(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(54)【発明の名称】CD16Aに対する単一ドメイン抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240122BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240122BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240122BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240122BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240122BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240122BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240122BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240122BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240122BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240122BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240122BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240122BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240122BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240122BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545305
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2022073488
(87)【国際公開番号】W WO2022161314
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110112841.1
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】フー スーイー
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ショアイシアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B065AA26X
4B065AA72X
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4B065AA92Y
4B065AA93X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、単離した抗CD16A単一ドメイン抗体、上記抗CD16A単一ドメイン抗体を一部として含む単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子に関する。本発明は、上記抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子をコードする核酸、および上記核酸を含む宿主細胞、ならびに上記抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子を調製する方法にさらに関する。また、本発明は、急性および慢性感染性疾患(例えば、細菌感染またはウイルス感染)、腫瘍の治療および/または予防または診断に用いられる上記抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離した抗CD16A単一ドメイン抗体であって、
(a)配列番号1で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
(b)配列番号2で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
(c)配列番号3で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、あるいは
(d)配列番号4で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
を含む、単離した抗CD16A単一ドメイン抗体。
【請求項2】
(a)配列番号23で示されるHCDR1または配列番号23で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号24で示されるHCDR2または配列番号24で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号25で示されるHCDR3または配列番号25で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(b)配列番号26で示されるHCDR1または配列番号26で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号27で示されるHCDR2または配列番号27で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号28で示されるHCDR3または配列番号28で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(c)配列番号29で示されるHCDR1または配列番号29で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号30で示されるHCDR2または配列番号30で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号31で示されるHCDR3または配列番号31で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、あるいは
(d)配列番号32で示されるHCDR1または配列番号32で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号33で示されるHCDR2または配列番号33で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号34で示されるHCDR3または配列番号34で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
を含み、
好ましくは、前記単離した抗CD16A単一ドメイン抗体は、
(a)配列番号23で示されるHCDR1、配列番号24で示されるHCDR2、および配列番号25で示されるHCDR3、
(b)配列番号26で示されるHCDR1、配列番号27で示されるHCDR2、および配列番号28で示されるHCDR3、
(c)配列番号29で示されるHCDR1、配列番号30で示されるHCDR2、および配列番号31で示されるHCDR3、あるいは
(d)配列番号32で示されるHCDR1、配列番号33で示されるHCDR2、および配列番号34で示されるHCDR3、
を含む、請求項1に記載の単離した抗CD16A単一ドメイン抗体。
【請求項3】
(a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
(b)配列番号2のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
(c)配列番号3のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、あるいは
(d)配列番号4のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
を含む、請求項1または2に記載の単離した抗CD16A単一ドメイン抗体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体部分および免疫グロブリンFc領域を含み、場合により、前記Fc領域は、エフェクター機能に欠け、またはエフェクター機能が低下し、例えば、前記Fc領域はLALA変異を有する、
単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項5】
多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片であって、
(i)請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体部分、(ii)第2の抗原に結合するFab断片、および場合により前記(i)と前記(ii)のC末端にある(iii)免疫グロブリンFc領域を少なくとも含み、場合により、前記Fc領域は、エフェクター機能に欠け、またはエフェクター機能が低下し、例えば、前記Fc領域はLALA変異を有し、
好ましくは、前記多重特異性抗体分子は、二重特異性抗体分子である、
多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項6】
前記免疫グロブリンはIgG1、IgG2もしくはIgG4免疫グロブリンであり、好ましくは、前記免疫グロブリンはIgG1免疫グロブリンで、より好ましくは、前記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである、
請求項4に記載の単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または請求項5に記載の多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体分子の重鎖は、各々のFcドメインにそれぞれ突起または空孔が含まれ、かつ一方の重鎖のFcドメインにおける前記突起または空孔は、それぞれ他方の重鎖のFcドメインにおける前記空孔または突起に配置されてもよく、これにより、前記抗体分子の重鎖同士は「ノブ-イン-ホール」の安定的な会合を形成する、
請求項4~6のいずれか一項に記載の単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項8】
前記第2の抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス関連抗原および細菌関連抗原から選ばれ、好ましくは、前記腫瘍関連抗原は、例えば、HER2、BCMA、MAGE、BAGE、MART、gp100、CD19、CD20、CD30、CD33、CD70、EpCAM、EGFR1、EGFR2、EGFR3、EGFR4、PLAP、PSMA、Claudin18.2、PD-L1、MUC1およびMUC16から選ばれる、
請求項5~7のいずれか一項に記載の多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片であって、
i)請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体部分およびHER2と特異的に結合する抗体断片を含む、抗CD16A/HER2二重特異性抗体もしくは抗原結合断片であって、
例えば、HER2と特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号15で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、および配列番号16で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体を含み、
例えば、HER2と特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号15で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDRおよび配列番号16で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDRを含み、
例えば、HER2と特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号15で示される重鎖可変領域アミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ、配列番号16で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む、抗CD16A/HER2二重特異性抗体もしくは抗原結合断片であるか、
あるいは、
ii)請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体部分およびBCMAと特異的に結合する抗体断片を含む抗CD16A/BCMA二重特異性抗体もしくは抗原結合断片であって、
例えば、BCMAと特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号17で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体を含み、かつ、配列番号18で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または前記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体を含み、
例えば、BCMAと特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号17で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDRおよび配列番号18で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDRを含み、
例えば、BCMAと特異的に結合する前記抗体断片は、配列番号17で示される重鎖可変領域アミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ、配列番号18で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む、抗CD16A/BCMA二重特異性抗体もしくは抗原結合断片である、
多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片をコードする、
単離した核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含むベクターであって、好ましくは、前記ベクターは発現ベクターである、
ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の核酸または請求項11に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は原核のものまたは真核のものであり、より好ましくは、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、または抗体もしくは抗原結合断片の調製に適用される他の細胞から選ばれ、最も好ましくは、前記宿主細胞はHEK293F細胞である、
宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片をコードする核酸の発現に適する条件で請求項12に記載の宿主細胞を培養し、場合により、前記宿主細胞からまたは培地から、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子を回収することを含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片を調製する方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む、
医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも1つの他の活性成分を更に含む、
請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
個体において疾患を治療および/または予防する薬剤の調製に用いられ、あるいは個体における疾患への診断ツールの調製に用いられ、好ましくは、前記個体は哺乳動物で、より好ましくはヒトである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗CD16A単一ドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片および請求項14および15に記載の医薬組成物の使用。
【請求項17】
腫瘍の治療および/または予防または診断に用いられ、例えば、前記腫瘍は、固形腫瘍、血液がん(例えば、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの骨髄腫)および転移性病巣から選ばれる、
請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、抗体およびその使用に関する。より具体的に、本発明は、CD16Aに対する単一ドメイン抗体、それを含む単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子に関する。本発明は、急性および慢性感染性疾患(例えば、細菌感染またはウイルス感染)、腫瘍の治療および/または予防または診断におけるそれらの使用にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(Natural killer cells、NK)は、人体における早期防御に関与する先天性免疫細胞の大部分である。自然免疫細胞(例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞)とは異なり、NK細胞は、構成的活性化状態で存在する傾向があり、抗原提示または組織適合性複合体(MHC)により予め感作させることなく、外来微生物、ウイルス感染細胞または腫瘍細胞を直接殺傷することができる。従って、あらゆる免疫エフェクター細胞のうち、NK細胞は、免疫治療のための比較的魅力的な候補細胞の1つであり、かつ現在、CD16/EGFRまたはCD16/CD30などに対する二重特異性抗体が既に開発されている(Kristina Ellwanger et al.,MAbs,2019,11(5),899-918;Uwe Reusch et al.,Mabs,2014,6:3、727-38)。
【0003】
