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特表2024-503812熱反応器内で窒素酸化物および硝酸を合成する方法
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  • 特表-熱反応器内で窒素酸化物および硝酸を合成する方法 図1
  • 特表-熱反応器内で窒素酸化物および硝酸を合成する方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】熱反応器内で窒素酸化物および硝酸を合成する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/20 20060101AFI20240122BHJP
   C01B 21/40 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C01B21/20
C01B21/40 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540584
(86)(22)【出願日】2022-01-18
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 SE2022050051
(87)【国際公開番号】W WO2022159018
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】2150049-1
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523187077
【氏名又は名称】ニトロカプト アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォルスベリ、グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】ベーリング、ペーテル
(72)【発明者】
【氏名】ファン ローイ、ヘラルド ヤコブス
(57)【要約】
酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ、ならびに、熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度までガス混合物を加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップを含む窒素酸化物(NO)の合成方法が提供される。HNOの製造方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物(NO)を合成する方法であって、
以下のステップ:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;ならびに
- 熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度まで前記ガス混合物を加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記熱反応器がプラズマ反応器である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素および窒素を含む前記ガス混合物が、25~60%(体積/体積)の酸素含有量を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱反応器が、酸素および窒素を含む前記ガス混合物をラジオ周波数波またはマイクロ波で加熱することによって操作される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
以下のステップ:
- 前記のNOを含むガス混合物を冷却してNOを含む冷却されたガス混合物を形成するステップであって、NOを含む前記ガス混合物を急冷することを含む冷却ステップ
を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記急冷が、酸素および窒素を含むガス混合物または水である急冷媒体とガス混合物とを接触させることによって行われ、
前記ガス混合物が、好ましくは、前記冷却ステップから再循環された酸素、窒素およびNO、ならびに/または、前記熱反応器を回って意図的にバイパスされた酸素および窒素を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記のNOを含む冷却されたガス混合物を減圧するステップをさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記冷却ステップの間にエネルギーを抽出してNOを含む冷却されたガス混合物を形成するステップをさらに含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記のエネルギーの抽出の少なくとも一部がタービンシステムで行われ、このタービンシステムが好ましくは冷却器または凝縮器を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記のエネルギーの抽出の少なくとも一部が、前記ガス混合物を熱交換器に導くことによって行われ、この熱交換器は好ましくは蒸気タービンで回収され得る蒸気を生成する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記のNOを含むガス混合物を湿式スクラビングにかけ、それによって硝酸(HNO)を形成するステップをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
