホットスポットのピーク温度が最大許容温度(通常は100K、最大でも200Kが選択される)を超えないようにする必要がある。これには通常、ホットスポットを検出し、一定の時間枠(通常、HTS磁石では1秒未満)内にエネルギーダンプをアクティブにするクエンチ保護システムの設計が含まれる。蓄積エネルギーは、磁石のサイズ及び形状によって決まる(体積に対する磁束の2乗の積分に比例する)。
【0114】
部分絶縁は、ホットスポットの位置だけでなく、ターンの周囲のすべてのポイントで、ホットスポットを含むターンから電流をそらすことができるという更なる利点がある。ホットスポットの存在が検出され、磁石のダンプが開始されると、これによりターン全体の周りに分散加熱が生じ、磁石のクエンチのより速く、より分散された伝播につながる。これは、局所的な磁場値、磁場角、又は温度がコイルの周りの様々な点で変化し、臨界電流Icが変化する磁石で特に重要である。これは、トカマク内のTFコイルの場合である。ダンプフェーズがアクティブになると、I0/Icが最も高いポイントでクエンチが始まり、局所的なバーンアウトを回避するために高速で伝播する必要がある。したがって、部分絶縁によってもたらされるターンの周りの分散加熱は重要な特徴である。
【0115】
電力供給ユニット(PSU)が切断されたとき及び/又はダンプ抵抗Rdに交換されたときの非絶縁又は部分絶縁磁石の挙動は複雑である。各ターンは次のターンと直列に接続され、他のすべてのターンと密接に磁気的に結合され、Rttによってそれ自身に接続され、短絡ループを形成する。したがって、軸対称コイルの単純な場合、各ターンの周囲のすべての点が名目上等しいI0/Icである場合のターンの電流、各ターンのインダクタンス電流はターン管抵抗Rttを介してターンに戻される。したがって、コイルは、高い相互インダクタンスを有する、一連の入れ子になった抵抗ループのように機能する。各ループでRttに流れる電流によって生じるジュール加熱により、各ターンはわずかに異なるタイミングでクエンチされる。常伝導の「衝撃波」は、コイル全体がクエンチされるまで、半径方向に内側と外側に伝播する。このモードでは、磁石の実効インダクタンスが大幅に減少することに注意することが重要である。これは、コイル全体に発生する電圧も、同じ寸法及アンペア回数を有するクエンチ絶縁コイルと比較して、ほぼ1/N(Nは巻き数)に等しい係数で大幅に減少することを意味する。この挙動は、グランドラップ破壊絶縁電圧定格の低下(中性子被曝により有機絶縁体の有効性が低下する原子力装置で役立つ)などの超伝導磁石に多くの非常に重要な利点を提供する。
【0116】
名目上一定のターン間抵抗値を有する部分絶縁に欠点があるとすれば、ダンプが開始されると、磁石の蓄積エネルギーのすべてを外部抵抗器に流すことが不可能になることである。PSUが切断され、外部ダンプ抵抗Rdがコイル端子間に接続されている場合、Rdは半径方向の抵抗Rと平行に現れる。したがって、磁石電流はRとRdの間で分割される。Rで散逸させるエネルギーは磁石のコールドマスを加熱するが、Rdで散逸させるエネルギーは磁石の外側に散逸させる。場合によっては、すべての制約を同時に満たす妥協値Rcを見つけることは困難である。
【0117】
この問題は、部分絶縁、例えば、絶縁体テープ203、303、403に関して上述した部分絶縁のターン間抵抗の値を温度及び/又は磁場によって著しく変化させることができれば、軽減することができる。ターン間の表面抵抗率ρは、単純に半径方向抵抗Rをコイルのターン数で割って、1ターンの面積を掛けたものである。温度と磁場に鈍感な絶縁で達成される妥協点Rcの表面抵抗率をρcとすると、局所コイル温度がT<Tcのときにρ>ρc、T>Tcのときにρ<ρcの場合に特に有益である。この配置により、ホットスポット付近でのみターン間での電流の共有が容易になり、磁石のランピング時間を損なうことなくホットスポットの温度上昇速度を遅くするという目的が達成される。また、磁石のエネルギーの大部分が磁石に放出されるのではなく、外部の抵抗器に放出されることができ、ダンプ段階で過熱する可能性がある。これにより、全体的な磁石のリスクが軽減され、保護ダンプからの回復に必要な時間も短縮される(磁石が再ランピングする前に再冷却する時間が短縮されるため)。
【0118】
