(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ガンマ線照射対応参照ゲル
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240122BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240122BHJP
G01N 27/403 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G01N27/30 311D
G01N27/416 353Z
G01N27/416 341M
G01N27/30 315Z
G01N27/403 371E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023539835
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 US2021058619
(87)【国際公開番号】W WO2022146560
(87)【国際公開日】2022-07-07
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515231553
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フー、チンポー
(57)【要約】
pHセンサーまたはORPセンサーに使用するためのゲルであって、ゲルの成分として、水、参照電解質塩、ゲルのpHを調整するためのバッファーシステム、およびポリマー性ゲル化剤を含み、ガンマ線の照射で劣化しない、ゲル。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHセンサーまたはORPセンサーに使用するためのゲルであって、ゲルの成分として、水、参照電解質塩、ゲルのpHを調整するためのバッファーシステム、およびポリマー性ゲル化剤を含み、ガンマ線の照射で劣化しない、ゲル。
【請求項2】
前記ポリマー性ゲル化剤が15,000以下の分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
前記ゲルの粘度が、前記ゲル化剤の濃度、または前記ゲル化剤の分子量、またはそれら両方を変化させることによって調整される、請求項1に記載のゲル。
【請求項4】
前記バッファーシステムがホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファーを含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項5】
前記参照電解質塩が0.01M~飽和の濃度の塩化カリウムまたは0.01M~飽和の濃度の酢酸リチウムを含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項6】
前記ゲル化剤の濃度が約2~90重量%である、請求項1に記載のゲル。
【請求項7】
前記ゲルの成分がそれぞれ生体適合性である、請求項1に記載のゲル。
【請求項8】
前記ポリマー性ゲル化剤がメトキシポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートを含むポリエチレングリコール誘導体である、請求項1に記載のゲル。
【請求項9】
ハウジングおよびハウジング内のゲルを含むpHセンサーであって、ゲルは、参照電解質塩、ゲルのpHを調整するためのバッファーシステム、およびポリマー性ゲル化剤を含み、ゲルはガンマ線の照射で劣化しない、pHセンサー。
【請求項10】
前記ポリマー性ゲル化剤が15,000以下の分子量を有するポリエチレングリコールである、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項11】
前記ゲルの粘度が、前記ゲル化剤の濃度、または前記ゲル化剤の分子量、またはそれら両方を変化させることによって調整される、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項12】
前記バッファーシステムがホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファーを含む、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項13】
前記参照電解質塩が0.01M~飽和の濃度の塩化カリウムまたは0.01M~飽和の濃度の酢酸リチウムを含む、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項14】
前記ゲル化剤の濃度が約2~90重量%である、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項15】