未反応の排気ガスが、前記湿式スクラビングから前記熱反応器に再循環される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
硝酸(HNO)を合成する方法であって、
以下のステップ:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;
- 前記ガス混合物を熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度に加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を冷却してNOを含む冷却されたガス混合物を形成するステップであって、NOを含む前記ガス混合物を急冷することを含む冷却ステップ;
- 任意選択で、前記のNOを含む冷却されたガス混合物を減圧するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を湿式スクラビングにかけ、それによってHNOを形成するステップ;ならびに
- 任意選択で、前記湿式スクラビングからの未反応の排気ガスを前記熱反応器に再循環させるステップ
を含む方法。
【請求項14】
前記の酸素および窒素を含むガス混合物が、15~70バールの圧力で少なくとも2300Kの温度に加熱される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒素酸化物(NO)の製造に関し、特にNO、NOおよびHNOの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素酸化物(NO)は、硝酸の製造に一般的に使用されており、これは、肥料の主要成分である硝酸アンモニウムの製造のため、爆薬の製造のため、溶媒として、および他の化学プロセスのため、さらには漂白および殺菌のために使用されている。窒素は植物にとって肝要な要素であるため、肥料の最も重要な栄養素の1つである。前世紀に、窒素含有肥料は、大気中の窒素から本質的に以下のように製造された:すなわち、分子状窒素および化石燃料ベースの水蒸気改質に由来する水素からアンモニアを生成するハーバー・ボッシュ法、ならびに、それに続くアンモニアの酸化によって硝酸を生成するオストワルド法によって、大気中の窒素から窒素含有肥料が製造された。次いで、硝酸は例えば硝酸塩肥料を製造するための供給源として使用されている。
【0003】
代替的に、1903年に発明されたBirkeland-Eydeプロセスによる窒素固定によって硝酸を製造することができる。電気アークの助けにより、大気中の窒素のNOへの熱酸化が行われ、酸素の存在下でガスが冷却されると、NOは自然にNOに転化される。その後、NOは水でスクラビング(洗浄)され、それによって硝酸に転化される。しかし、窒素ガスの熱酸化は非常にエネルギーを必要とするので、ハーバー・ボッシュ法およびオストワルド法が、空気から窒素を固定して硝酸を製造するために商業的に使用される主要なプロセスになった。
【0004】
水蒸気改質およびオストワルド法と組み合わせたハーバー・ボッシュ法からの温室効果ガス(CO、NO、NO)の排出により、窒素の熱酸化が興味深い選択肢として復活している。ただし、Birkeland-Eydeプロセスではエネルギーの必要性が高いため、特にエネルギー効率に関して改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1つの目的は、窒素酸化物(NO)および硝酸(HNO)を製造するための以前の熱酸化法と比較して、よりエネルギー効率の高いルートである、本質的にカーボンニュートラルで工業的に実現可能な方法を利用できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本開示の第1の態様として以下が提供される:
窒素酸化物(NO)を合成する方法であって、
以下のステップ:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;ならびに
- 熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度まで前記ガス混合物を加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ
を含む方法。
【0007】
また、本開示の第2の態様として、以下が提供される:
硝酸(HNO)を合成する方法であって、
以下のステップ:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;
- 前記ガス混合物を熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度に加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を冷却してNOを含む冷却されたガス混合物を形成するステップであって、NOを含む前記ガス混合物を急冷することを含む冷却ステップ;
- 任意選択で、前記のNOを含む冷却されたガス混合物を減圧するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を湿式スクラビングにかけ、HNOを形成するステップ;ならびに