ここで、トカマク核融合炉及びプラズマチャンバ、特に球状トカマクにおける、図2及び4に関連して上述したHTS界磁コイル200、400(及び図3に関連して説明した絶縁体テープ300を使用して形成した界磁コイル)などのHTS界磁コイルの使用を検討する。トカマクには2組の磁石がある。ポロイダル磁場を生成するように整列され、全体として円形であるポロイダル磁場コイルと、中心柱と複数のリターンリムとを含み、トロイダル磁場を生成するように配置されるトロイダル磁場コイルである。HTS磁石はいずれの組の界磁コイルにも使用できるが、小型トカマクのトロイダル磁場コイルには厳しい空間制限があるため、特に有用である。HTSの電流密度の改善及び/又は冷却要件の軽減は、このような制限に大いに役立つ。
【0119】
図5は、トロイダル磁場(TF)コイル501と、ポロイダル磁場(PF)コイル503と、トロイダル磁場コイル501内に位置するトロイダルプラズマチャンバ505とを含む球状トカマク500を通る垂直断面を示す。トカマク500はまた、プラズマチャンバ505とトロイダル磁場コイル501及びポロイダル磁場コイル503の中心を通って延びる中心柱507を含む。全体としてD字形のトロイダル磁場コイル501のそれぞれは、各コイル501が中心柱507の軸A-A’に沿って延びる「直線」部分509と、直線部分509の両端に電気的に接続されてD字形コイルを形成する曲線部分511とを有するように配置されたターンを含む。実際には、直線部分509は、例えば、曲線部分511の曲率半径よりも大きい(例えば、2倍、5倍、又は10倍よりも大きい)曲率半径を有して、わずかに湾曲していてもよい。
【0120】
従来、トロイダル磁場コイル503は、HTSテープ100に形成された常伝導ゾーンで生成された熱を一時的に運ぶために、(HTSテープ100の銅被覆に加えて)余分な追銅材料を含む場合がある。銅層が厚いほど、ホットスポット(すなわち、テープの常伝導ゾーンを含む部分)の温度上昇速度は遅くなる。ホットスポットがない場合、すべての輸送電流は超伝導層を流れ、銅層に電流はない。銅層はホットスポットが形成される短い期間だけ電流を流す。局所的な冷却がホットスポットの温度を安定させるのに不十分な場合、熱暴走が起こり、最終的に銅層が溶けてアークが形成される。これが起こるまでの時間は銅層を厚くすることで延長することができるが、これにはいくつかの不利益がある。HTSケーブルの電流密度の低下(トカマクサイズの重要な要因)、及びハステロイに比べて高純度銅の相対的に非常に低い弾性率によるケーブルの複合ヤング率の低下である。しかしながら、上述のような絶縁体テープ(例えば、絶縁体テープ207、407)を使用すると、この余分な銅材料の厚さを減らすか又は銅材料を完全に除去することができる。したがって、よりコンパクトで電流密度の高いTFコイルが可能になる。
【0121】
TFコイル501を考慮すると、TFコイル501に蓄えられる磁気エネルギーは数GJであり得る。ホットスポットが検出されると、絶縁コイルの場合、絶縁TFコイル301に電力を供給する電力供給ユニットが切断されたときに、このエネルギーが外部抵抗器(好ましくはバリスタ)にダンプされ得る。外部抵抗器が0.167オームの抵抗を有し、TFコイル501の両端の最大電圧降下が5kVであると仮定すると、TFコイル501からのエネルギー除去に関連する時定数は約20秒であり、全体的なダンピングプロセスは100秒程度かかる可能性がある。このタイムスケールは、ホットスポットがHTSテープ100に損傷を与えるのを防ぐには長すぎる可能性がある。
【0122】
図6は、クエンチ中にTFコイル501に蓄えられた磁気エネルギーの計算結果を示すグラフである。TFコイル501は、HTS界磁コイル400について上述したように漏洩絶縁体テープ407とHTSテープ100とを含み、以下のパラメータを有する。
・二炭化ユウロピウム層407の厚さ:20ミクロン(マイクロメートル)
・基板105の厚さ:100ミクロン(マイクロメートル)
・絶縁体テープ403の幅(すなわち、コイル軸に沿った長さ):12mm
・ターン周長(長さ):16m
・輸送電流:30kA
・HTSテープの数:43
・HTSテープの厚さ:110ミクロン(マイクロメートル)
・テープあたりの電流:700A
・蓄積エネルギー:1.5GJ
・インダクタンス3.3H