前記ゲルの成分がそれぞれ生体適合性である、請求項9に記載のpHセンサー。
【請求項16】
前記ポリマー性ゲル化剤がメトキシポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートを含むポリエチレングリコール誘導体である、請求項9に記載のpHセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、pHセンサーおよび酸化還元電位(ORP)センサーに使用できる、粘性があり、生体適合性があり、ガンマ線照射に安定な参照ゲル(reference gel)に関する。
【0002】
参照電極(reference electrode)に液体の参照電解質(reference electrolyte)を使用するpHセンサーは、正のプロセス圧力がかけられると望ましくない応答変動が発生する可能性がある。この挙動を
図1に示す。
図1では、液体の参照溶液で満たされた参照電極を備えた2つのpHセンサーに、0~90psiの範囲のさまざまなプロセス圧力がかけられた。プロセス圧力が0psiから30psiまで上昇すると、2つのpHセンサーが応答変動を示し始めた。プロセス圧力が90psiに達すると、最大1pH単位の重大な応答変動がみられた。このような変動は重大な測定誤差を引き起こし、許容できない。
【0003】
この望ましくない圧力感度は、参照電極から参照接点(reference junction)を通るプロセスへのイオン拡散が妨げられることによって引き起こされる。その結果、参照液接点(reference liquid junction)の電位が不安定になり、後続のセンサー応答が不安定になる。結果として、この問題により、プロセス圧力が変動して最大90psiに達する可能性がある下流の製薬用途では、液体参照電解質で満たされたpHセンサーが使用できなくなる。
【0004】
この問題に対処する1つのアプローチは、センサーの参照電極に内部圧力を加え、接点を通して参照電解質を押し出すことによって外部プロセス圧力の影響を打ち消すことである。米国特許第7,704,359号、米国特許出願公開第2017/0176371号、および米国特許第9,134,266号を含むいくつかの米国特許文献には、参照電極に内圧を導入する設計および製造プロセスが記載されている。最低限必要なセンサー内圧は、外部プロセス圧力とセンサーの参照充填電解質(reference fill electrolyte)によって決まり、外部プロセス圧力が高い場合(例えば、90psi)、非常に高くなる可能性がある。この高い内部参照チャンバー圧力の要件は、機械設計、検証、および後続の製造プロセスの開発において課題を引き起こす可能性がある。
【0005】
この問題に対処する別のアプローチは、参照電極内の水様(water-like)の低粘度の参照溶液の代わりに高粘度の参照電解質を用いることである。ゲルの高い粘度のため、外部の流れおよび圧力変動による重大なイオン拡散プロセスの乱れが緩和される。その結果、参照電極内で必要とされる最小圧力が低減したり、参照電極内部の圧力が不要になったりする可能性がある。シリカ、セルロース、および多糖類をゲル化剤として使用した粘性のある参照ゲル配合物がいくつかある。これらのゲルは工業用pHセンサーに広く使用されているが、ガンマ線照射に対する安定性がない。ガンマ線照射によりこれらのゲルは物理的特性と化学的特性が変化することにより劣化し、ゲルの粘度が大幅に低下しpH値が変化する可能性があることが観察された。その結果、従来の参照ゲルは、ガンマ線照射が滅菌に使用される標準プロセスである使い捨て医薬品pHセンサーでの使用には適していない。
【発明の概要】
【0006】
本出願には、pHセンサーまたはORPセンサーに使用するためのゲルであって、ゲルの成分として、水、参照電解質塩、ゲルのpHを調整するためのバッファーシステム、およびポリマー性ゲル化剤を含み、ガンマ線の照射で劣化しない、ゲルが含まれる。
【0007】
別の実施形態では、ポリマー性ゲル化剤が15,000以下の分子量を有するポリエチレングリコールを含む。
【0008】
別の実施形態では、ゲルの粘度が、ゲル化剤の濃度、またはゲル化剤の分子量、またはそれら両方を変化させることによって調整される。
【0009】
別の実施形態では、バッファーシステムがホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファーを含む。
【0010】
別の実施形態では、参照電解質塩が0.01M~飽和の濃度の塩化カリウムまたは0.01M~飽和の濃度の酢酸リチウムを含む。
【0011】
別の実施形態では、ゲル化剤の濃度が約2~90重量%である。
【0012】
別の実施形態では、ゲルの成分がそれぞれ生体適合性である。
【0013】
別の実施形態では、ポリマー性ゲル化剤がメトキシポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート等のポリエチレングリコール誘導体を含む。