抗体依存性細胞傷害(Antibody dependent cellular cytotoxicity、ADCC)は、NK細胞が標的細胞と外来宿主細胞の殺傷を媒介する主なメカニズムの1つであり、抗体のFc領域がNK細胞に発現されるFc受容体FcγRIIIA(CD16A)と結合することにより、NK細胞をADCC作用を果たすように活性化する。目標とする腫瘍細胞の抗原を再指向するために、NK細胞を動員することで抗原依存性ADCCを産生する二重特異性抗体は、ますます多くの研究者に重視されるようになっている。しかし、NK細胞に発現されるCD16Aは、異なる抗体のFc領域に対する親和性が異なり、ADCCの効果にばらつきがある。従って、ADCC作用を強化するために、CD16Aと特異的に結合する高親和性抗体を開発することが期待されている。
【0004】
現在、Affimed Therapeutics AG社により開発されたNKエフェクター細胞に基づく4価二重特異性抗体:抗CD16A/CD30抗体(「AFM13」ともいう)および抗CD16A/EGFR抗体(「AFM24」ともいう)TandAbは、既にそれぞれ臨床第II相と臨床第I相試験に入り、それぞれホジキン型リンパ腫とEGFR陽性発現固形がんの治療に用いられている。Affimed Therapeutics AG社のAFM13 TandAbおよびAFM24 TandAbは主にNK細胞上の活性化型受容体CD16Aを特異的に標的とするそれらの抗体断片(「4LS21 scFv」ともいう)により、NK細胞媒介性のADCC活性を活性化し、さらに標的腫瘍細胞を殺傷する。上記4LS21 scFvは、NK細胞上のCD16Aのみと結合し、好中球または多形核球上のCD16Bとは結合しない。同時に、4LS21 scFvは、その特異的抗原結合エピトープ(CD16A-Y140)が、血漿中の大量のIgGとCD16Aの競合的結合を生じないため、その治療活性が無関係なIgGの影響を受けない。また、4LS21 scFvの特異的結合エピトープ(CD16A-Y140)により、その治療活性がCD16Aアイソフォーム(158Vまたは158F)に依存しないことも決められ、異なる患者に対するADCCを媒介する治療用抗体の選好が回避される。
【0005】
CD16A(すなわち、FcγRIIIA)は、NK細胞、マクロファージおよびマスト細胞に発現される、低い親和性かつ支配的な活性化型膜貫通受容体であり、免疫グロブリンスーパーファミリー膜貫通受容体メンバーに属する。NK細胞において、FcγRIIIAのα鎖は、FcεRIγ鎖を含む免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)および/またはT細胞受容体(TCR)/CD3ζ鎖と結合してシグナル伝達する(Wirthmueller et al.,1992,J .Exp.Med .175:1381-1390)。CD16Aは、そのN末端の158位の対立遺伝子多型の差異によって、158位のバリンまたはフェニルアラニンの差次的発現があることで、ヒト集団にCD16A-158V/V(約15%)、CD16A-158V/F(約25%)およびCD16A-158F/F(約60%)のアイソフォームがある。異なるCD16AアイソフォームとIgGの親和性に5倍~10倍の差があり、ここで、158V/V型は親和性が最も強く、治療用抗体ADCCの臨床効果が最も高い。
【0006】
CD16Bは、その細胞外部分がCD16Aと96%のアミノ酸相同性を有し、3つの異なるアイソフォーム、すなわち、NA1、NA2とSHを含むグリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)によりアンカーされる膜貫通シグナル受容体である。アジア人は主にNA1型(~68%)、コーカサス人は主にNA2型(~65%)であるが、SHは主にコーカサス人とアフリカ人に存在し、2.5%程度を占めている。
【0007】
細胞レベルにおいて、CD16Bは、ほぼすべて多形核球(Polymorphonuclear granulocytes、PMN)に発現し、その細胞発現コピー数が一般的に100,000個/細胞~300,000個/細胞であり、多形核球の生存および脱顆粒に対して重要な役割を果たす。同時に、血清には、金属プロテアーゼADAM17の酵素分解作用により産生された大量の遊離型CD16Bもあり、血清中の抗体とキレートして複合体を形成し、重篤な有害反応が発生する。
【0008】
従って、親和性が高く、CD16Aアイソフォームに依存せず、CD16Aと特異的に結合しかつCD16Bと結合しないCD16A抗体の開発は、特に必要とされている。
【0009】
Affimed Therapeutics AG社のCD16Aヒト化抗体4LS21はこれらの利点を組み合わせており、投与されるヒト集団が拡大されるのみならず、NK細胞作用の選択性が極めて大きく向上し、血清中のIgGと競合せず、好中球上のCD16Bとの結合による予見不可能な有害反応を効果的に回避することができる。
【0010】
しかし、4LS21に基づくTandAb二重特異性抗体は、8つの結合ドメイン(サブドメイン)を有する「1つの抗原に対する2つのscFvドメイン+もう1つの抗原に対する2つのscFvドメイン」(以下、「2+2」ともいう)形態で、少なくとも6つのリンカー(Linker)により連結され、これにより、TandAb二重特異性抗体の発現、精製、工学的改変、および生産プロセスに多くの課題が提出されており、その理由としては、4LS21は6つのCDRを有する通常の抗体クローンであり、二重特異性抗体を構築する時に、一般的にscFv形態で組み立てられ、そのプロセスの難易度を増加するだけでなく、二重特異性抗体の構築時の自由度を制限し、その対応する生物活性メカニズムに適合するために最適な二重特異性抗体形態を生成することに不利である。同時に、TandAbは大きな分子量を有することを考慮すると、免疫原性を増加させるだけでなく、腫瘍組織に浸入しにくく、その治療効果をある程度低減し、または毒性や副作用を増加させる。さらに、複数のリンカーにより連結されるその「2+2」形態の4価構造を考慮すると、TandAbは、非特異的なNK細胞CD16Aの活性化が生じやすいリスクを有し、さらに計り知れない有害反応が誘発される。
【0011】
シングルドメイン抗体または単一ドメイン抗体(single domain antibody、sdAb)は、現在最も小さい抗体分子であり、その分子量が完全な抗体の1/10である。シングルドメイン抗体は、完全な抗体の抗原反応性を備えるうえに、分子量が小さく、安定性が高く、可溶性が高く、発現しやすく、免疫原性が弱く、透過性が高く、標的性が高く、製造コストが低いといったいくつかの独特な機能特性を有し、従来の抗体において開発サイクルが長く、安定性が低く、保存条件が厳しいなどの欠陥をほぼ完全に克服している。
【0012】
従って、分子量が小さく、腫瘍透過性が高く、二重特異性抗体への自由な組み立てに利用可能であり、かつ4LS21のあらゆる生物学的特性(すなわち、CD16Aの高特異性、CD16Aアイソフォーム(158Vまたは158F)の非依存性、CD16Bと結合せず、かつ体内IgGと競合しない)を同時に備える高親和性のシングルドメイン(以下、「単一ドメイン」ともいう)CD16A抗体の研究と開発は、特に必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明者は、広くて深い研究により、大量のスクリーニングを経て、ヒトCD16Aと特異的に結合し、ヒトCD16Bと結合せず、サルCD16Aと交差反応する高親和性単一ドメイン抗体(sdAb)を得ることに成功した。実験結果から分かるように、このような単一ドメイン抗体は、ヒトCD16Aと特異的に結合可能で、ヒトCD16Bと結合せず、サルCD16Aと交差反応し、結合親和性が高く、分子量が小さく、安定性が高く、ヒトNK細胞の抗原特異的活性化および腫瘍抑制作用が強く、二重特異性抗体またはNK細胞エンゲージャー(NK cell engagers)の構築および抗腫瘍活性薬の研究と開発に用いられる望ましい単一ドメイン抗体である。
【0014】
従って、本発明は、ヒトCD16Aと特異的に結合し、ヒトCD16Bと結合せず、サルCD16Aと交差反応する高親和性単一ドメイン抗体を提供し、
1)他の抗原に対する異なる抗体および抗体断片と自由に組み合わせ、様々な構造形態の多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)の構築および組み立てを行うことにより、NK細胞を最大限に活性化し、例えば抗腫瘍免疫を媒介するようにNK細胞を動員することができ、
2)通常のscFvもしくはFabの分子量および立体障害が大きすぎることによる腫瘍組織の透過性が低い、免疫原性が高いといった問題を解決することを特徴とする。
【0015】
従って、第1の態様において、本発明は、
(a)配列番号1で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または上記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
(b)配列番号2で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または上記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
(c)配列番号3で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または上記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、あるいは
(d)配列番号4で示される重鎖可変領域アミノ酸配列における3つのCDR、または上記3つのCDRのうちのいずれか1つのCDRに対して3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有するCDR変異体、
を含む、単離した抗CD16Aシングルドメイン抗体を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明の単離した抗CD16Aシングルドメイン抗体は、
(a)配列番号23で示されるHCDR1または配列番号23で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号24で示されるHCDR2または配列番号24で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号25で示されるHCDR3または配列番号25で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(b)配列番号26で示されるHCDR1または配列番号26で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号27で示されるHCDR2または配列番号27で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号28で示されるHCDR3または配列番号28で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(c)配列番号29で示されるHCDR1または配列番号29で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号30で示されるHCDR2または配列番号30で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号31で示されるHCDR3または配列番号31で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、あるいは
(d)配列番号32で示されるHCDR1または配列番号32で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、配列番号33で示されるHCDR2または配列番号33で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、および配列番号34で示されるHCDR3または配列番号34で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
を含み、
ここで、上記HCDRの番号付け方法は、Kabat番号付け方法である。
【0017】
好ましくは、上記単離した抗CD16Aシングルドメイン抗体は、
(a)配列番号23で示されるHCDR1、配列番号24で示されるHCDR2、および配列番号25で示されるHCDR3、
(b)配列番号26で示されるHCDR1、配列番号27で示されるHCDR2、および配列番号28で示されるHCDR3、
(c)配列番号29で示されるHCDR1、配列番号30で示されるHCDR2、および配列番号31で示されるHCDR3、あるいは
(d)配列番号32で示されるHCDR1、配列番号33で示されるHCDR2、および配列番号34で示されるHCDR3、
を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明の単離した抗CD16Aシングルドメイン抗体は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
(b)配列番号2のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
(c)配列番号3のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、あるいは
(d)配列番号4のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
を含む。
【0019】
第2の態様において、本発明は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体部分および免疫グロブリンFc領域を含む単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片を提供し、場合により、上記Fc領域は、エフェクター機能に欠け、またはエフェクター機能が低下し、例えば、LALA変異がある。
【0020】
第3の態様において、本発明は、(i)本発明に記載の抗CD16Aシングルドメイン抗体部分、(ii)第2の抗原に結合するFab断片、および場合により上記(i)と(ii)のC末端にある(iii)免疫グロブリンFc領域を少なくとも含む多重特異性抗体分子または抗原結合断片を提供し、場合により、上記Fc領域は、エフェクター機能に欠け、またはエフェクター機能が低下し、例えば、上記Fc領域はLALA変異を有する。
【0021】
一実施形態において、上記多重特異性抗体分子は、二重特異性抗体分子である。
【0022】
いくつかの実施形態において、本発明の単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子(例えば、二重特異性抗体分子)もしくは抗原結合断片において、上記免疫グロブリンは、IgG1、IgG2もしくはIgG4免疫グロブリンであり、好ましくは、上記免疫グロブリンはIgG1免疫グロブリンで、より好ましくは、上記免疫グロブリンはヒトIgG1免疫グロブリンである。
【0023】
いくつかの実施形態において、本発明の単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子(例えば、二重特異性抗体分子)もしくは抗原結合断片における重鎖は、各々のFcドメインにそれぞれ突起または空孔が含まれ、かつ一方の重鎖のFcドメインにおける上記突起または空孔は、それぞれ他方の重鎖のFcドメインにおける上記空孔または突起に配置されてもよく、これにより、上記抗体分子の重鎖同士は「ノブ-イン-ホール」の安定的な会合を形成する。
【0024】
いくつかの実施形態において、本発明の多重特異性抗体分子(例えば、二重特異性抗体分子)もしくは抗原結合断片における上記第2の抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス関連抗原および細菌関連抗原から選ばれ、上記腫瘍関連抗原は、例えば、HER2、BCMA、MAGE、BAGE、MART、gp100、CD19、CD20、CD30、CD33、CD70、EpCAM、EGFR1、EGFR2、EGFR3、EGFR4、PLAP、PSMA、Claudin18.2、PD-L1、MUC1およびMUC16から選ばれる。
【0025】
一実施形態において、本発明の多重特異性抗体分子は、抗CD16A/HER2二重特異性抗体または抗CD16A/BCMA二重特異性抗体である。
【0026】
第4の態様において、本発明は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子(例えば、二重特異性抗体分子)もしくは抗原結合断片をコードする、単離した核酸を提供する。
【0027】
第5の態様において、本発明は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片をコードする核酸を含むベクターを提供し、好ましくは、上記ベクターは発現ベクターである。
【0028】
第6の態様において、本発明は、本発明の単離した核酸または本発明のベクターを含む宿主細胞を提供し、好ましくは、上記宿主細胞は、原核のものまたは真核のものであり、より好ましくは、大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞または抗体もしくは抗原結合断片の調製に適用される他の細胞から選ばれ、最も好ましくは、上記宿主細胞はHEK293F細胞である。
【0029】
第7の態様において、本発明は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片を調製する方法を提供し、上記方法は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子をコードする核酸の発現に適する条件で本発明の宿主細胞を培養し、場合により、上記宿主細胞からまたは培地から本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子を回収することを含む。
【0030】
第8の態様において、本発明は、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの他の活性成分をさらに含む。
【0032】
第9の態様において、本発明は、個体において疾患を治療および/または予防する薬剤として用いられ、あるいは疾患の診断ツールとして用いられる、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片および本発明の医薬組成物の使用を提供し、好ましくは、上記個体は哺乳動物で、より好ましくはヒトである。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子もしくは抗原結合断片または多重特異性抗体分子もしくは抗原結合断片および本発明の医薬組成物は、急性および慢性感染性疾患(例えば、細菌感染またはウイルス感染)、腫瘍の治療および/または予防あるいは診断に用いられ、例えば、上記腫瘍は、固形腫瘍、血液がん(例えば、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの骨髄腫)および転移性病巣から選ばれる。
【0034】
