(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】免疫寛容誘導のための組成物及び遺伝子治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/12 20060101AFI20240122BHJP
A61K 39/235 20060101ALI20240122BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240122BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240122BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240122BHJP
C07K 14/075 20060101ALN20240122BHJP
C07K 14/315 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
A61K39/12
A61K39/235
A61K9/127
A61K47/24
A61P37/02
C07K14/075 ZNA
C07K14/315
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543320
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 US2022013157
(87)【国際公開番号】W WO2022159603
(87)【国際公開日】2022-07-28
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519411043
【氏名又は名称】ザ リサーチ ファウンデイション フォー ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バルー‐アイヤー,サティ,ヴィー.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076DD63
4C085AA02
4C085BA51
4C085BA77
4C085CC08
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA50
4H045BA17
4H045BA62
4H045CA01
4H045CA11
4H045DA86
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
ウイルスベクター又は遺伝子編集関連タンパク質に対する既存の抗体を減少させるための組成物及び方法が提供される。この組成物は、ウイルスベクターのタンパク質又はそのフラグメントと複合化したリポソーム組成物を投与することにより、様々な抗体価の低下を示した。リポソームはホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)を含み、前記PSの一部又はすべてはlyso-PSとして存在する。本組成物及び方法は、遺伝子治療及び核酸ベースのベクターに基づくワクチン接種及び治療と組み合わせて使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスベクタータンパク質に対する既存の抗体価を低下させる方法であって、治療を必要とする個体に、リポソームを含む組成物を投与することを含み、ここで、
前記リポソームは、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、
PCとlyso-PSの比が、90:10~60:40であり、
PSの一部又はすべてがlyso-PSとして存在し、
前記リポソームが前記タンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化されている
方法。
【請求項2】
lyso-PSのアシル鎖がオレイン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PSの全てがlyso-PSとして存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PCとlyso-PSの比が、85:15~70:30である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
PCが、ジミリストイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジルコリン(DMPC)として存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチドが、カプシドタンパク質又はCasタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドの配列が、IVADNLQQNTAPQIG(配列番号1)である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスベクタータンパク質に対する抗体の生成を低減する方法であって、治療を必要とする個体に、リポソームを含む組成物を投与することを含み、ここで、
前記リポソームは、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、
PCとlyso-PSの比が、90:10~60:40であり、
PSの一部又はすべてがlyso-PSとして存在し、
前記リポソームが前記タンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化されている
方法。
【請求項9】
リポソームを含む組成物であって、
前記リポソームが、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、
PCとlyso-PSの比が、90:10~60:40であり、
前記リポソームが、ウイルスベクターによってコードされるタンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化されている
組成物。
【請求項10】
lyso-PSのアシル鎖がオレイン酸である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
PCとlyso-PSの比が、85:15~70:30である、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
PCが、ジミリストイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジルコリン(DMPC)として存在する、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
前記タンパク質又はペプチドが、ウイルスカプシドタンパク質又はペプチドである、請求項9に記載の組成物。
【請求項14】
前記タンパク質がCasタンパク質である、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
前記タンパク質又はペプチドの配列が、IVADNLQQNTAPQIG(配列番号1)である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記タンパク質又はペプチドがAd5である、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記Casタンパク質がCas9である、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2021年1月20日に出願された米国仮特許出願第63/139,602号に基づく優先権を主張するものであり、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。2022年1月12日に作成された前記ASCIIコピーは、「011520_01662_SEQ_ID_ST25.txt」という名称であり、サイズは520バイトである。
【開示の背景】
【0003】
遺伝子の導入や改変による単一遺伝子疾患の治療において、主な課題のひとつは、治療用遺伝子の標的への送達を成功させることである。この分野での新たな発見により、それらの核酸を宿主細胞に送り込み複製されるように自然進化したウイルスが、治療用遺伝子の送達のための有用なツールであることが判明した。ウイルスベクターは、導入遺伝子の送達のための最も一般的なベクターである。このようなウイルスベクターの1つはアデノ随伴ウイルス(AAV)である。13種類の異なる血清型の同定により、このウイルスベクターは、標的細胞における高い形質導入効率、ロバストで持続的な導入遺伝子発現により、遺伝子治療における有望なツールであることが証明されている。アデノウイルスは小さく(約25nm)、パルボウイルスファミリーに属する非エンベロープDNAウイルスである。各血清型は異なる細胞導入特性を有しており、遺伝子治療において送達媒体として利用されることが大いに期待されている。AAV(AAV5、AAV8を含む)は、標的遺伝子治療において最も関心を持たれていた。AAVは、血友病B、レーバー先天性黒内障(LCA:Leber's Congenital Amaurosis)、ポンペ病、糖尿病(DM)など、様々な疾患の治療のための遺伝子治療において、前臨床試験や臨床試験の段階で利用されてきた。
【0004】
