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特表2024-503894粘膜がんを治療するための共生ウイルスに対するT細胞誘導性抗がんワクチン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】粘膜がんを治療するための共生ウイルスに対するT細胞誘導性抗がんワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240122BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240122BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240122BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240122BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240122BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/76
A61K39/39
A61K39/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544048
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 US2022013228
(87)【国際公開番号】W WO2022159652
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】63/140,159
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】デメーリ,シャドメア
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA76
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC08
4C085CC21
4C085DD86
4C085EE06
4C085FF17
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
共生HPVに対するT細胞免疫をブーストすることにより粘膜組織のがんを治療し、粘膜組織のがんのリスクを低減するための免疫ベースのアプローチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において粘膜がんを治療するか、または粘膜がんを発症するリスクを低減する方法であって、前記対象に有効量の、
複数の、(i)それぞれが共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来する9個~30個のアミノ酸の配列を含む抗原ペプチド、または(ii)生もしくは弱毒生共生ヒトパピローマウイルスと、
前記抗原ペプチドに対するT細胞応答を増大させるT細胞アジュバントと
を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記共生ヒトパピローマウイルスが、低リスクのα-HPV、β-HPV、γ-HPV、および/またはμ-HPV株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記共生ヒトパピローマウイルスが、表Aに列挙したβ-HPVおよび/またはγ-HPV株である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の抗原ペプチドが、1つまたは複数のE1、E2、E4、E5、E6またはE7タンパク質に由来するペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の抗原ペプチドが、複数の共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来するペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
それぞれが特有の配列を有する少なくとも200個のペプチドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各特有の配列についての複数のペプチドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記T細胞アジュバントが、T細胞応答を高めるナノ粒子;ポリ-ICLC(カルボキシメチルセルロース、ポリイノシン酸-ポリシチジル酸、およびポリ-L-リジン二重鎖RNA)、イミキモド、CpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび製剤(IC31、QB10)、AS04(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA(MPL)を用いて製剤化されたアルミニウム塩)、AS01(MPLおよびサポニンQS-21)、MPLA、STINGアゴニスト、他のTLRアゴニスト、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)皮膚テスト抗原(キャンディン)、GM-CSF、Fms様チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L)、および/またはIFA(不完全フロイントアジュバント)の1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞アジュバントが、局所用イミキモドまたは局所用5-フルオロウラシルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、粘膜がんを発症するリスクが増大しているか、または免疫低下している、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、後天性免疫不全または臓器移植の結果として免疫低下している、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象において粘膜がんを治療するか、または粘膜がんを発症するリスクを低減する方法における使用のための、
複数の、(i)それぞれが共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来する9個~30個のアミノ酸の配列を含む抗原ペプチド、または(ii)生もしくは弱毒生共生ヒトパピローマウイルスと、
前記抗原ペプチドに対するT細胞応答を増大させるT細胞アジュバントと
を含む組成物。
【請求項13】
前記対象が、粘膜がんを発症するリスクが増大しているか、または免疫低下している、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記対象が、後天性免疫不全または臓器移植の結果として免疫低下している、請求項13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記共生ヒトパピローマウイルスが、低リスクのα-HPV、β-HPV、γ-HPV、および/またはμ-HPV株である、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