【0123】
このグラフには、磁石のエネルギーの減衰を示す曲線600と、外部抵抗器で散逸するエネルギーの上昇を経時的に(秒単位で)示す曲線602がある。これらの曲線600及び602は、GJの単位を有する左側の縦軸に関連する。もう1つの曲線604は、TFコイル501の内部で散逸するエネルギーを経時的に示し、kJの単位を有する右側の軸に関連する。以前に磁場に蓄えられていたエネルギーのほとんどは、約20秒の間に外部抵抗で散逸する。TFコイル501内で散逸するエネルギーは、この時点では約2kJにしか達しない。
【0124】
図6は、(初期長さ1cmの)ホットスポットの領域におけるHTSテープ100と漏洩絶縁体テープ407の温度(K)の計算結果を時間の関数として(ミリ秒単位で)示すグラフである。絶縁体テープ407の温度(線500)は当初の約25Kから約40ms後に約150Kまで上昇し、一方、HTSテープ100の温度(線502)はこの時間に約25Kから約50Kまで上昇する。
【0125】
外部抵抗器は、TFコイル501からバリスタ内及び磁石ケーブル及びEuC2絶縁体(又は上述の他の絶縁材料)内で散逸するエネルギーの割合を制御するために、外部抵抗を時間と共に変化させることができるバリスタ(電圧依存抵抗器)であり得る。代替的に又は追加的に、外部抵抗器は、最初にTFコイル501から切り離され、その後ホットスポットが形成された後に(電流がTFコイルから外部抵抗器を通って流れるように)短時間接続されてもよい。これにより、最初は非常に高い(事実上無限の)抵抗を提供し、ホットスポット形成後はより低い(有限の)抵抗を提供する方法が提供される。より一般的には、外部抵抗器は互いに並列に配置された複数の抵抗器を含むことができ、各抵抗器は、それぞれのスイッチを用いて他の抵抗器に接続又は他の抵抗器から切断することができ、その結果、スイッチのそれぞれを切り替えることによって複数の抵抗器にわたる全体の抵抗を変化させることができる。HTS界磁コイルの1つのターンの少なくとも一部のHTS材料における超伝導性の喪失を検出した後にエネルギー散逸を開始するためのクエンチ検出システムは、例えば、国際公開第2018/078327号公報に記載されている。
【0126】
上記のように外部抵抗器(バリスタなど)を使用することと組み合わせて使用することができるピークコイル温度を下げるもう1つの方法は、電磁コイルに緊密に誘導(磁気)結合された二次コイルに磁石電流を誘導結合することである。このような二次コイルは、「密結合二次」(CCS)コイルと呼ばれることがある。この方法では、二次コイルは通常、銅やアルミニウムなどの常伝導金属のシングルターンである。2つのコイルは変圧器として機能する。一次コイルの時間がかかるランピングの間、電流は二次コイルに誘導されるが、抵抗性があるためすぐに減衰する。しかしながら、一次コイルが完全に(又はほとんど)常伝導になると、崩壊する磁場により二次コイルに電流が誘導される。その効果は、電流が一次コイルから二次コイルに急速に移動(又は「ジャンプ」)し、一次コイルのホットスポットの加熱を軽減することである。この方法は、一次コイルと二次コイルとの間の磁束結合係数kが非常に高い(>0.9)ことを必要とし、これは、一次コイルによって生成される磁束のほとんどが二次コイルに結合するように、コイルが非常に近接している必要があることを意味する。
【0127】
この保護方法は、常伝導ゾーンの伝播が速いLTS磁石に適している可能性があるが、常伝導ゾーンの伝播が非常に遅い絶縁HTSコイルでの使用には一般に適していない。しかしながら、上述の部分絶縁HTSコイル200、400(及び上述の絶縁体テープ300を含む他の界磁コイル)は、常伝導ゾーンが非常に速く伝播することを可能にし、これによりCCSコイルを用いたクエンチ保護がより一層実現可能になる。
【0128】