以下の図面と合わせて読めば、次に詳細に記載される本発明の好ましい実施形態がより良く理解される。本発明を説明するために、図面には現在の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、図面に示される実施形態の精確な配置および手段に限定されないと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】本発明の抗CD16A単一ドメイン抗体とヒトCD16Aを発現したGS-CHO細胞の結合を示す。MFIは平均蛍光強度を示し、
【
図1B】本発明の抗CD16A単一ドメイン抗体がヒトCD16Bを発現したGS-CHO細胞と結合しないことを示す。
【
図2A】本発明の抗CD16A単一ドメイン抗体とSLB190084というドナーIDからのヒト初代NK細胞の結合を示す。
【
図2B】本発明の抗CD16A単一ドメイン抗体とSLB190071というドナーIDからのヒト初代NK細胞の結合を示す。
【
図3A】本発明の二重特異性抗体の構造形態を示し、ここで、「構造形態」という列における二重特異性抗体は、左半部分が抗CD16A単一ドメイン抗体-Fc、右半部分が抗TAA Fab-Fcであり、上記Fc領域に対してLALA修飾およびノブ-イン-ホール修飾が行われた。
【
図3B】抗CD16A/HER2二重特異性抗体とヒト初代NK細胞の結合レベルを示す。
【
図3C】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体とヒト初代NK細胞の結合レベルを示す。
【
図4A】抗CD16A/HER2二重特異性抗体がADCCによりSK-BR3細胞(SK-BR3細胞はHER2高発現乳がん細胞株である)を殺傷することを示す。図中の「RLU」は「相対発光単位」を示し、抗体を加えないPBSがブランク対照として使用される。
【
図4B】抗CD16A/HER2二重特異性抗体がNCI-H929細胞(NCI-H929細胞はHER2発現陰性の多発性骨髄腫細胞株である)に対する殺傷作用をもたらさないことを示す。
【
図5A】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体がADCCによりNCI-H929細胞(NCI-H929はBCMA発現陽性の多発性骨髄腫細胞株である)を殺傷することを示す。
【
図5B】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体がSK-BR3細胞(SK-BR3細胞はBCMA発現陰性の乳がん細胞株である)に対する殺傷作用をもたらさないことを示す。
【
図6A】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、SK-BR3細胞(SK-BR3細胞はHER2高発現乳がん細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化することを示し、縦軸はIFN-γ
+NK細胞%を示す。
【
図6B】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、NCI-H929細胞(NCI-H929細胞はHER2発現陰性の多発性骨髄腫細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化しないことを示し、縦軸はIFN-γ
+NK細胞%を示す。
【
図6C】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、SK-BR3細胞(SK-BR3細胞はHER2高発現乳がん細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化することを示し、縦軸はCD107a
+NK細胞%を示す。
【
図6D】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、NCI-H929細胞(NCI-H929細胞はHER2発現陰性の多発性骨髄腫細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化しないことを示し、縦軸はCD107a
+NK細胞%を示す。
【
図7A】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、NCI-H929細胞(NCI-H929はBCMA発現陽性の多発性骨髄腫細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化することを示し、縦軸はIFN-γ
+NK細胞%を示す。
【
図7B】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、SK-BR3細胞(SK-BR3細胞はBCMA発現陰性の乳がん細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化しないことを示し、縦軸はIFN-γ
+NK細胞%を示す。
【
図7C】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、NCI-H929細胞(NCI-H929はBCMA発現陽性の多発性骨髄腫細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化することを示し、縦軸はCD107a
+NK細胞%を示す。
【
図7D】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、SK-BR3細胞(SK-BR3細胞はBCMA発現陰性の乳がん細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化しないことを示し、縦軸はCD107a
+NK細胞%を示す。
【
図8A】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、HER2高発現陽性腫瘍細胞株を殺傷するようにNK細胞を抗原特異的に媒介することを示す。
【
図8B】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、HER2低発現陽性腫瘍細胞株を殺傷するようにNK細胞を抗原特異的に媒介することを示す。
【
図8C】抗CD16A/HER2二重特異性抗体が、NCI-H929細胞(NCI-H929細胞はHER2発現陰性の多発性骨髄腫細胞株である)を標的とするNK細胞を活性化しないことを示す。
【
図9A】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、BCMA陽性腫瘍細胞株を殺傷するようにNK細胞を抗原特異的に媒介することを示す。
【
図9B】抗CD16A/BCMA二重特異性抗体が、BCMA陰性腫瘍細胞株を標的とするNK細胞を活性化しないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本発明を詳しく説明するに先立ち、上記方法および条件は変更可能であるため、本発明は、本明細書における特定の方法および実験条件に限定されないと理解しておくべきである。なお、本明細書に使用される用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、限定する意図はない。
【0037】
I.定義
本明細書を解釈するために次の定義が使用され、また、適切であるならば、単数形で使用される用語には複数形が含まれてもよく、その逆も同様である。本明細書に使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないと理解しなければならない。
【0038】
「約」という用語は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0039】
本明細書に使用されるように、「および/または」という用語は、選択可能なオプションのうちのいずれか1つ、または選択可能なオプションの2つもしくは複数を指す。
【0040】
本明細書において、「包含する」または「含む」という用語を用いる場合、特記しない限り、言及される要素、整数またはステップからなる場合も含まれる。例えば、ある具体的な配列を「含む」抗体可変領域が言及される場合、この具体的な配列からなる抗体可変領域を含むことも意図する。
【0041】
「抗体」という用語は、本説明書において最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、さまざまな構造の天然抗体および人工抗体を含み、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、単鎖抗体、完全な抗体および抗体断片を含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の抗体は、シングルドメイン抗体または重鎖抗体である。
【0042】
「抗体断片」または「抗原結合断片」は、2つの重鎖および2つの軽鎖からなる完全な抗体とは異なる分子を指し、完全な抗体の一部を含み、かつ完全な抗体の結合する抗原と結合する。抗体断片の例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、二重抗体、線状抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、シングルドメイン抗体、二価もしくは二重特異性抗体またはその断片、ラクダ科由来の抗体(重鎖抗体)、および抗体断片により形成された二重特異性抗体または多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書に使用されるように、「エピトープ」という用語は、抗原(例えば、ヒトCD16A)における抗体分子と特異的に相互作用する部分を指す。
【0044】
参照抗体と同様もしくは類似の結合親和性および/または特異性を示す抗体は、参照抗体の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%以上の結合親和性および/または特異性があり得る抗体を指す。これは、当該分野での既知の結合親和性および/または特異性の任意の測定方法により測定することができる。
【0045】
「相補性決定領域」、「CDR領域」または「CDR」は、抗体可変ドメインにおいて、配列において超可変であるとともに構造上に形成されて決定されたループ(「超可変ループ」)であり、および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N末端から順に番号付けられる。1つの所定の重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRの精確なアミノ酸配列の境界は、多くの公知の抗体CDR割り当てシステムのいずれか1つまたはその組み合わせにより決定することができ、上記割り当てシステムは、例えば、抗体の3次元構造とCDRループのトポロジーに基づくChothia(Chothia et al.,(1989)Nature 342:877-883,Al-Lazikani et al.,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」,Journal of Molecular Biology,273,927-948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S.Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT)(http://imgt.cines.fr/)、および大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。
【0046】
特に断りのない限り、本発明において、「CDR」または「CDR配列」という用語は、上記のいずれか1つの方法で決定されるCDR配列を含む。
【0047】
CDRは、参照CDRの配列(例えば、本発明の例示的なCDRのいずれか1つ)と同じAbM番号付け位置を有することで決定されてもよい。一実施形態において、本発明のシングルドメイン抗体のCDRは、AbM番号付け方法によって位置が決定される。
【0048】
特に断りのない限り、本発明において、抗体可変領域およびCDRにおける残基位置(重鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、AbM番号付けシステムに基づく番号付け位置を指す。
【0049】
異なる特異性(すなわち、異なる抗原に対する異なる結合部位)を有する抗体は、異なるCDRを有する。しかし、CDRが抗体間で異なるにもかかわらず、CDRにおいては、抗原との結合に直接関与するアミノ酸位置の数が限られている。Kabat、Chothia、AbMおよびContact方法のうちの少なくとも2つを使用することにより、最小の重複領域を決定することができ、それによって抗原と結合するための「最小結合単位」を提供する。最小結合単位は、CDRの1つのサブ部分であってもよい。当業者に知られているように、抗体の構造とタンパク質のフォールディングによって、CDR配列の残り部分の残基を決定することができる。従って、本発明は、本明細書に提供されるいずれのCDRの変異体についても考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基はそのままにしてもよいが、Kabat、ChothiaまたはAbMに基づいて定義された残りのCDR残基は、保存的なアミノ酸残基で置換されてもよい。
【0050】
「単一ドメイン抗体」、「シングルドメイン抗体」という用語は一般に、単一の可変ドメイン(例えば、ラクダ科の重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメインVHH)が抗原結合を付与できるような抗体を指す。すなわち、当該単一の可変ドメインは、別の可変ドメインと相互作用することなく、標的抗原を認識することができる。「シングルドメイン抗体」は、1つの可変領域(可変ドメインともいう)のみからなり、C末端からN末端へ、FR4-CDR3-FR3-CDR2-FR2-CDR1-FR1を含み、ラクダにより天然に産生されるかまたは遺伝子工学技術により産生されることができる。シングルドメイン抗体は、現在の既知の標的抗原と結合可能な最小単位である。
【0051】
本明細書に使用されるように、「重鎖抗体(heavy-chain antibody、hcAb)」という用語は、軽鎖を有しない抗体を指し、N末端からC末端へ、VH-CH2-CH3を含み、またはVH-CH1-CH2-CH3を含むことができ、ホモ二量体、例えば、軽鎖を有しない重鎖二量体抗体を構成することができる。本発明の重鎖抗体は、標準抗体からのVHまたはシングルドメイン抗体からのVHを含むことができる。例えば、本発明の重鎖抗体におけるVHは、シングルドメイン抗体であってもよい。
【0052】
本明細書に使用されるように、「多重特異性」抗体という用語は、少なくとも2つの抗原結合部位を有する抗体を指し、上記少なくとも2つの抗原結合部位における各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープまたは異なる抗原の異なるエピトープと結合する。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原エピトープに対して結合特異性を有する抗体である。一実施形態において、本明細書は、第1の抗原および第2の抗原に対する結合特異性を有する二重特異性抗体を提供する。
【0053】
「エフェクター機能」という用語は、免疫グロブリンアイソタイプによって変化する免疫グロブリンFc領域による生物学的活性を指す。免疫グロブリンのエフェクター機能の例は、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合作用、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体介在性抗原提示細胞による抗原の取り込み、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)のダウンレギュレートおよびB細胞活性化を含む。
【0054】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞より産生されるかまたは非ヒト由来で、ヒト抗体ライブラリーまたは他のヒト抗体コード配列を利用する抗体のアミノ酸配列に対応する、アミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト抗体についての当該定義には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が明確に除外されている。
【0055】
「Fc領域」という用語は、本明細書において、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するためであり、上記領域は少なくとも一部の定常領域を含む。当該用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。一部の実施形態において、ヒトIgG重鎖のFc領域は、Cys226またはPro230から重鎖のカルボニル基末端に延長している。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在してもよく、または存在しなくてもよい。特に断りのない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムによるもので、例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載された通りである。
【0056】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原の結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインは一般に類似の構造を有し、ここで、各ドメインは、4つの保存的なフレームワーク領域(FR)および3つの相補性決定領域(CDR)を含む。(例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6thed.,W.H.Freeman and Co.p91(2007)参照)。単一のVHドメインまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。
【0057】
本明細書に使用されるように、「結合」または「特異的に結合」という用語は、結合作用が抗原に対して選択的であり、かつ好ましくないまたは非特異的な相互作用と区別できることを意味する。特定の抗原に対する抗体の結合能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、SPR、バイオレイヤー干渉法または当該分野で公知の他の通常結合測定法により測定することができる。
【0058】
「有効量」という用語は、1回分もしくは複数回分の用量で患者に投与された後、治療または予防が必要な患者に所望の効果が得られるという本発明のCD16Aまたは組成物の量または用量を指す。有効量は、当業者である主治医が、例えば、哺乳動物の生物種、体重、年齢および一般的健康状態、かかる具体的な疾患、疾患の程度もしくは重症度、個々の患者の応答、投与される具体的な抗体、投与形態、投与製剤の生物学的利用能の特徴、選ばれる投与計画、および任意の併用療法の適用などの様々な要因を考慮して容易に決定することができる。