前記共生ヒトパピローマウイルスが、表Aに列挙したβ-HPVおよび/またはγ-HPV株である、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記複数の抗原ペプチドが、1つまたは複数のE1、E2、E4、E5、E6またはE7タンパク質に由来するペプチドを含む、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記複数の抗原ペプチドが、複数の共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来するペプチドを含む、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
それぞれが特有の配列を有する少なくとも200個のペプチドを含む、請求項18に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
各特有の配列についての複数のペプチドを含む、請求項19に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記T細胞アジュバントが、T細胞応答を高めるナノ粒子;ポリ-ICLC(カルボキシメチルセルロース、ポリイノシン酸-ポリシチジル酸、およびポリ-L-リジン二重鎖RNA)、イミキモド、CpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび製剤(IC31、QB10)、AS04(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA(MPL)を用いて製剤化されたアルミニウム塩)、AS01(MPLおよびサポニンQS-21)、MPLA、STINGアゴニスト、他のTLRアゴニスト、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)皮膚テスト抗原(キャンディン)、GM-CSF、Fms様チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L)、および/またはIFA(不完全フロイントアジュバント)の1つまたは複数を含む、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記T細胞アジュバントが、局所用イミキモドまたは局所用5-フルオロウラシルを含む、請求項12に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記粘膜がんが、口腔および副鼻腔粘膜のがん、任意選択で粘膜扁平上皮がん(mSCC);頭頸部がん(HNC);上気道の粘膜のがん;あるいは泌尿生殖器のがん、任意選択で肛門がん、子宮頸がん、または外陰部、膣前庭、膣、会陰部、もしくは肛門周囲組織のがんである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法、または請求項12~22のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2021年1月21日に出願された米国仮特許出願公開第63/140,159号明細書の有益性を主張する。先述の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
共生HPVに対するT細胞免疫をブーストすることにより粘膜がんを治療および防止するための免疫ベースのアプローチ。
【背景技術】
【0003】
粘膜扁平上皮がん(mSCC)を含む粘膜がんは、上気道消化管、肛門および子宮頸部を侵すがんの一般的なタイプである。高リスクのヒトパピローマウイルス(HPV)は、頭頸部がん(HNC)、肛門がんおよび子宮頸がんの一部分の原因である。
【発明の概要】
【0004】
本明細書中に示すように、共生HPVに基づくワクチンは、粘膜がんに対する防御において有益である。
【0005】
したがって、対象において粘膜がんを治療するか、または粘膜がんを発症するリスクを低減する方法であって、対象に有効量の、(i)複数のそれぞれが共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来する9個~30個のアミノ酸の配列を含む抗原ペプチド、または(ii)複数の生もしくは弱毒生共生ヒトパピローマウイルスと、抗原ペプチドに対するT細胞応答を増大させるT細胞アジュバントとを含む組成物を投与することを含む、方法が本明細書中で提供される。さらに、対象において粘膜がんを治療するか、または粘膜がんを発症するリスクを低減する方法における使用のための、本明細書中に記載する組成物が提供される。
【0006】
一部の実施形態では、対象は、粘膜がんを発症するリスクが増大しているか、または例えば、後天性免疫不全、原発性免疫不全、もしくは臓器移植の結果として免疫低下している。
【0007】
一部の実施形態では、共生ヒトパピローマウイルスは、低リスクのα-HPV、β-HPV、γ-HPV、および/またはμ-HPV株であり、例えば、共生ヒトパピローマウイルスは、表Aに列挙したβ-HPVおよび/またはγ-HPV株である。
【0008】
一部の実施形態では、複数の抗原ペプチドは、1つまたは複数のE1、E2、E4、E5、E6またはE7タンパク質に由来するペプチドを含む。
【0009】
一部の実施形態では、複数の抗原ペプチドは、複数の共生ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質に由来するペプチドを含む。
【0010】
一部の実施形態では、組成物は、例えば各特有の配列についての複数のペプチドを含む、それぞれが特有の配列を有する少なくとも200個のペプチドを含む。
【0011】
一部の実施形態では、T細胞アジュバントは、T細胞応答を高めるナノ粒子;ポリ-ICLC(カルボキシメチルセルロース、ポリイノシン酸-ポリシチジル酸、およびポリ-L-リジン二重鎖RNA)、イミキモド、CpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび製剤(IC31、QB10)、AS04(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA(MPL)を用いて製剤化されたアルミニウム塩)、AS01(MPLおよびサポニンQS-21)、MPLA、STINGアゴニスト、他のTLRアゴニスト、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)皮膚テスト抗原(キャンディン)、GM-CSF、Fms様チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L)、および/またはIFA(不完全フロイントアジュバント)の1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、T細胞アジュバントは、局所用イミキモドおよび/または局所用5-フルオロウラシルおよび/または例えば5-フルオロウラシルと組み合わせた局所用カルシポトリエン(カルシポトリオール)を含む。