図8は、界磁コイル802のHTS材料内の超伝導性の喪失(又は部分的な喪失)に続いて超伝導界磁コイル802のエネルギーを散逸させるためのクエンチ保護回路800を示す。界磁コイル802は、界磁コイル802に供給される電流の螺旋状経路を形成するために軸の周りに巻かれたHTSテープのターンを含む。コイルが使用中であるとき、ターンの螺旋状経路の周りの電流の循環により磁場が生成される。界磁コイル802は部分的に絶縁され、すなわち、コイルのターンは互いに半径方向に電気的に接続される。これは、界磁コイル802に、ターンの間に位置する絶縁体材料の層を通って延び、1つのターンから隣接するターンへの導電経路を提供する導電体要素(銅ブリッジ205A~205Cなど)又は導電性の「トラック」を設けることによって達成される。界磁コイル802は、例えば、図2図3A、及び図3Bに関連して上述したような界磁コイル200、300であり得る。ホットスポット形成の結果として螺旋状経路の抵抗が増加すると、コイル802内を循環する電流の少なくとも一部が隣接するターンへと半径方向に流れ、ターンの影響を受けた部分をバイパスすることができる。
【0129】
界磁コイル802は、インダクタ802A及び抵抗器802Bによって回路図に表される。インダクタ802Aを流れる電流は、界磁コイル802のターンによって提供される螺旋状経路の周りを流れる電流に相当し、一方、抵抗器802Bを流れる電流は、界磁コイル802の2つ以上のターン間を半径方向に流れる電流に相当する。コイル802が完全に超伝導である場合、電流は主にコイル802の螺旋状経路の周りを流れる。コイル802が超伝導でなくなると、螺旋状経路の抵抗が増加し、電流がターンの間で半径方向に優先的に流れるようになる。この場合、図8の抵抗器802Bの抵抗は、第一近似としては、界磁コイル802の巻き数に隣接するターン対の間のターン間抵抗又は「半径方向」抵抗を乗じた値、すなわち、隣接するターンを接続する導電体要素(銅ブリッジ205A~205Cなど)の合成抵抗に相当する。
【0130】
クエンチ保護回路800はさらに、界磁コイル802に電流を供給する電源804を含む。界磁コイル802内にホットスポットが形成された場合に電源804を切断することができるように、回路遮断器806が設けられる。回路遮断器は、好ましくは、上記のようなクエンチ検知システムによって自動的に動作する。ダンプ抵抗器808、好ましくはバリスタが、電源804と回路遮断器806との間に、界磁コイル802と並列に接続される。ダンプ抵抗器808は、ダンプ抵抗器808内で発生した熱が界磁コイル802のいかなる加熱も(又はせいぜい最小限の加熱しか)もたらさないように、界磁コイル802から熱的に分離することができる。
【0131】
クエンチ保護回路800はまた、(この実施例では)インダクタ810A及び抵抗器810Bによって図8に表される密結合二次(CCS)コイル810を含む。CCSコイル810は、界磁コイル802によって生成される磁場の変化がCCSコイル810内に電流を誘導するように、界磁コイル802に誘導結合される。
【0132】
界磁コイル802が使用中であるとき、回路遮断器806は、電源804から超伝導界磁コイル802に電流が供給されるように初めは閉じられている。上述のように、コイルの1つ以上のターンの一部分内での超伝導性の喪失に起因する「ホットスポット」の形成により、電流の一部が影響を受けたターンから隣接するターンに(例えば、界磁コイル内の銅ブリッジ205A~205C(又は銅以外の抵抗材料で作られた他のそのようなブリッジ)を通って)半径方向に流れる。ホットスポットが検出されると、回路遮断器806を開くことによって電源804が切断される。電流はその後、界磁コイル802から(すなわち、インダクタ802Aから)ダンプ抵抗器808を通って流れることができる。しかしながら、界磁コイル802からの電流の少なくとも一部は、コイルのターンの間を半径方向に流れることによって、界磁コイル802に戻ることができる。この電流は、図8ではインダクタ802Aから抵抗器802Bを通ってインダクタ802Aに戻る電流に相当する。この経路に沿って(すなわち、抵抗器802Bを通って)流れる電流の割合は、抵抗器802Bの抵抗に対するダンプ抵抗器808の抵抗に反比例する。ダンプ抵抗器808の抵抗は、(例えば、本発明の第1の態様について上述したように)コイル802内のより多くのHTS材料を常伝導にするために、導電体要素(例えば、銅ブリッジ205A~205C)を加熱するのに十分な電流がコイル802のターンの間を半径方向に流れるように選択される。例えば、ダンプ抵抗器808の抵抗は、かなりの割合の(例えば、10%を超える又は50%を超える)電流が界磁コイル802の2つ以上のターンの間を半径方向に流れるように(少なくとも最初は)抵抗器802Bの抵抗よりも大きいことができる。この半径方向又は「ターン間」の電流は、導電体要素を加熱し、それらの温度を上昇させ、それらの抵抗率を増加させる。一般に、導電体要素は、HTS界磁コイル802の動作温度では比較的低い電気抵抗を有するが、より高い温度では非常に高い抵抗を有する。例えば、導電体要素が銅で作られている場合、界磁コイル802のターン間抵抗は、20Kから200Kに温度を上げると約15倍に増える可能性がある。