AAV又は他のウイルスベクターのすべての利点にもかかわらず、治療用導入遺伝子の送達を成功させるためには多数の障壁が依然として残っている。このような問題のうち重要な1つは、ウイルスカプシドに対する既存の免疫原性である。目的の改変遺伝子とウイルスカプシドそのものは、ベクターを介した遺伝子治療で遭遇する宿主免疫反応の一因となる2つの主な原因である。血清疫学的研究によると、一般人口の約40%がAAV8に対する中和抗体(NAb)を保有しており、他のすべてのAAV血清型の中で最も血清有病率が低い(Vandamme et al., Hum Gene Ther. 2017;28(11):1061-74)。中和抗体のような抗-カプシド抗体が循環中に存在すると、最小力価レベルであってもウイルスの細胞侵入を阻止することができる。これらの抗-AAV8特異的既存抗体は、ウイルスベクターの導入効率に重大な影響を与え、ひいては導入遺伝子の発現を妨げる。また、脾臓に移動する代わりに、ベクターの特異性に影響を与えることも知られている。NAbとは別に、患者は、カプシド特異的結合抗体を保有することも知られている。NAbとは異なり、BAbは、ウイルスカプシドを認識することができるが、カプシドを中和しない。結合型あるいは非中和型の抗体は、カプシドをタグ付けして、システムからのそれらのクリアランスを加速し、短命な導入遺伝子発現につながることが知られている。異なる血清型間の高い相同性により、これらの既存の抗体も交差反応性である。AAV1又はAAV2に対してすでに確立された抗体価を有する被験者が、AAV8に対して交差反応性抗体反応を起こすことも、研究で示されている(Calcedo Front Immunol. 2013;4:341)。
【0005】
宿主の既存の免疫反応を回避するための現在の戦略には、エラープローンPCRを用いた中和に耐性のあるAAV変異体のスクリーニング、NAbによる認識を回避するための免疫原性ドメインの改変、免疫選択的選択によるキメラベクターを作製するためのカプシドシャッフリングなどがある。これらのアプローチは、パッケージング能力を低下させ、感染性プロファイルを変化させる可能性があるため、生産できる実行可能なベクターの数を制限する。その他の戦略としては、遺伝子治療をナイーブな患者のみに限定する方法、プラスマフェレーシス又は空のカプシドの投与及び免疫抑制によって患者のNAb力価レベルを低下させる方法がある。これらのアプローチは、遺伝子治療に参加できる患者数を制限し、高力価のNAbを有する患者には効果がなく、さらには患者を感染症の高いリスクにさらすグローバルな免疫抑制の問題を引き起こす(Calcedo Front Immunol. 2013;4:341)。現在のアプローチにおける上記のすべての合併症は、ウイルスカプシドの感染性、トランスダクション効率、特異性、発現プロファイルに影響を与えることなく、AAV8の抗原性を低下させ、高NAb力価の患者におけるこのような既存の体液性応答を抑制できる実行可能な戦略の必要性を強く示している。同様に、一般集団におけるCas9に対する既存の抗体は、Cas9活性を中和することによって、CRISPR/Cas遺伝子編集アプローチの安全性及び有効性に影響を与える可能性がある(Simhadri et al, Mol. Ther.Methods. Clin. Dev. 2018: 10, 105-112)。CRISPR/Casは、生物学的ツールとしてのみならず、いくつかの臨床状態を治療することが期待されている。したがって、遺伝子治療ベクターやCRISPRプラットフォームに対する既存の抗体反応を逆転させる技術は、これらの救命治療法に参加する患者数を拡大することによって、ポジティブな影響を与えるであろう。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ウイルスベクタータンパク質に対する免疫応答性を抑制するための組成物及び方法を提供する。この組成物および方法は、少なくとも部分的には、ウイルスベクタータンパク質と複合化したlyso(リゾ)-PSリポソームを使用することによる低反応性の誘導の実証に基づいている。lyso-PSの低応答性は、抗原特異的である。一例として、本開示は、16-merペプチドである、AAV8581-596(IVADNLQQNTAPQIG(配列番号1))に対する免疫寛容を誘導するためのlyso-PSリポソームの能力を実証するデータを提供する。AAV8ベクターのカプシドのウイルスタンパク質III領域に存在するこの16アミノ酸配列は、カプシドの抗原エピトープの決定に用いられるモノクローナル抗体ADK8によって非常に中和されやすいことが見出された(Tseng et al., Front Immunol. 2014;5:9)。本開示において提供されるデータは、lyso-PSが、免疫原性AAV8581-596ペプチドに対する経口免疫寛容を効果的に誘導できたことを実証する。さらに、本開示は、本組成物及び方法が、経口投与により事前に確立されたカプシド特異的抗体価を逆転させることができることを示すデータを提供する。これには、lysoPSが、血漿細胞やメモリーB細胞に作用することが関与している可能性がある。本発明の組成物及び方法は、遺伝子治療、ベクターワクチン、及びCRISPRに基づく技術に用いることができる。
【0007】
一態様では、本開示は、ホスファチジルセリン(PS)を含む脂質粒子(例えば、リポソーム)を含む組成物を提供し、ここで、PSの一部又は全ては、リゾホスファチジルセリン(lyso-PS)として存在してもよく、前記リポソームは、送達ビヒクル(遺伝子治療、遺伝子編集、ベクターワクチンなどで使用されるウイルスベクターなど)のタンパク質又はペプチドに複合化される。本開示はまた、このような組成物を使用して、送達ビヒクルタンパク質に対する免疫寛容を誘導するための、又は送達ビヒクルタンパク質に対する抗体価を減少させるための方法を提供する。
【0008】
本開示の組成物は、ウイルスベクタータンパク質又はその抗原性フラグメントと、リポソーム又は脂質構造体との複合体を含み、当該リポソーム又は脂質構造体は、ホスファチジルセリン(PS)及びホスファチジルコリン(PC)を含む。PSの少なくとも一部は、lyso-PSとして存在する。複数の実施形態において、PSの全てがlyso-PSとして存在してもよい。リポソームは、PS及びPCに加えて、ホスファチジルエタノールアミン(PE)を含んでもよい。タンパク質は、ウイルスベクターに由来する任意のタンパク質又はペプチドであってもよく、又はその修飾体(改変体)であってもよい。
【0009】
本明細書に開示される投与戦略は、遺伝子治療薬の送達に使用される免疫原性タンパク質又はペプチドに対する寛容を誘導することができる。例えば、標的タンパク質(細菌又はウイルスベクター由来のタンパク質又はペプチドなど)と複合化した特定のリポソーム組成物(ここでは免疫寛容誘導(tolerogenic)組成物又はプライミング組成物と呼ぶ)への経口経路によるプレ曝露(例えば、免疫化)は、それらの送達ビヒクルを用いたその後の遺伝子送達において、前記タンパク質に対する低応答性をもたらしうる。免疫寛容の誘導は、樹状細胞上の共刺激シグナルの発現低下、CD4+T細胞増殖の低下及び/又はTGF-β及びIL-10などの免疫調節サイトカインの分泌の誘導、及び/又は抗体価の低下のうちの1つ以上として現れうる。
【0010】
本組成物及び方法は、投与されたウイルスベクタータンパク質への免疫寛容の誘導に有用である(特に、経口経路を介して)。本組成物及び方法は、既存の抗体価を減少させるのにも有用である。
【0011】
AAVやCas9に対する力価を逆転させるプロセスは、自己免疫疾患の治療に必要な自己タンパク質やアレルゲンに対する免疫反応を逆転させるのとは、メカニズム的に異なる可能性がある。例えば、1型糖尿病における自己タンパク質に対する免疫反応を逆転させるには、細胞媒介寛容を利用した防御が必要となる。
【0012】
一態様では、本開示は、ウイルスベクタータンパク質に対する既存の抗体を低減する方法を提供する。複数の実施形態において、既存の抗体は、アデノウイルスベクタータンパク質(様々なカプシドタンパク質の1つ又は複数など)に対するものであってもよい。複数の実施形態において、既存の抗体は、AAV8カプシドタンパク質に対するものであってもよい。
【0013】
本発明の方法は、ウイルスベクター標的タンパク質に免疫不寛容(免疫学的不耐性)を有することが知られている個体、又は標的タンパク質への免疫状態が分かっていない個体に使用することができる。例えば、本組成物は、標的タンパク質又はペプチドを含む送達ビヒクルを用いた遺伝子治療又はワクチン治療を受けようとしているが、以前にそのタンパク質に対する免疫不寛容を示したことのない個体、又はナイーブな個体(すなわち、以前に前記ペプチド又はタンパク質を投与されたことのない個体)に使用することができる。タンパク質に対する抗体の検出可能な力価がない場合、その個体はそのタンパク質に対する免疫不寛容を示していないとみなされる。
【0014】
複数の実施形態において、本開示は、個体において1つ以上の抗原(個体において、この抗原に対する抗体は、核酸編集の機能を阻害し得る)に対する寛容を誘導することを含む。核酸編集には、核酸編集システムを個体に導入して編集を促進する治療的及び予防的アプローチが含まれるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。そのような核酸システムには、ウイルスシステム及びCRISPRシステムが含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。このように、本開示は、核酸編集(例えば、遺伝子治療)の候補者である個体において、関連する編集システム中の1つ以上の抗原に対する寛容を誘導することを含む。
【0015】
複数の実施形態において、本開示は、ベクターワクチンで使用されるウイルスベクターペプチドに対する寛容を誘導する方法を提供する。ベクターワクチンは、一般に、アデノウイルス又はポックスウイルスなどのキャリアウイルスから構築され、ウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に由来する関連遺伝子を運ぶように操作される。この実施形態では、送達ウイルスビヒクルの遺伝物質内に挿入された病原性生物由来の目的タンパク質に対する免疫応答が望まれる一方で、ウイルスベクタータンパク質自体に対しては、免疫応答の減弱が望まれる。このように、本発明の組成物及び方法は、ワクチン組成物の送達ビヒクル成分に対する既存の又は新規の免疫応答の選択的抑制のために使用することができる。