【0012】
一部の実施形態では、粘膜がんは、口腔および副鼻腔粘膜のがん、任意選択で例えば舌の粘膜扁平上皮がん(mSCC);頭頸部がん(HNC);上気道の粘膜のがん;あるいは泌尿生殖器のがん、任意選択で肛門がん、子宮頸がん、または外陰部、膣前庭、膣、会陰部、もしくは肛門周囲組織のがんである。
【0013】
他で定義されない限り、本明細書中で使用する技術用語および科学用語は全て、本発明が属する当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。方法および材料は、本発明で使用するために本明細書中で記載されており、当該技術分野で既知の他の適切な方法および材料もまた使用することができる。材料、方法、および例は単なる例示であり、限定するものと意図されない。本明細書中で言及する刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は全て、それらの全体が参照により組み込まれている。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先される。
【0014】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、また特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1-1】パピローマウイルスコロニー形成は、発がん性物質誘導性の舌がんに対して防御することを示す図である。(図1A)DMBA/4NQO発がんプロトコルによる処置後の免疫適格p53+/-マウスのMmuPV1感染舌対偽感染舌に関する腫瘍発症までの時間(ロングランク検定)。赤矢印は、偽感染舌における浸潤性mSCCを指す。MmuPV1ではn=15であり、偽群ではn=16である。
図1-2】パピローマウイルスコロニー形成は、発がん性物質誘導性の舌がんに対して防御することを示す図である。(図1B)DMBA/4NQO発がんプロトコルによる処置後のMmuPV1感染免疫適格p53+/-マウス対偽感染免疫適格p53+/-マウスの生存率(ロングランク検定)。発がんによって誘導される口腔病変の負荷は、動物における体重減少および死亡率の原因であることに留意されたい。赤矢印は、偽感染舌における浸潤性mSCCを指す。MmuPV1ではn=15であり、偽群ではn=16である。
図1-3】パピローマウイルスコロニー形成は、発がん性物質誘導性の舌がんに対して防御することを示す図である。(図1C)DMBA/4NQOで処置したMmuPV1感染舌(上)および偽感染舌(下)の代表的なH&E染色画像。赤矢印は、偽感染舌における浸潤性mSCCを指す。MmuPV1ではn=15であり、偽群ではn=16である。
図2-1】パピローマウイルスコロニー形成は、舌上皮における発がん性物質誘導性の突然変異Trp53クローンの増殖に対して防御することを示す図である。(図2A)DMBA/4NQO発がんプロトコルによる処置後の免疫適格p53+/-マウスのMmuPV1感染舌対偽感染舌における突然変異Trp53クローンの大きさ(マンホイットニーU検定)。
図2-2】パピローマウイルスコロニー形成は、舌上皮における発がん性物質誘導性の突然変異Trp53クローンの増殖に対して防御することを示す図である。(図2B)DMBA/4NQOを用いて処置したMmuPV1感染舌(上)および偽感染舌(下)の代表的なp53染色画像。赤矢印は、MmuPV1感染舌および偽感染舌における突然変異Trp53クローンを指す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
液性免疫を対象とする高リスクHPVワクチンは、α-HPV感染を阻止することによってmSCCのリスクを低減する。しかしながら、喫煙によって引き起こされるHNCおよび高リスクHPVにすでに感染している個体におけるmSCCの大部分を防止する有効なモダリティは不足している。mSCCの治療としては、限局性疾患に対する手術および放射線ならびに切除不能ながんおよび転移性がんに対する化学療法、標的療法よび免疫療法が挙げられる。それらの副作用に加えて、mSCCの治療は、高まる公衆衛生の課題を示している。したがって、mSCCを防止および治療するための新たな技術が緊急に必要とされている。
【0017】
高リスクα-HPVは、中咽頭mSCCを誘導することが知られているが、発がん性物質誘導性のHNCは、上気道消化管を罹患するmSCCの70%超を占める。重要なことに、低リスク共生HPVは、上気道消化管、肛門管および生殖器官において普遍的に見出されている4、5。低リスク共生HPVは、mSCC発症に対していかなる発がん性寄与もしないが、mSCC発症への共生HPVに対する免疫性の影響は調査されていない。
【0018】
がん防止および療法に対する共生ビロームの可能性を基に、共生HPVによってコロニー形成された皮膚および粘膜部位において抗ウイルスT細胞免疫をブーストして、がん発症のリスクを低減して、活性ウイルスを含有する初期SCCを治療する生共生HPVワクチン戦略を本明細書中に記載する。本明細書中に示すように、患者の皮膚およびがん試料ならびに新規マウスパピローマウイルス(MmuPV1)モデルを研究することによる共生HPVおよび皮膚におけるそれらに対する免疫性のがん防御の役割は、低リスク共生HPVに類似した特性を有する。一般的な定説とは全く対照的に、免疫適格マウスのMmuPV1皮膚コロニー形成は発がん性作用を有さず、代わりにCD8T細胞依存性様式で化学的皮膚発がんならびにUV皮膚発がんから皮膚を防御することが発見された。さらに、免疫マウス(即ち、いぼなし)の皮膚流入領域リンパ節由来のメモリーT細胞の養子移入は、いぼを保有するマウスに免疫性を与えて、それらに皮膚発がんに対する防御を提供した。本明細書中に記載するように、口腔のパピローマウイルスコロニー形成が免疫適格性宿主をmSCCから防御するため、共生HPVワクチンはまた、粘膜部位におけるがん防止および療法にも使用することができる。
【0019】
β-HPVに対するT細胞ベースのワクチン
β-HPVに対するT細胞ベースの免疫応答を誘導するのに使用することができる組成物が本明細書中に記載され、それにより、対象が粘膜がんを発症するリスクを低減する。感染を防止または排除するのではなく、T細胞による初期がん性クローンの検出およびそれらの排除をブーストするための全ての細胞におけるウイルスの存在を使用する目的で、ワクチンは、すでに組織に感染している共生ウイルスに対するT細胞免疫を誘導する。子宮頸がんおよび頭頸部がんの防止のための現在の高リスクHPVワクチンは、第一に感染を防止することが意図されており、すでにウイルスに感染した個体において最小の有効性を有する。
【0020】
抗原ペプチド