【0059】
「治療有効量」は、必要な用量で必要な期間にわたって、所望の治療結果を効果的に実現するための量を指す。抗体もしくは抗体断片またはその複合体もしくは組成物の治療有効量は、例えば、疾患の状態、個体の年齢、性別と重量、および抗体もしくは抗体部分が個体に所望の反応を起こす能力などの様々な要因によって変更されてもよい。治療有効量は、抗体もしくは抗体断片またはその複合体もしくは組成物の任意の毒性または有害作用が有益な治療効果に及ばないという量であってもよい。治療を受けていない対象に対して、「治療有効量」は、計測可能なパラメータ(例えば、腫瘍増殖率、腫瘍体積など)の少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、60%もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約80%もしくは90%が抑制されることが好ましい。ヒト腫瘍における効能を示す動物モデルシステムにおいて、計測可能なパラメータ(例えば、がん)に対する化合物の抑制能力を評価することができる。
【0060】
「予防有効量」は、必要な用量で必要な期間にわたって、所望の予防結果を効果的に実現するための量を指す。一般的に、予防目的の用量が対象における疾患の初期段階より前にまたは疾患の初期段階に適用されるため、予防有効量は治療有効量を下回る。
【0061】
「個体」または「対象」という用語は、入れ替えて使用可能であり、哺乳動物を含む。哺乳動物は、家畜(例えば、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含むが、これらに限定されない。特に、個体または対象はヒトである。
【0062】
「腫瘍」および「がん」という用語は、本明細書において入れ替えて使用され、固形腫瘍と液性腫瘍を含む。
【0063】
「がん」および「がん性」という用語は、哺乳動物における、細胞の成長が調節されない生理障害を指す。
【0064】
「腫瘍」という用語は、悪性か良性かを問わず、すべての腫瘍性(neoplastic)の細胞の成長と増殖、およびすべての前がん性(pre-cancerous)とがん性の細胞と組織を指す。「がん」、「がん性」および「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、互いに排他的ではない。
【0065】
「がん関連抗原」、「腫瘍関連抗原(TAA)」または「腫瘍抗原」という用語は、正常な細胞に比べて、好ましくはがん細胞の表面において完全に、または断片(例えば、MHC/ペプチド)として発現された分子(一般にタンパク質、炭水化物もしくは脂質)を入れ替えて指すことができ、またそれは、薬剤ががん細胞を優先的に標的にするために用いることができる。いくつかの実施形態において、がん関連抗原は、正常な細胞と比べて腫瘍細胞において過剰発現された細胞表面分子であり、例えば、正常な細胞と比べて1倍過剰発現され、2倍過剰発現され、3倍過剰発現され、またはそれ以上過剰発現されたものである。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞において不適当に合成される細胞表面分子であり、例えば、正常な細胞に発現された分子に対して欠失、追加または変異を含む分子である。腫瘍関連抗原(TAA)は、B細胞成熟抗原(BCMA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3)、腫瘍関連の糖タンパク質72(TAG72)、がん胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EPCAM)、メソテリン、インターロイキン11受容体α(IL-11Ra)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、プロテアーゼセリン21(TestisinまたはPRSS21)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ヒト上皮成長因子受容体2(Her2)、細胞表面関連の粘性タンパク質1(MUC1)、骨髄間質細胞抗原2(BST2)、EGF様モジュール含有の粘性タンパク質様ホルモン受容体2(EMR2)、リンパ球抗原75(LY75)を含むが、これらに限定されない。
【0066】
「腫瘍免疫回避」とは、腫瘍が免疫学的認識および除去を回避するプロセスである。このように、治療概念として、腫瘍免疫は、このような回避が弱まれる場合に「治療」されるとともに、腫瘍は免疫系により認識されて攻撃される。腫瘍認識の例として、腫瘍結合、腫瘍収縮、および腫瘍除去を含む。
【0067】
「感染性疾患」という用語は、病原体による疾患を指し、例えば、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染、または寄生虫などの原生動物感染を含む。
【0068】
「慢性感染」という用語は、感染源(例えば、ウイルス、細菌、寄生虫などの原生動物、真菌などの病原体)が感染した宿主において免疫応答を既に誘導したが、急性感染の場合のように宿主から消去または除去されていないというような感染を指す。慢性感染は、持続的、潜伏的または緩徐的であってもよい。
【0069】
CD16A「結合分子」という用語は、CD16Aと選択的・特異的に結合する任意の抗体および抗原結合断片、その融合タンパク質および複合体を含み、それらはいずれもCD16Bと特異的に結合することができない。CD16A結合分子は、本発明の具体的な抗CD16Aのシングルドメイン抗体、単一特異性抗体分子または多重特異性抗体分子を含むが、これらに限定されない。
【0070】
「単離した」CD16A結合分子は、その自然環境の成分と単離したものを指す。いくつかの実施形態において、CD16A結合分子は、95%もしくは99%を超える純度に精製され、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって決定される。抗体純度を評価するための方法についての概要は、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B848:7987(2007)が参照される。
【0071】
「単離した」核酸は、その自然環境の成分と単離した核酸分子を指す。単離した核酸は、一般に当該核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子を含むが、当該核酸分子は染色体外またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。「CD16A結合分子をコードする単離した核酸」は、CD16A結合分子の鎖もしくはその断片をコードする1つもしくは複数の核酸分子を指し、単一のベクターまたは別個のベクターにおける当該核酸分子、および宿主細胞における1つもしくは複数の位置に存在する当該核酸分子を含む。
【0072】
以下のように、配列間の配列同一性を算出する。
【0073】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性パーセンテージを決定するために、上記配列を最適比較のためにアラインメントを行う(例えば、最適アラインメントのために第1と第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方もしくは両方にギャップを導入してもよく、あるいは比較のために、非相同配列を捨ててもよい)。好ましい一実施形態において、比較のために、アラインメントされる参照配列の長さは、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらに好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%の参照配列の長さである。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が、第2の配列における対応の位置での同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有されている場合、上記分子はこの位置において同一である。
【0074】
数学アルゴリズムにより、2つの配列間の配列比較および同一性パーセンテージの計算を実現することができる。好ましい一実施形態において、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに統合されたNeedlemaおよびWunsch ((1970) J. Mol. Biol. 48:444-453)アルゴリズム(http://www.gcg.comにて取得可能)により、Blossum 62行列もしくはPAM250行列、およびギャップ重み16、14、12、10、8、6もしくは4と長さ重み1、2、3、4、5もしくは6を用いて、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセンテージを決定する。別の好ましい実施形態において、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(http://www.gcg.comにて取得可能)により、NWSgapdna.CMP行列、およびギャップ重み40、50、60、70もしくは80と長さ重み1、2、3、4、5もしくは6を用いて、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセンテージを決定する。特に好ましいパラメータセット(および特に断りのない限り使用すべき1つのパラメータセット)は、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、およびフレームシフトギャップペナルティ5のBlossum 62スコアリング行列を採用する。
【0075】
また、PAM120重み剰余テーブル、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4)を利用し、ALIGNプログラム(2.0版)に統合されたE. MeyersとW. Millerアルゴリズム ((1989) CABIOS, 4:11-17)により、2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列間の同一性パーセンテージを決定してもよい。
【0076】
追加的にまたは選択的に、本明細書に記載の核酸配列とタンパク質配列を「問い合わせ配列」として利用してパブリックデータベースに対して検索を実行することにより、例えば、他のファミリーメンバーの配列または関連配列を同定することができる。
【0077】
本明細書に使用されるように、「低いストリンジェンシー条件、中等度のストリンジェンシー条件、高いストリンジェンシー条件、または極高ストリンジェンシー条件でのハイブリダイゼーション」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を説明している。ハイブリダイゼーション反応の実行についての手引きは、援用により組み込まれたCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6において見つけることができる。参考文献には、含水の方法と非含水の方法が記載されており、いずれの方法も利用することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に言及される特異的ハイブリダイゼーション条件は以下のとおりである。1)低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、約45℃で6Xの塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)において、次に少なくとも50℃(低ストリンジェンシー条件では、洗浄温度を55℃に上げることができる)で0.2XのSSC、0.1%のSDSにおいて2回洗浄することであり、2)中等度ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、約45℃で6XのSSCにおいて、次に60℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSにおいて1回または複数回洗浄することであり、3)高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、約45℃で6XのSSCにおいて、次に65℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSにおいて1回または複数回洗浄することであり、好ましくは、4)極高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、65℃で0.5のMのリン酸ナトリウム、7%のSDSにおいて、次に65℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSにおいて1回または複数回洗浄することである。極高ストリンジェンシー条件(4)は好ましい条件で、特に断りのない限り、利用すべき条件である。
【0078】
「医薬組成物」という用語は、それに含まれる活性成分の生物学的活性を有効にする形態で存在するとともに、上記組成物が投与された対象に許容されない毒性がある別の成分を含まない組成物を指す。
【0079】
本明細書に使用される場合、「治療」は、存在している症状、病症、病状または疾患の進行または重症度を軽減、中断、遅延、寛解、停止、低減、または逆転することを指す。所望の治療效果は、疾病の発生または再発の防止、症状の軽減、疾病の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、病状進展速度の低減、病的状態の改善もしくは緩和、および予後の緩和もしくは改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の抗体分子は、疾患の発展または疾患の進行を遅延させるために用いられる。
【0080】
本明細書に使用される場合、「予防」は、疾患、病症、または特定の疾患もしくは病症に係る症状の発生または進行に対する阻害を含む。いくつかの実施形態において、がん家族歴がある対象は、予防プログラムの候補である。一般的に、がんの背景では、「予防」という用語は、がんにかかる病徴または症状が生じる前に、特に、がんに罹患するリスクのある対象にがんが生じる前の医薬投与を指す。
【0081】
「ベクター(vector)」という用語は、本明細書に使用される場合、それに連結される別の核酸を増殖可能な核酸分子を指す。当該用語は、自己複製の核酸構造であるベクター、およびそれが導入された宿主細胞のゲノムに結合されたベクターを含む。いくつかのベクターは、それに効果的に連結された核酸の発現をガイドすることができる。かかるベクターは本明細書において、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0082】
「宿主細胞」という用語は、既に外因性ポリヌクレオチドが導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」および「形質転換された細胞」を含み、初代より形質転換された細胞およびそれより誘導された子孫を含むが、継代数を考慮しない。子孫は、核酸の内容において親細胞とは全く同じではない可能性があり、変異を含んでもよい。本明細書では、初代形質転換細胞からスクリーニングまたは選択された同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫が含まれる。宿主細胞は、本発明の抗体分子を産生するために利用可能な任意のタイプの細胞株であり、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞などの真核細胞、および大腸菌細胞などの原核細胞を含む。宿主細胞は、培養された細胞を含み、遺伝子組換え動物、遺伝子組換え植物または培養された植物組織もしくは動物組織の内部の細胞を含む。
【0083】
II.本発明のCD16A結合分子
ヒトCD16(FcγRIIIともいう)は、CD16A(FcγRIIIA)およびCD16B(FcγRIIIB)という2つのアイソフォームを有し、それらの細胞外免疫グロブリン結合領域配列が96%のアミノ酸配列同一性を有する(van de WinkelとCapel、1993、Immunol Today 14(5):215-221)。
【0084】
CD16Aは、マクロファージ、マスト細胞およびNK細胞に発現された膜貫通受容体である。CD16Bは、多形核球(PMN)に存在し、腫瘍細胞に対する殺傷作用を誘発することができない(van de WinkelとCapel、1993、Immunol Today 14(5):215-221)。また、CD16Bは、可溶性受容体で血清に存在してもよく、体内で抗体に結合すると、免疫複合体を形成することで副作用を引き起こす恐れがある。
【0085】
細胞先天免疫性の媒体として、NK細胞は専門的な細胞キラーであり、T細胞とは異なり、NK細胞は、構成的活性化状態で存在する傾向があり、追加の事前刺激を必要としない。逆に、静止している細胞傷害性T細胞は、MHC抗原複合体との結合により、その後CD28の共刺激により活性化する必要がある。従って、あらゆる免疫エフェクター細胞のうち、NK細胞は、免疫治療のための興味のある候補細胞の1つである。
【0086】
従来技術において、抗CD16抗体のほとんどは、CD16AとCD16Bという2つのアイソフォームを区別することができないが、本発明の抗CD16抗体は、CD16Bと結合せずにCD16Aと特異的に結合可能であり、かつCD16Aと結合した後、NK細胞を活性化することができる。
CD16Aは、特にIgG結合領域の48位および158位で、いくつかの対立遺伝子多型を有する。CD16A158FおよびCD16A158Vという対立遺伝子の遺伝子頻度は、それぞれ約0.6と0.4である。本発明のCD16A結合分子は、CD16A158FおよびCD16A158Vという2つの対立遺伝子を認識することができるため、いずれの患者にもCD16Aと結合することでNK細胞集団を活性化することができる。
【0087】
一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、抗CD16Aのシングルドメイン抗体(sdAb)であり、N末端からC末端へ3つの相補性決定領域を含み、それぞれ以下のHCDR1、HCDR2とHCDR3(Kabat番号付け方法):