【0014】
代替の実施形態では、本開示は、ハウジングおよびゲルを含むpHセンサーであって、ゲルは、参照電解質塩、ゲルのpHを調整するためのバッファーシステム、およびポリマー性ゲル化剤を含み、ゲルはハウジング内でガンマ線の照射で劣化しない、pHセンサーを含む。
【0015】
本代替の実施形態では、ポリマー性ゲル化剤が15,000以下の分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0016】
本代替の実施形態では、ゲルの粘度が、ゲル化剤の濃度、またはゲル化剤の分子量、またはそれら両方を変化させることによって調整される。
【0017】
本代替の実施形態では、バッファーシステムがホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファーであり得る。
【0018】
本代替の実施形態では、参照電解質塩が0.01M~飽和の濃度の塩化カリウムまたは0.01M~飽和の濃度の酢酸リチウムを含む。
【0019】
本代替の実施形態では、ゲル化剤の濃度が約2~90重量%である。
【0020】
本代替の実施形態では、ゲルの成分がそれぞれ生体適合性である。
【0021】
本代替の実施形態では、ポリマー性ゲル化剤がメトキシポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート等のポリエチレングリコール誘導体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、従来技術のセンサーの圧力感度のグラフである。
【
図2】
図2は、ガンマ線が照射されたPEG8000 40重量%の参照ゲルで充填されたセンサーの圧力感度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本出願では、ガンマ線の照射後もその物理的特性および化学的特性を保持する、粘性のある生体適合性の参照ゲルについて記載する。参照ゲルは高い粘度を保持しているため、センサーにプロセス圧力がかけられたときの望ましくないセンサーの応答変動を大幅に低減または排除できる。本開示の新しい参照ゲルは、プロセス圧力変動を伴う衛生プロセス用に設計された使い捨てpHセンサー製品に特に適している。
【0024】
ゲルが先行技術のゲルに関連する問題の解決策を提供するために、本開示のゲルは生体適合性の成分で構成され、安定でありながら調整可能な粘度を有し、安定で調整可能なpHを有し、ガンマ線の照射下でも重大な物理的変化および化学的変化を受けることなく安定である。
【0025】
好ましくは、本開示の参照ゲルは、以下の4種の主要な化学成分を含み、すべての成分が生体適合性である。
【0026】
1.溶媒として機能する水。
2.参照接点で安定でサンプルに依存しない液接点電位(liquid junction potential)を提供する参照電解質塩。参照電極が単接点構成(single-junction configuration)として構築されている場合、塩は、Ag/AgClワイヤに接続される参照電極の電位も決定する。適切な塩は、0.01M~飽和の濃度の塩化カリウムであり得る。参照電極が多接点構成(multi-junction configuration)として構築されている場合、この塩は、酢酸リチウム等の他の適切な塩であり得る。
3.ゲルのpHを調整するために使用されるバッファーシステム。本参照ゲルは生物学的プロセスと接触する可能性があるため、制御可能なpHが非常に望ましい。バイオテクノロジーで使用される一般的なバッファーシステムは、ガンマ線の照射下でもpHが大幅に変化せずに安定である限り本目的に適する。適切なバッファーシステムは、ホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファーであり得る。
4.ゲルの粘度を制御するためにポリマー性ゲル化剤が使用されるが、粘度は圧力下でのセンサーの性能にとって重要である。ゲルの粘度は、ポリマー性ゲル化剤の濃度、またはポリマー性ゲル化剤の分子量、またはそれら両方を変化させることによって制御できる。
【0027】
また、ゲル化剤は、ゲルの物理的特性が大きく変化しないように、ガンマ線の照射下で安定でなければならない。本開示で使用される成功したゲル化剤は、15,000以下の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)であり得る。このようなPEGポリマーを使用して調製された参照ゲルは、ガンマ線の照射後も液体の状態を保つ。20,000以上の分子量のPEGを用いて調製されたゲルは、ガンマ線の照射後に液体の状態から固体の状態に変化するだろう。シリカまたは他の一般的なゲル化剤を使用して調製されたゲルは、ガンマ線の照射後に粘度が大幅に低下する可能性がある。