一部の実施形態では、本組成物は、共生ヒトパピローマウイルス、例えば低リスク皮膚向性(cutaneotropic)α-HPV、β-HPV、γ-HPVおよび/またはμ-HPV株、例えば表Aに列挙したもの由来の、タンパク質、例えばE1、E2、E6、またはE7タンパク質に由来する(即ち、それら由来の連続アミノ酸の断片を即ち含む)複数の抗原ペプチドを含む。一部の実施形態では、組成物は、がんと関連付けられるHPV型、例えばHPV16または18などの高リスクHPVに由来するペプチドを含まない。例えば、Ma et al., J Virol. 2014 May; 88(9): 4786-4797;Doorbar et al., Rev Med Virol. 2015 Mar; 25(Suppl Suppl 1): 2-23;Doorbar et al., The biology and life-cycle of human papillomaviruses. Vaccine 2012; 30(Suppl 5): F55-F70;de Villiers, Virology 2013; 445(1-2): 2-10;および米国特許第8652482号明細書を参照されたい。これらは参照により本明細書に組み込まれる。「高リスク」α-HPVではない他の共生HPV型を使用することができる。表Aは例示的であり、網羅的なリストではない。正常な皮膚および粘膜部位における他のHPVも知られており、例えば、Ma, Journal of virology 2014: 88; 4786-4797を参照されたい。
【0021】
【表1-1】
【0022】
【表1-2】
【0023】
ペプチドは、ウイルスにおける任意の抗原タンパク質に由来し得る。一部の実施形態では、ペプチドは、E1、E2、E4、E5、E6またはE7タンパク質に由来する。多数の共生株におけるこれらのタンパク質に関する配列が提供される。一部の実施形態では、少なくとも50個またはそれよりも多い、100個、150個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、またはそれよりも多い異なるペプチド(即ち、異なる配列を有するペプチド)が組成物中に含まれる。一部の実施形態では、各ウイルス株由来の少なくとも50個またはそれよりも多い、100個、150個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、またはそれよりも多い異なるペプチドが組成物中に含まれ、2個またはそれよりも多いウイルス株由来のペプチドが含まれる。
【0024】
一部の実施形態では、ペプチドは、MHCI/MHCII提示用に最適化されている長さ、例えば、9個~30個のアミノ酸、例えば12個~25個、12個~18個、12個~16個、13個~16個、14個~16個、または15個のアミノ酸である。ペプチドの配列は、例えば、抗原性を予測するために例えばバイオインフォマティクス的に同定され、および/またはタンパク質全体を網羅するようオーバーラップペプチドのムービングウィンドウを使用して生成された合成的な長いオーバーラップペプチド、例えば10個のアミノ酸オーバーラップを有する15個のアミノ酸ペプチドであり得る(最適なアンチセンスオリゴヌクレオチドを同定するのに使用される「ジーンウォーク(gene walk)」法に類似)。一部の実施形態では、合成的な長いオーバーラップペプチド(SLP)が使用される(Zom et al., Cancer Immunol Res. 2014 Aug; 2(8): 756-64)。組成物は、1つまたはそれより多い(例えば、複数の)異なるウイルス株に由来する複数のペプチドを含み得る。ペプチドは好ましくは合成ペプチドであり、溶液相技法および固相ペプチド合成(SPPS)を含むペプチドを合成する方法が当該技術分野で既知である。例えば、Petrou and Sarigiannis, Ch. 1 - Peptide synthesis: Methods, trends, and challenges, In: Editor(s): Sotirios Koutsopoulos, Peptide Applications in Biomedicine, Biotechnology and Bioengineering, Woodhead Publishing, 2018, pages 1-21;およびChandrudu et al., Molecules 2013, 18, 4373-4388を参照されたい。
【0025】
抗原タンパク質
一部の実施形態では、本組成物は、共生ヒトパピローマウイルス、例えば低リスクα-HPV、β-HPV、γ-HPVおよび/またはμ-HPV株、例えば表Aに列挙したもの由来の、複数のタンパク質、例えばE1、E2、E6、またはE7タンパク質を含有するウイルス様粒子を含むことができる(例えば、Yang et al., Virus Res 231, 148-165 (2017);Hancock et al., Therapeutic HPV vaccines. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 47, 59-72 (Feb. 2018);Joh et al., Exp Mol Pathol.; 93(3): 416-21 (2012)を参照)。
【0026】
核酸ベースのワクチン
一部の実施形態では、本組成物は、共生ヒトパピローマウイルス、例えば低リスクα-HPV、β-HPV、γ-HPVおよび/またはμ-HPV株、例えば表Aに列挙したもの由来の、タンパク質、例えばE1、E2、E6、またはE7タンパク質に由来する(即ち、それら由来の連続アミノ酸の断片を即ち含む)タンパク質または抗原ペプチドを発現するようヌクレオチド配列を含有する複数のDNAプラスミドおよび/またはRNAレプリコンを含むことができる(例えば、Yang et al., Virus Res 231, 148-165 (2017);Hancock et al., Therapeutic HPV vaccines. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 47, 59-72 (2018)を参照)。
【0027】
生ベクターベースのワクチン
一部の実施形態では、本組成物は、共生ヒトパピローマウイルス、例えば低リスクα-HPV、β-HPV、γ-HPVおよび/またはμ-HPV株、例えば表Aに列挙したもの由来の、タンパク質、例えばE1、E2、E6、またはE7タンパク質に由来する(即ち、それら由来の連続アミノ酸の断片を即ち含む)タンパク質または抗原ペプチドを発現するよう操作されている複数のウイルスベクターを含むことができる(例えば、Yang et al., Virus Res 231, 148-165 (2017);Hancock et al., Therapeutic HPV vaccines. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 47, 59-72 (2018)を参照)。
【0028】
本方法および組成物における使用のためのウイルスベクターとして、組換えレトロウイルス、アデノルイス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、およびレンチウイルスが挙げられる。