- 任意選択で、前記湿式スクラビングからの未反応の排気ガスを前記熱反応器に再循環させるステップ
を含む方法。
【0008】
温度および圧力の組み合わせにより、酸素および窒素ガスからのNOの形成におけるエネルギー消費が減少する。本発明者らは、10~100バールの圧力および2300Kを超える温度を適用することによって、NOの形成に必要なエネルギーが減少する顕著な効果があることを見出した。
【0009】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書にて別途明示的に定義されていない限り、技術分野におけるそれらの用語の通常の意味に従って解釈されるべきである。「要素、装置、成分、手段、ステップ(工程)など」へのあらゆる言及は、本明細書にて別途明示的に述べられていない限り、その要素、装置、成分、手段、ステップ(工程)などの少なくとも1つの例示に言及するものとして、非制限的に解釈されるべきである。本明細書で開示される方法のステップ(工程)は、明示的に述べられていない限り、開示された正確な順序で実行される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
ここで、添付の図面を参照して、一例として、諸態様および諸実施形態を説明する。
【0011】
図1図1は、窒素酸化物(NO)の合成プロセスの模式図を示す。
【0012】
図2図2は、酸素ふるい/酸素濃縮器、タービンおよびスクラバー(scrubber:洗浄装置)を含めた、HNOの合成プロセスの模式図を示す。
【0013】
図3図3は、温度および圧力を上昇させたときのNおよびOからのNO形成のシミュレーションの結果を示す。
【0014】
図4図4は、0.05barおよび50barでのNおよびOからのNO形成のシミュレーションの結果を示す。
【0015】
これらの図面の詳細な説明を以下に提示する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の第1の態様として、以下のステップを含む窒素酸化物(NO)の合成方法が提供される:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;ならびに
- 熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度まで前記ガス混合物を加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ。
【0017】
前記の酸素および窒素を含むガス混合物において、酸素は典型的には酸素ガス(O)であり、窒素は典型的には窒素ガス(N)である。
【0018】
窒素酸化物(NO)とは、窒素と酸素が反応することによって生成される化合物を意味する。通常、窒素酸化物は一酸化窒素(NO)および/または二酸化窒素(NO)である。原則として、熱反応器内で酸素および窒素を含むガス混合物を10~100バールの圧力で少なくとも3000Kの温度に加熱することによって形成されるNOはNOである。
【0019】
およびOからのNOの形成における熱力学的バランスは次のとおりである。
【数1】
【0020】
窒素および酸素からのNO、NOの形成のためのエネルギー消費は、10バールを超える圧力を適用すると著しく減少する。これは、図3から図4に示されており、実施例にても例示されている。
【0021】
NOの形成における収率、すなわち反応ステップ(1)におけるNOの平衡濃度は、通常11%までであり、例えば4~10%である。
【0022】
酸素および窒素を含むガス混合物の圧力は、10~100バール、好ましくは15~70バール、より好ましくは15~60バール、さらにより好ましくは15~50バールである。いくつかの実施形態では、圧力は、20バールを超えてよく、例えば23~100バール、例えば23~70バールであってよい。圧力の増大は、通常、圧縮器(コンプレッサー)でガス混合物を圧縮することによって得られる。
【0023】
酸素および窒素を含むガス混合物の温度は、少なくとも2300K、好ましくは少なくとも2500K、より好ましくは少なくとも2800K、さらにより好ましくは少なくとも3000Kである。さらに、温度は、好ましくは最大で4500K、より好ましくは最大で4000Kである。ここで、酸素および窒素を含むガス混合物の温度が、好ましくは2300K~4500K、より好ましくは2300K~4000K、さらにより好ましくは2500K~4500K、さらにより好ましくは2500K~4000K、さらにより好ましくは2800K~4500K、さらにより好ましくは2800K~4000K、さらにより好ましくは3000K~4500K、さらにより好ましくは3000K~4000Kとなるように、上限は下限と任意に組み合わせることができる。
【0024】
熱反応器は、通常、温度耐性および機械的耐性の両方を備え、温度および圧力差による負荷の両方に耐えることができる材料で構築される。このような材料の例としては、高い耐酸化性を有し、2100Kを超える温度に耐えることができるMgOや、複合HfB/20%SiCが挙げられる。更なる例は、論文“Super-strong materials for temperatures exceeding 2000 ℃”「2000℃を超える温度で使用される超強度材料」(L. Silvestroni et al., Sci Rep. 2017; 7)に見出すことができる。
【0025】