(a)アミノ酸配列YNFTRVYMG(配列番号23)で示されるHCDR1または配列番号23で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、アミノ酸配列AISWGGGSTH(配列番号24)で示されるHCDR2または配列番号24で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、およびアミノ酸配列ALDDYSGVLSP(配列番号25)で示されるHCDR3または配列番号25で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(b)アミノ酸配列FTFDMYVMT(配列番号26)で示されるHCDR1または配列番号26で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、アミノ酸配列AIHEDGGKTD(配列番号27)で示されるHCDR2または配列番号27で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、およびアミノ酸配列VAYDYSYSEWYDY(配列番号28)で示されるHCDR3または配列番号28で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、
(c)アミノ酸配列FKFNSFVMT(配列番号29)で示されるHCDR1または配列番号29で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、アミノ酸配列AIHEDGGKTD(配列番号30)で示されるHCDR2または配列番号30で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、およびアミノ酸配列AAVTHSLYDY(配列番号31)で示されるHCDR3または配列番号31で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、あるいは
(d)アミノ酸配列FTFDWYWMG(配列番号32)で示されるHCDR1または配列番号32で示されるHCDR1の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、アミノ酸配列AIHDDGTETH(配列番号33)で示されるHCDR2または配列番号33で示されるHCDR2の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体、およびアミノ酸配列ATVRSDSYYDY(配列番号34)で示されるHCDR3または配列番号34で示されるHCDR3の3つ以下、2つ以下、もしくは1つ以下のアミノ酸残基置換を有する変異体
である。
【0088】
ここで、上記アミノ酸変異は、アミノ酸の追加、欠失または置換で、例えば、上記アミノ酸変異は保存的なアミノ酸置換である。
【0089】
一実施形態において、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGYNFTRVYMGWFRQAPGKGREFVAAISWGGGSTHYADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCALDDYSGVLSPWGQGTLVTVSS(配列番号1)
(b)配列番号2のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFDMYVMTWFRQAPGKGREFVAAIHEDGGKTDYADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVAYDYSYSEWYDYWGQGTLVTVSS(配列番号2)
(c)配列番号3のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、あるいは
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFKFNSFVMTWFRQAPGKGREFVAAIHEDGGKTDYADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAAVTHSLYDYWGQGTLVTVSS(配列番号3)
(d)配列番号4のアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む重鎖可変領域、
QVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFDWYWMGWFRQAPGKGREFVAAIHDDGTETHYADSVKGRFTISRDNAKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCATVRSDSYYDYWGQGTLVTVSS(配列番号4)
を含む。
【0090】
一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、単一特異性抗体分子であり、本発明の抗CD16Aシングルドメイン抗体をその一方の構造部分として含み(本明細書では、「抗CD16Aシングルドメイン抗体部分」ともいう)、かつ免疫グロブリンFc領域をその他方の構造部分として含む。場合により、上記抗CD16Aシングルドメイン抗体と免疫グロブリンFc領域はアミノ酸リンカーにより連結され、例えば、長さが1個~20個のアミノ酸の間にあるアミノ酸リンカーにより連結される。いくつかの実施形態において、上記アミノ酸リンカーにおいて、少なくとも90%であるグリシンおよび/またはセリンアミノ酸がある。いくつかの実施形態において、上記Fc領域は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4などのIgGに由来する。いくつかの実施形態において、上記Fc領域はIgG1に由来する。いくつかの実施形態において、上記Fc領域はヒトIgG1に由来する。
本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載のアミノ酸変異は、アミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。好ましくは、本明細書に記載のアミノ酸変異はアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である。
【0091】
好ましい実施形態において、本発明に記載のアミノ酸変異は、CDR以外の領域(例えば、FR)に生じる。より好ましくは、本発明に記載のアミノ酸変異は、シングルドメイン抗体部分以外の領域に生じる。いくつかの実施形態において、置換は保存的置換である。保存的置換は、1つのアミノ酸が同種の別のアミノ酸によって置換され、例えば、1つの酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸によって置換され、1つの塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸によって置換され、または1つの中性アミノ酸が別の中性アミノ酸によって置換されたことを指す。例示的な置換は下記の表Aに示す通りである。
【0092】
【0093】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるCD16A結合分子は、そのグリコシル化の程度を増加または低減させるように改変される。CD16A結合分子に対するグリコシル化部位の追加または欠失は、1つもしくは複数のグリコシル化部位を生成または除去するようにアミノ酸配列を改変することにより容易に実現することができる。CD16A結合分子はFc領域を含む場合、Fc領域に連結される糖類を変更することができる。いくつかの応用において、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を向上させるためにフコースモジュールを除去するなど、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC277:26733参照)。他の応用において、ガラクトシド化修飾を行うことにより、補体依存性細胞傷害(CDC)を調節することができる。一部の実施形態において、本明細書に提供されるCD16A結合分子のFc領域に1つまたは複数のアミノ酸修飾を導入してFc領域の変異体を産生することにより、例えば、がんまたは感染性疾患の治療における本発明のCD16A結合分子の有効性を増強させることができる。
【0094】
一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、免疫グロブリンFc領域によるエフェクター機能を低減または除去するために、その免疫グロブリンFc領域にFcγRIIIA(CD16A)に対する本発明のCD16A結合分子の結合親和性を低減する修飾が含まれる。一実施形態において、上記修飾は、上記免疫グロブリン分子のFc領域、特にそのCH2領域にある。一実施形態において、上記免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン重鎖の第329位(EU番号)でのアミノ酸置換を含む。一具体的な実施形態において、上記アミノ酸置換はP329Gである。一実施形態において、上記免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン重鎖の第234位および235位(EU番号)でのアミノ酸置換を含む。一具体的な実施形態において、上記アミノ酸置換は、L234AとL235A(本明細書では、「LALA変異」ともいう)である。
【0095】
一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、その免疫グロブリンFc領域の2つの鎖にそれぞれ突起(「ノブ(knob)」)または空孔(「ホール(hole)」)が含まれ、かつ一方の鎖のFc領域における上記突起または空孔がそれぞれ他方の鎖のFc領域における上記空孔または突起に配列されてもよく、これにより、上記2つの鎖同士は「ノブ-イン-ホール(knob-in-hole)」の安定的な会合を形成する。一実施形態において、一方の鎖のFc領域にはアミノ酸置換T366Wが含まれ、かつ他方の鎖のFc領域にはアミノ酸置換T366S、L368AとY407V(EU番号)が含まれる。これにより、一方の鎖における突起は他方の鎖における空孔に配置され、本発明のCD16A結合分子の正確なペアリングを促進することができる。
【0096】
一具体的な実施形態において、上記免疫グロブリンFc領域は、配列番号5で示されるIgG1-Fc-LALA共通重鎖である。
【0097】
DKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号5)
【0098】
一具体的な実施形態において、上記免疫グロブリンFc領域における一方の鎖は、配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する。
【0099】
DKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(IgG1-LALA-Fc-Knob、配列番号14)
【0100】
一具体的な実施形態において、上記免疫グロブリンFc領域における他方の鎖は、配列番号19で示されるアミノ酸配列を有する。
【0101】
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(IgG1-LALA-CH-Hole、配列番号19)
【0102】
一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、ヒト細胞に発現されたCD16Aに結合すると、当該細胞を活性化したり、一連の生物学的反応、特にシグナル反応を誘発したりすることができる。好ましくは、本発明のCD16A結合分子は、細胞に結合すると、抗体依存性細胞傷害(ADCC)のような方法で標的細胞への殺傷を誘発することができる。
【0103】
本発明は、CD16Aに対して特異性を有し、CD16Bに対して特異性がないだけでなく、1種または複数種の他の抗原に対して特異性を有する結合分子をさらに提供する。従って、一実施形態において、本発明のCD16A結合分子は多重特異性抗体分子である。本明細書における多重特異性という用語は、本発明のCD16A結合分子が、CD16Bに対して特異性を有さずに少なくとも2つの特異性を有し、そのうちの1つがCD16Aに対する特異性であることを意味する。本発明の多重特異性抗体分子は、例えば、二重特異性、三重特異性および四重特異性の分子を含む。例えば、二重特異性抗体は、単鎖二重特異性抗体、二本鎖二重特異性抗体、三本鎖二重特異性抗体などを含む。
【0104】
本発明の多重特異性結合分子は、マクロファージまたはNK細胞を他の抗原、例えば、上記他の抗原を携帯または発現した細胞に標的化することができ、これにより、マクロファージまたはNK細胞は、貪食作用またはNK細胞により媒介された細胞殺傷作用によって、上記他の抗原を携帯又は発現した細胞を消滅することができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、本発明の多重特異性結合分子は、NK細胞を腫瘍細胞に標的化することができるために、腫瘍関連抗原(TAA)に対する1種または複数種の特異性をさらに有し、ここで、上記多重特異性結合分子はCD16Aと結合して、NK細胞を活性化し、腫瘍細胞を殺傷する。
【0106】
いくつかの実施形態において、上記他の抗原は、細胞表面抗原の1つであり、例えば、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆タンパク質(胎児腫瘍抗原未熟ラミニン受容体OFA-iLRともいう)、EGFR1(HER-1、ErbB1ともいう)、EGFR2(HER-2、ErbB2、neuともいう)、EGFR3(HER-3ともいう)、Ep-CAM、PLAP(胎盤性アルカリホスファターゼ)、Thomsen-Friedenreich(TF)抗原、MUC-1(ムチン)、IGFR、IL4-Rα、IL13-R、FcεRIおよびCD5である。
【0107】
さらなる実施形態において、上記他の抗原はアレルゲンで、または体のアレルギー反応に関連する分子であり、例えば、(特に)マスト細胞におけるIgEまたはFcεRI受容体である。
【0108】
従来技術において、本発明に用いられる、CD19、CD20、CD30、ラミニン受容体前駆タンパク質、EGFR1、EGFR2、EGFR3、Ep-CAM、PLAP、Thomsen-Friedenreich(TF)抗原、MUC-1(mucin)、IGFR、CD5、IL4-Rα、IL13-R、FcεRIおよびIgEと特異的に結合可能な抗体および抗原結合断片が記載されており、例えば、EP-A-1314741;Reff et al.,1994 Blood 83:435-445;EP-A-1005870;WO 01/92340;US 6,033,876;WO 86/03223;Buto et al.,1997 Int.J.Biol.Markers 12:1-5;US 6,699,473;WO 98/50433;US 5,770195;EP-A-0502812;Carter et al.,1992 PNAS 89:4285-4289;US 5,968,511;WO 04/106383;Nouri et al.,2000 BJU Int.86:894-900;EP-A-0429242;Ravn et al.,2004 J.Mol.Biol.,343:985-996;Dahlenborg et al.,1997 Int.J.Cancer 70:63-71;WO 88/05054;WO02/053596;WO 04/071529;Studnicka et al.,1994 Protein Eng.,7:805-814;Presta et al.,1993 J.Immunol.,151:2623-2632)が参照される。当業者は、これらの従来の技術文献に開示された抗体および抗体断片の配列により、本発明に記載される多重特異性抗体分子中の他の抗原に対する結合部分を調製することができる。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、類似の親和性で対立遺伝子CD16A 158FとCD16A 158Vに結合可能であり、例えば、本発明の結合分子は、この2つのCD16A 158対立遺伝子に結合する親和性が2倍以下相異する。本発明の好ましい一実施形態において、CD16Aに対する特異性は、本発明の単一ドメイン抗体により提供される。
【0110】
本発明のCD16A結合分子は、もう1つの機能ドメインを含んでもよい。当該機能ドメインは、分子エフェクターに結合する特性を有することができる。例えば、機能ドメインは、FcR結合ペプチドまたはFc受容体と結合可能な抗体Fc領域であってもよく、結合分子においてエフェクターの特性を有する。場合により、当該機能ドメインは、プロドラッグを活性薬に転化する能力を有する酵素であってもよい。従って、本発明のCD16A結合分子は、抗体指向性酵素プロドラッグ療法(ADEPT)に用いることができる。一具体的な実施形態において、結合分子の機能ドメインは、結合分子の血清半減期を延長可能なタンパク質またはペプチドで、例えば、血清アルブミンもしくはIgGのFc部分であり、FcγRn(新生児Fc受容体)と結合することにより、結合分子の血清における半減期を向上させることができる。一具体的な実施形態において、当該機能ドメインは、サイトカインであってもよい。
【0111】
いくつかの実施形態において、本発明のCD16A結合分子は、標識分子または毒素と結合することができる。上記標識分子または毒素は、タンパク質である場合、ペプチド結合により、または化学的カップリングにより結合分子と抱合することができる。「カップリング」という用語は、2つの成分が化学結合で連結されることを指し、上記化学結合は、ペプチド結合、エステル結合またはジスルフィド結合を含む。
【0112】
本発明の結合分子と例えば、放射性標識、蛍光標識または発光(化学発光を含む)標識などの標識分子との結合により、結合分子は免疫染色試薬として使用可能になる。上記免疫染色試薬は、CD16Aを発現した組織浸潤NK細胞、マクロファージまたはマスト細胞の検出、あるいは、疾患の診断または疾患の悪化もしくは疾患の緩和のモニターに適用可能である。
【0113】
本発明の結合分子は、例えば、リボシルトランスフェラーゼ、セリンプロテアーゼ、DNAアルキル化剤または有糸分裂抑制剤(例えば、アドリアマイシン)などの毒素分子と抱合して、NK細胞とマクロファージを標的にして殺すために用いることができる。このような結合分子は、免疫抑制剤として適用可能である。当業者であれば、本発明のこの態様において、結合分子は、1つの抗原、すなわち、CD16Aのみに特異性を有することが好ましいことを理解できる。CD16Aに選択的・特異的に結合する単価抗原結合断片からなる結合分子を利用して免疫系への抑制作用を得る。このような単価抗原結合分子は、CD16A受容体を阻害する分子として好ましいが、架橋のものではないため、NK細胞またはマクロファージを活性化することができない。
【0114】
III.本発明の核酸およびそれを含む宿主細胞
一態様において、本発明は、上記任意のCD16A結合分子またはその断片もしくはそのいずれか1つの鎖をコードする核酸を提供する。一実施形態において、上記核酸を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクターである。一実施形態において、上記核酸または上記ベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態において、宿主細胞は真核のものである。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞もしくは293細胞)または抗体もしくはその抗原結合断片の調製に適する他の細胞から選ばれる。別の実施形態において、宿主細胞は原核のものである。