【0029】
本方法における核酸の送達に有用な好ましいウイルスベクター系は、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。AAVは、25nmのカプシドを有する小さな非エンベロープ型ウイルスである。この野生型ウイルスと関連付けられる疾患は知られておらず、わかってもいない。AAVは単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する。AAVは、長期エピソーム導入遺伝子発現を示すことがわかっており、AAVは、脳を含む多数の組織において、特にニューロンにおいて優れた導入遺伝子発現を実証している。300ほどの少ないAAVの塩基対を含有するベクターはパッケージングすることができ、組み込むことができる。外因性DNA用のスペースは、約4.7kbに限られている。Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 5: 3251-3260 (1985)に記載されるもののようなAAVベクターを使用して、DNAを細胞に導入することができる。様々な核酸が、AAVベクターを使用して種々の細胞型に導入されている(例えば、Hermonat et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6466-6470 (1984);Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081 (1985);Wondisford et al., Mol. Endocrinol. 2:32-39 (1988);Tratschin et al., J. Virol. 51:611-619 (1984);およびFlotte et al., J. Biol. Chem. 268:3781-3790 (1993)を参照)。多数の代替AAVバリアントが存在し(100個超がクローニングされてきた)、AAVバリアントは、望ましい特性に基づいて同定されている。例えば、AAV9は、血液脳関門を効率的に通過することがわかっている。さらに、AAVカプシドは、形質導入の効率および選択性を増大させるよう遺伝子操作することができる(例えばビオチン化されたAAVベクター、定方向分子進化、自己相補的なAAVゲノムなど)。一部の実施形態では、AAV1が使用される。
【0030】
あるいは、レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターは、特にヒトへの、in vivoで外因性遺伝子の移入用の組換え遺伝子送達系として使用することができる。これらのベクターは、細胞への遺伝子の効率的な送達を提供し、移入された核酸は、宿主の染色体DNAに安定に組み込まれる。複製欠陥レトロウイルスのみを産生する特殊細胞系(「パッケージング細胞」と呼ばれる)の開発は、遺伝子療法のためのレトロウイルスの有用性を増大し、欠陥レトロウイルスは、遺伝子療法の目的での遺伝子移入における使用を特徴とする(概説に関しては、Miller, Blood 76: 271 (1990)を参照)。複製欠陥レトロウイルスは、ビリオンにパッケージングすることができ、これを使用して、標準的な技法によってヘルパーウイルスを用いて標的細胞を感染することができる。組換えレトロウイルスを産生するための、および細胞をin vitroまたはin vivoでかかるウイルスに感染させるためのプロトコルは、Ausubel, et al., eds., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, (1989), Sections 9.10-9.14、および他の標準的な研究室マニュアルに見出すことができる。適切なレトロウイルスの例として、当業者に既知であるpLJ、pZIP、pWEおよびpEMが挙げられる。同種指向性および両種指向性のレトロウイルス系の両方を調製するのに適したパッケージングウイルス系の例として、ΨCrip、ΨCre、Ψ2およびΨAmが挙げられる。レトロウイルスは、様々な遺伝子を、上皮細胞を含む多種多様な細胞型へin vitroおよび/またはin vivoで導入するのに使用されている(例えば、Eglitis, et al. (1985) Science 230: 1395-1398;Danos and Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 6460-6464;Wilson et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 3014-3018;Armentano et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6141-6145;Huber et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 8039-8043;Ferry et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 8377-8381;Chowdhury et al. (1991) Science 254: 1802-1805;van Beusechem et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 7640-7644;Kay et al. (1992) Human Gene Therapy 3: 641-647;Dai et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10892-10895;Hwu et al. (1993) J. Immunol. 150: 4104-4115;米国特許第4,868,116号明細書、米国特許第4,980,286号明細書;PCT出願国際公開第89/07136号パンフレット;PCT出願国際公開第89/02468号パンフレット;PCT出願国際公開第89/05345号パンフレット;およびPCT出願国際公開第92/07573号パンフレットを参照)。
【0031】