代替的に、反応器の壁は、圧力差を支えるのに十分な強度を有する温度まで冷却することができる。プラズマからの高温ガスと反応器の壁との間の接触が回避または最小化され得るように特別な流れ方式(フロースキーム)を用いることもできる。「逆渦流」(“reversed vortex flow”)は、そのようなガスの流れ方式の一例である。
【0026】
使用され得る反応器セットアップの例としては、Hans-Peter SchmidtおよびGunter Speckhofer(Schmidt, H-P.およびG. Speckhofer“Experimental and theoretical investigation of high-pressure arcs. I. The cylindrical arc column (two-dimensional modeling).”「高圧アークの実験的および理論的研究I 円筒形アークカラム(二次元モデル)」IEEE Transactions on plasma science 24.4 (1996): 1229-1238参照)によって説明されたセットアップが挙げられる。ここでは、100barの圧力で20000Kを超えるアルゴン温度に到達するガスプラズマ反応器がベル型のPyrex(登録商標)ガラスで作成された。反応器の別の例は、HiiROC Ltd(英国)から入手可能であり、50バールの圧力でプラズマを生成することができる。
【0027】
熱反応器は好ましくはプラズマ反応器である。プラズマ反応器とは、反応器に適用される温度が、ガスをイオン化し、少なくとも部分的にプラズマを形成することができる条件に到達することに寄与する反応器を意味する。
【0028】
熱反応器は、好ましくは、酸素および窒素を含むガス混合物をラジオ周波数波(radiofrequency wave:高周波)またはマイクロ波で加熱することによって操作される。ラジオ周波数波またはマイクロ波は、ガス分子にエネルギーを伝達する。そのような場合、ラジオ周波数波プラズマまたはマイクロ波プラズマを熱反応ゾーン内に形成することができる。プラズマが形成されると、インプットされたラジオ周波数波またはマイクロ波エネルギーは、主にプラズマ内の解離電子と結合する。ラジオ周波数波またはマイクロ波はまた、分子にエネルギーを伝達する。ラジオ波またはマイクロ波の使用は、いずれの電極も加熱された熱反応ゾーンと直接接触する必要がなく、反応器の所定のセクター、原則として反応器の任意のセクターにエネルギーを集中させることができるため、有益である。電極が熱反応ゾーンの近くにある必要がある場合、または直接接触している場合でも、電極が熱くなりすぎて消耗する可能性がある。代替的な解決策の1つは温度を制限することであるが、それはプロセスの効率を低下させるであろう。
【0029】
酸素および窒素を含むガス混合物は、通常25~60%(体積/体積)、好ましくは25~55%(体積/体積)の酸素含有量を有する。このような酸素含有量は、NOのよりバランスの取れた形成により、必要なエネルギーのインプットを減少させる。このような酸素含有量は、通常、空気などの酸素および窒素を含むガス混合物を酸素ふるいまたは酸素富化装置に通すことによって提供される。ガスを分離/富化するためのモレキュラーシーブ(分子ふるい)は、当業者にはよく知られており、商用サプライヤーから入手され得る。代替的に、酸素および窒素を含むガス混合物は20~25%(体積/体積)の酸素含有量を有し、その場合、ガス混合物を酸素で富化する必要性が回避されるから有利である。
【0030】
形成されたNOを含むガス混合物は、通常、冷却ステップで冷却され、NOを含む冷却されたガス混合物が形成される。ここで冷却ステップは、NOを含むガス混合物を急冷(クエンチ)することを含む。
【0031】
冷却ガス混合物中のNOが主にNOであり、そのNOが平衡(1)に従って本質的にNおよびOに戻らないように、通常、急冷(クエンチング)は十分に低い温度が得られるまで行う。急冷は、通常、熱反応器における熱反応のすぐ下流で行われる。通常、NOを含むガス混合物は、温度を2200K未満に、好ましくは2000K未満に、より好ましくは1900K未満に、さらにより好ましくは1700K未満に低下させることによって急冷される。
【0032】
一実施形態では、ガス混合物は、750K未満の温度まで、好ましくは373K未満の温度まで、より好ましくは293~363Kの間の温度まで急冷され、平衡(2)によるNOの形成が促進される。
【0033】
別の実施形態では、ガス混合物は急冷され、その後に第2の冷却ステップが続き、前記第2の冷却ステップでは、ガス混合物は750K未満の温度まで、好ましくは373K未満の温度まで、より好ましくは293~363Kの間の温度まで冷却される。第2の冷却ステップは、通常、急冷の冷却速度よりも少なくとも10%低い冷却速度で冷却を行う。そのような実施形態では、平衡(2)によるNOの形成は、第2の冷却ステップ中に促進される。エネルギー回収が促進されるので、第2の冷却工程のより低い冷却速度は有益である。
【0034】