【0028】
本開示のゲルは、ゲルが照射されているか否かにかかわらず、様々なpHセンサーおよび酸化還元電位(ORP)センサーにおいて有用であり得る。
【0029】
本開示のセンサーの4種の成分はすべて生体適合性であり、センサーを衛生用途に有用なものとするが、本開示はそのように限定されるべきではなく、衛生以外の他の用途も構想される。
【0030】
ゲルのバッファーシステムには、ホスフェート系バッファーまたはカーボネート系バッファー等の酸とその共役塩基の適切なペアが含まれている。ゲルのpHは、バッファーシステム内の酸-塩基ペアの濃度比を制御することによって調整できる。例えば、NaH2PO4とNaOHの濃度比を変化させることによりゲルのpHを調整できる。
【0031】
ゲルの初期粘度は、ASTM D2196に規定された測定方法を用いて回転粘度計で測定した場合、1cP~10,000cPであり、好ましくは10cP~5,000cPであり、より好ましくは10cP~1,000cPである。ゲルの粘度は、ゲル化剤の濃度および分子量を変えることで制御できる。濃度と分子量が大きくなるほど、粘度は高くなる。
【0032】
実施例
いくつかの参照ゲルの試作品を、すべての化学成分を室温で撹拌しながら水と混合し、すべての成分を完全に溶解させることによって調製した。典型的なゲルは、0.106MのNaH2PO4および0.04MのNaOHを備えるバッファーシステム、1MのKClの参照電解質、および8,000の分子量と40重量%の濃度のポリエチレングリコール(PEG)ゲル化剤を含有する。すべての成分を溶解させた後、ブルックフィールドDVE粘度計とLV-1スピンドルを用い、ASTM D2196法を使用して測定したところ、ゲルは22℃で122.4cPの粘度を有する液体の状態であった。ゲルのpHは、2点校正された(two-point calibrated)pHメーターを用いて測定したところ6.805であった。
【0033】
ガンマ線照射の安定性を決定するために、ゲル試料に55kGyの線量でガンマ線照射を行い、ガンマ線の照射後のゲルの粘度とpH値を調べた。ガンマ線の照射後、ゲルの粘度は低下せず22℃で181.4cPまで増加し、ゲルは粘性がある液体のままであった。ガンマ線の照射後のゲルのpHは6.692であり、最小のpH変化が0.2pH未満であることが示された。これは、参照ゲルがガンマ線の照射後に物理的および化学的に安定であることを示している。本開示のゲルは、劣化することなく最高100kGyの照射に耐えることができると考えられる。
【0034】
別の実施例では、0.106MのNaH2PO4および0.04MのNaOH、1MのKClの参照電解質、および4,000の分子量と20重量%の濃度のポリエチレングリコール(PEG)ゲル化剤を使用してゲルを調製した。得られた初期粘度は22℃で12.1cPであり、ゲルのpHは6.422であった。55kGyの線量でガンマ線を照射した後ゲルの粘度を測定したところ22℃で13.4cPであり、ゲルのpHは6.381であった。ゲルの粘度およびpHは両方とも大きく変化しなかった。
【0035】
他の誘導体または可能なゲル化剤には、メトキシポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートを含むポリエチレングリコール誘導体が含まれるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールおよびその誘導体をゲル化剤として具体的に挙げているが、ポリマーの水溶液がガンマ線の照射で劣化しない限り、他のポリマーを使用してもよい。他の適切なゲル化剤としては、ポリプロピレングリコールおよびその誘導体ならびにポリアルキレングリコールおよびその誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
より大きい分子量のPEG-20000を用いて作製したゲルの場合、ガンマ線の照射後に液体ゲルが固体に変化した。
【0037】
PEG分子量は、ガンマ線の照射後の参照ゲルの最終形態を決定する重要な要素である。本開示の場合、15,000以下の分子量を有するPEGが適切な液体ゲルをもたらすであろう。
【0038】
ガンマ線が照射されたPEG8000 40重量%の参照ゲルをセンサー本体の参照チャンバーに充填した。センサーの参照電極には追加の内圧をかけなかった。センサーを校正し、0~80psiの範囲の外部プロセス圧力をかけた。プロセス圧力を破線で表す。
図2に示すように、顕著な圧力感度は観察されなかった。これは、本開示の参照ゲルが、センサーの参照電極内の内部圧力を必要とすることなく、望ましくないセンサー圧力感度を低減または排除できることを実証している。本参照ゲルを圧力がかけられたセンサーの参照電極と併用すると、センサーの内部参照電極に加えられる必要最小限の圧力を低減する可能性がある。
【国際調査報告】