本方法で有用な別のウイルス遺伝子送達系は、アデノウイルス由来のベクターを利用する。アデノウイルスのゲノムは、それが目的の遺伝子産物をコードして発現するが正常な溶解性ウイルスの生活環において複製するその能力に関して不活性化されるように操作することができる。例えば、Berkner et al., BioTechniques 6: 616 (1988);Rosenfeld et al., Science 252: 431-434 (1991);およびRosenfeld et al., Cell 68: 143-155 (1992)を参照されたい。アデノウイルス株Ad型5dl324またはアデノウイルスの他の株(例えば、Ad2、Ad3、またはAd7など)に由来する適切なアデノウイルスベクターが当業者に既知である。組換えアデノウイルスは、ある特定の状況において、それらが非分裂細胞を感染させることができず、上皮細胞を含む多種多様な細胞型を感染させるのに使用することができるという点で好適であり得る(上述のRosenfeld et al., (1992))。さらに、ウイルス粒子は比較的安定であり、精製および濃縮に適しており、上記のように、感染力スペクトラムに影響を及ぼすよう改変することができる。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびその中に含有される外来DNA)は、宿主細胞のゲノムに組み込まれず、エピソームに残ったままであり、それにより、導入されたDNAが宿主ゲノムに組み込まれるようになる場合(例えば、レトロウイルスDNA)の原位置での挿入突然変異の結果として起こり得る潜在的な問題を回避する。さらに、外来DNAに関するアデノウイルスゲノムの運搬能は、他の遺伝子送達ベクターに対して大きい(最大8キロベース)(上述のBerkner et al.;Haj-Ahmand and Graham, J. Virol. 57: 267 (1986))。
【0032】
アルファウイルスも使用することができる。アルファウイルスは、広い宿主範囲を有するエンベロープ型単鎖RNAウイルスであり、遺伝子療法プロトコルにおいて使用される場合、アルファウイルスは、高レベルの一過性遺伝子発現を提供することができる。例示的なアルファウイルスとして、セムリキ森林ウイルス(SFV)、シンドビスウイルス(SIN)およびベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスが挙げられ、それらは全て、効率的な複製欠損発現ベクターおよび複製適格性発現ベクターを提供するよう遺伝的に改変されている。アルファウイルスは、著しい向神経性を示し、したがってCNS関連疾患に有用である。例えば、Lundstrom, Viruses. 2009 Jun; 1(1): 13-25;Lundstrom, Viruses. 2014 Jun; 6(6): 2392-2415;Lundstrom, Curr Gene Ther. 2001 May; 1(1): 19-29;Rayner et al., Rev Med Virol. 2002 Sep-Oct; 12(5): 279-96を参照されたい。
【0033】
生共生HPVワクチン戦略
生共生HPVワクチン戦略は、粘膜において抗ウイルスT細胞免疫を最適にブーストして、活性ウイルスを用いてがんの発症を防止して、上皮内腺がん、膣、陰茎および肛門の上皮内病変、扁平上皮内病変(SIL)、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、および異形成および上皮内がんを含む、初期粘膜がんまたは前がん病変を治療するのに使用することができる。患者における使用のための生および弱毒生HPVワクチンを生成するように培養下で低リスク生HPVを生成および増殖するためのプラットフォームは、国際公開第2020/112720号パンフレットに記載されている。例えば国際公開第2020/112720号パンフレットに記載される生HPVワクチンおよび弱毒生HPVワクチンを使用することができる。
【0034】
T細胞アジュバント
組成物はまた、T細胞応答を増大させるためにアジュバントを含み得る。例えば、Stano et al., Vaccine (2012) 30: 7541-6およびSwaminathan et al., Vaccine (2016) 34: 110-9に記載されるように、例えば、T細胞応答を増強するナノ粒子を含むことができる。Panagioti et al., Front. Immunol., 16 February 2018; doi.org/10.3389/fimmu.2018.00276も参照されたい。あるいは、またはさらに、ポリICLC(カルボキシメチルセルロース、ポリイノシン酸-ポリシチジン酸、およびポリ-L-リジン二重鎖RNA)、イミキモド、レシキモド(R-848)、CpGオリゴデオキシヌクレオチドおよび製剤(IC31、QB10)、AS04(3-O-デスアシル-4’-モノホスホリルリピドA(MPL)を用いて製剤化されたアルミニウム塩)、AS01(MPLおよびサポニンQS-21)、MPLA、STINGアゴニスト、他のTLRアゴニスト、GM-CSF、Fms様チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L)、および/またはIFA(不完全フロイントアジュバント)を含むアジュバントも使用することができる。一部の実施形態では、局所用イミキモドおよび/または局所用5-フルオロウラシルおよび/または5-フルオロウラシルと組み合わせた局所用カルシポトリエン(カルシポトリオール)(例えば、Cunningham et al., J Clin Invest. 2017; 127(1): 106-116に記載されるような)は、ワクチン用のアジュバントとして機能し得る(これは、これらの局所作用物質で一般に治療される前悪性病変を有する対象において特に適用可能である)。例えば、Khong and Willem, Journal for ImmunoTherapy of Cancer 4:56 (2016);Coffman et al., Immunity. 2010 Oct 29; 33(4): 492-503;Martins et al., EBioMedicine 3: 67-78, 2016;およびDel Giudice, Seminars in Immunology, 2018, doi.org/10.1016/j.smim.2018.05.001を参照されたい。
【0035】
組成物
医薬組成物は通常、薬学的に許容可能な担体を含む。本明細書中に使用する場合、「薬学的に許容可能な担体」という言語は、薬学的投与に適合性の生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。
【0036】
医薬組成物は通常、その意図される投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例として、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、腫瘍内、筋内または皮下投与が挙げられる。
【0037】
適切な医薬組成物を製剤化する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005;およびthe books in the series Drugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)を参照されたい。例えば、非経口、皮内、筋内、もしくは皮下用途に使用される溶液または懸濁液は、以下の構成成分を含み得る:滅菌希釈剤、例えば注射用の水、生理食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化物質、例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩および張度の調節用の作用物質、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、酸または塩基、例えば塩酸または水酸化ナトリウムで調節することができる。非経口調製物は、ガラスもしくはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回投与用バイアル中に封入することができる。