好ましくは、急冷は、ガス混合物を急冷媒体と接触させることによって行われる。急冷媒体は、好ましくは、水、または酸素および窒素を含むガス混合物である。通常、ガス混合物は、冷却ステップから再循環された酸素、窒素およびNO、ならびに/または、熱反応器を意図的にバイパスされた酸素および窒素を含む。ガス混合物が、冷却ステップから再循環された酸素、窒素およびNOを含む場合、ガスは好ましくは、急冷を行った後に再循環で戻され、熱反応器からのガスと混合されることになる。これはエネルギー効率が良いので有益である。代替的に、完全な冷却ステップの後にガスは再循環で戻される。急冷媒体として使用される前、すなわち反応器からのガスと混合される前に、典型的には、ガス混合物は、例えば、蒸気タービン(例えば発電用のもの)で使用される蒸気の発生によってエネルギーを回収可能な熱交換器で冷却される。冷却されたガス混合物は、その後、急冷ステップに注入される。水を気化させるエネルギーを必要としないから、急冷媒体としての水と比較してエネルギー効率が高いため、そのようなガス状の急冷媒体は有益である。さらに、タービンを使用する場合、タービン内の水のリスクが低減される。
【0035】
冷却媒体としての水は、特にタービンを使用しない場合に有益である。この場合には、平衡(1)に従ってNOを含むガス混合物中のNO平衡含有量を維持する目的で、水がスプリンクラーを通してガスに添加される。
【0036】
冷却ステップでは、ガス混合物は通常、好ましくは急冷に続く第2の冷却ステップ中に減圧される。代替的に、圧力は、冷却ステップ全体にわたって維持される。この場合、HNOは高圧で生成されて、プロセスから大気圧まで抜き出され、一方、排気ガスは反応器に再循環され得る。
【0037】
冷却ステップで温度が下がる間、ガス混合物からエネルギーを取り出すことができる。エネルギーの抽出の少なくとも一部はタービンシステムで行われ、タービンシステムは好ましくは冷却器または凝縮器(コンデンサー)を含む。圧力を維持するために酸素および窒素を含むガス混合物を送り込む圧縮器(コンプレッサー)と、熱反応器の後の下流に配置されたタービンとを含むシステムが有益である。圧縮器およびタービンを併用することで、例えば実用規模にもよるが、システムに投入されるエネルギーの約40~45%を回収することができると見積もられている。
【0038】
別の実施形態によれば、冷却ステップは、NOを含むガス混合物を適切な寸法の熱交換器に導くことによって実施される。熱交換器は、直接または二次的な循環を介して蒸気を生成するように操作され得る。生成された蒸気は、加熱目的や蒸気タービンでの発電のために使用され得る。
【0039】
NOを含むガス混合物は湿式スクラビング(湿式洗浄)されてHNOを形成する。湿式スクラビングは、好ましくは冷却ステップ後に行われる。
【0040】
一実施形態では、冷却ステップを実施し、続いて、例えばタービンで減圧することなく下流で湿式スクラビングを行う。これにより、圧力が大幅に低下せず、ガスを熱反応器の所望の圧力に再加圧するのに必要なエネルギーが少なくて済むため、未反応の排気ガスの反応器への再循環を容易にすることができる。さらに、HNOは高圧で生成することができ、通常、大気圧まで減圧されるのはプロセスから抽出されたHNOのみである。さらに、液体は一般に非圧縮性であるため、仕事の損失は低く抑えられる。
【0041】
通常、未反応の排気ガスは、スクラバーから熱反応器に再循環され、これは、ガス混合物が高圧に維持されるかまたは減圧されている場合の両方で行われてよい。再循環ガス混合物はすでに高められた酸素含有量を有し、反応した量のNおよびOのみを外部から導入すればよいので、再循環は有益である。ガス混合物が高圧に維持される場合、さらなる利点は、供給される新しいガスの量が少なく、ガスがすでに加圧されているため、大型の圧縮器の必要性が低減されることである。同様に、ガスを減圧する必要がないため、大型タービンの必要性が低減され得る。ガスが減圧されている場合、ガスは、例えばタービンで減圧された後に再循環される。このような場合、圧縮器が適用されるが、酸素ふるい/酸素富化装置のキャパシティーは、再循環を行わない場合に比べて低減される可能性がある。約10%のキャパシティーが必要とされると見積もられる。
【0042】
本開示の第2の態様として、以下が提供される:
硝酸(HNO)を合成する方法であって、
以下のステップ:
- 酸素および窒素を含むガス混合物を提供するステップ;
- 前記ガス混合物を熱反応器内で10~100バールの圧力で少なくとも2300Kの温度に加熱し、NOを含むガス混合物を形成するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を冷却してNOを含む冷却されたガス混合物を形成するステップであって、NOを含む前記ガス混合物を急冷することを含む冷却ステップ;
- 任意選択で、前記のNOを含む冷却されたガス混合物を減圧するステップ;
- 前記のNOを含むガス混合物を湿式スクラビングにかけ、それによってHNOを形成するステップ;ならびに
- 任意選択で、前記湿式スクラビングからの未反応の排気ガスを前記熱反応器に再循環させるステップ
を含む方法。
【0043】
第1の態様に関して上述したことは、必要な変更を加えて第2の態様に適用される。
【0044】
ここで、本発明の特定の実施形態が示されている添付の図面を参照して、本開示の諸態様を以下に説明する。
【0045】
しかしながら、これらの態様は、多くの異なる形態で具現化され得るものであり、限定的に解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が徹底的かつ完全であるように、本発明の全ての態様の範囲を当業者に十分に伝えるために、例として提供される。発明の詳細な説明全体を通して、同様の番号は同様の要素を指す。
【0046】