【0016】
複数の実施形態において、寛容は、以下のウイルスベースの送達核酸編集システムのいずれかに含まれる任意の抗原に対して誘導される:アデノウイルス、例えば組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、及びバキュロウイルス
【0017】
非限定的な複数の実施形態では、既存の抗-アデノウイルス(Ad)中和抗体(AdNAb)を有する個体において、寛容が誘導される。複数の実施形態において、そのような抗体は、アデノ随伴ウイルス血清型2、アデノウイルス血清型5、及びアデノウイルス血清型8を含むがこれらに限定されない、任意のタイプのアデノウイルスに関連する抗原に結合する。複数の実施形態において、そのような抗体は、アデノウイルスカプシドタンパク質に結合する。複数の実施形態において、抗体は、アデノウイルス繊維及び/又はペントンベースタンパク質に結合する。
【0018】
複数の実施形態では、抗体を産生し得るヒト又はヒト以外の個体において機能することが意図される任意のCRISPR関連薬剤に対して、寛容が誘導される。複数の実施形態において、寛容は、任意のCRISPR関連酵素(例えば、Cas酵素)(任意のタイプ又はクラスのCas酵素の任意のメンバーを含む)に含まれる任意のCRISPR関連抗原に対して誘導される。複数の実施形態において、Casは、I型、II型、又は、III型のCas酵素である。非限定的な複数の実施形態において、Casは、Cas9又はCas12a(Cpf1とも呼ばれる)である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
[
図1]インビボ逆転研究の設計
抗原(例えば、AAV8カプシド、AAV8
581-596ペプチド、AAV5、Cas9)に特異的な抗体価を誘導するために、マウスに連続して4~6週間(週1-6)の皮下注射を行う。抗体価の誘導後、これらのマウスをそれぞれの処置グループに分けて、5~7週目から始めて毎週経口投与した(17週目まで)。これに続いて1~2週間のウォッシュアウト期間を設けた。抗体価レベルのモニタリングのため、1週目から試験期間中毎週、伏在静脈穿刺により採血を行う。
【0020】
[
図2]皮下投与による抗-AAV8抗体価誘導
遊離AAV8
581-596ペプチド1μgを投与したグループ1の20匹の動物の抗-AAV8抗体価をパネルaに示し、遊離AAV8カプシドタンパク質1μgを投与した30匹の動物の抗体価をパネルbに示す。
【0021】
[
図3]抗-AAV8カプシド/ウイルス粒子抗体(経口投与後に力価レベルが逆転)
【0022】
[
図4]経口投与後の抗-AAV8ペプチド特異的抗体価
【0023】
[
図5]Cas9及びLysoPS-Cas9の遠紫外線CDスペクトル
【0024】
[
図6]遠紫外線CD分光法を用いたCas9及びLysoPS-Cas9のアンフォールディングプロファイル
【0025】
[
図7]処置グループにおける週7と週17間での抗-cas9抗体価の比較
各サンプルを黒丸で表示し、陽性対照サンプル(cas9で3週間誘導したが何の処置もしなかったマウス血漿サンプル)を内部対照として加え、黒三角で表示した。破線のサンプルは、抗-Cas9抗体の増加を示し、グラフ上の数は、抗体価が減少した動物の数を表す。Cas9抗体の濃度を、標準抗体を用いてng/mlで表し、50倍希釈の濃度で表す。
【0026】
[
図8]経口投与後のLysoPS-AAV8供給動物の脾臓において、LAG3+CD49b+CD8+細胞のレベルが上昇していることが確認された。
【開示の詳細な説明】
【0027】
本明細書で使用される「標的タンパク質」という用語は、免疫学的な低応答性が望まれる任意のタンパク質を意味する。例えば、標的タンパク質は、送達ビヒクル(例えば、ポリヌクレオチド送達のための)として使用される微生物又はその改変体由来のタンパク質又はペプチドであってもよい。
【0028】
「特異的な」免疫学的反応とは、関係のないタンパク質(プライミング組成物のリポソームと複合化しなかったタンパク質)に対する免疫反応が影響を受けないことを意味する。
【0029】
「投与される」又は「投与」とは、任意の送達手段又は送達経路によって、タンパク質又はペプチドが個体に送達されるか、又は個体の体内に導入されることを意味する。
【0030】
タンパク質又は抗原に対する「阻害」力価又は抗体とは、そのタンパク質又は抗原に対して産生される特異的抗体を意味する。
【0031】
「脂質構造体」とは、リポソームや他の構造体(ミセル構造体、リポソーム、コクリエイト(cochleate)、分子集合体など)を意味する。
【0032】
リン脂質に関連して本明細書で使用される場合、用語「lyso(リゾ)」は、分子のグリセロール部分が、1つのアシル鎖のみ(2つではなく)を有することを意味する。例えば、PSが2つのアシル鎖を有するのに対して、lyso-PSは1つのアシル鎖のみを有する。
【0033】
リポソームと複合化したタンパク質又はタンパク質と複合化したリポソームとは、タンパク質が、以下の構成の1つ又は複数で粒子と会合し得ることを意味する:タンパク質が粒子の内腔に位置すること、二重層に一部又は完全にインターカレートすること、又は粒子の表面に結合もしくは吸着すること。一例として、アデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質のためのリポソーム-タンパク質複合体に関するデータが、本明細書に提供される。
【0034】
リポソームは、本明細書では、脂質ナノ粒子、又はナノ粒子と呼ばれることがある。リポソームを調製するためのリン脂質は、例えば、任意の利用可能なソースから(例えば、植物又は動物などから)得ることができる。リン脂質は市販されており、又は、既知の方法で合成することができる。例えば、ホスファチジルセリン(PS)は、ブタ脳PS又は植物由来の大豆(例えば、大豆)PSから得ることができる。Lyso-PSも市販されている。本明細書では、タンパク質複合体の例や免疫寛容の誘導は、特定のタンパク質を指す場合があるが、他のタンパク質にも同様に適用できる。
【0035】
略称:
アデノ随伴ウイルス(AAV);ウイルスタンパク質(VP);末端逆位配列(ITR:Inverted Terminal Repeats);組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV);中和抗体(NAb);野生型AAV(wtAAV);結合抗体(BAb);免疫グロブリンG(IgG);樹状細胞(DC);インターロイキン10(IL-10);形質転換増殖因子β(TGF-β);制御性T細胞(Treg);T細胞非依存性抗原(TI);T細胞依存性抗原(TD);小襞細胞(M-細胞:Microfold cell);腸管関連リンパ組織(GALT)。
【0036】
本開示は、ウイルスベクター送達ビヒクルを用いた病態の治療的又は予防的処置において、ウイルスベクタータンパク質に対する免疫応答を抑制するための組成物及び方法を提供する。本開示の方法は、免疫応答の抑制が望まれる個体に、ホスファチジルコリン(PC)及びPSを含むリポソーム又は他の脂質構造体を含む組成物を投与することを含み、ここで、PSの一部又は全部は、lyso-PSとして存在し、前記リポソーム又は脂質構造体は、ウイルスベクターのタンパク質もしくはペプチド、又はそのようなタンパク質もしくはペプチドのフラグメントもしくは修飾体(改変体)と複合体を形成する。例えば、アデノウイルスベクター(又は任意の他のウイルスベクター)によってコードされるタンパク質あるいはそのフラグメント、又はペプチドのいずれかを使用することができる(例えば、AAV1~AAV11からのAAV血清型、AdAからAdGまでのすべてのサブタイプ)。これらの及び他のタンパク質の配列は周知である。UniProt受入番号は、A0A0S0C249, A0A0S0DU13, A0A0S0DSV8(VP1フラグメント), Q6JC62(カプシドタンパク質 VP1), Q8JQF8(カプシドタンパク質), B4Y886(カプシドタンパク質 VP1フラグメント), Q9YIJ1(AAV5), Q8JQF8(AAV8), Q99ZW2(spCas9), P04133(ad5 hexon)である。さらなる受入番号は、saCas9 : J7RUA5, stCas9 :G3ECR1, cas12a: U2UMQ6, cas13a: P0DOC6, P0DPB7, C7NBY4, U2PSH1である。
【0037】
複数の実施形態において、lyso-PSリポソームと複合化したウイルスベクタータンパク質は、任意のカプシドタンパク質又はそのフラグメントであってもよい。一般に、フラグメントは、6~32個(その間のすべての整数値と範囲を含む)のアミノ酸であってもよい。例えば、カプシドタンパク質又はそのフラグメントは、AAV2, AAV5又はAAV8に由来してもよい。複数の実施形態において、ウイルスベクタータンパク質は、AAV8581-596である。結果として得られる、ウイルスベクタータンパク質と複合化されたリポソームは、リポソーム複合体と呼ばれることがある。
【0038】
本開示は、DNAワクチン製剤で使用されるウイルスベクターに対する既存の抗体を低減するために使用することができる。例えば、AD5、AD26及びその変異体(例えば、チンパンジーADに由来するAD26の変異体)を用いることができる。
【0039】