【0115】
例えば、本発明の核酸は、配列番号1~4から選ばれるいずれか1つで示されるアミノ酸配列をコードする核酸、または配列番号1~4から選ばれるいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸を含む。
【0116】
本発明は、下記の核酸とストリンジェンシー条件でハイブリダイゼーションした核酸、または下記の核酸に対して、1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失もしくは挿入を有するポリペプチド配列をコードする核酸をさらに含む。配列番号1~4から選ばれるいずれか1つで示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列の核酸、または配列番号1~4から選ばれるいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列の核酸。
【0117】
一実施形態において、上記核酸を含む1つまたは複数のベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクター、例えば、真核発現ベクターである。ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、ベクターはpcDNA3.1ベクターである。
【0118】
発現用の発現ベクターまたはDNA配列が調製されると、発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクションまたは導入することができる。この目的を達成するために、例えば、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、レトロウイルス形質導入、ウイルストランスフェクション、パーティクルガン、脂質ベースのトランスフェクションまたは他の通常技術のような様々な技術を利用することができる。プロトプラスト融合の場合、細胞を培地において培養して適切な活性をスクリーニングする。産生されたトランスフェクション細胞の培養と産生された抗体分子の回収のための方法と条件は、当業者に知られているもので、かつ本明細書および従来技術で既知の方法により、使用される特定の発現ベクターと哺乳動物宿主細胞によって変更または最適化することができる。
【0119】
また、トランスフェクションされた宿主細胞を選択可能な1つまたは複数のマーカーを導入することにより、その染色体にDNAが安定的に導入された細胞を選択することができる。マーカーは、栄養要求性宿主に原栄養性、殺生物剤(例えば、抗生物質)耐性または重金属(例えば、銅)耐性などを付与することができる。選択可能な標識遺伝子は、発現すべきNA配列と直接連結され、または同時形質転換により同じ細胞に導入することができる。mRNA合成の最適化のために、追加の要素を必要とする可能性がある。これらの要素は、スプライシングシグナル、転写プロモーター、エンハンサー、および終結シグナルを含んでもよい。
【0120】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、または抗体の調製に適用される他の細胞から選ばれる。好適な宿主細胞は、大腸菌などの原核微生物を含む。宿主細胞は、糸状真菌もしくは酵母などの真核微生物、または昆虫細胞などのさまざまな真核細胞であってもよい。脊椎動物の細胞を宿主として用いてもよい。例えば、懸濁成長に適するように改変された哺乳動物細胞株を使用することができる。使用可能な哺乳動物宿主細胞株の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓株(HEK 293または293F細胞)、293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、CHOS細胞、NSO細胞、YO、NS0、P3X63およびSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。タンパク質の産生に適する哺乳動物宿主細胞株についての概要は、例えば、Yazaki&Wu,Methods in Molecular Biology,第248巻(edited by B.K.C.Lo,Humana Press,Totowa,NJ),p255~268(2003)が参照される。好ましい一実施形態において、上記宿主細胞は、CHO細胞または293細胞である。
【0121】
IV.本発明のCD16A結合分子の生産および精製
一実施形態において、本発明は、CD16A結合分子を調製する方法を提供し、ここで、上記方法は、上記CD16A結合分子をコードする核酸の発現に適する条件で上記CD16A結合分子をコードする核酸または上記核酸の発現ベクターを含む宿主細胞を培養することと、場合により上記CD16A結合分子を単離することとを含む。一部の実施形態において、上記方法は、上記宿主細胞(または宿主細胞培地)からCD16A結合分子を回収することをさらに含む。
【0122】
組換えにより本発明のCD16A結合分子を産生するために、まず、本発明のCD16A結合分子をコードする核酸を単離し、宿主細胞においてさらにクローニングおよび/または発現されるように、上記核酸をベクターに挿入する。このような核酸は、通常のプロセスにより単離してシークエンシングすることが容易であり、例えば、本発明のCD16A結合分子をコードする核酸と特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより行われる。
【0123】
本明細書に記載されるように調製された本発明のCD16A結合分子は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどの既知の従来技術により精製することができる。特定のタンパク質を精製するための実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性などの要因にも依存し、かつこれらは当業者にとって自明である。本発明のCD16A結合分子の純度は、さまざまなよく知られている分析方法のいずれか1つによって決定することができ、上記よく知られている分析方法は、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む。
【0124】
V.本発明のCD16A結合分子の活性測定法
当該分野で既知の様々な測定法により、本明細書に提供されるCD16A結合分子を同定し、スクリーニングし、またはその物理的/化学的特性および/または生物学的活性を特徴付けることができる。一態様において、本発明のCD16A結合分子に対する抗原結合活性の測定は、例えば、ELISA、Westernブロッティングなどの既知の方法で行われる。当該分野で既知の方法によりCD16Aへの結合を測定することができ、本明細書には例示的な方法が開示されている。いくつかの実施形態において、SPRまたはバイオレイヤー干渉法により、本発明のCD16Aに対するCD16A結合分子の結合を測定する。
【0125】
本発明は、生物学的活性を有するCD16A結合分子を同定するための測定法をさらに提供する。生物学的活性は、例えば、細胞(例えば、NK細胞)表面CD16Aに対する結合、細胞傷害作用などを含んでもよい。
【0126】
いずれの上記インビトロ測定法に使用される細胞も、CD16Aを天然に発現し、或いは改変によりCD16Aを発現する細胞株を含む。改変によりCD16Aを発現する上記細胞株は、正常な場合にCD16Aを発現しないが、CD16AをコードするDNAが細胞にトランスフェクションされた後にCD16Aを発現する細胞株である。
【0127】
VI.医薬組成物および医薬製剤
いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載のいずれかのCD16A結合分子またはその免疫複合体の組成物を提供し、好ましくは、組成物は医薬組成物である。一実施形態において、上記組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含む。一実施形態において、組成物(例えば、医薬組成物)は、本発明のCD16A結合分子またはその免疫複合体と、1種もしくは複数種の他の治療剤(例えば、化学療法剤、細胞傷害剤、他の抗体、抗感染症剤、低分子薬または免疫調節剤、例えば、抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体)との組み合わせを含む。
【0128】
いくつかの実施形態において、上記組成物は、腫瘍の予防または治療に用いられる。いくつかの実施形態において、腫瘍はがんである。
【0129】
本発明は、CD16A結合分子もしくはその免疫複合体を含む組成物(医薬組成物もしくは医薬製剤を含む)および/またはCD16A結合分子をコードするポリヌクレオチドを含む組成物(医薬組成物もしくは医薬製剤を含む)をさらに含む。これらの組成物は、緩衝剤を含め、当該分野で既知の薬用賦形剤などの適切な薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。
【0130】
本明細書に使用されるように、「薬学的に許容可能な担体」は、生理学的に適合する溶剤、分散媒体、等張剤および吸収遅延剤などのいずれかまたはそのすべてを含む。本発明に適する薬学的に許容可能な担体は、石油、ピーナッツオイル、大豆油、鉱油、ごま油などの動物もしくは植物に由来するまたは合成されたものを含め、水および油などの滅菌液体であってもよい。医薬組成物が静脈内に投与される場合、水は担体として好ましい。さらに、生理食塩水溶液および水性デキストロースとグリセリン溶液を液体担体として、特に注射可能な溶液に用いてもよい。好適な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥した脱脂粉乳、グリセリン、プロピレン、ジオール、水、エタノールなどを含む。賦形剤の使用およびその使用については、『Handbook of Pharmaceutical Excipients』,5th edition,R.C.Rowe、P.J.SeskeyおよびS.C.Owen,Pharmaceutical Press,London,Chicagoも参照される。必要に応じて、上記組成物は、少量の湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤を含んでもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末、持続性放出製剤などの形態を採用することができる。経口製剤は、薬用マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンなどの、標準的な薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含んでもよい。
【0131】
所望の純度を有する本発明のCD16A結合分子を1つ又は複数の任意の薬学的に許容可能な担体(Remington′s Pharmaceutical Sciences,16th edition,edited by Osol,A.(1980))と混合することにより、本明細書に記載のCD16A結合分子を含む医薬製剤を調製することができ、好ましくは凍結乾燥製剤または水溶液の形態である。
【0132】
本発明の医薬組成物または製剤は、1種以上の活性成分をさらに含んでもよく、上記活性成分は、治療される特定の適応症に必要なものであり、好ましくは、互いに悪影響を与えない相補的な活性を有する活性成分を有する。例えば、好ましくは、他の抗がん活性成分または抗感染活性成分、例えば、化学療法剤、細胞傷害剤、他の抗体、抗感染症剤、低分子薬もしくは免疫調節剤、例えば抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などをさらに提供する。上記活性成分は、目的とする使用に有効な量で適切に組み合わせて存在する。
【0133】
持続放出製剤を調製することができる。持続放出製剤の好適な実例は、本発明のCD16A結合分子を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリックスを含み、上記マトリックスは、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態のような成形品である。
【0134】
VII.組み合わせ製品または試薬キット
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCD16A結合分子またはその抗体断片、またはその免疫複合体と、1種もしくは複数種の他の治療剤(例えば、化学療法剤、他の抗体、細胞傷害剤、抗感染症剤、低分子薬もしくは免疫調節剤など)とを含む組み合わせ製品をさらに提供する。いくつかの実施形態において、他の抗体は、例えば、抗PD-1抗体、抗PD-1抗体である。
【0135】
いくつかの実施形態において、上記組み合わせ製品は、腫瘍の予防または治療に用いられる。いくつかの実施形態において、腫瘍はがんなどである。
【0136】
いくつかの形態において、上記組み合わせ製品における2種もしくは多種の成分は、対象に順次投与、個別投与、または同時併用投与してもよい。
【0137】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCD16A結合分子、医薬組成物、免疫複合体または組み合わせ製品を含む試薬キット、および任意の投与指導用包装付加頁をさらに提供する。
【0138】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のCD16A結合分子、医薬組成物、免疫複合体、組み合わせ製品を含む医薬製品をさらに提供し、場合により、上記薬物製品は、投与指導用包装付加頁をさらに含む。
【0139】
VIII.本発明のCD16A結合分子の使用
一実施形態において、本発明は、対象の腫瘍(例えば、がん)を予防または治療する方法に関し、上記方法は、上記対象に有効量の本明細書に開示されたCD16A結合分子またはそれを含む医薬組成物もしくは免疫複合体もしくは組み合わせ製品を投与することを含む。いくつかの実施形態において、腫瘍は免疫回避した腫瘍である。
【0140】
一実施形態において、本発明は、対象の感染性疾患を予防または治療する方法に関し、上記方法は、上記対象に有効量の本明細書に開示されたCD16A結合分子またはそれを含む医薬組成物もしくは免疫複合体もしくは組み合わせ製品を投与することを含む。
【0141】
別の態様において、本発明は、対象においてNK細胞媒介性の細胞傷害を誘発する方法に関し、上記方法は、上記対象に有効量の本明細書に開示されたCD16A結合分子またはそれを含む医薬組成物もしくは免疫複合体もしくは組み合わせ製品を投与することを含む。
【0142】
対象は、霊長類などの哺乳動物であってもよく、好ましくは、人間(例えば、本明細書に記載の疾患に罹患しているかまたは本明細書に記載の疾患に罹患するリスクのある患者)などの高等霊長類である。一実施形態において、対象は本明細書に記載の疾患(例えば、本明細書に記載の腫瘍もしくは感染性疾患)に罹患しており、または本明細書に記載の疾患に罹患するリスクがある。一部の実施形態において、対象は、化学療法治療および/または放射線治療などの他の治療を受けるか、または既に受けた。選択的に、または組み合わせでは、対象は、感染により免疫不全が生じ、または感染により免疫不全になるリスクがある。
【0143】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のがんなどの腫瘍は、固形腫瘍、血液がん、軟部組織腫瘍および転移性病巣を含むが、これらに限定されない。
【0144】
固形腫瘍の例は、例えば、肝、肺、乳腺、リンパ、消化管(例えば、結腸)、尿生殖路(例えば、腎・膀胱上皮細胞)、前立腺および咽頭に浸潤するようながんなどの複数の器官系における肉腫とがん(例えば、腺がんと扁平上皮がんを含む)といった悪性腫瘍を含む。腺がんは、ほとんどの結腸がん、直腸がん、腎細胞がん、肝がん、肺がんにおける非小細胞肺がん、小腸がんと食道がんなどの悪性腫瘍を含む。扁平上皮がんは、肺、食道、皮膚、頭頸部領域、口腔、肛門と子宮頚におけるがんなどの悪性腫瘍を含む。一実施形態において、がんは進行性黒色腫などの黒色腫である。一実施形態において、がんは腎細胞がんである。上記がんの転移性病巣も、本発明の方法および組成物により治療または予防することができる。
治療に用いられる好適ながんの非限定的な例は、リンパ腫(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)、乳がん(例えば、転移性乳がん)、肝がん(例えば、肝細胞がん(HCC))、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(NSCLC)、例えば、ステージIVもしくは再発性非小細胞肺がん、NSCLC腺がん、またはNSCLC扁平上皮がん)、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病)、皮膚がん(例えば、黒色腫(例えば、ステージIIIもしくはステージIV黒色腫)またはMerkel細胞がん)、頭頸部がん(例えば、頭頸部扁平上皮がん(HNSCC))、骨髄異形成症候群、膀胱がん(例えば、移行細胞がん)、腎がん(例えば、腎細胞がん、例えば、進行性または転移性明細胞腎細胞がんなどの明細胞腎細胞がん)と結腸がんを含む。なお、難治性または再発性悪性腫瘍は、本明細書に記載のCD16A結合分子またはそれを含む医薬組成物もしくは免疫複合体もしくは組み合わせ製品により治療することができる。
【0145】
いくつかの実施形態において、本発明のCD16A結合分子またはそれを含む免疫複合体もしくは組成物もしくは組み合わせ製品は、病症および/または病症に関連する症状の発作を遅延することができる。
【0146】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の予防または治療方法は、上記対象または個体に本明細書に開示されたCD16A結合分子または医薬組成物もしくは免疫複合体もしくは組み合わせ製品、および1種もしくは複数種の他の治療法、例えば、治療方法および/または他の治療剤を併用投与することをさらに含む。
【0147】
いくつかの実施形態において、治療方法は、外科的手術(例えば、腫瘍切除術)、放射線治療(例えば、照射領域が設定された3次元原体放射線治療に関わる外部粒子ビーム療法)、局所照射(例えば、所定の標的もしくは器官に対する照射)または集中的照射)などを含む。上記集中的照射は、定位放射線手術、分割定位放射線手術および強度変調放射線療法から選ばれてもよい。上記集中的照射は、例えば、WO2012/177624に記載されるように、粒子ビーム(プロトン)、コバルト-60(フォトン)および線形加速器(X線)から選ばれる放射線源を有してもよい。
【0148】
放射線治療は、幾つかの方法の1つ又は方法の併用で投与することができ、上記方法は、外部粒子ビーム療法、内部照射療法、インプラント照射、定位放射線手術、全身照射療法、放射線治療、および永久または短期の間質性近接照射療法を含むが、これらに限定されない。