【0133】
界磁コイル802のターン間(半径方向)抵抗が増加すると、コイル802からダンプ抵抗器808に流れる電流の割合が大きくなり、それによってコイル802に供給される加熱量が減少する。ダンプ抵抗器808は、(例えば、ヒートシンクに取り付けるか又は高速の冷却を提供することによって)熱を効果的に放散するように構成することができるので、ダンプ抵抗器808の温度上昇を最小限に抑えるか又は許容範囲に制限することができる。したがって、ターン間電流による導電体要素の加熱は、ダンプ抵抗器802の抵抗に対するコイル802のターン間抵抗の増加の結果として導電体要素の加熱レベルが減少する負のフィードバックの形態を作り出す。このプロセスは、ホットスポット形成後のコイル802の急速な加熱を依然として可能にしながら、コイル802内の導電体要素(例えば、銅製ブリッジ205A~205C)が電流によって「焼き切れる」ことを回避する。加熱パルスの持続時間及び大きさは、導電体要素の温度が閾値を超えないことを確実にしながら、コイル802のターンが可能な限り急速にHTS材料の発生温度より高く加熱されるように最適化することができる。
【0134】
好ましくは、ダンプ抵抗器808の抵抗は、コイル802のターンの間を(すなわち、抵抗器802Bを通って)流れる電流をさらに制限するために、時間と共に変化する。これは、例えば、ダンプ抵抗器808としてバリスタを使用し、バリスタがホットスポット形成後にコイル802の両端の電圧が増加するにつれて抵抗が減少するように構成されることによって達成することができる。好適なバリスタは、例えば、Metrosil(登録商標)から入手可能である。
【0135】
半径方向の電流とホットスポットによって生じる加熱に応じて、コイル内のより多くのHTS材料が常伝導になり(すなわち、非超伝導になり)、界磁コイル802のターンの周りを循環する電流が減衰し、コイル802によって生成される磁場の崩壊につながる。これが起こると、エネルギーは界磁コイル802からCCSコイル810に誘導伝達され、最終的にCCSコイル810回路の抵抗器810Bで散逸する。したがって、ダンプ抵抗器808とCCSコイル810は相乗的に作用して、界磁コイル802に蓄えられた電磁エネルギーを効率的に散逸させる。詳細には、ターン間電流を制限することによって、ダンプ抵抗器808は、CCSコイル810へのエネルギーの大幅な誘導伝達が起こり得る前に、界磁コイル801の温度が過度に上昇することを防止する。逆に、界磁コイル802が加熱される速度は、エネルギーがCCSコイル810に伝達されるにつれてさらに減少し、界磁コイル802の温度上昇を許容可能なレベルにさらに制限する。
【0136】
上記の開示は、様々なHTS磁石システムに適用することができる。例として上述したトカマク核融合炉に加えて、核磁気共鳴画像法(NMR/MRI)装置のHTSコイル、磁場を介した非磁性媒体内の磁気デバイスの操作(例えば、患者の体内で医療機器を操作するためのロボット磁気ナビゲーションシステム)、電気モーター用の(例えば、電子航空機用の)磁石に使用することができる。更なる例として、本開示は、開示された特徴を含むHTS磁石システムを含む陽子線治療(PBT)装置に適用することができ、HTS磁石システムは、PBT装置の加速器、PBT装置の四重極又は双極子ステアリング磁石、又はPBT装置の他の磁石内で使用される。
【0137】
本発明の様々な実施形態を上述したが、それらは限定ではなく、例として提示されたものであることを理解すべきである。本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく形態及び細部に様々な変更を加えることができることが当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】