複数の実施形態において、ウイルスベクターは、哺乳動物ホストへの核酸の送達に使用される任意のウイルスベクターであり得る。例としては、アデノウイルス、例えば、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)(本明細書ではアデノウイルスベクターと互換的に言及され得る)、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、及びバキュロウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクター由来のタンパク質の例には、カプシドタンパク質及びその抗原性フラグメントが含まれる。この方法は、PC及びlyso-PSを含むリポソームに複合化されたウイルスベクタータンパク質もしくはペプチド又はその抗原性フラグメントを含む組成物を、治療の必要がある個体に投与することを含み得る。
【0040】
本リポソームは、本明細書に記載され、実施例で例示されるような、トリガローディング技術によって調製することができる。最初の工程として、温度を増加させること及び/又はpHを低下させることによって、タンパク質又はペプチドの立体構造的に変化した状態が生成される。例えば、AAV8581-596は、ペプチドのアンフォールディングをもたらす高温(例えば、最大で70℃)にさらされることによってリポソームに装填され得る。複数の実施形態において、室温から70℃まで、例えば30℃から65℃まで加熱することができる。あるいは、又はそれに加えて、pHを低下させて(例えば、3から8まで)コンフォメーションの変化を誘導することができる。この状態でlyso-PSリポソームとインキュベートすると、ペプチドをリポソーム二重層にインターカレートすることができる。次いで、リポソームを室温(通常18~25℃の間、例えば18、19、20、21、22、23、24、又は25℃)まで冷却することができる。pH範囲は、3~8(例えば、3、4、5、6、7、又は8)とすることができる。本発明のリポソーム組成物は、凍結乾燥状態で室温にて数ヶ月、液体又は再構成状態で最大48時間(hr)、冷凍庫で数ヶ月、及び、冷蔵状態では固体状態で数ヶ月、液体状態で数週間保存することができる。
【0041】
複数の実施形態において、会合は、少なくとも40%、50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%であってもよい。複数の実施形態において、会合は、80~99%、75~99%、75~95%、又は80~95%であってもよい。複数の実施形態において、会合は、80、81、82、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%であってもよい。
【0042】
リポソーム及び他の脂質構造体は、PC及びPSを含み、その一部又は全部は、lyso-PSの形態であり得る。リポソーム又は他の脂質構造体は、リン脂質としてPS(又はlyso-PS)及びPCのみを含んでもよい。PS又はlyso-PSは、二重層中の全リン脂質の10%~50%の範囲で存在してもよく、前記%はモル%である。PSの1~100%(及びそれらの間のすべての値と範囲)は、lyso-PSの形態であってもよい。例えば、リポソームは、90:10、80:20、70:30、60:40、又は50:50のモル比で、PC:lyso-PSを有することができる。一例では、lyso-PSは15~50モル%であってもよく、残りのリン脂質はPCである。例えば、lyso-PSは、15~30%であってもよい。本開示において範囲が言及される場合は常に、その範囲内のすべての値も含まれる。一例では、PSのみ(一部又は全部)がlyso-PSの形態であり、他方、全てのPCは2つのアシル鎖を有する。本開示におけるリン脂質の比はすべて、特に断らない限り、モル比である。
【0043】
一例では、リポソームなどの脂質構造体(PSの30~100%がlyso-PSとして存在する)は、レチノイド酸及び/又はラパマイシンをさらに含む。このように、脂質構造体は、PS(その一部又はすべてはlyso-PSであってもよい)、PC及びレチノイド酸及び/又はラパマイシンを含むことができる。レチノイン酸の量は、0.1モル%~10モル%であってもよく、それらの間の小数点以下第10位までのすべてのパーセンテージ値であってもよい。ラパマイシンの量は、0.1モル%~10モル%であってもよく、それらの間の小数点以下第10位までのすべてのパーセンテージ値であってもよい。
【0044】
アシル鎖は飽和又は不飽和であり得る。PCのアシル鎖の長さは、炭素数12~22であってもよい。アシル鎖は、両方が同じ長さで飽和していることが好ましい。14の鎖長(C14:0, ジミリストイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジルコリン(DMPC))が、リポソームに安定性を与えるのに特に有効であることが観察された。鎖長が18(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC))の場合、DMPCほど有効ではないことがわかった。
【0045】
lyso-PSアシル鎖は、不飽和であってもよい。それは、炭素数14~22の長さであってもよい。それは、少なくとも1つの二重結合を有するべきである。例えば、18:1であってもよい(ここで、18は炭素原子数を表し、1は二重結合の数を表す)。様々な例では、アシル鎖は、2つ又は3つの二重結合を有してもよいが、リポソームの安定性は、2つ又は3つの二重結合を有するよりも、単一の二重結合を有する場合により良好であることが見出された。しかし、寛容を高めるためには、少なくとも1つの二重結合が必要であることが分かった。
【0046】
PSの少なくとも一部はlyso-PSであるが、PCはlyso-PCではない。したがって、全てのPCは2つのアシル鎖を有し、少なくともいくつかのPSは1つのアシル鎖のみを有する。例えば、PC:PS比は90:10~60:40であり、ここで、PSのすべてはlyso-PSである。例えば、PC:lyso-PSは、85:15~65:35であってもよい。一例では、PC:lyso-PSの比は、70:30であってもよい。一例において、lyso-PSは、15~50%、又は15~35%であり、残りのリン脂質は、PCである。lyso-PS及びPCのみが、リポソームの二重層中に存在するリン脂質であってもよい。lyso-リン脂質のパーセンテージが50%より高い場合、リポソームは安定ではないため、リポソーム中の全lyso-リン脂質は、全リン脂質の50%未満であることが好ましい。
【0047】
本リポソームは、追加のリン脂質をさらに含んでもよい。例えば、本明細書に記載のリポソームのいずれかは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)を含むことができる。PS(その一部又はすべてがlyso-PSであり得る)の量は、0~30mol%であってもよく、PCの量は0~30mol%であってもよく、残りはPEであってもよい。例えば、PS(その一部又はすべてがlyso-PSであり得る)は 1~30mol%であってもよく、PCは1~30mol%であってもよく、残りがPEであってもよい。
【0048】
本明細書に記載のlyso-PSを含むリポソームは、PSのみを含むリポソーム(lyso-PSなし)よりも小さいことが見出された。例えば、0.2ミクロンのカットオフフィルターを通して濾過した後、lyso-PSを含むリポソーム(lyso-PS及びPCを含むリポソーム)のサイズは、約50~150nmであり(リポソームの約90%)、PSを含むリポソーム(PS+PC)のサイズは、約200~400nmであった(集団の約90%)。lyso-PSリポソームがPSリポソームよりも小さいにもかかわらず、電荷がそれほど負ではないことは驚くべきことであった。lyso-PSリポソームのゼータ電位は-10~-17である(比較すると、ゼータ電位は、PSリポソームでは-24~-33、サイズマッチドPSリポソームでは-17~-26である)。lyso-PSリポソーム上のより少ない負電荷は、タンパク質の積み込みを増加させ得る。例えば、PSリポソームでは、典型的なタンパク質:脂質の比は、1:10,000モル比であるが、lyso-PSリポソームでは、タンパク質を少なくとも1:5,000のモル比まで積み込み、使用することができる。タンパク質を、モル比1:1,000~1:10,000(及びそれらの間のすべての比)又は1:100~1:10,000(及びそれらの間のすべての比)で、lyso-リポソームに装填することができる。
【0049】
一態様では、本開示は、リポソームを含む組成物を提供する。例えば、組成物は、適切なキャリア中に、本明細書に記載される複数のリポソームを含むことができる。適切なキャリアは、緩衝剤又は他の医薬キャリア又は添加剤、賦形剤、安定剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。例えば、リポソームは、糖、デンプン(スターチ)、セチルアルコール、セルロース、粉末トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、オイル、グリコール、グリセロールモノオレエート、ポリオール、ポリエチレングリコール、エチルアルコール、追加の乳化剤などと配合することができる。薬学的に許容されるキャリア、賦形剤、及び安定剤の例は「Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2012) 22nd Edition, Philadelphia, PA. Lippincott Williams & Wilkins」に挙げられている。
【0050】