【0149】
いくつかの実施形態において、治療剤は、化学療法剤、細胞傷害剤、他の抗体、抗感染症剤、低分子薬または免疫調節剤(例えば、共刺激分子の活性化剤もしくは免疫チェックポイント分子の抑制剤)から選ばれる。
【0150】
本発明の併用療法は、併用投与(ここで、2種または多種の治療剤が同一の製剤または別個の製剤に含まれる)および個別投与を含む。個別投与の場合は、他の治療法を投与する前、同時および/またはその後に本発明のCD16A結合分子または免疫複合体などの投与を実施することができる。
【0151】
一実施形態において、CD16A結合分子の投与および他の治療法(例えば、治療方法または治療剤)の投与は、約1か月内、または約1、2もしくは3週間内、または約1、2、3、4、5もしくは6日間内に行われる。
【0152】
本発明のCD16A結合分子(およびそれを含む医薬組成物または免疫複合体)は、非経口投与、肺内投与と鼻腔内投与を含む任意の適切な方法により投与されてもよく、かつ、局所治療に必要なの場合は、病巣内に投与されてもよい。非経口注入は、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与を含む。投与が短期であるか長期であるかによってある程度決まり、任意の適切な経路、例えば、静脈内注射投与または皮下注射投与などの注射により投与することができる。本明細書において、単回投与または複数の時点での複数回投与、ボーラス投与およびパルス注入を含むが、これらに限定されない様々な投与スケジュールが含まれる。
【0153】
疾患を予防または治療するために、本発明のCD16A結合分子の好適な用量(単独で、または1種もしくは複数種の他の治療剤と組み合わせて使用される場合)は、治療される疾患のタイプ、CD16A結合分子のタイプ、疾患の重症度と進行、予防のためか治療のためかという上記CD16A結合分子の投与目的、過去の治療、患者の臨床病歴と上記CD16A結合分子に対する応答、および主治医の判断力によって決定される。上記CD16A結合分子は、単回の治療で、または一連の治療を経て患者に適当に投与される。CD16A結合分子の用量と治療計画は、当業者によって決定することができる。
【0154】
なお、上記何れの予防または治療も、本発明の免疫複合体または組成物または組み合わせ製品によりCD16A結合分子を置換することで行うことができる。
【0155】
IX.診断と検出のための方法および組成物
一部の実施形態において、本明細書に提供されるいずれのCD16A結合分子も、生体試料におけるCD16Aの存在の検出に用いることができる。「検出」という用語は本明細書に使用される場合、定量的または定性的検出を含み、例示的な検出方法としては、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(例えば、FACS)、抗体分子複合磁気ビーズ、ELISA測定法が挙げられる。一部の実施形態において、生体試料は、血、血清または生物に由来する他の体液試料である。一部の実施形態において、生体試料は、細胞または組織を含む。いくつかの実施形態において、生体試料は、過剰増殖性またはがん性病巣に由来する。
【0156】
一実施形態において、診断又は検出方法に用いられるCD16A結合分子を提供する。他の態様において、生体試料におけるCD16Aの存在を検出する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、生体試料におけるCD16Aタンパク質の存在を検出することを含む。一部の実施形態において、CD16Aは、ヒトCD16Aである。一部の実施形態において、上記方法は、CD16A結合分子とCD16Aの結合が許容される条件で、生体試料を本明細書に記載のCD16A結合分子と接触するとともに、CD16A結合分子とCD16Aの間に複合物が形成されたか否かを検出することを含む。複合物の形成は、CD16Aの存在を示す。当該方法は、インビトロまたはインビボ方法であってもよい。一実施形態において、CD16A結合分子は、CD16A結合分子による治療に適する対象の選択に用いられ、例えば、ここで、CD16Aは上記対象を選択するためのバイオマーカーである。
【0157】
なお、例えば、疾患、治療剤、治療方法と投与などの本発明の各部分に記載の各実施形態は、同様に本発明の他の部分の実施形態に適用され、或いは他の部分の実施形態と組み合わせることができる。本発明の各部分に記載のCD16A結合分子に適する特性、使用、および方法などの実施形態は、同様にCD16A結合分子を含む組成物、複合体、組み合わせ製品および試薬キットなどに適用される。
【0158】
本発明の理解を助けるために、以下の実施例を説明する。いかなる方法によって、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図もなく、そうすべきでもない。
【実施例1】
【0159】
実施例
以下の実施例を参照することにより、本明細書に一般的に記載された本発明をさらに容易に理解し、これらの実施例は、例を挙げて説明することで提供されるもので、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。これらの実施例は、下記の実験がすべて行われるか、または行われる実験のみを示すことを意図するものではない。
【0160】
実施例1 抗CD16A単一ドメイン(シングルドメイン)抗体合成ライブラリーのスクリーニングおよびフローサイトメトリー染色による同定
本実施例により、CD16Aを標的にする4つの全合成されたヒト単一ドメイン抗体をスクリーニングした。具体的な操作は、以下の通りである。
【0161】
ヒト生殖細胞系遺伝子の再構成後の単一ドメイン抗体合成ライブラリーを構築する(edited by C.F.Barbas III et al.,(2001) Phage display:a laboratory manual.Cold spring harbor laboratory press:Cold Spring Harbor,New Yorkを参照)ことで、各単一ドメイン抗体を酵母細胞表面にディスプレイした。
【0162】
Miltenyi社のMACSシステムを利用して磁気ビーズ細胞選別により、1回目のスクリーニングを実施した。具体的に、各ライブラリーから2×109個の酵母細胞を取り、抗原としてビオチン化CD16A-158Vタンパク質(Acro Biosystems、CDA-H82E9)を加え、室温で30分間インキュベートした。50mLのFACS緩衝液(1×PBS、1%のウシ血清アルブミン含有)で1回洗浄した。10mLのFACS緩衝液で再懸濁した後、40μLのストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi LS)を加え、4℃で15分間インキュベートした。インキュベートした後、3000rpmで3min遠心分離し、上清を捨てた後に10mLのFACS緩衝液で細胞を再懸濁し、細胞溶液をMiltenyi LSカラムに入れた。試料を加えた後、3mLのFACS緩衝液でMiltenyi LSカラムを3回洗浄した。磁気領域からMiltenyi LSカラムを取り外し、5mLの成長培地YPD(生工生物、A507022-0250)で酵母細胞を溶出した。溶出された酵母細胞を収集し、培養フラスコに入れ、30℃で一晩培養した後、20℃で24時間振とう誘導した。
【0163】
フローサイトメトリーを利用して磁気ビーズにより濃縮された酵母ライブラリー細胞に対して2回目の選別を行った。ライブラリーから4×107個の酵母細胞を取り、FACS緩衝液で3回洗浄し、ビオチン化CD16A-158Vタンパク質およびウサギ抗Flag抗体(Sigma-Aldrich、F7425)を含むFACS緩衝液を加え、室温で30分間インキュベートした。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄した後、ストレプトアビジンSA-PE(eBioscience、12-4317-87)(1:200で希釈)およびAlex Fluor-647で抱合したヤギ抗マウスIgG(H+L)交差吸着二次抗体(ThermoFisher、A21235)(1:200で希釈)を含むFACS緩衝液を加え、4℃で暗所で15分間インキュベートした。予冷したFACS洗浄緩衝液で2回洗浄した後、MoFlo_XDP超高速フローサイトメトリー選別システム(Beckman Coulter、ML99030)により細胞選別を行い、選別した酵母細胞を30℃で一晩振とうして成長した。
【0164】
ビオチン化CD16A-158Fタンパク質(Acro Biosystems、CDA-H82E8)、ビオチン化CD16B-NA1タンパク質(Acro Biosystems、CDB-H82E4)、ビオチン化CD16B-NA2タンパク質(Acro Biosystems、CDB-H82Ea)およびビオチン化cyno CD16タンパク質(Acro Biosystems、FC6-C82E0)を抗原としてそれぞれ使用してその後のスクリーニングを実施し、方法は上記2回目のフローサイトメトリーによる選別と同じである。
【0165】
選別が完成した後に、酵母単クローンを選択し、48ウェルプレートに置いて30℃で一晩培養し、酵母プラスミドを抽出してシークエンシングするとともに、酵母細胞をフローサイトメトリー染色により同定した。各酵母クローンから1×106個の細胞を取り、染色方法は上記2回目のフローサイトメトリーによる選別と同じである。最後に、CD16A-158V、CD16A-158Fおよびcyno CD16と結合し、かつCD16B-NA1およびCD16B-NA2と結合しない単一ドメイン抗体分子が得られ、真核細胞に発現されたプラスミドベクターに構築して同定した。
【0166】
上記の複数回のスクリーニング実験を経て、CD16Aと結合する4つのクローン、すなわち、クローンY88A3、クローンY95H1、クローンY99F6およびクローンY100D6が得られ、発現したヒト単一ドメイン抗体は、クローニング番号によってそれぞれY88A3 sdAb(配列番号1)、Y95H1 sdAb(配列番号2)、Y99F6 sdAb(配列番号3)およびY100D6 sdAb(配列番号4)と命名した。
【0167】
実施例2 真核細胞HEK293Fにおける抗CD16A重鎖抗体の発現および精製
実施例1の酵母ディスプレイ合成ライブラリによりスクリーニングされた4つの例示的な抗CD16A単一ドメイン抗体(Y88A3 sdAb、Y95H1 sdAb、Y99F6 sdAbおよびY100D6 sdAb)のヌクレオチド配列を、L234A、L235A変異型のIgG1重鎖定常領域を含むpcDNA3.1プラスミドベクター(Invitrogenで、その中のIgG1-Fc-LALA共有重鎖配列は配列番号5で示される)に構築し、得られた相応するプラスミドを抽出した。
【0168】
密度が3.0×106個の細胞/mLになるようにHEK293F細胞を培養し、得られた相応するプラスミドをトランスフェクション試薬PEIと質量比1:3で均一に混合した後に20min静置し、その後HEK293F細胞に徐々に加え、37℃で、8%のCO2シェーカーインキュベーターにおいて6日間~7日間培養した。
【0169】
遠心分離して細胞上清を収集し、Protein A精製樹脂(GE Healthcare)と室温で1時間結合し、pH7.0のリン酸塩緩衝液(PBS)でProtein A精製樹脂を洗浄して不純タンパク質を除去し、さらにpH3.0の0.1Mのクエン酸でタンパク質を溶出し、溶出したタンパク質をPBSに限外ろ過し、2つの重鎖からなる抗CD16A重鎖抗体が得られた。
【0170】
得られた抗CD16A重鎖抗体の収率を測定した後、少量の試料を取って分子サイズ排除クロマトグラフィー(Size-exclusion chromatography、SEC)により、その中の重鎖抗体タンパク質に複数の重鎖抗体の凝集が生じたか否かを測定した。その結果、上記操作で精製した、N末端からC末端へsdAb-Fc-LALAである鎖を2つ含む抗CD16A重鎖抗体の純度は、いずれも90%以上に達することができることが示された。試料を分注した後に-80℃の冷蔵庫に保存した。
【0171】
実施例3 抗CD16A重鎖抗体のヒトCD16AまたはCD16B、およびカニクイザルCD16Aとの結合親和性の測定
バイオレイヤー干渉法(Biolayer interferometry、BLI)により、実施例2で得られた精製した4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体がヒトCD16A-158V、CD16A-158F、CD16B-NA1およびCD16B-NA2、ならびにカニクイザルCD16A(cyno-CD16A)抗原と結合する平衡解離定数(KD)を測定した。実施例2において、Fc断片にあり得るCD16との結合への影響を排除するために、Fc部分として、L234A、L235Aで変異したIgG1-Fc、すなわち、IgG1-Fc-LALAを使用することで、Fc部分とCD16の結合を除去し、これにより、バックグラウンド干渉を最大限に低減させた。
【0172】
親和性の測定は、従来技術で知られている方法(Estep P. et al.,High throughput solution based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning,mAbs,2013,5(2),270-8)により実施された。簡単に言えば、センサーを分析緩衝液においてオフラインで30分間平衡化し、次にオンラインで60秒間検出して基線を確立し、上述したように得られた精製された重鎖抗体をProtein Aセンサー(ForteBio、18-5010)にオンラインでロードしてForteBio親和性検出を行った。さらに、抗CD16A重鎖抗体がロードされたセンサーを、100nMの濃度を有するヒトCD16A-158Vタンパク質(ACRO Biosystems、CD9-H52H4)、CD16A-158Fタンパク質(ACRO Biosystems、CDA-H5220)、CD16B-NA1タンパク質(ACRO Biosystems、CDB-H5227)とCD16B-NA2タンパク質(ACRO Biosystems、CDB-H5222)、およびcyno-CD16Aタンパク質(ACRO Biosystems、FC6-C52H9)の抗原タンパク質溶液にそれぞれ100秒間暴露した後、解離速度測定のために、センサーを分析緩衝液に移して120秒間解離した。1:1の結合モデルを利用して結合動力学のフィッティングと分析を行い、KD値を算出した。
【0173】
その結果、表1に示すように、上記4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体は、いずれもヒトCD16A-158VおよびCD16A-158Fに対して高い親和性を示し、かつ親和性がCD16A抗原アイソフォーム(158Vまたは158F)の影響を受けず、Affimed Therapeutics AG社のCD16Aヒト化抗体4LS21(配列番号6&配列番号7で、配列がPCT公開番号WO2006125668A2より)に相当し、対照抗体IgG1-FcのCD16A-158Vとの親和性(~100nM)よりも明らかに高い。同時に、上記4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体は、いずれもヒトCD16B-NA1およびCD16B-NA2と結合せず、対照であるCD16Aヒト化抗体4LS21のCD16に対する結合方法と同じであり、ヒトCD16Aと結合する選択性を有し、ここで、上記抗体4LS21はScFv-Fc形態である。
【0174】
なお、上記4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体は、いずれもカニクイザルCD16Aと結合したため、上記抗ヒトCD16A重鎖抗体は、サルCD16Aと交差結合したことが明らかになる。
【0175】
【0176】
実施例4 抗CD16A重鎖抗体のヒトCD16Aと結合するエピトープの測定
ヒトCD16AとCD16Bとのアミノ酸配列の主な区別部位は、N末端の129位と140位である(Ellwanger K et al.,Redirected optimized cell killing(ROCK(登録商標)):A highly versatile multispecific fit-for-purpose antibody platform for engaging innate immunity.MAbs,2019,11(5),899-918)。従って、本実施例は、アミノ酸の部位特異的変異と遺伝子クローニングの方法により、ヒトCD16A-158V抗原におけるG129位をCD16BのD129(すなわち、G129D)に変異し、またはヒトCD16A-158V抗原におけるY140位をA140(すなわち、Y140A)に変異し、それぞれヒトCD16A-158Vの変異抗原CD16A-158V-G129D(配列番号8)およびCD16A-158V-Y140A(配列番号9)を調製した。各変異抗原配列のC末端には、精製のために、6x Hisタグを付加した。上記2つの変異抗原の遺伝子配列をそれぞれpcDNA3.1ベクター(Invitrogenから購入し、pcDNA3.1ベクターのヌクレオチド配列が配列番号10で示される)に構築し、実施例2の発現方法により発現し、Ni-NTAにより精製した。
【0177】
抗原を精製した後、ForteBio法により本発明における4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体がヒトCD16A-158V-G129DおよびCD16A-158V-Y140Aと結合するKD値を測定することにより、抗CD16A重鎖抗体におけるシングルドメイン断片が結合する抗原エピトープを決定した。ScFv-Fc形態の4LS21抗体を対照として使用した。
【0178】
ForteBio親和性測定は、実施例3に記載の方法に従って行われ、抗原は、それぞれヒトCD16A-158V-G129DおよびCD16A-158V-Y140Aを使用した。その結果、表2に示すように、4つの例示的な抗CD16A重鎖抗体におけるY88A3シングルドメイン抗体断片、Y99F6シングルドメイン抗体断片、Y100D6シングルドメイン抗体断片およびY95H1シングルドメイン抗体断片は、いずれもCD16A-158V-Y140A抗原と結合しないが、CD16A-158V-G129Dと正常に結合したことを示しており、G129ではなくY140は、抗CD16A重鎖抗体におけるY88A3シングルドメイン断片、Y99F6シングルドメイン断片、Y100D6シングルドメイン断片およびY95H1シングルドメイン断片がCD16BではなくCD16Aと選択的に結合することに非常に重要であり、Y140は抗原エピトープにおける重要なアミノ酸残基の1つを構成することが明らかになる。このことは、4LS21 ScFvと同じである。
【0179】
【0180】
実施例5 抗CD16A重鎖抗体とヒトCD16AおよびCD16Bを発現したGS-CHO細胞の結合
本実施例は、フローサイトメトリーにより、抗CD16A重鎖抗体(勾配希釈)と表面にヒトCD16A(158V型)およびCD16B(NA1型)を過剰発現したGS-CHO安定細胞株の結合を検出した。
【0181】