【0038】
注射用途に適した医薬組成物は、滅菌水溶液(ここでは水溶性)または分散液および滅菌注射可能溶液もしくは分散液の即時調製用の滅菌粉末を含み得る。静脈内投与に関して、適切な担体として、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF社、パーシパニー、NJ)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は、滅菌状態でなくてはならず、シリンジ操作性(syringability)が容易である程度に流動的であるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保存されなくてはならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。適正な流動度は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合、所要の粒子径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能組成物の持続吸収は、組成物中に吸収を遅延する作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含むことによってもたらすことができる。
【0039】
滅菌注射可能溶液は、必要に応じて、上記で列挙した成分の1つまたは組合せとともに、適切な溶媒中に所要量で活性化合物を取り込むこと、続く滅菌濾過によって調製することができる。概して、分散液は、基本的な分散媒および上記で列挙したもの由来の所要の他の成分を含有する滅菌ビヒクルに活性化合物を取り込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これらにより、活性成分と任意のさらなる所望の成分の粉末が、それらの予め滅菌濾過した溶液から得られる。
【0040】
一実施形態では、治療用化合物は、埋込錠(implant)およびマイクロカプセル化された送達系を含む徐放製剤のように、身体からの迅速な排除に対して治療用化合物を防御する担体とともに調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤は、標準的な技法を使用して調製され得るか、または例えばAlza社およびNova Pharmaceuticals社から市販されている。リポソーム懸濁液(細胞性抗原に対するモノクローナル抗体を用いて選択細胞を標的とするリポソームを含む)もまた、薬学的に許容可能な担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号明細書に記載されるように、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0041】
医薬組成物は、投与に関する説明書とともに容器、パック、またはディスペンサー中に含まれ得る。
【0042】
対象
本明細書中に記載するワクチン組成物を使用して、免疫適格対象ならびにβ-HPVに対するT細胞免疫が低減され、予後が不良な多発性粘膜いぼおよびがん(ウイルスが負荷されている)を発症しやすい免疫抑制患者または免疫低下患者において粘膜がんに対する免疫をブーストすることができる。一部の実施形態では、対象は、がんを有さない(例えば、粘膜がんを有さない)。一部の実施形態では、対象は、粘膜がんを発症するリスクが高い(即ち、一般集団のリスクを上回るリスクを有する)。例えば、対象は、がんの家族歴、喫煙の個人歴、アルコール使用、電離放射線、職業性曝露(例えば、酸性ミスト)、食事曝露(例えば、魚の塩漬け)、前がん病変、関連する性歴、または粘膜がんの家族歴もしくは個人歴を有し得る。一部の実施形態では、対象は、再発性呼吸器乳頭腫症を有するか、またはその歴を有する。
【0043】
一部の実施形態では、対象は、例えば臓器移植、後天性免疫不全、例えば、HIV/AIDS、または原発性ヒト免疫不全に起因して免疫抑制性であり得る。
【0044】
本方法を使用して治療することができる対象として、哺乳動物、例えば、ヒトおよび非ヒト獣医対象が挙げられる。
【0045】
抗がん免疫を誘導する方法
本組成物を使用して、抗がん免疫を誘導し、粘膜がん、即ち、粘膜組織のがんを発症するリスクを低減することができる。粘膜がんとして、粘膜扁平上皮がん(mSCC)を含む口腔および副鼻腔粘膜のがん;頭頸部がん(HNC);上気道の粘膜のがん;ならびに肛門がん、子宮頸がん、および外陰部、膣前庭、膣、会陰部および肛門周囲のがんを含む尿生殖路のがんが挙げられる。当該方法は、本明細書中に記載するワクチン組成物の1回または複数回用量を、対象、例えばそれらを必要とする対象に投与することを含む。
【0046】
組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、有益な、または所望の結果をもたらすのに十分な量である。例えば、有効量は、所望の治療効果を達成するもの、例えば、疾患を治療するのに、または疾患もしくは疾患症状の発症のリスクを低減するのに必要な量(それぞれ、治療上有効量または予防上有効量とも称される)である。有効量は、1回または複数回の投与、塗布または投薬で投与され得る。治療用化合物の治療上有効量(即ち、有効投薬量)は、選択した治療用化合物に依存する。組成物は、1日おきに1度を含む、1日につき1回または複数回~1週につき1回または複数回で投与され得る。対象の疾患もしくは障害の重症度、これまでの治療、全身健康状態および/または年齢ならびに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されないある特定の要因が、対象を有効に治療するのに要される投薬量およびタイミングに影響を与え得ることが当業者には理解されよう。さらに、治療上有効量の本明細書中に記載する治療用化合物による対象の治療は、単独治療または一連の治療を含み得る。例えば、当該方法は、第1の用量、続いて、その後に、例えば1週、2週、4週、6週、8週、12週、18週、24週、または52週後の第2の用量(例えば、「ブースター」用量)を投与することを含み得る。
【0047】
治療用組成物の投薬量、毒性および治療有効性は、例えばLD50(集団の50%の致死用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定するための、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数であり、それは、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す組成物が好ましい。毒性の副作用を示す組成物を使用してもよいが、副作用を最低限に抑えて、低減するように配慮すべきである。