本プライミング組成物は、経口送達のために製剤化することができる。組成物は、経管栄養を使用して消化管の所望の場所に直接送達されてもよい。あるいは、それらは、液体、懸濁液、錠剤(腸溶性コーティングされた錠剤を含む)、ゲル、カプセル、粉末、又は摂取可能な任意の他の形態で製剤化することができる。製剤は、経口製剤に使用されることが知られている医薬キャリアを含むことができる。製剤は、小児製剤とすることができ、様々なフレーバー等を含むことができる。
【0051】
本組成物は、免疫寛容を誘導するのに有用なだけでなく、驚くべきことに、既存の抗体の抗体価を減少させるのにも有用である。
【0052】
いくつかの実施形態において、本方法は、PS及びPCを含むリポソーム(本明細書においてPSリポソームと称される)と複合化された標的タンパク質(ウイルスベクタータンパク質など)を含む第一の組成物(本明細書においてプライミング組成物とも称される)(この第一の組成物は、1回又は複数回の投与又は用量を含んでもよい)を個体に投与することを含み、前記PSの少なくとも一部はlyso-PSとして存在し得る。複数の実施形態において、PSの全てがlyso-PSとして存在してもよい。プライミング組成物の投与(単数又は複数)は、それに続く遺伝子治療、CRISPR-媒介遺伝子編集又はベクターワクチンを伴うことができ、ここで、前記遺伝子治療、CRISPR-媒介遺伝子編集又はベクターワクチン接種は、ウイルスタンパク質をコードする遺伝子及び治療用又は免疫タンパク質遺伝子を含むウイルスベクターを投与することを含む。プライミング組成物は、週1回又は週複数回投与することができる。プライミング組成物は、例えば、週に1回又は週に2~6回投与されてもよく、又は毎日投与されてもよい。投与は、1、2、3、4、5、6週又はそれ以上の週行われてもよく、その後、停止されてもよい。治療用組成物又は免疫組成物は、プライミング組成物投与レジメンの前、投与レジメンと重複する時期、又は投与レジメン停止後のいずれの時期に送達されてもよい。一実施形態において、免疫寛容を発現させるのに適した期間の後(例えば、最後のプライマーから少なくとも4日後など)に、個体に遺伝子治療/ベクターワクチン組成物を投与することができる。
【0053】
複数の実施形態において、プライミング組成物は、ウイルスベクターからのタンパク質又はその抗原フラグメントのみを含有し、治療用又は免疫用タンパク質を含まない。
【0054】
一実施形態において、プライミング組成物は、数週間まで投与され得る。一例として、プライミング組成物を4週間投与することができる。プライミング組成物(タンパク質-lyso PSリポソームなど)の経口投与頻度は、週1回又はそれ以上で、4週間とすることができる。より多くの用量のタンパク質-lyso PSを使用することもできる。
【0055】
プライミング組成物は、1回又は複数回投与されてもよく、継続的に投与されてもよい(連続投与)。同様に、第二の組成物(治療用組成物又はワクチン用組成物)も、1回又は複数回投与されてもよく、又は継続的に投与されてもよく(連続投与)、又は必要に応じて間欠的に投与されてもよい。第二の組成物は、第一の組成物と一緒に、あるいは第一の組成物の投与を開始した後(例えば、第一の組成物の開始から1~6週間後)に投与することができ、又は第一の組成物の開始と同時に投与もしくは開始されてもよく、あるいは第一の組成物の開始から1~6週間以内に投与もしくは開始されてもよい。一実施形態において、プライミング組成物は連続的なスケジュールで投与することができ、第二の組成物(本明細書において治療用組成物とも呼ばれる)は、プライミング組成物の投与開始から時間差をあけて投与することができるが、第一の組成物の投与スケジュールと重複してもよい。したがって、第二の組成物の投与は、第一の組成物の投与と同時に、第一の組成物のみの最初の投与期間の後に、行われ得る。
【0056】
複数の実施形態において、プライミング組成物の一又は複数の用量は、既存の抗体を減少させるために、又はベクター送達ビヒクルタンパク質に対する抗体の生成を減少させるために、ある期間にわたって連続的に投与することができる。したがって、投与レジメンは、実質的に定期的な投与を含むことができ、この投与は、例えば、毎日又は毎週であってもよく、又は、より頻繁であってもよいし、より頻繁でなくてもよく、任意の経路で投与することができる。このような投与レジメンは、数週間、数ヶ月、数年にわたり実施されてもよい。連続的な投与間の間隔は、同じであっても異なっていてもよいが、一般には投与の周期性が維持されるであろう。
【0057】
この組成物は、任意の個体(例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物)に使用することができる。個体は、最近の免疫不寛容の兆候を示してもよいし、示していなくてもよい。それは、ナイーブ個体(すなわち、以前にタンパク質又はペプチドを投与されていない個体)への投与にも有用である。本明細書で使用される免疫不寛容(immune intolerance)は、個体が測定可能な(ELISA又は活性アッセイなどの標準的な方法によって)抗体産生を有することを意味する。逆に、免疫不寛容の欠如(又は免疫寛容の状態)は、個体が測定可能な抗体を有していないことを意味する。抗体は、個体が「寛容化」された後、遊離型タンパク質への曝露又は遊離型タンパク質の投与後に測定することができる。本明細書で使用される「寛容化」という用語は、1つ以上の用量のプライミング組成物の投与及び適切な長さの時間(例えば、4~30日間など)を個体に与えて、免疫寛容を発現させることを意味する。標的タンパク質に対する免疫寛容の発現はまた、樹状細胞の共刺激シグナルの発現のダウンレギュレーション、CD4+T細胞増殖の低下、及び免疫調節性(制御性)サイトカインTGF-β及びIL-10の分泌の誘発を測定することによって識別することもできる。これらの識別子のうちの1つ又は複数は、培養コンディションで評価することができる。免疫寛容の発現は、寛容が誘発されるタンパク質(すなわち、プライミング組成物のリポソームと複合体化されたタンパク質)に特異的である。
【0058】
一実施形態において、プライミング組成物を投与することができ、次いで、以下の1つ又は複数を評価することによって、免疫寛容の誘導を決定することができる:樹状細胞における共刺激シグナルの発現のダウンレギュレーション、CD4+T細胞増殖の低下、免疫調節性サイトカインTGF-β及びIL-10の分泌の誘発、又はプライミング組成物の投与前に比べて低下した抗体価。ウイルスベクタータンパク質に対する免疫寛容の誘導を確認してから、遺伝子治療又はワクチン接種を行うことができる。
【0059】
以下の陳述は、本開示の様々な実施形態を示す。
陳述1
ウイルスベクタータンパク質に対する既存の抗体価を低下させる方法であって、リポソームを含む組成物を、治療を必要とする個体に投与することを含み、ここで、リポソームが、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、PC:lyso-PSの比が、90:10~60:40であり、PSの一部又は全てがlyso-PSとして存在し、前記リポソームが前記タンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化している、方法。
陳述2
lyso-PSのアシル鎖がオレイン酸である、陳述1に記載の方法。
陳述3
全てのPSがlyso-PSとして存在する、陳述1又は陳述2に記載の方法。
陳述4
PCとlyso-PSの比が、85:15~70:30である、前述の陳述のいずれか1つに記載の方法。
陳述5
前記PCが、ジミリストイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジルコリン(DMPC)として存在する、陳述1に記載の方法。
陳述6
前記ペプチドが、カプシドタンパク質又はCasタンパク質である、陳述1に記載の方法。
陳述7
前記ペプチドの配列が、IVADNLQQNTAPQIG(配列番号1)である、陳述1に記載の方法。
陳述8
ウイルスベクタータンパク質に対する抗体の生成を低減する方法であって、リポソームを含む組成物を、治療の必要がある個体に投与することを含み、ここで、リポソームが、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、PCとlyso-PSの比が、90:10~60:40であり、PSの一部又は全てがlyso-PSとして存在し、前記リポソームが、前記タンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化している、方法。
陳述9
リポソームを含む組成物であって、前記リポソームは、ホスファチジルコリン(PC)及びリゾホスファチジルセリン(lyso-PS)を含み、PCとlyso-PSの比が、90:10~60:40であり、前記リポソームが、ウイルスベクターによってコードされるタンパク質又はその抗原性フラグメントと複合化している、組成物。
陳述10
lyso-PSのアシル鎖がオレイン酸である、陳述9に記載の組成物。
陳述11
PCとlyso-PSの比が、85:15~70:30である、陳述9又は陳述10に記載の組成物。
陳述12
PCが、ジミリストイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジルコリン(DMPC)として存在する、陳述9~11のいずれか1つに記載の組成物。
陳述13
前記タンパク質又はペプチドが、ウイルスカプシドタンパク質又はペプチドである、陳述9~12のいずれか1つに記載の組成物。
陳述14
前記タンパク質がCasタンパク質である、陳述9~13のいずれか1つに記載の組成物。
陳述15
前記タンパク質又はペプチドの配列が、IVADNLQQNTAPQIG(配列番号1)である、陳述9~13のいずれか1つに記載の組成物。
陳述16
前記タンパク質又はペプチドがAd5である、陳述9~13のいずれか1つに記載の組成物。
陳述17
前記Casタンパク質がCas9である、陳述9~14のいずれか1つに記載の組成物。