具体的に、ヒトCD16A(158V型)およびCD16B(NA1型)をコードするcDNAをpXC17.4のプラスミドベクター(Lonza、配列番号11)にクローニングし、エレクトロトランスフェクション法により、それをGS-CHO細胞(Lonza)にトランスフェクションして細胞膜にヒトCD16A(158V型)およびCD16B(NA1型)を発現した。スクリーニングにより、ヒトCD16A(158V型)およびCD16B(NA1型)を発現したGS-CHO安定発現の細胞株をそれぞれ産生した。
【0182】
フローサイトメトリーの検出ステップは、以下の通りである。それぞれヒトCD16A(158V型)和CD16B(NA1型)を発現した上記GS-CHO細胞を400gで5min遠心分離し、培地を除去し、PBSで細胞を再懸濁し、計数した後、細胞密度を2×10
6個の細胞/mLに調整し、U型底96ウェルプレートに100μL/ウェルで細胞懸濁液を加えた。その後、最終濃度が100nMになるように、測定待ちの抗CD16A重鎖抗体を加え、6倍希釈した10個の勾配を設定した。細胞と試料を氷上で静置して1hr反応させた。300g、5minで上清を除去し、PBSにより細胞を1回洗浄した。300g、5minでPBSを除去し、各ウェルに1:200で希釈したPE-抗ヒトFc抗体(Southern Biotech、2040-09)を100μL加えた。氷上で暗所で30minインキュベートした。400g、5minで上清を除去し、PBSで細胞を2回洗浄し、さらに100μLのPBSで細胞を再懸濁し、フローサイトメーター(BD、Facscelesta)を利用して蛍光偏光検出を行った。検出結果は、
図1Aと
図1Bに示す通りである。
【0183】
図1Aと
図1Bから見られるように、抗CD16A重鎖抗体におけるY88A3、Y99F6、Y95H1およびY100D6シングルドメイン部分は、いずれもCD16Aを過剰発現したGS-CHO安定細胞株と強く結合し、結合の半数効果濃度(EC
50)が対照抗体4LS21よりも優れており、また、抗CD16A重鎖抗体におけるY88A3、Y99F6、Y95H1およびY100D6シングルドメイン部分は、いずれもCD16B(NA1型)を過剰発現したGS-CHO安定細胞株と結合せず、CD16A選択性の特性を備えている。
図1Aと
図1Bにおいて、陰性対照であるアイソタイプIgG1-Fc-LALAは、ニワトリ卵リゾチーム(Hen Egg Lysozyme、HEL)抗体であり、その可変領域配列は配列番号12&配列番号13で示される。
【0184】
実施例6 抗CD16A重鎖抗体と初代ナチュラルキラー(NK)細胞の結合
本実施例は、フローサイトメトリーにより抗CD16A重鎖抗体(勾配希釈)と初代NK細胞の結合を検出した。実験プロセスは、以下の通りである。
【0185】
ヒトのPBMC細胞(Sailybio、SLB190084&SLB190071)を蘇生させ、ヒトNK細胞濃縮試薬キット(Stemcell、19055)を用いてNK細胞を濃縮して分離し、400gで5min遠心分離し、上清を除去し、PBSで細胞を再懸濁した。計数した後、細胞密度を2×10
6個の細胞/mLに調整し、U型底96ウェルプレートに100μL/ウェルで加えた。その後、最終濃度が100nMになるように、測定待ちの抗体を加え、6倍希釈した10個の勾配を設定した。氷上で静置して1hr反応させた。300g、5minで上清を除去し、PBSで細胞を1回洗った。300g、5minでPBSを除去し、各ウェルに1:200で希釈したPE-抗ヒトFc抗体(Southern Biotech、2040-09)を100μL加えた。氷上で暗所で30minインキュベートした。400gで5min遠心分離して上清を除去し、PBSで細胞を2回洗浄し、さらに100μLのPBSで再懸濁し、フローサイトメーター(BD、Facscelesta)を利用して蛍光偏光検出を行った。検出結果は、
図2Aと
図2Bに示す通りである。
【0186】
図2Aと
図2Bから見られるように、抗CD16A重鎖抗体におけるY88A3、Y99F6、Y95H1およびY100D6シングルドメイン部分は、いずれも初代NK細胞と結合可能であり、結合活性が4LS21に相当し、またはそれよりも優れる。
図2Aと
図2Bに使用された対照抗体は、実施例5と同じである。
【0187】
実施例7 抗CD16A/HER2二重特異性抗体および抗CD16A/BCMA二重特異性抗体の調製
本願で得られたCD16A単一ドメイン抗体がNK細胞の活性化と殺傷を媒介する能力を有するか否かを検証するために、本実施例は、CD16A単一ドメイン抗体をそれぞれ抗HER2抗体(クローン:4D5)および抗BCMA抗体(クローン:ADI384-56)と二重特異性抗体を構築し、二重特異性抗体の構造形態が「1+1」形態(各抗体の番号および構造形態が表3と
図3Aに示されている)を採用し、重鎖二量化がノブ-イン-ホール(Knob-into-Hole)技術を採用し、具体的な構築方法は、以下の通りである:上記4つの例示的な抗CD16A単一ドメイン抗体(Y88A3、Y95H1、Y99F6およびY100D6)配列をそれぞれpcDNA3.1-SP-IgG1 LALA-Fc-Knobベクター(pcDNA3.1がInvitrogenから購入し、LALA変異およびKnob変異がPCR部位特異的変異法を採用し、配列番号14である)に構築し、抗HER2抗体(クローンID:4D5、配列番号15&配列番号16)および抗BCMA抗体(クローンID:ADI384-56、配列番号17&配列番号18)の重鎖可変領域(VH)をそれぞれpcDNA3.1-SP-IgG1LALA-CH-Holeベクター(pcDNA3.1がInvitrogenから購入され、LALA変異およびHole変異(ホール変異)がPCR部位特異的変異法を採用し、IgG1-LALA-CH-ホール配列が配列番号19で示される)に構築すると同時に、その軽鎖可変領域(VL)をそれぞれIgG1軽鎖定常領域のベクターpcDNA3.1-SP-IgκCL(Invitrogenから購入し、Igκ CLのアミノ酸配列が配列番号20で示される)に構築した。試薬キットの取扱説明書に従って相応するプラスミドを抽出した。
【0188】
HEK293F細胞を3.0×10
6個の細胞/mLに培養し、Knob重鎖をコードするプラスミド、Hole重鎖をコードするプラスミドおよび軽鎖をコードするプラスミドを1:1:1の割合で混合し、その後、得られたプラスミド混合物とトランスフェクション試薬PEIを1:3の体積比で均一に混合した後に20min静置し(二重特異性抗体の構造形態が表3と
図3Aに示されている)、その後、HEK293F細胞に徐々に加え、実施例2中の方法を参照して発現・精製し、SEC法により二重特異性抗体試料に凝集が生じたか否かを測定した。SECの結果から分かるように、精製後の二重特異性抗体の純度はいずれも90%以上に達することができる。
【0189】
【0190】
実施例8 抗CD16A/HER2および抗CD16A/BCMA二重特異性抗体とNK細胞の結合
本実施例は、フローサイトメトリーにより、本発明における抗CD16A/HER2および抗CD16A/BCMA二重特異性抗体(勾配希釈)と初代NK細胞の結合を検出した。検出方法は実施例6と同じである。
【0191】
検出結果は、
図3Bと
図3Cに示す通りである:本発明の抗CD16A/HER2、抗CD16A/BCMA二重特異性抗体は、いずれも初代NK細胞と結合する能力を有し、かつ対照である4LS21/抗TAA二重特異性抗体に相当する。
【0192】
実施例9 抗CD16A/TAA二重特異性抗体の、CD16Aおよび腫瘍抗原との結合による抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)の特異的媒介についての予備検証
本実施例は、CD16A NFATルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現したJurkat T細胞をエフェクター細胞(ADCC Jurkat-NFAT luc reporter)として採用することで抗CD16A/TAA二重特異性抗体のADCCを特異的に媒介する能力を検出した。
【0193】
抗CD16A/TAA二重特異性抗体とADCC Jurkat-NFAT lucレポーター細胞および腫瘍細胞(SK-BR3細胞は、HER2高発現、BCMA発現陰性の乳がん細胞株であり、ATCCから得られ、NCI-H929細胞は、HER2発現陰性、BCMA発現陽性の多発性骨髄腫細胞株であり、ATCCから得られ)を共インキュベートし、インキュベートした後にADCC Jurkat-NFAT lucレポーター細胞から放出された蛍光シグナル値を検出することにより、抗CD16A/TAA二重特異性抗体の、CD16Aおよび腫瘍抗原との結合によりエフェクター細胞シグナルの活性化とADCCを特異的に媒介する能力を反映し、その詳しい実験プロセスは以下の通りである。
【0194】
10%の不活化したウシ胎児血清(HyClone、SH30406.05)、100μg/mLのハイグロマイシンB(Gibco、10687-010)、250μg/mLの抗生素G-418硫酸塩溶液(Promega、V8091)、1mMのピルビン酸ナトリウム(Sodium pyruvate、Gibco、11360)と0.1mMのMEM NEAA(Gibco、1114)を含むRPMI-1640完全培地(Gibco、111835-030)でADCC Jurkat-NFAT luc reporter細胞(Promega、G7102)を蘇生させ、48時間継代戦略に従って継代培養し、継代密度が2×105個の細胞/mLである。実験前に、3%の低IgGウシ胎児血清を含むRPMI-1640分析培地でADCC Jurkat-NFAT luc reporter細胞を3回洗浄した後、細胞密度が2.0×106個の細胞/mLになるように再懸濁し、使用に備えた。予熱した0.25%のトリプシン-EDTAでSK-BR3(HER2+、BCMA-)およびNCI-H929(HER2-、BCMA+)腫瘍細胞をそれぞれ消化し、400gで5min遠心分離し、細胞を収集して計数し、上記分析培地で細胞を再懸濁し、細胞濃度を0.8×106個の細胞/mLに調整し、使用に備えた。上記分析培地で各抗CD16A/TAA二重特異性抗体を最終濃度100nMに希釈した後、10個の勾配で5倍希釈した。実験群の各ウェルに50μLのADCC Jurkat-NFAT luc reporter細胞、50μLの抗体試料溶液、および50μLの腫瘍細胞をそれぞれ加え、マルチチャンネルピペットにより順に均一に混合した後、200g×3min遠心分離し、さらに均一に混合した。細胞培養プレートを5%のCO2のインキュベーターに置いて37℃で一晩インキュベートした後、各ウェルに調製済みのBio-GloTM Luciferase Assay System(Promega、G7940)を100μL加え、暗所で5分間~10分間静置し、プレートを読み取った:Max i3型プレートリーダー(Molecular Devices)により、全波長走査で蛍光シグナル値を読み取った。
【0195】
実験結果は、
図4A、
図4B、
図5Aと
図5Bに示す通りである。本発明の二重特異性抗体に含まれる抗CD16A単一ドメイン抗体は、腫瘍特異的にADCC Jurkat-NFAT luc reporter細胞を活性化してADCC作用を発生させることができ、対照抗体4LS21/抗TAAと比べて、より良い細胞活性化とADCCの能力を有し、同時にADCC増強型のIgG1抗体、例えば、マルゲツキシマブ(Margetuximab、MGAH22ともいう)(MacroGenicsより、配列番号21&配列番号22)よりも優れている。
【0196】
実施例10 抗CD16A/TAA二重特異性抗体の、CD16Aおよび腫瘍抗原との結合によるNK細胞活性化の特異的媒介
本実施例は、細胞内フローサイトメトリー染色法により、抗CD16A/TAA二重特異性抗体の、CD16Aおよび腫瘍抗原との結合によるNK細胞活性化の特異的媒介能力を検出し、抗CD16A/TAA二重特異性抗体とNK細胞および腫瘍細胞を共インキュベートし、NK細胞におけるIFNγの分泌と活性化後の細胞膜表面のCD107aの発現レベルを検出することで、抗CD16A/TAA二重特異性抗体における抗CD16A単一ドメイン抗体部分のNK細胞への腫瘍抗原特異的活性化効果を反映し、詳しい実験プロセスは以下の通りである。
【0197】
PBMC細胞(Sailybio、SLB190071)を蘇生させ、200μL/10mLのDNase I Solution(Stemcell、07900)と10%の不活化したウシ胎児血清(HyClone、SH30406.05)を含むRPMI-1640完全培地(Gibco、111835-030)で細胞を再懸濁し、37℃のインキュベーターで2hrインキュベートした後、StemCell TechnologiesのNK濃縮試薬キット(StemCell、19055)より提供された方法によりNK細胞を濃縮し、最後に、濃度が2×106/mLになるように調整した。予熱した0.25%のトリプシン-EDTAでSK-BR3(HER2+、BCMA-)とNCI-H929(BCMA+、HER2-)腫瘍細胞をそれぞれ消化し、400gで5min遠心分離し、細胞を収集して計数し、2μg/mLの最終濃度を有するAF488-抱合の抗ヒトCD107a(BioLegend、328630)を含むRPMI-1640完全培地で細胞を再懸濁し、濃度を4×105/mLに調整した。RPMI-1640完全培地で各抗CD16A/TAA二重特異性抗体を最終濃度100nMに希釈した後、10個の勾配で6倍希釈した。RPMI-1640完全培地を利用して100ng/mLの最終濃度を有するPMA(Sigma-Aldrich、P8139)と1μg/mLの最終濃度を有するイオノマイシン(Cell Signaling、9995S)の混合試料溶液を調製し、陽性対照として使用した。RPMI-1640完全培地を利用して10μg/mLの最終濃度を有するBFA(BD、347688)と10μg/mLの最終濃度を有するBD GolgiStopTM(BD、51-2092KZ)の混合溶液を適量に調製して、サイトカインの細胞外への輸送を遮断することで、細胞におけるサイトカインの蓄積を測定した。
【0198】
実験群の各ウェルに50μLのNK細胞、50μLのBD GolgiStopTM/BFA溶液、50μLの抗体試料またはPMA/イオノマイシン溶液、および50μLの腫瘍細胞懸濁液をそれぞれ加え、マルチチャンネルピペットにより順に均一に混合した後、200g×5min遠心分離し、さらに均一に混合した。細胞培養プレートを37℃、5%のCO2のインキュベーターに置いて6hrインキュベートした後、400gで5min遠心分離し、上清を除去し、各ウェルに200μLのBD CytofixTM Fixation緩衝液(BD、554655)を加え、4℃で暗所で20min固定した。固定した後、400gで5min遠心分離し、上清を捨て、BD FACS Perm Buffer III(BD、558050)で細胞を再懸濁し、4℃で暗所で40min染色してから、200μL/ウェルのBD Perm/WashTM緩衝液(BD、51-2091KZ)で細胞を2回洗浄した。1μg/mLのPE-抱合の抗IFN-γ(BioLegend、506507)、APC-抱合の抗CD56(Invitrogen、17-0567-41)およびBV421-抱合の抗CD3(BioLegend、300434)を含むBD Perm/WashTM緩衝液により、4℃で暗所で1hr染色し、洗浄した後、フローサイトメーター(BD、FACSCELESTA)により機上検出し、CD3-/CD56+細胞に丸をつけて選定した後、NK細胞のCD107aとIFN-γの発現状況を検出した。
【0199】
実験結果は、
図6A~
図6Dと
図7A~
図7Dに示す通りである。本発明の抗CD16A/HER2および抗CD16A/BCMA二重特異性抗体は、腫瘍特異的にNK細胞のCD107aおよびIFN-γの発現レベルをアップレギュレートすることができ、対照である4LS21/抗TAA二重特異性抗体と比べて、NK細胞活性化能力が同等またはそれ以上であり、かつADCC増強型のIgG1抗体、例えば、マルゲツキシマブよりも優れている。
【0200】
実施例11 標的細胞を殺傷するNK細胞に対する抗CD16A/TAA二重特異性抗体の特異的媒介
本研究は、抗CD16A/TAA二重特異性抗体とNK細胞および腫瘍細胞を共インキュベートし、反応系における乳酸脱水素酵素(Lactate dehydrogenase、LDH)のレベルを検出することにより、抗CD16A/TAA二重特異性抗体が腫瘍細胞に対するNK細胞の抗原特異的殺傷を媒介する能力を反映し、詳しい実験プロセスは以下の通りである。
【0201】
ヒトのPBMC細胞(SailyBio、SLB190084)を蘇生させ、2時間静置して接着した後に接着細胞を捨て、StemCell TechnologiesのNK濃縮試薬キット(StemCell、19055)から提供された方法によりNK細胞を濃縮し、最後に、RPMI-1640培地(5%のウシ胎児血清を含む)で細胞濃度が1×106個の細胞/mLになるように調整した。予熱した0.25%のトリプシン-EDTAでSK-BR3(HER2high、BCMA-)(すなわち、HER2高発現乳がん細胞株)、MDA-MB-453(HER2low)(すなわち、HER2低発現乳がん細胞株)およびNCI-H929(HER2-、BCMA+)腫瘍細胞をそれぞれ消化し、400gで5min遠心分離し、細胞を収集して計数し、RPMI-1640培地(5%のウシ胎児血清を含む)で細胞を再懸濁し、細胞濃度を2×105/mLに調整した。RPMI-1640培地(5%のウシ胎児血清を含む)で各抗CD16A/TAA二重特異性抗体を最終濃度100nMにした後、10個の勾配で6倍希釈した。プレートレイアウトによって細胞をプレートに播種し、実験群の各ウェルに50μLのNK細胞懸濁液、50μLの抗体試料溶液、および50μLの腫瘍細胞懸濁液をそれぞれ加え、マルチチャンネルピペットにより順に均一に混合した後、200g×3min遠心分離し、さらに均一に混合した。細胞培養プレートを5%のCO2のインキュベーターに置いて37℃で6hrインキュベートした後、CytoTox 96(登録商標) Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega、G1780)から提供された検出方法により、各反応系におけるLDH(乳酸脱水素酵素)の分泌量を検出した。
【0202】
上記試験において、実験結果は、
図8A~
図8Cと
図9A~
図9Bに示す通りである。抗CD16A単一ドメイン抗体と2つの腫瘍抗原(HER2とBCMA)特異性抗体はそれぞれ二重特異性抗体として組み立てられた後、いずれも腫瘍特異的にNK細胞を誘導して腫瘍を殺傷することができ、対照である4LS21/抗TAA二重特異性抗体およびADCC増強型のIgG1抗体マルゲツキシマブと比べて、腫瘍細胞に対するNK細胞の殺傷を媒介する能力が同等またはそれ以上である。
【0203】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、当業者は、これらの開示が単に例示的なものであり、本発明の範囲内で種々の他の置換、適用と修正を行うことができると理解すべきである。したがって、本発明は、本明細書に挙げられた具体的な実施形態に限定されない。
【配列表】
【国際調査報告】