図1は、酸素(O)および窒素(N)を含むガス混合物を提供すること;圧縮器(コンプレッサー)101内でガス混合物を圧力Pに圧縮し、圧縮されたガス混合物を熱反応器102内で加熱して、NOを含むガス混合物を形成することを含む窒素酸化物の合成プロセスの概略図を示す。
【0047】
図2は、硝酸(HNO)の合成プロセスの概略図を示す。
このプロセスは、以下のステップを含む:
- 酸素(O)および窒素(N)を含むガス混合物を提供するステップ;
- 酸素ふるい100内のガス混合物中の酸素含有量を増大させるステップ;
- 圧縮器101内でガス混合物を圧力Pに圧縮するステップ;
- 圧縮されたガス混合物を熱反応器102内で加熱して、NOを含むガス混合物を形成するステップ;
- 急冷器(クエンチ装置)103で急冷することによりガス混合物を冷却するステップ;
- 発生器(ジェネレーター)104を用いてタービン内のガスを減圧して、圧縮器および/または熱反応器にエネルギー106を回収しながら、減圧されたNOを形成するステップ;ならびに
- スクラバー105内でNOを湿式スクラビングし、それによってHNOを形成するステップ。
【実施例
【0048】
温度および圧力を上昇させたときのN およびO からのNO形成のシミュレーション
シミュレーションは、NASAコンピュータープログラムCEAの実装であるMATLAB(登録商標) HGS化学平衡計算コードを使用して実行された。これは、平衡組成に到達するように、指定された温度、圧力および反応物についてギブズ自由エネルギーを最小化する。詳細は、以下の文献に見いだされる:S. Gordon, B. J. McBride, NASA Reference Publication 1311, 1994;および、B. J. McBride, S. Gordon, NASA Reference Publication 1311, 1996。
【0049】
およびOの化学量論的ガス混合物、つまり50%Nおよび50%O(体積/体積)、ならびに80%Nおよび20%O(体積/体積)を有する空気と同様のガス混合物を用いてシミュレーションを行った。温度が100K上昇するごとに計算を行った。
【0050】
結果を図3に示す。化学量論的ガス混合物を表すラインは破線であり、空気と同様のガス混合物を表すラインは途切れのないラインである。細いライン(圧力が増加するにつれて上に向かうライン)は、1kgNOあたりのエネルギー消費が最も低い温度を示し、一方、太いライン(下に向かうライン)は、所与の温度および圧力でのNOの形成(上に向かう通常の太さのラインによって示される)について最適化されたエネルギー消費(kJ/mol)を示す。
【0051】
プラズマ中での窒素酸化物の形成は、プラズマの熱コアで近づく熱力学的な平衡濃度によって制限される。図3のグラフは、熱力学的な平衡限界が圧力に対してどのように改善されるかを示す。プラズマ反応器の性能は、定性的に、圧力に対するこの傾向に従う。
【0052】
表1では、両方のガス混合物の最適化されたエネルギー消費のデータが、1バール、10バール、および50バールの3つの異なる圧力で示されている。
【表1】
【0053】
圧力を1バールから10バールに上昇させるとエネルギー消費量が約20%減少し、圧力を50バールにまで上昇させるとエネルギー消費量がさらに約10%減少する。100バールを超える圧力では、効果はそれほど顕著ではなく、エネルギー消費曲線は横ばいになる。
【0054】
図4は、エネルギーコスト(エネルギー消費/エネルギー損失)であるシミュレーションからのさらなる結果、すなわち、2つのガス混合物について、2つの異なる圧力(0.05バールおよび50バール)での温度の関数として、OおよびNから形成されたNO単位量あたりのエネルギー消費量を示す。化学量論的ガス混合物を表すラインは破線であり、空気と同様のガス混合物を表すラインは途切れのないラインである。通常の太さのラインは0.05バールでのエネルギー消費を示す一方、太いラインは50バールでのエネルギー消費を示す。図4に示すように、NOの形成は図3に示されている温度より低い温度でも起こるが、形成されるNO単位量あたりのエネルギーコストが高くなり、より低い収率をもたらす。
【0055】
表2には、両方のガス混合物から2300KでNOを形成するためのエネルギー消費についてのデータが、0.05バールおよび50バールの2つの異なる圧力にて示されている。
【表2】
【0056】
化学量論的ガス混合物に対して2300Kおよび2500Kの両方で圧力を0.05バールから50バールに増大させると、エネルギー消費は約10%減少する。空気に類似するガス混合物の場合、エネルギー消費は、2300Kで約5%、2500Kで約10%減少する。従って、エネルギー消費が最適化される温度よりも低い温度では、エネルギー効率が著しく低下する。
【0057】
本開示の態様は、いくつかの実施形態、およびその例を参照して主に上で説明されてきた。しかし、当業者には容易に理解されるように、上に開示したもの以外の実施形態も、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内で等しく可能である。
【0058】
従って、様々な態様および実施形態が本明細書に開示されているが、他の態様および実施形態は当業者には明らかであろう。本明細書に開示される様々な態様および実施形態は、例示を目的としており、限定を意図するものではなく、真の範囲および本質は、以下の特許請求の範囲によって示される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】