【0060】
以下の実施例は、例示の目的のために提供され、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0061】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の合成並びに使用を説明する。
【0062】
材料及び方法
【0063】
リゾホスファチジルセリン(Lyso-PS)及びジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)から購入し、クロロホルム中で-80℃で保存した。AAV8、AAV5カプシドは、Vigene Biosciences(Rockville, MD)から入手した。AAV8581-596を、GenScriptから購入し、滅菌水(Piscataway Township, NJ)で再構成した。Tween 20、過酸化水素、及びリン標準液を、Sigma(Saint Louis, MO)から入手した。ウシ胎児血清は、Biowest(Riverside, MN)から購入した。ローダミンPEは、Avanti Polar Lipids(Alabaster,AL)から購入した。Southern Biotech(Birmingham, AL)からアルカリホスファターゼ-結合ヤギ抗-マウスIg抗体を購入した。西洋ワサビペルオキシダーゼ-結合ヤギ抗-マウスIgG抗体、及び3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン基質(TMB)を、Sigma Aldrich(St. Louis, Missouri)から購入した。Endosafe Endochrome-K(登録商標)キットを、Charles River Laboratories(Charleston, SC)から購入した。NUNC MaxiSorp 96ウェルプレートを、Thermo Fisher Scientific(Rochester, NY)から購入した。CD21/CD35モノクローナル抗体(8D9)、PEコンジュゲート[12-0211-82]、及びCD23モノクローナル抗体(B3B4)、FITCコンジュゲート[11-0232-81]は、eBiosciencesTMから入手した。スイス-ウェブスターマウスは、Charles River Laboratories(Charleston, SC)から入手した。
【0064】
動物
【0065】
8週齢の雄のスイス-ウェブスターマウスを、Charles River Laboratory(Kingston, NY)から購入し、その場で維持した。すべての動物実験は、ニューヨーク州立大学バッファロー校が実施する動物実験委員会(IACUC:Institutional Animal Care and Use Committee)のガイドラインによって承認され、そのガイドラインに従った。実験の終わりに、イソフルラン麻酔下で心臓穿刺を介してマウスを犠牲にした。
【0066】
Lyso-PSナノ粒子の調製
【0067】
Lyso-PSリポソームを、30:70のlyso-PS:DMPCのモル比で調製した。クロロホルム溶媒の蒸発による脂質フィルムの形成には、ロータリーエバポレータ(Buchi-R200, Fisher Scientific)を用いた。次に、脂質フィルムを、トリス-塩化カルシウム緩衝液(1x, pH7.4)中で再水和し、37℃でインキュベートした。窒素加圧エクストルーダー(Mico, Inc., North Mankato, WI)を用いて、孔径200nmのポリカーボネート膜(二重に積層)を通して、リポソームの押出を数回行った。次いで、リポソームを孔径0.2μmのシリンジフィルター(Corning, NY)を用いた濾過によって滅菌した。トリス-塩化カルシウム緩衝液をエンドトキシンについて試験し、エンドトキシンがネガティブであることを確認した。AAV8カプシドを投与される処置グループでは、タンパク質と脂質のモル比を1:10,000とし、AAV8581-596ペプチドを投与される処置グループでは、タンパク質と脂質のモル比を1:1,000とした。lyso-PSリポソームへのAAV8カプシドの会合と、lyso-PSリポソームへのAAV8581-596ペプチドの会合は、2つの複合体を37℃で30分間インキュベートすることによって達成され、これにより、タンパク質及びペプチドをリポソームにトリガーローディングした。ホスフェートアッセイを実施して、最終リポソーム製剤の脂質含量を確認し、リポソームのサイズ分布を、NICOMP Model CW380粒径分析器(Particle Sizing Systems(Port Richey, FL))を使用して測定した。
【0068】
Lyso-PSリポソームへのAAV8
581-596
ペプチドの会合効率の測定
【0069】
PSリポソームと会合するタンパク質量の会合効率を、サイズ排除カラムクロマトグラフィーを用いて事前に評価した。G-50セファデックスビーズを用いて、サイズ排除カラムを作成した。リポソームはローダミン-PEで蛍光標識し、カラムから溶出する際に検出できるようにした。この脂質混合物に、蒸発前に1モル%のローダミンホスファチジルエタノールアミン(PE)を組み込み、その後、前の節で説明したようにリポソームを調製した。LysoPS-ローダミンリポソームをAAV8581-596と複合化した(500μg/mlのAAV8581-596を用い、タンパク質と脂質の比を1:50とした)。溶出剤の画分は、ラン後にカラムから回収した。リポソームの含有量は、560nmでの励起及び583nmでの発光により、ローダミンの蛍光を測定することによって決定された。各画分中のタンパク質含量を、Micro-BCAアッセイキット(ThermoFisher, Waltham, MA)によって定量した。
【0070】
Lyso-PSリポソームへのAAV8カプシドの会合効率の測定
【0071】
PSリポソームに会合するタンパク質量の会合効率を、Nanosep 30K遠心分離装置(Pall Laboratories, Port Washington, NY)を用いて事前に評価した。リポソームは前の節に記載されているように調製した。LysoPS-AAV8複合体を、30μg/mlのAAV8を用いて作製した(タンパク質と脂質のモル比は1:10,000)。この複合体を37℃で30分間インキュベートした。LysoPS-AAV8複合体の試料を、Nanosep装置に入れ、25℃で5分間、9,300xgで遠心分離した。遠心分離実行後に得られたペレットを回収し、Micro BCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher, Waltham, MA)を用いて分析した。封入効率は、この実験を三回実行した後の平均として報告された。
【0072】
スイスウェブスターマウスにおける、抗-AAV8抗体価の誘導
【0073】
50匹のナイーブな、未処置の8週齢のスイスウェブスター雄マウスを、まず、2つの異なるグループに分けた(20匹のマウスを含むグループ1と、30匹のマウスを含むグループ-2)。AAV8ペプチド及びAAV8カプシドに特異的な抗-AAV8抗体価の誘導のために、2つのグループは、皮下注射を毎週受けた。グループ1では、用量1μgの遊離AAV8
581-596ペプチドを6週間連続で皮下投与した。グループ2では、用量1μgの遊離AAV8カプシドを6週間連続で皮下投与した(
図1)。皮下注射はすべて麻酔下の動物に行い、IACUCのプロトコルに従い、注射終了ごとに輸液を行った。各皮下注射の1週間後に伏在静脈から採血した。血液試料を5000gで5分間回転し、血漿を回収し、-80℃で保存した。総抗-AAV8抗体価レベルを、第一週から第六週の皮下注射にわたって測定した。遊離抗原(AAV8カプシド及びAAV8
581-596ペプチド)の投与は、グループ1及びグループ2の動物が同等の抗体価レベルに達した後に中止した。同等の力価を生じなかった動物を研究から除外し、残りの動物を使用して逆転研究を実施した。グループ1の16匹のマウス及びグループ2の24匹のマウスを、抗体価誘導後の逆転研究のために選択し、残りは犠牲にした。
図2は、使用される動物の分類を示す。
【0074】
スイスウェブスターマウスにおける、予め誘導された抗-AAV8力価の逆転
【0075】
抗-AAV8抗体価をすでに有する合計40匹の動物をこの研究のために使用した。グループ1の動物(
図2)は、2つの処置グループ:「Lyso-ペプチド」及び「Lyso-カプシド1」に分割された。グループ2(
図2)のマウスを、3つの異なる処置グループ(各グループは8匹の動物を含む)に分割した。処置グループは、以下の通りである:「Lyso-カプシド2」、「遊離カプシド」、「緩衝液」。lyso-ペプチドグループの動物は、1μg用量のlyso PS-AAV8
581-596ペプチド製剤を投与された(タンパク質と脂質のモル比は1:1,000)。AAV8
581-596ペプチドに対して予め確立された抗体価を有するlyso-カプシド1グループのマウスは、1μg用量を投与され、これは、大体2×10
6gc/kgの、lyso-PSリポソームと複合体化されたAAV8カプシドに対応する(タンパク質と脂質のモル比は、1:10,000)。完全なAAV8カプシドに対する抗体価を予め誘導したlyso-カプシド2グループの動物には、lyso-カプシド1グループと同じ製剤を投与し、この製剤は、lyso-PSリポソームと複合化したAAV8カプシド1μg(約2×10
6gc/kg)からなる(タンパク質と脂質のモル比は、1:10,000)。陽性対照グループには遊離AAV8カプシド1μg(2×10