【0048】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための様々な範囲の投薬量を製剤化するのに使用され得る。かかる化合物の投薬量は、毒性がほとんどないか、または全くないED50を含む様々な循環濃度内に存在することが好ましい。投薬量は、用いられる投薬形態および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変化し得る。本明細書中に記載する方法で使用される任意の組成物に関して、治療上有効な用量は、まず細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、動物モデルにおいて製剤化され得る。かかる情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0049】
当該方法はまた、例えば粘膜がんを有する対象における粘膜がんに対する当該技術分野で既知の1つまたは複数の他の治療、あるいは粘膜がんを発症するリスクを低減するための治療を施すことを含み得る。例えば、本明細書中に記載する組成物と、良性または前がん病変に対する治療(粘膜がんを発症するリスクを低減するための)(例えば、外科的処置(例えば、切除(例えば、子宮頸部病変のループ式電気焼灼切除法(LEEP)もしくは移行帯の大ループ式電気焼灼切除(LLETZ)、または膣病変に対するコールドスチール手術、レーザー切除およびレーザー蒸着)または破壊(例えば、二酸化炭素気化、クライオセラピー、電気焼灼、または低温(熱)凝固を用いて));光線力学的療法;局所または全身投薬(例えば、ポドフィリン樹脂、ポドフィロトキシン、サリチル酸、トリクロロ酢酸およびジクロロ酢酸などの有機酸、5-フルオロウラシル、局所用イミキモド、カルシポトリエン+5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、IFN-α、またはシドフォビル))の複合治療を、本方法と組み合わせて使用することができる。一部の実施形態では、これらの作用物質は抗原提示(生得的なシグナル)をブーストする一方で、本組成物は、T細胞による抗原認識をブーストする。粘膜がんを有する対象において、外科的処置(例えば、切除(例えば、子宮頸部病変のループ式電気焼灼切除法(LEEP)もしくは移行帯の大ループ式電気焼灼切除(LLETZ)、または膣病変に対するコールドスチール手術、レーザー切除およびレーザー蒸着)または破壊(例えば、二酸化炭素気化、クライオセラピー、電気焼灼または低温(熱)凝固を用いて));放射線治療;光線力学的療法;局所または全身投薬(例えば、ポドフィリン樹脂、ポドフィロトキシン、サリチル酸、トリクロロ酢酸およびジクロロ酢酸などの有機酸、5-フルオロウラシル、局所用イミキモド、カルシポトリエン+5-フルオロウラシル、ブレオマイシン、IFN-α、またはシドフォビル);あるいは化学療法(例えば、シスプラチンなどの白金含有化合物を用いて)を、本方法と組み合わせて使用することができる。例えば、ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK321770/から入手可能なIARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. Human Papillomaviruses. Lyon (FR): International Agency for Research on Cancer; 2007. (IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, No. 90.) 1, Human Papillomavirus (HPV) Infection.を参照されたい。
【実施例
【0050】
本発明は、以下の実施例においてさらに記載され、実施例は、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定しない。
【0051】
[実施例1]
がん防止および療法のための共生HPVワクチンの適用を皮膚(例えば、国際公開第2020/112720号パンフレットに記載されるような)から粘膜部位へと拡大するために、本発明者らは、口腔のパピローマウイルスコロニー形成が免疫適格宿主をmSCCから防御するかどうかを検討した。
【0052】
方法:本発明者らは、どんな口腔病変も生じないMmuPV1を用いて免疫適格p53+/-マウスの舌にコロニー形成した。簡潔に述べると、マウスをイソフルランで麻酔した後、18ゲージの滅菌針を使用して舌の付け根に面積0.2cm~0.3cmにわたってマイクロアブレーションを行った。B6.Cg-Foxn1nu/nuマウスのMmuPV1誘導性の鼻口部(muzzle)のいぼ由来の精製ウイルス接種材料を、傷を付けた(sacrified)舌に塗布して、均質に広げた。同じウイルス接種材料を、全ての感染マウスに使用した。偽感染は、擦過した舌に塗布したMmuPV1 VLP(マウス1匹当たりPBS10μL中105μg)で実施した。MmuPV1および偽経口感染の2週後、本発明者らがC57BL/6バックグラウンドでp53+/-マウスの舌上に発がんを誘導するように最適化したDMBA/4NQO発がんプロトコルに、マウスを供した(図1A図1C。動物の舌を、舌に塗布したゴマ油50μL中の7,12-ジメチルベンズ(ベンザ)アントラセン(DMBA)50μgの単回用量で処置した後、飲料水中の0.5% 4-ニトロキノリン1-オキシド(4NQO)処置を20週間行った。口腔がんの兆候についてマウスをモニタリングし、DMBAの26週後に、またはマウスが、それらの食べる能力を妨げて、10%を上回る体重減少をもたらす重篤な口腔病変を発症した任意の時点で収集した。
【0053】
結果:MmuPV1を用いた免疫適格p53+/-マウスのコロニー形成は、偽感染対照と比較してDMBA/4NQO誘導性のがんから舌を防御した。MmuPV1を用いてコロニー形成したマウスは、舌腫瘍発症の有意な遅延を示し、偽感染動物と比較して非常に長く生存した(図1A図1Cを参照)。さらに、図2A図2Bは、マウス舌における悪性クローン(Trp53突然変異クローンと表示)の大きさの低減に対するパピローマウイルス舌コロニー形成の効果を示し、これは、粘膜上皮における初期悪性形質転換に対するパピローマウイルスコロニー形成の防御的影響を示す。これらの見解により、粘膜上皮における共生パピローマウイルスコロニー形成のがん防御効果が実証され、これは共生HPVワクチンによってブーストすることができる。
【0054】
参考文献:
【0055】
【表2】
【0056】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて記載してきたが、先述の説明は、本発明を説明するものであり、本発明の範囲を限定するものではないと意図され、本発明は、併記の特許請求の範囲によって規定されることが理解されよう。他の態様、利点、および変形は、併記の特許請求の範囲内に収まる。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
【国際調査報告】