6gc/kg)を投与し、陰性対照グループにはトリス塩化カルシウム緩衝液のみを投与した。すべての動物に、それぞれの製剤を、強制経口投与を介して9週間連続して与えた。毎週の投与ごとに、経口注射の量は100μLとした。それぞれの週の投与前に採血を行い、7、9、11、13、15週目に週に一度採血し、抗-AAV8カプシド及びペプチド特異的抗体価を分析した。末端の血液サンプルを、力価分析のための心臓穿刺を介して採取し、脾臓を採取して、フローサイトメトリーによって分析した。
【0076】
抗-AAV8抗体価の決定
【0077】
抗体価は、力価分析のFrey法を使用してELISAにより決定した。この方法によれば、エンドポイント力価は、カットオフ値より上の吸光度値を読み取る最も高い検体希釈の逆数によって定義される。カットオフ値又は「上方予測限界」の決定には数式が用いられ、それによると、上方予測限界は、標準偏差に陰性対照の数と信頼水準(1-α)に基づく係数を掛けたものとして表される。カットオフ値を任意に設定する他の方法とは異なり、この方法は、スチューデントt分布を使用して上方予測限界を計算することを可能にする。この免疫測定法のために、96ウェルMaxisorbプレートを使用した。抗-AAV8581-596抗体価の決定は、炭酸ナトリウム-重炭酸緩衝液中の5μg/mLのAAV8581-596ペプチド50μLでプレートをコーティングし、4℃で一晩インキュベートすることによって実施された。抗-AAV8カプシド抗体価の決定のために、プレートを、100μL体積中の8×107のAAV8カプシドベクターゲノムでコーティングした。次いで、プレートを0.05%w/vのTween20を含むリン酸緩衝液で6回洗浄した。非特異的結合は、リン酸緩衝液中の1%カゼインの0.1%w/v溶液200μLを用いてブロックし、室温で2時間インキュベートした。血漿サンプルを3倍希釈した。プレートをインキュベーションした後に洗浄し、各サンプルの50μLをプレートに添加した(二連)。プレート間のばらつきを考慮し、ナイーブで未処置の動物から3つの対照サンプルを使用し、ブロッキングバッファーをサンプルランと一緒に三連で添加した。対照は三連でプレートに添加した。サンプルを37℃で2時間インキュベートし、再び洗浄した。ブロッキングバッファーで1:5,000に希釈したヤギ抗-マウス免疫グロブリン-ペルオキシダーゼ100μLを各ウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、100μLの3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンを各ウェルに加え、光を当てずに室温で45分間インキュベートした。45分後、各ウェルに100μLの1N塩酸を加えて反応を停止し、Spectramaxプレートリーダーを用いて450nmの発色強度を読み取る。45分後、各ウェルに100pLのIN塩酸を添加して反応を停止させ、Spectramaxプレートリーダーを用いて450nmで色強度を読み取る。総抗体価は、毎週の採血で得られた血漿サンプルを用いて測定され、異なる処置グループ間で比較するために分析された。
【0078】
統計分析
【0079】
全ての統計解析は、GraphPad Prism 8(La Jolla, CA)を用いて行われた。一元配置ANOVA、Tukey事後分析は、指示された通りに行った。ノンパラメトリックのKruskal-Wallis検定とDunn事後分析を行った。P値<0.05は統計的に有意とみなされ、有意な場合は*で示した。
【0080】
AAV8
581-596
ペプチドとAAV8カプシドのLyso-PSナノ粒子への会合効率
【0081】
トリス-塩化カルシウム緩衝液(pH7.4)中、37℃でサイズ排除クロマトグラフィーを行い、AAV8581-596ペプチドのLyso-PSナノ粒子への会合効率を測定した。直径約200nmのLyso-PSナノ粒子をG-50ビーズ入りセファデックスカラムで溶出し、ナノ粒子に会合したAAV8581-596ペプチドから遊離ペプチドを分離した。37℃のトリス-塩化カルシウム緩衝液中で、平均会合効率は38.3%、標準偏差は9%であった。会合効率は、19.1μgという許容可能なタンパク質回収率とともに再現性よく達成された。ナノ粒子へのカプシドタンパク質の会合効率は、nanosep 30K遠心装置を用いて確認され、タンパク質含量はmicro-BCAアッセイを用いて分析された。AAV8カプシドのlyso-PSナノ粒子への平均封入効率(3回の独立した操作より)は40.7%、標準偏差は8.8%であった。これらの結果は、AAV8581-596ペプチドナノ粒子と同様に、実行可能な lyso-PS会合AAV8カプシドが達成されたことを示している。AAV8581-596ペプチドとAAV8カプシドのlyso-PSナノ粒子への会合効率を示す全データを表1に示す。Sephadex G-50ビーズを用いた3つの異なるサイズ排除クロマトグラフィー実験の結果が示される。AAV8カプシドのlyso-PSナノ粒子への封入効率は、nanosep 30K遠心装置を用いて測定し、遊離及び封入(カプセル化)タンパク質の定量にはmicro-BCAアッセイを用いた。3回の独立した測定から得られた結果は、表1に示す通りである。平均±SD会合効率が結果として示される。
【0082】
【0083】
経口投与されたLyso-PS-AAV8
581-596
複合体は、AAV8
581-596
に対する寛容を誘導する
【0084】
スイスウェブスターマウスに、lyso-PS-AAV8581-596ペプチド複合体を9週間与えた。6週目に遊離ペプチドを皮下投与にて動物にチャレンジした。もしLyso-PSが寛容を誘導するのであれば、Lyso-PS-AAV8ペプチドにあらかじめ暴露されたマウスは、遊離抗原にあらかじめ暴露された動物や偽処置された動物と比較して、再チャレンジ時に低応答性を示すであろう。9週目と10週目に伏在血サンプルを採取した。抗-AAV8581-596抗体価レベルを測定した。10週目に、Lyso-PS-AAV8581-596は、対照の緩衝液処置グループと比較して、AAV8581-596抗体価レベルが有意に(p値=0.0162)低かった。LysoPS-AAV8581-596グループは、平均SEMが75.713.3、遊離AAV8581-596は164.922.5、緩衝液処置グループは187.737.4であった。これらのデータは、Lyso-PSが寛容を誘導したことを示唆している。
【0085】
経口投与されたLyso-PS-AAV8カプシド及びLyso-PS-AAV8
581-596
ペプチドナノ粒子は、既存の抗-AAV8抗体価を逆転させる可能性がある
【0086】
マウスを二群に分け、グループ1(n=20)には1μgの遊離AAV8
581-596ペプチドを、グループ2(n=30)には1μgの遊離AAV8カプシドタンパク質を投与した(
図2)。両グループとも、抗-AAV8抗体価が同等に十分に高くなるように、それぞれのタンパク質を6週間連続で皮下経路により投与した(
図3)。6週目の時点で、異常値は試験から除外した。皮下抗体価誘導後の逆転試験のために、グループ1からは16匹、グループ2からは24匹の動物を選んだ。皮下抗体価誘導終了時にグループ1から選ばれた16匹は、
図2に示すように、8匹ずつの2つの処置グループ(n=8)に分けられた。一方、皮下誘導終了時にグループ2から選ばれた24匹のマウスは、さらに3つの処置グループに分けられた。毎週、伏在静脈から採血し、経口投与を行った7、9、11、13、15週目に抗-AAV8カプシド抗体価及び抗-AAV8ペプチド抗体価を測定した。抗-AAV8カプシド特異抗体価を
図3に示し、これは、Lyso-PS-AAV8カプシドグループの6週目(抗体価誘導後)と11週目(5回の経口投与後)を比較する。経口投与処置前である6週目は、平均抗体価が約130AUであった。11週目(経口処置の5週目)には、抗-AAV8価の明らかな低下が観察された。遊離AAV8を投与した動物についても同様の比較を行ったところ、6週目と11週目の間で力価の上昇が見られたのに対し、緩衝液投与グループは同等であった。この観察結果は、Lyso-PS-AAV8カプシドの経口投与が、AAV8カプシドに対する既存の抗体を逆転させることを実証した。経口投与が進むにつれて、投与グループ間で同様の傾向が続いた。抗-AAV8
581-596ペプチド力価レベルが、7週目から処置終了(15週目)まで、棒グラフの形で表される(
図4)。Lyso-ペプチド処置グループも同様の結果を示した。9週間の経口投与が終了した時点で、「lyso-ペプチド」と「lyso-カプシド1」の2つの処置グループでは、AAV8
581-596ペプチド特異的力価に明らかな低下傾向が見られた。
【実施例】
【0087】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の使用について説明する。
【0088】
アデノウイルス(Ad)は非エンベロープ型の線状二本鎖DNAウイルスであり、57のヒトAd血清型が同定されている。Adの血清型はトロピズムに違いがあり、さらにA~Gの6つのサブグループに分けられる。サブグループの違いは、異なる血清型を表している。ウイルスカプシドは、カプシドタンパク質、コアタンパク質、セメントタンパク質から構成されている。アデノウイルスのビリオンは、90~100nmサイズで、ヌクレオカプシドを含む無エンベロープの正20面体粒子というユニークなウイルス構造を有している。ウイルスカプシドは252個のタンパク質からなり、三種類の異なるタイプ:ファイバー、ペントン、及びヘキソンベースタンパク質を含む。ヘキソンタンパク質は240個、ペントンタンパク質は12個である。各ヘキソンカプソメアは、ヘキソンタンパク質のホモ三量体であり、約900残基の複合タンパク質である。各ヘキソン単量体には7つのフレキシブルな血清型特異的ループがあり、超可変領域(HVR)と名付けられ、血清型が異なれば超可変領域も微妙に異なる。アデノウイルスのヘキソン5タンパク質は、サブグループCに属し、分子量は108kDa、等電点は5.15である。
【0089】
LysoPS-Ad5の調製
【0090】
LysoPS脂質ナノ粒子は、クロロホルム中で、LysoPSとDMPCのモル比を30:70として調製した。LysoPS脂質ナノ粒子は、脱水・再水和法を用いて調製した。クロロホルム溶媒をロータリーエバポレーションで除去し、試験管の底に薄い脂質フィルムを形成させ、pH4.5の滅菌5mMクエン酸緩衝液1mLで再水和した。Lyso-PS脂質ナノ粒子は、高圧窒素押し出し法により、孔径200nmのポリカーボネート膜を通して押し出された。脂質ナノ粒子の平均直径は、動的光散乱法(Nicomp 380 Particle Sizer, Particle Sizing System, Port Richey, Florida)で確認した。脂質濃度はホスフェートアッセイにより決定した。使用したAd5-ヘキソンタンパク質(Bio-rad)と脂質のモル比は、1:10,0000であった。アデノウイルス5ヘキソンタンパク質-lyso-PS脂質ナノ粒子(Lyso-Ad5)の形成を行うために、ヘキソンタンパク質とLysoPS脂質溶液を37℃で30分間インキュベーションして会合させることにより、トリガーローディング機構を用いて、ad5-ヘキソンタンパク質をLyso-PS脂質ナノ粒子に搭載した。
【0091】
生物物理学的特性評価
【0092】
Lyso-PS-Ad5複合体を上記のようにして調製し、60000RCF、4℃で1時間の超遠心分離を用いて分離した。会合したLyso-PS-Ad5はペレットを形成し、会合していないヘキソンタンパク質は上清に含まれる。Lyso-PS-Ad5は回収され、LysoPS二重層を破壊するために1%Tween20で消化され、37℃で15分間インキュベートされた。サンプルはmicro-bcaアッセイを用いて定量した。会合効率は以下の式を用いて算出した。
【数1】
【0093】
Lyso-PS-Ad5の会合効率は、66.1%±5.47%であり、粒子径は、(98.5nm±2.55)から、会合後は(165.8nm±7.53)に増加した。表2を参照。
【0094】
【実施例】
【0095】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の使用について説明する。
【0096】
lyso-PSリポソームと会合したCas9の合理的デザイン:
【0097】
Cas9タンパク質は、CRISPRベースの治療のためにLyso-PSナノ粒子とうまく会合した。この条件は、ストレス条件下でのCas9のコンフォメーション及びフォールディング解析に基づいて特定された。これらの生物物理学的研究に基づいて、会合条件は、HEPESバッファー、37℃、約40分間であることが確認された。Lyso-PSリポソームとの会合効率は42.8±13.5(平均±SEM)(n=3)であった。LysoPSナノ粒子の直径は、会合後に98.7nm±2.3から233.5nm±43.1に増加した。Lyso-PS-Cas9複合体は、遠紫外円偏光二色性(CD)を用いて特性評価した(
図5)。これらのデータは、Cas9とLyso-PSとの会合が、Cas9の二次構造を変化させないことを示した。さらに、Lyso-PS会合がタンパク質の安定性を変化させるかどうかを調べるために、遠紫外CDを用いたアンフォールディング研究が行われた(
図6)。スペクトル分析の結果、Lyso-PSはCas9の安定性を向上させることが示された。Cas9は、Sigma Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。
【0098】
Lyso-PS-Cas9ナノ粒子を用いた既存のCas9力価の逆転
【0099】
雄のスイスウェブスター・マウスに、毎週1μgのCas9タンパク質(化膿性連鎖球菌由来)を合計4週間皮下免疫し、抗-Cas9抗体を刺激・生成させた後、3週間ウォッシュアウト(無処置)した。Cas9タンパク質に対する宿主免疫は、抗-Cas9抗体ELISAによって測定した。
【0100】
マウスを抗-Cas9抗体価によってグループ分けした(緩衝液投与グループとLyso-PS-Cas9複合体投与グループ間で力価は同等)。経口投与は7週目に開始し、200mMのHEPESバッファー又はLyso-PS-Cas9複合体を100μL投与した。LysoPS-Cas9複合体グループでは、1μgのタンパク質を用いて、Cas9含有Lyso-PS脂質ナノ粒子(タンパク質-脂質比は1:10,000)を調製し、pH7.4の200mMのHEPESバッファー中で37℃、30分間インキュベートすることにより、Cas9をナノ粒子にトリガーローディングした。これらのデータによると、Lyso-PS-Cas9複合体を投与したマウスは、抗-Cas9抗体価の低下を示し、6匹中5匹が抗体価の低下を示したが、1匹は増加を示した(
図7)(おそらく、目に見える傷が原因)。HEPESバッファーを投与した処置グループでは、7匹のマウス中2匹のみが抗-Cas9抗体価の減少を示した。
【実施例】
【0101】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の使用について説明する。
【0102】
lyso-PSリポソームと会合したAAV5の合理的デザイン
【0103】
Lyso-PSリポソームを、1mMのCaCl2を含むPBS(pH6)中で調製した。リポソームを、タンパク質-脂質比1:10,000で、AAV5と45℃で30分間インキュベートした。遊離タンパク質と会合タンパク質を超遠心分離で分離し、60,000gで回転させ、遊離AAV5を上清に残しながらリポソームをペレット化した。回転後、ペレットを300μLの緩衝液で再水和し、microBCAアッセイでタンパク質量を測定した。BCAから得られた量を、超遠心機に加えた最初のタンパク質量と比較した。この条件下では、AAV5の43.2%が会合していることがわかった。複合体は動的光散乱法(DLS)で分析し、サイズを決定した。会合前のリポソームのサイズは121.8nm(SD=1)であり、AAV5と会合すると220.9nm(SD=9.8nm)に増加した。
【0104】
【実施例】
【0105】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の使用について説明する。
【0106】
Lyso-PS-AAV8を用いてマウスで逆転試験を行った。
【0107】
エンドトキシンを含まないPBS(pH=7.28)で調製した5e9VP/マウスAAV8を、全マウスに皮下投与することで、最初の抗-AAV8力価を誘導した。すべてのマウスに週7回の皮下誘導投与を行った。社内で開発した抗-AAV8 ELISAアッセイを用いて力価を分析し、マウスを平均力価と力価分布が類似する3つのグループ(n=16)に分けた。処置グループは、緩衝液のみ、LysoPSリポソームのみ、又はLyso-PSとAAV8との会合体(Lyso-PS-AAV8)である。あらかじめ形成されたLyso-PSリポソームは、クエン酸緩衝液(pH=4.5)中、37℃で30分間インキュベートすることにより、AAV8粒子と会合可能であった。10週目から開始して、マウスに10週間、毎週経口投与し、2週間ごとに伏在静脈から血液を採取して力価をモニターした。Lyso-PS-AAV8の経口投与量は、2.5e9VP/マウスとし、Lyso-PSリポソームは約.0177μmol/マウスであった。最終経口投与から2週間後、各グループの半数のマウス(n=8)を犠牲にし、脾臓と腸間膜リンパ節(MLN)を採取した。サンプルを染色・固定し、翌日にフローサイトメトリーを行った。各グループの残りの半分の動物(n=8)は、静脈内遺伝子治療を受けることをシミュレートするために、5e9VP/マウス遊離AAV8で静脈内チャレンジした。これらのマウスを静脈内チャレンジの2週間後に犠牲にし、翌日にフローサイトメーターにかけるために脾臓とMLNを採取した。
【0108】
【実施例】
【0109】
以下に、本開示のリポソーム及びリポソーム複合体の使用について説明する。
【0110】
Lyso-PS-AAV8を用いる逆転試験を霊長類で行った。
【0111】
この研究では合計3匹のカニクイザル(cynomolgus macaque)を使用した。試験開始の前日に血液と血漿を採取し、治療後と比較するためのベースライン値を得た。試験に使用したすべての動物は、治療を受ける前に1:20より大きい中和抗体を持っていた。3匹の霊長類はすべて、Lyso-PS-AAV8を週4回強制経口投与された。あらかじめ形成されたLysoPSリポソームは、クエン酸緩衝液(pH=4.5)中、37℃で30分間インキュベートすることにより、AAV8粒子と会合可能であった。霊長類には1日目に2.66e10VP/kgを投与した。バッチ間の一貫性を確保するため、すべての製剤について平均サイズとカイ二乗値をモニターした。動物はサンプル測定のために毎週採血された。エンドポイントには、AAV8中和抗体評価、総抗-AAV8力価分析、血液及び血清化学、マルチプレックスアッセイによる末梢血サイトカインレベル、フローサイトメトリーによるPBMC表現型解析が含まれた。この製剤の耐容性は良好で、血液及び血清化学的異常は認められなかった。この短期経口免疫レジメンの間、中和抗体は全試験期間中1:20より上を維持したが、総抗-AAV8抗体は、自社製ELISAアッセイにより1:20希釈で評価すると減少していた。
【0112】
【0113】
霊長類の末梢血では、29日目にLAP+Tregの一過性の増加が認められたが、2週間以内にベースライン近くまで減少した(43日目)。LAP+Tregの未染色及びFMO対照値はそれぞれ1.24%及び1.72%であった。
【0114】
【0115】
前述の説明は、本発明の具体例を提供するものである。当業者であれば、これらの実施形態に対する日常的な変更が可能であり、それらが本明細書の範囲内であることを認識するであろう。
【配列表】
【国際調査報告】